家族法
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親族法 のコアは、終生的互敬貞操結合(婚姻) 守操一体の愛 であり、  相続法 のコアは、 主同承継 中の主芯承継 です。


忠保
稔 氏に捧ぐ
 
私が平成25年11月に 横浜 尾上町公証役場での公証人職を退職する迄の間、9年2か月に亘り、公証役場書記とし
て、その長年に亘る豊かな実務経験と誠実な執務態度、正確な実務実績をもって、私を忠実に支えてくれ、平成29年
2月に他界された 故 忠保 稔氏に対し、深い感謝と哀悼の念を表し、同氏を讃えて 本稿を捧げます。

                            
むつみ寡黙堂法律事務所 弁護士 小池洋吉
                                     (東京弁護士会 登録番号50142)


頁内リンクを貼った目次です。目次を開き項目を下線クリックでご覧下さい。       ダイレクトコラム もあります。
 
索引 がありませんので、「Ctrl」+「F」操作で検索をして頂けたらと思います。     「目次」を経ずに、ダイレクトに
                                                お読み頂けます。

小池 勉 一代記
誠に恐縮ですが、合わせて我が父 小池 勉の、ブーゲンビル島 戦記( 海軍第一二一設営隊戦記 )を含む「一代記」を併設させて頂きました。
ご興味ある方にお読み頂ければ幸甚です。大正期、極貧の母子家族に生まれ育ち、建築分野に志を立てて後、昭和の戦時下では
設営隊士として、中国に赴き、次いで渡った南太平洋の島で戦火と飢餓の辛酸をなめて、多くの戦友と部下を失い命からがら復員し
た後、東京世田谷で細やかながら一級建築士事務所を開業して、倒産の辛苦を経る等した波瀾万丈の人生を振り返る一代記です。
  小池勉   1 貧窮児童 刻苦勉励す   2 軍属 奮闘するも辛酸の戦時   3 大戦後の波瀾万丈          下線クリックでご覧下さい。       














 
親族法のコアは、終生的互敬貞操結合(婚姻) 守操一体の愛であり、相続法のコアは、
主同承継 中の主芯承継です。


婚姻
  (結婚)
とは
                               相続の本質 

                                           相続法改正を踏まえての 相続仕組み
嫡出推定の見直し                         
相続登記の重要性 
選択的夫婦別姓
に代わる母子氏婚の提案                相続登記 義務化 の動き
住民票・マイナンバーカード等における
選択的旧姓主記制の提案                      
児童に対するしつけ」の限界児童虐待
                                         
夫婦の相続  配偶者居住権その具体例
子供がいる夫婦の離婚                       完結遺言の必須性  遺言執行者指定の必須性
     離婚後の 共同親権
         家族法見直しの動き               債権相続  遺産共有性質

憲法上の健康文化生活権
                       民法427条根拠規定たり得るか

法定後見
(広義)
仕組み任意後見   
                                         
人生百年時代配偶者居住資産
 


       続・遺言   もご覧下さい。妻住用遺言(配偶者居住遺言)があります。

遺言ダイレクト 遺言のすすめ遺言書作成のポイント自筆遺言例    相続税額算定のあらまし
































目次
 (contents
)   ◎ なお、数字の読みについてはこちらをご覧下さい。

 ご挨拶
    ○ 家族法関係事件の手続のあらまし ○ 意思能力行為能力身分行為能力  ○ 時効完成猶予・更新

親族編(大目次)
             相続・遺言関係はこちら

 (実)親子関係                     9 離婚                
      認知 (身分行為( 認知 )能力)       子供がいる夫婦の離婚配偶者暴力                  

2 親権                       10 養子 (特別養子里親)
      児童虐待  離婚後の 共同親権                     

3 戸籍                       11 後見保佐・補助                   
                      
4 婚姻 (結婚)                  12 親族

   夫婦互敬実質的平等同氏原則嫡出推定
    選択的夫婦別姓に代わる母子氏婚の提案
 婚姻障碍(婚姻要件)                  13 扶養義務 
                             国民生活のセイフティネット  (ベーシックインカム)
  婚姻取消し             
                         14 祭祀承継   
7 婚姻無効、婚姻能力                       
                         ○ 家族生活の指針
8 内縁同性婚                                        
                             ○ アドバイス・相談機関   
                                
                       
                                   
            




                    
                  
                                    

相続編(大目次)  (遺言のすすめ遺言作成上のポイント自筆遺言例)
          平成30年民法改正

15 相続とは                        24 遺贈
   相続と遺贈 相続の仕組み(まとめ)          
         相続登記の重要性
16 相続人                         25 相続の承認・放棄
   夫婦の相続  配偶者の相続権  二次相続          
   配偶者居住権 配偶者居住資産                 26 相続人資格の喪失
    
17 相続分 ( 調整(相続)分→19特別受益 )               27 財産分離

18 遺産分割 その対象財産                     28 相続人の不存在 
    民法427条は可分債権の相続根拠とならないこと           特別縁故者への分与
19 分割方法  指定                  

20 特別受益 (調整(相続))被相続人本人が、生きている        29 遺産の管理            
  内に、子や孫に対し、贈与等を行っていた場合の調整                                                                           
21 寄与分                            30 相続回復請求権

  親族に対する 特別寄与料                     31 相続税(二次相続)について (子や孫に対して、被相続人本人が生きている
                                内にする贈与、子や孫に対する居宅承継等 に対する相続税の優遇)
22 遺留分                             32 相続税額算定のあらまし 

23 遺言  完結遺言の必須性
      遺言執行者指定の必須性

          ☆ 平成30年相続法改正「まとめ一覧」こちら


相続 三大難関   全子探索 (遺産)分割協議 相続税申告  

通過
 めど 遺言 
峠越えれば    もも二十歳はたちさと也!  (テロメア学説です)

    老いゆけば急務は968 に 」ずは 自筆 遺言いごんすること。























  実親子関係

 1 嫡出推定(772条)(条句)
     
     ☆ 嫡出推定の見直し (2021・2・9報道)
      「再婚後に出産した子は、再婚した夫の子」

     ☆ 嫡出推定規定の改正
     
     同氏原則と嫡出推定 (守操一体の愛)

     (判例①性別変更後の生殖補助医療〕)

     (判例②わらの上からの養子

    内縁夫婦の子

    嫡出否認の訴え(774条)(判例)(条句)

     嫡出否認方途の厳格限定 (判例)

     ☆ 母子からの嫡出否認(立法私見)

     ☆ 「嫡出否認の訴え」規定の改正

    嫡出の承認(776条)(条句)

    親子関係不存在確認の訴え(判例)

 2 再婚禁止期間(733条)(判例)(条句)

     
 再婚禁止規定の廃止報道(2021・2・9報道)
    ☆ 再婚禁止規定を廃止する法改正(令和4年12月16日公布、同6年4月1日施行)


 3 ① 父を定める訴え(773条)(条句)

   ② 母子の関係(判例代理出産〕)

 4 認知(779条)(条句)
               戸籍法の認知関係条文

  Ⅰ  認知の方式(781条)   届け  遺言 〕(条句)

   ① 認知届け(781条)(戸籍法60条64条(←遺言) )

      判例〔出生届→認知届〕

       ア 成人子に対する認知(782条)(条句)

       イ 胎児・亡き子の認知(783条)(条句)

   ② 認知の訴え(出訴権者・出訴期間)(787条)(判例①死後懐胎子〕) (判例②)(条句)

  Ⅱ  認知能力(780条)(条句)

  Ⅲ  認知の効力(784条)(条句)

    ① 認知後の子の監護(788条)(条句)

    ② 認知子に対する遺産分割(910条)(条句)

    ③ 認知取消の禁止(785条)(条句)

    ④ 認知の取消し請求

  Ⅳ  認知無効の訴え〔反対事実の主張〕(786条)(判例)(条句)

    
  Ⅲ 準正(789条)
   

 5 嫡出否認の訴え(774条)(条句)(私見)

  ① 出訴期間(777条)(条句)

  ② 出訴権者と相手方(774条775条)(条句①、条句②)

  ③ 合意に相当する審判(家事事件手続法277条)

  ④ 母子からの嫡出否認(立法私見)

   ☆ 「嫡出否認の訴え」規定の改正
 
6 親子関係不存在確認の訴え(判例)



  親権 

 1 親権者の指定・変更

    親権者の復任権

 2 共同行使(818条825条)(判例)(条句)

 3 離婚に伴い 親権者を定める(819条)(条句)

          監護権者

          離婚後の 共同親権 (立法私見)

 3 親権の内容 

  ① 監護教育(820条)(条句)

    ア 面会交流

    ィ 子の引渡請求

    ウ 養育費 (算定表)

    エ 親の監督責任

  ② 居所指定(821条)(条句)

  ③ 懲戒権(822条)(条句)

  ④ 職業の許可(823条)(条句)

  ⑤ 財産管理代理行為 (824条)(条句)
 
      親権者の注意義務

      子に対する親の注意

   ァ 同意権取消権   

       取り消しうる行為に関する諸規定

   ィ 管理計算(子の収益 と 親の養育費・管理費)(828条)(条句)

   ゥ 親子間債権の消滅時効(832条)(条句)

        未成年者の権利の時効 完成猶予 (158条)

       時効の完成猶予・更新(147条152条) 

   ェ 第三者が子に無償供与した財産(830条)(条句)

   ォ 子の労働契約(労基法56条、59条、61条)(条句)

 4 成年擬制(753条)(条句) (→ 平成30年民法改正)

 5 親権代行(833条)(親権に服する子が子を儲けた場合)(条句)

 6 利益相反(826条)(判例)(条句)

 7 親権者による身分行為の代理  未成年者による訴訟行為
   
 8 親権の喪失・停止、管理権喪失(834条834条の2835条)(条句)

     親権喪失と特別養子

   子自身の申立権

 9 児童虐待(条句)
   
     
児童の権利条約

   
児童の権利

    防止体制の整備経過

   児童虐待防止の体制

   通告義務 (条句)

   体罰禁止と体制強化
       結愛
(ゆあ)ちゃん事件(平成30年3月)、心愛(みあ)ちゃん事件(平成31年1月)

   育児放棄(ネグレクト) 稀華(のあ)ちゃん事件(令和2年7月)



 戸籍 とは

      戸籍の届出、戸籍情報の入手
    
      戸籍の訂正


 1 婚姻届け(739条)(判例)(条句)

    旧姓併記制度

    国際結婚の婚姻届

     日本人同士の外国での婚姻届け(741条801条)(条句)

    国際結婚と国籍

    婚姻無効:戸籍訂正


 2 出生届け(戸籍法49条59条)

   認知届け(781条)(戸籍法60条64条)

    判例出生届→認知届


 3 離婚届け

  ① 協議離婚届け(764条)(条句)

  ② 裁判離婚届け(協議離婚以外の、その他の離婚の届け)(戸籍法76条77条63条)

  ③ 婚氏続称届け(767条2項)(条句)

  ④ 子の氏変更の手続き

  ⑤ 離婚無効:戸籍の訂正


 4 姻族関係終了


 5 縁組届け(799条739条)

    特別養子縁組届(戸籍法68条の263条Ⅰ)

    縁組無効:戸籍の訂正


 6 離縁届け(812条739条)

    離縁無効:戸籍の訂正
 

 7 戸籍届け(婚姻離婚縁組離縁)  審査 (740条765条Ⅰ800条813条Ⅰ) 


 8 戸籍届け 受理  効果 (婚姻離婚縁組離縁) (742条Ⅱ765条Ⅱ803条813条Ⅱ)


 9 死亡届(戸籍法86条87条)



 婚姻 とは ( 融合創一 による 終生的互敬貞操結合 )

     夫婦の互敬平等と実質的平等(私見)

          守操一体の愛

         同性婚

 1 結婚(婚姻)の手続き

 2 婚姻の成立
 
  ① 婚姻能力(738条)(条句)

  ② 婚姻意思(742条①)(条句)

     臨終婚について

  ③ 婚姻届け (739条)(742条②)(条句)

  ④ 国際結婚

         ァ 成立

         ィ 届け

         ゥ 国籍

 3 婚姻要件(婚姻障碍)

  ① 婚姻年齢(731条)(条句)

  ② 未成年婚には父母の同意があること(737条)(条句)

     平成30年民法改正(成年・婚姻:男女一律18歳) (令和4年(2022年)4月1日施行)

  ③ 重婚(732条)でないこと(条句)

  ④ 禁期(再婚禁止期間)違反でないこと(733条)(条句)

     再婚禁止期間私見
   ☆ 再婚禁止規定を廃止する法改正(令和4年12月16日公布、同6年4月1日施行)

  ⑤ 近親婚 (734条736条)でないこと(条句)


 4 夫婦親子同氏の原則(750条790条)(条句)

     守操一体の愛

 5  同氏原則と嫡出推定 

     同氏協議に代わる母子氏(立法私見)

    旧姓併記制度

 6 同居・協力・扶助の義務(752条)(条句)

      配偶者暴力

 7 貞操義務(770条1号)

     守操一体の愛

 8 嫡出推定(772条)

     夫婦親子同氏原則との関係(守操一体の愛)
     ☆ 嫡出推定の見直し (2021・2・9報道)
      「再婚後に出産した子は、再婚した夫の子」
     ☆ 嫡出推定規定の改正

   ① 嫡出否認の訴え(774条)(条句)

      母子からの嫡出否認(立法私見)
     ☆ 「嫡出否認の訴え」規定の改正

   ② 性転換者の嫡出子(判例)

   ③ 藁の上からの養子(判例)

 9 扶養義務 (→十三)

 10 夫婦財産契約(755条756条) (条句①)、条句②)

 11 法定財産制(755条)(条句)

      「 夫婦財産契約. or 法定財産制. 」
    
   ① 夫婦別産制(762条)(判例)(条句)

       夫婦の互敬平等と実質的平等(私見)(条句)

       配偶者居住資産の本来的固有資産性について


   ② 日常家事債務(761条)(判例)(条句)

   ③ 婚費分担(760条)(条句)(算定表)

       cf 内縁関係(判例)(内縁での相続等はこちら)



 12 夫婦間の契約取消権(754条)(判例)(条句)

     夫婦間権利 消滅時効(159条)

     時効の完成猶予・更新(147条152条) 

 13 相続権 (子の相続権887条配偶者の相続権890条)

 14 配偶者との死別 姻族関係の継続・終了(728条)、特別寄与料(1050条)

 婚姻障碍 (婚姻要件)

  ① 婚姻年齢(731条)(条句)
  ② 未成年婚(737条)(条句)

     平成30年民法改正(成年・婚姻:男女一律18歳) (令和4年(2022年)4月1日施行)

  ③ 重婚(732条)(条句)

  ④ 禁期(再婚禁止期間)違反(733条)(条句)
       「再婚禁止」規定の違憲性(私見)
   ☆ 再婚禁止規定を廃止する法改正(令和4年12月16日公布、同6年4月1日施行)

  ⑤ 近親婚 (734条736条)(条句)





 婚姻取消し(744条)(条句)

  ① 取消しの効力(748条749条)(条句①条句②) 

  ② 不適齢婚の取消し(745条)(条句)

  ③ 禁期婚の取消し(746条)(条句)

  ④ 詐欺・強迫 婚の取消し(747条)(条句)
 


 婚姻無効(742条)(判例) (条句) (戸籍訂正)
     

  ① 婚姻能力(738条)(条句)

  ② 婚姻意思(判例)(条句)



 内縁

  
 内縁夫婦の子

  
② 婚費分担(判例)

  ③ 相続関係(遺族年金受給権に関する判例) 

  ④ 同性婚同性婚の氏(立法私見)



 離婚

 
 離婚の手続き

  ① 離婚取消し

  ② 離婚無効  (戸籍訂正)

  ③ 離婚と時的制約

 2 裁判離婚(770条)(条句)

  ① 離婚原因(770条1項)

         離婚原因(立法私見)

   ア 不貞(770条1項1号)(判例)

      貞操義務

      不貞慰謝料と離婚慰謝料(判例)    

   イ 悪意の遺棄(770条1項2号)(判例)

   ウ 3年以上の生死不明(770条1項3号)

   エ 回復の見込みのない強度の精神病(770条1項4号)(判例)

   オ 婚姻を継続し難い重大事由(770条1項5号)(判例)
      有責配偶者

      配偶者暴力

      離婚原因(立法私見)

  ② 裁量棄却(770条2項)(判例)

      裁量棄却の判断


  ③ 裁判離婚届

 
3 協議離婚(763条)(条句)

  ① 離婚合意(判例)

     方便離婚(判例)

     離婚意思離婚能力

     詐欺・強迫による離婚  

  ② 離婚取消し離婚無効(戸籍訂正)

  ③ 協議離婚届

  ④ 家族生活の指針

  ⑤ アドバイス・相談機関法テラス(日本司法支援センター)

 4 離婚の効果 (別項で、5 「財産分与」、6 「子供のいる夫婦の離婚」)

  ① 復氏(767条1項)

  ② 婚氏続称(767条2項)

  ③ 姻族関係終了(728条)(条句)

  ④ 祭祀承継(769条)

 5 離婚慰謝料

      財産分与と慰謝料

      不貞慰謝料と離婚慰謝料(判例) 

 6 財産分与(768条)(慰謝料との関係判例)(条句)

     離婚と時的制約

  ① 分与の基準

    cf内縁の財産分与(相続)(判例)

  ② 財産分与と贈与税・譲渡所得税

  ③ 年金分割

  子供がいる夫婦の離婚(766条) (児童福祉の理念)(条句)

         
離婚と時的制約
 
         
家族法見直しの動き


   
① 親権者指定・変更(819条)(後見人指定・選任(§839§840))

     離婚後の共同親権(立法私見)

  ② 監護権者

  ③ 養育費 

        養育費の算定 (算定表)

        強制執行上の特別な扱い


       養育費請求権 放棄の禁止

  ④ 面会交流(判例)

      児童の権利条約9条3項

  ⑤ 子の引渡請求

          子の自由意思 

          子連れ転居事例


       地裁での手続き (妨害排除請求)

       家裁での引渡調停(→子の監護処分)

      子の引渡執行(民事執行法改正)

            
子の返還執行(ハーグ条約実施法改正)

          
人身保護請求の手続き

  
       人身保護の判例 

 ⑥ 子の氏 子の氏の変更(791条)(条句)

      妊婦が離婚後に出産した子

       禁期違反の再婚で出産した子(前後両婚の嫡出推定が及ぶ場合)

 8 祭祀承継(769条)


 
  養 子(727条809条)(判例わらの上からの養子〕)(条句)

 1 縁組届け(判例)(条句)

   ① 嫡出親子関係親族関係の発生(条句)

   ② 養子の氏(810条)(条句)

       婚養 選択 称氏(私見)

   ③ 養子の相続権(判例に即して)

 2 縁組要件(792条798条)

   ① 未成年養子縁組(795条)(条句)

   ② 配偶者の同意(796条)(条句)

   ③ 代諾養子(797条)(条句)

   ④ 後見養氏縁組の禁止(要許可)(794条)(条句) 

   ⑤ 縁組障碍

   ⑥ 縁組取消し(804条806条806条の2同条の3807条)(条句)

       縁組取消しの効果(808条)

 3 縁組能力(797条)(条句)

 4 縁組無効(802条)(判例)(条句) (戸籍訂正)

 5 離縁

  ① 協議離縁(811条)(条句)

     代諾離縁(811条2項)(条句)

  ② 裁判離縁(814条)(条句)

   ア (悪意の)遺棄(814条1項1号)

   イ (3年以上)生死不明(814条1項2号)

   ウ (継続し難い)重大事由(814条1項3号)

  ③ 裁量棄却(同条2項)(条句)

  ④ 離縁取消し(条句)

  ⑤ 離縁無効  (戸籍訂正)
 

 6 離縁の効果

  ① 親族関係終了(729条)(条句)

  ② 復氏・養氏続称(816条)(条句)

  ③ 祭祀承継(817条)(条句)

  ④ 婚姻障碍(736条)(条句)


 7 特別養子(817条の2817条の9)(条句)

     法改正による手続きの合理化

      二段階審判制
 
        適格確認審判 (家事事件手続法164条の2)

        縁組成立審判 (家事事件手続法164条)

        児童相談所長の関与     


     親権喪失と特別養子

  ① 要件(817条の3817条の8)

     
 夫婦共同縁組

     
 特別養子縁組に向けての特別の事情・必要(条句)

    
 四要件
   
 ①実親の同意(817条の6)(条句)

        
同意の撤回不可 要件

        
同意の例外的不要 要件

     ②養親の年齢
(817条の4)(条句)

     ③養子の年齢(817条の5)(条句)

     ④
半年間の監護(817条の8)(条句)


  ② 特別養子縁組届(戸籍法68条の2、63条)

  ③ 効果(血族関係の終了)(817条の9)(条句)

  ④ 特別養子の 離縁(817条の10)(条句)


 8 里親制度について



十一  後見(広義)  

      法定後見(広義)仕組みのあらまし

        未成年後見  成年後見

        保佐  補助  (保佐開始・補助開始)

        ノーマライゼーション

        後見登記

        任意後見


 1 後見(狭義) (838条875条)(条句)

     条文の配置について

 2 任意後見(任意後見契約法2条1号、3条)

 3 後見開始(838条)(条句)

 4 後見人の選任等

  ① 未成年後見人

    ァ 指定(839条)(条句)

    ィ 選任(840条)(条句)

    ゥ からの選任請求(841条)(条句)

    エ 未成年者に対する共同後見(857条の2)

  ② 成年後見人の選任(843条)(条句)

  ③ 後見人の欠格事由(847条)(条句)

  ④ 後見人の復任権

 5 後見人複数時の権限 

  ① 未成年後見人複数(857条の2)(共同行使原則)(条句)

  ② 成年後見人複数(859条の2)(単独行使原則)(条句)

 6 後見人の辞任解任

    後見人辞任とそれに伴う後任請求(844条845条)(条句)

    後見人解任(846条)(条句)

 7 後見人の任務

  ① 取消権(120条)

      取り消しうる行為に関する諸規定

   ア  成年後見における取消権(条句)

   イ  未成年後見における取消権 (条句)

  ② 財産管理代表(859条)(条句)

          善管注意義務(条句)

          監督義務者の責任

  ③ 未成年後見の身上監護義務(857条)(条句)

       未成年後見人による親権代行(後見に復する子が子を儲けた場合)(867条)

  ④ 成年後見の身上配慮義務(858条)(条句)

  ⑤ 後見人による訴訟遂行(民訴28条、人訴14条)

 8 後見事務

  ① 具体的財産管理事務

   ア 財産調査財産目録作成(853条)(条句)

   イ 後見人による郵便物転送嘱託(860条の2860条の3)(条句)

   ウ 目録作成前の権限(854条)(条句)

   エ 債権債務 申出義務(855条)(条句)

   オ 利益相反(860条826条)(条句)

   カ 年額予定と事務費

      年額予定(861条1項)(条句)

      事務費(861条2項)(条句)

   キ 後見人の報酬(862条)(条句)

   ク 後見事務の 監督 (863条)(条句)

    
 重要財産処分 ・ 営業取消権(864条865条)

   コ 後見人による被後見人関係財産  譲受行為(866条)(条句)

   サ 未成年後見人による親権代行(867条)(条句)

   シ 後見養子縁組の禁止(要許可)(794条)(条句)    
   

  9  居住用不動産の処分(要許可)(859条の3)

 10 無償供与財産の管理 (869条)(条句)

 11 後見終了(870条873条)

  ① 後見計算義務(870条)(条句)

  ② 後見計算への監督人立会(871条)(条句)

  ③ 未成年後見人・本人間の契約の取消し(872条)(条句)

  ④ 返還金・利息等(873条)

  ⑤ 後見終了後の応急処分終了の対抗要件(通知)(874条654条655条)

  ⑥ 死後事務の処理(873条の2)(条句)

  ⑦ 後見債権の消滅時効(875条)

      被後見人の権利の 時効 完成猶予(158条)

      時効の完成猶予・更新 (147条152条) 

 12 後見をめぐる行為の無効  取消し得る行為(まとめ追認・取消効果・時効等) 

 13 保佐(11条)と補助(15条) 

  ① 保佐人・補助人の選任(876条の2Ⅱ876条の7Ⅱ)

      保佐人・補助人の復任権

  ② 保佐人・補助人の任務(876条の5876条の10)

  ③ 被保佐人・被補助人の訴訟行為

  ④ 保佐開始(876条)・補助開始(876条の6)

  ⑤ 保佐人・補助人の同意権

  ⑥  保佐人・補助人の取消権

  ⑦ 保佐人・補助人の代理権

  ⑧ 利益相反 

   ア 臨時保佐人(876条の2Ⅲ)

   イ 臨時補助人(876条の7Ⅲ)

  ⑨ 保佐・補助の事務(事務費・報酬・監督・居住用財産の処分等)

 14 代理権付与 保佐人に対する(876条の4)補助人に対する(876条の9)

 15 保佐・補助の終了

 16 広義の法定後見人のまとめ«法定後見条句グループ»

 17後見監督人

   ① 後見監督人の指定(848条)・選任(849条) 

   ② 後見監督人の任務(監督・相反代理・後任請求・必要処分)(851条)

       監督(863条)

   ③ 後見監督人の事務関連・任免事項(852条)(委任・後見人規定の準用)

   ④ 後見監督人の選任・任務等(まとめ)

 18 保佐監督人・補助監督人(876条の3876条の8)

 19 広義の法定後見監督人のまとめ«監督人条句グループ»

 20  任意後見制度(任意後見契約法)

      任意後見とは

       任意後見契約公正証書

      任意後見人

      代理権目録

      任意後見監督人

      将来型と移行型


十二  親族

 1 親族(725条)

 2 婚姻障碍(734条736条)

 3 相続権(配偶者兄弟姉妹)

 4 姻族関係終了の意思表示(728条)

 5 親族間扶け合い義務(730条)

 6 扶養義務 (→十三)



十三  扶養義務

 1 当然(絶対的)義務者(直系血族・兄弟姉妹:877条1項)(判例)(条句)

 2 審判(相対的)義務者(三親等内親族:877条2項)(条句)

 3 ① 扶養の順位(878条)

   ② 扶養の程度・方法(879条)
 
4 扶養義務の二類型

  ① 生活保持義務 (夫婦間(752条)&親・未成熟子(877条))

  ② 生活扶助義務 (親族(三親等内の)に対する扶養(877条Ⅱ))

 5 扶養請求権の処分禁止(881条)

 6 憲法上の健康文化生活権

    国民生活のセイフティネット  (ベーシックインカム) 

十四 祭祀承継(897条769条817条)

十五  相続とは

       平成30年相続法改正

 1 相続の本質 

      債務の相続  債権の相続


   相続による権利取得の対抗要件   
     
        相続登記の重要性

       「主芯」・「芯超」→「対抗」の有無

       (
権利承継の対抗要件)(条句)「対抗」の再考
     
     相続の本質再考敷衍
   
    
     相続登記 義務化 の動き          

   
① 相続と遺言 基本パターンと創作パターン

  ② 部分遺言と完結遺言

   相続と遺贈

        遺贈の要点
(対 配偶者居住遺贈の理解のため)

        
相続の仕組み(まとめ)

  ④ 債務の相続

      平成30年7月民法改正(債務承継)

  ⑤ 債権の相続(可分債権と不可分債権

      民法427条は可分債権の相続根拠とならないこと(私見)

      平成30年7月民法改正(相続債権の共有・遺産分割・債権行使)

  ⑥ 相続と取引安全


十六
  相続人
 

 1 相続人

  ①  兄弟姉妹  順次相続人(887条1項889条1項)
     相続開始後に認知された子

  ② 配偶者の相続権 : 常時相続人(890条)
  
     平成30年7月民法改正(配偶者居住・居住資産(条句)、 配偶者短期居住権(条句))

                            

      特別受益と配偶者居住資産
  
        
配偶者居住資産の本来的固有資産性

        
配偶者居住資産と遺留分

      
配偶者居住権・居住資産を「相続させる」とした場合

      人生百年時代と配偶者居住資産 

  ③ 親・兄弟姉妹の相続権   
                    
     常時枠・順次枠の補完関係

  ④ 養子の相続権と税法上の扱い(判例〔相続税対策養子〕)

     養子の重複相続

  ⑤ 胎児(886条)(965条)

  ⑥ 内縁者の相続関係(財産分与)〔相続権なし〕(判例)(婚費分担についてはこちら)

  ⑦ 相続人の探索(全子探索)

       法定(割共有)相続協議相続(特定財産承継)遺言相続の各場合について

     相続人の存否不明  行方不明

 2 代襲 

  ① 孫・ひ孫 : (系)代襲(887条2項、3項)

  ②  甥・姪  : (系)代襲(889条2項)

  ③ 欠格・廃除 による代襲(887条)



十七 相続分 (条句)

 1  法定相続分(900条クオレ)〔遺言がない、或いは、あっても遺言による相続分の指定がない場合〕

 2 遺言によらない 法定(割共有)相続協議相続  (特定財産承継)遺言相続 

 3  遺産分割協議書全相続人探索(全子探索)

 4  法定相続情報証明書 (→全子探索の負担軽減)
       
 5  指定相続分(902条)〔遺言による相続分の指定〕

  ① 相続と遺贈

      遺贈は相続より強し

  ② 相続と相続債務

 6 相続分の譲渡(判例)

 7 譲渡相続分取戻権(905条)

 8  調整(相続) → 十九 特別受益 


十八
 遺産分割

        (遺産分割までの遺産の管理については、二十八をご覧下さい。)

 1 遺産確認の訴え(判例)

 2 分割の基準(906条)

    財産評価の基準時

 3 分割の時期(907条)

     相続と取引安全


 4 分割請求(907条)

 5 遺産分割協議

    「零分割」と「相続放棄」

 6 遺産分割の対象財産

       遺産共有の性質

  ① 相続と相続債務 (対象外)

      平成30年7月民法改正(債務承継)

  ② 相続と相続債権(可分債権と不可分債権)

      民法427条は可分債権の相続根拠とならないこと(私見)

      平成30年7月民法改正(債権承継)

 7 分割の効力(909条)(条句)

       相続登記の重要性

 8 認知された相続人への分割(910条)(判例)(条句)

 9 分割を受けた財産に関する担保責任(911条) 

 10 分割を受けた債権に関する担保責任(912条)(具体例)

 11遺産分割対象 積極財産(含:預貯金債権)

 12〔遺産分割対象外消極財産(+分割債権?)

 13 そもそも遺産外 生命保険金祭祀財産葬儀費用



十九 分割方法の指定 (条句)

 1  分割方法の指定(908条)

 2  香川判決 (「相続させる」遺言の効力:最判平成3年4月19日)(条句)

     香川判決の意義

 3 相続させる」と「遺贈する

    
  ① 相続と遺贈

       配偶者居住権・居住資産を「相続させる」とした場合

  ② 「相続させる」と不動産の相続登記

  ③ 「遺贈する」と不動産の遺贈登記

  ④ 不動産を相続させる」場合 無登記での対抗力

  ⑤ 遺言執行者の登記権限

  ⑥ 農地の相続と農業委員会許可

  ⑦ 相続と取引安全



二十 特別受益 (調整相続分:被相続人本人が、生きている内に、子や孫に対し、贈与等を行っていた場合の調整)

 1 意義

    持戻し免除の意思表示  

     特別受益チャート (条句)


 2 特別受益有る相続での調整(相続)(903条)

      特別受益ケースでの相続分「調整」作業

       
夫婦居住資産特別受益


   
① 特別受益の個戻算 (遺産の分け方(条句))(民法903条呉れ産の算法)

   
② みなし遺産ソロバン

   
 卒時遺産ソロバン

   
④  受贈物の滅失等(904条)

      財産評価の基準時

 3 特別受益(個戻残分) と 遺留分

 4 遺贈調整(相続)遺留分

   遺贈と特別受益

 5 生命保険金

 
二十一 寄与分(904条の2)

   寄与分・特別寄与料チャート

 1 意義請求権者

 2 寄与分の請求

 3 寄与の方法具体例

 4 寄与分の上限

 5 遺留分との関係

 6 親族に対する特別寄与料 ( 平成30年7月民法改正:1050条 )
                                        
    特別寄与料の上限 



二十二 遺留分


 1  遺留分 とは  相続の仕組み(まとめ)

    遺留分額(1042条1043条)

    特別受益と遺留分

    配偶者居住資産と遺留分

     贈と調整(相続)遺留分

    持戻し免除の意思表示と遺留分

    寄与分と遺留分

 
    平成30年改正による遺留分規定の概観


        (H30改正法による)

            遺留分チャート(条句)


 2  遺留分権利者  遺留分割合(1042条)(条句)

 3  遺留分原資(遺留分算定基礎財産)(1043条1044条)(条句)

      遺留分原資に関する平成30年7月民法改正

      
負担付贈与、不相当対価による有償行為 (1045条)

        
受贈物の滅失等  (1044条2項)

       財産評価の基準時
    
 4   遺留分(侵害額)現債請求 (条句) (1046条)
  
     遺留分(侵害額)現債請求に関する平成30年7月民法改正

       遺留分(侵害額)現債請求権の性質    

    ① 遺留分侵害額の算定 (条句) (判例)

      (1046条900条903条)

      
    ② 遺留分(侵害額)現債請求の方法 

     ア 相続人間での現債(判例)

     イ 相手方別  現債 順序 

       ❶ 遺贈と贈与間(1047条Ⅰ①) (条句)

       ❷ 複数の遺贈間・同時贈与間(1047条Ⅰ②) (条句)

       ❸ 複数の贈与間(1047条Ⅰ③) (条句)

     ウ 負担付贈与不相当対価による有償行為について侵害額請求ける限度額(1047条Ⅱ) 

     エ 受贈者が無資力の場合の損失負担(1047条Ⅳ)


    (削除条文関係)

     オ  受贈物の他への譲渡(条句)(1040条:改正により削除)

     カ 遺留分権者に対する価額弁償(条句)(1041条;改正により削除)


 5 遺留分(侵害額)現債請求権の時効(1048条)

 6 遺留分(侵害額)現債請求と相手方の時効主張(判例)

 7 遺留分放棄(1049条)



二十三 遺言 

     遺言のすすめ作成上のポイント自筆遺言例

     完結遺言の必須性   遺言執行者指定の必須性   

 
1 部分遺言完結遺言

   
     完結遺言と遺留分 

     完璧遺言

 2 遺言の基本的約束事

  ① 遺言の方式(960条)

  ② 遺言の種類(967条)

      遺言の種類チャート

      検認と確認

  ③ 証人・立会人(974条)(条句)

  ④ 共同遺言の禁止(975条)(条句)

  ⑤ 後見人の地位利用遺言(無効)(966条)

  ⑥ 遺言事項  

  ⑦ 遺言の対象財産

  ⑧ 遺言の変更・撤回(1022条1024条)

  ⑨ 死因贈与(554条)


 3 相続させる」遺言

    「相続させる遺言」による特定財産取得の対抗力(899条の2)

     相続登記の重要性

    配偶者居住権・居住資産を「相続させる」とした場合


 4 遺言能力

  ① 十五歳(961条)(条句)

  ② 行為能力規定の不適用(962条)(条句)

  ③ 成年被後見人の遺言方式(医師立会・付記署名)(973条)(条句)

  ④ 遺言時能力保持(963条)(条句)
 

 5 普通方式遺言(条句)

 ❶ 自筆証書遺言(968条)(自筆遺言記載例)(配偶者に遺す)(条句)

  ① 遺言書作成上のポイント

  ② 自書訂正日付押印

  ③ 遺言の変更撤回(1022条1024条)(判例)

      撤回行為の撤回(1025条)(条句)

  ④ 矛盾する複数遺言(1023条)(条句)

  ⑤ 遺言書・遺贈物の破棄(1024条)(条句)

 ❷ 秘密証書遺言(970条)(条句)


 ❸ 公正証書遺言(969条)

  ① 方式(969条)(条句)

  ② 証人(969条974条)(判例)

  ③ 公正証書遺言のメリット(条句)


 6 遺言執行者

  ① 地位・権限(1012条1015条)(条句)

   ア 遺言執行者の登記権限(1014条2項)

   イ 遺言執行者による遺産の管理(1012条3項)

   ウ 遺言執行者数人の場合の執行(1017条)

  ② 妨害行為の効力(1013条)(判例)

  ③ 指定と就職の催告(1006条、1008条)

  ④ 選任(1010条)

  ⑤ 復任権(1016条)

  ⑥ 任務の開始と財産目録の作成(1007条、1011条)

  ⑦ 執行報酬(1018条)

  ⑧ 解任・辞任(1019条)

  ⑨ 執行費用(1021条)


 7 特別方式遺言

  ① 通則

       ( →証人・立会人 )

   ア 消滅効(983条)

   イ 署名 関係(980条、981条)

   ウ 訂正・被後見人遺言・欠格・共同遺言禁止(982条)

   エ 遺言書の有無と筆記者

   オ 検認と確認

   カ 死因贈与(554条)

  ② 広義の臨終遺言

   ア 臨終遺言(976条)

      判例

   イ 遭難船臨終遺言(979条)

  ③ 隔絶地遺言

   ア 伝染病隔離者遺言(977条)

   イ 在船者遺言(978条)

 8 検認(1004条)

 9 確認(臨終遺言における遺言者の真意の確認)(976条4項、979条3項)



十四 遺贈(意義:相続の意義との対比から)

       相続と遺贈

           遺贈の要点

         相続の仕組み(まとめ)

         相続登記の重要性

  1 特定遺贈包括遺贈(964条)(条句)

  2 遺贈の 承認・放棄(986条、987条、990条)(条句)

  3 包括遺贈と割合遺贈

  4 遺贈による権利移転と対抗要件

  5 遺産分けでの遺贈の扱い(903条)

  6 遺留分での遺贈の扱い

     遺贈と調整(相続)分・遺留分

     遺贈・贈与間(1033条)(条句)

     遺贈相互間(1034条)(条句)

  7 農地の遺贈と農業委員会許可

  8 死因贈与(554条)



二十五 相続の承認・放棄

 1 単純承認(920条)(条句)

 2 法定単純承認(921条)(判例)(条句)

 3 熟慮期間(915条)(判例)(条句)

 4 再転相続の熟慮期間(916条)(条句)

 5 遺贈の 承認・放棄   

     特定遺贈の承認・放棄(986条、987条)(条句)

     包括遺贈の承認・放棄(990条)(条句)

     相続の承認・放棄との違い

 6 相続放棄

     「零分割」と「相続放棄」

  ① 相続放棄の 方式(938条)(条句)

  ② 相続放棄の 効力(939条)(判例)(条句)

 7 限定承認(922条)(判例)(条句)

    限定承認の 方式(923条)と税金面等からの利用実情(条句)

    (定承)認の 清算前ルール(926条、927条、936条)(条句)

    (定承) 清算ルール(928条~935条)(条句)



二十 相続人資格の喪失

  
① 欠格(891条)(965条)(判例)(条句①)

  
② 廃除 [ 生前廃除(892条)、遺言廃除(893条) ]

    ア 生前 廃除 (条句)

    イ 遺言 廃除 (判例) (条句)

    ゥ 廃除の 効果

    ェ 廃除の 取消し(条句)

  ③ 欠格・廃除による代襲(887条)(条句)



二十七 財産分離とは

  ① 相続債権者・受遺者から財産分離請求(第一種財産分離)(941条)(条句)

  ② 相続人の債権者から財産分離請求(第二種財産分離)(950条)(条句)

  ③ 財産分離請求後の相続人による遺産管理(944条)(条句)

  ④ 清算 (相続債権者・受遺者に対する弁済)(947条)(条句)

  ⑤ ア (相続債権者・受遺者)遺産に対する優先権(942条)(条句)

     イ  (相続人の債権者)相続人の固有財産に対する優先権(948条)(条句)

  ⑥  (相続人による)財産分離(止・消)(949条)



二十八  相続人の不存在

 1 相続人の不存在(判例)

  ① 相続財産法人(951条)(条句)

  ② 相続財産管理人の選任(選任公告、952条)(条句)

  ③ 管理人の権限(953条)(条句)

  ④ 申出公告清算手続き(957条)(条句)

  ⑤ 捜索公告(958条)(条句)

 2 特別縁故者への分与(958条の3)(条句)

 3 共有持分の帰属(255条、判例)(条句)

 4 残余財産の国庫帰属(959条)(条句)




二十九
 遺産の管理

         相続人による遺産の勝手な処分

         「共有」 と 「帰属」 と 遡及「清算」

       遺産共有の性質
                 →遺産共有の実際

       遺産分割協議へ向けての共有「向有」

       
遺産の管理に関する判例 (まとめ)


 1 (相続人のフェイズごとの) 遺産の管理 

  ① 承認・放棄まで(918条)(条句)

  ② 放棄した者による管理(940条)(条句)

  ③ 限定承認者による管理(926条、936条)(条句)

  ④ 財産分離(請求)後の管理(944条)(950条)(条句)

   
⑤ 廃除審判確定前の管理(895条)

  ⑥ 相続人による管理(固財注意)裁選管理人による管理(善管注意)

 

 2 遺産の種類

  ① 不動産(判例①判例②)

       配偶者居住権・居住資産配偶者短期居住権

  ② 現金(判例) 

  ③ 可分債権・債務(判例①判例②)

      相続開始後の不動産賃料債権(判例)

     平成30年法改正後の相続債権の管理

  ④ 預貯金債権(判例)

  ⑤ 不可分債権債務

  ⑥ 連帯債務(判例)

  ⑦ 株式・投資信託受益権・個人向け国債(判例) 

  ⑧ 生命保険金(判例)

  ⑨ 退職金(判例)

  ⑩ 祭祀財産(897条)

 3 善管注意(善良な管理者の注意)義務の例
 
    遺言執行者による管理(1012条)

 4 善管注意と固財注意

 5 固財注意か善管注意か




三十 相続回復請求(条句)

 1 相続回復請求の相手方

 2 相続回復請求権の消滅時効(判例①判例②)

 3 相続回復請求権と僭称相続人の取得時効


 
三十一 相続税について

 
1 相続時精算課税 

 2 小規模宅地等の特例等

 3 教育資金非課税制度 

 4 結婚・子育て資金非課税制度

 
5 住宅取得等資金非課税制度 

 6 生命保険金・死亡退職金

 7 まとめ 



三十二 相続税額算定のあらまし


 1 相続税総額の算出

  壱 仮分け総額ソロバン

   ① 課税価格(→合計)
   ② 課税遺産総額(←基礎控除)
      (申告要否の分かれ目)

   ③ 仮相続税額(←仮法定相続)


 2 各相続人の相続税額算出

  弐 実分け按分ソロバン

   ① 税額の按分(←課税価格割合)
   ② 税額控除(贈与税額控除、配偶者、未成年者、障害者等)
   ③ 2割加算(2親等以上の遺産取得者)




 

 

 



ご挨拶

 9年余りに亘る公証人生活を通じ、お客様からの家族法知識に対する要望の強さを知り、また、 家族法知識の普及のためにはホームページが有効であるとも思うに至って、書き溜めた「条句」を下地に、退職後の平成28年11月8日 「家族法入門ダイレクト 座右条句集」を開設しました。その後、平成30年2月に、不慣れによるバックアップなしの侭の不手際からその大半を失ったものの、同年5月にようやくほぼ復旧することができました。操作ミスからの削除と復旧では今に至るまで毎年の様に大汗を掻いております。また、その後 平成30年の相続法改正に応じる加筆・訂正等にとりかかりましたが、これが相続の本質に関わる大きなことであったため、かなりの時間を要することとなりました。そして、新たに相続にまつわる「Q&A」も追載しました。令和の時代となり、同2年2月20日、 トップページ表記のダイレクト コラム欄に「後見」「相続の仕組み」等も、目次を介さずに直接閲読願える「ダイレクト」として加えることができました。相続法の改正後も、類書に、相続の本質に関わる改正意義について言及が余りないので、本稿は本質から直接説き起こしたとの意味でも、「ダイレクト」と言えると思います。又、昨今喧しい「選択的夫婦別姓」についても、拙稿は夫婦親子関係の本質に照らして愚考しましたので、ここでも本質に「ダイレクト」に切り込んだつもりでおります。尤も、母子氏を原則にという提言は余りにダイレクト過ぎるかと、内心忸怩たるものがあります。
 しかし、上記の様な形で偶々親族・相続のコアにも触れる言及をすることができ、家族法の本質に分け入ることが出来たことは正に家族法入門に好適な展開となったものと思い、「家族法入門ダイレクト」と銘打ったことにも沿う結果となったことの神助を深く感謝している次第です。どうか家族法に興味を持たれた多くの方の目に触れて、家族法入門から民法へと進まれ、さらには法一般に対する興味、知識欲へと展開されますことを祈念する次第です。
 家族法の類書にも、ネット情報にも、事柄を本質から知らしめてくれるものが少なく、表面的に窓口での振分けをする程度のものが多いので、愚生は、全ての事柄は本質からダイレクトに思考してこそ正しく運用できる筈なのにと慨嘆する次第です。「ダイレクト」には クリックひとつで条文が読めるとの意味も込めました
(当初はその趣旨でした)のに、条文URLの訂正に手間取り(目まぐるしい 法の改正 と URL改善の為の変更 になかなか追いつけません)、また、 難解であるとお叱りを受ける等 種々 ご迷惑をおかけしていることを深くお詫びします。内容的にも いまだ まことに不出来・不十分、且つ、未熟・未完ですので、今後も身を修めつつ鋭意加筆・訂正等を重ね、皆様に喜んで頂けるものとなるよう 老骨に鞭打ち打つ所存です。何卒ご理解・ご協力のほどお願い申し上げます。なお、冒頭の献呈文は、以前、通常の書物での慣例に倣い、本ホームページ゙の末尾に記していたのですが、喜寿を超えた現在も、当時 軽くない持病を押して 私の退職までは と献身してくれた忠保氏に対する思いが 常に胸にありますので、 むしろ冒頭に掲載させて頂くのが良いかと思い、移した次第です。
 なお、当初は、説明なしの「条句集」をメインに考えておりましたので、付してありましたその「まえがき」を、説明に重きを置くべきと思い直したことに伴い、私の個人的な思いのその部分は割愛しました。しかし、読み返してみると、これも当ホームページ開設の契機を知って頂くためには意味があるかと思いますので、ここに改めて加えさせて頂くこととしました。
 令和3年の秋となった今、ようやく収束するかに見える新型コロナウィルスの脅威ですが、世界中に悲しみと苦しみを与えた上、再び拡大する恐れも未だ払拭できてはいない様です。どうぞ、皆様二重マスクでくれぐれもご自愛の上、人への思いやりと互いの絆で心を結び、Druch Leiden Freude! がんばりましょう!












 725条から1050条迄、枝番等を含め全346条ある離婚や相続等、市民生活上の重要な事柄に関する法(民法)の定め
(親族法・相続法 :) 家族法を我流の条句にしてみました。本ホームページでその主なものをご紹介します。
例えばこんな具合です。

  
   人生航路難航時752同居協力扶助により妹背いもせならば
           
            
732夫婦生活つは出来重婚禁止

  
 民法732条重婚禁止の規定、同752条夫婦互いの義務に関する規定ですが、 条句は、このように、法の定め
を、口にして覚え易いよう 韻を踏んで五七調にし、合わせて、第何条であるかの条数も 赤色字読み込んでみたも
のです。誠に幼稚な発想で、拙く粗雑なものになってしまっていますが、楽しんで頂けたら幸いです。

掲載の条文や項目等に付した下線をクリックして頂くと、リンク先を参照することができます。 数字の読みについてはこちらをご覧下さい。


同居・協力・扶助の義務 は、民法752条の条文のままの順に並びますが、講学上は、これらのうちの「協力」が中
心的・包括的な義務とされます。

 つまり、「
協力」は憲法24条にも
  「
婚姻は、・・・夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により維持されなければならない
とありますから、
婚姻をした両名は、配偶者との同居に努め、配偶者が手持金に窮したら自己固有の財で扶ける等し
て生計を維持し、互いに
同種・同量・同等の暮らしを保つべく、扶養する義務 (生活保持の義務) は勿論、家事の分担や
病時の介護等、他のあらゆる場面で協力し合わなければならない義務を負います。

 殊に、夫婦の間に子が生まれれば、子は、両親によって愛され保護されて、心身共に健やかに育てられなければな
りません
(児童福祉法1条、2条)。ですから、子の利益のために監護教育する(民法820条)等、夫婦共同(818条)して、親権者と
しての責任
(民法820条824条)を果たさなければなりません。また、子に対して上記夫婦間同様の扶養義務(民法877条)
も果たさねばなりません。

子を含む家族生活を万難を排して維持する責任を伴いますから、この「協力」には実に重い意味が込められています。

 そして、その結果、配偶者が亡くなったときには、法定相続分 
( 子がいる場合は、半分ですが、相続人がいない場合は遺産全部
を承継します ) 
、或は 遺留分が当然の権利として認められることになります ( 遺言によれば、法定相続分を超える財産を、他の者
にはない幅の配偶者控除の下に、受けることもできます )
 
 又、不幸にして離婚に至った場合は、夫婦それぞれの固有財産を含む全財産の半分 
(私見) 財産分与として受けるこ
ともできます。
ですから、この「協力」は、昔からのフレーズ「あい拠り、あい扶け、一心同体で支え合う」ことであると言えます。



 
夫婦の同居義務の延長上に、婚姻の余後効と言える配偶者居住権が平成30年の相続法改正により保障されました(こち
をご覧下さい)


 なお752条義務に加え、互いに
貞操義務があることは 不貞が第一番の離婚原因とされていることから、当然です。

 また、夫婦間の
扶養義務についてはこちらを、重婚についてはこちらをご覧下さい。

 
貞操義務については、上記の様に民法は直接明文を置いていません。夫婦愛や貞操は、人が胸深くに秘めた、法の
踏み入るべきでない領域であり、それが侵害されたときにのみ法が関わることになるからであると説明されています。
 強制力を持つ法に対しては、人の心に対するリスペクトと謙抑が望まれ、心をズカズカ蹂躙することは許されませ
ん。しかし、法に明文がないから重要でない ということにはなりません。むしろ、貞操こそ婚姻の本質に関わること
だと私は思います(→
婚姻夫婦同氏原則)

 なお、民法752条の同居
協力扶助の義務は 夫婦間の互いの義務であって、第三者に対する義務ではありません。
これを根拠に、連合いが起こした不始末を、配偶者の義務違反だとして責任を追及することは、筋違いです。例えば、
認知症を煩う連合いが夜間に徘徊して線路に立入り、事故を起こして鉄道会社に損害を与えたからと言って、配偶者
として責任を問われることはありません。その旨の判例があります
(こちらをご覧下さい)

配偶者暴力
 婚姻が、上記「夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力
(憲法24条)によって維持されるべきである
ことの対極に、配偶者暴力があります。
 暴力によって配偶者
や子を支配することは婚姻の本質に反することです。身体を傷つける等に至れば言うまでもな
く犯罪です。
 暴力を振るう配偶者に対しては、「婚姻を継続し難い重大な事由」
(民法770条1項5号)として離婚原因となります
(独立原因をご覧下さい)
重大な結果に至る前にカウンセリング等何らかの支援を受けることにより、暴力を止めさせな
ければなりません。

 また、犯罪者となる前に、警察、裁判所の力によって、暴力防止の司法的な手立てを講じ、又、身の安全のための避
難も考えなければなりません。
 
この目的から平成13年に制定されたのが「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」 です。

 この法律で「
配偶者」には、婚姻の届出をしていないいわゆる「事実婚」を含みます。男性、女性の別を問いませ
ん。また、離婚後
(事実上離婚したと同様の事情に入ることを含みます。)も引き続き暴力を受ける場合を含みます。

 又、「暴力」は、身体に対する暴力又はこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動を指します
(なお、保護命令に
関する規定については、身体に対する暴力又は生命等に対する脅迫のみを対象としているほか、身体に対する暴力のみを対象としている規定も
あります)


 
そして、生活の本拠を共にする交際相手(婚姻関係における共同生活を営んでいない者を除きます。)からの暴力について、
この法律を準用することとされています。また、生活の本拠を共にする交際をする関係を解消した後も引き続き暴力
を受ける場合を含みます。

 相談
(同法3条~5条)、保護(同法6条~9条の2)(婦人保護施設、母子生活支援施設、民間シェルターでの保護となります)、自立支援
(同法8条の3)保護命令(同法10条~22条等が用意されていますので、現にこの問題を抱えている方は、まず、配偶者
暴力相談支援センター等
に相談されることをお勧めします。保護命令は、被害者、或いは、場合によりその子、その
親族に対する、身辺でのつきまとい、徘徊、面会強要、迷惑な電話・メール、粗野 乱暴な言動等を禁じ、不快 嫌悪を
催し、或は羞恥心 名誉を害する等のいやがらせ行為をも禁じることができます。


 保護命令の申立書には、命令の必要性について具体的に記述し、合わせて、相談支援センターないし警察署での相
談を経ていない場合は、公証人の認証を受けた書面を添付することが必要です。

 保護命令に対する違反には、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金の制裁があります。
こちら(政府広報)も参考にして
下さい。

 DV相談は、各都府県等にも相談窓口がありますから、そちらに電話相談することも可能です
(例:東京神奈川県
埼玉県千葉県)


 なお、配偶者からの暴力に悩んでいることを、どこに相談すればよいか分からないという方のために、
 全国共通の電話番号(0570-0-55210)から相談機関を案内するDV相談ナビサービスが実施されています。



嫡出推定 (結婚した夫の子であるとの推定)
  ( 2021年2月9日 嫡出推定・再婚禁止期間の関係の重要な報道がありました。こちらをご覧下さい。)

 
嫡出とは「婚姻している夫婦の子」であるという身分のことです。

 婚姻により夫婦は、同一戸籍
(戸籍法6条)となり、戸籍上の夫婦に子が生まれた場合、その出生届(戸籍法49)をする
と、その子は、その夫婦二人の子として、「嫡出子」の身分を取得します。

 夫婦とその間の子は、戸籍を同じくし、子は夫婦の「長男(女)」、「二男(女)」と記されます。

 婚姻関係にない男女間に子が生まれると、その出生届は母親がしなければなりません
(戸籍法52条)判例 (最判昭37
4・27
)
により、母とその非嫡出子との関係は、原則、分娩の事実により当然発生するとされるからです
(→母子関係)

 その場合、母たる女性が戸籍の筆頭者ではない場合、新しく戸籍をつくり、女性と生まれた子が入籍します
 その戸籍に父親の名は記載されません。
 母の戸籍に、子は母の「長男
(女)」、「二男(女)」と記されます。平成16年11月までは「男」、「女」と記載されていたのが、
 嫡出子の場合と同様の記載に改められました。


 非嫡出子の父親の名を戸籍に記載するには、その男性からの認知を要します。
 任意に認知してくれない場合は認知の訴えを起こさねばなりません
(尤も、手続上その前に調停・審判等があります)

 夫婦間の子が嫡出であるとして、即受理されるのには、根拠があります。

  民法772条が、その第1項で、「
妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。」とし、
        次いで第2項で、「
婚姻の成立の日から二百日を経過した後
                 又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内
                  
に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。

  と規定するので、婚姻届けの日から200日を超えて生まれた子は、まず
       婚姻中に、つまり夫がいる妻として、懐胎したものである 
 (私なりに「婚中懐」と言います) と推定され、
  次いで、 妻の懐胎子であるから、子の父親は夫であると推定される、
 という二段構えの推定の結果、夫婦間の嫡出子としての身分を取得し、その出生届ができる訳です
(私は、「 ‘始め200日、後300日の婚中懐‘ という大きな風呂敷で包括して嫡出性を推定 」 と表現しています)。

  これは、婚姻が
融合創一によって導かれる終生的互敬貞操結合であることを前提してはじめて成り立つ推定な
 のです。そして、この推定が働かなければ、婚姻中に生まれた子であっても、母子関係が成立するだけですから、
 子は、法的には両親の愛を受け得ないこととなります。

  この嫡出推定と夫婦親子同氏の原則とは、融合装一の関係であることについて、こちらをご覧下さい。

 ここで婚姻後二百日経たない内に生まれた子は、前記のようには
推定されない子である訳ですが、昔の判例
(大審院連合部判決昭15・9・20)によって、内縁中に懐胎し、婚姻後出産した子について、出生と同時に当然嫡出子の身分
を有するとされます
(昔は、「足入れ婚」と言って、婚礼を挙げても直ぐには届けず、子を授かってから婚姻届けをすることが多くありまし
た。ですから、内縁中の懐胎が多かったのです)
。そして、この判例は、これによる子の、母の夫との父子関係を否定するに
は、嫡出否認の訴えではなく親子関係不存在確認の訴えによるとしました。
 この判例を踏まえ、爾来、戸籍実務では、婚後二百日経たない内に生まれた子も「嫡出子」と記載されています。
そして、二百日経過後の「嫡出子」と区別して、この嫡出子を推定されない嫡出子」と呼びます。


再婚後
の出産、現夫の子に 「嫡出推定」300日規定に例外 法制審部会・中間試案
                                  
(2021・2/9 時事通信社)
 無戸籍者の原因となっている民法の「嫡出推定」制度見直しなどをめぐり、法制審議会(法相の諮問機関)の専
門部会は9日、中間試案をまとめた。  女性が離婚後300日以内に出産した子を元夫の子と見なす規定に例外を設
け、出生時に母親が別の男性と再婚していれば、再婚後の夫の子と推定することなどが柱。  法制審は試案につい
て意見を公募した上で答申をまとめる。法務省は早ければ来年の通常国会への民法改正案提出を目指す。嫡出推定
規定が見直されれば、明治の民法制定以来初めてとなる。  現行法では嫡出推定により、離婚後300日以内に生ま
れた子は原則、元夫の戸籍に入り、これを覆すには、元夫が父子関係を否定する「嫡出否認」の訴えを起こす必要
がある。元夫の協力が得られず元夫の子と扱われるのを避けるため、出生届が出されないケースが少なくない。
 無戸籍者は今年1月現在で901人に上っている。  試案では、結婚後200日経過後に生まれた子を夫の子とする
規定について、200日以内であっても夫の子と推定するとした。離婚後300日以内に生まれた子を元夫の子と推定
する原則は、再婚しない場合もあるため維持する。  離婚直後に再婚して出産すると、元夫と現夫とで推定期間が
重複するため、現行法は女性に100日間の再婚禁止期間を設けている。今回の見直しで重複期間がなくなるため、
再婚禁止期間は撤廃される。

 試案では、結婚後200日経過後に生まれた子を夫の子とする規定について、200日以内であっても夫の子と推定す
る と報道されています。これ迄 その間の出生子は、推定されない子 である為、戸籍に嫡出子と記載されるものの、
その記載を覆す途は、嫡出否認ではなく、親子関係不存在確認の訴えとされてきました。しかし、婚200日以内の子
にも嫡出推定が及ぶとの法改正がなされれば、それを覆す途は嫡出否認の訴えとなります。離婚後300日以内に生ま
れた子を元夫の子と推定する原則は、再婚しない場合もある為 維持されて、他方、再婚した場合は、その後生まれた
子は、離婚後300日以内であっても、例外的に再婚後の夫との間の嫡出子となります。
 前夫との子である推定は働かないので、推定の重複はなく、従来それを避ける為に設けられていた再婚禁止期間
(民
733)の制度もなくなります。そして、推定の重複を解決する為の「父を定める訴え(人事訴訟法43条)も不要として
廃止されることとなると思われます。→ 令和4年民法改正
 

       二百超え三百内なら婚中懐夫は父に772推定される。


 という条句は、これだけでは、??? ですが、 少し足し、また、砕いて分かり易くしますと、


    (出)の日届けて二百(日を)超え

       (又は)離婚(又は取消)届けて三百(厳密には、三百一日以上)なくば

          
()中懐(胎)(推定を受けて、ひいて)(出)子推定(をも受ける)



 上記の二段構えの推定を経て、夫は、妻が産んだ子供の父親と定められます。

 なお嫡出推定は
性転換後の婚姻にも及ぶかという点に関する判例があります。
 
性同一性障害により、同障害者の性別取扱いに関する特別法に基づく審判を受けて、
男性への取扱変更となった者が、妻との間に人工授精で儲けた子供について、
性行為によって子をなすことがあり得ないことを理由として嫡出推定規定を適用しないとすることは相当でない
旨判示した判例
(最決平25・12・10)

 
この判決は、その理由として
  「特例法3条1項の規定に基づき男性への性別の取扱いの変更の審判を受けた者は、以後、法令 の規定の適用に
ついて
男性とみなされるため、民法の規定に基づき夫として 婚姻 することができるのみならず、婚姻中にその妻が
子を懐胎したときは、同法772条 の規定により、当該子は当該夫の子と
推定 されるというべきである。
 もっとも、民 法772条2項所定の期間内に妻が出産した子について、妻がその子を懐胎すべき 時期に、既に夫婦が
事実上の離婚をして夫婦の実態が失われ、又は遠隔地に居住して、夫婦間に性的関係を持つ機会がなかったことが
明らかであるなどの事情が存在する場合には、その子は実質的には同条の推定を受けないことは、当審の判例とする
ところであるが
最判昭44・5・29同平12・3・14、性別の取扱いの変更の審判を受けた者については、妻との性的関係
によって子をもうけることは およそ想定できないものの、
一方でそのような者に婚姻することを認めながら、他方
で、その主要な効果である同条による嫡出の推定についての規定の適用を、妻との性的関係の結果もうけた子であり
得ないことを理由に認めないとすることは相当でない
 というべきである。」
と述べています。


 
また、所謂「わらの上からの養子」に関する下記①の判例があります。
 この事件は、虚偽の出生届けであるからと、それまで親の立場で経過してきた被上告人夫婦が親子関係の不存在
を主張したのに対し、上告人が養子縁組の成立を主張したものですが、判決は、結論として、虚偽の届けである以上
子の身分について何らの効力も認められないとしたものです。

 しかし、同じ親子関係不存在確認の事例で、長年親子として暮らしてきた場合、親の立場の者からする一方的な親
子関係不存在の主張が、その不存在の確定により著しく不等な結果をもたらすものであるときは、
権利濫用であって
許されないとして、結論的に、①判例とは逆に虚偽の届けの効力を覆さなかった下記②判例もあります。
 

  養子とする意図で他人の子を嫡出子として届けても、それによつて養子縁組が成立することはないと判示した
判例
(最判昭25・12・28)

 
この判決は、その理由として
 上告の「論旨は(イ)被上告人夫婦
(亡Dと被上告人)は、上告人の意思に関係なく、被上告人側夫婦の意思のみによ
って上告人をその嫡出子として戸籍上の届出をなし、 爾来上告人を実子の如く養育し、上告人も被上告人夫婦を実父
母と信じて経過して来たものである。かゝる場合には上告人側からは親子関係不存在確認の訴を提起することができ
ても、被上告人側からはかゝる訴を提起することは許されないものである。したがつて本訴は違法の訴である。
 次に(ロ)本件の場合の嫡出子の届出は、 これを養子縁組の届出があつたものと認むるのが相当であるのに、原審
は上告人の この主張を排斥したのは不当であると主張するのである。
 しかし(イ)の点につい ては、嫡出子は「妻が婚姻中に懐胎した子」であることを要件とするものである。 ところ
が原審の確定した事実によれば、上告人はEとF間の婚姻外の子であつて、 被上告人夫婦間の嫡出子ではないのに、
嫡出子として戸籍上の届出がなされているのである。してみれば、この儘の状態では外形上嫡出子の親子関係が存在
するかに見え、したがつてそのような法律関係をもつて律せられることになるから、上告人側からも被上告人側から
も嫡出子関係は不存在の確定を求むる利益を有する
ものといわなければならない。そしてこの事は、その届出が上告
人の意思に関係なく被上告人側の意思のみによつてなされたものであり、また当事者間に従来法律上事実上親子同様
の関係が持続されて来たものであるとしても、これ等の事実によつて嫡出子関係が創設される謂われはなく、しから
ば叙上確定の利益に消長を来すものではないのである。されば被上告人の本件訴は適法のものといわなければならな
いから、この点の論旨は理由がない。
 次に(ロ)の点については、養子縁組は本件嫡出子出生届出当時施行の民法第八四七条第七七五条
(現行民法第七九九
七三九条
及び戸籍法にしたがい、その所定の届出により法律上効力を有するいわゆる要式行為であり、かつ右は
強行法規
と解すべきであるから、その所定条件を具備しない本件 嫡出子の出生届をもつて所論養子縁組の届出のあつ
たものとなすこと
(殊に本件に 養子縁組がなされるがためには、上告人は一旦その実父母の双方又は一方において 認知した上でなければなら
ないものである)
はできないのである。しからば原審のこの点の判断には何等の誤りはないから、論旨は理由がない。」
と述べています。

戸籍上自己の嫡出子として記載されている者との間の実親子関係について不存在確認請求をすることが権利の
濫用に当たらないとした原審の判断に違法があるとされた事例
(最判平18・7・7)
 この判例については、
こちらをご覧下さい。

嫡出推定の規定を改める法改正が行われました。(令和4年民法改正)
 令和4年12月16日 法律第102号として公布され、令和6年4月1日から施行されます。
 嫡出推定を定める民法772条は次のようになりました。
「① 
妻が婚姻中に懐胎した子は、当該婚姻における夫の子と推定する。女が婚姻前に懐胎した子であって、婚姻が成立した後に生まれたものも、同様とする。
 ② 前項の場合において、婚姻の成立の日から二百日以内に生まれた子は、婚姻前に懐胎したものと推定し、婚姻成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。
 ③ 第一項の場合において、女が子を懐胎したときから子の出生の時までの間に二以上の婚姻をしていたときは、その子は、その出生の直近の婚姻における夫の子と推定する。

 ④ 第三項の規定により父が定められた子について、第七百七十四条の規定によりその父の嫡出であることが否認された場合における前項の規定の適用については、同項中「直近の婚姻」とあるのは、「直近の婚姻(第七百七十四条の規定により子がその嫡出であることが否認された夫との間の婚姻を除く)」とする。

 これまでは、まず「
始め200日、後300日の婚(姻)中懐(胎)」という大きな風呂敷で「嫡出子」を包括して推定し、それから外れる「始め200日未満」ケースを、「推定されない嫡出子」で嫡出性を認める、或いは、「後300日」該当でも「事実上の離婚で夫婦の実態がない」との理由で推定を及ぼさずに嫡出性を否定する等の方法で、救済の途を儲けていたのですが、身ごもりながらも離別したものの、前夫の暴力を恐れて離婚できず、或いは、離婚できても、子の「前夫との嫡出」を避ける為 出生届ができない侭、後夫に連れ添う等の場合には、その出生児の戸籍届けがない、いわゆる「未就籍児童」の増加という事態となって、それが社会問題化しました。この事態を救済するために、元々の「嫡出推定」の要件を緩和し、そのように前夫の存在に縛られることなく、後婚の存在によって子に嫡出性を与えようとしたものです。なお、婚姻禁止期間違反による婚姻であるため嫡出推定が重なる場合の「父を定める訴え」を規定していた民法773条は、(再婚禁止期間規定733条は削除となりましたが)重婚禁止違反による婚姻であるため推定が重なる場合の規定として、その旨 の文言に換えた、「父を定める訴え」の規定となりました。




出生届け

 子が産まれたときは、14日以内(国外で出生があつたときは、3箇月以内)に、原則として、出産に立ち会った医師、助産婦
等の作成した出生証明書を添付した届書に、父母の氏名を記載して、出生届けをしなければなりません
(戸籍法49条)
 婚姻中の夫婦間の子である嫡出子の出生届けは、父又は母が行い、子の出生前に父母が離婚していた場合は、母がこ
れを行います。

 又、嫡出でない子の届けは、母が行わなければなりません
(戸籍法52条)嫡出でない子の出生届けでは、父親の名は記
載できません。父親の名を記載するためには
認知の手続きが必要となります。嫡出子は、親子同氏の原則(民法790条)
より親の氏を称し、親と同氏の子は親の戸籍に入ります
(戸籍法6条)



再婚禁止期間

       (2021年2月9日 嫡出推定・再婚禁止期間 関係の重要な報道がありました。こちらをご覧下さい。)
 
そして 次に嫡出推定を踏まえて再婚禁止期間(民法733)が定められることとなります。
  つまり、再婚する前の婚姻を 前婚、再婚した婚姻を 後婚 としますと、前述の「婚中懐」の推定を踏まえれば、
   離婚後300日以内に産まれた子は前婚中の懐胎と推定されて、前夫が父親となり、
   後婚の後200日以後に産まれた子は後婚によって懐胎したと推定されて、後夫が父親ということになります。

 法は、この両夫の父性推定が重なって子の身分が不安定となることを防ぐため、子の母となる女性
(或いは、その後婚の
相手男性)
に自重を求める訳です。
 そして、禁を破った婚姻は、婚姻障碍あるものとして、婚姻届を受理されず、仮に受理されても、婚姻取消しとされ
得ます。
 他方、上記両婚の間に100日間の空白期間を置けば、前婚子と後婚子の推定が重なることがなく、産子がどちらの
子であるか不明となる余地はありません。

 それで、この離婚の後の100日間が再婚の禁止される期間となります。

 この禁止違反の再婚で両婚による懐胎推定が重なる場合は、民法773条による父を定める訴え(人事訴訟法43条、〔§2
§4〕)
が必要となります。但し、医師の証明書によって離婚後に懐胎したことが認められれば、後婚子としての出生届
けができる
ことになりました
(こちらをご覧下さい)

 禁止期間違反の婚姻の取消しについてはこちらをご覧下さい。又、その取消しができなくなる場合についてはこちら
をご覧下さい。



    前婚離婚(又は取消)のその日から百日たぬ婚姻は、

       
(子ができても)
両夫(推定)なり父難知

            再婚禁止
(期間)なっとるさ
733



     
離婚する ()なくば

                 
日数ひかずたず(再婚)()733Ⅱ①

           
 
(娠)あれば ちて

             
(再) して燦々733スタート。

                           「して」は、7の伊語「セテ」、西語「シエテ」から
 

 

再婚禁止期間私見 
 以前は「六か月」とされていた再婚禁止期間が、「百日」に法改正されたきっかけは、こちらの判例
 (最判平27・12・
16
) 
が、再婚禁止期間を設けること自体は違憲ではないとの前提の上で、「民法733条1項の規定のうち100日を超え
て再婚禁止期間を設ける部分は、・・・憲法14条1項24条2項に違反する」と判示したからでした。

 再婚禁止については、一夫一婦制を人の生涯に亘る道徳律として再婚そのものを男女共に禁ずる考え方から、いわ
ゆる血の混淆を防ぐ為の生理的理由から女性にのみ「待婚」を求めるものまで、幅広い規制のスタンスがあり得ます。
しかし、基本的に婚姻の自由を妨げる規律であることに違いはないので、できれば ないに越したことはありません。
 判例もその様な考えから、法が前提する嫡出推定制度を貫徹するに必要な最小の限度に規律を絞ったと思われます。

 しかし、今や、抑も 上記判例が前提した 再婚禁止期間 設定の当否こそが問われるべき時代ではないでしょうか。
 人の婚姻の自由を、その愛情行動の結果である子の「父性」如何の為に奪うことに、理はあるのでしょうか。私に
は、誰の子であるかの困惑からの謹慎より、「子」が生まれることの方が尊いことと思われます。ことは前夫・後夫
どちらの「嫡出子」とするか 戸籍の記載の有りようだけの問題なのです。

 婚姻のもたらす結晶の扱い、表し方に目を奪われ、基本的人権である「婚姻の自由」を損なって良いのでしょうか。

 民法733条は、女性側だけに婚姻を禁じているのでなく、事実上、その相手方となる男性側も禁じられている事に
なります。この禁止の為に、男女二人の人生の限られたある時だけに可能であった婚姻が実現できないということが
起こり得ます。
 基本的人権の本体でなく、その結果の表示という枝葉に捉われて、人権そのものを退けることは、正に 角を矯めて
牛を殺す ことではないでしょうか。そこに理があるとは思えません。

 父性の重複を回避すること に理ありとして設けられた「再婚禁止期間」、「婚姻障碍」、「婚姻取消し」、「婚姻
取消権の消滅
(§746)、又、これらの隘路を解消する為に考案された「懐胎時期に関する証明書」による扱い、家裁
での調停や合意に相当する審判、或は「父を定める訴え」等の手続き、等々 幾重にも重なって煩雑に置かれた規定や
制度を見、その為に当事者が被る負担や手間、心理的重圧を思うと、何か違うのでは、と思ってしまいます。

 私は、遺伝子鑑定が進歩した現今の科学的レベルからすると、これらの規律、手続き、扱いは、むしろ噴飯もので
はないか、後の世からすれば笑止とされるのではないかとさえ思います。

 ことは憲法の保障する「婚姻の自由」に関わることなのですから、これを具体化するための法制度が、これを侵す
ものであってはなりません。
 婚姻の自由をこそ貫徹して、父性の重複との関係は、手軽で簡易なDNA鑑定で調整を図り、裁判所がその鑑定に基
づいて公証するという 戸籍の簡便な仕組みを構築すれば足りるはずです。

 最高裁が出生児の身分が不安定となって哀れである旨述べる点も、立法による仕組みの工夫で解決できると思われ、
場合によっては、公的事柄として公費で適時に確定すべきと考えます。再婚禁止規定733条とこれを前提とする740条
(婚姻届けの不受理)744条(婚姻の取消請求)の各部分は人の婚姻の自由を侵害しており、いまや憲法24条11条13条
違反すると言うべきです。

(再婚禁止期間の定めは、上記括弧内の報道によれば、いずれ廃止となり、同時に従来の嫡出推定に伴う諸制度も廃止
ないし変更されるものと思われ、報道にかかる法改正が迅速に行われることが期待されます。)

再婚禁止期間を改める民法733条は廃止(削除)されました。
 令和4年12月16日 法律第102号として公布され、令和6年4月1日から施行されます。

 
これまで再婚禁止期間が設けられていた理由は、出生児について、前婚による嫡出推定と後婚によるそれとが重なるということにありました。しかし、令和4年の改正により、子の「出生の直近の婚姻における夫の子と推定する」( 改正772条3項)こととなり、再婚を禁じる必要がなくなったための廃止です。 


       臨婚女


          
前婚離婚
(又は取消)そのから

      百日
って
(再したとすると)、(前後両婚)両夫

   推定事態
なさそ
733(更に二百日経った日を境にその前に生まれた子は前婚子
          
その後に生まれた子は後婚子と推定され、推定が重なることがない)
 

                望
再婚

説明部分を取り払うと

      
臨婚女
 
          
前婚離婚のそのから

        
百日って 両夫

    
推定事態なさそ733再婚



(再婚)禁止期間違反の再婚
(禁期婚)で子が生まれた場合、父性の推定が前後両夫に及ぶことになるときは、出生届けに
父親の氏名を記載することができません。禁期婚で産まれた子でも、後婚の成立後200日以内に産まれた場合は、後婚
による推定はかからないので、推定の重複がなく、前婚夫が父と推定されることになります。
推定が重複する場合
どちらが父親か確定する為には裁判が必要となります。これが民法773条
父を定める訴え(人事訴訟法43条、〔§2、§4〕)
です。

 但し、平成19年の法務省通達により医師の証明書によって
離婚後に懐胎したことが認められれば、後婚子としての
出生届けができる
☆こととなりました。なお、禁期婚のため父を定める訴えが必要となる子の出生届けは、母が行う
ことになりますが、その場合は届書に、父が未定である事由を記載しなければなりません
(戸籍法54条)
禁を破った婚姻でも、取消しができなくなる場合について、
こちらをご覧下さい。

 ☆ 厳密には、「
懐胎時期に関する証明書」によって、推定される懐胎の時期の最も早い日が婚姻の解消又は取消
しの日より後の日である場合に限り、婚姻の解消又は取消し後に懐胎したと認められ、民法第772条の推定が及ばない
ものとして、母の嫡出でない子又は後婚の夫を父とする嫡出子出生届出が可能です。」とあります。
 禁止期間違反の婚姻
は婚姻取消しの対象となり得ますが、妊娠・出産との関係で、取消しができないことになる定め
 
(民法746条) について、こちらもご覧下さい。



        前婚了後
(の)三百()

           
後婚こうこんって二百
()


         その
出産
(前後)両婚婚中懐(推定) 

         
(両夫共父であり得るので)
 (親を)なん知産ちざん773

           「
める家裁



認 知
 
 
既婚男性が子を儲けた場合、婚姻による嫡出推定により、その子は妻との間の子とされ、男性はその法律上の父親
となります。

 ですから、婚姻外の女性との間では、その子は嫡出推定外となって、父親としての推定が働かず、その侭では他人です。

 男性が
婚姻外で子を儲けた場合、法律上も自分の子とするためには、
 認知 が必要となります。
 認知によって父子関係が発生します
(民法779条)

 法文の上では、「
嫡出でない子は、その父又は母がこれを認知することができる(民法779条)とあって、母親による
婚外子認知も予定されています。ただ、母子関係は、後述のように分娩の事実によって生じるとされていますから、
通常は、母子関係が認知を待たずに認められます。

 認知は、
認知届けによる(民法781条1項、戸籍法60条)か、又は、遺言によって もすることができます(民法781条2項)
 遺言による場合は、遺言執行者から届出をすることになります
(戸籍法64条)

因みに、戸籍法の認知関係条文を、先取りになるものも含め、まとめて転載しておきます。

 第六十条 認知をしようとする者は、左の事項を届書に記載して、その旨を届け出なければならない。
一 父が認知をする場合には、母の氏名及び本籍
二 死亡した子を認知する場合には、死亡の年月日並びにその直系卑属の氏名、出生の年月日及び本籍
第六十一条 胎内に在る子を認知する場合には、届書にその旨、母の氏名及び本籍を記載し、母の本籍地でこれを届け出なければ
ならない。
 第六十二条 民法第七百八十九条第二項の規定によつて嫡出子となるべき者について、父母が嫡出子出生の届出をしたときは、
その届出は、認知の届出の効力を有する。
第六十三条 認知の裁判が確定したときは、訴を提起した者は、裁判が確定した日から十日以内に、裁判の謄本を添附して、その
旨を届け出なければならない。その届書には、裁判が確定した日を記載しなければならない。
2 訴えを提起した者が前項の規定による届出をしないときは、その相手方は、裁判の謄本を添付して、認知の裁判が確定した旨
を届け出ることができる。この場合には、同項後段の規定を準用する。
第六十四条 遺言による認知の場合には、遺言執行者は、その就職の日から十日以内に、認知に関する遺言の謄本を添附して、第
六十条又は第六十一条の規定に従つて、その届出をしなければならない。
第六十五条 認知された胎児が死体で生まれたときは、出生届出義務者は、その事実を知つた日から十四日以内に、認知の届出地
で、その旨を届け出なければならない。但し、遺言執行者が前条の届出をした場合には、遺言執行者が、その届出をしなけれ
ばならない。



 認知能力についてはこちらをご覧下さい。

 ここまでは、男性については、父側からする
任意認知の話であり、いわゆる主観主義的認知と言えるものです。
 これが、任意に行われない場合には、子の側からする認知も認められます。昔は、例えばフランス民法等でも、
  婚姻尊重と父権尊重
 とが相俟って「父親の捜索」を許さない法制が一般的であったと言われます。それが徐々に緩和されて、父親の意思
に訴える「認知請求」を許しました。

 今は、「主観」の主体である父親の死後も3年までは
認知の訴えが許される(民法787条人訴§2) 客観主義」へと
変化しました。「
強制認知」とも言われます。

 親の死後になされる認知を「死後認知」と言います。訴訟では、原告に主張・立証責任が課せられるのが原則です。

 母親が子を代理して訴える場面では、かつて、母親の「父親以外とは性的交渉がなかつた」との主張に対して、父親
側から「多数当事者の抗弁」、「不貞の抗弁」が提出されると、容易に覆されていました。

 しかし、判例
(最判昭29・1・21)はその後、内縁にも民法772条嫡出推定を類推して、子の父は内夫であると推定する
内縁懐胎
(婚中懐に準じる「縁中懐」です)を認めるようになり、事実上立証責任の転換が図られて今日に至っています。

 内縁関係がない場合の困難は残りますが、最近では、DNA鑑定が普及
一般化しているので 立証困難の早期解消が
期待できます。客観主義は一層進むことでしょう。

 認知届けの実際については、こちらをご覧下さい。

 任意認知が得られないときは 家裁での手続きとなります。
 その場合は、離婚と同じ様に 調停認知審判認知裁判認知の3通りとなります。
 「家族法関係事件の手続のあらまし」をご覧下さい。

 婚外子についての
  認知の手続き、母の夫との親子関係不存在確認調停、元夫を父としない出生届等について、裁判所のホームページ
 もご覧下さい。

 
なお、未成年者による認知についてはこちらをご覧下さい。


なお、
嫡出でない子について父から嫡出子とする出生届がされ、又は、嫡出でない子としての出生届がされた場合、
各出生届が戸籍事務管掌者により受理されたときは、その各届けは、認知届けとしての効力を有する旨の判例
(最判昭53・2・24)があります。

 この判決は、その理由として、
「けだし、右各届は子の認知を主旨とするものではないし、嫡出子でない子を嫡出子とする出生届には母の記載につ
いて事実に反するところがあり、
また嫡出でない子について父から出生届がされることは法律上予定されておらず、
父がたまたま届出たときにおいてもそれは同居者の資格において届出たとみられるにすぎないのであるが
(戸籍法52条
2、3項
参照)

認知届は、父が、戸籍事務管掌者に対し、
     
嫡出子でない子につき自己の子であることを承認し、その旨を申告する意思の表示
であるところ、右各出生届にも、父が、戸籍事務管掌者に対し、子の出生を申告することのほかに、
     
出生した子が自己の子であることを父として承認し、その旨申告する意思の表示
が含まれており、右各届が戸籍事務管掌者によつて受理された以上は、これに認知届の効力を認めて差支えない
と考えられるからである。」
と述べています。




    ならぬままけりゃ

             
我子わがこでもそのならば他人也


            
認知によりて父子ちちこ779ぞなる。





認知は、認知届けによってする
(民781条1項、戸籍法60条)か、又は、遺言によってもすることができます(781条2項)。遺言
による場合は、遺言執行者から届出をします
(戸籍法64条)




    我が子なら

      
(戸籍の法(§60§66)のっとって)届出するかさもなくば

         
 遺言いごん781条2項、戸籍§64 によるの(認知の)(方式)がある

                   
781だ、認知せえやい781



認知の訴え 
 
女性が婚姻外で子を産んだ場合に、子の父親である男性は、そのままでは未だ法的には父親と認められません。子と
法的に父子関係となるには、上記の「認知」が必要です。
 母子の側から認知を求めて 男親が任意に認知届けに応じてくれれば、それで目的を果たせますが、応じてくれない
場合は、訴えの形で
認知を求めることもできます(民法787条)
 

 子は勿論ですが、母親も子の法定代理人として訴えを起こすことができます。
 任意認知が得られないとき、手続的には家裁で、離婚と同じように 、
  調停前置主義により、まず調停委員会が入って認知調停にかけられますが、当事者間で身分関係についての合
  意ができた場合、裁判所の調査により 当事者の合意が相当と認められたときは、「合意に相当する審判」がなさ
  れ、「審判認知」で終了します。
   それらが実を結ばなかった場合、「認知の訴え」へと進んで、判決による「裁判認知」となります。
                                
(「家族法関係事件の手続のあらまし」をご覧下さい)
 
 家裁での「合意に相当する審判」制度は、調停手続きでの当事者の合意と、裁判所の調査による「相当」な結果を、
審判の形に結実させ、当事者間の機微に触れ必ずしも公開に馴染まない事柄について、公開の裁判を経ずに、による
判決と同じ効果を持たせるものです。審判認知は、そのような理由から、認知事件としては多く利用されています。


 母親が子のために訴えを提起する場合、
  子が意思能力を有するに至っているときでも、法定代理人母として訴えを提起できるとする判例
(最判昭43・8・27)
があります。

  訴えを提起することができる者としては、「子、子の直系卑属、これらの者の法定代理人」とあるので、
 孫が提起することも可能ですが、783条2項
      「
父又は母は、死亡した子でも、その直系卑属があるときに限り、認知することができる
 とあるので、孫からの訴え提起は、子の死亡後に限り可能であるとされています。

 父親の死亡後に認知の訴えを起こす場合、相手方は検察官となります
(人事訴訟法12条3項)

 親権者が法定代理人として訴えを提起する場合、身分行為については代理は馴染まないから、職務上の地位に基づく
提起だとする説もあるようですが、上記判例は法定代理とする立場です。こちらもご覧下さい。


 
なお、認知請求権を放棄することができるかという論点があり、放棄できるとする説もあるようですが、判例は、
「認知請求権は、その身分法上の権利たる性質およびこれを認めた民法の法意に照らし、放棄することができないもの
と解するのが相当である」として消極に解しています
(最判昭37・4・10)

 この訴えは、父死亡後も認められ、父死亡後は検察官を相手とする強制認知色の強いものですが、
 例えば、詐欺・強迫による婚姻について、検察官にはその取消権がないとされる理由は公益要素がないからであると
されることにも窺えるように、この認知の訴えで検察官が関与するのは公益的要素があるからであり、それは、当該子
が知らずに近親婚をする虞れを未然に防ぐことにあります。
 そうとすれば、認知請求権の放棄は公益に反するので認められないと言うべきです。


 
  

        まご(直系卑属)法定代理(人)

             父母ちちはは 生前  () 没後三年 (迄)

                父母ちは 1787 (   ) 訴えできる



保存された精子を用いて当該男性の死亡後に行われた人工生殖により女性が懐胎し出産した子の認知請求事件
で、その子と当該男性との間の親子関係を否定した判例
(最判平成1894)があります。
 
この判決は、その理由として、
 「民法の実親子に関する法制は、血縁上の親子関係を基礎において、嫡出子については出生により当然に、非嫡出子
 については認知を要件として、その親との間に法律上の親子関係を形成するものとし、この関係にある親子について
 民法の定める親子、親族等の法律関係を認めるものである。
  ところで、現在では 生殖補助医療技術を用いた人工生殖は、自然生殖の過程の一部を代替するものにとどまらず、
 およそ自然生殖では不可能な懐胎も可能とするまでになっており
死後懐胎子
はこのような人工生殖により出生した子に
 当たるところ、上記法制は、少なくとも死後懐胎子と死亡した父との間の親子関係を想定していないことは 明らかである。
 すなわち、死後懐胎子については、その父は懐胎前に死亡しているため、
   親権に関しては、父が死後懐胎子の親権者になり得る余地はなく、
   扶養等に関しては、死後懐胎子が父から監護、養育、扶養を受けることは あり得ず、
   相続に関しては、死後懐胎子は父の相続人になり得ないものである。
    また、代襲相続は、代襲相続人において被代襲者が相続すべきであったその者の被相続人の遺産の相続にあずかる制度
   であることに照らすと、代襲原因が死亡の場合には、代襲相続人が被代襲者を相続し得る立場にある者でなければならな
   いと解されるから、被代襲者である父を相続し得る立場にない死後懐胎子は、父との関係で代襲相続人にもなり得ないと
   いうべきである。
 このように、死後懐胎子と死亡した父との関係は、上記法制が定める法律上の親子関係における基本的な法律関係が生ず
 る余地のないもの
である。
  そうすると、その両者の間の法律上の親子関係の形成に関する問題は、本来的には、死亡した者の保存精子を用いる人工生
 殖に関する生命倫理、生まれてくる子の福祉、親子関係や親族関係を形成されることになる関係者の意識、更にはこれらに関
 する社会一般の考え方等多角的な観点からの検討を行った上、親子関係を認めるか否か、認めるとした場合の要件や効果を定
 める立法によって解決されるべき問題であるといわなければならず、そのような立法がない以上、死後懐胎子と死亡した父
 との間の法律上の親子関係の形成は認められないというべきである。」
と判示しています。




母子関係
 母子関係については、判例 (最判昭37・4・27)によっても、
 「
母とその非嫡出子との間の親子関係は、原則として、母の認知を俟たず、分娩の事実により当然発生する
 として、分娩・出産の事実自体により、母子関係ありと認められるとされています。

 しかし、その分娩・出産の事実がない場合は、どうなるのでしょうか。 

代理出産で出生した子とその出産のため卵子を提供した女性との間の母子関係の成立を認めなかった判例(最判平成
19・3・23
)
があります
(このような事例の場合、現行法制の下では、卵子の母にとっては、養子又は特別養子の道しか残されていないことになるので、判決が言うように速やかな対
応が強く望まれます)


 この判決は、その理由として、
 「民法には、出生した子を懐胎、出産していない女性をもってその子の母とすべき趣旨をうかがわせる規定は見当た
 らず、このような場合における法律関係を定める規定がないことは、同法制定当時そのような事態が想定されなか
 ったことによるものではあるが、
 実親子関係が公益及び子の福祉に深くかかわるものであり、一義的に明確な基準によって一律に決せられるべきであ
 ることにかんがみると、
   現行民法の解釈としては、
出生した子を懐胎し出産した女性をその子の母と解さざるを得ず
  その子を懐胎、出産していない女性との間には、その女性が卵子を提供した場合であっても、
  母子関係の成立を認めることはできない。

と述べ、さらに、
 「もっとも、女性が自己の卵子により遺伝的なつながりのある子を持ちたいという強い気持ちから、
 本件のように自己以外の女性に自己の卵子を用いた生殖補助医療により子を懐胎し出産することを依頼し、これに
 より子が出生する、いわゆる代理出産が行われていることは公知の事実になっているといえる。
  このように、現実に 代理出産という民法の想定していない事態が生じており、今後もそのような事態が 引き続き
 生じ得ることが 予想される以上、代理出産については法制度としてどう取り扱うかが改めて検討されるべき状況に
 ある。
  この問題に関しては、医学的な観点からの問題、関係者間に生ずることが予想される問題、生まれてくる子の福祉
 などの諸問題につき、遺伝的なつながりのある子を持ちたいとする真しな希望及び他の女性に出産を依頼することに
 ついての社会一般の倫理的感情を踏まえて、医療法制、親子法制の両面にわたる検討が必要になると考えられ、
 立法による速やかな対応が強く望まれる

旨付言しています。なお、こちらもご覧下さい。



認知能力 (身分行為能力) 
 
一般に、人の財産行為に関してはその人の弁識能力の有無・程度を基準として、未成年者(民法5条)後見(民法9条)
保佐
(13条)補助(17条)等の保護を必要とするか否かという、行為能力制度による制約が伴います。

   しかし、婚姻や認知のように人の身分に関する行為
(その他には、養子縁組、嫡出否認等があります)は、本人の自由な意思
に基づくことを必須の要件としますから、
財産行為における法定代理の様な「代理」には親しみません。なので、財
産行為について代理や同意によって他人が制限行為能力者を保護する
行為能力制度の制約を受けることがありません。

  従って、身分行為のための能力という点においては、行為するその時に本人に意思能力があり、又、その行為相応
の心身の成熟と理解力・判断力があれば、法律行為として当該身分行為は成立します
 (民法962条は、遺言に 行為能力規定
を適用しない旨を定めています)


 そして、その能力の有無の目安としては、自身の意思で他人の養子となることができ(民法797条1項。但し、家裁の許可
というチェックは必要
(民法798条)です)、又、自ら遺言することもできる(民法961条)とされている15歳になれば、一般的に身分
行為能力は肯定されて良いと思われます。

 ですが、婚姻年齢
(男18歳、女16歳。令和4年(2022年4月1からは男女18歳です。)の様に、法定の年齢に満たない場合は婚姻障碍
事由ありとされて婚姻できない
731、§740)とされたり、規定文言から当然の反対解釈でそれに満たない者には能力
が否定される遺言
961)等の場合は、その年齢以上であることが必要要件となります。


  それ以外の例えば認知等の場合は
15歳は単なる目安であって当該の者が15歳未満であってもその身分行為
 に関し
その身分行為相応の観察力思考力判断力が備わっていることが認められれば当該身分行為の能力あり
 とすることができます。ここで、例とした認知については、身体的成長が前提であり、付随する法効果も重大であ
 ることを考えれば、むしろ年齢的に高くなる身分行為ですが、これを面会交流について見ればどうでしょうか。

  面会交流は、むしろ幼ければ幼いほど本人の希望は強い筈です。そして、面会交流は、児童の権利条約9条3項に
 照らしても、子の権利であることは明白なのですから、幼いことを理由として子の面会交流権を否定することは許
 されません。子が生まれて初めて自覚する自身の権利として面会交流権を認め、
子の面会交流申立権を正面から具
 体手的に公認する法制度があってしかるべきです。 そして、制度化が未だしであっても、面会交流実務の中でこれ
 が実践されるべきです。面会交流権は、実践の中でそのようにして、確実なものとしていかなければなりません。

  身分行為能力は、財産的な利害の弁識能力とは異なるので、たとえその人が後見人の後見を受ける
成年被後見人
 あっても、行為時にその身分行為についての能力があれば、後見人の同意を要せずに、行為することができます。

  民法は、
738条で、まず婚姻について、被後見人であっても後見の保護を要しない旨を定め、
     この738条を、続く離婚
(764条)、縁組(799条)、離縁(812条)についても準用しています。

     成年被後見人の遺言については、弁識能力存在の担保として医師の立会い等の要件を付しています(§973)
     また、
認知については、780条
      「
認知をするには(子の)父又は母が未成年者又は
              成年被後見人であるときであっても、
                    その法定代理人の同意を要しない

      と、
未成年者(5条)も含めた形で別個に規定しています。

  未成年者については、その婚姻
737)・離婚753)・縁組(§792§797、§798)・離縁(§811§811の2§815)に関し、
  上記各成年被後見規定とは別に、保護的ないし制度的観点からの規定を置いています。
         (縁組・離縁に関する797条811条が、上記のように 15歳を基準の年齢としています)

 なお、このような未成年者、被後見人等の身分行為に関する訴訟での訴訟能力について、
こちらもご覧下さい。

 子の認知能力と法定代理人の訴訟代理権との関係について
 「未成年の子の法定代理人は、子に意思能力がある場合でも、子を代理して、認知の訴を提起することができる。」
 と
するこちらの判例も参照ください。なお、遺言能力については、こちらをご覧下さい。





意思能力 
  意思能力とは、人が自身で行為するについて、その動機と結果、或いは、その行為の性質を認識し、自分の判断で
行為することを決定できる能力のことです。
 一般的に、人は、学齢に達すれば意思能力を備えるに至ると言われていますが、もちろん、個人差がありますし、
同じ人であっても、状況により能力の高低があり得ます。
 人が、重い精神病者であるとか、酩酊が酷い場合や失神しているときの行為であれば、その行為は意思能力が伴な
っていないとされ、無効となります。

 「意思能力」は、これ迄 当然の前提とされて 民法には規定がなく、これを欠く事例の都度論じられる程度でした。
  しかし、社会の高齢化に伴い振込詐欺等高齢者を狙った悪質事案が横行する等して、明文の必要が論じられていま
した。そこで、平成29年成立の民法
(債権法)改正法による大改正に伴い、
民法3条の2

法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。
が置かれ明文化されました。

  合わせて、この無効行為による原状回復についても、民法121条の2が置かれて、現に利益を得る限度での回復が
原則である旨定められました。

  身分行為の能力は、この意思能力が基準となるとされます。
 因みに、身分行為である養子縁組(797条
)、及び、(遺言で子を認知するという身分行為も含みます)遺言(961条) については、
 15歳未満の者はなすことができない旨が定められています


 
ですから、なす行為の種類によっても備えるべき意思能力のレベルは異なると言え、
この様に個人差、行為差ごとにその都度の判断を要することとなる煩瑣と不効率・不安定を排するために、財産行為
については、行為能力の制度が考えられました。
  行為能力については、こちらをご覧下さい。


  

   はみな、本来962 芽生えたら

            婚姻 731737738縁組797認知780 (嫡出)否認778

                                己
れでめる
代理はきかぬ

     身分(行為)のありようは、一人承認不要
                                
                               自己
するところ
(に従って) 行為ができる、

     財産(行為)ならば、適用さるべき未成年(§5)後見(§9)保佐(§13)補助(§17)

                                                                  
適用はなし (行為能力不要) 

            本人意思能力があればよいこれが (身分行為についての)極意いいな 君!





   未成年被後見()でもはできる780

                           961遺言能力 十五歳
     意思正気せれば(意思能力があれば)
                                他人(ひと)養子らなれて
        
962 その気 芽生えれば
                                  苦労一961もしたかも



 
認知遺言いごんその()むに962

     代理
なじまず
()(理人 同意 るをしない

            §962は、遺言能力に関し行為能力を不要とする規定




成人子胎児・亡子の認知
 成年の子は、子の承諾がなければ、認知することができません(民法782条)又、母親が妊娠中の胎児も認知対象とな
り得ますが、その母親の承諾なくしては認知できません
(783条1項)。亡くなった子でも、認知することが可能ですが、
それは、その子に 直系卑属があるときに限られ、その直系卑属が 成人であれば、その承諾を得なければなりません
(783条2項)


   立派782った成人 

       
 認知世話に
782なる!」

         
ムシがよすぎてされぬ

          子自身
承諾なければ認知不可


                     7を
形の類似から「り」と読む。



     ケースせば783783 胎児 認知 なら

          ① 胎児承諾(を)

         なら(直系卑属)あるときられて

         成年そん
ならその承諾なくば認知不可



認知の効力
 民法784条は、
  「
認知は、出生の時にさかのぼってその効力を生ずる。
     ただし、第三者が既に取得した権利を害することはできない。

と定めます。
 したがって、認知されたことにより、亡くなった父親の相続人となるということが起こり得ます。
その際、同条の但書によって、既に相続人らが遺産の分割を終わってしまっていた場合、
 その相続人らの取得分を害し得ないとすると、今度は被認知者が取得分を失って、不利益を被ります。
そこで、民法は910条
 「
相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、 
   他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払の請求権を有する。

という手当をしています。

 先順位の相続人がいないということで、後順位の相続人らが遺産分割を終えてしまっていた場合ついては、
どうすべきか 規定はないのですが、
 同順位の場合について910条のような価額のみによってではあれ、取得を認める規定を設けているからには、
  被認知者が先順位であれば、当然に先順位の被認知者が優先するから、従って、後順位者の相続は否定さるべき
が当然であると言われています。その場合も、やはり、「価額のみ」清算 となります。
 本来、後順位者であって、相続に与れない立場であった者たちでなので、一旦取得したものを 実質 失うこととなる
のも仕方ないことと思われます。
 従って、被認知者の相続場面では、この784条但書は全く適用がないことになり、又、この但書が他に適用される
場面は殆ど考えられないと言われています。なお、認知関連でこちらもご覧下さい。




   認知 出生時まで

    
     その世話
784養育費 、

        死後
認知
 相続、  

        
せわし784てくるが第三者をば



   (死後或いは遺言)認知され

          となれて既分割

          苦闘 910結果(受け容れ)やむなき

       価額のみ (という制限を受け)

        お宝分けをむは

          苦汁 910飲まさる’うべきか




認知取消し禁止

 
認知によって一旦父子関係(或いは母子関係)を認めた者は、その認知を取り消すことができません(民法785条)

民法785条には
 「
認知をした父又は母は、その認知を取り消すことができない
とありますから、当然、
(強制認知のケースではなく) 任意認知をした親のことになりますが、その親には取消権がないとい
うことです。

 この取消権を、行為の効力が発する前にその効力を失わせる「撤回権」と解する説もあるようですが、民法は、家
族法中で、婚姻・離婚・縁組・離縁等において「取消し」規定を置いていますから、認知だけそれらと異なる意味に
用いていると解するのは不自然です。
 まして、遺言では、以前「取消し」とあったのを、「撤回」と改正しています(1022条を平成16年に改正)から、認知で
も撤回と解すべきなら、その際に改められていた筈です。

  これら他の取消しの内、創設的身分行為である婚姻、縁組では、婚姻障碍のように公序良俗に照らし是正を要する
故の取消しに、詐欺・強迫による取消しが加わわって、「取消」原因とされています。

  認知においても「取消し」の同じスキーム上で、あえて
(認知) 取消禁止規定(785条)が置かれているのですから、
成年子や胎児・亡子の認知要件とされている承認の欠缺や詐欺・強迫等の瑕疵等を理由とするものであっても、認知
取消請求はできない、と定められていることになります。

  この点は、次の条文786条
 「子その他の利害関係人は、認知に対して反対の事実を主張することができる。
として、真実に反する認知であれば、たとえ認知者本人からでも認知無効の訴えが許される
(この点は、次に述べる様に判例
が認めています)
とされていることにも照応します。
 つまり、
  
騙され、或いは脅されて認知した、或いは、認知に必要な「承認」を欠いていた、からといって、
   一旦 認知によって 親子関係を認めた上は、
認知をした父(又は母)は、それが真実に反するものでない限り、
   その認知を取り消すことができない

 というのが785条の法意であると言えます。

  ことに、婚姻障碍の一つである近親婚を防ぐという観点からは、認知における血縁の明確化は公序良俗にも関わる
ので、成人・胎児・亡子の認知に要するとされる承認がなかったからといって、或いは、騙され、脅されてしたからと
いって、その認知の取消しを許すことはできないというのが民法の採る立場ではないでしょうか。

認知の取消し請求

  すると、ここで注意すべきは、認知に必要な「承認」をしていないのに、父親に認知をされた胎児の母親 或いは
成年子
(782条783条)の存在です。
 これらの者は、785条で認知取消 禁止の対象者とはされていないので、反対解釈により、「認知の取消し請求」が
可能であることとなります。

  これは、786条の「認知無効の訴え」とは異なり、認知の真偽を問わず、重大な利害があるのに、自らの承認も得
ない侭 なされた「認知の取消し」を求めるものです。
  民法には、この取消し請求を定める明文はありませんが、当然想定されてしかるべき請求です。人事訴訟法2条2号
が「認知の訴え、認知の無効及び取消しの訴え」として挙げる内の「取消しの訴え」は、認知の取消し請求を意味し
ていると解すべきです。

 


 人生若気わかげナンパ後785


  認知であっても(ナンパ結果の子である事が)事実なら

   たとえ認知〔脅〕された(詐欺・強迫)結果からとて取消せぬ



 立派782った成年子せば783ケース(児と)(き) 

     
認知承諾 いても認知取消せぬ


    
§782は成年子の認知、§783は胎児又は死亡した子の認知に関する規定



認知無効の訴え任意認知に対する反対事実の主張
 民法786条

 「
子その他の利害関係人は、認知に対して反対の事実を主張することができる。
と定めます。
 これにより、任意になされた認知が真実に反している場合、
 認知によって養育費等の扶養義務を負い、或いは相続権を失う等の不利益を被る者は、認知無効の訴えを起こすこと
ができます
(民法786条、人事訴訟法2条2号) (その前に調停を経なければなりませんが)

  認知無効の訴えについては、その判決によってはじめて無効という法効果が創設的に生じるとする形成無効とする
説もありますが、前述した認知取消しの禁止理由である公序良俗の観点からは、当然無効として、他から何らかの主
張をされた場合の先決問題としても、 認知無効を主張できると言うべきです。

  また、認知をした父親本人が、事実に反した認知であったことを理由として、この訴えの原告となり得るかという
問題がありますが、公序に反し当然無効とすれば、認知者本人を含め誰からでも主張ができるとすべきです。その旨
判示した下記判例があります。

  しかし、対外的に無効の主張をすることができても、戸籍には 認知の記載が残りますから、これをその侭にして置
くことはできません。
  従って、「戸籍の訂正」 ( 戸籍の記載が、不適法又は真実に反するとき、真正な身分関係に一致させるよう是正すること) を要するこ
ととなります。その手続きについてこちらをご覧下さい。

認知者は、民法786条に規定する利害関係人に当たり、自らした認知の無効を主張することができ、この理は、認知
者が血縁上の父子関係がないことを知りながら認知をした場合においても異ならない旨判示した判例
(最判平26・1・14)
 この判決は、その理由を
  「血縁上の父子関係がないにもかかわらずされた認知は無効というべきであるところ、
  認知者が認知をするに至る事情は様々であり、自らの意思で認知したことを重視して認知者自身による無効の主張
  を一切許さないと解することは相当でな い。

    また、血縁上の父子関係がないにもかかわらずされた認知については、利害関係人による無効の主張が認めら
  れる以上
(民法786条、認知を受けた子の保護の観点からみても、あえて認知者自身による無効の主張を一律に制
  限すべき理由に乏しく、具体的な事案に応じてその必要がある場合には、権利濫用の法理などによりこの主張を
  制限することも可能である。

    そして、認知者が、当該認知の効力について強い利害関係を有することは明らかであるし、認知者による血縁
  上の父子関係がないことを理由とする認知の無効の主張が民法785条によって制限されると解することもできな
  い。

    そうすると、認知者は、民法786条に規定する利害関係人に当たり、自らした認知の無効を主張することがで
  きるというべきである。この理は、認知者が血縁上の父子関係がないことを知りながら認知をした場合において
  も異なるところはない。」
 と述べています。



  認知(相続権やら扶養義務) 不利益こうむ関係人

        
はた又その
本人反対事実ナパーム786

             
って
(認知)無効 できる




相続開始後の認知と遺産分割
 父親が遺言で認知する 、又は、死後の訴えにより、 死後認知となるときは、相続の問題にもなり得ますが、他に相
続人がいる共同相続で既に遺産分割が終わっている場合、価額のみの支払請求となるとの定めがあります
(民法910条)
( →被認知者の価額支払請求)
こちらもご覧下さい。


   
(死後或いは遺言)認知され継ぐ身となれて

       既分割 苦闘 
910結果(受け容れ)はやむなきも

         
価額のみ 
(という制限を受け)宝分けをむは

                 ‘
苦渋 910まさる’うべきか



認知後の子の監護
 
非嫡出子である未成年の子を、父親が我が子として認知すると、父母の協議により父を親権者と定めたときに限り、
父が親権を行うと民法819条4項は定めますので、その旨の協議が調わない限り、母が親権を行うことになります。
 同時に、認知後の子の監護についても、父母の協議によって、面会交流・養育費も含め、子の利益を最優先にして、
定めなければなりません
(民法788条による766条の準用)この766条については、こちらをご覧下さい。



 認知
したなら その父母ちは788

   子供
世話焼
788 ろう(揺り籠の意) 766 (監護面会養育費) 

     
      ()()優先()めねばない

       できぬなら
家裁調停
(調停不成立なら)い で審判



準 正 

  ここで婚中懐(胎)
(§772)、養子縁組(§809)と並び、子が嫡出子となる3大要因である準正について述べます。
 非嫡の子の認知の後に父母が婚姻の届出をし、或は 父母の婚姻後に父母から認知の届出があると、その届けだけ
 で、子は嫡出子となります。
  前者が
婚姻準正(民法789条1項)父が認知した子は、その父母の婚姻によって嫡出子の身分を取得する。
  後者が
認知準正(民法789条2項)婚姻中父母が認知した子は、その認知の時から、嫡出子の身分を取得する。
 と呼ばれます。

  準正は、要するに、
  ①分娩事実により母親の子とされている非嫡出子ないし内縁子について、
  ②認知により父子の間柄が加わり、さらに
  ③父母の婚姻事実
 が重なれば、子は嫡出子となるというもので、②③の順のものが婚姻準正、③②の順のものが認知準正です。

  婚姻準正の場合、条文上当然ではないものの、父母が婚姻した時に準正の効果が生じ、子は嫡出子となります。
  しかし、認知準正の場合は、最後に認知が加わわり、
  その認知には、本来出生時までの遡及効があります
(784条)から、
  789条2項の文言「その認知の時から、嫡出子の身分を取得する。」は妥当ではなく、
 認知準正の場合も遡及をして、婚姻準正と同じく婚姻時から嫡出子となると解すべきとされ、戸籍実務もその様な
 扱いをしています。

  なお、
(昔、慣習として存在した「足入れ婚」がその例ですが ) 内縁中に懐胎し、婚姻後 (200日以内で) 出産した子は、出生と
 同時に当然嫡出子の身分を有するとされて、嫡出子の戸籍記載が行われますが、戸籍実務上、推定されない嫡出子
 と呼ばれることは前述のとおりです。

  また、戸籍法62条は、認知準正によって

 「(
民法第789条2項の規定によつて)嫡出子となるべき者について、
    父母が嫡出子出生の届出をしたときは、その届出は、認知の届出の効力を有する。

 としますので、認知届ではない嫡出子出生届であっても認知準正により婚姻時からの嫡出子とされます。

 結局、
非嫡出子ないし内縁子の父母が婚姻し、
 その子の出生につき婚姻前後を出生日とする嫡出子出生届がなされれば、婚姻時からの嫡出子となります。

 
 婚姻前の出生であれば、「準正」による嫡出子、
  婚姻後
(200日以内)の出生であれば、「推定されない」嫡出子
 ということです。もちろん、婚姻後200日を超えての出生であれば嫡出推定による嫡出子です
(§772)



 
772なる(200を超えて300内)婚中懐 ()にはあらねども
 
  
       
にん(知)婚姻

      
 ② こん父母ちは(が)認知したならば


 
 いず子供父母ちは こん
789(婚姻した父母の子)

    婚中懐
なぞ

   
届け (①は婚姻届、②は認知届)でれば準正 (による) 嫡出


   準正可能婚姻準正、②のそれは認知準正

 
      
各準正はこう789んでける


婚姻障碍 
 法が、婚姻を禁じている次の四つの事由で、婚姻届けを妨げるハードルとなるもの、それが婚姻障碍です。
   ① 婚姻年齢731)に達しない者による婚姻 (「不適齢婚」)
   
重婚732)
    
③ 再婚禁止期間(「待婚期間」と言います)(§733)違反の再婚(「禁期婚」と言います)
   ④
直系血族又は三親等内の傍系血族間の婚姻734)、直系姻族間の婚姻735)
    養子
その直系卑属(これらの配偶者)と養親その直系尊属との婚姻736)(以上をまとめて「近親婚」)

 なお、2021年2月9日 嫡出推定・再婚禁止期間関係の重要な報道がありました。こちらをご覧下さい。
  法改正が行われれば、再婚禁止期間の規定は廃止され、したがって、婚姻障碍・婚姻取消しも、禁期婚によるもの
 は、なくなります。  

 婚姻届けは、婚姻障碍がないことが確認されないと受理して貰えません(民法740条)
 障碍事由の有無が審査され、障害事由がないことの確認を経てはじめて受理されることになります
          
(もっとも、実質的な調査はなく、形式的審査にとどまりますから左程時間はかかりません)

 
この婚姻障碍 (不適齢重婚禁期近親婚
) を伴う婚姻は、
  各当事者、その親族又は検察官から
婚姻取消しを請求することができます。
  但し、検察官は当事者の一方が死亡した後は、請求することができません。

 又、重婚と禁期婚の場合は、当事者の配偶者又は前配偶者からも取消しを請求することができます
744)(人訴2条1号) 

 同様に取消原因となるものとして、上記の四つの他
詐欺・強迫による婚姻747)があります。
  これについては、公益的原因ではないとして、検察官は取消権を認められていませんし、
  当事者の取消権も、詐欺を発見し、若しくは強迫を免れた後3か月を経過し、又は追認をしたときは、消滅します。

 公益的要素がある上記四つの場合の内、
  禁期婚については、後記のような取消権消滅の定め
(§746)
  不適齢婚についても後記のような同消滅と追認の定め
(§745)があります。

 婚姻取消請求は、認められている期間内に提起すれば、その期間内に手続きが完了しなくともよいとされています。

 婚姻取消しの効力
についてこちらを、取消しに伴う対処事項、取消しの手続き等についてこちらをご覧下さい。

 なお、禁期私見をご覧下さい。


   不適齢731732禁期733近親(§734736) 

     殺生744かもでもけぬ、

  
  当事者
親族 (親等不問)検察官(から)

    (家裁に取消)
 請求あれば(婚姻は) ナシとす744


     検察官(は)当事者一方死亡 


     死後
取消請求
なしよ744 

    禁期
 (については)(偶者)前配(偶者) (取消) 請求 



    「シとす」は、44を「四十四」としての読み




    たりしたりして

       ぶか婚姻なすな747、バカあるぞ

 

    婚姻ナヨナ747なしな747

       されてまたされてしたのなら

   
    詐欺わか強迫のがれて三月みつき

       
めてやまるのに
8062

       
三月経過(自らする)追認  (取消)  請求できんこととなる


      806条の2は、縁組時、配偶者が詐欺・強迫により同意した場合の取消しに関する規定

婚姻取消し

 
婚姻の届出について、民法740条は、
 「
婚姻の届出は、
   その婚姻が第七百三十一条から第七百三十七条まで及び
        前条第二項の規定その他の法令の規定に違反しないことを認めた後でなければ、
  受理することができない。

 として、731条から736条までに定められた婚姻障碍 (
不適齢(731)重婚(732)禁期(733)近親婚 (734から736))
の無いことのほか、
     未成年者の婚姻に父母の同意
(737条)が有ること
     証人の要件
(739条2項)が具わっていること
     その他 法令の定めに違反していないか、
   を確かめた後でなければ、婚姻届けを
受理できない旨を定めます。

 なお、2021年2月9日 嫡出推定・再婚禁止期間関係の重要な報道がありました。こちらをご覧下さい。
  法改正が行われれば、再婚禁止期間の規定は廃止され、したがって、婚姻障碍・婚姻取消しも、禁期婚によるも
 のは、なくなります。


 さらに、744条1項本文は、
  「
第七百三十一条から第七百三十六条までの規定に違反した婚姻は、
   各当事者、その親族又は検察官から、その取消しを家庭裁判所に請求することができる。

 として、上記四つの障碍事由をクリアしない婚姻については、
婚姻取消し請求が待つ旨を定めます。

 つまり、 婚姻の取消しは、後記の調停によるか「合意に相当する審判」による場合 以外は、
  必ず訴えによらなければなりません。
  その判決の確定を踏まえ 取消権者から戸籍上の届出をすることになります
(戸籍法75条63条)

 取消原因となるものして、この他に詐欺・強迫による婚姻747)があり、
 743条は、
 「
婚姻は、744条から747条までの規定によらなければ、取り消すことができない。
 としています
745、§746は取消権消滅等の規定です)ので、
  
婚姻取消請求は、婚姻障碍と詐欺・強迫を理由とする限定された場合にのみ許されます
  
父母の同意のない未成年婚は、あとから婚姻取消対象とすることができません
   父母の同意は、婚姻要件なのですが、婚姻取消しをもたらす婚姻障碍ではありません。

 婚姻取消しの効力については、
   取消しに伴う利益返還 
   〔:婚姻に取消原因のあることを知っていた当事者は、
得た利益の全部
                  知らなかったときは 
現存利益の限度で返還します〕
                    
(知っていたときは 更に)損害賠償の規定(民法748条)  がある他は、
 
離婚規定(民法728Ⅰ766769 790819Ⅱ、Ⅲ、Ⅴ、Ⅵ)準用されます(民法749条)
   離婚規定の準用によって婚姻取消しに伴うこととなる出来事を列挙すると、
    復氏・婚氏続称
767)親権者指定819)子の監護者・監護費用等766)財産分与768)
    祭祀承継769)姻族関係終了
728)離婚後に出生した子の氏790Ⅰ)となります。
                       各事項につき 下線クリックでご確認下さい。

 婚姻取消請求は、人事訴訟手続法2条1号事件ですが、家事事件手続法244条257条
(調停前置主義の原則)により、
    まず
調停に付され、
    次いで、家事事件手続法272条3項により
訴訟へ、と離婚同様の手続きとなります。
     
但し、調停において、当事者間に合意が成立し、裁判所により相当と認められると、同法277条により、
    
合意に相当する審判がなされて終えることもできます。
                                       (→
家族法関係事件の手続のあらまし)
婚姻取消しの効力については次項もご覧下さい。家裁での手続きについてはこちらをご覧下さい。



 
  
には
728縁切(姻族終了)


 
      
名務して
767復氏・婚氏続称

       ろう766子の監護事項

      親権以降819どちらか親権〔真剣〕俳句819



   子
くれ
790の氏)、姓婿せいむこ769 769難問768


             祭祀承継
財産分与
 婚取消
準用

        
      準用 多岐わたる故 なしくずし749にも解決すべし

        

名務「して」は、7の西語「シエテ」、伊語「セッテ」から (それぞれの条句の元句については、「離婚の効果」をご覧下さい。) 




婚姻取消しの効力

 
婚姻取消しによる効果を、一般法律行為の取消し(民法121条)同様に遡及効のあるものとすると、嫡出子が非嫡出子
となる等の不都合や法律関係の煩雑・困難な事態が生じます。
  そこで、民法748条1項は、
  「
婚姻の取消しは、将来に向かってのみその効力を生ずる。
と定め、婚姻の取消効は、一般の取消しとは異なり「将来に向かってのみ」生じることを明示しました
(民法748条1項)

  その結果、取り消された当該婚姻は、その時までは有効であったことになるので、
  日常家事債務の連帯や子の嫡出身分もその侭 維持されることになります。

 その上で、婚姻の取消しには、離婚規定
(民法728Ⅰ766769 790Ⅰ819Ⅱ、Ⅲ、Ⅴ、Ⅵ)が準用され(749条)
  これにより婚姻解消後の事後処理が行われます。

 749条による離婚規定の準用により、婚姻取消しに伴って処理されるべき事を列挙すると、
  
    復氏・婚氏続称767)
    親権者指定
819)
    子の監護者・監護費用等
766)
    財産分与
768)
    祭祀承継769)
    姻族関係終了
728)
    離婚後に出生した子の氏
790Ⅰ)

  となります。下線クリックでご確認下さい。

  そして、これらとは別に、その婚姻により双方間に生じた財産の得喪関係については、
 これをそのまま維持するのは妥当でないため、
不当利得の原則(民法703条704条)に準じて、
 婚姻によって取得した財産は、婚姻時、婚姻取消しの原因があることを
   ① 
知らなかった(善意の)当事者には、現に利益を受けている限度において返還させ(748条2項)
   ② 
知っていた(悪意の)当事者には、 得た利益の全部を返還させ、合わせて
     相手方 善意のときは相手方の被った損害の賠償もすべきであると定められています(748条3項)。  



  
婚姻取消効
将来かってのみ


          遡及
ナシ 748
  
   
日常家事債(務の)連帯(責任) (子の)嫡出身分もそのまま

               済
案外なよや
748


   されど(取消)原因らぬ (善意) 


        利得 があれば(なお)(ざん)703 (現存利益)返還すべきも
      

 
(取消原因あることにつき
)悪意なら全利()返還すべき

             (なお)(よ)704善意相手には損害賠償すべき





重 婚
 重婚は、婚姻中の者が重ねて婚姻することを言います。
  既婚者が、配偶者でない者と婚姻届けをすることなく二重の夫婦生活をすることは、重婚にはあたりません。
  
婚姻届という社会的承認を二重に受けた場合を言いますから、
   戸籍事務の審査
(民法740条、戸籍法27条の227条の3、但し、戸籍官吏に実質的審査権はなく形式審査に止まります)
    
をすり抜ける困難に照し、故意にする重婚は希にしか起こらないことです。

  従って、故意による重婚であれば、「終生的互敬貞操結合」という婚姻の本質に真っ向から背くことで、
   刑法上の犯罪
 (刑法184条)となります(後婚の相手方も同様に罰せられます)

  しかし、民事的には、故意・過失、善意・悪意の別を問わず、
   結果として重婚となった場合、いずれもその外形上普通に営まれた社会生活の事実は重んじる必要があります。
 なので、
  重婚に対しては、無効ではなく、取消可能な婚姻として臨み、その
(取消しの)効力を遡及させず(§748Ⅰ)に対処する
  ことになります
(婚姻取消しの効力についてこちらもご覧下さい)。

  重婚の取消しは、近親婚等他の婚姻障碍事由と共に、公益的見地からの取消しとなるので、当事者、親族の他、
 検察官にも取消権が認められています。

  従来、重婚の例としては、
   失踪宣告
によって配偶者が死亡したとみなされ
(民法31条)て、再婚したが、
   その後 生還による失踪宣告の取消し
(民法32条)があったため、重婚となってしまった場合
  が取り上げられてきました。
  しかし、この場合は、
   
その取消しは、失踪の宣告後 その取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさない
  とする民法32条によって後婚が存続を許されます。
  したがって、失踪宣告を受けた者が、それにも拘わらず 生きているとは
   知らずに、 善意で再婚した、失踪者の配偶者については、論理的に前婚は復活しないとせざるを得ません。
   知っていながら再婚した、つまり悪意であれば、勿論 重婚による婚姻取消しで対処すべきです。
    その場合は前婚が復活します。
    
(後婚が悪意によるならば、勿論、前婚についても離婚原因あり となって、離婚の結果を見る可能性が大となります。)

 重婚は、上記のとおり当事者、その配偶者、親族、検察官等から取消請求ができます。
 しかし、重婚での後婚が離婚によって解消した後の取消請求は、
(原則として)できないとする判例があります。


 
婚姻による配偶者が存在するのに、他の者といわゆる内縁の夫婦生活をすることを重婚「的」内縁と言います。
 これをした者は、配偶者に対する貞操義務違反、同居・協力・扶助義務違反となり、また、
 その違反者と共に夫婦生活をする内縁者も、配偶者に対する不法行為責任を問われることになります。

  しかし、重婚的内縁である場合も、その配偶者との婚姻関係が事実上破綻して形骸化している場合は、
 これらの責任を問われる余地はありません。
 この場合は、むしろ、内縁者の権利保護の方に注目しなければならないこととなります。


 
破綻婚当事者が他の異性と内縁で暮らした後に亡くなった場合の、遺された内縁者の遺族年金の受給権に関して、
  配偶者からの遺族年金の受給請求を退けた判例 (最判58・4・14)
  この判決は、その理由を
  「配偶者の概念は、必ずしも民法上の配偶者の概念と同一のものとみなければならないものではなく、
  
戸籍上届出のある配偶者であっても、その婚姻関係が実態を失って形骸化し、かつ、その状態が固定化して
  近い将来解消される見込みのないとき、即ち、
事実上の離婚状態にある場合には、もはや右遺族給付を受ける
  べき配偶者に該当しない

  と述べています。

 そして、上記のような重婚的内縁ではありませんが、
  内縁者からの、遺族年金の受給請求を認めた判例
(最判平19・3・8、これは近親婚の事例でもありました →判文)、
  内夫の死亡退職金の受給請求を認めた判例
(最判55・11・27、これは支給規程上の「配偶者」に内縁も含まれていた事例) 
 等があります。

  内縁者の相続についてこちらもご覧下さい。




   
人生航路難航時752同居・協力・扶助により妹背いもせならば
           
            
732夫婦生活つは出来重婚禁止


近親婚
 民法734条は、
  「
直系血族又は三親等内の傍系血族の間では、婚姻をすることができない。
    ただし、養子と養方の傍系血族との間では、この限りでない。
   2 第八百十七条の九の規定により親族関係が終了した後も、前項と同様とする。

として、所謂 近親婚
(直血三傍血 婚)を禁止しています。
しかし、例外として許される「養子と養方傍系血族」の婚姻としては、いわゆる婿養子があります。
    とすれば、その対置としての「嫁養子」もあり得る訳です。

 同条2項に置かれた817条の9は、特別養子縁組による実方親族との親族関係終了の規定で、つまり、
 734条2項は、特別養子縁組成立後も、実方近親との婚姻の禁止が維持される旨の定めです。

 この他、734条の法意の延長として、
 直系姻族間
(735条)(直姻 婚)、養親子間又は養尊・養卑(配偶者を含む)(736条)(養尊養卑 婚) の各 禁婚規定があります。

 ここでは、これらをまとめて、
近親婚と呼ぶこととします。

 734条
直血三傍血 婚の禁止については、反倫理性と優生学的理由が規制根拠とされます。
 しかし、同条2項の
特別養子については、
  戸籍記載の工夫により一般には実方親族関係が判明し難いのに、禁婚が 親族関係終了
(817条の9)後も続くこと
  によって、同 婚姻禁止は、主として優生学上の理由によるものであることが窺えます。

 他方、血縁ではない
直姻 婚と養尊養卑 婚の禁止は、それぞれ、
  姻族関係・縁組関係が終了した後も禁止されることで明らかな様に、反倫理性のみを規制の根拠としています。

 
傍系血族間の婚姻は、三親等内が禁止となりますから、伯父伯母・甥姪間は禁じられますが、
           四親等である従兄弟・従姉妹間は婚姻することができます。

 
姻族間は、直系間での婚姻(直姻婚)が禁じられますが、傍系間なら婚姻(傍姻 婚)できますから、
  昔よく見られた、妻が亡くなり 妻の姉妹から後妻に入る「順縁婚」、
          夫が亡くなりその兄弟が代わりに夫となる「逆縁婚」も可能です。
  順・逆 は、男系血統主義の表現で、「家」制度を思わせ、今は 相応しくないですが、法的には問題ありません。

 
養子は、養親の嫡出子(§809)となり、血族同様の親族(§727)ですから、
  養親等の養方直系血族との禁婚
(734条)、養方直系姻族との禁婚(735条)は、
   それ自体、特に法条を設ける必要はないのですが、
   離縁による親族関係の終了
(§729)があるので、736条を置いて、離縁後も禁じる定めとしています。


 
上記の様な規制対象である三親等傍系血族婚についてですが、
 前記遺族年金の受給を認めた判例(最判平19・3・8
)は、同禁婚関係について、判文で下記の様に述べています。

厚生年金保険の被保険者であった叔父と内縁関係にあった姪が
  厚生年金保険法に基づき遺族厚生年金の支給を受けることのできる配偶者に当たるとされた事例
(最判平19・3・8)

 この判決は、その理由として

厚生年金保険の被保険者であった叔父と姪との内縁関係が、叔父と先妻との子の養育を主たる動機として形成され、
当初から反倫理的、反社会的な側面を有していたものとはいい難く、親戚間では抵抗感なく承認され、地域社会等に
おいても公然と受容れられ、叔父の死亡まで約42年間にわたり円満かつ安定的に継続したなど判示の事情の下では、

近親者間における婚姻を禁止すべき公益的要請よりも
遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与するという厚生年金保険
法の目的を優先させるべき特段の事情が認められ
、上記姪は同法に基づき遺族厚生年金の支給を受けることのできる
配偶者に当たる。

 
と述べています。


以下は、民法734条736条、近親間の婚姻禁止の条句です。

 
     ()()(親等)()()禁婚間

         
婚姻なんぞしたならば、
名指734 なるも、

        
養方姉妹あねいもと兄弟あにおとと〕なら他家なみよ734

                  婚姻ありてもしゅうない


       特別養子
排血
817の9 親族終えても禁婚



    子一度ひとたび舅姑となったならば

      子夫婦
離婚よめ婿むこ 

           
にもなぞ
735間柄()()

                   婚ならじ



     姻族関係終了意思をば表示728 或は又

     
  特別養子

        実姻
()親族終了した8179とき(実親が再婚した相手)

             
同じく直姻
(族間)婚ならじ



      離婚
(或いは)()() 表示後も

           特別養子
実姻()親族終了した8179とき

          親
なぞ735間柄ゆえ

        
 離散後735()()ならじ
                      「7」を形の類似から「り」と読む


    養親(又はその直系尊属)

     養子
(又はその配偶者、養子の直系卑属又はその配偶者)

           
離縁後婚姻なさる
736禁忌也



     養親子離縁したならなさろう736

           お
いなしは浅慮

        
養子並びに その直卑それぞれの連合いも

             (いずれも)()()とは禁婚



未成年者の婚姻

 未成年者の婚姻は、男18歳、女16歳という婚姻適齢731)に達した後であっても、父母の同意を要します(737条1項)
しかし、この要同意原則とその例外がやや微妙に絡み合い、多少気抜けする結果が待つことになります。
つまり、未成年の人が結婚するには、民法737条1項により両親の同意を要しますが、
   同条2項は、一方が不同意であっても、「
他の一方の同意だけで足りる」と、例外を置いて緩和しています。
   父母の一方が「知れないとき」、「死亡したとき」、又は「その意思を表示することができないとき」も同様
とされます。

 そして、民法740条は、
   この737条を含む婚姻の諸要件や証人要件、その他法令の定めに違反しないことを認めた後でなければ
  婚姻届けを
受理することができない、
 としています。
 ですから、ここまでは、他の要件違反と同扱いで、役所の戸籍係での不受理扱いに直面する訳です。

 しかし、この後、民法744条は、
   
不適齢重婚禁期近親婚 四つの婚姻要件をクリアしない婚姻については、婚姻 取消請求
 ができる旨を定めますが、ここには親の同意に関する737条は含まれていないのです。
 しかも、743条は、
  「
婚姻は744条から747条までの規定によらなければ、取り消すことができない。
 としていますが、この744条から747条までの4箇条にも親の同意の関係する規定は存在しません。
 因みに4箇条とは次のとおりです。

  
744条:不適法な婚姻の取消し
  745条:不適齢者の婚姻の取消し
  746条:再婚禁止期間内にした婚姻の取消し
  747条:詐欺又は強迫による婚姻の取消し

 したがって、戸籍係が未成年者の婚姻届けに父母の同意の記載がないことを見落として受理してしまうと、

 父母の同意のない未成年婚は、あとからは婚姻取消しの対象とならない
、ということになります。
 未成年婚に要する父母の同意は、婚姻要件なのですが、婚姻取消しをもたらす婚姻障碍ではありません。

 大上段に振りかぶった原則が尻すぼみになるような、何か腑に落ちないものが残りますね。
 なお、不適齢婚による取消権の消滅についてはこちらを、婚姻取消しの効力についてはこちらをご覧下さい。
 また、上記のことは、平成30年の民法改正により以下のように大きく変わります。

 平成30年6月20日に
成年年齢・婚姻年齢に関する民法改正法が公布され、令和4(2022)4月1日から施行されます。
 これにより、約140年間続いた20歳 成人の成年年齢制度が、18歳を成人とすることに大きく変わります
(民法4条)
 又、戦後 昭和22年に、それ迄より男女で各1歳引き上げられて、男18歳、女16歳とされて以来、70年以上続いた
 婚姻年齢も、男女共 成年年齢と同じ18歳
(731条「婚姻は、十八歳にならなければ、することができない。」)となります

 平成30年の民法改正により、未成年者の婚姻の可能性が消滅します。したがって、
  未成年者の婚姻による成年擬制はなくなり
(民法753条は削除)
  未成年者の婚姻に伴う「父母の同意」も想定され得ない、無用のものとなります
(民法737条は削除)

 この父母の同意を要するとする制度は、
     戦前は、男性30歳、女性は25歳になるまでその家の戸主と父母の同意が必要とされていました。
 それが、戦後、原則として未成年者については、父母の同意を必要とし、
      但し、父母の一方が不同意である場合、他方の同意で足りるとの例外を置き、
  また、 この要同意の定めに違反する婚姻届けは役所の戸籍係から受理を拒まれる旨を定め、
  しかし、誤って受理されると、他の婚姻要件違反の場合とは異なり、婚姻取消しにはならない
 等、経過自体は婚姻の自由を重んじ、同意権が後退する流れにあったものの、規制がやや曖昧で怪訝なものでした。
 それが、この度の改正により、
 婚姻に対する父母の同意規制が、成年擬制と共に撤廃されて、「成年・婚姻、あい共に 男女一律18歳」、
 そして、年齢的な規制として残るのは不適齢婚による婚姻障碍だけというスッキリした形になりました。

 こうして、憲法24条
  「
両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有する
 と明示する婚姻における自由と平等がさらに一歩 前進することとなります。


 
なお、若年層を悪環境から保護するためとして、飲酒、喫煙、公営ギャンブル等の禁止年齢は20歳までが維持され、
 又、他人様の子に親権を行使する養親の責任の重さに照らし、養親の資格年齢についても20歳が維持されます。




 令和4年(2022年)4月1日からは無効となる条句です。

  未成年、親
同意をせぬ
()は、御法度だからなさんな737

   然れども片親同意するのなら


     無駄
不同意なさんな
737片親同意りる

      御法度けの受理難所740あり(受理を拒まれる)


      されど、
難所
740 すり抜けりゃ

        
謎な
737こぼし(婚姻の)取消しはなし




不適齢婚が取消不可となる場合
 民法745条は、
 「第七百三十一条の規定に違反した婚姻は不適齢者が適齢に達したときはその取消しを請求することができない。


 2 不適齢者は適齢に達した後なお三箇月間はその婚姻の取消しを請求することができる。
    ただし
適齢に達した後に追認をしたときはこの限りでない。
 と定めています。

 731条は婚姻年齢の規定ですから、745条によって、不適齢婚者は 適齢に達した後は、婚姻を取り消すことができま
せん。
 但し、本人は、適齢に達した後も3か月間、自ら追認する場合は別として、取消請求が可能です
(民法745条)
 つまり、本人が、適齢に達する直前に、やはりその婚姻を取り消したいと考えた場合、
適齢に達する と同時に取消権が消滅したのでは 間に合わないので、適齢後3か月間の猶予を置くということです。
 その間に、適齢に達した本人がその婚姻を追認すれば、取消権は消滅します。
 婚姻取消しは、この3か月の期間内に請求すればよく、その期間内に手続きが完了しなくともよいとされています。



   
  
足りないさい731(は)

              
適齢に せし745 には取り消せぬ



       
足りない本人

         達
 
せし 
745三月間みつきかん(自らする)

                   追認
なくば取消し




禁期婚が取消不可となる場合
 ところで、民法733条は、前述のとおりその1項で、離婚した女性の離婚後100日までの再婚を禁じますが、
 その2項は「前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。」として、

  「一 女が前婚の解消又は取消しの時に懐胎していなかった場合

 二 女が前婚の解消又は取消しの後に出産した場合



を挙げます。つまり、再婚禁止は、
離婚する時点で妊娠していない場合 と、
                
妊娠していても離婚後 百日経たない内に出産していた場合は、
          再婚禁止期間内でも、解禁となります
(§733Ⅱ)

             ★
これらの事実については、それを証明する医師の証明書の提出が必要です(平成28年6月3日法務省通達)。


 そのため、
禁期婚は、離婚時に妊娠していたのに、そして、離婚後百日以内にその児を産んでいない侭に、
           再婚に踏み切った場合に限られる
こととなります。

              

 この場合、離婚後百日目の日より何日早く、手前で再婚したかにより、
      その日数分が(離婚後三百日目から手前にその日数の期間)
(前婚・後婚の)両夫の推定の重なる期間となります。

 そうして、離婚後百日が経過したものは、とにもかくにも禁止期間を過ぎて、後は、
  産まれるであろう児について
(右の推定重複期間中の出産であれば)父を定める訴え(773条)によって推定の重複を解消すれ
  ば足ります。なので、むしろ、婚姻事実が重んじられて、禁止期間経過後は、婚姻取消しはできなくなります。
  又、後記の法務省通達
(平成19・5・7)により、期間的には推定が重複する場合でも、医師の証明により「重複」が
  回避できるケースがあります。





  前婚了後
三百()後婚(こうこん)って二百()()

       その
出産(前後)両婚婚中懐(推定) (両夫父可能(かの))
             (なん)知産(ちざん)773「父める家裁父定



  又、妊娠中であった児が、離婚後 百日経過前に産まれれば、その産子は前婚子と推定すべきことが明白なので、
  右の百日経過を待つことなく、その時点から、この場合も婚姻は取消しできないこととなります
(§746)



(前婚離婚時に妊娠していたのに再婚に踏み切り、禁止期間内に婚姻届けが誤って受理された§733違反の)

    
禁期再婚妊胎が、前婚了後百日

      
 (出)なく経過

(し、生じ得る父性推定の重複を解決☆すれば良いだけなので、その婚姻は取り消せないこととする)、

     ある(離婚時に妊娠していた子を百日内で産んで)

         
経過する (に出)あれば
        
(産子は、前婚子と推定すべきこと明白なので、父難知リスクは解消し、

     出産したその日から)
禁婚せしむ746意味なき(故)

               その再婚は 
せぬ



説明部分を取り払うと次の様になります。
結局、禁期婚或はその取消しという事態は、離婚後百日間で、父難知のリスクが現在する間だけに、起こ得ることになります。




   禁期再婚、妊胎が、前婚了後の百日を、

   
(出)なく経過経過する
(に出)あれば


          
禁婚せしむ746意味なき

               
その再婚せぬ



平成19年5月7日の法務省通達により、再婚後に生まれた子の出生届について、
前婚の離婚後300日以内に生まれた子であっても、医師の「
懐胎時期に関する証明書」が添付され、
その証明書の記載から、
 
推定される懐胎の時期の最も早い日が離婚日より後の日である 
と認められる場合には、離婚後に懐胎したと認められ、民法772条推定が及ばないものとして、
母の嫡出でない子又は
後婚の夫を父とする嫡出子出生届 出が可能となりました。 

 

         


嫡出否認の訴え(774条)
        ( 2021年2月9日 嫡出推定・再婚禁止期間の関係の重要な報道がありました。こちらをご覧下さい。)

  
婚姻中の夫婦間の子
は、嫡出子としての出生届をします。 
  
届出人が婚姻中であれば、民法772条の「嫡出推定」により当然 夫婦間の子、「嫡出子」として、受理されます。

 したがって、法によって夫婦の嫡出子としての推定を受ける子について、
   夫からその子が嫡出子であることを否認するためには、法の認めた方法「嫡出否認の訴え」による他はなく、
   それ以外には後述の例外的な事情のある場合に認められる親子関係不存在確認の訴えが残されているだけです。

 この
嫡出を推定される期間中に、妻が他男との間で儲けた子について、
   夫に、
推定を覆すべく 認められた唯一の手段が、嫡出否認の訴えです(民法774条778条人訴§2)

 これは夫が
子の出生を知ってから一年以内(777条)に、
    
夫からのみ提起できる訴え(774条)で、
    当該の子若しくはその母親を被告として訴えることになります。

 母親がいない場合は、家裁が選任した特別代理人を被告とします
(775条)

 これらの条件を満たさない訴えは後掲判例の場合のように厳格に退けられます。

 なお、嫡出否認の訴えを提起した場合であっても、
     その対象となる子については、出生届けをしなければなりません(戸籍法53条)
(→出生届)

 また、夫が死亡した場合について、人事訴訟法41条は、
 「
夫が子の出生前に死亡したとき又は
 民法
第七百七十七条に定める期間内に嫡出否認の訴えを提起しないで 死亡したときは、
  その子のために相続権を害される者その他夫の三親等内の血族は、嫡出否認の訴えを提起することができる。
  この場合においては、夫の死亡の日から一年以内にその訴えを提起しなければならない。

とし、同条2項は、
 「
夫が嫡出否認の訴えを提起した後に死亡した場合には、
 前項の規定により嫡出否認の訴えを提起することができる者は、
 夫の死亡の日から六月以内に訴訟手続を受け継ぐことができる。
  この場合においては、民事訴訟法
第百二十四条第一項後段(相続人等の受継申立権者による受継)の規定は、適用しない。
と定めます。

 なお、(母)、
子からの否認について、こちらもご覧下さい。

 この「訴え」の裁判所での手続きは
人事訴訟法2条2号事件として、家裁の管轄となり、
 「家族法関係事件手続きのあらまし」に述べましたように、調停→
合意に相当する審判(家事事件手続法277条)→訴訟、
 の順を踏むことになります。

 なので、実際に争訟となることは左程 多くないと言われます。
 そうしますと、調停当事者間に合意が成立し、審判官が合意を相当であると判断すると、
 「合意に相当する審判」がなされ、これに対する異議申立てもなく、確定すると判決と同じ効力を持ちます
                                                    (家事事件手続法281条)


家事事件手続法の277条を転載します。


(合意に相当する審判の対象及び要件)
第二百七十七条 人事に関する訴え離婚及び離縁訴えを除く。)を提起することができるについての家事調停手続において、次の
に掲げる要件のいずれにも該当する場合には、家庭裁判所は、必要な事実を調査した上、第一合意を正当と認めるときは、当該
合意に相当する審判以下「合意に相当する審判」という。)をすることができる。ただし、当該に係る身分関係の当事者の一方が死亡
した後は、この限りでない。
一 当事者間に申立て趣旨のとおりの審判を受けることについて合意成立していること。
二 当事者の双方が申立てに係る無効若しくは取消し原因又は身分関係の形成若しくは存否の原因について争わないこと。
2 第一合意は、第二百五十八第一において準用する第五十四第一及び第二百七十第一規定する方によっ
ては、成立させることができない。
3 第一の家事調停手続調停委員会で行われている場合において、合意に相当する審判をするときは、家庭裁判所は、その調停
委員
会を組織する家事調停委員意見を聴かなければならない。
4 第二百七十二第一項から第三項までの規定は、家庭裁判所が第一第一規定による合意を正当と認めない場合について準
用する。


 ですから、この形によれば、嫡出否認の出訴権者が夫だけに限られる等、嫡出否認に課せられた厳格な制約の中でも、
 夫、妻、子の三者間における合意の成立によって妻、子側の希望する解決に至ることがあり得ます。




   (妻を)寝取られしコキ 結果婚中懐772(の)

         
「このなし774
(言っ)

           
から
(のみ) 嫡出 否認 (の訴え)ができる也

    

  「嫡出 ウチ子「父誤(ちちご) 775、我774

    嫡出否認
訴えその、親権持

       被告としてのみできる

  
(親権を行う)(が)いなければ裁判所 選任による((



嫡出否認の出訴期間
 
民法777条は、
  「
嫡出否認の訴えは、夫が子の出生を知った時から一年以内に提起しなければならない。

 と定めます。夫からの嫡出否認をいつまでも可能とすることは、
  相手方となる母子の身分関係と生活を不安定ならしめ、家庭の破壊に繋がりかねませんから、
  出訴期間は短期間に限るとの趣旨からの「一年」間限定です。
   しかし、知らぬ間に経過と言うのは、夫に酷ですから、
   夫が「子の出生を知った時から」ということになります。

 また、その「知った」については、「自分の子ではないと知った」時と解すべし、との説もありますが、
 拡大解釈は制度の趣旨を覆しかねませんので、条文通りに厳格に解するほかないと思います。

 夫が被後見人であるときの出訴期間は、後見開始審判が取り消された後、子の出生を知った時から一年となります。

                                                
(778条)
 事実状態 継続を尊重して権利関係を認める時効期間ではないので、時効の完成猶予・更新
(民法147条)はありません。
 しかし、中断事由に承認
(民法152条1項)があるのと似て、「嫡出の承認」により嫡出否認権は失われます(民法776条)

 776条には、
  「
夫は、子の出生後において、その嫡出であることを承認したときは、その否認権を失う。
 とあるだけですので、
 具体的にどのような行為があれば、この「承認」になるのか、些か不明な点がありますが、
 明治時代の判例によれば、単に父親からの嫡出子出生の届出があったのみでは足りないとされ

     (但し、同届出により認知を認める判例もあることから、嫡出承認効も肯定できるとする説があります)

 また、一般に、命名をしたり、子の養育に熱心に参加しただけでも足りないとされています。




  
  ナナな
777んと !吾子あこ筈ない子妻が産み

          
(知って) 
一年 経てば否認さえ

                
 許されぬ のか、
(身分関係)
 安定のため。




        但し、
筈ない子夫が長期海外(出張)みな 777 がそう言う(出)産ならば、

              
(親子関係)不存在確認訴えできる也。


   


    婚中懐 (胎により)みにし776めるぞ 

       
嫡出の承認すればその(嫡出否認の)権利失以後否認 不可

               
出生届愛育(嫡出)承認とはならぬ


嫡出否認方途の厳格限定 (判例)
  夫と妻との婚姻関係が終了してその家庭が崩壊しているとの事情が存在することの一事をもって、
        夫が、民法772条により嫡出の推定を受ける子に対して、
     親子関係不存在確認の訴えを提起することは許されないとした判例
(最判平7・10・25)

 この判決は、
  原審が

    「
民法上嫡出の推定を受ける子に対し、父がその嫡出性を否定するためには、
      同法の規定にのっとり嫡出否認の訴えによることを原則とするが、
    嫡出推定及び嫡出否認の制度の基盤である家族共同体の実体が既に失われ、身分関係の安定も有名無実となっ
    た場合には、
     同法777条所定の期間が経過した後においても、
     父は、父子間の自然的血縁関係の存在に疑問を抱くべき事実を知った後相当の期間内であれば、
     例外的に親子関係不存在確認の訴えを提起することができるものと解するのが相当である。

  として、父親から嫡出否認の出訴期間徒過後に提起された親子関係不存在確認の訴えを適法としたのに対し、
  上記のように判示して同訴えを不適法とし、原審を破棄しました。その理由として
   「
民法772条により嫡出の推定を受ける子につき夫がその嫡出であることを否認するためには、専ら嫡出否認の
    訴えによるべきものとし、かつ、右訴えにつき一年の出訴期間を定めたことは、
      
身分関係の法的安定を保持する上から十分な合理性を 有するものということができる。

    
そして、 夫と妻との婚姻関係が終了してその家庭が崩壊しているとの事情があっても、
      
子の 身分関係の法的安定を保持する必要が当然になくなるものではないから、
    
右の事情 が存在することの一事をもって、嫡出否認の訴えを提起し得る期間の経過後に、
    親子関係不存在確認の訴えをもって夫と子との間の父子関係の存否を争うことはでき ないものと解するのが
    相当である。

  と判示しています。




 妻が婚姻中に懐胎した嫡出推定の及ぶ子について、その子の側から、嫡出認の訴えの
出訴期間を徒過した後に、
 親子関係不存在確認の訴えをもって親子関係の存否を争うことは、DNA鑑定により子が夫の子でないことが科学的
 に明白であっても、できないとする判例があります。

夫と民法772条により嫡出の推定を受ける子 との間に生物学上の父子関係が認められないことが 科学的証拠によ
り明らかであり、かつ、夫と妻が既に離婚して別居し、子が親権者である妻の下で監護されているという事情があって
も、
嫡出であることを否認するためには、夫からの嫡出否認の訴えによるべきであるから、子の立場から親子関係不存
在確認の訴えをもって父子関係の存否を争うことはできない旨判示した判例
(最判平26・7・17)

 
この判決は、その理由として、
 「民法772条により嫡出の推定を受ける子につき
  その
嫡出であることを否認するためには、夫からの嫡出否認の訴えによるべきものとし、かつ、
  同訴えにつき
1年の出訴期間を定めたことは、
  
身分関係の法的安定を保持する上から合理性を有するものということができる
   (最判昭55年3月27日最判平12年3月14日参照)


  そして、夫と子との間に生物学上の父子関係が認められないことが科学的証拠により明らかであり、かつ、
  夫と妻が既に離婚して別居し、子が親権者である妻の下で監護されている
という事情があっても、
  
子の身分関係の法的安定を保持する必要が当然になくなるものではないから、
  
上記の事情が存在するからといって、同条による嫡出の推定が及ばなくなるものとはいえず
  親子関係不存在確認の訴えをもって当該 父子関係の存否を争うことはできないものと解するのが相当である。

  このように解すると、法律上の父子関係が生物学上の父子関係と一致しない場合が生ずることになるが、
  同条及び774条から778条までの規定はこのような不一致が生ずることをも容認しているものと解される。

  もっとも、民法772条2項所定の期間内に妻が出産した子について、

   妻がその子を懐胎すべき時期に、既に夫婦が事実上の離婚をして夫婦の実態が失われ、又は
   遠隔地に居住して、夫婦間に性的関係を持つ機会がなかったことが明らかであるなどの事情が存在する場合に
   は、上記子は実質的には同条の推定を受けない嫡出子に当たるということができるから、同法774条以下の規定
   にかかわらず、
親子関係不存在確認の訴えをもって夫と上記子との間の父子関係の存否を争うことができる
  と解するのが相当である
最判昭44年5月29 日最判平10年8月31日、前掲最高裁 平成12年3月14日参照)
  
しかしながら、本件においては、甲 が被上告人を懐胎した時期に上記のような事情があったとは認められず、
  他に本件訴えの適法性を肯定すべき事情も認められない。」
と判示しました。



母子からの嫡出否認(私見)
 
 上記の判例或いは学説によって、嫡出否認の訴えが父親にだけ許され、出訴期間も限られる理由として説かれて
 いるのは、「
子の身分関係の法的安定性」がその最大のものです。
  しかし、嫡出推定は単に父性を推定するだけでなく、嫡性の推定をも伴うことを考えると、これは果たして文面
 通り受け取れるものか疑問が浮かびます。

  父性を否認するだけならそんなに厳格に拒絶せず、子の為に真の親子関係を確定することの方が長い目で子の福祉
 に叶うことは明らかなように思います。
  児童の権利条約第7条には
  「
児童は、出生の時から氏名を有する権利及び国籍を取得する権利を有するものとし、また、
       できる限りその父母を知りかつその父母によって養育される権利を有する。

  とあります 。自らのルーツを知ることは、自身のアイデンティティを確立する上で 必須のことで、正に基本的
 人権に属する事柄です。

 その他に、夫の名誉を尊重して、他から妻の姦通を指摘させない趣旨であるとも言われますが、
 そこにはやはり、旧来の嫡性を守りたい意識が垣間見え、戦前から社会の底流に牢固として流れる「家」とか「家
 柄」の意識と、これに基づく「家名を傷つけない」或は「跡継ぎを得たい」との、子の福祉とはかけ離れた意図が
 隠れているように思われます。

 772条から778条まで砦を築くように条文が並ぶ景観は、婚姻が嫡出推定と強く結びついていることを示唆し、
  したがって、
  父性を確実なものとすることが婚姻制度の根幹であるとは思うものの、
  「嫡出」という家紋旗をはためかせ、頑なに男性優位の旗印を守っているようにも感じます。
 少子時代となって、児童の福祉が社会的にも第一義的な取組課題となっている現今、「嫡出推定」制の下、
  父親だけが婚子の父性を否認できるとする判例・学説は見直しが迫られていると思いますが、如何でしょうか。

  因みに、上記昭和55年最判昭55年3月27日
)、平成12年(最判平12年3月14日)の判例は、いずれも夫が否認する手立
 ては嫡出否認の訴えがあるのみ、とするだけで、妻や子からの否認には触れていませんし、
 昭和44年
(最判昭44年5月29 日)、平成10年(最判平10年8月31日)の判例も、嫡出推定を受けない子、或は推定の及ばない
 子については父親側から親子関係不存在確認の訴えによることができる旨を説いているだけです。

 民法774条には、
  「
第七七二条の場合において、夫は、子が嫡出であることを否認することができる。
  とだけあります。
   懐胎を伴わない父親は、子の父親が誰か、疑えばきりがないので、それを断ち切って「終生的互敬貞操結合」の
  相方を信じるよう嫡出推定
(§772)を与え、ただ、
  推定であるから、反証を挙げての否認
(§774§775)を許すが、それも時的制限を置かないときりがないから一年間
  とする、というのが嫡出否認制度の趣旨であろうと思います。

   これは、「夫」が騒ぐことについて制約を課しただけの規定であって、それはそれで母子の安静な保育環境を確
  保する観点から不可欠なことだとは思いますが、妻や子自身がその身の立場から主張することについては、この
  条文は触れていませんし、上記条文の砦はすべて父親に対して構えられているのです。
  因みに、母と子の関係は、分娩と出産によって自ずから定まるのであって、「嫡出」に拘る必要はないのです。
                                                           (→母子関係)
  何故、772条の「推定」制の下、法が課す 推定 に対し、これを覆す資格を、子や母には認めないのでしょうか。
 嫡出推定の後に、それを覆す夫による否認規定が設けられているのは、それ以外の否認を許さない趣旨であると従
 来当然視されてきたことを、立ち止まって見直す必要はないのでしょうか。

  家族以外からの指摘ではなく、当事者自身からの求めであるのに、何故「否」なのでしょうか。
 民法774条に、この平成26年の判例が言うような 妻・子の人権をかけた主張を封じる効力を担わせる事には無理
 があるのではないでしょうか。法による 推定 に対しては、当事者からの否認を認めるべきが当然で、それを拒む
 のは基本的人権の侵害のほかの何ものでもありません。

  ちなみに、非嫡の子については、父親からの認知が得られない場合、「子、その直系卑属又はこれらの者の法定
 代理人」から、認知の訴え を起こして、強制認知を得る途があり
(787条)、更に、父親のなした認知が事実に反する
 場合には、「子その他の利害関係人」は、認知無効の訴えを起こすこともできます
(786条)。嫡出推定についても、
 認知と同様、子や母親に権利主体たるの地位を認め、当然の事理として、嫡出推定を覆す権利を与えるべきです。
  子、母親に嫡出否認権を拒むことは男親との間に不合理な差別を設けることであり、男性優位主義の悪しき陋習
 と言うだけでなく、男女の平等と基本的人権を侵害する憲法違反であると言うほかはありません。

 2021年2月9日 この関係の重要な報道がありました。こちらをご覧下さい。
引用の報道記事では嫡出否認の出訴
権者を父親に限定している点の見直しについて触れていませんが、見直す旨の他の報道もありましたので、期待した
いと思います。

   後記の「同氏協議に代わる母子氏」でも申しましたが、時代の進展と共に従来のバラダイムから離れ、子の福祉
 と母子中心の考え方に向かうことが求められています。




 」なら 嫡出 否認 (の訴え)なるも

     
実父子供本人
(「嫡出 」(扱い) を)

              
める ちなし
774なし774


嫡出否認の訴えを母や子にも認める法改正が行われました。
 令和4年12月16日 法律第102号として公布され、令和6年4月1日から施行されます。
 嫡出否認の訴えに関する民法774条は次のようになりました。
「① 第七百七十二条の規定により子の父が定められる場合において、
父又は子は、子が嫡出であることを否認することができる
 ② 前項の規定によるこの否認権は、親権を行う母、親権を行う養親又は未成年後見人が、子のために行使することができる。
 ③ 第一項に規定する場合において、
母は、子が嫡出であることを否認することができる。ただし、その否認権の行使が子の利益を害することが明らかなときは、この限りでない。
 ④ 第七百七十二条第三項の規定により子の父が定められる場合において、この懐胎の時から出生の時までの間母と婚姻していた者であって、子の父以外のもの(以下「前夫」という。)は、子が嫡出であることを否認することができる。ただし、その否認権の行使が子の利益を害することが明らかなときは、この限りでない。
 ⑤ 前項の規定による否認権を行使し、第七百七十二条第四項の規定により読み替えられた同条第三項の規定により新たに子の父と定められた者は、第一項の規定にかかわらず、子が自らの嫡出であることを否認することができない。」




親子関係不存在確認の訴え
例えば ① 婚姻中ではあったが前記の「200日」に満たぬ出産で、嫡出の推定されない子のケース
(最判昭41・2・15)
であったり、
   ② 夫が
(海外出張や出征、受刑等により)長期不在中の懐胎で嫡出推定の及ばない子のケース(最判平10・8・31)の場合、
 親子関係不存在確認の訴えが提起できます。

 この訴えは、嫡出否認の訴えが、出訴権者や出訴期間の制約から厳格に限定される関係で、
 その制約を回避する手段として選択されることがあります。この間の事情について、こちらの判例もご覧下さい。
 親子関係不存在確認の訴えには出訴権者出訴期間の制限はありません。 
  但し、親子関係がない旨を訴えることが権利の濫用にあたる場合は許されないとする次の判例があります。

      家裁での調停についてこちらをご覧下さい。家裁での手続き全般についてはこちらをご覧下さい。


戸籍上自己の嫡出子として記載されている者との間の実親子関係について不存在確認請求をすることが
 権利の濫用に当たらないとした原審の判断に違法があるとされた事例
(最判平18・7・7)

 
この判決のポイントは、次のとおりです。

一 実親子関係不存在確認訴訟は、
   実親子関係という基本的親族関係の存否について関係者間に紛争がある場合に対世的効力を有する判決を以て
  画一的確定を図り、これにより実親子関係を公証する戸籍記載の正確性を確保する機能を有するものであるから
  真実の実親子関係と戸籍の記載が異なる場合には、実親子関係が存在しないことの確認を求めることができる
  のが原則である。

  
しかしながら、
   上記 戸籍記載の正確性の要請等が例外を認めないものではないことは、
   民法が一定の場合に戸籍の記載を真実の実親子関係と合致させることについて制限を設けていること
   などから明らかである。
 (776条嫡出の承認、777条嫡出否認の訴えの出訴期間、782条成年子の認知783条胎児又は死亡子の認知、785条認知の取消しの禁止)

二 真実の親子関係と異なる出生の届出に基づき戸籍上甲の嫡出子として記載されている乙が、
   甲との間で長期間にわたり実の親子と同様に生活し、
   関係者もこれを前提として社会生活上の関係を形成してきた場合において、
  実親子関係が存在しないことを判決で確定するときは、
   乙に軽視し得ない精神的苦痛、経済的不利益を強いることになるばかりか、
   関係者間に形成された社会的秩序が一挙に破壊されることにもなりかねない。

三 また、虚偽の出生の届出がされることについて乙には何ら帰責事由がないのに対し、
 そのような届出を自ら行い、又はこれを容認した甲が、当該届出から極めて長期間が経過した後になり、
 戸籍の記載が真実と異なる旨主張することは、当事者間の公平に著しく反する
行為といえる。

 そこで、甲がその戸籍上の子である乙との間の実親子関係の存在しないことの確認を求めている場合においては、
① 甲乙間に実の親子と同様の生活の実体があった期間の長さ、
② 判決をもって実親子関係の不存在を確定することにより乙及びその関係者の受ける 精神的苦痛、経済的不利益
③ 甲が実親子関係の不存在確認請求をするに至った経緯及び請求をする動機、目的
④ 実親子関係が存在しないことが確定されないとした場合に甲以外に著しい不利益を受ける者の有無

等の諸般の事情を考慮し、

 実親子関係の不存在を確定することが著しく不当な結果をもたらすものといえるときには、
 当該確認請求は
権利の乱用 (民法§1Ⅲ憲法12条後段)に当たり許されないものというべきである。

上記の事情を十分検討することなく、甲が乙との間の実親子関係不存在確認請求をすることが権利の濫用に当たら
ないとした原審の判断には、違法がある。




親 権
 親子関係が生じると、親は子との間には
 監護教育
(民法820条)居所指定(821条)懲戒(822条)(業の)許可(823条)財産管理・法律行為代理(824条)等、
親権(818条)の下に、権(利)(務)関係が生じます。
  これは、親子間で相互に生じる扶養や相続の権利義務に比べより原初的・根源的な権利義務であり、
子は産まれ落ちるやこれらの広範な内容を有する親権に服することになります。

  私流に言いますと、子は、夫婦の終生的互敬貞操結合によって
融合創一の意志の下に生まれ、
それ故に、夫婦と子の三者の間
は、「融合装一」の嫡出推定
(民法772条)が働く強い絆で結ばれます。
その絆を絆たらしめる機能を担うのが親権だと言えます。
親権の行使に当たっては、融合創一によって、子に対し、
夫婦互いの間と同様、無償の愛をもって臨むことになります。
 
そもそも融合創一は、子に関わる「創」でしたから、実際上子に対しては、全く見返りを求めない、
真の意味の「無償の愛」である筈です。

  身を犠牲にしてでも子を愛すというあり様は、昔の言葉「愛は惜しみなく奪う」で表されています。
「しみじみとかわいい」を古語では「かなし」と言うそうですが、子への愛は、
親の我を超えた
(我欲から発する感情や衝動とは無縁の)ところの、悲しくなる程にいとおしい思いであろうと思います。


  不幸にして婚姻によらずに出生した子であっても、母のこのような親権の下で母子の絆が保たれます。
しかし、このことを直接に定める規定はありません。母の氏を称するという「氏」規定790条2項はありますが、
親権規定としては、819条4項がこの点を前提とした、協議で父を親権者としたときに限り父が親権を行うとの規定
から、出生以来 母の親権下にあることが解釈できます。
この母子の絆こそが全ての出発点であることは、同氏協議に代わる母子氏の項で述べましたので、ご覧下さい。
 
(なお、親権行使にあたっての悩み事の相談については、こちらも参考にして下さい。)

 
、大家族制の下では、絶対的な家父長の権利義務である戸主権が子に及んで、親権の影は薄く、又、
その中にあっても母親のそれは、さらに薄くて、父親に次ぐ二次的なものとされ、
その上親族会の監督下にあるというような、何重もの差別がありました。
子も強大な家父長権の下、年齢に関わりなく独立の生計を立てる迄 家父長権
 ( 「家」を同じくする親の親権 ) に服し、結婚
するにも例えば男は30歳、女は25歳まで家父長
 ( この場合、「家」にある父母 及び戸主) の同意を要するという具合でした。
戦後の改革により「家」制度が廃止されると共に 男女の平等が実現されて、今日の父母共同親権
(民法818条3項)制と
なりました。

 親権の各条文の中でも
監護教育(820条)財産管理法律行為の代理(824条)は、親権の中身の二本柱となります。
前者はいわゆる
身上監護の関係で、821条~823条が、その具体的内容である 居所懲戒職の許可を定めます。
「しつけ」を例に挙げて、監護と教育は一体で 分かち難いとも言われ、ときに、「監護」の一語で代表されます。
 したがって、親権は大きく「監護権」と「
(理権)(理)」とから成ると言えます。

  管理代理関係では
代理について 代表 という文言が使われています。これは赤の他人が代理するのではない、
身上監護や財産管理も含めた包括的な親権を有する親が代理するのである、という意味を込めた文言であろうと思い
ます。
 法人については、その機関が代表として行う行為は法律行為だけでなく事実行為も含め すべて法人の行為とされる
と同じ様に、親権者の子に関する行為はそのまま 子の行為とされる訳です。

 通常 財産管理と言うと対象財産の保存から利用・改良
(103条)までが権限の限界とされ、財産の処分はできません(→
財産管理人の権限)
。しかし、「代表」である親権者(824条)後見人(859条)は、被保護者の財産の「処分」についても、
原則 権限を有します。

  このように広範な権限を含む親権ですが、身上監護の関係では、
民法820条が、それまで、とかく親の支配を許容する定めのように誤解されていた点を改めるべく、
平成23年に「子の利益のために」という文言が加えられたことに特に留意されなければなりません。

            なお、未成年後見における身上監護についてはこちらをご覧下さい。




    〔親権者による子の
身上監護 §820823 まとめ〕

                 
やつれ820ても監護教育義務あり

                     
これに822あうべし懲戒権。 


   
         子(居所) 指定された821義務があり


                            
     ( )ハヅミ823出来ぬから、親の許可をばねばない


 
ところで、この監護権ですが、上述のように民法820条は、
  「
親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。
として、「監護」と「教育」とを分けて掲げています。
 監護は、監督と保護であり、教育は教え育成することであると言われますが、
子を護り、その身の回りの世話をするには、必ずそれに伴い必要な教えや諭しが伴いますから、
実際の子育ての場面では監護と教育は切り離せません。
いわゆる「しつけ教育」も監護教育の一環と言えます。
 また、監護「権」といっても、上記条文にあるとおり、親権におけるそれは当然の如く義務を伴うものです。
ですので、「監護権」というときは、監護・教育に関する権利・義務であると考えるべきことになります。

 この義務の内、いわゆる監督義務が前面に出る場合があり、子の行為による第三者の被害結果が出たときは、
親の監督責任」が問われることになります。

 子を伴う離婚や子の認知の場面では、上記の親権が原則通りには共同行使
818Ⅲ)できないため、
父母の内一人を親権者とする訳ですが、その者が必ずしも監護者として相応しいか、というところから、
他方を監護権者として、その者が監護・教育に携わるという監護権の分属が起こり得ます。
なお、離婚後の親権についてこちらもご覧下さい。

  また、この監護権と対置する、財産管理・法律行為の代理
(§824)も、
これらは身分行為を含まない財産行為に関する管理・代理なので、これを単に「財産管理」とし、
上記親権の二本柱を、「財産管理と身上監護」と言うこともあります。

  因みに、子の身分行為については、例えば、未成年子が子を儲けた場合は民法780条があるので、
子自身で認知ができ、また、未成年者の婚姻については親の同意に関する規定
(民法737条)があり、
養氏縁組には 子が15歳以上であれば子自身で、15歳未満の場合は 法定代理人の代諾で 縁組ができるとする規定
(民法
797条)
がある等それぞれ個別に必要な同意権や代理権等が用意され自己決定と保護のバランスが図られています。
 
こちらをご覧下さい。

  離婚に当たっては、子について、夫婦のいずれが離婚後の親権を持つかを決めねばならず、
協議離婚では夫婦の合意で、裁判離婚では裁判所が、離婚後の親権者を指定します
(民法819条)
離婚後の親権についてこちらもご覧下さい。

  民法には、協議離婚届けは この親権者の指定がないと受理されない旨の規定が置かれています
(民法765条)
離婚の際は、同時に離婚後の監護についても、監護者と監護費用、その他必要な監護事項を、面会交流の約束と共に、
子の利益最優先で定めるべきとの規定
(民766条)がこれに続きます。
 親権者を定める手続きについて、こちらもご覧下さい。




      いやしく親権者なら (利益の) 


        
監護教育やつれ
820てもする義務がある権利ある



        

      親権者820かかない人間てと、


         監護教育
をする義務がある権利ある




  
   バイト818独立すると意気込むも、判断力らぬから

        未成年者父母ちちはは親権(に)せば破綻818


   バイトや
818、独立するというけれどその判断は818父母の親権服せば破綻は818ない。



親権者の居所指定権
 親権に基づく子に対する監護教育(民法820条)は、
それに相応しい場においてなされるべきですから、親権者は、子に対してその場を提供し、指定することになります。
                                              
(民法821条)

 監護は、しかし、特別な施設等を想定している訳ではなく、通常の親子の生活における子の養育監護ですから、
通常は、普段の家族生活の場である住居が指定されることになります。

 教育については、学齢前は、通常、家庭教育が基本ですから、その場としてはやはり住居ですが、場合によっては、
学齢前から幼稚園教育等の教育課程も徐々に始まるでしょうし、学齢後は、家庭と学校でそれぞれの教育が行われて、
親権者は、それぞれ子に相応しい場を指定して、教育に努めることになります。

 子は、親権者による居所指定に従うべきですが、従わないときは、基本的には子の意思を尊重しなければなりません
(児童福祉法2条)。しかし、それが親の許容範囲外である場合、「子の利益のため」、「監護・教育に必要な範囲内で」
(この二点が必須です)次条の懲戒権を行使することができます。
この際 体罰を加えることは 許されませんが、危険から守るとき等やむを得ない場合、ある程度の有形力の行使は、
社会的妥当性の範囲内において、許されます(その範囲・限界について、次項をご覧下さい)

 しかし、例えば、子が自らの意思で、別居していた一方の親の下に行っている等の場合は、
これを強制的に引き戻すことはできません。但し、子の 別居「意思」が、
相手方の不当な心理的影響下にあることに因る場合は、子の意思に基づくとは言えません。

 なお、意思能力の無い子を引き連れて、一方の親が他方の意に反して、他所へ転居してしまった場合、
他方の親は、子の利益のため、引渡請求をすることができます。子の引渡請求についてはこちらをご覧下さい。
 子が、その意思に反して第三者に拘束されている場合は、親権者からその引渡しを請求できることは当然で、
そのときは、子の身体に対する直接強制は許されませんが、阻止する相手に対しては、
法的手段を踏んだ上での妨害排除と制圧は、法的正義 実現のための強制力としてやむを得ないところです。

子の引渡執行についてはこちらをご覧ください。




    監護教育万事 821場所るからに

       子
親権行めたる

             
821るべきの義務がある



親権者の懲戒権
 
民法822条は、
  「
親権を行う者は、第八百二十条の規定による監護及び教育に必要な範囲内でその子を懲戒することができる。
とし、その820条は、
  「
親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。
と定めます。
 懲戒とは、「不正又は不当な行為に対して制裁を加えるなどしてこらしめること」
(大辞泉)とあります。子の非行に
直面した親権者は、有する監護教育権の一環として、人として身を律することを教えるため、苦痛を与え
当該の非
行をやめさせることができます。ですから、親権者が我が子を懲戒できるのは、監護教育に必要な範囲内に限られ、
又、加える制裁は、子の利益になる限りでのものでなければなりません。不正・不当・非行等の概念は、判断が微妙
なところもありますが
親の主観的身勝手な解釈によるものでなく正当な理由からする制裁であるべきです。
 制裁として課す苦痛は
監護教育に必要な範囲内でなければならずかつ体罰であってはなりません。不正不当
な行動
非行に対応する対罰ではあっても、身体的苦痛を加える体罰であってはなりません。
 非力な児童・子に加える体罰は、教え諭す教育の途ではなく、力による人の支配であり、人の尊厳と人権を侵害す
る蛮行です。ですから、たとえ、それが親権を離れた学校・部活動・私塾・各種教室等でのことであっても、体罰は
あってはならない人権侵害です。

懲戒は、
子の利益のため、監護・教育に必要な範囲内でのみ許され、かつ、体罰は厳禁であること、これが厳守
されねばなりません。

 平成23年の民法改正で、820条に「子の利益のために」の文言が加えられました。これにより、822条による懲戒
が、820条の監護教育に「必要な範囲内で」とあることから、懲戒も子の利益に叶うものに限る旨が明定されました。
懲戒権が、子を虐待する親の口実とされる事例が目立ったため、懲戒権の乱用に歯止めをかけるべくなされた法改正
でした。

 これより前、平成12年に成立した児童虐待防止法は、保護者による児童
(18歳に満たない者)に対する、外傷を与える
暴行やわいせつ行為、或は、心身の正常な発達を妨げる様な減食や長期間の放置等はもちろん、著しい暴言又は著し
く拒絶的な対応等、児童に著しい心理的外傷を与える言動も、すべて
虐待」として禁止し、更に、一般人にも、
虐待を発見したときには通告義務
を課す規定をも設けて、虐待防止に役立てようとしました。
しかし、児童虐待の悲劇が一向に後を絶たないため、上記のような平成23年の民法改正にまで至ったものでした。

 以上の経過にも拘わらず
以後も児童虐待事件は後を絶たず虐待が しつけと称して行われることが目立った為、
平成28年には、児童虐待防止法を改正し、それまで
  「児童の親権を行う者は、児童のしつけに際して、その親権の適切な行使に配慮しなければならない」
とだけあった同法14条1項を、
  「
児童の親権を行う者は、児童のしつけに際して、
    民法第八百二十条の規定による
監護及び教育に必要な範囲を超えて当該児童を懲戒してはならず
    当該児童の親権の適切な行使に配慮しなければならない。

と上記の民法改正を受けた形で改正し、
子の利益のための監護教育に必要な範囲に限るという「しつけ」の限界
示し、しつけの限界踰越禁止と親権の適切行使義務を定めましたが、同条2項では
  「
児童の親権を行う者は、児童虐待に係る暴行罪、傷害罪その他の犯罪について、
    当該児童の親権を行う者であることを理由として、その
責めを免れることはない
と刑事犯罪にあたり得ることを警告もしているところです。

 しかしながら、児童虐待は一向に減少を見ることなく、
  惨酷極まる目黒区の結愛
(ゆあ)ちゃん事件、それに続く
  野田市の心愛
(みあ)ちゃん事件
が大きく報じられて世を戦慄せしめたにも拘わらず、その後も、ネグレクト
(育児放棄)も加わっての児童虐待が頻発する
 に及んでは、懲戒権規定に体罰禁止規定を加えるべきとの声
(その後、実際に下記の通り体罰禁止の法改正が行われました)や、
 更に懲戒権規定そのものを削除すべし、との動向が兆すのも、むべなる哉と思ってしまいます。

 なお、親権喪失児童虐待の項も参照下さい。

 また、体罰禁止については、その後 令和元年6月改正により、
(「懲戒」権規定 民法822条の改正には至りませんでしたが、)
「しつけ」の限界を明示する観点から、児童虐待防止法14条1項の「しつけに際して」の次に「体罰を加えることその
他」を加え、「必要な範囲を超える行為」による懲戒を禁止する趣旨に改められました。この改正は、令和2年4月1日
から施行されています。
この改正後の
14条1項は、結局、
  「
児童の親権を行う者は、児童のしつけに際して、
    
体罰を加えることその他民法第八百二十条の規定による監護及び教育に必要な範囲を超える行為により
    当該児童を懲戒してはならず、当該児童の親権の適切な行使に配慮しなければならない。

となりました。
こちらをご覧下さい。

 
懲戒権を述べるについては、やはり、前提となる児童の権利について見ておかなければなりません。
上記「子の利益」も全ては児童の権利から発していることを銘記すべきです。
ここに、児童福祉法の冒頭を掲載します。


 第一章 総則


第一条 全て児童は児童の権利に関する条約の精神にのっとり適切に養育されることその生活を保障されるこ
  と、愛され、保護されること、その心身の健やかな成長及び発達並びにその自立が図られることその他の福祉を
  等しく保障される権利を有する。

第二条 全て国民は、児童が良好な環境において生まれ、かつ、社会のあらゆる分野において、児童の年齢及び発達
  の程度に応じて、その意見が尊重され、その最善の利益が優先して考慮され、心身ともに健やかに育成されるよ
  う努めなければならない。

2 児童の保護者は、児童を心身ともに健やかに育成することについて第一義的責任を負う。
3 国及び地方公共団体は、児童の保護者とともに、児童を心身ともに健やかに育成する責任を負う。

第三条 前二条に規定するところは、児童の福祉を保障するための原理であり、
   この原理は、すべて児童に関する法令の施行にあたつて、常に尊重されなければならない。


    親権者つけとばかり 


     度えて
822 罰822

   懲戒
  虐待
傷害(等)

          罪着、 刑事、判事
822うべし


「親の監督責任」「監督義務者の責任」
   (未成年者や判断能力に欠ける者がなした不法行為に関する親や監督者の責任)


民法714条は、
前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務
 を負う者は
その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う
 ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき
又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったとき
 は、この限りでない。

 2 監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も、前項の責任を負う。

と定めます。

「前二条」とは、
未成年で 責任 を弁識する能力
(「不法行為能力」又は「責任能力」と言います)に欠ける者はその行為について賠償責任を負わ
ないとする712条と、
精神上の障害により同能力を欠く者は同様に責任を負わないとする713条です。

ここで「責任」とあるのは、契約違反による損害賠償責任ではなく、故意過失による権利侵害、いわゆる不法為に
よる損害の賠償責任です。
 その不法行為者が未成年であったり、後見人の付いた精神障害のある人であったりした場合、
 その本人を監督する立場の人がこの条文によって責任を追及されることになります。

 具体的には、未成年者の不法行為の場合、
  その「監護及び教育をする・・義務を負う」
(民法820条)とされる
   親権者
(及び親権を行う未成年後見人とそれらの代行者)714条1項に言う「監督する法定の義務を負う者」にあたる
   とされます(民法820条833条857条867条)
   なお、親権者の関係では、児童福祉施設の長、児童相談所長も親権を行う場合がある
(児童福祉法47条1項、2項等)
   ので、その場合、これらの長は監督義務者です。
    
なお、未成年後見の関係ではこちらを、親権代行の関係ではこちらを、後見人による親権代行の関係ではこちらを参照下さい。

 他方、精神上の障害による責任無能力者の不法行為の場合は、
  その人の配偶者や後見人が監督義務者にあたると考えられ勝ちですが、
   夫婦互いの義務に関する752条は、配偶者に対する義務であって、第三者に対する義務ではありませんから、
  ここでの監督義務にはあたりません。また、
   成年後見人も、それと思しき成年後見規定858条は、被後見人の意思の尊重と身上配慮義務を定めたもので、
  監督義務を定めたものではないので、
   結局、成人の無能力者の場合については、監督義務を課する根拠条文がありません。
   それで、これらは、下記判例が言う監督義務者に「準ずべき者」と言えるかという審査をクリアして初めて
 責任を追及されることになります。
 つまり、親権関係以外の者は、配偶者であっても、後見人であっても、いずれも直接の法定監督義務者ではなく、
 すべて監督義務者に「準ずべき者」としての該当性
(下記判例②中の2の青太字文:監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情)
 
が認めらなければ、責任を問われることはありません。

 前記した民法713条は、
   元々ゲルマン法の家族共同団体による監督に起源し、日本では、民法制定当時、戦前の家父長をトップとする
 「家」制度による監督をイメージしていたものと思われます。
  しかし、戦後、家制度は廃止され、その後も精神保健及び精神障害者福祉に関する法律、民法等の改正により、
 団体的統制を廃して行く過程で、ダイレクトに法定監督義務を課する規定がなくなりました。
  そうとすれば、下記判例の言う「特段の事情」を探って監督義務者を探索することなど止めて、
 責任無能力による損害については、団体の最大のものである国家、或は、関連する営利団体が損害をカバーする
 建付とするのが筋であるように思われます。
  以上は、立法私見ですが、そもそも法が「法定の義務を負う者」に責任ありと定めているのに、
 義務者として法定されてもいない者が、「義務を引き受けたとみるべき特段の事情」があるなどとして、責任を
 追及されるのは、責任法定主義を無視する、違法な判例立法であるとの批判があって然るべきです。

  通常、個人責任の領域で、他人の行為について いわゆる責任転嫁をされて責任をとらされることはありません。
  自分に過失がないのに責任を負わされることを無過失責任と言いますが、
 不法行為責任の原則は、709条による故意過失責任が根拠とされていますから、過失もないのに責任を追及され
 る謂われはないのです。
  この714条による責任は、ですから、例外的に、例えば子のなした不法行為であれば、その個人責任原則を前提
 に、まずは、親としての監督責任を問われるという建付となっています。そして、
  親権者が、「私は、このように、監督義務を尽くしていました」と主張し、それが立証できたときに、同条の
 但書によりその責任を免れることができます

  
その様に、いわゆる立証責任の転換により、順序を逆にして、過失責任原則が貫かれています (次の715条による使
用者責任も、同様の建付で、被用者が事業執行について第三者に損害を加えた場合も、使用者は、まず 使用者として責任を問われます)


  精神障害による責任無能力の人の不法行為の場合、判例によれば、まず、被害者側が監督義務者に 準ずる者 を、
 特定し、上記の 特段の事情 を主張して、監督義務者に準ずる地位にあることを立証した上、賠償請求をするこ
 とになります。その上で、こちらも、義務の懈怠がないときは、但書により責任を免れます。

  さて、このような場合、
 その未成年者の親で親権者として監督する立場にある者は、子のどのような行為についてどこ迄の範囲で、責任
を追及されるのでしょうか。或いは、逆に、
 親が高齢となり
認知症を患って夜間徘徊した結果例えば線路に入って電車と衝突し鉄道会社に損害が生
じたという場合
鉄道会社から子や高齢親の配偶者に損害賠償請求があったら責任を負わなければならないので
しょうか
(私は、この事件については、上記の様に、そもそも、鉄道会社が自ら損害をカバーすべきで、大切な家族を失った(会社が失わせ
た、とも言えます)家族に責任追及するなどは、もってのほか と感じています)

 これらについて参考となる判例がありますので、ご紹介します。

  責任を弁識する能力のない未成年者が、サッカーボールを蹴って他人に損害を加えた場合において、
 その親権者が民法
714条1項の監督義務者としての義務を怠らなかったとされた事例判例(最判平27・4・9) 
    : 同条但書によって賠償責任を免れることができるか否かが争われた事例です。
 この事例で、親権者には賠償責任がないとした理由を、判決は、

 「責任を弁識する能力のない未成年者の蹴ったサッカーボールが校庭から道路に転がり出て、
  これを避けようとした自動二輪車の運転者が転倒して負傷し、その後死亡した場合において、
  次の(1)~(3)など判示の事情の下では、
   当該未成年者の親権者は、民法714条1項の監督義務者としての義務を怠らなかったというべきである。


(1) 上記未成年者は、放課後、児童らのために開放されていた小学校の校庭において、
  使用可能な状態で設置されていたサッカーゴールに向けてフリーキックの練習をしていたのであり、
  殊更に道路に向けてボールを蹴ったなどの事情もうかがわれない。

(2) 上記サッカーゴールに向けてボールを蹴ったとしても、ボールが道路上に出ることが常態であったものとはみ
  られない。

(3)  上記未成年者の親権者である父母は、危険な行為に及ばないよう日頃から通常のしつけをしており、
  上記未成年者の本件における行為について具体的に予見可能であったなどの特別の事情があったこともうかがわ
  れない。

と述べています。

 
通常の市民生活において、
 子に対し、人に迷惑を掛けないよう、危険なことはしないよう、
親として通常のしつけ教育に努めている場合にも、子に係わる第三者の被害事故が起きたときには、親に全ての責任
が突然降りかかってくる と言うのでは、親として安心して家庭生活・社会生活を営むことができません。
 結論として、そのような親に対しては、子による殊更 意図したものでない行為により、予見可能でない被害結果
が生じたとしても、その賠償責任は及ばないとした最高裁の判断は、市民感覚に沿った正しい判断だと言えます。

そして、これが、認知症を罹患した高齢の親を抱え、日ごろ介護に明け暮れていた家族に降りかかった
上記鉄道事故のような賠償責任事例では、どう応用されるのか 問われたのが、翌年に出された次の判例です。


② 
次の4点、つまりは、そのような認知症高齢者を抱える家族員は民法714条1項に言う監督義務者と言えるかを
 判示事項とする判例
(最判平成28・3・1)です。
 1 精神障害者と同居する配偶者と民法714条1項にいう「責任無能力者を監督する法定の義務を負う者」

 2 法定の監督義務者に準ずべき者と民法714条1項の類推適用
 3 線路に立ち入り列車と衝突して鉄道会社に損害を与えた認知症の者の妻が法定の監督義務者に準ずべき者に
  当たらないとされた事例

 4 線路に立ち入り列車と衝突して鉄道会社に損害を与えた認知症の者の長男が法定の監督義務者に準ずべき者に
  当たらないとされた事例


この事例では、まず、

 日ごろ認知症に罹患した高齢の親を介護していた、子らや当該 親の配偶者は、民法714条1項に言う
「その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者」にあたるか否かが問題となり、最高裁は、いずれについても、
「あたらない」と結論しました。
 単に配偶者であること、或は、後見人であるからと言って民法714条1項の監督義務者とすることはできない旨判
示します
(判例の事例では、子は後見人ではありませんが、後見人でない者が監督義務者とされる場合はどの様な場合かも合わせて判示しています)
その理由にわたる裁判要旨には、次のように記載されています。
        詳しくは、下線クリックで判決文
(判例のホームページ内の「全文」PDF)をご覧下さい。
1 
精神障害者と同居する配偶者であるからといって、その者が民法714条1項にいう「責任無能力者を監督する法定
 の義務を負う者」に当たるとすることはできない。

 法定の監督義務者に該当しない者であっても、
  責任無能力者との身分関係や日常生活における接触状況に照らし、
  第三者に対する加害行為の防止に向けてその者が当該責任無能力者の監督を現に行いその態様が単なる事実上
  の監督を超えているなどその監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情が認められる場合には、
  法定の監督義務者に準ずべき者として、民法714条1項が類推適用される。

 認知症により責任を弁識する能力のない者Aが線路に立ち入り列車と衝突して鉄道会社に損害を与えた場合に
 おいて、Aの妻Y1が、長年Aと同居しており長男Y2らの了解を得てAの介護に当たっていたものの、
 当時85歳で左右下肢に麻ひ拘縮があり要介護1の認定を受けており、Aの介護につきY2の妻Bの補助を受けて
 いたなど判示の事情の下では、Y1は、民法714条1項所定の法定の監督義務者に準ずべき者に当たらない。

 認知症により責任を弁識する能力のない者Aが線路に立ち入り列車と衝突して鉄道会社に損害を与えた場合にお
 いて、Aの長男Y2がAの介護に関する話合いに加わり、Y2の妻BがA宅の近隣に住んでA宅に通いながらAの
 妻Y1によるAの介護を補助していたものの、Y2自身は、当時20年以上もAと同居しておらず、上記の事故直
 前の時期においても1箇月に3回程度週末にA宅を訪ねていたにすぎないなど判示の事情の下では、Y2は、民法
 714条1項所定の法定の監督義務者に準ずべき者に当たらない。


 
この判決では、妻として、子として、(更には、嫁として、もあります)よくぞ ここまでと言うくらい、涙ぐましい介護
に明け暮れていた家族の真摯さが読む者に伝わります。
 ですから、最高裁の結論は、一般の市民感覚として当然で、むべなる哉と納得できます。そうすると、翻って、
まず、入口で、監督義務者にあたるとした点や、さらには、これほどの介護努力をしている人に対して義務を怠った
と判断した点において、一審・二審の判決は、どういう感覚の人たちが下したのだろうか、と思ってしまいます。

 裁判官は庶民感覚に欠けるという非難はよく耳にしますが、上から目線でなく、その人の身に立った思いやりある
判断をしてほしいと考えるのは私だけではないと思います。ですから、この事例でも、最高裁は、仮に監督義務者に
あたるとしても、妻や子が監督義務を怠ったとは認められないと、一歩踏み込んで判断してくれていたら、高齢社会
における生活指標の一つを示してくれたことになったのにと惜しまれます(もう一つ、疑念が湧くのは、例えば、本
件でBが、血縁ではない義父・義母のため、単身 転居までして介護に尽くしていた、そのような積極的・献身的な
介護者が、本判例の物言いからすると、場合によっては、「監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情がある」、
とされかねないのでは、ということです。そう受け取られかねない判示は、やはり、私には納得が行きません)。


 

財産管理・代理行為
 
未成年者は、自ら単独で法律行為をすることはできず、親権者が子を代理して行為をします(民法824条)(代理権)。
子自身が行為する場合は、
(利益を得るだけの行為や義務を免れるための行為は除いて) 
 必ず
親の親権者 法定代理権
(民法824条)に基づく同意を得て行為しなければなりません(民法5条1項)(同意権)。
そして、未成年者が親権者の同意を得ずにした行為は、親権者がこれを取り消すことができます。
                              
(民法5条2項120条1項)(取消権)

  未成年者等の制限行為能力者 
   本人による行為の取消し等を巡る取消権や追認権、行為の相手方からする催告、
   法定追認、取消しの効果、取消権の消滅時効等について、こちらもご覧下さい。

 親権者が子の財産管理をする上での注意義務としては、
  いわゆる専門家としての注意
(善良なる管理者の注意(善管注意義務と言います。))までは求められませんが、
  自己の財産を管理するに当たって払う程度の注意、
自己のためにするのと同一の注意(民法827条)
  (
918条1項にある「固有財産におけるのと同一の注意」と同じなので 固財注意義務と言います) は払わなければなりません。
                                          
 この注意を欠いたために子が損害を被る結果となった場合は、子に対する損害賠償の責任が生じます。

 子に親権者が存在せず、未成年後見が行われる場合、法によって
(未成年)後見には善管注意が求められます。
                                        (民法869条644条) 
より詳しくは、「管理計算」のこちらをご覧下さい。両注意義務の違いについては、こちらをご覧下さい。

子に対する親の注意は 善管注意でないからといって、父母の子に対する 気遣いや注意が軽くてよいという意味で
はありません。子に対する親の無償の愛は、両注意の落差を補って余り有ると思います。
親の注意は、個人差があるでしょうが、それ自体、血の絆に発するものですから、
 一般的・抽象的なものより温かであり、かつ細やかで、それ故、遙かに重いと言えるかも知れません。

「自己のためにする」という言葉に図らずも表れていますが、親権における固財注意の、後見上の善管注意との違い
の所以は、前者は、親子間の「主体同一性」から発する注意 故の義務であるからだと、私は考えます。
親子には 融合創一 という遺伝子に遡る一体関係があり、殊に、母子の間は、「認知」を要しない様に、更に一体化
した関係なので、そこにこそこの様な血の絆と言える強い注意が自ずから湧出すると言えるのではないでしょうか。

 親権者は、上記のように子の財産管理と子のための代理行為をします。
この子のための代理について民法は「代表」という文言を使って表現します
(民法824条)
ですから、これは他人が代理して行う場合とは違った意味合いを帯びています。こちらをご覧下さい。
そのような代理ですが、但し、
 子の行為を目的とする債務
(行為目的債務)を負う行為の代理については、子の同意を得なければなりません。
                                         (民法824条)
   親権者は、子に代わって子の労働契約を締結することはできません(労基法58条1項)
   子の賃金を代わって受け取ることもできません(労基法59条)
 行為目的債務に関する同意とは、したがって、
  労賃
(労基法9条)を得ることを含まない、労基法の適用外となる家事労働等について、子の同意を要する趣旨となり
 ます。
  職業許可の項もご覧下さい。

                                  



 親権者
ならば義務として、子財産管理をし

   法律行為
代理をも万事
824

    
本人ハツシ824とさせる契約(の代理)

    幼護構
(造語)859あり本人同意るのあるよ824

親権者財産管理をし法律行為代理をも、「代表として 万事824




   
§859は後見人の管理と代理に関する規定   「ある」は中国語の2から



 
  未成年、法定代理(人)同意がなくば、法律行為 5してはいけぬ

    法
(定)(理人)同意がなくばされ

   法代
目的定めて処分可した財産

    目的
範囲内なら処分でき目的定めず処分をば

            
したとき同様とする



   親権善管注意無用644

    むごく
659はあらぬ

     自己
ため すると
同一注意 をば

      
って
 (財産) 管理 やつせ827



§644は受任者の注意義務に、§659は無償受寄者の注意義務に関する規定、後見人の注意義務条句は
こちら



取消し得る行為に関する諸規定


 一たび有効に成立した法律行為に対しては、成立によって生じた法律効果を失わせる「取消し」が許される場合が
あります。

 ①行為能力の欠如を常況としている成年被後見人が、
(たまたま意思能力をもった時に) なした行為の取消し(民法9条)
 ②未成年者の、親・未成年後見人の同意を得ぬままにした行為の取消し
(民法5条2項)
 ③保佐人による保佐や補助人による補助を受けている人が、保佐人・補助人の同意を得ぬままにした行為の取消し、
                                         
(民法13条4項17条4項)
 ④後見人が後見監督人の同意を得ぬままにした営業行為や重要財産行為
(864条)の取消し(民法865条1項)

等がその例です。

そして、①② 未成年者と被後見人については、親権者、後見人がいずれも
法定代理人(民法824条859条1項)として、
    ③ 被保佐人・被補助人については、保佐人・補助人が
同意権者として、いずれも民法120条1項により、
  本人の行為に関する取消権を与えられています
(被保護者の能力的制限に因る行為をチェックし、能力を補う趣旨となります)
     
(②については、以前明文がなかったため争いがありましたが、平成11年の改正で「同意権者」に取消権が与えられました)

 後見監督人の同意権(864条)は、後見本人の能力をチェックし、補うためではなく、後見人の後見についてダブル
チェックする趣旨なので、監督人には取消権がありません 。

 そして
④以外の 何れの場合も保護者の立場の者は合わせて取消権を放棄する実質をもつ追認権も有します。
                                               
(民法122条)

 ですから、成年被後見人以外の被保護者の人たちは、
          いずれも保護者の
同意権に基づく 予めの同意により、自ら法律行為を行う能力がありますが、
      成年被後見人だけは
偶々 意思能力を有していたときの法律行為について追認により有効とされることは
          あっても、予めの同意に基づいて自ら法律行為を行うことはできません。


 そのような同意を欠く法律行為については、

  その取り消しうる行為の相手方においても、取消しの不安を払拭するため、
   未成年者、被保佐人・被補助人に、或いはその上記各保護者らに、
   「追認」をするかどうか確答するよう、一か月以上の期限を定めて
催告することができます。

  期限までに確答がない場合は、追認したとみなされます。
  但し、行為の本人に催告する場合、追認の結果を得られるのは、
    その本人が成年となり、或いは 保佐・補助が終了
(具体的には保佐開始、補助開始の審判の取消しになります)する等、
    行為能力の制限が解消した後
でなければなりません
(民法20条1項、2項)

  被後見人の行為についても、同様に、相手方は、
   (能力回復後の)本人、或いは、後見人に対して、 催告することによって、追認の結果を得ることができます。

  保佐・補助を受けている人に催告する場合、
   保佐人・補助人の追認を得るよう催告することもできますが、その場合
   期限内に確答がないときは、その行為を取り消したものとみなされます
(20条4項)

  後見監督人の同意を得なければならない
(民法864条)のに、その同意を得ていない行為についても、
   同様に監督人の同意を得るよう後見人に催告し、確答がないときは、取り消したものとみなされます
(20条3項)

 要するに、
  期限徒過の無確答
の場合、催告の相手方が追認することができる立場の者であれば、追認とみなされ、
                      そうでないときは、取消しとみなされることになります。


 この取消しと区別しなければならないものに、「
撤回」があります。
 撤回は、例えば、遺言の撤回
(民法1022条)のように、
  行われた行為が効力を発生する前に、その行為自体を引っ込めて、なかったことにするもので、
  撤回については、相手方に対するそれ以上の措置を伴いませんし、相手方の催告等の余地もありません。


 法律行為は、取消しにより、行為時に遡って無効となります
(遡及無効)(民法121条)
  従って、無効となった行為によって給付を受けた者は、行為前の元の状態に戻す原状回復の義務を負います。
                                       
(民法121条の2第1項)
  そのため、取消前に受領したものがあれば、返還をしなければなりませんが、返還する場合、その返還義務は、
 無効な無償行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、受けた当時に無効であることを知らなかったとき

 或いは取消し された行為によって給付を受けていた者が受けた当時 取消し得る行為と知らなかったときは、
 いずれも、
(受けた利益の全部でなく)現に利益を受けている限度(現存利益の限度)で返還すれば足ります(民法121条の2第2項)
 また、行為の時に意思能力を有しなかった者、制限行為能力者であった者も、同じく 現存利益限度で となります。
                                        (民法121条の2第3項)
 従って、意思能力を有しなかった者、制限行為能力者であった者は、行為の当時、行為が取り消し得ることを、
  知っていたか否か、つまり、悪意か善意か、を問わず、現存利益の限度での返還で足りますが、それ以外の者が、
 取り消し得ることを知っていた場合は、その行為により受けた利益の全部を返還し、加えて、相手方に損害が生じた
 場合は、その賠償責任も負わなければなりません
(民法704条)
 
追認は、上記のとおり、取消権の放棄の実質を持ちますから、それ以後は取り消すことができません
(民法122条)

 
取消し、追認の方法については、相手方に対する意思表示による
(民法123条)とされ、また、

 追認は、法定代理人
保佐人補助人がするとき、或は(被後見人以外の)本人が 保護者の同意を得て追認するとき、
 以外は、
     本人に関する取消原因が解消した後にしないと有効ではなく、例えば、
     成年被後見人は行為能力を回復(具体的には後見開始の審判の取消しがあった後ということになります)
            当該行為を了知した後でなければ追認することができません
(民法124条)


 
当該の法津行為について、追認できる時以降に、
  全部又は一部の履行、履行の請求更改担保の供与、当該行為で取得した権利の全部又は一部の譲渡
  強制執行があった場合は、特に
異議をとどめてしたとき以外、その行為を追認したとみなされます(民法125条)
  法定追認と言われます。


 
取消権は、取消しの原因状況が消滅してのち、追認のできる時から5年間行使しないと
時効により消滅しますが、
 追認できる時が到来する前に当該行為の時から20年が経過した場合も消滅するとされています
(民法126条)



  取り消されるか
されぬのか

            焦れ
20る相手の催告に、

 
 (追認権を有する者が)
    確答せずばみなされ’の追認あるも

    取り消し遡及無効
(と現利返還)一対121

    相手安堵に
122追認   なすは一つさ123(相手に対し)意思表示


 
追認のできるはいつよ
124の要件(取消原因解消後)

  
(を具備する必要等) (回復して)安堵後125

          履行請求執行担保
(提供)

  (取得物の) 譲渡・更改(等の事実で)
 法定追認あるも、

 
 
    取消しにいつも
126気になる消滅の時効

   (回復してから)
         五年(行為から)二十年



成年到達時の管理計算義務
 民法828条
  「
子が成年に達したときは、親権を行った者は、遅滞なくその管理の計算をしなければならない。
     ただし、その子の養育及び財産の管理の費用は、その子の財産の収益と相殺したものとみなす。

 と定めています。
 親は、子の財産を管理する権利義務
824)があり、管理する以上その対象たる子の財産を、
    自己固有の財産と混同することなく、区別して保管・保存しなければなりません。

 しかし、親子という濃密な血縁関係上、親が子の財産を管理するに当たっての注意義務は
    自己のためにするのと同一の注意
    
(918条1項にある「その固有財産におけるのと同一の注意」と同じことから 、固財注意義務」と言います)
    で足りるとされています
(§827)

 これは、つまり、子の財産を、親の財産とは区別して管理すべきだが、
         管理のための注意の程度は自己固有の財産と同じで良く、
         その親なりの注意を払えば良いということです。

   例えば、他人から委任されて管理する場合は、
      民法644条により、
       通常その職や社会的地位にある者であれば払うであろう注意 として、客観的に相当な注意を払う義務
      を負います。同条はこれを「善良な管理者の注意」と呼んでいます(略して「善管注意」とも言います)
  子の財産の管理については、この善管注意である必要はないということです。

 ですから、通常であれば、他人の財産を管理する場合、
      その財産の内容を明確にし、管理の期間を通じて、会計帳簿を備え、収入・支出を明らかにして、
      定期にその収支と残高の一致することを確保してこそ管理と言える訳ですが、
 親権者による子の財産管理については 上記828条により、
      子の成人に当たって遅滞なく最終の管理計算をすれば足ります。
      「遅滞なく」とは、平たく言えば「すぐに」という意味ですが、正当な、又は、合理的な理由で遅延し
      た場合は 許される、という意味合いが伴います。こちらをご覧下さい。


 因みに、親権に代わる
(未成年)「後見」においては、後見人は、善管注意義務を負い(869条)
     その上で、後見当初、 財産調査と財産目録の作成
(853条)年額予定(861条)等が義務付けられていますし、
     管理の期間を通じて、後見監督人或いは家裁から求めがあれば、それに応じて、
      後見事務の報告をし、財産目録の提出をしなければならず、また、ときには、
      財産状況について調査され、また、必要処分を命じられることもあります
(863条)
     後見の終了に当たっては 後見計算
(870条)、返還金の 利付き返還(873条)義務等が定められており、しかも、
     後見監督人がいる場合は、調査・目録作成、後見計算に際しての 監督人の立会い、
     調査着手前の
(対被後見人) 債権債務の申出等が義務付けられています(853条2項871条)

 子の財産による収益がある場合、
 通常の管理であれば、これと期間中の費用との差額を返還すべきところを、
  子が成人するまでに 親権者が費やした養育費と管理費用とによって相殺されたものとみなされます。
  管理責任の重畳的軽減ですが、養育費等の支出が伴うのは当然とは言え、親子は無償の愛による関係ですから、
  利害計算の外であるという観念が根底にあるからではないでしょうか
   (但し、結果として「相殺」だから後見計算をしないでも良い ということでは勿論ないので、相殺であっても
      双方の債務額を明確にして、それが対当額にて ではないが、相殺となる旨を明らかにしておく必要があります)




 親権者
成人した親権離れ870るときは

    遅滞なく
管理計算すべき子供収益

    したる養育管理費用相殺みなさる



  
成人し、矢庭
828(管理)計算られて


    
バツ828いが

             
収益てた費用チャラ」。


                民法870条は、後見終了時の同様な「後見計算」の規定。



親権債権の消滅時効

 
親子間で、財産管理を巡り生じた債権には、五年の消滅時効があります(民法832条1項)
  親の財産管理上の過失から子に損害を与えた場合等の親側の債務、或いは、
  親が子に代わり立替えて支払った金員の子側の返還債務等が考えられます。
 ここで親権者の財産管理と子の養育のための費用は、民法828条により
  親権終了時に子の財産からの収益と相殺されるので、除外されます。

 時効の起算点は、通常、子が成年に達したときですが、
 成年到達前に親権が親の死亡等により終了したときは、
  その後新たな親権者或いは管理権者が就任した時或いは
  子が成年に達した時からの起算となります(民法832条2項)

 
 

     管理終
わって
五年てば

   
 親権(に関して親子間に生じた) 債権 832時効完成 消滅


 成人
親権 了後五年親子の間に(債権巡り) バトルある832?、

  それとも五年
(経過)(時効完成)832



  成人をせぬうち管理()消滅法定代理 ()不在なら (子が) 

    成人
或は後任法代 就任その起算をしての五年也



未成年者・成年被後見人の時効の完成猶予
民法158条は、
「 
時効の期間の満了前六箇月以内の間に未成年者又は成年被後見人に法定代理人がないときは、
 その未成年者
若しくは成年被後見人が行為能力者となった時又は法定代理人が就職した時から六箇月を経過するまで
 の間は、その未成年者
又は成年被後見人に対して、時効は、完成しない。
2 未成年者又は成年被後見人がその財産を管理する父、母又は後見人に対して権利を有するときは、

 その未成年者
若しくは成年被後見人が行為能力者となった時又は後任の法定代理人が就職した時から六箇月を経過する
 までの間は、その権利について、時効は、完成しない。

      
とし、つまり、
158条1項は、
 未成年者
又は成年被後見人が有する何らかの権利について、
 時効が完成する前6か月の時点で、これら被保護者に法定代理人がついていないときは、
 未成年者が成人し
、又は、成年被後見人が能力を回復して後見開始の審判が取消された、或は 法定代理人が就職した、
  その時から6か月を経過するまでは、その権利に関する時効は完成しない 旨を定めます。そして、

同条2項は、
 未成年者又は成年被後見人が財産管理を受けている際に父母又は後見人に対して何らかの権利を有するときは、
  上同様に本人が行為能力者となった、又は、後任の法定代理人が就職した、
  その時から6か月を経過するまでは、その権利に関する時効は完成しない 旨を定めます。


①は
権利を有する本人に代わって請求等の時効中断をしてくれる保護者がいない状況下では義務を負う相手方は
 
時効の援用はできない として、本人自身の能力回復或いは法定代理人の就職で能力面の問題が解消した後、6か月
 が経過する迄は、その権利に関する時効完成はないとする定めです。
②は、保護者
被保護者の関係では、金銭貸借等の債権債務があっても 、被保護者側から法的な手続きを執ることは
 難しかろうから、保護者側においても、被保護者に対し、保護の実施中は 時効の援用はできないものとし、本人
 の行為能力上の制約が解消した後、6か月が経過するまでは時効は完成しないものとする との定めです。


①、②いずれも、能力問題が解消した上は、権利行使に支障はない筈なので、解消後6か月以内に、
  
( 進行していた時効期間が無効になる訳ではないので、)時効の完成を阻止するべく 請求等の時効中断(民法147条)
の措置を講じ
 ましょうとの趣旨となります。


 
もし、能力問題解消後6か月経ないうちに相手方が時効を援用しても、その時点では 時効は完成していませんから、
行為能力上 の制約が解消した立場で、6か月になる前に「請求」等の時効中断措置をとることになります
(権利者の側から
時効の完成を阻止することを「中断」と呼ばせて貰います)

 
なお、被保佐人・被補助人には、上記のような時効に関する手当の規定がありません。こちらをご覧下さい。
  時効の完成猶予・更新については次項を、夫婦間権利の時効停止については、こちらもご覧下さい。




   
時効立 半年 

     
護者
(父、母又は後見人)ない 権利をばうことのない様に時効停止し、

     護者
いて
(能力)回復し以後半158 ( 時効) 完成しない



   
被後者(未成年者・成年被後見人)被保護の期間中 保護者相手( 権利)主張 はできぬ

      
( 後任の)護者付いて(能力)回復し〕 以後半158時効 ( 完成 ) とならぬ





時効の完成猶予・更新

 
権利の消滅に向かい時効が進む状況下で、
   ① 権利者が 当該権利を顕在化させること、或いは、
     その時の状況に照らして 時効の完成を一時ペンディング状態とすること、又は、
   ② 一定の行為の時点から新たな時効の開始とすること

 を、以前は、いずれも「時効の中断」と言っていました。

 これを、民法の改正
(平成29年(2017年)6月2日公布、令和2年(2020年)4月1日施行)により、

   ①を「時効の完成猶予」、
   ②を「時効の更新

 として区別することになりました。

 顕在化行為は、それまでの 権利が存在しないかの如き外観を覆し、
         権利を主張して相手に認識させる行為でなければなりませんから、
  一番明確なのは、例えば
   「被告は原告に対し金○○万円を支払え」と請求する裁判を起こす「訴え提起」
(「裁判上の請求」)です。

 しかし、そのような正式裁判や、或いはその準備段階としての「支払命令」
(「支払督促」)とか
  「仮差押え」等々のいわゆる「法的手続き」には時間も専門家の知識も要します。

 それで、通常 取り敢えずは、相手方に対する「内容証明郵便」で、義務の履行を求めることになります。
  これは民法150条に言う「
催告」に当たります。

 催告があれば、
  時効は、ストップをかけられ、たとえその後 時間が経過して時効期間が満了しても、
      ペンディングとなります。「
時効の完成猶予」です。

 しかし、
催告後6か月以内
  裁判上の請求支払督促の申立て、和解の申立て、
(民事調停法若しくは家事事件手続法による)調停の申立て、
  いわゆる倒産法
(破産法・民事再生法・会社更生法)上の手続参加、強制執行保全処分(差押え、仮差押え又は仮処分)
  等をしなければ、
6か月経った時点で、初めからの経過期間が既に時効に満ちているときには、猶予されていた時効が完成します。

催告後6か月経った時点で、初めからの経過期間が時効に満ちていなければ、催告はなかったものとして、時効は、
 その時点から残りの進行を続けます。

 ですから、催告は、時効間近に他の強力な措置を準備するための 正に「取り敢えず」の措置です。

 また、上記のいわゆる法的手続きがとられた場合も、それらの事由が終了する迄の間
   
   (強制執行については、それが取下げ、法規違反による取消しによって終了した場合は、その後6か月の間、
       それ以外のものについては、
        確定判決或いはそれと同等の効力を持つもの (和解調書や調停調書。以上を「確定判決等」と略します)
        によって終了したのでない場合は、その終了の時から6か月の間)

    
時効は完成猶予となります。

 上記のいわゆる法的手続きが確定判決等によって終了したときは、その時から新たな時効が進行を始めます。
 「
時効の更新」です(147条148条149条)

 ですから、強制執行、倒産法上の正式な手続以外では、確定判決等の手続きが一番確実ということになります。

 しかし、これらは相手方が催告を無視したり、争ったりした場合の手立てです。催告に対し、 例えば、
 相手方が「債務確認証」を発行する、或いは債務の一部を「一部ですが」と断って弁済してくる、若しくは
 支払いの猶予を求めてくる等して、債務を「承認
(152条1項)をしたときは、それまでの時効は効力を失い、
 時効は更新して新たな時効が進行を開始します。

 承認に特別な方式がある訳ではありません
 被保佐人・被補助人が「承認」をする際には、保佐人・補助人の同意を得る必要はありません。
 被保佐人・被補助人には民法13条所定の重要財産行為の全部
(被保佐人)または一部(被補助人)について
 その保護者の同意を得なければならない制限があります
(13条17条)が、
 「承認」は、所定の処分行為ではなく、被保佐人・被補助人にもあるとされる管理権限の範囲内の行為だからです。
 従って、被保佐人・被補助人には、「承認」だけでなく、
   
(被保佐人は「同意」なければ訴訟行為に及ぶことはできませんが、それ以外であれば、
     裁判所によって保佐人・補助人の「同意」を要すると指定された行為でない限り)

  自ら権利者として時効を中断する行為にも及ぶ能力があります。

 上記「承認に同意 不要」は、民法152条2項
  「前項の承認をするには、相手方の権利についての処分につき
        行為能力の制限を受けていないこと又は権限があることを要しない。」
 という形で規定されています。
 この文言は、改正前の156条の侭ですが、以上ですから、反対解釈として、
  「
時効の承認には財産管理の能力・権限を必要とする」の意味であるとされ、
 なので、管理能力のない未成年者・被後見人には「承認」はできない、が、
  管理能力に欠けるところのない被保佐人・被補助人は別異となる とされています。
 反対解釈から当然としても、分かり難い理屈なので、端的に区別した形にして規定すべだと思います。

  なお、民法改正にともなって、「協議を行う旨の合意」による時効の完成猶予の制度が設けられ、
 書面による合意があった時から一年間
 (協議期間の合意があるときはその期間、一方が協議の続行を拒んだときはその時から6か月間) 
 の時効 完成猶予が認められることとなりました
(151条)

 なお、法律用語としての「中断」は上述のように「完成猶予」と「更新」に分解されて改められましたが、
 時効で権利を失いかねない場面に立った人の振舞いの、時効に待ったを掛けるイメージとしては、「中断」が
 如何にもピッタリだと思います。それで、本稿では時に「中断」を使うこともありますので、ご了承下さい。



第三者からの無償供与財産
 第三者が、子に財産を与え、合わせて、
 その財産につき子の親の管理を拒むときは、別の管理を用意しなければなりません
(民法830条1項)
 
 子がこのような財産を供与された場合、
  それが単に利益を得るだけの行為であれば、親権者の同意は不要です
(民法5条但書)から、
  子に意思能力さえあれば、子の単独判断で供与を受けることは可能です。
  受けた財産を管理する能力は子にはないので、その管理を誰がするか が問題となります。

 その上で、供与者が親権者の管理を拒めば、親権者を排した別管理が必要となります。
  その供与者が管理人を指定したときは、指定された者が管理を担い、
  供与者がその指定をしなかったとき、或いは、
  指定はあったものの指定後にその管理権限が消滅したり、改任の必要が生じたりした場合は、
  求めによって家裁が管理人
(「裁選管理人」と略称します)を選任します(→裁選管理人)

 なお、「管理
」の具体的なあり方についてこちらも参考にご覧下さい。

 無償供与財産の家裁選任管理人による管理 
 この管理については、民法27条から29条不在者財産管理人規定が準用されます(民法830条4項)

 したがって、財産目録を調整して、家裁の命じる必要処分に従い
(§27)、また
 命じられれば管理や返還のための担保を提供しなければなりませんが、
 報酬も家裁の判断によって支給される
(§29ことになります。
 その管理の権限は、
  民法103条に定められた
保存、改良、利用の範囲に限られ、
  これを超える行為は家裁の許可を得ねばなりません
(§28)

 家裁選任管理人の善管注意義務と受任管理権義
  管理人の管理事務の遂行には、財産管理の委任を受けた受任者同様、民法644条の「
善管注意」をもって、委任事
 務を処理する義務
が伴い、それと共に、受取物の引渡義務 (646条)・金銭消費に対する利付き償還損害賠償義務
  
(647条 )
 を負い、同時に、管理人は、支出した必要事務費の償還請求・必要債務の弁済請求・無過失で損害を被った
 ときの賠償請求
 (650条) をすることも可能です
(家事事件手続法
146条6項)
 
 
 (これらを総じて受任管理権(利)(務)と言います ) 
 ここで、管理人には民法645条の報告義務と649条の費用前払請求権が準用されていませんが、家事事件手続法
146条は「不在者」を想定
していますから、財産の帰属する本人が不在のため、不在の者に対する報告や前払請求の関係は外してあるものと考えます。但し、家裁に対
しては、ことさら上記必要処分の一環とするか否かは別として、当然に管理報告しなければならないですし、費用前払いも必要があれば、家
裁の許可の下に取り計られるものと考えます。


  なお、後見人による財産管理との違いをこちらで、また、参考に遺産の管理をこちらでご覧ください。



 
幼無垢
869春来 869無償(財産)供与者親権

       
830えばその手離 管理


   供与者指定がないため 裁選管理人なら、

     その管理、不在者
28管理定めに従う。


§28は、管理人の権限に関する規定  §869は、第三者が財を与えて後見人に管理させない場合の規定。不在者の財産の管理については、こちらもご覧下さい。




     子無償財産供与第三者親権829(のを) がれば

                    
その財産収益 
費用相殺できぬ





親権者の職業許可権

 民法823条
  「
子は、親権を行う者の許可を得なければ、職業を営むことができない。
 と定め、また、同条2項には
  「
親権を行う者は、第六条第二項の場合には、前項の許可を取り消し、又はこれを制限することができる。
 とあります。

 そして、民法6条は、
  未成年者については、本来、民法5条1項
   「
未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。
  とあり、同条3項に
   「
第一項の規定にかかわらず、法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は、その目的の範囲内において、
   未成年者が自由に処分することができる。
   
目的を定めないで処分を許した財産を処分するときも、同様とする。
 とある 前提の上で、
(民法6条)
   「
一種又は数種の営業を許された未成年者は、その営業に関しては、成年者と同一の行為能力を有する。
   
2 前項の場合において、未成年者がその営業に堪えることができない事由があるときは、
    その法定代理人は
第四編(親族)の規定に従いその許可を取り消し又はこれを制限することができる。
 と定めます。
 つまり、親権者は、未成年者が職に就くこと、或いは自営業を営むことについては、
      それに同意するか否か、或いは、許可するか否か、によりチェックすることで未成年者を保護します。
 
 そして、それは、営利を目的とする営業の場合、或いは、それが数種類の営業にまたがる場合も同様です。
 しかし、就職にしても、自営業にしても、本人がその業に堪えない事由があるときは、その許可を取り消したり、
 制限したりすることができます。

 自営でなく、雇われて就労する場合は、雇用主との間の労働契約に 親権者が同意・不同意のチェックを行います。
 他方、雇用主には、十五歳に達した後 最初の3月31日が終了する迄の児童を使用してはならないとの定めがあり、
                                                         (労基法56条1項)
 この年齢制限をクリアして初めて就職可能となります
 (但し、一定の職業については、十三歳以上の児童は、行政官庁の許可を得て、修学時間外に、
    又、映画・演劇関係については、十三歳未満の児童も、同様にして、使用することが出来る、とされています。
    深夜労働については、更に、時間を限る規制があります(労基法§56§59§61))


 契約が子に不利なものであれば、親権者において解除することが出来ます
(労基法58条2項)

 なお、親権者は子に代わって労働契約を締結することを禁じられています
(労基法58条1項)
 また、子の賃金を代わって受け取ることもできません
(労基法59条)
 この規制に違反した場合、いずれも30万円以下の罰金刑に処せられます
(労基法120条)

 また、上記最低年齢に違反した雇用主は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金刑に処せられます
(労基法118条)

 
親権者が、子を代理して、
   対価としての賃金を伴わない、
(例えば家事労働のような)労基法の適用外となる(不作為・受忍を含む)行為
   を目的とする債務
(行為目的債務)を負う行為をする場合は、
 子の同意を要する旨の定めが824条但書にあります
(これらの限定のため、この但書が適用される余地は多くないと言われます)

 


   
職業ハヅミ823でできぬ親権許可


   親権者
 はどう
823ても職業えぬたら

             その許可取消制限できる也。



未成年、見込んだからには親
(法代)
として、営業許可し、成人に劣らぬ働き見たいもの、

        
6でないなら(許可)取消すか、制限をして、沙汰止みよ。


         法代=法定代理人、§民法Ⅱは未成年者の営業の許可に関する規定






  
親権者何か(本人に)ハツシ824とさせる(契約の代理)には、

          
本人の同意を得るの要あるよ824

    但し、本人の労働契約、本人の同意あるとも、親権者

        代理で契約
(賃金受領も)(しては)ならぬ也





親権者による身分行為の代理
 と 未成年者による訴訟行為

  親権者は、子の福祉のため子の監護・教育
(民法820条)、財産管理(民法824条)の任務を担います。
しかし、結婚や養子縁組等の身分行為は、本来 子本人の意思で 本人自身により なされるべきですから、原則として
他人が代わってすることはできません
(→身分行為能力)。ですから、人の身分行為は、本来、代理に馴染まないのです。
 それで、民法824条は、親権者に 子に代わる代表
(代理)権を「財産に関する法律行為について」与える旨を定め、
     「代理」は、財産行為限りのものであり、合わせて、身分行為は別であることも暗に示しています。

民事訴訟

 通常の民事事件について定める民事訴訟法は、訴訟能力、訴訟無能力者の法定代理は原則、民法の定めるとろに
よる旨を定め
(民訴28条)、又、未成年者は、原則、法定代理人によらなければ、訴訟行為をすることができないと定めて
います
(民訴31条)
 ですから、子の財産行為のための訴訟には、親権者が子の法定代理人としてあたることになります。

人事訴訟

 しかし
婚姻離婚嫡出否認認知養子縁組離縁等の人事事件を扱う人事訴訟では、(財産行為に関する)行為能力の
定め
(民法§5§9§13§17)や、上記民事訴訟の法定代理を定める民訴法31条は適用されません(人事訴訟法13条1項)
                               

  ですから、未成年者は、原則、意思能力があれば、未成年であっても自身で訴訟ができます。
     
(但し、人事訴訟法13条2項、3項により、申立てや職権でその事件の裁判長が訴訟代理人を付ける場合があります。)
 
 つまり、未成年者のいわゆる「本人訴訟」も可能なのです

参考までに人事訴訟法13条を掲げます。

13条 
人事訴訟の訴訟手続における訴訟行為については、民法
第5条第1項及び第2項第9条第13条並び
 に
第17条並びに民事訴訟法第31条並びに第32条第1項(同法第40条第4項において準用する場合を含む。)及び第2
 項の規定は、適用しない。

2 訴訟行為につき行為能力の制限を受けた者が前項の訴訟行為をしようとする場合において、必要があると認める
ときは、裁判長は、申立てにより、弁護士を訴訟代理人に選任することができる。

3 訴訟行為につき行為能力の制限を受けた者が前項の申立てをしない場合においても、裁判長は、弁護士を訴訟代
理人に選任すべき旨を命じ、又は職権で弁護士を訴訟代理人に選任することができる。

4 前二項の規定により裁判長が訴訟代理人に選任した弁護士に対し当該訴訟行為につき行為能力の制限を受けた者
が支払うべき報酬の額は、裁判所が相当と認める額とする。





 民法962条は、遺言について、同様に行為能力規定を適用しない旨を定めています。


        
はみな、本来962 芽生えたら


            遺
(い)962婚姻 731737738縁組797認知780 嫡出否認778 己れでめる

                    代理
はきかぬ
 身分行為

 
身分(行為)のありようは、

    一人
承認不要自己するところ(に従って) 行為ができる、

      財産(行為)ならば、適用さるべき未成年(§5)後見(§9)保佐(§13)補助(§17)適用はなし (行為能力不要) 

             本人意思能力があればよいこれが (身分行為についての)極意いいな 君!




 そのように
原則として親権による介入の及ばない、子の身分行為ですが、
  民法は、子の福祉のための必要から 子の一定の身分行為に関して 例外的に代理を認める旨の規定を八箇条

 (下記①~⑧) 置いています
。それらをここでまとめて記します。
   なお、人事訴訟での親権者による子のための訴訟行為は、上記のとおり例外的な「法定代理」ですが、
    人事訴訟での後見人による被後見人のための訴訟行為
(人事訴訟法14条)は、判例によって、
(「法定代理」ではなく )
      「後見人の職務上の地位に基づく訴訟行為」である
    とされています。その判例についてこちらもご覧下さい。

認知の訴え(787条)  嫡出否認の訴えの被告となる(775条)  ③ 15歳未満の子の縁組の代諾(797条)

協議離縁(811条2項)  ⑤ 離縁の訴えの提起
(815条)  未成年者が養親となる縁組をした場合の取消請求(804条) 

相続の承認・放棄(917条)   未成年の子の非嫡出子に対する親権の代行(833条)           

判例(最判昭43・8・27)
は、
 この様に、未成年の子本人と、法定代理人である親が、いずれも訴訟行為能力を認められることについて、
  「
このように法定代理人が子を代理して認知の訴を提起することができるものとすることによつて、
  子に意思能力がない場合でも右訴の提起が可能となるのであるが、
  子に意思能力がない場合にかぎつて法定代理人が右訴を提起することができるものと解することは、
  子の意思能力の有無について紛争を生じ訴訟手続の明確と安定を害することになるおそれがあつて、相当でなく、
  他面、子に意思能力がある場合にも法定代理人が訴訟を追行することを認めたからといつて、必ずしも子の利益を
  実質的に害することにはならないものと解されるのである。

と述べています
(詳しくは次の① 認知の訴えの項をご覧下さい)


 民法が、子の福祉のための必要から、例外的に、子の身分行為に関して、代理を認める八箇条 の条句

① 認知の訴え(787条)
      

  まご(直系卑属) 父母ちちはは

      
 生前 
没後()三年 ()父母ちは 787 (認知) できる



未成年の子の法定代理人は、子に意思能力がある場合でも、子を代理して、認知の訴を提起することができる
旨を判示した判例
(最判昭43・8・27)
この判決は、その理由として
身分上の行為は、原則として法定代理人が代理して行なうことはできず、無能力者であつても意思能力があるかぎ
り、本人が単独でこれを行なうべきものであり、これに対応して、人事訴訟については訴訟無能力に関する民事訴訟
法の規定は適用 がないものとされているのである。


 したがつて、未成年の子も、意思能力がある場合には、法定代理人の同意なしに自ら原告となつて認知の訴を提起
することができるものであり、
このことは人事訴訟手続法三二条一項、三条一項の規定に照らしても明らかである。

 しかし、他方、民法七八七条は子の法定代理人が認知の訴を提起することができる旨を規定しているのであり、
その趣旨は、身分上の行為が本人によつてなされるべきであるという前記の原則に対する例外として、
法定代理人が子を代理して右訴を提起することをも認めたものと解すべきである。

 また、人事訴訟手続法も、無能力者については当事者本人が訴訟行為をすることを原則としてはいるが、
法定代理人の代理行為をまつたく許していないものとは解されない。

 そして、 このように法定代理人が子を代理して認知の訴を提起することができるものとすることによつて、
子に意思能力がない場合でも右訴の提起が可能となるのであるが、
  子に意思能力がない場合にかぎつて法定代理人が右訴を提起することができるものと解することは、
 子の意思能力の有無について紛争を生じ訴訟手続の明確と安定を害することになるおそれがあつて、相当でなく、
  他面、子に意思能力がある場合にも法定代理人が訴訟を追行することを認めたからといつて、
 必ずしも子の利益を実質的に害することにはならない
ものと解されるのである。

 したがつて、未成年の子の法定代理人は、子が意思能力を有する場合にも、子を代理して認知の訴を提起すること
ができるものと解するのが相当である。

 してみれば、被上告人の法定代理人母Dが被上告人を代理して提起した本件認知の訴は、その提起当時満一四才九
ケ月であつた被上告人が意思能力を有していたと しても、なお適法なものと認めるべきであつて、その前提に立つて
本案判決をした原審の措置に所論の違法はなく、論旨は、採用することができない。」

と述べています。


② 嫡出否認の訴えの被告となる(775条)

  嫡出 ウチ子「父誤ちちご 775 、我なし774

      嫡出否認
その、親権持


           被告としてのみできる

   
(親権を行う)(が)いなければ裁判所 選任による((


③ 15歳未満の子の縁組の代諾(797条)



     子他人ひと養子となるとて くな797

           
十五() になれば自由
             
 
(但し、家裁の許可要す。§798)

               
十五未 (法定代理人)  代諾


④ 協議離縁(811条2項)


     養縁
破綻はたん 
 811離縁配意811

                     
協議離縁ができる


       
()十五() 815未満 離縁

          
(養子)本人事情ようわん811

            
離縁後()( )たるべき代理者

                       
代諾することできる


⑤ 離縁の訴えの提起(815条)


   
   
()十五() 815未満 (離縁)

        ‘離縁
 (したい) ようわん811

    
(離縁協議には、離縁後の)()() たるべき実親(或いは後見人)

       代諾
 するか、さもなくば離縁できる也


       
廃養814裁判()養子

           背後
815える() ()  

                         
 養親を相手に)え又はられる


⑥ 未成年者が養親となる縁組をした場合の取消請求(804条)
      

 
     
性急792未成年者養子とる 

           違法
バレ804縁組

        
養親又はその()(理人)取消請求できる

       但
成人後六月むつき経過追認

                  取消請求
できぬ


⑦ 相続の承認・放棄(917条)


  
相続人未成年者被後者(被後見人)なら

  
(熟慮期間の3か月)この917らで 

(その) () (理人)(本のための相続開始を)

           
ったから起算して

         
いな917期せ (相続)承認放棄



⑧ 未成年の子の非嫡出子に対する親権の代行(833条)


    未成
 
(年、未婚) 我が子宿るとさ833

           
親権する子供親権 

             
 やむな
867爺婆代行

§867は、後見人による被後見人の親権の代行に関する規定




婚姻年齢・成年擬制

 民法は、成人年齢を20歳と定めています(民法4条)
一方、男女の婚姻年齢は、男18歳、女16歳
(男女間の肉体的成熟度の差異によるとされます)として、未成年婚が可能な制度
としています。
 ですので、未成年婚には父母の同意を要する
(民法737条)とした上、結婚することにより成年者とみなす成年擬制の
規定
(民法753条)が置かれています。
 それ故、未成年夫婦であっても、子を儲けて親として親権を行使することができる訳です。

 この婚姻制度は、男女の平等と婚姻の自由にやや疑問が投げかけられていましたが、平成30年の民法改正により大
きく変わることになります。
 次項をご覧下さい。現行制度下の未成年者の婚姻について詳しくは、こちらをご覧下さい。


十八とはちで、十六とろく、それよりさい731 子供婚

〔届出しても受理されず、届できても取り消され、〕 婚姻することできぬ



   わらわ成長して七五三753  あれば

        未成年
()婚姻して 成人擬()あり




  
未成(年者婚姻成人擬 親権脱(未成年者)後見終わる

     
れて独立しくこうぞ
753

   
後見人
847遺言証人974同執行者1009 資格 753欠格解除





平成30年民法改正
( 成年年齢・婚姻年齢 )

同年6月20日に成年、婚姻の年齢等に関する民法の改正法が公布され、令和4年(2022年)4月1日から施行されます。
これにより、約140年間続いた20歳を成人とする成年年齢制度が、18歳成人制に大きく変わります
(民法4条)
また、戦後の昭和22年に、それまでより男女で各1歳引き上げられて、男性18歳、女性16歳とされて以来、
70年以上続いた婚姻年齢も、男女 等しく、成年年齢と同じ18歳となります
(民法731条)

 この改正により、
  未成年者の婚姻の可能性が消滅することから、婚姻による成年擬制はなくなり
(民法753条は削除)
  未成年者の婚姻に伴う父母の同意も、法の想定しないことで、不要となります
(民法737条は削除)

 未成年者の婚姻に父母の同意を要するとする制度は、
  戦前は、男性30歳、女性は25歳になるまでその家の戸主と父母の同意が必要とされていたのを、戦後、
  未成年者の婚姻については、原則 父母の同意を必要とし、但し、父母の一方が不同意である場合、他方の同意で
  足りるとの例外を置き、
  また、この要同意の定めに違反する婚姻届けは役所の戸籍係から受理を拒まれる旨を定め、
  しかし、誤って受理されると、他の婚姻要件違反の場合とは異なり、婚姻取消しにはならない
 等、経過自体が婚姻の自由を重んじて同意権が後退する流れに沿うものではあったものの、規制がやや曖昧で、怪訝
 なものでもありました。
 それが、この度の改正により、
父母同意の規制が成年擬制と共に撤廃されて、「成年・婚姻 : 男女一律18歳
 というスッキリした形になりました。
 ですから、未成年婚 自体がなくなり、父母の同意は昔話となります。

 こうして、憲法24条が「
両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有する」と明定する婚姻における
 両性の自主と平等がさらに貫徹されることとなります。

 なお
若年層を悪環境から保護するためとして飲酒喫煙公営ギャンブル等の禁止年齢は20歳までが維持され、
 又、子に親権を行使する養親の責任の重さに照らし、
養親資格年齢である20歳も維持されることになります。


   
成人18歳 4になって、

      
 どうでも、

        
婚姻  男女等しく18()

      
  なっとる
731からできる


   それより
さい731子供婚

         
 
戸籍係がはねる也。








親権代行(親権に復する子が子を儲けた場合)
 民法833条は、
 「
親権を行う者は、その親権に服する子に代わって親権を行う。」と定めます。
未成年で 未婚の子 が、子を儲けた場合、その未成年親は、
 
(単独では財産的)法律行為をすることができません(民法5条)から、当然親権を行使することができません。
 従って、未成年親の親、つまり 生まれた子の祖父母が、孫に対して 未成年親の親権を代行します。

  未婚の未成年親が、婚姻をすれば、民法753条

  
未成年者が婚姻をしたときは、これによって成年に達したものとみなす。の成年擬制により、
  未成年親が、自ら 親権を行使することができることとなります。
  この場合、未成年親は、直接には、分娩により母子関係が生じる母親が想定されています
 婚姻外で父親となった未成年の男親は、そのままでは 子との間に法的な親子関係がありません。
  男親が、その後、認知をし、そのときに成人していれば、
   民法819条4項
父が認知した子に対する親権は、父母の協議で父を親権者と定めたときに限り、父が行う。
  との定めにより、協議の上で男親が親権者となることができます。
 婚姻外で子を儲けた二人が、その後 婚姻すれば、
   民法789条1項
父が認知した子は、その父母の婚姻によって嫡出子の身分を取得する。
  
により、子は婚姻時から嫡出子となります(婚姻準正)
 ちなみに、
  男親が未成年の場合でも、意思能力があれば、認知能力に問題ありませんから、子を認知することができます。
  しかし、認知して父親であることが確定しても、成人していなければ親権はありませんから、
  ここでも、その未成年男親の父母による親権代行が起こることになります。

 また、上記の例で二人が婚姻したくとも、父母が婚姻年齢に達していなければ婚姻できませんから、
  女性の婚姻年齢が16歳から18歳に改まる
(婚姻年齢に関する)改正法の施行日である 令和4 (2022)年4月1日以後、
  旧法の16歳であれば 婚姻できたであろう女親が、18歳未満のため 婚姻できないケースが生じ得るとになります。
  親権代行のケースが増えるかも知れません。

  ちなみに、この場合の親権代行について、未成年だからと言って、親権全てを行使できないとすることには問題が
 あるとの指摘があります。
 親権の内、
(理)・代(理)の代行は当然としても、身の回りの世話をする監護権は、実親に認めて良いのではないで
 しょうか
(→監護権) 否むしろ、認めるのが当然であり、その監護が至らぬなら、成人親が自身の監護権に基づきサ
 ポートするのが人間として当然の道であると思います。
  


                          ならぬままけりゃ我子わがこでもそのならば他人

未成(年、未婚) 宿るとさ833         認知によりて父子ちちこ 779とぞなる
                 
      
  親権する子供親権                   
                        
         772なる婚中懐 ()にはあらねども
   
 やむな
867爺婆(が)代行
                          にん(知)婚姻 こん父母ちは(が)認知したならば
未成(年)婚姻成人みなされ 親権
                               いず子供父母ちは こん 789婚中懐なぞ
 けた子供らが親権行使、嬉しくこう753   
                                   
(①は婚姻届、②は認知届)でれば準正 (による) 嫡出 
   



 §867は、未成年被後見人に代わる親権の行使に関する規定。「どるとさ」は、33を「三十三」としての読み。


利益相反
 
 子は、親権者がその代理人となって(或いは、親権者の同意を得て自ら)、第三者と契約等を交わします(民法824条5条)
 しかし、時には 子が親権者自身と契約するケースも生じて、その場合 親権者と利害が対立することにもなります。
 「利益相反」と言います。
 これは 後見人・被後見人間にも起こり得ます
(859条9条)。相反の具体例を裁判所のホームページから転載します。
 利益相反の場合、親権者
(後見人)の代理権は否定され、親権者(後見人)において、子(被後見人)のために特別代理人
 選任を請求しなければなりません
(民法826条860条)

 下記の裁判所ホームページの記載から理解すれば、
利益相反の有無を分ける基準は、
    外形的に親権者
(後見人)が子(被後見人)と当該行為の対立当事者となる場合、
    或いは、
外形上 保護者・被保護者間、又は、同一保護の被保護者同士間に利害の対立が存する場合
  であることを要し、この外形判断が積極であれば、
   親権者
(後見人)自身には子(被後見人)利益を害する意図や子ら(被後見人ら)の間の衡平を欠く意図がないとしても、
   又、親権者(後見人)の代理行為の結果 保護・被保護当事者間や数人の子(被後見人)の間に 利害対立が現実化され
   ていなかったとしても、
  利益相反を否定することはできません。

 5.の例は、親権者自身は相続放棄をせず、未成年者についてのみ相続放棄する場合でしょうから、当然 相反です。
 6.の後見人が15歳未満の被後見人と養子縁組する行為は、一見 外形からも分かり難い点がありますが、
  未成年被後見人を養子とする縁組自体が家裁の許可なくしては成立しない縁組障碍事由
794、§798)ですし、
  15歳未満は縁組能力がない
797)のですから、
 そのような被後見人をその財産管理者である後見人が管理義務の軽減される親権関係809)に取り込むことには、
 (許可を得、代諾に拠ったとしても)外形上 利益相反があることとなります
(後見・親権での管理権限の違いについてこちら)

利益相反行為とは、法律行為自体や外形からみて、親権者(後見人)の利益になるが未成年者(被後見人)にとっては不利益
になる行為、又は親権に服する子の一方には利益になるが他方の子にとっては不利益になる行為のことをいいます。具体的には、

  1. 夫が死亡し、妻と未成年者で遺産分割協議をする行為
  2. 複数の未成年者の法定代理人として遺産分割協議をする行為
  3. 親権者の債務の担保のため未成年者の所有する不動産に抵当権を設定する行為
  4. 相続人である母(又は父)が未成年者についてのみ相続放棄の申述をする行為
  5. 同一の親権に服する未成年者の一部の者だけ相続放棄の申述をする行為
  6. 後見人が15歳未満の被後見人と養子縁組する行為

などが該当します。


 

裁判所での特別代理人選任の申立て手続関係については、こちらをご覧下さい。

 
(財産的)法律行為についての行為能力を欠く常況にある人を保護する制度である後見においても、
 後見人・被後見人の間で利益相反が生じ得ることから、上記の様な関係があれば特別代理人が選任されます
860)
   但し、後見監督人が置かれている場合は、監督人が本人を代理するので、特別代理人の選任は不要です
851)

 
同様に、行為能力の程度が著しく不足している故に、自身で重要な法律行為13)をするには保護する人の同意を得
 なければならないとされる人に関する
保佐や、
 同じく行為能力が不足しているが著しくはないので重要な法律行為の一部については要同意である人に関する
補助
 おいても、
(保護者の同意を得て本人自らが行為する場合と、裁判所から代理権を付与された保佐人、補助人が行為する場合に)
 保佐人
補助人と本人との間で利益相反が起こり得る訳ですが
 
保佐については臨時保佐人876の2)、補助については臨時補助人876の7)という名称で、上の特別代理人に当たる人
 が置かれます。これらも、監督人がいるときは、監督人が代理するので臨時保佐人、臨時補助人は不要となります。
                                             (§876の3§876の8による§851の準用)
 後見・保佐・補助についてはこちらをご覧下さい。


利益相反の判例

債務保証・担保提供における利益相反
 
親権者と子の間の利益相反に関する事例判例として、子の所有する不動産に親権者が第三者の債務を担保するため
 根抵当権を設定した事案について、利益相反に当たらないとした判例①
(最判平4・12・10)と、
  同じく第三者の債務のため、親権者自らも子と共にその債務の連帯保証人になり、子との共有にかかる不動産に抵
 当権を設定した場合は、利益相反にあたるとした判例②
 
(最判昭43・10・8)とがあります。

判例 親権者が子を代理してその所有する不動産を第三者の債務の担保に供する行為は、親権者に子を代理する
権限を授与した法の趣旨に著しく反すると認められる特段の事情が存しない限り、代理権の濫用には当たらない旨を
判示した判例
(最判平4・12・10)
 この判決は、その理由を、
「親権者は
原則として子の財産上の地位に変動を及ぼす一切の法律行為につき子を代理する権限を有する(民法824
ところ親権者が右権限を濫用して法律行為をした場合においてその行為の相手方が右濫用の事実を知り又は知
り得べかりしときは
民法93条但し書の規定を類推適用して、その行為の効果は 子には及ばないと解するのが相当で
ある
(最高裁昭和39年(オ)第1025号同 42年4月20日第一小法廷判決・民集21巻3号697頁参照)
 しかし、親権者が子を代理してする法律行為は、親権者と子との利益相反行為に当たらない限り、それをするか否
かは子のために親権を行使する親権者が子を めぐる諸般の事情を考慮してする広範な裁量にゆだねられているものと
みるべきで ある。
そして
親権者が子を代理して子の所有する不動産を第三者の債務の担保に供する行為は利益相反行為に当たらない
ものであるから、それが子の利益を無視 して自己又は第三者の利益を図ることのみを目的としてされるなど、親権者
に子を代理する権限を授与した法の趣旨に著しく反すると認められる特段の事情が存しない限り、親権者による代理
権の濫用に当たると解することはできないものというべ きである。
 したがって、親権者が子を代理して子の所有する不動産を第三者の債務の担保に供する行為について、それが子自
身に経済的利益をもたらすものでないことから直ちに第三者の利益のみを図るものとして親権者による代理権の濫用
に当たると解するのは相当でない。」
と述べています。
 

判例 第三者の金銭債務について、親権者がみずから連帯保証をするとともに、子の代理人として、同一債務につ
いて連帯保証をし、かつ、親権者と子が共有する不動産について抵当権を設定するなどの判示事実関係のもとでは、子
のためにされた連帯保証債務負担行為および抵当権設定行為は、民法第八二六条にいう利益相反行為にあたると判示
した判例
(最判昭43・10・8)
 
この判決は、その理由について、
「原判決がその挙示の証拠のもとにおいて確定した事実、とくに昭和三五年三月一〇日DからEに対する金三五万円の
貸付について同人の懇望により、被上告人B5 が、みずからは共有者の一員として、また、未成年者であつた被上告
人B2、同B3、同B4の親権者としてこれらを代理し、さらに、長男被上告人B1の代理人名義をかねて、右債務
について各連帯保証契約を締結するとともに、同一債務を担保するため、いわゆる物上保証として本件不動産全部に
ついて抵当権を設定する旨を約しその旨の設定登記を経た等の具体的事実関係のもとにおいては、
債権者が抵当権の
実行を選択するときは
本件不動産における子らの持分の競売代金が弁済に充当される限度において親権者の責任が軽
減され
その意味で親権者が子らの不利益において利益を受けまた債権者が親権者に対する保証責任の追究を選択
して
親権者から弁済を受けるときは、親権者と子らとの間の求償関係および子の持分の上の抵当権について親権者に
よる代位の問題が生ずる等のことが、前記連帯保証ならびに抵当権設定行為自体の外形からも当然予想される
として、
被上告人B2
同B3同B4の関係においてされた本件連帯保証債務負担行為および抵当権設定行為が民法八二六
条にいう利益相反行為に該当すると解した原判決の判断は、当審も正当として、これを是認することができる。」
と述べています。

遺産分割協議における利益相反
 
相続人ではない親権者が、(共同親権者たる配偶者の親が亡くなって、配偶者も既に亡いため、配偶者を代襲した)相続人である数人
の子に代わって遺産分割協議に臨む際は
内一人の子については代理人になり得ても他の子らについては各別に特
別代理人を選任しなければならない旨を判示した
判例(最判昭49・7・22)があります。
 
この判例は利益相反について個別に利害の対立結果があるか否かを見るのではなく客観的に対立のおそれがあ
るか否かで、相反の有無を判断すべきことも説いて、次のように述べています。
「民法八二六条二項所定の利益相反行為とは
行為の客観的性質上 数人の子ら相互間に利害の対立を生ずるおそれのあ
るものを指称するのであつて、 その行為の結果現実にその子らの間に利害の対立を生ずるか否かは問わないものと 解
すべきであるところ
遺産分割の協議はその行為の客観的性質上相続人相互間 に利害の対立を生ずるおそれのある行
為と認められるから、前記条項の適用上は、 利益相反行為に該当するものといわなければならない。したがつて、共
同相続人中 の数人の未成年者が
相続権を有しない一人の親権者の親権に服するときは右未 成年者らのうち当該親
権者によつて代理される一人の者を除くその余の未成年者については、各別に選任された特別代理人がその各人を代
理して遺産分割の協議に加 わることを要するのであつて
もし一人の親権者が数人の未成年者の法定代理人と して代
理行為をしたときは、被代理人全員につき前記条項に違反するものというべ きであり、かかる代理行為によつて成立
した遺産分割の協議は、被代理人全員によ る追認がないかぎり、無効であるといわなければならない。」

自らも相続人である親権者が子を代理して遺産分割協議をした事例についての判例(最判昭48・4・24)もあります。
 この判例は、「
親権者が共同相続人である数人の子を代理して遺産分割の協議をすることは、かりに親権者において
数人の子のいずれに対しても衡平を欠く意図がなく、親権者の代理行為の結果数人の子の間に利害の対立が現実化され
ていなかつたとしても、八二六条二項所定の利益相反する行為にあたる
から、親権者が共同相続人である数人の子を代
理してした遺産分割の協議は、追認のないかぎり無効であると解すべきである。」と述べています。



ったりったり借金保証 或は 子供相続代理して放棄する 等々形はともかくも

 ようあるロー
826親子 () 利害相反そんな事柄(につき) 

    親は子
代理人にはなれぬ也。家裁に求めため
特別代理 () 選任要す。



  
親権者子供にとって「
双方がウンウ」と

      
 親心発露
826やろ-!860傍目はためなら

       
利益相反
() (理人) 要す家裁に選任求むべし。



   親
膝下数人
 一人(互いに利益) 相反ならば(その) 

       
一方ため ()() 選任 請求せねばない。二人をば「そやつも826代理」はできぬ也




  
後見人被後者 にとって「双方インウイン

     使命感
 発露
 826ヤロー860傍目はためなら

     利益相反(別) (理人)要す家裁に選任求むべし。

  



 保佐
()被保佐() (「双方がウインウイン」と使命感 発露826の「やろう860傍目はためなら〕

   
利益相反 (代理人役として)せるのに876の2 (監督人あるとき除き、後見のときの)

            
()(理人)臨時保佐人(選任せねば)



   補助()被補助()利害互いにしても、のち8767いをさぬよう

            
(監督人あるとき除き) 臨時補助人(選任)


  


  後見監督ばん(する)こう(見人を)びと851擁護 851その職務

   ①
にある(後見事務)監督 (利益)相反()代理 (特別代理人の選任は不要) 

      
(後見)けたときには遅滞なく後任(選任)請求急場(必要)処分




    後見人被後者(利害)相反するときは()() 選任あるべきも

    
(後見)監督人があるときは擁護   851④ 監督被後者代理特代はなし




 
  
()(理人)が付いて(利益)相反() じる826なし。  

      
§860は、後見人の利益相反に関する規定




() () じるしくりぬワンサ13行為一々11保佐人の)同意

          反
すれば取消
120ありとわれたらやせる876いの保佐開始


  やせる
876いというけれど、

   
() () じるしくりぬワンサ13行為一々11保佐人()同意チェックをし、

      
特定一部行為では
(本人の求め、或いは同意で)保佐人()代理(権付与)クリアする

                              そうしてエイド してるのよ
876の4





 十五
() 
15 (弁能) 非満(肥満?) 一難17 やせる876の6をば補助(開始) として、

   ワンサ
13(行為)特定一部について以後15 (補助人)同意 

  加
うるに、本人望むか同意があれば

   特定行為
補助人代理権付与、必ずややせる
876の9奏すべし 


親権の共同行使
民法818条3項は、
 「
親権は、父母の婚姻中は、父母が共同して行う。
   ただし、父母の一方が親権を行うことができないときは、他の一方が行う。

と定めます。
親権の共同行使は、夫婦一体となっての子に対する無償の愛の具現化ですから、ことに幼い子に対しては、父母一体
となった共同親権が当然と言えます
(なお→「離婚後の共同親権」、「孫養子」)
 ですから、親権は、父母の片方が行使できない場合を除き、本来 共同行使されなければなりません。
そして、民法825条は、この共同行使されるべき場合に、
 「
父母の一方が、共同の名義で、子に代わって法律行為をし又は子がこれをすることに同意したときは、
  その行為は、他の一方の意思に反したときであっても、そのためにその効力を妨げられない。
  ただし、相手方が悪意であったときは、この限りでない。

としています。この定めは
実際には父母の片方が関与しないまま(或いは更にその意に反しているときであっても)、他方が
父母共同名義でした法律行為
、(相手方が、その事情を知っているときは別として)有効だとするものです父母共同名義 効
従って、
 親権者である父又は母が、親権の共同行使の定めに違反して、単独名義で親権を行使した場合は、
無効となる
ことに注意しなければなりません。
 この様な単独行使によって、未成年の子の財産を処分した行為
(子所有の株券に質権を設定する行為)を無効とした判例があ
ります (最判昭42・9・29)。この判例の判決中 該当部分を掲出します。


原判決の判示するところによれば、上告人A1、同A2名義の第一審判決添付の 別紙第二、第三目録記載の株券
は、それぞれ、同人らの所有に属し
上告人A3は 親権者として管理し右上告人らを代理してこれを処分する権
能を有し
上告人A3は昭和31年5月頃Dの依頼に応じ右上告人らの株券および自己名義の株券等を一括して
保に供する目的をもつて
その使者であるEに交付したというのである。
 ところで
上告人A1同A2は未成年で父である上告人A3、母であるFことGの両名が法定代理人たる親権者
であることは、一件記録上、明らかである。
 そして、
未成年の子の財産の管理その他の処分行為については、民法824条、 825条の規定により父母が共同して
親権を行使すべきであり、これに違反して、 共同親権者の名義を用いないで、また、父もしくは母が親権者として単
独で、未成年の子の財産に関してなした行為は
無効であると解すべきである(最高裁昭和26 年(オ)第366号昭和28年11
月26日第一小法廷判決、民集7巻11号1288頁参照)

 上告人A1
同A2の財産に属する本件株券の処分行為について原判決は上告人A3がこれをしたことを判示す
るのみであつて、その処分行為について、同上告人と母たるGと共同して親権を行使したことはもちろん
右Gが同
上告人に対しその処分の権限を付与することに承諾を与えたことについてはなんら判示すること がない。
  果してしからば、原判決は、実体法の解釈、適用をあやまった結果、審理不尽の 違法をおかしたものというべく、
この点に関する論旨は理由がある。」


 
バイトや 
818独立すると意気込も、判断力らぬから

  未成年者
父母ちちはは親権()せば破綻
818ない




 
ため親権 (真剣) 行使父母 二刀()

  
父母親権
 (真剣)やっと 818

 〔
 は- 
818共同行使破綻818ない



 後見開始親権喪失等法律上(或いは) 行方不明心身障害等事実上(の事由で) 

父母父母ちちはは一方行使ができぬとき他方ハイパー818くなる
                 単独行使破綻818ない



 

  
   婚中親権父母共同行使

     一方
 (が行使) 不可なら単独行使



 なお、父母の一方によって、共同名義で、子に代わり(或いは、子が自ら行為することに同意して)、なされた法律行為は、
他方の意に反しても効力を妨げられることがありません
(民法825条)〔父母共同名義 効
 因みに、少し場面が違いますが、本来 父母の同意を要す未成年者の婚姻に、父母の一方が同意しないときは、
他の一方の同意で足ります
(民法737条)。尤も、民法改正で令和4年4月からは未成年婚 自体がなくなります。
                                 
平成30年民法改正( 成年年齢・婚姻年齢 )




「共同」名義単独「破二」、(単独代理、又は、本人の行為に単独同意)

   は
破二護
825めで()られる

   
但し相手方悪意
(「破二」であることを承知)であれば無効也

   親権者
単独名義単独破二無権代理はなし



 「破二」は、親権共同行使則破りの単独行為
「破二護」は、「破二」行為の効力を護ること造語




 未成年737 婚姻 むなら両親同意するが

  片親
同意あるなら
()意固地不同意なさんな737

    
片親同意りる也。一方行方れぬ

        亡
くなった
(意思)表示ができぬきも同様



親権者を定める

 離婚等によって、親権の共同行使を行うことができない事態となった場合、親権の帰趨は如何か、父母のどちらを
親権者とするか等についても、民法はその
819条に定めを置いています。同条により父母の協議で定めるとされてい
る、その協議が調わないときは、裁判所が代わりに審判で定めます
(同条5項)し、又、同条によって一旦定まった親権者
について、子の利益のため必要があるときは、子の親族の請求で、家裁が親権者を他の一方に変更することができま
(同条6項)親権者変更は、家裁の手続きによってしかできないことで、当事者の合意による変更はできません
 なお、親権者指定については、こちらもご覧下さい。

 民法819条各項の定めは、次のとおりです。
1 父母が協議離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と定めなければなりません
(819条1項)
2 裁判離婚の場合家裁が父母の一方を親権者と定めます
(819条2項)
 その際は当事者の陳述を聴くほか、子
(15歳以上の者に限る)の陳述も聴かなければなりません(家事事件手続法169条2項)
 子がその意思を表示できるに至らない幼児期に婚姻が破綻するに際しては、それまで監護に当たってきた母親が、
 監護の継続性の観点から、親権を取得するのが通常です。

 最近は、父親が気付かぬうちに母親が子を連れて別居を敢行し、父親が子との面会・接触を望んでも十分に果たせ
ぬ侭、親権者指定にも与れない例を多く見聞します。家裁での実務の傾向として指摘され、また、実務家がそう観念
してしてしまっているやにも感ぜられます。しかし、それでは、当の父親の人権の軽視であるばかりでなく、子の、
両親に保護されるべき権利を蹂躙していることにもなります。
 身辺の監護には確かに母親が相応しいと言えるでしょうが、ケースにもよりますし、きめ細かく事情を精査して、
場合により監護権と親権の分属を考えても良いのではと思います
(勿論、父親によるDVや虐待による破綻であれば、論外です)
 また、父親にさしたる落ち度も至らぬ所もないのに、互いの気持ちが覆水盆に返らぬ断絶状態にあるのであれば、
離婚の帰責はともかく、子のためには、最小限 面会交流が確保されなければなりませんし、離婚後の共同親権も制度
として検討されるべきだと考えます。

3 子の出生前に父母が離婚した場合には、親権は、母が行います(819条3項)
 但し、子の出生後に、父母の協議で、父を親権者と定めることができます
(同条3項但書)
4 父が認知した子に対する親権は、父母の協議で父を親権者と定めたときに限り、父が行います
(819条4項)

 なお、母子関係については、判例
 (最判昭37・4・27)によって、
母とその非嫡出子との間の親子関係は原則として母の認知を俟たず分娩の事実により当然発生する」として、
分娩
出産の事実自体により認められますから当然出産した母親が親権を単独行使することになります。
この点を直接定めた規定はありませんが、上記819条4項からの当然解釈としての結論です。

 5 以上の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家裁は、父又は母の請求によって、
 協議に代わる審判をすることができます(819条5項)
 6 また、子の利益のため必要があると認めるときは、家裁は、子の親族の請求によって、親権者を他の一方に変更
することができます(819条6項)こちらもご覧下さい。


   バイク
819夢中息子には

         
協議離婚裁判離婚認知その他の場合によって

     
子供いるのに離婚なら)親権以降819どうする 

         どちらが
つか、親権(真剣)俳句
819

             



    
協議離婚一環親権()協議不調なら

                      
家裁調停いで審判


    
親権者、裁判上離婚なら

            
父母ちちははのいずれか家裁指定する


     出生前
(親が) 離婚したなら

       親権
ない()夫引819(後に協議で変更可)。



    認知


      母
(父母の)によって

                       
とすること可能也



      
められたる親権者

       羊頭狗
819(子の福祉に)不適当、

         
(の)(益)のため必要あれば(子の)親族

                
(家裁に対し、)親権(者) 変更 


親権者変更の手続きについては、こちらをご覧下さい。




親権喪失・親権停止・管理権喪失(親権制限制度)
 親権の行使や子の財産の管理が適切でない親に対しては
次の要件下で親権の喪失(民法834条)や停止(834条の2)、
管理権の喪失(835条)の審判が下されることがあります。
親権喪失:「又は母による虐待又は悪意の遺棄があるとき
        その他父
又は母による親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより
                                 
子の利益を著しく害するとき(834条)

親権停止:「父又は母による親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するとき」(834条の2)

管理権喪失:「父又は母による管理権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するとき(835条)

 
これらの審判を求めることができるのは、
  子自身、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官とされています
(民法834条835条)

 親権の喪失については、その原因状況が2年以内になくなる見込みがあるときは請求できず、
 親権停止の期間は、その原因が止むまで2年を超えない期間内で定めるとされていますから、
 親権の「喪失」か「停止」かは、親権行使の様相が低劣である程度の差のほか、
  原因状況の継続期間が2年内に収まるかどうかによって分かれることになります。

 管理権行使の不適当と困難については、
  「自己のためにするのと同一の注意
(民法827条)を怠った場合が「不適当」、
         管理能力不足による場合が「困難」であると説明されています。

 以前は、管理が失当であったことによって子の財産を危うくしたという要件であったものが、
   平成23年に上記のように改められたものです。

因みに、この親権制限の❶と❷の各要件は、
  子について特別養子が成立する場合の、実親の監護等に関する要件
   「
監護が著しく困難又は不適当であることその他特別の事情がある場合において、
     子の利益のため特に必要がある
(民法817条の7)こと、
  実親の同意を要せずして特別養子を成立させ得る要件
   「
虐待、悪意の遺棄その他養子となる者の利益を著しく害する事由がある(民法817条の6)こと
に類似します。これらを対比すると、
親権喪失の要件は、それ自体「監護権」ばかりか「
管理代表権」(824条)も含む「親権」を剥奪する要件である
  ことから、
「著しく困難又は不適当」「子の利益を著しく害する」との文言には、親権行使の様相が最も悪質である場合が想定
されていることが分かります。

 
親権喪失と特別養子 両要件の、この文言上の符合は、子に対する実親の親権を奪い、養親の手に委ねることが、
子の福祉に叶うかを審査し
子の利益を実質的に保障するべく両制度を連繋させるものであることが分かります。

 ですから、そのような親権喪失者に対しては、その子について特別養子縁組を成立させる際に、上記のとおり、
実親の同意を必要としないとされるのですが、
手続上は必ず審問を開いて実親に意見陳述の機会を与えなければなりません
(家事事件手続法164条3項)

 上記特別養子縁組に関する実親の同意について、こちらもご覧下さい。

    

   834かるべき
          
(悪意の) 遺棄虐待834



 
 親権行使


          
じるしく 或又 不適 
著害

              二年
えてもありそなら

         
蜂刺
834親権喪失審判むべし



親権喪失 子本人

     
その親族
(未成年)後見人

   同監督人
検察官請求すれば


        
(家庭)裁判所(喪失)審判するが影響大(のため)

                
活用少なく(親権)停止(審判)(が)まるる(平成23年改正




  
虐待

     
蜂刺834 (親権)喪失 あるも(親権行使が 不適、子の利害する)

            
ちち程度じるしくなくば

          
(親権の)喪失闇夜834回避して

                 
  834の2   (以内)  (親権)停止 あり

 

 

    
保護者としてはやさ
835(優しい保護者:造語)でも

 財産管理
 不適

      
せば、破産はさ
835(財を危うくする保護者:造語)でなくも

              
喪失 とする管理権



これら親権を制限する審判の請求権者は、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人、検察官ですが、
加えて、児童福祉法33条の7により、児童相談所長にもこれらの審判の請求権が与えられました。



児童虐待

 平成30年3月に東京都目黒区で5歳の女児結愛(ゆあ)ちゃん翌31年1月には千葉県野田市で小学4年の女児心愛
(みあ)ちゃんが死亡するなど「平成」が幕を閉じる時に悲惨な事件が相次ぎました。
 特に結愛(ゆあ)ちゃん事件では、転居に伴う児童相談所間の、或は児相関係機関間の、連携の悪さと、児相の事態
把度の低さ、被害児救出の熱意と態勢の不足とには憂うべきものがあり、
 又、
心愛
(みあ)ちゃん事件では、
学校、教育委員会が父親の威圧に屈し、虐待防止の砦であるべき児相までがその職
務遂行の核である理念、使命感を欠如していたことを曝け出しました。
 繰返し体制の脆弱が指摘されているにも拘わらず
一向に改善を見ることなく事態がますます悪化しているよう
に感ずるのは私だけではないと思います。
 同性婚の項でも述べましたが
今や 我が国の私人間における個人の尊厳基本的人権は踏みにじられる侭 悪化の
一途を辿っている様に見えます。我が国の憲法は
政治の具と堕し実際にはその根本理念である基本的人権、個
人の尊厳を守る為には
行き渡らされておらず幼い命も守れない侭に唯のお題目と化しています(こちらもご覧下さい)

 憲法は権力に対する抑止法だとばかり強調し、虐待から、人権蹂躙から の救済を要する場面で、権力を抑止するべ
く令状主義の厳格を以て臨むなどしてどうするのでしょうか。

 現に虐待
蹂躙の虞れが認められればいたいけな幼い命社会的弱者を 急迫の被害から守るべく 令状主義を緩和
すべきです。少なくとも、児童虐待を受けている疑いが濃厚な児童について、親がこれを当局に対面させまいとする
ときには、その時点で、その場の当局職員に、児童に面会し、救出するための強制力、権限を付与しなければなりま
せん。命がかかる問題なのですから、警察も即応可能な態勢とすべきです。亡くなってから、落ち度を検証しても遅
いのです。

 憲法を世に行き届かせるべく、権力を私人間の悪に立ち向かわせなければ、悪の蔓延は歯止めなく増長して、尊い
命が失われ続け、ひいて社会の崩壊に繋がります。

 憲法の為 今なすべきは
憲法の改正ではなく真にこの憲法を人々の間に行き渡らせるための堅固な体制作りです。
そして、現に虐待被害を受けている子どもたちの尊厳と命を守る具体的で堅固な体制を確立することこそが、眼前の
急務であり、かつ、憲法が望むことだと考えます。

 国家
社会の基盤である筈の家庭において支配抑圧が蔓延横行し邪な支配が学校や職場実社会の隅々 迄、
果ては保育所等幼児の施設等をも蝕むに及んで
乳幼児、子供や女性障害者等あらゆる弱者が虐げられる侭に放置
されていたら
それで明るい社会が成り立つでしょうか、国を愛し、国を守る気概など生まれてくるでしょうか。

 県立高校教諭が教え子の全裸写真を1時間にも亘って100枚撮影し、生徒が怖くて何も言えなかったと述べているの
は、明らかに虐待であり、個人の尊厳と基本的人権の蹂躙です。平然と「卒業の記念に撮った」等と弁解するこの教
諭を、教育委員会は、減給1/10で済ませたそうです(→毎日新聞ニュース)。又、都立高校の44.6%が、生徒に対し、頭髪
地毛であることを証明する届け出を求めて、髪の毛が生まれつき茶色など黒以外の色や、くせ毛の生徒について、
保護者の署名、押印とともに、地毛の特徴などを届けさせているという報道
(→NHKニュース)
もありました。社会の指導
的立場の者、日本の未来を背負う高校生たちを指導する高校でさえも、これら、個人の尊厳を踏みにじる蛮行、生徒
に著しい心的外傷を与える虐待を、それと全く気付かず、意にも介していないという状況では、そ
の人権意識のレベ
ルの低劣さに絶望する他ありません。


為政者は、児童の権利条約に定められた
 「
あらゆる形態の身体的若しくは精神的な暴力、傷害若しくは虐待・・から
   
児童を保護するためすべての適当な立法上、行政上、社会上及び教育上の措置をとる
ことが何より焦眉の急であることを認識するべきです。

 そして、条約に謳われたこの理念は、全ての社会的弱者に及ぼされなければなりません。男女平等が、かけ声ばか
りで、実現せず、国際的な屈辱を受けているのも構わず、形ばかりの利便性や華やかさを追い、効率化と営利を図る
建前だけ社会の陰で、虐げられる多くの弱者の窮状を放置するならば、我が国は益々嘲笑の的になってしまいます。


 
前記親権停止制度は平成23年の民法改正により新設されたものですが、その際これら親権制限に関する子自身
の申立権
も合わせて認められました。

 これにより、子は、意思能力がある限り、自身で親権喪失等の申立てができることになりました。

 そもそも、人は自身の身分に関することは、
(財産的行為に関する)未成年の能力制限(民法5条)なしに、自身で行為するこ
とができます。そして、その目安としては、15歳になれば自身の意思で他人の養子となることができ
(但し、家裁の許可と
いうチェックが必要
(民法798条))、又、自ら遺言することもできます(民法961条)。これは単なる目安であって当該の子が15
歳未満であっても
虐待を受けたとおぼしき場面での言動に観察力・思考力・判断力が伴っていると認められれば、
親権・管理権の喪失・停止等幅のある措置の端緒となるに過ぎない親権制限の申立てについては
子の申立能力を認
めるべきです
(上記養子縁組能力も、養子となる効果の発生は家裁の許可にかかるのと同様に、親権制限も最後は家裁が当否を判断しますから、
申立てという入口は子のために広く開かれていてしかるべきです)


 児童虐待防止法には、被害児童自身による通告規定がありません
 (この点は、子に親権制限の申立権が認められたのと歩調を
合わせて改められるべきでした。口頭での申立てであっても、録画によって記録に残し、正式な手続きに乗せられるようにする等、
早急に法改正をするべきです)


 したがって、児童虐待を防止する間接的方途になりますが、親権制限に関する子自身のこの申立権を活用し、或は
それを起点として、周囲が連携して親権制限と合わせ虐待防止の具体的方策を執らなければなりません。

 ですので
被害児童が実際にアンケート等具体的な場面で、しっかりと虐待等の具体的事実を踏まえ自らの虐待
被害
を述べて助けを求め対処の希望を訴えていればそれを受ける教師や教育委員会等の関係者関係機関は、
子が親権制限に関する申立てに繋がる自らの意思を述べているものとして、本人の申立てを補助すべきです。

 これら関係者・関係機関は、児童相談所への通告
(教職員には、児童虐待の早期発見に努め、虐待を受けていると思われる
児童を発見したときは通告する義務があります)
、警察への通報等相応の対処をするべきです。これを怠れば職務
怠慢の誹りを被るでしょうし、場合によっては国家賠償の対象とされるでしょう。

 そして、児童相談所長
(児童福祉法33条の7)検察官(民法834条835条)にも親権喪失等の申立権がありますので親権制
限・虐待防止・刑事司法の三方からこの社会問題に対して強力な連携体制を組むべきです。

 余りに非情で冷酷な児童虐待が頻発する現状に鑑み
親権を笠に着た親から被害児童を救済するため家裁 (子自身
による申立てが届けば、家裁が関係各機関の中軸となって子の救済に当たることが期待でき、特に家裁調査官の活躍に期待したいと思います)

・学校・児童相談所・警察・検察の各機関の連携が、実際に、子に対する一時保護や施設収容による保護
(さらには、
普通養子・特別養子制度や里親制度等も重要です)
と並行して、適切に親権喪失等の親権制限、司法による刑事罰等に至る
ことができるよう、緊密で強固な社会的体制作りが焦眉の急として求められています。


児童虐待防止の体制

 保護者による児童虐待を防止するため、平成12年に児童虐待防止法が成立し、その後数次の改正を経て今日に至っ
ていますので、同法による児童虐待防止体制のあらましを概観します。
 まず、児童虐待の定義です。保護者の児童
(18歳に満たない者)に対する、
              外傷を与えるような
暴行わいせつな行為、或いは、
              心身の正常な発達を妨げるような
著しい減食長期間の放置 等の他、
             著しい暴言
又は著しく拒絶的な対応

              
同居人による虐待の放置 等の監護の懈怠、
              児童が同居する家庭における
配偶者に対する暴力その他
              
児童に著しい心理的外傷を与える言動 
等がいずれも「虐待」とされます
(児童虐待防止法2条)から、児童に対する直接的な有形力の行使だけでなく、言語による
ものや、態度によるもの、或いは、放置等の不作為も広く虐待に含まれ得ることになります。そして、
 児童虐待防止法3条は、
  「
何人も、児童に対し、虐待をしてはならない。
として、法がこれを禁ずる旨を宣言します。
 児童虐待防止法14条2項には
  「
児童の親権を行う者は、児童虐待に係る暴行罪、傷害罪その他の犯罪について、
    当該児童の親権を行う者であることを理由として、その責めを免れることはない。

として、刑罰の警告規定が置かれています。
また、同法は、児童虐待を防止するための、
             保護者に対する出頭要求・質問、職員による住居への立入り、調査
(児童虐待防止法9条)等、
そして、それが拒否された場合の、裁判所の発する許可状に基づく、
             解錠して住居に立ち入ることのできる
臨検捜索(同法9条の3)や必要な処分(同法9条の7)
             警察署長に対する援助要請
(同法10条)等、虐待事案での介入やその態勢
等に関する規定を設けています。
合わせて、児童の安全と保護のため、必要があれば、
             児童の一時保護
(同法8条)
             保護者に対する児童への
(面会・通信・つきまとい・はいかい等)接近禁止(同法12条12条の4)
等ができるとし、
             禁止違反に対する刑事罰
(一年以下の懲役又は百万円以下の罰金)(同法18条)等も定めています
  なお、児童に実際に傷害等の被害が認められた場合は、刑事手続きが執られます。
その場合の想定される犯罪名と法定刑は下記のとおりです。
又、教職員、医師、福祉施設職員、弁護士、学校や病院、施設等、虐待を発見しやすい立場にある者の
             児童虐待早期発見の努力義務
(同法5条)
国、地方公共団体の施策に対する
             児童虐待の予防、防止、児童の保護、自立支援 協力義務
(同法同条)
が定められています。
また
、上記教職員等虐待を発見しやすい立場にある者に限らず

一般人にも、虐待を受けたと思われる児童を発見したとき
は、
             福祉事務所又は児童相談所に通告しなければならないとする
通告義務
も定められ
(同法6条)
国、地方公共団体に対する
             児童虐待防止のための体制整備・連携の強化・広報啓発等の各義務
規定
(同法4条)も置かれています。
上記通告に関しては、児童相談所全国共通ダイヤル「
189」に電話すると、発信した電話の市内局番等から当該地域
を特定し、管轄の児童相談所に電話が転送され、虐待の通告・相談ができる仕組みも作られました。
令和に入っての法改正につき、こちらもご覧下さい。
なお、親権者懲戒権に対する制約の経過についてこちらを、児童虐待防止アクションプランについてはこちらを、
同プランに沿っての
オレンジリボン運動についてこちらもご覧下さい。

児童虐待事案で想定される犯罪名と法定刑
 暴行罪 二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料
(刑法208条)
 傷害罪 十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金
(刑法204条)
 傷害致死罪 三年以上の有期懲役
(刑法205条)
 強制わいせつ罪 六月以上十年以下の懲役
(刑法176条)
 強制性交罪 五年以上の有期懲役
(刑法177条) 
 監護者わいせつ・監護者性交罪 現に監護する者であることによる影響力があることに乗じてした
                  わいせつ・性交は、上記わいせつ・性交の別による。
(刑法179条)
 保護責任者遺棄罪 三月以上五年以下の懲役
(刑法218条)
 
保護責任者遺棄致死傷罪 傷害の罪と比較して、重い刑により処断
(刑法219条)
 児童福祉法違反罪
 十年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、
             又はこれを併科(児童福祉法34条6号:児童に淫行をさせる行為)


児童の権利条約

 
平成の世の初め1989年(平成元年)児童の権利条約が国連で採択され、これを平成6年に我が国も批准して発効して
います。
 児童の権利条約19条1項は
 「
 締約国は、
     児童が 父母、法定保護者又は児童を監護する他の者 による監護を受けている間において、
    あらゆる形態の 身体的
若しくは精神的な暴力、傷害若しくは虐待、放置若しくは怠慢な取扱い、不当な取扱い
    又は搾取
(性的虐待を含む。)からその児童を保護するため
   すべての適当な立法上、行政上、社会上及び教育上の措置をとる。

と定め、また、同条2項は
 「
1.の保護措置には適当な場合には児童及び児童を監護する者のために必要な援助を与える社会的計画の作成
   その他の形態による防止のための効果的な手続
並びに 1.に定める児童の不当な取扱いの事件の 発見、報告
   付託
調査処置及び事後措置 並びに 適当な場合には司法の関与に関する効果的な手続を含むものとする。
としています。

児童の権利
 児童の権利が、児童の権利条約を受けて、「児童福祉法 総則」として宣言されていますので、ここに掲載します。

児童福祉法 総則

第一条 全て児童は
児童の権利に関する条約の精神にのとり適切に養育されることその生活を保障され
   ること
愛され保護されることその心身の健やかな成長及び発達並びにその自立が図られることその
   他の福祉を等しく保障される権利を有する。

第二条 全て国民は
児童が良好な環境において生まれかつ社会のあらゆる分野において児童の年齢及び
   発達の程度に応じて
その意見が尊重されその最善の利益が優先して考慮され心身ともに健やかに育
   成されるよう努めなければならない。

  2 児童の保護者は
児童を心身ともに健やかに育成することについて第一義的責任を負う。
  3 国及び地方公共団体は
児童の保護者とともに児童を心身ともに健やかに育成する責任を負う。

第三条 前二条に規定するところは
児童の福祉を保障するための原理であり、
   この原理は
すべて児童に関する法令の施行にあたつて常に尊重されなければならない。


防止体制の整備経過
 
そして、これらに基づき、平成12年に児童虐待防止法が制定され、
 平成23年には、児童の権利条約9条に沿う面会交流
(民法§766)親権停止の新設834の2)
        懲戒権に対する制限
820)、親権制限に関する前記子の申立権新設834§834の2§835)
 等のための民法改正が行われました。

 また、これと並行、前後して、
  乳児家庭全戸訪問事業等の子育て支援、
  虐待定義の具体化・明確化、虐待防止相談体制の強化、
  児童相談所長に対する親権制限のための申立権付与、
  警察署長への援助要請規定の新設、
  児童の安全確認のための調査立入等の権限強化、
  児童虐待通告義務の一般人適用等、

 数次に亘る児童福祉法、児童虐待防止法の改正もありました。

 さらに、平成28年には「しつけ」の限界を示しての刑罰による警告
(児童虐待防止法14条改正)まで加えられました。

 これら児童虐待防止のための体制整備があったにも拘わらず、
  平成最後の年に至ってさえ親による冷酷非情な虐待死の事件が頻発しているのを見、また、
  関係各機関の連携の欠如・不徹底、児童虐待防止のための砦となるべき
  児童相談所の手薄・弱体と理念・使命感の欠如という現実を見ると、
  平成は児童のための法律を作って、魂を入れなかった、児童受難の世でもあったのかと思ってしまいます。
 そして、令和に入って体罰を禁止する法改正等がありました。次項をご覧下さい。
 また、離婚後の共同親権も重要な論点と思いますので、こちらをご覧下さい。



体罰禁止(令和元年の児童虐待防止法等改正)体制強化
 親による子供への体罰を禁止し、児童相談所の体制強化を柱とする改正児童虐待防止法と改正児童福祉法が令和元年
6月19日、参院本会議で可決され、成立しました。
一部を除き令和2年4月から施行されます。
 親権者の「懲戒権」規定
(民法822条)については、施行2年後の検討をめどとして、法務大臣から法制審議会に 同規
定の削除や表現の変更も含め 見直しが諮問されました。


 平成30年3月に東京都目黒区で5歳の女児結愛
(ゆあ)ちゃん、翌31年1月には千葉県野田市で小学4年の女児心愛(みあ)
ちゃんが死亡するなど悲惨な事件が相次いだための法改正です。事件で明らかになった児童相談所等の不手際に対し、
抜本的な対策強化を図るべく、与党が野党との修正協議に応じる等して成立しました。
 改正法では、親権者や里親、児童相談所長・児童福祉施設長による「しつけ」としての体罰を禁止する旨が明文化さ
れました。

児童虐待防止法については、
 「
児童の親権を行う者は、児童のしつけに際して、
   民法第八百二十条の規定による監護及び教育に必要な範囲を超えて当該児童を懲戒してはならず、
   当該児童の親権の適切な行使に配慮しなければならない。
とある
同法14条1項を、第一項中の「際して、」の下に「体罰を加えることその他」を加え、「超えて」を「超える行
為により」に改められました
 
同条同項は、結局、
 「
児童の親権を行う者は、児童のしつけに際して、
   体罰を加えることその他
民法第八百二十条の規定による監護及び教育に必要な範囲を超える行為により
   当該児童を懲戒してはならず
、当該児童の親権の適切な行使に配慮しなければならない。」

となります。
児童福祉法においても児童相談所長、児童福祉施設長、里親らが 児童の福祉のため必要として執りうる監護・教育・
懲戒の措置に、
  「但し、
体罰を加えることはできない」との文言が加えられました(児童福祉法33条の2第2項47条3項)

 
なお、児童虐待防止法
14条2項には
  
児童の親権を行う者は、児童虐待に係る暴行罪、傷害罪その他の犯罪について、
    当該児童の親権を行う者であることを理由として、その責めを免れることはない。

として、
刑罰の警告規定が置かれています。

 これらにより、日本も、体罰を禁止する世界五十数カ国の仲間入りをすることになります。

 また、児童相談所が子供の安全確保を躊躇なく行えるように、子供を一時保護する「介入」と、
保護者の相談などに乗る「支援」とにつき、機能に応じて担当職員を分けて、介入機能の強化が図られました。

 また、上記修正協議の中で、再発防止のために虐待をした親権者らに
医学的・心理学的な知見に基づく指導を行うよう努めるとする規定等も取り入れられました。

 転居に伴う関係機関間の連携の悪さが指摘されていたことから、転居時にも切れ目なく支援が行われるよう、
転居先児相、関係機関間で速やかに情報が共有されるべきこと、合わせて、
ドメスティックバイオレンス(DV)の対応機関との連携も盛り込まれました。

 野田市の事件では
市教育委員会が虐待被害を訴える女児のアンケートの写しを加害父親に渡していたことが問題化
したため
学校や教育委員会、児童福祉施設の職員は守秘義務を負う旨の明文が置かれました。

 こうして、今は亡き純真無垢な幼女や少女たちの犠牲の上に、ようやく児童虐待防止の対策や仕組みが整ってきまし
たが、仏作って魂入れずで終わってしまっては尊い犠牲を無にしてしまいます。
親権者の皮を被ったモンスター人間が現れたときにどう対処するか、いたいけな児童を守って対峙できるだけの気概
と、結束し一体となった盤石な組織力を以て臨む必要があります。

 それにはまず、担当者の負担を軽減して事案に最大限注力できるよう、人員を増やすことが不可欠です。
 しかし、担当者だけに処理を預ける態勢では到底モンスターに太刀打ちできません。

 児童相談所全体で理念を共有し、法を拠り所にした強力な陣立てを常々構築しておくべきです。

 それには、学校・教育委員会、保育施設、病院、医者、保健所、役所、警察、裁判所等
いずれの機関も、児童虐待防止の、いのちを守る使命感を共有し、情報の交換・伝達を密にして、
児相とこれら関係機関 間の連繋・協力を強化し、児童をめぐる頻繁な転居や急速な事態の悪化にも対応できる、
全体として臨機即応性機動性を持った、毅然たる対処ができる体制とする必要があります。

 そうして、場合によっては、強制力を伴う措置や刑事司法も迅速に動員できる、
全体として揺るぎない強力な児童虐待防止陣容とするべきです。

 そのような陣にあってこそ一人一人の担当者も千万の味方を得た心強さでモンスターと対峙できる筈です。
 児童虐待防止対策の強化に関する資料をこちらでご覧下さい。



育児放棄(ネグレクト)
 社会がコロナ禍に喘ぐ令和2年7月、今度は
24歳のシングルマザーが3歳になる娘稀華
(のあ)ちゃんを8日間放置して、餓死させたネグレクト(育児放棄)による虐待
死事件が起こりました。
 この女性は養護施設で生育し、規定に従い18歳で施設を出た後、上京して結婚し、稀華ちゃんを産んだというもの
で、夫との円満な家庭が続けば、母子共幸せな日々だったろうに思うと残念です。しかし、彼女は、その後離婚し、
飲食店に勤めるうち、同僚の男性を好きになって、その者を追い九州に旅行する間長女を遺棄した、といいます。
 ドアをソファで塞いで3歳の力では到底開扉不可能な監禁状態とし、稀華ちゃんが飢餓と激しい脱水で亡くなった
その部屋はゴミ屋敷のようとの報道もありますから、子の心などかけらも頭にない親の行状です。
 このようなことが起こり得るのか、信じられない 鬼畜の振舞いと言うべきですが、彼女自身の生育史も、8歳の時
に、救出されなかったら命にかかわっていたと言われるほど凄惨な虐待を受けて、両親が逮捕され、彼女は施設に入
ったという、愛とは縁のないものだったようです。
 また、稀華ちゃんは3歳児健診も受けていなかったそうで、そのような機会に、児の健在をしっかり確認できる、
血の通ったきめ細かな児童福祉行政でなければならないと思います。

 総じて、為政者は、児童の権利条約19条1項に
 「締約国は、・・児童を保護するためすべての適当な立法上、行政上、社会上及び教育上の措置をとる。
とあることを、さらにさらに強く銘記し、厚生労働省・児童相談所・保健所・社会福祉課・学校教育機関・医療機関・
警察等すべての関係機関が、一丸となって、児の安全・安心のための情報を共有し、連繋をとって、強力に児童の命
を守り、育てる体制を一日も早く確立しなければなりません。
 二極化した格差社会で若者の結婚も容易でない状況下、ようやく生まれ来たった子供たちが、安全・安心な温かい
生育史を辿れない社会では、国の将来はありません。若者の幸せな結婚を支援・保障し、安心・安全な子育て環境を
整備・確保することこそが国全体の希望へと繋がります。
 なお、稀華ちゃんの母のような子育てで苦境に陥った若い女性には、その心情に沿った支援が必要です。
 その視点から瀬戸内寂聴さんや村木厚子さんらの協力で立ち上がった
若草プロジェクト(Lrttle Women Project)」は、
注目すべき存在であり、公的体制の整備・強化が早急に行われるべきことと合わせて、それを補完する大変意義のある
NPO活動として讃えられ 支持されるべきです。





   親権者しつけとばかり 

       えて
822 822

   懲戒
  虐待、傷害(等)

            罪着 刑事判事
822うべし





    
834かるべきなのに
 
         子供虐待
かねたら

     いちはやく
189189電話して、

           防止一役
189いましょう。


189」は児童相談所全国共通ダイヤルです。




結婚 ( 婚姻 ) の手続き 
両性の合意:同等の権利・相互の協力
 
一般に「結婚」と言われますが、法律の用語としては、「婚姻」と言います。国の根本法規である憲法にも、
   「
婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、
       
相互の協力により、維持されなければならない。(憲法24条1項)
とあります。そして、この文章に結婚についての核心が含まれています。
 条文にある様に、婚姻は、憲法上「両性の合意」という内心の意思の合致としてのみ規定され、法的な外形を定め
ない表現となっています。一般には
結婚に至る過程として結納とか婚約指輪とかを順に交わし、最後に結婚式
を挙げて新婚旅行という様に各種イベントが順を追った手続きのように践まれますが、それらもその「両性の合意」
が、まじめで真実なものであることを社会的に証明する手立てとして践まれているに過ぎません。又
この条文では、
昔は例えば、結婚には家長の同意がなければならないというように「家」制度を守るための制約があったりしました
が、他の目的のための制限を受けることなく、「
両性の合意のみに基づいて」自由に結婚できることが謳われ、婚姻
が、夫婦の、法の下の平等と協力によって維持されるべき旨が示されています。
個人の尊厳・両性の本質的平等

 
その上で、憲法は、その24条2項
  「
配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻に関するその他の事項に関しては、
      法律は、
個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。
として、指導理念を示した上、具体的な手続きについては法律に委ねています。

 そして、それに沿い、民法が婚姻の為の諸規定を置いている訳ですが、例えば
男女の婚姻年齢は男が18歳、女は
16歳
 (民法731条)男女で異なり(男女間の肉体的成熟度の差異によるとされていました)、又、成人年齢が20歳(民法4条)なので、
未成年の婚姻については父母の同意を要する (民法737条)とされる等、やや男女間での不平等と、父母から自由でない
感の残る定めとなっています。

民法改正:婚姻・成人:18歳
 しかし、この度、平成30年の民法改正により、その731条が改正されて、改正法の施行日である
令和4(2022)年4
月1日からは、婚姻年齢が男女ともに18歳
となり、民法4条の成人年齢も18歳となりますから、制度上 未成年者
の婚姻自体がなくなり、ひいて婚姻のための父母の同意もあり得ないこと
となります (そして、不適法な未成年婚は744
による婚姻取消しの対象となります)


具体的手続き
 
具体的な結婚の手続きとしては、民法739条が、
婚姻は、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その効力を生ずる。
とし、また、同条2項が、その
届出は当事者双方及び成年の証人二人以上が署名した書面で、又はこれらの者から口頭でしなければならない。
と定めます。さらに、戸籍法29条33条74条、戸籍法施行規則56条が届出書の記載事項を定めています。
ですから、
婚姻届けは、提出前に予めしっかり確認し、記載漏れ、誤記等のないようにしなければなりません。
 こうして、婚姻は、婚姻届けにより、その日に成立します。結婚式を挙げた日ではありません。婚姻届けには、

成人の証人二人
(以上)署名押印が必須です。
 婚姻届け
の際は、婚姻当事者二人の内のどちらの氏を
夫婦の氏とするかを決めなければなりません(婚姻改氏)
                                
(戸籍法74条1号)
(→旧姓併記制度)
そして、どこを夫婦の本籍地とするかを決め、以後は、氏を改めなかった者がその新しい戸籍の筆頭者となります。
 
上記の条文にある様に、婚姻届けは口頭でも可能ですが、その場合、当事者二人と証人二人の計4人が出頭しなけ
ればなりませんし、各人の本人確認をした上、口頭で必要事項を述べなければなりませんから 時間がかかります。
書面による届出は、本人が提出する
(一人での提出が可能です)ほかに、郵送でも可能ですし、本人の使者として他人が提出
することもできます。
 本人がする場合も、他人が提出する場合も、提出者の身分証明により誰が提出したかを明らかにし、他人の提出に
かかる届出であると判明したときは、役所戸籍係から本人に通知が行くことになっています
(戸籍法27条の2)
 他人が虚偽の届出をした場合は、公正証書原本不実記載罪
(刑法157条)により処罰され、婚姻は無効です。
                                    (この婚姻無効の対処はなかなか大変です→婚姻無効)
 虚偽の届出がなされる恐れがあるときは、役所戸籍係に予め不受理の申出をしておくと受理されずに済みます
                                  
(戸籍法27条の2)
 郵送された届書は、本人が死亡した後でも受理しなければなりません
(戸籍法47条)
 日本人同士で外国で挙式し
届出するときはその国にある日本領事館又は大使館に届出します(民法741条)
                                            (→国際結婚の届け)
 婚姻届けは、婚姻障碍がないことが確認されないと受理して貰えません(民法740条)。婚姻年齢に達しているか、重
婚でないか、近親婚に該当しないか、再婚禁止期間での再婚ではないか等、障害事由の有無が審査され、障害事由が
ないことの確認を経てはじめて受理されることになります。
(尤も、実質的な調査はなく、形式的審査にとどまりますから左程時間はかかりません)
 そして、この審査に戸籍係のミスがあっても、ひと度「受理」があると、一応有効となり、婚姻障害を理由として
婚姻を取り消すためには、家裁に婚姻取消しの請求をしなければなりませんから、厄介です。
(不適齢婚等で、その後適齢に達し、一定期間が経過する等、一定の条件の具備により取消権が消滅するものもあります)
 婚姻取消しの判決が出ると、婚姻は、判決確定の日から将来に向かって取り消されることとなります。それまでは
婚姻が継続するので、結果的には、離婚とさほど変わらないと言えます。




婚 姻
 婚姻を辞書で引くと、1.「結婚すること、夫婦となること」、2.「男女の継続的な性的結合と経済的協力を伴
う同棲関係で、社会的に承認されたもの、法律上、両性の合意と婚姻の届出によって成立する」
(大辞泉)とあります。
 定義としては、2.の前段が本稿のこの場所には相応しいと思われますが、憲法にも、民法にも、婚姻はどうある
べきかについての各種の定めはあっても、「婚姻とは」についての定めはありません。結局、婚姻の成立要件や、婚
姻に伴う権利義務によってその内包を想起・想定する他ないということになります。
 しかし、その内の核心的なファクターだと思われる「婚姻意思」について、判例
(最判昭44・10・31)では
 「
真に社会観念上夫婦であると認められる関係の設定を欲する効果意思
であるとされ、当事者にこの意思の合致がない場合は婚姻が成立したと言えないとされます。これですと、むしろ上
記1.の定義に拠った、内容的には、「夫婦」の一語に尽きている表現と言えます。

 そして、その後の判例
(最判62・9・2)では、
「婚姻の本質は
両性が永続的な精神的及び肉体的結合を目的として 真摯な意思をもって共同生活を営むことにある」
と述べていますから、この
両性の永続的な精神的及び肉体的結合私なりの、婚姻に伴う権利義務の要約から肉付
けをして婚姻の実質を浮上がらせるやり方はできないものかと思います。それにしても、上記2.の最初の方の「性
的結合」、そして判例の言う「精神的・肉体的結合」は最も根本的・原初的で欠かせない要素です。これに「互いの
貞操義務を伴う継続的ないし永続的な」という修飾語が付いて、はじめて「婚姻」のコアと言えるのではないでしょ
うか。貞操義務についてはこちらをご覧下さい。

 私は、ここで、相続における「融合同一化
(私の私見で恐縮です) に思い当たりました。それが相続人に無条件の財産
承継を容認する根拠である
(と愚考します)様に、婚姻においては、婚姻当事者両名の遺伝子が融合して新たな遺伝子を
創造する様に「
融合創一」が起こるのでありそれが互いの 欠かせない存在としての互敬と無償の愛との源泉と
なって、これこそが婚姻に広範かつ重要な権利義務が付与・賦課される根拠となります。
 結合において起こる融合創一では、父母が23本ずつの染色体を提供し合い、子は、父母の遺伝情報を半分ずつ受継
いで、46本の染色体を持って生まれます。この結合において父母の遺伝子は、性染色体による性差はあっても
その
価値の上下は全くない、対等・平等の役割を果たします
(→互敬平等と実質的平等)

 ところで、その「結合」は、昔は、辞書や判例が言うような「継続的」や「永続的」ではなく、「終生的」結合と
解されていた
 (民事法学辞典「婚姻」) のですが、今は離婚も大変に多くなり、そう定義することができない現状である、
というのが一般の理解なのかも知れません。

 しかし、結婚式では今でも誓詞等としてその趣旨が必ず述べられますし、私個人としては、婚姻結合は、「終生的」
で、かつ、これに貞操義務が伴うことが根本属性ではないかと思います。少なくとも、結婚の際にその「意志」がな
ければ「婚姻意思」ありとは言えないと思います。ですので、婚姻を以下に述べる権利義務を伴う「
夫婦ないしカッ
プル
として社会的承認を受けた対の二人の終生的互敬貞操結合」と集約して表現してよいと思います。
 ここで、「終生的互敬貞操結合」の目的であり、結果であり、かつ、その推進力・影導力
(ようどうりょく)となる「融合
創一」は、かつ「融合操一」でもあることとなります。「操」は、「みさお」です。駄洒落になりますが、貞操を守
って、ただ一人に添うのですから
添う一」でもあります。換言すればどこまでも互いを信じ合う「終生的互敬
信頼結合
」です。
 したがって、夫婦が、融合創一の働きにより子を儲けたとき、母子関係は懐胎・出産の事実によって既に固い絆で
結ばれていますが、父子の間にも「終生的貞操
(信頼) 結合」有るが故の絆が結ばれて、ここに 一点の疑いも入らない
嫡出子」を挟んだ家族
(ファミリー)が生まれます(→嫡出推定夫婦親子同氏の原則)

 なお、「カップル」を「夫婦」に加えたのは以下の意味です。判例(最決平25・12・10)が、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に
関する法律
(3条1項)に基づき男性への性別の取扱いの変更の審判を受けた者とその妻との間において、「妻との性的関係によって
子をもうけることは およそ想定できないものの、一方でそのような者に婚姻することを認めながら、他方で、その主要な効果で
ある民法772条による嫡出の推定についての規定の適用を、妻との性的関係の結果もうけた子であり得ないことを理由に認めな
いとすることは相当でない」と判示して、その両名間の
(生殖医療による)子の嫡出推定を肯認しました。
 つまり、従来婚姻に本質的と考えられてきた「性的結合」は、時代の変遷に伴い、必ずしも本質的ではなくなってきています。
 性同一性障害の人にも終生的互敬貞操結合は成立し得るし、成立したときは、それを婚姻と認めるべきです。そのような現在、
「婚姻」を論ずるにおいては、この様な「カップル」も含めて考えなければならないと思います。また、後記の「内縁」で述べる
ように「結合」にも実に多種多様な態様が実在する状況があるので、その現実を踏まえて、「婚姻」のコアを終生的互敬貞操結合
に収斂させるときは、それら各要素もカップルの範疇に取り入れてよいのではないかと考えました
(→同性婚)。そして、この判例
によって、婚姻と嫡出推定の強固な結付きが明らかとなったと言えますが、これについてはこちらをご覧下さい。


 
そして、これに本稿の冒頭に出ました同居・協力・扶助(民法752条)の義務 (不貞が離婚原因(民法770条)の一つとしてある
ことの反対解釈以外、正面からの明文はありませんが ) 
貞操義務が伴うことになります。同居・協力・扶助の内では、
協力」が重要です。これは、他人同士がオフィシャルに協力し合う態様のものではありません。
 夫婦がそれぞれの自我を「融合」させることによって、夫婦が一体化した協力でなければなりません。
「創一」は夫婦一体の協力を意味するものでもあります。何を協力するかと言えば、
親権
(民法818条833条)と扶養(民法877条881条)です。

 
親権は、二人が子を授かった場合は、という条件付きとなりますが、子の利益の為の監護教育(民法820条)を柱とす
る重い責任を伴う重要な権利義務であり、二人共同して互いの間同様、無償の愛をもって取り組まねばなりません。
 法律的には
「夫婦互いの間同様に」と言うことですがそもそも婚姻の目的であり影導力である融合創一は、
子に関わる「創」でしたから、実際上子に対しては、全く見返りを求めない、真の意味の「無償の愛」である筈です。
身を犠牲にしてでも子を愛すというあり様は、昔の言葉「愛は惜しみなく奪う」で表されています。「しみじみと
かわいい」を古語では「かなし」と言うそうですが、子への愛は、親の我(が)を超えた
(我欲を満たしたいだけの感情や衝動
とは無縁の)
ところの、悲しくなる程にいとおしい思いであろうと思います(→守操一体の愛)(→同氏原則・嫡出推定)

 
扶養は、いわゆる生活保持義務互いと子に対して同種同量同等の暮らしを保持しなければなりません。
そして、ここでも、法的判断とは別の実際生活においては、子に対しては、自らは食さなくとも、子には与える親心
がある筈です。ですから、前述の「婚姻意思」の情的内包としては、これらの権利・義務を、享受し受け容れる決意、
万難を排しても
「融合創一」で「共白髪」の夫婦道(めおとみち)を生きぬく強い意志が伴わなければならない筈です。
夫婦の間においては、特別な合意で、敢えて同種・同量・同等ではない暮らしをすることがあり得るとしても、意に反
して異種・異量で差等ある暮らしを強いられることはあってはならず、そのような場合は権利としてそれを求めるこ
とができます。

 以上要するに、冒頭の辞書における定義の2後段に沿えば、法的な「婚姻」の成立には、
  「
終生的互敬貞操結合を結ぶとする当事者二人の 意思の合致 と それに対する社会的承認
を要すると言うことができます
 

 そして
以上であるとすれば婚姻は、それを始めることに婚姻を婚姻たらしめる実体があるのではなく、それを
築いていく過程にこそ婚姻の実体があると言えます。つまり
以上から明らかな様に「婚姻」にはそれを維持
続するための智惠と忍耐が当然 必要であり、又、自己犠牲も伴います。それらは、配偶者を得、子を授かり、家庭が
できるという人生の幸福を手にするためのステップではあるものの、婚姻に必ず伴うものです。ですから、「婚姻す
る」ということは、人生の幸福に向かうスタート台に立ち、誰からも祝って貰えることですが、それと共に、合わせ
て「智惠と忍耐と自己犠牲」を身に受け
覚悟することでもあるのです。それが上記「互敬信頼結合」と表裏一体
となって
婚姻の真の実体をなします。この実体の峻厳な重みを深く認識しなければなりません。覚悟なく軽率に
結婚し、子を授かりながら、小さな諍いから離婚に直結する様なことは、子の悲しみを招くだけであり、人の道に叶
うことではないと深く銘記するべきです
(→「離婚」)

 そのような「婚姻」であるからこそ、その法的効果として、互いの相続権
(民法890条900条) ( 相続での法定相続分は、
子供がいる場合半分ですが、配偶者以外相続人がいない場合は全財産を継ぐことになります )
 が社会的に約束されますし、
居住建物を有する夫婦には
伴侶亡き後も居住に難儀しないよう終身無償の配偶者居住権が新たに制度化されて
偕老同穴による婚姻の完結も約束されました。同じく新たな制度として、夫婦として二十年以上連れ添った配偶者に
居住資産を譲る場合は、特別に、相続枠とは別枠で譲ることを許す
(残余の他の財産を相続分で取得することができます)
のも、婚姻の偕老同穴効果です
(→特別受益と配偶者居住資産)

 仮に不幸にして離婚に至った場合でも、「終生的」協力を誓った以上、元伴侶の生涯の生活に資するべく、それ迄
夫婦別産制
(民法762条)の下に潜在化していた「融合創一」が財産分与(民法768条)として具現して、その時点での全財産
の半分を分与すべき強い義務が伴うことになります 
(私見)。なお、夫婦の平等についてこちらもご覧下さい。

 又、「社会的承認」とは要するに、上述した、婚姻法秩序の上で婚姻に伴い認められる広範な権利と当然に課され
る重い義務とを発生させる契機とするべく制度化された公的承認事務のことであり
現行法上は端的に 婚姻届け
(民法739条)ということになります。したがって、現行法上、婚姻届けが不可能な結合、或は、敢えて届出をしない結合
をも含め、届出のない結合については、婚姻として扱うことはできず、それらは内縁ないし準婚として別に論じられ
ることとなります。なお、夫婦親子同氏の原則については、こちらをご覧下さい。


 
最後に本項の趣旨を要約をすれば、婚姻の本質は「終生的互敬貞操結合」であり、その期するところは「融合創一」
です。家族の長い道のりで、途中この婚姻のコアからしばし逸脱するのやむなきに至っても、帰する所は「融合創一」
であるとの意志さえ維持できれば、「互敬と無償の愛で協力する」ことにより乗り越えられる筈です。

 ですから、婚姻が成立するための主観的要件としての婚姻意思は、この「終生的互敬貞操結合」意思であり、客観
的要件は
社会的承認としての婚姻届けです。婚姻届けの際この婚姻意思があれば婚姻は有効に成立します(但し、
後記の様に、重婚、禁期、近親婚等の婚姻障碍があれば、婚姻届けが受理されませんから、これらは消極要件となります)
。そして、婚姻意
思がその後失われたとしても
有効に成立した婚姻に影響はありません。失われた意思が復活することもあり得ます
その意思状況に沿って、離婚に向かうか否かは当事者の意向次第です。なお、こちらもご覧下さい。
 本稿は、これらについて、以下に条句を交えながら述べ及んで行きたいと思います。



婚姻届等 ( 婚姻要件 )
 憲法24条は、婚姻を、「両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相
互の協力により、維持されなければならない。
」と定めますが、これを受けて民法739条1項は、「婚姻は、戸籍
法の定めるところにより届け出ることによって、その効力を生ずる
」としています。
 ですので、婚姻は、夫婦となるべき男女の合意
( 婚姻意思 ) に裏付けられた婚姻届けによって成立し、これによっ
て法の認める各種の権利義務が生じることとなります。

 そして、この届けについては、民法739条2項が、「
届出は、当事者双方及び成年の証人二人以上が署名した書面
で、又はこれらの者から口頭で、しなければならない。
」とし、更に、戸籍法27条29条33条74条が届出書
の記載事項を定めています。

 そして、婚姻は、国民生活の根幹たる家庭の秩序に関わる事柄なので、法の定める方式を践まなければ、その効力
を認められない
要式行為です。

 また、婚姻には、例えば、嫡出推定の重複を避けるための
待婚期間(民法733条)婚姻年齢(民法731条)重婚(732条)・
近親婚
(734条736条)の禁止等、公序良俗、慣習、倫理ないし社会規範として存続する各種規制からくる障碍事由があ
り、これらの
婚姻障碍をクリアすることも婚姻要件とされますから、クリアしないと婚姻届けを受理されず、誤って
受理された場合は、婚姻が取り消されるという制約も伴います。

 しかし、上記憲法にもあるように両性の婚姻意思の合致こそが重んじられるべきですから、財産行為における様な
能力による行為制限はあってはならないので、
( 財産行為の行為能力に欠ける ) 被後見人であっても、婚姻能力がありさえ
すれば婚姻することができます
(民法738条)

 ですから、
婚姻要件を教科書的に列挙すれば、婚姻能力ある男女による、婚姻意思の合致に基づいて、婚姻障
碍を伴うことなく、婚姻届けがなされること
、と言うことができます。そして、ここでの「婚姻意思」は、前述し
ましたように「終生的互敬貞操結合」意思です。

 婚姻届けの実際についてもう少し詳しくはこちらをご覧下さい
(→旧姓併記制度)。また、国際結婚の婚姻届けについて
こちらをご覧下さい。


 
婚姻は、要式行為なので、婚姻の届出を欠いた夫婦は、内縁として事実上の夫婦生活は存続し得ても、原則 婚姻の
効力は認められません。 
 そして、一口に内縁と言っても、昔多く行われた「足入れ婚」がそうであったように、ただ子ができるのを待って、
或いは、最近では互いの相性の確認ができるのを待って、いずれ正式な婚姻に移行するというものから、最近ときに
散見される夫婦同氏を嫌い別姓の法制化を待つ内縁、或は、婚姻障碍を伴う故の内縁、LGBT同士のカップル等々、
いわゆる内縁から準婚、事実婚、敢えて「婚姻」の形をとらない非婚等、実に多種多様であり、その典型的婚姻から
の乖離度も様々です。したがって、これらを一括して論じることはできず、個々のケースごとにどのように対処すべ
きかを考えなければなりません。

 しかし、このようなとき、「婚姻」について考察した際の最後の論点「社会的承認」という条件は、意外に大きな
要素になるのではないでしょうか。
 つまり、婚姻に伴う権利義務の広範かつ重要なことに照らせば、それは社会的承認という条件が具備されて初めて
付与される社会的効果であると言えます。
 例えば
法定相続分も離婚に伴う財産分与も年金分割も「婚姻」の形式を満たさなければ認められません。
 財産分与については異論もあるところでしょうが、内縁破綻時の財産処理については、
(両名の所得や家計の状況等を見た
上での具体的判断ですが、)
共有と認定・推定できる部分についてのみ共有物分割で処理するのが本来で、内縁に、私が離婚
時の財産分与について言う「夫婦の全財産の等分」という効力を持ち込むことはできないからです
(但し、判例は、傍論的
に内縁にも財産分与を認める可能性を示唆しています)


 
それでも、婚姻意思に基づく事実上の夫婦生活があるという場合については、生別・死別のそれぞれの際、なるべ
く事実に沿った法効果を認めようとする努力が払われてます。生別の場合についてはこちらを、死別の場合について
こちらをご覧下さい。

同性婚について

 本日
(平成30年11月14日)、同性婚を認めるべき、として来春複数の地裁に訴訟が提起されるとの報道がありました。世
界の多くの国で同性婚が認められつつあり、いよいよ我が国にもその潮流が及んで来た感があります。私も、従来漠
然と、日本国憲法24条に「
婚姻は両性の合意のみに基いて成立し」とあるのは、男女婚を当然の前提としている故、
同性婚は認められないものと考えておりました。

 しかし、関係論文等を読み、よく考えてみると、この憲法24条の規定は、新憲法以前における男女の不平等を、
憲法14条が国民の法の下の平等を明定したことから、殊に
 ( 妻は無能力であり、夫の管理・収益に服する。又、妻にだけ姦通罪があ
る等 )
 不平等が顕著であった婚姻において不平等を是正し、合わせて、婚姻当事者以外の戸主や在家の父母が当事者
の成人後も当事者男30歳まで、女25歳まで婚姻に対する同意権を有する等、当事者以外からの掣肘も厳しかった為
それらも取り払うべく置かれたものではないかと思うに至りました。同条は、婚姻は男女によってのみ成立し得る
と限定する趣旨など念頭になく置かれたもので、婚姻において顕著であった男女の不平等の是正と婚姻の自由の保障
にこそ その眼目があったのではないでしょうか。

 つまり、同条は、婚姻の自由を宣言し、婚姻は、平等・対等な当事者の婚姻意思の合致にその本質があることを明
定したもので、同性婚を禁じる等の婚姻における性構成を規制するために置かれた規定ではないのです。

 今、学童・生徒間の陰湿ないじめが社会問題となり、悲劇的な自殺が多発しています。そのいじめや差別の口実と
されがちなのが、LGBTや性同一性障害等のその人自身では変えることのできない生来の資質です。このいじめを
はじめ、職場や営業現場等での理不尽で非道なハラスメント、或は、後を絶たない痛ましい児童虐待等に対しても、
前記法の下の平等、並びに、個人の尊厳・幸福追求権
(憲法13条)を、広く学童・生徒ら、そして職場上司、子の親等を
含む国民全体に明示して、国民一人一人の尊厳と幸福追求権を守ることに繋げることこそが、今、憲法自体が真に求
めていることではないでしょうか。

 そのためにも、今このとき、「終生的互敬貞操結合」が認められる同性婚には「社会的承認」を与え、婚姻として
の法的効果を付与することが、この様に個人の尊厳が置かれた劣悪といえる状況下で、憲法のため真になすべきこと
だと考えます。

 但し、本来の婚姻には、男女の自然本来的結合である故の、生殖と出産を伴う「終生的」属性の保証がありますが、
同性間結合のどのような点にその保証を求めることができるかは、やはり、一つのネックとなりますし
(ただ単に婚姻届
をすれば足りるとすることはできず、一定の事実的・時間的蓄積を要すると思われます)
、その社会的承認には、上記性同一性障害者の
性別の取扱いの特例に関する法律によって性別取扱い変更審判を受けたカップルの事例の様に、何らかの立法措置を
講じて、上記の様に多種多様な他の内縁等の事例と明確に区別でき、安定した法運用が図られるべく、早急に周到な
準備をしなければなりません。


 そこで、愚説によれば、終生的互敬貞操結合が婚姻の本質であり、夫婦と子との守操一体の愛こそが家庭生活におけ
る無償の愛の根源であることに照らせば、同性婚が社会的承認に至り得る一つの要素として、同性婚当事者が特別養子
を迎え、実子同様に愛育する事を考えてはどうかと思います。その場合の「氏」の関係等についてこちらもご覧下さい。


内縁子の氏と戸籍

 
内縁夫婦に生まれた子は、嫡出推定(民法772条)を受け得ない非嫡出子となります。非嫡出子は、母が出生届けをして
(戸籍法52条2項)、子は母の氏を称し(民法790条2項)、母の戸籍に入ります。そして、その出生届け、戸籍には、父親の名
は記載できません。父親の名を記載するためには認知を要することになります。

 父親が任意に認知せず、認知の訴えとなった場合、かつては父親側から「多数当事者の抗弁」が提出されると、母
親の「父親以外とは性的交渉がなかつた」との主張が容易に覆されるという原告側に不利な判断が行われました。

 しかし、判例
(最判昭29・1・21)はその後、「
内縁の妻が内縁関係成立の日から二百日後、解消の日から三百日以内に
分娩した子は民法第七七二条の趣旨にしたがい内縁の夫の子と推定する。
」として、内縁にも民法772条嫡出推定
を類推適用し、内縁懐胎を認めました。これにより、事実上立証責任の転換が図られ、今日に至っています
 ( 尤も、
今日ではDNA鑑定によって親子関係の立証は遙かに容易になったと思われます )


 従って、夫婦として生活し、婚姻届を出していないだけである事実婚夫婦であれば、嫡出推定の及ぶ期間中の妻の
懐胎子はその夫の子と推定されます。なお、内縁の子の父母が婚姻し、その子の出生につき婚姻の日の前後を出生日
とする嫡出子出生届がなされれば、婚姻時からの嫡出子となります。婚姻前の出生であれば、「認知準正」による、
婚姻後の出生であれば、「推定されない」、嫡出子となるからです。
 前者についてはこちらを、後者についてはこちらをご覧下さい。出生届けについてはこちらをご覧下さい。


 
なお、私は、当初から婚姻を予定していた内縁であれば、子を授かったこの時点で、子の出生と婚姻とを、母親側
から、母親を戸籍筆頭者として、届け出ることができる制度を設けることを提案しています。こちらをご覧下さい。



婚姻意思
 上述来の「婚姻意思」については、婚姻には、当事者間に真に社会観念上夫婦であると認められる関係の設定を欲
する効果意思
が存在することが必要である旨判示し、当事者間の子に嫡出子としての身分を与える目的のみで届けら
れた当該婚姻を無効とした判例
(最判昭44・10・31)があります ( これは、民法742条に言う「当事者間に婚姻をする意思がないとき」に関す
る判例です)

 類書には、この判例を引いて婚姻意思を説くものもありますが、この判例は、判示のいわば方便婚姻を否定するこ
とに力点があって、婚姻意思の内包を考究したものではありません。ここで、私が上述来の考察から婚姻意思を述べ
れば、「
社会的承認を得て、終生的互敬貞操結合を、設定しようとする意思」ということになります。もっとも、婚
姻の成立要件を、主観的要件と客観的要件に分けて論ずるとすれば、その主観的要件は、正に「終生的互敬貞操結合」
意思であり、客観的要件は、「婚姻届け」です。そして、これに、消極要件として、「婚姻障碍が伴わないこと」が
加わります。


 ここで、以上の婚姻関連条文をまとめると、婚姻成立の要件である婚姻届に関する民法739条740条、そして
姻能力
に関する738条、各種婚姻障碍に関する732条737条婚姻無効に関する742条、ということになります。
その他、縁組、離婚、離縁等、各種戸籍届けに関する定めに関しては、こちらもご覧下さい。


 
婚姻は、婚姻届けによってその日成立します。結婚式を挙げた日ではありません。婚姻届けには、成人の証人二人
の署名押印が必要です
739)。未成年者の婚姻には父母の同意が必要です737)が、平成30年の民法改正により、令
和4
(2022)年4月1日からは、婚姻年齢・成年年齢が18歳になることに伴い、制度上 適法な未成年婚 自体がなくなり、
父母の同意は想定外で不要となります。未成年婚は、民法744条により取り消される運命となります。
 婚姻届けは、婚姻障碍がないことが確認されないと受理して貰えません
(民法740条)。婚姻年齢に達しているか、重婚
でないか、近親婚に該当しないか、再婚禁止期間での再婚ではないか等の障碍事由の有無が審査され、障碍事由がな
いことの確認を経てはじめて受理されることになります。




 
人生
739結婚

  
(事者)二人
   
  
証人二人んで 
(婚姻)してこれで成立

      
(舞台は)さく739も、れの門出

         
(人生の)並木路739Ⅱ




 婚姻届

   双方証人二人


      
()()書面口頭

     けして難産ここに
739Ⅱ結実




  (婚姻) 難所740

    
さい731から、しなさんな737 七箇条

   
ったで、難避
(ため)739Ⅱ

       
証人二人(書面でも可)

      
その法令違反もないとめられねば、受理されぬ



臨終婚について
婚姻届けの届書作成とその受理の間に当事者の一方が昏睡状態に陥って、受理後間もなく死亡したとしても、
婚姻は有効に成立したと解し得るとした事例判例
があります。

判例①
事実上の夫婦共同生活関係にある者が、婚姻意思を有し、その意思に基づいて婚姻の届書を作成したときは、届書
の受理された当時意識を失つていたとしても、その受理前に翻意したなど特段の事情のないかぎり、右届書の受理に
より婚姻は有効に成立する旨を判示した判例
(最判昭44・4・3) 

 この判決は、その判文で
「原判決の確定した事実によれば、本件婚姻届は、訴外Dが昭和四〇年四月五日午前九時一〇分前後に盛岡市役所に
持参し、係員に交付して受理されたものであり、 一方、Eは、昭和三九年九月頃より肝硬変症で入院していたが、昭
和四〇年四月三日頃より病状が悪化し、同月四日朝から完全な昏睡状態に陥り、同月五日午前一〇 時二〇分死亡する
に至つたというのであつて、原審は右の状態の下における届出は意思能力ない者の届出として無効であるとしたので
ある。

 しかしながら、本件婚姻届がEの意思に基づいて作成され、同人がその作成当時婚姻意思を有していて、同 人と上
告人との間に事実上の夫婦共同生活関係が存続していたとすれば、その届書 が当該係官に受理されるまでの間に同人
が完全に昏睡状態に陥り、意識を失つたと しても、届書受理前に死亡した場合と異なり、届出書受理以前に翻意する
など婚姻の意思を失う特段の事情のないかぎり、右届書の受理によつて、本件婚姻は、有効 に成立したものと解すべ
きである。

 
もしこれに反する見解を採るときは、届書作成 当時婚姻意思があり、何等この意思を失つたことがなく、事実上夫
婦共同生活関係が存続しているのにもかゝわらず、その届書受理の瞬間に当り、たまたま一時的に 意識不明に陥つた
ことがある以上、その後再び意識を回復した場合においてすらも、 右届書の受理によつては婚姻は有効に成立しない
ものと解することとなり、きわめて不合理となるからである。

 
しかるに、原判決は、婚姻届受理当時、Eが完全な昏睡状態に陥り意思能力がなかつたことが明らかであるといい、
その一事を前提として同人には婚姻をなす合意があつたとはいえず、本件婚姻は無効であると判示したものであるか
ら、原判決は、所論のように、法律の解釈適用を誤つた違法があるものといわなければならない。

 したがつて、原判決は、破棄を免れず、本件婚姻届が Eの婚姻の意思に基づいて作成されたか、その後届書が受理
されるまでに翻意する など婚姻の意思を失う特段の事情があつたかどうか等の各点につき、さらに審理の 必要あるも
のと認め、本件を原審に差し戻すのを相当とする。」と述べています。

判例②
将来婚姻することを約して性的交渉を続けてきた者が、婚姻意思を有し、かつその意志に基づいて婚姻の届書を作
成したときは、かりに届出の受理された当時意識を失つていたとしても、その受理前に翻意したなど特段の事情のな
いかぎり、右届出の受理により婚姻は有効に成立するものと解すべきである旨判示した判例
(最判昭45・4・21)

この判決は、その判文で
「将来婚姻することを目的に性的交渉を続けてきた者が、婚姻意思を有し、かつ、 その意思に基づいて婚姻の届書を
作成したときは、かりに届出の受理された当時意識を失つていたとしても、その受理前に翻意したなど特段の事情の
ないかぎり、右 届書の受理により婚姻は有効に成立するものと解すべきであり、本件婚姻届書の作成および届出の経
緯に関して原審の確定した諸般の事情のもとにおいては、本件婚姻の届出を有効とした原審の判断は相当である。」
と述べています。

 上記
二つの判例を比べると、いずれも婚姻届けの受理時点では、届出人が意識を失っていたが、届書作成時点では、
意識があり
婚姻意思を以て婚姻届けを作成してその後受理迄の間に婚姻を翻意した事情もないというものでした。

 受理時点での意識喪失が
婚姻の成立を妨げるか否かが争点となりましたが結論として、いずれも有効に成立す
るとされました。

 両判例の相違点は、①判例には、それ迄の事実上の夫婦共同生活があり、②判例には、それがないという点です。
②には、しかし、将来婚姻することを約しての性的交渉の継続事実があります。①は、いわゆる内縁の夫婦であり

これに婚姻意思を認定することは容易であると思われるのに対し、②は、単なる性交渉の継続があっただけとすると、
その限りでは、そこに婚姻意思が伴うことを容易には想定できません。ただ、将来の婚姻を約していた、という点が
婚姻意思認定の支えになったものと思われます。


 しかし、婚姻届けの当事者間に、夫婦共同生活が予め継続しているということは、婚姻届時に必要な要件ではあり
ません。婚約して一定期間を経過することも必要ではありません。要は、二人の間に、終生的互敬貞操結合の意思が
あるか否かなのです。

 そうとすれば、二つの判例に何ら問題はなく、その意味で、臨終婚であっても、有効に婚姻が成立すると言えます。
たとえ、受理時には意識がなかったとしても、そのような婚姻意思の下に届書を作成し、その意志のこもった書面が
受理されれば、婚姻は有効に成立します。

 ですから
その婚姻届けに終生的互敬貞操結合意思の伴っていることが認定できるか否かこそが核心です。若い
カップルの二人であれば
認定について困難はないでしょうが中高年カップルや極端な年の差婚等の場合は、必ず
しも容易ではないかも知れません。

 しかし、それは、認定についての難易の問題であって、高齢者であるから否定される、とか、死出の旅に発とうし
ている者であるから不可だとか、いうものではありません。正に婚姻の 意志 があれば、認められてしかるべきです。



 受理されぬ(婚姻)けの難所740

    
一度ひとた受理 一応有効

  然
れども不適齢
 (§731)重婚(§732)禁期(§733)近親婚(§734~§736)

      
(婚姻障碍の内、親の不同意を除くものは)後日取消()れあり(§743746

 
§740は婚姻届の受理に関する規定


婚姻年齢

 
婚姻年齢は、男性18歳、女性16歳です(民法731条)。戦前は、戦時態勢下の「産めよ増やせよ」政策によって、早婚
を認めるから結婚して子を作れという国策だったのか、男性17歳、女性15歳でした。それが、戦後に 1歳ずつ引き上
げられ、このように改められたのでした。
 しかし、この間にも貫かれた男女差には、男女の肉体的成熟度の違いによると説かれてはいるものの、必ずしも合
理的でないものを感じます。この点は、平成30年の民法改正でスッキリと男女等しく18歳とされることとなりまし
た。改正法の施行は、令和4
(2022)年4月1日からです。下記の条句にある「親の同意」の関係の改正もあり、それにも
触れましたので、こちらをご覧下さい。



 十八とはち十六とろく

     
それよりさい
731子供婚、

   〔届出しても受理されず、届できても取り消され、〕婚姻することできぬ





  (婚姻届け)同意
欠缺けんけつ(§737)

     片方同意りるから他方不同意なさんな
737




婚姻能力

 
婚姻のような人の身分に関する行為は、財産行為に関する (弁識能力の有無・程度を基準とする) 後見・保佐・補助等の、
行為能力による制約を受けることがありません。したがって、身分行為のための能力という点においては、行為する
その時に本人に意思能力があり
、また、その行為相応の心身の成熟と理解力・判断力があれば、法律行為として当該
身分行為は成立します。

 そして、その目安としては、人は、15歳になれば自身の意思で、但し、家裁の許可は必要ですが(民法798条)他人
の養子となることが
できます。また、自ら遺言することもできます(民法961条)。これらは単なる目安であって、当該
の者が15歳未満であっても、その身分行為に関し、その場面・時点で観察力・思考力・判断力が備わっていることが
認められれば、その身分行為能力は肯認されます。
 婚姻については、しかし、婚姻年齢が定められていますから婚姻年齢に満たないと、能力的には問題がなくとも、
法的には婚姻障碍ありとして、婚姻は許されません。
 婚姻能力は、財産的な利害の弁識能力とは異なりますから、たとえその人が後見人の後見を受ける
成年被後見人
であっても、行為時に婚姻についての判断能力等があれば、後見人の同意を要せずに婚姻することができます。
 
民法は、738条でこの点を定め、それに続く離婚(764条)、縁組(799条)、離縁(812条)についても、この738条を準用
しています。
 なお、認知については、780条で「
認知をするには又は母が 未成年者又は成年被後見人であるときであっても
その法定代理人の同意を要しない。」と、未成年者も含めた形で別に規定しています。
 未成年者の婚姻・離婚・縁組・離縁については、上記各成年被後見人規定とは別に、未成年者の保護ないし制度的
観点からそれぞれに規定を置いています
(離婚については、婚姻による成年擬制で成人同様となっていますから、一旦成人扱いとなった
以上は、未成年でも離婚でき、離婚しても、能力者として成人同様の対処をすることができます)

 なお、身分行為能力についてこちら、又、被後見人等の身分行為訴訟での訴訟能力についてこちらもご覧下さい。




 成人被後者婚姻(遺言)

    精神
738あっても小波973であって

      
(一時的にでも)意思持判断できるなら

   
後見人同意なく 婚姻(遺言)することできる 

   
§973は成年被後見人の遺言に関する規定、被後見人を、「被後者」と呼んでいます。



婚姻無効 
 婚姻をするについて当事者間に
婚姻意思がなく、或いは、婚姻届けがない、若しくは人違いであった等の事由
があれば、その婚姻は、裁判等を待つことなく、当然に無効であり、当事者以外の者からもその無効を主張すること
が許されます
(民法742条)
 戦地にあって自身 婚姻届けもしていない者の婚姻について、なされたその者の父親からの婚姻無効確認の訴え
ついて、これを認めた判例 
(最判昭34・7・3) があります。この判決は、
当事者の意思に基く届出を欠いた婚姻が無効であることは、民法七四二条の明定するところであつて、当事者以外
の第三者においてもその利益あるかぎり右無効の確認を求め得べく
その第三者が当該婚姻届出書類を偽造した本人
であるからといつてこれを別異に解すべきではない。

と判示しています。無効な婚姻の当事者となってしまった場合、第三者から婚姻を前提とした主張がなされたときは、
婚姻取消しの裁判等を要せず婚姻無効を以て対抗することができます。
 とは言え、戸籍に存在する婚姻の記載を訂正
 ( 戸籍の記載が、不適法又は真実に反するとき、真正な身分関係に一致させるよう是正
すること)
 しなければなりませんから、その戸籍訂正のためには、このような婚姻無効の裁判を経る必要があります
(戸籍法116条)
。そしてそれには調停前置主義という原則(家事事件手続法257条)があるのでまずは、家裁での調停
付されることとなりますが、調停で合意に達する事ができると
合意に相当する審判がなされます(同法277条)
調停が不成立で終わった場合はいよいよ同じ家裁での人事訴訟
(人事訴訟法2条1号)婚姻無効の訴え」で争うことにな
ります。しかし、いわば虚偽戸籍の被害者であるのにこの様な手続上の面倒を背負わされるというのはいかにも理不
尽です。こちらもご覧下さい。



   ヤレ二
802


   婚礼’
なすも
人違意思ナシ届ナシ(のいずれか)ならば

            
婚姻無効夫婦ナシ
 742



   さくに
739証人二人届ける(ことの)不備
          
ナシ 
742とされて
受理  有効

§739Ⅱは婚姻の届出の方法に、§742は、婚姻の無効に、§802は縁組の無効に関する規定

離 婚
 「終生、共白髪」と誓って結婚した筈の婚姻も人生航路の荒波に揉まれ必ずしも志し通りには航路を進めず、
座礁して離婚のやむなきに至ることがあります。このとき、人生の再出航を期して立ち上がるためには、初めの航海
の整理を遂げ、再出発の準備をしっかり整えなければなりません。そのためには
まずこの婚姻という航海の整理
法を心得ておく必要があります。
 婚姻
二人の「終生的互敬貞操結合 意思の合致」によって成り立つと言いましたが私はそこに「融合創一
が起こると観念できると考えています。つまり、二人に子が生まれた場合を考えると、一番分かり易いのですが、二
人の遺伝子の融合によって新たな一つの遺伝子が生まれることを念頭に置いた造語です。これは、人の結びつき、絆
における無償の愛の源であり、夫婦・親子の絆だけでなく、家庭を築くことにも繋がり、ひいて、夫婦・子という社
会のはじめの一単位である家族
(ファミリー)が創出される意味にも繋がります。そして、夫婦間の融合創一があることに
よって、お互いに同居・協力・扶助の義務を引き受け、子が生まれれば、夫婦共同親権の下、二人してその監護・
教育という重い責務にも取り組むことができます。
 また、「協力」義務は、結婚生活の様々な場面で日常的に課されますから、時に応じ臨機適切に対応しなければな
りません。数々の苦労も二人して「終生的結合」、つまり「共白髪」を誓った上は頑張って乗り越えて行くことがで
きるのです。
 しかし
人間スーパーマンではありませんし女神様の様にもなれません。結婚生活の過程では果たすべき義務
を果たせない、或は 義務に背くことも起こり得ます。不幸にして
その結果互いに終生的結合の意志を失い、離婚
のやむなきに至る場合、その離婚の原因となった義務違反については、配偶者に対する不法行為として賠償責任を負
うことになります。つまり、慰謝料
(民法709条)です。
 そして
終生共白髪の誓いに拘わらず別れることになるについては財産分与で応えなければなりません。婚姻中
は、二人の財布は別々で、取り敢えず二人共有とした物だけが夫婦の財産と言える、「夫婦別産制」の下に暮らしま
した。ですから、その共有物を、離婚の理由からでなく、必要な事情あって 二人の固有財産とするには、民法256条
による「共有物分割」をすることになりますす。
 しかし、婚姻という難事業を共にした配偶者との離婚の際には、この別産制は姿を消し、「融合創一」が別れに際
して具現して、互いの固有財も含めた全財産を等分
(私見)して財産分与(民法768条)とします。
 そして、子が生まれていれば、子に対する義務からは離れることができませんから、養育のための協力は、親権者
を定め
養育費の負担を約し、子が独立できるまで教育・監護は続いていくことになります
(民法766条)
 子には親と面会する権利がありますから、そこからも子自身がいずれ融合創一のための力を得られるよう、その実
現にも協力しなければなりません。法務省のホームページに「離婚を考えている方へ~離婚をするときに考えておく
べきこと」があります。こちらをご覧下さい。

 そういう訳で、これから上述の諸点について条句を交えながら、述べていくことになりますが、その前に、もし、
今、これを読まれている夫なり妻なりの方が、まだ離婚をされていないのであれば、私は、できることなら、ぜひ、
お子さんのために離婚を思いとどまって下さい、とお願いをしたいのです。両親の対立・家族の分離は、子の社会に
対する不安
恐れを根付かせ、人社会との接触を恐れることに繋がると言われます。お子さんには両親が必要・不
可欠です。温かい両親の愛情がお子さんの社会への信頼に繋がり、又、愛されていると信じられることがお子さんの
自己肯定と人との温かい人間関係に繋がります。
 夫婦間の問題は夫婦だけで解決できない事も多いものです。ぜひ
県庁や市役所或いは町村役場の福祉課や女性
のための相談室とかその他公共の、或いは非営利団体等の相談窓口等に相談してみて下さい。相談・支援等について
こちら
もご覧下さい。

離婚の手続き
 婚姻が破綻して離婚に至るには大きく分けて二つの方法があります。協議離婚裁判離婚です。日本の離婚制
度は
夫婦の合意に基づく協議離婚を原則としこれについては特に離婚原因を法律で定める様なことはせず当事
者の合意に委ねられています。ですから、協議離婚の原因は、「性格の不一致」でもよい訳です。

 離婚合意が調いさえすれば
成人二人の証人の協力を得て夫婦二人で離婚届けに署名押印して提出すれば
較的容易に離婚ができるので
離婚の門はかなり広く開いていると言えます。後から一時的な事情での方便離婚
あったとして離婚の無効を主張しても、届けの時に「真に法律上の婚姻関係を解消する意思」があったのであれば

離婚は有効であると判断されるのが実際です。

 しかし、家庭が崩壊してしまう離婚の途は、そんな簡単に運ばれる筈もないので、合意が調わず、それでもどうし
ても離婚したい場合は、公開の訴訟手続きによる離婚裁判に訴えることになります。訴訟の結果としての離婚が裁判
離婚です。

 裁判離婚の場合は、法で定められた離婚原因にあたる事実が認定されないと、離婚請求は棄却されます
 (後記のとおり、離婚原因が認定されても棄却される場合があります) から、厳格な関所が待っていることになります。

 裁判で離婚を宣せられると、離婚に同意していなかった当事者もこれに従わねばならない強制力がありますから、
強制離婚と言われる所以がここにあります。

 この協議離婚と裁判離婚の間に
実は任意と強制の中間的な性質の離婚があります。それが調停離婚審判離婚
です。裁判所の関与しない当事者だけの話合いでは協議離婚ができないということで、「裁判にする」ことになった
としても、裁判所では、「
調停前置主義(家事事件手続法257条)という原則により、まずは調停手続きを受けなければな
りません。

 ここで離婚が成立すれば
それが「調停離婚」です。調停不成立となった後は離婚訴訟の途が残されることにな
りますが、ときに
裁判所が、裁判所としての判断を示せば解決するのではないかとの考えから調停打ち切りとは
せずに、審判を下すことがあります。この審判
(家事事件手続法284条)により離婚となる場合を「審判離婚」と言います。
 もう少し詳しくはこちらをご覧下さい。

 以上が離婚自体の手続きですが、離婚に伴う慰謝料財産分与、子の親権者指定
養育費氏の変更等は、以下個
別の記述をご覧頂きたいと思います。また、その内、子供の関係は「子供がいる夫婦の離婚」でご覧下さい。

 具体的な協議離婚の手続きとしては、民法764条が民法739条(婚姻の届出)を準用していますので、同条2項が

届出は当事者双方及び成年の証人二人以上が署名した書面で、又はこれらの者から口頭で、しなければならない。

と定め、更に、戸籍法29条33条76条、戸籍法施行規則57条が届出書の記載事項を定めていますから、これら
に従って、協議離婚届けをすることになります。

 ですから、
協議離婚届書は、提出前に予めしっかり確認し、記載漏れ、誤記等のないようにしなければなりません。
 子がいる夫婦の離婚の場合、子の親権者には夫婦のどちらがなるかについての記載が重要ですが、そのような記載
事項等の詳細については、こちらをご覧下さい。

 こうして、協議離婚は、協議離婚届けにより、その日に成立します。

 離婚届けには、
成人の証人二人(以上)署名押印が必要です。上記の条文にあるように離婚届けは口頭でも可能
ですが、その場合、当事者二人と証人二人の計4人が出頭しなければなりませんし、各人の本人確認をした上、口頭
で必要事項を述べなければなりませんから。時間がかかります。

 書面による届出は
本人が窓口に提出する(一人での提出が可能です)ほかに、郵送でも可能ですし、
  本人の使者として他人が提出することもできます。

 誰が提出するかを問わず
他人が提出する場合も提出者の身分証明により誰が提出したかを明らかにし他人の
提出にかかる届出については(郵送による届出は、他人か否かを問わずすべて)
役所戸籍係から本人に受理(した旨の)通知
行くことになっています
(戸籍法27条の2)

 もし、他人が虚偽の届出をした場合は、
公正証書原本不実記載罪(刑法157条)により処罰されることになり、離婚は
無効です
(この離婚無効の手続きはなかなか大変です)

 虚偽の届出がなされるおそれがあるときは、役所戸籍係に予め不受理
(の)申出をしておくと受理されずに済みます
(戸籍法27条の2)

 郵送された届書は、本人が死亡した後でも受理しなければなりません
(戸籍法47条1項)。死亡後に受理された場合は、
届人が死亡した時に届けがあったものとみなされます
(戸籍法47条2項)
(→cf.臨終婚)

 なお、裁判離婚届けについてはこちらをご覧下さい。また、婚姻中に懐胎・妊娠し離婚後に生まれた子の関係
については、こちらをご覧下さい。


裁判離婚

 裁判離婚での離婚原因として、民法770条は、
次の紺色の四つ、①
不貞
        ②
悪意の遺棄
        ③
三年以上の生死不明
        ④
回復の見込みのない強度の精神病と、

        ⑤その他
婚姻を継続し難い重大な事由の、
計五つの事由を規定します。
前四者を
具体的離婚原因、後者を抽象的離婚原因と言います。

 また
、うち四つの具体的事由については、それが証拠により認定できても、やはり婚姻を継続した方が良いと判断
した場合、裁判所は770条2項によって離婚請求を棄却することができます。
裁量棄却と言います。ですので、

 上記①から④の事由のいずれかに該当する場合であっても、いまだ婚姻が破綻したとまでは認められない場合、
  或いは、破綻していてもなお当該の離婚請求を認容すべきない事情がある場合、請求棄却となります。
つまり、

○ 具体的離婚原因①から④の事由にまつわる離婚判断には、まず、
  (一).①から④までの具体的離婚原因事実の有無に関する判断、
次いで、
  (二).
離婚原因事実有りとして、それが「破綻」をもたらしているか否かの判断そして、
  (三). 破綻してはいないので、或いは 破綻しているとしても なお
      離婚請求を認容すべきではない事情
があるか否かの判断
 の三段階の判断を要すことになります。

この(三).の判断によって請求棄却となるのが上記
民法770条2項による裁量棄却です。

 そして、また、
 抽象的離婚原因

 (婚姻を継続し難い重大事由)が認定できる場合でも、条文文言上 請求棄却はあり得ない事ですが(下記5.①~⑤判例の様に) 
          事情によっては、
    
離婚請求が信義誠実原則に反すると判断されて棄却されることがあります。
    こちらは、したがって、
民法1条2項による裁量棄却ということになります。

 そして、これら裁量棄却の判断の場面では、
 その婚姻の破綻状況をもたらしたことについて責任のある配偶者が自ら離婚を求めることはできるかという、
 いわゆる
有責配偶者の問題 が起こります。

 
ここで、上記⑤の婚姻を継続し難い重大な事由については、上記①から④までの各具体的事由にはあたらないが、
婚姻に回復できない程の
破綻をもたらす重大事由のことであると解されています。そして、その「破綻」につい
ては、
判例(最判62・9・2)が、
「婚姻の本質は、
  両性が永続的な精神的及び肉体的結合を目的として 真摯な意思をもつて共同生活を営むことにある
から、夫婦の一方又は双方が既に右の意思を確定的に喪失するとともに、
   夫婦としての共同生活の実体を欠くようにな り、
   その回復の見込みが全くない状態に至つた場合には、
当該婚姻は、もはや社会生活上の実質的基礎を失つているものというべきであり、
かかる状態においてなお 戸籍上だけの婚姻を存続させることは、かえつて不自然である」
と述べているので、
  
婚姻の破綻とは
    夫婦が
永続的な精神的肉体的結合意思を失い ( 終生的互敬貞操結合意思 喪失) 
        
共同生活実体を失って回復見込みが全くない状態である、
と言うことができます。

 そして、 上記⑤の「婚姻を継続し難い重大な事由」つまり「婚姻の破綻」をもたらし得る具体的な事情として、
判例や類書に現れたものを拾ってみると、
   別居、配偶者や子に対する暴力行為・侮辱的言動・虐待、勤労意欲の欠如、三年未満の生死不明、
   浪費、借財、賭け事、稽古事・宗教等への常軌を逸した没頭、親族融和の努力放棄、性格の不一致、
   性交不能・拒否、不貞にあたらない異性交遊、価値観の相違、回復見込みあるが容易でない精神病

等々と、実に多種多様で枚挙に暇がありません。

これらを、私なりに「
(婚姻)破綻誘因事由」と仮称しますと、これら破綻誘因事由は、極端な場合は別として、それ
一つだけでは通常そうではないけれども、いくつかが合わさると「婚姻を継続し難い重大な事由」にあたり得ます。

 以上が、民法の 立法当時 想定した離婚原因で、
 これらの内、①精神病離婚以外の原因については、相手配偶者を婚姻破綻有責者だと訴えて離婚を請求する、或は、
       ②精神病については、婚姻が破綻しているが故に婚姻制からの解放を求め得る
       ③但し、生死不明は、有責でない場合があるから、②同様 破綻主義に因る離婚原因ともなり得る
 として制度設計されたものであった訳です。

 しかし
離婚における破綻主義の潮流と共に婚姻破綻自体を理由とする離婚請求の波頭が上記②③を超え、
その後、種々の具体的事例を重ねるに至りました。

 これらは、相手配偶者の 破綻誘因事由 からする離婚請求ではなく、いずれも
      自らが離婚原因についての有責者であるが、なお 婚姻の破綻を理由に離婚を請求するというものです。

 従って、これも法に当てはめれば、やはり上記の「婚姻を継続し難い重大な事由」による離婚請求ではありますが

上記破綻誘因事由とは異なる、自らの
有責破綻事由 からする離婚請求と言えます。
 
 そして、これら破綻誘因事由、有責破綻事由から、
婚姻を継続し難い重大な事由を認定できた場合
そこでも上記(三).同様
(このときは民法770条2項によらずに)民法1条2項の信義誠実原則という一般条項によって
離婚請求の認容か棄却かが決せられます。

 
以上まとめると、離婚裁判においては、具体的離婚原因による場合であれ、抽象的離婚原因による場合であれ、又、
抽象的離婚原因が破綻誘因事由によるものであれ、有責破綻事由によるものであれ、その根拠法条は異なれ、
いずれも認容すべきか否かの裁量判断を要することとなり、その判断結果で棄却される場合は、770条2項によるか
1条2項によるかの違いはあれ、いずれも「裁量棄却」となります。

 したがって、次に判例(最大判昭62・9・2)抽象的離婚原因事由、殊に、有責破綻事由による離婚請求事例での
判断基準として判示するところは、婚姻の本質に遡り、一般条項に収斂させて立論されているところから、

破綻主義離婚における裁量棄却の判断基準が、全離婚原因についても 依拠してよい 基準となると考えます。


 
これらの裁量棄却にあたって、加えて考慮されるのは (「離婚請求裁量棄却事由」と仮称します)、上記破綻誘因事由の様に
婚姻におけ終生的結合自体にマイナスに働く事由ではなく、婚姻を取り巻く諸状況ということになります。
例えば、上記昭和62年の判例は
離婚請求は、正義・公平の観念、社会的倫理観に反するものであつてはならないことは当然であつて、
 この意味で
  離婚請求は、身分法をも包含する民法全体の指導理念たる信義誠実の原則
  に照らしても容認されうるものであること
を要するもの といわなければならない。
 

として一般条項に遡っての判断になることを説示し、
⑤の事由による離婚請求が有責配偶者からされた場合は、

当該請求が 信義誠実の原則に照らして許されるものであるかどうかを判断するに当たつては
  
有責配偶者の責任の態様・程度を考慮すべきであるが、
と従来の論旨を確認した上、考慮すべき当該婚姻を取り巻く諸状況につき、
  相手配偶者の意思や感情、離婚による受ける 精神的・社会的・経済的状態を挙げた後、
  夫婦間の子、殊に未成熟の子の監護・教育・福祉の状況、
  別居後に形成されたそれぞれの生活関係も斟酌さるべきとし、 更には、
  時の経過による事情の変容、社会的評価の変化等の影響
も考慮すべしと判示します。そして、

有責配偶者からされた離婚請求であつても、
  夫婦の別居が 両当事者の年齢及び同居期間との対比において
相当の長期間に及び、
  その間に
未成熟の子が存在しない場合には、
   相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的 に
極めて苛酷な状態におかれる等
   離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情
の認められない限り、
 当該請求は、有責配偶者からの請求であるとの一事をもつて許されないとすることはできない
ものと解するのが相当である

として、別居期間が短く未成熟子が存在する様な場合を除き、
    相手配偶者が離婚によって苛酷な状況に置かれる等、正義に反する特段の事情があるのでなければ、
    有責者からのものであっても、離婚請求が認容され得る
旨判示し、その判断の際には
五号所定の事由に係る責任、
 相手方配偶者の離婚による精神的・社会的状態
 等は
殊更に重視されるべきものでなく、 また、相手方配偶者が離婚により被る
 経済的不利益は、本来、離婚と同時又は離婚後において請求することが認められている
   財産分与又は慰藉料により解決されるべ きものである

と付言しています。なお、この昭和62年判例の「裁判要旨」は、次のようにまとめられています。

一 有責配偶者からされた離婚請求であつても、夫婦がその年齢及び同居期間と対比して相当の長期間別居し、
その間に未成熟子がいない場合には、相手方配偶者が離婚によつて精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態にお
かれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情のない限り、有責配偶者から
の請求であるとの一事をもつて許されないとすることはできない。

二 有責配偶者からされた離婚請求であつても、夫婦が三六年間別居し、その間に未成熟子がいないときには、相手
方配偶者が離婚によつて精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく
社会正義に反するといえるような特段の事情のない限り、認容すべきである。 




 
以上を通じ、上記昭和62年の判例及びこれを踏まえた後記5.④の判例から、私なりにまとめると、

離婚原因について有責配偶者である者からの離婚請求
に、裁量棄却事由 有りや無しやの判断 は、

当該婚姻を巡る諸状況における
当事者の意思・感情、離婚により被る精神的・社会的・経済的影響、夫婦間の子、殊に未成熟の子の監護・教育、
福祉の状況、別居後に形成されたそれぞれの生活関係、時間の経過による事情・社会的評価の変化・変容等を、
広範かつ場合によっては長年月に亘り、踏まえてしなければならないが、

離婚請求は、正義・公平の観念社会的倫理観信義誠実則 に反するものであってはならないから、

① 夫婦の別居が相当長期間に及び、夫婦に
未成熟子がいない場合は、
 有責配偶者からの離婚請求を認容することが、相手配偶者に対し、離婚による 精神的・社会的・経済的影響から
            極めて苛酷な状態を招来して
著しく
社会正義に反する結果となることはないか
或いは、
② 夫婦に
未成熟子がいる場合であれば、
そのような家庭状況にも拘わらず、離婚原因を作った責任は重いこと、夫婦の別居期間が左程長期に及んでいないこ
相手方配偶者が離婚によって精神的経済的に苛酷な状態におかれるであろうこと等に照らし有責配偶者からの
離婚請求を認容することが、
             著しく
信義誠実原則に反する結果となることはないか

の二点にかかる。そして、これらのいずれかをクリアできるのであれば、離婚請求は認容されてよい。
  その際、夫婦間に
未成熟子がいない場合については
   離婚原因にかかる責任の有無・程度、或いは、相手方配偶者が被る経済的不利益等は、重視されるべきでなく、
   これらの点は、別途、財産分与又は慰藉料によって解決されるべ きである。

 
と要約することができます。

なお、上記①の場合に、離婚請求が容れられるべき別居期間について、
有責配偶者である夫からされた離婚請求において、
  夫が別居後の妻子の生活費を負担し、
  離婚請求について誠意があると認められる財産関係の清算の提案をしている
 など判示の事情のあるときは、
約八年の別居期間であっても、他に格別の事情のない限り、
 両当事者の年齢及び同居期間との対比において別居期間が相当の長期間に及んだと解すべきである。

と判示した判例(最判平2・11・8)があります。こちらをご覧下さい。



そして判例に示された裁量棄却事由の判断基準が、全離婚請求に適用できるというのは、例えば、具体的離婚
事由である「不貞」の事例で考えることができます。
 原告が、被告の不貞行為を離婚原因として離婚請求した場合、裁判所は、証拠により不貞が認定でき、当該婚姻の
破綻のおそれが認定できたとしても、或いはさらに、一旦は破綻したと認定すべきだとしても、
 夫婦に未成熟の子がおり、この子の監護・教育・福祉にとっての重要な局面に当たるという状況下においては、
 不貞の内容・程度、その後の不貞配偶者の改悛や相手との断絶状況、
 婚姻破綻 修復の期待可能性、
 夫婦・家族の生活状況、
 親族による支援状況等に
照らせば、婚姻を継続するのが相当と判断することができるケースもある、という様に、
 未成熟子を中心として
夫婦を巡る諸事情を踏まえ、総合的な考察と判断により妥当な結論を得ることができるということです。この場合は、
民法770条2項による裁量棄却という結論になりますが、信義誠実原則に照らしての判断も 当然 必要となります。

 
   裁判離婚

  「な、なぜ770
770だ! なして (婚姻生活が) ノー770か分からねぇ

  「不貞
(悪意の) 遺棄(三年以上の) 生死不明(回復見込みのない強度の) 精神病

  やっていけない
大事おおごと(婚姻を継続し難い重大事由) 

           あれば、
()判所めてくれるのさ。


  離婚なしてマル
770るも、大事おおごと以外の理由なら

          
 (一切の事情を踏まえて) 請求棄却もありるよ裁量棄却


 
 
  民法(770)裁判離婚(については)

     不貞
 遺棄 生死不明精神病あっても

    
(婚姻を継続させるべき)事情あるならば離婚(判決)なせと770わぬ

              「して」、「し得て」は、伊語の「セテ」、西語の「シエテ」から。


ここで、個々の離婚原因について判例を中心に見てみたいと思います。

1. 初めに
不貞の関係です。

 まず、配偶者による婚外の性関係がその相手の自由な意思によるものでなくとも、民法770条1項1号の「不貞」
にあたる場合であるとした判例
(最判昭48・11・15)です。
この判決は、
「民法七七〇条一項一号所定の
「配偶者に不貞の行為があつたとき。」とは、
 配偶者ある者が、自由な意思にもとづいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶこと
をいう
のであつて、
 この場合、相手方の自由な意思にもとづくものであるか否かは問わ ないものと解するのが相当である。」
と判示しています。
 そして、不貞が何故離婚原因となるか については、それが
  貞操義務
(「添う一」義務)に反し、守操一体を破壊するもので、何より
  終生的互敬貞操結合である婚姻の本質に反する
 から と言うことになります。
そして、互いの尊厳を前提とした婚姻を、他の異性の尊厳をも軽んじる行為によって不貞に及ぶのは、人の規範に
違背する の最たるものです。


 
配偶者の不貞相手に対する慰謝料請求に関する判例(最判平8・3・26)
 この判決は、
配偶者との婚姻共同生活の平和を侵害した不貞相手に対しては、
  不法行為に基づく損害賠償として慰謝料請求をすることができるが、

 不貞のあった当時、配偶者との婚姻関係が既に破綻していた場合には、特段の事情のない限り、
 その不貞相手は不法行為責任を負わない

と判示しています。
その理由として、この判決は、
「けだし、丙が乙と肉体関係を持つことが甲に対する不法行為となるのは、それが
  甲の婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害する
 行為というこ とができるからであって、甲と乙との婚姻関係が既に破綻していた場合には
原則 として
  
甲にこのような権利又は法的保護に値する利益があるとはいえないからで ある。」
と述べています。
 しかし、原則の例外として、一旦は破綻状況に至っても、前述の様なケースもあり得るので、他人が破綻の傷口を
拡げる様な不貞には、賠償不要の免責を認めるべきではありません。 

③ また、最近、不貞の相手方に対しては、上記の「不貞慰謝料」と言うべき損害賠償の請求が認められるとしても、
通常は、いわゆる「離婚慰謝料」の請求はできないとする新たな判例
(最判平31・2・19)が出ました。その要旨は、
夫婦の一方は他方と不貞行為に及んだ第三者に対し
  
当該第三者が単に不貞行為に及ぶにとどまらず当該夫婦を離婚させることを意図して
  その婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を
離婚のやむなきに至らしめた
 
ものと評価すべき特段の事情がない限り、離婚に伴う慰謝料を請求することはできない
というものです。

 
この判決は、その理由として、
「夫婦の一方は
他方に対し
  
 その有責行為により離婚をやむなくされ精神的苦痛を被ったことを理由としてその損害の賠償を求める
 ことができるところ
本件は夫婦間ではなく

 夫婦の一方が、他方と不貞関係にあった第三者に対して、 離婚に伴う慰謝料を請求するものである。
 夫婦が離婚するに至るまでの経緯は当該夫婦の諸事情に応じて一様ではないが、協議上の離婚と裁判上の離婚のい
 ずれであっても、
  
離婚による婚姻の解消は、本来、当該夫婦の間で決められるべき事柄 
 である。 したがって

  
夫婦の一方と不貞行為に及んだ第三者はこれにより当該夫婦の婚姻関係が破綻して離婚するに至った
  としても、当該夫婦の他方に対し、不貞行為を理由とする不法行為責任を負うべき場合があることはともかく
  として、直ちに、

  当該夫婦を離婚させたことを理由とする不法行為責任を負うことはない
 
 と解される。 第三者がそのことを理由とする不法行為責任を負うのは、
  
当該第三者が、単に夫婦 の一方との間で不貞行為に及ぶにとどまらず、
  当該夫婦を離婚させることを
意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をする
  などして当該夫婦を
離婚のやむなきに至らしめた
 もの
と評価すべき特段の事情があるときに限られるというべきである。」
と述べています。

そうしますと、問題の不貞行為と離婚との間に時の経過がある場合、
 通常の不貞行為であれば、離婚と切り離される為、離婚時からの時効に間に合っても無意味で、不貞行為時から、
不法行為による賠償請求の時効3年(§724)以内に請求しなければなりません。

 例外的な「破婚意不貞
(そう名付けたいと思います)の場合、離婚が その不法行為の完成時だとして、その時から 時効
を起算すれば、請求は可能だが、不貞行為時からの起算だとすると、離婚時は既に時効が完成していて請求できない
場合があり得る事になります。

 又、離婚時からの起算で時効に間に合っても
不貞の場合通常 不貞配偶者と相手との共同不法行為とされるので、
その賠償責任は両名の連帯債務
(民法719条)とされて、いずれか一方が弁済をすれば、他方は被害者に対し免責される
(支払った者からの求償は残りますが)関係となります。不貞配偶者から不貞慰謝料 或は 慰謝の趣旨も含む財産分与 が支払わ
れると、不貞婚外者は賠償責任を免れます。但し、連帯債務であることから、不貞配偶者に支払資力が伴わないとき
は、不貞婚外者が強制執行を受けることになります。

 しかし、破婚意不貞は、当該婚姻の継続を想定した浮気程度のものを超えて、婚外者が 現婚姻を破壊し、それに取
って代わる意思を伴うものですから、婚姻に対する侵襲不法は甚だしく、その程度で良いのか甚だ疑問が残ります。

 私は、破婚意不貞の場合、不貞婚外者の慰謝料は
不貞配偶者の被害配偶者に対する慰謝料とは異なり、不貞配偶
者に対しては 婚姻における貞操義務に違背させ
被害配偶者に対しては婚姻家庭生活を破壊する、という独立した、
二重の不法を伴うので
不貞配偶者との共同不法行為としての共同連体性を認めるべきではないと思います。従って
破婚意不貞による慰謝料は、不貞配偶者の離婚慰謝料弁済による免責を否定され、又、不貞配偶者に対するより重く
課されるべきだと考えます。

2.悪意の遺棄は、本稿冒頭の 婚姻における「同居協力扶助の義務」の故意による放棄、或いは害意をもっ
ての不履行とされますが、判例としては、妻に生活費を欠かさず送金していても、妾宅に住み着く夫の行為は「悪意
の遺棄」に当たるとする明治時代の判例があるほか、

 
婚姻関係が破綻したについて主たる責任があり、自らが招いた原因で配偶者による扶助を受けられなくなった者は、
配偶者から民法
770条1項2号の「悪意の遺棄」を受けたとは言えないとした事例判例(最判昭39・9・17)があります。 
この判例の事例は、
「上告人は被上告人の意思に反して上告人の兄Dらを同居させ、
  その同居後においてDと親密の度を加えて、夫たる被上告人をないがしろにし、かつ
  右Dなどのため、ひそかに被上告人の財産より多額の支出をしたため、
  これらが根本的原因となつて被上告人は終に上告人に対し同居を拒み、
 扶助義務をも履行せざるに至つた」
もので、この事実は証拠によつて認められるとした上、

「所論は、
  およそ夫婦の一方が他方に対し同居を拒む正当の事由がある場合においても
  これによつて夫婦間に扶助の義務は消滅することなく、依然存続するものであ り、
  従つてこれを怠るときは悪意の遺棄にあたるとの見解に立つて、
 被上告人の行為は上告人を悪意にて遺棄したものであると主張するのである。
 しかしながら、前記認定の下においては、
  上告人が被上告人との婚姻関係の破綻について主たる責を負うべきであり、
  被上告人よりの扶助を受けざるに至つたのも、上告人自らが招いたものと認むべき以上、
 上告人はもはや被上告人に対して扶助請求権を主張し得ざるに至つたものというべく、
 従つて、被上告人が上告人を扶助しないことは、悪意の遺棄に該当しないものと為すべきである。」
と判示しました。

 婚姻における同居・協力・扶助の義務は、一体のものであって、これを切り分け、同居については拒まれてもやむを
得ないが、扶助ついては権利があると 主張することはできません。同義務は「融合創一」の具現化であって、原則
一体として果たされていきます。



3.
3年以上の生死不明は、
    原因の如何を問わず、3年間以上 生存の証明も死亡の証明もできないこと
とされます。「不明」が不明者の責任によることを要しませんから、破綻主義の先駆と言われる所以です。

 生死が、7年以上の不明であれば普通失踪
(民法30条1項)の、危難に遭って1年以上の不明であれば、特別失踪(民法30条
2項
)
の事案となりますから、失踪宣告によって死亡と見なされる方途と並立となります。

 後者の場合、生存が判明して宣告が取り消されると、婚姻は復活しますが、生死不明を離婚原因として離婚した場
合は、生存が判明しても婚姻の復活はありません。

 また、離婚の場合、別れた元配偶者の相続人にはなれませんが、失踪宣告による死別であれば、相続人となる とい
う違いも重要です。

 離婚の後、或いは失踪宣告の後、残存
(元)配偶者が再婚して、その後不明者の生存が判明した場合、前婚が離婚であ
るなら後婚はそのまま維持されますが、失踪宣告の場合は、民法32条1項による救済で 善意の後婚は維持されます
(従って、前婚は復活しません)。 なお、重婚の関係でこちらもご覧下さい。



4.
回復の見込みのない強度の精神病
 
精神病罹患を離婚原因とすることについては、
  罹患は本人の責任ではないからとの理由で有責主義の立場から各国での反対論も喧しかった
  戦後の昭和22年に立法化されました。
 ですから、3年以上の生死不明
(これは戦前から離婚原因とされていました) を除けば、有責主義から破綻主義へ
 という潮流の先駆けであったとされます。判例としては、

 
不治の精神病に罹患した場合であっても、諸般の事情を考慮し、
   病者の今後の療養、生活等についてできるかぎりの具体的方途を講じ、
   ある程度において、前途に、その方途の見込のついた上でなければ、
  ただちに婚姻関係を廃絶することは不相当と認めて、離婚の請求は許さない
  法意であると解すべきである
と、民法770条2項が規定する裁量棄却の法意を判示した判例(最判昭33・7・25)※、


 不治の精神病のケースであっても、
  妻の実家が夫の支出をあてにしなければ療養費に事欠くような資産状態ではなく、他方、
  夫は、妻のため十分な療養費を支出できる程に生活に余裕がないにもかかわらず、
   過去の療養費については、妻の後見人である父との間で分割支払の示談をしてこれに従つて全部支払を完了し、
   将来の療養費についても可能な範囲の支払をなす意思のあることを裁判所の試みた和解において表明し、
   夫婦間の子をその出生当時から引き続き養育している
  等判示事情の下では、民法770条2項によって離婚請求を棄却すべき場合には当たらない
として、上記裁量棄却
法意の具体例を示した判例(最判昭45・11・24)があります。

なお、この判例は、心神喪失の常況にある旧法時の「禁治産者」、
        今の被後見人にあたる者を当事者とする離婚訴訟について、
離婚のごとき
  本人の自由なる意思に基づくことを必須の要件とする一身に専属する身分行為は代理に親しまない
ものであつて、
  法定代理人によって、離婚訴訟を遂行することは人事訴訟法の認めないところである。
人事訴訟法第四条は、
 後見監督人または後見人が禁治産者の法定代理人としてその離婚訴訟を遂行することを認めたものではなく、
 その職務上の地位に基き禁治産者のため当事者として右訴訟を遂行しうる
ことを認めた規定と解すべきである。

と判示しています。

 原審が、当該訴訟の裁判長において、その訴訟限りで代理権を有する民事訴訟法上の特別代理人
(現行の民訴35条)
の選任によった点を、不適切であったとする理由として、禁治産者(現在の被後見人)の離婚訴訟には代理は馴染まない
ことを述べたものです。

 現行の人事訴訟法14条にも
人事に関する訴えの原告又は被告となるべき者が成年被後見人であるときは
 その成年後見人は、成年被後見人のために訴え、又は訴えられることができる。

とあり、ここでの成年後見人は、判例の言う様に、「法定代理人ではなく、職務上の地位に基づく当事者である」
と理解すべきこととなります。

 婚姻、離婚、嫡出否認、認知、養子縁組、離縁等の人事事件を扱う人事訴訟では、財産行為に関する行為能力の制
度は適用されず、意思能力があれば訴訟ができます。

 ですから、成年被後見人も意思能力のある限り訴訟行為をすることが可能ですが、
 「
事理を弁識する能力を欠く常況にある(民法7条)ことを踏まえ、上記の様に成年後見人による訴訟遂行の途
が設けられています
(人事訴訟法14条)

 他方、通常の民事訴訟では、法定代理は原則として民法の定めに従うとされている
(民訴法28条)ので、
  後見人は、被後見人のために法定代理人として訴訟行為をすることができます。

 なお
未成年者の人事訴訟事件で親権者が訴訟行為にあたる場合については判例が「法定代理」だとしている
点については、こちらをご覧下さい。




5. 婚姻を継続し難い重大な事由
 民法770条1項5号の具体的事由として挙げられるものについては、こちらをご覧下さい。やや特異な判例として
は、夫の性交不能を以て「婚姻を継続し難い重大な事由」ありと認めた最判昭37年2月6日があります。

 しかし、ここでは「婚姻を継続し難い重大な事由」による離婚請求が、いわゆる
有責配偶者からのものである場合
が、問題となります。つまり、同重大事由が、相手方の責めに帰すべき破綻誘因事由ではなく、自らにこそ有責破綻
事由
がある、そのような配偶者からの離婚請求は、認められるのか という問題です。

 最高裁判所においては、昭和62年まで、婚姻が破綻するに至るについて、
   
離婚原因をもたらした責任の有る当事者からの相手配偶者に対する離婚請求は原則認められない
 とされていました。昭和27年のいわゆる「
踏んだり蹴ったり判決(最判昭27・2・19)が有名です。
 判文中で、有責配偶者からの当該離婚請求について、

結局 上告人が
  勝手に情婦を持ち、そのため最早被上告人とは同棲出来ないから、これを追い出すということに帰着する
 のであつて、もしかかる請求が是認されるならば、被上告人は全く俗にいう踏んだり蹴たりである。
 法はかくの如き不徳義 勝手気儘を許すものではない。


と判示しています。

 そして、昭和38年には、婚姻関係の破綻について
  「専ら又は主として責任のある当事者からは離婚を請求することができない」
とするのが相当であるところ、
  上告人には、
   妻に満足な生活費を渡さず、頻繁に外泊に及ぶ等婚姻維持のための努力をしたとは認められない事情がある
とは言え、被上告人の不貞行為を認定しながら、上告人にはその不貞に至るについての大部分の責任があるとして、
その離婚請求を棄却したのは審理不尽であるとして、原判決を破棄差戻した判例
(最判昭38・6・4)が出ました。

 つまり、この事案では、反対解釈をすれば、
  「
専ら又は主として有責でなければ、有責者からの離婚請求も認められ得る

ことが示されたことになりますし、又、どちらが「専ら又は主として有責」なのかという判断場面の一例を示すこと
となった訳です。
 このどちらが責任が重いのかの判断は、事案により微妙で難しい判断となりますが、この判例は、

妻の身分のある者が、收入をうるための手段として、
  夫の意思に反して他の異性と情交関係を持ち、あまつさえ父親不明の子を分娩するがごときことの許されない
 のはもちろん、被上告人と同様、子供を抱えて生活苦にあえいでいる世の多くの女性が、生活費をうるために
 それまでのことをすることが通常のことであり、またやむをえないことであるとは、とうてい考えられない
のである。


として、控訴審が、夫には、妻が不貞に至るについて「大部分の責任」があるとした、その夫たる上告人には、
貞操義務に違反した妻に比べ、「専ら」或は「主として」の責任があると迄 言えるか否か、更に審理を尽くすよう
原審に差し戻しました。

 昭和62年になると、民法770条1項5号所定の事由による離婚請求については、条文上は同条2項による裁量棄却
の余地がないとはいえ、同事由につき


 専ら責任のある有責配偶者から請求された場合
は、
  当該請求が
信義誠実の原則に照らして許されるものであるかどうかを判断するべきであり、
 判断するに当たつては、
  夫婦がその年齢及び同居期間と対比して相当の長期間別居し、
  その間に
未成熟子がいない場合には、
   相手方配偶者が離婚によつて精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等
  離婚請求を認容することが著しく
社会正義に反するといえるような特段の事情のない限り、
 有責配偶者からの離婚請求を、その一事をもって許されないとすることはできない

として、36年間別居していた夫婦の離婚を認めて、判例を変更した前述
大法廷判決(最大判昭62・9・2)が出ました。

④ そして、その後、この判例の趣旨を踏まえた判決
(最判平16・11・18)も出され、当該事案について、

有責配偶者である夫からの離婚請求において、
  夫婦の別居期間が、事実審の口頭弁論終結時に至るまで約2年4か月であり、
  双方の年齢や約6年7か月という同居期間との対比において相当の長期間に及んでいるとはいえないこと、
  夫婦間には7歳の未成熟の子が存在すること、
  妻が、子宮内膜症にり患しているため就職して収入を得ることが困難であり、
  離婚により精神的・経済的に苛酷な状況に置かれることが想定される
 ことなど判示の事情の下では、
 上記離婚請求は、信義誠実の原則に反するものといわざるを得ず、これを認容することができない。


と判示しています。

⑤ また、別に、夫婦の別居期間の長短について、これを判断基準の一つとする趣旨を説き、二子を儲けた23年に
亘る同居の後、約8年間別居している夫婦の離婚事件について、事例に即し具体的に「相当の長期間」に当たるか否か
の判断を示した判例
(最判平2・11・8)も出ています。長くなりますが判文を転載しますので要約された (1) ~ (3)
原審判断との対比で、事案の概要と、判断のポイントをご覧下さい。

「 (1) 上告人と被上告人との婚姻関係は既に破綻し、回復の見込みはないが、その原因は、
   上告人が守操義務及び同居義務に違反して、訴外人と情交関係をもち、
   被上告人と別居して同訴外人と同棲するようになり、間もなく同人とは別れたものの、
   その後も被上告人には住所さえ知らせず別居を継続していることにあるから、
  本件における婚姻関係の破綻についての責任は、専ら上告人の側にある。

  (2) 上告人と被上告人との間の子らは、いずれも もはや未成熟子ということは できない。また、
  上告人から被上告人に対しては、財産関係の清算について具体的で相応の誠意があると認められる提案が
  されており、離婚が認容されこの提案が実行された場合には、現在の生活と比べて、
  被上告人が社会的・経済的により不利な状態に置かれるとは考えられない。

  (3) しかし、被上告人は、現在においても、上告人との婚姻関係の継続を希望しており、
   本件での約八年の別居は、当事者の年齢、同居期間と対比して考えた場合、いまだ
    有責配偶者としての上告人の責任と被上告人の婚姻関係継続の希望とを 考慮の外に置くに足りる
   相当の長期間ということはできない。かえって、

  現段階に おいて被上告人の意に反して上告人からの離婚請求を認めることは、
   自ら婚姻関係破綻の原因を作出した上告人がこれを理由として離婚請求をすることを安易に承認する結果
   となって、相当でない。  

 しかし、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおり である。

 すなわち、有責配偶者からの民法七七〇条一項五号所定の事由による離婚請求の 許否を判断する場合には、
  夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比にお いて相当の長期間に及んだかどうか
 をも斟酌すべきものであるが
その趣旨は
  
別居後の時の経過とともに
  当事者双方についての諸事情が変容
これらのもつ社会的意味ないし社会的評価も変化する
  ことを免れないことから、右
離婚請求が信義誠実の原則に照らして許されるものであるかどうか
 を判断するに当たっては、
時の経過 がこれらの諸事情に与える影響も考慮すべきであるとすることにある。

 したがって、別居期間が相当の長期間に及んだかどうかを判断するに 当たっては、
  別居期間と両当事者の年齢及び同居期間とを数量的に対比するのみで は足りず、
  右の点をも考慮に入れるべきものであると解するのが相当である。

 ところで、前記事実関係によれば、上告人と被上告人との


  別居期間は約八年では あるが、上告人は、
  別居後においても被上告人及び子らに対する生活費の負担をし、
  別居後間もなく不貞の相手方との関係を解消し、更に、
 離婚を請求するについては、 被上告人に対して
  財産関係の清算についての具体的で相応の誠意があると認められる提案をし
 ており、他方、被上告人は、
  上告人との婚姻関係の継続を希望している としながら、
   別居から五年余を経たころに上告人名義の不動産に処分禁止の仮処分を執行するに至っており、また、
 成年に達した子らも離婚については婚姻当事者たる被上告人の意思に任せる意向である

 
というのである。
 そうすると、本件においては、他に格別の事情の認められない限り、
  
別居期間の経過に伴い、当事者双方についての諸事情が変容し、
  これらのもつ
社会的意味ないし社会的評価も変化した
 こと が窺われるのである。

 以上によれば、右の点について十分な審理を尽くすことなく上告人の離婚請求を 棄却した原判決は、
  民法一条二項、同法七七〇条一項五号の解釈適用を誤り、ひいては審理不尽、理由不備の違法を犯したもの
 といわざるを得ず、右違法が原判決に 影響を及ぼすことが明らかであるから、この違法をいう論旨は理由があり、
 原判決 は破棄を免れない。
 そして、本件については、更に審理を尽くさせるため、本件を 原審に差し戻すこととする。」  




離婚原因私見(配偶者暴力独立原因説)
 なお、私はここで、離婚原因に一つを加えるべきことを提案します。「暴力」です。憲法24条1項
婚姻は、・・夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならい。
とし、同条2項は、
・・財産権、相続・・離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、
       法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。

と定めます。

 民法770条は、憲法の立法府への委託に基づき、離婚について具体化した規定ですが、配偶者に対する
「暴力」は、「夫婦が同等の権利を有」して、「相互に協力」することとは真逆の蛮行であるし、
「個人の尊厳と両性の本質的平等」(互敬平等)を蹂躙する暴挙です。

 そもそも夫婦間での暴力は婚姻の本質たる「終生的互敬貞操結合」の「互敬」を踏みにじり力による支配
を致すもので、配偶者の人としての尊厳を汚し、夫婦の平等を侵して、ひいて、婚姻家族の破壊を致すものです。

 何故これを第一の離婚原因に挙げず「婚姻を継続し難い重大な事由」中に忍ばせるような迂遠なスタンスをとる
のでしょうか。暴力の非を直接非難せず法として、家庭内における暴力を一定程度は許容するかの如き態度は
庭内暴力を助長し、ひいて、社会における暴力沙汰の蔓延、個人の尊厳の軽視・虐待やハラスメントに繋がっていく
ように思えてなりません。

 私は、夫婦の実質的平等のため家庭経済上の提言もしていますが、離婚原因の点でも憲法が立法に委ねた婚姻制度
の具体化が、未だその委託の趣旨を十分貫徹できていないと思います。むしろ、家庭経済上の改革よりも「配偶者か
ら暴力を受けたとき」を独立の離婚原因として掲げることの方が火急に必要だと考えます。仮に「一定程度の許容」
事態が伴うとしても、それは離婚せずに許容するとする配偶者の判断に任せられることで、原則には例外もあり得る
ということに過ぎません。児童虐待が社会問題となり、体罰が禁止されて、懲戒権規定も削除が取りざたされる現今、
離婚原因についても、憲法の理念を守るべき一歩が今こそ踏み出されねばなりません。



裁判離婚届
 判決で離婚が確定したときは、原告となった者は10日以内にその旨の離婚届けをしなければなりません。判決は、
上訴期間の経過等によって確定し、それに伴い離婚の効力が生じますから、この届出はその離婚を報告的に届け出る
ものです。離婚は、正確に戸籍の記載に反映しなければなりませんから、この届出の義務違反には過料の制裁が科さ
れます
(→戸籍とは)
 調停や審判等で離婚が成立したときも同様で、手続きを起こした者が成立した手続きを明示して届けます
(戸籍法76
77条63条、戸籍法施行規則57条Ⅱ、家事事件手続法268条287条)

 訴えや手続きを起こした者が定められた届出をしないときは、その相手方からも届出することができます
(戸籍法77
63条Ⅱ)
。相手方からの届出については、義務ではないので制裁もありません。
 前記10日の期限は、それを過ぎてしまったからといって届出ができなくなる訳ではありません。その日を過ぎる
と、相手方からも届出が可能となる基準日ということになります。



協議離婚

 
上記「離婚の手続き」で述べましたように、日本の離婚制度は、夫婦の合意に基づく協議離婚を原則とし、これに
ついては特に離婚の理由・原因を定めることをせず、当事者の合意に委ねられていますから、「性格の不一致」でも
よい訳です。 
 離婚意思の合致による離婚合意が調いさえすれば、成人二人の証人の協力を得て、夫婦二人で離婚届けに署名・押
印し提出することにより、離婚は有効に成立します
(民法763条)。但し、結婚に婚姻の障碍事由があるように、離婚にも
その件をクリアしないと離婚届けを受理して貰えない事由があります。
 子供がいる夫婦の離婚の場合の親権者の指定
(§819Ⅰ、戸籍法76条)です。夫婦の話合いでどちらが子の親権者となるか
決まらない場合は、家裁での親権者指定の調停又は審判
(§819Ⅴ)で親権者を決めた上での離婚届けという運びとなりま
 (→「子供がいる夫婦の離婚」) 
 又、離婚届が受理されたからと言っても、離婚の手続き で触れました「真に法律上の婚姻関係を解消する意思」
がなかった場合には、離婚は無効となります
742、§802からの類推解釈)。離婚無効について、こちらをご覧下さい。
 以上 形としての協議離婚の入口を見ただけですが、離婚問題での中身については、以下の各下線クリックでご覧下
さい。子の養育監護等に伴う問題は「子がいる夫婦の離婚」で、復氏等の「氏」の関係は「離婚の効果」で、財産分
離婚慰謝料年金分割はそれぞれの項をご覧下さい。


離婚意思 
 又
いわゆる方便離婚に関する判例(最判昭38・11・28昭57・3・26)
は、いずれも離婚の届出が、戸主の地位を他方
に与えるため、或いは、生活扶助を受けるための方便だったとしても、
真に法律上の婚姻関係を解消する意思の合
に基づいてされたものであるときは、協議離婚は無効とはいえない旨判示しています。判例(最判昭44・10・31)が、
婚姻意思については、かなり実質的に、真に社会観念上夫婦であると認められる関係の設定を欲する効果意思が存在
することが必要である旨判示しているのに対し、こちらの離婚意思では形式的に捉えていると指摘されてもいます。


離婚と時的制約

 
親権者指定法によって離婚と合わせて決めねばならない離婚届けの受理要件ですが、事実上同様に考えるべき
ものに財産分与
768)あります。
 もし
二人で築いた財産があるのならそれを分けて貰うのが当然ですから協議離婚裁判離婚のどちらであっ
ても離婚と同時に財産分与も合わせて解決しておくべきです。

 法の建前は、必ずしも同時でなくともよく、後から請求する事もできるのですが、後で と思って後回しにしてしま
うと、財産分与請求権は2年で消滅します
768Ⅱ)から、気付いたら請求できない事態となることが多いのです(条句)

 離婚に伴い、住まいはどうするのか、職場の変更とか、自分の戸籍はどうするか、「氏」は復氏か、婚氏続称か、
年金分割はどうするのか、子供の幼稚園・学校はどうなるか、又、子の養育費・子との面会交流等も決めねばならな
い等、数々のハードルが待ち構えます。2年という年月はその気ぜわしさの中であっという間に経過してしまいます。

 子の養育費は
これも必ず合わせて請求しなくともよい建前ですしこれは養育費が必要な事態があるときは
が成人するまでは
(場合によっては、大学を卒業するまで)請求できますが離婚後 即必要であれば、財産分与と合わせて請求す
るべきです。「子供がいる夫婦の離婚」を合わせてご覧下さい。

  
  (夫婦) 破綻、 () 763なら協議によって

          
南無三なむさん 763離婚るか

  夫婦平等破綻瀬揉み763対等自由意思ぶつけ

           
離婚合意成立協議離婚ができる


   バイク819夢中息子には

         
協議離婚裁判離婚認知その他の場合によって

     
子供いるのに離婚なら)親権以降819どうする 

         どちら
つか親権(真剣)俳句
819

             

    

      協議離婚
一環

      親権
()協議不調なら

                      
家裁調停いで審判




  方便離婚()法律上 () 婚姻関係 解消 意思合致 すれば

     
(離婚合意はありとされ) ()763じて(離婚)有効となる



 
ヤレ802763〔協議離婚〕するも(離婚) 合意 がなくば無効 

         離婚ナシ742婚姻続

     
                  §742は婚姻の無効に、§802は縁組無効に関する規定

    がねば財産分与

     
離婚して二年なるや
768

      分
けてえぬ
 (請求権が消滅して行使できなくなる)


離婚能力
詐欺・強迫による離婚離婚の取消し
 
 離婚も、婚姻同様、人の身分行為ですから、財産行為に関する後見・保佐・補助等の、行為能力による制約を受け
ることがありません。したがって、離婚能力という点では、離婚時に本人に意思能力があり、離婚の意味内容や結果
についての認識と理解さえあれば
(そもそも、婚姻能力があった末の、離婚問題ですから、能力面の精神状況に変化がなければ能力的問
題はない筈です)、
離婚は成立し得ます。

 ですから
たとえその人が後見人の後見を受ける被後見人であっても離婚時に 真に法律上の婚姻関係を解消する
ことについて 判断ができる意思能力があれば
後見人の同意を要せずに離婚することができます(民法764条738条)

 又、離婚が詐欺・強迫によるものであった場合は、詐欺・強迫による婚姻と同様に、詐欺が判り、強迫を免れた後
3か月以内に請求すれば、離婚の取消しができます
(764条747条)

 但し
詐欺強迫による離婚が取消請求により取り消されたときは、婚姻取消しの効果が遡及しない(民法748条)のと
は対照的に、離婚は、
(取消効が)遡って、なかったことになり、婚姻が続いていることになります(離婚取消しの遡及効)
 取消効を遡らせないと、婚姻のない空白期間ができて法律関係が処理不能になるので、解釈上当然とされています。 

 なお、被後見人の身分行為に関する訴訟での訴訟能力について、こちらもご覧下さい。又、婚姻能力、詐欺・強迫
による婚姻の取消しの項もご覧下さい。

 当事者間に離婚の合意がないまま協議離婚届けがされた離婚は離婚無効確認の判決等を待つことなく、当然に無
効である旨を判示した判例
(最判昭53・3・9)があります。当然無効なので、第三者から何らか離婚を前提とした主張を
されたときは、無効とする為の裁判等を経ることなく、離婚の無効を主張することができます。

 しかし、戸籍には離婚の記載が残った侭なので、これを訂正する必要があります。そして、その戸籍訂正の手続き
には、離婚無効確認の裁判を経なければなりません。こちらをご覧下さい。



     (成年) 被後見() (精神の)738あっても まって

     
意思持協議ができるなら
 (後見人の同意不要) 

       
難避739 (証人二人)えてろうよ764

      
 離婚となるが

       
(離婚に)詐欺強迫があったなら三月みつき内に

           離婚はナシ
747取消請求できる也




 協議離婚届
 
離婚届については、婚姻届の民法739条が準用される(764条)ので、婚姻時と同様に成人の証人二人の署名・押印が
必要です。

 親権に服する子がいる場合
届書に離婚後 夫婦 何れが親権者になるかを記載しなければなりません(819条)
 この
親権者指定を欠く離婚届は受理されません(765条1項)が、それにも拘わらず受理されてしまったときは、そのた
めに離婚の効力が妨げられることはありません
(765条2項)

 婚姻は重要な各種の効力を伴うので、障碍事由の定めに反するに拘わらず受理されてしまった場合、婚姻取消しと
なる訳ですが、離婚は、婚姻の解消が将来に向けて生じるだけなので、離婚届の証人規定に違反したり、離婚の障碍
事由
を看過しても
その身分行為の核心である離婚意思の合致を重んじて、離婚の効力は維持されます。


 離婚届けはされたが、当事者の一方にでもその意思がなかった場合は、離婚無効となります。又、離婚の効果とし
て、結婚の際に氏を改めた方が「籍を抜いて」
復氏するのが原則(民法767条1項)で、その場合通常「実家の籍」に戻る
ことになりますが、旧姓での「新しい戸籍」を作ることを希望する場合は、離婚届の「婚姻前の氏にもどる者の本籍」
欄に
新しい本籍地を記入し、合わせて同欄の中の、「新しい戸籍を作る」にチェックを入れます。

 復氏をせず、
婚氏続称をする場合は3か月以内に役所に届けることになります(婚氏続称届け)。子がいる夫婦の離
婚の関係はこちらを、その内「
子の氏の変更」の関係はこちらをご覧下さい。

 届けは口頭でも可能ですが、その場合 当事者二人と証人二人の計4人が出頭しなければなりませんし、各人の本人
確認をした上、口頭で必要事項を述べ、これを戸籍係が筆記して、当事者が筆記内容を承認するという手順となりま
すから 時間がかかります。

 書面による届出は、本人が提出する
(一人での提出が可能です)ほかに、郵送でも可能ですし、本人の使者として他人が提
出することもできます。

 本人がする場合も、他人が提出する場合も、提出者の身分証明により誰が提出したかを明らかにし、他人の提出に
かかる届出であると判明したときは、戸籍係から本人に通知が行くことになっています
(戸籍法27条の2)

 
もし、他人が虚偽の届出をした場合は、公正証書原本不実記載罪
(刑法157条)により処罰されることになり、離婚は
無効です
(この離婚無効の対処はなかなか大変です)

 虚偽の届出がなされる恐れがあるときは、役所戸籍係に予め不受理の申出をしておくと受理されずに済みます
(戸籍
27条の2)


 書式・内容が整っていれば、離婚する二人の内どちらからでも、協議離婚である旨を記載して、一人で届け出るこ
とができます
(戸籍法76条、戸籍法施行規則57条1項)。判決の確定を待って効力を生ずる裁判離婚と違い、協議離婚は 届けに
よって効力を生じます
(→戸籍とは)

 郵送された届書は、本人が死亡した後でも受理しなければなりません。死亡後に受理された場合は、届人が死亡し
た時に届けがあったものとみなされます
(戸籍法47条)(cf.臨終婚)

 届書は、法務省のホームページ内でその書式・記載例がご覧頂けます。離婚の手続き全体についてはこちらをご覧
下さい。

 離婚届けについては、届書作成当時は離婚の意思があったが、その後届出までの間に翻意した場合の離婚届け
の効力如何という点に関する判例
(最判昭34・8・7)があります。

右飜意を市役所 戸籍係員に表示しており、
  相手方によつて届出がなされた当時、離婚の意思を有しないことが明確であるときは、
  相手方に対する飜意の表示または届出委託の解除の事実がなくとも、
 協議離婚届出が無効でないとはいえない。

として、協議離婚は無効である旨 判示しています。




   難作739協議ようやくえて、証人二人伴えば、

           
763〔協議離婚〕けでるよ764


(離婚届けの受理)

  戸籍係は、離婚さく739証人(二人、署名・口頭) 

   チェック
 きく
765にならぬよう

  
親権
以降819どちらか 確認し、その法令違反有無も、

      
 調べなければ受理できぬ。調べ足りずに受理あれ


      
戸籍係の難務功  765離婚届はなんと 有効!

  
 受理要件 反す届も受理あればことは容易さ813離縁 有効  

§739は婚姻の届出に§819は離婚の際の親権者に、§813は離縁届けの受理に関する規定

調
りずに
受理あれ

                         調りずに
受理あれば

 戸籍係難務功765 離婚届はなんと 有効
     
                     ことは
容易813離縁 有効


     ヤレ二
802人、763〔協議離婚〕届 が存するも

       
意思ナシならば無効

            離婚はナシに
742婚姻続(類推適用)


法テラス
 なお、離婚について夫婦間の話し合いがつかず、それでも離婚を希望する場合には、まず、家庭裁判所に、調停
立てをし、調停も、相手が応じてくれず、或いは、不成立となった場合は、同じく家庭裁判所での訴訟で裁判離婚
求めることになります。しかし、そのような手続きに必要な知識やアドバイスに身近で接することができる所はなか
なか見付けにくいと思います。そのようなとき、
(国が設立した) 法テラス (司法支援センター)の利用も検討してみて下さい。
手続費用等の負担が経済的に困難な方には
扶助 の制度も用意されています。その他、子育てやDV等生活上の困り
事の相談や、支援等についてこちらもご覧下さい。


 
家裁での調停(裁判の前に必ず調停を経なければなりません)等手続きのあらましについては、こちら、調停申立ての書式や費用等
に関しては、こちらをご覧下さい。


 
手続きのどの段階でも、何事も主張を裏付ける証拠が問われることになることをお忘れなく。
 また、家族生活のルールである家族法の基本原則
(民法1条)は、常に公の意識を持し、真心で誠実に接し、濫りなこ
とはしないことであり、
個人の尊厳と両性の本質的平等(2条)が、家族生活の全ての面での指針であることも忘れな
いで下さい。

 家庭内を一人が支配し、他を抑圧することは、基本的人権を柱とする日本憲法の下では許されないのです。そして、
夫婦間の問題については、本ホームページ冒頭の「同居・協力・扶助の義務」、又、子がいる夫婦の離婚の場合は、
本ホームページの「子供がいる夫婦の離婚」をご覧頂きたいと思います。お子さんがいる方は、児童については 法に
全て児童は、適切に養育されること、その生活を保障されること、愛され、保護されること、その心身の健やかな
成長及び発達並びにその自立が図られることその他の福祉を等しく保障される権利を有する。
(児童福祉法1条)
と定められていることも心にとめて、対処してください。



 
離婚の効果

 ここから、協議離婚の効果に関する民法766条から769条について、個々に見て行きますが、まとめて羅列してみ
ると、子の養育費監護権者面会交流等の監護に関する事項
(民法766条)、離婚に伴う氏に関する事項(民法767条)
財産分与
(民法768条)祭祀承継(民法769条)となります。

 そのうち、離婚復氏の関係について、見てみますと、婚姻によって「夫婦同氏」
 (民法750条) となって、戸籍も同じ
 
( 戸籍法6条) となった夫婦が、離婚する場合は、婚姻によって氏を改めた方が、婚姻前の氏、いわゆる旧姓に復し
 ( 民法767条1項) ( 離婚復氏と言います ) 、また、戸籍も、婚姻前の戸籍に戻ります (戸籍法§19Ⅰ本文) 。但し、その戸
籍が既に除かれているとき、又はその者が新戸籍編製の申出をしたときは、新戸籍が編製 されます
(戸籍法§19Ⅰ但書)

 
戸籍法19条1項を転載します。

第19条 婚姻又は養子縁組によつて氏を改めた者が、離婚、離縁又は婚姻若しくは縁組の取消によつて、婚姻又は縁組前の氏に
復するときは、婚姻又は縁組前の戸籍に入る。但し、その戸籍が既に除かれているとき、又はその者が新戸籍編製の申出をした
ときは、新戸籍を編製する。

  何れにしても、別氏・別戸籍となるのが原則ですが、離婚の日から3か月以内に市町村役場の戸籍係へ届け出るこ
とによって 離婚の際に称していた氏
(婚氏)を称することができます(民法767条2項、戸籍法§77の2)。これを「婚氏続称
と言います。

 しかし、これはあくまで呼称としての氏がその侭となると言うことであって、戸籍が 婚姻時の戸籍の侭と言うこと
ではありません。 婚氏続称届けについてはこちらをご覧下さい。

戸籍法77条の2を転載します。

第77条の2 
民法767条第2項(同法第771条において準用する場合を含む。)の規定によつて離婚の際に称していた氏を称し
 ようとする者は、離婚の年月日を届書に記載して、その旨を届け出なければならない。


 民法の氏に関するこれらの規定は裁判離婚にも準用されます
(§771)
 離婚に伴う「氏」の関係のうち、子がいる夫婦の離婚での「子の氏の変更」については、こちらをご覧下さい。

 その他の効果については、各条句中にある下線の付いた言葉を、クリックしてご覧下さい。



   
には728縁切 (姻族終了)

   名務(なむ))して767   (名について一仕事(造語)して、離婚に伴って復氏、希望により婚氏続称


   
ろう766事項   (子の監護・面会交流・養育費

    
親権以降819どちらか親権〔真剣〕俳句819  (親権者を定める)

     
離婚復氏 (子と異氏となって)くれ790 子の氏 変更§791許可要

親子同氏790原則 「ママ名困790そのくれ790!」われた791

家裁の)許可けた  れば 変更できる

    (離婚する)せい婿むこ769(結婚して姓を変えた婿さん(造語)) 769難問768

                                 
祭祀承継財産分与


上記の内、離婚に伴う復氏(戸籍法§19Ⅰ)と(復氏せずに)婚氏続称(同法§77の2)に関する民法767条の条句です。


  離婚してもな767


  氏
 かえるも、復氏をば、嫌う妻夫なら、

   
名務して767離婚後三月みつき

    届
でれば婚氏続称「して」は、7の西語「シエテ」、伊語「セッテ」から



離婚無効
協議離婚無効確認調停
 婚姻は、届け出ることによってその身分行為が完成し成立して、それに伴い嫡出推定等重要な各種の効力が発生し
ますから、婚姻届けの受理には、婚姻障碍事由の有無の審査が重要です。

 しかし、この婚姻関係を解消する離婚については、親権者の定め等の要件を具備し、離婚意思の合致があり、届出
が受理されれば、離婚は有効に成立します。


 
離婚の効力は、婚姻の解消が 将来に向けて(のみ)生じる というものです。過去に生じた「嫡出」等婚姻による法律
関係はその侭なので、離婚自体による結果は「以後 婚姻解消」止まりです。

 なので、詐欺・強迫による離婚は後から離婚取消しの裁判の余地が残りますが
それ以外の離婚については届出
受理時の審査にミスがあっても
行為の核心たる離婚意思の合致を重んじて、離婚の効力は維持されます。

 届けの証人や親権者 指定の定めに違反しても、それにより離婚 効が妨げられる事はありません
(765条2項813条2項)

 
但し、離婚意思の合致がなかった場合は、その離婚は当然に無効ですから、第三者から何らか 離婚を前提とした
主張をされたときには、離婚取消し裁判等を待つことなく、離婚無効の主張で対抗できます。

 この点に関しては根拠法条がありませんが、婚姻無効に関する742条が類推適用されるとされ、これに沿う判例
(
判昭53・3・9
)
もあります。判文では同条を挙げていませんが、参照条文として同条が記載されています。

 「離婚意思 合致 がなければ離婚は当然無効」とは言え、戸籍に残る「離婚」の記載を訂正
 (戸籍の記載が、不適法又は
真実に反するとき真正な身分関係に一致させるよう是正すること) 
しなければなりませんから、その戸籍訂正の為には、その離婚が
意思の合致がない故に無効であると確認する裁判を経なければなりません
(戸籍法116条)

 
しかし、裁判所では、調停前置主義という原則(家事事件手続法257条)があるので、まずは家裁で、調停委員による
調停
に付されることとなり、当事者間で合意に達すると合意に相当する審判がなされます(家事事件手続法277条)

 調停が不成立の場合、同じ家裁での人事訴訟
離婚無効確認の訴え(人事訴訟法2条1号)で争うことになります。

 しかし、いわば虚偽戸籍の被害者であるのに、このような手続上の面倒を背負わせられるのは、いかにも理不尽だ
と私は思います。
こちらも参照下さい。
 離婚無効の効力は、遡って離婚がなかったことになるので、婚姻は途切れることなく継続していたことになります。


    ヤレ二802人、離婚の届が存するも

       
意思ナシならば無効

            離婚はナシに
742婚姻続く(類推適用)


§802は、縁組無効に関する規定



姻族関係終了届
 
姻族関係結婚によって配偶者の親族との間に生じる親族関係です。ですのでその配偶者と離婚すると、それ
に伴って姻族関係も
当然終了します(民法728条1項)

 配偶者と
死別した場合には遺された配偶者と亡くなった方の親族との姻族関係はそのまま継続します。ですので、
扶養義務の関係もその侭 続きます。

 この場合の扶養義務
当然の義務ではありません。いわゆる審判義務で扶養すべき特別の関係がある場合に、
家裁の審判によって課される義務です
(かと言って、通常は、家裁から審判を受けたから始めるのではなく、事の成行から介護や扶養を
してあげることになるのだろうと思いますが)
。また、その義務の程度は、自らの生活を賄って、余力があればする「生活扶助
で足りるとされています。


 この姻族関係は、戸籍係に姻族関係終了の意思表示を届けることにより終了することができます(民法728条2項
戸籍法96条) 
し、それとは関係なく、旧姓に復する「復氏(民法751条、戸籍法95条)もすることができます。

戸籍法の規定を転載します。

第十節 生存配偶者の復氏及び姻族関係の終了
第95条 民法第751条第1項の規定によつて婚姻前の氏に復しようとする者は、その旨を届け出なければならない。
第96条 民法第728条第2項の規定によつて姻族関係を終了させる意思を表示しようとする者は、死亡した配偶者の氏名、本籍及び
   死亡の年月日を届書に記載して、その旨を届け出なければならない。


 例えば、連合いの亡くなった後も、義父母の家業に貢献したり、その介護・看病等に尽くした長男の嫁が、義父母
の死亡の際も、そのような尽力に報いる遺言がない場合、相続の上で、何も報われずに終わることになります。

 それで、その様な結果は嫁に気の毒であることから、世上、この姻族関係終了を勧める傾きもありました。

 それが、平成30年の相続法改正により、そのような「親族」に対し、特別寄与料」の制度が設けられました。

 つまり、被相続人の生前に、
無償で療養看護その他の労務を提供したことにより
 被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族
」(民法1050条)
に対し、相続上、その寄与に応じた額の金銭の支払いを請求できる権利が新設されました。

 ですから、連合いの死後も、義父母との姻族関係を保つ情の一助となる制度がやっと実現したと言えると思います。
特別寄与料の関係は、こちらを、遺言の関係はこちらを、ご覧下さい。




   姻族関係 離婚によって終了するも

   
〔離婚せず配偶者と死別〕げて

    
つま(妻)亡き後もオヤ(義父母)を看る浪花728節派

   ‘
には
728縁切せこい751

   
(姻族関係)
終了(の意思表示をするか、又は、ふくうじ、いずれも)

                      いずれも
意思次第




大昔の日本では、妻から(時には第三者からも)夫を「つま」と呼んだことがあるそうです。ちょっと
語法が違いますが、お許し下さい。〔〕内を読むときは、ここでは、韻の関係で「ふくうじ」と読みます。




     離婚
(によって)
(族関係)() あるや
728

      親
なぞ
735間柄 ゆえ離散後735

         直
(系)(族)間は
ならじ

          
「7」を形の類似から「り」と読む。



祭祀承継

 
仏壇・仏具等の祭祀財産は、相続対象となる一般の財産とは別扱いで、「祭祀主宰者」に引き継がれることになり
ます。

 したがって、相続の場合は遺言等による祭祀主宰者の指定があればそれにより、そうでなければ慣習により、慣習
が明らかでなければ裁判所が定めます
(民法897条)

 相続の他、離婚
(769条)や離縁(817条)等のときも、その離れる人が祭祀主宰者であった場合、その地位をバトンタッチ
するための協議をして、誰が次の祭祀主宰者になるかを決めることになります。
 いずれの場合も、決められない場合は、家庭裁判所が審判で決めることになります。

 これら各所にひっそり?付随的に配された祭祀承継条項は、大戦後の「家」制度廃止のための民法改正の際、改革
派・抵抗派のせめぎ合いの結果妥協の産物的に残された旧制度の残滓であると指摘されています。

 慣習による「祭祀主宰者」の存在や、「家」を継ぐための婚姻、縁組を前提として、これに国家が関与するかの制
度自体も、今や時代に相応しくないものと化しているのではないでしょうか。

 祭祀財産の一般財産との別扱いは良いとしても、上記各機会に必ず決めねばならない理由も必要もない様に思われ、
祭祀主宰者に関する遺言や指定がない場合は、慣習を探ってそれによるなどというのは迂遠な感を免れません。

 離婚・離縁に伴う復氏の際は無関係とし、相続のときだけ、相続と一体不可分の事柄として、祭祀財産の承継者を、
 相続人間での協議に委ねたら良いと思います。

 祭祀に伴う葬祭や法要等も、その負担分を相続財産から賄いつつ協議で定まる承継人が将来に亘って担うこととし
ては、と思います。協議ができない場合は、家裁で決めることとして、相続と一体で解決すべき です。

 婚姻も、縁組も、それが成ったからと言って祭祀に何か影響があるとするのは、全く不自然・不合理ですから、当
然、離婚も離縁も祭祀と無関係である考えます。

 祭祀財産の中核である墓については、全て寺院等との墓地
(或いは墓施設)使用契約中の契約条項によって、墓参、法要
関係、納骨や合葬、永代供養への移行等々がなされていけば良いのではないでしょうか。

 要は、人の宗教心ないし信仰にかかわる事柄には、法や国家は極力 関わるべきではないと思います。法が立ち入る
場面を限る意味で、離婚・離縁等の際は
(祭祀財産をそれぞれの固有財産として)関知せず、相続の際だけ、祭祀財産の絡
みで関与すべきです。相続に付随する財産であるが、相続財産とは別の、必ずしも相続ルールに縛られないものとし
て、慣習等も参考としつつサポートするコンセプトで良いと思います。

 また、今は、死後の墓参り等に子孫を煩わしたくない、或いは夫やその親たちと同じ墓には入りたくないとして、
墓を望まない人が増えているとも言われます。
 他方、樹木葬、散骨、さらにはIT化したロッカー式のもの、はた又、宇宙葬やDNA保存まで登場し、想定される
に至っているようで、故人の送り方や自身の逝き方、或いは故人を偲ぶ拠り所を求める願いには、際限がない観もあ
ります。そして、これら願いに応えるべく商業ベースで種々喧伝されたりしています。

 地域の紐帯や絆が崩壊しつつあって、危機に晒されていると言われる伝統的な寺院等の側でも、古来の「家」制度
を前提とするような承継原則を軟化させつつあるようですから、祭祀承継は、今混沌とした過渡期・流動期にあると
思います。

 いずれにしても、墓は、人の終末をきちんと納める大事な場所ですし、故人を偲ぶよすがを欲する人には欠かせな
いものです。これは、世界万人共通の、伝統的宗教的民俗ですから、やがては、IT化した時代にも適応し、人の自
然の感情にも即したものに収斂して、それが人々に普及、定着していくのではないでしょうか。

 それにしても、普通に両親の元で育ち、両親を看取り、見送った子供たちは、両親を両親として一緒に偲びたいと
いうのが通常の感情ではないでしょうか。又、婚姻生活を添い遂げた夫婦は、幾山河 共白髪で越えた
末の永久とわ
眠りも共にしたいと願うのが自然だと思います。

 ですから、代々連綿と続く「家」の為の墓は、不自然かつ束縛が伴って、採り得ないとしても、一つの終生的互敬
貞操結合
の証として、一つの墓で両親を偲ぶことができる「
夫婦めおとはか」は残されて良いのでは と思います。
 これによって融合創一で始まる夫婦の長い道のりが「融合葬一」で完結することとなります。

 その夫婦墓が、代変わりで祖父母墓となったときは、次代の夫婦を表記すれば良いので、先代様は同じ墓に居ます
としても、表記上は傍記されるに留まることになります。次代の者がいない場合、その墓は、墓地契約に応じて遇せ
られることになります。如何でしょうか。

 なお、墓地法
(正式には「墓地、埋葬等に関する法律」と言います) こちらで参照下さい。墓地の経営・管理に関する「よ
くある質問」の
報告書があります。


  
婿りで姓改めたせい婿むこ 769

       
離婚 769南無なむ 769あり

     
祭祀財産(仏壇仏具) 協議によってめねばない

             
協議できねば家裁が決める




   改姓養子
祭祀

     
いでいた
場合817

    
 離縁
(離婚)
南無矩769準用

     協議
祭祀者
廃置817する

         協議不調
家裁



   続人勝手くな897 仏壇仏具祭祀財産

      
遺言 には慣習祭祀主宰者 
(に指定された者が)それを



     
なく慣習不明弱音くな897
  
(遺言なくとも黙示でも口頭だけでも書面でも)なんらかの指定があれば、
       それに
り、だめなら家裁
(主宰者を)める




     
仏壇仏具()
祭祀()
         
(
祭祀)主宰者要る故その承継

           
離婚時
769離縁時廃置817ってもくな897 

             
(主宰者を)めねばない

    
§817は離縁による復氏の際の祭祀承継に、§897は相続に伴う祭祀承継に関する規定



財産分与
 
民法は768条1項に、
協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
との規定を置き、同条2項
前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、
当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、協議のときから二年を経過した
ときは、この限りでない。

としています。
 しかし、民法は、財産分与が如何なる性質のものなのか、どう分けたら良いのかという点を明示して呉れていませ
ん。同条3項を見ても、
前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与
をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。

とあるだけです。「当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情」では、夫婦財産の清算が加味さ
れることが分かる程度で、結語的に「一切の事情」では、やはり、不明のままです。

 歴史的に離婚給付を俯瞰すると、西洋での潮流は、離婚有責者に対する離婚罰から離婚損害賠償へと移行し、更に
人道的な観点からする婚後扶養の要素が加わり、その後、男女平等・婦人の地位の向上という歴史の流れの中で、
夫婦財産の共有とその清算の要素も加わったという経過のようです。

 我が国では戦前、強力な家父長制の下、夫婦別産制が採られ、実質、妻に財産は持たせず、離婚給付も不要とされ
ていたのが、戦後、新憲法の下の離婚給付制度として「財産分与」が定められたのでした。

 その立法経過を見ても、当初、離婚後の生計が立つように、との趣旨の文言であったのが、現行条文になったとこ
ろを見、又、「分与」が授け与える上から目線であるところを見ても、戦後の改革派と守旧派の、せめぎ合いの結果
の条文であったのか、と感じます。

 ですから、現行制度も、その侭で良しとせず、婚姻の本質に遡って、本来、離婚給付はどうあるべきかを考えるこ
とが肝要だと考えます。

 それで、まず 現状を知るため、判例でその辺りを探りたいと思います
( 裁判所での手続きについてはこちらをご覧下さい)

 
次の判例は、財産分与の性質を説き、離婚慰謝料との性質上の違いを説明しつつ、両者が訴訟上請求される場合の扱
いについて、一応の指針を示しているので、紹介します。


判例(最判昭46・7・23)は、下記①~④のように述べ、要約すると
財産分与と離婚慰謝料とは性質が違うものの、
   財産分与には慰謝料請求を含めることもできること

   慰謝料を含めた財産分与があって、さらに離婚慰謝料の請求があった場合、
    財産分与中での慰謝料の額及び方法が離婚による精神的苦痛を慰謝するに足りないと認められるときは、
    財産分与があったことの一事を以て慰謝料請求権が消滅するものではなく、
    別個に慰謝料請求をすることができる

旨を判示
しました。

 ① 離婚慰謝料は、
    相手方の行為により離婚をやむなくされた精神的苦痛を理由としてその損害賠償を求めるものなので、
    そのような損害は、離婚の成否がいまだ確定しない間は知り得ないものであり、
    相手方が有責と判断されて離婚を命ずる判決が確定するなどしたときにはじめて、
    離婚に至らしめた相手方の行為が不法行為であることを知り、かつ、
    損害の発生を確実に知つたこととなるのだから、
    その時効も、不法行為と同じく、離婚が確定した時から三年
724)となる。
 他方、
 ②
  
財産分与は、
   夫婦が婚姻中に有していた実質上共同の財産を清算分配し、かつ、
   離婚後における一方の当事者の生計の維持をはかることを目的とする
ものであつて、
   分与を請求するにあたりその相手方たる当事者が離婚につき有責の者であることを必要とはしないし、
   その
時効は、離婚後二年と定められている768Ⅱ但書)

 この様に、

 ③ 財産分与の請求権は、
  離婚をやむなくされ精神的苦痛を被つたことに対する慰藉料の請求権とは、その性質が異なるけれども、

  財産分与は、当事者双方における一切の事情
768Ⅲ)を考慮してされるべきものであるから、
   分与の請求の相手方が離婚について有責であつて、精神的損害を賠償すべき義務を負うときには、
   右損害賠償をも含めて財産分与の額および方法を定めることもできる。

 ④ 財産分与として、上記のように損害賠償の要素をも含めて給付がなされた場合には、
  さらに請求者が相手方の不法行為を理由に離婚そのものによる慰謝料の支払を請求したときに、
  その額を定めるにあたつては、右の趣旨において財産分与がなされている事情をも斟酌しなければならない。

   しかし、財産分与が損害賠償の要素を含めた趣旨とは解せられないか、そうでないとしても、その額および方
  法において、請求者の精神的苦痛を慰藉するには足りないと認められるものであるときには、
  すでに財産分与を得たという一事によつて慰藉料請求権がすべて消滅するものではなく、
  別個に不法行為を理由として離婚による慰藷料を請求することを妨げられない



 したがって、 慰謝料請求が、財産分与とは別に請求される場合は、
財産分与の方で慰謝料請求の理由となる事情がどの位考慮されているかによって、
慰謝料の額の多い少ないが決まることになります
(上記判例)

 また、財産分与と慰謝料請求を二本立てで同時に請求する場合には、
財産分与の方では損害賠償面を考慮するべきではないとする判例
(最判昭53・2・21)もあります。



財産分与の基準
 上記のような判例を踏まえ、一般に、

 財産分与には、

  名義が夫婦何れにあるとしても、実質は夫婦共同の財産であるものを清算して分与する

 清算的側面
 

  婚姻中の役割分担による生活力の低下を補って
離婚後独力で生活を立て直すために分与する
 
扶養的側面(民法752条夫婦間の扶養義務)

  離婚に至らせた責任のある配偶者に離婚による精神的苦痛を賠償請求
(民法709条)するための
 慰謝料請求的側面


 の三つの側面があり
それらを根拠付ける一切の事情を踏まえて(上記判例)、分与する額や方法が決められる、

 とされています。

 しかし、
慰謝料は、本来、終生的互敬貞操結合である筈の婚姻を不法に破綻させ、伴侶を悲しませた者としての、
伴侶の精神的苦痛に対する損害賠償責任ですから、それは財産分与とは別の事柄です。

 別の事柄である
財産分与と慰謝料が一緒くたになったときの対処法は心得て置かねばなりませんが、

財産分与本来のあり方は、「婚姻」のところでも述べました様に、
 
終生の伴侶 を約したことに伴う責任として、生涯の生活に資するべくその時点での財産の半分を分与する
ということです。

 これは、配偶者に対する法定相続分が半分
 ( 子供がいる場合半分ですが、配偶者以外相続人がいない場合は、配偶者が全財産
を相続します ) 
であり、会社員・公務員の専業主婦に対する年金分割が半分である(下記年金機構のホームページ※)
ことによっても裏付けられています。

 ですから、夫婦別産制の下、それぞれに固有財産があるとしても、


 離婚時点での夫婦の共有財産は勿論
固有財産をも含めた全財産の半分を分与するのが離婚に際しての財産分与

とするのが、婚姻の余後効たる財産分与の本質から来る分与基準であると言えます (私見)
添遂げて、配偶者が亡くなって(子と共に)相続するに際しての法定相続分は、正に固有財産の半分を承継取得すること
になるのですから 。

 固有財産は財産分与の対象ではないとする説があり、それに沿う裁判例もありますが、私はそれに与しません。
夫婦の特有財産という概念は、夫婦別産制下ではあり得ても、離婚時はそれを取払い、夫婦の実質的平等を回復する
ためにあるのが財産分与制度です。

 それまでの家庭生活における各個人としての存在も財産も、夫婦の共同「融合創一」に依拠していたことに立戻り、
全財産を等分するのが財産分与であるべきだからです。

 そうでなく、固有 或は 特有の財産は、各々が確保し、夫婦共有の財産を分け合うだけであるなら、249条の共有物
256条で分割すれば良いだけの話です。離婚に際しての特別制度として財産分与制を設ける意味がありません。そ
れとも、夫婦は婚姻中、共有物の分割を許されないから離婚時に財産分与で特別に分割を許すのだとの趣旨なのでし
ょうか。まさか、その様な中世世界での束縛を思わせる立論をしている訳ではないと思います。

 この財産分与には、ですから婚姻を破綻させた責任の要素は何ら含まれていません。
離婚時点での全財産を端的に半分ずつ分けるだけですから、離婚時に算定できるものですし、
これに判例の言う清算的要素と扶養的要素も既に含まれています。

 ですから、この財産分与は、特有財産を多く有する配偶者が、他方に対して自分の財産を「分けてやる」ものでは
ありません。抑も、婚姻中の財産は、本来 全て、終生的互敬貞操結合を約し、守操一体となった夫婦の共有なので、
それを財産分与として端的に等分するものです。「分与」に、一方が他方に分け与える意味を含めるべきではありま
せん。

 そして、慰謝料的部分は、破綻責任のある相手方が、この分与を終えた手許の現有財産の中から、その責任に応じ
て支払うべきもので、現有財産がそれに足りなければ将来の収入から分割によってでも支払わねばならないこととな
ります。

 もし、自分が婚姻を破綻させた責任を負うべき立場でもあるときは、半分の離婚分与を受けた上で、その中から責
任に応じる慰謝料を払わねばなりませんから、結果として受ける割合は半分より少なくなることはやむを得ないこと
になりますし、慰謝料が払い切れなければその支払債務を将来に亘って返済しなければなりません。

 子供がある場合、相手方は、それに加えて養育費の定期金債務をも負うこととなります。
 財産分与は、元配偶者が自身の権利として請求するものですから、その者の処分自由で、相手に対し放棄や減免を
することがあり得ます。慰謝料も宥恕によって減免が可能です。
 しかし、養育費は、子の扶養請求権を親権者法定代理人として代わりに請求する立場ですから、子に代わって子の
権利を放棄する事はできませんし、本来、扶養請求権ですから、民法881条によって放棄つまり処分することが禁止
されている権利でもあります。

なお、上記「全財産の等分」に関連して、こちらもご覧下さい。



離婚慰謝料 
 離婚慰謝料は、上記のとおり婚姻を不法に破綻させ、伴侶を悲しませた者としての
伴侶の精神的苦痛に対する損
害賠償
責任
(民法709条)です。

 具体的離婚原因の内
不貞は配偶者に対する不法行為であり婚姻の本質である終生的互敬貞操結合を侵した以上、
十分に賠償されなければならないものです。
 悪意の遺棄も同じ意味で婚姻の本質に反した行状で十分に不法行為たり得るものですから、不貞行為同様に償って
貰わねばなりません。

 しかし、生死不明や精神病は、それ自体では不法行為ではないので、例えば、生死不明が悪意の遺棄同様或いはそ
れに準ずるような原因に基づく場合以外は、慰謝料の対象とはならないと思います。

 抽象的離婚原因についても、暴力や虐待はそれ自体で不法行為ですから、賠償すべきは当然ですが、その他のもの
についても、終生的互敬貞操結合の趣旨に反する程度に応じて慰謝料の対象となると言えます。但し、故意過失によ
らないものは不法行為たり得ないので除かれなければなりません。
 離婚の請求者自身が離婚についての有責配偶者である場合は、自身の不法行為について、相手方配偶者に離婚慰謝
料を支払う立場になります。
 

 離婚慰謝料は、財産分与の一部として分与と合わせて、一本で請求することもでき、又、財産分与とは別立てで請
求することもできることは、上記判例が述べているとおりです。

 慰謝料の性質は、精神的苦痛を慰謝するものですから、財産分与が、本来、離婚時点における夫婦二人の固有財産
も含めた全財産の半分を分ける
(私見)ものであるのとは違い、苦痛の大きさに応じて額が決められる筋合いです。
 なので、まずは、その時点の全財産の半分を財産分与として渡した後の残りの内から、その苦痛に応じ慰謝料を支
払うべきであり、分与の残余がこれに足りなければ、支払義務者のその後の収入からでも支払わねばなりません。

「離婚慰謝料」
 不貞の相手方に対する「不貞慰謝料」との関係についての新たな判例(最判平31・2・19)についてこちら
をご覧下さい。


年金分割
 
なお、離婚によって夫婦がそれぞれ加入している年金の受給額に偏りが出る場合等には、離婚に伴ってこれを公平
に分割するための「年金分割」制度があります
(正確には、婚姻期間中の厚生年金の保険料納付記録を分割するものです)

 分割が決まると、例えば、本来の受給資格者であった者の配偶者も、年金の基礎年金を除く部分の、年金記録の決
められた割合が、自分の記録となりますから、相応する年金を受給年齢から、本来の受給資格者が死亡後も、自分が
死亡するまで受け取ることができます。日本年金機構に分割請求しますが、請求があると、婚姻期間中の年金記録の、
最大5割までの分割を受けることができます。又、平成20年4月1日以降の分割については、合意が不要で、請求手続
きだけで5割が分割されます。

 その年金分割の請求には、合意書の提出
(合意書が不要な場合もあります)とか、或は、合意ができないときは、離婚裁判
に合わせて手続きしますが、財産分与同様、請求には 2年という時間的制約もある等、クリアすべき条件があるので、
日本年金機構のホームページを調べて臨んで下さい。又、日本公証人連合会のホームページ
(「離婚時年金分割制度」)
もご参照下さい。


    離婚する二人見舞難問768財産分与協議

     攻む夫
768ぎをめた いだ取得なる768

     守る
家事 育児 家計 切盛専門768下功内助

       世論
768味方半分当然私れる

           「夫」は、伊語の8「オット」から

  夫婦間
協議分与められぬ
      ならば
離婚後二年
家裁請求調停審判


   急がねば
財産分与離婚して二年なるや
768
           分けて貰えぬ
 
(請求権行使ができなくなる)


   くも
(財産)分与るは768やめなはれ
    
(双方の)各貢献収入年齢 性格健康等
   
有無生活
一切考慮分与する方法まる也
 


 なお、家庭裁判所への離婚の訴えに伴う財産分与申立てには具体的な金額や分与の方法を特定する必要はない旨の
判例
(最判昭47・7・15)があります。


財産分与と税金
 離婚に伴って財産分与を受けた場合、それが前記の清算的な分与や扶養的な分与等として通常の範囲内のものであ
れば、贈与とはみなされず、したがって、贈与税がかかることはありません。
 但し、この範囲を超えて明らかに過多であると判断されたときは、過多な部分について分与を受けた人に贈与税
かかり、また、脱税を図った分与だと判断されると、その分与 全てについて贈与税がかかります。

 そして、注意を要するのは、分与をした方の離婚当事者には、分与財産が土地や建物の不動産である場合、
分与によりその時点でのその不動産価額相当額の金銭支払義務を免れるという利益があった」とみなされて、
譲渡所得税を課せられます。
 この点については、課税対象となることを認めた下記判例もありますが、私見としては解せないものがあります。

 そして、その不動産を財産分与として受けた方も、これをその後に売却したときに、売却価額が取得価額と仲介手
数料等の譲渡費用、それに控除額
(居住用の場合は3000万円)を加えた額を超える分について、
 譲渡時点までの期間により、長期譲渡・短期譲渡の別による税率で、譲渡所得税を課せられます。
 このときの「取得価額」も財産分与時点での時価となりますので、分与を受けたときの評価額を証拠として残して
おかないと、不利な算定となってしまうことがあります。ご注意下さい。詳しくは、こちらをご覧下さい。


財産分与としてされた不動産の譲渡は、譲渡所得課税の対象となる旨判示した判例(最判昭50・5・27)
 この判決は、その理由として、
「所得税法三三条一項にいう「資産の譲渡」とは、有償無償を問 わず資産を移転させるいつさいの行為をいうものと
解すべきである。そして、同法五九条一項
(昭和四八年法律第八号による改正前のもの)が譲渡所得の総収入金額の計算に
関する特例規定であつて、所得のないところに課税譲渡所得の存在を擬制したものでないことは、その規定の位置及
び文言に照らし、明らかである。

 ところで、夫婦が離婚したときは、その一方は、他方に対し、財産分与を請求することができる
(民法七六八条七七
一条
。この財産分与の権利義務の内容は、 当事者の協議、家庭裁判所の調停若しくは審判又は地方裁判所の判決を
まつて具体的に確定されるが、右権利義務そのものは、離婚の成立によつて発生し、実体的権利義務として存在する
に至り、右当事者の協議等は、単にその内容を具体的に確定するものであるにすぎない。

 そして、財産分与に関し右当事者の協議等が行われて その内容が具体的に確定され、これに従い金銭の支払い、不
動産の譲渡等の分与が完了すれば、右財産分与の義務は消滅するが、この分与義務の消滅は、それ自体一つの経済的
利益ということができる。

 したがつて、財産分与として不動産等の資産を譲渡した場合、分与者は、これによつて、分与義務の消滅という経
済的利益を享受したものというべきである。 してみると、本件不動産の譲渡のうち財産分与に係るものが上告人に譲
渡所得を生ずるものとして課税の対象となるとした原審の判断は、その結論において正当として是認することができ
る。」

と述べています。

 
判例を読んでも、理屈を展開していますが、財産分与義務の消滅が経済的利益の享受であるなどと言うのは詭弁以
外の何ものでもありません。納得が行きません。

 私の婚姻観からすれば、財産分与の趣旨は、終生的互敬貞操結合によって
同種・同量・同等融合創一を旨に、
しかし、対世間的には、法定の夫婦別産制の下に経過した夫婦が、離婚に至った際には、それまで潜在していた平等
の権利を顕在化させて平等に分与しましょう、ということですから、ここでは単に保有財産権を顕在化させただけで、
課税されるべき新たな利得などありません。それを課税対象とするというのは理不尽この上ありません。

 夫婦別産制が違憲であるとの主張に対し、
夫婦は一心同体であり一の協力体であつて、配偶者の一方の財産取得に対しては他方が常に協力寄与するものであ
るとしても、民法には、別に財産分与請求権、相続権ないし扶養請求権等の権利が規定されており、右夫婦相互の協
力、寄与に対しては、これらの権利を行使することにより、結局において夫婦間に実質上の不平等が生じないよう立
法上の配慮がなされているから、民法
七六二条一項の規定は、前記のような憲法二四条の法意に照らし、憲法の右条
項に違反するものということができない。

判例
(最判昭36・9・6)自身が述べているのです。なお、夫婦の実質的平等について、こちらもご覧下さい。


夫婦財産契約. or 法定財産制. 
 
上記財産分与での清算の対象 は、夫婦の協力で得られた「夫婦共同の財産」ですが、その清算の前提としては、
 夫婦別産制という夫婦間の財産関係に関する枠組みルールがあり、これは、婚姻前に夫婦で決めた夫婦財産契約
を登記した場合
(民法755条756条)を除き、夫婦の財産は、各人の特有財産と共有財産とから成るとすることを枠組み
としています
(民法762条)

 夫婦財産契約は、婚姻届を出した後は変更することができず、夫婦一方の財産を他方が管理する旨定めた場合に、
その管理が失当で財産を危うくしたときは、管理を他方に移すことを、或いは共有財産を分割することを、裁判所に
請求することができます
(民法758条)
 この管理者の変更と共有財産の分割は、登記をしないと第三者には対抗できません
(民法759条)
 夫婦財産契約の内容は特に規定されておらず、「夫婦財産契約の自由」が保障されるものの、その内容項目や類型
等も示されていませんし、殊に婚姻前に締結しなければならないという制約も障害となって、この契約を結んでいる
夫婦は極めて少ないのが現状です。

 そして、夫婦財産契約を締結していない以上は、上記別産制を内容とする
法定財産制によることになりますから、
通常の夫婦は、夫と妻が、稼ぎ手は稼ぎを独占した侭、それぞれ自分固有の財産を持ち、或いは、持たぬ侭、自分で
管理をするけれども、夫婦が離婚に至ったときは、実質 夫婦共有である財産を清算し、又、相手の将来の扶養の為
にも備えてやれというのが財産分与制度のとるスタンスの様です。そこに、家庭運営の為の「家計」という概念は、
一顧だに払われていません。

 そこには、建前は夫婦平等の夫婦財産契約の存在を、「
夫婦が同等の権利を有する(憲法24条)とする憲法の手前、
形式的にも平等の証左としたいとの隠れた意図を感ずるのは、私だけでしょうか。上記のように極めて親近感に欠け
る、ハードルばかり高い近寄りがたい制度をもって、夫婦平等の証などと強弁することは到底できる筈がありません。

 ところで、私は、夫婦の実質的平等を考えたとき、従来、夫が稼ぎ、妻が家計を切り盛りする、という家庭生活の
成り立ちの中で、家事育児の比重を軽視した稼ぎ手の支配が、世の家庭に根を張ってしまい、それがDVや虐待に、
更には、強者支配を当然視した、社会での女性差別や、ひいて、いじめ、パワハラ等の弱者被害にも繋がっている様
な気がしています。

 今は、夫婦共稼ぎの世帯が殆どの世となりましたが、それでも、妻の稼ぎは僅かで、妻が家庭生活のしわ寄せを受
け、苦心惨憺している例が多いというのが現状です。女性の労働対価は低く、同一労働同一賃金は、なかなか実現し
ません。男女の不平等は、労働の場にも頑強に根深く生き続けています。

 しかし、すべからく 稼ぎ手の稼ぎは、互敬平等の夫婦・家庭があってのもので、本来家計に回るべき という根本を
、例えば、夫婦財産契約で、「稼ぎ手は、その稼ぎの八割を、感謝と共に家計に納めなければならない」と定めて、
これを家庭を持った者の当然の経済的枠組みとして確立し、まずは家庭における支配を崩壊させることが急務なので
は、と思います。

 もっとも、個人の契約レベルの侭であれば、夫婦財産契約の近寄りがたさに照らし、やはり、その普及は望むべく
もありません。その前に、一国家の家庭制度として、融合創一に相応する「家計」を創出し、「支配」を排除する、
その様な内容に繋がる仕組みを何らか用意するべきだと考えます。 夫婦の平等についてこちらもご覧下さい。

 

  夫婦 門出  財産制 

       契約登記ないとこ()755 

                 
(法定の)夫婦別産(制) はあるかも(ないかも)

「            「ないとこ」は、755を「七、五十五」と分けて、読む




  二人して締結をした(夫婦財産)

  財産制
登記してごっこ
755でやってみるもいかも


  但し、
夫婦財産契約は、一度ひとたび婚姻 けたら、

   終り
(尾張)名古屋758だ、変更できぬ



   夫婦財産契約婚姻届する

           登記をすれば(社会的)められず、

                   セコム? 756ができる、(夫婦が) 和む756もと


  夫婦財産契約ないまま(婚姻)るならば
  
夫婦別産(制)  (収入)格差差別 から目線 いつかDV?

 
 夫婦二人
財産制婚姻届のその 財産契約をば
   その
 登記 難行 (なんぎょう)755 別産()とらず   婚姻平等 図れば るかも

 
難行 755男業 755かはらねども 
  
婚姻届けのそのに 夫婦二人の 財産契約 んで

    
全稼家計に入れる(or 可能な限りの割合を定め、共有財産とする)
      の 
をして 登記ませば るかも。

    

   夫婦二人財産制婚姻届その

     財産契約をばび その 登記 難行 755

         別産()とらず 全稼 家計せば るかも





  夫婦
財産一方他方管理して

     
名古屋
758ざい危殆きたい家裁頼れ

     
管理替 危殆、(夫婦)共有財なら管理替

    
以外(共有物)分割 §256(も)請求できる


      
但し、登記をせねば
(第三者には)対抗できぬ759


   共有分割256いつでも可。

     分割
(共有の)双子(のように必ず伴うもの)257れども(境)界標分割できず

     
(また、)分割双子256マックス五年間禁ずることができる也。

夫婦別産制 
 民法762条1項は、

夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、
           その特有財産
 ( 夫婦の一方が単独で有する財産をいう。 ) とする。
と定め、夫婦の各人が結婚前から持っていた財産は、結婚後もそれぞれの固有財産であり、又、結婚後に各自が自分
名義で稼いだり、取得した財産は、その者の財産であるとします。そして、同条2項は、
夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定する。

として、どちらの財産か不明の場合は共有とするが、推定であるので、自分の所有であると言いたい場合は、証拠に
よって所有権が自分にあることを立証しなければならない旨を定めています。条文にはありませんが、夫婦が共働し
て稼いだ結果としての金品・財物は、単独名義にした場合であっても、夫婦の共有物とされるべきが道理です。
 このように、
夫婦の財産は、各人の特有財産と共有財産とから成るとする定めを夫婦別産制と言います。

 この「別産」は、考えてみれば、民法が私有財産制の下に個人の財産権と財産処分の自由を認める枠組みそのもの
ではないでしょうか。民法は、たとえその個人が婚姻した場合にあっても、夫婦財産契約により別異の定めを置かな
い以上は、通常の友人間同様、私有財産制を基本とし、夫婦の共有財産も増えていくだろうが、それも必要があれば
婚姻中は共有物分割請求
(民法256条)で対処せよとの旨を規定したと言えます。そこには、家庭運営のための「家計」と
いう概念は 一顧だに払われていません。

 したがって、これにより、夫婦はその婚姻中保有する財産が夫婦間で必ずしも等しくはなく、場合によっては一方
に偏って、他方は無資産ということもあり得ることになります。このような夫婦別産制は、夫婦が平等の権利を有す
ることを定める憲法24条に違反すると主張する訴訟があり、下記の最高裁の判決(最判昭36・9・6)が出ています。
 その判決には、実質的に平等とするために与えられているとして、扶養請求権のほか、前述した離婚時の財産分与
と相続権が挙げられており、その相続権には、通常二分の一である配偶者相続分が想定されていると思われます。

 そして、平成30年の相続法の改正により、夫婦で長年住まった住居について、遺贈・贈与がある場合、原則的にい
わゆる「相続分」とは別枠として扱い
(原則、売却・現金化を迫られることはありません)、また、遺贈・贈与がないときも、
終身・無償の配偶者居住権を遺産分割、或は、審判で認められることとなりました。これらも、婚姻の余後効と説明
されていますから、夫婦別産制下の実質的な平等を
(事後的にですが)担保する制度の一環と位置づけられます。

 これらは、それなりに有難いことではあっても、婚姻の破綻に際し、或いは、配偶者の死後に「平等の余韻」に触
れるようなもので、「婚姻中の実質的平等」に資するとは到底言い難いところです。判決が平等の表れとして挙げる
扶養請求権にしても、夫婦の一方が無資産であるときには、単に他方による一方的な支配の容認になりかねません。

判例(最判昭36・9・6)は、夫婦別産制をとる民法七六二条一項は憲法二四条に違反し、又、夫の税法上の給与所得等は、
内助の功ある妻にその二分の一が帰属する筈のものであるのに、これを無視して夫の特有財産と捉え、これに課税す
る方式を採るもので、所得税法は憲法二四条に違反するとの主張に対して、おおよそ次のように判示しました。


 「憲法二四条は、個人の尊厳と両性の本質的平等の原則を婚姻および家族の関係に及ぼし、継続的な夫婦関係を
全体として観察
して、夫と妻とが実質上同等の権利を享有すべきことを定めたものであり、個々具体的法律関係
において、常に必らず同一の権利を有すべきとしているものではない。

 他方、夫婦の一方が婚姻中に自己の名で得た財産はその特有財産とすると定める民法七六二条一項は、夫と妻の双
方に平等に適用されるものであるばかりでなく、
所論のいうように夫婦は一心同体であり一の協力体であつて配偶
者の一方の財産取得に対しては他方が常に協力寄与するものであるとしても、
民法には、別に財産分与請求権、相続
権ないし扶養請求権等の権利が規定されており、右夫婦相互の協力、寄与に対しては、これらの権利を行使すること
により、結局において夫婦間に実質上の不平等が生じないよう立法上の配慮がなされている
から、民法七六二条
一項の規定は、前記のような憲法二四条の法意に照らし、憲法の右条項に違反するものということができない。

 それ故、本件に適用された所得税法が、生計を一にする夫婦の所得の計算について、民法七六二条一項によるいわ
ゆる別産主義に依拠しているものであるとしても、同条項が憲法二四条に違反するものといえないことは、前記のと
おりであるから、所得税法もまた違憲ということはできない。」




夫婦平等その()各分離して別産制

 各人婚前由来
婚中自名義取得(何れも)

特有財
帰属めい

さにあらぬ
帰属不明
(の他の物) (義)二人762共有すると推定

 二人共働
 取得して、単独名義にせし財は、()二人762共有すると判ずべし。




夫婦の互敬平等と実質的平等について(私見)
 
私は、「婚姻」には「融合創一」における同種・同量・同等の互敬平等が必然であって、夫婦はその実際生活に
おいても実質的平等が図られなければならないと考えます。ですので、前記昭和36年の判例が、婚姻の節目である
離婚や相続、或いは別居等に際し実質的平等を図るため、財産分与、相続権、扶養請求権等が与えられていると判示
している点も、その限りで同意できますが、但し、果たして、その程度で良いのだろうかとの疑念があります。

 夫婦であっても、家事・育児の分担者として家庭にあり、収入に直結していない者の置かれる立場は弱く、そこに
憲法の掲げる夫婦の互敬平等を大いに損なっている根源があるのではないでしょうか。

 婚姻の終了時や特異時のみに手立てを施しても、婚姻継続に並行しての実質の平等に欠けていては、それで全体的
観察における互敬平等があると言えるでしょうか。

 配偶者・子に対するDVが横行し、果ては、痛ましい児童虐待死が頻発するに至っては、問題の核であると思われる
稼ぎ手の支配を
法を以て否定し婚姻者の収入はすべからく融合創一の家庭有っての収入なのであり、収入は家計
に入れて当然であることを国・国民の国是・通念として遍く深く知らしめなければなりません。

 夫婦別産制の下、人生百年にもなろうとする現今、婚姻生活何十年もの間このまま実質的不平等が続くということ
であってはならないと思います。基本的人権を主柱とする我が憲法の24条1項

婚姻は、・・夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならい。
として、夫婦の権利が同等であるべきことを夫婦のあり方の柱として宣言しています。そして、同条
2項は、
・・財産権、相続・・離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳両性の
本質的平等
に立脚して、制定されなければならない。

と、婚姻制度を立法により具体化するについて、
夫婦の互敬平等をその指針とすべきことを示しています。

 しかし、昭和21年の憲法制定後15年後の昭和36年の上記判例以降でも、半世紀以上を経過しているのに、制度と
して具体化されたのは、昭和56年配偶者相続分の改正、平成20年発足の離婚に際しての年金分割と、そしてこの度
(平成30年)配偶者居住権配偶者居住資産(次項をぜひご覧下さい)だけです。国の根本規範で夫婦両性の同等・平等が宣
明されているのに、果たして、これでそれを実現するための立法努力が払われていると言えるでしょうか?

 私は、これ迄の具体的な立法が、それ自体で違憲だとは思いませんが、この侭 実質的不平等が放置されたならば、
それは立法府の不作為による違憲状態にあると思います。やはり、婚姻年月の長短に関わらず
婚姻期間中における
実質的平等
を具体化するため、同種・同量・同等を指針として、何らかの手立てによって真の融合創一の実現が達
成されなければなりません。

 具体化の方策は、賢明な立法府に期待するところですが、例えば、夫婦の内、家庭の外で収入を得る者のその稼ぎ
を家事・育児担当者に一定割合で供出すべし、とするルールが不可欠のように思います。理想としては、7割ないし8
割をそうすべし、と定め、これに違反した場合の罰則も設けて、権力が介入してでも実質的平等を是非実現しなけれ
ばならないと愚考しますが如何でしょうか。

 同じ夫婦平等の観点から、夫婦財産契約離婚原因についての愚見もご覧下さい。
なお、配偶者暴力についてはこちらを、児童虐待についてはこちらをご覧下さい。

 そもそも、これらの問題の根源には、人類何万年の歴史の中で、深く根付いた、女が子を産み、愛育し、男がその
ための食料や稼ぎを得る、との性による役割分担が、そこには本来 尊卑の別がなく、単に家庭の内外を分けた分担で
あったものが、やがて、それぞれが、自分の持場と観念し、他方に介入しない、自方に させないという制約となり、
更には、戦いの場となる外 社会との区別、外 社会での差別となり、女性蔑視 固定化への道を進んだ様に思います。
それが社会的に、そして、国家的に固定化して、疑われぬ侭 何千年も経てきましたが、今や、人類の科学的進歩が、
万人に等しく、生活様式の進歩と改変をもたらしました。外社会も筋肉によって支配できる場ではなくなりました。

 その進歩と改変が、人のあり方の根本に立ち戻ることを促しています。根本は、性による尊卑・差別のない、互い
の尊厳と平等なのです。何事も、その根本から始めなければなりません。まだまだ固定化した古い制約・制限・差別が、
根を張り、息づき、臭気を放っていますが、それらを良しとせず、常に根本からの発想を忘れるべきではありません。

 まずは、外社会での男女差別の撤廃、同一労働同一賃金が実現され、内社会、つまりは家庭において、夫婦の互敬
平等が守られて、社会全体においても、全ての人、全ての男女が、個人の尊厳を守られ、互敬平等の暮らしを送るこ
とができる、そういう社会を是非この目で見たいと思います。



 夫婦平等
その()各分離して別産制

  各人婚前由来
婚中自名義取得

        (何れも)特有財帰属めいさにあらぬ

  
帰属不明
(の他の物) (義)二人762共有すると推定


  
二人共働 取得して 単独名義にせし財は

       
()も二人762共有すると判ずべし



 私は、こんな提案をしてみたいのです。人生を百年のスパンでみた場合のこちらも覗いてみてください。



  子育夫婦めおとチーム762愛壊す‘別産制はだかれば


          愛あかし妻全遺言


  別産法制

   遺言
稚夢
762過ぎぬあざけるな

        968妻にある故に リングぞ。


§968条は自筆遺言に関する規定





配偶者居住資産
の本来的固有資産性について


 平成30年の相続法改正は、婚姻二十年以上の夫婦間では、その居住資産を贈与又は遺贈しても、これを相続人間で
のいわゆる「特別受益」視はせず、原則、相続人間の公平を図るための「みなし遺産」とする「持戻し」「計上」の
対象とはしないものとしました
(民法903条4項)

 これによって、贈与又は遺贈された居住資産は、相続とは別枠の自由分として与えられたこととなり、配偶者は、
居住資産を除いた残余財産
(預貯金がこれに入ります)から定められた相続分をフルに取得することができます(但し、遺留
の制約を免れることはできません)


 これは、事柄が、相続人間の公平の問題ではなく、夫婦間の実質的平等に関わることを意味しています。つまり、
夫婦は、本来「同等の権利」(憲法24条)を有するのですから、婚姻中、配偶者は夫婦別産制(民法762条)の下で、
夫婦財産の偏在 に呻吟することが多くあっても、他方が亡くなる(形での)婚姻終了時は、本来の「同等」を回復すべ
きなのです。

 愚説によれば、これは、婚姻における融合創一に由来する夫婦一体の具現ですから、長年の婚姻共同生活の結実体
である居住資産
(居住建物又はその敷地)の他方に対する承継行為があれば、その居住資産は、(特別受益ではなく)元来の夫婦
資産の
(バランスの)復元 夫婦財産の復衡 とみなすことができ、それは配偶者の本来的固有資産と見るべきです。

 なので、「相続分」限りのことですが (遺留分の制約が残ります)、居住資産以外の残余財産 (預貯金がこれに入ります)
だけが「相続」の対象となる訳です
(こちらをご覧下さい)。「復衡」と言えるためには、それまでの経過を必要とするの
で、婚姻二十年以上という要件の充足を必要とします。
 こうして、平成30年の相続法改正による配偶者居住資産制度(§903Ⅳ)は生まれたと見るべきです。

 私は、これをもって「婚姻中の実質的平等」に資する立法とはとても言えないと思いますが、しかし、折角認めら
れた復衡なのです から、これを無にすべきではありません。「権利の上に眠る者は、権利を失う」と言いますが、
居住資産は他に代え難い生活の本拠です。それを失えば生活を失い、伴侶に先立たれた後の余生を失います。そうな
らぬよう、しっかり備えを固めなければなりません。関連の&Aでのこちらをご覧下さい。



法定財産制

 前記の夫婦別産制(民法762条)を踏まえて生活をする夫婦ですが、世間に対しては、夫婦の一方が日常生活に関連し
て負った債務
日常家事債務は、他方も連帯してこれを負わねばならず(民法761条)、婚姻生活に要する費用 婚姻費用
は互いの資力能力に応じて分担しなければなりません
(民法760条)
 これら夫婦の
別産・連帯・分担を合わせて、夫婦の法定財産制と言います。

 登記を経た前記の
夫婦財産契約がない状態で結婚した通常の夫婦については、この法定財産制が適用されることに
なります(民法755条)

 婚姻中であるけれども、事情により別居する状況となり、資力のある配偶者からの生活費の送金がない場合は、婚
姻費用の分担請求によりその支払いを求めることになりますから、家裁での事件の扱いに従って手続きが進むことに
なります。

 結着が付いて調停調書等のいわゆる債務名義が得られると、不履行があった場合でも強制執行が可能となる訳です
が、このような切実な生活費等については、執行段階でも特例扱いを受けることができます。こちらをご覧下さい。

 婚姻の本質は融合創一ですから、夫婦は一体となって夫婦共同生活を営み、その一体性 故に、婚姻生活のために必
要な費用「婚姻費用」を互いに分担し
(民法760条)、それが婚姻生活に日常的に発生する「日常の家事に関する」費用で
あれば連帯して債務を負う(民法761条) とすることが婚姻の自然的帰結です。

 連帯責任の範囲は、夫婦共同生活を営むための日常的な家事での出費ですから、食料品、生活用品、光熱費等生活
のための公共料金、租税、家具、家電、医療費等の購入費・支払いがこれにあたります。

 そして、互いにこの範囲においては他を代理して行為することができ、その代理権限 故の連帯責任となります。

 しかし、ときにこの代理権限の範囲を超えて購入や売却等が行われることがあると、その連帯責任の有無について
争いが生じます。この場合の責任の有無の判断基準について説いた下記の判例があります。



  夫婦 門出  財産制 

       契約登記ないとこ()755  (法定の) 

                     
夫婦別産 はあるかも(ないかも)

「            「ないとこ」は、755を「七、五十五」と分けて、読む




  夫婦一方家庭日常家事 (務の)取引なせば

     
( 世間他方施無畏せむい 761 連帯責任 


        但し
() わぬ() 予告があれば此限こぎりでない

      「日常
家事」うならば
未成熟子めたる

           
夫婦共同生活
必要となる一切()


判例(最判昭44・12・18)は、民法761条による日常家事債務に関する連帯責任について、
 連帯の前提には、同条により、
  夫と妻の相互間に、日常の家事に関する法律行為につき他方を代理する権限がある旨も規定されている
 と判示しました。また、
  妻所有の不動産を他に売却したという当該事案での夫の行為が、日常家事債務の範囲を超えているか否か
 という点につき、
 
 夫婦の一方が民法七六一条所定の
日常の家事に関する代理権の範囲を越えて第三者と法律行為をした場合
 においては、
  その代理権を基礎として、民法一一〇条所定の表見代理の成立を、一般的に肯定すべきではなく、

  その越権行為の相手方である第三者において
   その行為が
その夫婦の日常の家事に関する法律行為に属すると信ずるにつき正当の理由のあるときにかぎり、
   一一〇条の趣旨を類推して第三者の保護をはかるべきである
 と判示して、
  本件不動産売買契約は当時夫婦であつた二人の日常の家事に関する法律行為であつたと言えないことは勿論、
  その契約の相手方においてもその契約がこの夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内に属すると信ずる
  につき正当の理由があつたと言えない
 として、当該不動産の売却行為を無効としました。

 この判決は、日常の家事に関する法律行為であるか否かの判断について、
「民法七六一条にいう日常の家事に関する法律行為とは、個々の
夫婦がそ れぞれの共同生活を営むうえにおいて
  通常必要な法律行為を指す
ものであるから、  

  その具体的な範囲は、個々の夫婦の社会的地位、職業、資産、収入等によつて異なり、また、
  その夫婦の共同生活の存する地域社会の慣習によつても異なるというべ きであるが、他方、
  問題になる具体的な法律行為が当該夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内に属するか否か
  を決するにあたつては、同条が夫婦の一方と
取引関係に立つ第三者の保護を目的とする規定であることに鑑み、
  単にその法律行為をした夫婦の共同生活の内部的な事情やその行為の個別的な目的のみを重視して
  判断すべきではなく、さらに客観的に、その法律行為の種類、性質等をも充分に考慮して判断すべきである。」

と述べ、その上で、上記判旨について、

「しかしながら、その反面、夫婦の一方が右のような日常の家事に関する代理権の範囲を越えて第三者と法律行為を
した場合においては、

  その代理権の存在を基礎として広く一般的に民法一一〇条所定の表見代理の成立を肯定することは、
  夫婦の財産的独立をそこなうおそれがあつて、相当でないから、
  夫婦の一方が他の一方に対しその他の何らかの代理権を授与していない以上、

   当該越権行為の相手方である第三者において、その行為が
   当該夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内に属すると信ずるにつき正当の理由のあるときにかぎり

  民法一一〇条の趣旨を類推適用して、その第三者の保護をはかれば足りるものと解するのが相当である。」

とその理由を述べています。


 
   結婚 万事南無760

    かかる
費用双方資産収入

     
(その他)一切情考慮分担すべし


   
 分担程度
未熟なる夫婦なら

    万難苦
879あっても生活保持をする義務免れず

     
破綻への
()あるは、最低生活程度

     
 (生活)扶助程度なんもなし
760かも

         
有責程度
(る分)ぜらる


内縁 関係であっても民法760条が準用され、婚姻費用を請求できるとする判例(最判昭33・4・11)があります。
 
この判決は、おおよそ次のように判示しました。
「内縁は、婚姻の届出を欠くがゆえに、法律上の婚姻ということはできないが、
  男女が相協力して夫婦としての生活を営む結合であるという点においては、婚姻関係と異るものではなく、
  これを婚姻に準ずる関係というを妨げないから、そうである以上、
   民法七六〇条の規定は、内縁に準用される
  ものと解すべきであり、従って、

   前記被上告人の支出した医療費は、別居中に生じたものであるけれども、なお、婚姻から生ずる費用に準じ、
   同条の趣旨に従い、上告人においてこれを分担すべきものといわなければならない。

 そこで、内縁が正当な理由なく破棄された事案である本件当事者間における一切の事情を考慮し、
  本件内縁関係が破棄せられるまでの別居の間に、被上告人が支出した医療費のうち
  金二〇〇、〇〇〇円を上告人において分担すべきものである」。

また、内縁で死別という場合の問題については
こちらもご覧下さい。

 
なお、裁判所から出ている婚姻(養育)費用算定表があります。こちらをご覧下さい。上記判例の場合のように、
事情によって夫婦が別居する場合の生活費・養育費等の支給も婚姻費用分担の問題となります。




契約取消権
 
夫婦間で、婚姻前、(「法定財産制」による)夫婦別産制とか 日常家事債務の連帯責任とかに拠らない夫婦共同生活を送
る旨を内容とする夫婦財産契約
(民法756条)を交わしたときは、登記することによって対外的に夫婦間のその契約を主
張していくことができます。

 そして、合わせて、その契約は、その後 変更することができません。結婚前に、婚後の夫婦の財産関係をその様に
設定し、登記した夫婦は別として、その方式を採らない、或は 婚後の夫婦財産契約など 意識せずに婚姻届けをした

夫婦は、「法定財産制」を採ったとみなされ、その場合は、婚後の夫婦間の契約は互いに取り消すことができます。
夫婦間の
契約取消権(民法754条)と言います。法定財産制は、この契約取消権もその枠組みの一部とする建付けです。

 この規定の法意については、夫婦間で契約をするとしても、愛情に溺れての結果であったり、相手に対する威圧に
よったものであったりすることが多いから、その履行に法が手を貸すことを避け、むしろ、夫婦間の事は裁判沙汰と
せず、愛情と倫理に任せるのが良い。そのため、夫婦間契約は取消し得るとして婚姻の保持を図るべき、との考え
からであると言われています。

 しかし、考えてみると、愛に溺れると言っても、行為能力者が契約時に本気で意思表示したのなら、履行すべきが、
むしろ、当然です。後は、意思能力とか心裡留保
(§93)とかの一般論で対処すれば良い筈です。
 取消しを強行すれば、納得しない相手方は訴えを起こすでしょうから、取消権を設けても、裁判沙汰にはなるべく
して、なるのです。

 契約が威圧によるものであれば、実際に取消権を行使するのは威圧した当事者だけになりかねません。取消権に弱
者救済の効は期待できません。こちらも一般論で、詐欺による契約は754条による取消権の対象たる契約から除外さ
れている筈
(立法目的に照らしても反倫理までも許容する規定ではない筈です)なので、同様 認められている筈の強迫を理由に取り
消すことができると見ればよいだけの話です。

 とすれば、立法目的に謳われた「威圧」による契約と 何処に違いがあるのか、分からなくなり、甚だ不明確です。

 この諸処ほころびだらけの取消権規定は、戦前から存在する夫婦制度の建付けであることに照らしても、今日まで
社会の底流を牢固として流れる「家」とか「家名」に拘り、訴え等による権利主張を「家名の恥」とする旧弊の一端
が覗いているように感じられてなりません。
(→夫婦財産契約.or 法定財産制.)

 これは、外国でも廃止されたり、契約の範囲を限定するなどの流れにある誠に評判の悪い制度なのですが、但し、
判例(最判昭42・2・2)は、夫婦間の贈与契約について、同754条により同契約を取り消す旨主張のあった事案につき、

民法七五四条にいう「婚姻中」とは、単に形式的に婚姻が継続していることではなく、
  形式的にも、実質的にもそれが継続していることをいうものと解すべきであるから、

  
婚姻が実質的に破綻している場合には
それが形式的に継続しているとしても、
  同条の規定により、
夫婦間の契約を取り消すことは許されないものと解するのが相当である
として、

 夫婦関係が破綻した状況下で交わされた夫婦間の契約は取り消すことができない

とし、当該取消しを無効と判示しています。

 ですから、この理を進めて、この取消権は、夫婦関係が波風なく平穏無事に推移し、何ら瑕疵のない状況の時にだ
け認められるべきで、夫婦関係が破綻に瀕したり、破綻しかねない状況になった瀬戸際においては、認められない。

 従って、破綻の瀬戸際で、破綻させないためにした契約であるならば、取り消すことはできない、という様に、
この判例の応用範囲を拡張し、この規定の存する限りは、仕方ありませんから、その適用範囲を縮小させる方向での
み利用されるべきだと思われます。




    くさい(夫婦)財産契約 (§756) をばらず

 夫婦めおと難航754たときも(契約でなく)754二人なら

   
()約は取消他人ひとさぬで行こうぞ


  夫婦二人
ちぎった


     
(威圧 溺愛等)ボタン

   
(情誼によるべき)裁判沙汰にはできぬ世故せこ754

         
取消できる他人ひとせぬ 


   
夫婦関係難行なんこう754

      
破綻
しそうで(契約)したならばその 契約せぬ


夫婦間権利の時効完成猶予
 
民法159条は、
夫婦の一方が他の一方に対して有する権利については、
     婚姻の解消の時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。

と定めます。
 夫婦間の権利については、離婚後6か月を経過する迄、時効が完成しない、との定めです。


 つまり、
夫婦の間では普通 (扶養義務の履行以外の) 金銭の貸借等があっても、法的な手続きを執ることは難しかろう
から、相手方においても、婚姻中 時効の援用
(「時効期間が満了した為、貴方の権利は消滅しました」と主張する事を「時効の援用」
145)と言います)
はできないものとしました。更に離婚後も6か月間は時効は(期間が満了したものも)ペンディング
されて
時効による消滅を主張することはできないとの定めです。このように、時効をペンディングさせることを
「時効完成猶予」と言います。

 婚姻が解消した上は、権利行使に支障はない筈なので、
( 猶予の間も進行していた) 時効の完成を阻止するべく、催告
(民法150条)等取り敢えずの時効完成猶予措置をとるか、離婚前に期間が満了していたもの等、必要なものについては、
 上記6か月の間に、承認
(民法150条) を得、或いは、裁判上の請求(147条1項)を通じ 確定判決(148条2項)を得る等して
対策を講じましょうとの趣旨となります。

 
もし、離婚後6か月経ない内に、元配偶者から時効による権利の消滅を主張されても、その時点では、時効は完成し
ていませんから、6か月満了前に急遽 上記「請求」その他の「中断」をすることになります。

 なお、時効の完成猶予・更新についてこちらを、未成年者の権利の時効完成猶予についてこちらをご覧下さい。

   


  婚姻中
 

       
(連合い相手に )権利主張  その 困苦159

                       時効完成
猶予
り。



        離婚 (婚姻解消) したなら (権利の)実現 以後 急 159

                   
( 時効完成が猶予される ) のうちに 時効中断 むべし



子供 がいる夫婦の離婚
      家族法見直しの動き



   
 親権者の指定・変更(819条)(後見人指定・選任(§839・§840))

     
離婚後の共同親権(立法私見)

  
 監護権者

  
 養育費 

         
養育費の算定(算定表)  

         
強制執行上の特別な扱い

          
養育費請求権 放棄の禁止

  
 面会交流(判例)

  
 子の引渡請求

         子の自由意思 

         子連れ転居事例

      地裁での手続き (妨害排除請求)

      家裁での引渡調停(→子の監護処分)


     子の引渡執行
(民事執行法改正)
  
        子の返還執行
(ハーグ条約実施法改正)

         人身保護請求の手続き

  
      人身保護の判例 


  
 子の氏 子の氏の変更(791条)(条句)

      
妊婦が離婚後に出産した子

      
禁期違反の再婚で出産した子(前後両婚の嫡出推定が及ぶ場合)


 
子供がいる夫婦の離婚の場合、子の親権者指定に関する民法819条と子の監護者面会交流養育費その
他監護に必要な事項について定めるべしとする766条が重要です。

親権者の指定
 婚姻が破綻した結果の
離婚に際しては、これらの規定に従い、夫婦の間でこれらの事柄を決めた上で離婚に臨む
ことになりますし、特に
親権者の指定は、765条によって離婚届けの受理要件とされていますので、指定がないと
離婚届けを受理して貰えません。この点が、いわば離婚の障碍事由です。

 親権者をどちらとするかについては、夫婦間では決められずに裁判所での手続き
(民法819条5項(離婚裁判では裁判所が
判決で
親権者の指定をします(§819Ⅱ))となった場合でも、子が15歳以上であれば必ず子の意見も聴かなければならない
(家事事件手続法169条2項)とされていますから、裁判所を介さない協議離婚の場合、小中学生でも自我の芽生える段階
に達した子については必ずその意見を聞いてあげて、子の立場を最大限尊重しなければなりません
(児童福祉法2条)

 親権者変更も含め、民法819条の説明をこちらでもご覧下さい。

 なお、婚姻中に懐胎・妊娠し、
離婚後に生まれた子の親権者等の関係については、こちらをご覧下さい。

(家事事件手続法65条には「
家庭裁判所は、親子、親権又は未成年後見に関する家事審判その他未成年者である子
(未成年被後見人を含む。以下この条において同じ。)がその結果により影響を受ける家事審判の手続においては、
子の陳述の聴取、家庭裁判所調査官による調査その他の適切な方法により、子の意思を把握するように努め、審判
をするに当たり、子の年齢及び発達の程度に応じて、その意思を考慮しなければならない。
」とあります。)

 もし、戸籍係のミスで離婚届に親権者についての記載がないのに、或いは、決まっていないのに決まったかのよう
に記載してあったために、受理されてしまうと、法の定めで「
離婚は、そのために効力を妨げられない。(§765)
とされています
(条句)ので離婚は有効に成立したことになります。離婚に際してはメインの離婚意思の合致をこそ尊
重すべき、との考えなのでしょうが、子のためにはそれで良いのか、とも思います。でも、

 受理により一旦離婚が有効とされたからには、
  指定のない侭の協議離婚となっている場合は親権者指定の、
  届出された親権者を正さねばならないのであれば、親権者変更の
 調停申立てをすることになります。

 裁判離婚では、判決の主文で離婚する旨と合わせて親権者はどちらとするかの指定がされます
819Ⅱ)


 ちなみに離婚の時
親権者となった親がその後亡くなった場合は、
  その親が生前に遺言で
後見人の指定(民法839条1項)をしていたときは、それにより、
  遺言による指定がなかったときは、請求により裁判所が
後見人を選任します(民法840条1項)
 少し解せない感がありますが、離婚した生存親が当然に親権者となる訳ではないのです。

 やはり、離婚の「離」の字の重みということでしょうか。親権者
(離婚により共同親権が行われなくなってからの親権者や、非
嫡出子の親権者、或は 独り養親である親権者等を「最後の親権行使者」と言います)
が亡くなるまで身近で面倒を見ていた祖父母が
遺言で後見人となる例が多いようです。

 それでも、親権者間の親権の交替については「
親権者の変更(民法819条6項)手続きがありますから、勿論、
生存親もこの変更申請によって
(最後の親権行使者が生存するときも)自らが親権を持つことを申立てできますが、例えば、
生存親と祖父
(又は、祖母)の双方からこれらの請求と申立てが出たときは、家裁が一切の事情を考慮して判断をします。

 また、最後の親権行使者が遺言で指定した未成年後見人がいる場合も、
  その後見人は、亡くなった親権者の意向に依拠している訳ですから、
  最後の親権行使者と生存親との共存と同様の状況なので、同じく親権者変更手続によって生存親が親権者となる
  ことがあり得ます。
  未成年後見が親権の補完的代替であると考えれば、「親権者変更」手続をとることに疑問の余地はありません。

 なお、遺言がないものとして家裁選任にかかる未成年後見人が就任した後に、
  遺言が発見され、その中で後見人が指定されていたときは如何という問題があります。

 指定にかかる後見人は、家裁の審査を受けていないから、指定は無効とすべきとの説もありますが、
 家裁の選任より遺言による指定を優先する法のスキームを無視するもので、左袒できません。
 
この場合も、
  家裁選任にかかる未成年後見人については、選任無効とし、指定にかかる後見人が後見にあたるべきで、
  指定後見人の就職は、戸籍法81条によって届出し、合わせて、同法82条の類推適用により家裁選任にかかる
  後見人の更迭の届出をします
(更迭手続で容れられない場合、時間的に間に合えば、選任審判に対する不服申立て、申立期間を過ぎて
  いれば、再審申立てによる他ないと考えます)

 これに対して、家裁選任にかかる後見人を就かせる必要があれば、
  生存親による親権者変更か、或は、指定後見人の解任と新たな選任という、指定の有効性を踏まえた手続をとる
  べきです。
 
 親権や後見による子供の保護関係については、こちらもご覧下さい。


親権者の復任権
 親権者は、子の両親
(民法818条1項)が当然に、又、離婚の際には当事者(819条1項)の、或いは、 裁判所(819条2項)の指定
による等、定めによって、その任に就きますが、法定代理人としてのその任務
(824条)につき必要があれば、

自己の責任で」その代理権の全部又は一部を第三者に行わせることも可能です(民法105条前段)復代理と言います。

 そして、復代理人選任の権限を復任権と言います。民法第一編総則中の「代理」の節にこの定めがあります。
民法105条の条文には、

法定代理人は、自己の責任で復代理人を選任することができる。
この場合において、やむを得ない事由があるときは、本人に対してその選任及び監督についての責任のみを負う。


とあり、又、民法106条には、

復代理人は、その権限内の行為について、本人を代表する。
2 復代理人は、本人及び第三者に対して、その権限の範囲内において、
  代理人と同一の権利を有し、義務を負う。


とあります。
 従って、復代理人の権限は、代理人の復任行為に拠るものではあるものの、復代理人は、本人を直接に代理し、
第三者に対して、代理人と並んで代理権を行使します。又、本人に対しても、代理人と同じ権利義務を有します。

 親権
(或いは後見)による法定代理の場合、
代理される本人の意思による代理ではないので、代理人の復任権も、本人の許諾等による限定条件付きではなく、
いわば 代理人が自由に、復代理人を選任することができます。

 但し、その公益的な任務に照らし、本人に損害が生じた場合は、
復代理人の選任や監督について、代理人に過失がなくとも 責任を負わねばならないという重い責任が伴います。
自己の責任で」とは、その意味となります。

 復代理は
代理人権限の全部又は一部についてすることができると解されます。
 似かよった場面で
遺言執行者について、特定行為の復任は不可とする古い判例がありますが、ここは、限定なく
「選任することができる」とあるので、特定行為の復任を排除するのには、文言上無理があると思います。
 特定行為についての復代理
(「特定復代理」)も可能と解すべきです。

 しかし、
親権者が、身体的・精神的その他の事情から親権を行えず、それを辞する
(837条1項)にもその手続きをとる暇がない
とき等、
やむを得ない事情で復代理人を選任する場合は、
     その
選任及び監督について過失があったときにのみ責任を負えば良いとされます(105条後段)。

 ただ、やむを得ない事情があって、特定行為について復代理人を置く場合は、その裏返しに、その他の任務につい
てはやむを得ない事情がないのなら、原則を重んじ、例外の責任軽減規定は適用されないとすべきと考えます。
 特定復代理は、やむを得ない事情による場合も責任は軽減されず、選任・監督に過失がなくとも賠償責任を問われ
ます。その意味で、上記古い判例の考えには理があると言えます。

 つまり、言葉は適切でないかも分かりませんが、やむを得ない事情で丸投げしなければならないときは、責任を
軽減されるが、そうでない場合は、代理人自身に過失がなくとも、賠償の責を負う、との結論になります。

 親権者が、やむを得ない事情で復任した特定復代理人の行為により、子本人が被害を被った場合、復代理人の選任
・監督に過失がなくとも責任を負いますから、その様な事情から復任をする場合には、その特定行為の性質・難易等
と特定復代理人の人柄・力量等を吟味・対比の上、選任・監督し、責任覚悟で復代理権を授与することとなります。

 しかし、やむを得ない事情なくして復代理人を選任した場合(或は、やむを得ない事情で特定復代理とした場合)の 重い責任
も、天災地変等を含め いかなる場合も、全ての損害について親権者に責任を負わせることは、酷に過ぎますから、
 復代理人に過失がある場合に限り、親権者に対しても賠償請求することができるとするのが、信義則
(民法1条2項)
 に叶うと言えます。
(我妻・有泉コンメンタール第6版231頁)
(→遺言執行者の復任権)

 また、親権者が子の財産を管理するについては、民法827条により「自己のためにするのと同一の注意」を以て
すれば足りるとされます。

 したがって、上記の復任による、選任と監督上の責任も、
 親権者が具体的なその者なりの注意能力を以て対処した結果であれば、子に対して責任を問われることがなく、又
もし、やはり親権者に過失ありとして責任が発生し、子に対する損害賠償義務を負ったときは、「財産の管理の費用」
ではなく、管理について生じた損害賠償ですから、
 親権終了時の管理計算
(828条)では子の収益との 相殺 対象とはならないので、成人後も責任を負担しますが、
 それには5年の消滅時効(民法832)がある等の点が重要です。



子の視点から (児童の保護)
 
ここで、「子がいる夫婦の・・」ということなので、子の視点からも触れさせて頂きたいと思います。

 子にとっては、両親の葛藤・対立は、社会の縮図として写り、社会への不安や恐れを根付かせてしまうと言われま
す。子が親に対して抱く信頼とそれによる安心こそが、社会に対する信頼と子自身の自己肯定に繋がるとも言われる
ことを親御さんには理解して頂きたいと思います。離婚という結論を出す前に、夫婦間の対立は、子のために、穏や
かな話し合いの中で、乗り越えて行く努力をもう一度して頂きたいのです。

相談・支援機関

 また、子が両親の対立に悩み、葛藤を抱えて問題行動等を発現する状況となったり、家計が苦しく子との生活にも
窮する状況等のときも、合わせて、とにかく迷わず周囲に、例えば各自治体の福祉課や女性のための相談室等、児童
相談所や地域の民生委員
或いは児童福祉のための各種非営利団体、家庭裁判所調査官OBの組織「公益社団法人
家庭問題情報センター
」等に遠慮なく相談してみて下さい。令和4年5月に新法「困難な問題を抱える女性への支援に
関する法律」が公布され、令和6年4月から施行されます。同法に基づく支援窓口にも相談されることをお勧めします。

 育児や子の養育等にまつわる悩みは、離婚に関係がなくとも、子が愛され健やかに育つことは、自治体や国の責任
(児童福祉法2条3項)とされているところですから、経済的支援(埼玉県の例⑤)里親による社会的養護等の形
での支援、或いは、それらを含め様々な情報の提供や利用できる支援の申請、指導等を担ってくれる地域の社会福祉
協議会
民生委員・児童委員等により、必ず何らかのアドバイスや支援を受けられると思いますので、心を閉ざす
ことなく気軽に堂々と相談してみて下さい。

 瀬戸内寂聴さんと村木厚子さんの協力で立ち上がった「若草プロジェクト」も、若い女性からの相談を受け付けて
います。

 DV相談は、各都道府県等にも相談窓口がありますから、そちらに電話等をしてみて下さい
(例:東京神奈川県埼玉県
千葉県)

 なお、配偶者からの暴力に悩んでいることを、どこに相談すればよいかわからないという方のために、全国共通の
電話番号(0570-0-55210)から相談機関を案内するDV相談ナビサービスが実施されています。
 また、離婚や親権者変更等の法律的手続きが必要となる問題の場合は、国が設立した司法支援センター(「法テラス」)
の利用も検討してみて下さい。


 ちなみに、ここで上記のことの前提となる児童の権利について見ておかなければならないと思います。

児童福祉法の冒頭に「総則」として、児童福祉の理念が掲げられていますので、引用をお許し下さい。

「第一条 全て児童は、
児童の権利に関する条約の精神にのつとり、適切に養育されること、その生活を保障される
こと、
愛され、保護されること、その心身の健やかな成長及び発達並びにその自立が図られることその他の福祉を等
しく保障される権利を有する。

第二条 全て国民は、児童が良好な環境において生まれ、かつ、社会のあらゆる分野において、
児童の年齢及び発達
の程度に応じて、その意見が尊重され、その最善の利益が優先して考慮され、心身ともに健やかに育成されるよう努
めなければならない

2 児童の保護者は、児童を心身ともに健やかに育成することについて第一義的責任を負う。
3 国及び地方公共団体は、児童の保護者とともに、児童を心身ともに健やかに育成する責任を負う。

第三条 前二条に規定するところは、児童の福祉を保障するための原理であり、この原理は、すべて児童に関する法
令の施行にあたつて、常に尊重されなければならない。」


監護権者
 
子を手元に置いて身辺の監護をする親を監護権者と言います。通常は、親権者は同時に監護権者ですが、時として
親権者と監護権者が子の父親と母親とに分離する場合もあり得ます。
 例えば、転勤等で夫婦が別居のやむなきに至った場合は、別居の間の監護権は事実上一方が握ることになります。
終生的互敬貞操結合の意志と実質が維持されていれば、ある程度の変異形はやむを得ないでしょうから、本来親権を
共同行使すべきところを、事実上親権者と監護権者とに分属(或いは、監護は専ら夫婦の一方が分担する)ということも起こり
得ます。
 親権者の権限は、大きく分けて、
(財産の)管理・(法律行為の)代理(民法824条)身上監護(民法820条823条)ですが、その
ような変異形では、身上監護の権限が夫婦の一方に事実上分属します。

 しかし、維持されるべき前提が失われた離婚の場面では、それに伴う
親権者の指定があれば、通常その指定され
た親が合わせて監護も行います。でも、ときに、当該夫婦の具体的事情に合わせ、親権者を決める中で、監護に相応
しいのはどちらか、ということから監護権の分属が起こり得ます。その場合の
監護権者の指定に際しても、子が15
際以上であれば、必ず子の陳述を聴かなければならないとされています
(人事訴訟法32条4項)

 子がその意思を表示できるに至らない幼児期に婚姻が破綻するに際しては、それまで監護に当たってきた母親が、
監護の継続性の観点から、親権を取得するのが通常です。
 最近は、父親が気付かぬうちに母親が子を連れて別居を敢行し、父親が子との面会・接触を望んでも十分に果たせ
ぬまま、親権者指定にも与れない例を多く見聞します。家裁での実務の傾向として指摘され、また、実務家がそう観
念してしてしまっているやにも感ぜられます。
 しかし、それでは、当の父親の人権の軽視であるばかりでなく、子の、両親に保護されるべき権利を蹂躙している
ことにもなります。身辺の監護には確かに母親が相応しいと言えるでしょうが、ケースにもよりますし、きめ細かく
事情を精査して、場合により上記の分属を考えても良いのではと思います
(もちろん、父親によるDVや虐待による破綻であ
れば、論外です)

 また、父親にさしたる落ち度も至らぬ所もないのに、互いの気持ちが覆水盆に返らぬ断絶状態にあるの
であれば、離婚の帰責はともかく、子のためには離婚後の共同親権も制度として検討されるべきだと考えます。

離婚後の共同親権(私見)
 前項でも共同親権が検討されるべきことに言及しましたが、そもそも、離婚後の単独親権自体が、その制度根拠を
問われるべき時代になっています。
 つまり、単独親権は、戦後 民法が改正された当時、離婚による別居が親権の共同行使を不可能ならしめると当然の
如く前提されていました。合わせて、当時は、一般的に単独親権者でも保育の支援を期待できる「実家」が存在する
という背景事情がありました。また、裁判離婚については、離婚原因について有責な者が離婚を宣せられる有責主義
が前提され、離婚有責者は親権を失うとの枠組みから、当然他方配偶者が単独親権者となるとの発想もあったと思わ
れます。或いは、妻を無能力者とみなした戦前の家族制度の残滓の影響も考えられます 
(昭和22年の民法改正当時は、協議
離婚について、夫による追出し離婚という社会的現状を追認することになりかねないと懸念されたと言いますから)


 しかし、社会インフラとしての保育が曲がりなりにも整いつつあり、高度に発達した交通・通信による連絡とアク
セスの利便状況に照らしても、今では、子との同居が親権行使のための必須条件であるとは言えなくなっています。
 少なくとも、子と同居してその監護に当たる親と、同居はしないが、監護者と共に親権を行使できる親との併存は、
十分可能となっています。
 そして、それと同時並行的に進行した、社会の急激な核家族化による単独親権者の社会的孤立は、元配偶者の親権
参加と子に対する虐待からの防波堤となることをも求めている様に思われます。

 また、男女平等の前提の下、離婚破綻主義が勢いを得る時代となって、離婚原因について共に有責事由がない夫婦
であっても、離婚に至る場合があり得ることとなりました。協議離婚が原則である我が国においては、協議が調いさ
えすれば離婚となることに照らせば、なおさらその例は後を絶たないこととなります。

 子の立場からすれば、両親共に親権者として失格でも欠格でもないのに、父母が離婚を断行する理不尽にいきなり
直面することになります。ですが、父母の離別理由について関知しない子が、父母の離婚に伴って、子のあずかり知
らぬ事情から単独親権を強いられてよい理由はない筈です。

 子は、婚姻の終生的互敬貞操結合がその背後の「融合創一」の働きによってもたらした愛の果実であり、婚姻結合
が解消したからといって、父・母と子の「無償の愛」の絆を断つことはできません。
 子には、父母の離婚後であっても、両親から同等の保護を受けて健全に発育・成長する権利 求絆権 があるのです。
 子が共同親権を受け得ないことは、同居しない親との面会交流が確保されても、保護の実質を欠いて、償われ得な
い心身の損傷を伴うことにもなりかねません。

 子の両親にとっても、互いの好悪を離れ、それぞれに子に対する情愛の絆を確認できることは、親としての責任と
共に、社会生活上の自己実現には不可欠なことの筈です。

 ですから、協議離婚主義、破綻主義が原則となり、優勢となって、夫婦の離婚がむしろ原則化へと向かうがごとき
時代となった以上、離婚後の親権についても、原則と例外
 (単独親権に例外はありませんでしたが、そのこと自体問題であると
思います) 
を逆転させ、離婚後も共同親権を原則として、親の勝手の離婚から子の福祉を守り、さらには、子を他人に
よる虐待から守ることを優先考慮すべきだと考えます。

 共同親権による各種弊害がそれを阻止するべく唱えられていますが、それらは子の権利と福祉を貫くべき本道を塞
ぐ理由ではなく、例外として備え置く枝道において解消されると考えるべきです。

時事ドットコムニュース 2022/6/22 に、共同親権等に関する法制審議会の「中間試案」について、次のようなニュースが 報じられました。
家族法制の見直しについて議論している法制審議会(法相の諮問機関)の家族法制部会は、離婚後も父母の双方に親権を認める「共同親権」導入などを盛り込んだ中間試案を8月末にも取りまとめる。中間試案は、共同親権を原則とするか、現行民法の「単独親権」を維持するかの両論併記となる見通しだ。民法は、父母の婚姻中は共同で親権を持つが、離婚する場合はどちらか一方を親権者と定める「単独親権」制度を規定している。
 厚生労働省の人口動態統計によると、2020年に婚姻した夫婦約52万組に対し、離婚した夫婦は約19万組。約3組に1組が離婚に至っている状況があり、離婚後の養育費未払いが社会問題となっている。また、共同親権が一般的な欧米諸国と日本の親権制度の違いから、国際結婚が破綻した日本人の親による「子ども連れ去り」問題も指摘されている。
 こうした近年の家族の状況を受け、法制審部会では、共同親権を認める際は(1)父母双方が合意した場合(2)裁判所が子の利益のため必要があると判断した場合―などを想定。離婚後に日常の世話や教育の仕方について決める「監護権」を持つ「監護者」については、父母双方が共同で監護者となる選択肢も検討する。法制審は中間試案の取りまとめ後、意見公募(パブリックコメント)を経て答申案を決定する。
 共同親権をめぐっては、自民党法務部会も21日、制度導入を求める提言書を古川禎久法相に提出した。離婚後の養育費負担や面会交流などについて定める「共同養育計画」の作成などを義務付けることも提起した。


また、NHKは、2022/7/19に、上記「中間試案」について 次のように報じました。

親が離婚したあとの子どもの養育をめぐる制度の見直しに向けて19日開かれた法制審議会の部会で、中間試案のたたき台が示されました。
日本では採用されていない離婚後も父母双方を親権者とする「共同親権」を選べる案が盛り込まれています。
離婚後の親権について、日本では、父母のいずれかが親権者となる「単独親権」が採用されていますが、近年、年間20万組前後が離婚していて、子どもの養育費の不払いや、親子の交流の断絶など、さまざまな問題が出ています。

制度の見直しに向けて去年3月から議論している法制審議会の家族法制部会は、来月末に中間試案をまとめることにしていて、19日の会合で、そのたたき台が示されました。
まず、親子関係の基本的な規律について
▽父母双方が子どもを養育する責務を負うことや
▽子どもの最善の利益を考慮しなければならないことなどを明確化するとしています。
そのうえで、離婚後の親権者をめぐっては、
▽父母双方が親権を持つ「共同親権」か、いずれか一方とするいまの「単独親権」を選べる案と、
▽「単独親権」を維持する案が併記されています。

また、子どもの養育費や、離れて暮らす親子が定期的に会う「面会交流」などについても考え方が示されました。
いまは、養育費などの取り決めをしなくても離婚できますが、たたき台には、
▽必要な取り決めをしなければ原則離婚できないとする案と
▽要件とはせずにこれまでの制度を維持し、取り決めを促す方策を引き続き部会で検討していくとする案が盛り込まれています。

また、父母の協議が整わないまま離婚したり、別居状態になったりして、養育費の不払いなどが想定されることから、一定額の養育費を支払う義務が発生する「法定養育費制度」を新設する案も明記されています。

家族法制部会では、このたたき台をもとに中間試案を取りまとめ、9月以降にパブリックコメントを行って広く意見を募ったうえで、議論を続けることにしています。
厚生労働省の人口動態統計によりますと、離婚の件数は統計を取り始めた昭和22年には8万件を下回っていましたが、平成に入って倍増し、おととしには年間およそ20万件にのぼっています。

こうした中、離婚後の子どもの養育に関して司法の場で争われるケースは大幅に増えています。

司法統計によりますと、おととし裁判所に審判や調停が申し立てられた件数は、
▽養育費に関してが2万727件、
▽子どもと定期的に会う「面会交流」が1万4868件、
▽「子どもの引き渡し」が4040件で、
平成11年と比べるとこの20年余りでそれぞれ
▼1.7倍、
▼6.8倍、
▼7倍に増加しています。

法務省によりますと、調停などで養育費や面会交流に関する取り決めをしても、守られないケースが多くなっているということです。
家族法が専門で法制審議会の部会の委員を務める早稲田大学の棚村政行教授は「少子化や、共働きの増加で父親も積極的に育児に関わるようになり、社会や家族の在り方が変わっているのに、離婚したあとの子どもの養育についてはルールが明確になっておらず、争いが起きやすい状態になっている。いま一度、法制度を見直す必要がある」と指摘します。

そのうえで「離婚後、親どうしは他人になるにしても子どもとの関係は続く。立場の違いで意見の対立がある問題だが、子どもにとって非常に重要なことを決めるので、社会全体で関心を持ってほしい」と話しています。
民法で定める親権とは、子どもの利益のために身の回りの世話や教育をしたり、財産を管理したりする権限で、義務でもあるとされています。

親権を持つ人は子どもに関わる重要な事柄を決める権限があり、例えば、子どもが住む場所を決めたり、子ども名義の財産を管理したりできるほか、進学先や大きな病気やけがをしたときに受けさせる医療行為の選択なども含まれます。

日本では現在、離婚したあとの未成年の子どもの親権は父か母のどちらか一方が持つ「単独親権」を採用していますが、「共同親権」が選べるようになると、子どもを育てるうえで必要な決定に双方の親が関わることができるようになります。

「単独親権」の場合、決定にあたってもう一方の親の同意が必要ないため、スムーズに意思決定できるというメリットがありますが、親権を持たない親が子育てに関わりづらく、子どもとの交流が絶たれたり、親としての責任感が薄くなり養育費の支払いが滞ったりするなどのデメリットも指摘されています。

一方、「共同親権」の場合、離婚したあとも父と母の双方が子どもの成長に関われるというメリットがありますが、合意に時間がかかり子どもが板ばさみになる可能性や、DVや虐待などのおそれがあるケースでは子どもの安全を守れないと懸念する声もあります。
法制審議会の議論について、離婚したあとも子どもの養育に関わることを望む人たちからは法改正に期待する声が上がっています。

部会の委員で、別居や離婚したあとも子どもとの面会が自然にできる社会を目指して活動している「親子の面会交流を実現する全国ネットワーク」代表の武田典久さんは「男性の育児参加は一般的となり、離婚後も子どもの成長に関わりたいと考える親はますます増えると想定される。離婚後も子どもの養育に責任を持つことを明らかにする意味でも、共同親権を認めることが必要だ」と訴えます。

武田さんの団体が子どもと別居状態にある親を対象に先月から行っているアンケートによりますと、これまでに回答した400人余りのうち「面会交流」について調停などで取り決めをしていても「実施されていない」、または「取り決め以下の実施」と答えた人は合わせて35.8%にのぼるということです。

武田さんは取り決めがあっても十分に実施されていない現状がうかがえるとして「法律で責任を明確にすることで養育費の支払いや面会交流の状況も改善していくと思う。『離婚は親子の別れ』ではなく『離婚後も子どもの成長に責任を持つ』という新しい価値観に対応し、子どもの利益につながるような法改正に期待したい」と話していました。

選択的であっても「共同親権」を認めることには慎重な意見もあります。

ひとり親の支援団体でつくる「シングルマザーサポート団体全国協議会」では先月下旬から今月上旬にかけてひとり親を対象にインターネットでアンケート調査を行いました。

それによりますと、離婚を決断した理由について複数回答で尋ねたところ、2200人余りの回答で最も多かったのが「子どもによくない影響があった」で37.2%でした。

具体的な内容としては「夫婦の口論などを子どもに見せたくなかった」が58.8%で最も多く、次いで「自分への暴力や暴言を子どもが見ていた」が54.9%、「相手が子どもを虐待することがあった」が33.5%などとなっています。

団体では離婚後の共同親権が子どもにとってよいとは言い切れず、虐待やDVなどから逃げた子どもやひとり親が十分守られないおそれがあると懸念しています。
団体の代表で、法制審議会の部会の委員も務める赤石千衣子さんは「子どもの安心・安全が守られていない状況で、進路や医療の方針などさまざまな決定を父親と母親が共同でやることは不可能だ。養育費については子どもの貧困対策から早く議論を進めるべきだと思うが、面会交流や共同親権についてはより慎重な議論が必要だ」と話しています。
親が離婚した子どもたちの支援などにあたるNPO法人「ウィーズ」の理事長で、みずからも子どものときに親の離婚を経験している光本歩 理事長は、中間試案のたたき台について「『子どもの気持ちに配慮する』という文言は盛り込まれているものの、具体的にどうやって子どもから意見を聞き、どのように配慮するのかという議論はされていないので、もう少し知恵を出し合う必要がある」と指摘します。

そのうえで、たたき台で示されている共同親権を選択できる案については「子どもがいちばん嫌がり、傷つくのは、父親と母親が争うことだ。子どもの気持ちを考えた時に、選択的共同親権になったら父母の争いが長引かなくて済むのか、逆に争いが長引く火だねになるのかを冷静に見ていく必要がある。ケースによって抱える問題が違うので、それぞれの子どもに合わせた支援やサポートが必要だ」としています。

また、子どもたちの支援を通して感じていることとして「子どもに会おうとしない親や、相手と関わりを持ちたくないと養育費を拒む親も少なからずいる。こうした問題も含めて、子どもを育てるとはどういうことなのか、家族という社会の最小単位がどうあるべきか、日本全体で目を向けるべき問題だと思う」と話しています。


養育費 (監護費用)
 養育費は、
子の親に対する扶養請求権を、離婚後に子を監護することとなる親が、親権者法定代理人として子に
代わって請求する扶養料です。
 ですが、生活実体から見た実質は、その親の、子のための監護費用
(民法766条1項)と言うことになります。
 
婚姻中であれば、これは婚姻費用となりますが、監護する親自身が、既に離婚している身であれば、婚姻費用とは
言えません。
 親が自身の権利を行使するものでもありません。子からする扶養請求ですから、親である夫婦の離婚とは関わりの
ない、子に対する親の生活保持義務を念頭に算定されることになります。これを、親の離婚後、子が
独立して生計を
営むことができる迄
、将来に向かって、時の経過と共に発生する都度、監護親として代理請求します。

 養育費は、従って、
(離婚時点に存在する夫婦の全財産を対象として分与する財産分与と異なり、) 離婚分与後に相手方の
手許に残る財産及び相手方が離婚後に得る収入の内から支払われる、将来時点の財産からの支払いが本来となります。
 しかし、離婚時点ではやむを得ませんから将来を予想して、予め

  
( 例えば、
  「(子が)
満二十歳に達する月まで毎月、月額千円也を次の銀行口座に振込んで支払う。
 というように ) 
定期金債権として養育費支払約定を交わす
こととなります。これを離婚時にまとめて一時金請求とするケースもときには起こり得ます。

 予めの想定に基づきますから、離婚当事者双方の離婚後の収入や資産状況が変わり、それに連れて扶養料の負担能
力が変われば、場合により「事情の変更」として、負担者や負担割合が変わることもあり得ます。その場合は、改め
て増減の請求をすることになります(民法880条 「
扶養をすべき者若しくは扶養を受けるべき者の順序又は扶養の程度若しくは方法につ
いて協議又は審判があった後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所は、その協議又は審判の変更又は取消しをすることができる。
)

 養育費の請求は、本来 親自身の請求権によるものではないので、これを予め放棄することは許されません。
 子の生命の維持に係わる請求権ですから、親が代わって放棄することはできません。
 その点は、離婚時点でも、その後においても同じです。財産分与が、離婚当事者自身の請求権であるが故に放棄や
減免が可能であるのとは異なるので、しっかり銘記されねばなりません。

 なお、令和2年12月21日 のNHKニュースで、養育費支払確保の為の改善案が検討される旨の報道がありました。
離婚届の際に、親権者指定と合わせて、養育費支払約束も届け出ることを義務付け、届け出た約束に違反した場合に、
強制執行も可能とする法案が検討されるというものでした。世に横行する養育費逃れを許さない仕組みが整備される
ことを期待したいと思います。


養育費の額の算定

 
養育費の算定(婚姻費用の算定も同じ扱いです)については、令和元年(2019年)12月23日、最高裁からこれ迄の算定表を踏襲
した新しい養育費算定表が公表されました。

 この算定表は、
親の年収に応じて、子(子の数に応じ表が分かれます)の養育費を算定しようというもので、
        
縦軸を支払う側の年収、横軸を支払われる側の年収とし、両軸の交点から算定額を割り出し、
        子の年齢に応じた生活指数によって、各子の養育費額を算出します。


  年収: 給与所得者と自営業者に分け、前者は源泉徴収票の「支払金額」を、後者は確定申告書の「課税される
     所得金額」を基本的な算定基礎とします。
  生活指数:親を100とし、 14歳までを62、15歳以上を85とします。

 例えば、15歳と13歳の二人の子がいる夫婦の場合で、子二人の表の両軸交点から子らの養育費総額が10万円となっ
たときは、上の子の養育費は、10万円の147(=62+85)分の85の5万7823円、下の子は同147分の62の4万2177円
となります。詳しい説明はこちらをご覧下さい。

 
2003年の古い算定表に対しては、2016年に日本弁護士連合会から、これをより実際に適応したものに という趣旨で、改訂の提言がされて
いました。その提言された新算定表とその補足説明資料も参考にご覧下さい。


 なお、上記カッコ内の支払約定例は、「二十歳」となっていますが、必ずしも成人までということではなく、独立
して生計を立てられる年齢までということです。
 最近では大学を卒業する二十二歳までとする例も多くあります。

 そして、「成人まで」とすると、法改正により 成人年齢が令和4年
(2022年)4月から18歳になりますから、
 二十歳までと予定していたのに、十八歳で仕送りが止まるという 思わぬ不利益・難儀を被りかねません。
 なので、「成人まで」と
(或は、「成年に達する日の属する月まで」と)しないよう、望む年齢を明記して
二十歳 
(或は、「二十二歳」)になる日の属する月まで」 とするよう注意しましょう。

 夫婦が別居する間 子の監護に当たった当事者は、その後 離婚の訴えに至った際にはその
  離婚の訴えに併せ、
   別居中の監護費用の支払を請求することができるとする判例
(最判平9・4・10)があります。

 この判決は、
(原審は、別居から) 離婚の効力が生ずるまでの間における長男の監護費用分担の申立て(以下「本件申立て」という。)
については、離婚の訴えに附帯してそのような申立てをすることができないから不適法であるとし、
第1審判決を変更して本件申立てを却下した。

 しかしながら、本件申立てに係る原審の上記判断は是認することができな い。」
とし、その理由を、

「 離婚の訴えにおいて、別居後単独で子の監護に当たっている当事者から他方当事者に対し

別居後離婚までの期間における子の監護費用
の支払を求める旨の申立てがあった場合には
民法771条766条1項が類推適用されるものと解するのが相当である。そうすると、
当該申立ては、人事訴訟法32条1項所定の子の監護に関する処分を求める申立てとして適法なものである・・から、
 裁判所は、離婚請求を認容する際には、当該申立ての当否について審理判断しなければならない・・。」

と述べています。

 
民法766条は、協議離婚の際、養育費・面会交流等 子の監護に関する事項を 子の利益最優先で 協議して決めなさ
い、という規定で、771条は、これを裁判離婚についても準用するという定めです。
人事訴訟法32条1項は、裁判所が
離婚の訴えに係る請求を認容する判決において、子の監護者の指定その他の子の監護に関する処分、財産の分与に
関する処分・・についての裁判をしなければならない。
とする規定です。


 
強制執行における養育費・婚姻費用・扶養料等の特別な扱い
 養育費を含む下記四種の定期金債権の一部が不履行となった場合には、

 ①期限が到来していない債権についても強制執行できます
(民事執行法151条の2)し、また、
 ②通常の金銭債権では、給料の3/4までが差押禁止とされ、差押えできるのは1/4だけですが、これら四種の定期金
 債権なら2分の1まで差押えができます
(民事執行法152条3項

ただ、①により一度執行開始の手続きをとれば、その後の給料も差押えできると言っても、民執151条の2第2項

「前項の規定により開始する債権執行においては、各定期金債権について、その
確定期限の到来後に弁済期が到来す
給料
その他継続的給付に係る債権のみを差し押さえることができる。」

とあるので、養育費を毎月定まった日に支払って貰う約束であっても、その支払日
(定期金債権の確定期限となります)
給料日の後であると、その月にはその月分の養育費を払って貰えなくなりますから、要注意です。

 翌月には必ず支払われるとしても、やはりその月の内に手にしない 何かと、不便で困るでしょうから、

「養育費支払日は、必ず 給料日より前にしておく」
ことが重要です。

 ただ、一つ注意すべきは上記四種の定期金債権には離婚慰謝料は含まれていないことです。
 慰謝料は、債務者が支払可能なように分割払いとしたり、その金額を配慮したとしても、強制執行ということとな
った場合には、上記の有利な扱いを受けることができません。
 優先的な扱いのない、他の債権者と同等の立場に置かれることを覚悟しなければなりません。

 なお、令和元年5月10日に民事執行法が改正
(令和2年4月1日施行)され、養育費の関係でも執行に資する改善点がありま
す。こちらをご覧下さい。

 期限未到来でも強制執行開始が可能な定期金債権
 ① 民法752条の規定による夫婦間の協力及び扶助の義務
 ② 民法760条の規定による婚姻から生ずる
費用の分担の義務
 ③ 民法
766条同法749条771条及び788条において準用する場合を含む。)の規定による子の監護に関する義務(養育費)
 ④ 民法877条から880条までの規定による
扶養の義務


 法務省民事局参事官室作成の子どもの養育に関する合意書作成の手引きとは良い資料だと思います。
是非参考にして下さい。

 その中にも記載がありますが、養育費の合意は、裁判所で調停が成立した際に作成される調停調書
 (或は、調停
不成立で審判に移行した後に裁判官が下した審判の審判書) 
という書類になれば、それに基づいて強制執行に進むことができます

 そのような効力を有する書面を「
債務名義」といいますが、そのように裁判所を介さない合意の場合は、
公証役場で作られる公正証書だけが債務名義になり得ます
(「執行証書」と言います)

 夫婦が離婚合意を書面にしただけのいわゆる私製証書にはそのような効力は認められません。

 ですので、夫婦の間に、裁判所を介さずに、養育費を含む離婚の合意ができたら、二人で公証役場に赴いてその
合意を公正証書にして貰うと、それが強制執行も可能な債務名義となって安心です。

 公正証書の本文中に、支払義務を負う者が
 「債務を履行しないときは直ちに強制執行に服する旨を述べた。」
という強制執行認諾約款を記載して貰うことが必要で、この記載があることにより債務名義となります。
(詳しくは、日本公証人連合会のホームページでご覧下さい。)

 夫婦間の話合いの中で「養育費等の約束を公正証書にしてくれなければ、離婚できない」と、公正証書の作成を
合意の条件とされると良いと思います。
 債務名義となることが最大のメリットですが、公正証書の作成過程で、前にも述べ、次にも述べる「将来の養育
費を放棄する」という様な許されない約束も、指摘して貰え、正しい内容のものとなることが期待できますから。

 なお、前記の様に、離婚届時に養育料の届けも同時に義務付け、その義務違反には強制執行も可能とする改善案
が検討されています。これが法制化されると、公正証書を作らずとも養育料支払いが法によって確保されます。

 なお、扶養請求権は民法881条で処分することが禁じられています。したがって、離婚の際の協議において、
子の扶養請求権を将来に向かって放棄することも許されません。公正証書に記載することも当然 不可です。

 扶養請求権は、本来、扶養を必要とする状態が発生したときにその都度権利として生じるものです。その為、要
扶養状態の発生に応じて請求すべきものを、予めいかなる状態かも分からない内から放棄することは、できません。

 しかし、
 離婚に際して子供が成人に達する迄 定期的に一定額の養育費を支払う旨合意することは、要扶養状態が 、独立し
て生計を立てることができるとき迄 継続する子供については、予め合意することが当然必要です。
 それが民法766条も「子の監護に要する費用」として認める請求権ですから、問題ありません。但し、それに合
わせて、追加的な請求はしない旨の約束は、養育費の上記性質から、本来 することができない筈のものです。

 又、養育費を一括して一時金で支払う事も、まれとはいえ実務上事例があります
 ( 財産分与後に相手方配偶者の
 手許に残った現有財産から支払われることになります ) 
。その後、実際の必要が生じた場合は、追加請求はしない旨の
約束があっても、「事情の変更」を理由に請求することができます。

 扶養請求権を、将来に亘って放棄することは、上記の通り 処分禁止に触れることとなります。ですが、もし、そ
の様に合意してしまった後、実際に養育費が必要となった場合は、放棄無効を主張できる事 勿論ですが、それはそ
れとして、「事情の変更」を理由に、養育費の支払いを求めることが許されます
(民法880条扶養をすべき者若しくは扶
養を受けるべき者の順序又は扶養の程度若しくは方法について協議又は審判があった後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所は、
その協議又は審判の変更又は取消しをすることができる。」
)

 どのような形であれ、離婚目的を達したいばかりに、養育費を放棄する、させられるということはあってはなら
ないので、それは禁止されていることを相手にも説明しなければなりません。ことに、扶養請求権の中でも、
子の
養育費
は、本来子自身の持つ一身専属の権利で、親はその法定代理人として代わりに請求する立場なので、親がこ
れを勝手に放棄することはできません。その意味からも親の処分権限の及ばないものと銘記されねばなりません。



  子供いるのに離婚なら


  ①
親権以降819どうする、 どちらがつか、親権(真剣)俳句819


  ② 監護面会養育費ろう (揺り籠の意(造語))
766事項を、

          
利益最優先
めるべし。


      二人協議められぬならば家裁調停審判





     戸籍は、離婚


    
さく
739証人(二人、4名の署名捺印・書面、口頭) チェック後 

       大
きく
765にならぬよう

         親権
以降819どちらか 確認し

           その
法令違反有無も、調べなければ受理できぬ。


    
調りずに受理あれ戸籍係難務功765  離婚届けはなんと 有効




   
  扶養権利ったり担保れたり

         手離
処分ヤバイ
881ことです禁止です
 


    
父母の間
 
      
養育費将来って請求せぬ 旨

      
881取決扶養料放棄 とはならぬ

  
     扶養請求、子自身
生存維持()ため 故

          
一身専属親 放棄不可
     
(養育費を巡る事情の変更で改めて請求できる場合がある)




面会交流
 監護権(民法820条)を有しない親の子との面会交流(以前は、面接交渉と言われていました)については、平成12年に、
婚姻関係が破綻して父母が別居状態にある場合に、
  子と同居していない親と子の面接交渉につき
   父母の間で協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、
 家庭裁判所は
、民法七六六条を類推適用し、家事審判法九条一項乙類四号により、
 右面接交渉について相当な処分を命ずることができる。

とする 
判例(最判平12・5・1)が出て、父母間での協議ができないときは、判例による法解釈によって、
家裁が相当な処分を命じることができることとなりました。判例が適条する家事審判法9条1項乙類4号は、現 家事
事件手続法39条 別表第二の三です。

 また、それより前の平成元年
(1989年)に国連で採択され、平成6年に我が国においても発効した
児童の権利に関する条約9条3項でも、親から分離されている児童には、
原則として、
  親と定期的に「
人的関係及び直接的接触を維持する」権利
が認められるべき旨定められています。

 以上の経緯もあって、その後、平成23年に、
協議離婚の際には、監護権者、養育費についての他、
親子の面会交流についても協議で定めるべき旨、この場合には、子の利益を最も優先して考慮しなければならない
旨、766条
(平成23年)法改正が行われました。
 これにより、離婚後の、監護権を有しない親の子との面会交流が実定法上も認められたことになります。

 勿論、判例の事案のように、離婚には至っていないが
別居中である夫婦の間での、子との面会交流についても、
家裁への面会交流調停の申立てにより子の監護
(民法820条)に関する事件(家事事件手続法別表第二の三)として調停
(同法244条)
を受けることができます。
 調停が不成立で終わったときは、そのまま審判官の審判に移行します
(家事事件手続法272条4項)
 家裁での手続きについてはこちらをご覧下さい。

 面会交流の実際については、父母が激しく対立して、双方が疑心暗鬼となり泥沼化する事例を散見しますが、虐
待、家庭内暴力等、子の心身に加害、悪影響を及ぼすおそれを伴う場合は、前提を欠くものとして否定さるべきと
しても、上記の実定法化への経過に照らし、
面会交流は本来子の権利として守られなければなりません

 そして、その実施にあたっては、条文の文言上からも、
  「
子の利益を最も優先して考慮しなければならない(766条1項)
点が再確認されるべきです。
 子を中心に考え、発達段階にある子の心理状況を踏まえて、親としての態度を持し温かい雰囲気の中で面会でき
ることが大切であり、不可欠です。

 子は、婚姻における融合創一の賜物であって、親子は無償の愛の絆で結ばれています。子は、両親を半々に受け
て生まれ、独立した人格を持ちます。ですから、子は、いずれの親に対しても、自身の半身の祖として仰ぎ慕う権
利があります。
求絆権と名付けることができます。その権利を否定することは、子の半身を否定し、子の存在を否
定するに等しいと言えます。面会交流を離婚裁判の取引材料とすることは、子の求絆権を蹂躙するものであり、そ
のような親は、そもそも子を監護するに相応しいか疑わしい、ということにもなりかねません。子の内面に心的外
傷を与える対応は、それが極端であれば虐待とみなされるであろうこと、親権者変更、果ては親権喪失にも繋がり
得ることを親は十分認識しなければなりません。

 夫婦の離婚に至った事情が如何様であれ、また、「離婚」に関して夫婦間で如何なる攻防がなされようと、子の
求絆権については、子の人格に発する全く別の問題として、「権利確保」を前提し、その実現の具体策を協議する
ことのみが焦点であるべきです。これに否定の態度で臨むことは、それ自体、親として本来あってはならないこと
です。

 そして、また、子には両親の葛藤・対立が社会の縮図として写り、社会への不安や恐れを根付かせてしまうこと、
子が親に対して抱く信頼こそが社会に対する信頼と自己肯定に繋がることを理解して、子の明るい未来のために、
夫婦互いの我執を抑え、子の当然の権利と未来のために解決してあげて欲しいと思います。

 ですから、実際に子の親との交流が叶った場面でも、親の対立を見せずに穏やかに交流できるよう、子のために
努めて頂きたいと思います。

 家裁としても、子の権利実現、面会交流の実施を前提に、そのための積極的調整をすべきです。そのためには、
人間諸科学を修得した調査官を活用し
子の心情を把握して子の為に面会交流が実現できるよう積極的に夫婦
間の調整を図るべきです。なお、家裁は、親権者の指定
(家事事件手続法169条2項)、監護権者の指定(人事訴訟法32条4項)
際して、子が15際以上であれば、必ず子の陳述を聴かなければならないとされおり、また、


 「
未成年者である子がその結果により影響を受ける家事審判の手続においては子の陳述の聴取家庭裁判所調査
 官による調査その他の適切な方法により、子の意思を把握するように努め、審判をするに当たり、子の年齢及び
 発達の程度に応じて、その意思を考慮しなければならない
(家事事件手続法65条)

とされ
ています。

 従って、15歳以上の子と親との面会交流は、当然のことながら、上記児童の権利条約9条に照らして子の自由と
されるべきですし、児童の権利条約・児童福祉法
(総則:1条3条)の理念に照らせば、15歳未満の子についても、子
の意見は最大限尊重されなければなりません。

 家裁には、面会交流と夫婦の離婚とは、鉄路の両線の様に別事案と心得、法全体の理念として、子のために面会
を実現するべく 積極的役割を担ってほしいと考えます。そして、そのためには、子の心情に配慮した必要十分な
調査と調整に努め、更には、調査と審判を連繋させた精緻で充実した体制を整えることが必要です。

 面会交流は、通常、親として当然の権利であり、子供にとっても重要であることが子供の権利条約9条にも謳わ
れています。

 ですから、家裁の調停での合意も普通は整う筈ですし、調停が不調となれば、審判によっても認められる筈です。

 しかし、相手がそれにも応じてくれないときは、家裁から相手方に対し履行勧告をしてくれるよう申し立て、次
いで、間接強制によって面会を追及し、それでも奏功しない場合、あくまで、子との直接の触合いを求めるならば、
自ら監護する覚悟で、当初の目的を超えることになっても、夫婦共同親権の段階であれば その侭、離婚後の段階で
あれば 親権者変更を経て、子を手許に引き取る他ないのかとも思われます。

 その為には、家裁による監護処分審判前保全処分、地裁での妨害排除請求権に基づく仮処分、或は、要件が備
われば 人身保護法による救済等、多くの難関を越えねばならず、余りに厚い壁が立ち塞がります。

 当然の権利である面会交流が、この様な困難・難儀を伴うこと自体、権利実現の途が閉ざされているに等しいと
言わざるを得ません。子の引渡執行については、
これまで規定がなかったところ、令和元年に民事執行法が改正さ
間接強制を超える子の引渡執行」が可能となった様に面会交流についても何らかより具体的で現実的な
権利実現の方途が定められるべきです。


 そこで、子どもの権利の立場からも、提言したいと思います。
面会交流手続きでも、上記親権者変更等の手続き
の中でも良いですから、
家裁調査の一環として、子どもの意見も聴取して貰い、もし、しっかりした子の意見も聴
できるのであれば、これを申立てとして受理して貰うことです。

 
家裁は、児童福祉法2条の、子は「その意見が尊重され、その最善の利益が優先して考慮され」なければならな
いとの法意に沿い、子の利益 最優先で判断すべきですから、権利実現の光明が差すのでないでしょうか。

 子の面会交流申立権についてこちらを、子の申立能力についてこちらもご覧下さい。




 子の氏 子の氏の変更 
 「氏」は本来単なる人の呼称ですが、国民一人一人の登録簿である戸籍は、基本的に、
  
夫婦と、その間の「氏」を同じくする未婚の子
で編製されますから、
「氏」には、家族の呼称という意義もあり、又、家族は基本的に戸籍を同じくする、とも言えます。融合創一
導かれた終生的互敬貞操結合が、婚姻の本質であり、氏は、その結合による守操一体の愛の果実である子に、安心
と信頼を保障するための仕組みなのですから、「戸籍」は、実は、「子籍」なのです。

 ですが、「夫婦・親子
(は)同氏の原則(民法750条790条)が採られている日本の「氏」制度の下では、例えば、離婚
した場合など氏はどうなるのか、となると多少複雑なルールが設けられることになります。

 離婚による法的な効果として、婚姻前の氏に
復氏(767条1項)することになると、たとえ親権を確保して子と同居
できても、子供とは氏が異なる事態が生じ、子供の幼心に複雑な葛藤を背負わせることになりかねません。勿論、
婚姻の際に自らの氏を夫婦の氏とした者が離婚をするについては、復氏なく、従って、子も戸籍を同じくします
から、その者が子を監護する場合はそのような問題は生じません。

 問題となる(婚時改姓の)ケースで、子を引き取り、離婚後の氏も婚氏のままとしたい場合は、離婚後3か月の内に
その旨届け出れば、婚氏続称と言って、子と同姓となることが可能です
(767条2項)

 しかし、それでも、離婚した
(婚姻中戸籍の筆頭者でなかった)親は、離婚に伴ってその親だけ別の戸籍となる訳ですから、
子供とは戸籍が別になってしまいます。

 子供と同戸籍でないと、親権を行使するにも、育児や学校等での各種手続関係が何かと不便なので、やはり子に
ついても、元配偶者の戸籍から抜いて自分の戸籍に入れたい場合は、家裁に子の氏の変更許可
(民法791条1項)
申し立て、その許可を得た上で、市役所に子の
入籍届け(戸籍法98条1項)をすることになります。

 婚氏続称で氏は子と同じなのに
ちょっとおかしい と思われるでしょうが子の戸籍を変更するのでこの様な
手続名となります
(「氏」が家族単位の呼称だと考えれば、家族登録簿の「戸籍」が変わる=子の「氏」が変わる、という繋がりで、氏の変更
を納得して頂けるのではないでしょうか)(→「戸籍とは」)


 勿論、子の学校も変わって
子も氏が変わることについて抵抗がないから原則どおり離婚復氏をしたいという
場合でも、親は婚姻中の戸籍とは別戸籍(婚姻前のいわゆる旧籍か、新たな戸籍)となっているのですから、子と同戸籍に
するためには同じ「子の氏の変更」許可手続きが必要となります。

 したがって、復氏しても、婚氏続称しても、離婚するまで同籍 であった子とまた同籍となるための手続き と
思って、上記の家裁での氏変更の許可を受ける他ない訳です。通常、家裁でのこの手続きにはさほど時間がかか
まりせん。

 そして、その許可の審判書謄本を持って市役所・町村役場の戸籍係で子の「
入籍届」をすることになります。
子の氏の変更手続き
(家裁の許可・市役所町村役場での入籍届)」についてこちらもご覧下さい。

 いずれにしても、婚姻に際して改氏した配偶者が、離婚後 子を養育監護する為には、上記の様な面倒な手続き
を強いられることになります。これも
(戸籍の訂正制度と並んで) 誠に理不尽なことで、このような制度も変革すべき
日が近いと思わざるを得ません。こちらもご覧下さい。

 又、婚姻外で生まれた嫡出でない子の出生届けは、母が行い(戸籍法52条2項)
、子は母の氏を称し(民法790条2項)
母の戸籍に入りますが、その出生届け、戸籍には、父親の名は記載できません。父親の名を記載するためには
認知の手続きが必要となります。



 妊婦が離婚後に出産した子


 離婚の際に妊娠していた元妻から、
離婚後に生まれた子は、父母の婚姻中に懐胎した子ですから、嫡出子です。
 ですが、その子の出生届けは、
母親がこれを行わなければなりません(戸籍法52条1項)。そして、
 その子は、母の親権に服し
(民法819条3項)、氏は離婚の際における父母の氏を称します(民法790条1項)

 つまり、母親が、婚姻に際して氏を変更していた場合、離婚復氏
(或いは婚氏続称)して父親と別戸籍になると、
子の親権者は母ですが、子は父の戸籍に記載されることになります。
ですから、子を親権者である母の戸籍に移す
ためには、やはり、上に述べた「子の氏の変更」手続きが必要となります
 ( このように子の親権者と戸籍が乖離する
のは制度設計上問題であると指摘されています。せめてこの場合だけでも、「子は親権者の戸籍に入る」とすべきです。
私は、本来 戸籍は母子氏をコアとすべきと考えています→「同氏協議に代わる母子氏 )




 禁期違反の再婚で出産した子
(前後両婚の嫡出推定が及ぶ場合)
 

         なお、この項での以下の記述の前提である嫡出推定制度に改正の動向があり、
         これが実現すると、以下の記述は不要となります。こちらをご覧下さい。



 
離婚後百日間は、
再婚禁止期間(民法733条)ですが、この禁止期間 違反の再婚(禁期婚)で子が生まれた場合
父性の推定が前後両夫に及ぶことになるときは、出生届けに父親の氏名を記載することができません。

 ① 禁期婚で産まれた子でも、後婚の成立後200日以内に産まれた場合は、後婚による推定はかからないので、
推定の重複がなく、前婚の夫が父と推定されることになります。また、

 ② 離婚後300日以内に生まれた子でも、
 「母とその夫とが、離婚の届出に先だち約二年半以前から事実上の離婚をして別居し、まつたく交渉を絶つて、
 夫婦の実態が失われていた場合には、民法七七二条による嫡出の推定を受けないものと解すべきである。」
とした判例
(最判昭44・5・29)があります。この判例のような場合は、後婚での嫡出子としての出生届ができます。

 推定が重複する場合、どちらが父親か確定するためには裁判が必要となります。
 それが民法773条
父を定める訴え(人事訴訟法43条、〔§2、§4〕)です。

 但し、平成19年の法務省通達により医師の証明書によって
 ③
離婚後に懐胎したことが認められれば、後婚子としての出生届けができることとなりました。

なお、禁期婚のため父を定める訴えが必要となる子の
出生届けは、母が行うことになりますが、その場合、
届書に、父が未定である事由を記載しなければなりません
(戸籍法54条)

  厳密には、「懐胎時期に関する証明書」によって、
推定される懐胎の時期の最も早い日が婚姻の解消又は取消しの日より後の日である場合に限り、
 婚姻の解消又は取消し後に懐胎したと認められ、民法第772条の推定が及ばないものとして、
 母の嫡出でない子又は後婚の夫を父とする嫡出子出生届出が可能です。
とあります。


 
禁止期間違反の婚姻 (禁期婚) は婚姻取消しの対象となりますが、妊娠・出産との関係で、取消しができない
ことになる定め
 (民法746条) について、こちらもご覧下さい。

 なお、「子の氏の変更」の手続きでは、子が15歳以上であれば、申立人・届出人は子自身であり、
 子が15歳未満であれば、親が法定代理人として手続きすることになります
(民法791条3項)

栗東市のホームページに入籍届の記載例も見られますから、参考にして下さい。

 
また、離婚復氏により旧戸籍に入った後、上記子供の入籍届となる場合、戸籍記載は親と子二代の範囲まで
という限りがあるため、当然新戸籍の編製をすることになります。従って、離婚の際、子の入籍を予定している
のであれば、旧籍に戻らず新戸籍を作っておいて、それに子の籍を入れる方が手間が省けることになります。
詳しくはこちらをご覧下さい。



夫婦親子同氏の原則
(判例)
 
夫婦同氏の原則を定めた民法750条を憲法に違反しないとした判例(最判平27・12・16)があります(なお、→旧姓併記制度)

この判決は、
 
夫婦同氏の原則を定める民法750条が、個人の尊厳と幸福追求権を定めた憲法13条に違反するとの
主張に対し、


「民法の氏に関する諸規定は、氏の性質に関し、氏に、名と同様に個人の呼称としての意義があるものの、名と
は切り離された存在として、夫婦及びその間の未婚の子や養親子が同一の氏を称するとすることにより、社会の
構成要素である
家族の呼称としての意義があるとの理解を示しているものといえる。
 そして
家族は社会の自然かつ基礎的な集団単位であるからこのように個人の呼称の一部である氏をその個人
の属する集団を想起させるものとして一つに定めることにも合理性があるといえる。

 本件で問題となっているのは、婚姻という身分関係の変動を自らの意思で 選択することに伴って夫婦の一方が
氏を改めるという場面であって、自らの意思に関わりなく氏を改めることが強制されるというものではない。 

 
氏は個人の呼称としての意義があり、名とあいまって社会的に個人を他人から識別し特定する機能を有する
ものであることからすれば、
自らの意思のみによって自由に定めたり、又は改めたりすることを認めることは本
来の性質に沿わない
ものであり、一定の統一された基準に従って定められ、又は改められるとすることが不自然
な取扱いとはいえないところ、上記のように、氏に、名とは切り離された存在として社会の構成要素である家族
の呼称
としての意義があることからすれば
氏が親子関係など一定の身分関係を反映し婚姻を含めた身分関係
の変動に伴って改められることがあり得ることは、その性質上予定されている
といえる。

 以上のような現行の法制度の下における氏の性質等に鑑みると、
婚姻の際に「氏の変更を強制されない自由」
が憲法上の権利として保障される人格権の一内容であるとはいえない。

 本件規定は、憲法13条に違反するものではない。」
と判示しました。


 
民法750条が、法の下の平等を定めた憲法14条に違反するとの主張に対し

「民法750条の規定は
夫婦が夫又は妻の氏を称するものとしており 夫婦がいずれの氏を称するかを夫婦となろ
うとする者の間の協議に委ねているので あって、その文言上性別に基づく法的な差別的取扱いを定めているわけ
ではなく、 
本件規定の定める夫婦同氏制それ自体に男女間の形式的な不平等が存在するわけではない

 我が国において、夫婦となろうとする者の間の個々の協議の結果として夫の氏を選択する夫婦が圧倒的多数を
占めることが認められるとしても、それが、本件規定の在り方自体から生じた結果であるということはできない。
 したがって、本件規定は、憲法14条1項に違反するものではない。」
と判示しました。


 
民法750条が、家族生活における個人の尊厳と両性の平等を定めた憲法24条に違反するとの主張に対し、

「婚姻に伴い夫婦が同一の氏を称する夫婦同氏制は、旧民法(昭和22年 法律第222号による改正前の明治31年法律第9号)
の施行された明治31年に我が国の法制度として採用され我が国の社会に定着してきたものである。前記のとお
氏は家族の呼称としての意義があるところ現行の民法の下においても、家族は社会の自然かつ基礎的な集
団単位と捉えられ、その
呼称を一つに定めることには合理性が認められる。

  そして、夫婦が同一の氏を称することは、上記の
家族という一つの集団を構成する一員であることを、対外的
に公示し、識別する機能
を有している。
 特に、婚姻の重要な効果として夫婦間の子が夫婦の共同親権に服する嫡出子となるということがあるところ、

嫡出子であることを示すために子が両親双方と同氏である仕組みを確保する
ことにも一定の意義があると考えら
れる。

 また
家族を構成する個人が同一の氏を称することにより家族という一つの集団を構成する一員であることを
実感する
ことに意義を見いだす考え方も理解できるところである。さらに夫婦同氏制の下においては子の立場
として、
いずれの親とも等しく氏を同じくすることによる利益を享受しやすいといえる。

 加えて
前記のとおり本件規定の定める夫婦同氏制それ自体に男女間の形式的な不平等が存在するわけではな
く、夫婦がいずれの氏を称するかは、夫婦となろうとする者の間の協議による自由な選択に委ねられている。

 これに対して
夫婦同氏制の下においては婚姻に伴い夫婦となろうとする者の一方は必ず氏を改めることに
なるところ
婚姻によって氏を改める者にとってそのことによりいわゆるアイデンティティの喪失感を抱いたり
婚姻前の氏を使用する中で形成してきた個人の社会的な信用評価名誉感情等を維持すること が困難になった
りするなどの不利益を受ける場合があることは否定できない。

 そして
氏の選択に関し夫の氏を選択する夫婦が圧倒的多数を占めている現状からすれば妻となる女性が上
記の不利益を受ける場合が多い状況が生じているものと推認できる。
 さらには
夫婦となろうとする者のいずれかがこれらの不利益を受けることを避けるためにあえて婚姻をしない
という選択をする者が存在することもうかがわれる。

  しかし、夫婦同氏制は、婚姻前の氏を通称として使用することまで許さないというものではなく、
近時、婚姻
前の氏を通称として使用することが社会的に広まっている
ところ上記の不利益はこのような氏の通称使用が広
まることにより一定程度は緩和され得るものである。

 以上の点を総合的に考慮すると
本件規定の採用した夫婦同氏制が夫婦が別の氏を称することを認めないもの
であるとしても、上記のような状況の下で直ち に個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠く
制度であるとは認めることはできない。
したがって、本件規定は、憲法24条に違反するものではな い。 」

と判示しました。






夫婦親子同氏の原則と嫡出推定
(守操一体の愛)

 私は
夫婦の同氏原則(民750条)終生的互敬貞操結合という婚姻の本質から来るのであり夫婦一体の象徴
であると考えます。しかし、それは同時に、
子のための安心・安定な呼称環境の確保をこそ、現実的な真の眼目
としています。


守操一体の愛


 子は、両親によって愛され保護されて、心身共に健やかに育てられなければならない存在です
(児童福祉法1条)
夫婦は、子の最善の利益のために
(児童福祉法2条) 無償の愛をもって子を育てます。
 夫婦の互敬貞操結合は、相互の、そして、子との、無償の愛によって、守操一体の愛の結合となり、それこそが
家族生活の基礎となり、真髄となります。子にとっては、その両親を通じての、人に対する、又、社会に対する
信頼の基礎となり、人格形成の根幹をなします。子の、家庭での愛の絆が、社会へと繋がる絆となるのです。
 たとえ、夫婦が離婚した場合であっても
無償の愛の絆は本来 子にとって父母いずれに対する関係でも不変
です
(→面会交流離婚後の共同親権)。

 私見によれば、夫婦・親子間の同氏
(民法750条790条)は、夫婦間にあっては融合創一 (融合一)の一体を表し、
親子間は、融合創一そのもの の具現化です。子は、夫婦の終生的互敬貞操結合によって、その結合の影導力
(よう
どうりょく)
である融合創一の意志の下に生まれます。それ故 夫婦・子の三者間における逆三角▽には他の結合を
排除して
融合嫡出推定(民法772条)が働きます(「操」は、みさおの意です)

 これらは、「氏」を介し戸籍によって一つとなっています
(戸籍法6条)から、その結果の「融合装一」なのです
(「装」が即ち「氏」です)。氏は、ここでは、終生的互敬貞操結合の証です。この結合の融合創一・同操一によって、
三角の上の二つの頂点である
父母が、互いの守操に対する信頼のもとに、下の一点である、同一の子を互い
に同定する嫡出推定が成り立ち
これによって同じ一人の子に対して無償の愛を注ぐべく親子一体として
の絆を結びます。

守操一体の下に愛は実り、守操一体の下でなければ、愛の果実は育ちません。そこにこそ、愛の喜びがあり
ます。


 
守操一体の愛の結果として、夫婦同子の三角が成立し、夫婦親子同氏となるのです。この様に見てきて分か
るのは、夫婦親子の逆三角▽の要
かなめは、下の一点である子であり、夫婦同氏原則も、夫婦間の思いによるとい
うよりも、融合創一の出発点からしてそうである様に
夫婦の子に注ぐ思いの一点から発しています。視点を変え
れば
下から上へ、この世に生を受けるべく立ちのぼる命から、地上に芽を出そうとする願いから、発していると
いうことです。それをこそ、夫婦一体の融合創一は願っていたのです。

 夫婦別姓とすべきか否か、議論は尽きないようですが、こうして考えてみると、やはり、個別夫として、或は、
個別妻としてのそれぞれの立場からではなく
婚姻の本質と子の幼心にとって安定した安心できる呼称環境はどう
あるべきかという二点から、
子の利益最優先で検討されるべき(児童福祉法2条)ではないでしょうか。
 尚
婚姻改氏に伴う弊害を軽減するべく考案された(次項)旧姓併記制度並びに愚説 同氏協議に代わる母子氏
もご覧下さい。


   夫婦 並びに 親子まる750790あかしうじ なれば

        
名困790夫婦 うじなるべし同籍なるべし



旧姓
(旧氏) 併記制度
 (住民票、マイナンバーカード等)

 平成31年(2019年)4月17日、住民票、マイナンバーカード等へ旧氏(きゅううじ)、つまり、旧姓を併記できるよう
にするための住民基本台帳法施行令等の一部を改正する政令が公布され、令和元年(2019年)11月5日に施行され
ました。
 この政令改正は
社会において旧姓を使用しながら活動する女性が増加している中様々な活動の場面で旧姓
が使用しやすくなるよう行われたものです。これにより、婚姻等で氏
(うじ)に変更があった場合でも、従来称し
てきた氏
つまり旧姓を住民票、マイナンバーカードに併記し、公証することができるようになるため、旧姓を
契約など様々な場面で従前通り活用でき、旧姓併記が就職や職場等での身分証明に資することとなります。
 具体的な旧姓併記手続は下記のとおりです。この制度の登場によって、婚姻改氏によるアイデンティティーの
遮断はある程度緩和されますし、婚氏は家族生活上の必要場面においてだけ適宜 証明資料として用い、実社会
で旧姓が従前通り用いられれば、実社会における旧姓の侭での稼働を むしろ 促す基盤となるのではないでしょ
うか
 (そのためには 、併記として 、旧姓を括弧書きするのではなく、婚氏を括弧書きとする、或は 何れか選択できるとする英断が欲しか
ったと思います→選択的旧姓併記制)

なお、夫婦同氏に関連する立法論私見もご覧下さい。

手続の方法

 次に記載している必要なものを持参し、市区町村にある請求書により申請します。

手続に必要なもの

1 戸籍謄本(併記を希望する旧姓から現在までのすべてのもの)

2 本人確認書類

・いずれか1点で良いもの

マイナンバーカード、住民基本台帳カード(顔写真付きのもの)、運転免許証、パスポート等、官公署が発行した顔写真付き身分証明書

・2点必要なもの

健康保険証あるいは年金手帳とキャッシュカード等顔写真のないもの

3 マイナンバーカードまたは通知カード

4 印鑑(印鑑登録をされている方で、旧姓の印鑑の登録を希望される方等)





同性婚の氏(立法論私見)
 
私は、同性婚について、終生的互敬貞操結合が認められれば社会的承認を与え、婚姻の法的効果を付与しても
良いのではないかと言いました。そして、併せて、その場合、社会的承認を与えることに主眼があり、子の監護
教育は原則として予定する必要がなく、子のための呼称環境の確保も不要なので、同氏の必要は少なく、むしろ、
別氏こそ自然なのではないか、とも言いました。

 しかし、よく考えて見ると、女性の同性婚の場合、現在の判例
 (最判昭37・4・27)・通説により分娩・出産の
事実によって母子関係が成立するとされること
生殖補助医療の進歩により女性が自然生殖によらず子を懐胎し
出産することが事実上可能であることを前提とすれば、精子提供者の存在によって女性の同性婚にも母子関係の
成立が伴い得ること、つまり、同性婚当事者間に補助医療による子が儲けられる可能性が考えられます。

 また、男性の同性婚の場合も、家庭・家族を失った幼児が多数存在するという社会の現実を踏まえ、社会的
養護
の要請を満たすためには、養子制度のさらなる活用が考えられますから、男性の同性婚当事者にも養子縁組
を認めて良いのでは、と考えるに至りました。

 そうすると、同性婚にも子の存在を前提とした上で、同氏原則の導入が考えられて然るべきとの結論に至りまし
た。勿論、その前提として、前記女性の同性婚子、或は、同性婚当事者の未成年者との養子縁組を、制度として
認めるか否か、めるとしてどうのような形で認めるかは、別に論じられるぺき重要な論点です。
 
 ここで、私は、むしろ、子の存在を同性婚承認の要件とし、婚姻の本質たる終生的互敬貞操結合は、子を通して、
その存否を判断することとする建付としてはどうかと考えます。通常婚は、当事者が、終生的互敬貞操結合を結ぶ
合意をして初めて成立するのですが、同性婚は、その社会的承認の目安を設定し難く、他の多様な内縁との区別も
困難であることから、通常とは逆に、婚姻の結果としての子の存在を以て、社会的に婚姻を承認する要件とします。

 そして、カップルによる子との守操一体の愛を十全に実らせる為には、普通養子縁組ではなく、特別養子として
実子同様に愛育する事を約することこそが肝要です。そうとすれば、カップルが特別養子の請求をして、子の両親
としての試験養育を経た上、子との適合性を確認できた場合に、家裁によって、特別養子の成立と合わせ、同性婚
の成立が宣言されることとなります。その場合のカップルの「氏」も、次の「同氏協議に代わる母子氏」で述べる
と同じく、カップルの合意があれば、それにより、合意ができなければ、カップル内の常時 子の監護にあたる者の
氏を採用するべく、家裁が審判によって決することになります。

 私は、これを、同性婚の成立を認める唯一の方途とすべし、との趣旨で述べているのではなく、成立類型の一つ
として提案しています。同性婚の成立の為には、「終生的」互敬貞操結合であることの保証がない侭に、ただ単に
婚姻届をすれば足りるとすることはできず、その点を保証できる一定の事実的・時間的蓄積を要すると思われます。
そこに 一定の評価・判断のステップは必要であり、それをどう構築するか、早急に検討、立法化すべきと考えます。

 例えば、徐々に普及しつつあるパートナーシップ制を、第一段階とし、その下で一定期間、互いに同居・協力・扶助
の義務
(民法752条)を履践して生活を支え合った事実が証明された場合は、これを終生的互敬貞操結合の合意の素地が
整ったものと認めることは可能ではないでしょうか。




同氏協議に代わる
母子氏
(立法論私見)

 私は、現在の婚姻による夫婦同氏原則は、前記の守操一体の愛の観点から、維持されるべきだと考えます。
しかし、あくまで個人の氏の不変を貫く別姓論者の事実婚は別として、現実に同氏協議が調わないために婚姻届
が出せない侭 事実婚を余儀なくされている男女は存在するので、その様な当事者間で、子の出生届けを出す現実
の必要が生じた場合は、その子のためにはどうしたら良いでしょうか。

 私は、その段階に至った夫婦については、その時点で、出生届
と同時に母親の氏による婚姻届をすることがで
きるとしてはどうかと考えます。

 前述しました様に
同氏原則においては子のための安心安定な呼称環境を確保することが重要な眼目です
ので、家族に子が登場する際には、子のための親子同氏原則を確保するべく、やむを得ず、「協議による同氏」
原則の修正で臨むことができると思います。

 つまり
その段階では出産直後で産子を抱え、迫られる目前の監護に直面する母親に、現実の要請として、子
との同氏を認め、母親が子に「姓」を与えて、父親は、やむを得ず同氏協議の放棄をする建付となります。

 つまり、父親は、子の福祉のため
子との同氏に同意し、自らは旧姓併記で対処します。この場合、考え方として
は、未婚の母が子と独立の新戸籍を編製することにより母子同氏
(民法790条2項)となる様に、現実の子との生活の為
母子の「氏」が創設され実父は、自らもたらした事実婚という事実によりその新戸籍に参加するとの観念です。

 これは男女平等に反するものでも
呼称の自由に反するものでもなく母と子の現実に実父のもたらした事実
婚の事実が融合して
家族家庭の誕生という祝うべき社会的出来事が起きたと考えるのです。

 ここに融合創一が起きるとも言えます。具体的には、母子氏を設けた母親には、父親に対する母子氏婚 請求権
が与えられます。父親がこれに応じれば、ここに母子氏婚が成立します。

 勿論、父親が、母子氏にそのような形で応じることを承服しなければ、母親から、裁判所に、実質が両名の事実
婚で、当事者間に子が生まれたのに、子の父親が、届出意思はありながら、妻の氏を称する
-上記の様に、実は子の氏
を称する-
婚姻届に同意しないという一連の事実を証明することにより、裁判所の許可を得て「母子氏婚」の届出が
できることとします。

 そして、この段階に至った夫婦に対しては
(ことに父親に対して)、その親族は、「家名」継承の要求をしてはならな
い規定を設けて、純粋に個人の選択であり、個人的なアイデンティティ・プロパーの問題であることを確保すべき
だと考えます。

 ですが、アイデンティティ・プロパーの問題は、本来、子を授かったこの場面で起こるのではなく、婚姻生活に入
ろうとする時に表面化するので、それが婚姻届けでどちらの姓を戸籍上 夫婦の姓とするか、の対立です。そして、
それは、旧姓併記でクリアできると 私は、考えています。併記で 婚姻した事が人に知れるのを嫌う故に 併記を
忌避するのなら、その人は社会的承認という婚姻要素を嫌っている事になりますから、むしろ、婚姻意思がないと言
うべきです。ですが、旧姓併記における括弧書きは、旧姓を括弧内に押し込めるのでなく、旧姓と婚姓との選択
を自由とし、どちらを括弧書きにしても良いとすべきです。これこそがアイデンティティ・プロパーの問題なので、
職業上の継続性等からも、そのように選択的旧姓主記制とすることは必須であると考えます。

 ですから、そうではなく、婚姻生活に入るについては、当然子を授かることを想定しなければならないし、その場
合、子の氏を何れの姓とするかで対立した時こそが、旧姓主記ではカバーできない子の氏の問題なのです。しかし、
事実上の婚姻生活に入り、子を授かった以上は、母子氏 婚による婚姻届けをして、社会の承認を得る必要があり
、また、子のためにそうしなければならないのです。


 具体的には、婚約事実、或いは婚姻準備事実・挙式事実・婚姻前提事実等のうちいずれかの事実の証明に加え、
DNAによる父子関係の立証があれば、「氏」だけが欠ける
 事実婚による親子であり、家庭(ファミリー)であることの証明ファミリーの証明〕がなされたとして

(障碍事由等の審査も経た上で)裁判所の許可により、母子氏による婚姻成立が認められるのです。これは、認知ではなく、
子に嫡父を与えるための母子氏「婚」です。父親は、母親の産んだ子との同「姓」によって、婚姻できるのです。

 憲法24条に違反する仰天の不埒な提言と思われる方がおられるかも知れませんが、憲法は又、12条において、
この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない。
 又、国民は、これを濫用してはならないのであって、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。

ともしています。ですから、憲法は、前述のように、戦前の戸主による理不尽な掣肘等を受けることなしに婚姻
が可能となるよう、その自由を宣言したのであって、この場合のような婚姻における放恣を許す趣旨で24条を置
いたのではありません。

 この様な状況下での子の安心と福祉のための「婚姻強制」は、正に公共の福祉に叶うものですから、何ら問題は
ないと考えます。そして、これは、外形的には婚姻強制と見えますが、上述来の様に、これは、氏協議に代わる単
なる氏選択上の強制であって、婚姻と届出の意思は、父親のもたらした事実経過によって既に既存事実として前提
されています。


  
むしろ、この場合の、父親の「氏」に拘る態度は権利の濫用であって、子の安心と福祉の為に「母子氏婚」を認
めることの方が、公共の福祉に叶い
母親の子の監護面における福祉も視野に入れた実質的な男女の平等 に資
することではないでしょうか。

 事実婚の証明を法定証拠による簡易・迅速な方式とし、できちゃった「婚氏」が、ほほえましく語られる時代が来
たら良いと思います。昔から「子は鎹かすがい」と言いますが、子が両親の「母子氏婚」を橋渡ししてくれるのです
から、「キッズ鎹婚」と言っても良いかと思います。

 上記提案にかかる「母子氏婚」を、いわゆる臨終婚との比較で、共通点と違いとを見てみたいと思います。
臨終婚での問題は、届出時に届出者の意識が失われていたという点にありました。ただ、婚姻届けの作成時には
意識があり、そうであれば、それまでに事実婚であった経緯、或いは、将来の婚姻を約していた事実に照らし、
婚姻届けは有効であるとされたのが二つの判例
(最判昭44・4・3同45・4・21)でした。

 いずれも、届書作成時の届出者の意思こそが婚姻有効とする最大の根拠であり、その支えとして、内縁関係や婚
約の事実が付随しています。他方、母子氏婚はどうでしょうか。届出意思があるのに、同氏協議が調わないだけな
のです。そして、重要な点は、当事者二人の間に子が生まれている事実があることです。私は、届出意思があるの
なら、同氏協議に代えて、母子氏婚を、子の母親の求めに応じて、子の利益を最優先に
(児童福祉法2条)、認めること
は、臨終婚を認めることより、合理性が高いと思います。



原則的母子氏婚

 さて、そうすると、私は、この延長上で、戸籍の編製についても、さらに提言をさせて頂きたいと思います。
つまり
戸籍編製のコンセプトは今の「夫婦とその間の子」によるのではなく「母子と父によって編製する」
としては如何かと思います。そして、戸籍筆頭者も、「母」とする、そして、未だ子がない夫婦であれば、「妻」
とすることが
子を中心とした戸籍本来のあり方に沿うばかりか子の誕生・養育・成長にも寄り添う自然な編製
というべきです。これを原則とし、しかし、婚姻当事者の協議により、筆頭者を夫とすることもできます。
 婚姻に伴い、当初から妻を筆頭者としますから、前述したDNA等によるファミリーの証明は不要となります。

 したがって、父母が離婚したときは、父が籍を抜いて、別戸籍を構えるか、元の戸籍に戻ることになります。
母子が、子の福祉のため
監護を尽くすため戸籍を出たり入ったする面倒・苦労を強いられることなく、一貫し
た戸籍に安んずることができます。

 国民の登録制を以上の様な建付とすることが、融合創一に導かれた終生的互敬貞操結合である、婚姻の本質と、
氏は、その結合による守操一体の愛の果実である子に、安心と信頼を保障する為のスキルであること とに最も合致
する途であると考えます。こうすることによって、「戸籍」が、実は、「子籍」であったという国民登録制の本質
にも気付くことができます。

 もし、全戸籍を一律に母子氏戸籍とすることに困難があるのなら、現行戸籍制度に母子氏戸籍を加えることがで
きるよう法改正することを次善の策として提案します。婚姻する女性が、同氏協議の挫折を見たとき
母子氏婚を
選択することができる途を残しておくことにより、守操一体の愛に与れない子を救済することができます。

 その際、ファミリーの証明は、DNA鑑定の以外はできる限り合理的で簡易・迅速なものとすべきです。情報通信の
驚くべき発達がそれを可能としている筈です。

 男性と居を構え、子をなす境遇に入る女性は、その境遇を撮影・録音により証拠化する努力は、これまで女性が強
いられてきた 子の監護養育のための戸籍上の面倒・苦労から救われる心得として、油断なく払う必要があります。
 また、男性は 女性に対し、己が置かれる立場について、事は常にその様に進展するとの心構えを学ばなければ
なりません。

 この方策の方が、現行戸籍に選択的夫婦別姓制を加える方策より、遙かに子の安心と福祉に叶うと考えます。

 同氏協議の話からついには同氏協議を不要とするかの提言となって、話が飛躍しすぎた感がありますが、いずれ
にしても、戸籍制度を大きく変革する日が近いと思わずにはいられません。

 こうして見てくると、これ迄「同氏」という原則は、夫婦同氏
(民法750条)が出発点で、親子同氏(790条)はそれに
付随するものであると
私も思っておりましたし一般にも当然の様にそう思われているでしょうが守操一体
の愛
」を踏まえ、同氏の眼目は子の為にこそあったと理解すれば、親子同氏、それも、その内の「
母子同氏」こそ
が原初的で根本的な出発点であったと分かります。そうであるならば
この様な母子氏に寄り添うことについて、
その外形だけを捉え、「男女平等に反する」などと言う余地のないことも明らかです。

 又、このような母子中心の「氏」と戸籍のとらえ方こそが、戦前から今日まで社会の底流を牢固として流れる
家とか家柄を中心とした「氏」観と、それを固守せんとする意図を窺わせる様な、
子の氏 ・ 子の氏の変更に要す
る煩瑣な手続き と、これをはじめとする現行戸籍制度、並びに、これを含む人為的諸制度
(嫡出否認契約取消権
夫婦財産契約.or 法定財産制.
配偶者暴力を離婚原因としていないこと)、そして、それらにより隠された究極的死守目的
であるかに見える男性優位社会、を打破する突破口ともなり得るか と思います。いつまでも ’男が「女子ども」を
養う’ 社会であっては、’ジェンダー最 後進国’の汚名をぬぐうことができません。いつまでもオールドメンズクラブ
が取り仕切る侭であったなら、日本の 愛すべき子供たちに明るい未来はありません。

 
私事で大変恐縮なのですが、私はここで、母子家庭に育ち苦学力行した父 小池 勉が詠んだ歌を思い出します。その様な境涯で、
学童時、母に手をとられ、二人の姉と共に福島から米沢に、窮地打開のため 移って行ったときのことを思い出して、詠んだそうで、
父の人生の出発点であった とよく申しておりました。条句のご紹介の前に掲載することをお許し下さい。
(宜しければ、下線クリック
で父の自伝「小池 勉 一代記」もご一読ください
)。
 

  母とならば しき

       いずべとてることなし (ぬく)のあれば。




  
くれ790

  
夫婦 びに 親子 なごまる750790あかしうじなれば

         違
名困
790親子同うじ



  
   親子同氏
790が原則 故に
  
    子
「ママ
名困790そのくれ790!」
  
        言
われたため
791

    ①   (家裁の)許可けた   

       (るか
父母ちちははが養縁成って子ならば許可せず )  

   れば   変更できる也十五()っこい791ならば

              
 () (理人)わって 変更 


         
改姓 った未成()成人後一年復氏ができる

                改姓した父母が子と異氏の例:父母が他人の養子になる場合等



子の引渡請求
 子が親権者ないし監護権者の意に反して第三者によって監護されている場合、親権者監護権者は自らの権利
が妨害されている訳ですから
その妨害を排除するためその権限に基づいて子の引渡しを請求することができ
ます


 しかし、その子が意思能力を有し、子自らの
自由意思に基づいて第三者、或いは 親権・監護権を有しない親
の下にいるときは、権利妨害と認めることができず、したがって、引渡請求も認められないことになります。

 この点に関する判例
(最判昭35・3・15)があります。

① 妻と別居中に子を自らの下に置いていた夫が亡くなり、代わりにその身内が監護していたのに対し、
妻から子の引渡しを求めた事案のようですが、この判決は、
「その幼児が三歳に満たない頃からひき続き相手方のもとで養育されているというだけでは、右幼児は自由意思
に基いて同所に居住しているとはいえない
。」
として相手方の主張を退けました。

② そして、子が十分に意思能力を有する小中学生以上の年代となっている場合であっても、現監護が 片親に
よる長年に亘る偏った情報と不当な心理的影響下での養育の結果 子によって肯認されている場合には、子がそ
の自由意思に基づいて当該監護下にあるとは言えないとした判例
(❶最判平2・12・6、平30・3・15)もあります。

③ また、同じく
親権に基づく妨害排除請求の事例として、次のような判例(最決平29年12月5日)が出ています。

 離婚した父母のうちその長男の親権者と定められた父親が、地裁に対し、法律上監護権を有しない母親を債務者
とし、
親権に基づく妨害排除請求権を被保全権利とする長男の引渡しを求める仮処分命令の申立てをした事案
について、原審
(高裁)は、本件申立ての本案は、家事事件手続法別表所定の子の 監護に関する処分の審判事件であ
り、民事訴訟の手続によることができないから、 本件申立ては不適法であるとして却下しましたが、
この最高裁決定は、

「 離婚した父母のうち子の親権者と定められた一方は
民事訴訟の手続により法律上監護権を有しない他方に
対して親権に基づく妨害排除請求 として子の引渡しを求めることができると解される
上記最判昭35・3・15、最判
昭45・5・22)

として、申立ての手続適法性自体はこれを認めた上、

「 もっとも、親権を行う者は
子の利益のために子の監護を行う権利を有する(民法820条から、
  子の利益を害る親権の行使は、権利の濫用として許されない


として、次のように本件の特殊例外的な事情の下における理由を判示しました。


「 離婚した父母のうち子の親権者と定められた父が法律上監護権を有しない母に対し親権に基づく妨害排除請
 求として子の引渡しを求めることは、次の(1)(3)など判示の事情の下においては、権利の濫用に当たる。


(1)
 子が7歳であり、母は、父と別居してから4年以上、単独で子の監護に当たってきたものであって、
 母による上記監護が子の利益の観点から相当なものではないことの疎明がない。


(2) 
母は、父を相手方として子の親権者の変更を求める調停を申し立てている。

(3) 
父が子の監護に関する処分としてではなく親権に基づく妨害排除請求として子の引渡しを求める合理的
 な理由を有することはうかがわれない。




人身保護法による引渡請求

 
ところで、幼児の引渡しに際して、よく依拠される法律に人身保護法という法律があります。この法律は、

基本的人権を保障する日本国憲法の精神に従い、国民をして、現に 不当に奪われている人身の自由を、司法
裁判により、迅速、且つ、容易に回復せしめることを目的とする」

(人身保護法1条)
もので、その2条1項には

「 法律上正当な手続によらないで
身体の自由を拘束されている者はこの法律の定めるところによりその救済
を請求することができる。」

 とあります。これを受けて、人身保護規則3条は、

「 法及びこの規則において
拘束とは逮捕抑留拘禁等身体の自由を奪い、又は制限する行為をいい、拘束者
とは
拘束が官公署病院等の施設において行われている場合にはその施設の管理者をいいその他の場合には
、現実に拘束を行つている者をいう。」

 とする他、同規則4条は、

「 法第二条の請求は、拘束又は拘束に関する裁判若しくは処分がその
権限なしにされ又は法令の定める方式若し
くは
手続に著しく違反していることが顕著である場合に限り、これをすることができる。但し、他に救済の目的
を達するのに適当な方法があるときは、その方法によつて
相当の期間内に救済の目的が達せられないことが明白
でなければ、これをすることができない。」

 と定めます。

 そして、「
拘束」については、上記のような基準で現監護者の下で子がその自由意思に基づいて当該監護下に
とどまっているか否かが判断され、合わせて、その
拘束の違法性が顕著であるか否か、その人身保護請求が
(他に方法がないという)補充性の要件を満たすか否か が判断されることになります。


 なお、人身保護事件は、地裁又は高裁のいずれにも請求できます
(人身保護法4条)
  請求は、弁護士を代理人としてしなければなりません
(同法3条)
  請求から1週間以内に審問期日が指定される等 迅速に進められる手続きを経て、
(明らかに理由がないときは、直ちに
   棄却決定がなされ、そうでなければ)
判決が、原則 審問終結の日から五日以内に言渡されます(人身保護規則36条)
  審問は公開の法廷で開かれ、請求者に代理人がいないときは、国選代理人 弁護士が出席します。
  請求に理由があるときは、判決により被拘束者は直ちに釈放され、
     理由がないときは、棄却判決と共に、拘束者に引き渡されます
(人身保護法16条)
  判決に不服がある場合は、3日以内に最高裁に上告しなければなりません
(人身保護法21条)
  手続きの為の勾引、勾留も行うことができ、被拘束者の救済を妨げると懲役の制裁も課され得る等厳格な定め
  があります。




 
人身保護法による引渡請求に関する判例がいくつかありますから ご紹介します。

 まず、上記の判例②の❶、❷は実は人身保護法による請求での拘束に関するものです。次に


. 最判昭43年7月4日です。この判決は、その要旨として、


一、 
意思能力のない幼児を監護することは監護方法の当不当または愛情に基づく監護であるかどうかとは
   かかわりなく、人身保護法および同規則にいう
拘束と解すべきである

  二、
 夫婦の一方が他方に対し、人身保護法に基づき、共同親権に服する幼児の引渡を請求した場合には、
   夫婦のいずれに監護させるのが
子の幸福に適するかを主眼として子に対する拘束状態の当不当を定め
   その請求の許否を決すべきである。」

と述べ、また、判文中では、拘束者が被拘束者を自己の許におくについては、著しく不穏当な手段を弄している
点等にも触れた上、
「 夫婦の一 方が
他方の意思に反し適法な手続によらないで、その共同親権に服する子を排他的に監護することは、
  それ自体適法な親権の行使といえないばかりでなく、
  その監護の下におかれるよりも、夫婦の他の一方に監護されることが
子の幸福を図ること明白であれば
  これをもつて、右幼児に対する拘束が権限なしになされていることが 顕著であるものというを妨げない 」
と説いて、監護の事実については、その端緒において上記のような
「いちぢるしく不穏当な手段を弄している点からすれば、上告人の被拘束者 に対する監護養育に適切を欠くおそれ
なしとせず、また上告人が被拘束者の監護養育を委ねたDは、拘束者である上告人の止宿先の住人にすぎない第三
者であるとい うのであつて、被拘束者が未だ二才に満たない幼女であることを併せ考慮するとき は、同女を上告人
のもとにおくよりも母である被上告人の膝下に監護せしめること が被拘束者の幸福を図るゆえんであること明白と
いわなければならない。」
と述べて、幼女に対する養育には、父親より母親の膝下が好ましい旨も表出しています。

そして、次に


2. 最判平5年10月19日は、原審が、被拘束者らの様な三、四歳の幼児は、母親がその監護・養育をする適格性、
育児能力等に著しく欠けるなど特段の事情がない限り、父親よりも母親 の下で監護・養育されるのが適切であり、
子の福祉に適うものとする前提に立った 上で、二子を連れての墓参の帰途、その侭 実家に居付いて子らと生活
するに至った上告人 父親の拘束には顕著な違法性があるとしたのに対し、

「 夫婦の一方が他方に対し人身保護法に基づき
共同親権に服する幼児の引渡しを請求する場合において
 
幼児に対する他方の配偶者の監護につき拘束の違法性が顕著であるというためには
  右監護が、一方の配偶者の監護に比べて、
子の幸福に反することが明白であることを要する

と判示し、その理由を、
「 夫婦 がその間の子である幼児に対して共同で親権を行使している場合には、
 夫婦の一方 による右幼児に対する監護は、
親権に基づくものとして、特段の事情がない限り、 適法というべき
であるから、
 右監護・拘束が人身保護規則四条にいう顕著な違法性 があるというためには、
 右監護が子の幸福に反することが明白であることを要する
ものといわなければならないからである。」

と説いて、
「 これを本件についてみるのに、原審の確定した事実関係によれば、
  被拘束者 らに対する愛情、監護意欲及び居住環境の点において被上告人と上告人らとの間に は大差がなく
  経済的な面では被上告人は自活能力が十分でなく、上告人らに比べて 幾分劣る、というのである。
 そうだとすると、前示したところに照らせば、本件に おいては、
  被拘束者らが上告人らの監護の下に置かれるよりも、被上告人に監護さ れることがその幸福に適することが
 明白であるということはできない。換言すれば、
  上告人らが被拘束者らを監護することがその幸福に反することが明白であるという ことはできないのである。

 結局、原審は、右に判示した点を十分に認識して検討することなく、単に
  被拘束者らのように三、四歳の幼児にとっては父親よりも母親の 下で監護・養育されるのが適切である
 ということから、本件拘束に顕著な違法性があるとしたものであって、
 右判断には人身保護法二条、人身保護規則四条の解釈適用を誤った違法があり、
 右違法が判決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。 」

として、原判決を破棄し、事件を原審裁判所に差し戻しました。

 以上共同親権の二つの事例を見ると

  
拘束者には元来監護の権限があるのだから
  その監護を解いて請求者の下に戻すためには、請求者の監護に軍配を上げるべき明白なポイントが必要である
 との基本的な枠組みがあります。

 そして、二つの事例では、
  当初 拘束と言われる監護への移行がどの様な態様で行われたのか、
  その際、どのような事態があったのか
 が、軍配を傾かせる重要な分岐点になっている様に思われます。

 1
では著しく不穏当な手段を弄した点が
 
「他方の意思に反し、適法な手続きによらないで」拘束したとされ、
 それが監護の適切を欠くおそれなしとせず と指摘されることに繋がり、
 実際の監護状況に、二歳に満たない幼女に対する母親の監護の優位性も勘案されて、
 結果 父親の監護自体が適法な親権の行使とは言えない とされました。

これに対し、

 2は、墓参の帰途、その侭 実家に居付いたという態様なので、の様に著しく不当と指摘される事態ではあ
 りません。その為、
 父親の現監護は、親権に基づくものとして、特段の事情がない限り、適法である とされました。その上で、
 監護の体制を比較検討するに当たっては、
 幼児に対する母親の監護の優位性を重視した原審判断を抑え
 
(判決では触れていませんが、原審の指摘によると、母親には飲酒癖があるが、養育に支障を来す程度には至っていないとされています)
 定職によるかなりの定収を得、親族による支援体制においても優位にある父親の監護の方を、子の幸福に適する
 こと 明白 と判断したのでした。

 そうすると、よくある、配偶者の勤務中に、留守を預かる他方配偶者が 子を連れて転居してしまった様な場合は
如何か、ということになります。表向き了解があっての子連れ外出が、その侭 転居となる場合とは、夫婦の同居・
協力義務に照らしても、かなり義務に違背する程度が高く、その監護には「拘束」として違法性があることを否定
できないと考えます。

 ですから、請求者側の職業的な生活力や養育体制が上回れば、
子を請求者の下に置く方が、子の幸福に適すると
判断される可能性が大であるとも考えますが、幼児に対する母親の監護の優位性も合わせ考えて、総合的に見て、
現監護が
子の幸福に適する或は現拘束が子の幸福に反する、との明白性を伴うか否か、が分かれ目となります。

現拘束が子の幸福に反することが明白であれば、拘束の違法性は
顕著であるとして、子を請求者に引き渡すことと
なります
(勿論、上記補充性も認められる必要がありますが)。その点が明白でなければ、請求は棄却されることになります。


3
. 
最判平6年11月8日は、

「 法律上
監護権を有しない者が幼児をその監護の下において拘束している場合に、
  監護権を有する者が人身保護法に基づいて幼児の引渡しを請求するときは、
  請求者による監護が親権等に基づくものとして特段の事情のない限り適法であるのに対し て、
  拘束者による監護は権限なしにされているものであるから、
 被拘束者を監護権者である請求者の監護の下に置くことが拘束者の監護の下に置くことに比べ
  子の幸福の観点から著しく不当なものでない限り、

  非監護権者による拘束は権限なしにされていることが顕著である
場合に該当(人身保護規則4条)し、
 監護権者の請求を認容すべきものとするのが相当である。」

と述べています。そして、上記②の❷の

4. 最判平30年3月15日は、国際結婚が破綻したことに伴い、子が国境を越えて不法に連れ去られた場合の、
 子を迅速に常居所地国に返還するための国際協力の枠組みを定めたハーグ条約に基づいて、子を返還すべき旨の
 終局判決が確定しているにも拘わらず、子を返還するための代替執行に際し子の面前で激しく抵抗する等して、
 監護を継続する親に関するもので、上記「自由意思」箇所で触れたように13歳になる当該子がその自由意思に基
 づいて現監護下にとどまっているとは言えない特段の事情があるから、「
拘束」に当たる旨を述べた後、

「 国境を越えて日本への連れ去りをされた子の釈放を求める人身保護請求において、ハーグ条約実施法に基づき、
 拘束者に対して当該子を常居所地国に返還することを命ずる旨の終局判決が確定しているにもかかわらず、
 拘束者がこれに従わないまま当該子を監護することにより拘束している場合には、
 その監護を解くことが著しく不当であると認められる特段の事情のない限り、

 拘束者による当該子に対する拘束に顕著な違法性がある
と言うべきである。」

と判示しています。

 4.は国境を跨ぐ事案ですが、国内のものでも、
 家裁の調停における当事者間の合意により子を預けられたのに、合意に反し、約束の日になっても子を戻さず、
  あまつさえ、無断で子の住民票まで移してしまった事案
(最判平6・7/8)や、
 同じく調停に基づく面会交流の機会に子を連れ去ってしまった事案(最判平11・4・26)等、
拘束の顕著な違法性が認定された判例があります。

 面会交流は、通常、親として当然の権利
 (子供にとっても重要であることが子供の権利条約に謳われています) ですから、
家裁の調停での合意も普通は整うはずですし、調停が不調となれば、審判によっても認められる筈です。しかし、
相手がそれにも応じてくれないときは
家裁から相手方に対し履行勧告をしてくれるよう申し立て、次いで、
(以下に述べる) 間接強制によって面会を追及し、それでも奏功を見ない場合、あくまで、子との直接の触合いを求め
、自ら監護する覚悟であれば、当初の「面会」を超えることになっても
夫婦共同親権の段階であれば その侭、
離婚後の段階であれば親権者変更を経て、子の引渡しを求める他ないのかとも思われます。具体的にはこちら
ご覧下さい。


 
 
なお、③で紹介した地裁に対する妨害排除請求やそれを本訴とする仮処分とは別に、家裁での手続きとして、
家裁に子の引渡調停の申立てをすることもできます。

 調停が不成立となった場合、民法766条
(離婚後の子の監護に関する事項)の類推適用から、家事事件手続法39条別表
第二の三
子の監護に関する処分による審判事項、或は、同法105条による審判前の保全処分として、
子の引渡しを求めることがきます。

 家裁では、家裁調査官による充実した調査が期待でき、又、手続きが迅速を期して行われるので、前述の地裁に
おける妨害排除請求やそれを本訴とする仮処分と比べ、手続きの利用優先度は高いと言われます。

 しかし、当該事件の経緯等に照らし、これら家裁や地裁での手続きでは、上記人身保護要件である「その方法に
よって相当の期間内に救済の目的が達せられないことが明白」
(「補充性」の要件)である場合には、前記の様な迅速方式
となっている人身保護法による救済の必要が生じます。

 そして、人身保護事件による厳格な手続きで釈放に至る場合は別として、以上、いずれによっても、判決や決定
で引渡しを命じられても相手方がこれに従わないときは、以前は、
 子の引渡しに関する法規がなかった為、直接 有形力を行使して子の身柄を取り戻すことはできないことから、

 間接強制
といって、従わない日数分支払金額が増える形で強制する他はないとされていました(→民執172条)

 その様な事態を改めるべく、令和元年の民事執行法改正が行われ、原則 間接強制を前置せねばなりませんが、
子の引渡執行の為の明文が置かれて、直接の執行が
(子に威力を用いることはできませんから)ほぼ可能となりました。


子の引渡執行
のための 民事執行法改正
 
令和元年5月10日 民事執行法を改正する法律(同年法律第2号)が成立しました(同月17日公布、令和2年4月1日施行 )
 この改正法では、合わせて、
  国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律
(ハーグ条約実施法)の一部も改正されました。

 この改正法により
強制執行に伴う財産開示制度の実効性向上債務者以外の第三者からの情報取得手続の新設
(→強制執行上の養育費費の特別な扱い)等が図られましたがこれらに合わせ国内の子の引渡しの強制執行についても、
 
執行裁判所が執行官に子の引渡しを実施させる方法が新設されました。

 子の引渡しの執行については

  旧行法上明文規定がなく
動産に関する規定を類推適用している状況であることから、
  裁判の実効性を確保しつつ、子の利益に配慮する等の観点から、規律を明確化する必要ありとして、
  国内の子の引渡し及び国際的な子の返還の強制執行に関する規律の明確化を図る改正が行われました。


子の引渡執行 の 要点
 
改正法による引渡執行の要点は、次のとおりです。

 子の引渡執行は、原則 間接強制によるが、それが奏功せず、所定期限を徒過したとき、或は、はじめから
           間接強制では子が引き渡される見込みがない
又は
              
子に危険が迫っていて直ちに執行しないと危険を防止できないときは、
  新設にかかる 子の引渡執行の申立てができる。

 子の引渡執行の為には債務者に審尋してその主張を聴くことを原則とするが、
           審尋によって子に危険が及んだり、
           引渡目的を達することができないときは、
  裁判所は審尋なしに引渡執行の決定をすることができる。

 子の引渡執行には、裁判所から執行官に対し
  子の監護を解くに必要な行為
 (私なりに「解監護」と言います) を命じる
  解監護命令を発する。

 執行官は、解監護行為として、
          債務者を説得するほか、
          債務者の占有する場所において、閉鎖を解くため必要な行為をすること、
          債務者の占有する場所に、立ち入り、子を捜索すること、
          債権者・その代理人を立ち入らせることができ、又、
          債務者の占有する場所において債権者を子、或は 債務者と面会させる
  ことができる。

 執行官は、債務者の占有する場所以外の場所でも、
      その場所の占有者の同意を得るか、
      子の住所が債務者の占有する場所以外にあるときに裁判所が与えた許可により、
  解監護に及ぶことができる。

 解監護はその場所に債権者が出頭しなければすることができないが

     裁判所が
子の利益の保護のため債権者の代わりにその代理人が出頭することを許可した場合は、
     代理人が出頭したときも解監護することができる。

 執行官は、原則 執行に際して抵抗を受けたときは、威力を用いることができる。
      但し、子に対して威力を用いることは許されない。
  子以外の者に対しても、
      子に有害な影響が及ぶおそれがあるときは、威力を用いることができない。

 執行裁判所と執行官は、子の引渡執行に当たっては、
  子の年齢・発達程度等を踏まえ、子の心身に有害な影響が及ばぬよう配慮しなければならない。

 そして、ハーグ条約の実施に伴う国際的な子の返還の強制執行についても、旧法が採っていた間接強制前置・債
務者同時存在の要件を不要とし、国内での上記引渡執行と同様の枠組みとしました。



以下に、参考に、改正条文と関連条文を、まず前提となる執行官の権限、代替執行、間接強制の各規定を掲載した
後、適宜、重要箇所の太さや色を変え、或は、引用条文に括弧書き、リンク下線を施す等して、記載します。


民事執行法の改正
(執行官等の職務の執行の確保)
第六条 執行官は、職務の執行に際し抵抗を受けるときは、その抵抗を排除するために、威力を用い、又は警察上
 の援助を求めることができる
。ただし、〔略〕
2 執行官以外の者で執行裁判所の命令により民事執行に関する職務を行うものは、職務の執行に際し抵抗を受け
 るときは、執行官に対し、援助を求めることができる。

代替執行
第百七十一条 次の各号に掲げる強制執行は、執行裁判所がそれぞれ当該各号に定める旨を命ずる方法により行う。

一 作為を目的とする債務についての強制執行 債務者の費用で第三者に当該作為をさせること。

二 不作為を目的とする債務についての強制執行 債務者の費用で、債務者がした行為の結果を除去し、又は将
来のため適当な処分をすべきこと。

2 前項の執行裁判所は、第三十三条第二項第一号又は第六号に掲げる債務名義の区分に応じ、それぞれ当該各号
に定める裁判所とする。
3 執行裁判所は、第一項の規定による決定をする場合には、債務者を審尋しなければならない。
4 執行裁判所は、第一項の規定による決定をする場合には、申立てにより、債務者に対し、その決定に掲げる行
為をするために必要な費用をあらかじめ債権者に支払うべき旨を命ずることができる。
5 第一項の強制執行の申立て又は前項の申立てについての裁判に対しては、執行抗告をすることができる。
6 第六条第二項の規定は、第一項の規定による決定を執行する場合について準用する。


第百七十二条 作為又は不作為を目的とする債務で前条第一項の強制執行ができないものについての強制執行は、
執行裁判所が、債務者に対し、遅延の期間に応じ、又は相当と認める一定の期間内に履行しないときは直ちに、
債務の履行を確保するために相当と認める一定の額の金銭を債権者に支払うべき旨を命ずる方法により行う。

2 事情の変更があつたときは、執行裁判所は、申立てにより、前項の規定による決定を変更することができる。
3 執行裁判所は、前二項の規定による決定をする場合には、申立ての相手方を審尋しなければならない。
4 第一項の規定により命じられた金銭の支払があつた場合において、債務不履行により生じた損害の額が支払額
 を超えるときは、債権者は、その超える額について損害賠償の請求をすることを妨げられない。
5 第一項の強制執行の申立て又は第二項の申立てについての裁判に対しては、執行抗告をすることができる。

6 前条第二項の規定は、第一項の執行裁判所について準用する。


(子の引渡しの強制執行)
第百七十四条 子の引渡しの強制執行は、次の各号に掲げる方法のいずれかにより行う。
 一 執行裁判所が決定により執行官に子の引渡しを実施させる方法  
 二 第百七十二条第一項(間接強制)規定する方法 
2 前項第一号に掲げる方法による強制執行の申立ては、
次の各号のいずれかに該当するときでなければすることが
 できない。

  一 
第百七十二条第一項の規定 (間接強制)による決定が確定した日から二週間を経過したとき(当該決定において
   定められた債務を履行すべき一定の期間の経過がこれより後である場合にあつては、その期間を経過したとき)

 
 前項第二号に掲げる方法による強制執行を実施しても、債務者が子の監護を解く見込みがあるとは 認められ
  ないとき。

  三 
子の急迫の危険を防止するため直ちに強制執行をする必要があるとき。  
3 執行裁判所は、第一項第一号の規定による決定をする場合には、
債務者を審尋しなければならない。 ただし、
 子に急迫した危険があるときその他の審尋をすることにより強制執行の目的を達することがで きない事情がある
 ときは、この限りでない。
  
4 執行裁判所は、第一項第一号の規定による決定において、執行官に対し、
債務者による子の監護を解 くために
 必要な行為をすべきことを命じ
なければならない。  
 第百七十一条第二項
(代替執行の執行裁判所)の規定は第一項第一号の執行裁判所について、同条第四項(代替執行
 の費用前払決定)
の規定は同号の規定による決定をする場合について、それぞれ準用する。
6 第二項の強制執行の申立て又は前項において準用する第百七十一条第四項
(代替執行の費用前払決定)の申立てについ
 ての裁判に対しては、執行抗告(民事執行法10条)をすることができる。 

(執行官の権限等) 
第百七十五条 執行官は、債務者による子の監護を解くために必要な行為として、債務者に対し説得を行うほか、
 債務者の住居その他
債務者の占有する場所において、次に掲げる行為をすることができる。 
  一 そ
の場所に立ち入り、子を捜索すること。この場合において、必要があるときは、閉鎖した戸を開 くため必
  要な処分をすること
 
 二 債権者若しくはその代理人と子を面会させ、又は債権者若しくはその代理人と債務者を面会させる こと。 
 三 その場所に債権者又はその代理人を立ち入らせること。 
2 執行官は、子の心身に及ぼす影響、当該場所及びその周囲の状況その他の事情を考慮して相当と認めるときは、
 
前項に規定する場所以外の場所においても、債務者による子の監護を解くために必要な行為として、当該場所
 の占有者の同意を得て又は次項の規定による許可を受けて、前項各号に掲げる行為をすることができる。
  
3 執行裁判所は、子の住居が第一項に規定する場所以外の場所である場合において、債務者と当該場所 の占有者と
 の関係、当該占有者の私生活又は業務に与える影響その他の事情を考慮して相当と認めると きは、債権者の申立
 てにより、当該占有者の同意に代わる許可をすることができる。  
4 執行官は、前項の規定による許可を受けて第一項各号に掲げる行為をするときは、職務の執行に当た り、当該
 許可を受けたことを証する文書を提示しなければならない。  
5 第一項又は第二項の規定による債務者による子の監護を解くために必要な行為は、
債権者が第一項又は第二項に
 規定する場所に出頭した場合に限り
、することができる。  
6 執行裁判所は、債権者が第一項又は第二項に規定する場所に出頭することができない場合であっても 、その代
 理人が債権者に代わつて当該場所に出頭することが、当該代理人と子との関係、当該代理人の知識及び経験その
 他の事情に照らして子の利益の保護のために相当と認めるときは、前項の規定にかか わらず、債権者の申立てに
 より、当該
代理人が当該場所に出頭した場合においても、第一項又は第二項 の規定による債務者による子の監護
 を解くために必要な行為をすることができる旨の決定をすることが できる。
  
7 執行裁判所は、いつでも前項の決定を取り消すことができる。  
8 執行官は、第六条第一項
(抵抗を受けた際の威力の行使、警察への援助要請)の規定にかかわらず、子に対して威力を用いる
 ことはできない
。子以外の者に対して威力を用いることが子の心身に有害な影響を及ぼすおそれがある場合にお
 いては、当該子以外の者についても、同様とする。  
9 執行官は、第一項又は第二項の規定による債務者による子の監護を解くために必要な行為をするに際 し、債権
 者又はその代理人に対し、必要な指示をすることができる。  

(執行裁判所及び執行官の責務) 
第百七十六条 執行裁判所及び執行官は、第百七十四条第一項第一号に掲げる方法による子の引渡しの強制執行の
 手続において子の引渡しを実現するに当たつては、子の年齢及び発達の程度その他の事情を踏まえ、できる限り、
 当該強制執行が
子の心身に有害な影響を及ぼさないように配慮しなければならない。



国際的
な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律
 (ハーグ条約実施法) の改正
 -
子の返還執行
ハーグ条約の実施に伴う国際的な子の返還の強制執行についても、改正前の条約実施に関する法律が採っていた
間接強制前置・債務者同時存在の要件を不要とし、下記のように国内での上記引渡執行と同様の枠組みとしました。
ですので、返還の枠組みについては引渡執行の要点をご覧下さい。


(子の返還の強制執行)
第百三十四条 子の返還の強制執行は、民事執行法第百七十一条第一項
(代替執行)の規定により執行裁判所が第三者に子の返還を
実施させる決定をする方法により行うほか、同法第百七十二条第一項
(間接強制)に規定する方法により行う。

2 前項の強制執行は、確定した子の返還を命ずる終局決定(確定した子の返還を命ずる終局決定と同一の効力を有するものを含む。)の正本
に基づいて実施する。


(子の年齢による子の返還の強制執行の制限)
 第百三十五条 子が十六歳に達した場合には、民事執行法第百七十一条第一項(代替執行)の規定による子の返還の強制執行同項
 規定による決定に基づく子の返還の実施を含む。以下「子の返還の代替執行」という。)
は、することができない。

2 民事執行法第百七十二条第一項(代替執行)に規定する方法による子の返還の強制執行の手続において、執行裁判所は、子が十六
歳に達した日の翌日以降に子を返還しないことを理由として、
同項の規定
による金銭の支払を命じてはならない。

(子の返還の代替執行と間接強制との関係)
 第百三十六条 子の返還の代替執行の申立ては、次の各号のいずれかに該当するときでなければすることができない。
 一 民事執行法第百七十二条第一項
(代替執行)の規定による決定が確定した日から二週間を経過したとき(当該決定において定めら
  れた債務を 履行すべき一定の期間の経過がこれより後である場合にあっては 、その期間を経過したとき)。 
 二 民事執行法第百七十二条第一項
(代替執行)に規定する方法による強制執行を実施しても、債務者が常居所地国に子を返還する見
  込みがある とは認められないとき。
 三 子の急迫の危険を防止するため直ちに子の返還の代替執行をする必要があるとき。

(子の返還の代替執行の申立て)
 第百三十七条 子の返還の代替執行の申立ては、債務者に代わって常居所地国に子を返還する者
(以下「返還実施者」という。)となる
 べき者を特定してしなければならない。

(子の返還を実施させる決定)
 第百三十八条 第百三十四条第一項の決定は、債務者による子の監護を解くために必要な行為をする者として執行官を指定し、
 かつ、返還実施者を指定してしなければならない。
2執行裁判所は、民事執行法第百七十一条第三項
(債務者審尋)の規定にかかわらず、子に急迫した危険があるときその他の審尋をする
 ことにより強制執行の目的を達することができない事情があるときは、債務者を 審尋しないで第百三十四条第一項の決定をする
 ことができる。

(執行官の権限等)


第百四十条 民事執行法第百七十五条(第八項を除く。)(執行官の権限等)の規定は子の返還の代替執行における執行官の権限及び当該
 権限の行使に係る執行裁判所の裁判について、同法第百七十六条
(執行裁判所及び執行官の責務:子の心身への影響に対する配慮)の規定
 は子の返還の代替執行の手続について、それぞれ準用する。
(略)
2 執行官は、前項において準用する民事執行法第百七十五条第一項又は第二項
(解監護)の規定による子の監護を解くために必要な行
 為をするに際し抵抗を受けるときは、その抵抗を排除するために、威力を用い、又は警察上の援助を求めることができる。

3 
執行官は、前項の規定にかかわらず、子に対して威力を用いることはできない。子以外の者に対して威力を用いることが子の
 心身に有害な影響を及ぼすおそれがある場合においては、当該子以外の者についても、同様とする。


(返還実施者の権限等)
第百四十一条 返還実施者は、常居所地国に子を返還するために、子の監護その他の必要な行為をすることができる。 
2 子の返還の代替執行の手続については、民事執行法第百七十一条第六項
(執行官以外の者による執行の際、抵抗ある時の執行官への援助要請)
 の規定は、適用しない。
3 前条第一項において準用する民事執行法第百七十六条
(執行裁判所及び執行官の責務:子の心身への影響に対する配慮)の規定は、返還実施者
 について準用する。





養 子 
 親子関係は、前述した様に、出産
(或は、その事実に基づく推定)によって発生しますが、養子縁組によっても生じます。
 実の親子が自然的親子関係とすれば、養親子は、人為的・法的親子関係と言えます。

 養子縁組は、当事者間にこの法的な親子関係を築くという
縁組意思の合致と縁組届けとによって成立します
 
( 但し、後記の「縁組障碍」のないことが要件となります ) 

 そして、縁組により
      養子と養親との間には、
嫡出親子関係が発生する(809条)と共に
      養親及びその血族との間に血族間におけるのと同じ
親族関係が生じます(民法727条)

 また、養子は、養親の氏を称して
(810条)
        未成年であれば
養親の親権に服します(818条Ⅱ)

 但し
養子となる者の実親との親子関係には影響がないので
      
実二つの親子関係が併存することになりますが、
     実親の親権は縁組成立により失われ、その者と養子となる子との
     親子同氏も解消します。

   この実親子関係の併存を敢えて断ち切る養子制度が昭和62年に設けられた
特別養子制度です。
ですので、
 養
実 両 親子関係の併存する従来からの養子を、普通養子と言います。
  普通養子は、養親となる者より年長・尊属でなければ成年者をも養子とすることができますし、
  成年養子で
われるのが子ではなく、(養)親でもよいという具合に、
  縁組目的にも特別な制限がなく、前述の
 法的な親子関係を築く意思があれば、節税目的等 他のどんな思惑が働いていてもその門は開かれています。

 しかし、普通養子のうち未成年養子については、
         夫婦共同養親でなければならず、また、
         裁判所の許可も必要とされる等、
       子の監護養育のため必要な規制が加わる仕組みとなっているところを、
     特別養子については、さらに子の年齢や親の年齢、実親の同意や特別な保護要件等を厳格に定めて、
        より子の養護・養育に重きを置いた制度となっています。

 養子の
相続関係についてはこちらをご覧下さい。


縁組
届け

 
縁組届けは、当事者である養親と養子が、民法799条によって準用される婚姻届の規定(§739)に則って、
  成人二人と、合わせて計四名の署名・押印する書面でします

  
( 口頭で届けてもよい (§739Ⅱ、戸籍法37条 ) のですが、その場合 四名全員で役所に出向く等、時間と面倒がかかります ) 


 15歳未満の子が養子に入る場合は、子の親が法定代理人として代わりに縁組を承諾して届けます
(§797)
 
代諾養子と言います。その場合、両親が、証人2名の協力を得て、養親となるべき人と共に届けます。

 その侭 簡単に受付けられて届けが終わる訳ではなく、
  下記各縁組障碍事由等についての審査にパスして初めて「受理」となります。つまり、その
   「障碍」があるためそもそも縁組できない場合や、
   「障碍」をパスするのに必要な「許可」、「同意」等を証する書類が必要な場合
  等があるのです。ことに、
   未成年養子縁組 等については、家裁の許可を得た上での届けとなりますから、手間と時間を要します。
 
 この戸籍係での審査に係のミスがあっても、ひと度「受理」があると、一応有効となり、
 縁組障碍を理由として縁組を取消すためには、家裁に縁組取消請求をしなければなりませんから、厄介です。
 
なので、縁組届けをしたい場合は、必ず 予め戸籍係に相談する等して、慎重に臨まれることをお勧めします。



なお、
他人の子を嫡出子として届出しても、その出生届をもって養子縁組届とみなすことはできないとする
判例
 ( 最判昭25・12・28) があります。
 この判決は、
「養子縁組は
 本件嫡出子出生届出当時 施行の民法第847条第775条
(現行民法第799条第739条及び戸籍法にしたがい、その所定
 の届出により法律上効力を有するいわゆる
  要式行為であり、かつ右は
  強行法規
 と解すべきであるから、その所定条件を具備しない本件 嫡出子の出生届をもつて所論
 養子縁組の届出のあつたものとなすこと はできないのである。 
 ( 殊に本件に 養子縁組がなされるがためには、
  上告人は一旦その実父母の双方又は一方において 認知した上でなければならないものである )
 
 と判示しています。


     さきに739799れと

        養子
とし、親子となるには、

  
 証人二人頼んで、(署)()

    書面
口頭難避(ため)739

           (養子)
縁組け えたなら

       愛育専心 
799



  養子はまる
809けのから

      
養親さん 嫡出子
  


       縁組成ればそのから
                                
、     なにせ
727 (養親その血族)            
                                養子 はまる
809 嫡子となれば
          
つづきの 親族されるなり。      なにせ
727 (養親その血族)つづきの 親族されるなり


養子の氏
 養子は、養親の氏を称します(民法810条養子は、養親の氏を称する。」)〔称 養氏 原則〕
 しかし、民法は 夫婦同氏原則
(750条夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。」)も設けています。

それで、夫婦の一方が養子となり、他方は養子縁組しない場合は、夫婦の氏はどうなるのでしょうか。
そのような場合を想定して、民法810条但書きは、
 「
ただし、婚姻によって氏を改めた者については、婚姻の際に定めた氏を称すべき間は、この限りでない。
とします。つまり、

夫婦が揃って養子となる場合 は、

 称養氏原則 通り
夫婦共 養氏 (養親の氏)を称することで夫婦同氏の侭 となりますが
 養子夫婦は 養氏の新戸籍を構えます 。
  戸籍は、夫婦とその間の
未婚の子 で編製されるので、養親の戸籍には入りません

他方、
夫婦の一方が養子となる場合 で、

  婚姻に際し 氏を改めた者が、単独で養子となるときは、例外的に婚氏の侭 で良いとされ、
  これにより、夫婦共 婚氏で、夫婦同氏原則(750条)が守られます( 
婚氏優先 )。 
  
養子となる者の戸籍はその侭で、ただ、養子となった旨の記載がされます。

810条
の例外が認められるのは、その場合だけなので、

  
婚姻時 氏を改めなかった者が養子となる場合は、称養氏原則 通り
  養子は
養氏を称し(§810)
  それに伴い配偶者も 養氏を名乗り、夫婦共 養氏 で、夫婦同氏原則
(§750)も貫かれ、両則が守られます。
   養子は 夫婦で養氏の新戸籍を構えます 。
   戸籍は、夫婦とその間の
未婚の子で編製されるので、養親の戸籍には入りません


 なお、上記の例外が認められる場合で、その後、
婚姻の際氏を改めたその者が離婚をすると
養子は離婚復氏
767Ⅰ婚姻によって氏を改めた夫又は妻は、協議上の離婚によって婚姻前の氏に復する。)をしますが、
直ちに 称養氏原則によって、養氏を名乗り
養親の戸籍に入ります。又、養氏で新戸籍を作ることもできます 


 ③ 婚養 選択称氏 原則(私見)
 こうして見ると、②の称養氏は、私にはかなり違和感があります。
 私は、夫婦同氏原則は、融合創一による守操一体の具現化であり、未婚の子がこれに加わって、家族生活の根本
単位が成立すると考えます。

 ですから、成人し、婚姻した後の子は、この根本単位を離脱した身であるので、その後においては、すべからく、
婚姻相手との夫婦同氏を貫いて当然なのです。これを②の様に、筆頭者であるから当然に養氏を名乗らねばならず、
配偶者は否応なくそれに従うとするのは、いかにも個人の尊厳を「家名」に屈従させる感があって、旧来の「家」
思考 然としており、受け容れがたいものがあります。21世紀も20年を超えた現在ですから、この場合、 養氏は、
夫婦同氏原則を前に 席を譲ると考えるべきです。

 しかし、成人し、夫婦者となっていながら、単身養氏となるというからには、それなりの事情があると思います。
配偶者の意向も汲むべきが当然ですから、この様な場合、原則は、婚氏の侭 夫婦同氏とし、例外的に、当事者が望
めば、夫婦養氏も可能としては どうかと思います。そして、この選択の自由の途を設けるのならば、他の場合も同
様として、.も .も、すべて平等に扱うべきだと考えます。従って、称養氏原則が全妥当するのは、実親との
縁が切れる特別養子
(§817の2)の場合を含め、未成年養子の場合だけとなります。


      養子 はまる809嫡子であれば
             養氏
して
養籍
810    

   
但し 改姓  (夫婦)婚姓810
 
      
てたその
(その後単独で) 養縁 らば

             
婚氏優先養籍らず(婚氏優先の原則)



     婚
 自氏婚氏とし

       その
(単独)となる(養氏称して)

        
(配偶者)まる750養方姓夫婦同氏の原則


        (子の)運は818Ⅱ養親さんの親権

          
して、それで
破綻818Ⅱない。



養子縁組要件
 
 養子は、どのような要件の下で縁組できるかについて、民法792条から798条が養子縁組要件を定めています。
 列挙すると、
未成年養親禁止(§792)尊・長 養子禁止§793後見 養親禁止(要許可、§794
       未成年養子の夫婦共同養親
(§795)要許可798)原則
       成年養子配偶者要同意原則
(§796)
       15未満児養子の 代諾 可
(§797)
となります
(→未成年養子)
 これらの要件を備えない縁組は、縁組届けの段階で受理を拒まれる(§800)ので、縁組障碍と呼ばれます。
 誤って受理された場合は、
   未成年養子につき、
    子が15歳未満であるのに親の代諾を欠く場合と
    夫婦共同縁組でなければならないのに、一方だけとの縁組の場合は、
   いずれも
縁組無効ですが、
 その他は、取消請求によって
縁組取消しの対象となります。

 縁組取消しには、この縁組障碍によるものの他に、
詐欺・強迫によるものもあります(民法808条747条)
 縁組取消対象となる縁組の内、尊
()()長養子禁止違反以外のものは、
  例えば、届けの時未成年であった養親が成人し、或いは、
      被後見人であった養子について後見が終了し、それに伴う後見の管理計算も終わった等
   の後は、取消期間である6か月の経過か、それまでの追認によって、
   縁組取消請求権が消滅します。


縁組障碍・縁組取消しについては、こちらをご覧下さい。
なお、平成30年の民法改正により
(令和4年4月1日から)成年年齢が18歳に引き下げられますが、
養親の責任の重さに照らし、養親 最若 20歳とする点は維持されることになりました。


    養子地球792えれば

     太陽
たるべき
養親聖人なるべし成人たるべし



    性急792未成年者養子とる

      違法
バレ804縁組取消請求できる

     成人後六月むつき経過追認取消請求できぬ



   あにあねダメだが年下としした弟妹ていまい 養子にとれる

    おじ
 おば 
(たとえ)年下にても目上めうえゆえ養子はならぬ

     
このせこさ793 (縁組)禁止  
 


    尊長
禁止
せこさ793をば 

       尊重
しないれい()
805

     
各当事者親族
(家裁に)取消請求できる也



   後見人膝下不祥事なくす794ため

      
(家裁の) 許可 らねば被後者とは、

          縁組
することできぬ


  後見人

        被後者膝下不祥事

    なくす
794 (ための) 許可をば

    
養親マントをはおろう806とした縁組

        
取消(請求)できる   被後者=被後見人




    後見人後見
870(後見) 計算わらぬ 

         
被後者との縁組するに許可 



    
但し 後見人後見870(後見) 計算えての

   
本人成人
(能力) 回復追認又は  (回復後)つき経過となれば

   (成人又は回復後計算終えれば追認又は計算後六月の経過で)

               
すことはできぬ


§794は後見人が被後見人を養子とする縁組に、§870は後見終了の計算に関する規定


未成年者を養子とする縁組
 子は、通常、両親の共同親権の下に養育されます(民法818条3項)。ですから、未成年者が養子となるについては、
父母になぞらえた夫婦養親の下で普通の家庭生活を送ることができるようにとの制度設計から、
民法795条は、
配偶者のある者が未成年者を養子とするには、
  配偶者とともにしなければならない。ただし、配偶者の嫡出である子を養子とする場合又は
  配偶者がその意思を表示することができない場合は、この限りでない。

と定めて、原則、夫婦が共同養親とならなければならないこととしました〔
未成年養子夫婦共同縁組〕。

 夫婦の片方が縁組意思を欠いていた、片方だけの縁組届けだった、場合は、いずれも縁組無効となります。
                                        
こちらもご覧下さい
 また、未成年者を養子とするについては、自己又は配偶者の直系卑属を養子とする場合を除き、
 縁組における養子の福祉という観点からの審査を経て、家庭裁判所の
許可も得なければなりません(民法798条)

 養子縁組のような人の身分に関する行為は、財産行為に関する (弁識能力の有無・程度を基準とする) 後見・保佐
・補助
等の、行為能力による制約を受けることがありません。
 したがって、身分行為のための能力という点においては、行為するその時に本人に意思能力があり、また、
その行為相応の心身の成熟と理解力・判断力があれば、法律行為として当該身分行為は成立します。

 他人の養子となるについても親の同意等は要りません。
 縁組で養子となる未成年者自身は、意思能力を有する限り、自己の内面世界を意識できる青年前期を経て、
15歳になれば縁組能力有りとされます(→身分行為能力)
 縁組は、実親の親権が失われ、養親の親権下に入るという重大な効果を生みます
(民法818条2項)から、通常、
学齢になれば有するとされる意思能力の程度では足りず、そのような結果に対する認識も可能な年齢になっている
ことが必要とされ、また、798条による家裁の許可を要するとされる訳です。

 未成年養子縁組の成立には、家裁の
(養子の福祉の観点からする)許可を要しますから、子自身については、縁組の当否
ではなく、縁組の意思や希望があれば、それを受け止めてあげることが必要なのです。因みに、人が遺言をするこ
とができる年齢も15歳からです
 (こちらをご覧下さい) 

又、成年被後見人の縁組については
799条による被後見人の婚姻に関する738条の準用で後見人の同意を要し
ない旨が定められています。

 養子となる者が縁組能力のない
15歳未満である場合は、法定代理人が代わって縁組の承諾 (代諾と言い
ます)
 をすることにより養子〔代諾養子〕となることができます(民法797条)
 法定代理人の代諾がない縁組は、結局縁組する意思表示がないことになりますから、縁組無効となります。

 養子となる者について、父母の何れかに親権がなく、監護権はあるという場合は、親権者の承諾の他に、その監
護権者の同意も得なければならず
(797条2項)、同意を得ていなかった場合は縁組取消しの対象となります(806条の3)
親権が停止されている親がいる場合も、同様に停止中の親の同意が必要とされます
(民法797条2項後段)
両親の親権が停止中で、未成年後見人が法定代理人として代諾するについても、両親の同意が必要となります。

取消請求についてこちらもご覧下さい。




    夫婦者

      
未成
()(を) 養子とするときは

       
795救護きゅうご795 難事なんじ ゆえ

            
夫婦 共同 縁組 
    単独
(縁組)は、パワー802に欠ける 無効

    
但し例外嫡出連  ()表示不可





     他人ひと

     
養子となるとて くな
797

     十五
() になれば自由
             
  
(但し、家裁の許可要す。§798)

     十五未満
 (法定代理人)  代諾

              
代諾なくば無効 



    
離婚して監護 とか

         
親権停止 とか (別に)いるならば

           
その同意をもねばない


     代諾
 

            
監護とか 親権停止

        同意
なく
797された縁組

          
その縁組取消請求やれるのさ
8063



    但しその追認したり
  
             (
養子)本人十五 ()となって

        
六月むつきつか追認すればせぬ

    


    未成()

       
養子とするには福祉

        
家裁
許可

     許可
なくば
798 

            
未成
()者養子 はできぬ




     
未成者養子 

          
(家裁)許可なくば798 

        
 福祉害する
れぬ807 

             (
養子が)自己(偶者)直系卑属以外

                    
され 
    
       (家裁)許可なくば798 

         
(
養子)本人(実方)親族代諾者

                  
取消請求できる
 
       但し 養子成人
           
(して)六月むつきつか

                   
  追認あればせぬ



      

    (養子)縁組親子になる傍目 (はため)には

    (能力の)738あるとも (意思を持ち)

      判断できれば()ができ

              799せて 良縁    

 
§
738は成年被後見人の婚姻に関する規定 §799は縁組に婚姻規定(§738739)を準用する旨の規定



成年養子 要(配偶者)同意原則(796条)
 配偶者ある者が、成年者を養子とするとき、或は、自らが養子となるときは、配偶者の同意を得なければなりま
せん
(民法796条)。これは、つまり、配偶者については(行動を同じくせずとも良いので) 少なくも同意は得るように との定
めですから、逆に言うと、夫婦の内 一方だけが縁組をして、養親 或は 養子となることができる旨の定めです。
                                         
(夫婦者単独縁組権)
 条文上は、
配偶者のある者が縁組をするには、その配偶者の同意を得なければならない。
ただし、配偶者とともに縁組をする場合又は配偶者がその意思を表示することができない場合はこの限りでない。
とあって、「成年者と」
(縁組するには)とはありませんが、未成年養子夫婦共同縁組原則795)により配偶者ある者が
未成年者と縁組するときは、夫婦共同で縁組しなければなりませんから、ここは、配偶者ある者がその他の縁組を
するときということで、配偶者のある者が成年者を養子とする場合、或は 配偶者ある者が養子となる場合のことと
なります。
 その場合の、養親 或は 養子となる者の配偶者の立場
(家族生活、扶養・相続関係等で少なからぬ影響を受けます)を慮って
要同意とするのが、796条の法意で、同意がないと、その縁組は取り消され得るとするのが806条の2です。

 配偶者の同意が詐欺・強迫による縁組も、同意のない縁組同様、取り消すことができます
806の2Ⅱ)が、
同意を欠く配偶者については縁組を知った時から、詐欺・強迫による縁組については詐欺が分かり、或いは強迫を
免れてから、いずれも6か月が経過するか、それまでに追認があれば、取消権が消滅します
806の2Ⅰ・Ⅱ但書)

こちらもご覧下さい。

  

    夫婦者 養子縁組する

    やれるのに
806の2やらざる無精
  
           
連合つれあ

        
同意なくも796ネグったら

           その縁組はされ

          (
夫婦共同縁組か他方が表示不可ならば別)




      騙
されて、又、されてした
(縁組の)同意

  
      
詐欺強迫れて

           
六月むつき

    
ナシ
747(取消し)めてやまるのに806の2Ⅱ

      (詐欺判り
強迫逃れて)六月むつきつか

           
追認取消請求できぬ


§747は詐欺強迫による縁組の取消しに関する規定



縁組障碍
縁組取消し

 
養子縁組にも、婚姻「障碍」同様に、縁組「障碍」があります。
縁組要件を満たさない縁組は、戸籍届けの受理を拒まれ(
§800)、或は、誤って受理されても後日取り消され得ます。

障碍事由を列挙すると
未成(年)養親禁止792、§804) ()
            尊・長養子
禁止§793、§805()
              未成年養子夫婦共同縁組795、§802)()(裁判所)許可798§807)原則()
           
成年養子(配偶者)同意原則796§8062 )(→)
            後見養子禁止(要許可、§794、§806 )(→)
              15(歳)未満児養子代諾 可(§797、§806の3)() 
となります。要するに、

 縁組届け受理の要件 §
800
  戸籍係縁組
くに792 (から) 799 八箇条はま800縁組届
 
  嵌まらぬ 受理ならぬ
     (792~798が上記各禁止・原則規定、799は婚姻規定738(成年被後見人)・739(婚姻届)準用の定め)

 縁組の取消原因 §803

  
 ならぬけも一度ひとたび受理で、一応有効れども
   (取消しの訴え) やれそう803、 やれよ804(から、805806806の2806の3807808)やれや808() 七箇条(に)
    
められたる取消しの原因 あれば(家裁に) えて縁組取消できる也。

  因みに、803条の条文は、次のとおりです。
  「
縁組は、次条から第八百八条までの規定によらなければ、取り消すことができない。
   804~806806の2の3807が、上記各障碍による縁組取消しの規定で、

   808婚姻の747(詐欺強迫による取消し、但 取消期間 6か月となる)748(婚姻取消の効力)を 縁組に
         
769(祭祀承継)816(離縁復氏)を 縁組取消しに、各準用する旨の定めです。

を具体的に説明することになります。

 重複になりますが、まとめて 以下に述べてみたいと思います。そして、
この縁組の障害事由があると縁組取消請求が待つことになります
が、縁組取消しには、障碍事由による場合に加え、
 ( 婚姻取消しにおけると同様に) 詐欺・強迫を理由とする場合も加わります(民法808条による747条の準用)

  
但し、未成年養子について、夫婦共同縁組に反した縁組、15歳未満児について代諾がなかった養子縁組は、
  いずれも備わるべき縁組意思が初めからないものとして、
縁組無効であって、取消しの対象ではありません

 取消請求は、尊属・年長 養子以外の障碍事由について、例えば未成年養親については、養親が成年に達してから
(§804)
後見養親については、被後見人が成年に達し、或は 行為能力を回復し、後見終了の管理計算が終わってから
806
) (先に計算が終わったときは、成年後 或は 回復後) 6か月が経過すると時効によって又はそれ迄に追認があると、
取消請求権が消滅して請求できなくなります。
 取消期間は、婚姻取消しでは3か月であったのが、こちら縁組取消しは6か月と倍になります(§808Ⅰ)。

家裁での縁組取消しの手続きは、婚姻取消しと同様ですが、こちらもご覧下さい。


 
民法は「成年に達した者は、養子をすることができる(民法792条)とするので、その反対解釈で未成年者は養親
となることができません。未成養親禁止の原則ですが、成人年齢改正の関係から、ここでの「成年に達した者」
が、令和4年4月から「二十歳に達した者」となるので、養親となり得る年齢に実質 変更がありません。

 未成年者が養親となる届出は、受理を拒まれて縁組できず、誤って受理されても、養親又はその親族から取消し
の請求をされ得ることになります
(804条)(条句)

 但し、受理されてしまった場合、養親が成年に達した後、6か月を経過するか、又は追認したときは、取り消し得
なくなります(804条但書)

(子の)運は818養親さんの親権して、それで破綻818ない。ということで、養子に対して監護・教育等重大な責任を
伴う親権者となる 
( 他方、実親の親権は失われることになる )訳ですから、養親となるためには成年者であることが必須
条件となります。

 未成年者が婚姻したときも、「これによって成年に達したものとみなす。」
(753条)法効果によって、養子をとる
ことができます(令和4年4月から成人・婚姻年齢の改正により、「成年擬制」がなくなり、従って、擬制による縁組可能もなくなります)


 
平成30年の民法改正により成年年齢は18歳に引き下げられましたが、養親資格は「20歳」とされて、実質的年
齢制限は維持されることになりました。従って、上記条句にある「未成年者」とあるのは「20歳(はたち)未満者」
と読み替えて頂かなければなりません。また、成年年齢と共に婚姻年齢も、成年と同じ18歳となりましたから、
未成年者の婚姻という事態は消滅することとなり、ひいて、民法753条による成年擬制も条文が削除されます。な
ので、スッキリと
成人・結婚は一律18歳。しかし、養親は20歳 から(養親(資格)20歳(以上)原則)となります。
この成年・婚姻の年齢に関する改正法の施行日は令和4年
(2022年)4月1日です。こちらをご覧下さい。

 しかし、養子となるべき者は、未成年者であるべきという限定はないので、成年者が養子となる場合は、養「
であるに相応しい者であるための制限を受けることになります。つまり、

 尊属又は年長者を養子とすることはできない
(793条)との定め(尊・長養子禁止の原則)によって、これに違反す
る戸籍届けも受理を拒まれ、又、各当事者又はその親族から縁組の取消しを請求され得ることになります。
                                                     (800条805条)
「親」にとって、子たる者に尊属・年長の属性が伴うことはあり得ないからです。この取消請求権は、公の秩序に
関係することから、消滅時効にかからないとされています。
但し、提起された取消請求訴訟は、この取消請求権が一身専属であるが故に、原告である養親が死亡したときは、
当然に終了するとする判例
(最判昭51・7・27)あります。(条句)

 
次には、配偶者のある者が未成年者を養子にとる場合、上記の様に親権行使の夫婦共同(818条3項)を守るため、
縁組も夫婦共同でしなければなりません
(795条)(夫婦 共同縁組 原則)。(条句)

 これに違反した縁組は、その戸籍届けの受理を拒否されます。そして、にも拘わらず誤って受理された場合、
上記未成養親・尊・長禁止の場合の様に取消しできる旨の規定がありませんが、それは事柄が、一旦有効扱いされ
ても取消し可能という、瑕疵視 可能なものでなく、初めから無効とすべきものだからです。

原則 無効ですが、但し、

単独の親子関係を成立させることが、「他方の配偶者の意思に反せず、その利益を害するものでなく、
養親の家庭の平和を乱さず、養子の福祉をも害する恐れがないなど」の
特段の事情の認められるときは、
縁組意思を有する方と養子との間の縁組は有効と認めてよい旨を判示した判例
(最判昭48・4・12)があります。

 この判決は、
夫婦が共同して養子縁組をするものとして届出がされたところその一方に縁組をする意思がなかつた場合
には、原則として、縁組の意思のある他方の配偶者についても縁組は無効であるが、その他方と縁組の相手方との
間に
単独でも親子関係を成立させることが民法七九五条本文の趣旨にもとるものではないと認められる特段の事情
がある場合には、縁組の意思を欠く当事者の縁組のみを無効とし、縁組の意思を有する他方の配偶者と相手方との
間の縁組は有効に成立したものと認めることを妨げない。」

とし、さらに、当該事件について、

甲男乙女夫婦を養親、幼児である丙を養子として届出のされた養子縁組につき、乙に縁組をする意思がなかつた
場合であつても、右届出の当時、甲と乙とが別居しその婚姻共同生活の実体は少なくとも一〇年間は失われていて

事実上の離婚状態
が形成されていたものであり、

 甲および丙の親権者らは、乙とはかかわりなく甲丙間に縁組をする意思を有し、縁組後は、丙は、甲およびその
事実上の妻丁に養育されて親子として生活をともにしており、甲丙間に親子関係が成立することは乙の意思にも反
するものではなかつたなど判示の事実関係のもとにおいては、

甲丙間においてのみ縁組を有効とすることを妨げない特段の事情が存在するものと認めるのが相当である。」
として、当該縁組について縁組意思のある一方のみについての有効性を認めました。


 
この判決によって、未成年養子の要件である「夫婦共同縁組」原則が、民法795条の条文上は、
「配偶者のある者が未成年者を養子とするには、」夫婦共同を要すとあるだけなので、
配偶者のない者が未成年者を養子とする場合があり得ることを改めて認識させられますし、そうとすれば、
この判文に照らしても、
未婚者・独身者が養親となる未成年養子縁組の家裁での許可判断には、子の養育の観点から、やはり同様に、
未成年養子縁組の趣旨に叶う「特段の事情」が必要と思われます。
 殊に、令和4
(2022)年以降17歳までが未成年とされることとなり、未成年養子は、全てこれ迄の所謂「児童」に
あたる者
(児童福祉法4条児童の権利条約1条)を養子とすることになる点に照らしても、未成年養子の養親は夫婦である事
をむしろ原則視するべきであると思います。


 この③の事例と共通する面もありますが、配偶者ある者が、養子、或は、養親となる縁組をしようとする場合
は、他方の同意を得なければなりません
(796)(配偶者要同意原則)

縁組成ればそのから養親及びその血族は、なにせ727養子と血つづきの 親族扱いされるなり。

となりますから、 他方にとっては、
婚姻関係に影響が大であるばかりか、夫婦で同じ養氏を称することになる
(
810)かも知れず、又、親族としての扶養義務を負い、ゆくゆくは、養子が相続分を得て自己の相続減に繋がるこ
ともあるからです。

 
この違反についても同意をしていない配偶者からの取消請求が可能です。但し、その者が縁組を知った後6か月
を経過し、又は追認をしたときは取消権は消滅します
(8062Ⅰ)

 配偶者の同意が詐欺・強迫による場合も、取り消すことができます
詐欺が分かり或は 強迫を免れてから、
6か月が経過するか、それまでに追認があれば、取消権が消滅します
806の2Ⅱ)


  少し特殊な場合となりますが、後見人が、その被後見人を養子とする場合、地位の乱用から不正が行われない
ようチェックするため、家裁の許可を受けなければなりません(
後見養子の要許可原則)。
 後見任務が終了した場合でも、後見に関する管理計算が終了しない間は同様とされます
(794条)

 この定めに違反した縁組届は受理されませんし
誤って受理された場合は養子又はその実方親族から縁組取消し
の請求をすることができます(806条1項)

 但し、受理されてしまった場合、養子が成年に達し又は行為能力を回復
(成達・回復)し、管理計算が終了して
6か月を経過するか、又は追認したとき
 ( 成達・回復する前に計算が終了したときは、成達・回復したときから6か月が経過
したとき ) 
は、取り消し得なくなります。(806条1項但書、2項、3項)。(条句) 

 代諾養子
 
未成年者を養子とする場合、
子が15歳未満であるときは、その法定代理人が子に代わって縁組の承諾をする
ことができます
(797条1項)。この場合の養子を代諾養子と言います。

 子が15歳未満であるのに 代諾のない縁組は、結局 縁組意思がないのと同じなので、
縁組無効となります。

 又、代諾には、親権者のほかに監護権者である父母
(のいずれか)が他にいる場合には、その父母の同意も得なけれ
ばなりません
(同条2項前段)。親権を停止された父母がいる場合も同様とされます(同条2項後段)

 この要同意の定めに違反した縁組届は受理されませんし、誤って受理された場合、同意をしていない親から

縁組取消し
の請求をすることができます(806条の3第1項)

 但し
その者が追認した場合又は養子が15歳に達した後6か月を経過するか若しくは追認したときは取消権
が消滅します(806条の3第1項但書)

 同意権者が詐欺又は強迫によって同意した場合も同様とされます
(取消請求権消滅時効の起算点は、詐欺と分かり、或は
強迫を免れてから6か月となります)(806条の3第2項)。(条句)

 最後に、やはり未成年者を養子とする場合ですが、子の福祉のために家裁がチェックする必要があるので、
家裁の
許可が必要とされます(798条)(未成年養子の要許可原則)。(条句)

 この定めに違反した縁組は縁組届を受理されませんし、誤って受理された場合は、養子、その実方親族又は代諾
した者からその取消請求をすることができます。但し、養子が成年に達した後6か月を経過するか、又は追認した
ときは、取り消し得なくなります
(807条)

 未成年養子に関するもう一つの関門である民法795条
(夫婦 共同縁組 原則)の条文上は、上記のように必ずしも養親が
夫婦である必要はないのですが、この798条の許可判断に際しては、むしろ夫婦であることを原則とし、独身者が
許可を求めた場合、独身者であっても養親たるに足りる特段の事情があることを要するとすべきだと考えます。



 未成年者〔二十歳未満〕養子とる 違法バレ804縁組

    尊・長尊重しない破礼
805

    後見マント
羽織
806無許可でなした後見縁


  
やれるのに806の2同意なくも796連合を ネグった縁組


    
代諾親権停止監護(権)同意をとらぬ縁組

           
取消請求やれるのさ
806の3



 未成年者
無許可養子いたくらみ(の)れぬ807

  縁組(取消)請求すれば
やまるのに8062

  (成年後或いは欺し脅し脱した後)六月経過(取消しは)不可なれば

  
やれや 808取消りなば、えいわな807 808じゃ





縁組取消しの効果 
 縁組の取消しに
一般の法律行為の取消効である「遡及無効」(民法121条)を認めると取消し迄の間養親子として
築いた社会生活を覆すこととなり混乱を招いて悪影響を及ぼします。
 なので、縁組取消しには 「
将来に向かってのみその効力を生ずる(民法748条1項)とする婚姻取消しの規定
 が準用されます(民法808条748条)

 そして、準用される748条の2項、3項により、縁組により双方間に生じた財産の得喪関係については、これを
そのまま維持するのは妥当でないため、縁組時にその取消原因のあることを
 知らなかった当事者が縁組によって取得した財産は
現に利益を受けている限度において返還させ(748条2項)
 知っていた当事者には縁組によって得た利益の全部を返還させると共に、
           相手方が善意であったときはその損害賠償もさせる
(748条3項)
 旨 定められています。

 また、808条2項により準用される816条は離縁に伴う
復氏の規定ですので、
  縁組が取り消される場合も、縁組前の氏に復することとなりますが、
  816条但書により、夫婦で養親であった内の片方とのみ縁組を取り消すときは復氏せず、また、
   同条2項により、
縁組後7年を経過した後の復氏については、取消し後3か月以内での届出により養氏続称
  できます。
                                           
 同じく808条2項により準用される769条は離婚に伴う
祭祀承継に関する定めですが、この準用により、養子が
縁組によって祭祀承継者となっていた場合、縁組取消しに伴って代わりの承継者を協議で決めることとなり、協議
ができない、或いは、協議しても決まらない場合は家裁で決めて貰うこととなります。
祭祀承継については、こちらをご覧下さい。




   やれや
808取消りなばそも縁組取消(効)(808)

       
遡及ナシ 
748婿 769南無矩 769祭祀承継めて

     実氏
 816復氏それで 808


§748は婚姻取消しの効力に、§769は離婚による復氏の際の祭祀承継に、§816は離縁による復氏に関する規定



縁組の成立には縁組届け縁組能力縁組意思が必要です(民法799条739条738条)が、
これらがない場合は
縁組無効となります(802条)


  ヤレ二
802

   ‘養子とする’
人違
意思ナシナシ (のいずれか)ならば

     縁組
無効
(養)親子ナシ742



縁組無効 
 縁組をするについては、当事者に縁組能力があり、又、縁組の届出が必要であることが、婚姻能力に関する738
、婚姻届けに関する739条の、799条による準用という形で定められています。

 そして、縁組当事者間に縁組意思がなく、或は、縁組届けがない、若しくは人違いであった等の事由があれば、
その縁組は、裁判等を要することなく、当然に無効
(民法802条)であり、当事者以外の者からもその無効を主張するこ
とが許されます。
 但し、証人2人を要する等739条2項の定める届出の方式を踏んでいない場合は、その為に縁組届けの効力が妨げ
られることはありません
(802条2号但書)

 縁組意思がない無効の例としては、夫婦
共同縁組であることを要する未成年養子について、夫婦の片方に縁組意
思がなかった場合や15歳未満の子の代諾養子縁組について
代諾がなかった場合が挙げられます。

 無効な縁組の当事者となってしまった場合、第三者から縁組を前提とした主張がなされたときは、縁組取消しの
裁判等を要せず無効を以て対抗することができます。とは言え、
戸籍に残る縁組記載について
戸籍の訂正 (戸籍の記載が、不適法又は反真実なとき真正な身分関係に一致させるよう是正する事)
 
をしなければなりませんから、その為には戸籍法により縁組無効の裁判を経なければなりません。(戸籍法116条)

 しかし、家裁では 調停前置主義の定め
(家事事件手続法257条)がありますから、まずは調停に付されることとなり、
調停で、双方が合意に達すると「
合意に相当する審判」がなされます(家事事件手続法277条)
 結果 調停不成立であれば、いよいよ人事訴訟
(人事訴訟法2条3号)縁組無効確認の訴え」ということになります。
しかし、いわば公正証書原本不実記載罪
(刑法157条)の被害者である本人が何故この戸籍訂正手続きの面倒を背負わな
ければならないのでしょうか。大いに疑問です。こちらも参照下さい

 その縁組無効確認の判例があります。

 一つは、旧法時の古い縁組ですが、法定推定家督相続人である養女の去家を可能にするため全くの方便として、
その者の叔父を新たに養子とする縁組をしたという事案で、その縁組を無効としたのが下記判例1.です。次に、

 無効を主張された縁組を有効であると判示した下記判例2.をご紹介します。この判例2.によっても窺われます
が、いかに人為的親子であっても、情交などの
人倫に反する関係は社会的にも法的にも許されざることですから、
その関係の継続を目的とする縁組は当然無効と言うべきです。しかし、それが、この事例のような過去のたまたま
の出来事であったに過ぎず、縁組届けの時点においては当事者間に真に法的な親子関係を築く意思の合致があるの
であれば、有効な縁組と認められるべきでしょう。

 また、前述のように、この縁組本来の目的が存在するのであれば、節税目的等 ほかの目的・思惑があっても、
縁組の成立を妨げないことについて、下記判例3.があります。

1「当事者間に縁組をする意思がないとき」(民法802条1号)とは、
当事者間において真に養親子関係の設定を欲する効果意思を有しない場合を指し、たとえ 養子縁組の届出自体
については当事者間に意思の一致があつたとしても、それが単に他の目的を達するための便法として仮託された
ものに過ぎないときは、養子縁組は、効力を生じない
旨判示した判例
(最判昭23・12・23)
 
この判決は、上記の様に述べて、当該縁組を無効とした原審判断を維持し、合わせて、養親子関係の設定を欲す
る効果意思のないことによる養子縁組の無効は、絶対的のものであつて民法93条但書(相手方が表意者の心裡留保し
た真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は無効とする。)
の適用をまつてはじめて無効となるのでは
ない旨も判示しています。

2過去に情交関係があつた当事者間における養子縁組につき縁組意思が存在したと認められた事例判例
                                           (最判昭46・10・22)
 この判決は、
「養子縁組の当事者である甲男と乙女との間に、
たまたま過去に情交関係があつたが、事実上の夫婦然たる生活関係が形成されるには至らなかつた場合において、
 乙は、甲の姪で、永年甲方に同居してその家事や家業を手伝い、家計をもとりしきつていた者であり、
 甲は、すでに高令に達し、病を得て家業もやめたのち、
    乙の世話になつたことへの謝意をもこめて、乙を養子とすることにより、
    自己の財産を相続させあわせて死後の供養を託する意思をもつて、縁組の届出に及んだ
ものであるなど判示の事実関係があるときは、
 甲乙間に縁組を有効に成立させるに足りる縁組の意思が存在したものということができる。」
と判示しています。

   

  さきに739Ⅱ799れと縁組みし

   親子
となるには、
証人二人頼んで、()()

    書面
口頭難避739養子縁組




  
(養子)縁組親子になる

     
能力738あっても意思

        判断
できれば
()ができ 

     
難避
739 届出 ませたら799せて天気晴朗 


     
§738は成年被後見人の婚姻に§739は婚姻の届出に関する規定



   ヤレ二人802

  ‘養子
とする
人違意思ナシナシ (のいずれか)ならば

                      
縁組 無効(養)親子ナシに742


    
但しさきに739Ⅱ証人二人不備

          
ナシに
 742Ⅱとされて受理  有効


    §739Ⅱは婚姻の届出の方法に、§740は婚姻届の受理審査に、§742は、婚姻の無効に関する規定


縁組意思・縁組無効関連の判例として、次の判決があります。

○3.
専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、直ちに当該養子縁組について民法802条1号
にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない旨判示した判例
                               
 (最高裁平成29年1月31日判決)
 
この判決は、その理由として
「養子縁組は、嫡出親子関係を創設するものであり、養子は養親の相続人となるところ、
養子縁組をすることによる相続税の節税効果は、
 相続人の数が増加することに伴い、遺産に係る基礎控除額を相続人の数に応じて算出するものとする
 などの相続税法の規定によって発生し得るものである。

 相続税の節税のために養子縁組をすることは、
 このような節税効果を発生させることを動機として養子縁組をするもの にほかならず、
 相続税の節税の動機と縁組をする意思とは、併存し得るものである。

したがって、専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、
 直ちに当該養子縁組について
  民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない。
 そして前記事実関係の下においては
 本件養子縁組について
縁組をする意思 がないことをうかがわせる事情はなく
 
「当事者間に縁組をする意思がないとき」 に当たるとすることはできない。」
と判示しています。



養子の相続権 
 養子の相続権について
上記節税目的判例に触れながら確認したいと思います。縁組により嫡出子となる(§809)
養子ですから、養親が亡くなったときには当然
相続権があります。

 縁組によって被相続人の財産を継ぐ人を新たに
(或いは更に)設けることが節税になる、というのはちょっと解せない
と思われでしょうが、相続自体ではなく、相続の結果に対する課税場面での話です。

 つまり
相続税には、まず基礎控除のステップがあり、この控除によって減額された相続財産の額 ( 正確には、財
産を仮に法定相続分で相続したとしたときの各相続人の取得額 ) 
に相続税率をかける訳ですがこの基礎控除が平成26年迄
は、まず5千万円を計上した後、一人当たり1千万円を相続人の人数分だけ加算できるというものでしたから、相当
な金額が相続財産額から減額になっていました。

 判例の事案では、相続人は長男と娘二人の三人だった様ですが、平成24年に、父親と長男夫婦が相談して、長男
の子つまり被相続人の孫を養子にして、相続人を計4人とした様で、そうすると、9千万円の控除となる訳です。
 相続人にとっては、大きな節税効果、長男にとっては事実上の増産効果ですが、反面、娘らにとっては、1/3だっ
た相続分が縁組により1/4になってしまう訳ですから、縁組無効を訴えてそれを阻止しようとしたと思われます。

 ところで、この基礎控除は、平成27年からは、従前の6割分に縮小されて、3千万円プラス一人当たり600万円
となりましたので、従前ほどの効果はなくなってしまいました。

 そして、このケースの場合は、被相続人に実子がいるので、実子のいる場合 加算が認められる養子の数は一人
だけですから、1千万円の加算となりますが、控除枠もそれが限度です。このケースで養子を例えば二人とっていた
としても、一人分の加算しか認められません。

 実子がいない場合は、二人までと、
基礎控除を認められる養子の数に限度があるので、節税効果もその限度
にとどまります。

 特別養子であれば、基礎控除の面でも実子同様の扱いをして貰えますが、厳格な特別養子制度の下で専ら節税目
的の縁組が許可される筈はないと思いますから、あくまで副次的効果ということです。

 さらに、判例の事例で付言しますと、事前に娘たちとも相談し、遺言をしてその中で具体的に娘たちも納得する
相続分を定めておけば良かったのにと思われます。基礎控除のメリットを確保しつつ、皆が納得する相続とするた
めには、面倒でもそうすることが必要だったのではないでしょうか。

 なお
この例の場合仮に相続開始時には長男が既に亡くなっていたとすると養子となっていた孫はその長男
代襲相続人(887条2項)でもあるので、この二つの相続資格を併有することになり、いわゆる重複相続をすること
になります
(昭和26年9月18日民事甲1881民号事局長回答)

 
具体的には、嫡出子扱いされる養子の立場での相続分1/4と、長男の代襲者として長男の持っていた相続分1/4と
を合わせた2/4、つまり1/2を相続できることになります。残りは娘二人が各1/4です。資格が重複しても認められ
ない場合については、こちらをご覧下さい。養子の相続税については、相続税算定のあらましもご覧下さい。



      


      息子逝き、(その息子の子)不憫うなら、

        
養子ようして887

       (財産を)息子代わりの代襲と、養子自身と、

                
わせがせよ、爺心
()

         「して」は、7の伊語「セッテ」、西語「シエテ」から




特別
養子

  
 要件(817条の3817条の8)

     
 夫婦共同縁組
     
 特別養子縁組に向けての特別の事情・必要(条句)
     
  4要件
   
 
実親の同意(条句)
       
養親の年齢(条句)
      
養子の年齢
(条句)
       
半年間の監護(試験養育)(条句)

    二  審判手続きの合理化(二段階審査制)

      
  適格確認審判(家事事件手続法164条の2)
       
  縁組成立審判(家事事件手続法164条)
         
児童相談所長の関与 
    
  
 特別養子縁組届(戸籍法68条の263条Ⅰ)
  
 効果(血族関係の終了)(817条の9)(条句)
  
 特別養子の 離縁(817条の10)(条句)

 養子は、縁組により養家の親族になりますが、実方の親族関係はそのまま残り、両方の親族関係が並立します。
この実方の親族関係を断ち切る
(民法817条の9)養子縁組の制度が「特別養子」です。実親及びその血族との親族関係
が終了しますから、これにより養親子関係には強固で安定した法的基盤が与えられます。
 特別養子は、
 家庭に恵まれない子に温かい家庭を提供してその健全な養育を図るため、実親との法的親子関係を解消し、
子の実親でない
夫婦が、 (ア)共同してその子と実子同様の親子関係を結ぶ制度で、
特別養子縁組
成立には、(ィ)普通養子縁組とは異なる特別の事情・必要(817条の7)のほか、
 ①
実親の同意(817条の6)
 ②
養親の年齢(817条の4)
 ③
養子の年齢(817条の5)
 ④
半年間の監護(817条の8、試験養育)
の大きく分けて四つの要件を満たす必要があります
(詳しくは下線クリックでご覧下さい)
但し、
①の要件については、子の利益が実親による虐待等によって著しく害されている場合、又は、
             実親がその意思を表明できない場合には、
    
実親の同意を要しないとされています。

そして、特別養子縁組を希望する夫婦の請求により、
    家庭裁判所の特別養子縁組成立の審判があると、子はその夫婦の特別養子となります。

特別養子縁組届けについてはこちらをご覧下さい。

特別養子の戸籍は、一見してそれと分からない記載となっています。又、容易には遡って辿ることができないよう、
元の戸籍と特別養子戸籍の間に中間戸籍を設け、第三者がその謄本請求をすることはできません。
裁判所ホームページでの説明をこちらでご覧下さい。
(特別養子の事を知る手掛りとなる放送があります。NHKドキュメンタリー「カノン~家族のしらべ~」です。是非ご覧になって下さい。)

 ここで まず、特別養子縁組の成立
(民法817条の2)のための手続きを概観し、
 次いで、その各成立要件
(同条の3から同条の8)について見てゆきます。

 特別養子縁組は、養親となることを希望する者からの請求によって、
民法817条の3から同条の7までに定められた要件全てを具備する場合に限り、家裁の審判によって成立します。
この請求をするについては、後見人が被後見人を養子とする縁組
(民法794条)や未成年者を養子とする縁組(民法798条)
に必要とされる家裁の許可は必要ありません
(民法817条の2、家事事件手続法76条164条166条)。これら許可を必要とす
る縁組における懸念については、特別養子縁組の成否の判断の中で当然に審査されるからです。


 特別養子縁組
保護を要する子に対し実の両親に代わって両親としての養育を与える事を目的としますから、
当然
夫婦共同縁組でなければならない(民法817条の3)ので、請求も当然夫婦共同申立てとなります。

 ところで、上記特別養子成立のための諸要件は、これ迄、家裁の一度の審判手続で審査され、その審判によって
特別養子縁組が成立することとなっていました。
 養親候補者夫婦は、その一度の手続中で 実親側の養育の問題点や子の生育状況、自らの養親としての適格性等を
主張・立証し、並行して 試験養育にも傾注して子との適合性を高める努力をしなければなりませんから、その手続
きの遂行には候補者夫婦にかなりの負担と困難が伴いました。
 途中、実親の養育の問題性や、実親の同意の要否を裁判所にどう判断されるか等 種々負担を感じながら、ときに
実親と対峙することを余儀なくされ、仮に実親の同意を得られたとしても、撤回されはしないかとの不安を抱えて、
審判を待つことになります。
 特別養子縁組がなかなか普及しない要因の一つには、この手続きの負担と困難があるとも考えられたことから、
養親候補者の負担軽減を図るため
家裁手続での合理化を目的として令和元年6月後記の特別養子年齢の引上げ
のための民法改正と合わせて家事事件手続法も改正されました。

養親候補者の負担軽減と手続合理化のための 令和元年 家事事件手続法改正

 これにより、特別養子縁組の手続きは、❶適格確認審判と、❷縁組成立審判の二段階に分けられ、

❶では、
上記(ィ)の特別保護要件(817条の7)を満たしているか、と ①の実親同意
(817条の6)が得られているかを審査し
て、特別養子縁組の「適格性」を確認し、

❷で、上記②~④要件
(養親子の各年齢・試験養育結果)を審査し、適合性が認められれば 、縁組成立の審判がなされます。
そして、その途中、前段の適格確認審判を経た上で、試験養育が行われます。
試験養育も踏まえたマッチングの適否 適合性を審査して、特別養子縁組の成立審判に至れば、縁組が成立します。

 適格確認審判は、特別養子縁組の成立審判事件の係属する裁判所を拘束し
その場合 適格確認審判は成立審判
事件との関係においては、成立審判をする時においてしたものとみなされます
(家事事件手続法164条7項)

 そして、特別養子縁組の申立ては、要保護児童を現に保護する児童相談所の所長からも、適格確認の請求という
形ですることができる
(児童福祉法33条の6の2第1項)ことになり、又、児童相談所長は、養親候補者夫婦からの申立事件
に参加人として加わることもできる(児童福祉法33条の6の3)ことになりました(児童相談所長の関与)
 したがって、前記の様な主張・立証に伴う養親夫婦の負担は大幅に軽減されることになります。

 
また、
児童相談所長は、特別養子縁組の適格確認の請求に係る児童について、養親となることを希望する者が現
に存しないときは、
養子縁組里親その他の適当な者に対し、当該児童に係る特別養子縁組の請求を行うことを勧奨
するよう努めるものとする(児童福祉法36条の6の2Ⅱ)とされています。

 つまり、児童相談所長は、現に保護する児童が、親からの虐待被害によって保護されることとなった児童であれ
ば、その子について特別養子のための特別の事情・必要(817条の7)と、親の「同意」の不要(817条の6)とを主張して、
その児童について適格確認の審判を請求し、その審判から6か月の期限内に、特別養子縁組を成立させる(家事事件手続
164条2項)
べく、養親となるべき夫婦を探すことになります。

 又、実親が、子の出生後2か月を経過した後にした「同意」の内、実親が審問でしたもの、或いは 調査官による
調査の中で書面でしたものは、その後2週間が経過すると撤回することができません
(縁組同意の撤回制限)
                             (家事事件手続法164条の2第5項)
 実親は手続き後段の、成立審判には関与することがでません (家事事件手続法164条3項、4項)

 そして、手続きの迅速化を図るため、特別養子縁組の申立権者である養親候補者夫婦、児童相談所長のうち、
前者は適格性確認審判と成立審判とを同時に申し立てなければならず、児相所長も適格性確認審判の確定後6か月
以内に養親候補者となる夫婦を探して成立審判を得られるよう努めなければなりませ
(→法務省のホームページ)

念のため、家事事件手続法改正で改正された2箇条も後掲します
(読み易くする為 漢数字を普通数字にする等変えてあります)
この改正法は、令和2
(2020)年4月1日から施行されています。

   


  
薄幸児監護
たせぬに817の2そのならば可哀相

    
這稚8173(から)、背稚8177まで要件

     具備
せば養親たるべき
 (たらんとする者) 

         求
めによって
親族関係って特別養子




  特別養子
這稚817の3

       
  〔
795救護795」より難事なんじ

    ( 故に、養親は)夫婦 (で、かつ)共同縁組必須

            但し、
嫡出連子つれこ此限こぎりでない


    
§795は配偶者のある者が未成年者を養子とする、夫婦共同縁組に関する規定


(特別養子縁組の成立の審判事件)

第百六十四条 特別養子縁組の成立の審判事件は、養親となるべき者の住所地を管轄する家庭裁判所の管轄に属する。

2 養子となるべき者は、特別養子適格の確認(養子となるべき者について民法817条の6に定める要件があること及び同法817条
の7
に規定する父母による養子となる者の監護が著しく困難又は不適当であることその他特別の事情がある場合に該当することに
ついての確認をいう)の審判(申立人の次条1項の規定による申立てによりされたものに限る)を受けた者又は児童相談所長の申
立てによる特別養子適格の確認の審判(特別養子縁組の成立の申立ての日の6箇月前の日以後に確定したものに限る)を受けた者
でなければならない。

3 養子となるべき者の親権者(申立人の配偶者である民法817条の3第2項ただし書に規定する他の一方を除く)及びその親権者
に対し親権を行う者は、特別養子縁組の成立の審判事件において養子となるべき者を代理して手続行為をすることができない。


4 養子となるべき者の父母(申立人の配偶者である民法817条の3第2項ただし書に規定する他の一方を除く。10項において同
じ)は
42条(利害関係参加)1項及び3項の規定にかかわらず、特別養子縁組の成立の審判事件の手続に参加することができない。

5 118条(手続行為能力)規定は、特別養子縁組の成立の審判事件(当該審判事件を本案とする保全処分についての審判事件を含
む)における養親となるべき者並びに養子となるべき者及び申立人の配偶者である民法817条の3第2項ただし書に規定する他の
一方について準用する。


6 家庭裁判所は、特別養子縁組の成立の審判をする場合には、次に掲げる者の陳述を聴かなければならない。

一 養子となるべき者(15歳以上のものに限る。)

二 養子となるべき者に対し親権を行う者(養子となるべき者の父母及び養子となるべき者の親権者に対し親権を行う者を除く)
及び養子となるべき者の未成年後見人

7 特別養子適格の確認の審判(児童相談所長の申立てによる特別養子適格の確認の審判を含む)は、特別養子縁組の成立の審判
事件の係属する裁判所を拘束する。この場合において、特別養子適格の確認の審判は、特別養子縁組の成立の審判事件との関係
においては、特別養子縁組の成立の審判をする時においてしたものとみなす。

8 特別養子縁組の成立の審判は、74条(審判の告知及び効力の発生等)1項に規定する者のほか、6項2号に掲げる者に告知しなけれ
ばならない。


9 
特別養子縁組の成立の審判は、養子となるべき者の年齢及び発達の程度その他一切の事情を考慮してその者の利益を害する
と認める場合には、その者に告知することを要しない。ただし、養子となるべき者が15歳に達している場合は、この限りでない。

10 特別養子縁組の成立の審判は養子となるべき者の父母に告知することを要しない。ただし住所又は居所が知れている父母
に対しては、審判をした日及び審判の主文を通知しなければならない。

11 家庭裁判所は、第2項の規定にかかわらず、特別養子縁組の成立の審判を、特別養子適格の確認の審判と同時にすることが
できる。この場合においては、特別養子縁組の成立の審判は、特別養子適格の確認の審判が確定するまでは、確定しないものと
する。

12 家庭裁判所は、前項前段の場合において、特別養子適格の確認の審判を取り消す裁判が確定したときは、職権で、特別養子
縁組の成立の審判を取り消さなければならない。


13 特別養子縁組の成立の審判は、養子となるべき者が18歳に達した日以後は、確定しないものとする。この場合においては、
家庭裁判所は、職権で、その審判を取り消さなければならない。

14 次の各号に掲げる審判に対しては、当該各号に定める者は、即時抗告をすることができる。
一 特別養子縁組の成立の審判 養子となるべき者及び第6項2号に掲げる者

二 特別養子縁組の成立の申立てを却下する審判 申立人

15 養子となるべき者(15歳未満のものに限る)による特別養子縁組の成立の審判に対する即時抗告の期間は、養子となるべき
者以外の者が審判の告知を受けた日(二以上あるときは、当該日のうち最も遅い日)から進行する。


(特別養子適格の確認の審判事件)
第百六十四条の二 
家庭裁判所は、養親となるべき者の申立てにより、その者と養子となるべき者との間における縁組について、
特別養子適格の確認の審判をすることができる。ただし、養子となるべき者の出生の日から2箇月を経過する日まで及び養子とな
るべき者が18歳に達した日以後は、この限りでない。

2 特別養子適格の確認の審判事件は、養親となるべき者の住所地を管轄する家庭裁判所の管轄に属する。

3 特別養子適格の確認の申立ては、特別養子縁組の成立の申立てと同時にしなければならない。

4 118条(手続行為能力)の規定は、特別養子適格の確認の審判事件における養親となるべき者並びに養子となるべき者及び養子と
なるべき者の父母について準用する。

5 民法817条の6本文の同意は、次の各号のいずれにも該当する場合には、撤回することができない。ただし、その同意をした日
から2週間を経過する日までは、この限りでない。

一 養子となるべき者の出生の日から2箇月を経過した後にされたものであること。
二 次のいずれかに該当するものであること。
イ 家庭裁判所調査官による事実の調査を経た上で家庭裁判所に書面を提出してされたものであること。
ロ 審問の期日においてされたものであること。


6 家庭裁判所は、特別養子適格の確認の審判をする場合には、次に掲げる者の陳述を聴かなければならない。この場合において、
第2号に掲げる者の同意がないにもかかわらずその審判をするときは、その者の陳述の聴取は、審問の期日においてしなければな
らない。

一 養子となるべき者(15歳以上のものに限る)


二 養子となるべき者の父母

三 養子となるべき者に対し親権を行う者(前号に掲げる者を除く)及び養子となるべき者の未成年後見人

四 養子となるべき者の父母に対し親権を行う者及び養子となるべき者の父母の後見人


7 家庭裁判所は、特別養子縁組の成立の申立てを却下する審判が確定したとき、又は特別養子縁組の成立の申立てが取り下げら
れたときは、当該申立てをした者の申立てに係る特別養子適格の確認の申立てを却下しなければならない。

8 家庭裁判所は、特別養子適格の確認の申立てを却下する審判をする場合には、第6項2号及び3号に掲げる者の陳述を聴かなけ
ればならない。

9 特別養子適格の確認の審判は、74条(審判の告知及び効力の発生等)1項に規定する者のほか、第6項3号及び4号に掲げる者に告知
しなければならない。

10 特別養子適格の確認の審判は、養子となるべき者の年齢及び発達の程度その他一切の事情を考慮してその者の利益を害する
と認める場合には、その者に告知することを要しない。

11 家庭裁判所は、特別養子適格の確認の審判をする場合において、第6項2号に掲げる者を特定することができないときは、
同号及び同項4号に掲げる者の陳述を聴くこと並びにこれらの者にその審判を告知することを要しない。

12 次の各号に掲げる審判に対しては、当該各号に定める者は、即時抗告をすることができる。

一 特別養子適格の確認の審判 養子となるべき者及び第6項2号から4号までに掲げる者
二 特別養子適格の確認の申立てを却下する審判 申立人

13 養子となるべき者による特別養子適格の確認の審判に対する即時抗告の期間は、養子となるべき者以外の者が審判の告知を
受けた日(二以上あるときは、当該日のうち最も遅い日)から進行する。

14 特別養子縁組の成立の申立てを却下する審判が確定したとき、又は特別養子縁組の成立の申立てが取り下げられたときは、
当該申立てをした者の申立てによる特別養子適格の確認の審判は、その効力を失う。



養親の年齢

 
乳幼児段階からの養育を要する特別養子の養親であるためには、
 年齢的にもある程度成熟し、安定した心情と社会的経験が必要ですし、
 親子の間の自然な年齢差もなければなりませんから、原則として、
 
夫婦共に25歳以上であること
が必要とされます。

 但し、うち一人が25歳以上でなくとも、その者が20歳以上であれば足りるとされています
(民法817条の4)
 又、この年齢制限は
請求時でなく審判により特別養子縁組が成立する時に満たされていれば良いとされます。

 年齢の下限がこのように定められていますが、その上限はありません。

 したがって、世上散見される孫養子の場合のように初老期に入る夫婦にも制限はかからないこととなりますが、
実際に特別養子の縁組請求が出された場合、子に実親同様の養育を授ける趣旨に叶うのか、乳幼児の養育の面倒に
体力的に耐えられるのか、というポイントには厳しい判断が待つと思われ、合わせて、その場合、当該ケースに特
別保護の条件が認められるか の審査も慎重になされるべきです。

 私は、やはり、孫養子は、普通養子としての対処で臨むべきと思いますし、その場合は、共同後見によることが
検討されるべきだと思います。




    這稚8174

       
   養親年頃
 安定(子との) 年齢差 要すが故に 


          二十歳(はたち)8174一方必五年(以上)





養子の年齢


 特別養子縁組は、実親との親族関係を断ち、養親との間に実親子同様の関係を築くことを目的とする縁組です。
 従って、実親との間に親子間の愛着(アタッチメント)が生じる前に成立させるのが望ましいと言えます。そのため、
特別養子となる子の年齢は、令和2年3月31日までは、原則として申立て時に6歳未満であることが必要でした。


  しかし、児童虐待が社会問題化し、被虐児の救済のため、この年齢制限の見直しが必要となって、令和元年6月
の民法改正により「15歳未満」に引き上げられました。

 従来、例外として
 「但し、6歳を過ぎた子であっても、子が6歳になる前から養親となる者に引き続き監護されていた場合には、
8歳未満であれば良い」とされていた点も、改正に伴い、

以前から養親候補者に引き続き監護されていたのであれば、
 やむを得ない事情で15歳までに申立てができなかっ場合でも、対象である子の同意があれば、良い。
  但し、特別養子縁組成立の審判が確定するとき迄に18歳に達した場合は不可


の旨に 改められました(→法務省のホームページ)

 子には15歳から縁組能力が認められていること
(民法797条1項)、特別養子縁組と児童虐待(を原因とする親権喪失)
要件の上で結びつきが強いこと等を踏まえて制度上の一体化を図った改正です。

 そこで、この改正を踏まえた実務においては、改正原因となった親の虐待に由来する特別養子縁組については
改正により加わった年長児童のための枠組みに拠り、そうでないケースについてはできる限り従来の「原則6歳、
例外8歳」による「愛着」尊重の姿勢が必要であると思われます。

 なお、制度上15未満の子については縁組成立に子本人の同意を要しませんが、児童は、その年齢及び発達の程度
に応じて、その意見が尊重され、その最善の利益が優先して考慮されねばなりません
(児童福祉法2条)から、子の意思
が表明され 或は 推認できるときは、その意思は最大限尊重されなければなりません。

 特別養子縁組手続の第二段階でのマッチングの審査は正にそのためのものと言えます。



  

令和2年3月31日まで


  親子形成 (のためには)実親愛着 (アタッチメント)未生みしょう 

    
這稚
8175必須なる六歳になる不可とされる也。

      
但し六歳前から監護八歳未満であればよし

令和2年4月1日から
   「子他人ひと特別養子(となるとしても) くな797

      親親権たせぬ
8175
             十五
() 未満は原則

   やむなき
(場合) 十五(歳) 以上も意思

       十七
(歳) までなら 
(特別養子に) なれる              

          




特別養子縁組に対する実父母の同意
 
特別養子縁組の成立には、養子となる者の「父母の同意」がなければなりません。

 親としての被扶養権、子の財産に対する相続権等を結果として失うことはもとより、何より実の子との親子関係
が断たれることになるのですから、原則として、実父母の同意は当然の必須要件となります。

 したがって、親権喪失の審判により親権を失った者であっても、「父母」であれば、原則としてこの同意権を有
します。また、この「父母」には、養父母も含まれるとされていますが、実の父親であっても、婚姻外の父であれ
ば、その者による認知がなければ、子との法的な父子関係は認められませんから、その者には縁組同意権は認めら
れません。

 同意は、要するに特別養子縁組を成立させることを認め、受け容れる旨の意思表示ですが、方式が定められてい
ないので、書面によらない口頭のものでも、その者自身の意思表示であれば、足りるとされています。

 また、意思表示の相手方も、シチュエーションも、特には定められていませんでしたし、縁組成立を決める家裁
に対する同意であることも要しませんでした。なので、せめて、例えば、出産後の母親であれば、当然産後の心情
が安定するのを待った後の同意であるべきとの指摘もされたりしていました。この点欧州等では、母親の熟慮期間
として、産後2~3か月を置くことが定められていることに倣うべき とも言われていました。

同意の撤回不可 要件
 そこで、令和元年の家事事件手続法の改正では、同法164条の2第5項が新設され、実父母の「同意」については、

 「
養子となるべき者の出生の日から二箇月を経過した後にされたものであること。

(同法164条の2第5項1号)とされたので、出産直後の不安な心情からの意思表示でない点の配慮が加わり、これに

 「
家庭裁判所調査官による事実の調査を経た上で家庭裁判所に書面を提出してされたものであること。
又は
 「
審問の期日においてされたものであること。

(家事事件手続法164条の2第5項2号)のいずれかの要件が合わせて整えば、その「同意」は、同意から2週間が経つと撤回
できない
こととなりました。

 従って、実親の、改正条項によらない、無方式の同意も、撤回のない限り、従来どおり 特別養子縁組の同意要件
を満たすものとして認められますが、その場合も、例えば、母親の同意については、産後の心情が安定した後のも
のであるべきですし、心情の安定しない時期における同意は、撤回されるおそれのあるものとなります。
 ことの運びとしては、産後の時期の経過と共に、心情に寄り添いつつ、同意があれば、記録に残し、状況の進展
に応じて、それが固まっていけば、それを以て、特別養子縁組の申立てを行い、家裁での審判手続きの中で、改正
条項に則った同意を得ることになると思われます。


 
又、父母自身による「同意」でなければならず、代理人による意思表示では、同意ありとは認められません。


同意の例外的不要 要件
 そのように特別養子縁組成立のための重要な要件となる父母の同意ですが、但し、
  父母がその意思を表示することができない場合、
又は
 
父母による虐待、悪意の遺棄その他養子となる者の利益を著しく害する事由がある場合
 
( 私なりに「虐棄著害の事由」と言います )は、例外的にこの同意は不要とされています(民法817条の6)

その内「父母がその意思を表示することができない場合」とは、行方不明のため意思確認が不能である、或いは、
意思能力のない心神喪失状態である等の場合が考えられます。

 そのような場合、後記する子のための特別の必要性に照らし、父母の同意が不要とされる訳ですが、
上記同意権の重要性に鑑みれば、この要件の具備については厳格に審査されなければならず、
単に審判時点で父母が父母として陳述ができない事情にあることだけで審判に踏み切ることは許されません。

判例
(最判平7・7・14)があります。
 この判決は、子の血縁上の父であると主張する者が戸籍上の父と子との間の親子関係不存在の確認を求める訴え
を提起するなどしていたにも拘わらず右訴えの帰すうが定まる前に子を第三者の特別養子とする審判がされた場合
のその審判について、

被上告人乙山花子を乙山高男、同雪子の特別養子とする審判(以下「本件審判」という。)が確定していることは明ら
かであるが、

 上告人は、被上告人花子が出生したことを知った直後から自分が被上告人花子の血縁上の父であると主張し、
同被上告人を認知するために調停の申立てを行い、次いで本件訴えを提起していた上、
本件審判を行った福島家庭裁判所郡山支部審判官も、上告人の上申を受けるなどしてこのことを知っていた
などの事情があることがうかがわれる。

 右のような事情がある場合においては、
上告人について 民法
八一七条の六ただし書に該当する事由が認められるなどの特段の事情のない限り、
特別養子縁組を成立させる審判の申立てについて審理を担当する審判官が、
 
本件訴えの帰すうが定まらないにもかかわらず、被上告人花子を特別養子とする審判をすることは許されない
 ものと解される。なぜならば、

 仮に、上告人が被上告人花子の血縁上の父であったとしても、
  被上告人花子を特別養子とする審判がされたならば、被上告人花子を認知する権利は消滅する
ものと解さざるを得ないところ
(民 法八一七条の九
上告人が、被上告人花子を
認知する権利を現実に行使するためとして本件訴えを提起しているにもかかわらず、
右の特段の事情も認められないのに、裁判所が上告人の意思に反して被上告人花子を特別養子とする審判をする
ことによって、上告人が主張する権利の実現のみちを閉ざすことは、
著しく手続的正義に反する
ものといわざるを得ないからである。


と述べています。認知の途を閉ざしたことは、ひいて実親としての特別養子縁組に対する同意・不同意の機会も奪
ったことになりますから、そのようなことにならぬよう手続的正義の観点から同意権確保は厳守されなければな
りません


 したがって、家裁が父母の同意がないにも拘わらず縁組成立の審判をするときは、養子となるべき者の父母の陳
述を審問期日に聴取しなければなりません
(家事事件手続法164条の2第6項)

 次に、上記の「父母による
虐待、悪意の遺棄その他養子となる者の利益を著しく害する事由がある場合」
ですが、ここで法が示す虐棄著害の事由は、民法834条親権喪失の要件として掲げる事由と酷似しており、
いわば「親として失格」の者たちということになりますが、そのような場合は、その親の存在自体が子の利益を著
しく害することから、その同意は不要とされます。

 しかし、前述のとおり、民法817条の6は、虐棄著害事由をメルクマールとし、原則としては、親権の喪失者から
も同意を要するが、同事由がある場合は、同意がなくとも、例外的に 可 としている趣旨と解されるので、実親から
は審問期日に意見を聴いて(家事事件手続法164条の2第6項3号
)、手続的正義を確保しなければなりません。


 なので、親権喪失者については、縁組審判までにその者から同意が得られれば別ですが、ない場合でも、審問時
の陳述等により、特別養子縁組の審判時においても、未だに当該児童に対する虐棄著害の事由が認められる場合は
勿論、例えば、そうでなくともその者による他の子に対する虐棄著害があったり、関係機関に対する対応等から事
態に確かな改善が認められない等の事情があれば、虐棄著害事由の継続ありと見て、同意を要しないと考えます。

   

    〔 特別養子成立 

    
背血
817の6 ()父母同意 するが

     
その父母
 (意思) 表示できぬとか虐待遺棄 ほか子に著害

     あらば
そのなのに
817の2特別養子は成り立ち得同意は不要)


特別養子縁組の特別保護要件
 特別養子縁組は、それまでの普通「養子縁組」制度があるのに、実親との親族関係を断って、乳幼児期から実子
同様に養育できる制度を創設することを目的として、昭和62年に新たに設けられた制度です。ですから、その縁組
成立のためには正に特別な事情と必要のあることが要件となります。
 これを民法817条の7は、
父母による養子となる者の監護が著しく困難又は不適当であることその他特別の事情がある場合において、
子の利益のため特に必要があると認めるときに、これを成立させるものとする。
と定めます。

 まず、①この要件の前半は、主として、子の養育にとっての実父母側における著しいマイナス要素が念頭にある
と言え、②後半は、主として、子にとって養親側に大きなプラス要素のあることが要件となっていると言えます。
 その具体的な例を挙げれば、

 ①の実父母側の要素としては、例えば、父母の死亡、行方不明、貧困等の、実際に養育不能であったり、著しく
困難である状況が考えられ、また、虐待や著しく偏った養育態度、さらには、性犯罪被害者となっての出産である
ため感情的に母性愛を感じられない等の特別な事情の場合もあります。

 ②の養親側の要素としては、子の養育の現状に比べ、家庭環境、経済的条件等において明らかに改善が見込まれ、
現状に照らせば実父母との親族関係を断って養子とすることに特別の必要性がある場合等ということになります。

 いわゆる「借り腹」事案であった前述の「代理出産」判例の事案では、最高裁の判決後された特別養子縁組の請
求に対し、裁判所は「貸し腹」側である代理母には養育の意向がなく、血縁のある養親側に真摯な養育意向が認め
られるとして特別養子縁組の成立を認めましたが、この場合、両者の養育意志の大きな落差と血縁とが特別の事情
・必要の要素となっていると思われます。そして、何より、養親子が事実上の血族であることから、養育の基礎に
真の「融合創一」関係を認め得ることが大きな要素であったのではないでしょうか。




    背稚817の7監護()じるしく(困)不適 (当という)

            
 特別事情 
()ため特別必要あること必須。




特別養子縁組成立に必要な半年間の監護 (試験養育)
 特別養子縁組の成立には、
養親となる者が養子となる者を六箇月以上の期間監護した状況を考慮しなければならない。
とされ、この期間は、特別養子縁組の請求の時から起算するものと定められていますが、但し、
その請求前の監護の状況が明らかであるときは、この限りでない。」とされます(民法817条の8)

 この規定の趣旨は、子が審判後に養親の元で法の期待通り実子同様に養育されることが可能か否か、養親子間の
和合可能性
(適合性)を見極めるための試験的養育期間として、原則 「6か月以上」を要するとの定めです。

 したがって、請求前から養親となる夫婦の元で里子等として上記適合性等の見極めには十分な期間を過ごし、
その監護の状況が明らかである子については、請求後直ちに成立審判を受けることもあり得ます。

 この規定の趣旨はその通りで、そこに何ら問題はないのですが、特別養子制度は、子の利益のためにある制度
の最たるものと言えますから、法律要件充足の重要性もさりながら、子が愛育される未来を確実なものとするこ
とが何より重要です。

 子は、実父母或いは施設から養親の元に養育の場を移されていく過程で、様々な心的激動を体験する訳ですか
ら、養育条件の重要な移行期でもあるこの試験的養育期間は、激動による心的傷害を被ることのないよう 配慮す
ることが最重要です。

 そのため、試験的養育期間中は、子の監護に係わる監護者・関係者間で細やかに配慮をしつつ、連携密に 子に
接し、子が養親に対する愛着をしっかり抱くことができるよう、一貫して 子とも養親とも、安心と信頼の関係を
築き、積み上げる必要があります。

 又、子を失うこととなる実母・実父に対してもその喪失感を癒やす為のケアに努めるべき期間でもあります。

 要は、本来は夫婦・子供の間での絆である融合創一を、社会が代替・支援して、「融合総一」で結ばれた信頼と
癒やしの絆の中で
子が養親に対する確かな愛着を得無償の愛の中で成長できるよう、皆が協力し合わなければ
なりません。





     特別養子 に、

     
破綻せぬよう
817の8請求からの六月むつき以上 

                       試験的
監護状況
 要考慮 ( 試験養育 )

   
但し、監護状況らかならば請求以前起算でも六月以上めらる

   


特別養子制度のコアというべき実親との血族関係の終了を規定するのは民法817条の9ですが、
その条句をご覧頂きます。


   
特別養子()れば

     実父母
とその血族背血8179

            
血族
(との親族)関係 たれ終了



     結婚相手嫡子特別養子()

          する
場合なら
背血 退817の9  (親族関係終了しない)



特別養子の離縁
 特別養子の離縁は、養親に虐待・遺棄等養子の利益を著しく害する事態があって、子のため特に必要があり、
実親に監護可能性が認められる場合のみ、審判によって離縁が可能となります
(民法817条の10 )
 離縁の請求権は、養親には認められず、子と実親或いは検察官からのみ家裁に請求することができ、家裁の審判
により離縁が成立すると、離縁の日に実方との親族関係が復活します。
 なお、特別養子の戸籍は、容易には遡って辿ることができないよう、元の戸籍と特別養子戸籍の間に中間戸籍を
設け、第三者がこの謄本請求をすることはできない仕組みがとられています。



  特別養子
 (縁組) ったれば離縁 原則不可なるも、

  養親に 
虐待(悪意の)遺棄ほか()()のため 

   著害
 
(事由があれば、

         監護
をば
たせぬ自由81710はないに、

             例外
(的に)離縁ができる


    
実父母相当監護可能であって

         子
ため
特別必要あれば(養子、実父母、検察官の求めによって

             審判
離縁することできる



 
  特別養子
養親
(虐待 遺棄)子利著害事由あれば

    監護「
たせぬ自由81710」はない実父母相当監護可能なら

                          
離縁審判
できる也。



  
特別養子離縁となればたせぬ一意 817の11解消

         実父母
とその血族
親族関係その復活をする


 
 縁組の解消である離縁にも、離婚同様、
裁判離縁協議離縁の二種類があります。当事者間に離縁意思の合致
があって、離縁届けがされれば、任意に協議離縁ができます。
 そして、任意の離縁ができないときは裁判離縁となりますが、裁判離縁には法定の離縁原因
(民法814条1項)があり、
その離縁原因たる事由が認定されても、裁量により離縁請求が棄却される場合がある
(民法814条2項770条2項)点も、
離婚と同様です。

 縁組能力がないとされる15歳未満の者については、養子縁組の際の代諾と同様に、原則として養子の父母
(離縁後に法定代理人となるべき者(811条2項))が代諾することにより離縁することができますが、養親との「離縁の訴え」
でも同様に父母が当事者となります
(民法815条)
 一方当事者が死亡している場合は、生存当事者からのみ離縁を申し立てることができ、死後離縁と呼ばれます。
死後離縁には、家裁の許可が必要です
(民法811条6項)養親の死後に遺された養親の親族、或いは、養子の死後に遺
された縁組後に産まれた養子の子等の扶養の関係もあることから、家裁のチェックが必要であるとされます。

 、夫婦養親が未成年の養子と離縁する場合は、縁組の際の夫婦共同縁組
(民法795条)の理念を貫徹する趣旨から、
夫婦共同で離縁しなければなりません(民法811条の2)

 離婚には、大別して協議離婚裁判離婚の二つがあって、それぞれ合意と強制の性質を持ち、その中間に、
調停離婚と審判離婚があると述べましたが
離縁についても上の二種類の中間に調停離縁と審判離縁があります。
家裁での手続きのあらましについてこちらもご覧下さい。





協議離縁

 
縁組能力がないとされる15歳未満の養子の協議離縁については養子縁組の際の代諾と同様に離縁後に法定代
理人となるべき実父母が子の代わりに養親との離縁協議に臨みます
(民法811条2項)。「代諾離縁」と言います。
 
実方の父母が離婚しているときは、その協議でいずれかを離縁後の親権者と定めて、親権者となった親が離縁協
議に臨みます(民法811条3項)。しかし
親権者を定める協議ができないときは家裁が協議に代わる審判で親権者を決
めることになります(民法811条4項)
 養子に「離縁後に法定代理人となるべき者」がいないときは、求めによって、家裁が離縁後未成年後見人となる
べき者を選任します
(811条5項)
子の身分行為の代理について、こちらもご覧下さい。

 
協議離縁届けには婚姻届けの民法739条が準用される(民法812条)ので、縁組時(§799)と同様に成人の証人二人の
署名・押印と共にした協議離縁届けが必要です。

 又、
離縁届けは、上記の代諾離縁の要件を具備していること(§811Ⅱ~Ⅴ)、一方当事者が死亡している場合に
は家裁の許可があること
(§811Ⅵ)、夫婦養親が未成年養子と離縁する場合は夫婦共同離縁となること811の2)
証人の要件を満たしていること
739Ⅱ)、その他法令に違反していないことが確認されないと受理して貰えま
せん
(民法813条)
 しかし、この審査に戸籍係のミスがあっても、ひと度「受理」されると、
  「
離縁は、そのためにその効力を妨げられない」とされています(民法813条2項)

 また、離縁の効果としての復氏
(§816Ⅰ)をせず、縁組の日から7年を経過した後の離縁で 養氏続称 を希望
する場合は
3か月以内に役所に届けることになります
(戸籍法73条の2、民法§816Ⅱ)



単独離縁(死後離縁)

 養子縁組は、当事者双方の意思の合致と縁組届けによって成立し、養子と養親・その血族との間に親族関
係が生じます
(民法727条)。そして、縁組当事者の一方が死亡すると、養子・養親間の養親子関係は消滅しま
すが、
 ①養子と養親の血族との親族関係
(養親が死亡した場合)、或いは、
 ②縁組後の養子の配偶者や子と養親・その血族との親族関係
(養子が死亡した場合)は継続します。
このとき、離縁が任意の協議で成立するのだから、一方の死亡に当たっても残存当事者が残った親族関係を
任意に解消できるとすると、不都合が生じ得ます。①の場合では養子が相続を受けながら、養親の親族の扶
養を免れる、②の場合では養子の子の養育が打ち捨てられる等して、死亡当事者の思いに反する結果となり
かねません。そこで、民法は、一方当事者が死亡した場合、残存当事者が離縁をするには、家裁の許可を要
することとしました
(民法811条6項)811条6項には、「生存当事者が離縁を・・することができる」とあり
ますから、縁組当事者以外の親族からこの許可の申立てをすることはできません。
生存当事者は、許可審判を得て、審判書を添え、届け出ることによって離縁となります
(戸籍法38条2項70条)


裁判離縁
 裁判離縁でも、その離縁原因として、離婚の際の離婚原因と同様、法で定められた具体的と抽象的の二種類の
離縁原因があります。
 具体的離縁原因は、
悪意の遺棄3年以上の生死不明という二つの個別原因であり、抽象的離縁原因は、
 離婚におけると同様の「
縁組を継続し難い重大な事由」とされています(民法814条1項)
そして、離縁にも、裁判で離縁事由が認定されても請求通り離縁が認容されない裁量棄却があります
(民法814条2項)
ですので、その際の判断にも、昭和62年の離婚判例
(最判62・9・2)で示された裁量棄却事由の判断同様の判断が働く
ものと思われます。

 したがって、当該離縁請求に裁量棄却事由が有りや無しやの判断は、
離縁の請求が正義・公平の観念や社会的倫理観に反するものであつてはならないので、当該離縁請求を認容する
ことが、当該の縁組を巡る当事者の意思・感情、離縁により被る社会的・経済的影響等の諸事情の下で、未成熟子
である養子や高齢の養親等の当事者に極めて苛酷な状態を招来することとなる等の特段の事情があって、
 著しく社会正義に反する結果となることはないか、或いは、
離縁が有責当事者からの請求にかかるものであれば、その責任の態様・程度が著しく重く、
 その者による離縁請求を認容することが著しく信義誠実原則に反する結果となることはないか、
の判断にかかり、これらの点がない限り離縁請求は許される。」と引き直して述べることができるのではないでし
ょうか。

 
判決で離縁が確定したときは、原告となった者は10日以内にその旨の離縁届けをしなければなりません。
 調停や審判等で離縁が成立したときも同様で、手続きを起こした者が成立した手続きを明示して届けます。
訴えや手続きを起こした者が定められた届出をしないときは、その相手方からも届出することができます
(戸籍法73条
63条、戸籍法施行規則57条Ⅱ、家事事件手続法268条287条)
。前記10日の期限は、それを過ぎてしまったからといって届出ができ
なくなる訳ではありません。その日を過ぎると、相手方からも届出が可能となる基準日ということになります。




  裁判離縁廃養814 
 
      
(3年以上)生死不明悪意の遺棄

   
やっていけない
大事おおごと(縁組を継続し難い重大事由)

      
いずれか具備をするならば離縁
なしマル770なるも

               
遺棄 か或は
 (生死)不明なら裁量棄却もありるよ 

                          
§770は裁判離婚の離婚原因に関する規定



  養縁破綻はたん 811 (には)

     離縁
配意
811 (があって)協議離縁ができる
  



  
()十五() 815未満 離縁

    
(養子)本人 事情ようわん811

     
(離縁後に)()( )たるべき実親

    代諾
するか、さもなくば離縁の訴えできる也





  養子
父母ちちはは離婚ならば

   協議
れか一方親権者にとむべし。


  
協議不可なら審判による。法代たるべきなくば

         
めによって裁判所後見人選任
 

 
  
養縁者一方 死亡した離縁は、家裁 許可          

   
§815は養子が十五歳 未満である場合の離縁の訴えの当事者に関する規定 



成年被後見人の離縁
離縁届け
詐欺・強迫による離縁 (離縁取消し)
離縁無効

 離縁には成年被後見人の婚姻に関する738条婚姻届けに関する739条詐欺強迫による婚姻の取消に関する
747条が各準用になります
(民法812条)
 この準用により、離縁も、身分行為なので、財産行為に関する行為能力の制約がなく、従って、後見人の同意を
要せずに本人単独で、離縁に臨むことができる旨定められていることになります
(738条812条)
 又、届出によって効力が生じるので、離縁意思と共に届出が必要であり、それには成人二人の証人が必要となり
ます(739条812条)
 離縁が詐欺・強迫によるものであれば、
離縁の取消しが可能です(但し、詐欺が分かり、強迫を免れてから6か月以内に取消
請求をしないと取消権が消滅します。この場合、婚姻取消しでの3か月を6か月と読み替えて準用されます、)(747条812条)

 なので、離縁意思がない場合は、はじめから
離縁無効ということになり、第三者から離縁を前提とした主張をさ
れたときには、取消裁判を待つことなく無効の主張をすることができます。しかし、戸籍上離縁の記載が載ってし
まうので、戸籍訂正をして貰いたい場合は、そのため離縁無効の確認を得る裁判の手続きを践まなければなりま
せん。こちらをご覧下さい。


    
離縁なる養子縁組 破綻 812

      
精神
(被後見人)738めて

     証人二人伴難避
739 ()

          
(離縁に)()() があれば
 
     
詐欺
強迫れて六月むつき

     
ナシ747 (取消し) めばやまるのに8062六月むつき経過追認取消請求できぬ也

§738は成年被後見人の婚姻に、§739は婚姻の届出に、§747は詐欺又は強迫による婚姻の取消に、§8062配偶者の同意が詐欺強迫に因った縁組の取消し等に関する規定






離縁の効果

 離縁の効果としては、
  ① 養親及びその血族との間の親族関係の終了
(民法729条)
  ② 復氏
(816条)
  ③ 縁組によって氏を改め祭祀主宰者となっていた養子が離縁する場合の祭祀財産の承継
(817条769条)
  ④ 離縁後に残る婚姻障碍
(736条)等があります。

 当事者の一方の死亡後の離縁は、家裁の許可を必要とします
(民法811条6項)。死亡によって養親子の関係は当然に
終了しますが、養親族関係が継続するので、それを終了させるものです。養親の一方が死亡し、他方は生存する場
合、完全な離縁のためには、生存親とは通常の離縁をし、死亡親とは死後離縁をすることになります。
 離縁の当事者は、養親又は養子であって、その親族から離縁を求めることはできません。
 養子の配偶者が養子の死後、養親との姻族関係を終了させたいと望むときは、姻族関係終了の意思表示をすれば
足ります
(民法728条2項)
 
離縁や姻族関係の終了によっても、一旦直系の姻族となった間柄である以上、その後の婚姻は禁じられます。
                                                     (民法736条)(→近親婚)
 離縁によって復氏となる( 但し、夫婦養親の一方とのみ離縁する場合は、復氏は伴いません )のが原則である点は、
離婚復氏と同じですが 、離縁後3か月以内の届出により、離婚における婚氏続称のような養氏続称が可能とされる
のは、
縁組後7年以上経過したケースの場合に限られます(民法816条2項)
 復氏すると縁組前の戸籍に入る
(戸籍法19条)ので、縁組を重ねる転縁組のケースでは実氏ではなく離縁する縁組
の直前の縁組での養氏に復することになります
(こちらの婚氏続称を参照下さい)
 
祭祀承継については、離婚時のそれに関する民法769条が準用され、協議によって祭祀主宰者を決めて、主宰者
が祭祀財産を承継することとなりますが、協議ができない、或いは協議が調わないときは、家裁が決めることとな
ります。こちらをご覧下さい。





   なつ729でも養子(縁組後の)なら

     
離縁によって(縁組による養孫の)縁切れる



  養子
並びにその孫子まごこそれぞれの配偶者


    七福729一族離縁によって

           
養親その血族縁切れる



   離縁したなら実氏(縁組前の氏)いろ816在縁 七年

   
(縁組前の氏に)なく三月みつき

   
名務して
767養氏続称 できる


     
「養」破綻816続称


  §
767は離婚による復氏と婚氏続称の規定。「して」は7の伊語「セテ」、西語「シエテ」から



   改姓養子祭祀いでいた場合な817

   
離縁(離婚の)南無矩769準用協議祭祀者廃置817する

      協議不調
家裁



   
仏壇仏具
() 祭祀()(祭祀)主宰者

       
その
承継離婚時769離縁時廃置817

     
っても
くな897(祭祀承継者を)めねばない


   §769は、離婚復氏の際の祭祀承継に、§897は、相続に伴う祭祀承継に関する規定




   
養親養子離縁後婚姻なさる736禁忌也


    養親子離縁したならなさろう736とおいなしは浅慮也

    養子
並びに その
(系)(属)それぞれの連合いも

                (いずれも)
()()とは禁婚間


 なお、終生扶養を受けたいとの動機から養子縁組をし、それとほぼ同時に、その代わり所有する不動産の大半を
養子に遺贈するとの遺言をしたものの、その後養子に対する不信を深めて協議離縁に至ったという経緯に鑑み、
遺言の撤回
があったとみなされた事例判例
(最判昭56・11・13)があります。



離縁無効

協議離縁無効確認調停

 養子縁組は、届け出ることによってその身分行為が完成して成立し、それに伴い重要な各種の効力が発生
しますから、その受理には、障害事由の有無の審査が重要です。
 しかし、この身分関係を解消する離縁については
親権者の定め等の要件を具備し離縁意思の合致があ
り、届出が受理されれば、離縁は有効に成立します。
 離縁の効力は、縁組の解消が将来に向けて生じるだけなので、詐欺・強迫による離縁は、後から離縁取消
しの裁判の余地が残りますが、そうでないものは、その身分行為の核心である離縁意思の合致を重んじて、
その余の点に関する受理審査にミスがあっても、離縁の効力は妨げられません
(813条2項)

 但し、
離縁意思の合致がなかった場合は、その離縁は当然に無効ですから、第三者から離縁を前提とし
た主張をされたときには、離縁取消し裁判を待つことなく、無効の主張で対抗できます。

 
とは言え、戸籍に存在する離縁の記載を訂正 (戸籍の記載が、不適法又は真実に反するとき真正な身分関係に一致させるよう
是正すること) 
しなければなりませんから、その戸籍訂正のためには、その離縁が意思の合致がない故に無効である
と確認する裁判を経る事を要します
(戸籍法116条)しかし裁判所では調停前置主義という原則(家事事件手続法257条)
があるため
まずは家裁で調停が行われることとなり調停で当事者間で合意に達すると合意に相当する審判がな
されます
(家事事件手続法277条)(→家裁手続きのあらまし)

 
調停が不成立で終わると、家裁での人事訴訟「離縁無効確認の訴え(人事訴訟法2条3号)で争うことになります。
でも、いわば虚偽戸籍の被害者であるのにこの様な手続上の面倒を背負うというのはいかにも理不尽です。
こちら
も参照下さい。



 
制度について

 
成年養子を除く普通養子及び特別養子は、いずれも子との間に法的な親子関係(嫡出親子関係)を築いて養育をする
という、民法に基づく、個人による縁組制度ですが、
 保護を要する子に対し児童福祉法に基づいて児童相談所と都道府県との連携の下に、
 家庭的な場で、法的親子関係を伴わずに養育を行う
のが「里親」制度です。

 主としては、原則18歳までの児童を対象とする「養育里親」
 (児童福祉法6条の4①) 
       原則15歳未満の児童を対象とする「
養子縁組里親 (児童福祉法6条の4②) があります。
                                     (→特別養子縁組における養子の年齢)
 後者は、
特別養子縁組の成立を目的として、児童相談所からの委託により成立し、その後、試験養育期間を経て、
家庭裁判所へ申し立て、家裁の審判により特別養子縁組が成立する
というように進みます。
 里親を希望する場合は、欠格事由
(児福法34条の20)にあたらない等 定められた要件を満たす事が確認された後、
必要な研修を受け、審査の上、都道府県ごとのそれぞれの名簿に登録されると、里親資格を得ることになります。
児童相談所長は、特別養子縁組の適格確認の請求に係る児童について、養親となることを希望する者が現に存しな
いときは、養子縁組里親その他の適当な者に対し、当該児童に係る特別養子縁組の請求を行うことを勧奨するよう
努めるとされています
(児童福祉法36条の6の2Ⅱ)

 そして、要保護児童との出会いの後、面会・宿泊等の交流を通じその子との適合性等が確認されて、その子の
里親に選定されると、里親委託を受け、実際に養育が始まることとなります
 (児童福祉法27条1項3号) 

 
里親が子を養育するための経費や生活費等については定められた額の支給を受けることができます。
 厚生労働省のこちらのホームページをご覧下さい。左下「里親リーフレット」をクリックすると、里親体験談や
里親制度のポイントを読むことができます。



後 見 は、狭義においては、
 
親権者のいない未成年者及び弁識能力を欠く常況にある成年者身上監慮と財産管理 を目的とする
制限的行為能力者保護
制度の一つとされます (→ 法定後見(広義) 仕組みのあらまし をご覧下さい)

条文の配置について

 民法は、第五章後見」の冒頭に「後見の開始」の規定(838条)を置いた後、上記の内の未成年者の後見に当た
未成年後見人の指定に関する規定(839条)、未成年後見人成年後見人の選任(§840§841§843)、解任欠格
に関する規定
(§844§847)を置き続いて後見人の監督に当たる後見監督人に関する各規定(§848§852)
を置いてい
ます。
 したがって、やや惑わされるのですが、後見人のそれら任免等の規定の後に、続くべき後見人の任務等の規定が
来ずに、先にこの必ずしも必須の機関ではない後見監督人にまつわる下記の規定が並びます。
(但し、そのうち852条より後の条文は、後見監督の「款」が終わって、次の節「後見の事務」に入っています。)

 続く
後見事務の規定(第三節)(§853§869)中に、上記財産管理の規定(859条)、未成年者に対する身上監護の規定
(857条)
、成年者に対する身上配慮の規定(858条)が置かれています。
そして、第四節
後見の終了(§870§875)後見の章が終わります。

なお、民法は、第一編「総則」第二章第三節 「行為能力」の中で、後見の対象を、未成年者
(民法5条)及び 成年者の
うちの精神上の障害に因る弁識能力欠如常況者
(7条)と定め、後者については同条で「後見開始の審判」がある旨を
規定します。前者 未成年者については、第四編第四章「親権」の818条から837条までが第一義的に適用され、
同編第五章冒頭の838条で親権者がいない場合に、上記成年者に関する開始審判のあった場合と合わせて、「後見
開始」となる旨を
定めています。つまり、未成年者については、親権者がいない状況が生じれば、同時に当然後
見が開始
されます
(未成年者については「後見開始の審判」がありません)

次の第六章が「
保佐及び補助」です。こちらも後見同様、総則中に、
 
成年者のうち精神上の障害に因り弁識能力が著しく不十分である者(11条)が「保佐」の対象、
 
成年者のうち精神上の障害に因り弁識能力が不十分である者
(15条)が「補助」の対象で、
それぞれに「保佐開始の審判」、「補助開始の審判」がある旨が定められています。
「保佐及び補助」の第六章も 条文の配置が異色で、初めの876条だけが独立した一箇条で
保佐の開始」です。
   以下、876条の2から876条の10まで、この章全てが枝番で連なります。
それも、876条の6
補助の開始(保佐に関する)876条の4(補助にかんする)同条の9の各代理権付与規定以外は、
   いずれもその2項以下
(876条の10は1項から)が 一目瞭然 準用規定の羅列です。
   そして、その殆どが
成年後見(或いは成年後見と同様 委任、親権)規定を準用しています。
 配列は、保佐(876条の2から同条の5)、補助(876条の6から同条の10)の順で、
  まず
選任関係の規定、次いで監督人、代理権付与の関係と続き、事務任務終了関係の規定で終わります。又、
 ここでの監督人についても、下記後見監督人と同様の準用がされています
(各「準用」の下線クリックでご覧下さい)
 要するに、後見・保佐・補助の何れについても、配列は「保護開始・任免・監督・事務・終了」の順で並びます。
  そして、保佐と補助では、「事務」の冒頭に、事務権限としての代理権付与規定を置いています。

後見監督人にまつわる規定
(配置) その条句でまとめたものがこちらです。

 
①後見監督人の
   
指定(「指定することができる」とあります。§848)
   
選任 ( 請求によるほか、家裁の職権によっても選任できます。§849)
   
欠格(§850)の規定と後見監督人の職務に関する規定(§851)、そして、

 
②後見監督人について852条により準用される 

     ア 
委任関係規定 (§644(善管注意義務)§654(終了後の処分)§655(終了の対抗要件))、
     ィ 
後見人関係規定 (§844(辞任)§846(解任)§847(欠格)§861Ⅱ(事務費用)§862(報酬))、

 
③また、同条により未成年後見監督人に準用される
     ア
選任基準規定 §840Ⅲ
     ィ
数人時権限規定 §857の2

  
同じく成年後見監督人に準用される
     ア
選任基準規定 §843Ⅳ
     ィ
数人時権限規定 §859の2
     ウ
居住不動産の処分要許可規定 §859の3


法定後見(広義)仕組みのあらまし 
 
子は実親や養親の親権の下に入りますが不幸にして親権による保護に与れない場合は後見(未成年後見)により
保護されることになります。
 その
精神障害により財産的な弁識能力が法律行為を自ら行うのに必要な行為能力に及ばない人の為の保護
の制度として、その能力を欠如する常況にある人のための
後見(成年後見)(民法7条)著しく不足する人のための保佐
(民法11条)不足しているがその程度が著しくない人のための補助(民法15条)の各制度があります。
 これらを総称して広義の法定後見と言い、未成年者を含めこれらの人を制限行為能力者と言います。物事を正
常に判断できる意思能力を有し、自ら単独で 財産的な法律行為をなし得る能力を「行為能力」とし、又、意思能力
に欠け、そのために、行為の後になって取引等が無効とされる様なことのないよう、予め これら「制限行為能力」
を措定して、これらの者に保護を与える
(これにより取引相手も保護されます)のが「法定後見」制度の趣旨です。
 

 成年後見は、被後見人本人がその能力的制約から、
(日用品の購入等日常生活に関する行為を除き) 自分で法律行為をする
ことが殆どできないので、後見人が法律行為を
代理することにより保護がなされます。
 未成年後見においても、同様に代理による保護がなされますが、本人が弁識能力を備えている場合を想定できる
ので、本人の行為に後見人が
同意を与えるという形での保護も合わせ行われます。
 また、後見人は、後見対象者が未成年であると、成年であるとを問わず、被後見人がなした行為を取り消すこと
ができます。

 保佐と補助
それを受ける本人に 制限的ではあれ 行為能力があるとの前提ですので基本的に本人の行為
(原則 民法13条1項掲記のもの)保佐人補助人が同意するか否かのチェックをすることにより更に保護を十全
にするため、本人が望み、或は、同意をすれば、保佐人・補助人に、特定の法律行為に関する
代理権を付与する
ことによっても、保護しようとするものです。
 保佐人・補助人の同意がないままになされた行為は、取り消すことができます。また、「補助」は能力的な制約
が最も低い類型ですから、補助開始の審判には、本人の同意を要するとされています
(民法15条2項)

 
後見には、制度として代理権付与が初めから、特定の法律行為への限定なしに、伴っています(859条1項)親権
にも824条により初めから同様の代理権が与えられていて、後見・親権いずれにおいても、
これを「代表」と表し
ています。
保佐と補助においては 必要に応じ個別に特定の法律行為について代理権付与の審判をします。この
審判による代理権付与には
(本人以外の請求にかかる場合) 何れも本人の同意を要します
(民法876条の4第2項876条の9第2項)

 保佐と補助では、上記のような弁識能力の差が、例えば単独でできる重要財産行為の範囲の広狭に現れます。
具体的には、保佐では、民法13条1項所定の行為全てが要同意です(民法13条1項)が、補助は
その内の一部で 審判
によって特定された行為が要同意となります(民法17条1項)
(上記付与に係る代理権に関しては、保・補何れにも13条限定がありません)
 ですから、保護態勢としては、補助は保佐のミニ版と言うこともできます。但し、保佐も補助も、上記成年後見
同様、本人の日常生活行為については
何らの制限も伴いません。ですから、日用品等の購入の他、光熱費水道
料・電話代等の支払いや、そのための少額の預貯金の払戻し等は、能力問題で取り消される懸念がありません。

 平12年の法改正の際に、後記の任意後見制度と共に導入されたこれら新しい後見制度の指導理念は
  「
自己決定権の尊重」 「残存能力の活用」 「ノーマライゼーション
です。「禁治産者」というネーミングに典型的に現れていたように、精神障害を伴う人にレッテルを貼り差別する
ことで、精神障害を伴う人を社会から切り離すかの観を呈していた旧法時代の観念・スタンスを改め、そのような
人を社会から遠ざけず、社会の一員として健常人と共に助け合いながら社会を築いていこうとするのがノーマライ
ゼーションです。
そのためには、その人の自己決定を尊重し、合わせて、その人に残された能力を活かし伸ばそう
というのが、上のような「日常生活行為の不可侵」です。

 上記の法改正までは、「浪費者」を「盲者」「唖者」「聾者」と並んで「準禁治産者」としていました。何れも
裁判所による審査を経るとは言え、前者は、消費の個人的傾向を理由に財産処分の自由と自己決定権を侵害するも
のとして、後三者は、障害自体を能力的に劣る徴表として差別視するものとして、いずれも強い批判を免れません
でしたから、廃止となりました。


 
後見は、上記の様に本人が自ら法律行為をすることが殆どできない人ですから、後見人が被後見人 (以下、保護を
受ける人を、私は、ときに「被○○人」と言わず、「○○本人」或いは単に「本人」と言います)
(条句の中では、さらに略して、被後見人、
被保佐人、被補助人をそれぞれ「被後者」、「被保者」、「被補者」と呼ぶこともあります)
に代わって財産管理と法律行為の代理(代表)
に当たります
(民法859条、管理・代表については親権者にも同様の規定824条があります)
 したがって、それに伴う 大きな権限と共に、 
管理・代表のための 事務を担い、規制を受けることになります。
 保佐・補助にはその面での事務や規制が伴いません。

 
管理・代表のための 事務を担うこととなる、後見人に対しては、例えば、

 債権債務の申出義務、財産の調査と目録作成の義務、
 支出の年額予定義務、後見計算義務等々
(親権者にも管理計算義務があります)

の規制が伴いますが、これらは保佐・補助にはありません
(被保佐人・被補助人は、その財産を自ら管理することができるので、
保佐・補助には管理の任務がありません。このことは、被保佐人・被補助人に可能な行為の範囲にも現れます。→時効の完成猶予・更新)

「代表」については、こちらもご覧下さい。

 保佐・補助の違いの具体的説明、保佐・補助の開始についてはこちらを、
 保佐人・補助人の任務・権限等についてはこちらをご覧下さい
(その条句をまとめたこちらもどうぞ)
 保佐・補助の関係事項は、保護開始や保護態勢等こそ後見と異なるものの、その他は
(未成年後見を除く) 
 成年後見の関係と共通するものがあり、選任関係、事務関係、終了関係等、殆どが後見規定の準用です。

 そして、成年後見・保佐・補助の関係事実等は、取引の安全・敏速のため後見登記簿に記載され、請求により開
示されます。なお、未成年後見は戸籍に記載されます
(戸籍法81条82条84条85条)
 ですので、
成年後見・保佐・補助の法定後見制度と後記任意後見制度の各利用者の事項、法定後見の各開始審判
や法定後見での
代理権限事項並びに 任意後見契約の契約内容等は登記事項として東京法務局の後見登記課にお
いて登記され
(登記申請は東京法務局の窓口で行います)、公示されますが、その開示は、本人はじめ一定の権限を有する者
の請求により、地方の法務局でも登記事項証明書の交付によって受けられる仕組みとなっています。


 
ここでは、まず狭義の後見について、その開始(民法838条)から、未成年後見人の指定(839条)、後見人の選任
(840条843条)・父母による未成年後見人選任請求(841条)、未成年後見人による親権代行(867条)、後見人の辞
(844条845条)・解任(846条)・複数選任時の権限(857条の2859条の2)まで、主として後見人の選任関係等を中心
に関連する規定を概観してみたいと思います。



後見開始
 後見は未成年者に対して親権を行う者がないとき若しくは 親権を行う者が管理権を有しないとき又は
     ②
後見開始の審判があったとき に開始されます(民法838条)
 前者は未成年後見、後者は成年後見と呼ばれます。

 未成年者に対する保護は
本来の親権による保護が叶わない時のここでの未成年後見の一種があるだけですが、
 成年後見は、成年者に対する保護として、財産行為に関する弁識能力の程度に応じ、
  これを欠く常況にあるときの、ここでの成年後見のほか、
  同能力が著しく不足する「保佐」、不足するが著しくはない「補助」
 の三種の保護がある内の成年後見であり、以上の二種の後見に関する開始の定めが民法838条です。

 未成年後見
の開始は
親権を行う者がないという事実ない訳ではないがその者が管理権を失うという事実
が発生すると同時に後見開始となる定めとなっていますが、実際には後見人の指定
(§839)も選任(§840)もない侭に
親族等による事実上の保護がなされているという現状があると言われますし、事実上の保護さえない放置の事態も
あるのではないかと懸念されます。

 未成年後見のその様な現状を正規の扱いに乗せ、後見による身上監護や法定代理等を通じて保護が行き届くよう
にする必要があります。
 また、児童福祉法 33 条の8によれば、親権を行う者がない児童等については、その福祉のため必要あるときは、
児童相談所長が未成年後見人の選任を請求しなければならず、その
児童に親権を行う者又は未成年後見人があるに
至るまでの間、児童相談所長が親権を行う
とされていますので、法律上、必要があるのに親権或いは後見による保
護から漏れる児童があってはならない筈なのです。
 児童相談所の体制を一層強化して、これらの規定が万全に機能するようにしなければなりません。
 
児童の保護者と共に、児童を心身ともに健やかに育成する責任を負う国及び地方公共団体(児童福祉法2条3項)は、
親権者等の保護を受け得ない状況にある児童に福祉が行き届くようきめ細かな体制を整える責務があります。
離婚後の親権・後見については、こちらもご覧下さい。

 


   
       家族団欒 晩餐838無縁となりし孤老孤児

       
ありてやさはん
838(優しさの手本(造語)後見開始



      うしろ から
          
 
のあるにより

        前途
838ないように

               
 未成年者親権がいない とき

             
   ②いても
(財産)管理 (権有しないため)のできぬとき

        
       
(識)(力)欠如常況者(§7) (成年後見)開始審判  ありしとき

            
後見開始される


後見人
の選任

 
民法は、未成年後見人の指定について、最後に親権を行使する者は、遺言で後見人の指定ができる旨を同法
839条で、遺言による指定のない場合の
未成年後見人の選任について、未成年者本人、その親族、利害関係人の
請求によって家裁が後見人を選任する旨を規定しています。
 未成年後見人の選任基準についても、840条

 
未成年被後見人の年齢、心身の状態並びに生活及び財産の状況、未成年後見人となる者の職業及び経歴並びに
未成年被後見人との利害関係の有無
(未成年後見人となる者が法人であるときは、その事業の種類及び内容並びにその法人及び
その代表者と未成年被後見人との利害関係の有無)
、未成年被後見人の意見その他一切の事情を考慮しなければならない。

と合わせて規定し、
 又、841条では、父母が親権を喪失等した場合、必要あれば父母から遅滞なく選任の請求をしなければならない
旨を定めて、未成年者の保護が切れ目なく継続するよう配慮しています。
 「遅滞なく」とは、平たく言えば「すぐに」という意味ですが、正当な、又は、合理的な理由で遅延し
      た場合は 許される、という意味合いが伴います。こちらをご覧下さい。

 なお、
離婚後親権者となった親は、この「最後に親権を行使する者」として、後見人を指定することができます
が、遺言による被指定者は子の親とは限りませんし、この場面で、片親の死亡により生存親が当然に親権者となっ
たり、後見人となるものでもないことは注意を要します。こちらをご覧下さい。

 民法842条は、未成年後見人は一人でなければならないという規定であったのですが、平成23年の民法改正時に、
削除されました。後見人を一人に限定してしまわずに、事案の内容等の諸事情から後見人が複数いた方が相応しい
場合に備えるためです。

 そして、同じ改正時に840条の2項
3項が新たに加えられこれにより家裁は未成年後見人を追加的に選任して、
後見人を複数体制とすることも可能となり、合わせて、法人を後見人に選任することも可能となりました。
                            
(なお→「未成年者に対する共同後見」)
 又、同時に新設された857条の2では、未成年後見人が複数の場合、統一した保護を行う必要性から共同後見
するのを原則とし
場合によって必要に応じ財産管理の権限を内一人に担わせたり同権限を分掌したりすること
ができる旨を定めて、未成年後見人複数時の権限関係を明確にしました。

 なお、遺言によって指定された未成年後見人は、遺言の効力発生と同時に就任する形 ( 例えば、遺言執行者について

は、1007条のように就任の諾否を前提した条文がありますが、この場合はその様な規定がなく、遺言の効力発生と同時に指定の効力が生じて

就任となると解されています )
 となるので、就任を望まないときは、844条の辞任の規定による他なく、その場合は、

就任意思のないことが同条に定められた辞任の「正当な事由」となるものと解されます。

 次に、
成年後見人の選任については、民法843条が、家裁が後見開始の審判をするときは、同時に、職権で
後見人を選任するとして、その際の選任基準も合わせて規定しています。それによれば、選任は、

成年被後見人の心身の状態並びに生活及び財産の状況、成年後見人となる者の職業及び経歴並びに成年被後見人
との利害関係の有無(成年後見人となる者が法人であるときは、その事業の種類及び内容並びにその法人及びその代表者と成年被後見人
との利害関係の有無)
、成年被後見人の意見その他一切の事情を考慮しなければならない。
とされています。

 なお、843条2項は、成年後見人が欠けたときは、家裁は、成年者本人、その親族、利害関係人の請求により、
選任請求がなくても職権によって後見人を選任することができる旨を同条3項は、家裁は、既に成年後見人
が選任されている場合であっても、必要があれば、同様に請求により、或いは、職権で、更に選任して後見人を
複数とすることができる旨を、それぞれ定めています。

 実は、上記平成23年の改正で削除された「単独」規定 842条は、その前、平成11年まで存在した
(成年・未成年の別
なしの)
「後見人単独」規定を、未成年後見のみを対象とする形へと改正したことによるものでした。つまり、成年
後見人複数の社会的要請が先に実定法化され、平成23年に未成年後見もそれに続いた形ですが、社会の進展に伴う
後見人複数の要請は必然の流れであった訳です。

 そして、この成年後見人が複数の場合の権限について、民法859条の2が、
本来各自単独行使であるところ、
家裁において共同行使としたり、或いは、権限を分掌して行使させることができる旨を定めています。
                       
(未成年・成年で、権限原則が、共同・単独 逆になります。)

 後見人の複数態勢については、未成年後見・成年後見のいずれについても、上記の様に家裁が定めた権限態勢を、
家裁の職権で取り消すことができる旨、並びに、後見人が複数あるときは、第三者の意思表示は、その内の一人に
対してすれば足りる旨の定めが置かれています
(857条の2 Ⅳ・Ⅴ859条の2Ⅱ・Ⅲ)


未成年後見指定
 民法839条1項は、
未成年者に対して最後に親権を行う者は、遺言で、未成年後見人を指定することができる
 ただし、管理権を有しない者は、この限りでない。

と定め、同条2項は、
親権を行う父母の一方が管理権を有しないときは、
 他の一方は、前項の規定により未成年後見人の指定をすることができる。

とします。

 親権は、父母によって共同行使されるのが原則
(民法818条3項)ですが、離婚によりいずれかの単独親権となります
(民法819条)。その場合の親権者は、最後の親権行使者と言われ、その者による保護の後は、取敢えず未成年後見に
委ねられます
(→離婚後の親権)

 それで、最後の親権行使者は、一人で遺言によって、自らの保護を離れることとなる子のために未成年後見人を
指定することができます。
但し、管理権を有しない者 (つまり、監護権のみを有する者) については、自ら保有しない権限
を含めての指定はできないので、監護・管理の両権限を有すべき後見人の指定をすることはできません。

 父母が 通常どおり親権の共同行使をするのではなく
一方が管理権を有さない (が、監護権を持つ)場合他方は遺言
により後見人の指定をすることができると、839条2項は定めます。しかし
この場合指定された後見人は管理権
のみを有し
監護権は残った(管理権を有しない)親が引き続き行使することになります。

 つまり、後見人指定権は、完全親権者または管理権者にのみ認められており、監護権者には認められないこと、
そして親権の内 管理権を有する者は、監護権者が別にいるときは、管理権限限度でのみ権限を行使できる後見人を
指定できる、ということです
(なお→「未成年者に対する共同後見」)

 未成年後見人指定によって、後見人となった者は、当該未成年者については、親権を行う者がない事態となった
時に 既に民法838条によって後見開始となっているので、戸籍法81条に基づき、就職の日から10日以内に、未成
年後見開始の届出をしなければなりません。



       
未成()
         最後
親権
 
(単独)行使者

        
(病み) 
839にせぬため手続きの煩瑣苦839にせず

         遺言
(未成年)後見人指定をすべし(指定が可) 



          管理権
 せぬ 指定不可


        
(共同親権)父母ちちはは一方管理(権なく)ができぬとき

              他方
遺言いごん
(後見人)指定  



         親権最後者


          手続
きの煩瑣苦839にせず遺言

                後見人
指定をすべし




未成年
後見人
選任 
 
民法840条は、
前条の規定により未成年後見人となるべき者がないときは、家庭裁判所は、
未成年被後見人又はその親族その他の利害関係人の
請求によって、未成年後見人を選任する。
未成年後見人が欠けたときも、同様とする。

と定めます。

 民法838条
後見は、次に掲げる場合に開始する。
 一 未成年者に対して親権を行う者がないとき、又は親権を行う者が管理権を有しないとき

として、事由 発生と同時に後見開始
との定めになっているのですが、実際には、上記840条による未成年後見人
選任の請求がないと、(親権最後行使者による指定がある場合は別として、) 後見は行われないことになってしまいます。

 後見開始と同時に職権によって後見人を選任し、後見人が欠けたときも 職権によって選任できる成年後見
(§843)
と異なる点です(ただ、成年後見であれ、未成年後見であれ、後見人が辞任するに際して、必要があれば、遅滞なく 新たな後見人の選任
を請求する義務が課されています(845条条句))


 法は、後見の必要が生じれば、自ずと関係人等からの請求があるであろうというスタンスなのかもしれません。
それで良いのか疑問も感じるところです。

 840条の2項は、既に後見人が選任されていても、追加的にさらに選任することができる旨を定め、
 840条3項は選任に際しての選任基準として、
 「
未成年被後見人の年齢、心身の状態並びに生活及び財産の状況、未成年後見人となる者の職業及び経歴並びに
 未成年被後見人との利害関係の有無
(未成年後見人となる者が法人であるときは、その事業の種類及び内容並びにその法人及びその
  代表者と未成年被後見人との利害関係の有無)
未成年被後見人の意見その他一切の事情を考慮しなければならない。
と定めます。

 なお、選任は、前記の経緯と857条の2の文言からも、当初の選任時から複数の選任が可能となったものと解釈
することができます
(なお→「未成年者に対する共同後見」)



       親権最後者指定
なく


                  
あるまた(未成年)後見けたれば

         裁判所
心身安まる
840よう

                       
一切事情考慮して

               
840げずに (未成年) 後見() 選任



      
(成年・未成年) 後見人

            被後者
梯子はしご
845さぬように

            
(任) (に伴い、必要)ならば

              
はよ (遅滞なく) 845  (の選任) べし(請求)



成年後見人選任
 
民法843条は、
家庭裁判所は、後見開始の審判をするときは、職権で、成年後見人を選任する。
とし、同条2項は、
成年後見人が欠けたときは、家庭裁判所は、成年被後見人若しくはその親族その他の利害関係人の請求により
 又は職権で
、成年後見人を選任する。
また、3項は、
成年後見人が選任されている場合においても、家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前項に規定する者
 若しくは成年後見人の請求により又は職権で、更に成年後見人を選任することができる。

としています。

 保護を要することが前提で、親権者がいなくなる等、保護に欠けるに至れば後見が開始する未成年後見と異なり、
成年後見はその必要が生じたときに後見開始となり、後見開始と同時に職権により後見人選任が行われます。

 選任が複数になることもあり得ることは未成年後見と同じです。後見人が欠けたとき、又、先任の後見人がいる
ときでも追加的に、求めにより 又は職権で、成年後見人を選任することができます。

 そして、同条4項は、成年後見人の選任基準
成年後見人を選任するには、成年被後見人の心身の状態並びに生活及び財産の状況、成年後見人となる者の職業
及び経歴並びに成年被後見人との利害関係の有無
(成年後見人となる者が法人であるときは、その事業の種類及び内容並びにその法
人及びその代表者と成年被後見人との利害関係の有無)
成年被後見人の意見その他一切の事情を考慮しなければならない。
と定めます。

 また、
後見人が辞任するに際して、後見が必要となるケースにおいては、遅滞なく新たな後見人の選任を請求
しなければなりません
(845条)(→未成年後見人の選任)


「遅滞なく」とは、平たく言えば「すぐに」という意味ですが、正当な、又は、合理的な理由で遅延し
      た場合は 許される、という意味合いが伴います。こちらをご覧下さい。



         成年後見開始のときは


                  
家裁同時八隅
843まで

           一切考慮
職権
(成年)後見人選任をする


親から
未成年後見人選任請求  
 民法841条は、
父若しくは母が親権若しくは管理権を辞し、又は
 父若しくは母について親権喪失、親権停止若しくは管理権喪失の審判があった
 ことによって未成年後見人を選任する必要が生じたときは、
 その父又は母は、遅滞なく未成年後見人の選任を家庭裁判所に請求しなければならない。

と定めます。

 ただでさえ、保護のネットから漏れてしまう子供がいないか懸念される状況があり、親権の保護下にあっても
虐待等が噴出する世の中です。それにも拘わらず、やむを得ない事情で親権 或は 管理権を辞退
(民法837条)しなけれ
ばならないこととなったり、親権行使に問題があって、親権の喪失
834)・停止834の2)若しくは管理権の喪失
835)を宣せられたりした親でも、子に対する愛情があれば、自らの手を離れた後の子の保護を心配する筈です。

 それで、やむなく子に対し自らの保護が叶わないこととなった父または母には、子の保護のため必要があれば、
代わりの保護を切れ目なく与えられるよう、遅滞なく
、家裁に未成年後見人の選任を請求する義務が課されます。

「遅滞なく」は、平たく言えば「すぐに」という意味ですが、正当な、又は、合理的な理由で遅延した場合は
許される、という意味合いが伴います。こちらをご覧下さい。



       はした841なく?


              
親権 辞任喪失停止

         管理
() 喪失 あった(未成年)

       (未成年)後見人
 ()あれば 

            (遅滞なく) 841 (未成年後見人)  応援 むと

                       
(家裁に選任)むべし(請求義務)




後見人の欠格事由 
 
民法847条は、後見人の欠格事由を、
 ① 未成年者、
 ② 家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人又は補助人、
 ③ 破産者、
 
被後見人に対して訴訟をし、又はした者並びにその配偶者及び直系血族、
 ⑤ 行方の知れない者、
と定めます。

 同条は、これらの事由ある者は、「後見人となることができない。」としていますが、
候補者となれないことは勿論、一旦選任された者にこれらの事由がある場合、その者は、
 裁判等を待つことなく当然に後見人の身分を失い
後見人を欠くこととなるので、後任の選任が必要となるとされます。



       後見人(を選ぶときは)

             ハードル
とすな847欠格事由

         
破産未成行方ゆきがたれず


              
(家裁で)ぜられたる()(理人)(佐人)(助人)  

             
(本人に対し)訴訟した(その)(偶者)()()

           
「落とす」の「オト」は、伊語の8「オット」から



未成年者に対する共同後見
 
法は、未成年後見人840)、成年後見人843)のいずれについても、その就職は、一見、まず単独後見を想定し、
必要があれば、複数 選任することができる趣旨であると思しき定めを置いています。

 しかし、よく読めば、いずれも、初めの人数を一人に限定する文言とはなっておらず、初めから複数であっても
差支えない趣旨であることが分かります。

 特に、未成年後見については、元は842条に「一人でなければならない」とあったのを、
840条に2項
(追加選任)と3項(選任基準)が加えられて、842条が削除になったという経緯を知れば、
複数態勢の高い想定度が理解できます。

 そして、未成年後見については、それが、親の親権による庇護から脱落した子にそれに代わる保護を与えるもの
であることを踏まえれば、親権の共同行使
818Ⅲ)に代わる共同後見が相応しいケースもあることが考えられます。

 殊に、子の年齢が低い場合は一層共同後見が相応しいと言えます。当該ケースに子と保護者の適合度の高い、親
子関係に準ずる合致が認められ、保護者の年代も幼い子に相応しければ、むしろ原則的に男女共同養親とすべき、
と考えられ、更に、要件があえばむしろ夫婦共同縁組である特別養子が検討されるべきです
(後見ではありませんが、
養子縁組里親
 (児福法6条の4②)は正にそれを目指した制度です )

 親権の共同行使は、夫婦一体となっての子に対する無償の愛の具現化ですから、幼い子に対しては、特別養子に
限らなくとも、男女一体となった共同後見が理想となります
(なお→「離婚後の共同親権」、「孫養子」)

 離婚後の親権者となった親が遺言で後見人を指定する場面でも、自らの親、つまり、子にとっての祖父母を指定
する場合は、共同後見が相当と言えるでしょう。

 と言う訳で、未成年後見については、必要があって複数後見となった場合、男女の組み合わせでなくとも、後見
人らが一体となった統一的な共同後見が前提となります。

 民法857条の2第1項

未成年後見人が数人あるときは、共同してその権限を行使する。
として、未成年者の複数後見についての共同後見の原則を謳います。

同条の2第2項は、
未成年後見人が数人あるときは、家庭裁判所は、職権で、
  その一部の者について、財産に関する権限のみを行使すべきことを定めることができる。

として、例外的に、財産管理専任の後見人を置くことができる旨を、

又、同条の2第3項は、同じく職権で、
財産に関する権限について、各未成年後見人が単独で又は数人の未成年後見人が事務を分掌して、
  その権限を行使すべきことを定めることができる。

として、ケースに応じ
財産管理権限について各人単独行使としたり、或は、財産管理を数人に分掌させたりする
こともできる旨を定めています。

 各後見人が単独で権限行使したり、或いは、数人が分掌したりする場合、各後見人は相互の活動に矛盾・抵触の
起こらないよう連繋することが肝要で、もし、相互の矛盾・抵触の結果 後見本人に損害が及ぶことがあれば、本人
に対し善管注意義務を負う後見人として損害賠償の義務が生じます。




未成年後見人複数
 


     未成被後人

                  
ようごう
(「お客様は神様 」的な造語)なのに857の2

       「
後見人おれば養護857の2いうときは


             複数後見(混乱避けて)共同(行使)


     
(家庭)裁判所 

           一部
 
(産権限のみ)限定

                    
或は 財産権限各担
()又は分掌させ



         第三者
意思表示

                      
内一人
 () してすればりる

                      「しえた」は
7の西語「シエテ」から



(親権の共同行使〔参考〕)

              
  父母親権 (真剣)やっと 818Ⅲ

                   
共同行使
破綻818Ⅲない


成年後見における複数後見人の「権限 単独行使原則」
 上記の様に未成年後見においては複数後見人はその権限を共同して後見にあたるのが原則です(民法857条の2Ⅱ)が、
成年後見においては、財産が多い場合や、資産内容が複雑多岐に亘るときを想定しての複数選任なので、実効ある
迅速な処理を行うため民法859条の2は、複数後見人の権限単独行使を原則としています。
 したがって、同条の2第1項は、家裁が、例外的に
数人の成年後見人が、共同して又は事務を分掌して、その権限を行使すべきことを定めることができる。
旨を定めています。
 ですから、特に家裁から権限の共同行使や分掌の定めを置かれなかった場合は、各後見人はそれぞれ後見人とし
ての権限を単独で行使することになります。したがって、この場合、各後見人は相互の活動に矛盾・抵触の起こら
ないよう連繋することが肝要で、もし、相互の矛盾・抵触の結果 後見本人に損害が及ぶことがあれば、本人に対し
善管注意義務を負う後見人として損害賠償の義務が生じます。

成年後見人複数

       成年後見()

                 
各単独
 (権限行使)でするべきも

     (家庭)裁判所 
 

           
 鋭意この 8592洞察

              
   職権により
(権限)
             共同
分掌行使

              (
或は)ときに職権 (で、これを) 取消 



        
第三者意思の表示

                  
内一人
 () 対して すれば足りる也



後見人の辞任・解任
 
後見人は人の保護という公益的任務を帯びている為、(親権最後行使者による未成年後見人の指定の場合以外は) 裁判所
の審査を経ての選任 となる職務ですから
後見人が自由に辞任したり被後見人や親族が自由に後見人を解任でき
たりという訳にはいきません。やはり辞・解任も裁判所の手続きを要することになります。

 辞任については、正当な事由があれば、裁判所の許可によって後見人を辞任することができます
(民法844条)。
 後見人がその任務を辞することにより、新たに後見人を選任する必要が生じたときは、
  辞任する後見人は、遅滞なく 新たな後見人の選任を家庭裁判所に請求しなければなりません
(民法845条)
「遅滞なく」の意味については、こちらをご覧下さい。
  


 解任については、後見監督人・被後見人・親族からの請求のほか、公益を代表する検察官からの請求により、
  若しくは、職権で、家裁が審判により解任をします
(民法846条)
  家裁が後見人を解任する為には、その後見人にも意見を聴取する必要があります
(家事事件手続法120条1項4号)が、
   その他にも、解任すべきか否かを、民法863条1項により調査を行い、その報告を待って判断することになり
  ます。調査は、
具体的には、家事事件手続法124条により、家庭裁判所調査官を通じて行われます。

後見人辞任
       
        後見人

         
 はん
にん8762 (を)
                            
したくば

             
正当事由はしょ844らず 

                  家裁
 
 許可ねばない    

           
§8762は、保佐人の選任等に関する規定(本条が準用される)


          後見人

            被後者
梯子はしご
845さぬように

            
(任) (に伴い、必要)ならば

              
はよ (遅滞なく) 845  (の選任) べし(請求)
          

後見人解任  
      後見人(に)、

                   
不正行為 (著しい)不行跡
                                
 その不適事由あれば


             
解任請求 家裁846



             (後見)監督人被後者親族検察官() 

           
請求により或は又職権により、
(後見人を)解任できる


後見人の復任権
 後見人は、未成年者に対する最後の親権行使者による指定
(民法839条1項)か、或いは、未成年後見について請求が
あり、又は、成年後見について後見開始の審判があると
、裁判所による選任(840条843条)で、その任に就きますが、
法定代理人としてのその任務
(859条)について、必要があれば 「自己の責任で」その代理権の全部又は一部を第三者
に行わせることも可能です
(民法105条前段)復代理と言い、その選任の権限を復任権と言います。民法第一編総則中
の「代理」の節にこの定めがあります。民法105条の条文には、
法定代理人は、自己の責任で復代理人を選任することができる。
この場合において、やむを得ない事由があるときは、本人に対してその選任及び監督についての責任のみを負う。

とあり、又、民法106条には、
復代理人は、その権限内の行為について、本人を代表する。
2 復代理人は、本人及び第三者に対して、その権限の範囲内において、
  代理人と同一の権利を有し、義務を負う。

とあります。したがって、復代理人の権限は、代理人の行為に拠るものではあるものの、復代理人は、直接 本人を
代理し、第三者に対して、代理人と並んで代理権を行使します。

 後見或いは親権による法定代理の場合、代理される本人の意思による代理ではないので、その復任権は、本人の
許諾等 特に限られた条件下に認められるのではなく、いわば後見人の自由で復代理人を選任することができます。
但し、その公益的な任務に照らし、本人に損害が生じた場合は、復代理人の選任や監督について後見人に過失がな
くとも 責任を負わねばならないという重い責任が伴います。「自己の責任で」とは、その意味となります。

 復代理は
代理人権限の全部又は一部についてすることができると解されます。似かよった場面で遺言執行者に
ついて、特定行為の復任は不可とする古い判例がありますが、ここは、限定なく「選任することができる」とある
ので、特定行為の復任を排除するのには、文言上無理があると思います。特定行為についての復代理
(「特定復代理」)
も可能と解すべきです。

 しかし、後見人が、身体的・精神的その他の事情から後見を行えず、それを辞する(844条)にもその手続きをとる
暇がないとき等、やむを得ない事情で復代理人を選任する場合は、その選任及び監督について過失があったとき
にのみ責任を負えば良いとされます
(105条後段)

 ただ、やむを得ない事情があって、特定行為について復代理人を置く場合は、その余の任務についてはやむを得
ない事情がないとする以上、この責任軽減規定の適用はないとすべきと考えます。特定復代理は、やむを得ない事
情による場合も責任は軽減されず、選任・監督に過失がなくとも賠償責任を問われます。その意味で、上記古い判
例の考えには理があると言えます。

 後見人が、やむを得ない事情で復任した特定復代理人の行為により、後見本人が被害を被った場合、復代理人の
選任・監督に過失がなくとも責任を負いますから、その様な事情から復任をする場合、後見人の善管注意に則り、
その特定行為の性質・難易等と特定復代理人の人柄
力量等を吟味対比の上、選任監督し、責任覚悟で復代理権
を授与することとなります。

 しかし、やむを得ない事情 なくして復代理人を選任した場合の重い責任と言っても、天災地変等 含むいかなる
場合も全ての損害について責任を負わせるのは酷ですから、復代理人に過失がある場合に限り、後見人に対しても
賠償請求することができるとするのが、信義誠実
(民法1条2項)に叶うと言えます。上記特定復代理の場合も同様です。
             
(我妻・有泉コンメンタール第6版231頁)
(→遺言執行者の復任権)
 後見人に責任ありとして、被後見人に対する損害賠償義務が発生したときは、「後見に関して生じた債権」です
から、5年の消滅時効(875条832条)にかかります。

 なお
保佐人補助人についても保佐補助の必要上 代理権付与審判(民法876条の4876条の9)がなされたときは、
「法定代理人」となりますから
それらの者は、後見人における「代表」(859条)のような立場ではないもののその
公益的任務に照らして、「自己の責任で」復代理を選任することができ、上記同様の責任を負うとされます
(105条)
                                                (→遺言執行者の復任権)



後見人の任務

成年後見未成年後見
 (
財産管理と代表

 
成年被後見人は、財産的行為について弁識能力を欠く常況にある(民法7条)ですから(日用品の購入等日常生活に関
する行為はできますが)
殆ど自身で法律行為をすることができません。又、未成年被後見人は法定代理人の同意がなけれ
(単に権利を得、又は義務を免れる行為を除き)法律行為をすることができません(民法5条)(同意権)。
 そこで、裁判所によって選任された法定代理人
(民法859条)である後見人が必要な法律行為を代理によってする
こととなります(代理権)。
民法859条1項の条文には、
後見人は、被後見人の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為について被後見人を代表する。
とあります。

 この859条で民法は、代理について「
代表」という文言を用いていますが、これは、只の他人がビジネスとして
本人を代理するのではない、
 人を保護する
公益的立場から、財産管理(§859)のほか、療養看護858)或いは身上監護857)も含めた包括的な
権限を有する者である後見人が代理するのである、
 という意味を込めた文言であろうと思います。

 法人については、その機関が代表として行う行為は法律行為だけでなく事実行為も含め すべて法人の行為とされ
ると同じように、後見人の行為はそのまま 被後見人の行為とされる訳です。

 ですから、通常 財産管理と言うと対象財産の保存から利用・改良
(103条)まで が権限の限界とされますが、
 「代表」である親権者
(824条)と後見人(859条)は 被保護者の財産の「
処分についても、原則 権限を有します。
 
(財産の維持・保存を前提とする遺産管理人との違いについてこちらをご覧下さい。)

 只、後見人による
代表には成年被後者の居住用不動産の処分について(家裁の)許可を要するとの制限(859条の3)
があったりしますから、親権者の子との関係ほどには一体化しておらず、後見事務について後に述べる様に 種々
別存在である故の規制が働きます。

身上監慮 なお、後見人の任務として続く下記
(未成年者に対する)身上監護と(成年者に対する)身上配慮を、
       合わせて
(私の造語で恐縮ですが)「身上監慮」としたいと思います。


    
後見人(亡親呼び出す)反魂香859らずに

        
被後者財産 管理をし法律行為 代理をば万事し824

        
何か 本人にハッシ824させる契約 (の代理) 

           
要護 構859あり本人同意るの要あるよ824


 財産管理の任務を担う後見人は、被後見人がなした行為を、原則、取り消すことができます
(民法5条9条120条)
                                    (取消権)
 
ただ、同じ被後見人の行為でも、成人の場合と未成年者の場合とでは、取消し可能範囲に多少差異があります。

 成年被後見人がなした法律行為は、取り消すことができるのが原則ですが、但し、日用品の購入その他日常生活
に関する行為は、取り消すことができません
(民法9条但書)

 未成年被後見人のなした法律行為は、単に権利を得、義務を免れる行為を除き、全て取り消すことができます

 但し、未成年者に処分を許した財産は、未成年者が自由に処分することができますから、その限度内であれば、
未成年者も日常生活行為をまかなうことが可能です
(民法5条)

 要するに、
成人に対しては その人の日常生活の自由を保障し、
 未成年者に対しては、保障される自由度が、法定代理人が許した処分の範囲の広狭による
ことになります。

 また、事後的に、後見人がそれとして肯認できる法律行為は、追認することもできます
(民法122条)(追認権)。

 なお、婚姻、離婚、認知、養子縁組、離縁等の
身分行為の能力については、こちらをご覧下さい。

 因みに、任意後見人、遺産管理人
(の権限)との違い等についてこちらもご覧下さい。

未成年後見(財産管理・身上監護)
 被後見人が未成年であるときには、未成年後見人が、法定代理人として、
  本人に代わって法律行為を行うか
(代理権)
  本人の行為に予め同意を与えるか否か
(同意権)
  同意していない本人の行為を取消しとするか否か
(取消権)、場合によっては、
  追認することも含め
(追認権)
 チェックすることで財産面での保護(財産管理)をすると共に、
 後見人が親権者同様に親権者の有する
  監護教育820
  居所指定821
  懲戒権822
  職業の許可823
身上監護面での保護の権限(857条)も持ちます(→監護権)
 但し、
親権者が定めた教育方法や居所の指定を変更し、或は、本人がする営業を 許可したり、取消す(或は
制限する)
ときは、後見監督人がいる場合、その同意を得ねばなりません。監督人がいるのに その同意を取らない侭、
本人が 後見人の同意だけで した営業行為については、別途865条によって取り消され得ることになります。


   
被後見(人が) 未成年 後見人(は)養護857 親権同様

    
やつれ820ても親権者なら

       
  “ 
820かかない人間  

     監護教育
をする義務がある権利ある




 成年後見 (財産管理・意思の尊重・身上配慮)
 他方、成年後見人は、法定代理人として、法律行為を行い、或いは、被後見人のなした日常生活行為以外の法律
行為について、未成年後見のように予め同意を与えることはできませんが、なした行為を取消しとするか否か、
場合によっては、追認することも含め、チェックすることで財産面での保護をすると共に、

 被後見人の
意思を尊重し、その身上に配慮しつつ、生活を看、又、療養看護にも努めなければなりません。
                                           
(858条)
 後見人の行動指針といえるこの858条は、
 本人の療養看護に努めるべき義務と精神病院等の施設への収容には裁判所の許可を要する旨だけを定めていた
旧法に比べると、前述のノーマライゼーション等 平成12年改正に際しての理念が表出されている象徴的な条文で
あると言えます。


   
成年後見生活 療養看護財産管理

         
任務要綱は858 身上配慮  意思の尊重


善管注意義務
 後見人は、公益的負託を帯びてその職に就くので、これらの任務・職務を善良な管理者の注意をもって果たさ
なければならないことが、民法869条による644条
(委任契約受任者の善管注意義務)の準用により定められています。

 なお、後見人同様、財産管理と「代表」を任務とする親権者
(§824)には、「自己のためにするのと同一の注意
をもって管理を行わなければならない旨
(827条)が定められていて、善管注意義務までは要求されていません。
 この「自己のためにするのと同一の注意」というのは、無償の受寄者の受寄物に関する注意義務「自己の財産に
対するのと同一の注意」
(659条)相続人の相続財産に対する管理での「固有財産におけるのと同一の注意」(918条)
と同じ注意義務とされており、私はこれを「固財注意義務」と呼びます。
 固財注意義務は、要するに、その具体的な個人の注意能力に応じた注意で足りると言う意味です。
 つまり、「その人なりに」注意していれば良い訳です。

  他方
後見人の負う善管注意義務の方は個人の能力如何に関わらぬ一般的で抽象的な注意義務であり
 その人の職業、或いは、社会的地位に相応しい、客観的に「相当な」注意を払うべき義務の意味となります。
 そして、これを怠った場合は、過失ありとして損害賠償を求められます。

 財産管理に関する両注意義務の相違は、
  親権者による子の財産の管理における固財注意と、未成年後見人による財産管理での善管注意とにおいて
 現れます。こちらをご覧下さい。 


 財産管理に当たる以上、本人の財産を明確にした上、これを自己の財産と区別して、管理の趣旨に従い維持・
運用等することになりますが、管理の具体的なあり方についてこちらもご覧下さい。

 子に対する親の注意は、善管注意でないからといって、父母の子に対する 気遣いや注意が軽くてよいという
意味ではありません。子に対する親の無償の愛は、両注意の落差を補って余り有ると思います。
 親の注意は、個人差があるでしょうが、それ自体、血の絆に発するものですから、一般的・抽象的なものより
自然かつ細やかで、それ故、遙かに重いのが当然と言えるかも知れません。
 

善管注意義務


      
後見財産管理869

          
善管注意義務) 制しよ644

「せいし」の「せい」は、6の伊語「セーイ」から。
親権者の注意義務条句はこちら

 行為能力が制限される人による行為の取消しをめぐる取消権や追認権、行為の相手方からする催告、取消しの
効果、さらには、法定追認、取消権の消滅時効等については、こちらをご覧下さい



後見人による訴訟遂行
 

民事訴訟

  
通常の民事訴訟においては、後見人は、被後見人のために法定代理人として訴訟行為をすることができます。
 通常の訴訟では、法定代理は原則として民法の定めに従うとされているからです
(民訴法28条)

人事訴訟
  しかし、婚姻、縁組、嫡出否認のような身分行為にまつわる人事事件を扱う
人事訴訟では、
 (身分行為自体も、それにまつわる訴訟行為も、)本人の自由な意思に基づくことを必須の要件としますから、
  代理は馴染まないので、後見・保佐・補助等の行為能力に関する規定の適用はなく、
  意思能力
があれば訴訟ができるのが原則です
(人事訴訟法13条)


参考までに人事訴訟法13条1項を掲げます。


13条
人事訴訟の訴訟手続における訴訟行為については、民法
第5条第1項及び第2項第9条第13条並び
 に
第17条並びに民事訴訟法第31条並びに第32条第1項(同法第40条第4項において準用する場合を含む。)及び第2
 項の規定は、適用しない。


 ただ、弁識能力を欠く常況にある成年被後見人については、
人事訴訟法に一箇条が設けられ、
成年後見人は、成年被後見人のために訴え、又は訴えられることができる。(人事訴訟法14条)
とされています。

 離婚訴訟における後見人の地位に関して、
離婚のごとき本人の自由なる意思に基づくことを必須の要件とする一身に専属する身分行為は代理に親しまない
旨を踏まえ、
  
    後見人は、
法定代理人としてではなく、後見人という 職務上の地位 に基づいて訴訟行為にあたる
ものである旨を判示した判例をご覧下さい。


 




財産管理と代理      

    後見人
(亡親呼び出す)
反魂香859らずに

     
被後者財産 管理をし法律行為 代理をも万事824

      
 本人ハッシ824とさせる契約 (の代理) 

       
 
要護 859あり本人 同意るのあるよ824

  
     但し
未成年()労働契約本人同意あるとも

         
後見人代理契約(賃金受領も)することならぬ(労基法§58Ⅰ59


 
§824は親権者の管理と代理に関する規定   「ある」は中国語の2から



成年被後見人の行為の取消し
   
    
    
被後見()()()欠如常況者(§7)

     
 行為能力なき故に、なした行為に
9せずも、

     
(財産管理の立場から)後見の人には120

               (
法定代理人として)§859))あるぞ取消権

           但し、日常生活関連の法律行為は
取り消せないん9



未成年被後見人の行為の取消し

       未成年()(理人の)同意いたれば

        権
()得免()のもの

         ..には120あるぞ 取消権

         後見人(§824)として取り消し 5

         但し、法代が許した財産処分なら、

              法代
()サンク5取り消せない



未成年被後見人に対する身上監護義務

    
  被後見(人が) 未成年

    後見人
(は)養護857 親権同様


    身上監護
(監護 教育) 、居所指定

           懲戒権
 (
)許可すべて親権同様なるが

          
親権者定めし教育方法居所指定変更


               
営業 許可取消(制限)ときは

 
(後見)監督()面子857ぬ?
                        
その同意()ねばならない要注意



成年後見人に対する意思の尊重・身上配慮義務

          成年後見(人が)生活 療養看護財産管理

      担
任務
 (後見)要綱858

          
 (心身の状態  並びに 生活の状況等の)身上配慮  意思尊重





未成年後見人による親権代行(後見に復する子が子を儲けた場合)
 民法867条1項は、
未成年後見人は、未成年被後見人に代わって親権を行う。
と定め、同条2項
第853条から第857条まで及び第861条から前条までの規定は、前項の場合について準用する。
としています。


 未婚の未成年者である子が、子を儲けた場合、その未成年親は
(単独では財産的)法律行為をすることができません(民法5条)
から、当然親権を行使することができません。
 したがって、その未成年親の父母が民法833条により親権代行を行いますが、
       その未成年親に父母がいない場合、父母に代わる後見人が同じ役目を担うことになります。

 後見人が親権を代行する訳ですが、親子の無償の愛が担保する親権者による代行と違い、他人である後見人が担当します
から、後見人が地位・権限の濫用などしないよう歯止めが必要で、自ずと違いが出てきます。

 親権者の注意義務は「自己のためにするのと同一の注意」で足ります
(§827)が、この場合、後見人ですから、職責上
財産管理869善管注意義務)しよ644」とある様に、善管注意義務を払わなければなりません。

 また、それと共に、後見人の職務に伴う各制約や制限が課されます。それが、867条2項によって準用される諸規定です。
羅列すると次のとおりです。
  §853  (財産調査・目録作成)
  §854  (目録完成迄無権限)
  §855  (債権債務申出義務)
  §856   (包括取得時853条~855条の準用)
  §857  (未成年後見
身上監護と(教育方法の変更等)監督同意事項)
  §861  (年額予定
後見事務費)
  §862  (後見人報酬)
  §863 
( 監督)
  §864、§865 (重要処分行為・営業行為)
  §866  (本人財産譲受け
下に上記準用されている規定の条句を掲げます
(濃紺色のものは、(保佐・補助に準用する旨の規定がなく) 後見人プロパーのもの、緑色のものは、(同様に準用がない) 未成年後見人プロパ
のもので、その他は、法定後見三者に共通のものとなります)

その個別の説明については柱書の下線クリックでご覧下さい。
 そして、準用された後見人としての規制ルール以外の、代行すべき親権の権利・義務の内容は親権の項をご覧下さい。
 その他、庇護下の子が子を儲けた場合の対処について、親権者による親権代行の項を参照下さい。

    

 後見
      
子供
宿るとさ833
    やむな
867その親権
        後見人
(
親権)代行

      §833は、子に代わる親権の行使に関する規定


  §853  (財産調査・目録作成) 

           
後見人  ばん逸産いつさん853  防ぐため、
           
初 護産はつごさん853事務、遅滞なく 財産調査
         
ひとつき目録作成、自産と区別 (期間は伸長可) 
            
監督人がいるときは、調査、目録作成に、
                罵声
871 覚悟で立会たちあ受くべし


  §854  (目録完成迄無権限)  

          
後見人、  (財産)目録作成終わる迄、
             
家越やご854(転居の)とどけのない如く、
           
急場  (必)ようごと854かできぬ (急要事以外無権限)
              
但し 善意の相手には、(無権限による)無効を主張できぬ 也。


  §855  (債権債務申出義務)  

          
後見人、  選任・指定の発効後855(目録作成のための)
           
調査着手のその前に、
背後855不審持たぬよう
              
被後者に対する債権債務

           
   監督人 (がいるときは) 申出よ。

        後見人、被後者に対する債権債務、
            申出なくば
(法の)影護効855
          
 (影と形の如く寄り添って対象を守ってやる) 
              
 
その債権は失わる。


 §856  (包括取得時853条~855条の準用)  

      
後見人、  被後者に相続・包括取得
            あれば、
発 護務856 前三条853~§855)
           
準用をして、(目録作成のための
) 調査から
          
   万ばん逸産いつさん853  防ぐため
          (財産)
目録作る、それまでは、
             急場
 (必)ようごと854かできぬ (急要事以外無権限)
 
         
監督人がいるときは調査着手のその前に、
             被後者に対する債権債務
(を)申し出ねば(法の) 影護効855

  
                
その債権は失わる。



   
§857 (
未成年後見の身上監護と監督同意事項)

         被後見(人が) 、未成年なら
          親同様に養護せ
 857あかん、身上監護
             監護・教育、居所指定、懲戒権に職
(業)の許可、
             
すべて親権同様なるが、
                 親権者定めし教育方法居所の指定を変更し、
                 営業 許可し、取消す
 (制限) ときは、
             
(後見)監督(人) の面子汚せ857ぬ?、その同意(を)得ねばならない、要注意。


   §861Ⅰ (年額予定) 

        
後見人
            
初務はつむいち861番 年毎の(被後人の)
             
 生活、教育、療養看護 並びに 財産管理 のための
                     年額キチンと予定をすべし。



§861Ⅱ (後見事務費)

      
後見人、
        必要爺務費
 861 (事務費(造語))
       
被後者の財(を) 支出することできる也。


§862 (報酬)

   後見報酬、
     (家庭)裁判所、やるに862相当?その額いくら ? 
       
被後者資力やそのの事情 、踏まえて、
               相当報酬を後見人に与え得る。



§863  (監督人の権限)  

    (後見)監督人、
          報告
(財産)目録提出、求め、
          
監督はる身
863調査やる身863
                後見人の勝手も止むさ863


  
§864、§865 (重要処分行為・営業行為) 

           後見人、
            いざ
13の処分、営業§6までも、
               被後者のためにやろうよ
864と、或又、
               
(被後者が) 挑むに同意をばしてやろうよ864と、意気込むも、
             
監督の同意はい13」 ネグたら、
               
なされた処分や営業行為、完全ならず 劣る効865
                           
取消され得る、半無効865


      「劣る」の「オト」は、伊語の8「オット」から

  
§866  (本人財産の譲受け)

           後見人が被後者の財、

               (被後者に対する他者債権)

                 
譲り受けたら要務も866怪し、
              
被後者において取り消せる。


     未成 (年、未婚)
             
 この宿るとさ
833

         後見

                この
親権 

              やむな
867 
(代わって)行使する



 
§
833は親権者による親権代行に、§867は後見人による未成年被後見人に代わる親権行使に関する規定
                


後見事務 
 
民法は、後見の章(第五章)の第三節 後見事務 では、その内最後の条文となる869条で、委任に関する民法644条
親権に関する830条を準用して、後見人は後見事務について
善管注意義務を負う(§644)旨、そして、第三者から
本人に無償で供与された財産 (
無償供与財産) について、その供与者の意思表示があったときは、別管理としなけ
ればならない
(§830)旨定めるほかは、次のように、後見事務を執るに際しての定めを並べます。

 ここで、その後見事務の中味に関し、順を追って、財産の調査と目録の作成義務
(853条)、同作成前の権限(854条)
   債権・債務の申出義務
(855条)、居住用不動産の処分(859条の3)、後見人複数の場合の権限(857条の2859条の2)
   利益相反
(860条)、支出金の予定と後見事務費(861条)、報酬(862条)等を見てゆきます。



財産調査と目録作成 

民法853条は、
後見人は、遅滞なく被後見人の財産の調査に着手し、
 一箇月以内に、その調査を終わり、かつ、その目録を作成しなければならない。
 ただし、この期間は、家庭裁判所において伸長することができる。

2 財産の調査及びその目録の作成は、後見監督人があるときは、
   その立会いをもってしなければ、その効力を生じない。
と定めています。     
 後見人が、後見を始めるには、開始時の自分の固有財産と後見を受ける本人の財産を明確に区別して、
   開始時に本人の有する財産がどのような状態にあるかを把握、明示して、
   その後の財産の推移が記録できるよう準備することが必要となります。
 そのため後見人選任を受けたら、遅滞なく 財産の調査に着手し、一か月以内には調査を終え、
 調査結果に基づいて財産目録を作らなければなりません
(民法853条1項)
 「遅滞なく」の意味については、こちらをご覧下さい。

  そして、後見人に後見監督人が付けられている場合は、
  財産調査の際や目録作成の際
監督人の立会いを得なければその調査や目録は無効となります(民法853条2項)

 なお、財産目録の作成は、財産管理の土台となる作業であり、その重要性から、監督人がいる場合はその立会い
を受けなければなりませんが、これと対をなすのが、後見終了時に財産管理を締めくくる後見計算
(民法870条)です。
こちらも後見監督人がいるときは、同様に その立会いを受けなければなりません
(民法871条)
 しかし、管理計算での受立会義務を定める871条は、立会いを欠いた後見計算の効力について、定めていません。
でも、この対をなす重要性に照らし、そのような後見計算は効力を有しないとされています。

 因みに、この財産目録は、不在者財産の管理
(§27)遺産の管理918Ⅲ等)遺言の執行1011)限定承認924)
等においても登場する各事務・任務の重要な基礎資料です。
ですから、民法854条は、
後見人は、財産の目録の作成を終わるまでは、急迫の必要がある行為のみをする権限を有する。
  ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができない。

として、 財産目録が作成されるまで、後見人には原則 後見の権限が認められません
目録作成前であっても
急迫の必要がある行為だけは例外的に 後見の権限を認められるもののそうでないもの
は無効となります。
 但し
これを以て善意の第三者には対抗することができない(同条但書)とさてれいるので目録作成前の時点で
急迫の必要がないのにされた行為について、相手方が善意であれば、有効な行為として対処しなければなりません。
その結果、被後見人が損害を被ることになれば、後見人に損害賠償義務が生じます(→目録作成前の権限)

 その様に財産目録は後見監督上も重要な資料ですから、裁判所や後見監督人は、いつでも後見人に目録の提出
求めることができます
863) 

保佐補助では、後見の事務と終了に関する規定 (644859の2859の3861Ⅱ862863824但書654655870871873)
が、保佐人には
876条の5で補助人には876条の10で準用されています。

 財産の調査と目録作成に関する853条は、準用対象となっていませんが、但し、準用対象である863条により、
監督人から財産目録の提出が求められ得ることになります。なので、保佐・補助において、目録作成は義務的では
ないものの、求められれば すぐに提出できるよう、目録を作成しておくことが望ましいと言えます。





   
後見人 ばん 逸産いつさん 853を防ぐため初護産はつごさん  853事務目録作成



        
   後見人 ばん 逸産いつさん 853ため

                  
初護産はつごさん
 853事務遅滞なく

        
財産
調査ひとつき()目録作成

          自産
区別 
(期間は伸長可) 

         監督人
がいるときは調査目録作成

              
  罵声
871覚悟立会たちあいべし

               §871は後見監督人の後見計算立会に関する規定






成年後見人による郵便物転送嘱託等

 平成28年民法の一部改正によって、民法860条の23、及び、民法873条の2が加えられました。
 ここでは、この前者について説明をします
(後者873条の2の規定は新設の死後事務の処理に関するものです)
 成年後見人は、上記のように就任当初、被後見人の財産を調査します
(853条1項)が、その関連での現場のニーズに
応えるための改正でした。
 成年被後見人宛ての郵便物等の中には、株式の配当通知、外貨預金の入出金明細、クレジットカードの利用明細
といった成年被後見人の財産等に関する郵便物が含まれることがあり、これらは、成年後見人が成年被後見人本人
の財産状況を正確に把握し、適切な財産管理を行う上で極めて重要なものです。
 しかし、成年被後見人が自分宛ての郵便物等を自ら適切に管理できないときは、成年後見人が本人宛ての郵便物
の存在や内容を十分に把握することができず、適切な財産管理に支障を来すおそれがあります。
 そこで、新設されたのが改正法による郵便転送の制度です。

 郵便転送」とは、成年後見人が、後見事務を行うに当たって必要がある場合に、家裁の審判によって、
 本人宛ての郵便物等を自らの住所又は事務所に転送してもらうことです。

 成年後見人が郵便転送を必要とする場合には、家裁に対して
「成年被後見人に宛てた郵便物等の配達
(転送)の嘱託の審判」(「転送嘱託の審判」)を申し立て、
  これに基づいて家裁によりその審判がなされれば、
  審判確定後に家裁から日本郵便等に対して、その旨の通知がされます
(家事事件手続法122条2項

転送の期間 については財産に関する郵便物等は定期的に(例えば1か月に1回)郵送される場合が多いので、
成年後見人としては、一定期間内
(概ね数か月間)の郵便物を調査することにより、本人の財産関係郵便物等を概ね
把握することができるであろうことから、転送の期間を財産把握に必要と認められる期間
(=6か月を超えない期間)
(860条の2第2項)に限定すべきとして、本人の通信の秘密に配慮します。

 以上が民法860条の2の説明ですが、同条の3は、成年後見人が被後見人宛ての郵便物を受け取ったときは、
それを開いてみることができること、しかし、後見事務に無関係なものは速やかに被後見人に渡すべきであること、
被後見人は、渡されたもの以外の郵便物についての閲覧を求めることができることの定めとなっています。
くわしくは、こちらをご覧下さい。




通信秘密
 して他人ひとさま
                               後見()本人さんの財産
 郵便物転送をさせてどうする審判官                  
                                  知らねばしい管理などできぬとうから、

                                 引落し、配当などの関係は、転送とする、

                                         やむをずさぁ86023


目録作成前の権限
 
後見人は財産管理の任務を果たすため前提としてまず被後見人の財産を調査し財産目録を作成する義務を負
います
(民法853条)から、その目録が作られていない間は、原則 後見事務を執ることができません(民法854条本文)
つまり、原則 代理権限を否定されます。但し、家屋の倒壊を防ぐ為の修繕とか、時効完成を防ぐための請求行為の
様に、急迫の必要がある場合には、例外的に権限を認められます。

 しかし、後見人が、財産目録未作成のうちに急迫の必要なくした行った行為についても、善意の第三者には、
その行為の無効を主張することはできません
(民法854条但書)
後見人として選任されていても、財産目録ができておらず、財産関係の把握も不十分な侭 第三者と取引した場合、
仮にその取引が急迫の必要からしたものでなく、後に 本人の資産状況に照らして妥当でないと判明しても、善意の
第三者には、無効を主張することができず、本人と第三者との取引は有効となります。

 ですから、その結果 本人に損害が生じたときは、後見人は善管注意義務(869条644条)に違反したものとして、
損害賠償責任を負います。

 仮に第三者側が目録は未作成であり、急迫の必要もないことを知っていて取引が無効となった場合、無権
代理人の責任規定 上は、第三者から、後見人に損害賠償の請求ができ、或は、後見人による取引の履行を求める
ことができます(民法117条1項)
 しかし、第三者が後見人に代理権がないことを知っていたか、過失によって知らなかったときは、それらは求め
ることができません
(民法117条2項)。とすれば、目録の未作成・不急迫取引の認識があれば、後見人が無権限であるこ
とを知っていたことになりますから、後見人に賠償や履行の形で責任を取らせることは期待できません。逆に、第
三者がその取引で取得した財物等があれば、無効な行為による不当利得として返還しなければなりません。
 ですから、後見人において財産目録の作成が済んでいるか否かは、これと取引する者にとっても注意して確認す
べき重要な点になります。



        後見人 (財産)

        目録
作成終わる家越やご854(転居の)とどけない

          
     急場 ()ようごと854かできぬ (急要事以外無権限)

          
 但し 善意相手には(無権限による)無効主張できぬ 

    
          「54」を「五十四」、「ごとし」と読む。



債権債務申出義務
 
後見人が、自ら債務を負う相手、或いは、債権を有する相手 の人を後見することになるのは、公正な職務の遂行
に疑念を抱かせることになりますから、後見監督人がいる場合には、前記の財産調査に入る前に、そのような債権
債務関係を監督人に申し出なければなりません。
 そして、債権を有することを知りながら、申し出なかったり、知って速やかに申し出なかったりした場合には、
その債権を失うことになります
(民法855条)

 後見に後見監督人が付されていない場合には、申出義務はない訳ですが、後見人には自己の財産と後見本人の財
産とを明確に区別して、その間が曖昧にならないよう心掛ける注意義務があるが故の財産調査義務、目録作成義務
ですから、本人の信頼を確保するためにも、記録上曖昧さを残さぬようにしておくべきです。
 申出義務がない場合には、申出がなくとも債権を失う効果は発生しませんが、記録にも残さず、曖昧に処理して
不正が疑われた場合は、解任請求
(846条)にも繋がることになります。

 ですから、家裁は、財産が多かったり複雑多岐に亘るときは後見監督人を選任すべきですが、そうでない場合で
あっても、後見人と後見本人との債権債務関係や財産の境界が多少とも曖昧である場合は、報告を求め、是正させ
る等必要な処分を検討することになります
(863条)

 このように債権債務の申出は、後見監督人がいる場合 後見人の義務となりますが、そもそも財産管理任務を伴わ
ない保佐・補助においては、監督人がいる場合であっても、申出義務はありません。


        

      後見人 選任指定発効後855(財産目録作成のための)

               
 調査着手のその背後855不審持たれぬよう

             
被後者する
債権債務

             監督人
(がいるときは) 



     
後見人被後者する債権債務申出なくば

       
(法の)よう (影形の如く寄り添って対象を守る)855

                     
その債権 わる




居住用不動産の処分

 
後見人には被後見人の財産を管理し、そのための法律行為を代理する広い権限が与えられています(民法859条)

 しかし、後見本人が現に居住する建物やその敷地を売却したり抵当に入れたり、或は 借りて住んでいる住居の
賃貸借契約を解除したりする場合は、本人の居住を脅かしかねませんから、家裁の
許可を受けなければなりません
(民法859条の3)。条文を見ましょう。
成年後見人は、成年被後見人に代わって、その居住の用に供する建物又はその敷地について、
        売却、賃貸、賃貸借の解除又は抵当権の設定その他これらに準ずる処分をするには、
      
家庭裁判所の許可を得なければならない。

 後見人による後見本人の重要財産の処分
については、
 
(後見監督人が選任されている場合であれば) 後見監督人の同意を得なければならない
 という規制
(§864)がかかりますが、
居住用不動産
については、家裁の許可という、 より強いチェックに服することになります。

 本人の居住用であるので、本人が賃貸している建物等の処分は許可を要しません。別荘は本来の居住用ではない
から本条の許可を要しないとする説もありますが、毎年 夏は別荘で暮らすという様な場合は、少なくとも「準ずる
処分」として要 許可の扱いとすべきです。又、将来 居住用とする予定である建物等も同様に、これに含ませるべ
きです。
 後見人には、本人の身上を配慮し、意思を尊重しなければならない義務がある
(民法858条)ことに照らせば、本人が
現に居住する不動産だけでなく、現在はホームに入居しているが、ホームに入る前迄住んでいた建物等についても、
それを処分することは本人の気持ち、精神の安定に打撃を与えかねませんから、「居住用」の解釈には、その様に
後見本人の意識も踏まえた配慮がされなければなりません。

 家庭裁判所は、本人の経済上の必要は勿論ですが
その様な視点からも許可不許可を判断することになります。

 許可なくなされたそのような処分は無効となります。

 なお、保佐人、補助人についても、保佐の事務、補助の事務において「代理」による同様の場面が想定され、
それぞれこの居住用不動産の処分に関する要許可の規制が(保佐について876条の5第2項
、補助について876条の10第1項により)
準用されます。
 その場合 それぞれに審判によって、売却等の処分についてのこの許可のほかに、その処分のための代理権付与
審判
(876条の4876条の9)が伴うことになります。

 保佐人・補助人が、本人のする居住用不動産の処分に
(審判により要同意とされているために)単に同意を与える場合は、
保佐人
補助人自身が処分するのではないのでこの規制の対象外です。なので、本人が処分するについて許可は、
不要ですし、許可を受けていないことを以て効力を云々されることはありません。




      成年被後者
居住用建物・敷地  売却  

       これにずる 処分
〔賃貸 やその解除、抵当権の設定等〕 をば

             
なさんときには後見人
 

     
(
被後見人の家屋を護るおおやけ(造語)) 
8593 (裁判所の) 許可 


   (成年)後見人生活、療養(看護) 財産管理、任務 (後見)要綱858

     (心身の状態  並びに 生活の状況等の身上配慮 意思尊重






利益相反
 
財産的法律行為についての行為能力を欠く常況にある人を保護する制度である後見においては
 
後見人後見本人の間で利益相反が生じ得ることから、利益相反があれば
特別代理人が選任されます(§860)
 但し、
後見監督人が置かれている場合は、
後見監督人が代理するので、特別代理人の選任は不要です851)
なお、利益相反の具体例、相反の有無の判断基準等について詳しくはこちらをご覧下さい。



       後見人被後者 にとって双方インウイン

       使命感
 
発露 826の「ヤロー860傍目はためなら

          利益相反
(別) (理人)要す家裁に選任求むべし。

  

   
後見監督
(ばん)(する)(こう)(見人を)(びと) 851擁護 851その職務

 
     
にある(後見事務)監督 (利益)相反(時)代理 (特別代理人の選任は 不要)

      
(後見)けたときには遅滞なく後任(選任)請求急場(必要)処分





後見の年額予定と事務費
 
民法861条1項
後見人は、その就職の初めにおいて、
被後見人の生活、教育又は療養看護及び財産の管理のために
毎年支出すべき金額を予定しなければならない。
と定めます。

 つまり、後見人は、就任 1か月以内に、853条により被後見人の財産の調査をして財産目録を作成しますが、
そうして把握した財産の内容・程度・種類等を勘案して、
財産管理(§859)、並びに、未成年被後見人に対する監護教育857)、或は 成年被後見人に対する療養看護
858)
という任務遂行のためには、「今後の後見予算は、年額いくらの予定である。」と計画しなさい という趣旨です。

 そして861条2項には、
後見人が後見の事務を行うために必要な費用は、被後見人の財産の中から支弁する。
とありますから、後見の上記各任務 遂行のための必要事務費は被後見人の財産から支出することになります。

 無計画で無闇な支出があれば、財産管理の任務に背くことになりますから、後見の任務遂行のために
必要な費用を年額で予定して、本人の財産の計画的支出と適切な財産管理に努めなければなりません。

 したがって、就任時に年額予定を立てれば良いのであって、毎年予算を組む訳ではありませんが、家裁の実務で
は、後見人に年毎の1年間の収支予定を報告させるところもあるようです。863条による監督の一環としての、86
1条のケースによるバリエーションです。
 その他、後見は、この863条による後見監督人や家裁の監督下にありますから、後見事務の内容や状況の変化に
伴う年額の変更等があれば、いつでも求めに応じて報告や財産目録の提出
863)ができるよう備えなければなりま
せん。

 そもそも、後見人は、被後見人の財産を管理するについて善管注意義務を負っています
(民法869条644条)
ですから、被後見人の財産の内容を明確にし
(→財産調査と目録作成)、これをどのような監護教育・療養看護方針の下に
管理するかの計画性を以て支出し、会計帳簿を整えて、後見の全期間を通じ収入・支出を明らかにすると共に、
期中の収支と残高の一致することを確保して、報告
(§863)を求められた際や任務終了時(§870)には、そのことを証明
しなければなりません。終了時のその事務が後記する後見計算ですが、そのような任務をベースに置いた年額予定
であり、事務費であることを認識する必要があります。

 なお、上記後見人の事務費規定は、保佐について876条の5第2項、補助について
876条の10第1項によって、
   それぞれ保佐・補助に準用されますが、
  年額予定は財産管理に伴う義務なので、管理任務を伴わない保佐・補助には年額予定義務がありません。



        後見人初務はつむいち861年毎(被後人の)

          
生活(監護)教育・療養看護 並びに 財産管理 

           の
ため
年額キチンと予定をすべし


       
後見人 必要務費むひ

          
事務費 (造語)861 Ⅱ被後人

                      
をば
支出できる 



                    


    
    後見人、初務一861年額予定、必要爺務費861(被後人の財から)支出ができる



後見人の報酬
 
民法862条
家庭裁判所は、後見人及び被後見人の資力その他の事情によって、
  被後見人の財産の中から、
相当な報酬を後見人に与えることができる。
と規定します。
 したがって、被後見人の資産の有無・程度によって、報酬の有無、有りとした場合の金額等を、家裁が決定する
ことになります。

 例えば、後見開始の条句にある「
家族団欒 晩餐は838無縁となりし孤老、孤児であれば、無資力の被後見人も
大いに考えられるところですから、その場合、無報酬となりますが、そうであっても、後見の公益的使命感を以て
携わってくれる人があれば良いものの、その様な人がいない場合でも、必要な保護が行き届くよう公的扶助や手当
等の整備、或いは、一定の場合は定額制を導入する等して、後見制度が十全に機能するよう制度設計がなされなけ
ればなりません。

 この後見人報酬の規定は、保佐については876条の5第2項により、補助については
876条の10第1項により、
それぞれ保佐人・補助人にも準用されます




        後見報酬(家庭)裁判所やるに862相当?そのいくら? 

         
被後者資力やその事情 まえて

                        
相当金額後見人




後見事務の監督

 民法863条は、
後見監督人又は家庭裁判所は、
  いつでも、後見人に対し後見の
事務の報告若しくは財産の目録の提出を求め、又は
  後見の事務若しくは被後見人の財産の状況を
調査することができる。
とし、、同条2項は、
家庭裁判所は、後見監督人、被後見人若しくはその親族その他の利害関係人の請求により又は職権で、
  被後見人の財産の管理その他後見の事務について
必要な処分を命ずることができる。
と定めます。

 後見は、弱者保護のための公益的任務を帯びて行われますが、だからこそ本人の非力に乗じた不正が行われない
よう、強力な監督の下で適正に運用されなければなりません。そのための手段として認められるのが、同条にある
随時の
報告要求や財産目録の提出要求であり、また、後見事務や財産状況の調査の実施です。
 家裁にはこれに適した有能な調査官の配置がありますから、その活用
(家事事件手続法124条3項)によって監督の実効性
を確保し得ます。

 863条2項による必要処分としては、家事事件手続法124条による臨時の財産管理や同法127条による成年後見
人の職務停止、その代行者選任、これらに付随する報酬の支給等が想定され、又、財産管理・療養看護・身上監護
を巡る後見事務の具体的な内容に関する法律行為だけではない 助言指導等の事実行為も含む多岐にわたる処分
が考えられます。

 善管注意義務を負う(
§852§644)後見監督人に監督任務の懈怠があれば、損害賠償の請求があり得ます。
 もし、最終の監督責任を負う家裁に任務の懈怠があれば、国家賠償の責任を問われることにもなります。

 後見事務のこの監督規定は、
保佐については876条の5第2項により、補助については876条の10第1項により、
それぞれ保佐事務・補助事務に準用されます


    (後見) 監督人又は家庭 裁判所 

       
(後見事務) 報告(財産)目録提出

             
監督はる
863調査やる863

             
後見人勝手むさ
863

  
       (家庭)裁判所(は)、め或いは職権で、

             
必要 ならば処分やるぞ
863(命じ得る)



重要財産の処分・営業行為
と取消権
 後見人が、被後見人の有する重要財産を処分する等 民法13条所定の行為をしたり、営業行為を代わってする
ときには、本人に大きな利害が及ぶので、後見監督人が付されているケースでは、必ず後見監督人の同意を得なけ
ればなりません
(864条)

 
条文には
後見人が、被後見人に代わって営業若しくは第十三条第一項各号に掲げる行為をし、
       又は未成年被後見人がこれをすることに同意するには、
      後見監督人があるときは、その同意を得なければならない。
       ただし、同項第一号に掲げる元本の領収については、この限りでない。

 とあります。未成年後見人が、未成年者本人によるそれらの行為に同意を与える場合も、監督人がいるケースで
あれば、その同意を得なければなりません。

 但し、いずれの場合も、預貯金の払戻し、貸家の借家人からの引渡し等 本人にとってマイナスにならない
元本の領収
13①)に当たる行為を 後見人がするについては、後見監督人の同意を要しません(864条但書)

 13条では、 元本の領収が重要財産行為の一番目に掲げられる行為となっていますから、被保護者(被保佐人)自身で
サポートなしに行える行為の限度として、利息や賃料の受領までとなっていますが、この場面での後見人の行為の
限界としては、貸金の元本を受領したり、賃貸していた不動産の返還を受ける行為まで可能であるとの定めです。

 成年被後見人については、13条1項の
(内 元本領収を除く)行為及び営業行為 の何れについても、後見人が本人に代わっ
てする場合、本条により、監督人の同意を要しますが、未成年者の営業については、既に857条但書が、本人の営
業に対して後見人が「許可」を与える
(或は、許可を取消し、又は、制限する)には、監督人があるときは その同意を要する
旨 既に定めているので、864条が独自で実質 監督人の同意を要するとするのは、後見人が代わって営業行為をする
場合だけとなります。

857条但書
未成年後見人は、第八百二十条から第八百二十三条までに規定する事項について、親権を行う者と同一の権利義
務を有する。ただし、親権を行う者が定めた教育の方法及び居所を変更し、営業を許可し、その許可を取り消し、
又はこれを制限するには、未成年後見監督人があるときは、その同意を得なければならない。


 監督人が付されていない場合は、13条1項の重要財産行為であっても、この制約なく進めることができますが、
成年後見人による
居住用不動産の処分については、859条の3が、家裁の許可を要す旨の制限を加えています。

 そして、この864条の定めに違反して、後見人が監督人の同意を得ずにしてしまった行為は、後見人、或いは
後見を受ける本人からも、取り消すことができます
(監督人には取消権はありません)(民法865条)

 なお、保佐人、補助人についても、同様の場面が想定されますが、
何れもその本来の任務が
(被保護者の重要財産を処分する等) 民法13条1項所定の行為について同意権でサポートする役目
ですから、監督人の同意という屋上屋の制約はありません。
 しかし、その行為を保佐人、補助人自らが 本人に代わって行う場合は、それぞれ そのための代理権付与の審判
(876条の4876条の9)が必要になります。

 なお、行為能力が制限される人による行為の取消しをめぐる取消権や追認権、行為の相手方からする催告、
取消しの効果、さらには、法定追認、取消権の消滅時効等については、こちらをご覧下さい。


      

    後見人いざ13処分営業(§6)までも被後者やろうよ864

                或又(未成被後者が) むに同意をばしてやろうよ864意気込むも

 
                           (後見) 監督人るならば、その同意をばねばない
                            
但し、元本領収 此限こぎりでない


       営業いざ13処分やろうよ864意気込んだとて

                         
監督人
()るなら同意 ()ねばない。                       




   後見人(後見)監督人同意 

          
(自ら)いざ13処分営業(§6行為 

         或いは被後者 をなすに同意をすれば 

      (被後者)
本人後見人その行為 取消ことができる


     「いざ
13処分 (とか)営業やろうよ864

          監督
同意13ネグったら

        なされた
処分営業行為、完全ならず 865

              取消
され半無効
865

§13は、保佐人の同意を要する行為に関する規定   「おとる」の「おと」は、8の伊語「オット」から





      

後見本人財産の譲受けとその取消し
 
民法866条は、
後見人が被後見人の財産又は被後見人に対する第三者の権利を譲り受けたときは、
   被後見人は、これを取り消すことができる。この場合においては、第二十条の規定を準用する。

と定めます。
 被後見人 
(私は、ときに、見出しのように「後見本人」或いは単に「本人」と言います) の利害の弁識能力の低さに乗じ、
後見人がこれらの譲受けによって、
 財産管理の任務を逸脱し、適正でない管理をもたらしたり、自己のため不正な利益を得たりすることがないよう、
防止する趣旨と言えます。

 後見人による後見本人財産の譲受けは、被後見人と利益相反であり、860条によって特別代理人を選任すべき
関係になりますが、その選任された特別代理人
(或は後見監督人)との(本人財産の後見人に対する)譲渡契約であっても、
本条により取消しができるとする判例
(最判昭38・10・10)があります。
実際場面で本条の趣旨を確保するためには、そう解するしかありません。

 後見人がする、第三者の後見本人に対する権利の譲受けについては、本人と利益相反になるとは言えませんが、
本条により取消しができることになります。

 本条記載の譲受行為は、被後見人において、保護者の同意等を要することなく、自ら取り消すことができます。

 「第二十条」というのは、取り消しうる行為の相手方から、期間を定めて、その行為を追認するか否か確答する
よう催告することができる旨の規定で、期間内に確答がない場合は、追認したとみなされます。

 この場合の催告の相手方となるには、後見本人は、能力を回復して、後見開始審判を取り消された後であること
が必要で、そうであれば、追認や追認とみなされることも可能とされます。

 そして、ここでの譲受けについて、同条の2項は、
前項の規定は、第百二十一条から第百二十六条までの規定の適用を妨げない。
としていますので、譲受行為の取消しや追認等については、取消しの効力、法定追認、取消権の時効等を定める
これらの規定が適用されることになります。こちらをご覧下さい。

 なお、本人の財産を管理する任務を伴わない保佐・補助においては、保佐人・補助人が本人の財産を譲り受けて
も、866条の準用がないので 財産譲受けを理由として取り消すことはできません
(本人に損害等が生じたは場合、個別の
不法行為や解任請求の問題とはなり得ます)



      後見人
被後者被後者に対する他者債権)

        
けたら要務866被後者において取消でき




 第三者からの無償供与財産
 第三者が、被後見人に無償で財産を与え、合わせて、その財産につき後見人の管理を拒むときは、別管理を用意
しなければなりません
(民法869条830条)

 未成年被後見人がこの様な財産を供与された場合、それが単に利益を得るだけの行為であれば、
(民法857条により)
  親権者の権限を帯びる未成年後見人の同意は不要です
(民法5条但書)から、被後見人に意思能力さえあれば、
  本人の単独判断で供与を受けることは可能です。

 成年被後見人の場合は、後見人が被後見人を代理して受け、これを管理する
(859条1項)ことになります。

 被後見人に対する無償の財産 供与者が、当該財産を後見人の管理とすることを拒めば、後見人を排した別管理
が必要となります。その供与者が管理人を指定したときは、その者が管理を担い、指定しなかったとき、或いは、
指定はあったものの指定後にその管理権限が消滅したり、改任の必要が生じたりした場合は、求めによって家裁が
管理人を選任します
(830条2項、3項)(→裁選管理人)
 なお、「管理
」の具体的なあり方についてこちらも参考にご覧下さい。

 無償供与財産の家裁選任管理人による管理 
 この管理については、民法27条から29条不在者財産管理人規定が準用されます

 したがって、財産目録を調整して、家裁の命じる必要処分に従い
(§27)
  また、命じられれば管理や返還のための担保を提供しなければなりませんが、
  報酬も家裁の判断によって支給され得る
(§29ことになります。
 
その管理の権限は、民法103条に定められた
保存、改良、利用の範囲に限られ、
  これを超える行為は家裁の許可を得ねばなりません
(§28)

 家裁選任管理人の善管注意義務と受任管理権義
 管理人の管理事務の遂行には、財産管理の委任を受けた受任者として、
  民法644条
善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務
 (
善管注意義務) を負い、それと共に、
  報告義務 
(645条)・受取物の引渡義務 (646条)・金銭消費に対する利付き償還損害賠償義務 (647条 ) を負います。
 
同時に、管理人は、費用の前払請求 
(649条) 
    支出した必要事務費の償還請求・必要債務の弁済請求・無過失で損害を被ったときの賠償請求 
(650条) 
  をすることも可能です
 
 (これらを総じて受任管理権(利)(務)と言います ) 

 なお、親権者による財産管理との違いをこちらで、また、参考に遺産の管理をこちらでご覧ください。


   後見財産管理869善管注意(義務)しよ644


   「
野郎子やろっこはるい」869無償()供与者

          
後見 
830えば、その 後見離 別管理


§830は第三者が無償で子に与えた財産の管理(親権者の管理に属させない場合)に関する規定 「せいし」の「せい」は、6の伊語「セーイ」から

上記のことは、民法869条による830条の準用の結果ですので、無償供与者が親権者による財産管理を望まないは場合の規定である830条の条句があります。


   「幼無垢869春来 869無償(財産)供与者後見

       
830えばその後見(人の手を) 管理


   供与者指定がないため 裁選管理人なら

     その管理、不在者
28管理定め


  §28は、管理人の権限に関する規定  §869は、第三者が財を与えて後見人に管理させない場合の規定。不在者の財産の管理については、こちらもご覧下さい。





後見終了
 
 後見は、後見本人の死亡により、又は未成年後見本人の成人、成年後見本人の能力回復による後見開始審判の取
消し等によって、終わりますが、又、後見そのものは継続すべきものの、後見人の死亡等による 後見人交代の際に
も、後見終了となります。

 後見の終了に関する規定
(870条875条)は、
後見終了に当たって、
 後見任務が公正に果たされ、後見人が不正に利を得たり、後見本人に損害が及んだりしないよう、或いは
 応急場面や本人が亡くなった場合の財産管理等で不都合があったりしないよう、

  後見終了に伴う管理計算
(870条871条)返還金(873条)
  終了の対抗要件 と 終了後 後見本人側で事務を処理することができる迄の間の応急処分(874条
654条655条)
  未成年後見の本人と後見人との間で、成人後 後見計算前になされた契約の取消し(872条)
  成年後見の本人死亡後の死後事務(873条の2)
  後見をめぐる債権の消滅時効(875条832条)

等に関する定めが、その内容です。

 後見が終了したとき、裁判所の嘱託により登記がなされる場合を除き、後見本人、後見人、或いは後見監督人に
は、終了登記を申請しなければならない義務があり、又、親族その他の利害関係人からもその登記の申請をするこ
とができます
(後見登記法8条)     


後見計算義務
 
民法870条は、
後見人の任務が終了したときは、
 後見人又はその相続人は、
二箇月以内にその管理の計算(以下「後見の計算」という。)をしなければならない。
 ただし、この期間は、家庭裁判所において
伸長することができる。
と定めます。

 被後見人の財産について、管理の任務を負う後見人
(民法859条)は、その任務の終了後2か月以内に、後見が開始
した時から終了する時までの被後見人の財産の変動と現状を明らかにするため、その間の全収入・全支出について
記載し計算して、現在の財産の内容・状況と合致することを示し、本人等に引き継ぐことを、後見計算義務として、
求められます。これには、就任当初に作成した財産目録
(民法853条)がその計算の出発点として計算基礎となります。

 任務が終了するのは、例えば、①被後見人が亡くなったとき、或いは、②未成年後見を受けていた被後見人が成
人したとき、若しくは、成年後見を受けていた被後見人が行為能力を回復して後見開始審判が取り消されたとき、
③後見人が死亡し、或は、辞任し、若しくは、欠格事由が生じて欠格となったり等して、財産、或いは、後見任務
を引き継ぐときですが、その終了態様によって、後見計算を報告する相手方は、①の場合は被後見人の相続人、②
の場合は成人し、或は、能力を回復した本人、③の場合は後任後見人というように違ってきます。

 後見人が死亡した場合は、870条に定めがある様に、後見人の相続人が後見計算に当たらなければなりません。

① そして
この後見計算に際してはその後見に後見監督人が付されている場合監督人の立会いを受けて実施
しなければなりません
(民法871条)

 これに違反して監督人の立会いなしで実施した後見計算は、後見人就任当初の目録作成に際し同じく後見監督人
の立会いを義務づけ、これに違反して作成された目録は効力を有しないとする民法853条の類推適用によって、
無効であるとされています。

 公益的な立場から後見開始時と終了時の重要事務を同じ規制の下に置くという意味で、正しい解釈ですし、そう
しないと、当初の目録作成義務も活かされないと言うべきです。
 但し、後見人からの要請にも拘わらず、後見監督人が立会いを拒み、或は、期間の伸長等をしても立会いできな
い事情等がある場合は
、(監督人の職務懈怠は別に問われるとしても) やむを得ないですから後見人単独で計算を行わざるを
得ません。

 なお、この終了時の計算義務、立会受忍義務は、保佐
876の5Ⅲ)・補助876の10Ⅱ)にも準用になります。

② この後見計算については、後見人がの計算前に、自身(或いは配偶者若しくは直系卑属)の利益となるべき
遺言を、被後見人にさせたときは、その遺言は無効となります
 (民法966条1項)

 
後見人がそのように作為したことが認められなくとも、後見本人がしたそのような遺言は、無効です。
 但し、後見人が後見本人の配偶者、直系血族、又は兄弟姉妹であるときは、無効とはされません
 (同条2項)。これ
らの者は、元来 後見本人と極めて親密な間柄の者であり、扶養・相続上の一体的関係もあるので、その様な遺言が
なされても、これに非を鳴らすことはできないからです。

 なお、無効とされるのは、遺言全体ではなく、後見人側に利益となる条項だけであるとされています。


③ 更には
次項に述べますが未成年被後見人が成年に達した後 後見の計算の終了前にその者と未成年後見人
又はその相続人との間でした契約は、その被後見人において取消しすることができます
(民法872条)

 また、後見人が、その被後見人を養子とする場合、地位の乱用から不正が行われないよう、家裁の許可を受けな
ければなりませんが、後見任務が終了した場合でも、後見計算が終了しない間は同様とされます
(794条)
 これに違反した縁組届けは受理されませんし、誤って受理された場合、縁組は取消しの対象となります
(806条)

 以上の様に、後見計算は、後見制度の中で重要な機能を担い、重い意味を持ちますから、後見に関わる者は
後見計算が後見の適否・成否を分ける重要な事柄であることを知る必要があります。



          後見えて870かれるな

        
後見870 (伸長できる) 後見計算せにゃならぬ


       後見ばん逸産いつさん 853
ぐため

          後見計算
(後見)監督 (人いるときは) 

             罵声
871覚悟立会たちあい
くべし

                     §853は調査、目録作成時の立会に関する規定


       後見 870 (管理)計算未了 966がぬ

             
(後見人、その配偶者、直系卑属が)利益 966遺言ゆいごん(本人に)


          させたは不埒無効 但し後見夫婦親子あいだとか

                   
孫ひ孫
(等直系血族とのかん)兄弟(姉妹)かんなら此限こぎりでない



未成年後見人・本人間の契約等の取消し
 民法872条は、
未成年被後見人が成年に達した後 後見の計算の終了前に、
  その者と未成年後見人又はその相続人との間でした契約は、その者が取り消すことができる。
  その者が未成年後見人又その相続人に対してした単独行為も、同様とする。

と定めます。

 未成年後見本人が 成年到達直後で未だ後見計算も受けていない時期であれば、後見人の影響力からも脱し切れて
おらず、未だ後見下での財産管理の状況も十分に把握できていない状況と言えますから、そのような時期に本人が
後見人或いはその相続人と契約することは、客観的に見ても、後見計算結果を避けるかのような怪訝なことであり、
後見人の公益的立場に照らしても慎むべきです。
 したがって、その様な時期に、それにも拘わらずなされた契約は、取り消すことができるものとされました。

 同条は、契約だけでなく、債務の免除等の未成年被後見人であった本人による単独行為についても、取り消し得
るとしています。

 そして、この取消しについては、同条の2項が、
第二十条及び第百二十一条から第百二十六条までの規定は、前項の場合について準用する。
としています。
 「第二十条」というのは、取り消しうる行為の相手方から、期間を定めて、その行為を追認するか否か確答する
よう催告することができる旨の規定で、期間内に確答がない場合は、追認したとみなされます。

 この場合の催告の相手方となるには、後見本人は、能力を回復していることが必要とされますが、ここでの本人
は既に成年到達をしているので、催告の相手方となり得、また、追認することもできることになります。

 そして、この場合も、本人財産の譲受行為の取消し
866)と同様に、121条から126条までの規定が準用されます
から、ここでの契約、単独行為の取消しや追認等については、取消しの効力、法定追認、取消権の時効等を定める
これらの規定が適用されることになります。こちらをご覧下さい。




                  (未成年)後見人(又はその相続人)

                         
被後者成長成人はな872

          後見
 
離ればなれ870 計算未了 

                侭
被後者
契約、(又は)受免() 

                       あれば
被後者はそ
()取消(できる)




       (後見)計算未了 成人はな872なされた契約(或いは)受免除 

         被後者
 
取消なしたならよって(取消しから)じた債権

                                   
取消パンチ875五年時効

       §870は後見計算に、§875は後見に関して生じた債権の消滅時効に関する規定



返還金に対する利息の支払と
 金銭消費に対する利付き償還・損害賠償義務


 
民法873条は、
後見人が被後見人に返還すべき金額 及び 被後見人が後見人に返還すべき金額には、
  後見の
計算が終了した時から、利息を付さなければならない。
と定めます。

 つまり、後見中、後見人・被後見人の間では、互いの返還すべき金銭について、互いに利息を付ける必要はない
のですが、後見が終了したときは、後見計算が済んだ時から利息を付けなければなりません。

 ことに、後見計算後、後見人は、同計算によって引き継ぐべき返還金額が算出・確定される訳ですから、
当然以後は利息を付けるべき筋合いとなります。
 それまでは、後見が終了して、金銭を返還すべきではあっても、その金額が未定ですから、元本も利息も請求で
きない訳ですが、その額が計算により確定したら、計算終了時から利息を付けることとなります。

 利息は、年3%の法定利息
(404条)です。

 被後見人から返還すべき金銭としては、後見事務の過程で後見人が被後見人のために立替えた金銭の他、
後見人の報酬が入ると思われます。

 そして、873条2項は、
後見人は、自己のために被後見人の金銭を消費したときは、
   その
消費の時から、これに利息を付さなければならない。
   この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。

としています。

 後見人が被後見人の金銭を自分のために使い込んだら、すぐに返還すべきが当然ですが、利息もその時から付け
るべきですし、損害が生じていれば、その賠償の責任も負うべきで、この責任は、委任契約に関する民法647条
定めるところです。
 しかし、後見は、契約に基づく関係ではありませんから、この委任規定に拠る訳にいかないので、
後見のための特別規定として873条が置かれています
 
(前述の任意後見契約の場合は、この民法647条がそのまま適用されることとなります)

 この終了時の返還金に対する利息の支払い等の義務は、保佐876の5Ⅲ)・補助876の10Ⅱ)にも準用になります。
 
 因みに、上述来の後見人の財産管理面での責任規定は、共にこの金銭消費関係の規定
(647条)が置かれている等、
裁判所の選任に係る相続財産管理人の責任に関する規定とかなり似通ったものがあります。こちらをご覧下さい。
 両者の違いは と言うと、遺産管理人は、その権限を 原則 財産の維持管理に限られ
(918条Ⅲ28条103条)
それを超える処分は 原則できませんが、後見人の権限は処分をも含む広いものですから、
それで、後見には コンセプトとして、広い処分権限に対する規制枠が設けられています。
 それが、利益相反の場合の、特別代理人選任
(860条826条)規定や、
 重要財産行為の要
(監督人の)同意(864条)、その同意のない行為や被後見人財産の譲受行為の各取消権(866条)規定、
 居住用不動産の処分
(859条の3)に関する要(家裁の)許可規定等です。



           後見わったときようせんさ873

                       
わずにすべし 返還
 。  

          いにあれば(後見)計算わったときから () ける 

          後見人自己ため 被後者使ったら

                          
使ったときから けて損害あれば賠償          





                    
後見使んだる 返還

             873もる( ) () ()



後見終了後の応急処分と終了の対抗要件
 後見人は 後見が終了した場合でも急迫の必要があるときは対処のため必要な処分をしなければなりません。
後見人の応急処分義務と言います。

 ですから、例えば、家屋の倒壊を防ぐための修繕とか、時効完成を防ぐための請求行為の様に、急迫の必要があ
る場合には、後見終了後も、後任の後見人或いは相続人がその事務を処理することができるに至るまで、例外的に
そのための権限を認められます。

 また、後見を受けた本人に対しては後見終了を知らせねばならず、その通知を欠いていた場合は、本人に対し
後見の終了を主張することができません。
 本人に対して終了の通知を欠いている間は、後見人の善管注意で財産管理をすべき任務は解かれません。

民法は874条で、委任に関する654条
(委任終了後の応急処分義務)655条(委任終了の対抗要件)を準用する形で、これらのこ
とを定めています。

 なお、成年後見が後見本人の死亡によって終了する場合の応急の対処について、
平成28年の民法改正により一箇条が加えられました。次項をご覧下さい。


    了後余
654 急場 (必要)処分

     終了
らせる通知こう655 (対抗要件)

    
委任874後見

         事務
をば
874 ( 終了 ) めくくり 

     
§654は、委任終了後の処分に、§655は、委任終了の以降要件に関する規定



死後事務の処理
 平成28年民法の一部改正により、民法873条の2が加えられました。成年後見の現場での以前からのニーズ
に応えたものでした。

 成年後見の本人である成年被後見人が死亡した場合には、成年後見は当然に終了し、成年後見人は原則として
法定代理権等の権限を失います
(代理権の消滅事由民法111条1号653条1号参照)
 しかし
実際には成年後見人は成年被後見人の死亡後も一定の事務(死後事務)を行うことを周囲から期待され
これを拒むことは社会通念に照らしても難しいことです。
 成年後見終了後の事務については、従前から「応急処分義務」
規定(民法第874条によって準用される委任の規定654条
があって、
終了した場合において、急迫の事情があるときは・・
 相続人・・が・・処理することができるに至るまで、必要な処分をしなければならない

応急処分義務」があるとされているものの、これにより行うことができる事務の範囲が必ずしもはっきりしない
ため、成年後見人が苦慮する場面がありました。

 そこで、この改正により、
  成年後見人は、成年被後見人の死亡後にも、個々の相続財産の保存に必要な行為、
  老人施設の利用料金、病院の医療費等弁済期が到来した債務の弁済、火葬又は埋葬に関する契約の締結等
といった一定の死後事務の処理を行うことができる
(但し、その他の財産保存行為や火葬又は埋葬に関する契約の締結等については家裁の許可を要する)ことになりました。


 後見本人が亡くなって、その相続人の意思に反することが明らかなときはダメですが、そうでなく、必要がある
ときは、相続人が相続財産を管理することができるに至るまで、そのような死後事務行為をすることができます。

 
なお、そもそも、後見の絶対的終了事由とされる本人の死亡があったのに、後見事務の処理は可能なのか、
という問題については、死後事務委任を積極に解した判例
(最判平4・9・22)が参考になります。
 その要旨は、
死亡を委任の終了事由と定める民法第653条1号任意規定であるから、
当事者間で反対の特約をすることが可能であり、従って、委任者が死亡しても終了しないとの当事者の合意
がある場合には、当該委任契約は死亡によっても終了しない。」
本件の「自己の死後の事務を含めた法律行為等の委任契約が成立した との原審の認定は、当然に、
委任者の死亡によっても右契約を終了させない旨の合意を包含する趣旨のものというべく

民法653条の法意がかかる合意の効力を否定するものではないことは疑いを容れないところである」
としています。

 ですから、善管注意義務を負って
(869条644条)本人の財産管理と代表を担う(859条)後見人としては、
後見終了後の応急処分についても、委任の654条
(委任終了後の応急処分義務)を準用する874条の法意に照らし、
一定の死後事務の処理が認められてしかるべきです。これが、改正による873条の2の加入により明定されました。

 但し、死後事務の形で無制限に事務の範囲を拡張することは、厳格な方式によって守られる遺言制度を侵すこと
になりますから、あくまで本来の委任なり後見の後始末的な事務の範囲内に限られると言うべきです。
 後見には、委任におけるような当事者の合意による拡大余地はありませんから、尚更 これ以上の事務範囲の拡張
はあり得ないことと言えます。



   
後見しご本人亡くなりて 874にも

      
了後余654  とが

         
れとてさぬに873の2
    
              
らいて御霊送りぬ




後見債権の消滅時効

  後見人又は後見監督人と被後見人との間で、後見を巡り生じた債権には 五年の消滅時効があります(民法875条1項
による832条の準用)

 後見人
(或いは 後見監督人、以下同じです)の財産管理上の過失から本人に損害を与えた場合における損害賠償等の後見人
側の債務、或いは、後見人が本人に代わり立替えて支払った金員の本人側の返還債務等が考えられます。
 未成年後見の本人が成人する際、後見計算が終わらない内になされた契約等の取消し
(872条)によって生じた債権
も取消しの時から五年の時効にかかります
(875条2項)
 通常、消滅時効の起算点は 権利の履行期からですが、この場合は「管理権が消滅した時から」
(832条)です。
 したがって、未成年後見が本人の成人によって終わる場合の起算点は、本人が成年に達した時、成年後見の本人
が行為能力を回復して後見終了となる場合は、後見開始の審判が取り消された時となります。又、後見人の死亡等
により後見が途中で終了したときは、その後新たな後見人が就任した時からの起算となります。


     後見(又は後見監督)っててば

     後見
(に関して生じた)債権 832時効完成 消滅


   任務終、後見(保佐(補助)事務) 了後債権債務 バトルある
832

         
それとも五年(経過) (時効完成) 
832 入る


    後見中
債権行使875ねられて

       困難故
時効をば進行なしとし、(後見)終了後早期 (に完成させる)時効也


   この時効
後見わる事由(成人)発生後875

      或は
(欠けて終わった後見の)後任就任(した)(から)、起算をしての也。


   
(後見)計算未了成人はな872なされた契約免除 

     被後者取消
なしたならよって(取消しから)じた債権、取消パンチ後875 時効。


§832は、親権債権の消滅時効に関する規定



後見行為
をめぐる行為の無効
  取消し得る行為
 (まとめと取り消しうる行為の追認・取消効果・時効)
 
後見には、制度の建付自体に本来的に予定された 後見人による後見本人の行為の取消しの外に、制度を機能させ
る上で付随して設けられた「無効」や「取消し」があります。ここにはその条句だけをまとめますので、詳しくは
本文をご覧下さい。また、後ろに「取消し」関係の条句も掲げますので、これも詳しくは当該下線のクリックでご
覧下さい。


 
1.後見人作成の財産調査報告書・財産目録の無効 : 後見監督人の立会いを欠く場合 本文 

           後見人 ばん 逸産いつさん 853ため

                  
初護産はつごさん
 853事務遅滞なく

        
財産
調査ひとつき()目録作成

          自産
区別 
(期間は伸長可) 

         監督人
がいるときは調査(財産)目録作成

              
  罵声
871覚悟立会たちあいべし

               §871は後見監督人の後見計算立会に関する規定


 2.
後見人作成の後見計算書の無効 : 後見監督人の立会いを欠く場合 本文

        後見えて870かれるな

        後見
870 (伸長できる) 後見計算せにゃならぬ


       後見ばん逸産いつさん 853
ため

          後見計算
(後見)監督 (人いるときは) 

             罵声
871覚悟立会たちあい
くべし

                     §853は調査、目録作成時の立会に関する規定


 
3.後見人の地位利用遺言の無効 本文

     後見 870 (管理)計算未了 966がぬ

          
(後見人、その配偶者、直系卑属が)利益 966遺言ゆいごん(本人に)

    
       させたは不埒無効 
但し後見夫婦親子あいだとか

                   
孫ひ孫
(等直系血族とのかん)兄弟(姉妹)かんなら此限こぎりでない



 4.後見本人財産の譲受け行為の取消し本文
  

    後見人被後者被後者に対する他者債権)

        
けたら要務も866被後者において取消でき


 
5.(未成年)後見人本人間契約の取消し本文

             (未成年)
後見人(又はその相続人)

                     
被後者成長成人はな872

          
後見 離ればなれ870 計算未了 

              
侭に、被後者と契約、(又は)受免() 

                       あれば
被後者
()取消(できる)



 
6.後見監督人の同意を要する行為取消し本文


   後見人(後見)監督人同意 

          
(自ら)いざ13処分営業(§6行為 

         或いは被後者 をなすに同意をすれば 

      (被後者)
本人後見人その行為 取消ことができる


     「いざ
13処分 (とか)営業やろうよ864

          監督
同意13ネグったら

        なされた
処分営業行為、完全ならず 865

              取消
され半無効
865

§13は、保佐人の同意を要する行為に関する規定   「おとる」の「おと」は、8の伊語「オット」から




  取消し追認取消しの効果取消権の消滅時効等の説明はこちらをご覧下さい。

     取り消されるかされぬのか

     焦れ
20る相手の催告に、

  (追認権を有する者が)確答せずば‘みなされ’の追認あるも

    取り消して遡及無効
(と現利返還)一対 121

    相手安堵に 
122追認なすは一つさ 123(相手に対し)意思表示


  追認のできるはいつよ 
124の要件(取消原因解消後)

    
(を具備する必要) と(回復して)安堵後 125

    履行・請求・執行・担保 
(提供)

    (取得物の)譲渡・更改(等の事実で)


  法定
追認あるも、

  取消しにいつも 
126気になる消滅の時効

   (回復してから)
五年(行為から)二十年



後見養子 縁組禁止(要許可)
 
後見人が、その被後見人を養子とする縁組には、地位の乱用から不正が行われないようチェックするため、家裁
の許可を受けなければなりません
(後見養子の要許可原則)(§794)これに違反した縁組届けは受理されません。誤って
受理された場合は、養子又はその実方の親族から縁組取消しの請求をすることができます
(§806)後見任務が終了
した場合でも、後見に関する管理計算が終了しない間は同様とされます
(794条)ここでの取消しは、上記契約等の
取消しとは異なり、本来人事訴訟事件
(人事訴訟法2条)なので、家裁に対し縁組取消請求をすることになります。
 
こちらをご覧下さい。



   後見人 

     被後者膝下
不祥事

     なくす 
794 (為の)許可をば

    養親マント
はおろう 
806とした縁組取消できる



保佐開始・補助開始
 
保佐」は、財産行為に関する弁識能力が著しく不足する者に対する保護の制度であり、本人、配偶者、四親等
内の親族、検察官の請求
(民法11条)により家裁が保佐開始の審判をすると、その保護は開始されます(民法876条)

 その他、別の保護類型である後見・補助からも、その後見人・補助人から、或は、更に、それぞれの監督人から、
被保護者の能力程度が変化したことに応じて、保佐開始の請求をすることができます
(民法11条)

 家裁が保佐開始の審判をするには本人の陳述を聴かなければなりません
(家事事件手続法130条1項1号)が、補助の場合
のように本人の同意を要する
(民法15条2項)ということはありません。保護の為 保佐人の同意を要するとされる行為は
原則 民法13条1項に掲げられた行為であり、補助の様に内 一部の行為を指定することはありません。

「補助」
は、財産行為に関する弁識能力が不足する(が、著しくは不足していない)者に対する保護の制度であり、本人、
配偶者、四親等内の親族、検察官の請求
(民法15条)により家裁が補助開始の審判をすると、その保護は開始されます
(民法876条の6)

 その他、別の保護類型である後見・保佐からも、その後見人・保佐人から、或は、更に、それぞれの監督人から、
被保護者の能力程度が変化したことに応じて、補助開始の請求をすることができます
(民法15条)

仕組みのあらまし」で述べました様に、「補助」は、その保護の程度が「保佐」のミニ版と言えるものですから、
保護制度の三本柱「自己決定権の尊重」「残存能力の活用」「ノーマライゼーション」
の内でも自己決定権が重ん
じられて、本人以外の者の請求に係る場合は、本人の同意がなければ補助開始の審判をすることができません
(15条2項)

 また、補助における 補助人の「同意」、「代理」による保護態勢も、要「同意」行為が審判によって指定される
必要があること
(民法17条)、「代理」についても、本人の請求か同意に係る、代理権付与審判が必要であること(876条
の9第2項
による876条の4第2項の準用)
によって、補助開始の為には、要同意行為の指定・代理権付与の各審判の何れかが
必須となります
(民法15条3項)

 なお、後見には、
制度として代理権付与が初めから伴っています(859条1項)、制度として、個別に代理権付与の
審判を要する点では、保佐も補助と同じであり、その代理権付与審判の為には本人の同意を要すとする点も両者は
同じです
(民法876条の4第2項876条の9第2項)


保佐人・補助人の選任
 
については、保佐開始・補助開始の審判に伴う保佐人・補助人の各選任関係の他の事柄は、後見人と同様である
ことから、辞・解任欠格事由等について後見人規定が準用されます
(民法876条の2876条の7)なお、保佐人・補助
人の復任権については、こちらをご覧下さい。

  保佐人・補助人の選任に関する各準用規定の条句
        
下記の各後見規定が、保佐について876条の2Ⅱ、補助について876条の7Ⅱで、それぞれ準用されています。



保佐開始
 あれば家裁は、後見しな847がら、 八隅843迄一切考慮

            職権
876条の2引受ける保佐人選任せねばない



補助開始
あれば家裁後見至智876の7 (として)

          八隅
843
までしな847がら、職権補助人選任せねばない。



保佐の条句では逆の観がありますが、保佐人 補助人の選任につき876条の2Ⅱ、同
条の7Ⅱにより準用されるのは、843条から847条迄です。




§843Ⅱ~Ⅳ
 (選任基準) 保佐補助 開始のとき(他に、欠けたとき、追加のとき)
 
         
八隅 
843まで一切考慮、審判、保佐人・補助人(の)選任をする


§844  (辞任)   保佐(人)補助(人)辞任したくば正当事由
             
はしょらず 844べて許可



§845(辞任時の後任請求)   保佐補助

            
()者梯子
はしご 845さぬように

               
  (に伴い、必要)ならば

                  はよ (遅滞なく)   845(の選任) 請求すべし 



§846 (解任)    不正行為 (著しい)不行跡

           
その(任務に)不適事由あれば

              
解任請求 家裁走ろ 
846


§847 (欠格事由) ハードル落とすな 847欠格事由

          
 破産者未成者行方ゆきがた知れず

            
免ぜられたる法代訴訟した

                     
(その) (偶者)(系)(族)

           「落とす」の「オト」は、伊語の8「オット」から


保佐人、補助人の任務
 保佐と補助の違いは、保護を受ける本人の行為能力の差ということになります。

 具体的には精神上の障害により事理弁識能力が著しく不十分である者に対する保護の制度が保佐
(民法11条)で、
精神上の障害により事理弁識能力が不十分である
(が、著しく不十分ではない)者に対する保護の制度が補助(15条)です。

 保佐と補助は、それを受ける本人に制限的ではあるものの行為能力があるとの前提なので、基本的に
 
   本人の行為に、保佐人・補助人が
同意するか否かのチェックをすることにより、又、さらに、
   保護を十全にするため、本人が望み、或は、同意をすれば保佐人・補助人に
代理 権限を付与

 することによっても、保護しようとするものです。


 後見
は、本人が自ら法律行為をすることが殆どできない人ですから、
 後見人が本人に代わり財産管理と法律行為の代理
(代表)に当たります。
 従って、それに伴う 大きな権限と共に、 管理・代表の為の 事務を担い、規制を受けますが、
 保佐・補助にはその面での事務や規制が伴いません。

 例えば、
 債権債務申出義務、財産調査と目録作成の義務、支出の年額予定義務等が、管理・代表の権限と裏腹をなす義務
ですが、これらは保佐・補助にはありません
(この事は、被保佐人・被補助人に可能な行為の範囲にも現れます。→時効完成猶予・更新)

 
保佐人・補助人については、後見人
(858条)と同じく、本人の意思の尊重身上配慮についての義務規定(保佐につい
876の5Ⅰ、補助について、それを準用する876の10Ⅰ)
があります。

保佐人・補助人の同意権  保佐・補助を、対応する法律行為の範囲という観点から区別すると、両者いずれも、
 民法13条の1号から9号に列挙された重要な法律行為
 (但し、日常生活に関する行為は除かれます) の内、
審判によって定められた行為は、本人だけで行為できず、
(保佐人・補助人ら)保護者からの同意を必要とします。
 内、13条列挙の重要行為 全てについて同意を要するのが保佐
(民法13条1項)であり、
 その特定の 一部について同意を要するとされるのが補助
(民法17条1項)です。

 
補助については、能力的制限が比較的に軽いので、本人の請求によるか、(配偶者、四親等以内の親族等)本人以外の
者の請求による場合には
本人の同意を得て請求しなければ、補助開始の審判をすることができません(15条2項)

ですので、被補助人となり得る人の能力範囲は、13条に列挙された行為の内どの範囲まで補助人の同意を要する
のかにより、被保佐人に近いレベルから殆ど行為能力者と変わらないレベルまで広範囲に亘ることになります。 


保佐人・補助人の取消権 : 保佐人・補助人の同意を欠いた法律行為は、同意権を有するこれらの保護者によって
取り消され得ることになります
(民法13条4項17条4項120条)

代理権付与  そして、その保護を十全なものとするために、本人からの申立てによるか、或いは本人以外の者か
らの申立ての場合は本人の同意を得て
特定の法律行為についての代理権を保佐人876の4)・補助人876の9)
付与することができます。代理権の付与は、「特定の法律行為について」付与され、その法律行為の種類に限定は
ないので、財産管理や身上監護を巡る法律行為の内 必要なものについて家裁が特定をします。

 このように、法は、制限能力者に対しても、その能力に応じできる限り自己決定権の行使範囲を確保しつつ保護
するべく制度設計をしています。なお、行為能力が制限される人による行為の取消しをめぐる取消権や追認権、行
為の相手方からする催告、取消しの効果、さらには、法定追認、取消権の消滅時効等については、こちらをご覧下
さい。また、利益相反について、こちらもご覧下さい。



保佐人・補助人

 
   (弁識)
能力りぬ程度し、

     足
りぬが程度はさほどでない


   左様 いい11庇護15

        授
けるべきと 保佐
補助 

 
  保佐のお12保佐人ついて 補助16補助人がつく

    いい11庇護15 同意によって 保佐補助  

          財産
保護 いざ13開始


    同意がなくば 

         保佐
補助 担
には120 

            
取消権
えていい11庇護15也。




保佐人

  (識) () じるしくりぬ

  ワンサ
13行為一々11保佐人の)同意

    
すれば取消
120ありとわれたらやせる876いの保佐開始(§11)


  
やせ
876いというけれど、(識)()じるしくりぬ

   ワンサ
13行為一々11保佐人()同意チェックをし、

    
特定一部行為では
(本人の求め、或いは同意で)

    保佐人
()代理
(権付与)でクリアする、そうしてエイドしてるのよ8764


    
    「して」は、西語の7「シエテ」、伊語の「セッテ」から

11条は審判で保佐開始できる旨の規定、13条は要同意規定、876条で保佐が開始し、876条の4により保佐人に代理権が付与される。



補助人


  十五
() 15 (弁能) 非満(肥満?) 一難17 

    
やせるの
876の6をば補助(開始) として、

     ワンサ
13(行為の)特定一部について以後15 (補助人の)同意 

   加
うるに、本人望むか同意があれば

      特定行為
補助人代理権付与

          必
ずややせるの
876の9すべし

15条は審判で補助開始できる旨の規定、17条は要同意規定、876条の6で補助が開始し、876条の9により補助人に代理権が付与される。



保佐・補助の事務(後見準用)
 
民法は、保佐・補助のいずれについても、後見人規定 (或いは、委任規定、又、補助について保佐規定) を準用する形で、
任務・職務関係については、
  意思の尊重と身上配慮義務、利益相反、代理権付与、善管注意義務等を
保佐・補助の事務関係については、
  行為目的債務、数名時権限、居住用不動産の処分、事務費、報酬、監督権限等
をそれぞれ定めていますので、以下に順次 項目と条句を記載します。項目ごとの下線クリックでご覧下さい。


保佐人・補助人の任務事務に関する準用規定(条句)

意思の尊重と身上配慮
 民法は 保佐・補助のそれぞれについて、後見人
(858条)と同じく、本人の意思の尊重身上配慮の義務を定めて
います
(保佐について、876の5Ⅰ、補助について、それを準用する876の10Ⅰ)

§858       (成年)後見人
           
生活、療養
(看護) 、財産管理、担う任務の (後見)要綱は 858
             
    (心身の状態 並びに 生活の状況等の)身上配慮  意思の尊重

§876の5Ⅰ    保佐(補助)の事務
               
被保佐(補助)人を花婿 
876の5と思って、
             
      
その意思 (を)
尊重し、その身上配慮せよ。        

§876の10 Ⅰ    補助事務とその終了は、
                はん876の5保佐のそれ 見倣えば、
              
万難ばんなん」、のとう(のたまう)876の10 被補助(人) ずべきや。



利益相反 に関しては、それぞれに、後見における特別代理人にあたる
臨時保佐人(876の2Ⅲ)臨時補助人(876の7Ⅲ)
を置く旨の定めがあります。

  保佐()被保佐() (双方が)「ウインウイン」と使命感

    発露 826の「やろう 860傍目はためなら 利益相反

      (代理人役として)せるのに 876の2監督人があるときは(後見のときの)()(理人)臨時保佐人

     876の2保佐規定 その内容補助人至智 8767 (として) 準用


§826は親権者の利益相反行為に、§860は後見人の利益相反行為に関する規定



代理権付与
 
保佐・補助のいずれについても、保護者
(保佐人・補助人)に 代理権を付与することができること(876の4Ⅰ876の9Ⅰ)
付与に当たっては本人の同意を要すること
(876の4Ⅱ876の9Ⅱ)の定めがあります。



注意義務・事務上の義務等に関する下記の各後見規定は、保佐について876条の5Ⅱ、補助について876条の10Ⅰ
で、それぞれ準用されます。各事項についての記述は、下線クリックでご覧下さい。




§644 (善管注意義務)
 
        委任者は、心配無用よ、
            受任者は、善管注意で
制しよ 644


§824但書 (行為目的債務:代理権を付与された場合) 

        代理権 得たとて何か本人に
           
ハッシ 824とさせる契約 (の代理) は、
              
要護 構859あり、本人の同意を得るの要あるよ。


§859の2 (数名時権限)

          数名時 
鋭意この任 859の2 洞察し、
            共同するか、分掌し、
           第三者
(は)(数名の内) 一人に (意思)表示 すれば足る。


§859の3 (居住用不動産の処分)

          成年後見
(人は)
         
    859の3
                
 (被後見人の)家処分には(裁判所の)許可要す。


§861Ⅱ (事務費)
 年額予定の861条1項は準用がありません。 

         
後見人、必要爺務費 861Ⅱ
             
被後人の財をば支出できる也。


§862 (報酬)

         後見報酬、

           
(家庭)裁判所、やるに 862相当?その額いくら? 
          被後者資力やそのの事情、
             踏まえて、相当報酬を後見人に与え得る。


§863  (監督人の権限) 

          監督人、報告・目録提出、求め、
              監督
はる身 863、調査もやる身 863、後見人の勝手も止むさ 863


被保佐人・被補助人の訴訟行為

民事訴訟

 被保佐人・被補助人を含む いわゆる制限行為能力者といわれる人の訴訟については、通常の民事訴訟なら、行為
能力
に関する民法の定めに従うとされている
(民訴法28条)ので、これまで述べた行為能力制度の適用があります。

 したがって、被保佐人、被補助人の訴訟行為は、被保佐人については民法13条1項4号により必ず、被補助人に
ついては審判
(民法17条1項13条1項4号)で要同意とされていれば、それぞれ保佐人・補助人の同意を得た上で、本人
が単独で訴訟行為をすることができます 
( 但し、相手方の提起した訴えについて訴訟行為をするについては、同意は不要とされて
います(民事訴訟法32条) )


人事訴訟
 しかし、婚姻、離婚、嫡出否認、認知、養子縁組、離縁等の人事事件を扱う
人事訴訟では、本人自身の意思が
尊重され、代理は馴染まないとされていますから、財産行為について代理によって保護を図る行為能力制度の適用
はなく、被保佐人、被補助人に意思能力があれば、本人単独で訴訟ができます。

 したがって、被保佐人・被補助人は、人事訴訟では、申立てや職権で裁判長が訴訟代理人を付ける場合を除いて、
いわゆる本人訴訟が可能
(人訴法13条)で、審判によって保佐人・補助人に代理権が付与されている場合(民法876条の4
同条の9))
であっても、その代理によらずに自身で訴訟行為をすることができます。

参考までに人事訴訟法13条を掲げます。

13条 
人事訴訟の訴訟手続における訴訟行為については、民法
第5条第1項及び第2項第9条第13条並び
 に
第17条並びに民事訴訟法第31条並びに第32条第1項(同法第40条第4項において準用する場合を含む。)及び第2
 項の規定は、適用しない。

2 訴訟行為につき行為能力の制限を受けた者が前項の訴訟行為をしようとする場合において、必要があると認める
ときは、裁判長は、申立てにより、弁護士を訴訟代理人に選任することができる。
3 訴訟行為につき行為能力の制限を受けた者が前項の申立てをしない場合においても、裁判長は、弁護士を訴訟代
理人に選任すべき旨を命じ、又は職権で弁護士を訴訟代理人に選任することができる。
4 前二項の規定により裁判長が訴訟代理人に選任した弁護士に対し当該訴訟行為につき行為能力の制限を受けた者
が支払うべき報酬の額は、裁判所が相当と認める額とする。



 但し、余談になりますが、弁識能力を欠く常況にある成年被後見人については、
人事訴訟法14条が後見人による訴訟行為を認めており、その場合の後見人の地位如何が問題となります。
 この場合の
後見人の地位に関しては、
 「
本人の自由なる意思に基づくことを必須の要件とする一身に専属する身分行為は代理に親しまない
旨を踏まえ、
 
後見人は、法定代理人としてではなく、後見人という職務上の地位に基づいて訴訟行為にあたるものである旨
を判示した判例があります。こちらをご覧下さい。




保佐・補助の終了(後見準用) 民法は、保佐・補助の何れについても、後見人規定(或は、委任規定)を準用する形
で、保佐・補助の終了関係について定めていますので、こちらをご覧下さい。

 

« (広義の) 法定後見 グループ条句 »
 ここで、後見人・保佐人・補助人の選任・任務関係等の条句を、紹介形式をやや趣を変えて、条数を頭書した列
挙で、まとめておきたいと思います。


    
濃紺色のものは、(保佐・補助に準用する旨の規定がなく) 後見人プロパーのもの、
    
緑色のものは、(同様に準用がない) 未成年後見人プロパーのもので、
    その他は、三者共通のものとなります
(掲出条数に付した下線は条文に、見出し語の下線は本文中の該当箇所に、それぞれ
      リンクし、条句中の下線は掲出条数に対応することを示します)


 
条句のご紹介の前に、この三者について総論的に概括すると次のようになります。
 三者の保護の必要性の程度は、後見、保佐、補助の順となりますが、必要性の一番低い補助においては、保護必
要性より自己決定権が重んじられて、本人の同意のある場合に限り、補助開始となります
(15条2項)
 又、法律行為の
代理の面で見ると、保護の必要性の最も高い後見においては、「財産に関する法律行為について
被後見人を
代表する」という定め方で、後見人に常に代理権が与えられ(859条)親権者と並ぶ法定代理人とされ
ています
(但し、身分行為に関しては、後見人は法定代理人ではありません。→判例)
 しかし、保佐と補助においては、本人の同意がある場合に限り、特定の法律行為に絞って代理権が付与される
 (876条の4876条の9) ので、法定代理人である面と任意代理人的な面とが併存すると言われています。
 そして、成年後見人
(843条)・保佐人(876条の2)・補助人(876条の7)等、他の法定後見担当者が裁判所の選任に係るの
とは異なり、未成年後見人だけは、裁判所による選任
(840条)の他に、親権の最後の行使者が遺言によって後見人を
指定
することができ、裁判所は、この指定がないとき、又は、指定された後見人に追加する必要が生じた場合に限
り、求めによって選任する定め
(839条840条)となっています。 
 成年後見・保佐・補助のそれぞれについて、本人の、
意思の尊重身上配慮についての義務の定め858
876の5Ⅰ876の10Ⅰ)
があり、未成年後見については、後見人が親権者の身上監護同様に、監護教育・居所指定・懲戒
並びに職の許可の権限を有する旨定められています
(857条)。       
 利益相反に関しては、それぞれに、特別代理人860826)臨時保佐人(876の2Ⅲ)臨時補助人(876の7Ⅲ)を置く
旨の定めがあります
(但し、何れの場合も、監督人が付けられているときは、監督人が本人の代理人になるので、これらの選任は不要となります)
 
利益相反のまとめとしては、こちらもご覧下さい。なお、後見監督の関係のまとめは、こちらでご覧下さい。

 そして、下記の後見規定が、保佐・補助に準用されます。
1 
選任欠格に関するもの (843Ⅱ~Ⅳ844847) は、条数を斜字体で示してありますが、
           これらは、
保佐人には876条の2Ⅱで、補助人には876条の7Ⅱで準用され、
2 
事務とその終了に関するもの (644859の2859の3861Ⅱ862863824但書654655870871873) が、
 
(委任に関するものは条数が太字です)  保佐人には876条の5で、補助人には876条の10で準用されています。
 但し、準用対象となっていない853条
(財産の調査と目録作成)については、準用対象である863条により、家裁、監
督人から財産目録の提出を求められることがありますから、義務的ではありませんが、目録作成が望ましいことに
なります。



§843Ⅱ~Ⅳ (選任基準)

        
成年後見開始のとき
(他に、欠けたとき、追加のときは)八隅まで
               一切考慮し、審判で、後見人の選任をする。



§844   (辞任)

         
辞任したくば、正当事由
             
はしょらず述べて許可を得る。




§845  (辞任時の後任請求)

        
 
後見人、被後者に
梯子はしごを外さぬように、
            
 (任) (に伴い、必要) ならば、
              
はよ (遅滞なく) 後任 (の選任) を求むべし(請求義務) 


§846  (解任)  
             不正行為や不行跡、その他不適の事由あれば、
              
解任請求家裁に走ろ



§847  (欠格事由)

        
ハードル落とすな 欠格事由、
        
  破産者・未成者・
行方ゆきがた知れず・
            免ぜられたる
(定)(理人)(佐人)(助人) と 訴訟した者、
                         (その) (偶者)  と直(系)(族)


§644   (善管注意義務)

          委任者は、心配無用よ
          
   受任者は、善管注意で
 (油断を) 制しよう


§824但書 (本人行為目的の契約)

         代理権あるとて 何か本人にハッシとさせる契約
 (の代理) は、
         
 
要護 構859あり、本人の同意を得るの要あるよ。


  §853  (財産調査・目録作成) 

           後見人  
ばん逸産いつさ 防ぐため、
           
初護産はつごさ事務、遅滞なく 財産調査
         
ひとつき (に) 目録作成、自産と区別 (期間は伸長可) 
            
監督人がいるときは、調査、目録作成に、
                罵声
871覚悟で立会たちあい受くべし。

  §854  (目録完成迄無権限)  

          
後見人、  (財産)目録作成終わる迄、
             家越やご
(転居の)とどけのない如く、
           
急場 (必)ようごとできぬ (急要事以外無権限)
              
但し 善意の相手には、(無権限による)無効を主張できぬ 也。


§858  (身上配慮・意思尊重)

             (成年)
後見人、
            生活、療養
(看護) 、財産管理、担う任務の (後見)要綱は
             (心身の状態 並びに 生活の状況等の)
 身上配慮  意思の尊重


§859の2 (数名時権限)

        
後見人が数名時
 (本来、単独行使だが) 
               鋭意この任 洞察し、共同するか、分掌し、
        
第三者(は)(数名の内) 一人に (意思)表示すれば足る。


§859の3 (居住用不動産の処分)

           成年後見
(人は) (ご)の身
             
 (被後見人の)家処分には (裁判所の)許可要す。


   
§861Ⅰ (年額予定) 

           後見人
            
初務はつむいち番 年毎の(被後人の)
             
生活、教育、療養看護 並びに 財産管理 のための
                     年額キチンと予定をすべし。



§861Ⅱ (後見事務費)

      後見人、
           必要爺務費
(事務費(造語))に、
       被後人の財をば支出できる也。



§862 (報酬)
         後見報酬、

          (家庭)裁判所、やるに相当?その額いくら? 
         
被後者資力やその
の事情 、踏まえて、
               相当報酬を後見人に与え得る。



§863  (監督人の権限)  

         監督人、

          (後見人に)報告目録 提出、求め、
             
監督しはる身 調査やる身
                後見人の勝手も止むさ




  §864、§865 (重要処分行為・営業行為) 

           後見人、
            いざ
13 (重要な)処分に、営業§6までも、
               被後者のために
やろうよと、或又
               
(被後者が) 挑むに同意をばしてやろうよと、意気込むも、
             「監督の同意はいぃさ
13」 とネグったら、
               なされた処分や営業行為、完全ならず 劣る効
                           取消され得る、半無効


  §866  (本人財産の譲受け)

           後見人が被後者の財

               (被後者に対する他者債権)

                 
譲り受けたら要務も怪し、
               被後者において取り消せる。



  
§869  (第三者からの無償供与財産) 

            「
野郎子やろっこはる」、
                
無償の(財産)供与者が、
                後見の闇を
830嫌えば、
                   その財は 、後見離れ別管理



§876の5Ⅰ (身上配慮・意思尊重)

       
保佐(補助)の事務、
             被保佐(補助)人を花婿と思って、
             
その意思
 (を)尊重し、その身上配慮せよ。

§654 (終了後処分)

       
もう御用ないと思うな、
            受任者は、
         
了後余、急場に必要な
                処分をばする義務がある
(応急処分)


§655 (終了の対抗要件)

      
委任終了、相手に知らせ、
         或又相手が承知 でなくば、
       
(相手に対する) 向こう効 (対抗要件(造語)) にはならぬ也


§870 (後見計算・保佐計算・補助計算)

        
後見
 (保佐(補助)事務) 
            終えて「花を」と浮かれるな、
         
後見
(保佐(補助)事務)離れ二か月 (伸長できる) 内、
                  後見計算 (保佐
(補助)計算) せにならぬ。 


§871 (監督人の計算立会い) 

        後見人 (保佐
(補助)人は) 、
           
ばん逸産いつさん853を防ぐため、
         
後見(保佐
(補助)の)計算、(後見・保佐・補助) 監督 (人いるときは)  
                 罵声覚悟で立会受くべし



§873 (金銭返還) 

       
後見の
(保佐(補助)の事務)計算終えて、
            「ようせんさ」言わずにすべし、
(その時から)利付き返還 

       
後見(保佐(補助)事務)で、使い込んだる金 返還、
             な身に積もる「( 息)」と「 (害) (償)



§875、§832 (後見・保佐・補助債権の時効)

         任務終え、後見
(保佐(補助)事務) 了後五年間債権債務 バトルある832
         
それとも五年(経過) (時効完成) 闇に入る?

         後見中の債権の、行使は「な子と撥ねられて、

          困難故に、
(時効をば進行なしとし、)(後見)終了後早期 (に完成させる)五年の時効也。


  §833  (親権代行)

         後見人、
           未成
 (年、未婚)の この子に子が宿るとさ
             
後見を与るこの子の親権 をやむなし867代わって行使する。

33=三十三、を「トル」「ト」「サ」と読む


   
§839  (後見人の指定)

          親権 最後行使者は、
             手続きの
煩瑣苦にせず
             遺言で、後見人の指定をすべし。



   
§840 (選任基準)

       
 (親権者から) 指定なく、求めがあれば
          裁判所、 子供心が安まるよう、
            一切事情を考慮して、後見人を選任すべし。



   §841 (親からの選任請求) 

         
はしたなく?、
          親権 辞任・喪失・停止、管理
(権)喪失あった親、
          
(未成年)後見人の (必)要あれば、
            
早よ(遅滞なく) (未成年後見人)  
              応援 頼むと
(家裁に選任)求むべし(請求義務)


   §857 (未成年後見の身上監護と要同意事項)

         
被後見(人が) 未成年なら
          親同様に
養護せな あかん、身上監護
             監護・教育、居所指定、懲戒権に職
(業)の許可、
             すべて親権同様なるが、
                 親権者定めし教育方法と居所の指定を変更し、
                 営業 許可し、取消す
(制限) ときは、
             
(後見)監督(人) の面子汚せ?、その同意(を) 得ねばならない、要注意。


    
§857の2 (数名時権限)

          
 被後見
(人が)
             
ようごう(造語)なのに
             
 「(未成年後見人複)数おれば、
養護し得たに
                    
 いうときは、複数置いて、
              混乱避けて、全
(員)共同
(が原則) も、
            裁判所、 
             一部
(の権限)を財(産)に限定し、

            
 或は、財産権限を、各担(当)又は分掌させ得。



「しえた」は
7の西語「シエテ」から


   §872 (契約・受免除の取消し)  

            
(未成年)後見人(又はその相続人)
               
被後者成長、成人はな
                 
後見 離ればなれ870 計算未了 侭に、
              
被後者と
                契約
(又は)受免(除)  あれば、
              被後者はそ
(れ)を取消し得。





後見監督人 
後見監督人の指定と選任
 後見人には、後見監督人を付けることができます。
 未成年被後見人に対しては、最後に親権を行う者が、遺言によって未成年後見監督人を指定することができます
(民法848条)
 その他の場合、後見監督人は、求めによって、或いは職権で、家裁により選任されます
(849条)

 そして、民法は、家裁又は監督人が、後見人に対し、後見事務の報告、或いは財産目録の提出を求め、又、後見
事務や被後見人の財産状況について調査することができる旨を定めています。家裁においては、更に、財産管理や
後見事務について必要な処分を命ずることができる旨も定めて、後見監督の具体的内容を示しています
(863条)
(→詳しくはこちら)

 まず、それらの条句をご覧下さい
(863条については、前出ですので、重複になりますが)
 続いて、後見監督人の任務事務関連・任免事項関係の定めについての説明となります。なお、後見監督に関す
る諸規定は876条の3により保佐監督に、876条の8により補助監督に準用となります。


   親権最後(に行使する)けた

    後見
()はす848 不安なら後見しかとはかどるよう848

      遺言いごん (後見) 監督() 指定ができる
          
「はかどる」の「かどる」は、4の仏語「カトル」から


    後見様子849わしく把握して

    監督
849するため必要あれば(家庭)裁判所


    
 (本人、親族、後見人の求めによって、或は又、職権により)監督人 選任



   (後見) 監督人又は家庭 裁判所 

     
 (後見事務) 報告(財産)目録提出


           
監督はる
863調査やる863

              後見人
勝手むさ
863

  
       (家庭)裁判所(は)、め或いは職権で、

             
必要 ならば処分やるさ
863(命じ得る)




後見監督人の任務
 後見監督人の任務には、名の通りの後見事務の
監督(具体的な監督事務については上記)の他に、後見人が被後見人と
利益相反
関係となったときの被後見人の代理、つまり
相反代理があり (従って、後見人に監督人が付いているときには、
特別代理人を選任する必要がありません)
、又、後見人が欠けたときには、急ぎ 後任の選任を家裁に願い出ること、急で
切迫した事情のときには
応急処分もしなければならないこと等があります(民法851)
 なお、この定めは保佐監督人
(876条の3Ⅰ)、補助監督人(876条の8Ⅰ)にも準用されます(保佐監督人について876条の3Ⅱ
補助監督人について876条の8Ⅱ)

 そして、これら三者いずれの監督人にも民法644条が準用され、善良な管理者の注意義務を以て任務を遂行すべ
き旨が宣明されています
(852条876条の3Ⅱ876条の8Ⅱ)
 又、後見事務の内には、その遂行に、後見監督人があるときは その関与を要する とする規定が幾つかあるので、
これも後見監督人の任務となります。
 列挙しますと、① 財産調査と財産目録の作成には後見監督人の立会い
(853条2項) 
 ② 後見人に被後見人に対する債権、債務があるときは財産調査着手前の後見監督人に対する債権債務申出
(855条) 
 ③ 未成年被後見人に対する営業の許可、或は 教育方法の変更等をするときは後見監督人の同意
(857条但書)
 ④ 後見人が被後見人に代わって営業13条1項重要財産行為をし、或は 未成年被後見人がするそれらの行為
  に同意を与えるときは後見監督人の同意
(864条)
 ⑤ 後見終了時の後見計算には後見監督人の立会い(871条) 
をそれぞれ要する
 となります。各項目の下線クリックでご覧下さい。



    後見監督ばん(する)こう(見人を)びと851擁護 851その職務

       
にある(後見事務)監督 (利益)相反()代理 (特別代理人の選任は不要) 

       
(後見)けたときには遅滞なく後任(選任)請求急場(必要)処分


     後見人、被後者(利害)相反するときは、特()() 選任あるべきも

     
(後見)監督人があるときは擁護   851④監督(人) 被後者代理、特代はなし



後見監督人の事務関連事項と任免事項等
 後見監督人の具体的職務や任免の関係を概観します。規定としては、民法852条が、委任や後見の
(以下の括弧内の)
規定を準用しています。
 まず、 家裁が後見監督人を選任するに当たっては、被後見人本人の意見を聞き、本人の財産状況や、候補者の
職業・経歴、本人との関係その他一切の事情を考慮すべきこと (選任基準)
(840条Ⅲ843条Ⅳ)が定められています。
 そして、執務に当たっては、善管注意義務
(644条)を負い、任務終了に際しては、終了後でも引き継ぎができる
まで 応急処分の義務を負うこと
(654条)、又、終了を主張するには対抗要件である終了の通知が必要なこと(655条)
辞任には正当な理由が必要であり、家裁の許可を得ねばならないこと(844条)、不正、著しい不行跡等適さない事由
があれば解任がある
(846条)とされます。
 なお、未成年者や破産者、行方不明者、本人に対して訴訟した者やその配偶者・直系血族等は後見監督人になれ
ないとされ(欠格)
(847条)、更に、民法850条が後見人の配偶者・直系血族・兄弟姉妹の欠格を定めています。
 その他、後見監督人が複数選任された場合の複数監督人間の役割関係
(857条の2859条の2)居住用不動産の処分
については家裁の許可が必要であること
(859条の3)、監督人の事務費(861条Ⅱ)報酬(862条)等についても定めがあり
ます。各下線のクリックでご覧下さい。


     後見監督ばん(する)こう(見人)にん852 (造語)

           
義務 644654655選任840Ⅲ843Ⅳ() 844解任846

       欠格事由
847850 複数(の時の権限) 85728592

              
居住建物売却8593費用861報酬862関係

                             
受任()後見()(の定め)準用




         後見人 

         配偶者
 兄弟姉妹 
()()(その後見に必要と)

                 
われりゃ反抗850などできず判子850つくさ

                 後見
監督人 にはなれぬ(欠格)。



後見監督人の選任・任務等に関する規定条句
      & 保佐監督人・補助監督人の選任・任務等
(まとめ)
 後見監督関係の条句を、先程の«後見 グループ条句»同様にまとめたいと思います。でも その前に、保佐・補助
についても必要があれば、保佐監督人
(876条の3Ⅰ)補助監督人(876条の8Ⅰ)がそれぞれ選任されますので、両監督人
条句を先にご紹介し、これら全監督人の選任・任務等のまとめとして«監督 グループ条句»をご覧頂きます。
グループの各規定の内、
緑色の未成年後見の規定以外のものが、保佐監督人(876条の3Ⅱ)補助監督人(876条の8Ⅱ)
準用されます。



保佐監督人

  いい 11 肥満) (弁能非満)青年(成年) せるのみ8763

    
万難無
8763にさせたしと(必要あれば裁判所) 

ばん(する)こう(見人を)びと851(後見監督人)ばん (をする)ほう (佐人)びとたる ( 
) 監督人選任をして

  
   (番後任852務と同じ)義務選任辞任解任欠格(事由)複数名時の権限居住建物売却費用報酬関係等

                          
受任()後見その監督()各規定をば準用

補助監督人

  因業15肥満 (弁能非満) 老人() 補助人付けて家裁 いをせるのは8768

    万難無8763 
(保佐監督)のひそみにならい(補助人にも) (補助)監督人選任

     
(番後任852務と同じ) 義務選任()解任欠格事由複数名(の時の権限)居住建物売却費用報酬関係等

                                              
委任後見監督各規定をば準用せんか




の規定ですこれらの内緑色の条文は 未成年後見監督に関するもの青色のものは 成年後見監督に関するもの残りは全後見監督に関するものです青色のものと黒色のも 
«監督人 グループ条句»
 
以下は 後見監督人に関する規定ですが
うち  
850
(欠格事由:配偶者・兄弟姉妹・直血)
   
851(職務監督・欠時選任・応急処分・相反代理)
が後見監督に独自の定めである以外は

    852によって準用される後見・委任規定です
その内
緑色の条文は 未成年後見監督に関するもの
    青色のもの
は 成年後見監督に関するもの
     
残りは全 後見監督に関するものです
監督人グループ条句の
内の
、緑色のものを除く、青色のものと黒色のものが
876条の3により保佐監督人に

876条の8により補助監督人に準用されます


())じるしくりぬお人に12保佐人くも

     ()
あれば(保佐)監督()けて万難無876の3


  りぬお16 補助人けて

  
家裁 いを
せるのは8768

  万難無 (保佐監督) 8763ひそみになら

(補助人にも) (補助)監督人を付けること。



§644 (注意義務)  委任者は、心配無用よ
            受任者は、善管注意で (油断を) 制しよう



§654 (終了後の処分) もう御用ないと思うな、受任者は、
             了後余、急場に必要な処分をばする義務がある。



§655 (終了の対抗要件)  委任終了、相手に知らせ、
                  或又、相手が承知でなくば、

              (相手に対する)
向こう効(対抗要件)にはならぬ也


§840Ⅲ (選任基準) (裁)判所、(指定なければ求めによって) 子供が安まるよう、
               一切事情を考慮して、後見人を選任す。



§843Ⅳ (選任基準) 成年後見開始のときは、家裁、同時に八隅まで一切考慮し、
              職権で
(成年)後見人の選任をする。(成年後見に)


§844 (辞任)  後見監督、辞(任)したくば、正当事由を
              はしょらずに、述べて
(裁)判所の許可を得る。


§846 (解任)  監督人(に)不正行為や不行跡、
            その他不適の事由あれば、解任請求 家裁に走ろ



§847 (欠格事由)  監督人、ハードル落とすな 欠格事由、
           破産者・未成者・
行方ゆきがた知れず・
           免ぜられたる法
(定)(理人)、保(佐人)、補(助人)
           
(被保護者に) 訴訟した者、(その) (偶者)と直(系)(族)


§850 (欠格事由)  後見人の 配偶者 兄弟姉妹 直(系)(族)は、
         
(その後見に必要と)言われりゃ、反抗などできず、
            判子をつくさ、後見の監督人 にはなれぬ也。


§851 (職務) 後見監督、ばん(する)こう(見人を)びとよ、
        擁護 一番その職務、
         ①名にある
(後見事務)監督、 ②(利益)相反(時)代理 (特別代理人の選任は不要) 
         ③
(後見人) 欠けたときには 遅滞なく 後任 (選任) 請求、④急場の(必要)処分。


§
857の2 (数人時権限) 被後見(人が)ようごう(造語)なのに
          「
(未成年後見人複) 数おれば、養護し得たに」いうときは、
          複数置いて、混乱避けて、全
(員)共同 (が原則) も、裁判所、
           一部
(の権限)を 財(産)に 限定し、或は、財産権限を、各担(当)又は分掌させ得。


§859の2 (数人時権限) 成年後見(人)、数おれば、各単独 (権限行使)でするべきも、
         
 (家裁は) 鋭意この任 洞察し、職権により、(権限)共同か分掌行使か定め得る。


§859の3 (居住用不動産の処分) 成年後見(人は)の身
                (被後見人の)
家処分には(裁判所の)許可要す。



§861Ⅱ (事務費) 後見人、必要爺務費に、被護人の財をば支出できる也。


§862 (報酬)   監督報酬、裁判所、やるに相当?その額いくら?、
              被護者の資力や他の事情、踏まえて、報酬与え得る。



任意後見

 成年後見は、本人に、財産行為に関する弁識能力の障害が生じてから、裁判所が 本人のために後見人を選任して
始まりますが、任意後見は、本人が、自らの弁識能力が害せられる前に、自分で選んだ後見人候補者との間で、予
(委任)契約を結んで、自らについての後見を依頼しておき、実際に能力が低下して後見の必要が生じた時に、その
任意後見受任者によって開始されます。裁判所が、本人の能力低下を認め、任意後見監督人を選任すると、任意後
見受任者が、正式な任意後見人となります。ですから、任意後見には、任意後見監督人が不可欠で一体の存在です。

 「自らについての後見」契約とは、正確には、
精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況における自己の生活、療養看護及び財産の管理に関する
事務の全部又は一部を委託し、その委託に係る事務について代理権を付与する委任契約
(任意後見契約法2条1号)
と規定されています。

 そして、実際に本人の事理弁識能力についてこのような不十分な状況が生じたときは、家裁が、本人、配偶者、
四親等内の親族又は任意後見受任者の請求により、
任意後見監督人を選任することになります(任意後見契約法4条)
任意後見は、この任意後見監督人が選任された時に効力が生じ、任意後見受任者は、この時、任意後見人となり
ます(任意後見契約法2条)

 この契約では、本人は保有財産のどこまでの管理を委託し、任意後見人にはどこまでの代理権限が与えられてい
るかが重要となりますから、契約書にはその範囲を示すための「代理権目録」が添付されます。
 そして、銀行等 対第三者との関係で任意後見が実際に動いて行く為には、この代理権目録が、任意後見契約証書
と共に提示されるべき重要書類となります(→「財産処分」記載の有無)

 任意後見人には、上記委託を受けた事務
(任意後見人の事務)を行うに当たっては、
本人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない
義務が課せられます
(任意後見契約法6条)

 この契約は、公証人によって公正証書としてその契約書 
( 任意後見契約公正証書 ) (→契約書例)が作られることを要し
(任意後見契約法3条)、又、実際に後見が開始されるには、家裁によって上記の任意後見監督人が選任される必要があり
ます
(任意後見契約法2条1号)

 一般に後見制度の後見人は、裁判所が選任する場合が殆どですが、裁判所以外の者が後見人を人選する例として、
この本人選任による任意後見人と未成年者の最後の親権行使者による未成年後見人の指定
(民法839条)とがあります。

 但し、任意後見受任者が、未成年者や破産者、行方不明者、本人に対して訴訟した者やその配偶者、直系血族、
兄弟姉妹であったり、不正行為や著しい不行跡その他後見任務に適しない事由があったりすると、監督人は選任し
て貰えません
(任意後見契約法4条)

 また、本人について、後見・保佐・補助が行われていて、本人の利益のため特に必要なのでそちらを実施すべき
と家裁が判断した場合にも、監督人の選任は行われません
(任意後見契約法4条)

 法定後見では後見監督人は必須の役職ではなく、必要なときに選任されるだけです
(民法849条)が、任意後見では任
意後見監督人の選任が契約発効に必須(任意後見契約法2条1号)とされおり、その代わり、法定後見では
(監督人が置かれてい
る場合には)
必ず監督人の同意を得なければならない重要財産行為(民法864条)でも、任意後見ではその部分について定め
がなく、本人との契約関係に委ねられています。

 しかし、反面、任意後見事務の全てについて必ず監督人の監督があり、監督人に対しては、家裁による報告要求
・調査・必要処分等の監督が及びます。
 任意後見契約公正証書の作成に当たり必要な資料、作成費用、その他全般については、日本公証人連合会のホームページ (公証事務2 ) に
詳しい説明があります。


 上記のように、通常、財産管理の能力が衰える前に、将来の能力の衰えに備えて予め公証役場で作って貰うのが、
本来的な任意後見公正証書ですので、このタイプの任意後見を「
将来型」と言います。

 しかし、能力的にはまだ自分で財産を管理することもできるが、煩わしい等の理由から、今のうちは信頼できる
人に財産の管理を依頼し、自分はその監督をする形でまかなって、その経過中に自分の能力が衰え、監督もままな
らなくなったら、その管理人に、任意後見を担って貰うという建付も必要であるとの社会的ニーズも生まれました。

 それで、当面の財産管理のための委任契約と任意後見を組み合せたバリエーションが考案されました。委任から
任意後見に移行する型なので、「
移行型」と呼ばれ、これが公証実務では多く利用されています。

 移行型中、初めの、財産管理 委任契約段階では、通常、その委任の内容は財産の維持・「管理」止まりですから、
契約書附属の代理権目録には「財産処分」は含まれず、任意後見の段階に入ってこれが含まれることになります。

 ですから、本人に管理能力があると前提されている委任段階では、生活費等の為 本人の財産を処分する必要が生
じても、本人自身がその財産を処分することが予定され (場合により、その時点で個別の「委任状」を作成して、契約上の受任者
に処分して貰うこともあり得ますが)
、そのため、委任契約添付の代理権目録には「財産の処分」の記載はありません。し
かし、財産管理能力を欠く状態となった段階での任意後見は、任意後見人に「財産処分」も含めての後見依頼とな
りますから、任意後見契約の代理権目録には、それが記載されることになります。

 任意後見人に「処分」をも含めての財産管理を依頼する場合、任意後見人が本人にとっての不利益処分をなすこ
とを防ぐ必要があります。そこで、通常、法定後見における上記の民法864条や、特に大切な居住用不動産の処分
に関する家裁の許可条項
(民法859条の3)にならって、
甲が所有する不動産(不動産の持分を含む)及び重要な動産を第三者に売却して換金し、担保に差し入れて金銭を借り
入れる等の処分行為は、甲の生活費、療養看護費又は介護費用を支弁するため、他に方法がないと認められる場合
で、かつ、後見監督人の同意が得られた場合に限りすることができる。

という条項を、当初の移行型契約時から入れて、本人にとっての不利益処分を防ぐ手立てとします。

 また、上記のように、将来型にしても、移行型にしても、その中身の契約はいずれも 委任契約ですから、本人か
らこれらの契約によって委託を受けた者は、財産管理受任者 或は 任意後見受任者として、民法644条により
善良
な管理者の注意義務
(善管注意義務)を負います。したがって、その義務に違反して本人に損失を生じさせた場合は、
本人に対する損害賠償責任を負うことになります。

 財産管理に当たる以上、本人保有の財産を明確にした上、これを自己の財産と区別して、委託の趣旨に応じ維持
・運用等することになりますが、その具体的な管理のあり方について、親権者による財産管理後見人による財産
管理
も参考にご覧下さい。

任意後見監督人の任務
 上記の様に、任意後見監督人には後見人による後見事務全般、就中、その 財産処分等
重要行為に目を光らせるという重い責任が伴いますから、任意後見契約法7条1項は、下記のとおり具体的に監督
や報告等、その為の主要任務を示しています。

 そして、その任務を果たす為、同条2項は、任意後見監督人は、後見人に対し後見事務の報告を求め、或は 後見
事務若しくは財産状況の調査をすることができることを、又、同条3項は、家裁が、さらに上位の監督庁として、
任意後見監督人に対し、後見事務の報告を求め、調査や必要処分を命じ得ることを定めています
 (この後見の監督に
ついては、こちらを参照下さい)


 また、その他任意後見監督人の職務・任免等に関しては、成年後見監督におけると同様に、委任や後見の規定が

下記の通り任意後見監督にも準用されています。そして、任意後見人に不正な行為、著しい不行跡その他その任務
に適しない事由があるときは、家裁は、任意後見監督人の請求により
(この請求は、任意被後見本人、その親族又は検察官
からもすることができます
)
、任意後見人を解任することができます(任意後見契約法8条)

 任意後見契約法7条1項の定める任意後見監督人の任務は、名の通りの後見事務の監督の他に、任意後見人の事務
に関し定期的に家裁に
報告すること、後見人が本人と利益相反の関係となったときの本人の代理(相反代理)、又、
急で切迫した事情があるときは任務後見人の代理権の範囲内で
必要な応急処分をしなければならないこと等です。


任意後見監督人の具体的職務と任免事項等

 任意後見監督人の具体的な職務や任免の点を見てみますと、まず、執務に当たっては善管注意義務
(民法644条)
則ることが求められます。これは、任意後見契約法7条4項が、民法規定を準用する形で定めています。
 そして、同じ任意後見契約法7条4項が、同じく民法を準用する形で、任意後見監督の終了に際しては、終了後で
あっても関係者が対処できるまでの間は、必要な応急処分を行なわねばならず
(応急処分義務:654条)終了の通知
の対抗要件を備えることも必要であること
(終了したことを通知しなければ、任務の終了を主張できません:655条)を定めています。

 なお、死亡による終了の場合に備え 任意後見契約中に 死後事務
(書式例中の委任契約・任意後見契約の各末尾条項参照)
の委任条項を加えることがあります。これらの条項によれば、任意後見人が、任意後見の終了後であっても、本人
の葬儀等を行うことができます。そして、成年後見においても、平成28年の民法改正により873条の2が加えられ
た結果、家裁の許可があれば、同条の2第3号により、本人の葬儀埋葬等も後見人が行うことができることとなりま
した
(→死後事務の処理)。この場合、後見監督人も後見終了後の応急処分としてでなく、監督人の本来の任務中の事務
として関与します。又、急迫の場合後見人に代わり必要な処分として後見監督人自身が葬儀等に関与することにも
なります
(851条3号)

 しかし、任意後見監督人については、上記任意後見契約法7条4項にこの関係の準用がないので、同監督人が葬儀
等に関与することはできないようにも思われます。しかし、任意後見監督人も、上記の様に監督の対象となる任意
後見契約中に死後事務条項があれば、それを前提に選任されるのですから、契約上、そして、選任上 当然、任意後
見人の死後事務の終了まで監督任務は継続すると解すことができます。又、急迫の事情がある場合には、成年後見
におけると同様、任意後見人に代わり必要な処分として、任意後見監督人自身が葬儀等に関与することにもなりま
(任意後見契約法7条1項3号)

 その他の具体的職務と任免事項等についても、任意後見契約法7条4項が、家裁での監督人選任に当たっては、本
人の意見を聞き、その他本人の心身、生活、財産の状況や、監督人となるべき者の経歴、本人との利害関係等、一
切の事情を考慮すべきこと(選任基準)
(843条Ⅳ)辞任するに当たっては正当事由を必要とし、家裁の許可も得ねば
ならないこと
(844条)、不正等があれば解任があり得ること(846条)、未成年者や破産者、行方不明者、本人に対して
訴訟した者やその配偶者、直系血族、兄弟姉妹は監督人になれないこと(欠格)
(847条)、任意後見人監督が複数名
任された場合の役割
(原則 各単独で権限を行使します。「共同」で権限行使すべき旨を定めることもできます:859条の2)、監督人の
事務費
(861条Ⅱ)報酬(862条)等について、後見に関する上記各小括弧内の規定を準用する旨を定めています。
各事項の内容については下線クリックでご覧下さい。
 なお、欠格関係は、上記のものの他に、任意後見契約法5条が、任意後見人又は任意後見受任者の配偶者、直系血
族、兄弟姉妹も欠格であることを定めています。

 以下は、任意後見契約法7条4項により任意後見監督人に準用される委任規定と後見規定です。うち条数が太字の
ものが委任規定、その他が後見規定 
(青色のものは、成年後見プロパーのもの) となります。
後見監督との対比としてこちらもご覧下さい
(後見監督にも同様に委任・後見規定の準用があります)


§644 (注意義務)  委任者は、心配無用よ
            受任者は、善管注意で (油断を) 制しよう



§654 (終了後の処分) もう御用ないと思うな、受任者は、
             了後余、急場に必要な処分をばする義務がある。



§655 (終了の対抗要件)  委任終了、相手に知らせ、
                  或又、相手が承知でなくば、

              (相手に対する)
向こう効(対抗要件)にはならぬ也


§843Ⅳ (選任基準) 成年後見開始のときは、家裁、同時に八隅まで一切考慮し、
              職権で
(成年)後見人の選任をする。(成年後見に)


§844 (辞任)  後見監督、辞(任)したくば、正当事由を
              はしょらずに、述べて
(裁)判所の許可を得る。


§846 (解任)  監督人(に)不正行為や不行跡、
            その他不適の事由あれば、解任請求 家裁に走ろ



§847 (欠格事由)  監督人、ハードル落とすな 欠格事由、
           破産者・未成者・
行方ゆきがた知れず・
           免ぜられたる法
(定)(理人)、保(佐人)、補(助人)
           
(被保護者に) 訴訟した者、(その) (偶者)と直(系)(族)


§859の2 (数人時権限) 成年後見(人)、数おれば、各単独 (権限行使)でするべきも、
         
 (家裁は) 鋭意この任 洞察し、職権により、(権限)共同か分掌行使か定め得る。


§861Ⅱ (事務費用) 後見人、必要爺務費に、被護人の財をば支出できる也。


§862 (報酬)   監督報酬、裁判所、やるに相当?その額いくら?、
              被護者の資力や他の事情、踏まえて、報酬与え得る。




   
 親族は、六親等内の血族、配偶者、三親等内の姻族からなります
(民法725条)。親等は 親族間の世代数を数え、直
系血族間は その間の世代数、傍系血族は、互いの同一
(共通)祖先まで遡って 世代数を数えますから、例えば兄弟は
二親等になります。
 姻族」は、結婚から生じる親族関係で、配偶者との間を零親等として、配偶者を介して、配偶者の当該血族へ
と、同様に直系・傍系で親等を数えます
(民法726条)。そして、養子は、縁組の成立によって、養親及びその血族との
間でこれらの親族関係に入り
(民法727条)、結婚によって生じた姻族関係は、離婚により終了します(民法728条)
 養子・その卑属並びにそれらの各配偶者と養親・その血族との親族関係は離縁によって終了します
(民法729条)

 民法は、第四編を「親族」とし、その初めの6箇条
(§725~730)を第一章「総則」として、これら定義的ないし説明
的条文を置きますが、その最後の730条には 「
直系血族及び同居の親族は、互いに扶け合わなければならない。
として、唐突に、
一定親族間の扶合い義務を謳います。こちらをご覧下さい。
 そして、第二章から第七章 までに「婚姻」、「親子」、「親権」、「後見」、「保佐及び補助」、「扶養」の
各章が並びます。
 親族であることに伴う制約としての婚姻障碍、そして、権利としての配偶者養子親・兄弟姉妹の各相続
権を、それぞれ下線クリックでご覧下さい。扶養についてはこの後の扶養義務をご覧下さい。

 姻族関係は離婚によって終了します
(民法728条1項) が、離婚せずに添い遂げて、配偶者が死亡した場合は、亡くな
った後も姻族関係は継続します。ここで、残された妻
(或いは 夫) から、義父母に対する姻族関係終了の意思表示
(戸籍係に届け出ればそれで足ります) 
があれば、義父母との姻族関係は終了となります (民法728条2項、戸籍法96条) 
 生存配偶者は、その氏を結婚前の旧姓に戻すこともできます
(民法751条、戸籍法95条) (生存配偶者の復氏) 

 但し、一旦義理でも親子の関係になった間柄ですから、その姻族関係が終了した後も結婚することなどは禁じら
れます
(民法735条) (婚姻障碍) 
 
 配偶者が死亡した後の姻族関係は、生存配偶者と義父母との間に何らの権利義務関係もなければ、姻族関係の消
長に何らの痛痒も感じずに済む訳ですが、親族から生じる法律効果としての扶養義務が伴うとなると、大きな負担
問題になりかねません。

 それ迄の義父母との人間関係、相互の支援や財産の承継状況等に照らして、877条2項に言う扶養すべき「特別
な事情」ありとされた場合は、姻族関係が継続する限り、義務を拒むことができません。
 ここで、姻族関係終了の意思表示をすれば、扶養義務の根拠である「三親等内の親族」たる身分が失われますか
ら、法律的にはこの義務を免れることができます。

 ただ、その具体的個別の人間関係と経緯からして、割り切って簡単に法律的義務を免れることができるものか、
或いは、法律的には免れても情として忍びないこととして事実上面倒を看るか、等切ない場面ではあります。
民法728条の条句は、その辺の複雑な心境も詠まれているとご理解下さい。

 高齢社会となって、老々介護、孤独死等の社会問題も深刻化しつつあり、この様な個人的悩みで乗り越えられる
事柄ではなくなっていると思います。安心して老後を迎えられ、また、残された嫁・婿も安んじて再船出できる社
会であってほしいと思います。

 なお、扶養の程度については、後記生活扶助義務もご覧下さい。

 従来、連合いに先立たれた後も、義父母の身の回りの世話等で献身的に尽くしても、遺言で報いて貰えない場合
は全くの徒労に終わることが、姻族関係終了の勧めに傾く要因の一つであった訳ですが、平成30年の民法改正によ
り、この点が「
特別寄与料」という形で一定程度改められました。こちらもご覧下さい。



   近頃親族 () なつ725にも何語725 るかからない 

   多国
 () まれこの あたか無血敗残員

         (
(親等内)()(偶者)(親等内)())



   親子 孫 ひ孫(直系血族)と、同居親族は、730てずに、

             おいにわねばならぬ



   ‘ (同居
して) い、
730てずに オヤ (義父母)

    「虫酸
る、ようせんな
877Ⅱ ならば離婚をせにゃならぬ?。



  姻族関係 離婚によって終了するも

   
げてつま
() オヤ (義父母)

         
浪花728節派728

    
縁切
せこい751(姻族関係)

 終了
(の意思表示をするか、又は、ふくうじ

                
いずれも
意思次第



大昔の日本では、妻から(時には第三者からも)夫を「つま」と呼んだことがあるそうです。ちょっと
語法が違いますが、お許し下さい。〔〕内を読むときは、ここでは、韻の関係で「ふくうじ」と読みます。
    



   
離婚()() あるや728特別養子(の親族終了) 

     
なぞ735間柄 ゆえ離散後735

   
()() ならじ

           「7」を形の類似から「り」と読んでいます。


「扶け合い」義務 (民法730条)
 上の条句のように家族の大問題に発展しかねない不安も予感させる「扶け合い」ですが、扶養義務については別
877条があるので、この730条は、扶養に関する効果は何もない単なる倫理規定であるとされています。

 実は、この730条が、第二次大戦後の「家」制度廃止のための民法改正に際し、改革派と抵抗勢力との間で最も
激しく論争された条文だったそうで、いわば改正の見返りとされたとも言える旧制度の残滓である訳です。

 ところが、その後の社会の変化に伴い、社会の紐帯や家族の絆が緩み、ITの発達と生活様式や消費構造の変化
等とも相まって、核家族化、ひきこもり、シングルマザー、ブラック企業、過労死・過労自殺、格差社会等、様々
な社会問題が派生すると、寡占の排除や労働環境の改革と並んで、弱者救済のためのセイフティネットやその実施
のための強力な公的介入
(「ベーシックインカム」制度も、社会保障に代わる救済策として注目され始めました)が急務であるのに、
これを回避する藉口道具としてこの730条が使われていると指摘されています。







扶養義務
 上記「扶け合い」に関連して、親族間の扶養義務
(民法877879条)の条句もご紹介します。

 民法は、扶養義務の発生根拠を二種類に分けています。つまり、
直系血族と兄弟姉妹間では当然に扶養義務が
あるとして、相互に第一次的義務者とします。それ以外に、
三親等内の親族間では、特別な事情のある場合、審
判によって扶養義務を負うとして二次的義務者とします。

 ですから、前者を
当然義務、後者を審判義務と呼び分けます。前者については、しかし、発生根拠が当然であ
るからといって、扶養の程度も同じように当然に重いということではありません。この当然義務の中でも、
 
夫婦・未成熟子の間での扶養の程度と、それ以外の者の間でのそれでは異なるとされています。

 夫婦・未成熟子間の扶養は、私見によれば、婚姻夫婦とその間に生まれる子との間の「
融合創一」に基づく義務
です。それは、数多生じる親族関係の中でも最も核心となる、最濃密の、根源の関係から発するものです。
 その互いの間は「無償の愛」の絆に結ばれた、足りない糧も分かち合い、
同種・同量・同等の暮らしぶりを保つ
生活保持義務が求められます(→守操一体の愛)

 生活保持義務は、他の親族間において課せられる、ゆとりがあれば扶助をする
生活扶助の義務とは本質的に異な
ります。ですので、独立して自活する子との間、或いは兄弟姉妹間の扶養は、上記当然義務の対象ではあっても、
その程度は生活扶助義務で足りることになります。夫婦間の扶養義務については、こちらもご覧下さい。

 現実に扶養料請求によりその支払いを求めることになった場合は、家裁での事件の扱いに従って手続きが進むこ
とになります。そして、調停等で結着が付いて調停調書等のいわゆる債務名義が得られたときは、不履行があれば、
強制執行が可能となる訳ですが、このような切実な扶養料等については、執行段階でも特例扱いを受けることがで
きます。こちらをご覧下さい。

当然扶養義務          

 
    兄弟姉妹()() 

     
当然 扶養 (絶対的なる扶養) 義務者 

         互
いに扶養ようなして
877 

   
家族ようせんとな
877

  「なして」「して」は、7 の伊語の「セッテ」、西語の「シエテ」から


審判扶養義務

    
(兄弟姉妹、直血以外の)三親等(内の親族)相対義務者であって

    「
 
(扶養なんぞは) ようせんナ877」逃げをっても

         
特別な事情877家裁において

   
(審判で)
義務 課されも、その事情 変更あれば取消



 (家族、子孫の) 878咲いたが、なは878なし、

    
誰が誰をばどの順で、扶養すべきか

   
協議して、決めねばならず、

     出来なくば、
家裁で決めてもらうべし。



   芙蓉(不要はな878りとて

   扶養
義務しぼみなば

     
ばち
878あらぬか



 現に扶養をしている扶養義務者の意に反して扶養権利者を引き取って扶養したという事実だけでは、引き取った他
の扶養義務者が自己のみで扶養費用を負担すべきものとすることはできないとした判例
(最判昭和26・2・13)がありま
す。また、扶養料の負担は、地裁の判決ではなく、家裁の審判で決めるべきとする判例
(最判昭42・2・17)があります。



   扶養程度 方法協議なく879

    (
或いは) わぬときは家裁需要資力

             
その他一切 考慮審判



扶養の程度・方法
 
扶養義務には夫婦未成熟子間の生活保持義務と一般親族間の生活扶助義務の二種類があるとされています。
 「生活保持」義務については、昔 私共は「一椀のかゆも分けて食べなければならない」義務と教えられました。
今の時代 この表現が適当かは別として
親の暮らしぶりに関わらずぎりぎりであっても親と子が分け合って生き
る義務ということだと思います。

 
夫婦間の扶養義務は、民法752条により文言上「扶助」の義務となっていますが、一般親族間の義務とは違う
「保持義務」ですから、互いに
同種・同量・同等の暮らしを保つべく、夫婦等しく暮らしぶりを分かつことです。
夫婦の間において、特別な合意で、敢えて同種・同量・同等ではない暮らしをすることがあり得るとしても、意に反
して異種・異量で差等ある暮らしを強いられることはあってはならず、そのような場合は権利としてそれを求める
ことができます


 その実際の負担者・負担割合については
760条の「婚姻費用分担」の場面として双方の資産収入子の人数
・年齢、その他一切の事情によって具体的に定まります。そして、夫婦間の扶養について実際に裁判で問題になる
例というのは、夫婦が別居している場合の「婚姻費用」としてなので、令和元年に最高裁が公表した
婚姻費用算定
(養育費算定表としても用いられます)等によって算定することになります。

 それでは、同居しているときはどうなのか、については余り論じられていない様ですが、互いの固有資産の保有
を前提とする
夫婦別産制の下で、夫又は妻がその固有財産を減らしてでも等しい暮らしぶりで生活することが義務
として課されるとすると、それぞれの固有財産と暮らしぶりとの勘案となります。
 結局、同居生活でのいわゆる家計の切盛りのこととなって、この切盛りでの協力ぶりが、離婚の際には、全資産
等分
(私見)となる財産分与請求権となり、又、他方が亡くなった際の相続分或いは、これを超えるものがあれば
寄与分
として、評価されることに繋がっていきます( 判例 )(→婚姻)

 
「生活扶助」義務の方は、まずは、夫婦・未成熟子の家族生活について、ぎりぎりの線を補い平均線辺りまでは
レベルを確保した上で、余裕があれば他に分けてあげなさい、という義務ですから、上記の「当然扶養義務」であ
っても、夫婦・未成熟子以外の者との間の扶養については、「余裕があれば」のスタンスで足りることになります。

 保持義務対象である未成熟子が、その年代を過ぎた後に必要となる扶養は、この扶助義務ですから、その程度を
超えて、海外留学等に特別の資金援助があれば、後に相続分算定の際に「特別受益」として持戻しの対象となりま
す。

 扶養の方法の実際としては
金銭現物引取の3方法があるとされますが扶養方法について争いがあるときは、
調停等の場で合意ができれば別ですが、金銭での定期給付等による他はないであろうと言われています。





  
夫婦間・未成熟子の扶養の程度

   
万難苦
879あっても自己同等

    
生活保持する義務


   
そのほか
 (の扶養)879なく

    地位相当
生活 維持して

   余力あればする生活扶助義務




      扶養審判まれ880ば、 事情変更

    
(例えば)880どのが、どので、

      
如何なる程度方法
扶養するのか、

             
審判取消変更できる



扶養請求権の処分禁止
 ここで、「子供のいる夫婦の離婚」の項で挙げた条句ですが、扶養請求権の処分禁止(民法881条)は、正にこの場
が相応しいので、重複を厭わずにその前出条句を下に再登場させます。
 そして、その離婚の項で述べた内容については、恐縮ですがクリックでお読み下さい。


     
扶養権利ったり担保れたり

         
手離処分ヤバイ881ことです禁止です
 

    
父母

       
養育費将来って請求せぬ 

      
881取決扶養料放棄 とはならぬ

  
     
扶養請求(権)子自身生存維持 かる 

          
一身専属 放棄不可
     
(養育費を巡る事情の変更で改めて請求できる場合がある)


 
そして、この処分禁止の理由についても考えてみたいと思います。人が、自分の要扶養状態における扶養請求権
を処分すること自体の問題性は後で論ずることとして、まず、この処分の際の、処分の相手側について見てみれば、
人の困窮に乗じその困窮から脱するための権利を取引材料とするのは、そのこと自体公序良俗に反すると言えます。

 勿論、差押え等公的執行の対象とすることは禁じられています
(民事執行法152条1項1号)(全面的にではありませんが、そも
そも他人による扶養請求権の行使は許されないことは後述の通りです)
公序良俗違反の行為は無効です(民法90条)また、そのよう
なことが広く行われた場合、結局権利者のさらなる困窮を招いて、困窮者の増大と公的扶助の濫請求へと繋がりか
ねません。これによっても公序に反する結果へと至ります。

 そして、後回しにした扶養請求権者の側の問題性は、困窮に陥ったことに対する法的救済の必要性は勿論ですが、
そのために認められた具体策がまさにこの扶養請求権である訳ですから、これを真摯に追求してその権利の実現に
自ら努めるのが採るべき方途と言えます。

憲法上の健康文化生活権

 そもそも扶養請求権は、上記離婚の項でも触れた様に、一身専属性のものなので、他人に対する譲渡等の処分に
なじまない権利ですから、本質的に処分できないものです。これを自ら追求しても権利実現を果たし得ないときに、
生活保護等の公的扶助の手が及ぶことになります。そう解することが公的扶助の補足性・補充性の原則
(生活保護法
4条1項)
といわれる所にも沿うことになります。

 勿論、公的扶助の補充性原則については、杓子定規でない柔軟な運用が望まれるので、自ら権利実現を求めたく
ても求め得ず、権利の換金を考えざるを得ない状況であれば、むしろ公的扶助を受けられるよう 支援する情の通っ
た福祉でなければなりません
国民の中に生活に困窮する者があれば、
すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」と謳う憲法25条が実際に機能するよ
う行政が実働する社会でなければなりません。具体的には、社会福祉法の下、社会福祉事務所がいわゆる社会福祉
六法生活保護法児童福祉母子及び寡婦福祉老人福祉身体障害者福祉及び知的障害者福祉
を司る第一線の行政機関として、各都道府県、市等に設置され、その下で、例えば、民生委員法がその第1条
社会奉仕の精神をもつて、常に住民の立場に立つて相談に応じ、及び必要な援助を行い、もつて社会福祉の増進
に努める」と定める地域の民生委員が、憲法の理念を履践するべく働いています。その他、民間の非営利組織であ
る社会福祉協議会が福祉事業、福祉サービスの利用・援助事業、各種福祉関係機関の連絡・調整を行う等、幅広く
活動しています。


 そして、公的扶助の補充性原則も、憲法より下位にある法律規定であって、至上ではあり得なく、まずは、憲法
の人権と平等の原則が優先されなければなりません。扶養義務も、審判義務関係であれば、家裁の審判を待って初
めて義務が生じるのであり、又、当然義務の関係であっても、一旦親元から独立して、基本 家計から離れた子は、
親の生活保持義務の対象ではなくなります。

 既に一旦 家計から独立し、生活保持義務圏内から出た者に対し、公的扶助を拒むべく、その者にとっての生活
扶助義務者
を探索するが如きは、個人の尊厳を侵害する権力濫用です。そもそも扶養請求権の一身専属性とは、
単に行使における一身専属であるに止まらず、発意における一身専属であると解すべきです。人は、自ら生活
困窮時の扶養を扶養義務者に求めることができますが、それは親子、親族間の複雑微妙な心的葛藤の下の窮余の
行動であって、求める人の個人の尊厳に大いに関わる事柄です。これに国家が土足で踏み込み、傍から権利行使
を求めさせることは、あってはなりません。少なくとも、人が成人し、家計を離れて独立の生計を営んだ後は、
発意の自由は、尊重されるべきです。

 上記の生活保持義務の圏外者は、旧来のセイフティネットが破綻して貧富が二極化し、社会が貧窮者で溢れる様
相を呈す状況に至っては、既に扶養義務の対象ではなく、公的扶助の視野に入ると見るべきです。もちろん、生活
保持義務によって維持されるべき家族が、失業等によって、生活困窮に至れば、これにも当然 国の扶助が及ぶべき
です。

 要するに、国民は個人として尊重され、未成熟子は一義的に親の扶養義務の下に入るとしても、基本的に、その
親を含め、国民一人一人が、個人の尊厳を尊重され、健康で文化的な生活を送ることができるよう、公的扶助によ
る社会福祉が実働しなければ、真に憲法の下の法治国家であると胸を張ることはできません。政治家は福祉の視点
のパラダイム転換を迫られています。


 家 制度を廃止し、第一義的には扶養義務を、第二義的に生活保護を、シンプルな二層セイフティネットとしてき
た戦後の国民生活には、その後進んだ核家族化と社会の紐帯・家族の絆の緩弱化、ITの発達とそれに伴う生活様
式や消費構造・産業構造の変化等が相まって、ひきこもり、シングルマザー、ブラック企業、過労死・過労自殺、
二極化による格差、貧困化、児童虐待、SNS自殺等、様々な社会問題がいたる所で生じて、旧来のセイフティネット
は破綻しています。そのため社会・経済体制の抜本的な見直しが必要となって、寡占の排除や労働環境の改革等と
並び、弱者救済のための新たなセイフティネットとその実施のための公的介入も緊要となっています。

 国民のうち、不労所得等によって生活できる富裕層・資産家を除き、低所得者、生活困窮者を含むその他の者に
は国家による確実な経済的セイフティネットによる真に自立した社会生活を保障しなければなりません。虐待やパ
ワハラ、セクハラ、陰湿ないじめ、SNS犯罪等理不尽な人権蹂躙・尊厳無視には、国家による救済と強力な規制・
介入が必要です。

 私は、夫婦の実質的平等のための家計供出義務を提唱していますが、それを補充する意味においても、
ベーシ
ックインカム
」制度が検討されるべきだと思います。
 家庭内での、或は、子を抱えるシングルマザーの場合においても、収入の少ない者の経済的窮迫は、憲法が保障
する健康で文化的な最低限度の生活
(憲法25条)さえ高嶺の花とさせてしまっています。

 非正規労働者が大半を占め、経済の寡占構造化が進む中で、貧富が二極化し、生活不安と貧窮に喘ぐ者が溢れる
社会となって、子を産み育てる女性にも重い負担が強いられています。生活弱者や社会的弱者、そして、世の人の
半ばを占める女性が、真に自立し、憲法が掲げる個人の尊厳(憲法13条24条2項)と基本的人権
(憲法11条)を全うできる世と
することが肝要です。

 そのためには、国の成り立ちの基礎たる家庭において、国が 例外的に社会保障を「施す」スタンスではなく、
それに代わるベーシックインカムを、真に安心なセーフティーネットとすること、それによって強固な国民生活を
築くことこそが求められています。そうすることによって初めて愛国心や国を守る気概も生まれます。

 自助を優先し、公的扶助の補充性を強調するのは、法構造からも、社会の現状に照らしても、本末転倒ですから、
国家は 先ず、ベーシックインカムと無償義務教育・無償職業教育で、国民のセイフティベースを固め、強固な足場
を踏まえて自助の世界に羽ばたけるよう政治すべきです。世界に範たる戦争放棄
(憲法9条)と、それに並ぶ 世界が羨
望するセイフティネットを、政治家達には、二つながら日本の誇りとなるよう、是非構築して欲しいものです。
国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない
(憲法25条2項)」のですから。


家族法見直しの動き
2021年2月10日に報道された法制審議会への諮問の記事を転載します。各下線クリックでもご覧下さい。なお、
懲戒権規定の見直しについては、体罰禁止規定を設けた令和元年の改正の際、既に諮問がなされています。

離婚後の養育費 強制徴収も “不払い”改善 家族法改正諮問 FNNプライムオンライン
「養育費の不払い問題」で、国の議論が始まった。親が離婚した子どもの養育をめぐっては、養育費の不払い
によるひとり親家庭の貧困や、同居していない方の親が面会できないなど、さまざまな問題が浮上し、これま
で有識者会議などで議論されてきた。
 これを受けて、法務省は、子どもの利益を確実に確保するため、家族法の見直しを法制審議会に諮問。
 今後、法制審では、養育費強制的に徴収する手続きや、同居していない方の親との面会交流を的確に実施
する仕組み、そして、離婚したあとでも、父母の両方が子どもの養育に関わる共同親権の在り方などが検討さ
れる見通し。




 





相続編



相続人と相続分

 
結婚生活での夫婦の協力から始めた本稿は、人生の色々な場面を一通り見てきて、愈々 相続の段階に入ります。
 初めにまず、その相続のコアといえる相続人と相続分についてお話したいと思いますが、しかし まずは、
相続とは何か」
についてを踏まえなければなりませんから、その条句を交えて「相続とは?」(相続の本質)を少しばかり考え、
その上で、「相続分」に進み、更には、「相続人」 資格に二枠あることや、相続人・相続分 の具体的な場面での
ルールと、相続分の「調整」やその最低保障である「遺留分」に踏み入っていきます。



     
相続人(相続開始の時点から)故人920した 一切  

        
権利義務 やあ苦労896無限承継


   
相続人単純承認 したならば故人920した一切

 
         権利義務
りなくことに920なる要注意
                       
「ことに」=9(00)+(10×2)



   
相続人単純承認 したならばにお920るなどプラスばかりか

         マイナス
債務などまでりなくわねばならぬ苦痛920覚悟




民法では「相続の一般的効力」と言う柱書の下に民法896条が置かれ、同条は、
 「
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。
             ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。

と定めています。そして、その「相続の承認」という場面に関する920条には、
 「
相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。
とあります。「無限に」が 意味深で、負債であれば、限りなく相続人個人の財産にも責任が及ぶという意味です。
(922条は、この「無限」とある点を阻止するため 遺されたプラスの財産「の限度においてのみ」弁済する限定承認制度を定めています)
ですから、「無限」には厳しいニュアンスが込められています。


 
人が亡くなると その人の有した財産は、プラスの財産は勿論、借金のようなマイナスの財産も含め、一切の権利
義務
 (但し、例えば芸術作品の創作や扶養関係や夫婦間の契約取消権のような一身専属的で、他人が行使することのできない権利・義務関係
は除きます)
 が、亡き人 (以下、本稿では「故人」と呼びます) の法定相続人に相続 (896条) により受け継がれ、又、合わせて、そ
れとは別枠で、遺言により遺贈 
(964条)が行われていれば、遺贈 によっても受け継がれます。

 亡くなった時が、
相続開始時(遺贈の開始時でもあります) となります(民法882条985条)
 また、相続の開始の場所は亡くなった時のその人の住所地です
(民法883条)

 相続により継がれる財産には負の財産も含まれる点が肝腎で、その為に、その様な正負あり得るものを引き受け
るか否かを相続人自身で決める
(相続の)承認(920条)放棄(938条,939条)が、必要なステップとして用意されています。

 上の括弧書きにある限定承認もその一環です。また、例えば、遺言で相続人以外の人に遺贈する際にも、遺贈
は、特定物で与える特定遺贈と、遺産の何割を与えるという形での、負の財産も含めた包括遺贈がありますが、
後者については相続と同じ扱いをする
(990条) という定めがあるのも、「相続」がプラス・マイナスを含めた包括的
な承継
であることによります。なお、相続と遺贈の違いについて、こちらもご覧下さい。


  父くなり(世間では、相続放棄で母に全財産が行くことが多い)

         
882かれ死亡 によって相続開始

         882逝かれて相続開始 (所謂「二次相続)


  
883三途ったった (時の) 住所 相続開始


        やぁ苦労896債務 包括  受遺者 れば990 

           
相続人承認放棄 悔誤915なく せい

人の遺言ゆいごん はいつ985から(生じる)

       
死亡 ときよ(停止)条件あれば死亡後にその条件 成就 したとき





相続の本質

 相続は、契約のように意思表示を発する人と受ける人双方の意思表示によるものでも、寄付のように人の単独の
意思表示によるものでもなく、人の死という事象に伴う財産の承継
(行われる場所は亡くなった人の住所地)です。
 
民法は、相続編最初の条文882条を「相続は、死亡によって開始する。」とのみ述べ、例によって、相続とは何
たるかを言ってくれません。ここでも やはり 親族編のキーワード「婚姻」のときと同じ様に、その開始規定・
効力規定等を手掛かりに、そのコアを考えなければなりません。

 
相続」においては、被相続人の財産、つまり、被相続人の一身専属的なもの (例えば、芸術作品の創作や扶養関係の様
な)
 を除く、その他一切の権利義務が
(896条)一定の直近 親等の親族である法定相続人(法定 の者に限られます。
887条~889条)
に、前述のように 相続債務も含め 包括的に承継されます。

主同承継」とは

 この「相続」においては、相続人から被相続人への承継の間に
権利義務の主体としての同一性が保たれており、
それこそが相続の本質ではないかと、私は考えます
(私は、ときに主体同一性を伴う権利移転を、単に「承継」と言います)
 そこには、遺言による財産の 遺贈 におけるような権利「遺授」の要素はなく、単に権義主体同一性という
枠の中での権利状態の変動があるだけです
(私なりに、別主体間の権利移転を「授」で表したいと思います)
 それは、自然の摂理である生命の継承に似た当然の事理として
(→単純承認)、極端な表現をすれば、財産が同じ一人
の人物の右手から左手に移っただけとみなされるような事象なのです。
 そして、又そこには、単なる権利の個々的承継という事象でなく、被相続人の負の財産も正の財産も、相続人の
それらへと流れ込んで
融合同一化する事象が伴います。なお、相続は 人が関与することができる事象か否か と言
う論点について香川判決の意義をご覧下さい。

 「遺授」つまり「譲渡」はないので、権利の二重譲渡はある筈もなく、本来は、登記権利者も登記義務者も存在
しない場面です。
 仮に、この相続による取得と相容れない取得を主張する者があったとしても、
( それが、矛盾する複数の遺言
存在により二重譲渡の形となっている場合を除き、) 
その者は無権利であるとしてその主張を退けることができます
 
( 無権利の法理 )( 矛盾する複数の遺言が存在する場合は、遺言者の死亡時に近い 最新の遺言か効力を有します)  

 こうに考えることによって初めて、この権利移転は
登記なくして他に対抗できること、又、相続人単独申請
よる「相続登記」も可能であることを根拠付けることができます


 と いうことで、この権利義務の主体同一性、略して「
権義主同性」ある承継を主同承継と呼び、権義主同性を
欠く 別人格に対する権利移転である
遺贈 については、「承継ではなく遺授であるので登記は渡し手と
受け手の
双方申請によらなければならず、又、すべからく、「遺贈による権利移転を第三者に対抗する為には
登記等の
対抗要件の具備が必要」となります。

 要約すれば
主同承継である相続においては登記不要」、そして、「遺授である遺贈においては要登記」と言えます
 (前者を、私なりに、相続の「主同承継性」と言います)(但し、法改正により、対抗できる範囲が変わります→30年改正)

 ですから、主同承継である「相続」は、人の死に伴う財産承継
(広義の相続)のスタンダードであり、
主同 遺授移転となる 遺贈 はオプションです。

「相続」の本質の一端を窺わせてくれる判例 (最判平13・7 ・10)があります。農地の譲渡については農地委員会の許
可を要し、これが対抗要件となります。しかし、「相続分の譲渡」として農地が移転された場合については同許可
を要しないとする判例です。
その理由について、同判例は

農地法3条1項は、農地に係る権利の人為的な移転のうち農地の保全の観点から望ましくないと考えられるもの
を制限する趣旨の規定であるところ、相続に よって生ずる権利移転も相続人が非営農者である場合には農地の保全
上は望ましい とはいえないものの、相続がそもそも人為的な移転ではなく、相続による包括的な 権利承継は私有
財産制の下においては是認せざるを得ないものであることから、規制対象とはしていないものと解される。」

と述べています。「相続」には「人為的」要素がないと見ている訳で、上記した自然摂理による承継を、対抗要件
不要の根拠としていると読むことができます。



 ところで、ここで相続について述べたことは、遺言による相続には当てはまっても、遺言のない場合の相続人間
での
遺産分割 には当てはまりません。

 遺言では、特定物について
○○○○○○相続させる(「相続させる」遺言 或は 「特定財産承継遺言」と言い
ます)
と定めた場合、その物は相続開始時に直ちに主同承継によってその遺言受益者の取得となり、上記の通り登記
なくして他に対抗できます
(但し、平成30年の法改正により、法定相続分を超える部分については 対抗できないこととなりました)
 しかし、遺産分割の場合は、
(法定相続人間での分割ですから)大きくは「相続」であっても、相続人間での協議を経、
いわば相続人同士の「授受」=やりとりによって取得者が決まります。

 複数の相続人がいる場合、各自それぞれ法定の相続割合
(法定相続分)があり、分割でそれより少なく取得する者が
上記の渡し手となり、多い取得者が受け手となる理屈です。そこでは主同承継的色合いが薄められ、互いの対抗
関係が前面に出ます。加えて、相続人間の 授受 が、
(分割協議が調い、相続開始時に遡って効力(§909)が生じる間)更に第三者
との 授受 へと繋がり得るので、取引安全のための建付けが必要となります。ですので、例えば、遺産分割 迄の間
に第三者に自己の法定相続分を譲渡してしまった相続人がいる場合、分割による取得者とその譲受者とは登記等の
対抗要件具備の先後によって優劣が決まります。
 つまり、遺産分割においては、相続人間においても、第三者に対する関係においても、登記等の公示が事を決す
ることになります。

 そして、以上相続の本質について述べたうち、対抗関係と関わる部分については、この取引安全の見地からする

平成30年
相続法改正
により大きく変わり全て相続による権利取得は、( 法定相続分を超えない場合を除き、) 登記なく
して第三者には対抗できないこととなります。つまり、令和
(2019)年7月1日からは、
  「相続させる」遺言によるものも、「遺贈する」遺言によるものも、遺産分割によるものも、
    すべからく相続
(広義:人が亡くなるに伴って生じる財産承継の意)による権利取得は、
      
(法定相続分を超えない部分を除き) 全て 登記の先後によって権利の帰属者が決まる」
ことになります(民法899条の2第1項)
こちらをご覧下さい。なお、上記権義主同性による融合同一化が、限定承認の
場面で強く意識に上ることになりますので、こちらもご覧下さい。

指定
(私定)相続分

 
「法定」の相続人に負の財産である借金まで含め包括承継されるのが「相続」ですが、それ故、
 無遺言で相続人が一人のときは、その一人の相続人が
(殊更 放棄等 しなければ)財産を承継して「相続」は終わります。

 しかし、相続人が複数いる承継の場合は、相続人間で遺産を分ける割合が問題になります。その割合を「相続分」
と言います。法は、これをまず亡くなる本人の 遺言に委ねます。

 遺言によって、相続人ごとの相続分を定めるときに、その割合のことを「
指定相続分」と言います。
この文言は、民法902条の見出しが「指定」であることによるもので、同条本文には「定め・・ることができる」
とあるだけです。
 遺言がないときは、法は、相続人として「配偶者」「子」「親」「兄弟姉妹」という様に立場の違う親族を法定
(§887~§890)、その相続人らのケースごとの組合せによって、異なる相続分を定めています。これが 法定相続分
です。

 民法は、第三章第二節「相続分」の中の900条にこの
法定相続分」の規定を置いています。
 それで、以下、法定相続分のことを、私なりに略して「クオレ(イタリア語で「」「心臓」「」の意)と言います。

 そして、法は、その後の902条で、クオレに縛られることなく遺言で相続分を定めることができる旨を定めて、
私有財産制のもと、遺産に関する個人の自己決定権を尊重する態度を示しています。この流れで言えば、まさに
私定相続分」です。
 
(但し、「私定」の偏りから、遺産からの取得分が過小となる人に対して、最低保障分として設けられた「遺留分」の 制約があります)
私は、被相続人から遺言によって給わる相続分の意味で、指定相続分を「
(902条)と呼びたいと思います。
 相続分の指定方法や指定の対抗力の関係をこちらでご覧下さい。


           

      相続分クオレ900(=法定相続分、伊語で「心」「芯」)なる 902指定相続分

                       きたくば口舌902によらず遺言 すべし


 相続遺産けたら発効899 2

      
クオレ900えたるにつき発公
(示) 899 (の) 2ける 登記 対抗 (力) えよ

   初めの「発効」の「つ」は、「9」が2個「ツー」の意、後の「発公効」では「発」を8「ハツ」と読む。「公」は公示の意。



「相続させる」遺言の従前効・改正効

 
遺言では、また、特定の相続人に特定の財産を「相続させる」として、継がせる方法があります。
相続させる」遺言、「
特定財産承継遺言」とも言います(私はこれを、ときに「特承遺言」と略します)

 その場合の相続人は、この遺言により上記の主同承継
(権義主体同一承継)をし、
① その特定物につき超クオレ分を含めた全部を取得することができ 
(最判平3・4・19) 、合わせて、判例によって、
② 特承遺言による財産取得については、登記なくして他に対抗できる と共に、
③ 特承遺言による財産取得者は、単独でその登記をすることもできる とされてきました
 ( 判例最判平11・12・16 
 最判平14・6・10 )

相続人は法定の者に限られるが、相続分については 遺言による「私定」を尊重し、これに対抗力もその侭
(登記がなく
とも)
認めていたのです。しかし、この②「登記なくして他に対抗できる」という点には、平成30年の相続法改正に
より、「法定相続分の限りで」という限定が付きました。
承継を登記なくして他に対抗できる力は、法定相続人が
法定相続分限りで承継する場合に限られる
こととなりました。次項をご覧下さい。


             

      これや908この香川判決 (最高裁判平成3年4月19日第二小法廷判決)分割の方法 指定 」じたる

     
公証実務のクレバー908(分割方法)指定文言、好例は908(遺言で)(特定の物を)これは908A子 相続させる 

             
これは908
A子単独 分割方法 指定 なる
分割 不要としA子ちに取得する

                                          
 (→分割方法の指定) 


平成30年相続法改正
 
 さて、そうしたところ、この度(2018年(平成30年)7月13日)相続法が改正され、902条に先立つ899条の2として
  「相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、
    
次条及び九百一条の規定により算定した相続分を超える部分については、
    登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。

との規定が新設されました。

 遺言がないため相続人間で遺産分割をする場合だけでなく、遺言に基づいてその内容通りに取得することになる
場合であっても、全てクオレ 
(法定相続分) (900条)を超える取得については、登記等の対抗要件を具備しないと第三者
に対抗できないこととなりました。

 したがって、上記相続分の「私定」の意義が再確認されるべきこととなり、また、
上記「
主同承継」効果の範囲が限定されることになりました。つまり、

① 法定相続分であるクオレ
(法定相続分)に対し、902条(給分)により遺言でこれを超える割合を指定することは、
 遺言者の相続人に対する正に「私定」の行為であり、「法定」に伴う強い対抗力は「私定」相続分には認めない、
 と改正法は宣言します。

 相続が債務をも含む包括承継であることを踏まえた「相続分」ですから、
遺言者が指定相続分により相続人に法定相続分とは異なる負担割合で借金を継がせようとしても、
債権者が承諾しなければ、指定割合での負担を主張することはできません
(新902条の2)

② また、「相続させる」遺言により取得される財産についても、その内のクオレ(法定相続分)を超える部分について
 は、従来の判例 (最判平14・6・10) にも拘わらず、同様に登記なくしては他に対抗することができません。

 例えば不動産であれば、それを相続人の内の一人に単有させる場合が殆どで、共有とすることは滅多にありませ
んし、共有の場合もクオレ通りなどということは希有なことです。
 したがって、「相続させる」遺言により取得される不動産は、殆ど登記なくして他に対抗できないと心得た方が
無難です。私は、従前ここで、対抗関係とは、二重譲渡的になった場合のことだから、そうではない無権利の法理
で臨むことができる場合は除かれることとなる。なので、遺言による、相続開始と同時の権利取得
 (卒時取得) は、
他の共同相続人から譲り受けた第三者にも登記なくして対抗できる旨の記述をしていました。
 しかし、これは私の不明の至りでしたので、改めて、いかなる形であれ 相続による取得をした第三者には登記が
なければ対抗できない、とお詫びと共に訂正をさせて頂きます。私の従前の理解の根拠は、「相続させる」遺言に
よる権利取得、ひいて、主同承継である相続による権利取得は、相続開始と同時になされ、従って、他の共同相続
人による処分を 無権利 処分たらしめるという点にありました。しかし、「卒時取得」と表現したこの取得態様は、
今後「対抗」上の論拠としては維持できなくなりました。「相続させる」遺言による取得も、遺産分割
(分割自体は
相続開始後に成立します)
による取得も、いずれも、相続による取得であり、新899条の2によって、法定相続分を超え
る部分については、登記なくして第三者に対抗できないこととなります。
 従って、遺言による権利取得が「卒時取得」であったとしても、それが、私が従前述べていたように対抗関係で
有利に働くことは、なくなった訳です。むしろ、卒時取得と意識すること自体、取引の安全の観点からは、意味を
持ち得ないと心得た方が良いですし、今後は、

「相続させる」遺言によるものも、「遺贈する」遺言によるものも、遺産分割によるものも、すべからく相続
(
広義:人が亡くなるに伴って生じる財産移転)による権利取得は、
(法定相続分を超えない場合を除き) 全て 登記の先後によって
権利の帰属者が決まる
(不動産以外の財産については、例えば債権であれば、債務者の承諾或いは譲渡日の確定日付証書による譲渡通知
(民法467条)のような対抗要件の具備が必要となります)(→相続登記の必須姓)

 ですから、財産処分の自由を遺言における 私定 相続分や「相続させる」遺言によって活かすには、その上で、
その「私定」部分を対抗力を伴うものとする手当てを忘れてはならず、そのためには、

 遺言には必ず遺言執行者を指定して、登記その他の公示を具える方途も記載しなければなりません。


 改正法は、遺言執行者の地位・権限を強化し、この点での手当てが従前より遙かに行き届きましたので、登記手
続き等の必要には、遺言に執行者を特定して指定すれば足りると言える程になりました。

 それでは、遺言によらない相続の場合はどうでしょう。例えば遺産中の不動産は、故人が亡くなって相続が開始
したと同時に相続人間の共有となって、遺産分割を待ちますが、その間に共有持分が処分されたり、その後相続人
間の合意ができて遺産分割協議書が整い、一人の相続人の単有するところとなったり、或は、まれに相続人の共有
のままとされたり
 ( しかし、共有とすることは、殆どその後の処分が不可能となるので、余りお勧めできません )、色々結果
が分かれることになっても、とにかく、それらの結果については、登記で事が決することになります。

 遺産分割
は、相続人間の権利の遺授ですので、上記の遺贈と同じですから、登記を要する点は以前と変わりあり
ません。共有となる場合も、クオレ 
( 法定相続分 ) どおりであれば、持分どおりで遺授がないので遺産分割協議書も
不要のため、即登記ができますから、簡便この上ないですが、そのようなまれなケースでなければ、他の場合と全
く同じで、登記を要します。


相続による権利取得の対抗要件 (平成30年7月民法改正) 
 2018年(平成30年)7月13日民法の相続に関する部分が改正されました。この改正法が2019年(令和元年)7月1日から
施行されました。
 かなり重要な点が改められましたので、改正法の内、相続編のこの冒頭部に相応する部分について説明します。

 相続の本質に関する私の上記「権義主体同一性」、「融合同一化」の二点はそのまま維持しますが、それによる
主同承継 が「
登記なくして対抗できる」とする点については、限定が付きます。「法定相続分の限度において
です。
法定相続分を超える部分については、対抗要件なくしては 第三者に対抗できない枠組みとなりました
 ( 新899条の2) 

 クオレ
(法定相続分900条)を承継の「主芯」部分とし、それを超える「芯超」部分と区別すると、主芯承継には対抗
要件は不要ですが、芯超承継には対抗要件を備えないと他に対抗できません。


 
クオレに対する私定(指定)相続分が遺言で自由に設定でき、「相続させる遺言(特定財産承継遺言)によって、特定物
を特定の相続人に取得させることができるとしても、遺言の自由が過ぎて
、(兄弟姉妹を除く) 相続人本来の取得分
(クオレ)
からの乖離が見過ごせない程になると、
遺留分による規制を受けますが、遺留分は、通常 クオレの半分(親だけが
相続人の場合は1/3)
で、遺留分も「法定」による規制を受けています。
 
相続税においても、同税の総額は、つまる
ところ遺産総額
(から基礎控除を経た上)の、相続人ごとの各仮クオレ分に対する速算表での算出額の総額(これから
配偶者控除等の各種控除が行われます)
ですから、同じことが言えます。また、遺言や遺産分割の対象外とされる
 
相続債務 (消極財産 )については、遺言で負担者・負担割合等を「私定」しても、債権者には対抗できず、
債権者からのクオレによる取立てを拒むことができません。この様に、債務面でもクオレによる「法定」の規制は
厳然と存在します。
 ですので、相続においては、被相続人の遺産に対する処分の自由は、遺言によって享受できても、その背後には
クオレ
(法定相続分)という背骨が相続全体を厳然と頑固に貫いています。クオレ(法定相続分)は、相続当事者には勿論、
第三者からも明らかで、この背骨の控えによって当事者も、その外の取引世界も相続についてある程度の予測や安
心を得られる仕組みとなっています。

 よって、遺言相続による権利取得もその主同承継性は尊重されるものの、第三者との対抗関係において、クオレ
を超える部分は、権義主体同一性が薄いと見られて、他に対抗する為には、遺贈の場合と同様に対抗要件の具備
を要することとなりました。
 
ただ(登記名義が被相続人にあるときには )判例が否定してきた遺言執行者の登記権限につき、今回の改正が これを認める
明文を置く
(新1014条2項)等、対抗要件具備のための環境が十分に整いましたので、権利を取得した相続人本人はもと
より、遺言執行者においても、安んじて相続登記を早くに履践することができ、公示の先後で決まるこの場面にお
いても左程不安なく対処することが可能となります。

 



       相続遺産 けたら発効899 2

      
クオレ900えたるにつき発公
(示) 899 (の) 2ける 登記 対抗 (力) えよ

   初めの「発効」の「つ」は、「9」が2個「ツー」の意、後の「発公効」では「発」を8「ハツ」と読む。「公」は公示の意。



 
 
しかし、「相続させる」との文言により特定財産を取得させる遺言を、改正法は「特定財産承継遺言(新1014
条2項
)(私は更に略して「特承遺言」)
と呼んでいますが、この種の遺言による財産取得について登記不要を唱えた(香川
判決後の)
判例(最判平14・6・10)により、登記不要で第三者に対抗できる とされていた特定財産取得者についても、改
正によって、その効力は、「法定相続分の限りで」という限定付きとなる という事を銘記しなければなりません。

 すなわち、例えば、遺言者により複数の遺言が作られていた場合、いかに最終意思による特定財産承継であった
としても、他の相続人によって以前の遺言に基づき登記が先に履践されてしまうと、最終遺言によるその特定財産
取得者は、法定相続分の限度でしか先登記者には対抗することができません。又、遺言による取得者でない共同相
続人が、特定財産を第三者に処分していた場合は、その第三者にも法定相続分を超える部分について登記なくして
は対抗できません。

 香川判決が、取引の安全を害するとして厳しい批判も受けていた中、相続の本質を損ねる形で巻き返しをされた
訳で、特承遺言取得者は安閑としておられないこととなります。


相続の本質再考
 
ここで、平成30年相続法改正による権利取得の対抗要件に関する改正点を踏まえた加筆をしたいと思います。

 そして、まず、上記相続の本質について述べたところを、相続人が一人だけというケースに当てはめて考えてみ
ると、分かり易いので、その場合から述べたいと思います。
 相続人が一人だけのケースの相続人は、その者が配偶者であると、血族相続人であるとを問わず、全相続分を独
占します。
 従って、改正法に言う「法定相続分の限りで」という限定
 ( 新899条の2 の反対解釈)下でも、遺産全てについて相続の
本質である権義主体同一性を一人で具現できます。同じ人が、持ち手を左手から右手に替えただけの如き事象と
みなしますから、結局、遺産である不動産についてもその全てについて登記なくして他に対抗 できます。ですので、
一人の被相続人を一人の相続人が相続する場合は、その
主同承継関係は、明白です(→主同承継)。但し、相続人が
一人だけであっても、被相続人によってその者の取得を否定する遺言がなされた場合は、私有財産の処分自由に
基づいて遺言が優先されますから、相続人としては遺留分の主張によって確保できる範囲までが取得の限度となり
ます。

 相続人が複数いる共同相続の場合はどうでしょうか。この場合でも、遺産は相続人間でクオレ 
(民法900条法定相続分)
 
に従って共有分属され、その通りの内容で遺言 或は 遺産分割がなされれば ( 実は、共有の侭であれば、分割協議は不要です ) 
何れの相続人も登記なくしてその取得を他に対抗することができます。互いが被相続人の分身同士なのですから、
主同承継関係を否定することはできませんし、その取得部分については、他にも主張できる強さがあります。

 このように、相続人が一人だけの場合、及び、クオレ通りの共同相続の場合は、全てクオレのままですから、
登記を経ずして他に対抗できます。この相続を、クオレ (イタリア語で「心」・「芯」) の意味も込めて「
主芯承継」と
呼びます。

 そして、主同承継部分の内、上記 主芯部分を除く残りの部分、つまりクオレ
 (法定相続分) を超える部分を芯超部分
と呼び、その承継を仮に「
芯超承継」と略称します。包括承継たる相続分の「私定」や「相続させる」遺言によ
る主同承継の内には、この登記不要で対抗力を持つ強い主芯承継部があり、残りの芯超承継の部分は登記なくして
第三者に対抗できない弱い部分です。


 
これまで、遺言者が「相続させる」と定めた主同承継では、そう遺言された財産が全て「相続」の名のもとに
相続枠で承継され、そのまま他に対抗することができると理解されてきました。しかし、法改正を経て、そう理解
して良いのは、その内のクオレ分
 ( 法定相続分 ) である主芯承継部分のみであり、その外側に残る芯超部分について
は、「相続」として主同承継されるものの、それを第三者に対抗する為には 登記等対抗要件を具備することが必要
となりました。

 ですから、相続人が一人の場合は、相続財産の全てが、いわば主芯そのものであり、これを継ぐのですから、
財産が同一人の左手から右手に移るのと同様にみなすことができます。従って その間に対抗関係は生じません。
第三者に対しても登記なくして財産の取得を主張することができます。ただ、その一人の相続人の取得を否定
する遺言がある場合は、遺言が優先されますから、相続分による取得は主張することができず、遺留分を主張
して確保できる財産がその財産取得の限界となります。
 相続人数人による共同相続の場合は、相続人らの継ぐ主芯部分はそれぞれ何れも被相続人のいわば分身と
言えるものですから、相続人等は、権義主体同一性を共通して持つ間柄です。なので、相続人同士もいわば
分身同士ですから、そこに対抗の問題は生じません。例えば、遺言によってある特定財産を取得した相続人
は、他の相続人に対して登記等対抗要件を要せず、その取得を主張することができます。しかし、とは言え、
ひと度他の相続人から当該特定財産を譲受けた第三者が現れたときは、その第三者は相続人としての共通性
を持たない者ですから、民法899条の2にいう「第三者」に当たり、この者に対しては登記等対抗要件がな
いと、その特定財産の内クオレを超える部分については取得を対抗できないことになります
(→相続登記の必須性)


 この主芯承継は、結局、相続債務の相続関係と同じこととなります。相続債務は各債権者が控えている訳で、
相続人間で勝手にいじることはできず、クオレ通りに取立てを受け、クオレに従って弁済しなければなりません。
遺言で異なる負担割合等を定めても、債権者には
(債権者が遺言に従ってくれる場合を除き)対抗できない訳です。

 つまり、
消極財産である相続債務と、 ( 遺産分割、遺言の対象となる) 積極財産である遺産との、いずれについても、
     第三者に対し 
( 対抗要件の具備なくして)対抗できるのは主芯承継部分のみであることになります。
 それを超える芯超部分については、いかに遺言に「相続させる」とあり、或は 「相続人Aに負担させる」と定め
 ても、登記等
( 債務の場合は債権者の承認(902条の2) ) を具えなければ第三者に対抗できない事が明文化されました。

 人は私有財産制の下、財産処分の自由により遺言で相続分を 私定
( 指定) し、或は 財産を特定して「相続させる」
 ( 特定財産承継 ) 遺言をすることができますが、その内 芯超部分は、相続の本質である「権義主体同一承継」とは
言える
 ( クオレの保有を伴うので ) ものの、遺言者と相続人との間での ( 「プチ遺贈」と言うべき )遺授」的色彩を帯びる
が故に、これを他に対抗する為には登記
( 公示 ) を具えなければならないと 改正趣旨を理解することができます。

 そうすると、結局、相続とは
一般に「遺産」と言われる積極財産及び、相続債務である消極財産について、
権義主体同一性・融合同一化を伴って生じる包括 主同承継
 であるが、これによる取得や負担を第三者に対する
対抗力を以て主張することができるのは、相続人のクオレ
 ( 法定相続分 ) について生じる主芯承継部分だけである
 
と結論することができます。

 従って、相続人間でクオレ通り共有とする「法定相続」であれば、登記不要で他に対抗でき、かつ、相続人単独で
自分のクオレ分の登記をすることができます。しかし、主芯を超えて多く取得する芯超承継については、その芯超部
は登記なくして他に対抗できません。

 
香川判決以来、遺言の普及に貢献した「相続させる」遺言ですが、この改正法は、同判決が主芯承継についての
み妥当し、芯超部分については、取引安全の観点から
主同承継に安んぜず 今一歩慎重に登記等の対抗要件を具
えるべきである旨を示しています。

 又、遺言での「相続」が、主芯承継か、
 ( 芯超部分を「プチ遺贈」として含む ) 主同承継か、何れであるかのところは、
いずれも「相続させる」遺言を「特定財産承継遺言」
(新1014条2項)としてまとめて表現し ( ただ、その内の芯超部分
について、新899条の2第1項により、対抗要件具備がなければ第三者に対抗できないとし)
ていることから、
 改正法は、主芯部分こそ相続のコアとするものの、コアの外側である 芯超部分についても、「特定財産承継」
として、主同承継を一纏めにした表現をするので、主同承継である 相続枠内での違いで右往左往すべきでない旨
を示唆しているようにも思われます。

 ただ、「相続」(狭義)は包括主同承継、
(特定)遺贈」は「相続」枠を離れた特定財産の遺授、という枠の違い
あることは重要で
配偶者居住権(配偶者居住資産についても同様)の遺言をする場合その文言は必ず「遺贈」でなければ
ならないことを銘記すべきです。


平成30年相続法改正による「対抗」の再考
 以上、相続の本質を、相続による承継の対第三者対抗との絡みで再考しますと、今回の改正は、
  「法定」相続分
 (主芯部分)を超える「私定」相続分( 芯超部分)に対する「取引安全」面からの「公示」による
規制にこそ、その眼目があったと言えます。

 改正法は、
 
 法定 (主芯)部分はそれ自体、法によって既に「公示」機能は果たされているから、対第三者への対抗には登記は
不要であるとして、積極財産も消極財産も、法定相続分の承継には統一的に強い対抗力を認めます。

 主芯部分を超える「私定」の 芯超承継部分については、
 相続分の指定であれ、「相続させる」遺言による特定財産の承継であれ、また、債務の負担者・負担割合の指定
 であれ、登記等 
( 債務の負担者・負担割合については債権者の承認 ) を具えなければ第三者には対抗できないとして、
 遺産に対する承継と対抗の構造を明示しました。
  つまり、芯超部分については、通常 財物の別人格 間での「遺授」に伴う対抗関係となるとして、対抗には
 
(登記等の)「公示」を必須なものとする建付としました。

 そして、これまで判例が、「法定」を超えて「相続させる」部分について、取引安全を害するとの批判をよそに、
裸の不動産にも
(無登記の不動産にも) 認めてきた対抗力を、法改正によってこれを奪い、

その見返りとして、芯超部分での対抗力の確保を支援するため、遺言執行者の権限強化を図りました
(→指定相続分)
こうして、相続登記の履践が、遺言執行の面からサポートを受けて促されることになりますが、相続登記の不履践
が広大な所有者不明土地を生んでしまい、社会問題化している折から、サポートだけではその解決に至れない とし
て、相続登記の義務化が現実になろうとしています。こちらをご覧下さい。

 ここで、遺贈についても、目立たないものの、遺言執行者の権限強化を顕著に認識させる楔が打たれたことも指
摘しておかねばなりません。

  つまり、人の死に伴う財産「遺授」である遺贈については、
   遺言に遺言執行者が指定されている場合、或いは、家裁により遺言執行者が選任された場合は、
    
遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる(1012条2項)こととし、
    
(包括承継人ではあっても)「遺授」の当事者ではない相続人には、遺贈の履行に全くタッチさせない建付とし
   ました


 ここに承継と遺授の対置が示されています
(ここでの「承継」は、「主同承継」の意味となります)

   遺言執行者が存在しない場合は、相続人が 被相続人から遺贈義務を「承継」していることが前面に出て、
   相続人らが全員で遺贈の履行にあたることになります。

 以上ですから、
平成30年の相続法改正後は、少なくとも、時代状況として、取引安全と公示の必要が第一義的に
強調されることとなりました。したがって、相続人が複数の共同相続の場面でも、又、相続に第三者が関わってく
る場合であっても、権利の帰属については、登記で事が決せられていく事になると思われます。相続登記の義務化
も目前に迫っていることも踏まえると、今後は、相続における登記反映の一般化が相続にまつわる各種の紛争を相
当に予防する効果をもたらすのではないかと期待されます。
 なお、2021年2月10日 相続登記の義務化に関する報道がなされました。こちらをご覧下さい。









相続の 基本パターン創作パターン : 相続 と 遺言 
 
上にご覧頂いた相続と遺贈の違いを踏まえ、相続編の冒頭で押さえておかねばならない点があります。つまり、
相続と対置すべきは、遺贈ではなく、むしろ遺言であるということです。
 私は、この相続編の冒頭を当然の如く「相続人と相続分」として、書き出した訳ですが、相続を「権利主体同一
承継」と捉えるなら、それは遺言によっても果たすことができるし、私有財産制の下、財産処分の自由という点か
らすれば、むしろ、遺言がその主役となります。遺言は、相続における自由な財産処分であり、それが財産承継の
基本であると言うべきです。
 (なお、以下では、単なる「財産承継」の意味でも「相続」と言うことがあります。「広義の相続」とします。) 
 相続と遺贈と言うとき、その対置は、債務の承継を伴う相続
(狭義)の枠の中での処分か、枠外での処分かという対
置ですが
相続と遺言」と言うときは、クオレ(法定相続分)による相続という相続の基本形(ベースパターン)遺言
による主体的で自由な、承継の
自由形(創作パターン)という意味での対置になります。


完結遺言と部分・未完遺言

 
そうとすれば、この遺言による財産承継の自由が、遺産全部について、漏れなく、相続人や受遺者の最終取得に
至るまで、きっちり表出されていれば、これにより被相続人の最終意思は全て確定的に表示されている訳ですから、
被相続人による相続は完結します
 (あとは、被相続人の承継の自由を制約する観点からの遺留分の問題が残るだけです)

 遺産の全てについて記載された完結遺言であれば、承継を「誰にどれだけ」と具体化するための「相続人と相続
分」や、或はまた、相続人間の配分を公平に調整するための、「特別受益
(生前贈与や遺贈) を、(生前贈与について)
持戻し」、
(遺贈について)計上」して「みなし遺産」とする「調整みなし」(と、私なりにそう呼びます)は不要ですし、
また、その「
調整(相続)」を踏まえての「遺産分割」も勿論要らぬことです。

 ただ、遺言が 遺産全部に及ばず、又、最終的な取得者が定まらない侭の財産が残る
部分・未完 遺言である場合
には、その漏れた部分を補充するため、遺言がない場合と同様、これらの基本的な遺産分けのファクターを一つ一
つ決めていかねばなりません。つまり、これらの遺産分けファクターは、遺産の行方について 遺産分割協議をする
場面となって、遺言を補充するべく初めて必要となるものです
(勿論、遺言のないケースでは必須のファクターとなります)

 そして、被相続人が、相続人に対し、生前に贈与した事実もなく、遺言の中で遺贈もしていないケースでは、抑も
903条の言う「
相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、・・贈与を受けた者があるとき」に該当しないので、加え
て、それが完結遺言なら、補充・調整の要がありません。その様なケースで、遺言により相続人の受ける財産に多寡
が生じても、903条による調整はなく、ただ、その多寡が極端で遺留分問題が生じる時にだけ、1042条1043条
1046条強制みなしがなされた上で、遺留分侵害額請求が行われます
(→完結遺言の必須姓)


 ですから、被相続人が、相続人に生前贈与していた場合、持戻して「みなし遺産」とすることを免除する「持戻し
免除
」の意思表示
(§903Ⅲ)も、補充を要する未完・部分遺言で問題となります。なので、完結遺言であれば、それ自
体が「黙示の持戻し免除」なのです。

 これらは、即ち 亡くなった時の遺産 卒時遺産 と、過去の 生前贈与 との間の、時の壁を取り払い、遺産を時間
透視的に見直して、その大きくなったみなし遺産について、帰属不明の財産を、法定相続分
(指定相続分があればそれ)
に当てはめて分割(帰属を決定)する ために、P枠での「相続分」ルールを貫徹する作業です。

 つまり、「相続人間の公平」と言っても、究極は、本来相続枠の必須構成要素である「相続分」を貫徹する為の
作業なのです。

 その相続分が遺言により指定相続分として補充余地なく完結していたならば、この「調整みなし」等は全て不要
となります。

 特定財産を特定相続人に「相続させる」遺言
(特定財産承継遺言)も、それによって遺産全てがカバーされていれば、
迂回的に相続分も指定されて、完結します
(その為、遺言の財産承継条項の最後は「その他一切の財産を・・相続させる」として、
全財産をカバーする形とします)


 しかし、遺言による承継の自由が過ぎて、直近相続人らの取得が救済を要するほどに僅少であるならば、相続の
基本形の中に強制部分として蔵された「遺留分」によるチェックが、生前贈与を持戻し、遺贈も計上して、みなし
遺産を算定の上、「遺留分侵害額請求」
(請求があれば)として、行われることになります。この「みなし」は、そうい
う趣旨のものですから、「強制みなし」或いは「救済みなし」ということになります。

持戻し免除の意思表示と遺留分
 遺言で遺こす財産の各配分を全て決め、生前贈与の持戻し免除を表示してあっても、相続人中 遺留分に欠ける者
から請求が出れば、その贈与も「強制みなし」を受けて、持ち戻されます。

 ですから、「相続の効力」
( 第三章)900条903条に踏み惑うことなく、「遺言」( 第七章) で完結でき、かつ遺族
遺留分
(第九章)で面倒を掛けない為には、上記の完結遺言であり、かつ、遺留分の侵害もない遺言であることが、
法的に完全な遺言である為の条件ということになります。実際の遺言についてこちらもご覧下さい。



 相続で「ことが起こる」のは、所謂 二次相続の場合が多いと言われます。両親のうち父親が先に亡くなると、
父親が「母さんに財産全部を遺す」旨遺言し、その遺言通りに執行されたり、そう生前 口外していたことから相続
人の協議で同内容の 遺産分割協議書 が整ったりで、一次相続のときは平穏に推移したけれども、父親の全遺産を
継いだその母親が亡くなったときにこそ、本当の相続問題が起こるという訳です。
二次相続については、こちらをご覧下さい。


   
くなり(世間では、相続放棄等で母に全財産が行くことが多い)

     
882かれ死亡 によって相続開始
 

   
883三途ったった (時の) 住所 相続開始



胎児の相続権
 相続は、契約のように意思表示を発する人と受ける人双方の意思表示によるものでも、寄付のように人の単独の
意思表示によるものでもなく、人の死という事象に伴う財産の承継
(行われる場所は亡くなった人の住所地です(§883))です。
 そして、これを受けるか否かは法律で定められた受ける人の側の意思表示にかかるというものです 
(但し、法定単純
承認と言って、相続放棄も限定承認もないまま、熟慮期間の3か月を経過すると民法921条により単純承認したものとみなされる、意思表示に
よらない場合があります) 

 そして、人の死に伴い 財産の承継を受けるべく 法律で定められた人 である法定相続人の資格には、二つの枠
しかありません。
その一つは、常に相続人である配偶者
(民法890条前段)の枠 ( 「常時枠」と言います )、

もう一つは、相続人となる順位が 第一順位から第三順位 迄定められた順次相続人の枠
( 「順次枠」と言います) です。

 
第一順位は「子」(民法887条)第二順位は「親(親等の近い直系尊属)」、第三順位は「兄弟姉妹」(民法889条 )です

 「常時枠」と「順次枠」の間には
補完関係があり、
  互いに、他方がないときは、遺産をその一枠で独占します(民法890条後段)

 第一順位の「子」には、嫡出であるか否かを問わず実子が先ず挙げられます。そして、養子も、普通養子特別
養子
かを問わずこれに含まれます。但し、非嫡出子は認知を待っての相続権ということになりますし、又、税法上
は、基礎控除と2割加算の関係で これら各種「子」の間に課税上の差異が設けられてもいます。
相続税算定のあらまし
なお、遺産分割協議に加わるべき「子」が、被相続人の認知にかかる子である場合の特別規定があります。こちら
をご覧下さい。


 
子は 出生によって私権を享有しますが、相続については 特別に胎児の段階から相続権を取得します (民法886条)
  但し、権利行使できるのは、生まれた後になります。又、胎児に認められるこの扱いは、遺贈についても同様
 とされ、886条を準用する形で胎児の受遺権が認められています 
(民法965条)
 
 以下は
子の相続権に関する民法887条胎児の相続資格に関する886条同じく胎児の受遺資格に関する965条
の各条句です。


    


 やっぱな887  第一(順位) 相続人
  

    宿
りなば
886しく、胎児 には

     相続権
886なし死産がそれを886


 胎児にも886ことない権利

   
   
 受遺者 (相続)開始時胎内だとて


   
産後むご
965受遺する死産886



代 襲

 第一順位の相続人である「子」については、被相続人がなくなった相続開始時に既に子が亡くなっていたという
場合、その子、つまり被相続人の孫が居れば、その孫が子の代わりに相続人となります
(民法887条2項)
これを
代襲相続と言います。
 この直系卑属の代襲については、例えば今の例の孫も既に亡くなっていたときは、その子、つまり被相続人にと
ってのひ孫が生存していれば、その者が相続人となります。直系卑属の代襲(直系代襲)については、「代襲者」が
死亡したときも、その者の子がこのように代襲する(民法887条3項) 
ので、再代襲、再々代襲と、子孫が生存している
限り続くことができます。


 相続の順位者が、欠格
891)或いは廃除892893)によって相続権を失った場合も、
  死亡のときと同様に次代の者による代襲が認められます。
  
(関連する次の各記事もご覧下さい。傍系代襲欠格・廃除による代襲。) 

 なお、通常は、相続人である子の証明として戸籍が用いられる訳ですが、子の出生について疑問があるときは、
嫡出否認認知等親族編の「実子」の問題が付随することとなり、相続人は誰かという「全相続人探索」の苦労の
一環をなすことになります。相続開始後に認知された相続人についての相続 
(遺産分割) に関しては、民法910条が置
かれていて、価額による支払請求となります。
 なお、この場合の「価額」について、下記の判例
(令和元年8月27日最高裁第三小法廷) があります。


    資産家パパ887くなって、それを

     
(既に)よう887いが、それを

      
 がいるから、その資産
(遺産)

         
ヤワ887 でも、

               
代襲
させててやろね





     パパ難事887 廃除げなくも、

      
たる代襲で、たるパパ 分継げる





    
直系襲は、代々襲野蛮887にはあらず。

      〔 
(野蛮な簒奪が)あれば、罰来い891欠格じゃ



   
  (妻を)寝取られしコキユ 結果婚中懐772(の)

      「この
なし774(言っ)から(のみ) 

                嫡出 否認 (の訴え)ができる

〇 相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において,他の共同相続人が既に当該遺産の分割をしていたときは,民法910条に基づき支払われるべき価額の算定の基礎となる遺産の価額は,当該分割の対象とされた積極財産の価額である。(令和元年8月27日最高裁第三小法廷)
この判例は、その理由を「民法910条の規定は,相続の開始後に認知された者が遺産の分割を請求し ようとする場合において,他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしていた ときには,当該分割等の効力を維持しつつ認知された者に価額の支払請求を認める ことによって,他の共同相続人と認知された者との利害の調整を図るものである (最高裁平成26年(受)第1312号,第1313号同28年2月26日第二小 法廷判決・民集70巻2号195頁)。そうすると,同条に基づき支払われるべき 価額は,当該分割等の対象とされた遺産の価額を基礎として算定するのが,当事者 間の衡平の観点から相当である。そして,遺産の分割は,遺産のうち積極財産のみ を対象とするものであって,消極財産である相続債務は,認知された者を含む各共 同相続人に当然に承継され,遺産の分割の対象とならないものである。 以上によれば,相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求 しようとする場合において,他の共同相続人が既に当該遺産の分割をしていたとき は,民法910条に基づき支払われるべき価額の算定の基礎となる遺産の価額は, 当該分割の対象とされた積極財産の価額であると解するのが相当である。このこと は,相続債務が他の共同相続人によって弁済された場合や,他の共同相続人間にお いて相続債務の負担に関する合意がされた場合であっても,異なるものではない。」と判示しています。この内容自体はごく尤もで何の問題もないのですが、これに付随して、積極財産たる「相続債権」の承継問題があり、この点についてこの令和の判例は、相続債権も同様に遺産分割されるべき対象とするのか、それとも、従来の判例を踏襲して対象たる積極財産の例外とするのか定かでない点が残された問題ということになります。こちらをご覧下さい。



養子の相続権
 前に、この見出しで、節税目的での養子縁組が無効ではないとする事例判例について述べていますから、重複に
なりますが、本来の場所はここですので、少し感じを変えて述べてみます。両方を合わせてお読みください。

 養子は、
養子はまる子809届けの日から養親さんの嫡出子 とある様に、養子も当然第一順位の相続人と
なりますが、相続税法上は被相続人に実子がいない場合二人まで、実子がいる場合は一人だけが法定相続人として、
基礎控除上「子」の人数に数えられ、それを超える人数は計算上カットされます
 (但し、子を代襲して相続人となる
孫の場合は、実子扱いとなります )


 ですので、養子とした以上、その子たちには相続権があり、
(配偶者がいる場合)子全体の法定相続分である二分の一
を、
(養子を含めた) 子の人数で割った相続分がありますし、遺言で更に多く相続させることもできますが、基礎控除 
(控除枠が大幅に縮小されたので、メリットも減じられていることは前述した通りです) は、認められた人数を超える分は認められず、
超えた分については課税されることになります。

 なので、節税効果はこの限度にとどまります。例えば、実子が一人の被相続人が養子を二人とっていたという
場合、基礎控除額は
(配偶者がいることとすると) 、3000万円+600万円×3 (配偶者1+実子1+養子1 )=4800万円となり
ます。この例で、実子が亡くなり、その子
(被相続人の孫)もいない場合でも、同じ結果となりますが、その場合、
かける人数は、配偶者1+養子2=3となる訳です。

 ところで、養子は、養親の実子との婚姻が可能
734Ⅰ但書)で、いわゆる婿養子がその例です(「嫁養子」もあ
って良い訳です)


 その場合、その実子たる妻が死亡したときは、夫としての相続分が当然認められますが、それ以外に、被相続人
の兄弟
(姉妹)としての相続分は認められません(昭和23年8月9日民事甲2371民事局長回答)。養子が重複相続を認められる例
については、こちらをご覧ください。

  


  ()()(親等)()()禁婚

   婚姻なんぞしたならば名指
734非難なるも、

     
養方
姉妹あねいもと兄弟あにおととなら他家なみよ
734

               婚姻
ありてもしゅうない



    しゅうない婿入りののち さんがった婿さん(が)

    
は、連合()
890(るが)兄弟(分は)やばく889




    息子逝き、(その息子の子)不憫うなら、

     
養子ようして887

    (財産を)息子代わりの代襲と、養子自身と、

          
わせがせよ、爺心
()

       「して」は、7の伊語「セッテ」、西語「シエテ」から




兄弟姉妹の相続権
 子の次、つまり
第二順位の相続人は、「親」
  (
被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。(民法889条1項1号)とありま)で、
   その次、
第三順位の相続人は「兄弟姉妹」です(民法889条1項2号)

 百歳を超える人も珍しくない超高齢社会となって、人が亡くなった場合、その親に加え、さらにその親もと、複
数の代の親が健在ということが希ではありませんが、その様なときは、亡くなった人に親等が近い順で相続権が認
められます。子
(や兄弟姉妹)の場合の様な代襲はなく、889条1項1号但書による相続なので、養子となっていた被相
続人が亡くなり、その者に子がなく、養父母も既に亡い場合、養子の実親が健在であれば、その者達が相続して、
養父母の親は相続に与ることが出来ません。父母が二人健在であれば、二人の間は等分となります
(900条4号)

 「親」たる相続人が全て亡くなっていた場合は、亡くなった人の兄弟姉妹が相続人となります。ここでも、亡く
なっている人があれば、その代襲がある(
傍系代襲)ものの、兄弟姉妹については、その子までの代、つまり甥姪限
りで相続権はストップとなります
(民法889条2項887条2項)。傍系代襲では、「代襲者」が亡くなった場合の代襲規
(887条3項)が準用されていないためです。

 ですので、甥姪の子である又甥、又姪を含むそれ以下の子孫は、代襲相続権を認められません。
 傍系についても直系同様に子孫がいる限り代襲を及ぼすと、兄弟姉妹が多数である場合などには、子孫の探索や
らその後の協議やらで収拾が付かなくなることを避けるためには、このように制限せざるを得ないのだと思います。

 代襲によって継がれるのは、直系代襲では子の相続分、傍系代襲では兄弟姉妹の相続分で、代襲者が数人いれば
その数人の間での等分となります
(901条)

 そして、遺言がないときに相続できる割合
(法定相続分) は、「子」と「配偶者」は(両者健在であれば)同じ相続分
ですが、子以外の相続人 
(親、兄弟姉妹) は、子よりも、親、兄弟姉妹の順で少なくなり、それに応じて、
その者たちとの補完関係により、配偶者の相続分が増えてゆきます。



(夫婦間に) (第一順位) がないと


 
連合ったら
しゅうとめしゅうと〔その(系)(属)(第二順位)

    
 次つぎ 小姑こじゅうと連合いの兄弟 姉妹 (第三順位)が現れて

        
  ‘遺産をば 
889よこせ ややこ889しい




  子  鬼籍
(に入ってしまっていたら) ヤワ887でもひ孫でも 

    
高齢 901祖父母そう祖父母(を子に代わって代襲  又は再代襲

     代々ぐが(系)代襲野蛮887にはあらず



  ようやくに
889 (系)一代限

          
兄弟
(姉妹の相続)  甥・姪 

    ‘一代限
という具合
ぐわい
901

       
甥姪
のみがやばく
889代襲


  直・傍いずれも代襲()数人すにんならこまい
901等分すべき



配偶者の相続権
 
兄弟は順次 相続に与る順位付き相続人達ですが、配偶者、つまり妻や夫は常に相続人です(民法890条
 そして、相続人の資格に二枠あると言いましたが、この前者 子・親・兄弟が、3者で一枠をなし、これを
順次
続人
と呼び、配偶者の枠を常時相続人と呼ばせて貰って、順次枠と常時枠の二枠に括るということとします。

 この二枠には互いに
補完関係があるので、分数として補完し合って1/1になるように補い合い、又、互いに他
方がないときには、遺産を独占
します。つまり、順次枠の相続人がいないときには、配偶者一人で全財産を継ぎ、
逆に、常時枠の配偶者がいないときには、そのケースでの順次枠の相続人が相続する、という関係に立ちます。

 ここで、先程「順次相続人たちの相続できる割合が順次に少なくなる」として、「法定相続分の漸減」について
触れましたので、相続分の項の前に順不同ではありますが、その条句も先触れでご覧頂きます。つまり、順次枠に
対置する常時枠では、相手が、子・親・兄弟である順に、1/2→2/3→3/4と「漸増」するという 条句です。

 当然のことながら、「配偶者」は、戸籍上の配偶者でなければなりません。次に述べるとおり内縁の妻又は夫に
は相続権はありません。また、例えば、遺言書に「相続させる」相手として、「配偶者
(妻又は夫) 」と氏名が
記載されていても、相続開始時に既に
離婚しておれば、相続人ではありません。その者は、氏名によって特定がで
きても、既に相続人の身分を有する者ではなく、もし、財産を取得させるとすれば、「遺贈する」と記載されなけ
ればならない者であるからです。


 伴侶
890  
   
された ベターハーフ遺産をば

  
ハンコなし
890 遺分残分数の残り)

   
クオレ(れ)900
     ニイチ
(1/2)サンニィ(2/3)ヨンサン(3/4)



 
ところで、遺言で、配偶者に対し「相続させる」とせず、敢えて「遺贈する」とすることも、時にはあり得
ます。離婚して相続人ではなくなった者に「相続させる」ことはできませんが、相続人である配偶者に「遺贈する」
ことは十分あり得ます。

 「相続」となれば、次に述べるように「相続分」による割合の制約がありますが、その縛りから離脱して特別に
「相続枠」とは別枠で財産を取得させたいときは、敢えて、「相続させる」でなく「遺贈する」とすれば、相続分
から自由な取得とすることができます。配偶者の居住のための重要なメソッドです。


特別受益
配偶者居住資産

 
ところが、第三者に対する遺贈でなく、相続人(配偶者も含まれます) に対する遺贈については、
相続人間の公平
 を図るため 民法903条1項が、その遺贈財産を「相続」財産とみなす旨を定め (遺産「計上」と言います)、又
ほかに、相続人に対する特別な生前贈与(特益受贈)があれば、これも同じく「贈与の価額を加え」て
 (遺産への「持戻し」と言います)相続財産とみなし、いずれも、相続枠から与えたみなし遺産」とします。
相続人に対する「特別受益」制度です。

 しかし、その内、特益受贈については、遺言者が持戻しをしないよう指示する (「持戻し免除の意思表示」と言います) 
ことができる旨の規定が同条3項には置かれています。

 それで、遺言に、生前贈与について持戻し免除の意思表示があると、その贈与財産は相続とは別枠扱いとなりま
すから、その受贈者は相続分を減らされることなく、卒時遺産から相続分どおりの配分を受けることができます。

 他方、遺贈については計上の免除規定がありません。遺贈は、同条1項による 遺産「みなし」が強固で、
(遺贈に
ついてだけ)
その対象財産は「みなし遺産」に呑込まれた侭となります。過去の贈与については、遺言による持戻し
免除により、相続枠から外しても大目に見るが、
(遺言による)相続のスタート地点において、他の「相続させる」条
項と
同時に効力を生ずる遺贈を、それのみ 別枠扱いとすることは許さないという訳です。同一時点での別扱いは、
それ自体公平に反すると見るのでしょう。

 しかし、
配偶者については特別にこの903条第一項を適用しないとする措置がとられれば、どうでしょう。
それが今回の法改正のポイントです。生存配偶者は、その遺贈について本来の趣旨である「相続とは『別枠』」扱
いとすることが許されることは勿論、生前に配偶者に贈与された財産についても、この「
第一項不適用」により、
持戻し免除の意思表示を待つまでもなく、持戻しはしないで良いことになりますから、いずれも配偶者は安んじて
その取得財産を保持できます。


   
やる相手、相続人なら

     生前の贈与遺贈も 
遺産とみなし
  
     
公平 期すが 則なれど、
    
    
配偶者 住まう為なら
   
      則 外し ’みなし’ 外して 
こまそうよ903Ⅳ


配偶者居住資産
本来的固有資産性

 
これは、ことが相続人間の公平の問題ではなく、夫婦間の実質的平等の問題であることを意味します。つまり、
夫婦は「同等の権利」(憲法24条)を有するのですから、配偶者は、夫婦別産制
(民法762条)の下で、婚姻中は
夫婦財産
の偏在
 に呻吟することがあっても、他方が亡くなる(形での)婚姻終了時は、本来の「同等」を回復して当然なのです
 (それでは遅きに失しますが)

 愚説によれば、これは、婚姻における融合創一に由来する守操一体の結果ですから、配偶者に対して居住資産
(
居住建物又はその敷地)を継がせる旨の行為があれば、その居住資産は、
元来の夫婦資産の
(バランスの)復元 
夫婦財産の
復衡
 とみなすことができ、それは配偶者の本来的固有資産です。

 そのため、他の相続人であれば、遺贈はすべて「特益」として、「みなし遺産」計上扱いを受けますが、配偶者の
居住資産は「特益」遺贈とは異質なのです。

 なので、「相続分」限りのことですが
 (次に述べるとおり、遺留分の制約が残ります)
遺贈にかかる居住資産は、「特益」
ではないため 遺贈枠の侭、「相続」とは別扱いとなり、居住資産以外の残余財産
 (預貯金がこれに当たります) だけが
「相続」の対象となります
(こちらをご覧下さい)

 但し、「復衡」と言えるためには、それまでの経過を必要とするので、
婚姻歴二十年以上という要件の充足を必
要とします。

 こうして、平成30年の相続法改正による
配偶者居住資産制度(§903Ⅳ)は生まれたと見るべきです (遅きに失しまし
たが)
。そして、これの余効として、遺贈に係る配偶者居住権についても、相続枠から除いて扱うことが許されます
が、こちらは、婚姻歴要件がありませんから、結婚後日の浅い妻も無償で住まえる安心を得ることができます
(遺言が
ないため、相続人間の遺産分割で配偶者居住権を取得する場合は、相続枠内での取得となります)
こちらもご覧下さい。

遺言による配偶者居住資産遺留分
 ただ、この配偶者への居住の配慮も、その居住資産の遺産中に占める割合が大きく、相続による配偶者の取得分
全体が、他の相続人の遺留分を侵害する結果となる場合には、遺留分侵害額請求
(新1046条)を受ける事になります。

 
(改正法の下)遺留分の基礎財産(遺留分原資)算定するためには、遺贈分も含む「相続開始の時において有した財産の
価額」
(卒時遺産)に、配偶者に対するものも含め、被相続人が生前贈与した財産の価額を加え(新1043条)(その範囲
は、相続人に対する贈与か否か、遺留分を侵すことについての認識の有無等で異なりますが(新1044条))
、「みなし遺産」とした
上で、遺留分権利者自身の受けた受遺・受贈分を控除する旨が定められています
(新1046条)

 ですので、当然、相続枠の中に居住用の遺贈や贈与も取り込んで計算をします。

 ですから、居住資産の遺贈・贈与については903条4項により相続分の縛りから離脱できても、それを含む取得分
全体には遺留分の縛りがかかります。

 通常、遺留分は法定相続分の半分
(新1042条)であり、子との相続であれば、「子」の遺留分は1/2×1/2 (子の法定
相続分)
=1/4ですから、居住資産を含む遺産全体について、子の遺留分1/4を侵すことはできません(具体例でご覧下さい)

 しかし、逆に、配偶者居住資産
(或は、遺贈によって配偶者居住権)を取得する配偶者は、居住資産以外の遺産には1/2と
いう相続分の縛りはあるものの、居住資産を含む遺産全体については、その3/4までの取得に留めれば、
(子の)遺留
分による制約をクリアできます。

 被相続人の親(親の法定相続分は1/3)との相続であれば、その限界は、5/6迄となります(被相続人の兄弟姉妹と配偶者が相続
する場合、兄弟姉妹には遺留分がないので、遺言があれば、配偶者は全遺産を取得できます)


 ところが、そもそも遺言は、遺留分さえ守れば、相続分に縛られずに、有効にその内容を実現できることが利点
なのですから、居住資産を「遺贈する」として確保し、それ以外の財産を、相続分
(通常子らと1/2ずつ)に拘束され
ることなく、配偶者が
(居住資産を含む)取得分全体について他の相続人の遺留分を侵さない限度ぎりぎりまで取
得できるよう配意すること
が配偶者の利益に叶うと言えます 
(そして、身内の事情が許すのであれば、遺留分にもとら
われず、全遺産を配偶者に遺す「妻全遺言」をすることこそが「人生百年時代」に遺る配偶者の余生の備えとして相応しいと考えます) 


 そうすることが、税法上配偶者には1億6千万円という高い控除が認められていることとも符合します
(離婚の際も
財産分与によりバランスの復元が図られ、税法上の一定の配慮が受けられます)
。そして、このメリットは、遺言によってこそ
辿り着けるゴールでの果実であることは、銘記されるべきです。Q&Aの該当部分もご覧下さい。
 なお、配偶者短期居住権については、こちらをご覧下さい。


配偶者居住権・配偶者居住資産に関する平成30年7月民法改正
 平成30年7月民法が改正され、連合いに先立たれて遺された配偶者が、
  ❶遺産分割の場面で (1028条1項1号
)居住場所を失うことのないよう、 配偶者居住権 (1028条1036条) 
   創設されました。そして、
  同居住権について、遺言により相続の枠外での取得とすることができる
遺贈の方法 (1028条1項2号)考えられ
  ました。改正法のこの規定は2020年(令和2年)4月1日から施行されています。

 
夫婦のどちらかが先に亡くなったときの 一次相続が、遺る配偶者に全遺産を継がせる妻全(或いは、夫全)遺言で円満
に納まれば、必要のない事でしょうが、遺言のない一次相続の時に、子ら 他の相続人にも配分の必要があるのに、
建物を売却する以外に相続分を分ける方法がないと、配偶者が住まいから追い出される羽目になります。

 配偶者居住権❶は、遺産分割に臨んで、配偶者にはこの居住権で住まいを確保し、他の相続人には、売却による
か否かはともかく、建物の残価額をもって取得させる方法です
一つの建物が 配偶者居住権と、その残余の、二つ
の財産から成る と捉えて遺産分けを行います〔その具体例は後記の通りです〕。分けるための売却を回避することができ、
配偶者は住まいを確保できます。そして、建物の所有者は、配偶者居住権の負担付き所有権を取得します。これらが、
故人が遺した卒時遺産の相続枠の中で行われます。


 配偶者の
終身・無償の居住が可能となり、また、建物の所有者となった者には配偶者居住権の登記を備えさせる
義務
(1031条)が課されます。折角の義務規定ですから、配偶者としては登記を早期に済ませて置くべきです。居住権の
存続期間は原則 終身ですが、分割協議・遺言・審判により別の定めとすることもできます
(1030条)

 配偶者居住権は、登記によって第三者に対抗できるものとなり、相続債務の債権者による差押え等があっても利
用権を主張することができます


 
但し、配偶者居住権の取得以前から、その建物に登記を伴う抵当権が設定されていた場合は、抵当権の実行により
居住権は覆されるため、はじめから抵当の付いた建物の場合は、配偶者居住権の利用は期待できません 。

 居住を安んじられた配偶者は、従前の用法に従い、その建物を善良な管理者の注意を払って使用・収益しなけれ
ばならず、又、承諾ないまま、他人に使用させ、或いは増・改築をする等してはならず、他人への権利譲渡も禁じら
れます。
但し、その建物を居住用のほかに、従前と同様であれば、所有者の承諾の下、第三者に利用させ、収益を
得ることもできます
(1032条1~3項)

 配偶者にこれらの義務に対する違反がある場合、所有者は、是正の催告の後、是正されないときは、居住権を消滅
させる意思表示をすることができます(1032条4項)
 配偶者亡き後は、居住権が消滅して建物取得者が、利用を含め全面的に所有するところとなります。

そして、
 上記の遺産分割場面ではなく、
 
遺言の中で、配偶者居住権を「遺贈する」旨記載

或は

婚姻期間が二十年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又は
  その敷地について遺贈又は贈与
をしたときは、


 
被相続人は
  
その遺贈又は贈与について
   
第一項の規定 (注:遺贈対象財産をみなし遺産に「計上」し、生前贈与財産をみなし遺産に「持戻し」する旨の規定) を適用しない
  旨の意思を表示したものと推定する
 (903条 新4項 ) 

とされ、この推定規定が、
遺贈された配偶者居住権❷にも準用されます (新1028条3項)  

 
この推定規定 本来の対象は、居住権 ではなく、その居住建物 或は その敷地の所有権 (夫婦の共有とした場合の
共有持分も含まれます) 
です。

 この建物 或は その敷地を、以下、私なりに「
配偶者居住資産」と略称します。

  
配偶者居住資産の贈与・遺贈だけでなく 配偶者居住権の遺贈についても、それぞれ903条 第1項を適用せず
遺贈の、或は 生前贈与の、本来の趣旨 通りに、
相続枠外の扱いとすれば、配偶者は取得した居住資産・居住権を
相続とは
別枠で受けたことになって、結果 預貯金等の相続財産からの 相続分を減らされずに済みます

 要するに
、普通であれば、

 被相続人の
 相続人に対する遺贈や生前贈与は、遺産を与えるもの、与えたものみなして
   遺産への
(遺贈の)計上」・(贈与の)持戻し」をしますが、
 被相続人が、 「配偶者の為に 遺産みなしをしない」 と言っている と推定する

という
みなしなし推定をする訳です。

 「推定」ですので、反証を挙げて「それも遺産のうちだ」と覆すことも可能ですが、それはレアなケースであろう
と思われます。

  但し、被相続人の贈与・遺贈がないまま遺産分割協議となった場合は、この推定根拠たる被相続人の行為がな
いので、別枠扱いできず、配偶者居住権も、卒時遺産中の、相続枠内の財産として配分されます。 なので、配偶者
は、その相続分の一部として居住権を取得するため、その分だけ取得できる財産が減ることになります。

 ただ、上記のように、そのうち配偶者居住資産の贈与 或は 遺贈
(上記903条新4項の場合)のメリットを認められる
のは、
婚姻二十年以上の夫婦です。それに満たない夫婦には認められないので要注意です(配偶者居住権については、
そのような婚姻歴の制約はありません)


 私は、以上の内、
配偶者居住資産遺贈する遺言のことを配偶者居住遺言と呼び、又、これを(駄洒落になって恐縮ですが、)妻住用遺言
と言います。


 仮に、遺産が居宅と預貯金とすれば、上記「みなしなし推定によって、別枠で居宅が確保でき、相続で預貯金
につき相続分のフル取得が可能となります。

  通常、配偶者と子との共同相続とすると、配偶者は、住まいを確保した上、預貯金の半分 を取得できます。

 但し、生前贈与の場合は、贈与税
 (加えて、不動産取得税も) 
(非課税不申告で済む110万円までの枠とか居住用不動産の配偶者控除 ( 2000万円まで ) 等があるとしても、その枠を超えれば)高い
税率でかかってきます
(死亡前3年以内の生前の贈与であれば、相続税に引き直されて後で控除されることになります。→相続税算定の
あらまし
)


 そこで、高い贈与税ではなく、より税率の低い相続税で済む死因贈与を選択する途も考えられます。
 しかし、生前からあれこれ手間を掛けて居住資産だけ贈与契約や死因贈与契約するより、遺言で遺産すべてについ
てその行先を決めておく方が、遺族にとっても円滑な承継ができますから、賢明と言えます。こちらをご覧下さい。

 亡くなった連合いによる配偶者のための手当がなかった場合、上記のように相続人間で遺産分割をすることになり
ます。

 そこで遺された配偶者には、相続人の分割協議でこの配偶者居住権を分割することもできますし
(新1028条1号)
家裁での遺産分割調停に際し、相続人間でその旨合意があるとき
(新1029条1号)、或は、配偶者が望み、家裁が特に
必要であると認めるときは、配偶者居住権取得のための審判もして貰えます
 (新1029条2号)

 ですが、上記の通り遺産分割での居住権は別枠扱いとすることができませんから、居宅の取得と分離して居住
権は確保できても、預貯金をどれだけ取得できるか不安が残ります。場合によっては、配偶者から他の相続人に不足
分の代償金を払わなければならないかも知れません。やはり、大きな資産価値を有する居住資産を確保できる

配偶者居住資産 遺贈 こそ妻住用とおぼえたり。

とお勧めする所以です。配偶者居住権について、「相続と遺贈」の観点から、こちらもご覧下さい。
また、「遺産の成り立ちと相続の仕組み図」、「人生百年時代と配偶者居住資産」も参照下さい。


 
なお、配偶者に対し配偶者居住権或いは配偶者居住資産を与える意図で、その遺言に居住権或いは居住資産を
「相続させる」とした場合どう扱うべきかも問題になります。
 遺贈と相続は本来別枠ですから、敢えて後者とする以上、相続枠を指定したと解釈することもできます。
 しかし、そうすると、相続分の縛りを受けなければならないこととなり、それでは配偶者居住権・居住資産の利点
が失われます。
 そして、そもそも配偶者居住権は、それが遺言対象となるのは新1028条の条文上「遺贈」においてのみなのです
から、「相続させる」としたのでは、同居住権の成立があり得ません。ですが、これを配偶者に取得させるべく遺言
したということは「遺贈する」意図であったと理解することもできますし、そう善解して、遺言を生かすことが遺言
の正しい合理的解釈
(判例最判昭58・3・18)であろうと考えます。
 ところが、居住資産の方は、遺言者が敢えて利点に目をつむり「相続させる」として相続枠を指定することもあり
得ないことではないので、これを否定して「遺贈する」と解釈することには無理があります。ですから、居住資産
を、配偶者に、その相続分に食い込むことなく、継がせたい場合はくれぐれも心して「遺贈する」と遺言するべし、
ということになります
(条句)
〔その配偶者居住権の具体例は後記のとおりです〕


 
なお、上記新1028条、同1029条及び配偶者居住権の存続期間を定める新1030条の条文を参考までに示すと、
次のとおりです。

(配偶者居住権)
1028条 
被相続人の配偶者(以下この章において単に「配偶者」という。)は、被相続人財産に属した建物に相続開
  始の時に居住していた場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、その居住していた建物(以下この
  節において「居住建物」という。)の全部について無償で使用及び収益をする権利(以下この章において「配偶者
  居住権」という。)を取得する。ただし、
   被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合にあっては、この限りでない。
  一 遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき。
  二 配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき。

2 居住建物が配偶者の財産に属することとなった場合であっても、他の者がその共有持分を有するときは、配偶
 者居住権は、消滅しない。
3 第九百三条第四項の規定は、配偶者居住権の遺贈について準用する。

(審判による配偶者居住権の取得)
1029条 遺産の分割の請求を受けた家庭裁判所は、次に掲げる場合に限り、配偶者が配偶者居住権を取得する旨を
  定めることができる。
  一 共同相続人間に配偶者が配偶者居住権を取得することについて合意が成立しているとき。
  二 配偶者が家庭裁判所に対して配偶者居住権の取得を希望する旨を申し出た場合において、居住建物の所有者
   の受ける不利益の程度を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために特に必要があると認めるとき(前号に
   掲げる場合を除く。)。
 
(配偶者居住権の存続期間)
1030条 配偶者居住権の存続期間は、配偶者の終身の間とする。ただし、遺産の分割の協議若しくは遺言に別段の
  定めがあるとき、又は家庭裁判所が遺産の分割の審判において別段の定めをしたときは、その定めるところに
  よる。


 そして、上記第903条4項の規定とは、相続人中に被相続人から生前特別受益を受けた者がいる場合に、その受益
分の持戻しをして、相続人間の相続分を調整するための算法を定めたこれまでの903条に、新しく挿入された項で
すが、参考に、その同条第四項と、同項が適用しないとする第一項とを示します。
 要するに、遺贈の目的とされ、又は生前贈与された建物は、特別受益とみなさずに、そのまま配偶者に確保させ、
遺贈の対象たる建物を除いた、残余の卒時遺産を相続財産として分けることになります。

903条(特別受益者の相続分)
4 
婚姻期間が二十年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその
 敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第一項の規定を適用しな
 い旨の意思を表示したものと推定する。


1
 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与
 を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを
 相続財産とみなし、前三条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもっ
 てその者の相続分とする。


この903条1項の意味内容については、特別受益に関するこちらもご覧下さい。


配偶者居住権の具体例

 妻Tと息子Mを遺し、夫Oが亡くなって、遺産は、マンション1戸2000万円と預貯金3000万円で、
マンションは、Tが引続き居住するため、Tが取得する、とします。

 従来通り 遺産分割をすると、配偶者相続分は1/2なので、Tは、遺産合計5000万円の内 2500万円を受けます。
しかし、その内2000万円をマンションで得るので、預貯金からは500万円を取得しますが、それではTに将来 不安
が残ります。
(以下、マンションだけについての遺言が、有るか無いかによって具体的にお話しますが、勿論、遺言は、遺産全て
について承継者を決める内容であることが望ましいので、以下の記述を参考に、遺産全部の配分を遺言で定め置くことが望ましいです。)
                                                       →完結遺言


① 
TがOから遺言により配偶者居住権の遺贈を受けた場合 (上記マンションの配偶者居住権を1000万円とします)
 Tが居住権を遺贈で確保できれば、遺贈の本来の趣旨どおり、(1028条3項による903条4項の準用により、相続枠に持ち戻
 されることなく)
相続財産とは別枠扱いとなるので、配偶者居住権の1000万円を控除した合計4000万円が「相続財
 産」となります。そして、Tは、これをMと1/2、2000万円ずつ分けます。これにより、Tは、
(別枠の「遺贈」で
 居住を確保した上、「相続」として)
 
預貯金から2000万円を受けることができます。
 
 他方Mは、その相続分2000万円を、配偶者居住権の負担の付いたマンション
 (残評価額1000万円 ) と預貯金の残り
 1000万円とで受けますが、マンションに付いた居住権の負担は、母の没後は消滅しますから、結果、実質3000
 万円を手にします
(実質、「消滅」という、法的手続きでない、母の遺産の相続です)

 この例で、居住権の遺贈があっても、相続財産は5000万円であり、Tは2500万円の相続分があるので、Tは預貯
 金から1500万円、Mも、1500万円の預貯金を受けるとするのは、誤りです
(→相続と遺贈)

 この例で、子を二人と仮定すると、母親Tの取得はその侭で、子二人が上記Mの取得分を1/2ずつ分けることに
 なります。なので、子の一人が
(負担付)マンションを取得し、他の一人が預貯金の残り1000万円を取得しても良い
 し、マンションを二人の共有として、預貯金を500万円ずつ分けても良い訳です。


  
遺言がなく、遺産分割協議でTの配偶者居住権を設ける場合、その居住権は1028条3項に言う「遺贈」によ
 って取得するものではないので、903条1項が適用されて、「相続財産」に持ち戻されます。なので、相続財産は
 5000万円になります。
相続枠で受けることになるので、Tは、受け得る遺産の1/2 (2500万円) の内、居住権1000万
 円を除いた1500万円の預貯金を取得します。上記の誤った計算は、このケースの場合にあてはまります。

② TがOから、居住権でなく、マンションそのもの
(の所有権 )を遺贈で受け、或は 生前贈与によって受けたという
  配偶者居住資産の遺贈・贈与の場合、マンション2000万円を
(903条4項により相続枠から外し、「相続財産」と
 して残る預貯金3000万円だけをTとMが等分するので、Tは預貯金1500万円を取得します。これにより、 Tの
 実質取得財産は、評価額が合計3500万円となります。このマンション自体の遺贈・贈与について、相続枠から
 外して扱われるのは婚姻20年以上の夫婦に対してのみです
(民法903条4項 )(配偶者居住権の遺贈についてはこの婚姻歴の
 限定はありません。)


 この例で、子が二人いると仮定すると、子は、その相続分である預貯金1500万円を二人で分け、各750万円を取
 得します。


 
以上の様に、Tは、法改正による新設の903条4項のもと、903条1項の不適用により、配偶者居住権の遺贈に
よっても、建物の遺贈・贈与によっても、その後の生計に 従前の扱いと比べ より見通しが持てることになります。

 ここで、(遺言による)遺贈によって配偶者居住権を取得する場合と、遺言によらず 遺産分割協議によって配偶者居住
権を設ける場合とは、
1028条3項903条4項による 903条1項(持戻規定)の適用・不適用の違いから、「相続」枠で
の扱いか「遺贈」枠での扱いか、が異なる点が注目です。「相続の仕組み」での「相続」と「遺贈」が認識できる
例となります。


③ ちなみに、以上の例で、
相続分の最低保障である遺留分はどうなるかを見てみると、遺留分計算においては、
 遺贈も贈与も、何れも「みなし相続財産」に持ち戻す強制みなしを受けて、相続の枠外とすることはできません。
 どれも遺留分の算定基礎財産に組み込まれ
上記いずれの場合も遺留分の算定基礎たる相続財産が5000万円と
 なります。子の遺留分割合は子が一人なら1/4、二人なら1/8ですから、子一人の遺留分は、 1/4なら1250万円、
 1/8なら625万円なので、いずれの場合も、Tは 子の遺留分を侵害しているとは言えません。

該当する&Aのこちらもご覧下さい。


  配偶者

    ふいと
身罷みまか
はぐれ890ても、

     
相続人相続権

  
同順位にいなければ、単独


   配偶者連合った相続  ドラマ’890共演

             さなくば
主演一人舞台



 遺産をば、兄弟、継ぐときは、その順次相続人
      妻の、ぐ役は
(順次相続人と)んで、常時相続人
   順次・常時の二枠は
 
(互いに) 埋め合う故に
       他
 がなくばその一枠で相続をする。


   

 やっぱなあ887  第一(順位) 相続人

      兄弟(姉妹) ようやく889 から 順次相続人

   890 (順次人と)んで常時相続人

妻住用遺言 
( 改正法中の居住資産の配偶者への遺贈に関する規定が令和元年7月1日から、配偶者居住権の規定が令和2年4月1日から施行されています。)

     これ903 永幸890 遺贈 妻住用 (遺言)
               配偶者 居住のための遺贈なら 相続分(預金から)フル取得 それとは める也。

      配偶者居住権   先立たれ、独り住まうも、
                     終身 無償の住まい
を約されて、心やすらか 永久とわにハッピー1028
   さりながら、も少し安心ましたくば、
        
配偶者居住資産 遺贈 こそ妻住用とおぼえたり。
   さりながら、に「百年」安心を与える途を求むれば

                      妻全遺言いごん」、これにくなし。

  老
いゆけば、急務は
968「子に」ずは自筆遺言いごんすること。
   さりながら、
968にある故に妻全遺言これに如くなし。

 


人生百年時代と配偶者居住資産

 平成30年の相続法改正により、夫婦(婚姻二十年以上であることを要します)の内 遺された配偶者が居住に困らぬよう
配偶者との居住資産
(建物又はその敷地)の遺贈・贈与については原則民法903条1項を適用しないという推定規定が
設けられ
(903条4項)、新設された配偶者居住権の遺贈についても、この903条1項不適用の推定が準用になるとさ
れました
(新1028条)

 つまり、配偶者に対する居住資産の贈与・遺贈や居住権の遺贈なら、相続枠とは別枠の自由分として与える
ことを原則 許容します
(推定ですので、反証の余地はあります)。と、いきなり言われても、分かり難いと思います。

 まず、通常であれば、どう扱われるか、からお話します。
 分かり易い例で、故人が、生前に、 夫婦で住んでいた故人名義の居宅を、妻に贈与し、その後も二人で住んでい
ましたが、その数年後に亡くなった、とします。

 妻と子が、相続人となった場合、その家はもう妻が貰っていますから、遺産は預貯金だけであり、これを法定
相続分に従い 妻と子で「半分」ずつ分ければ良いと思いがちです。

 しかし、遺言がなく、妻と子が法定相続するのなら、この場合、法は、既に妻の物になっている家も、相続枠に
持ち戻すことを定めています。夫にそのつもりがかなかったとしても、法は、「家は相続の前渡しであった」とみ
なします。「みなし相続財産」とされる訳です。これが、上記民法903条1項の定めです。

 しかし、夫が遺言で、「生前に妻に贈与した家
(或は、「この遺言で妻に遺贈する」とした家」) は 持ち戻さなくて良い」
と定めていた場合は、預貯金だけを、妻と子で半分ずつ分ければ良くなります。遺言がないと、妻は、
(みなされた)
相続財産から評価額の高い不動産を既に取得しているので、預貯金から貰える分は少なくなるか、場合によって
は、子から預貯金だけでは「半分」に足りないとして、その分をお金で補償するよう要求されるかも知れません。
この夫の「持ち戻さなくて良い」という意思表示を「持戻し免除の意思表示」と言います。

 夫によるこの「持戻し免除の意思表示」が無い場合に起こる妻に気の毒な事態をなくそうと、今回の改正が行わ
れました。改正法は、その場合でも、家の贈与・遺贈があったときは、持戻し免除の意思表示も伴っていたと「推
定」します。それが、新たに設けられた903条4項です。推定ですから、反証を挙げて覆すことも可能ですが、それ
はレアなケースであろうと思われます。但し、夫婦が結婚20年以上を経た上で贈与・遺贈した場合に限られるとい
う条件が付いているので、要注意です。

 夫が遺言で、「妻に家の
(配偶者)居住権を遺贈する」とした場合も、上と同様に扱われます。「配偶者居住権」に
は 結婚20年以上という限定は付きません。その場合、預貯金に、その家の、配偶者居住権価格を引いた残額 が、
加わって
(みなし)「相続財産」となります。

 また、遺言がなくとも、相続人らの遺産分割協議や審判で「配偶者居住権」を設定することができる、ともされ
ました。その場合は、配偶者居住権も(みなし)相続財産となるので、配偶者は、それも加わった相続財産から、相続
分相当の取得をします。

 この改正によって、配偶者に、相続分の縛りなく居住を確保でき、合わせて、それとは別に相続枠の財産
(預貯金
がこれに入ります
)から自らの配偶者相続分(通常1/2)を得る途が開かれました。但し、上記のとおり、遺言がなく、遺産分
割協議や審判で配偶者居住権を取得する場合は、「相続枠」での取得となるので、相続分の縛りを受けます。
(より具体的にはこちらをご覧下さい。また、法改正を踏まえての「相続の仕組み」も参照下さい。)

 しかし、注意しなければならないのは、うち配偶者居住権は、「居住」の限りの保護であって、それを超える
家の「利用」や「処分」はできないことです。

 ですから、もし、人生百年の時代となり配偶者と死別した後の人生を、居住資産を有効に活用して長生きする
には、単に建物に「住める」というだけではなく、建物所有権そのものを取得しておいて、必要となった時には
それを処分した売得金で、老人ホーム等への入所を賄う形にする、或は、保有する住宅を担保にリバース・モーゲ
ージ
(逆住宅ローン)で、毎月一定額の融資を受け、返済はせず 死亡時に住宅を処分して返済に充てる等する方が賢明
です。

 ところで、「贈与」には通常高い税率で贈与税が伴います。税率が高いので、これには、一人当たり年に110万
円までの贈与であれば 非課税・不申告で済む、とか、配偶者に対する居住用不動産の贈与であれば 2000万円まで
配偶者控除がある 等の緩和策も設けられています。
 しかし、これらの非課税枠を少しでも超えれば、やはり、贈与税を払わなければなりません。
それで、そのため予めその「年110万円までの贈与」を繰り返す
 等して準備する人もいます。

 この「贈与税」の負担を 「相続税」に変えて軽減する方法があります。それは、
(遺言でする)遺贈 (税率の低い相続
扱い) 
か、生前に配偶者との間で契約する死因贈与 (遺贈と同扱い(民法554条)) です。(→贈与税率 、相続税率)
 しかし、後者は、 生前にわざわざ夫婦間で建物についてだけの独立の契約を結ぶのですから、面倒です。それよ
り、やはり、遺言をするのが一番です。遺言で家
(又は配偶者居住権)を配偶者に「遺贈」し、ほかの財産もそれぞれに
「相続させる」として、遺産全部の承継を定めて置く方が、残された家族の安心度も遙かに大きいと言えます。
 以上ですから、


   配偶者居住資産 
遺贈 こそ

           
妻住用
おぼえたり


なのです。そうすれば、仮にホームへの入所なく終生自宅で過ごすこととなっても、建物の次代への承継場面では、
小規模宅地等の特例
制度があります。

 小規模宅地等の特例制度により、子か孫が同居して その自宅を継いでくれれば、自宅の評価額を8割減とされて、
税負担が大幅に軽減されます。

 また、相続又は遺贈により取得した被相続人居住用家屋又は被相続人居住用家屋の敷地等を、平成28年4月1日か
ら令和5年12月31日までの間に売って、下記の要件に当てはまるときは、譲渡所得の金額から最高3,000万円まで
を控除することもできます
(被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除特例)

 
空き家が放置されると倒壊や不法侵入、環境衛生面等での問題となり得ることから相続によって取得した空き家
が放置されることなく売却し易い環境を整えるための特例です。
相続を巡る事情から不要な空き家を相続すること
となる相続人も、それが故人の居住家屋であった場合は、その売却による税負担が軽減されますから、少なくとも
そのような相続でのデメリットが一定程度解消されます。不動産の譲渡所得税については
こちらも参照下さい。

イ 昭和56年5月31日以前に建築されたこと。
ロ 区分所有建物登記がされている建物でないこと。
ハ 相続の開始の直前において被相続人以外に居住をしていた人がいなかったこと。

 なお、要介護認定等を受けて老人ホーム等に入所する等、特定の事由により相続の開始の直前において被相続人の居住の用に供されて
いなかった場合で、一定要件を満たすときは、その居住の用に供されなくなる直前まで被相続人の居住の用に供されていた家屋(以下
「従前居住用家屋」といいます。)は被相続人居住用家屋に該当します。


 世間では、今回の法改正につき、相続で居住の場を奪われかねない配偶者を救う途として配偶者居住権に注目が
集まって、テレビ等で取り上げられています。夫婦の居宅があっても預貯金が少ないケースが珍しくない中、遺言
がない場合に遺る配偶者の居住を守ることが急がれたため、無遺言ケースでの遺産分割協議や家裁の審判で、居住
権を認めることに力点があったようにも思われます。でも、実は、結局は住めるだけの居住「権」でなく、同改正
で認められた、
居住資産の遺贈こそが配偶者にとっての大きなメリットであり、より強い味方なのです。
 これはより価値の大きな居住「資産」が相続とは別枠扱いとなるのですから、折角のこの手を使わない手はない
のです。


 
しかし、さらに、人生百年時代への対処となれば、居住建物以外の遺産についても、なるべく配偶者への配分を
多くして、遺された配偶者の余生に安心を与えるべきではないか、と思います。

 他方、この居住資産の別枠承継も、遺留分での「みなし遺産」への計上は免れることができません
 (尤も、遺留分の
主張は遺留分権利者の意向次第ですので、遺言に納得して 遺留分を主張しないこともあり得ますが)
ですので、遺言によって、他の
相続人の遺留分を侵さない限界まで、できるだけ配偶者への配分を厚くするという思案も必要になったりします。


 以上見てきたように、今回の法改正を踏まえれば、配偶者のため遺言することはむしろ必然ですし、そして
折角 遺言をするのであれば、人生百年の海山難路に照らし、居住権や建物だけでなく、すべての遺産を配偶者に
遺す
妻全遺言が望ましい筈です。何しろ配偶者控除は1億6千万円まであるのですから ( 但し、それを超えると、
2億円以下までの範囲で、既に40%の相続税が課されますから、打つ手があれば打たねばなりません)


 その妻の遺産は、妻が次の二次相続に備えて、遺言で最善を尽くすことになります。とは言え、一次相続で、子
らにも遺さねばならない事情があって、種々勘案して配分しなければならない場合、上に見てきたように
 最低限、遺言により配偶者に
配偶者居住資産を遺贈することが必須であると言えます。

 従って、それだけは遺言で確保した上で、妻にその余生のためにどの程度居住を超えて資産を遺せるか、どこまで
子らにも与えられるかを、
遺留分を巡る身内の事情等も横睨みで勘案しながら、遺産の種類・内容・規模等に応じ、
思案することになります。

 そして、これら諸条件をクリアして妻全遺言で通貫できるのであれば、そのときも、やはり、配偶者居住資産
については、これを「妻○○に
遺贈する」と記載し、その他の財産については「○○、その他一切を妻○○に相続
させる
」と記載しましょう。それによって、居住資産の他の財産との違いを明らかにして、別枠フリーの安心を確
保することができます
(相続枠財産ではないのですから、遺留分を理由とする場合は別として、他の相続人から売却・現金化を迫られる
こともありません)

 「偕老同穴」が遺贈で治まれば、妻全遺言で人生が修まります。

二次相続について」も参照下さい。また、遺留分の関係についてはこちらをご覧下さい。


     (自筆)
遺言者、968にある

          
妻全遺言これに 如く なし




配偶者短期居住権に関する平成30年7月民法改正
 前述の配偶者居住権は、連合いに先立たれた配偶者がそれまで連合いと住んでいた建物につき、遺産分割或いは
遺言によりその建物の権利関係が確定するに際して、配偶者の同建物での終身居住のために確保される権利ですが、
こちらは、
 相続による建物の権利関係が確定するまでの一定期間、配偶者に暫定的な居住を保障しようとする権利
で、新1037条
(から1041条まで)の規定となります。

 先立つ連合いは、自身の死後の配偶者の住生活について、その程度の暫定的な建物利用は当然念頭に置いている
であろうし、これは、一般通念上、婚姻による同居・協力・扶助義務
(民法752)の延長上にあるものとして認める
ことができます。ですので、この配偶者短期居住権は、婚姻の「余後効」と位置付けることができます。

 実は、被相続人と暮らしていた相続人らの遺産分割時までの居住については、
共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきたとき
 は、特段の事情のない限り、被相続人と右の相続人との間において、右建物について、
   
相続開始時を始期とし、遺産分割時を終期とする使用貸借契約が成立していた
 ものと推認される。

と判示した判例
(最判平8・12・17)があり、新設にかかるとは言え、この配偶者短期居住権は、二十年以上前のこの判例
を明文化したものとも言うことができます
(今立法は配偶者についてのものですから、それ以外の相続人については、判例が生きている
ことになります)


 それに引き替え配偶者居住権・居住資産の遺贈・贈与は、後述のように民法903条1項による遺贈・贈与の相続
財産への引直しを 居住資産について廃止するという画期的なものであり、婚姻の終了に当たってのものとは言え、
夫婦の「実質的平等」の回復に大いに資する立法であると言えます。

 相続開始時その建物に無償で居住していた配偶者は、その建物について、相続開始と同時にこの短期居住権を取
得して、共同相続人間で遺産分割により
建物の権利帰属が決定した日から六か月か、或は、相続開始から六か月、
のいずれか遅い日までの期間
、若しくは、それ以外(遺言によりその建物を他人に遺贈されてしまった場合等)であれば、建物
の権利帰属が確定した建物取得者から配偶者短期居住権の消滅の申入れ
 ( いつでも消滅の申入れをすることができます) 
を受けた日から六か月が経過する日まで、その建物を無償で使用することができます。

 但し、この短期居住権は、前述の
(長期の)配偶者居住権と異なり第三者対抗力に関する規定がありませんので、
その建物に対する強制執行や抵当権の実行がある場合、建物利用権を主張することはできません。

 配偶者は、その建物を、従前の用法に従い、善良な管理者の注意を払って使用しなければならず、又、建物取得
者の承諾なくして他人に使用させてはならない義務を負い、建物の取得者は、第三者に対する建物譲渡その他の方
法により配偶者の居住建物の使用を妨げてはならない義務を負います。

 配偶者に義務違反がある場合は、配偶者は短期居住権消滅の意思表示を受けることになります。

 配偶者が前述の終身の配偶者居住権を取得した場合、こちらの短期居住権は消滅しますが、その場合と、配偶者
がその建物につき共有持分を有する場合を除き、短期居住権が消滅する場合は、それに伴い配偶者は建物を取得者
に返還しなければなりません。

 配偶者短期居住権の規定は2020年
(令和2年)4月1日から施行されています

なお、上記新1037条の条文を参考までに示すと、次のとおりです。

 
1037条 配偶者は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住していた場合には、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ
当該各号に定める日までの間、その居住していた建物(以下この節において「居住建物」という。)の所有権を相続又は遺贈により取得した者
(以下この節において「居住建物取得者」という。)に対し、居住建物について無償で使用する権利 (居住建物の一部のみを無償で使用していた
場合にあっては、その部分について無償で使用する権利。以下この節において「配偶者短期居住権」という。)を有する。ただし、配偶者が、
相続開始の時において居住建物に係る配偶者居住権を取得したとき、又は第八百九十一条の規定に該当し若しくは廃除によってその相続権を失
ったときは、この限りでない。
 一 居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合 遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日又は相続開始の
  時から六箇月を経過する日のいずれか遅い日

 二 前号に掲げる場合以外の場合 第三項の申入れの日から六箇月を経過する日
2 前項本文の場合においては、居住建物取得者は、第三者に対する居住建物の譲渡その他の方法により配偶者の居住建物の使用を妨げてはな
 らない。
3 居住建物取得者は、第一項第一号に掲げる場合を除くほか、いつでも配偶者短期居住権の消滅の申入れをすることができる。



 配偶者短期居住権利をば条句にすれば、

     1037 夫亡くして

              しはせん えず

      
 「住」坐 しえて 
1037 

 「しえて」は西語の7「シエテ」から

 

内縁者の相続関係 
 これまで述べてきた「配偶者」は戸籍上の配偶者でなければならず、入籍していないいわゆる
内縁関係では相続
権者とは認められません。

 内縁関係の保護については、
離別による内縁解消の際に、準婚的法律関係の保護に適するとして、民法の
 財産分与の規定を類推適用することの合理性を承認し得るとする判例(最決平12・3・10)があります。
 しかし、同判例
死別による場合には、相続も財産分与も認めることができない旨を判示しています。
その理由は、
  「死亡による内縁解消のときに、相続の開始した遺産につき財産分与の法理による遺産清算の道を開くことは、
   相続による財産承継の構造の中に 異質の契機を持ち込むもので、法の予定しないところである。また、死亡
   した内縁 配偶者の扶養義務が遺産の負担となってその相続人に承継されると解する余地もな い。したがって、
   生存内縁配偶者が死亡内縁配偶者の相続人に対して清算的要素及び扶養的要素を含む
   財産分与請求権を有するものと解することはできない」
として、死別による承継を 清算と扶養の両面 有りとされる財産分与の視点から否定しています。
 平成30年の改正で配偶者に認められた、連合い亡き後の住居での配偶者居住権も内縁配偶者には認められていま
せん。従って、
内縁の妻(夫)は遺言が必要な典型であると言えます。
 遺言もない場合、故人の療養看護に尽くした内縁の配偶者は 全く報いられないのでしょうか。その様なことの
ないよう、被相続人に相続人が存在しない場合に限られますが、
特別縁故者に対する遺産の全部又は一部の分与
の制度
(民法958条の3)があります。こちらをご覧下さい。
 そして、内縁の妻を遺族年金の受給資格である「配偶者」として認めた判例
(最判平19・3・8)もあります。
 内縁の連合いが亡くなった後の家屋居住権について、最高裁
(最判昭42・2・1)は、家屋賃借人の内縁の妻は、
賃借人が死亡した場合には、
相続人の賃借権を援用して賃貸人に対し当該家屋に居住する権利を主張することが
できる旨判示しています。但し、相続人とともに共同賃借人となるものではないともしています。また、

 死亡した賃借人の養子
 (離縁することに決していたがその手続が未了だった) からの、承継した賃借権に基づく明渡請求
については、相続人が当該家屋を使用しなければならない差し迫つた必要が存しないのに、寡婦の側では、子女が
まだ、独立して生計を営むに至らず、右家屋を明け渡すときは 家計上相当重大な打撃を受けるおそれがある等の
事情があるときは、当該明渡請求を権利の乱用であるとして棄却した原審の判断は、肯認できるとしています
(最判昭39・10・13)

 相続できないことの埋め合わせとして、生命保険金の場合は、契約上、保険金受取人の固有の財産となるとされ
 (最判昭40・2・2)、また、

 退職金は、その支給規程の定め方によって内縁者にも受給権が認められていれば、内縁者が受け取る退職金は
相続財産ではない、受取人固有の財産とされます
(最判昭55・11・27)

 ですから、これらの方途を講じて生命保険金・退職金を受け取れるようにしておくことも一法です。

 しかし、内縁者として確保できる範囲は以上を概観しても、場合により可能というものが殆どで、かなり厳しい
ことは確かですから、やはり、連合いに
遺言を遺して貰うことがベストです

 平成30年の相続法改正による「特別寄与料」も、受けられるのは親族に限られるため、内縁者間の終活
(十分な
生前贈与
等があれば、遺留分による請求がない限り、安心ですが)
については、遺言による処遇が残された唯一の途ということ
になります 

 内縁の婚費分担についてはこちらをご覧下さい。

       

   内縁気持ちを968

       らしをやり 遺言したた

          長々 舞台裏での苦労968いよ 「おっと」は8の伊語から



     生計じくしていたり療養看護めたり

               
故人特別縁故があった好々爺 
958(の3)なら

                 
奇特
救護エイドの 9583 

          
捜索期間満了後 三月 めれば

                    
(清算後)一部  遺産 (を分け)




法定相続分 
 
次に民法900条の定める法定相続分についてですが、これは、遺言がないか、或は あっても、遺言による相続分
の指定がない場合
 ( 例えば、主な財産について継がせる人を指定するだけで、残る遺産について触れていないとか ) に、相続人の
間で遺産分けをする割合の定めで、相続に関する核心的な定めということになります。

 それで、本稿では、この定めを、条数を読んで「
クオレ (或いは時に「法定割合」) と呼ぶことにさせて頂きます。
イタリア語で、心、心臓、芯という意味ですから、使用法として間違いではなかろうと思います。以下、「クオレ」
と度々出てきますが、ご了解ください。
 そこで、そのクオレですが、先程、先触れでとお断りして「漸減」と言いましたように、順次枠の 順次相続人の
クオレが、第一順位から、順に、子:1/2、親:1/3、兄弟姉妹:1/4となります。
 これに伴い、対置する常時枠の配偶者が、前述の補完関係によって、同時に相続人となる順次枠の者に応じて、
漸増し、第一順位の子と共に相続人となるときが1/2、親のときが2/3、兄弟姉妹のときが3/4となります。
ということで、条句で「分残」としたのは、一枠での分数の残りが
配偶者相続分であるという意味です。

 
ちょっと脇道にそれますが、このクオレは相続では正に肝となるものですから、例えば、相続税の算定において
も、遺産の総額から基礎控除をした残額が課税されるとしても、残額そのものが相続税の速算表にかけられるので
はなく、基礎控除後の残額を、仮に、クオレ
(法定相続分)によって各相続人に分け、その結果の各人の仮想取得額を速
算表にかけて、その結果の各人の税額を合計し
(そのケースにおける)相続税の総額とします。ここにもクオレの相続にお
ける重要度が窺われる訳です。

 さて、平成30年7月の相続法改正によって、このクオレの重要度は、従前とは比べようもない位増大しました。

 つまり、これ迄は、「相続させる」と遺言で指定された相続人は、その指定された財産を全て取得して、これを
 ( 不動産であれば ) 登記を要せず他に対抗できた(最判平14・6・10)のですが、改正法によって、クオレ ( 法定相続分 ) 
を超える部分については、登記なくしては第三者に対抗できないこととなりました
 ( 新899条の2第1項 )

 ですから、遺言で財産を取得できた相続人も、それで安心して放置してしまうと、別の相続人を通じ先に登記し
た第三者にその財産を奪われかねないことになります。

 相続したら即登記することが、焦眉の急ということになります。もちろん、遺言が無く、遺産を法定相続分通り
に共有とすることになった場合
(法定割共有相続)は、この法改正によっても、登記を要せずに他に対抗できます。

 しかし、そうした場合、いざ遺産を現金化したり、何らか処分する必要が生じたとき、共有の侭では困難が伴い
ますし、時を経て代が代わったりすると、それが殆ど不可能となってしまう恐れがあります。やはり、遺産分割協
議によって各財産の単独所有者を決め、登記を経ておくことが賢明です。

 しかし、対抗できないのは「第三者」に対してですから、相続の「当事者」である共同相続人に対しては、対抗
できます。例えば、故人の居宅・敷地を「相続させる」遺言を受けて、そこに住まった相続人は、その登記をしな
いうちに、他の相続人から「自分が登記をしたから、明け渡せ」と迫られても、遺言を根拠に相続による居宅・敷
地の所有権取得を主張することができます。

 これが、共同相続人から譲り受けて登記を経た第三者からの明渡請求であった場合は、対抗できず、明け渡さね
ばならないことになります。

 その様なことにならないためには、その共同相続人が他に売却したりしないよう処分禁止の仮処分を掛け、仮処
分登記を経た上で、相続による取得を裁判で主張することになります。




    
相続クオレ900(心臓・心・芯(伊語)〔日本語で言えばきも〕)だ、法定相続分

これを900伴侶配偶者れば、

 子供(と分ける割合) (直系)尊属(と分ける割合)  兄弟(姉妹)ける割合、それぞれで、

         と              けて、けたから(配偶者の取り分は)

   (2分の1)    (3分の2)    (4分の3)

 れを900   (直系)尊属  兄弟(姉妹)それぞれの、その割合てみれば、

       ニイチ・サンイチ・ヨンのイチ

      1/2  1/3  1/4分数の残りを伴侶(配偶者)が取得する)。

   

 くじ 大当たりした 父親 感極まって 突然死

 母親「 るの900 遺言なしにこの900

                 このまま900ってい かしら。」

 息子  900れに法定 クオレ(法定相続分) 900によれば

               この 900 親子等分うべし。


 
(尊属)兄弟姉妹 それぞれが、数人いれば、しくけて、

(亡くなった兄弟姉妹と)父母片方 兄弟(姉妹)父母双方 らの半分とする


以上、「相続人と相続分」のまとめとしては、次のような条句となります。 

  クオレ900

    
兄弟ぐときは
順次 分一ぶんいち 相続人 

         
ニイチ(1/2)サンイチ(1/3)ヨンのイチ(1/4)

      ぐときは、常時 分残ぶんざん 相続人

         
ニイチ(1/2)サンニイ(2/3)ヨンのサン(3/4)

   順次常時二枠

         わせれば、ちょうどイチコンマ ゼロ
900

 相続遺産 けたら発効899 2

      
クオレ900えたるにつき

   発公
(示) 899 (の) 2ける 登記 対抗 (力) えよ

   初めの「発効」の「つ」は、「9」が2個「ツー」の意、後の「発公効」では「発」を8「ハツ」と読む。「公」は公示の意。



指定相続分

 
民法は、第三章第二節相続分の中の900条に法定相続分 (クオレ) の規定を置いた後の902条で、クオレに縛られ
ることなく遺言で相続分を定めることができる旨を規定して、私有財産制の下 遺産に関する個人の自己決定権を尊
重する態度を示します。これは正に「
私定相続分」と言えます私は、これを給わる相続分、「(902条)
と呼びたいと思います。

 そして、この指定方法ですが、従来、遺言でダイレクトに「誰それの相続分は何割とする」と定める方法だけで
なく、遺言の中で、特定相続人に対し相続させる特定物を指定する形によっても、相続分は指定することができる
とされています。

 この場合の私定相続分ですが、取得させる特定物が割合的にクオレの割合の範囲内であれば、クオレで分け、超
えておれば、超えた割合をその者の指定相続分とし、その他の相続人についてはその残りをクオレで分けることに
なります。

 もっとも、相続させる特定物がクオレの範囲内であり、かつ、その者にはそれのみを相続させる趣旨が 文言その
他から明らかであれば、その者にはその特定物の遺産に占める割合をその者の指定相続分としたこととなります。
 勿論、ダイレクトにクオレの範囲内での割合指定があった場合は、その相続人の相続分はその限りとなります。


 
さて平成30年7月に相続法が改正され、902条に先立つ899条の2として、その第一項に
   「
相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、
    次条及び九百一条の規定により算定した相続分を超える部分については、
    登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。

との規定が新設されました。

 そのため、上記「私定」の意義が再確認されるべきこととなります。つまり、「法定」相続分であるクオレに対
し、902条でこれを超える割合「給」を指定することは、遺言者の正に「私定」行為であり、これには従来相
続に伴うものとされていた
(登記なくして第三者に対抗できる)対抗力 (最判平14・6・10) が生じないこととなりました。この
強い対抗力は、「法定」に伴うものであって、それを超える「私定」部分には認めない、と改正法は宣言したこと
になります。こちらもご覧下さい。

 ですから、財産処分の自由を遺言における「私定」相続分よって活かすには、その上で、その「私定」に対抗力
を伴うものとする手当てを忘れてはなりません。

 従って、
遺言には必ず遺言執行者を指定して、登記その他の公示を具える方途を確保しなければなりません。

 
改正法は、遺言執行者の地位・権限を強化し、この点での手当てが従前より遙かに行き届きましたので、登記手
続き等の必要には、遺言に執行者を特定して指定すれば足りると言える程になりましたから。

 ただ、上記クオレを下回る相続分の指定があった場合は、上記899条の2によっても対抗要件を要せずに第三者に
対抗できるのですから、たまたま共同相続人を経由して不動産登記を具備した第三者がクオレ相当の権利を主張して
きても、その指定相続分について登記なくして対抗することができます。

 そして、そのクオレを下回る指定を受けた相続人自身が、たまたま自己のクオレ通りの登記があることを奇貨とし
て、クオレの割合の持分を第三者に譲渡しても、その第三者は指定分の持分しか取得することができません。登記
が事を決するとしても、
(指定割合を超える部分について)権利の無い者が第三者に権利を取得させることは不可能ですから。

  法定クオレ900

  (=法定相続分、伊語で「心」「芯」)なる902指定相続分
        指定するなら口舌902によらず遺言 すべし

   
遺言者 或いは(指定受託第三者 
          (相続分)指定にあたり要注意遺留分にはまじ902


 民法902条にあった「遺留分規定に違反することはできない」旨の但書は、遺留分に反する相続分の指定についての誤解を
避けるため削除されました。違反指定は、初めからできないとか、指定しても無効だということではなく、後から、遺留分を
侵害する限度で侵害額の支払いを請求されることがあるという意味となりますので、その意味の条句として従来の侭残しました。


    相続分〔遺言 で〕(相続人の内)これに902 相続分を)一割
        
あれには 
特定物二物割合ときには特定
                            
指定することできる


   相続分
    
 
 
指定このナイフ902

    ねるなるが、(受けるべき相続分等を)
     
められざる
(は)(残りの相続分を)
          クオレ
900(法定相続分) れば、 るに902ばぬ。



 相続遺産けたら発効899 2

      
クオレ900えたるにつき発公(示) 899 (の) 2ける 登記 対抗 (力) えよ

   初めの「発効」の「つ」は、「9」が2個「ツー」の意、後の「発公効」では「発」を8「ハツ」と読む。「公」は公示の意。





相続 と 遺贈
 遺贈の規定は、民法第三章「相続の効力」に、
(第三節)906条以降 遺産分割の規定が並び、その後(相続の承認
・放棄、財産分離、相続人不存在等の章を経て)
960条からの第七章「遺言」の章に、964条(「包括遺贈及び特定遺贈」)
して出てきます。

 遺贈は、ですので、「相続」分による遺産分割とは別メニューの、「相続」によらない遺産の処分です。つまり、
相続人以外の人に財産を譲渡したり、相続人であっても特別に相続枠の外で財産を与えたいときに、遺言によって
する遺産の継がせ方です
(→遺贈)

 ここで、「相続枠」というのは、前述の「相続とは」の所で述べました様に、マイナス部分
(相続債務)も含めての
包括承継なので、遺贈は、通常 単純にプラス財産として与える意味となります。

 但し、同所で述べました様に、特定の物を与えるのでなく、割合によって遺贈をしたとき
 (「包括遺贈」と言います。
ですので、通常の遺贈を「特定遺贈」とも言います)
 は、法の規定によって、マイナスも含めた包括財産の承継の意味となり、
相続と同じに扱われます(民法990条)

 このように、民法が「割合」
(「分」)に注目して、それを「相続」と「遺贈」の枠別基準とする訳は、「相続」が、
「相続人」と「相続分」
(「相続割合」)によって成り立つからと言えます。

 こうして、民法は、被相続人に、
相続による財産の承継とその枠外での遺贈による財産処分という二つの途を
設けています。

 ですので、被相続人が遺言で「
○○に△を遺贈する」と定めると、△は相続枠から遺贈枠に逸出して、相続人
は遺贈義務を負い、その対象物は、相続財産ではなくなります。そして、相続人が 相続分で分ける 相続財産 は、
卒時遺産からその△を除いた残余財産となります。

 ですから、遺言に「△を遺贈する」とあるのに、(を控除することなく)卒時遺産のまま相続分による遺産分割
をするのは誤り
です。

 仮に、相続人中のある者に遺産増加に貢献したとして、その者の相続分に「寄与分」
(民法904条の2)を加える場合、
極端な例として、遺産の全てがその者の寄与貢献によるとして相続分をそのように修正するときは、その際、第三
者に遺贈するとの遺言があると、どうなるでしょう。民法904条の2の第3項には、

寄与分は、
  被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。


とあります。

 なので、相続人らは、まず、その第三者に対する遺贈の財産を、遺言に基づく遺贈義務を果たすべく、相続財産
から取り分け、その残りの財産を「相続」財産として遺産分割します。

 これは、寄与分の話がないケースであっても同様です。つまり、寄与分は 相続分を修正してしまうものであって、
相続分より強い訳ですが、遺贈はその寄与分よりも強く、従って、遺言に「遺贈する」とあれば、相続財産はその
遺贈財産を除いた残余となります。

 これが、遺贈する相手が相続人であった場合、相続人間に不公平が起こるので、そこに「特別受益
(民法903条1項)
の処理を加えねばならず、又、遺贈の占める割合が過大になって、他の相続人の取得分が過小となったときには、
遺留分
(民法1042条)で救済しなければならいことになります。

 遺贈が、配偶者に対する居住用不動産やその配偶者居住権であった場合は
(→配偶者居住権の具体例)、平成30年改正
相続法により、その不動産や居住権を、特別に、配偶者の特別受益とは見ず、「遺贈」枠のまま尊重し、残余財産
を相続財産として相続分で分けます
(民法903条4項)

 この相続と遺贈は、この後、その差異が、事柄の性質による見方、扱い方等の関係で、種々影響を及ぼすので、
念頭に置いておく必要があります。

 なお、実際の遺言の場面で用いられる文言は、必ずしも「相続させる」、「遺贈する」の二種に限らず、他に
「取得とする」や「与える」、「ものとする」等々様々ですから、この二枠のどちらに当たるのか解釈を要します
が、文言各種についての解釈に関してこちらをご覧下さい。

 そして平成30年の相続法改正においては、この相続と遺贈の区別を顕著に意識させる新たな制度が設けられ
ました。それが前述の「配偶者居住権
(新1028条)です。

 被相続人が、自らの死後に遺される配偶者を、権利主張するであろう他の相続人らから守って、配偶者の住居を
確保するべく 生前 共に居住した住居を配偶者の為に遺言により遺す方法として、改正法は、同権利を「
遺贈する」
遺言を考案しました。

 これによって、同権利を、法定相続「分 」
(或は、遺言による指定相続「分」) の縛りから脱せしめ、十全に享受できる
形としたのです。

 つまり、通常、相続人に対する遺贈であれば、相続人間の公平を期して調整(相続)を算定するため、遺贈を
(相続
枠外での扱いとはさせず)
観念的に遺産内に留めて「みなし相続財産」とする(民法903条1項)ところを、配偶者居住権に
ついては
(903条4項の新設により)その「みなし」を否定します。

 これにより、配偶者居住権を遺贈の本旨である別枠扱いの侭として、相続分による縛りから離脱させるのです。

 なお、改正法は、
(居住権ではなく)居住建物そのものを、遺贈、或はさらに、生前贈与によって遺した場合も含め、
903条の新4項で、

 「
婚姻期間が二十年以上の夫婦の一方である被相続人が、
   他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について
    遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について
第一項の規定を適用しない
  旨の意思を表示したものと
推定する

とし、これを配偶者居住権の遺贈にも準用する形としました
(新1028条3項)(こちらもご覧下さい)

 この推定を他の相続人が覆し得ない以上、遺された配偶者は、居住建物の居住権、或は その建物そのものを含め
ての居住資産を、相続分を離れた遺贈枠
(F枠)で取得します。

 そして、それとは別の相続枠(P枠)として、配偶者居住資産を除いた
 (配偶者居住権の場合であればその評価額※を控除した ) 
残りの遺産について、
(子との共同相続の場合) 配偶者相続分 1/2 を丸々受けることができます。

 その具体例はこちらをご覧下さい。法務省ホームページ内「配偶者居住権の価値評価」参照)

 なお、「相続」には、上記「相続の枠」と言う場合のものと、単に死亡に伴う財産承継を言うものの広狭二義がありますので、
こちら
もご覧下さい。そして、広義の相続による承継には後記のとおり法定・協議・遺言の3種があり、こちらについては、第三
者との「対抗」の関係で、登記等の対抗要件が問題となります(新899条の2)。又、遺言による遺産分けには、狭義の「相続」と
「遺贈」の二つの方法があることになります。


 さて、平成30年7月に相続法が改正された為、この箇所も様相が変わることを追記しなければなりません。
 つまり、上記「相続枠」については、それにもう一つ枠が加わることになります。それは、改正法が相続による
取得財産をクオレ
 ( 法定相続分 ) という限定枠を設けて、取得による対抗力をその範囲に限定するとしたためです。

 これにより、相続による財産取得には、対抗力を伴う一番目の枠であるクオレ
 ( 法定 )(主芯枠)(§900)と、遺言によ
る相続分の、債務も伴う二番目の私定
 ( 相続分 )(主同枠P枠)(§902)、そして、これらとは別枠で、債務を伴わ
ない三番目の遺贈枠
(F枠)の三途があることになります。

 二番目・三番目は、それによる財産取得を主張するには登記等の対抗要件を具えることが必要となります。

 ですので、上記法定割共有相続は、正にこの内のクオレ枠による相続となり、これはその侭 第三者に対する対抗
力を持つ強力な相続となります。しかし、この法定割相続は クオレの侭の相続ですから、その共有持分については
対抗力を持つとしても、割合に沿う具体的な現物の取得については、遺産分割を経る必要があり、結果、遺産分割
による財産取得
となるので、現物の単有については登記なくしては他に対抗できません。
主同承継 ( 権利主体同一承継)・主芯承継・超芯承継


遺贈  要点 
 特定遺贈
 (特定物の遺言による贈与)  相続」とは別枠(相続分の縛りから自由) ×主体同一性、○別人格間譲渡
  遺贈があるとき。卒時遺産 中の遺贈物は相続枠(P枠)を出て遺贈の器に入り、遺贈枠(F枠) を形成相続人は遺贈義務を負う
  卒時遺産中の残余相続枠(P枠)財産( 別枠の遺贈を計算に入れることなく )相続分により相続される

   但し、◎1相続人間の公平のため & 2取得僅少な相続人の救済のため 
     
みなし遺産への ◎1( 相続人に対する) 特益受遺の「計上」あり。(§903)調整分 
            
2(第三者に対する遺贈も含め) 遺留分での「計上」も。(§1043)現債 (侵害額請求)

  相続人に遺贈義務 (寄与分も遺贈を妨げること不可)  登記は贈る側(遺言執行者)・受ける側の双方申請。      

                    例外 割合遺贈 = ‘包括遺贈 ⇒ 相続人と同一の権利義務 §990

   包括受遺者:相続人と同じ扱い  債務負担を受けるか否か相続の放棄・承認 →承認なら 遺産分割協議に参加する。

30相続法改正 配偶者 居住遺贈居住資産 贈与遺贈 §903 不適用
                                 
(§903新4項) 配偶者居住権の遺産分割 には §903Ⅰ適用 〕

    ◎1   みなし遺産への (特益受贈) 持戻  (特益受遺) 計上 不要みなしなし推定 §903新4項 

 2 遺留分の行使 ⇒ 贈与・遺贈を失効させる「減殺」はせず、遺留分侵害額の請求(§1046)遺留分現債

配偶者居住・配偶者居住資産 : 「下記居宅は、妻〇〇に、その建物 (の配偶者居住権 )遺贈する。」被相続人が、
 配偶者に対してするその遺贈には、 ◎1みなしはするな」との意思表示が伴うと推定する (§903)。 みなしなし推定
 卒時遺産から居住建物(又はその敷地)、或いは、建物居住権が逸出して、相続とは別枠の遺贈枠(F枠)になる。居住資産 (或いは居住権
 価額
控除後の残余財産 (預貯金がここに入る )相続枠(P枠)財産として、相続分により配分される。配偶者は、子と相続枠財産の
 二分の一を分け合う〔配偶者 
続分フル取得。居住資産配偶者は建物を相続開始と同時に即取得する。 遺贈であるから、
 登記は双方申請。配偶者に対しては、他の相続人、或いは、建物取得者が
登記
 応諾 義務を負う。配偶者居住資産遺贈は、
 
婚姻二十年以上の夫婦間であることを要します (居住権は、婚姻歴限定なし )但し、◎2遺留分現債(侵害額請求)あり得ます。


法改正を踏まえての相続(広義)仕組み (相続・遺贈・遺留分・調整分)(まとめ)

前置き 人の財産が、その人の死亡により、他に承継されることを一般に「相続」
(広義)と言います。その相続
による承継は二つの枠で行われます。
 その一つは 相続枠 (こちらは狭義の「相続」です)であり、もう一つは 遺贈枠
(こちらは遺贈の「器」というイメージ)です。
 そして、
亡くなる人からする財産承継の方途には、法定相続 遺言 があります。前者は遺言がない場合の
承継ですが、遺言による承継方法には、狭義の「相続」と「遺贈」があるので、以上の「枠」と「方途」「方法」
の関係と内容について、以下、1.から5.までにまとめてみたいと思います。
 
「遺産の成り立ち相続の仕組み」図もご参照ください。
 なお、これも大きく見れば、 相続枠 の中でのことになりますが、
(遺言のないときは勿論、遺言があっても、)亡くなる
人の意思とは無関係に、相続枠内の法定相続人が全員で合意すれば、
相続人からする財産承継が行われ得ます。
「全員一致の合意」という前提条件が付くので、これを私なりに ユナニマス相続 と言っています
(但し、ユナニマス
「相続」の話なので、遺言に「遺贈」があるときは、遺贈義務は強力ですから、これを無視することはできません。受遺者が遺言書を提出して、
その実行を求めた以上、「遺贈」はもちろん、「相続」させる条項も実行される公算 大となります
遺言との関係)


 相続(広義)は、この様に財産を与える被相続人と、 財産を受ける相続人・受遺者とによって行われますが、両者
は、生死を境に隔てられて、直接 接涉することはありません。しかし、財産保有者である被相続人の財産処分の自
由こそが相続の核心ですから、一方的ではあっても、遺言の趣旨は尊重され、これが貫徹されることが相続の眼目
となります。なので、相続人も
(相続の放棄をしない限り) 本来 遺言に従うべきですし、相続する以上、特に 遺贈につい
ては
(受遺者からの放棄がない限り)遺贈義務を免れることはできません。

 そして、一方的であることの弊害として、遺言による遺産配分の偏りが大きく、配偶者や子ら等が適正な配分に
与れないような場合、或いは、遺言がなく、遺産を家族員らに適正に配分する必要が生じた場合には、上記財産の
与え手と受け手以外の、生死の境に介入する公の権力が必要となります。誰を法定相続人とし、相続人間の配分割
合をどう定めるか、遺産の範囲をどう限界付け、遺志との折り合いをどう調整するか等々は、この境公権とも言え
る国の権力が 相続法として定めることになります。
 なお、財産継受パラダイムの転換について、こちらをご覧下さい。


1. 狭義の相続は、法定相続人に対する、定められた
(或は、指定さるべく予定された)相続分(割合)による、借金等相続
 債務
も含む包括財産の承継です。と、教科書的には言いますが、極端な表現をすると、「財産が同じ人の右手
から左手
に移る
(逆でもいいのですが)」、そうイメージするとあとの話が分かり易くなります。

 同じ人の間ですから(贈与を受ける場合のような)利得視はできませんが、他人事の様に振る舞うことは許されず、
借金の様なものも、負うべきは負わねばなりません。又、同じ人とみなせる範囲は狭いので それを超えれば他人
との権利義務関係となって、ひいて 他人とのぶつかり合い、
対抗関係」に対処しなければなりません。

 第三者が「自分の権利だ」と主張してきたときに、こちらの権利であることを対抗できる
(相手の主張を否定できる)
手立てを備える必要が生じます。
 以上の限界を画すのが、
法定相続人 法定相続分です。

 人が亡くなると、その時点で存在するその人の財産
 (私なりに
卒時遺産と言います) が、まずはその承継のため
相続枠
という俎板(まないた)に載って配分を待ちます。

 配分が決まるまで卒時遺産の一切は、
(被相続人に一身専属であったものを除き) 全相続人の 共有 となります。
共有 は遺産分けの為の一時的なもので、遺産分け、つまり 遺産分割協議 によって、取得が決まった各相続人の
単独所有、単有 となります。

 遺贈は、遺言者が、相続枠の外で、相手方が相続人であるなしに関わりなく、相続分とも関係なしに、する
特定
財産の譲渡
です。故人の遺志 は社会的に大変重んじられます。遺贈 は正にその具現化です。ですので、法的にも
これは貫かれます
(→寄与分・特別寄与料の上限、但し、遺留分侵害額の請求先順)

 仮に、その遺贈が過大なものであり、正当な相続人が遺産を取得できない事態となったときも、以前は、その遺
贈を 減殺 して、相続人にとっての必須部分
(→3.遺留分)の限度で、遺贈を無効としましたが、今では、そのまま有効
として、代わりに金銭でその部分に相当する額を支払うこととなりました。ですから、「遺贈する」遺言があると、
その分、相続財産は減ってしまいます
(→相続と遺贈)

 この遺贈における財産の移転は、上の相続と異なり、「財産が人から人へと移る」「授受」移転なのです
(私は、
ときに遺贈のことを「授受」の意味合いをこめ、「遺授」とも言います)


 別な表現をすると、「人が亡くなるに際し、
(上記の「右手から左手」の関係にはない)他人に物を差しあげる」、
「俎板の上から取り分けて特別の器に入れて、献上する」そういうイメージです。
 残る
(相続の)俎板の上は、相続ゾーンなので、すべからく「相続人」と「相続分」の二つのファクターで仕切られ
ます。

 つまり、相続枠は「(erson)(人)・(roportion)(分)」ゾーン=「」ゾーン、
     遺贈枠は「(ree)(フリー)・(avor)贈物」=「」ゾーン、ということになります。

 
そして、単に卒時遺産」と言うとき、このP枠と(ケースによっては遺言のあることもあるので)F枠の両枠での
財産のことを想定していることになります。


 遺言
は遺言者がその卒時遺産について、P枠の中で、相続人の相続分を何割ずつとするか、或は、特定の物を、
相続人の内の誰に継がせるか、それとも、敢えて、P枠でなく、F枠で遺贈する
(他人にする遺贈のほか、相続人に敢えて
相続枠 の外で遺贈することもあります)
か、を定める単独行為です。

 P枠には後述のスタンダードパターンが用意されていますが、

 遺言は、いわばオプションとして、P・F両枠の中身を、原則、自由に定めることができます

(「遺言の自由」:ここでの内容に関する「自由」のほか、いつでも、何度でもすることができる「自由」がありますが、
それは、遺言の方式に則ること、死に近い最新のもののみが有効であること、という制約を伴います
(1022条1023条))

 遺言で特定物を特定の相続人に「
相続させる
(特定財産承継遺言)(新
1014条2項)(私は時に「特承遺言」と略称します)
すれば、相続枠の中で、
法定(割合)の縛りなく継がせることができます (但し、俎板の陰では法定の「遺留分」(最低保障分です)
という縛りが控えていて、
遺言による配分の偏りが大きいときに、遺言による財産取得者は、遺留分を侵害された相続人(兄弟姉妹を除きます)
から、
その遺留分侵害額の支払いを求められることがあります)。


 上記のとおり、
この特定財産承継遺言の場合も、事が 相続分 により仕切られるP枠(相続枠)での承継ですから、
その財物のP枠内での「分」
(割合)(「P分比」)を計って、あとの 遺留分 や「相続分の調整(「調整分」)で、遺言や生前
贈与による
偏りを是正するべく対処します。

 つまり、生前贈与や遺贈がある場合は、枠を拡げて、
卒時遺産生前贈与 みなし遺産 を想定して、相続枠と
「みなす」
処理をします。卒時遺産に生前贈与も加えることを「持戻し」と言います(→みなし遺産◎1◎2)

 このように相続枠
(或は 拡大された「みなし相続枠」)においては、 特定物 も、必ず「分」フィルターを通して、P分比を
睨みつつ、正しい配分結果となるよう調整をします。

 特承遺言における特定財産は遺言者が亡くなったとき
 (この時が相続開始時です)、その相続人に即時に取得されます。

 遺言者が「
遺贈する」と(人・分フリーで)遺言すると、俎板の隣に その財産が入る器
遺贈枠(F枠) が設けられます
 (ここにも上記した法定の陰の縛りが控えています)。これも、遺贈物が受遺者の手に渡る迄は、卒時遺産中で相続人に共同管理
されます。

 相続人は故人の遺志を尊重して、遺贈物を受遺者に渡す遺贈義務を負います
(これは遺言無効とならない限り免れない義務
です)
。そして、その場合の 相続財産 は卒時遺産から遺贈する財産を除いた残余の財産となります(→相続と遺贈)

 ① 上述の例外的に相続人に
遺贈された場合
相続人に生前贈与がなされていた場合、その物は、相続人間の
「分」の調整のため、原則 相続人に対する生前贈与と相続人に対する遺贈を加えた相続枠
 (私なりに「みなし相続枠
と言います。
4.) 
中で、上記の「分」フィルターにかかります。また、

 ② 遺言による配分の偏りが大きくて
(最低保障分である)遺留分が取りざたされるときも、同様にみなし相続枠 (この
場合は、他人に対する生前贈与や遺贈も加えた「
拡大みなし枠」となります。3.) の中での割合に照らして遺留分額が算出され
ます。

 ①のみなし相続枠は、無遺言の場合
(例外的にそうでない場合もあります)で、しかし、相続人に対する生前贈与(或は遺贈)
がある為、卒時遺産だけを法定相続分で分けるのでは
 
相続人間の公平が保たれない ときに想定されます。他方、

 ②の拡大みなし枠は、遺言がある場合
(例外的にそうでない場合もあります)で、
遺言オプション(による財産処分)の偏りに
よって
(兄弟姉妹を除く) 
相続人の相続分が脅かされる ときに想定されます。

 相続枠では、スタンダードな
法定パターン 
(法定相続と言います) が用意されており、相続枠について遺言が
ない場合にはこれが用いられます
(そのあらましを下に示します)

 
全く遺言がないときは、(遺贈枠(F枠)は出来ないので)卒時遺産がすなわち相続枠(P枠)となります
 そこでの法で定められた相続分が相続の「
(或いは「)と言える法定相続分(民法
900)です(その意味合い
から、以下、私なりに「
クオレ(イタリア語)と言います) (「法定相続分」は、事柄の性質上 きわめて頻繁に登場するため、
私の無精から、繰り返し「クオレ」と略称することをお許し下さい)


 ですから、無遺言の場合、相続枠の財産を法定相続分で配分する
 相続枠クオレ分割原則が行われます。
「法定」の金型が、俎板上で力を振るい、遺言があるときも、俎板の陰で、生前贈与や遺贈に対し、「
調整分」
や「遺留分」
(いずれも 基本、「みなし相続枠」のクオレ分割です)の形で、「矩応励 !」と 鉈を振るいます。

 クオレは、遺言ありの場合も「遺留分
(クオレの最低保障分で、原則、その1/2です)として影の力を及ぼす上、
上記した他者との「
対抗」にまで影を落としますから、クオレは相続の「背骨」でもあります。


 他人との 対抗 の関係では、その特定物の相続枠中での割合 P分比 ではなく、
(その物が遺産分割される前の共有での)
その物自体における相続割合「持分」が対抗力の有無を分けます(相続による財物の取得につき、その財物の内のクオレ分は、
対抗要件を備えなくとも、第三者に対抗できます)
クオレを超える持分割合については、登記等の対抗要件を備えなければ、
他に対抗することができません
(民法899条の2Ⅱ)

 遺言という包丁が相続の俎板上で配分の切分けをしない場合、卒時遺産
(遺贈するだけの遺言の場合は、その遺贈物が
遺贈枠(F枠)に移された後の残余財産)
が、俎板の上で、このクオレという金型で抜かれて、決められた割合で各相続人に
分けられます。
然し、具体的にどの物・財産でその割合とするか、誰が何を取得するか等の点は、全相続人による
遺産分割協議にかかります




法定パターンのあらまし〕
 
まず、法定の二つのファクター「相続人」・「相続分」のうちの相続人 、つまり「法定相続人」の資格には二つ
の枠があります。
 一つは、常に相続人である配偶者
(民法890条)
枠で、 常時枠と言います
 もう一つは、順位が第一順位から第三順位まである
順次枠 です。
 順次枠の第一順位は「」、第二順位は「
(親等の近い直系尊属)」、第三順位は「兄弟姉妹」です(887条889条 )


 二つの枠には互いに補完関係があり、それぞれの決められた相続割合
(相続分)を合わせると「1」になり、また、
他方がないときは遺産をその一枠で独占します。

 
実子は、嫡出であるか否かを問わず相続人ですが、養子も、普通養子か特別養子かを問わず相続人となります。

但し、非嫡出子は認知を受けた上での相続権者、となります。また、税法上、養子の基礎控除
(課税価格の合計額から
一定額
(3000万円+600万円×相続人の数)が控除されます)
は、実子がいれば一人まで、いない場合は二人までしか控除を認められ
ません。特別養子は実子扱いとなります
(「相続税算定のあらまし」参照)

 子は、出生によって私権を享有しますが、相続については、特別に胎児の段階から、
(死産でなければ) 
相続権を取
得します
 (民法886条)(条句)

 順次相続人それぞれの
クオレ900 法定相続分)ですが、第一順位から順に、子:1/2、 親:1/3、 兄弟姉妹:1/4
となります。これに伴い、対置する配偶者の相続分が、前述の「1」の補完関係によって、同時に相続人となる順
次枠の者に応じて漸増し、第一順位の子と共に相続人となるときが1/2、親のときが2/3、兄弟姉妹のときが3/4
となります。

 ですので、一枠目は「
順次 分一相続人、二枠目の配偶者を「常時 分残相続人」と名付けたく思います(条句)

 
長寿社会となって、三世代、四世代の家族も珍しくありませんが、「親」(直系尊属)は、親等の近い者が相続人と
なります
(889条1号)

直代襲〕 子が亡くなっている場合、その子である孫がいれば、孫が、孫も亡くなっていれば、その子であるひ
孫が、いずれも「子」の相続分を「
代襲(条句)して、代襲相続人となります(887条3項)。つまり、直代襲には代襲
者の代襲が認められ、「再代集」「再々代襲」が起こります。

 養子についても代襲は起こりますが、「被相続人の直系卑属」
(887条2項)でなければならないので、縁組前から養
子の子であった者は、養親との間で血族関係が生じない
(727条)ため、養子が亡くなっても代襲者にはなれません。

 しかし、縁組後に養子の子となった者は代襲者です。

傍代襲〕 相続人の兄弟姉妹が、亡くなっている場合、傍系代襲の規定である
889条2項に、代襲者の代襲を認
める887条3項の準用がないため代襲できるのは甥・姪までで、その子
(又甥・又姪)
以下は代襲者になれません(条句)





 遺言がない場合は、上の法定パターンによって財産承継が行われます(「遺贈する」定めだけある遺言の場合も、残る相続
枠財産が法定パターンで分けられます)


〔例外〕
  
ユナニマス相続:但し、「法定」と言っても絶対的なものではなく、全相続人の同意(後記「遺産分割協議書」の形式が
必要です)
があれば、必ずしもその法定パターンに従わなくとも構いません(相続枠の中であれば、遺言があっても、ユナニマスで、
遺言に従わない配分とすることは可能です。但し、遺言があって、遺言に 遺贈 があるときは、遺贈義務は強力ですから、これを無視することは
できません。受遺者が遺言書を提出して、その実行を求めた以上、遺贈 は勿論、「相続させる」条項も実行される公算大となります
)
。前置き
に述べたユナニマス相続です
(→遺言との関係)

 これによれば、極端な場合、全遺産を、複数相続人の内の一人の取得とし、それ以外の「相続人
○○は、零分割
とする。」との内容で、遺産分割協議書を作成することもできます。

「零分割」と「相続放棄」
 
ここで、間違い易い点は、「零分割」と「相続放棄」です。この遺産分割協議での「零分割」は、相続人として協
議に加わった上で、自分の取得分は零でよろしい、と意思表示した趣旨となります。しかし、相続放棄は、抑も自分
は初めから相続人ではなかった事にしてほしい旨の手続きなので、とすると、法律で定められた次の順位の相続人が
遺産分割協議に加わらねばならなくなります
(→相続放棄)

  例えば、父親が、妻と子供たちを遺し、 遺言しない侭に 亡くなって、子供たちから 母親に、全遺産を継いで
 貰うケースであれば、子供達は、相続放棄でなく、遺産分割協議で「零分割」としないと、放棄によって相続人
 ではなくなった子供達に代わって、父親の兄弟姉妹
(父親の親は亡くなっているとして、子供達の伯父伯母ら)が相続に関わっ
 てくる事になるので、いわゆる争続問題となりかねません。このケースの場合、遺産分割協議によらずに、子供
 一人ずつから世上 事実上の相続放棄と言われる 「相続分皆無証明書」を提出する方法もあります。特別受益
 多分に得ているので、自分には相続分がない旨を自認する書面ですが、その趣旨が必ずしも意に沿わないケース
 もあると思われます。これも上の「零分割」と同じ結果となりますが、但し、零分割、相続分皆無証明書は、い
 ずれも相続人である事はその侭なので、②の相続債務のリスクを負う面があるので要注意です。
  また、子の相続放棄により、伯父伯母らが分割協議に加わって、分割が円満にまとまったとしても、その伯父
 伯母らが相続人であることの証明のためには、相続人が他にいないことを、全子探索で証明しなければならず、
 そのためには、父親の両親の全籍収集をしなければなりませんから、大変面倒なことになったりします。


  
相続放棄限定承認:故人の借金が多すぎて、相続してもマイナスにしかならない場合、その借金債務を
負いたくなければ、相続開始後3か月以内に、
相続放棄をすることによって、「はじめから相続人とならなかった
(民法939条)ことにするか、限定承認(民法922条)をするほか有りません。限定承認は、遺産の限度でのみ借金を返済す
るという条件付きで、相続を承認するもので、相続人全員ですることが必要です
(民法923条)

 相続債務
は、被相続人が亡くなると同時に相続人に否応なくかかってきます。遺言で、相続人の中の一人に
債務負担を命じたり、相続人間での負担割合を定めたりしても、相続人はそれに縛られますが、債権者には通用し
ません。相続債務つまり故人の消極財産は、
(遺言の有無に関わりなく、遺産が相続の俎板に載る前から) 各相続人に法定相続分
に応じてかかってくるということが肝腎な点です
(民法902条の2)ですから、相続人の地位の侭で、上記「零分割」や
「事実上の相続放棄」をした場合、積極財産の取得を遠慮したつもりでも、逆に、意外な負債を背負わされる結果を
招く事があるので、よく調べた上での慎重な対処が必要です。

 そして、相続開始後、放棄・限定承認をすることなく3か月を経過すると、「法定単純承認」により相続を承認
したとみなされます
(民法921条)
 
相続と相続債務についてこちらもご覧下さい。




          相続人(相続開始の時点から)人有した 一切  
                     
権利
義務 やあ苦労896承継 をして

          遺産898 (相続人)数人いれば、
          
   故人有した遺産
898、その数人共有となる

          但し、相続債務(相続)じて即負担
                 
そのほか(遺産) 分割まで(の共有)やとっとこや898

 「おと」は伊語の8「オット」から、「いっと」は仏語の8の「ユィット」から

           遺産をば調べてみたら遺産

            (破産)938  げたや家裁にてこの938退申述せねば



2. ですから相続枠という俎板上で 法定パターンによる遺産分割協議 や 遺言 による具体的配分を待つ
のは、卒時に現存する
 積極財産です。その時点での財産ですから、過去に生前贈与された財産は既に逸出して
いて、本来、卒時遺産には含まれません。

 卒時遺産は、相続枠
(P枠)と遺贈枠(F枠)から成ると言いましたが、これらと別枠で、生前贈与枠があります。

 これは、いわば「過去枠」ですが、被相続人が生きているうちにやり取りし、今は逸出している財産ですから、
Live & Lostで、「L枠」と名付けたいと思います。しかし、これも遺産の前渡しだったと見たときには、
L枠」財産が、次項の3.や続く4.で、逸出していて今は無くとも、相続枠(P枠)内に存在する みなす
と されて、もの申すことになります。

 なお、不動産と並んで積極財産の典型である金銭債権中、
預貯金債権等の可分債権は、判例学説上 長く 遺言の
対象でも、遺産分割の対象でもないとされてきました。民法427条により、相続開始と同時に、相続人に相続分に
応じて当然に分属となるから、というのが その理由でした。

 平成30年の相続法改正により
(預貯金については改正直前に判例が、改正を先取りする形で、変更になっています)、その扱いは
廃され、他の積極財産と共に相続枠
(P枠)財産として配分を待つことになりました(私見)

 相続と相続債権についてこちらをご覧下さい。同427条は、相続に際して、
可分の相続債権は、当然の既分属で、
遺言対象でも遺産分割対象でもない
 とする根拠とはなり得ないことについては、こちらもご覧下さい。

〔相続人に「遺贈する」場合の 相続分〕
 その遺言による積極財産の配分ですが、例えば、遺言に「恩人の〇〇さんに家屋敷を贈ります」とだけ書かれて
いれば、その家屋敷は
相続枠(P枠)から抜け出して、遺贈の器(F枠)に入り、卒時遺産中の残りの財産が相続枠
(P枠) となって法定相続されることになります 。

  
平成30年の相続法改正によって創設された配偶者居住権も、遺言で、例えば
「私の次の居宅は、同居する妻〇〇に、その建物の配偶者居住権を
遺贈する
と書けば、同様に相続枠
(P枠)からその建物の配偶者居住権が遺贈枠(F枠)に逸出します。

 相続枠
(P枠)に、建物の居住権価格分を除いた残りが、預貯金等と合わせて残って、相続枠(P枠)財産となります。
 配偶者は、この相続枠
(P枠)財産を法定相続分で取得でき、同時に、別に居住を保障されます。

 居住権 ではなく、居住建物又はその敷地
(「配偶者居住資産」と言います)を遺贈する場合も、同様、その資産を
遺産から除いた、主として預貯金から成るその他の財産について相続分
 (子との相続であれば配偶者のクオレは二分の一 ) 
による配分をフル取得できることになります
(条句)

 遺言で配偶者居住資産を「
相続させる」としてしまうと、居住資産は相続枠(P枠)で扱われ、その中での割合も
大きくなるでしょうから、相続枠
(P枠)で預貯金から取得できる分がそれだけ減ることになります。
具体例、「」もごらん下さい。(「遺産の成り立ち相続の仕組み」図も参照ください。) 

〔無遺言
遺産分割協議全籍収集〕

 
遺言のない法定相続では、
(相続債務はクオ(法定相続分)に従って負担しなければなりませんが)積極財産については、個々の財産
の最終所有者が決まるのは、
全相続人が加わっての遺産分割協議によって、相続分に応じ 誰がどの財産を取得する
か が決められてからということになります。

 しかし、その協議を始めるためには、まず相続人は誰と誰かということを探索(「全子探索」)し、相続人を確
定しなければなりません。

 誰が相続人であるかの証明のためには、以前の戸籍に子の記載があるか調べる必要があり、手続上、故人の生ま
れてこの方の全戸籍簿・除籍簿の謄本や相続人全員の故人との続柄・健在を証明する現戸籍謄本
(これらを略して
全戸除籍」と言います)
を収集しなければならないという負担が伴うことになります。私なりに「全籍収集」と言っ
ている負担です。これが、例えば、子らが相続放棄したものの、被相続人に兄弟姉妹がいて、その者らが相続人に
なる場合ですと、今度は、被相続人の両親の全籍収集という必要が生じて、負担が倍加することとなり大変です。

〔遺言のメリット〕

 遺言者には、原則、
財産処分の自由がありますから、法定パターンに縛られることなく、相続人が誰と誰で、
何人いようが、どんな相手にどんな割合ででも ( 但し、前述の「俎板の陰の縛り」はありますが)、財産の行方を定める
ことができます 。ですから、遺言の場合、原則、「全籍収集」の負担は不要です
(相手が相続人であれば、それは通常
「相続させる」ことを意味し、相続人以外であれば「遺贈する」ことになります)


 自筆遺言には遺言者本人や相続させる人、遺贈する相手等につき正確に特定して記載することは必要ですが、
その人物資料の添付などは不要です。

 
但し、公証役場で遺言するときは、遺言者本人並びに相続人との身分関係の分かる 戸籍謄本、受遺者の住民票等
と遺言者本人の実印・印鑑証明書
(或は 運転免許証等写真入り公的身分証明書) の提出を要します。

 そして、相続開始後には、遺言で財産を受ける人は、遺言に指定された人物であることの証明資料
(例えば、運転
免許証と戸籍謄本等)
を必要としますが、何れにしても上記の「全籍収集」の負担は不要です (但し、検認には必要となります)



法務省から、不動産の相続登記に必要な書類の内、上記「全籍」書類❶、❷相続関係の一覧図(PDF3頁別紙1)をまとめたPDFが出てい
ますので、参考にしてください。
この必要書類と一覧図をまとめて法務局に提出すれば、無料で一覧図に認証文を付した写し(PDF4頁
別紙2)
が貰え(
法定相続情報証明制度)、これによってその一枚の書類で❶、❷の「全戸除籍」の束に代えることができます。
登記だけでなく、金融機関等にもこれで手続きができます
(個々に確認が必要です)から、相続手続きの負担が少し軽くなりました。

〔遺言のデメリットとその回避〕
 
この全籍収集の負担は、遺言の実際として大きな問題でしたが、上記の法改正と同時に制定された自筆遺言の
法務局保管制度
によって、その問題が解決されます。

 つまり、遺言自体は、上記の通り収集負担を不要としますが、実は、遺言の執行段階で、また収集負担が待ち構
えます。と言うのは、遺言は、遺言書を発見したら遅滞なく、改竄防止のため、家裁での
検認手続きを経るこ
とを要します。

 制裁を伴う強制的な手続きで、この手続きに全相続人を呼び出す必要から、やはり全籍収集が必要となるのです。

 でも、これ迄 公務員である公証人の作成した遺言公正証書だけは、公証役場での原本保管に伴い、改竄の虞なし
として、この検認を不要とされていました。
 
ですが、上記 自筆遺言法務局保管は、その保管に係る遺言書を検認不要としているので、自筆遺言も収集負担か
ら解放されるのです。

 身近な自筆遺言でのこの保管・検認の負担解消は、財産目録に関する写し利用の許容と相俟って、自筆遺言の普
及に大いに貢献することになると思われます。

 
自筆の遺言書は、令和2年7月10日から、遺言者自身の申請により法務局で有料で保管して貰えます。
 詳しくは、こちらの法務省ホームページをご覧下さい。


〔指定相続分〕
 
そして、遺言であれば、相続枠(P枠)の中味についてどのようにするかも、原則、自由ですが、但し相続人は定め
られており、それ以外の者を相続人とすることはできません。

 又、相続人に相続させる相続分も、遺言者が、原則、自由に定めることができます。
指定相続分と言います
 
(これは、5.で述べるように、平成30年の法改正で、取引安全の見地から「法定」限りでの保護が強く前面に出されたので、それとの
対比上「私定」相続分と言った方が適切かも知れません)
私は、これを(902条)と呼びたいと思います。

 法定相続分
(クオレ)は、遺言者による指定がないときのために用意されているパターンです。これは、例えば、
相続人が子供らであれば、皆均等とされていますから、病気がちとか、色々手がかかるとか、金銭的には誰がどう、
と言った子供ごとの特性とかニーズは反映されようもありません。

 ですから、法定パターンは相応しくないケースも多々ある筈です。他にも、前述のような恩人とか、特に目を掛
けてやらねばならない人が居るとかで、相続人でない人との関係を見落とすことができない人もいる筈です。

 人にそれぞれの個性があり、それぞれそれに応じた生活・人生があれば、その相続は、法定パターンより遺言に
よる方がむしろ自然と言えます。1.で述べた金型で抜くより、包丁で切り分けた方がTPOに叶った良い料理がで
きるということです
(但し、ここでも、1.で述べた俎板の陰での縛りは働きます)



       相続分、クオレ(法定相続分)900なる902指定相続分
             きたくば口舌902によらず遺言 すべし


     
公正(証書遺言§969)、 遺言いごん」のない「遭難船 (臨終口頭遺言§979)
        
以外のものは遺言ゆいごん(はすべて)(検認)けてれぬ
         
保管は、まわし1004などとわずに
               
遠回1004でも遅滞なく家裁()して
             
形式保全 (のため) 検認 けるべし
       
    
(遺言書を)発見したとき又



 
相続枠(P枠)の俎板の上では、全てが 相続人 と 相続分 の二つのファクターで処理されます。
 遺言によれば、相続枠
(P枠)を含む全卒時遺産につき、個別に色々な人に分けて、最終取得者を決めることができ
ます。その様な場合、その取得者の中に相続人がいれば、通常、そういう形でその相続枠
(P枠)でのその者の相続分
が指定されたことになります。

 「相続させる」特定財産承継遺言も、前述の「分」フィルターを通して見れば、私定
(指定)相続分を定めているこ
とになります。

 その他、全相続人について、割合で相続分を遺言し、具体的な分け方は相続人同士の協議に委ねる事も可能です。

 又、承継のスタンダードである相続とは別に、相続枠
(P枠)外での「遺贈」もできることは前述のとおりです。
相続人でない人に遺贈をするのが通常ですが、時には上記の配偶者居住権・居住資産の様に相続人に敢えて 遺贈す
る ことも可能です。


〔相続と遺贈の違い(登記手続き)
 
そして、「遺贈する」遺言の場合、前述の様に その遺贈物は、相続分の縛りを受けない遺贈枠(F枠)扱いとなり
ますが、相続 と 遺贈 の違いの根源に発するものとして、取得後の手続きの違いがあります。

 つまり、「相続させる」遺言
 (特定財産承継遺言) によって取得した財産を登記等するときは、主体同一性ある者同
士間の承継
、つまり、前述の様に、財産が同一人の右手から左手に移っただけの様にみなせる承継なので、その間
に人と人の「授受」はないと見て、取得した
相続人単独で登記手続き等をすることができます(不動産登記法63条2項)

 他方、「遺贈する」との遺言によって取得した場合は、別人格間の授受、「遺授」であるので、遺贈義務者であ
る遺言執行者
 (遺言に遺言執行者の指定がないときは、全相続人) と権利者である取得者との双方申請(不動産登記法60条)
での手続きとなります
(そのため、手続が面倒になり、ときには訴訟を余儀なくされる等、難儀なことも起こり得ます)

 又、遺産分割によって相続登記をするときは、相続人の分割協議の結果であっても、相続人同士の間で「授受」
があると見るので、協議の結果 法定パターンより増えた者が登記権利者、減った者が義務者となっての双方申請と
なります。

 その意味で、遺産分割協議書と全相続人の実印・印鑑証明書等が必要となります。前述の
配偶者居住権・配偶者
居住資産の遺贈
についても、遺授であるから双方申請を要すことは同じです。

 ですから、遺される連合いの安住という そのこと自体の重要度、「妻住用」であることもさることながら、
合わせて、
遺言執行者の指定をし、登記をして、居住を他に対抗できるものとすることが、さらに重要です。
遺言執行者の役割と重要性についてはこちらをご覧下さい。


遺留分:侵害額請求
 
以上の様に、「相続させる」方法と「遺贈する」方法とにより、自由に遺産の行方を遺言することができるので
すが、それには限界があります。それが
遺留分です。

 遺留分は、法定の承継者である相続人
 (兄弟姉妹を除きます) が遺言者からないがしろにされて、遺言による取得分が、
法定のパターン
 (そこでは、有無を言わさず相続債務がかかってくるのに、です)であるクオレ(法定相続分)を割り、その取得分
が見過ごせない程に僅少であるときは、遺言の自由に歯止めをかける仕組みです。

 つまり、遺留分は、その気の毒な相続人を救済するための最低保障「分」
(割合)です。これを、相続開始を知って
から
一年(知らぬ侭なら十年)以内に、相続人からの 遺言による財産取得者や生前贈与の受贈者に対して 遺留分侵害額
請求
をすることにより、遺留分を侵害された分だけ金額で補償される、という形で保障します(正に、相続放棄をする
ことなく相続人に留まってもらうための「慰留分」です)


 
平成30年の相続法改正により、改正前 迄の、遺贈や贈与を侵害の限度で失効させる 遺留分減殺(げんさい)請求
から、その様な金銭債権の形に変わりました。

 「減殺」は遺贈・贈与を侵害の限度で失効させるものでしたから、ときに部分的失効となり、その対象財産につ
いて受遺者・受贈者と減殺をした相続人が共有状態となって、とても複雑で面倒なことになり勝ちでした。
 改正によって、遺贈・贈与はそのまま有効なものとして残され、代わりに、侵害額請求権という金銭債権を登場
させることになりました。私なりに
「減殺」から「現債」、と言っています。

 遺留分は、通常、法定相続分の半分です。被相続人の親
 (正しくは「直系尊属」です) だけが相続人である場合は、三分
の一ですが、その他の場合は法定相続分の二分の一です。

 通常、妻と子 が相続人とすれば、法定相続分は二分の一ずつ ですから、子 の遺留分はその半分の四分の一です。
子が複数の場合、それを子の数で割り、子が二人なら八分の一、三人なら十二分の一が、各子の具体的遺留分です。
 この様に、遺留分は、相続分 中の最低保障分、つまり「最後の砦」分であることになります。


 
そのような遺留分制度の趣旨から、遺留分侵害額の算定場面では、生前贈与も遺産の前渡しとみなされ、
相続枠
(P枠)、過去枠(L枠)の壁を取払われて、卒時遺産(含まれている遺贈(F枠)も、別枠扱いなしに計上されます)に加えら
れます。

 相続人に対するものであれ、そうでない者に対するものであれ、
一定年限まで遡って、又、遺留分を侵すことを
認識して した贈与についてはどこ迄も遡って、1.で述べた「拡大みなし枠」である「
みなし遺産◎2」(条文の
先後でこちらが「2」になります)
として持戻しされます。

 故人が生前に過大な生前贈与をしていたが、遺言はないという場合も、遺留分権を有する相続人から遺留分侵害
額請求をすることができますから、遺留分侵害額請求は、遺言がある場合にだけあるものではありません。


 民法新1043条は「遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額
にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする。
」とし、新1044条で「贈与は、相続
開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加
えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。
」「相続人に対する
贈与について・・は、・・「一年」とあるのは「十年」と・・する。
」としています

 
この「みなし」作業は、従って、「救済みなし」と言うことができますし、遺留分侵害額の請求がある以上、
否応なく「みなし」が行われますから、遺産全てについて取得者を特定した
完結遺言であっても免れない 強制みな
し でもあります。
「遺産の成り立ちと相続の仕組み」図も参照ください。

 
そして、現実に受け取れる額を求める為、被相続人の債権者らに支払うべき全債務額を控除して、遺留分算定の
基礎
 (私なりに「遺留分原資」と言います)とします(1043条)

 基本的にはそれに具体的遺留分をかけた遺留分額より相続で取得する額
 (相続債務を負担したときは、それも遺産により
補償されるべきですから、加えることができます) 
が少ないときは、その少ない分だけ遺留分を侵害されていることになります。

 侵害額請求の矛先は、遺贈、生前贈与の順に向かう
(1047条1項1号)ので、配偶者居住関係の遺贈も この遺留分請求
からは免れません
 (「配偶者居住」用であることにより、他の遺贈物と異なり、特別受益「みなし」を免れて、相続枠(P枠)から外れ、預貯金
等ほかの資産につき相続分に与れるのに、ですが、以前の様な「減殺」ではないので、遺贈の失効はありません。金銭で支払うこと
になります)
遺留分の関係については、こちらもご覧下さい。







最初に述べた法定パターンによる相続の場合や、遺言の自由から、例えば、遺産の一部についてだけ遺言し、
或は、上記の様に遺言者なりに決めた私定
(指定)相続分だけが定められている等々のときは、遺産を構成する各財産
の最終取得者まで辿り着けるよう、補充するべく 必ず遺産分割協議を要することになります。

 その結果である全相続人が署名・押印した
遺産分割協議書が最後の決め手になります(→完結遺言と部分・未完遺言)

 相続人による分割協議がまとまらず、家裁での遺産分割調停も不成立となった場合は、家裁の審判に付され、
その結果に不服の場合は、高裁、最高裁へと上訴することになります
 (家族法関係事件の手続きのあらましをご覧下さい)

 その遺産分割協議は、原則、法定での割合
 (法定相続分での分割を私なりに「クオレ分割」と言います)により、遺言による指定
があれば指定された割合に沿って、分け方を協議します。


特別受益:調整分割〕
 
遺産分割協議の場合、よくある例で、例えば、息子が 或は 娘が、故人の生前、外国に留学した際に渡航費・学費
・生活資金を援助した
 
或は、遺言で、住宅を購入する為の資金を遺贈する という様なときは、遺産を分ける割合
は、どのようにすれば良いでしょうか。


 
このようにして、遺言者から、生前に贈与を受けた相続人、或は、遺言によって遺贈を受ける相続人がいる場合
は、その者たちは相続枠
(P枠)の外で利益を得ているので、それを特別受益と言います。つまり、事が、P枠のみに
止まらず、F枠、或は、L枠も付け加わるケースについての対処というのが、この場面です。

 そして、ここで、法
(903条1項)は、相続人間の公平を図るため、各相続人に対する(「婚姻若しくは養子縁組のため又は生
計の資本」として受けた
生前贈与の)
過去枠(L枠)の財産と遺贈枠(F枠)(卒時遺産に含まれています)での遺贈財産も、相続枠(P枠)
に取り込んで
みなし相続枠(P枠)」の「みなし遺産◎1」(903条1項は「被相続人が相続開始の時において有した財産の価額
にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみな
」すとしています) を想定します。(ですから、相続人以外の第三者に対する遺贈が
ある場合も、その分を合わせ含む卒時遺産に生前贈与を加算します。)

 
の嵩を増したみなし遺産のパイを法定相続分(遺言で指定された相続分があれば指定相続分)で分けた中で、各相続人の
既受贈・受遺分を引いて、あとどれだけ貰える分が残っているかを見ます。

 引算の結果がプラスでない者は「相続分なし」として、遺産分割協議の席から退場します。その上で、残る相続
人のプラス額を比べ、各プラス額の総額に対するその者のプラス額の割合、
調整(相続)を算出します (調整分計算
これを私なりに「
の算」と言います)

 
ここ迄の計算は、相続人に対する過去枠(L枠)遺贈枠(F枠)での授与をも視野に入れて割合だけを見直す計算です
から、空想上の遺産分割であって、いわばバーチャル分割です。なので、贈与や遺贈分を実際に取戻したり、債務
について考慮することもありません
(遺留分計算では、現実の取得額を出すリアル計算であるため、侵害額を払わせたり、債務
額を引いたりしましたが)


 そして、
卒時遺産からすべての遺贈分を取り分けた後、残余の相続枠(P枠)財産について、その調整分どおり
になるように、遺産分割協議
を行うことになります(遺産分割の対象は積極財産ですから、そのため債務額は考慮しません)

 こちらは、現実の取得財産を決めるためのリアル分割です。この卒時遺産に過去枠
(L枠)を取り込んでみなし遺産
とする作業を、私なりに
調整みなし と言い、調整分による遺産分割を、同じく調整分割(虚の算分割)と言います。

(なお、相続人が故人から生前 住宅購入資金を借りていて未返済の残債務がある場合は、こちらをご覧下さい。) 上記虚の算で退場となる
貰いすぎていた相続人も、遺産分割協議書には、その者の「取得分は零とする」旨の内容で、署名・押印をしなければなりません。





〔居住資産の遺贈みなしなし推定〕
 相続枠
(P枠) クオレ分割原則に対するこの様な みなし遺産 による調整は、しかし、折角被相続人が 相続枠
とは別枠で与えた贈与物・遺贈物を相続枠
(P枠)に引き直すものですから、その内、贈与物については、特別に、
遺言者が遺言で「相続枠に引き直さなくて良い」と意思表示
 (「持戻し免除」の意思表示と言います) すれば、法
(903条3項)はこれを認めてその侭 別枠扱いが認められます。然し、遺贈物についてはその様な規定がありません。

 そうしたところ、
平成30年の法改正で、(婚姻20年以上の)夫婦の居住資産(居住用建物又はその敷地)については、贈与・
遺贈共、この別枠扱いを認める為の 「みなし不要」の意思表示 があるものと「
推定する」と定められました
(配偶者居住権の遺贈についてもこの推定があります)
 (903条 新4項1028条3項)

 
 私はこれを「みなしなし推定」と呼んでいます。ですから、遺された配偶者は、贈与・遺贈の別枠扱いで居住
を守られた上で、相続枠
(P枠)財産(預貯金が入ります)について、通常、子らと等分でフル相続することができます。

 但し、遺言がなく、相続人の遺産分割協議によって配偶者居住権を取得する場合は、この推定がなく、相続分の
内としての取得となります
 
(1028条3項の反対解釈)。詳しくは、この法改正の項をご覧下さい。

〔寄与分と特別寄与料〕

 
上記「相続枠(P枠)クオレ分割」原則に対する調整は、遺産について、家業手伝いとか介護等によって、遺産の
増加や減少防止に寄与した者についても、行われます。
その寄与した分を相続枠(P枠)の中で取り分け、取分け後の
残余をみなし遺産としてクオレ
 (指定相続分があれは、それ)で分け、その上で、その者に取分け分を与え、或は 加えてあ
げます。
 相続人については、
寄与分、相続人でない親族には特別寄与料(ただ、こちらは「分」たる割合でなく、金額
として扱われます)
として配分されます。

 この特別寄与料の方は、
平成30年の法改正によって新設されたものですが、相続開始及び相続人を知ってから
6か月、相続開始から1年で権利が消滅しますから、それ迄に請求しなければなりませんので、要注意です。

 寄与分は、「いつでも」できるとされる 通常の遺産分割協議
(907条1項)の場で取り上げられることになります。




完結遺言の必須性
 
以上、相続枠(P枠)クオレ分割 原則に対する調整は、本4.項冒頭で述べました様に、分割協議で補充する必要ある
場面での事であって、その要なく、全遺産について最終取得者が指定された遺言
(完結遺言)は、それによって相続分
も確定しており、補充・調整 の余地がありません。部分・未完遺言の結果 招来される面倒を思えば必ず完結遺言とす
べきです。特別受益の事実があっても、それを云々する事はできません。’完結遺言であることが肝腎’とする由縁です。

 つまり、903条1項は
 「
共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は・・贈与を受けた者があるときは、
 被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、・・
 算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。

と定めますが、「相続させる」遺言で全 卒時遺産につき取得者が指定されていれば、これにより902条による相続分も
合わせて最終的に「指定」されており、何も屋上屋を重ねて「その者の相続分とする」補充の余地はありません。

 903条1項が、上記 後の「・・」部分を「第900条から第902条までの規定により算定した相続分の中から
(算定)」と
している内の「第902条」とあるのは、特定財産承継遺言によらずに抽象的に割合だけを指定する場合を想定している
からで、その場合は、具体的な遺産分割に至る為、最終的な調整分を定めて「相続分とする」補充処理が必要なのです。

 このことは、法が、遺言者による相続分の指定に介入して 調整分算出を図るのは、共同相続人中に、被相続人から、
遺贈を受け、又は・・贈与を受けた者があるとき
に限っていることからも、裏付けられます。生前贈与も、遺贈もない
が、特定財産を相続させる遺言によって、全遺産に関し迂回的に相続分が指定されて、完結しているなら、客観的には
多少差別的な配分であっても、遺留分を侵さない限りは、法は介入を控えます。相続分指定がなければ、原則通り(P枠)
クオレ分割によるだけです。

 しかし、遺言で取得させるべく指定した者が遺言者より先に亡くなると、その者に行くべきであった財産は、宙に浮
き、やはり、遺産分割協議が必要となります。分割協議の面倒を防ぐ為には、その様な場合に備えた補充的予備的遺言
(→遺言作成のポイント)をしておく事が必須となります(自筆遺言例各本条但書)。完全完結である為には、この一手間が必要です。

 
完結遺言であれば、後は、3.で述べた遺留分による金銭的補償が残るだけです。

 そして、ここでも、注意すべきは、これら遺産分割協議に参加する全相続人の合意があれば、法定のパターンは勿
論、指定の相続分にも、、全遺産について最終取得者が定められている遺言であっても、それに縛られることなく、
全員一致で自由に配分を決める事ができるということです(但し、その場合も、遺言に遺贈の定めがあったときは、遺言が無効と
ならない限り、遺贈義務は果たさねばなりません)


 前置きで述べたユナニマス相続です。私が縷々説明しているのは、相続人の中に一人でも不同意の者がいて、全員
一致の決着とならないときの処理のルールということになります。

 大事な遺産分割の場面で、声の大きな人の意見が他を圧してしまうようでは、折角の「相続の仕組み」が生かされ
ません。一人でも異を唱える人がいれば、法の精神が貫徹されるべきです。唱える勇気が期待されています。

 全遺産について最終取得者が決められている完結遺言であれば、遺産分割協議も、補充・調整 も不要ですから、
加えて、遺留分侵害のおそれもない内容であるならば、少なくとも法律上の紛議の余地は全くありません。

 ですから、その上遺された者から遺言があって良かった、有難かったと言ってもらえるようであるなら、それこそ
「完璧遺言」ということになります。

 そして、それが「ユナニマス」で覆されぬ為には、相続人からの遺言者へのリスペクトを要するのかも知れません
(もっとも、リスペクトがユナニマスである必要はありませんが。そして、ユナニマスと言っても、それは、「相続」枠内でのことですから、
遺言に「遺贈」があるときは、遺贈義務は強力なので、これを無視することはできません。受遺者が遺言書を提出し、その実行を求めた以上、
「遺贈」はもちろん、「相続」させる条項も実行される公算 大となります)



      
故人卒時財産

        ① 
受贈903(を)持戻しみなし遺産のパイとして

         
クオレ900(指定相続分があればそれ)けて

        (受けた贈与と、後から貰う遺贈も含め)
        ③ 
呉れ産受遺個別いて個戻残 903出して

        ④
(個戻残が)
マイナスならば 零として

             
各個戻残総額する個戻残 903割合を出して個戻残分とする

個戻残分特別受益あるときの調整(相続)分=個戻残総額に対する各自の個戻残の割合
       :①~④により各人の受ける財産の合計に対する各人の財産の割合)

      
 卒時財から (全ての)遺贈を引いた
           
うつつ積極財産個戻残分で分けてゆけ。

       受遺者
遺贈
(後から)えら
れ)

.遺言は、仮に相続人の多くが遺言内容に反対であっても、内一人が遺言に従うと言えば、その遺言内容が実現さ
れます。それは、遺産を保有していた故人の遺志、故人の私的財産の自由に基づく遺言の自由が尊重されるというこ
とです。


〔相続人の地位の喪失〕

 
従って、(遺言者、或は 相続先順位者の殺害とか遺言書の偽造・変造は勿論ですが) 遺言書を破棄したり、隠匿したりした相続人
は、
相続欠格として相続権を失います(条句)虐待重大な侮辱著しい非行があって被相続人から相続人廃除の請
求が出され、或は 遺言による廃除の結果、家裁でその審判が下された場合も、相続人の地位を失います
(条句)

〔包括遺贈:準相続人?〕
 
なお、遺贈が、例えば「〇〇に遺産の〇割(何十パーセント)を遺贈する」という割合の形で遺言されていた場合は、
包括遺贈
と呼ばれ、以上述べてきた 遺贈 の扱いとは違って、その受遺者(「包括受遺者」と言います) は、「相続人」と
同じ扱いとなります
(民法990条)(条句)
 法定の相続人以外の者を相続人とすることはできない旨前述しましたが、そうゆう形で準相続人
(?)を指定できる、
とも言えます。ただ、その場合、あくまで受遺者ではある訳ですから、上記した登記手続き等での
双方申請の面倒が
あったり、税法上の2割加算等を受ける負担が重なります。また、遺言中に、他にも遺贈先があつて、その
遺贈が効力を生ぜず、或いは、放棄によってその効力を失ったときは、受遺者が受けるべきものであったものは、
相続人に帰属する
(民法995条)とされますから、その様な場合は包括受遺者には帰属しません(但し、同条但書により、
遺言に別異の定めがあれば、それに従います)


相続における登記の必須性 相続人の必須ポイント
 
以上、狭義の相続遺贈、或は 遺産分割等、すべからく広義の相続によって取得した財産については、その取得
を、
法定相続分を超えて、第三者に対抗するには、登記等の対抗要件を備えることを要するとされます(民法899条の2)
 狭義の相続については、登記を要しない
 とする判例に従い実務もその様に扱われてきましたが、平成30年の相続法
改正
により、取引安全の観点から 要登記 と改められました。相続による財産承継は、たとえそれが主体同一性ある
者を介した関係者間であっても、全て、
法定相続分 限度 での対抗力しか ない、ということが大前提となりました。
法定相続分を超えての取得については、登記がなければ第三者には対抗できないことを銘記しなければなりません。


 勿論、上記899条の2にもある様に、その場合の 対抗できない相手は「第三者」ですから、そうではない者、
例えば、同じ被相続人から相続をする相続人同士なら、財産を遺言で取得する場合も、遺産分割協議で取得する
こととなる場合も、その遺言の内容通り、或は 分割協議に従って、財産権を主張するについて登記等の対抗要件
は必要ありません。その点は、相続の主同承継性故の「当事者」関係があるから、登記がなくても、胸を張って
取得を主張できる訳です。ことに、遺産分割協議の結果で取得する場合については、相続人全員で合意した結果
の財産取得ですから、これに拠る主張を他の相続人が否定することができないことは当然です。しかし、これら
の場合も、ひと度 他の共同相続人から譲受けた第三者が登場したときは、その第三者に対しては、登記が必要
となり、その第三者に渡る経過如何に関わらず、対抗要件が備わらなければ、対抗できないことになります。
対抗関係の「第三者」について、こちらもご覧下さい。

 改正法施行日である令和元年7月1日
からは、「相続と登記」ワンセットとの認識の下、相続したら必ず登記 と頭
に刻む必要があります。さもないと、相続したと思っていた家屋敷が、いつの間にか他の相続人を経て第三者名義の
登記となっており、気付いたら最早手遅れであった ということになりかねません
(→特定財産承継遺言)

遺言執行者指定の必須性 遺言者の必須ポイント
 
遺言執行者の地位・登記権限 もそれに伴って強化されています(民法1012条1015条)ですから、合わせて強調
したいのは、
遺言執行者の定めのない遺言は、極端に言えば、食事に箸が付いてこない料理のように、実行が殆ど不
可能と思ってよいということです。

 遺言執行者は、相続法改正によって、これ迄は明確でなかった登記権限がはっきり明文化されました。
そのほか、
下記のように強い地位と権限を与えられましたから、遺言執行者について明記された遺言実現義務
(民法1012条1項)に、
それを果たすための装備 も合わせて整えられました。

 遺言をする立場としては、相続人たちに財産を取得させるだけでなく、それを登記等の対抗力も備えたものとして、
安心して相続を終えることができるよう、遺言の中で 用意しておいてやりたいものです。
 財産を受けた者が、いざとなって 執行者選任が必要であると知って、家裁にその選任請求手続きをとっても、時
既に遅しということにもなりかねません。遺言者は、遺言には執行者指定条項が不可欠であると銘記すべきです。


 
上記各相続法改正諸点の内、配偶者居住権関係の施行日は令和2(2020)年4月1日ですが、その他は令和元(2019)年7
月1日です。又、新設にかかる自筆遺言の法務局保管法だけ 最終 で、上記のとおり令和2(2020)年7月10日です。
改正諸点の内、この項で触れていない点については、こちらからご覧下さい。合わせて「相続税算定のあらまし」、
二次相続について」も参考にご覧下さい。





 執行者いる場合には
                                       
 遺言がありて
 
    
その遺産1013遺言いごん内容どおり
                                     
その侭 遺産1013執行せんとぞ1013するときに、
        
執行()専念
                                          
執行者あれば、遺産(相続人)
      
妨げ行為されず
                 
                             いざ1013執行の易かれと
          
なせば(その妨害行為の)無効せらる
                                          
行為せん意味1013 

            
 (意の第)  (者に)対抗できぬ 



「遺産の成り立ち」と「相続の仕組み」図




    世 これ903 永幸890 遺贈 妻住用 (遺言)
              
 配偶者 居住のための遺贈なら 相続分(預金から)フル取得 それとは める也。

      居住権   先立たれ、独り住まうも、
                    
 終身 無償の住まいを約されて、心やすらか 永久(とわ)にハッピー1028


相続と相続債務  
 ここで、再確認しておかなければならないことに、
相続債務の承継があります。
 ここまで、遺産を分ける割合として法定相続分
(900クオレ)指定相続分(902給の分)を見てきましたが、遺言で相続分
が指定された場合は相続債務はどうなるのかという問題です。
 実は、相続債務に関わるのは法定相続分だけで、指定相続分が債務関係を動かすことはできません。

 本来 相続債務は法定相続分に従って当然に負担しなければならないものです。ですので、指定された相続分を盾に
債権者に対して取立てを拒んだり、指定相続分限りの支払いを主張することはできません。これは、相続が権義主体
同一性による融合同一化であるという相続の本質に基づく義務の承継であって、つまりは、同じ人の間の事柄である
から、承継する義務を他人事のように否認することはできないということです。「同じ人」範囲での承継なので、そ
の範囲は、法定相続人の法定相続分を以て画されます。指定相続分で債権者に対抗することはできません。

 従って、遺言の対象とする遺産も、相続債務を除いた積極財産のみであるということになります。遺言で相続債務
を云々しても、それは相続人間だけでの内々の定めということになります。例えば、全相続人中の一人に全遺産を継
がせ、債務もその者が負担するよう遺言で定めても、債権者が他の者に取立てをしたときには、これを拒むことがで
きません。なので、取立てを受けてこれに応じた相続人については、その者から、その支払った分を、遺言で負担す
るように定められた者に求償するということになります。

 前述の様に、法は、マイナス財産、つまり、相続債務も含めた包括的な財産承継
(民法896条) を「相続」と呼んで、
包括財産の中の相続債務についても、これを法定相続分で負担すべしとしている
 (民法899条) ので、相続債務を免れる
途は、その相続の枠を脱する相続放棄
 (民法939条) (或いは、積極財産の限りで返済するという限定承認(民法922条)) しかありません。

 相続債務は、「
初めから相続人ではなかったものとみなす相続放棄(939条)によって初めて免れることができます。
相続債務は、「相続人」である以上、亡くなって相続が開始すると同時に、前記896条899条により、又、920条
相続承認、或は、921条法定単純承認の効果により、無限に
 (§920) (例えば、「(相続人固有の財産の何割までという様な)
一定限度での責任負担」ではなく、「限度なく」という意味です)
債務責任を負わなければなりません。
 この理は、民法427条が可分債務は数人が等しい割合で義務を負うとすること と全く関係ありません。
この関係で参照判例
(最判平21・3 ・24)があります。(なお、債権・債務の承継について民法427条を相続に持ち込むことに関しては、
こちらもご覧下さい。)


 相続債務が、各相続人に対し、上記の様に法定相続分(クオレ)に応じて当然に課せられることについては、平成30年
の相続法改正
もその理を示しています。
 つまり、改正法は、相続人の承継した債務の債権者は、遺言により相続分が私定(指定)された場合であっても、各
共同相続人に対し、クオレに応じてその権利を行使することができるとし、但し、その債権者が共同相続人の一人に
対して私定
(指定)された相続分に応じた取立てをして、その相続人に指定相続分による債務承継を承認したときは、
他の相続人は遺言による負担
(或は 遺言により、負担しない旨)を主張できる旨を定めます(民法902条の2)

 これは、改正法が、899条の2により、相続人の承継した権利について、クオレ
(法定相続分)を超える部分については、
対抗要件を備えなければ第三者に 対抗できないとすることと軌を一にしています。権利の承継は、クオレ通りの承継
部分についてのみ相続本来の主体同一性を認め、それを違える私定(指定)割合については、第三者に対する 対抗 モー
ドでの 取引 視をするというスタンスを、相続による債務承継についてもとることを意味します
(→主芯承継芯超承継 )

 
ですから、クオレ(法定相続分)限りで被相続人との主体同一性を有する相続人は、その限りにおいては、亡くなった
債務者と同人格において当然に債務を負担しなければならず、これを拒むことはできません。但し、承継した債務の
債権者が、共同相続人の一人に対してでも遺言による負担を認めた場合には、債権者による承認という対抗要件の具
備により、他の相続人においても、クオレによらず遺言によって、債務負担の有無・割合を主張することができるこ
とになります。



  相続人(相続開始の時点から)人有した 一切  
                     
権利
義務 やあ苦労896承継 をして

 

  パニク 899るな共同相続 数人相続すべき割合 899まる相続分これにて配分ける
  

   遺言者或いは(指定)受託第三者(相続分)
     
指定にあたり要注意遺留分にはまじ 902
  


   やぁ苦労 896債務 包括  
      
受遺者  
990 相続人承認放棄 悔誤 915なく せい
 


相続債務の承継に関する平成30年7月民法改正
 
同年7月13日、民法の相続に関する部分が改正され、相続債務の承継関係が明文化されました。改正の骨子は、上
記と同様、相続債務は、遺言による相続分の指定がある場合であっても、相続開始と同時に法定相続分に従って各相
続人が負担しなければならないことを前提に、債権者は、指定相続分に拘わらず法定相続分に従った権利行使ができ
ること、但し、債権者側から、遺言で指定された相続分に応じた債務の承継を承認する場合にはこの限りでない旨を、
902条
の後に、902条の2として、加えたというものです。その意味するところについては、こちらをご覧下さい。

 この改正法が施行されるのは、2019年
(令和元年)7月1日からとなりましたが、改正の骨子が上記のとおり現在の実務
の追認的なものですから、債務承継の関係では、実際にはさほど大きな影響はないと思われます。

条文は次のとおりです。

被相続人が相続開始の時において有した債務の債権者は、前条の規定による相続分の指定がされた場合であっても、
各共同相続人に対し、
第900条及び第901条の規定により算定した相続分に応じてその権利を行使することができる。
ただし、その債権者が共同相続人の一人に対してその指定された相続分に応じた債務の承継を承認したときは、この
限りでない。



相続分の譲渡

 相続人の有する相続分は、私有財産制の下での財産処分の自由に基づいて、 これを他に譲渡することができます。
その場合、相続分は、個々の財産に対する持分権ではなく、債務も含む遺産に対する包括的な権利ですから、譲受人
はその消極財産も受けることになります。そして、相続分譲受人は、その取得した相続分に基づいて、相続人らの遺
産分割協議に加わる参加資格を取得したことにもなります
(但し、他の相続人には相続分を譲り受けた旨を通知することが必要となり
ます)
。遺産中の個々の財産について、取得者が定まるのは、その遺産分割協議が決着したときとなります。

 被相続人・相続人間、或は 相続人相互間の親族関係や遺産の形成経緯等には疎い、第三者である相続分譲受人が
遺産分割協議に加わることは、協議の成立を遅らせたり困難ならしめたりする原因となりかねません。そこで、法は
民法905条を置いて、相続人には次項の相続分取戻権を与えています。

 他方、上記の消極財産の承継の面では、相続債権者のあずかり知らぬ内に、相続分譲渡によって、相続債務の負担
者が入れ替わってしまうことは、債権者として思わぬ不利益を被りかねず、受入れられない筈です。仮に、譲渡相続
人から相続債権者に相続分譲渡について通知があったとしても、債務者側の一方的理由により不利益を忍ばねばなら
ない理由はありません。

 ですから、相続分を譲渡した相続人は、譲渡によっても 本来その相続人が負担すべきであった債務を免れることは
できません。これに対しては、
被相続人が相続開始の時において有した債務の債権者は、(遺言による)相続分の指定がされた場合であっても、各共同
相続人に対し、
(法定)相続分に応じてその権利を行使することができる
とする902条の2を類推適用して、相続債権者は、譲渡相続人に対し相続債権を行使することができる とすべきです。
但し、その債権者が、成立した遺産分割協議書に基づいて、相続分譲受人、或は 相続人らの内の一人に対して、債権
行使をしたときは、同条但書に基づいて、相続分譲渡人は相続債務の負担から解放されることになります。

譲渡相続分取戻権 民法905条は、相続人の一人が遺産分割前にその相続分を他に譲渡した場合、他の相続人は、
譲渡から1箇月以内であれば、その価額及び費用を償還して、その相続分を譲り受けることができる旨を規定してい
ます。遺産分割に相続人以外の者が関与してくることによる分割の困難化を防ぐための規定です。

 この定めを実効あらしめるためには、相続分譲渡の事実を譲渡相続人から他の共同相続人に通知することを要する
と言うべきで、通知がなければ他の相続人に対抗できず、従って、上記遺産分割協議の参加資格も認められません。
 又、上記の様な制度理由から、共同相続人の一人が その相続分を 他の相続人に譲渡した場合は、相続分の取戻し
はできません。


相続分の譲渡に関連しては、以下の三つの判例があります。、

 
相続財産に農地が含まれている場合、共同相続人間で相続分の譲渡がされたときは、農地法3条1項の許可
を要しないとした判例
 (最判平13・7 ・10) 

 
この判例は、共同相続人間で、農地を含む相続財産に関する、相続分の譲渡がされたときは、積極財産と消極財産
とを包括した遺産全体に対する譲渡人の割合的な持分が譲受人に移転するとし、農地に係る権利の人為的な移転の内
農地の保全の観点から望ましくないと考えられるものを制限しようとする農地法3条1項の許可制度は、相続がそも
そも人為的な移転ではなく、これによる包括的な権利承継は私有財産制の下においては是認せざるを得ないものであ
ることから、遺産分割による農地の権利移転にはその規制を差し控えているのであるから、その前段階の暫定的移転
についても、これを不要と解するのが相当であると判示しています 。


民法905条関連の判例
 
共同相続人の一人が遺産中の特定不動産について同人の有する共有持分権を第三者に譲り渡した場合は、
民法905条を適用又は類推適用することができない旨判示した判例
 (最判昭53・7・13)があります。

 民法905条は相続財産に対する包括的割合である相続分を譲渡した場合の規定であるから、相続財産を構成する
特定不動産の持分権を譲渡した場合には適用又は類推適用することができないという趣旨ですね。

 
    (遺産) 分割前ふところ具合 905

          こわご
905処分相続分

      のち
一月ひとつき ならば

          () () 

           
(その相続分を)
ことできる

民法903条関連の判例
共同相続人間においてされた無償による相続分の譲渡は、譲渡に係る相続分に含まれる積極財産及び消極財
産の価額等を考慮して算定した当該相続分に財産的価値があるとはいえない場合を除き、上記譲渡をした者の
相続において、民法903条1項に規定する「贈与」に当たるとした判例
(最判平30・10・19)

 この判例の事案での相続分譲渡は、夫を亡くした妻が、夫の遺産に関する自らの相続分を子の内の一人に譲渡した
というもので、その後、その妻が亡くなって、妻の遺産について相続が開始されたとき、譲渡されたその相続分は、
妻の遺産に加えられる特別受益となるか否かが争点となった事件で、最高裁は、積極の判断を示しました
(特別受益と
なると、妻の死亡時の遺産に、その特別受益を加えたものが相続財産とみなされ、これを法定相続分で配分して、受益相続人である子は、基本
これにより配分された財産から、特別受益分を控除された残余を取得することになります→特別受益の個戻算法)


判決は、その理由について
「共同相続人間で相続分の譲渡がされたときは、積極財産と消極財産とを包括した 遺産全体に対する譲渡人の割合的
な持分が譲受人に移転し、相続分の譲渡に伴って 個々の相続財産についての共有持分の移転も生ずるものと解される。
そして、
相続分の譲渡を受けた共同相続人は、従前から有していた相続分と上記 譲渡に係る相続分とを合計した相続
分を有する者として遺産分割手続等に加わり、 当該遺産分割手続等において、他の共同相続人に対し、従前から有し
ていた相続分と上記譲渡に係る相続分との合計に相当する価額の相続財産の分配を求めることが できることとなる。
このように、相続分の譲渡は、譲渡に係る相続分に含まれる積極財産及び消極財産の価額等を考慮して算定した当該
相続分に財産的価値があるとはいえない場合を除き、
譲渡人から譲受人に対し経済的利益を合意によって移転するも
ということ ができる。遺産の分割が相続開始の時に遡ってその効力を生ずる(民法909条本文)とされていることは、
以上のように解することの妨げとなるものではない。 したがって、共同相続人間においてされた無償による相続分の
譲渡は、譲渡に係 る相続分に含まれる積極財産及び消極財産の価額等を考慮して算定した当該相続分に財産的価値が
あるとはいえない場合を除き、上記譲渡をした者の相続において、 民法903条1項に規定する「贈与」に当たる。」
と判示しています。


遺産分割方法の指定
 
遺言では、上記の様に相続分を指定することができる他に、遺産の分割方法を指定することもできます(民法908条)
 つまり、遺産を、まずは換価して価額で配分するよう定める、或は 相続人の内 数名に現物を与え、残りの者には
その者らから代償を支払わせるよう定める、全て現物で分けるよう定めるとか、が考えられます。
 この908条には、遺言者は、この分割方法の指定を第三者に委ねることもでき、また、分割を5年を超えない間禁
ずることもできる、とあります。


この分割方法の指定については、従来主として、現物・換価・代償等の方法、つまり「分け方」の指定だけを想定
し、故に

  各相続人が実際の現物取得に至るには、更に遺産分割協議が必要
であると、ドグマの様に、言われて来ました。

 しかし、同条のいう「遺産の分割の方法」が、この様な 分け方 のみに限定して、
特定物を特定の相続人に分割する
という分割方法により実際に現物を取得させることを排除しているとは到底読めません。
 同条は、分割方法の指定を第三者に委託でき、又、遺産分割を期間を限って禁止できることにも目を配ったため、
この様な定め方をしたと思われます
 (ここで第三者に委託する中味が現物・換価・代償等の「分け方」のみであると限定した場合、
その定めを置くことに何の意味があるのでしょうか。)
 

 確かに、906条から916条のまでの「遺産の分割」の節には、第七章「遺言」の第一節「総則」にある964条「包括
遺贈及び特定遺贈」の様なダイレクトに権利取得に結びつく規定がありませんでした
 (その為、遺言で、ある特定物を「相続さ
せる」としているのに、それは遺贈であると言う説まで出ていました) 


 とはいえ、「相続の効力」の第三章 第二節「相続分」中の902条に遺言で相続分が指定できる
 (従来、遺言での特定物
指定の形によっても相続分は指定できると言われてきました) 
とした後に、続いて、個別財産を想定した、分割による財産の
取得が相続開始時に遡るとする規定
(909条)と、取得する特定財産に瑕疵があった場合の担保責任規定(911条912条)
を含む第三節「遺産の分割」 があり、その節中に この908条遺言による「分割方法の指定」があるのですから、遺言
によるダイレクトの権利取得が、「相続の効力」としてあることは当然であり、特定物の権利取得が、遺言による
「相続」としても観念されていることは明白なことです
 (勿論、「遺贈する」とあれば遺贈による処分であることは当然ですが)
 遺言によって承継させる途は 遺贈による他ないとする説は、相続に人は関与できないとのドグマに捉われ、遺言に
よる相続を否定するもので、遺言を殆ど無意味なものにする説と言えます
 (→相続と遺贈)
 
ですから、この「分割方法の指定」も、単に上記の様に「分け方」を指定するだけでなく、具体的諸事情の下にあ
る遺産の各構成財産について、例えば、
「不動産甲は相続人Aの取得とし、不動産乙は相続人BCDの共有とし、銀行口座1の預金は相続人Aの取得とし、銀行
口座2の預金は解約・換金して相続人BCD間で等分に分けるように」
という様に、ダイレクトの権利取得も当然に含まれた、遺言者の自由な思案が想定されていると考えるべきです
 (こう
して見てくると、それを含まぬ「分け方」のみの規定など、殆ど無意味に近いと言ったら言い過ぎでしょうか)


 この「分割方法の指定」が、遺言によって、特定物を特定相続人に「相続させる」鍵となり、遺言の地平が大きく
広がったのは、平成3年4月の香川判決の功績でした。相続と遺贈の関係については、こちらも参照ください。
 なお、平成30年改正法では、その
1014条2項が、遺言で 特定財産の特定相続人への承継を遺産分割方法の指定と
して定める場合を、「特定財産承継遺言」とし、その遺言の執行者の権限を規定しています。これは、法がその様な
承継を定める遺言を、遺産分割方法の指定であると確認し、これを前提した上での権限規定です。法が遺産分割を定
める本来の節からは離れた場所ではありますが、初めて条文上で正面から、特定財産を相続させる遺言を認めたこと
になります。又、同条同項が遺言執行者に対抗要件を備える権限を認めたということは、とりもなおさず、その前提
として、特定財産承継遺言によって承継される財産は、その遺言の効力が発生すると同時に当該相続人の取得となる
ことを認め、その取得を前提とする対抗について規定しているのですから、香川判決の「何らの行為を要せずして、
当該遺産は、被相続人の死亡の時に直ちに相続により承継される。」とする判旨を、法が追認したものと言えます。
ここでの対抗力については、こちらもご覧下さい。




    このの遺産分けならるや 908

    被相続人
ゆい言で現物換価代償 

        
ひと かん 分割方法  指定ができる

         又
これは 
908遺言いごん他人ひと委託もできる
   

    被相続人
えぬ期間をばめて

                 
遺産分割をこれは
 908
ならぬと




法定割わり共有相続・協議相続・特(定財産)(継)遺言いごん相続
 
法定相続分(クオレ)(900条)で遺産を継ぐ割合が決まった後は、その割合で実際に遺産分けをする、つまり遺産分割
をすることになります。遺言によって相続分が私定
(指定)された場合(902条)も、その指定された割合による遺産分けを
しなければなりません。
 勿論、何れの場合も、その定められた割合のまま共有とすることもできますが、その場合は、遺産分けのステップ
を踏むことなく、その侭 遺産を構成する各財産が共有であることを、登記や銀行口座の形で表します。クオレによ
る場合を私なりに「
法定割 共有相続」と呼びます。
 他方、相続分に沿って遺産分割に入る場合は、相続人全員による、実際に誰が何を取得するか についての協議が
行われる必要があります。こちらを私なりに「
協議相続」と呼びます。
 そして、この協議相続においては、その協議の結果が
遺産分割協議書 という書面にまとめられていなければ、
土地・家屋についても銀行預金等の金融資産についても、登記所、銀行等で、不動産登記或は 銀行預金名義等の手続
きに応じて貰えません。
 遺言による相続分の指定の場合と違って、遺言で 特定の財産を特定の相続人に「
相続させる」と書いた場合は、
死亡によって相続が開始すると直ちにその相続人の取得財産となるとされているので、この遺産分割手続きは不要で、
遺言書のみによって不動産登記、銀行口座名義等を相続人名義とする手続きを受益相続人単独ですることができます
 (最判平3・4・19) 
 その上、この特定財産を「相続させる」遺言による財産の取得は、判例
(最判平14・6・10)により、登記なくして他に
対抗できるとされてきました
(後記参照)。特定財産を「相続させる」遺言を、私なりに、「特承遺言」と呼び、この形
の相続を「
(定財産)(継)遺言いごん相続」と呼びます。

 遺言内容が指定相続分を定めるだけであったり、前述の分割方法の指定で、例えば、遺言に「現物で分け、他に売
却してはならない」とだけあったりすれば、定められた割合に従って具体的に誰がどの財産を取得するかの協議が必
要となりますから、このときは、遺言と協議のハイブリッド相続とでも言うべきでしょうか。

 遺言が遺産全体に及ばず、一部の財産だけについての遺言である場合も、同様に残った財産について遺産分割協議
を要します。
※この遺産分割協議によって決まった遺産の配分割合が、定められた相続分どおりでなくとも、全相続人の合意の下に「遺産分割協議書」
となって結実したのであれば、問題ありません。

 平成30年7月の相続法改正
により、上記「相続させる」遺言に関する記述は変更しなければならなくなりました。
特承遺言によって取得する財産については、その内クオレ 
( 法定相続分 )を超える部分については、登記がなければ他に
対抗することができないこととされたのです。
 従って、例えば、同じ被相続人がした他の遺言に基づき先に登記された場合には、その特承遺言相続が如何に最終
の遺言
による取得であっても、先登記による取得には対抗できません。ですので、取得事実に安閑とせず、直ちに
登記を経由することが必須となります(→主芯承継芯超承継 )こちらをご覧下さい。


全子探索(全相続人の探索)
 さて協議相続の場合が典型的ですが、遺産分割協議が成立する為には、相続人全員が参加することが必須です。
その為にはまず誰が相続人であるか特定される必要があり、
「 ❶ 被相続人の出生から亡くなる迄の戸籍全部事項証明書
(戸籍謄本) 及び除籍全部事項証明書(除籍謄本) と、
  ❷ その特定された相続人全員の、被相続人との続柄と健在することの分かる戸籍全部事項証明書
(戸籍謄本) 」
 
(❶❷資料をまとめて「全戸除籍」と言います)が必要となります。

又、全員による協議の成立を証明するため
  ❸「遺産分割協議書」に全員が署名・捺印し、実印であることの証明としての印鑑登録証明書の添付も必要です。
 証明書類は、いずれも 発行後3か月以内 のものでなければなりません。

 この前段の相続人探索資料❶、❷の「全戸除籍」収集ステップを私なりに「全相続人の探索」とし、それは通常
「子」の探索であることから、「
全子探索」と言います。

 共有の形での相続である法定割共有相続の場合も、相続人が何人いて 共有持分が何分の一になるのかの証明の為、
同様にこのステップが必要となります
 ( こちらは、分割合意ができた旨を証明する ❸の遺産分割協議書や実印・印鑑証明等は不要です) 。

 そして、「全戸除籍」の収集のことは、略して「全籍収集」と呼ぶことにします。

 なお、このステップに関して、
(特定物を特定の相続人に「相続させる」)特定財産承継遺言による相続の場合はどうかに
ついて、こちらをご覧下さい。また、家裁での検認についてこちらを、ご覧下さい。

 不動産の相続登記に必要な書類の内、上記「全相続人探索」書類と相続関係の一覧図
(別紙1)について、法務省の
まとめのPDFを参照ください。

 上記の必要書類と一覧図をまとめて法務局に提出すれば、無料で一覧図に認証文を付した写し
(別紙2)が貰えます。
法定相続情報証明制度」と言います。これによってその一枚の書類で❶、❷の「全戸除籍」の束に代えることが
できます。登記だけでなく、金融機関等にもこれで手続きができます
(個々に確認が必要です)から、相続手続きの負担が
少し軽くなりました。



遺産分割
 人が亡くなり、その相続人が複数いる場合を共同相続と言います。
 遺言がある場合は別として、その故人の遺産は、遺産分割までの間、相続人らの間で
共有 (民法898条)となります。
 その共有における相続人らの持分割合は、前述の法定相続分
(民法899条900条 :クオレ)です。そして、相続財産の内、
相続債務は、その負担割合等を債務者がいじることはできないので、クオレどおりの割合で負担しますが、積極財産
については、クオレで共有状態にある遺産をどう分けるか、相続人全員による分割協議が行われ、
(本来)クオレに沿
い 財産ごとに取得者が決められます
(どのようにして遺産分割の協議を始めるかに関して、こちらをご覧下さい)

 遺産の分割は、相続人全員の合意があれば、それで如何様にも決めることができます
(→ユナニマス相続)が、
合意が得られず裁判所で手続きする場合には、クオレ
(法定相続分)に沿って、
遺産を構成する物や権利の種類、性質や、相続人の年齢、職業、心身の状態、暮らしぶり等の一切の事情を考慮して
家庭裁判所により 調停、審判を経て、決められます
(民法906条。二審は高裁、最終審は最高裁です)

 次の民法907条は、共同相続人は原則 いつでも協議で遺産の全部又は一部の分割をすることができるとし、また、
分割協議ができないときは家庭裁判所に全部又は一部の分割を請求できる旨の規定です
(→遺産共有の性質)

 なお、ある財産が遺産に属するか否かについて争いがある場合は、
遺産確認の訴えによって既判力をもって
その点を確定した後に遺産分割に臨むことになる旨を判示した判例
 (最判昭61・3・13) があります。

裁判所での手続きに関してはこちらをご覧下さい。

 ここで、前提として押さえておかなければならないことは、
遺産分割は、遺産の承継 帰属が遺言によっては定まらない場合の、定まらない遺産の分割
(配分)であるという点です。
遺言が存在し、それによって全遺産について取得者が確定するべく定められていれば、「誰に?」という「相続人」
の問題も、「どれだけ」という「相続分」の問題も、それらが定まった後の、その「分」に沿って具体的な遺産分け
をする「遺産分割」の問題も生じません。これらをクリアして、全遺産の取得者が確定している遺言を、私なりに
完結遺言」と言います)。

 遺産は、遺言の定めに従い、定められた者が相続開始時に即時に取得します
 ( 但し、平成30年の法改正により、取得を
(法定相続分を超えて)第三者に対抗するためには登記等を具えなければななりません )
 ですから、遺言が、存在しない場合と、存在するがその遺言が
 ( 遺産全部について取得者が定まる完結遺言ではない )
部分・未完遺言
である場合に、遺産の承継未定部分を全相続人の協議や裁判で確定する作業が必要となり、
 その為に 全子探索をし、 
特別受益あるときの調整(相続)、 遺産の増加に寄与した相続人がいれば 寄与分 
等、各種
(第三章)「相続の効力」事項の認定や算定を経なければならなくなります。
それらをクリアして、
遺産分割協議が調うと、分割が成って 相続が終わるということです。
 そして、それなら完結遺言は絶対で 動かせないのか というと、そうではなく、遺言者による配分に偏りが大きく、
子や配偶者、親の取得分が過小であるときは、それらの者の求めにより、遺留分による救済があります。



  遺産継 898 (相続人)数人いれば、

    
故人有した遺産 
898、その数人共有となる
                
「オト」は伊語の8「オット」から
  


  遺産分割 

   
(物・権利の種類性質) (年齢、職業、心身、暮らし)

       一切事情
考慮してやってくれろ 
906めあり



  遺産分割(請求権は)時効なし

  「
(分割は)しないでくれな907になくば

  
(相続人、時効不問で)いつでも 協議でできる




  
遺言いごんなく遺産分けるにるな907ら、

   相続人全員
まり、
(各自)希望べまして907

    
にはがせるか、
(遺産)分割協議書 るべし。

  「ノペ」は9の伊語「ノーヴェ」、「して」は7の伊語「セッテ」、西語「シエテ」、から


 
  
相続人分割協議できずるな
907

    
家裁 (分割)請求できる




  分割
907遺産どうするか、

    
等々必要あるならば、裁判所


        
期間めて分割ずることができる


遺産分割の基準
 民法906条は、
 「
遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、
        各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。

と定めます。
 遺産は、被相続人が、例えば、農家であるか、商店経営者か、会社従業員であるか等によって、その内容・種類が
異なります。自営の家業に、跡継ぎの長男が居るような場合は、家業の存続が可能となる分割をしなければならず、
次男以下他の相続人には、遺産の内の預貯金で 相続分に見合うよう配分する、或は 遺産の一部を換価して調整する、
長男に、相当する金銭債務を負わせる等々、遺産と相続人の具体的事情を踏まえ、ケースに応じた配分をしなければ
なりません。また、相続人側にも、その他、例えば、病弱であるとか、身障者である等の事情があれば、今後の生活、
療養等が可能となるよう、生活の枠組みを踏まえた配慮をする必要も生じます。
 家裁の審判に持ち込まれれば、審判官はこれら一切の事情を考慮して、審判をします。

 審判官には、一切の事情を考慮 した 広い裁量権が与えられていますから、事案に応じた適正・妥当な決着とすべく
重い責任が課されますが、裁量範囲を超えれば違法となります。
 配分割合の基準は、相続開始時点での相続分によりますが、これを相続人全員の合意で動かして、分割することは
可能です
(→ユナニマス相続)

 しかし、相続人らの間では遺産分割ができないとして、家裁が審判により遺産分割をするに際しては、相続分は裁
判所が動かせない基準なので、これに明らかに違反した分割審判は、裁量範囲を超え、違法になります。

財産評価の基準時
 
遺産分割をする財産の評価は、その時期によって増減があります。どの時点での評価額によって分割をするかは、
遺産相続での大きな問題です。
 分割での配分割合である相続分は、被相続人が亡くなった時点での相続人の構成状況によりますから上記の通り、
相続開始時を基準とします。しかし、その割合に沿って遺産を分割するに当たっては、遺産分割時点での遺産の評価
額によるのが、全相続人の衡平のためには分かり易く妥当です。
 したがって、その後の評価額の変動は、分割結果を左右するものではありません。

 因みに、「特別受益」である生前贈与の評価は、
  相続開始時点での「相続分」を調整するために持戻しをする贈与財産の評価ですから、その調整対象である
「相続分」の算出時点と軌を同じくして、相続開始時点での評価となります。
 同様の思考で、相続人の最低保障分である 遺留「分」の算定のため持戻しされる贈与の評価も同様 相続開始時と
なります
(最判昭51・3・18)
 
 
   遺産分割 

        
 継(物・権利の種類性質)(年齢、職業、心身、暮らし)

          
一切事情考慮してやってくれろ 
906めあり



遺産分割の対象
 
ここで、遺産分割協議の内容について理解しておくべきことを確認します。相続人が複数である場合を共同相続と
言います。
 共同相続の場合、民法898条は、相続財産
 (以下、私なりに「遺産」とも言います) は共有に属すると定めます。よって、
遺産分割は、この共有状態となった遺産中の個々の財産について、全相続人の協議の下に、最終的な単独所有者を決
めてゆく手続きです。遺言があって、それにより取得者が指定されていれば、それら取得者の定まった財産を除く残
余の財産について、遺産分割が行われます。
 また、遺言による特定財産の遺贈があると、その財産は相続枠
から脱して遺贈枠に移り、相続の対象たる相続財産
ではなくなります。
(「相続の仕組み」1.参照)
 一般には「遺産分けでは、遺産中の土地・建物や銀行預金等を 相続人の間でどう分けるかについて話し合う」と
理解されていますし、それで正しいのですが、この当然の道理が実際の裁判の現場では、妙なことになっていたので、
以下にその経緯も見ておきたいと思います。
 



     
遺産継

    
898 (相続人)数人いれば

         
故人有
した898

             その
数人
共有となる




債権債務
(相続)じて即取得(負担)〔と、これまではされてきました
      その
ほかは、
(遺産) 分割まで(の共有)やとっとこや898



(但し、不可分債務は各自が即時全額負担。不可分債権は、原則通り、共有後に遺産分割により分けられます。可分債権については後述します。
相続連帯債務は、相続分に応じて分割された額を連帯で負担する旨の判例(最判昭34・6・19)があります。)
「おと」は伊語の8「オット」から、「いっと」は仏語の8の「ユィット」から

 

     
相続人(相続開始の時点から)した 一切

            
権利義務 やあ苦労896承継 をして





   
相続人
   
単純承認
 したならば

     
にお920るなどプラスばかりか

          
マイナス債務などまでりなくわねばならぬ
                                
苦痛920覚悟



遺産分割に関するこれまでの経緯
 
遺産分割に関する上記のとおりの一般の理解にもかかわらず、
これまでの判例は、この一般の理解のなかなか及ばない理屈で進められてきました。
以下にその点を述べ、そして、それに対する私見を披瀝してみたのですが、
この度 
( 平成30年7月 ) 相続法が改正され、法が一般の理解に沿う形で改まりました 
(と私は理解しています)
したがって、以下の記載は割愛されて、相続債権の承継に関する法改正のところから読まれても構いません。


 
上記条句の様に、相続債務については、相続人の自由に処分できるものではなく、
相続開始と同時に各相続人に相続分に応じてかかってくるため、債権者から取立てを受けるということ、
それ故に相続の承認・放棄の制度があることは、一般的には十分理解されてないと思われます
(→積極財産・消極財産)
 しかし、これに加えて、裁判実務では相続債権も同じ様に、初めから相続分どおりに分割されてしまうので、
遺産分けする対象ではないとされている
(平成30年の法改正まで、されていた)ことは、一般には更に理解されていないと思
われます。

相続と相続債権 
 これは、民法427条が、
可分の債権・債務 は、それぞれ等しい割合で権利を有し、義務を負う旨を定めているの
で、相続に際しても、相続人間で相続分に応じ
(民法899条)当然に 分割されると解される点に根拠があるとされます。
 つまり、被相続人が亡くなって相続が開始すると同時に 可分債権・債務は 当然に分割されて、各相続人に分属
するので、相続
(可分)債権・債務の共有はなく、債権の相続はそれで終わると言うのです(最判昭29・4・8)

 分割できない不可分債権は、427条は適用できないので、原則通り他の遺産と同様に共有の後、遺産分割される、
と言います


 
さて、そうすると、銀行預金は、
法律的に見ると銀行に対する預金債権で、本来分割できる可分金銭債権ですから、同じ様に
相続開始と同時に当然 相続人間に相続分に応じて分割され、遺産分割の対象とはならない、ということになります。
 実は、最近まで判例上もそう説かれていました。最高裁大法廷が、 次に紹介する判決で
共同相続の場合において、一般の可分債権が相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されるという理解を前提
としながら、遺産分割手続の当事者の同意を得て預貯金債権を遺産分割の対象とするという運用が実務上広く行われ
てきている

と述べています。可分債権の性質上 当然分割であるのに、それを無視して相続人が分割協議をするには、相続人全員
の合意がなければできないことから、この様な判示となっています。

 この従来の判例の「銀行預金は遺産分割の対象ではない」とする点が、最高裁大法廷の判例変更
(最大判平28・12・19)
によって、一般の理解どおりに、銀行預金は本来 遺産分割の対象である旨 判示されました。
 今や銀行預金は、通常、振込・引落し等により、現金同様 或は それ以上に決済手段として広く用いられています
し、又、銀行実務としても、預金者の預金の相続に際し、相続人に関する情報もない侭 適時に相続分どおりに分割し
、それも銀行利息等まで計算して相続人ごとに処理することなど不可能であることも考えると、この判例変更は正し
かったと言えます。

 ところが、この変更の根拠として述べられていることは、長い判文なのですが、詰まるところ、これらの実情と遺
産分割において預貯金にも 現金同様 配分割合の調整機能を果たさせたいという狙いを挙げているだけです。
 銀行預貯金は、従来、相続開始と同時に相続分に従って 各相続人に分けられ、それぞれの単独所有となるとして、
共有を否定してきた理由である 民法427条を、結果として覆すに至る法的根拠には言及していません。 要するに、
実情を説いて、故に427条の適用はなく、従って、現金同様共有されて、遺産分割を待つ、と述べるだけです。
 結論は大賛成なのですが、ストンと落ちないものが残ります。
 そこで、この点に関する今回の法改正についてお話します。なお、後記 の私見 もご覧下さい。

不可分債権・不可分債務

 ところで民法427条により、可分の債権・債務 は、相続に際し 相続人間で相続分に応じ(民法899条)当然に分割
されるから、被相続人が亡くなって相続が開始すると同時に 分割されて、相続人に単有で分属するので、
可分債権・
債務の共有はなく、可分債権・債務の相続はそれで終わるとすると、
不可分債権・不可分債務については、いずれ
も「分割できないから」、898条によりいわゆる準共有となり、相続人各自が不可分債権 或は 不可分債務の侭 共有
することとなります。
 しかし、その内 不可分債権は、「分割できないから」 不可分の侭 各自に帰属する とするべきではなく、ストレ
ートに、そもそも「 898条に基づき共有となるから」と言うべきなのです。その上で、共有状態を解消して単有に移
すべく907条によって遺産分割協議をするので、当然 遺産分割の対象となります。今回の法改正が、その点も含めて
解決したと言えるので、下線クリックでご覧下さい。

 しかし、不可分債務は、それを含む
相続債務の全てが、前述896条 899条920条の下、(938条によって相続放棄をしない限りは)相続分に応じ、債権者
からの取立てを受けます。これは、権義主体同一性による融合同一化 という相続の本質から来るもので、つまりは、
同じ人の間の事柄ですから他人事の様に振る舞うことは許されず、借金も、「同じ人」範囲である法定相続分に沿い、
負うべきは負わねばならない理によるものです。
 相続債務は、可分・不可分を問わず、全て相続人に相続分に応じ当然に負担がかかってくるので、
 遺産分割によって債務負担者や負担割合を勝手に変えることはできません
(902条の2)
  ですから、遺産分割協議書中で、「自分の相続分は零とする」旨を述べたり、相続分皆無証明書を書いたりした
場合でも、債務負担に変動が生じることはなく、必ず債権者から取立てを受けます。なので、これを免れるためには
相続放棄が必須です。

 という訳で、もう一度遺産分割の対象たる財産を見直しますと、

割対象財産
 : 土地・建物や銀行預金・有価証券等の金融資産、現金、宝石・貴金属、書画骨董、家財、
           そして、著作権・特許権等の知的財産権、ゴルフ会員権、土地・建物関係の債権として

          借地権・借家権
 (相続人が権利を承継する場合は、分割協議の結果を知らせるだけで足りますが、
               相続人でない者が継ぐ場合地主・大家の承諾が必要となります)
 その他の債権、等々積極財産
           が遺産分割の対象となり、

        但し、
可分債権は積極財産ですが、427条により対象から除かれ (これに対する私見をごらん下さい。)
        また、分割債務と不可分債務、つまり
消極財産も上述の理由によって除かれるとされてきました。

要約:以上をまとめると、こうなります。
   遺産分割対象財産: 故人の有した
積極財産は、判例(最大判平28・12・19)により例外的に認められた預貯金も
             含めて、遺産分割の対象となります。

   分割対象外の財産:
 消極財産である相続債務は遺産分割対象外となります。
             相続開始と同時に各相続人に相続分に応じて割振られて取立てを受けます。

        但し、②には、
(預貯金以外の)可分債権が加わり、これは、
           相続開始と同時に各相続人に、相続分に応じて配分され、分属するとされてきました。



 遺産分割の対象は、「相続」財産ですから、相続放棄(939条)により相続人でなくなった人は、何らの配分も受けな
い代わり、債務の取立ても受けません。

なお、生命保険金は、保険契約上の受取人が契約に従ってその固有財産として保険会社から受け取るもので、原則、
遺産に含まれないため、当然遺産分割の対象とはならないとされます
(但し、相続税法上、相続財産とみなされ、一定の非課税枠
の控除の後、課税されます)
こちらの判例をご覧下さい。

 又、墓・仏壇・仏具等のいわゆる祭祀財産は、民法897条によって、遺言等による指定、指定がない場合は慣習に
よって承継される、相続財産とは別扱いのものとされています。

 
葬儀費用は、相続債務にはなりませんが、当然遺産から差引かれ、残りが相続財産となります。
 ところが、実際に銀行で葬儀費用支払いのため預金の払戻し
 (「仮払い」という扱いになります)を受けたくても、上記平成
28年12月
の最高裁判決が出て、預金は他の債権と異なり、遺産分割までは全相続人の共有とされ、遺産分割協議で
帰属が決まるので間は、全相続人の同意書を提出しないと払い戻して貰えません。
 払戻金額も銀行により金額の限度が異なるので、不便な状況となっていました。そのためこの点の不便を解消して、
当該相続人単独で払戻しが受けられるよう今回の法改正で一定額の仮払いが可能となりました。
(改正の結果をこちらでご覧下さい。)

民法427条可分債権相続根拠とならないこと(私見) 
 以上の様に、可分債権は、これまで判例 通説により遺産分割の対象とならないとされてきました。上記①と②と
で、遺産分割の対象財産が、綺麗に、① 積極財産:対象 と、 ② 消極財産 : 対象外 に分かれず、但書がついて
可分債権だけが 積極財産であるのに のけ者の様に分割対象外とされているのは、まことに奇異 な観があります。

 そして、不可分債権での話の進め様に照らせば、可分債権についても、同様に専属単有に移すための遺産分割を考
えるべきです。まして、財産処分の自由を掲げる私有財産制の下なら、なおさら、被相続人がその債権を継ぐに相応
しいと考える者に継がせるべきでしょう。なので、債権も遺言の対象とすべきですし、遺産分割においても、同様に
分割対象として、相続人間で相応しい承継者が選定されるべきです。
 もともと一人の被相続人に属していたものを何故共同相続人間に分散させた侭にしなければならないのでしょうか。
債権を行使される債務者側にしても、一人一人の相続人に相続分に応じて支払う等不都合極まりないことになります。

 不可分債権は「不可分」だから遺産「分割」対象となるが、可分債権は「可分」既分属だから遺産「分割」対象外
などと、不合理かつ衒学的な理屈で、可分債権を遺産から排除するが如き扱いは、統一的で安定した扱いであるべき
遺産相続の処理としてまことに不適切と言わざるを得ません。この問題は、その様な逃げの論理で否定する消極姿勢
で対処すべきではなく、むしろ、可分債権の様な 対債務者の人的関係が絡む財産ほど、遺産分割協議という親族共同
の親昵性を要する場で帰趨を定めるべし という積極的理由から、分割対象とすべきなのです。

 私は、従来の判例・学説が、相続に民法427条を持ち込んだ根源には、相続を死亡に伴う 人為を排した包括承継で
あって、そこに人の行為が入り込む余地はない との固定観念があったのではないか と思います
(→農地法判例)
 包括なので、相続債務は当然 相続分に応じて承継されると共に、 現物の積極財産も勿論 承継されるが、人と人と
の法律関係である相続債権については、遺産分割という人為を排するため、相続分に応じて当然分割承継される こと
とし、その道具立てを民法427条に求めたのではないか と考えます。相続の非人為性という点は、相続の本質の一端
ではあり、その点は 民法における単純承認の在りよう
(実際はそう「みなす」法定単純承認である在りよう)にも表れていますが、
相続の本質のコアは、人がその保有財産を他に承継させる人為にあるのであり、非人為に限ってしまった点は誤りで
あったと言わざるを得ません。そのため、遺言による相続に想到せず、遺言は相続でなく遺贈であるとの誤謬に陥り、
又、相続債権の理解をも誤らせる事となったと私は考えます。そして、この可分債権の既 分割・分有論は、遺産共有
の性質論とも通底していることが窺えることをこちらでご覧下さい。

 相続債権は、すべて898条により共有される「相続財産」に含まれて、「一切の事情を考慮して」
(906条)相続人間
で考究される遺産分割の対象とし、当該債権に相応しい承継者が決められるべきなのです。

 民法907条は、
 
共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、
     いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。

としています。遺言者が、遺言で「五年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずる」
(908条)ということは、私の
9年余りに亘る公証人在職中も経験したことがありませんが、そのような希有な場合を除き、この907条の条文は、
「遺産の全部」が遺産分割対象であることも予定されての定めです。何故ここで、可分債権だけは対象とならないな
どと、法の明文を無視して断言できるのでしょうか。

そもそも、遡って、遺産である可分債権の扱いについて、民法427条に捉われて相続開始と同時に分属するとするこ
とに正当性があるのか、再検討されるべきです。 

 民法427条は、
 「
数人の債権者又は債務者がある場合において、別段の意思表示がないときは、
     各債権者又は各債務者は、それぞれ等しい割合で権利を有し、又は義務を負う


と、多数当事者の債権債務関係の一般原則を示します。その趣旨は、複数の債権者が 等しい割合で 権利を有し義務
を負う と権義の割合を定めることにあるのであって、その権利義務の発生や帰属を規律するものではないのです。

 これに対し、債権の相続を論ずる この場所は、「共同相続」といういわば特別法領域で、一人に「帰属」していた
債権を誰がどう相続するか、誰に「帰属」させるか、その帰趨を決める「相続」の舞台です。
 ですから、そもそも はじめから427条の登場場面ではありません。
「帰属」が確定した上での権利者間の割合を決める427条に、帰属を決定する場で、顔を覗かせることを許すのは筋
違いです。427条は、遺産分割により一つの債権を複数の相続人が承継することに決した場合に、初めて登場するべ
きなのです。

 「相続」の場面には、「相続財産」の「共有」を定める898条と「相続分に応じ」とする899条とが 、仁王
門の阿形像と吽形
(うんぎょうぞう)よろしく決然と屹立しています(私には、「遺産」の範囲をいじるでない と怒気を含んで迫って
いるように感じられます)


 「相続」の帰趨が決まる本堂は、仁王門を入った奥の「遺産分割」堂です(→遺産共有の性質)。何故、「相続財産は、
その共有に属する」
と明文にあるのに、可分債権についてだけは、それに反する分割単有などとするのでしょうか。
899条がはっきり「相続分に応じて」承継するとしているのに、何故、 「等しい割合で」とする427条を持ち出す必
要があるのでしょうか。

 債権債務の内、消極財産である債務については、896条899条により全相続人が相続分に応じ 負担して、債務
者側で勝手に
(遺産分割対象として)負担状況を変えることはできないことは、民法920条939条等承認・放棄の制度スキ
ームと、被相続人との権義主体同一性とによって当然視することができます
(→相続と相続債務)
改正で新設された902条の2もそれを前提としています。

 他方、債権については、民法898条によって一旦 相続人の共有となり、相続人による遺産分割で帰属を決めるとい
う他の遺産の扱いと同じとすることに何ら問題はない筈です。

 そうとすれば、何も可分債権だけを遺産分割対象から外すことなく、可分債権を含む積極財産は、その全てを遺産
共有の後の分割対象とし、或は 「相続させる」
(或は「遺贈する」) 遺言での遺言対象としたら如何でしょうか。
 
かくして、
上記要約①と②の「遺産分割・遺言の対象」に なる、ならぬの枠に、但書なしで、積極財産と消極
財産を綺麗に分けて入れることができます。
 私は、平成30年の法改正がこの債権承継の混乱をスッキリ解決してくれたと考えますので、次項をご覧下さい。




    くなって共有されし積極()雑多詰まりし遺産898

         
(遺産)分割により中味け、共有分割までやとっとこや898


 
   
  くなって
()かぶる消極() 苦労896いやなら  

           窮策
939相続放棄§939(無限負担の)苦痛なし920

 

       
やぁ苦労
896債務相続人承認放棄 悔誤915なく せい

   

「いっと」は仏語の8の「ユィット」から


相続債権の承継に関する平成30年7月民法改正
 平成30年7月13日、民法の相続に関する部分が改正され、相続債権の承継関係が明文化されました。
 この改正法が施行されるのは、2019年
(令和元年)7月1日からです。
 従来、相続開始と共に相続人
 (が数人いる場合) の共有となる遺産 (原則、共有から、遺産分割により、単有となります) の中で、
相続債権中の
可分債権だけは、相続開始と同時に法定相続分の割合で当然各相続人に分属し、直ちにその単有となる
ため、遺産分割の対象とはならず
(判例) 、また、遺言の対象財産ともならないとされてきたところ、今回、まず
この前提を覆す法改正がなされました。


 つまり、新たに加えられた899条の2第1項は、
  「
相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわからず、
     次条及び第九百一条の規定により算定した相続分
(法定相続分:小生注)を超える部分については、
     登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。

と定めます。これは、
 直前の898条
  「
相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。
とし、次の899条
  「
各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。

と定めたのに続いて加えられた訳ですから、
  遺産は 共同相続人の相続分に応じた 共有とするが、
   (無遺言の場合)遺産分割による、(遺言があるため)よらぬに関わらず、実際にそれを承継するに当たっては、
  権利の法定相続分を超える部分の承継には対抗要件を具えることが必要、
ということを順を追って定めたものです。

そして、そこに可分債権を別扱いとする例外の言及はありません。

  遺産全ての共有と、うち全ての権利の承継に関する対抗力の定め
  ですから、債権も可分・不可分を問わず全ての債権の承継についてそう定められた

ことになります。

 そして、その上、899条の2第2項では
  「
前項の権利が債権である場合において、
     次条及び九百一条の規定により算定した相続分を超えて当該債権を承継した共同相続人が
     当該債権に係る
遺言の内容
       (
遺産の分割により当該債権を承継した場合にあっては、当該債権に係る遺産の分割の内容)
     を明らかにして債務者にその承継の通知をしたときは、共同相続人の全員が債務者に通知をした
   ものとみなして、同項の規定を適用する。

となっているのですから、そこにも可分債権除外の余地はなく、又、
正に債権が可分・不可分を問わず遺言・遺産分割の対象であることを、括弧書きの前と中とで明言しています。


 そもそも、従来は、判例上、可分債権を「
(法定)相続分を超えて」承継することはあり得ないことで、
相続分に従い当然に分属させられていたのです。
全ての債権についての扱いとして、ここに可分債権例外説には
止めとどめの一撃となる規定が置かれたことになります。

こうして、
相続債権は、可分か不可分かを問わず、
他の遺産同様に、相続開始と同時に法定相続分に応じた持分での
( 全相続人による )共有に属することになります。


したがって、

相続債権は全て、遺産分割を待って初めて単有となる 分割対象たる遺産であり、又、同様に遺言対象でもある

こととなります。
 そして、これを前提として、
  債権を承継した相続人が、法定相続分を超えて債権行使をするときは、
  自己が承継した相続分を遺産分割協議書または遺言書を示して、債務者に通知すれば、
  全相続人から通知があったとみなしてその承継に対抗力を与え、取得した債権全部を行使することができる
こととなりました
 (899条の2第2項) 

 法定相続分を超えるか否かで扱いが分かれる定め方ではありますが、
対抗要件要否の区別を第三者にも明らかな法定相続分でするとしたことによるもので、
取引の安全や「私定」相続分の自由規制の枠組としては肯認できると思います。

 それより何より、これまでの民法427条の誤認識からのドグマを打ち破り、結局、
全遺産が共有から単有へと流れる ( 遺言による場合は、直接単有となりますが ) のであり、そのうち
  
積極財産は遺産分割・遺言の 各対象となり、
  消極財産はその対象から外れて当然の負担となる

と、分かり易く二分できることとなった点は誠にご同慶の至りと言うべきです。

 したがって、今後、相続債権については、
この改正の線に沿って新たな判断が示されることになると思われます。
 例えば、預貯金債権に対するスタンスも、大法廷判決の様に種々分割困難な事情を挙げるまでもなく、当然に、
共有から遺産分割へ、或いは、遺言の対象、だということになるでしょう。
 その他、例えば、
 不動産賃料債権について相続分による分割単有を当然視し、これを前提とした判例や、或いは、
 株券等に関し議決権や共益権の存在を理由に分割困難として、遺産分割対象としていた判例も、
  今回の改正 (
次項による分割までの処分と分割結果との調整規定(906条の2)の新設も加わること) によって、
  「スッキリ二分」を阻んでいた隘路を解消され、同様な判断と経過を辿ることになると思われます。
これは、配偶者居住資産について民法903条1項不適用の道を開き、夫婦の実質的平等を支える基盤とした点と並ぶ、
平成30年相続法改正の大きな功績です。
 なお、民法427条は可分債権の相続根拠とならないことについての私見もご覧下さい。




相続預貯金の一部債権行使
 ( 遺産分割前の仮払い )
 そこで先程 「葬儀費用」で述べた様な相続人の当面のニーズ、具体的には、葬儀費の他、相続債務や必要生計費、
その他遺産の管理等に必要な支払いも想定される訳ですが、これらのニーズに応えるための相続預貯金の仮払いが、
法改正により可能となりました。

 相続人は、遺産に属する預貯金債権の内
(相続開始時の債権額の三分の一に各自の相続分を乗じた額については、標準的な当面の必要
生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して法務省令によって定められた預貯金債権の金融機関ごとの限度額である)
150万円
を限度として、遺産分割前に単独でその権利を行使することができます。

 結局、各相続人は、故人の預貯金の死亡時残高の内、その者の相続分の三分の一の額であれば、金融機関ごとに、
150万円を限度して、使途を明かす必要なく、払戻しすることができます。そして、この権利行使した預貯金債権に
ついては、当該相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなされます 
( 909条の2) 

 また、新906条の2では、相続人が遺産の分割前に遺産に属する財産を処分した場合であっても、共同相続人は、
その全員 ( 処分をした当該相続人を除きます )の同意により、当該処分された財産が遺産の分割前に遺産として存在するもの
とみなすことができるとする等、改正により、相続人の当面のニーズや単独処分に遺産分割を相応させるための調整
が図られました。

 合わせて、遺産分割の調停・審判が係属する家裁においても、申立てにより預貯金債権の全部又は一部を申立相続
人に仮に取得させることもできることになりました
(家事事件手続法200条3項)
 これらの規定は、2019年
(令和元年)7月1日から施行されています。




遺産分割の効力 〔 遡及効 〕
 
遺産分割協議によって、それまで相続人間で共有 (民法898条) 状態となっていた遺産中の各財産は、それぞれその最
終の単独所有者が決まり、相続開始時に遡って
 (民法909条) その人の単有となります(ですので、この権利取得は私なりの言い
方では
遡及取得となります) (→「卒時取得」参照) 

 この単独での承継は、その者が有していたクオレ分(法定相続分=主芯部分)が基礎にある
主同承継であり
(その承継の内の芯超部分について登記なくして対抗できないという弱みを伴うこととなるものの、)そうであるが故に、
その承継全体について受益相続人が単独で登記することができます(
不動産登記法63条2項 )
(勿論、相続人全員の署名・押印の
ある遺産分割協議書が必須となりますが)


 しかし、その登記を怠る間に、例えば相続人の一人が、遺産中の不動産について、その共有持分を第三者に処分し
ていた場合は、本来、遺産分割は相続人間の遺授的要素が強いことに加え、その第三者との間でも正面衝突の争いと
なりますから、民法は、この場合、「第三者の権利を害してはならない 」
(民法909条但書) という解を定めています。

 それで、ここでは、不動産の権利関係が重なっていわゆる二重譲渡の対抗関係になったときの解決策である登記が
決め手となります。
登記の先後による解決として、その第三者が、分割協議によって取得者となった相続人より先に
不動産登記を経ていた場合は、この但書により、その第三者の権利を覆すことはできません。

 つまり、当該不動産について分割まで各相続人が有していた共有持分を、遺産分割協議によって一人の相続人が、
全て譲り受け、その者の単有とするとの結論に至っても、それ迄の間に第三者が、相続人中の一人から先に持分を含
む所有権を譲り受けたとする場合、その不動産は、第三者と分割取得者とに二重譲渡されたことになるので、ここに
対抗関係が生じ、その優劣が登記によって決せられます。遺産分割登記による遡及取得の時点では、既に第三者の取
得が先であったことが、その者による先登記によって決定付けられる訳です。

 上記の例とは異なりますが、遺産分割後に第三者が取得した場合も、相続により一旦取得した権利について新たな
変動が生じたことに他ならないから、分割による取得相続人と第三者との間で、登記の先後によって権利の帰属が決
まることになる旨を判示した判例
 (最判昭46・1・26) があります。このように、対抗関係となった二重の物権変動には、
いわゆる二重譲渡理論による解として、登記が厳然と控えています。


  
   パニク899るな
 
  共同相続
 数人
共有となる 割合 個々
899まる相続分
      
                        
これにて配分受ける

  但し、(分割)相続債務は、が  (相続)じて、負担
 
  その
ほかは、
(遺産) 分割まで (の共有)やとっとこや898
 

 
 ( 但し、不可分債務 債務全部 (を)
 
    
連帯債務 応分(相続分に応じ)分割(された)連帯※、

                  
それぞれ負担すべき )。
      「いっと」は仏語の8の「ユィット」から

相続連帯債務は、相続分に応じて分割された額を連帯で負担する旨の判例(最判昭34・6・19)があります。


なお、 「パニク899るな・・・」の条句は、平成30年7月改正法により、その施行日2019年(令和元年)7月1日以後は、次のようにもなります。

     パニク899るな共同相続 数人共有となる割合
 
             
 個々
899まる相続分

(相続債権を含む) 積極財(を)これにて共有した後に遺産分割ある故に、

         共有は、
(遺産)
 分割までやとっとこや898



  遺産分割  

   
故人直接  に、

         
 じかにそのける 


  遺産分割  909(相続)開始 (に)起効する


   但しその分割前買受けた  

  
          
第三者
 にはてぬ 

         「
 
909 ばず 909なり

  

 
 相続遺産 けたら発効 899 2

      
クオレ900えたるにつき発公
(示) 899 (の) 2ける 登記 対抗 (力) えよ

   初めの「発効」の「つ」は、「9」が2個「ツー」の意、後の「発公効」では「発」を8「ハツ」と読む。「公」は公示の意。


 



認知された子の遺産分割請求 
 
順次相続第一位の「子」には、認知による子も含まれます。前述のように認知は、親の生前にされる場合と死後に
遺言や裁判によりされる場合があります。亡くなって相続が開始され、遺産分割が終わった後で認知が成立した場合、
その子が改めての遺産分割請求をするとなると、既に分割を受け終わった相続人らとの間に調整が必要となります。
民法910条は、その際、認知された子は価額のみによる支払請求となる旨を定めています。


(相続の開始後に認知された者の価額の支払請求権)
第九百十条 相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同
相続人が既にその分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払の請求権を有する。




   
(死後或いは遺言)認知されとなれて

   既分割 苦闘
 910結果(受け容れ)はやむなきも

      
価額のみ (という制限を受け)宝分けをむは

      
苦渋 910まさる うべきか。 

ここでは条文上
他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしたときは、となっていますので、注意を要します。
「他の共同相続人」ですから、「共同」と言う以上同じ順位で相続人となる者のことですので、例えば、被相続人に
(認知された) 子がいる (裁判による認知の場合は、その判決が確定した) のに、子はいないものとして 被相続人の親が既に遺産分割
協議を済ませていた という場合は、この条文の対象事例とはなりません。そのような場合は、相続人でない者によっ
て勝手になされた遺産分けとなるので、認知された子の側から「相続回復請求
(884条)をすることになります。又、
遺産分割協議が同じ順位である
(他の)子たちによるものである場合でも、それが認知された子がいる (裁判による認知の場合
は、その判決が確定した)
のに、認知の後にその子を排除して遺産分割協議されたものであるときは、その遺産分割協議は
無効とされますから、改めて子全員での遺産分割協議をし直さなければなりません。



 
  認知 出生時迄遡その世話784養育費

     
死後認知相続 (遺産分割後の、子の認知の場合)

          
せわし784てくるが第三者をば 〕


遺産分割に伴う担保責任 
 
遺産分割を終えた共同相続人は、それで全て終了という訳ではなく、もし相続人中に取得した財産に瑕疵があった
ため損失を被る者が出た場合は、互いにそれを補償しなければならない担保責任があるとされます。それを定める
民法911条、そして、その内、取得した債権についての担保責任を定める民法912条の条句です。


   (遺産)分割えても、するな早安堵
 
     
分割(受けた)()瑕疵あれば

        急暗雲
 911 (瑕疵)担保責任



   
遺産 ()() 具体911せば

    損失補償
(相続人同士)いに恋人911のごと(く、)

     売主
じく担保
責任

       
(相続)わねばない




  (遺産)分割けた債権

    
()務者無資力未収であれば(他の)

     応分
(相続分)補償 安堵 912 

      分割時点
(の務者) 資力担保

   
 未期来だとか、(停止)条件(の債権) ならば、
       弁済
すべき
(点の資力を担保)



  資力担保
というけれど何時資力担保やら、

    
くだん「資力」一体何で、いかよう担保されるやら、

         こいつ 
912  いつも 569


  
故意 
912加害でなくば分割時

    (債)
務者した資力限度(で)

     
未収額(分割時迄の)利息

    応分
(相続分に応じ)補償をせねばならぬ

       
§569は債権の売主の担保責任に関する規定


遺産分割における債権担保の具体例(「分割時の資力の限度」)としては、こちらをご覧下さい。



相続させる」遺言 (定財産)(継)遺言いごん相続
 
前述の「(定財産)(継)遺言いごん相続」の所で、
 遺言によって特定の財産を特定の相続人に「相続させる」とした
(特定財産承継遺言の)場合は、
 死亡によって相続が開始すると直ちにその相続人の取得財産となる
 (私なりに卒時取得と呼びます) ので、
 遺産分割手続きは不要で、
不動産登記 (不動産登記法63条2項 ) 、口座名義等を受益相続人単独で、遺言書のみによって
 相続人名義とすることができると説明しました。

 この「相続させる」という文言は、公証役場で公証人が遺言公正証書を作成する際の文言ですが、次第に普及して、
一般市民の自筆遺言にも使われるようにもなってきたものでした。
 これが、この様な形で説明ができるようになったのは、平成3年4月19日の最高裁判決以来、最高裁がそう説いて
きているからで、それでさらに(定財産)(継)遺言いごん相続が促されてきたように思われます。

 説明をされれば、そのとおりで、何ら不思議はないと思うのですが、実は、民法にはこれを正面から明言した条文
はありませんでした。ですので、この「相続させる」については、長く諸説が紛糾し、これを遺贈する旨の遺言だと、
前述の遺贈と相続の違いを無視した様な議論もなされる等し、又、判例も、下級裁判所での判断が不統一な状況とな
っていました。それを、最高裁がこの判決で決着させたのでした。この平成3年の判決は、その時の裁判長の名から

香川判決
と呼ばれます。この判決の要旨は次のとおりです。

 特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言の解釈及びそのような遺言があった場合における
 当該遺産の承継について判示した判例
 (最判平3・4・19)
一 特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言は、遺言書の記載から、その趣旨が遺贈である
 ことが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情のない限り、当該遺産を当該相続人をして単独で相続
 させる遺産分割の方法が指定されたものと解すべきである。
二 特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言があった場合には、当該遺言において相続による
 承継を当該相続人の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、当該遺
 産は、被相続人の死亡の時に直ちに相続により承継される。


 
前記した通り、民法には遺言によって遺産分割の方法を指定することができるとする908条があり、それによって
現物での遺産分割を遺言で定めることができる訳ですが、この「相続させる」遺言によって特定財産を特定の相続人
に相続させる方法は、「現物でこの者に分けよ」と指示し、かつ、「その現物とは、この物のことであるぞ」として
いるのですから、正に最も具体的な「遺産分割方法の指定」です。つまり908条によるものに他なりません。
 そして、相続人のこの方法による財産の取得は、被相続人に指示された「遺産分割方法」によった訳ですから、
遺産分割の結果ということになり、香川判決以前の下級審で「相続させる」遺言によった場合はさらに遺産分割手続
きを経なければならないとされていた点がこの判決により否定されました。ですので、遺言書だけで
 (遺産分割協議書を
添付することなく) 
相続登記等の名義変更手続きができる訳です。「相続は 死に伴う事象であり、人が関与できないもの
であるから、人の遺言は、相続ではない。遺言による財産処分は遺贈であるから、これを相続人が受けるためには、
遺産分割が必要である。」と、それまでの下級審判決は考えていたのです。

香川判決の意義
 ですから、香川判決は、パラダイムシフトとも言える相続観の転換をもたらしました。相続は 人の死に伴う自然の
事象であって、人がその行為によって 関与するものではないから、遺言によって起こせる事柄は遺贈であって 相続
ではあり得ない、と従来は考えられていました。それが岩盤のように強固な 常識であったのです。
 香川判決は この常識を覆しました。即ち、香川判決は、相続においては、被相続人が遺言によって「相続させる」
ことができるものであることに想到し、相続に人の行為が関与することを解明したのでした。

 相続は、確かに人の死に伴う財産の包括的承継という事象ですが、それは自然現象の様に人が全く関与できない事
象ではありません。人の財産にまつわる事柄である以上、それを保有する人の財産処分の自由が及ぶ筈であり、その
自由に基づいて財産の承継を自己決定できることは当然です。ここに、相続においても、契約の様に、財産を渡す者
と受ける者との両者が関与するものであること、しかし、両者は生死を境に隔てられるために直接 接渉することはな
く、遺言という一方的承継とならざるを得ないこと、又、包括承継であるから、受け手は親子・配偶者等の限られた
者となり、それが 相続枠 の限定となること、そして、それにも拘わらず、財産処分の自由は、その枠に縛られるこ
とがないから、遺言により相続枠の外の者に授けることも可能で、それが 遺贈 であること等の、人の死にまつわる
財産継受パラダイム の理解へと、香川判決は 導いてくれたのです。平成3年の香川判決が、その後平成30年の相続
法改正により、どのような形で成文化されたかについて、こちらをご覧下さい。


 「遺言と協議のハイブリッド相続」として、例えば、遺言に「現物で分け、他に売却してはならない」とだけあれ
ば、定められた割合に従って具体的に誰がどの財産を取得するかの協議が必要となりますから、このような分割方法
による場合は、原則さらに遺産分割協議書が必要なので、上記下級審の判断もその限りで理由はあったのですが、財
産と相続人を特定しての「この現物をこの者に相続させる」という遺言であれば、香川判決の説くとおりです。
 なお、相続人である子がいる場合に、孫にも継がせたい、或いは相続人以外の者に遺産を与えたいというときは、
「相続させる」ではなく、「
遺贈する」という文言になります。この場合も、その継がせる財産の権利は直ちにその
受遺者に移転します
 (卒時取得) が、ただ不動産登記手続きに際しては、基本的に贈与と同性質であるため、贈与側と受
贈側双方の参加が必要となります。

 贈与側である遺贈義務者は、本来、遺言者である訳ですが、亡くなっているのでその義務を承継する全相続人
と受
遺者の
双方申請 (不動産登記法60条) の手続きとなりますが、遺言で遺言執行者が指定されていれば、その者が相続人側
となり受遺者と共に申請します。遺言執行者が指定されていると、民法1012条2項により受遺者でない相続人は、遺
贈の履行にはタッチできません
(→遺贈の履行)。そうでない場合は、家裁に執行者を選任して貰う等、面倒なことになり
がちです。

 また、この「相続させる」という文言ですが、実際の遺言での用語は様々です。ですから、そのとおりズバリと
「相続させる」とあれば問題ありませんが、例えば「取得させる」とあった場合等はどう解釈するかが問題となりま
す。私は、相続人に対する財産の授与に関する用語は全てスタンダードな「相続させる」と解すべきで、特別に
「遺贈する」とある場合のみ、特別なオプションである「遺贈」と解すべき、と考えます。妻住用遺言の場合の用語
については、こちらをご覧下さい。相続と遺贈の違いについてこちらをご覧下さい。


    
この遺産分けならるや 908

    被相続人
ゆい現物換価代償 

         
ひと かん 分割方法  指定 ができる

     
この指定くべきまるにはなる分割要す也

 
   これや 
908この香川判決  分割方法  指定 じたる

     公証実務
クレバー
908(分割方法)指定文言

       
好例 
908 (遺言で)  (特定の物を)これは 908A子 相続させる 

         
これは 908A子単独の 分割方法 指定 

       なる分割 不要
としA子ちに取得する



「相続させる」遺言による特定財産取得の対抗力

 
その後例①(最判平14・6・10)は、この「相続させる」遺言によって不動産を取得した相続人は、登記なくしてその
権利を第三者に対抗することができるとしています。
 この判例の事案は、夫の「相続させる」遺言により不動産を相続した妻から、子の債権者がした、子の法定相続分
に代位しての当該不動産の持分登記を経た上での強制執行を排除しようとしたもので、妻は登記なくして債権者に
対抗することができる旨を判示しました。

 また、その他、他の相続人が既に登記してしまっていた場合について、
( 従って、 「登記のない侭でも」ということを言外
に含みながら )
 、その抹消と自己への所有権移転登記を求め得るとする判例② (最判平11・12・16) もあります。
 この判例は、遺言により不動産を取得した相続人甲への所有権移転登記がされる前に、他の相続人が当該不動産に
つき自己名義の所有権移転登記を経由したため、遺言の実現が妨害される状態が現出したような場合には、遺言執行
者は、遺言執行の一環として、その妨害を排除するため、右所有権移転登記の抹消登記手続を求めることができ、
さらには、甲への真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を求めることもできると解するのが相当で
あるとして、このケースの場合 遺言執行者には登記手続きの権限がないとした原審を覆して、その権限を認めたもの
です。これは、遺言による取得者本人が登記なくして抹消登記、回復登記等の請求ができることを前提としています。

 前述の様に
「相続させる」遺言によって権利はその受益相続人に卒時取得されるので、他の者はいかに相続人
あってもその者による処分の時には既に無権利であり、遺産分割に伴う遡及取得で生じる二重譲渡様の関係にはあり
ません
。ですから、この「相続させる」遺言による受益相続人の取得した権利は、登記の先後による解決によるまで
もなく、登記なくして保護されることになります。いわゆる
無権利の法理による解ということになります(但し、この
理は下述のとおり法改正により維持できなくなりました)


 そして、その卒時取得された権利を他に対抗するのに、同じく卒時取得される遺贈とは異なり、登記を要しないと
される理由については、これらの判例によっても説明されていませんが、相続においては、被相続人の一身専属的な
権利を除く、その他の一切の権利が、被相続人の法定相続人に対し、被相続人との
権義主体同一性を帯びて承継され
る点にその差異の理由があると愚考します。しかし、上記「登記なくして対抗できる」とする点、及び、卒時取得を
論拠とすることができるとする点は、平成30年7月13日の相続法改正により大きく変わります。前者については次項
を、後者についてはこちらをご覧下さい。


「相続させる」遺言の効力範囲
 
平成30年7月の相続法改正により、この「相続させる」遺言による特定財産の承継について、上記平成11年、14
年の判決以来「登記を要しない」としてきた判例は、変更を迫られることとなりました。つまり、登記を要しないの
は「
法定相続分の限りで」という限定を付けなければならないこととなりました。

 「相続させる」文言は、クオレ
(法定相続分)を超える部分については、かつての対抗力を奪われて、最終遺言より前に
なされた他の遺言による取得者から譲渡を受けた者であれ、単なる共同相続人から取得した第三者であれ、すべから
く第三者との対抗には遺贈と同じく登記等を要することになります。
 この様に、改正法は、従来の「相続させる」遺言を、「
特定財産承継遺言」として、その「特定財産」性を強調し
つつ、超クオレ部分の取得について遺贈同様の扱いとすることを宣明しました 
( 新899条の2、同1014条2項、同1047条) 

 そうすると、これによって、従来、相続分の指定につき、
特定物を相続させる遺言によっても902条による相続
分の指定が可能
と解されていた点はどうなるのでしょうか。

 特定物をクオレを超えて「相続させる」のは、法的にはあくまで、その物の承継であるから、債務の負担割合まで
予定しての包括財産に及ぶものではなく、その相続人の相続分を指定するには至らない、とすることも考えられなく
はありません。
 しかし、遺言については、遺言者の意思を合理的に解釈すべしとするこれまで判例等により確立されている解釈態
度を貫く限りは、やはり、この場合も、その特定物の承継により、その分 包括的な相続割合としてもクオレを超えて
相続させる趣旨であると解釈するのが事理に照らし当然であると考えます。
 ある相続人に 特定の クオレを超える積極財産を相続させ、しかし、消極財産についてはその相続人の負担を別異
にする旨 特段の意思を示していない限り、消極財産についても、積極財産中に占める当該財産の割合でその者に負担
させる趣旨であると解するのが、合理的でかつ公平でもあります。特定財産承継遺言の当該財産がクオレを超える割
合のものであれば、超える分だけその者の相続分を増やす旨の相続分の指定があると解すべきです。


 その特定財産承継遺言による特定財産がクオレを超えない割合のものであるときは、その者には「○○のみを相続
させる」として、その物しか与えない趣旨の遺言をするのでない限り、遺言がその特定財産承継の点しか定めておら
ず、相続分の指定もないのであれば、その相続における相続分はクオレ
(法定相続分)の侭とすべきです。

遺言執行者の登記権限
 
上記判例②(最判平11・12・16)は、上記の様に「相続させる」不動産に他者名義の登記がなされた場合、遺言執行者は、
その妨害を排除するため、その抹消登記と遺言が「相続させる」者への登記名義の回復を求め得るとするのですが、
当該不動産が被相続人名義である限りは、その相続登記はその取得者単独で登記申請できる
(不動産登記法63条2項 ) のだ
から、遺言執行者の職務は顕在化せず、遺言執行者は登記手続をすべき権利も義務も有しないとして、その場合の遺
言執行者の登記権限を否定します。
 同じく権利の卒時移転を認められる遺贈については、不動産登記法60条による登記義務者として遺言執行者の登記
権限が、他者名義の場合も 被相続人名義の場合も認められるのに、「相続させる」という相続の本道上での手続にお
いて執行者の手を縛る態度は 不可解と言う他なく、判例の重視する遺言者意思の合理的解釈であるとも言えません。
 この遺言執行者の登記権限問題については、
平成30年7月の相続法法改正により、遺言執行者には、
当該共同相続人が第八百九十九条の二第一項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる
旨明文が置かれて、解決しました
( 新1014条2項 )。この改正法の施行日は、2019年(令和元年)7月1日です。
改正された遺言執行者の地位・権限についてこちらをご覧下さい。


遺言での相続人探索
  
なお、「全子探索」の所で述べた様に、協議相続、法定割共有相続の場合には全相続人探索の資料「全戸除籍
が不可欠なのですが、遺言は、受益相続人や受遺者を特定してするので、その同定のための特定資料さえあれば、
全相続人の探索資料は不要となります。他を排してその者に との趣旨なので、全相続人が揃う必要がないのです。

 ただ、遺言での遺産分けを、
全遺産を包含した形にしないと、遺産のうち記載から漏れた財産については、結局、
協議相続となるので、その手続きに「全戸除籍」が必要となります。遺言での遺産分け条文の最後は、「全戸除籍」
が不要となるよう「・・
その他一切の財産を○○に・・」として、遺産漏れのない記載とする注意が必要です。

 また、後に述べる様に、遺言書は、公証役場で作る遺言公正証書
(役場で保管されます)以外は、すべて、改竄を防ぐため
家裁での
検認手続きが必要であり、検認を経ないと登記所、銀行での相続手続きができません。

 遺言書の検認手続きには、家裁による全相続人の呼出しが必要ですので、呼出しの資料として
全戸除籍が必要とな
ります。

 但し、自筆遺言証書については、令和2年
(2020年)7月10日から、法務局保管の制度が発足しました。これは、公正
証書同様 公務所保管なので、改竄防止策は不要となり、それに伴い検認も不要となりました。法務局保管とすれば、
自筆遺言につきものであった全戸除籍資料の収集負担がなくなります。同保管制度についてこちらをご覧下さい。

 

相続と取引安全
 
ここまでで、遺産分割による権利の遡及取得とその場合の二重譲渡理論による登記の先後という解、そして、「相
続させる」遺言による卒時取得と無権利法理による登記なくして対抗できるという解を見てきました
(相続による承継
の基本的建付けはそうですが、前項 迄で見たように、取引安全の観点から 法改正が行われ、クオレ(法定相続分)を超える取得部分については、
登記なくして他に対抗できないこととなりました)

 この後者を説く香川判決に対しては、取引の安全を軽視するものとして、厳しい批判が加えられているようですの
で、私なりに相続における取引安全について粗雑な思考を恥じつつ考えてみたいと思います。

 相続における取引の安全というときは、問題は主として、相続不動産等の共同相続人による処分と遺言による取得
者との権利の相克にあって、その点は批判を受けて当然とも思われ、それが法改正の契機ともなった訳ですが、その
他に、相続させる遺言により、被相続人 或は 相続人 の債権者らがその債権の担保として期待していた権利を失いか
ねないリスクがあると言われる点について見てみたいと思います。

 因みに、意想外の相続債務や相続人の債務がかかってくることの債権者にとってのリスクについては、対抗策とし
財産分離がありますから、これは一応 論の要なしとします。

 そして、被相続人の債権者らは、自己の債権の担保たる権利が、その債務者の死亡により、いきなり相続の対象と
なる訳ですから、取引の安全という見地から保護を要するとも言えますが、被相続人の債権者は、前述の様に、遺産
分割を経るまでもなく、法定相続分に従って全相続人らに権利行使することができるのですから、それを基礎とした
担保確保の措置もとり得る訳で、事案による微妙な差異はあるとしても、そこで担保を失うリスクはほぼ解消されて
います。新たに相続人らの固有財産に担保を期待するという途も出てきます。

 相続人の債権者らはどうか
(前記判例参照)と見てみますと、債権を取得するに際しては、通常は債務者自身の資産・資
力等を担保として期待するのに対し、ここで問題となっているのは、その被相続人からの遺産承継についての担保期
待ということになります。これはいわば僥倖に頼るもので、果たして取引の安全という見地から保護されるべき法益
はどの程度あるのでしょうか。この債権者らは、他の相続人に「相続させる」遺言をされた場合も、期待した不動産
等を失うにつきリスクを被るのはやむを得ないことのように思います。

 しかし、この点は、改正法により、相続による権利の取得が法定相続分を超えれば、登記を経ることが必須となっ
て、遺産分割事案であっても、そうでなくても、担保価値を確保して登記することによりクリアできることとなりま
した。上記判例の事案でも、債権者側で先に担保権登記を経ていれば、リスク回避は可能となります。

 勿論、債権者としてばかりでなく、上記の相続不動産を取得する、或は 担保を設定する取引に新たに入ろうとす
る際にも、それに伴うリスク等について事前に調査し、慎重を期さねばならないことを一般に啓発する必要が大であ
ると思います。

 それにしても、相続関係が長年放置される事例が後を絶たないなか、その為にこの目まぐるしく流動する多重契約
社会で 不動産が上記相続に絡むリスクを伴った侭 多数残存し、必要があるのに、これに手を付けられない侭、或は
これを契約関係に加えた為に遅延や混乱をきたす様な事態は、国家経済としても損失であるので、相続関係は年限を
切って対処するべき旨の新たな時効制度を設ける等の対策が必要です。結婚生活の清算である財産分与が2年の除斥
期間にかかる
(民法768条2項)のに、人生の清算である相続での遺産分割が時効にかからず「いつでも」できる(907条1項)
のでは、遺産が浮遊から腐敗に至るような事態が延々続くことになりかねません。
 なお、被相続人の居住用不動産が相続により取得された後、居住不要として放置されることを防ぐため、譲渡につ
いて減税措置が儲けられています。

 平成30年7月の相続法改正は、ここでもかなりの事情変更をもたらします。香川判決は上記のように厳しい批判
を受けて、「相続させる」判決の効力は上記のとおり、相続による財産の取得がクオレ
(法定相続分)を超えると、対抗
関係に置かれて、登記等 対抗要件の具備の有無により帰属が決せられることとなりました。
 これは、クオレ部分についての相続人持分への信頼に基づく取引を保護するための結果と言えますが、改正法は、
その他にも、遺留分侵害行為を無効とすることにより生じる混乱を防ぐため、無効とする「減殺」制度を廃し、侵害
にあたる贈与・遺贈の効力はその侭として、新たに遺留分侵害額請求権という金銭債権を創設することにより侵害分
の回復を図るという混乱回避の策を講じました。また、遺言執行を円滑ならしめるべく遺言執行者の執行を妨げる行
を無効とする旨 明文化し、合わて、しかし、善意の第三者には対抗できないとする等、各所で取引の安全に配慮し
た措置を講じています。

 私が愚見を呈した相続の本質はいささか損ねられる結果となりますが、却って、スッキリと限界が画される共に、
遺言執行者の地位権限の強化により、相続による取得財産の早期の登記経由が期待できることも相俟って、取引の安
全が図られることに繋がるということであれば、それはそれで良いのではと考えます。



特 別 受 益 (調整(相続)分)
 人が亡くなったときに その時点でその人の保有する財産 (これを私なりに卒時遺産と言います) が、その相続人に
承継されるのが「相続」の基本形です。しかし、被相続人が亡くなる以前に、相続人中のある者に
  ① 結婚 或は 養子縁組 に際して多額の持参金を持たせてやった、
   事業を興すに際して 相当額の事業資金 を援助した、或は 入・進学や海外留学時に 多額の学資 を与えた、
  ② 遺言によって、「相続」として多くの財産を与え、或は
  ③ 「相続」ではなく、「遺贈」として財産を与える、

等一部の相続人に対し、特別の授益をした場合、相続人間の公平という観点からは、その受益相続人の受益分を無視
するはできません。そこで、これら特別に受益した分を、分けるべき遺産の内に取り込んで、それを基礎に相続分を
調整することになります。
(本人が、生きている内に、予め申請して、子や孫に対し、贈与を行っても、贈与税を(特別な扱いで)低い税率で納めること
ができ、本人 が亡くなった後、贈与された物も遺産とみなして、相続税を有利に精算できる 「相続時精算課税制度」については、こちらをご覧下さい。)


民法903条1項は、
共同相続人中に、被相続人から、

  
  遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、
    被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその
贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし

  第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分の中から

 その遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもって

 その者の相続分とする


と定めます。つまり、ここで公平のため手当てされるのは、「遺贈を受け、・・贈与を受けた者があるとき」です。
「相続」として多い目に財産を取得する相続人がいるだけの場合は、903条の手当は発動されません。その場合は、
各相続人に「相続させる」遺言が、全遺産について定められていれば、相続人間の財産取得の多寡については、法は、
調整分を設ける為の介入を控えます
(遺留分問題が起こったときにだけ、1043条で、再び、相続財産とみなす と同様の介入をします)

  卒時遺産からすれば無視できない割合の、 (扶養義務の履行に留まらない) 商売や事業をするための元手となる
  特別な贈与
があった、又は、遺贈がある 場合
 これらの授益 (これによる受益者、受益分を私なりに特益者」「特益分と言います) を無視する配分は、相続人の間に
不公平を生じます。なので、これを相続財産の前渡し、或は 別枠渡しと見て、共同相続人間の公平を図るため、
  
( 相続人以外の者に対する贈与や遺贈があるとしてもそれらは、ひとまず考慮の外とします。) 
 
相続人の特益分だけに着目し、相続人間の 相続分調整をするのが「特別受益」の眼目です。

 
民法はここで、上記の通り903条の本文中では用いていない「特別受益」の文言をその柱書(見出し)に掲げました。
 しかし、本条項の趣旨が 相続人間の公平 にあることに照らせば、
  当該の受益が他の相続人との比較において公平の観点から看過すべきではない「特別受益」であることを要する
と言えますから、この柱書こそが重要なのです。

ですから、それが、仮令かなりの出費であっても、例えば、障害等を伴う子に対する親の扶養義務の履行として、
 或は、高齢となって認知症を発症し 施設入所した配偶者のための 入居金 として肯認できる支出であれば、
 特別受益と見るべきではありませんし、
 被相続人の社会的地位や資産に照らせば、取り立てて出費の特別性を認めるべきではないケースもあると言えます。

  ですから、「特別受益」は、そのような諸事情を勘案しての相対的なもので、
 ケースバイケースで判断されるべきものであることを確認する必要があります。

 なお、特益受贈については条文上「
婚姻若しくは縁組のため、若しくは生計の資本として」と贈与目的が
扶養義務の範囲を超えるものに限る趣旨を窺わせる文言が付されていますが、遺贈についてはそれがありません。

 遺贈についても、本来、遺言に扶養の範囲内と窺わせる遺贈目的の記載があれば、「特益」と見るべきではないと
の感もします。が、亡くなった後の扶養義務というのは論理的に不合理ですし、扶養の埒外であれば、生前贈与にお
ける特益と同質と見るべきです。それを、相続枠で与えることもできるのに、敢えて遺贈枠で贈ること自体、特益と
見て、遺贈はその目的を問わずみなし遺産に計上させるのが法の趣旨だと思われます。つまり、法は、遺贈を、原則
すべて「特益」としているのです。ここで、「原則」としたのには、例外があるからです。この例外については、
こちらをご覧下さい。

 さて、上記特益分のうち贈与によるものを私なりに「特益受贈」、遺贈も同様に「
特益受遺」と呼びます 
上記の民法903条1項は、それが定めた「みなし相続財産」
(私なりに「みなし遺産」と呼びます) のクオレ分(法定相続分)
或は 指定相続分から 特益受贈者・特益受遺者の特益分を控除して その者の相続分とする、と言います。なので、
本来であれば、
(私的財産権の自由に基づく)財産処分の自由により、相続とは別枠で、生前に 贈与によってする自由分
(自由に処分する財産を「自由分」とします)
、死後に 遺言によって遺贈する 自由分とがあるけれども、
903条1項は、相続分の調整を図るため、
 これらの自由分についても「相続」の視野に取り込んで、観念的に、相続枠
(P枠)財産とみなして、
 仮定「みなし遺産」を措定のうえ、これによる本来の相続分から 特益分を控除して、
 配分をすべき「調整分」
(私なりの呼称)とせよ
と定めます。

 以上までのまとめと応用とも言える事例判決が出ましたので、ご紹介します。
上記特益受贈の事例ですが、被相続人のした配偶者相続分
(被相続人の配偶者が死亡した際のその相続に伴う)の譲渡遺留分
減殺場面で、遺留分算定のためのみなし遺産になるかという事案でした。
共同相続人間の事例で、特別受益での「みなし」とも共通する論点なので、ここで紹介します。

 共同相続人間においてされた無償による相続分の譲渡は、譲渡に係る相続分に含まれる積極財産及び消極
財産の価額等を考慮して算定した当該相続分に財産的価値があるとはいえない場合を除き、上記譲渡をした者
の相続において、民法903条1項に規定する「贈与」に当たると判示した判例
(最高裁平30・10・19)
 この判決は、原審が
「相続分の譲渡による相続財産の持分の移転は、遺産分割が終了するまでの暫定的 なものであり、最終的に遺産分割
が確定すれば、その遡及効によって、相続分の譲受人は相続開始時に遡って被相続人から直接財産を取得したことに
なるから、譲渡人から譲受人に相続財産の贈与があったとは観念できない。また、相続分の譲渡は 必ずしも譲受人に
経済的利益をもたらすものとはいえず、譲渡に係る相続分に経済的利益があるか否かは当該相続分の積極財産及び消
極財産の価額等を考慮して算定しなければ判明しないものである。したがって、本件相続分譲渡は、その価額を遺留
分算定の基礎となる財産額に算入すべき贈与には当たらない。」
として、相続分譲渡をみなし遺産に加えるべき贈与には当たらないとしたのに対し、上記のように判示しました。

その理由について、判決は、
共同相続人間で相続分の譲渡がされたときは、積極財産と消極財産とを包括した 遺産全体に対する譲渡人の割合的
な持分が譲受人に移転し、相続分の譲渡に伴って 個々の相続財産についての共有持分の移転も生ずるものと解される
。 そして、相続分の譲渡を受けた共同相続人は、従前から有していた相続分と上記 譲渡に係る相続分とを合計した
相続分を有する者として遺産分割手続等に加わり、 当該遺産分割手続等において、他の共同相続人に対し、従前から
有していた相続分 と上記譲渡に係る相続分との合計に相当する価額の相続財産の分配を求めることが できることと
なる。このように、
相続分の譲渡は、譲渡に係る相続分に含まれる積極財産及び消極財産の価額等を考慮して算定し
た当該相続分に財産的価値があるとはいえない場合を 除き、譲渡人から譲受人に対し経済的利益を合意によって移転
するものということができる。
遺産の分割が相続開始の時に遡ってその効力を生ずる(民法909条本 文とされているこ
とは、以上のように解することの妨げとなるものではない。 したがって、共同相続人間においてされた無償による相
続分の譲渡は、譲渡に係る相続分に含まれる積極財産及び消極財産の価額等を考慮して算定した当該相続分 に財産的
価値があるとはいえない場合を除き、上記譲渡をした者の相続において、 民法903条1項に規定する「贈与」に当た
る。」と述べています。

夫婦居住資産
 ここで、注意すべきは、民法903条に新たに追加された第4項により、これら特益分の内、被相続人が、その配偶
 (二十年以上の夫婦の一方である必要があります) の居住のために建物又はその敷地を遺贈又は贈与の対象としたときは、
その建物又は敷地を上記「みなし遺産」には含めず、その侭 配偶者の相続外での取得として認めるということです。

 平成30年の相続法改正によって、配偶者について、新たに「配偶者居住権」が新設されると同時に、この措置がと
られ、夫婦の実質的平等の一助とする新しい仕組みが加わりました。つまり、夫婦別産制により夫婦間で偏在してい
た財産を、死亡という婚姻終了事由発生の時に、夫婦間での本来の平等を回復する為、夫婦の主たる財産と言うべき
居住用建物・敷地
(私なりに「居住資産」と言います)については、これを夫婦間での贈与・遺贈の対象としても、元来夫婦間で
平等である筈の財産権バランスの単なる復元であると捉え、「特別受益」とは見ないのです
(→夫婦の実質的平等)
 配偶者が殊更に受ける特別利益ではなく、元来の平等を回復するだけですから、相続人間の公平を図るための調整
対象ではないのです
(→特別受益と配偶者居住資産)

 以上
特別受益有る相続での調整(相続)をまとめると、
①人の死に伴う財産承継には、包括承継である「相続」と、自由な、原則プラス財産の授与である「贈与」
「遺贈」
 の枠があり、これらは本来別枠で、しかし、私的財産権の自由からは後者が優先すること、しかし、

②民法903条1項は、相続人間での公平を図るため、相続人に対する、特別な遺贈
(特益受遺)と、さらには生前の特別な
 贈与
(特益受贈)をも遺産に加えて「みなし遺産」とし、(次の段で説明しますが)そのみなしパイにおける、各相続人の定めら
 れた相続分から、その者の特益分を引いた残りの、引いた残 合計との 比較割合で、調整
(相続)分を算出すること、

③しかし、上記法改正は、配偶者の居住資産のみについては、夫婦間の平等という別の視点からの調整
(バランスの回復)
 
であるため、ここでの調整の対象外とし、相続枠の外での承継を認めたこと、そして、最後に、

④以上述べた特益の受遺・受贈は、相続人の受けるものについて見てきただけであり、それ以外の第三者の受けるも
 のは俎上に載っていないので、個別「相続」の承継は、その第三者の受遺・受贈を当然の自由分として前提し、
 (第三者への生前贈与分は既に逸出済み)
みなし遺産から
(相続人・第三者に行くべき全) 遺贈分を控除した残余財産について、
 
(特別受益ありとして「調整」された)「相続分」により配分されることになります。

 ここまでのまとめは以上ですが、民法は、これら被相続人の自由分、特益分の行き過ぎがあった場合に、
(兄弟姉妹を
除く)
相続人救済のため「遺留分」の章を設け、改正前は遺留分を侵害する限度で贈与・遺贈を失効させ、改正後は
「侵害額請求権」によって補償する途を用意しました
 (→改正遺留分規定の概観)
 遺留分の算定においては、「特別受益」で「みなし」の対象としなかった第三者に対する贈与・遺贈をも算入対象
とする「拡大みなし遺産」が算定の基礎となります。

 これらを前提に、
特別受益ケースでの相続分「調整」作業について、民法903条の定めるところを、以下、見て
いきたいと思います。
             
❶ 持戻し
 相続人間の公平を図るため、民法903条1項は、上記特益者の
特益分の内の特益受贈 (これを主に条句においてですが
私なりに「
呉れ産」と言います) を一旦、計算上、個別に卒時遺産に戻させ (持戻と言いますが、私は時に「個戻算」と
言います)
 、これを、あくまで計算上でのパイである「みなし遺産」として (遺贈分は、本来、相続枠(P枠)に含まれない財産
ですが、未だ分けられずに卒時遺産に含まれているので持戻す必要がなく、その侭「計上」されます)
、定められた相続分によって分け、
特益者については、そのみなしパイでの取分から特益分を差引いた残りをその者の相続分とするよう定めています。
 
( この、みなし遺産のパイを相続分によって分けた後、特益者からはその特益分を差し引くことを、私なりに「引戻し」と言います。)

❷ 
退場
 
 そして、903条2項は、
  「
遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、
   受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない
」と定めます。
 つまり、特益受贈
(呉れ産)を一旦戻してみなし遺産のパイとし、クオレ(指定相続分があれば、それ)で分け、
 その各クオレ分から
特益分を引戻した結果がゼロ又はマイナスである者には、相続分がない
 こととなります。
 そもそも特益分が既に貰いすぎ 
(或は ピッタリ法定分) であるので、その為、その者の卒時遺産に対する取得分はない
ことになります。

 このように、「特別受益」制度における 調整分算定のポイント は、
   ① 特別受贈を
持戻して「みなし遺産」とすること と
   ② みなし遺産から特益分を引戻した結果がプラスでない相続人の遺産分割からの
退場
 という2点にあります。
 「クオレで分け」ると言いましたが、遺言がないケースの場合はそれで良いのですが、遺言があっても、それが
卒時遺産全部について取得者が定まる様に記載された「
完結遺言 ( この場合は、卒時遺産全部について相続分が確定して
いますから、調整の必要はありません ) 
でなく、「部分・未完遺言」である場合は、その遺言によって定まる相続分で
パイを分けることになります。この場合の「
遺言による相続分」ですが、遺言中で、相続人の相続分として例えば、
「相続人Aの相続分は○○パーセントとする」というように直言されていれば、それにより、そうではなく、
特定物を取得させる旨の定めであれば、その物の積極遺産中に占める割合がクオレの範囲内であれば、
(その者にはその物
しか与えないという趣旨である場合を除き)
クオレ(法定相続分)で分け、クオレを超えておれば、遺産中でのその物の割合をその者
の指定相続分とし、その他の相続人についてはその残りをクオレで分けることになります。


❸ 
持戻し免除の意思表示
  また、903条3項
(平成30年改正前は)
  「
被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思表示は、
   遺留分に関する規定に違反しない範囲内で、その効力を有する。
」とあったのですが、
  (改正により)・・表示したときは、その意思に従う。」と改められました
(→「強制戻し」の為の変更)

 つまり、遺言に持戻しをしないでよい、と記載があれば、過去の贈与は考慮に入れずに
 (と言うより、「この遺言では、
生前贈与分を考慮に入れた上で遺言しましたから」と言う意味になりますね) 
、卒時遺産だけでの 配分が行われます。
 これを、「
持戻し免除の意思表示と言います。

 したがって、同条は、私なりの用語では
卒時遺産の価額に特益受贈(呉れ産)の価額を持戻したものをみなし遺産とし、
   クオレ
(遺言による相続分があれば、それ)により算定したその者の分の価額から
   その者の(特益受遺も含めた)特益分の価額を引戻した 残額をもって
 その者の相続分とする

  但し、遺言者による
持戻し不要の意思表示があれば、卒時遺産の侭 クオレで配分
 すればよい。
」と言い換えられます。

 この持戻し免除の意思表示が問題となるのは、当然のことながら、被相続人による生前贈与があるときの話です。で
すが、その上で、被相続人が遺言して、その遺言が全 卒時遺産に及んで、最終取得者が定まるべく なされていれば、
そこに、相続分を調整する必要は生じません。903条の言う「その者の相続分とする」べく論定する余地がないのです。
私が「完結遺言」の必須性を言う所以です。

 なお、持戻し免除の意思表示は、その旨 明示されてなくとも、黙示の意思表示で足りる、とされています。その生前
贈与がされた動機・経緯、その贈与の内容・価額、遺産全体の状況、被相続人と受贈者や他の相続人との関係等を総合
的に見て、持戻し免除の意思表示がなされているかを判断されるべき、と言われます。

 しかし、私は、抑も「特別受益」は相続人間の公平を期したスキームであるところ、これに対して、被相続人が、そ
れと異なる「意思を表示したときは」
(§903Ⅲ)と、条文にもありますから、持戻しの免除には、被相続人の、その旨の積
極的な、少なくとも「姿勢」が示されていることが必要であると考えます。このように、亡くなった人と配偶者や子ら
との間での、遺産配分の適正を図る必要が生じた場合には、与え手と受け手以外の、生死の境に介入する公権力 境公権
が必要となる場面ですが、特別受益の持戻しは、正にその様な公のルールであるので、それを免ずる為には、必ず明示
の意思表示を要す とは言わない迄も、明示の意思表示がない侭 軽々に、 ’総合的判断’として 覆すべきではありません。

 只、上記の様に「完結」遺言 故に調整余地のない場合は、生前贈与があっても、持戻す事がないので、この場合は、
完結遺言をするという姿勢が、黙示の意思表示による持戻し免除をもたらすこととなります。この場合、遺言者は、
「生前に相続人に贈与した事実はあるが、それはそれとして、死後に遺す財産については、その全てについて、遺言で
取得者を定めるので、生前贈与の事実も踏まえた上での遺言であることを承知してくれ」と述べているもの として、
903条3項が言う「(903条1)
項の規定と異なった意思を表示した」ものと理解し、「その意思に従う」訳です。

 詰まるところ、民法903条は、全体として、特益受贈・特益受遺ある場合の 
調整(相続)導くための定めです。
 従って、
この調整の余地なく、卒時遺産全部について遺言がなされていれば、遺言者の最終意思としての
 確定相続分が示されていることとなり、調整のための「特別受益」による算段は不要
となります。

 上記の「持戻し免除」の意思表示も、「卒時遺産中の、遺言された部分を除く残遺産について、定められた相続分
で分割するに当たっては、持戻しはするでない。」という趣旨となりますから、部分・未完遺言の場合の話です。

 やはり、遺言する際には、卒時遺産全体について漏れなく遺言することが、後の面倒や混乱を未然に防ぐため最も
肝腎な点となります
(→遺言作成のポイント)

 なお、この公平のための持戻しは、後に述べる遺留分の関係においては、
( 遺言中に持戻免除の意思表示があっても、) 
民法1043条1044条3項により、「強制戻し」となります。その上で、債務を控除して、
「遺留分割合×クオレ
(法定相続分)(具体的遺留分割合)で分けて、遺留分額は、算定されます(→遺留分チャート)

❹ 以上の①から③を経て、903条1項は、みなし遺産における各人の定められた相続分から、特別受益の
遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする」とし、引戻結果でその者の相続分を調整せよ、
とします。

 なお、以上の各ステップにおける生前贈与・遺贈の価額を評価する基準時はいつか についてこちらをご覧下さい。

ですから、
受益のある相続人は みなし遺産から その受益分を引戻した結果の 引戻残
(それが 0 又は - の人は退場します)
受益のない相続人は みなし遺産からの引戻しなしの相続分額の侭
それぞれの受ける価額を算出し、その相対比を各人の
調整(相続)とすることになります。

❺ その上で、現実の卒時遺産を、算出された調整
(相続)分で配分することになります。ここには②で述べたとおり、
引戻し結果がプラスでなかった相続人は参加できません。また、現実の遺産からは、遺言による受遺者がいる場合は、
受遺者が第三者であるか、相続人であるかを問わず、相続人らはその遺贈義務を果たさねばなりませんから、
卒時遺産から全遺贈分を控除した残財産を調整分で分けます
(→個戻算法)

遺留分「強制戻し」のための表現変更 

 なお、上記改正により削除された旧903条3項には
その意思表示は、遺留分に関する規定に違反しない範囲内で、その効力を有する。」との文言がありました。
これは、改正前には、相続人に対する贈与を、「遺留分」の章 独自で算入させる
(現1044条3項のような)同章プロパーの
規定がなく、旧1044条で903条を準用する方法に拠っていたので、903条に 遺留分回復に際しては 持戻免除ができ
ない旨を定めておく必要があったからでした。しかし、この改正前の文言が、遺留分規定に反する持戻免除の意思表
示は 当然に無効であるとの誤解
(当然無効ではなく、遺留分権利者からの遺留分回復請求の有無にかかります)を招いて紛らわしかった
こともあり、上記のように表現が変更されたのでした。


   故人
() 生前特別   (一部の相続人に)授益したなら持戻

    みなし
遺産
としたクオレ
900(指定相続分があればそれ)けて
 
            
受益者その
(受益)
いた  

       
(遺言に)
持戻 免除とあれば、それにる。



  特益贈与
 ()
 903(故人が特別授けて呉れた財産(造語)  

       
結婚 或いは縁組(故人が)えた持参金

    
らしのため生計に、或いは子供教育に、えた援助金
     

   
えて 
(これを持戻と言いますが、ここでは個戻算これさん(造語)
とも言います)

      
みなす相続財産

   



特別受益の個戻算法コンデンス(民法903条:呉れ産の算法)

 
ここで、上記の個戻算の方法を凝縮してまとめます。
 相続人の中に 故人から生前に、或は 遺言により、上記色々な態様で受益した、或は 受益する特益者がいる場合、

みなし遺産ソロバン
 その特益者の特益分の内 特益受贈(呉れ産)を、相続分調整のため 観念的に
持戻をして みなし遺産
算出し、これを定められた 
(法定相続分か、遺言による) 相続分で分けた上、特益者 (特益受遺を含めた) 特益分
引戻し
(マイナスならば零とする)て、この引戻結果を「個戻残」と呼びます。
 そして、この
個戻残の総額に対する各人の個戻残の割合、つまり個戻残割合を「個戻残分」とすると、
 これが特別受益がある場合の調整された相続分となります。

つまり、ここでのポイントは、
 ①貰い過ぎの相続人に対する、「マイナスならば零とする」
(遺産分けの席からの)退場処分と、
 ②遺産分けは個戻残分でする、の二点です。

また、個戻算では、特益分のうち、特益受贈(呉れ産)は持戻し、引戻し、両方の戻しがありますが、
   特益受遺は引戻しされるだけの対象となります。言い換えると、

 特益受贈は双戻の、特益受遺は孤戻の各対象 (特別受益は、ソレ
(受贈)とコレ(受遺)) 、です。

以上は、相続人中に特益者がいる場合の
調整(相続)を出すための観念的な机上計算ですから、
みなし遺産ソロバン」とも呼べる いわば バーチャル算法です。

 特別受益
(調整分)にしても、遺留分にしても、
相続枠(P枠)クオレ分割」原則を「みなし相続枠(P枠)」・「拡大みなし枠」で修正するときは、
 卒時遺産に生前贈与だけが加算になります
(→相続の仕組み1.) 

※ 例えば、生前 被相続人が相続人に住宅資金を貸した場合、みなし遺産に未返済 残債務額を債権として加算します。
 そして、引戻し場面では、被相続人から住宅資金を借りた者はその残債務額について、遺言で債務免除の利益を
受けておればその免除額を引戻します。
債務免除がなければ、遺産分割によりその債権を取得した相続人に対して弁
済しなければなりません。仮に全相続人が相続分に応じて債権の分配を受けた場合は、債務者である相続人は、自己
が配分を受ける債権額についてだけは相殺により債権が消滅し、残りについて各相続人に弁済義務を負担します。


卒時遺産ソロバン
 そして 次に、(の個戻残分によって卒時遺産を分ければよい訳ですが、これには遺贈 
(相続人に対する特益受遺、
第三者に対する遺贈)
分も含まれていて、これは本来 別枠である遺贈枠(F枠)の財産なので、相続分とは切離された分
として後で実際に受遺者に与えなければなりません。なので、卒時遺産から遺贈を引いた残りを個戻残分で
分けます


 そして、この計算は、実際に卒時遺産を前提してする分配のための現実計算ですから、「
卒時遺産ソロバン
と呼ぶことができる
リアル算法です(なお、相続債務は、相続人に相続分に応じて、当然かかってくるので、ここでは 考慮に入れません)

なお、以上の各ステップにおける生前贈与・遺贈の価額評価をする基準時はいつか についてはこちらをご覧下さい。

ですので、バーチャル算法である「みなし遺産ソロバン」とは段階を分けて区別しなければなりません。しかし、
このように「特別受益」はバーチャル算法で調整分を導き出す点に主眼がありますから、算出した「調整分」を、
903条をモジった「
の算」分、この算出法をの算」法とも呼びたいと思います。

 なお、ここでの算には「リアル算」であっても、債務は無関係です。ここは遺産分割の席ですから、本来、
積極財産のみが対象であり、
(本来 相続分に従って当然負担となる)債務は考慮しないからです。

 ここで、実際に遺産を分けるリアル段階では、遺言者がした遺贈を重んじ、遺産から遺贈分を除いた残りを虚の算
(調整分)で分けることを見ました。遺贈を相続枠(P枠)の外の事柄とし、相続人が遺贈義務者となる遺贈の実行を念頭に、
その残余財産を遺産分けする訳です。

 これは、相続人側における特別受益の有無に関わらない当然の遺贈スタンスです。遺贈については、本来 当初から
この様に相続枠
(P枠)と別扱いとすべきところを、遺贈は相手方が相続人であるか否かを問わず計算上 卒時遺産中に置
いた侭とし、これに相続人間の公平のため相続人に対する生前贈与だけを持ち戻して、調整
(相続)分を算出します。

 この遺贈枠
(F枠) 優先 別扱いの理は、相続人の寄与分について、遺言者から遺贈があるときは、遺産から遺贈分を
除いた残余を超えることができないとする寄与分の上限規定
(民法904条の2第3項)の存在によっても、理解することがで
きます。相続人に対する遺贈、殊に配偶者に対する遺贈についてこちらもご覧下さい。

 結局、個戻算法 ( §903Ⅰ) は、卒時遺産を、相続人間の公平のため、クオレ(法定相続分)で分けず、本来 別枠である
相続人関係の過去枠
(L枠)・遺贈枠(F枠)まで視野に入れた調整分(虚の算)で分けるための法定算法です。

 
但し、当該の受益が他の相続人との比較において公平の観点から看過すべきではない「特別受益」であることを要
しますから、障害等を伴う子に対する親の扶養義務の履行として 或は 高齢となって認知症を発症し施設に入所する
こととなった配偶者のための入居金等として 肯認できる支出であれば、特別受益と見るべきではありませんし、被相
続人の社会的地位や資産に照らせば、取り立てて出費の
特別性を認めるべきではないケースもあると言えます。
 ですから、「特別受益」は、そのような諸事情を勘案しての相対的なもので、ケースバイケースで判断されるべき
です。但し、特別受遺については、これら扶養目的のものであっても、遺贈 であれば、みなし遺産計上 を免れない
ことは前述のとおりです。


 特別受益チャート

 
法定相続分の調整個戻算法特別受益特益受贈特益受遺
あるときの計算法:の算 

               特別受益被相続人が、生前、相続人に対し、生計の資として特別に贈与した財産 特益受贈
                      または、相続人に対し、(特に目的を定めることなく) 遺贈した財産 特益受遺

〔コンセプト〕 持戻した「みなし遺産」のパイから、クオレ(法定相続分)以上に貰っていた相続人については、
            相続分はなしとして、残った相続人で、パイからの取割りで 相続枠財産を分ける。
みなし遺産ソロバン: バーチャル算法( ()の算法 )

   みなし遺産= 卒時遺産 (相続枠遺贈枠特益受遺) + 過去枠 (生前贈与特益受贈 (呉れ産))(=「持戻し」) 

    みなし遺産をクオレ(又は 指定相続分)で分けた上、各相続人からその者の特益 (呉れ産、特益受遺) を引く(=「引戻し」)。

      みなし遺産 × クオレ(又は 指定相続分)  その者の益分  各相続人の個戻残 (マイナスならば0とする⇒退場) 

   各相続人の、個戻残相互の割合がそれぞれの調整(相続)

            調整分(個戻残分)  個戻残割合 ( = 各個戻残 / 個戻残総額 )

 卒時遺産ソロバン
リアル算法

   卒時遺産から遺贈を引いた相続枠の現実遺産を調整分で配分する調整分割 ( ()の算分割 ) 

       各相続人取得財産( 卒時遺産-全 遺贈 ) × 調整分 

          受遺者は、それぞれの受遺財産を加えられる。



 



個戻残分と遺留分

 
相続人の特益受贈を持戻したみなし遺産を 定められた相続分で分け、特益分を引戻した残りの個戻残がプラスであ
った者の個戻残比である
個戻残分は、特益者についての引戻結果が何れもプラスであれば、各相続人の最終取得分は
きれいに
クオレ (法定相続分 §900) (或は 指定相続分) で収まります。

 しかし、引戻結果がマイナスの者がいれば、そのマイナス分を当該特益者に現実の持戻しをさせないとクオレ(或は
指定相続分)
どおりとはなりません。
 民法は、この特別受益
(の算 §903)場面では、その様な現実の 減殺 (平成30年改正前は遺留分の「減殺」がありましたが)
させずに、
計算上の持戻しをさせるだけで矛を収め、そのマイナス量には目をつむって、特益者には 卒時遺産の配分
から撤退させる、という扱いで終わらせます。

 従って、そのマイナス分は、他の相続人が
かぶることとなります。そして、そのかぶることによる不公平の程度が
見過ごせない程になった場合に、法は、一定の相続人に保障された最低限の相続分である「遺留分
(天与分1042)
によってその救済を図るため
(現実の持戻しである(受益の)「減殺」をさせていたのですが、法改正により減殺制度は廃止され)遺留分を
侵害している金額
(遺留分侵害額) の請求ができる定めを置きました(1046条)

 ですから、現実計算である遺留分の算定では、相続人らに債務負担が伴うことも考慮して、まず、卒時遺産に相
続人以外の持戻分も加えた拡大みなし遺産から債務総額を控除して、分けるべき遺産のパイとし、遺言による指定
相続分
(§902)で卒時遺産を分けた現実の取得分、或は 特別受益者がいる場合の個戻残分(§903)で分けた現実の
取得分が 拡大パイのクオレの半分
 (親だけが相続人である場合は1/3) にも及ばない相続人については、そのマイナス部分を
遺留分侵害額とし、最低限の
天与分 (遺留分 §1042) を確保することを許します。

 という訳で、遺言がない
(か、部分遺言である)ため相続未定財産がある場合で、相続人中に特別受益者がいるときの調整
(相続)分である個戻残分と、遺言による大きな偏りを是正するための天与分(遺留分)では、みなし枠の大小の違いのほか、
前者は割合を調整する為のの算
(机上計算)であるため、相続債務は考慮の外であり、後者は、現実の救済に乗り出す
ため 相続債務全額を控除
( 相続人が相続分に応じ相続債務を負担するときは、その者の債務負担額を加算 ) するという違いがあります。
なお、遺留分侵害額の算定については、こちらをご覧下さい。又、本項と同趣旨の項ですが、こちらもご覧下さい。



 
遺産の分け方(個戻算法) 

特別受益有るケースでは、法定
(指定)相続分の調整により、相続未定の遺産部分について最終相続分を確定します。 

  
みなし遺産ソロバン 

      故人
卒時財産


        ① 
受贈903(を)持戻みなし遺産のパイとして

         クオレ900(指定相続分があればそれ)けて

        (受けた贈与と、後から貰う遺贈も含め)
        ③ 903受遺
 個別いて個戻残 903して

        ④
(個戻残が)マイナスならば 零として


             各個戻残総額する
個戻残
 903割合して個戻残() 903とする


 
個戻残分:特別受益あるときの調整(相続)分=個戻残総額に対する各自の個戻残の割合
      
 :①~④により各人の受ける財産の合計に対する各人の財産の割合)
                            

    
卒時遺産ソロバン 

       卒時財から (全ての)
遺贈いた
       
うつつ積極財産個戻残分分けてゆけ


  受遺者
遺贈
(後から)えらる

    
相続債務
 人各自(が)債権者
      法定クオレ
900分担、取立ける


受贈物の滅失等

 民法904条は、
 「
前条に規定する贈与の価額は、
   受贈者の行為によって、その目的である財産が滅失し、
       又はその価格の増減があったときであっても、
  相続開始の時においてなお原状のままであるものとみなしてこれを定める。


として、特別受益財産の持戻し計算に際しては、受贈後 特益者自身の行為によって、受贈物が滅失し、或は 価額の
増減があったとしても、なお 原状の侭 あるものとみなして算入するよう定めています。
 例えば、贈与を受けた建物に、受贈者がその後増築を加え、建物全体の価値が上がったとしても、持戻す財産とし
ては増築のないままの建物として算定します。

 受贈者の行為によらず、不動産価格の高騰によって価値が上がったのであれば、その評価額により算定します。
 しかし、天災で滅失したのであれば、零評価です。

なお、その評価をする基準時はいつか についてはこちらをご覧下さい。


 特別授益受益者行為

          
(受贈)904(滅失)たり価格増減させるとも

        るよ904」言わず (相続)開始時

    
この
904(に)原状(で)あるもの と仮定した上 評価せよ
                    (天災で滅失は零評価)




寄与分
 
これ迄、法定相続分(クオレ)指定相続分((く)の分)調整分(個戻残分)遺留分(天与分)と「分」の字が続きました
が、次は「 寄与分」 です。
 遺産を増やしてくれた、或いは、その侭ならば減るべきところを、補充・維持してくれて、維持増加に特別に寄与
してくれた相続人には その分を 寄与分 として返すべく、戻し計算をして、残りを遺産として分ける訳です。
 寄与分を認められるのは相続人で、その寄与の方法としては、労務の提供、療養看護、財産給付によるものが挙げ
られていますが、その他の方法でも、被相続人の財産の維持又は増加について同じく特別の寄与をしたことが認めら
れれば、寄与分を受けられます。そして、寄与者は、寄与分を加えた額を以て自分の相続分とされます 
(民法904条の2)

 (相続人)寄与分   (親族)特別寄与料チャート

〔コンセプト〕 遺産を増やしてくれた、或は その侭ならば減るべきところを補充等して維持してくれ、維持増加に特別に寄与した
相続人には、寄与割合を寄与分とし、卒時遺産から寄与分を引いた残りを
みなし遺産」として、そのクオレ分(法定相続分)に寄与分を
加えたものを その者の相続分とし、寄与してくれた
(相続人以外の)親族には、その寄与に応じた金銭を支払う。
 (寄与の方法は労務の提供、療養看護、財産給付等)    

 
(相続人)寄与分 「いつでも」協議できる遺産分割の場で請求できる。

        (卒時遺産寄与分) × クオレ(法定相続分) (寄与のなかった)他の相続人の相続分

  
       
 (卒時遺産寄与分)  × クオレ(法定相続分)    寄与分 寄与相続人の相続分
           
み な し 遺 産                   割合請求→遺産分割協議→審判

 (親族)特別寄与料  相続人ではない親族:額を決めて相続人らが相続分に応じて負担。 被相続人が亡くなったことと、その相続人 を
            知った時から六か月が経過するか、又は、亡なって一年経過で請求権が消滅。平30法改正により新設 (§1050) 
                              金銭請求
→協議→審判
                            
                              

 寄与分・特別寄与料
   いずれも卒時遺産から遺贈を引いた残額を超えることは不可との上限がある
 
(寄与分寄与料遺贈不可侵)。(§904条の2Ⅲ、§1050Ⅳ )



    (相続人)
遺産 増加やその維持

   
(特別)
寄与 してくれしにん9042

     
(寄与した分を)
(相続分)えてくれよ9042
                    
めたら

      まともな
この
9042として

            
 
遺産うちからその

          
寄与分として(取り分けて)すべし


  相続財産’ 
      (
没時の財から)寄与分いたりをそうみなし
              
この
9042をばけるべし。  



   維持増加 方法

    労務提供療養看護
給付この9042



寄与分・特別寄与料の上限 
 遺産の維持増加に特別に寄与してくれた相続人に、その「分」を返すべく考えられた寄与分ですが、民法は、それ
はそうだが、その「分」を受けていた被相続人自身が、遺言の中で、例えば、過去に何某さんから受けた大恩に報い
たい等々の思いから 遺贈をしているのであれば、遺贈への思いを優先し、遺贈をそのとおり遂げられない程には寄与
分を認めてはならないという趣旨の定めを置いています。つまり、寄与分は、卒時遺産から遺贈を引いた残りを超え
ることはできないとの定めです

寄与分は、
 被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。

 (民法904条の2第3項)
 それは即ち、遺言者のした遺贈を重んじ、その実現を図ることを優先し、相続人の寄与による相続枠の調整は劣後
させるもので、遺贈は 相続枠の外の、しかし、重んずべき事柄であることを表してもいます
(→但し 遺留分侵害額の請求先順)
 そして、この理は、法改正により新設された、親族ではあるが相続人ではない者に対する 特別寄与料 においても、
その趣旨が貫徹され、民法最後の章「特別の寄与」の、民法最後の条文1050条4項は、904条の2 第3項と主語以外
は全く同文となっています。




  
寄与分遺贈があれば
 
   
(相続開始)(産)から遺贈いた
 
          残額
 えては算定できぬ



  
うべくえる寄与分9042限度あり

   卒時財
から遺贈いたうつつをばえられぬ 
 



寄与分の請求

 
寄与分は、相続人間での遺産分割協議
(民法907条)に際し、その請求権を有する相続人から申し出て、又は、遺産分割
を終えた後の認知による相続人
(子)から価額支払請求(民法910条)と合わせて請求して、当事者間では協議ができず、或
いは協議が不調であった場合には、家裁に請求することができます。
 家裁では、まず調停で、次いで、調停も不成立であれば審判で、決着が図られますが、家裁はその際、寄与の時期、
方法及び程度、相続財産の額、その他一切の事情を考慮して寄与分を定めます
 (民法904条の2第4項)

 ですから
[具体例]よく挙げられる例は、父の家業を長年手伝い、支えてきた長男や妻ですが、その他 共働き
の妻が、夫婦の協力義務の程度を超えて、夫の財産形成に自身の懐から支出して協力したとか、夫婦間には生活保持
義務
があるので通常は夫の介護に努めても寄与を認められませんが、夫婦別産制の下、自己の固有財産を減らしつつ、
保持義務の程度を超えて長期間献身的に介護した場合とか、子を代襲する孫が、家業を助けてきた亡子の寄与を援用
して、その寄与分を受けるとか、子が父親の財産の相続に際し、自己の相続分を母に譲る形で遺産分割を終えていた
場合のその母親の遺産に対する寄与分とか、種々様々な形や事情が考慮されて、寄与分を認められる例があり得ます。

 しかし、「財産の維持・増加」に対する寄与とされていますから、財産的なものではない寄与については寄与分と
認められないことになります。

寄与分と遺留分
 寄与分と遺留分との関係については、どうでしょうか。遺留分は、後述のとおり、故人の卒時財産に、短期・長期
の生前贈与、それに相続人に対する特益贈与等を加えて、みなし遺産とし、これから相続債務の総額を引いて、遺留
分割合をかけ、その者の相続分をかけてから、その者の相続による取得分、受益分を引き、その者の債務負担額を加
えて、遺留分侵害額を決める訳ですが、この算定過程では「寄与分」は一切登場しません。遺留分の算定については
各種の要素が加わる旨関係条文が多数置かれているのに、寄与分には触れるところがないということは、寄与分を考
慮することはできない、ということではないでしょうか。

 「寄与分の上限」
(§904条の2Ⅲ)として、被相続人本人が、実質的に寄与分に相当する部分をも遺贈で処分する場合に
は、その本人の意思を尊重する旨定めがあるのであれば、遺留分を侵害された相続人に対し、公平の観点から最小限
の保障をするため、被相続人本人の意思をも退けて強制的に確保されるのが遺留分であることに照らしても、寄与分
は 遺留分に譲歩せざるを得ないと考えます。遺留分権利者からの遺留分
(侵害額)現債請求に対して、寄与分をもってす
る抗弁は、することができない と言わざるを得ません。



  

  遺産分割寄与分しと

     ひと かんべますに9042、協議 不調不能なら 

         家裁一切(の事情を)考慮して調停審判 いてす。

                     
「ノペ」は9の伊語「ノーヴェ」から



親族に対する特別寄与料に関する平成30年7月の民法改正
 
従来、例えば 亡くなった長男の妻 (嫁さん) が、長男死亡の後も ( 姻族関係終了の意思表示をせずに ) 身近で義父母の介護
等に尽くしたのに、その義父母が亡くなったときには、法定相続人でないためその貢献が全く報いられないのは気の
毒だということが言われてきました。そして、その様な場合こそ、その義父母にあたる人は予め、相応の財産を嫁に
遺贈する旨遺言をしておけば、自身の死後 嫁の介護等に報いてあげることができる訳で、遺言が必要な典型例と言わ
れてきました。

 今回の相続法改正では、新たに章を設け、このようなケースを遺言がなくとも救済できるよう、第九章「特別の寄
与」の章名の下、1050条
(民法の最後の条文です)として、特別寄与料の請求権を創設しました。
 故人の親族
 ( 相続人、並びに、放棄・廃除・欠格により相続権を失った者を除きます) に限り、
無償で療養看護その他の労務を提供したことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした
という要件に当てはまれば、その特別寄与者は、相続人に対してその寄与に応じた金銭 ( 
特別寄与料 ) の支払いを
請求することができることになりました。

 当事者間で協議が整わなければ、家裁に対して協議に代わる処分を求めることもできます。
 特別寄与料の額は、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して定められますが、前述
寄与分の上限と同じく、卒時遺産から遺贈の額を控除した残額を超えることはできません。

 この特別寄与料の支払いが決まると、相続人らは各自の相続分に応じてこれを負担することになります。

 但し、この特別寄与料には、請求できる期限があって、被相続人が亡くなったことと、その相続人を知った時から
六か月が経過するか、又は、亡くなって一年が経過すると請求権が消滅してしまいますから、特別寄与者にあたる人
は、時期を逃してしまわないよう、注意が必要です。

 この改正法は2019年
(令和元年)7月1日から施行されています。

 上記のように、この特別寄与料が認められるのは親族に限りますから、内縁者は除かれます。従って、上記の遺言
必要例のもう一つとして良く挙げられていた内縁ケースはそのまま残ることになります
(→内縁者の相続関係)


遺 留 分 
 「分」の字の見出しばかりが続いて恐縮ですが、相続用語として「分」の付くものはこれが最後です。なにしろ、
民法第五編「相続」の最後の章である 第十章「特別の寄与」1050条の一箇条が設けられる迄は、「遺留分」が最後
の章でしたから。
 民法は、 第九章の1042条から1049条迄を 遺留分 に関する規定で連ねます。ところが、最初の1042条1項

兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として

   次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、
   次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に
定める割合

                      を乗じた額を受ける

    

      一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一
      二 前号に掲げる場合以外の場合   二分の一 


とだけ定めて、遺留分の何たるかを直接定義してはくれません。ですので、まず、この字解から入ることとすると、
(忘れ物の「遺留」品は全く別として)、やはり、同条のいう「兄弟姉妹以外の相続人」、つまり、子、親、そして、配偶者に
」す為に「」保された「(割合)」ということになります。

 民法で「分」の字が付く用語を 登場順で見ると、相続人には 法定の「相続分」
(§900クオレ)があり、これを遺言
によって「指定相続分」
(§902 (く)の分)に変えることができ、生前贈与や(遺言で)遺贈を受けた相続人がいる場合、
その者を「特別受益」者として 、贈与を遺産に持戻したり、遺贈を遺産に計上したりして、受益者「その者の相続
分」はじめ相続人全員の相続分を調整します
(§903Ⅰ調整分:個戻残分)

 しかし、この調整は 貰い過ぎであった者を 卒時遺産の配分の席から退席させるだけで
(§903Ⅱ)、貰過分について
は、手を付けません。つまり、個人が亡くなる時に遺した財産を分ける割合を調整するだけです。

 そこで、上記1042条が置かれて、相続人に対する 特別受益 や 、被相続人が生前に、或は、遺言で、他人に与え
た財産等が多くあって、そのため、相続分の調整によっても、皺寄せを受ける相続人
(子・親・配偶者)には、卒時遺産に
1043条1項に規定 の持戻しや計上を加えた財産
(遺留分原資) に 一定の「割合を乗じた額を受け」(§1042)る権利を認め
て 救済を図ります。それが 遺留分 制度です
(→個戻残分と遺留分)
 つまり、遺留分は 一定の相続人に保障された最低限の相続分です。遺言者の意思は最大限 尊重されますが、それ
を超えて、天が与えるので
天与分1042)です。

 これがないと、貰過相続人以外の者は、
(以上は積極財産である卒時遺産のみを見てきましたから、)消極財産である相続債務を
原則 クオレで 負担させられ
(§902の2)、故人の借金を払うだけの相続となって、泣きっ面に蜂となってしまいます
(相続放棄の途はありますが)

 ですから、遺留分は、被相続人と親等的にごく近いことから扶養等でも被相続人に依存する関係にあって、故に
遺産に対する一定の期待も許されてよい者である
配偶者・子・親 に保障される最低限の保障分、天与分1042です。
 被相続人がなした、これに抵触する贈与や遺贈に対し、保障される割合の金銭債権を発生
(現債)させ、遺留分権者
はそれら受贈者・受遺者にその限度での遺留分侵害額請求をすることができます
(§1046)

 ここで、注意すべきは、1046条1項が、その括弧書きで、遺留分侵害額請求の相手方に
特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む
としている点です。903条による相続分の調整は「相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は・・贈与を受けた
者があるとき」ですから、遺贈も贈与もなく、卒時遺産を、「相続させる」遺言によって相続するだけのケースであ
れば、903条の出番はありません。法は、遺言者による相続分の指定を重んじ、その指定に介入することを控えます。
しかし、遺留分に欠ける相続人が出る場合は、「相続」だけのケースであっても、遺留分侵害額請求が許される、と
いう点が特別受益と遺留分の大きく異なる点です。



 
遺留分の割合は、原則として二分の一ですが、親だけが相続人である場合は三分の一となります1042Ⅰ①②)
従って、相続人が複数いる場合は、この天与分
(遺留分)をさらに相続人間のクオレ (法定相続分) で分けて、各相続人の
個別の
具体的遺留分割合を算出することとなります1042Ⅱ)(→「子」の具体的遺留分)


改正法による遺留分規定の概観
 平成30年の相続法改正によって遺留分関係の規定も重要な改正がありました。この改正法の施行日は、 2019年
(令和元年)7月1日です。
 ちなみに、上記第九章より前に「遺留分」が登場していた902条964条の各但書 
(何れも、本文の後に「ただし、遺留
分に関する規定に違反することができない」旨を定めていました)
 は、平成30年の改正時に、削除されました。相続分の私定(指定)
や遺贈によって遺留分を侵すことはできない旨の但書でしたが、誤解の種であったことも事実の様なので、それは
それで良かったと思います。遺留分に基づく権利 
(改正前は遺留分減殺請求権) は その権利者の主張を待って必要範囲で
遺贈や贈与を失効させる
権利で(した。改正後は、「遺留分侵害額請求権」になります)、行使するか否かは権利者の意思にかか
り、相手に行使の意思表示をして、その効果を生じさせる
形成権です。然し、改正前の上記各但書には、指定相続
分であれ、遺贈であれ、何れも
遺留分の「規定に違反することができない」ので、権利行使を待つことなく初めか
ら無効であるかの感があって、紛らわしかったのです。

 
そして、改正後は ( 新しい条文ですので、新10条とすべきところですが、略して、新しい条数だけを太字とします。そして、
対応する従前の条数を、旧10条として併記します)
 、まず

1042条
 ( 旧1028条 ) で、従前通りの遺留分割合(直系尊属だけが相続人であるときは1/3、その他のときは1/2。相続人が複数の場合は、
これにクオレ(法定相続分)を乗じて具体的遺留分割合とする)
を定め、遺留分額は、次条以下による遺留分算定基礎財産(遺留分原資)
額に遺留分割合を乗じて算定する旨を定めます。次の


1043条 
( 旧1029条 ) で、遺留分算定には、卒時遺産に贈与を加え債務を引く旨を定めて、遺留分の算定基礎財産
(遺留分原資)の算式を示します。

1044条
 ( 旧1030条 、旧1044条 ) で、算定に加えるべき贈与を、相続人(特別受益)に対するものと、相続人以外の者
対するものとで分け、それぞれで算定に加えるべき贈与の時的範囲を、
前者で10年、後者で1年までとし、それ
より以前のもの
知情(当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知りながらした) のものに限る旨を定めます。次の

1045条
 ( 旧1038条、旧1039条 ) では、加えるべきものが、負担付贈与、不相当価格の有償行為によるものの場合、
後者は知情のものに限り負担付贈与とみなし、何れも 負担を控除することを定める 等して、

以上で
遺留分原資の額が算出されます。そして、

1046条 
( 旧1031条 ) で、遺留分権利者は、( 遺言で「相続させる」場合も含む ) 受遺者・受贈者に対し、遺留分侵害額
請求することができる
旨を定め、その遺留分侵害額の算定は、遺留分額から当該相続人の(相続分による)取得財産額と
受益財産額
(=特別受益の受遺・受贈)を控除し、負担すべき相続債務額を加算して算出すべき旨を定めます。

1047条
 ( 旧1033~1035条、旧1037条 ) では、受遺者・受贈者に対し、侵害額を請求できる順序や割合、無資力による
損失負担、受遺者・受贈者の侵害額負担の限度、
相続人が受遺者・受贈者である場合のその者の遺留分額の控除等、
侵害額請求の細則を定めます。終わりの2か条は、従前の内容で、


1048条 
( 旧1042条 ) が、請求権の短期消滅時効 ( 知って1年、死後10年 )
1049条 
( 旧1043条 ) が、遺留分放棄となります。


 
これまでの規定と変わったのは、
❶ 遺留分算定に加えるべき贈与について、相続人に対する
(特別受益としての)贈与は、相続開始前10年を境に、
それより前のものについては当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知っていながら贈与した
(悪意知情の)
ものに限られることとなった点と、この贈与も相続人以外の者に対する贈与
(相続開始前1年を境に、同様 加算)と同じ一つ
の条文に納められたこと、

❷ 卒時遺産に贈与を加えて債務を引いた
算定基礎財産(遺留分原資)から、遺留分割合とクオレ(法定相続分)を掛け
遺留分額から、相続による取得額と受益額を控除して、負担する債務額を加えるという 判例
(最判平8・11・26)で示さ
れていた
遺留分侵害額の算定法が明文化され、侵害額請求の相手方である受遺者・受贈者が相続人である場合、そ
の者に対する請求額からその者の遺留分額が控除されるべきことが示されたこと
 (この点も、判例を踏まえた改正でした。
こちらをご覧下さい)
、そして、一番大きな点として、

❸ 「遺留分減殺請求権」は廃され、「
遺留分侵害額請求権」が創設されたことです。
請求権が金銭債権に変ったこと
(私なりに、遺留分現債 請求権と呼びます)により、従前の一部減殺による残部相当
額の給付
( 旧1032条 )、受贈者による果実の返還( 旧1036条 )、受贈物譲渡による価額弁償( 旧1040条 )、受遺者・受贈者
側からの価額弁償による目的物返還義務の免除
( 旧1041条 )の各規定は、新1046条に実質吸収されるか、不要となっ
て削除されました。



特別受益と遺留分 人的範囲 (相続人限りか否か) 債務の扱い

 
特別受益は、被相続人から相続人に対して、卒時遺産以外に、呉れ産 ( §903=特益生前贈与 ) の授益により逸出して
いた財産があれば、これを観念的に持戻して 遺産のパイを増やし、
調整(相続) (個戻残分) を得ようとする、つまる
ところ
相続人の間だけでの計算 (みなし遺産ソロバン) でした。

 この場合、相続債務
(別記の様に、相続開始と同時に各相続人に対し当然の負担として課されますから) 相続人間の分 調整
するだけの計算では、フェイズの異なるファクターなのでオミットし、
積極財産だけを考えます(但し、この調整
作業は、遺言によって、調整不要
(持戻免除)を宣せられると、特別受益は手つかずで、卒時遺産のみの 相続分による遺産分けとなりますが、
それでは配偶者・子・親の取得分が過小となる場合、遺留分が最底限の保障をすることになります。)


 
遺留分は、しかし、遺言で不当に少ない取得分となったものの、相続放棄をした訳ではないので、相続債務はし
っかり取立てを受ける相続人のために、最底限の相続分を保障するものです。なので、相続人に対する贈与だけに
留まらず
第三者に対する贈与も含め、 (持戻し免除の意思表示があっても ) 強制的に持戻しをし ( この段階では同じく観念
的にですが、侵害額請求の段階で現実的になります )
た上、現実保障の場面である為、保障に回せる金額如何を算出する必要
から、
消極財産(相続債務)全額を控除して、これを遺留分の算定基礎財産 (みなし遺産のパイ:遺留分原資) とします。

 ここで、注意すべきは、1046条1項が、その括弧書きで、遺留分侵害額請求の相手方に
特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む
としている点です。903条による相続分の調整は「相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は・・贈与を受けた
者があるとき」ですから、遺贈も贈与もなく、卒時遺産を、「相続させる」遺言によって相続するだけのケースであ
れば、903条の出番はありません。法は、遺言者による相続分の指定を重んじ、その指定に介入することを控えます。
しかし、遺留分に欠ける相続人が出る場合は、「相続」だけのケースであっても、遺留分侵害額請求が許される、と
いう点が特別受益と遺留分の大きく異なる点です。


 法は、その上で遺留分原資の
半分 (親だけが相続人であるときは1/3 ) を遺留分とします。それのクオレ分 ( 具体的遺留分 ) 
より相続人の
(特別受益があればその分も含めた)取得分が少ない場合は、その少ない分を遺留分侵害とし、その限度で、
(相続人以外の者に対するものも含め) 受遺・受贈者に対する金銭債権 遺留分侵害額請求権を認めます
(対象は広いのですが通常、メインとなるのは、相続人に対する生前10年間の、そして、非相続人に対する生前1年間の、贈与と遺贈、そして、
相続人に対する過大な特定財産承継遺言 或は 指定相続分となると思われます)
 

 例えば、被相続人が、相続人である妻子をないがしろにして、亡くなる直前に愛人に家屋敷を贈与していた、
或は 遺言で遺贈するとした場合等を想定すると、妻子からの遺留分の主張も 分かり易いのではないでしょうか。

 なお、現実の保障場面であることから、上記の「相続人の取得分」には、相続分による算定分の他、被相続人か
らの遺贈等を含めた受益分があれば、これも 取得分 に加わえますし、逆に 相続債務のクオレ
(法定相続分)による負担分
として支払う額があれば、遺産から加算して補償します
(民法1046条最判平8・11・26)

 本項と同趣旨となりますが、こちらもご覧下さい。



遺贈と調整(相続)分・遺留分
 
相続人に対して遺言で、相続とは別枠で、「遺贈」があった場合でも、相続人間の公平のために卒時遺産に加え
られて「みなし遺産」とされるのは、卒時遺産から生前に逸出している特別受益
(903条)の贈与(特益受贈)だけです。

 相続とは別枠で「特別」に遺贈
(特益受遺)があったとしても、その分はまだ卒時遺産に含まれているので、みなし
遺産 を俎上に載せるのに、これを加える必要はありません。ここ迄は、特別受益 ある場合の相続分調整に際して
も、又、遺留分算定に際しても、同じ作業ということになります
 (但し、遺留分算定では、算入すべき対象として相続人以外
の者に対する生前贈与も含む拡大みなし枠となりますし、贈与を、相続人・非相続人ごとに時期を画して、悪意知情のものは時期を超えて
も、算入する等の細かい基準がありますが、相続人の特別受益ケースでの相続分の調整では、時期・知情の有無は不問で全ての特益受贈が
算入されます)


 その後のステップで相続人に対する遺贈を計算に入れなければならないのは、調整
(相続)( 個戻残分)の作業にお
いては、引戻して個戻残を算出するときと、算出された調整
(相続)分で実際に分ける際に、卒時遺産から受遺分を
控除した残余を分ける、ときとなります
(→個戻算法コンデンス)

 また、遺留分計算においては、卒時遺産に特益受贈を加えた みなし遺産 から債務総額を引いて、遺留分算定基
礎財産額
(遺留分原資)が算出された後、これに遺留分割合とクオレ(法定相続分)を乗じた数字(遺留分額)から、当該相続人が
受けた特益受贈・特益受遺を、
(法定 or 指定)相続分による取得額と共に控除して、最終的な遺留分侵害額を出す際と
なります。
 因みに、その際は、遺留分原資の算出時に全額控除した相続債務額の内、その相続人が負担すべき債務額を補償
するためにその額を加えてやることになります(民法1046条最判平8・11・26)


遺留分原資

 
そして、上記 1042条に言う遺留分を算定するための財産の価額 (遺留分原資)については、
次の1043条が、
 「
被相続人が相続開始の時において有した財産の価額に
    その
贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする。
として、卒時遺産に過去の贈与分を加え
(相続人以外の者に対する贈与も含む「拡大みなし枠」です)債務総額を控除する
ことを言明し、

次の1044条の1項で、加えるべき
 「
贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。

   当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与したときは、
                 一年前の日より前にしたものについても、同様とする

旨を、同条の3項で
 「
相続人に対する贈与についての第一項の規定の適用については、同項中「一年」とあるのは「十年」と、
   「価額」とあるのは
     「価額(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限る。)」とする。

述べて、

 
算入されるべき贈与を、短期(相続人については10年内、相続人以外の者については1年内)のものと、
  それを超える
長期知情(遺留分権者に損害が発生という事情につき)のもの(相続人について「特益受贈」であることを要します)

という形で明らかにしています。

また、1043条2項は、原資となるべき贈与や遺贈が、
 条件付きの権利
又は存続期間の不確定な権利であるときは 家裁選任の鑑定人の評価に従い価格を決める旨、

1044条2項は、加えるべき贈与の価額は、
  受贈者の行為によって、その目的である財産が滅失し、又はその価額の増減があったときであっても、
   相続開始の時においてなお原状の侭 あるものとみなして定める
(904条の準用)旨、

次いで1045条
  負担付贈与である場合における贈与財産の価額は、目的の価額から負担の価額を控除した額とする旨、

同条2項
 不相当な対価をもってした有償行為は、
 当事者双方が知情
(遺留分権利者に損害を加えることを知ってした)のものに限り、当該対価を負担の価額とする負担付贈与
  とみなして算定する旨

を定めます。
民法は、以上で遺留分原資の算定法を示し、次条
(1046条)での遺留分侵害額の算定とその請求へと進んでゆきます。

受贈物の滅失等
 民法1044条2項は、特別受益となる受贈の持戻しに関する民法904条
  「
前条に規定する贈与の価額は、
    受贈者の行為によって、その目的である財産が滅失し、又はその価格の増減があったときであっても、
     相続開始の時においてなお原状のままであるものとみなしてこれを定める。

を準用するとして、遺留分原資に算入されるべき贈与の持戻計算に際しても、受贈後 受贈者自身の行為によって、
受贈物が滅失し、或は 価額の増減があったとしても、なお原状の侭 あるものとみなして算入する と定めています。

 例えば、贈与を受けた建物に、受贈者がその後増築を加え、建物全体の価値が上がったとしても、持戻す財産と
しては増築のない侭 の建物として算定します。

受贈者の行為によらず、不動産価格の高騰によって価値が上がったのであれば、その評価額により算定します。
しかし、天災で滅失したのであれば、零評価です。

財産評価の基準時
 
遺留分算定のため持戻計算をする贈与財産の評価は、時に その時期によって大きく変動します。どの時点での
評価額によるかは大きな問題となります。

 ところで、遺産分割での配分割合である相続分は、被相続人が亡くなった時点での相続人の状況によりますから、
相続開始時を基準とします。

 しかし、遺産を分割するに当たっては、遺産分割時点での遺産の評価額によるのが、全相続人の衡平の為には分
かり易く妥当です。その後の評価額の変動は、分割結果を左右するものではありません。

 そして、特別受益である生前贈与の評価は、相続開始時点での 相続分 を調整する為に持戻しをする贈与財産の
 評価ですから、その調整対象である 相続分 の算定時点と軌を同じくして、相続開始時点での評価となります。

 同様の思考で、相続分の最低保障である 遺留分 の算定の為 持戻しされる贈与の評価も、相続開始時となります。

その旨の次の判例があります


相続人が被相続人から贈与された金銭をいわゆる特別受益として遺留分算定の基礎となる財産の価額に加える
 場合には、贈与時の金額を相続開始時の貨幣価値に換算した価額をもつて評価すべきである旨 判示した判例

 (最判昭51・3・18)


この判決は、その理由を
「被相続人が相続人に対しその生計の資本として贈与した財産の価額をいわゆる特別受益として遺留分算定の基礎
となる財産に加える場合に、右贈与財産が金銭であるときは、その贈与の時の金額を相続開始の時の貨幣価値に換
算した価額をもつて 評価すべきものと解するのが、相当である。けだし、このように解しなければ、遺留分の算定
にあたり、相続分の前渡としての意義を有する特別受益の価額を相続財産の価額に加算することにより、共同相続
人相互の衡平を維持することを目的とす る特別受益持戻の制度の趣旨を没却することとなるばかりでなく、かつ、
右のように解しても、取引における一般的な支払手段としての金銭の性質、機能を損う結果 をもたらすものでは
ないからである。」
と述べています。





遺留分を算定するための財産の価額 (遺留分原資)
「遺留分の算定」と見出しされた旧1029条は、平成30年改正により、その見出しを削除され、本文1項が、文の
主語「遺留分」を次のように改めて、
 「
遺留分を算定するための財産の価額は、
    被相続人が相続開始の時において有した財産の価額に
      その
贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする。
となり、2項と共に、1043条となって、この本文の主語が見出しになりました。

 この条文の趣旨は旧1029条と変わりありません。
 ここで重要なのは、卒時遺産に加えるべき贈与には、
  相手が相続人であるか否かと関係なく、
(その意味での)全ての贈与を加えてみなし遺産とすることです
  (この点が重要ですが、これは改正の前後で変わりありません。ただ、対象となる「贈与」の基準が次条で変わります)


 特別受益では相続人に対する贈与だけを加えてみなし遺産としましたから、遺留分での みなし は拡大みなし枠
と名付けることができます。
 また、特別受益では持戻し免除が可能でしたが、こちらは強制戻しとなることについて、こちらをご覧下さい。
   

 
   遺留分
故人、遺贈生前贈与

       身内忘
れたやりぎに自由
1029減殺(現債)

   卒時
「記憶にもとぉに ねぇべ1029わずに

       
過去
贈与債務いて

          
遺留(分請求)予算1043財源とする。

「ねぇべ」は西語の9「ヌェベ」から

ここでは「0」(レイ)を、形から「粒」に見立てて、(特別に)「リュウ」と読みます(恐縮です)。



遺留分原資に関する平成30年7月民法改正 (遺留分原資に持ち戻される贈与)
 
遺留分の原資として算入される贈与は、従来、まず旧1029条で単に「贈与」が持ち戻されるとした後、旧1030条
で、贈与を1年を基準とした短期と知情・長期とに分けて持戻対象とする旨規定し、更に、旧1044条で相続人に対す
特別受益
(903条)を遺留分について準用していました(903条の旧3項が 持戻免除の意思表示につき、「遺留分に関する規定に違反しない
範囲内で、その効力を有する」としていたことから、遺留分においては、相続人に対する贈与の持戻しが強制される旨 示されていました)
が、
遺留分原資に算入される贈与としては、1044条1項
相続人以外の者に対する贈与が 短期長期の別でその侭
維持され 、
相続人に対する関係では、同条の3項として、相続開始前の十年間にした贈与が原則持戻しされる
こと、算入される価額は、特別受益である「婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額

(903条)である旨 定められ、そして当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知っていながら贈与をしたと
きは、十年前の日より前にしたものについても、持戻しを受ける
旨規定されました。

 要するに、相続人以外の者に対する関係は変更がありませんが、相続人に対する関係では、これまで知情の有無を
問わず、全て算入されるとされていたところを、十年より前にした贈与については、その点の悪意を要することとな
り、かくして、贈与が、旧1030条
旧1044条から、全ての人に対する関係で、新1044条 一箇条に纏められました。

 つまり、遺留分原資における「特別受益」は、本来算入されるべき贈与と
、(卒時遺産に含まれているため)算入されるべき
でない遺贈とを区別することなく、単に「準用する」
 (旧1044条)としていたのを、遺留分原資として卒時遺産に加算・
算入すべきはその内の贈与であることを明示し、結果として、算入さるべき贈与としては、相続人に対する 特別受益
と相続人以外の者に対する贈与の二種があることを示し、算入対象期間として、前者は10年、後者は1年を境として、
期間を超えるものは 知情 を要する、という分かり易いスキームになったと言えます。

 なお、この様に、特別受益規定の準用から、遺留分の章プロパーの上記
3項を置くという改正に伴って、特別受益
規定の方でも手直しがありました。こちらをご覧下さい。


 そして、従来、旧1029条2項であった、原資となるべき贈与や遺贈が、条件付きの権利又は存続期間の不確定な
権利
であるときは、家裁選任にかかる鑑定人の評価に従って価格を定めるべき旨の規定は、上記
(遺留分を算定するため
の財産の価額)
1043条の2項となり、又、従来の負担付贈与(旧1038条)不相当価格による有償行為(旧1039条)について
は、後者について
(従来と同様)当事者双方が遺留分について 知情のものと限った上、何れも「負担付贈与」として一つ
に括り、その負担を控除して、贈与の価額 とする旨、新1045条にまとめられました。
 また、従来旧1044条で準用していた、贈与の目的が、受贈者の行為によって滅失し 又は その価額の増減
あったときでも、相続開始時においてなお原状の侭 あるものとみなして価額を定める旨の904条を、贈与の基準を
その1項と3項に置く新1044条2項で準用しています。


 因みに、遺留分規定は、従来旧1028条から1044条 迄でしたが、改正後は新1042条から1049条になります。
改正法は、2019
(令和元)7月1日から施行されています( 遺留分規定が後ろにずれたのは、その前に、従来なかった「配偶者居住権」
の規定 (新1028条~1041条 ) が加わったためです)
 

従って
改正後の遺留分原資(卒時遺産に加えられてみなし遺産とされる贈与)のまとめは、次のようになります。そして、
これらの内、4.~6.が遺留分原資に算入されるべき贈与の価額についての定めですから、次の段階でいよいよ
遺留分現債請求となった場面で、その侭 受贈者の負担する遺留分侵害額請求 負担限度額についての定めとなります。
受遺者についても、同様の限度額についての定めが必要なので、
(受遺者又は受贈者の負担額)1047条2項は4.~6.を
遺贈又は贈与の目的の価額について準用する。」として、受贈・受遺両方につき 負担限度額をまとめています。
  1. 
は、これ迄 通り みなし遺産に計上される(卒時遺産に含まれているので、加算の要はない。新1043条1項の反対解釈)
  2. 
(相続人でない者に対する)贈与は、①生前一年のもの、②超一年知情のもの ( 新1044条1項)
  
3.  (相続人に対する特別受益の)贈与は、①生前十年間のもの超十年知情のもの (新1044条3項)
  4. 
負担付贈与 (旧1038条) は、贈与した目的の価額から負担を控除した額を、原資とする ( 新1045条)
     
(不相当対価でした知情有償行為 (旧1039条) は、その対価を「負担」とする負担付贈与とみなし、 その負担額を控除 ) 
    
5. 条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利であるときは、家裁選任にかかる鑑定人の評価に従って
    価額を定める
(新1043条2項)
  6. 贈与の目的が受贈者の行為によって滅失し又はその価額の増減があったときであっても、相続開始
    の時においてなお原状の侭 あるものとみなして価額を定める
(904条、新1044条2項)
  7. 卒時遺産に以上の贈与を加えた額から、相続債務の総額を控除する
(新1043条1項)


各相続人の遺留分額

 遺留分は、遺言で不当に少ない取得分となったものの、相続放棄
(民法939条)をした訳ではないので、相続債務があ
れば しっかり取立てを受ける
(民法899条)相続人(兄弟姉妹を除いた法定相続人)の為に、最小限の相続分を保障するものです。
具体的には、卒時遺産に相続人・相続人以外の者らが受けた贈与の額を加えた みなし遺産 (民法1044条)から相続債務
の総額を引いて、遺留分算定基礎財産額
(遺留分原資)(民法1043条)を算出した後、これに、具体的遺留分を乗じた数字が、
その相続人の遺留分額となります
(→遺留分チャート)

 具体的遺留分は、通常、その者の
具体的法定相続分の2分の1です(被相続人の親だけが相続人である場合は3分の1となります)
(民法1042条)

 具体的法定相続分は、例えば 被相続人の 配偶者と子 が相続人である場合、それぞれの法定相続分
(クオレ)は2分の1
(民法900条1号)ですが、「子」の具体的クオレは、子の人数によって変わります。子が二人であれば、「子」の1/2を
二分しますから、子一人の具体的クオレは 4分の1となり、子が三人なら三分して6分の1 です
(民法900条4号)

 従って、子の具体的遺留分は、それらの半分で、子二人の場合は、8分の1であり、子三人の場合は12分の1です。
この具体的遺留分額が、被相続人の遺言や生前贈与によって侵害された場合、侵害された相続人
(遺留分権者)は 、侵害
結果を生じさせる遺贈や贈与を受けた者
(受遺者・受贈者)に対し、侵害額の請求をすることができます(民法1046条)(条句)


 
    遺贈贈与すぎて

      身内受
くべき
さい旧1031
なら

        
今 知ろう1046侵害額請求

   
   必要範囲 天与分
(遺留分)1042 現債をして


 

    人の死に1042今 通夜1028

      遺言いごん告げられて、
身内受くべきさい旧1031なら

          遺留分した天与あり1042

     
最小限
保障 兄弟姉妹にこれはなく

         
     (相続人が)(直系尊属)だけならば(遺産の)()

                       
(それ以外)ならば 半分じゃ

            
権利者具体的なる(遺留分)割合は それをクオレ900ける也

平成30年改正遺留分条句
 
  遺留分故人 遺贈生前贈与

     身内忘
れたやりぎに自由
旧1029現債


遺留分額 算定条句


  故人
卒時財産 


   故人
 くなる直近

    相続人なら
十年その
(の受贈者)らば一年間

     「記憶
にもとぉに ねぇべ
1029わずに過去贈与

      よりの「遺留分食込らぬ'と言わさん1030 

     
(遺留分権利者に損害を加えると知っていながら贈与した) そんな贈与

                    えてチョウヨ1044

   「記憶にもとおに ねぇべ旧1029わすよ()1044 
    
れかけたる
(相続人に対する)特益贈与 十年以内なら

     遺産とみなし遺留分算定原資えてチョウヨ1044  「ねぇべ」は西語の9「ヌェベ」から



   加えたら、債務 いた(額の)クオレ900(法定相続分)

           半分して(親だけが相続人の場合は三分の一)遺留分額



遺留分侵害額 算定条句
         



    遺留分額出したなら、改正なって
今知ろう
1046侵害額算定は、


      
(相続による)
取得いてから、受益(分=特別受益の贈与と受遺) いて、負担する債務があれば加算する

           

    相手方、相続人なら受遺・受贈(の)財産額からその遺留分額 ()控除する




     遺留分 権利有するその侵害額したら、

           その
金額支払いを請求できる(支払を)しろ1046」と



遺留分侵害額の算定
 遺留分侵害額の算定は、上記の遺留分原資遺留分額の算定を経て、遺留分額から、侵害された相続人の取得分を
引いて算出します。
 以上をまとめると下記遺留分チャートとなります。相続債務があった場合の遺留分侵害額の算定方法を分かり易く
示した次の判例があります。
 

 被相続人が相続開始時に債務を有していた場合における遺留分の侵害額は、被相続人が相続開始時に有して
いた財産の価額にその贈与した財産の価額を加え、その中から債務の全額を控除して遺留分算定の基礎となる財
産額を確定し、それに法定の遺留分の割合を乗じるなどして算定した遺留分の額から遺留分権利者が相続によって
得た財産の額を控除し、同人が負担すべき相続債務の額を加算して算定すると判示した判例
(最判平8・11・26) 

 
この判例は、さらにその判文中で
「被相続人が相続開始の時に債務を有していた場合の
遺留分の額は、民法一〇二九条、一〇三〇条、一〇四四条に
従って、被相続人が相続開始の時に有していた財産全体の価額にその
贈与した財産の価額を加え、その中から債務
の全額を控除
して遺留分算定の基礎となる財産額を確定し、それに同法一〇二八条所定の遺留分の割合を乗じ
複数の遺留分権利者がいる場合は更に遺留分権利者それぞれの
法定相続分の割合を乗じ、遺留分権利者がいわゆる
特別受益財産を得ているときはその価額を控除
して算定すべきものであり、遺留分の侵害額は、このようにして算
定した遺留分の額から、遺留分権利者が
相続によって得た財産がある場合はその額を控除し、同人が負担すべき相続
債務がある場合はその額を加算
して算定するものである。」
と判示して、卒時遺産に算入すべき「贈与」
(旧1029条) の中味を条文によって列挙しています。

この判例は、複雑な算定方法を、分かり易くまとめており、文言的にも改正法の下敷きとなっていると思われます。
なお、挙げられている条文は改正前のものなので、現条文との対比関係はこちらでご覧下さい




 平成30年改正法による遺留分チャート

◎ 遺留分 §1042 一定の相続人のために必ず留保しておかなければならない遺産割合(最低限の保障分:天与分)。

法定の承継者である相続人(配偶者・子・親)がないがしろにされて、法定相続分を割り、その取得分が見過ごせない程に過小であるとき
 
(遺留分割合を満たさないとき)は、相続人の方から遺言による財産取得者や生前贈与の受贈者に対し「遺留分侵害額請求」をすれば、
遺留分を侵害された分だけ金額で補償される。

「減殺」から「
現債」: 平成30年の相続法改正により、改正前までの、遺贈や贈与を侵害の限度で失効させる「遺留分減殺請求
から、金銭債権による補償に変わった。「減殺」は遺贈・贈与を侵害の限度で部分的に失効させ、結果、その対象財産について受遺者
・受贈者と相続人が共有状態となって、法律関係が複雑・面倒。改正により、遺贈・贈与は失効せず、その侭 有効なものとして残され、
代わりに、侵害額請求権という金銭債権が登場する。コンセプトとしては、卒時遺産に生前贈与を加えて「みなし遺産」とし、基本、
これを遺留分原資とするが、故人に借金があれば、その返済のため債務額だけ遺留分原資は減る
 (権利者自身もその債務を相続分に応じ
負担するので、負担分は後の計算で補償される)



 Ⅰ 遺留分算定基礎財産額    卒時遺産の価額    生前贈与    債務総額 (新§1043) 
          (遺留分原資)                   (みなし遺産)


  〔卒時遺産(相続枠 + 遺贈枠 )えるべき生前贈与〕  §1044     

      (相続開始時に有していた)        
     
    卒時遺産の価額     (生前)          (遺留分権利者に損害を加える   
  (相続人以外の者に対する)   
+ 1年間の贈与  +  ることを知っていながら贈与した) 1年より前の贈与 

                
     (生前)                 (遺留分権利者に損害を加える
  (相続人に対する)     
 + 10年間の贈与(特別受益の内の) +  ことを知っていながら贈与した) 10年より前の贈与(特別受益の内の) 
  
 

 

 遺留分額:Ⅰの原資から、遺留分権者の具体的遺留分に基づいて額を算出します。(新§1042)

    算定基礎財産(遺留分原資)  × 具体的遺留分       

 

    具体的遺留分= 遺留分 × 法定相続分(900 クオレ)

    遺留分= 1/2  (例外:親だけが相続人であるときは1/3)  

    具体的遺留分:通常、妻と子が相続人とすれば、子のクオレは1/2 
   
子の具体的遺留分はその半分
の1/4。子が複数なら、子の数で割って、二人なら1/8、三人なら1/12

 遺留分侵害額
 
 遺留分額  (その遺言相続による)取得財産額  特別受益(生前贈与・遺贈) + (クオレによる)債務負担額 (新§1046)
 
請求相手方が相続人である場合、その者に対する請求額からその者の遺留分額を減額します(新§1047Ⅰ)こちら(判例)をご覧下さい。



次に、判例①の延長線上のものとして、相続人の内の一人に対して相続債務を含む財産全部を相続させる趣旨の遺言
がされた場合の遺留分侵害額の算定に関する判例があります。

 
相続人のうちの1人に対して財産全部を相続させる旨の遺言がされた場合において、遺留分の侵害額の算定
に当たり、遺留分権利者の法定相続分に応じた相続債務の額を遺留分の額に加算することは原則としてできない
旨判示した判例
(最判平21年3月24日) 

 この判例は、上記①判例で加算するとされた負担債務額について、一人の相続人が全財産を相続すると遺言された
場合はどうするかについて、

相続人のうちの1人に対して財産全部を相続させる旨の遺言がされた場合には、遺言の趣旨等から相続債務につい
ては当該相続人にすべてを相続させる意思のないことが明らかであるなどの特段の事情のない限り、当該相続人に相
続債務もすべて相続させる旨の意思が表示されたものと解すべきであり、これにより、相続人間においては、当該相
続人が指定相続分の割合に応じて相続債務をすべて承継することになると解するのが相当である。」、

「相続人間においては当該相続人が相続債務もすべて承継したと解され、遺留分の侵害額の算定に当たり、遺留分権
利者の法定相続分に応じた相続債務の額を遺留分の額に加算することは許されない。

「遺留分権利者が相続債権者から相続債務について法定相続分に応じた履行を求められ、これに応じた場合も、履行
した相続債務の額を遺留分の額に加算することはできず、相続債務をすべて承継した相続人に対して求償し得るにと
どまるものというべきである。」

と判示しました。前述の通り、遺言で相続人間での債務負担者や負担割合を定めることはできますが、それを債権者
に主張することはできないので、債権者から法定相続分によった取立てを受けた場合はそれに応じて弁済をしなけれ
ばなりません
(民法902条の2)。然し、遺留分侵害額の算定場面は、この債権者との対外的場面と異なり、内部的な補償
場面なので、加算は許されないということなのでしょうか。「求償」というのは、遺留分侵害額算定とは別場面であ
る旨を表すつもりでしょうが、①判例との対比では、「全財産を相続させる」場合だけの例外的な話となります。


参考
(改正前)遺留分 減殺 請求条句(民法旧1031条) 

   遺留分減殺請求

   
 
 通夜1028遺言いごんでて(どこの)とも知らぬ者が)

     
 受遺多くして偕老同(仲むつまじく)きてきた

                 私
遺産
という内容の遺言)なんて

          
そんな理不尽さん 
1031(減殺をして取り分〔遺留分〕を確保できる)
   


遺留分の章の最初に遺留分割合を定める旧1028条は、平成30年改正により新1042条となり、
( 遺贈又は贈与の減殺請求 ) と見出しのあった旧1031条は削除されて、
これに相当する条文の新1046条の見出しは、( 遺留分侵害額の請求 ) となりました。


  人の
1042 通夜1028遺言(いごん) (開かれて)
      (どこの)馬の骨
(とも知らぬ者が)受遺多くして
       偕老同穴(仲よく)きてきた 
         
遺産という内容の遺言)んて
                  
 そんな理不尽わすも
1046ばず
       
(口にされるだけでも耐えがたいから、遺留分の主張をします!)


   身内愛
 
1042 遺留分

       家族愛は(その)双葉1028(事の初め)でも最小限保障 故、
    
兄弟姉妹にこれはなく
(相続人が)(直系尊属)だけならば(遺産の)()

                                              (それ以外) ならば 半分じゃ



遺留分侵害額請求 ( 遺留分現債請求 )
 
遺言によれば、「相続させる」方法と「遺贈する」方法とにより、自由に遺産の行方を定めることができますが、それには
限界があります。それが
遺留分です。それは、法定の承継者である相続人 (兄弟姉妹を除きます) がないがしろにされて、その
者たちの遺言による取得分が、法定のパターン (で、有無を言わさず相続債務がかかってくるのに、)であるクオレ(法定相続分)を割
り、その取得分が見過ごせない程に僅少であるときは、遺言の自由に歯止めがかかります。その気の毒な相続人を救
済する為、法が最低限の保障分を定める のが遺留分
(1042条天与分)で、相続開始を知ってから一年(知らぬままなら十年)
以内であれば、相続人の方から遺言による財産取得者や生前贈与の受贈者に対し
遺留分侵害額請求(私なりに「遺留分
現債請求」と言います)をすれば、遺留分を侵害された分だけ金額で補償が受けられるのです(正に、相続放棄をすることなく
相続人に留まってもらうための「慰留分」です)
 

 遺留分現債請求は実際 どう行ったらいいのでしょう。まず、現債すべき遺贈や
(生前)贈与の受遺者、受贈者に対し、
遺留分侵害額請求をする 
(民法1046条)内容証明郵便で意思表示し、当事者間で話が纏まらなければ、家裁に調停
申立て
をします。調停でも 纏まらなければ、次は
地裁で訴訟を起こすします。

 普通の家事事件ですと、調停不成立の場合、審判移行して、その侭 家裁で審判事件として扱ってくれるのですが、
遺留分現債は、地裁での訴え提起という面倒なことになるので、この点が一般市民にとって難儀なところです。

 この内容証明郵便での請求を巡る判例
(最判平10・6・11)があります。相続人中の一人に全てを与える旨の遺言のあっ
た相続事案で、他の相続人が内容証明で遺産分割協議の申入れをしたのを、遺留分
(当時の)減殺の意思表示が含まれて
いるものと受け止めるべきだとして、申入れの意向を汲んだ解釈をし、内容証明郵便が留置期間の経過により差出人
に還付されたけれども、経過事情に照らし 意思表示が到達している とも認めて、当事者の意に沿った解釈に努めた
判決と言えます。なお、家裁での調停申立て書式等はこちらです。

 現債請求は、民法1046条に「
遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる」とある様に、請求
するかしないかは遺留分権利者の意思にかかります。
 請求できる金額は、侵害額現債の対象となる遺贈又は贈与の目的の価額までが限度となります
(1047条1項)

 そして、遺留分現債の相手に受遺者と(生前贈与による)受贈者がいる場合、1047条1項1号により 遺言で遺贈を受ける
受遺者が先に現債対象とされ、時間的にそれより古い受贈者は後という順になります。

 
また遺贈が複数あるときは、それらは時間的には横並びになるので、受遺者は目的の額に応じた割合で現債を
受けます。同様の発想で、贈与が同時に複数なされたときも、受贈者は額に応じ按分で現債を受けます
(1047条1項2号)

 
以上の様に、受遺・受贈での順と同様、前後複数の贈与は 時間的に遅い、後の贈与から現債を受け、新しいもの
から古いものへ及んでいきます
(1047条1項3号)

 なお、贈与の内、「一定期間第三者に一定額の寄付をすべし」という様な負担のついた
負担付き贈与については、
民法1047条2項が、遺留分原資の規定である1045条を準用するので、同条1項により「目的の価額から負担の価額
を控除した額」が侵害額負担の限度額となります。不相当対価でした知情有償行為 
(1045条2項) も、同じ1047条2項
で準用されるので、その不相当な対価を「負担」とする負担付贈与とみなされて、 目的価額からその負担額を控除し
た額が限度となります。
 目的が、条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利であるときは、家裁選任にかかる鑑定人の評価に従い価額
を定める旨の
1043条2項、贈与の目的が受贈者の行為によって滅失し又はその価額の増減があったときも、相続
開始時点においてなお原状の侭 あるものとみなして価額を定めるとする
904条も、同様 同じ箇所で準用があります。

 要するに、遺留分原資として卒時遺産に加算・算入される贈与の価額についての 前述した4.5.6.の各定め
が、遺留分侵害額の現債請求に際しても、その侭 請求限度額の定めになります。

 また、これらを、1047条2項が、侵害額請求の限度額となる「遺贈又は贈与の目的の価額について準用する。」
としているので、遺贈が遺留分現債請求の対象となるときの請求限度額についての定めともなります。

 これらのコンセプトは、相続は本来 相続枠
(P枠)で行われるべきところを、枠外での生前贈与(L枠)や遺贈(F枠)で行わ
れた財物の授受も、遺留分の保障の為には、救済の為の保障枠として、一定基準の下にP枠に取込むべく
(拡大みなし枠)
贈与の目的の価額を卒時遺産に加えてみなし遺産
 (遺留分原資)としますが、贈与をみなし遺産に取込む(持戻しの)基準は、
同時に、侵害額を請求できる限度額の基準ともなるということ、そして、但し、卒時遺産に加えられてみなし遺産
(遺
留分原資)
となるのは贈与だけですから、遺贈に関する侵害額請求の負担限度は、別に定める必要があったことから
遺贈
の目的の価額についても準用されたのでした(→「遺贈と調整分・遺留分」)



    遺留分侵遺贈贈与でも

     初手
から無効とはならず

      
遺留分 権利有するその
旧1031旧

        (
減殺意思の有無)つに也。


遺留分減殺請求について定める従前の1031条は、平成30年改正により遺留分侵害額請求権(私なりに「遺留分 現債 請求権」
と言っています)
を定める新1046条に取って代わられました。
遺留分現債の相手に受遺者と(生前贈与による)受贈者がいる場合、1047条1項1(旧1033条)により受遺者が先で、受贈
者は後
という順序になります。    

    遺留分侵遺贈  贈与でも初手から(侵害額の)支払いとはならず
        遺留分 権利有するその (請求)する1046 (減殺意思の有無)つに


     現債める(我が)
旧1033

         
(記憶にも)とおにねぇべ 旧1029れた過去 

      贈与
ムリムリ
るよりは
、(これから渡すので)未だ渡らぬ 遺贈 をば

           
 
すべきを  (請求順を)1046  1047Ⅰ① (いの一番)

                    
「ネェベ」は9の西語「ヌェベ」から


     複数 遺贈 現債するのなら

      ‘
いじめ
わすな1047Ⅰ②

         一番
 
公平 のため (目的の)按分

                 但し 現債割合の指定が 遺言にあれば別。

       複数贈与同時に なされた らじく 按分しな1047さい



     前後複数 贈与があれば

     
1047 () 安穏あんのんとりこ1035いやり

       
(しい贈与)から直近から順 現債すべし



改正による削除条文関係

 遺留分侵害に対しては、受遺・受贈が侵害の限度で失効し、その限度で現物返還義務が生ずることを前提として
いた従来の減殺スキームが、
平成30年の改正により、侵害額を金銭で支払う現債で対処することとなりましたから、
従来、他に譲渡してしまったことにより、金銭弁償義務に代わる、或は 受遺者・受贈者側から減殺を受ける限度で、
金銭弁償に替え得ることについて定めた旧1040条と旧1041条は、1046条により金銭負担が本則化されたことに
より実質的に吸収ないし無用化され、返還すべき現物に生じた果実の返還に関する旧1036条も、不要となって、いず
れも削除されました。


〔参考〕
       (減殺)れる受贈目的

    「(他の人に)
しま旧1040した持主ほかますわ1040 

            
(と言って減殺を免れることは)
されず価額弁償すべき

      
但し、譲渡をば(遺留分)食込承知けたなら

           受
けたにも減殺求


         
受贈物上他権利設定あるとき 



       減殺(物の)返還 られ、ひと思案1041

     「
(物の)返還てよい1041(価額)えれば 

       定
りに減殺りで価額支払って

           とうとう
(返還)不要わしたん1041


従来負担付贈与(旧1038条)不相当価格による有償行為(旧1039条)については、平成30年の相続法改正により、
 いずれも、贈与
とし、遺留分原資に算入すべき「贈与の価額」を、
 贈与の目的の価額から
 ( 不相当な価格での売買等の場合は、その価格を「負担」とし ) 負担の価額を控除した額とする として、
 新1045条にまとめられました。

不相当価格による有償行為について、
 当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものに限るとする点は、改正前後で変わりありません。

こうして遺留分原資に取込まれた負担付贈与や不相当価格有償行為については、遺留分侵害を受けた相続人から、
 受贈者に対し、また、受遺者に対しても、
算入基準と同じ基準による価額の限度で、遺留分侵害額の請求を受ける
 ことになります
(新1047条2項)

贈与の原資算入基準と侵害額の限度基準の関係についてこちらもご覧下さい。





      負担付贈与現債

       贈与
(額)から負担 額引残額

                  
現債びと(贈与した被相続人の)死後1045とれよう1038


      受贈していた負担(手に)1038

               
負担(額)いた残額
(遺留分)現債請求!」

                     
わし1045

     
 (遺留分権利者にそう言わせることになるかも、の意味です。)



         
双方(遺留分)食込承知 (相続) 財産

          「いま少
1045まけろやかけ引きしたての

    

        いいわ 」「サンキュー
1039安値(有償行為は)

         (負担付) 贈与
とみなし遺留分
(侵害額)請求することできる



遺留分「減殺」に関する平成30年7月民法改正 「遺留分現債」へ 
 
平成30年7月13日公布にかかる民法改正により、遺留分減殺の規定が改められました。まず、従来の「減殺」が
侵害額の請求」に変更されました。つまり、「減殺」として、対象たる遺贈や贈与を 遺留分保全に必要な範囲で
無効としていた法律効果を改め、金銭債権を発生させるものとしました
(新1046条 )

 それで、当ホームページでは遺留分を侵害する贈与・遺贈に対して、その受益を減ずるべく金銭債権を発生させる
意味から、減殺の読みを維持して「
現債」としたいと思います。遺留分侵害に対しては金銭の支払いで対処すること
となりましたから、従来現物返還を前提としていた、現物に伴う果実の返還規定である旧1036条、現物を他に譲渡し
てしまった場合や、或は 一部減殺を受ける限度での弁償について定めた旧1040条と旧1041条は削除されました。

 減殺による贈与・遺贈の遺留分限りでの失効と遺留分権利者による遺留分限りでの権利取得とによって、目的物は
は受贈者・受遺者と遺留分権利者との共有となり、又、その持分が単純ではない数値になる等、種々煩雑な対応を迫
られることとなっていた点が、この改正により共有関係がなくなって、スッキリとしました。

 そして、従来見出しで「遺贈又は贈与の減殺請求」とされていた旧1031条が 新1046条 
( 見出しは遺留分侵害額の請求 ) 
となり、
遺留分侵害額は、侵害を受けた相続人の遺留分額から相続により取得する財産の額と、受けた903条の特別
受益の額
(特益受贈額・特益受遺額)を控除し、その者が負担する相続債務額を加算して算出する旨を定めます。
 そして、次の新1047条1項には、請求を受ける受遺者・受贈者の負担は、遺贈・贈与の目的の価額が限度となる旨
が定められ、受遺者・受贈者が相続人であるときは、その者の遺留分額を控除すべき旨が従来の判例に沿って
同条同項に括弧書きで定められました。
 そして、従来旧1033条から旧1035条にあった減殺の順序・割合に関する規定を、 
(受遺者又は受贈者の負担額)
1047条 一条にまとめ、下記の1.~3.とする旨を定めました。又、従来 旧1037条にあった受贈者の無資力
よる損失は遺留分権利者の負担とする旨の定めも 受遺者が無資力の場合と合わせて新1047条4項に置かれました。

 1. 受遺者と受贈者があるときは、受遺者が先に負担する
( 新1047条1項1号)

 2. 受遺者が複数あるとき、又は、受贈者が複数ある場合においてその贈与が同時になされたものである
とき
は、受遺者又は受贈者がその目的の価額の割合に応じて負担する。但し、遺言者が別段の意思を表示したときは、
その意思に従う
( 新1047条1項2号)

 3. 受贈者が複数あるとき
 (前号の場合を除く) 、現債は、後の贈与にかかる受贈者から順次 前の贈与にかかる受贈
者に及ぶ。
( 新1047条1項3号)

なお、遺留分原資に算入すべき贈与に関する以下4.~6.の定めは、 1047条2項による準用によって、その侭
受贈者・受遺者に対する遺留分 現債請求での請求限度額に関する定めとなります。又、受遺者・受贈者が現債請求権
者の負担すべき相続債務を弁済していたときは、侵害額請求の負担額からその弁済額を減額して、求償の変わりとす
ることができる旨が同条3項に、裁判所は、請求を受ける受遺者・受贈者に負担する債務について期限の猶予を与え
得る旨が同条4項に、それぞれ定められました。 この改正法の施行は、2019年
(令和元年)7月1日からです。

 4. 
負担付贈与 (旧1038条) は、贈与した目的の価額から負担を控除した額を原資とする ( 新1045条1項)
不相当対
価でした
有償行為 (旧1039条) は、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものに限り、その対価
を「負担」とする負担付贈与とみなし、その負担額を控除する( 新1045条2項)
 

  
5. 条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利であるときは、(家裁選任の)鑑定人の評価に従って価額を定め
(旧1029条2項、1043条2項)

 6. 贈与の目的が受贈者の行為によって滅失し又はその価額が増減しても、相続開始の時においてなお原状
の侭 あるものとみなして価額を定める
(904条、旧1044条、新1044条2項)



    
遺贈・贈与すぎて

     身内受
くべき
さい1031なら


   遺留分
 
権利有するその(及びその相続人)は、

      遺贈・
贈与権利限度


     
失効せし
(平成30)改正

        
(遺留分侵害額)支払 せいわしむ1046


相続人間での遺留分(侵害額)現債
 共同相続人中に 被相続人からの受贈・受遺があった相続人がいる場合に、相続人間で遺留分現債請求(侵害額請求)
するときは、新1047条の言う 「目的の価額を限度として、遺留分侵害額を負担する」際の「目的の価額」とは、
受贈者・受遺者にも遺留分があるため、その目的価額の全額が現債されると今度はその者らの遺留分が侵害されるこ
ともあるので、その目的の価額のうち受贈者・受遺者の遺留分額を超える部分のみが、現債請求の対象となります。

 受遺者についてその旨を判示した判例 
(最判平10・2・26 ) を踏まえて、平成30年の改正による新1047 条1項に

目的の価額受遺者又は受贈者が相続人である場合にあっては、当該価額から第千四十二条の規定による遺留分
として当該相続人が受けるべき額を控除した額


として、盛り込まれました。

下に法務省のホームページから、今回の相続法改正の遺留分部分を転載しました。こちらの方が分かり易いですね。
改正法は、既に2019(令和元)年7月1日から施行されています。「現行制度」とあるのは、改正前の旧制度です。



侵害額現債請求 相手方の無資力 
 新1047条4項は、「
受遺者又は受贈者の無資力によって生じた損失は、遺留分権利者の負担に帰する」と規定しま
す。なので、相手方受贈者の無資力、現債不奏功による損害は、遺留分権利者が負うことになります。

 つまり、対象となる全贈与を卒時遺産に算入し全債務を控除して、遺留分原資が定まったら、そのパイから遺留分
割合である通常1/2の額の内の、その相続人のクオレ
 ( 法定相続分 ) が確保できるまで、対象の遺贈或は 贈与の受遺
者、受贈者に定められた順序に従い現債請求しますが、その者の無資力のため意図しただけの回収ができなくても、
順序を変えて他の受遺者或は 受贈者に請求することはできません。

 前述の愛人の例えで言えば、被相続人が別にも愛人がいて、そちらにも贈与をしていたとしても、現債順序が内
一人に定まれば、無資力の為 その者からの現債が奏功しなかったとしても、他方に現債請求することはできません。

 そして、その定まった者の受贈目的の価額が遺留分額に満つる迄、他の遺留分権者からもその者に請求が集中しま
すが、目的の価額が遺留分額に不足するときは、次順位の受遺・受贈分に及ぶことになります。これは、受贈者に対
する関係での独立規定であった旧1037条が、受遺者に対しても類推適用されるべきと解されていたことも踏まえた
改正です。現債に関する細則として、新1047条( 受遺者又は受贈者の負担額) 中で、現債の順や割合と共に、一つの
項(4項)となりました。



      現債受遺者受贈者 無資()ならば

        
ほか(の受遺者・受贈者)現債 わさんな1037

       現債びとはとれな
1037くて

         
そのその そなた(減殺する人)

           かくなとはわすな ヨ1047Ⅳ



遺留分侵害額 (現債) 請求権の消滅時効 
 遺留分現債請求には行使できる期間の制限があります。新1048条
(旧1042条)は、遺留分権利者が、相続の開始及び
現債すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、現債請求権が時効によって消滅し、
また、相続開始の時から十年を経過したときは、これらのことを知らなくとも、消滅する旨を定めています。


    相続後戻りなどせんように1042

     相続
(開始) 贈与 遺贈 のありしこと って一年

       
(知らぬままでも)死後十年現債請求()時効消滅


     

    遺留分 現債 できる 時効  1048

            って一年死後十年



遺留分現債請求権の性質・求相手方からの 時効の主張
 
遺留分現債請求権は、契約解除権と同じ様に、当事者の一方的行為により法律関係の発生・変更・消滅を生ぜしめ
得る権利
」と言われる
形成権です。

 権利を行使する旨 相手方に意思表示すれば、遺留分を侵害する限度で金銭債権が発生します。
具体的には、現債する遺贈や
贈与の受遺者、受贈者に対し遺留分侵害額を請求する (民法1046条) を、内容証明郵便
で意思表示します。

消滅時効の主張に対して: 従って、現債請求権が行使されると当然に効力が生じて、現債の元の遺贈や贈与は
その侭 ですが、遺留分を侵害する限度で遺留分権利者に対する金銭債務が発生します。権利行使の意思表示により
「減殺」の効力が生じる旨の判例①
 (最判昭41・7・14)があります。この判決は、減殺請求の相手方受遺者から減殺請求
権が既に民法
(旧)1042条(現1048条)の消滅時効にかかっているとの主張がなされた点について、減殺請求は裁判上の請
求を必要としないから、本件で遺留分権利者から減殺の意思表示がなされた以上、既に確定的に減殺の効力を生じて
いるので、もはや
(旧)1042条の消滅時効を考える余地はないとした原審の判断を肯定しています。

取得時効の主張に対して: 次に、減殺請求を受けた相手方受贈者から受贈物についての取得時効の主張がなされ
た事案の判例②
 (最判平11・6・24) があります。この判決は、
「減殺請求により、贈与は遺留分を侵害する限度において失効し、受贈者が取得した権利は右の限度で当然に右遺留
分権利者に帰属するに至るものであり、受贈者が、右贈与に基づいて目的物の占有を取得し、民法162条所定の期間、
平穏かつ公然にこれを継続し、取得時効を援用したとしても、それによって、遺留分権利者への権利の帰属が妨げら
れるものではないと解するのが相当である」
としました。
 同判決は、その理由として、
「民法は、・・遺留分減殺の対象としての要件を満たす贈与については、それが減殺請求の何年前にされたものであ
るかを問わず、減殺の対象となるものとしていること、前記の様な占有を継続した受贈者が贈与の目的物を時効取得
し、減殺請求によっても受贈者が取得した権利が遺留分権利者に帰属することがないとするならば、遺留分を侵害す
る贈与がされてから被相続人が死亡するまでに時効期間が経過した場合には、遺留分権利者は、取得時効を中断する
法的手段のないまま、遺留分に相当する権利を取得できない結果となることなどにかんがみると、この場合の受贈者
は、減殺請求がされれば、贈与から減殺請求までに時効期間が経過したとしても、自己が取得した権利が遺留分を侵
害する限度で遺留分権利者に帰属することを容認すべきであるとするのが、民法の趣旨であると解されるからである」
としています。
 

平成30年改正によって上記の時効主張に及ぶ影響
 
前述の様に、従来の遺留分減殺による贈与・遺贈の無効化という効果は、本改正により、金銭債権たる侵害額請求
権 発生の形に変わりました。従って、無効化を前提とするこれ迄の判例も変更を迫られることとなります。まず、

判例①の消滅時効については、
 侵害額請求権の行使と同時に、発生したその金銭債権の時効が進行することになりますから、その債権は、通常の
金銭債権の時効期間である10年の経過により時効消滅することとなります。但し、相続法の前に改正された新しい
消滅時効規定
 (新166条:令和2年(2020年)4月1日から施行)により、新法の施行日以降は、行使できることを知った時から5年
、行使できる時から10年で消滅となります。
 ですから、遺留分行使の相手方の主張としては、知って一年・死後十年という遺留分侵害額請求権の時効の他に、
行使によって発生した金銭債権の消滅時効も主張することが考えられます。

判例②の取得時効については、
 その贈与・遺贈の目的物の所有権には、何ら影響がなく、所有権は 受贈者・受遺者に留まった侭 となります。
その目的物とは離れて、別に侵害額相当の金額の金銭債権が発生することになりますから、そもそも取得時効の主張
は不要・無用であり、上記②の判例によるやや強引な感のあった減殺効果は昔話となります。
 


遺留分放棄
 
相続人は 相続開始後、特に遺留分の確保を欲しなければ、これを放棄 (遺言による遺留分侵害に対して、これに異を唱えない
旨を他の相続人に対して意思表示)
することは自由ですが、相続開始前の遺留分放棄は家裁の許可が必要です (新1049条1項)

 遺言による自己の取り分が増えることを目的とする他からの圧力で遺留分放棄をさせられたり、離婚・離縁等他の
身分関係との取引条件の様にして不当な圧力を受けることがあってはならないからです。

 共同相続人の一人が遺留分を放棄しても、他の相続人の相続分がダイレクトに増えるということはなく
(被相続人に
働きかけて間接的に遺言内容に手を回す形になります) 
他の相続人に対する直接の影響はありません (新1049条2項)
 そうではなく、被相続人の
(自由に処分できる割合)自由分 が増えることになります。相続人としては、例えば、相続人
 (兄弟)二人だけの親 の相続の場合、弟が遺留分 (1/4) を放棄しても、兄の遺留分 (1/4) が増えることはなく、親が
遺言で処分できる自由分が1/2から3/4に増えることになります。その兄が親に遺言を働きかけ、その遺言での自分の
取得分を多くする為、弟に遺留分放棄をさせる様なことのないよう、家裁が審査をし、許可・不許可を判断します。
 なお、この遺留分放棄の規定1049条は、平成30年7月の改正で、旧1043条から条数が変わっただけです。

   
   相続(開始)家裁許可する

   遺留分放棄
 
1043があれば1043

    
(遺言いごん者の)自由予算(自由分)1043える

       
ぐに(の遺留分)影響はなし


    身内
らが自由()しさに血迷っとれ1043

            家裁
容易許可はせぬ

 
  

 はよく  1049 

   遺留分放棄
があれば 
(相続人) 利得する 

         や に
うけれど
他の者ちょくには利得なく、

      遺言
する
(者の)自由予算 1043(自由分)えるだけ 




遺 言

 人がその最終意思によって 自らの死後の法律関係を定める処分行為が遺言です。法律用語としては「いごん」と読
みますが、このホームページでは一般に親しまれている「ゆいごん」と読む方を原則とし、例外的に「いごん」と読
むときは、なるべくルビを振っています。これ迄「相続」、「遺贈」、
(定財産)(継)遺言いごん相続、遺言による相続
分の指定、「相続させる」遺言、そして遺留分etc.と、遺言に関連する事柄の記述が大変 多かった訳ですが、ここで
これ迄のまとめ として、私なりの「遺言のすすめ 10のポイント」を、ご参考 迄にご覧頂きます。


遺言のすすめ 10のポイント
 相続にまつわり次のような事情のある場合は、遺言をされることをお勧めします。
 お勧め条句もご覧下さい。お勧めの理由は後記「ポイントごとの理由」をご覧下さい。

     いゆけば、急務968に、ずは自筆遺言いごんすること

     のため、いで、遺言公正証書 公務扱969 公正証書遺言検認不要保管安心 

1.ご自分の出生以来の全戸籍を相続人に収集させるには負担や面倒が予想される場合。→1.
2.余生につき配偶者を安心させたい 或は 相続人間で法定相続分通りに分ける訳にはいかない事情等のある場合。
2.
3.内縁者や世話になった長男の嫁など、法定相続人以外の人に財産を与えたい場合。→3.
4.長年行き来のない兄弟
(姉妹)はいるが、子も、孫もないので、配偶者に遺産全部を遺してやりたい場合。→4.
5.子供たちの中に、これ迄、親の自分から 持参金や学資、開業資金等、多目の生前贈与をしてきた者がいる場合。
5.
6.相続債務の返済や遺産相続手続きが複雑多岐に亘りそうな場合 或は 相続人間の葛藤等から遺産分割協議が穏便に
整う可能性が低い場合。→6.
7.相続人の内の一人に返済資金を継がせ、相続債務を返済させたい場合。→7.
8.生命保険金受取人を変更して、遺産分けの一環としたい場合。→8.
9.相続人の中に行方や所在が不明な人がいる場合。→9.
10.遺言書の確実保管と家裁での検認回避のためには、公正証書遺言がお勧め。但し、2020年
(令和2年)7月10日以降
は、申請すれば、法務局で自筆遺言書を保管して貰え、検認も不要となります。→10.


以下は、各ポイントごとのお勧めの理由です。

遺言がない場合、相続手続きでは、まず「相続人は誰か」、「この者らがその相続人です」の2点を証明する為、
故人の出生以来の戸籍と全相続人の戸籍 
(戸除籍謄本の束) を提出する必要があります (全子探索)

 遺言書を作成すれば、この「誰が相続人か」の問題を飛び越して、例えば「わが子に相続させる」とする
訳ですから、相続人は「私がその『子』です」という自分の戸籍・身分証明
(実印+印鑑証明書)だけ出せば足ります。

 これにより、全籍収集の苦労を免れます。
 しかし、遺言書を作成した場合でも、その執行段階で、改竄を防ぐ、家裁での 
(全相続人を呼び出した上での)「検認」
手続きの為、家裁から同様の資料の提出を求められるので、実際に、この負担を全て免れることができるのは、
検認が不要とされる公正証書遺言だけでした。

 ただ、今回、法務局における自筆遺言証書の保管制度が法制化され、2020年(令和2年)7月10日施行となりました。

 これにより、保管された遺言書は検認が不要となるので、保管についての安心が得られることに加え、全籍収集
負担を免れることができます。同保管制度についてこちらをご覧下さい。なお、10.の説明もご覧下さい。

 なお、上記資料作成の負担軽減策として平成29年5月29日から全国の登記所
(法務局)法定相続情報証明制度
始まりました。

 登記所
(法務局)に必要な戸除籍謄本等の束を一揃い提出し、併せて、相続関係を一覧に表した図(法定相続情報一覧図)
を提出すれば、登記官がその一覧図に認証文を付した写しを無料で交付してくれます。同じ遺言で数カ所の登記所を
巡らねばならないときは、戸除籍謄本等の束 何束も に代えて、一覧図により 一か所宛 一枚で済ます事ができます。
又、金融機関等、その他の所での相続手続きもそれで済ませることができます
(予め確認することをお勧めします)

 また、遺言に伴う一連の手続シリーズ最初の 
(家裁での) 検認の際のお話ですが、戸除籍謄本の原本提出を求められる
ので、必ずそのコピーも持参、提出し、合わせて、手続終了後の「原本還付」も申請しておくと、コピーで賄え、原
本は返してくれますから、原本が以後の手続きにも使えて節約になります。以後の手続きでも同様にして節約できる
場合があります。

人生百年時代となり、配偶者の余生にも場合によっては、多額の資金を用意して置かねばならないご時世です。
相続法の改正により、遺された配偶者が居住する場所に難儀せずには済みそうなですが、しかし、その居住の途中で
老人ホーム等の施設入所が必要となったときは、どうすれば良いでしょうか。

 そう考えると、配偶者には住居だけでなく、できる限りの資産を遺してやる必要があると思われ、その為には、法
定相続分の縛りなく、他の相続人の遺留分を侵すことのない限度ギリギリまで遺すことが必要となります
(→人生百年
時代と配偶者居住資産
)


 その為には、やはり遺言しかありません。又、障害その他で特に経済的支援を要する子に多く分ける必要がある、
事業に協力してくれている子に事業と財産を継がせたい等、法定割合でない配分を希望する場合は、遺言で 法定相続
分に捉われずに相続させる他ありません
(→指定相続分)。

3.遺言がない場合、相続は、(入籍した) 配偶者等法定相続人にしか認められないので、法定相続人以外の者への遺
産分け、寄付等は、遺言によらなければできません。

 
( 但し、生前に受ける人との間で死因贈与契約を結んでいた場合は、「遺贈」と同様に扱われます。又、平成30年の相続法改正により、無償で
療養看護その他の労務を提供したことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした親族には遺言がなくとも 特別寄与料
認められることになりました )


 
相続人以外の者にあげたり、寄付する場合、遺言で「相続させる」とはせず、「遺贈する」という書き方になりま
す。この場合、不動産登記等はあげる側と受ける側の双方申請
(相続人に「相続させる」場合は、受ける相続人からの単独申請)
となります
から、相続人全員かそれに代わる遺言執行者と受遺者とによって登記申請することになります。

 ですので、遺言のスムーズな実行のためにも、遺言の中で 遺言執行者 の定めを置くことは必須と言えます。

 又、寄付する相手方から寄付を拒まれた場合、その財産は遺産分割協議を経ないと宙に浮いた侭 になりますので、
予め、受けてくれるか否か打診しておく必要があります
(殊に、不動産の寄付を受ける側は、税金等の関係から、現物で受ける
ことを拒否することが多いので、必ず予め打診することが必要です)


「連合いの兄弟姉妹とは長年行き来がないから、遺産分けの話など言って来ないだろう」と安心していると、連
合いが亡くなった後、法定の相続分である遺産の1/4 
( 義父母が健在であれば、義兄弟姉妹ではなく、義父母に1/3。何れも、複数
であれば、これを人数で割ります ) 
の 遺産分けを要求されるかも知れません。

 例えば「全ての遺産を妻
(夫)○○○に相続させる」と遺言しておけば、その様な突然の要求を防ぐことができます。
兄弟姉妹には遺留分がないので、その要求もあり得ません。

 行き来がないどころか、逆に、葛藤やトラブルがあるという場合は、兄弟姉妹に対する相続人廃除の申立てはでき
ませんので、一層、遺言でその者の取得分はない旨を定めておいた方が無難と言えます。

 但し、義父母がいる場合、全遺産を連合いに遺す遺言があっても、最低限の保障分である遺留分1/6を要求される
かも知れませんが、それは、必ずというものではなく、義父母の意向次第ということになります。

5.その場合遺言がないと、計算上、それらの生前贈与 ( 特別受益 ) は「みなし遺産」として一旦遺産に持戻されて、
それを法定相続分で分けるという、調整の計算
 (個戻算法)が必要 となります。

 混乱が生じたり、意外なことにならぬよう、予め、遺言で、「持戻しはしないでよい」
(持戻免除の意思表示) とした上
で、遺留分に注意しつつ、
(完結遺言となるよう)全遺産の取得者を定め、遺言者としての最終意思が現れている形にすれ
ば、持戻し云々の余地もないことになります。

 又、過去の贈与分も考慮に入れて配分をした旨を、遺産分けをする本文の後に、「付言事項」として記載しておけ
ば、相続人たちにも得心のいく遺言となります。

そのような場合、遺産分割協議が難航して何年も相続が決まらない事態にもなりかねませんし、遺産分割協議が
できても、それによる登記等の遺産分け手続きには全相続人が参加しなければならない等、大変に煩雑でかつ困難な
作業を伴うことになります。

 遺言で全遺産についての処分を定めれば遺産分割協議は不要となり、大きな関門を一つ通過できますし、後の遺言
執行も、遺言執行者を指定すれば、遺言執行者は遺言内容を実現するために必要な一切の行為をする権利と義務を負
います
 ( 平成30年改正により明文化されました ) ので、手続きがスムーズに進みます。

 相続人による遺言執行行為を妨げる行為があっても、法改正により 無効 ( この点も平成30年改正により明文化されました ) とさ
れました
(但し、善意の第三者には対抗できませんが)ので、遺言の実現可能性が更に高まりました。
(なお、複数の矛盾する遺言は、最終の遺言が効力を持ちますが、平成30年改正法により、遺言による取得財産につき登記等によって
公示方法を具えないと、先に登記等を経た者に対抗できないので、その様な意外な結果を招かない為にも、取得者は早期に登記等を具
えると共に、遺言する人も、重々心して複数の遺言が残らぬようにし、もし、複数となる場合も、不要となった遺言書は確実に廃棄す
る等の注意が必要です。
)

7.相続人は 相続債務を免れることができず、債権者から相続分に従った取立てがあれば応じなければなりません。
但し、遺言で、債権者とは関係なく内々で、相続人の間だけの負担割合等を定めることができますから、債権者の取
立てに応じた相続人は、遺言による負担割合による求償を求めることができます。場合によっては、
(予め承認を得て)
個人事業を承継させ、合わせて、借金返済用に財産の多くを相続させる者に、全ての債務を負わせる旨を定めること
も可能です。債権者側から、これら遺言による債務承継を認めて貰えれば、他の相続人に借金返済の面倒や不安をか
けずに済みます。

8.平成22年の法律改正により、遺言による生命保険金の受取人変更が可能となったので、生命保険金を遺産配分の
調整材料にすることができます。但し、相続開始後すぐに保険会社に受取人の変更を通知しないと、元の受取人に支
払われかねないので、遺言で、その通知をすべきことの記載をすることが欠かせません
(「遺言作成のポイント」の9、自筆
遺言例
の3条参照)


全相続人によって「遺産分割協議書」が作られねばならず、これには全相続人の署名捺印と、印鑑証明書の添付
が必要となります。遺言がない場合、1の負担に加え、相続人が一人でも欠けると遺産分けができません。行方不明
の相続人がいる場合
は、家裁に不在者財産管理人を選任して貰い、その管理人が家裁の許可の下で不明相続人の代理
として、遺産分割協議に加わります。又、不明が長期に亘り、通常7年間
 ( 危難に遭っての不明であれば、危難が去ってから
1年間 ) 
不明が続けば、失踪宣告を出して貰って、その者が死亡したものとして、更にその後の対処をすることにとな
ります。その者に代襲者がいなければ、その者を除いた遺産分割協議が行われます。
 遺言をする場合、遺言によっても行方不明者に相続させたい・遺贈したいというときは、選任手続きを践んだ管理
人に財産の受取と管理をして貰うことになります
(亡くなった人には勿論相続させることはできません)
)。勿論、望みであれば、
遺言することにより、他の所在の明らかな相続人にスムーズに取得させることができます。遺言書に「相続人
相続させる」と書けば、
(分割協議なしに) 遺言書を添付して その相続人単独で登記申請することができ、登記手続上も
簡便です。

10遺言があっても、家裁で「検認」を経た旨の「検認済証明書」の提出がないと、不動産登記も銀行口座の名義
変更もできません。家裁での検認には、全相続人の呼出可能な資料を提出する必要があります。

 遺言公正証書は、公務員である公証人が作成し、公証役場で保管されて、改竄の恐れもないので、改竄防止の為の
検認手続きは不要です 
(遺言公正証書の有無、保管場所は、最寄りの公証役場での「遺言検索」※により無料で調べることができます )

 平成30年7月
法務局における自筆遺言証書の保管に関する法律が公布されました。
 この法律により、遺言者が自分で作った自筆遺言証書は、遺言者自身によって法務局に保管を
(有料で)申請すること
ができることとなりました。

 保管に係る遺言書は、遺言者が亡くなった後に相続人、受遺者 或は 遺言執行者から申請があれば、保管証明書の
交付請求、或は、遺言書の閲覧請求、遺言書の画像情報証明書の交付請求ができます。又、法務局の保管にかかる
遺言書は家裁の検認を経る必要がありません。

 従って、自筆遺言の普及のネックとされてきた保管と検認の難関が取払われることとなり、これ迄 諸外国に比べ
低率であった遺言の利用が進むものと予想されます。
 なお、保管を申請する遺言書は、封のされていない法務省令で定める様式
(別途定められる予定です)に従って作成され
たものでなければなりません。なお、同法の施行日は、2020年
(令和2年)7月10日です。
詳しくは法務省のホームページをご覧下さい。

※ 平成元年以降に作成された遺言公正証書であれば、コンピューターにより全国的に管理されていますから、亡くなった方の除籍謄本と故人との
繋がりの分かる戸籍謄本、ご自身の本人確認資料(運転免許証・パスポート等写真入り公的身分証明書)をお近くの公証役場に持参されれば、遺言公
正証書を作成した公証役場名、公証人名、遺言者名、作成年月日等を無料で検索することができます。特に支障が無ければ、さほど時間を要せず、
その場で検索結果が分かります。





遺言の基本的約束事 

1. 遺言の方式
 それでは、ここで、遺言をするに当たっての基本の約束事を確認しておきたいと思います。まず、民法960条は、
 
遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない。
として、遺言がいわゆる
要式行為であることを定めています。

 然し、要式性の重視が厳格に過ぎると遺言に対する利用意欲を低下させかねませんから、例えば具体的な例として、
判例が、法の定める「押印」について
指印でもよいとし、或は 「契印」について必ずしも必要でない旨 判示する
等して、要式についての厳格性を緩和し、
又、内容もなるべく有効となるよう合理的解釈に努める 
(例えば、最判昭58・3・18) 等の 利用普及に向けた努力が払われ
ています。

 なお、平成30年7月13日に民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律及び法務局における自筆遺言証書の保管
等に関する法律が公布されました。その内、ここで関係のある 自筆証書遺言の方式に関する部分については、こちら
をご覧下さい。


 指印有効判例 (最判平成元年2・16) :指印で足りるとする判例は、その理由について、次にように判示しています。
民法968条1項
「自筆証書遺言の方式として自書のほか押印を要するとした趣旨は、遺言の全文等の自書とあいまつて遺言者の同一
性及び真意を確保するとともに、重要な文書については作成者が署名した上その名下に押印することによつて文書の
作成を完結させるという我が国の慣行ないし法意識に照らして文書の完成を担保することにあると解されるところ、
右押印について指印をもつて足りると解したとしても、遺言者が遺言の全文、日附、氏名を自書する自筆証書遺言に
おいて遺言者の真意の確保に欠けるとはいえないし、いわゆる実印による押印が要件とされていない文書については、
通常、文書作成者の指印があれば印章による押印があるのと同等の意義を認めている我が国の慣行ないし法意識に照
らすと、文書の完成を担保する機能においても欠けるところがないばかりでなく、必要以上に遺言の方式を厳格に解
するときは、かえつて遺言者の真意の実現を阻害するおそれがあるものというべきだからである」
と。

 私は、これは、自筆証書遺言について、「全文の自書とあいまって」と述べて理由付けされた判決なので、他の
方式の遺言書全てについて指印で足りるとすることまでは、未だできないものと思っておりました。ところが、そ
の後、古い臨終遺言に関する判例が指印を容認していることが分かり、不明を恥じてお詫びする次第です。ですの
で、令和3年の現在、「脱ハンコ」が 急ぎ実現化の向きもあり、「指印で良し」が全遺言についての結論となります。
なお、その古い判例
(大判大正15・11・30)を、「判例先例 相続法」(松原正明著)により、その趣旨を(古い文体なので現代語に
意訳して)
紹介しますと、
判例(大判大正15・11・30)
「民法が976条によって特別方式を規定した所以は、疾病その他の事由により死亡が危急に迫り、普通方式での遺言
ができない場合にも、本人の意思を尊重して有効な遺言を可能ならしめるためである。そうとすれば、その定める方
式は、遺言を口授された証人が遺言の趣旨を歪め 又は 爾後他人が遺言の趣旨を変更増減する等の弊を予防する為に
他ならない。従って、その弊 予防の要なし となれば、できる限り遺言を最後まで有効としてやろうとするのが立法
の趣旨であること 明らかである。拇印は我が国で従来 捺印の代用として用いられ、捺印の様には容易に見分けがで
きないが、指紋により真偽を明瞭に鑑別でき、確実であること 印章に勝るとも劣らない。・・証人三人の署名・捺印
を要すとしたのは、遺言を確実ならしめる為であるが、証人らが捺印できず、拇印で代用したとしても、確実性を期
待した立法の趣旨には些かも反しない。」
と述べています。この判旨は上記平成のものより説得力があるように思います。なお、この判決の後の部分は、臨終
遺言に特有な状況についての言及となりますので、そちらで原文の侭 掲載します。

 契印不要判例 (最判昭36・6・22) : この判例は 
「遺言書が数葉にわたるときであつても、その数葉が一通の遺言書として作成されたものであることが確認されれば、
その一部に日附、署名、捺印が適法になされている限り、右遺言書を有効と認めて差支えないと解するを相当とする」
と判示しています。



    
民法めに 
遺言

    
効力十全960苦労960あれ

      民法定
めおく
 方式 とらねば効力ナシ960



2. 
遺言の種類 
 ここで、遺言各種の個々的 説明の前に、とりあえず予備知識的に、遺言は、原則

 
普通方式の3種類、自筆証書 (§968)公正証書(§969)秘密証書 (§970)の何れかでしなければならず、
  特別方式が許される特別な条件を満たす場合には、それによってもよい
(967条)こと、

 
特別方式には4種 伝染病隔離者遺言§977在船者遺言§978臨終遺言§976遭難船臨終遺言§979 があること

を大まかにチャートでご紹介します。そして、これら計7種の遺言の内、

  ただ一つ、緊急危急のため、
「遺言書」が作成されないものがあり、それが 遭難船臨終遺言(§979) で、
  これについては書面が存在しないので、後述の
遺言書に対する検認」が不要とされること、また、

  残り6種の内 唯一、
書面があるのに 検認不要なものがあり、それが 公正証書遺言 (§969) であること (§1004) 
 
を付言しておきたいと思います。そして、

  自筆証書遺言以外の遺言にはいずれも証人が必要であること、

  広義の臨終遺言2種は、特殊状況での作成であるため、家裁での
(遺言者の 真意に出たものであることの)確認」を要し、

  隔絶地遺言2種は、
(公正証書遺言同様の) 公的支えの下、真意 確保 をする為、(隔絶の地である為 公証人に代わる)立会人
   
(チャートのP、SP)が必要となること

 も付け加えておきたいと思います。


遺言の種類 チャート



普通方式: 遺言はこの方式によってしなければならない §967

  
自筆
証書遺言
   
(不要)財産目録以外は全て自筆する。日付・自署・押印 必須。法務局で保管できる(検認不要。令和2年7月10日から)

 
 公正証書遺言(W2、検認不要)秘密証書遺言(W2 ) 要「公証人  於 公証役場 (但 出張 可)


特別方式 法がこの方式によることを許す場合に限りすることができる遺言 §967但書 6か月健在で失効 §983
 
    
隔絶地遺言: 
伝染病隔離者遺言在船者遺言 :要立会人
          W1・
       W2・

    臨終遺言(広義): 臨終遺言(狭義)遭難船臨終遺言(口頭遺言検認不要)    確認 
           W3        W2

                                   =証人、=警察官、SM=船長又は乗組員



普通方式には、公証役場で作る公正証書遺言と、作成済みの遺言書を封入して証人2人と共に公証人に

       提出し、そのことを証明して貰う秘密証書遺言自筆証書遺言の3種がある。


特別方式には、隔絶地遺言と臨終遺言(広義)の2種があり、

 隔絶地遺言には在船者遺言伝染病隔離者遺言

 臨終遺言には狭義の臨終遺言遭難船臨終遺言 がある。


  隔絶地遺言には証人の他立会人が必要であり、

  臨終遺言(広義)には特別に家裁における真意の「確認」手続が必要。


 特別方式4種は、何れも遺言者がその後、普通方式での遺言が可能な状況となった後6か月間存命であるときは、

  遺言の効力が失われる (民法983条)。

 全7種の遺言の内、
公正証書遺言と遭難船臨終遺言は検認不要だが、その他はいずも検認手続きを要す。


 
令和2年7月10日から自筆遺言証書の法務局保管が始まると、法務局保管の自筆遺言証書は、検認不要となる。





  
遺言ゆいごん種類967らば、普通 (方式) 特別(方式)

   普通方式自筆§968秘密§970(公証人作成の)公正証書§9693種也

  特別(方式)は、臨終§976、(伝染病)隔離者§977在船者§978船舶遭難(者遺言§979)4種也


      遺言普通方式依るべきところ

           
(公証)役場るな 967公正秘密2種あり

            出向くのが苦労 967自筆(証書)出来る、

                   し、出張可能公証人

        (公証人の役場外出張による公正証書作成も可。公証人法§57§18§17)



      通常は、普通方式 当然 なるも、める特別

         事情
クールな
967対処 可能であれば

           特別
方式4種、急場てる




     
こんな977 伝染病隔離者遺言で、苦難急979遭難船臨終遺言とか

       
南無 976臨終遺言 急煩時での困難978 在船者遺言

                    
クールな967 対処特別

              
急場って 遺言できる




3.
証人・立会人
 遺言では自筆証書遺言以外の遺言について、何れも証人の立会い 或は 公証人の関与困難な隔絶地 
(伝染病隔離者§977
・在船者§978) 
遺言では、(伝染病隔離者について) 警察官、 (在船者について)  船長 又は 事務員という公証人に代わる公の或は
職務上の立場での立会人を要する旨定められ、証人・立会人が重要な構成要素になっています。
 
なお、民法の遺言規定中には、その他「筆記者」が登場します。こちらをご覧下さい。

 証人の職責について、公正証書遺言の場合ですが、判示した判例 (最判昭55・12・4)があります。この判決は、
証人の職責は、① 遺言者が人違いでないことの確認、
        ② 遺言者が
正常な精神状態で口授をしていることの確認
        ③ 
遺言書が正確に記載されていることの確認
 にある旨を説き、これに照らして、
  視力に障害があるとの一事から直ちに証人としての職責を果たすことができないとすべき根拠を見出し難い
 として、

  盲人
にも証人適格がある旨を判示しました ( 詳しくはこちらをご覧下さい )
公正証書遺言に関する判例ですが、証人の職責として、この三点は、他の方式の証人にも当てはまると言えます。
なお、公正証書遺言の証人についてこちらもご覧下さい。
( 但し、遭難船臨終遺言(§979 )については、遺言書はないとされ、代わりに「遺言メモ」が筆記されますから、メモの正確性が確認対象となります。)

 そして、上記の立会人についても、その職責としてこの三点を挙げることができますが、
立会人は、公証人が関与できない状況下で、それを公の、或は 職務上の立場から補完する立場であると説かれます。

 ですから、公証人は その職責上、遺言者の本人確認をし
(公証人法28条)、正常な精神状態にあることを確認し(公証人
26条)
た上、本人が口授した遺言の趣旨を筆記し、読み聞かせ、承認を得ます(969条3号、4号)が、この過程は、正に
遺言者の真意の確認手続きですから、

 立会人について
  これらを内容とする規定はないものの、その公の 或は 職務上の第三者的立場に照らし、立会人についても その
  立会いは、上記三点の他 遺言者の真意の確認 も含めて、担保する職責が伴うと言うことができます。

 そこで、立会人の立会う隔絶地遺言には、家裁による遺言者の真意の確認手続き
(民法976条4号、5号、民法979条3号、4号)
   
は不要とされます(民法977条、民法978条)(→検認と確認)

 民法974条がこの証人・立会人についての
欠格事由を定めています。
  未成年者 
(成年擬制の場合は除きます) はその能力不足から証人・立会人にはなれません。また、
  相続人や受遺者、それらの配偶者、直系血族は証人や立会人にはなれませんし、
  公証人の配偶者、四親等内の親族、公証人の下で働く公証役場の書記や使用人もなれません。

 それぞれに遺言をしてもらうについて利害が疑われてしまうからです。

 また、これら証人・立会人はいずれも署名を求められます(伝染病隔離者遺言977と在船者遺言978については、§980により
署名・押印義務が課されます
(条句))から、自署可能であることが原則、必要となります (押印は、認印でも良いし、指印でも可、と
されています。こちらをごらん下さい)


 ただ、
伝染病隔離者遺言(民法977条)在船者遺言(978条)遭難船臨終遺言(979条)では、証人・立会人中に自署の
できない者がいる場合、民法981条により、他の証人・立会人がその事由と共にその旨を
付記すれば足ります (これが
ないと遺言が無効になります) 
から、証人・立会人中の一人が自署とその付記ができれば、クリアできることになります。

 従って、証人・立会人を要しない自筆遺言
(民法968条)の場合は別として、
 残る
(狭義の)臨終遺言(976条)公正証書遺言(969条)秘密証書遺言(970条)での証人については、署名できない者は
事実上の欠格となります。

なお、公正証書遺言の場合 遺言者本人が署名できないときは、公証人がその事由を付記して代署することができます
(969条4号)

  要するに、自筆遺言を除くその他の遺言では、証人・立会人の自署不能について、

   隔離・隔絶・船の中
 (遭難船を含め) の遺言だけは、(状況に照らし自署可能者を探す暇はない為)付記でクリアとなるが、
   それ以外は、
自署不能=欠格 (事実上) ということになります。

 なお、要件としての証人の数は、原則二人 
(以上) ですが、狭義の臨終遺言(§976) は三人とされ、
    逆に伝染病隔離者遺言
(§977) は一人、自筆遺言(§968) は証人不要 です。

 そして、立会人は、伝染病隔離者
(§977)の場合警察官一人、在船者遺言(§978)では船長又は事務員一人
    とされています。

 成年被後見人の遺言
(§973)では医師二人の立会いと、その医師らの 付記
     
(遺言時、精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった旨の付記)が必要とされます。

立会人の意義についてこちらもご覧下さい。





    
    (推定)相続人受遺者 並びにその身内(配偶者と直系血族)
 
                   
立ち会うならば、こうしてよ974あぁしてしい、の

   
          
公証人連合(配偶者)身内(4親等内)書記使用人

              
(務めを)こなし974そうでも遺言らせたやのる、

            未成年者
()がたりぬ、いずれも欠格証人不可




       
こんな
977苦難急979たる困難978

           
(伝染病)隔離(者)在船(者)船遭難(者臨終遺言)

               
981 遺言いごん(但し、特別方式中臨終遺言§976を除く)

         (
)()のできぬ(者がある)ときには立会人証人(の)れか

          「文字知
らぬ」
とか病気である」とか

                      その
理由付記せば足りる付記せねばない。

              
付記がなければ遺言無効よってれか 一人ひとり

                       署名書字可能
であること必須也




       救難 979遭難船 (臨終)(伝染病)隔離されたこんな 977で、

           
(遺言書に)署名(押印)できない(在船)困難 978事由示して付記するが

                    
  急南無 976看取りで 病院  臨終(遺言)


    

   (伝染病)隔離(者)在船(者)船遭難(者臨終遺言には)

          署名・押印 不可なるも付記にて急用意981

       公正 臨終秘密 は その(と)なく(署名・押印の)不可なら


                 
証人(としては)苦杯981なむ(事実上欠格)




共同遺言の禁止
 遺言は、遺言者の死後の法律関係を定める為の最終意思の表明ですから、その性質上まことに個人的な意思表示な
ので、方式上も、他からの影響や制約なくされる形が保障されなければなりません。いわば遺言の孤立性とも言える
要件であって、外形的にこれを欠いた遺言は、他の者の意思や影響の疑念を払拭できず、無効となります。

 そのため民法は、975条で、
遺言は、二人以上の者が同一の証書ですることができない。
として、共同遺言の禁止を定めています。

 この関係では、一枚の紙面に、夫婦両名の名義でなされた「夫が先に亡くなった場合、全遺産を妻に相続させ、
その後妻か亡くなったときに、不動産等を記載したとおりに子らに分け与える」旨の遺言書について、夫が単独で
作成したものであるから、夫単独の遺言として有効であるとの主張に対し、
同一の証書に二人の遺言が記載されている場合は、そのうちの一方につき氏名を自書しない方式の違背があるとき
でも、右遺言は、民法九七五条により禁止された共同遺言にあたる。」
として、主張を排斥し、遺言無効とした判例 
(最判昭56・9・11)があります。

 逆に、罫紙4枚に夫の印で契印し、うち3枚に夫の遺言を、残り1枚に妻の遺言を記載して、それぞれは容易に切り
離せる自筆証書であった場合は、禁止された共同遺言にはあたらないとした判例 
(最判平5・10・19)もあります。

 
要は、形式的・外形的に独立性を欠き、同一証書に共同してなされたと認められる限りは、夫婦であっても、こと
遺言に関しては、共同禁止に違反します。遺言は、孤独なものと思い定め、「孤立」を保たねばなりません。ただ、
内容的には、親族共同体を念頭に置いて、相続人ら相互の関係や過去の経緯に配意し、経済的衡平や親族平安を願っ
て 内容を定めることは、むしろ推奨されることで、殊に遺言執行者を指定する等の必要に鑑みれば、予め、親族に
諮ることも必要かと思われます。



       

     遺言は、
         
孤名こな
ごん975(単独名義の意(造語))よ、
 
               
複数名
() 同一証書ですることできぬ




5.
後見人の地位利用遺言の無効
 民法966条1項は、
被後見人が、
  後見の計算の終了前に、後見人又はその配偶者若しくは直系卑属の利益となるべき遺言をしたときは、
 その遺言は、無効とする。

と定めます。後見人が民法870条に定められた後見計算の義務を果たす前に、自身 或は 配偶者若しくは直系卑属の
利益となるべき遺言を、被後見人 (私は、ときに、見出しのように「後見本人」と言います)にさせたときは、その遺言は無効
とされます。
 後見人がことさらに作為したことが認められなくとも、後見本人がしたその様な遺言は、無効です。但し、同条の
2項
 には、
前項の規定は、直系血族、配偶者又は兄弟姉妹が後見人である場合には、適用しない。
とあるので、後見人が後見本人の配偶者、直系血族、又は兄弟姉妹であるときは、後見本人がこれら身内の者に利益
となる遺言をした場合でも、その遺言は無効とされません。
 これらの者は、 本来 後見本人と極めて親密な間柄の者であり、扶養上も、又、相続上も 後見本人と一体的関係に
あるので、その様な遺言がなされても、無効とはされません。つまり、これらの者に利益であることが、後見本人に
不利益であるとは必ずしも言えない親密な情愛関係があるので、後見計算の終了の前後を問わず、これに干渉したり
非を鳴らしたりすることはできないからです。
 なお、無効とされるのは、遺言全体ではなく、後見人側に利益となる条項だけです。


        

 
  
後見 870(管理)計算未了966がぬ

       
(後見人、その配偶者、直系卑属が)利益 966遺言ゆいごん(本人に)

    させたは不埒無効 但し後見夫婦親子あいだ とか

                
孫ひ孫(等直系血族とのかん)兄弟(姉妹)かん なら此限こぎり でない





6.
死因贈与 
 遺言による「遺贈」に似たものに「死因贈与」があります。贈る人と贈られる人との間の贈与 契約 ではあります
が、贈る人の死亡を原因として、「この物は、私が死んだら、あんたに上げる」とする契約ですから、死後の 財産に
関する処分で 経済上の目的を同じくする単独行為 遺贈 と似ています。これについて、民法554条は、
贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与については、その性質に反しない限り、遺贈に関する規定を準用する。
と定めます。
 税法上も、贈与税ではなく、相続税の課税対象とされているので、受贈者にとっては有利です。なので、遺言の
準亜型としてここで紹介したいと思います。

 ところで、「準用」と言っても、遺贈規定がどの範囲で準用されるのかという点も一つ論点で、これについては、
死因贈与が当事者双方の合意による契約であるのに対し、遺贈が 遺言でする単独行為であるところから、
「遺贈の
効力」に関する規定は準用されるが、方式や遺言能力
(死因贈与契約については「行為能力」の有無が問われますが、遺言は行為能力
規定の適用がありません
(§962))承認・放棄(死因贈与契約では承認・放棄が観念できません) に関する規定は、準用されない
されます。大略 やり方・能力については、遺贈同様 とならないが、やるとどうなる という点やその他は、遺言の性
質に反しない限り、遺贈と同じ、ということです。

 従って、死因贈与の成立も、遺言によるのではなく、通常の契約と同様に、当事者双方が書面によることは勿論、
口頭での合意によってもすることができます。
 そして、死因贈与の撤回に関しては、遺言の撤回に関する民法1022条の規定中「
遺言者は、いつでも、(中略)
その遣言の全部または一部を撤回することができる」という部分は、遺言の重要な要素である人の「最終意思」を重
んじて、これを死因贈与に準用しうるけれども、同条の(中略)部に入る「
遺言の方式に従って」という部分は、
準用がなく、贈与契約の規定である 民法550条にある
書面によらない贈与は、各当事者が撤回することができる」との定めによると解されています。死因贈与の撤回が、
遺言という厳格な方式によらず、
(無書面贈与であれば) 無書面でいつでもできる という大きな差異が ここで生じます。

 しかし、書面による死因贈与は、どうなるのでしょうか?契約ですから、本来、一方的な撤回はできませんが、そ
うすると、人の最終意思を尊重するという1022条の法の趣旨に反します。したがって、準用のない「
遺言の方式に
従って
」の部分は、代わりに「遺言の方式によらずとも」と解されて、結果 無書面でも撤回ok の結論になります。

 そして、遺言の後の、矛盾遺言や、遺言と矛盾する処分を 撤回とみなす民法1023条も準用されますから、死因贈
与した物について、贈与者が後に遺言によって他に遺贈する等矛盾・抵触する処分行為をしたり、「その他の法律行
」をした場合には、同条によって死因贈与は撤回されたとみなされます。

 とすれば、単なる意思表示による「撤回」も単独でする法律行為ですから、撤回する旨の意思表示のみによって撤
回できることとなります。但し、その意思表示は、当初当事者双方が存在した「契約」であったことに鑑み、受贈者
に対してすることを要します。

 死因贈与が撤回可能であるとの原則に対する例外事例等に関する下記判例もご覧下さい。
 なお、限定承認と死因贈与に関するこちらの判例もご覧下さい。

 死因贈与の取消については、民法一〇二二条がその方式に関する部分を除いて準用されると解すべきである旨
判示した判例
 (最判昭47・5・25)。
 
この判例の事案は、夫が、生前、妻に対し不動産の死因贈与をしたものの、その後夫婦関係が破綻した為、夫が贈
与を取消し、その後、死亡したというもので、その取消しの効力が問題となりました。この判例は、上記判旨の理由
について
「死因贈与は贈与者の死亡によつて贈与の効力が生ずるものであるが、かかる贈与者の死後の財産に関する処分につ
いては、遺贈と同様、贈与者の最終意思を尊重し、これによつて決するのを相当とするからである。そして、贈与者
のかかる死因贈与の取消権と贈与が配偶者に対してなされた場合における贈与者の有する夫婦間の契約取消権とは、
別個独立の権利であるから、これらのうち一つの取消権行使の効力が否定される場合であつても、他の取消権行使の
効力を認めうることはいうまでもない。」
と判示しています。なお、夫婦間の契約取消権については、こちらをご覧下さい。

また、死因贈与は撤回できるという原則の上で、撤回を否定した次の事例判例もあります。

 土地の登記簿上の所有名義人である甲が、右土地を占有耕作する乙に対してその引渡を求めた訴訟の第一審
で敗訴し、その第二審で成立した裁判上の和解において、乙から登記名義どおりの所有権の承認を受ける代わりに、
乙及びその子孫に対して右土地を無償で耕作する権利を与え、しかも、右権利を失わせるような一切の処分をしな
いことを約定するとともに、甲が死亡したときは右土地を乙及びその相続人に贈与することを約したなど、判示の
事実関係のもとでは、右死因贈与は、甲において自由には取り消すことができない旨判示した判例
 (最判昭58・1・24)
 
この判例は、上記判例①を踏まえ、死因贈与は贈与者の最終意思を尊重して撤回可能とするのが原則ではあるけれ
ど、この事案での
「贈与に至る経過、それが裁判上の和解でされたという特殊な態様及び和解条項の内容等を総合すれば、本件の死因
贈与は、贈与者において自由には取り消すことができないものと解するのが相当である」と判示しています。

 負担の履行期が贈与者の生前と定められた負担付死因贈与の受贈者が負担の全部又はこれに類する程度の履
行をした場合には、右契約締結の動機、負担の価値と贈与財産の価値との相関関係、契約上の利害関係者間の身分
関係その他の生活関係等に照らし右契約の全部又は一部を取り消すことがやむをえないと認められる特段の事情が
ない限り、民法一〇二二条、一〇二三条の各規定は準用されない旨判示した判例
 (最判昭57・4・30)
 この判例の事案は、負担付死因贈与をした者がその後遺言によりこれを取り消したというものですが、判旨の理由
として
「負担の履行期が贈与者の生前と定められた負担付死因贈与契約に基づいて受贈者が約旨に従い負担の全部又はそれ
に類する程度の履行をした場合においては、贈与者の最終意思を尊重するの余り受贈者の利益を犠牲にすることは相
当でないから」
と述べています。文言として、「取消し」は、一旦発生した意思表示の効果を遡及的に抑止するものなので、死亡に
よって効果が発生する遺言の効果を生前に止める場合は適切でないとして、平成16年の法改正で「撤回」と改められ
ました。この判例は、したがって、死因贈与は本来撤回が可能であることを前提として、しかし、この事案において
は負担の履行状況等に照らして撤回は許されないとしたものと考えるべきです。




    
贈与でも 死因贈与 混合554 

         
贈与遺贈じる 遺贈する規定準用


   御高齢 
550朝に贈与し、夜には「返せ!」、

        書面によらねばそれもあり、

     
無書面 贈与は、既渡し除き、

           当事者双方撤回できる

             ここは
550こらえてつかあさい。


     死因贈与 (第三者に対する)遺贈ありはどうとる1023

         
その(死因)贈与  遺言いごん 撤回 みなす





遺言能力
 
民法961条は、「十五歳に達した者は、遺言をすることができる。」と定めます。
ですから、人は 15歳になれば単独で遺言をすることができます。次条の説明ともかぶりますが、本条によっても、
遺言には、財産行為に関する弁識能力である行為能力を必ずしも必要とせず、自己の最終意思を決定できれば、遺言
は可能という事が分かります。因みに、自らの意思で他人の養子となれる年齢も15歳です。こちらをご覧下さい。



   
961

      
遺言能力 十五歳

      他人(ひと)養子らなれて(※)

    
苦労961もしたかもの (※ §797、但し家裁の許可要す§798
     
        961十五(歳)になれば遺言者


 遺言は、財産行為である 遺産の配分 や身分行為である 認知 等にわたって、人がその最終意思を表明する単独行為
ですから、他人による「代理」や「同意」は相応しくなく、財産的弁識能力を「代理」「同意」でサポートする民法
の行為能力
(こちら  参照)規定の適用はありません(962条)し、自己の最終意思を決定できる (年齢にして15歳以上の) 
言能力が有りさえすれば遺言することができます。

 遺言は、遺言者が亡くなって、その効力が生じる時までには 時間的間隔がありますが、遺言者は、遺言をするその
時にこの遺言能力を有しなければ有効な遺言にはなりません。民法963条に
遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない。
とあります。

 行為能力を欠く常況にある成年被後見人の遺言についても、民法9条の適用はなく、その遺言の際に遺言能力があ
れば遺言できます。その場合には、医師二人が立ち会い、遺言書に
「遺言者は、
精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態にはなかった
旨の付記
をし、署名・押印することを要するとの特別要件が定められています(民法973条)

 
ところで、遺言は、私有財産制の下、人の最終意思に基づく財産処分ですから、その処分の自由は十全に確保され
なければなりません。
 ですから、自書 或は 口授 等の定められた方式が正しく履践されるべきは当然としても、遺言による財産処分の自
由に制約を課し得るのは、遺言能力及び方式等に関する法の明文と、遺言内容に関する遺留分規定だけであってしか
るべきだと考えます。

 それが、遺言の解釈に当たっては、「遺言書の全記載との関連、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた
状況などを考慮して遺言者の真意を探究し当該条項の趣旨を確定すべき」とする判例
(最判昭58・3・18)の、できる限り
遺言者の意思を尊重しようとする姿勢にも沿うものと思います。

 にも拘わらず、遺言内容が重大な財産処分であれば、高度な能力を必要とする旨の相対的能力論が勢いを得つつあ
り、これに沿って遺言無効を宣する下級審判例もかなり散見される点には疑問を感じざるを得ないものがあります。

 遺言書作成時の遺言者の見当識、言語、判断、認識等に、遺言能力にかかる障害が顕著であり、遺言能力を欠如し
ていることが客観的に明らかである場合を除いては、判例の遺言解釈の姿勢に倣い、こと遺言能力に関しては、でき
る限り遺言者の最終意志としての遺言意欲に沿うべく能力肯定の姿勢を持するべきと考えます。

 その場合、成年被後見人の遺言時に立会いを要する医師 が付記をする「
事理を弁識する能力(§973)と、961条
の「
十五歳」とを合わせ考えることが参考になります。つまり、まだ義務教育を終えただけで世故には疎いが、事理
を弁識する能力は備えたと言える中学校卒業程度の精神能力があれば、遺言は可能であるということです。

 従って、上記の様ななるべく能力を肯定する姿勢で臨んでも、必ずしも適式に方式が履践できず、或は、遺言者の
遺言意欲も窺われない遺言について、遺言者に遺言内容に関する理解力・判断力・表現力も著しく欠如していること
が明白な場合には、高齢社会の病弊として 遺言無効とされるのもやむを得ないところですが、そうでない場合は、
遺言者の遺言意志を尊重し、多少曖昧な点や矛盾する点があっても、むしろ解釈は後に委ねる姿勢を以て、公証役場
では作成されるべきですし、その遺言は上記の最高裁判例の示す合理的解釈に沿って、できる限り有効とすべきです。

 そして、その様な方式の履践や遺言意欲、遺言能力にまつわる具体的な事情については、社会がIT化の歩を顕著
に進めつつある現今、動画記録を残すことで容易に審査できる環境があると言え、是非その方途を探るべきであると
考えます。

 自筆遺言については、遺言者自身、或は、相続人であっても、その作成状況を動画に記録することが後の紛議を防
止することに繋がりますし、公正証書遺言については、公証役場がその作成状況を可視化する設備を整えることが遺
言公正証書の信頼性を増すことに繋がるものと信じます。
 運転者にとってドライブレコーダーが必須となりつつある世の中ですから、公正証書作成にまつわる紛争を予防す
るためのIT機器は、公証役場運営の必須アイテムと考えるべきではないでしょうか。




    
962遺言いごん 芽生えたら

        
   意思りも
小波973であって()()能力ある

       一人
承認らぬ自己するところ


           
最終意思(遺言に) 

         
§973は、成年被後見人の遺言に関する規定




  遺言ゆいごん
己れで決める最終意思

       
真意
  962代理なじまず


     
遺言(力は)死後効(§985)

       
保護をする(ための)能力チェック不要  

       
未成(§5)後見(§9) 保佐(§13) 補助(§17)

         
適用されず (行為能力不要)本人遺言いごん能力あればよい


           
これが(遺言)極意いいな(5、9、13、17)


       

     
成年被後者(被後見人)遺言

         
(精神の)738
あっても小波973であって

           (
一時的にでも)
意思判断できるなら

        
医師二人立会いの遺言いごん

      ()()()状態にない
 

         口添
973付記()() をせよ

     
   成年被後者遺言医師二人意思りも小波973であって

                
事弁能力不欠との口添
973
付記。  



    遺言
(精神に)738あっても小波973であれば 

     可能
といえど
(例えば)高齢者遺言をするその

       (遺言)能力なければ(遺言は)無効 

               頃見
963るべし

       
§738は成年被後見人の婚姻に、§973は同遺言に関する規定



自筆証書遺言
 
そこで、いよいよ遺言の仕方の方向へと向かって行きたいと思いますが、まず、一般に一番馴染みのある自筆証書
遺言の説明から入ることとします。
 この自筆遺言証書を作成するについては、民法968条が、
自筆証書によって遺言をするには、
  遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。

と定めます。筆跡によって遺言者の作成にかかることが分かることから、自筆であることがことさら重要とされます。

 これが、例えば 保有する財産が多種・多様に多数存在するケース等の場合、
相続財産の目録を調えること自体大
変なのに、それを全て自書するのは誠に難儀なことでした。それが、
平成30年7月の法改正により、平成31年1月
13日から、その目録については、自書を要しないこととなりました。

 したがって、正確性を求められる不動産関係の表記等も、登記簿謄本・登記事項証明書、不動産賃貸借契約書等の
「写し」を添付することで足りることになります。但し、目録の各頁ごとに署名し、押印することが求められ、紙の
両面に記載がある場合はその両面に署名・押印を要するとされていますから、要注意です。

 また、基本的約束事の所で述べましたように元々契印は不要とされていても、重要財産の表記について「写し」の
添付で代用と なりますから、後で紛議の的とならぬよう、真意性を担保する意味でも、契印して書面としての一体性
を確保した方が良いと思います。

「訂正」
 また、遺言書中の誤りの訂正については、「
その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに
署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。
」と定められています(968条3項)
 この点は 読むと造作ないようですが、一般に広く行われている訂正の仕方とは違和感があって、これが難点です。
 「
その箇所示し、その旨付記し、署名した上、文中の訂正箇所に押印 
の正規の訂正方法ができれば、
苦労は968ない、 ということです。但し、遺言者が書き損じた文字を抹消したうえ、
これと同一又は同じ趣旨の文字を改めて記載したものであることが、証書の記載自体からみて明らかであるような、
明らかな誤記の場合については、訂正方法に反していても遺言の効力に影響はないとする判例 
(最判昭56・12・18) があ
ります。

訂正についての秘策 自筆遺言の一番の面倒、かつ、最大の欠点とも言うべきは、この「訂正」ですが、パソコン
を使えば、難なくクリアできます。パソコンで十分に推敲して内容が仕上がったら、これを文字の色指定により、自
分で判読できるごく薄い薄墨色 
(うすいグレー) で印刷します。そして、筆ペンでこれをゆっくりなぞれば、訂正を必要
とする誤字・誤記は起こり得ません。もし、パソコンが使えないのなら、秘かに誰か 
( 多く相続させる相続人) に頼むと
良いと思います。それでも、訂正したい誤りが生じた場合は、上記の定めに従った正規の方法によるか、改めて作り
直しするか、ということになります。

 「何度も作り直して良いのでしょうか?」というお尋ねをよく受けますが、それは一向に構いません。以前のもの
を廃棄するか、新たな遺言書の冒頭に「
日作成にかかる私の遺言書は撤回します」旨記載しておけば足
ります 
( ところが、以前はこれで良かったのですが、平成30年の民法改正により事情が変わりました。「遺言作成のポイント」の1.をご覧下さい)

 なお、日付については、作成日を正確に記載すべきで、「吉日」などとしてしまうと下記判例のように遺言無効に
なりますので、要注意です。

 その他、「遺言作成のポイント」を記載しましたのでご覧下さい。
 遺言書の
検認は、特に重要な手続きですが、最近これを巡る新たな立法がありました。同ポイントの10をご覧下
さい。

 「自書」については、平成30年7月の相続法改正により、遺言書の内 財産の目録だけは、自書するを要しないこ
ととなった点は上記とおりです。次の判例があります。

 添え手遺言の有効要件判例 (最判昭62・10・8)  
 この判決は、まず、自筆証書遺言について、
「自書が要件とされるのは、筆跡によつて本人が書いたものであることを判定でき、それ自体で遺言が
遺言者の真意
に出たものであることを保障
することができるからにほかならない。そして、自筆証書遺言は、他の方式の遺言と異
なり証人や立会人の立会を要しないなど、最も簡易な方式の遺言であるが、それだけに偽造、変造の危険が最も大き
く、遺言者の真意に出たものであるか否かをめぐつて紛争の生じやすい遺言方式であるといえるから、自筆証書遺言
の本質的要件ともいうべき「自書」の要件については厳格な解釈を必要とするのである。」
と述べて、自書であることの審査の重要性を確認した後、
他人の添え手による補助を受けてされた自筆証書遺言は、
(1) 
遺言者が証書作成時に自書能力を有し
(2) 
他人の添え手が、単に始筆若しくは改行にあたり若しくは字の間配りや行間を整えるため遺言者の手を用紙の
正しい位置に導くにとどまるか、又は遺言者の手の動きが遺言者の望みにまかされており、遺言者は添え手をした他
人から単に筆記を容易にするための支えを借りただけであり、かつ、
(3) 添え手が右のような態様のものにとどまること、すなわち添え手をした他人の意思が介入した形跡のないこと
が、筆跡のうえで判定できる
場合には、「自書」の要件を充たすものとして、有効であると解するのが相当である」
と、「自書」と認められるための要件を述べています。
 その上で、本件遺言作成日にも作成直前に、手の震えと視力の減退の為、偏と旁が一緒になつたり、字がひどくね
じれたり、震えたり、次の字と重なつたりした為、妻から「ちよつと読めそうにありませんね」と言われて書きかけ
た遺言を破棄したことがあった後、妻が夫の手の甲を上から握って22行にわたる整然とした本件遺言証書を完成させ
たという、この判決の事案においては、自書の要件を満たさないとして、自書されたものとは認めませんでした。

 、一般の人が気軽に動画を記録できる時代となり、遺言のような重要な人の挙動も記録化が容易になりました。
添え手遺言の場面も、動画として記録して、この判例の言う「他人の意思が介入した形跡のないこと」が証明されれ
ば、その遺言の有効性に問題はないことになりますから、携帯電話やデジカメでの動画撮影を活用することをお勧め
します。

 そもそも、遺言の方式を厳格に定めている所以の一つは、「死人に口なし」
(言葉が悪いですが)で、書面に認(したた)
たことの真意を推し量ることが、古来まことに困難であったからです。今やITの時代となって、書面にすることの
重要性は依然として揺るがないとしても、「真意」を遺す手段が手近に用意できる状況下、遺言する立場として、自
己が他からの影響や圧力のない環境で、自身で遺言書を認めた事実を証明するため、遺言書には全て動画記録を添付
すべし、と心得ると良いと思います。それが、死後の身内の紛糾を防ぐ最良の策と言えます。

押印」については、
「遺言の基本的約束事」で触れました、指印でも良い とする判例の他に、自筆遺言書自体には押印がなかった事案に
ついて、
「遺言者が、自筆証書遺言をするにつき書簡の形式を採ったため、遺言書本文の自署名下には押印をしなかったが、
遺言書であることを意識して、これを入れた封筒の封じ目に押印したもの・・は、・・右押印により、自筆証書遺言
の押印の要件に欠けるところはない。」
とした判例
 (最判平6・6・24) があります。

日付」については、「昭和四拾壱年七月吉日」と記載された証書について、
「右日附は、暦上の特定の日を表示するものといえるように記載されるべきものであるから、証書の日附として単に
「昭和四拾壱年七月吉日」と記載されているにとどまる場合は、暦上の特定の日を表示するものとはいえず、そのよ
うな自筆証書遺言は、証書上日附の記載を欠くものとして無効であると解するのが相当である」
とした判例
(最判昭54・5・31)があります。
 また、その後には、昭和48年に死亡した遺言者が、日付の年号を「昭和二十八年」と記載した事案について、
「自筆遺言証書に記載された日付が真実の作成日付と相違しても、その誤記であること及び真実の作成の日が遺言証
書の記載その他から容易に判明する場合には、遺言はこれによつて無効となるものではない。
とする判例(最判昭52・11・21)も出ています。

 自筆遺言の条句をご覧頂きますが、初めの条句は、夫婦二人が健在の場合は、「子や孫に」ではなく、「妻や子に」
となるべきです 
( 念のため )



    

  ゆけば、急務は968、子に、

      
ずは自筆遺言いごんすること 

        ( 
のため、いで、遺言公正証書 




   
遺言 「 全文日付氏名 自書

        
押印する  」  は世話ないが

       
自筆遺言いごん苦労968

          
(末尾に)その
箇所 (本文何行目)し、

   その
 
(「○○とあるのを○○と訂正」のように、どう訂正したか)
付記し、

  
 
署名 した文中 訂正箇所  (二本線を引いて訂正し、

            或いは、吹き出しを入れて加入した箇所に)
 
押印  の 

         
訂正 できれば苦労968ない


遺言事項 
 
ここで、遺言事項と言われる、遺言で定めることができる事柄についても、触れておかなければなりません。
民法は、遺言の章以外の箇所でも、そういった事項の規定を置いていますので、まずは、
(1) 親族法の領域でそのようにして出ていたものを復習しますと、
 ① 遺言
認知(民法781条2項)(戸籍法60条64条認知届)
 ② 遺言による
未成年後見人の指定(民法839条1項)
 ③
未成年後見監督人の指定(民法848条) 
の三つとなります。

    

 なら(戸籍の法にのっとって)届出するか

   さもなくば
  遺言いごんによるの(認知の)(方式)がある

             認
781認知やい 781 



  未成()最後親権(単独)行使者(病み)839にせぬため

       手続
きの煩瑣苦
839にせず遺言 (未成年)後見人指定をすべし(指定が可) 




   親権最後
(に行使する)けた 後見(人)) 蓮はす848 不安なら

                   後見
しかとはかどるよう848遺言いごん (後見) 監督() 指定ができる



(2) 相続法の領域での遺言事項は、これ迄 順を追って述べてきたもの①と、今後出てくるもの②ということで、
次の通りになります。クリックにより確認をお願いします。なお、祭祀の関係ではこちらもご覧下さい。


  ① 相続分の指定
(902条)持戻し免除(特別受益903条)

    分割方法の指定分割禁止
(遺産分割908条)担保責任(遺産分割914条)

    遺言執行者の指定
(1006条1項)遺贈の現債方法(1047条Ⅰ②)

  
② 包括遺贈と特定遺贈(964条)

    推定相続人の廃除とその取消し
(893条894条2項)

    祭祀主宰者の指定
(897条1項) 

(3) 特別法の定めによるものとして、

  ①生命保険金受取人の変更
(保険法44条)

  ②信託の設定
(信託法3条2号)

  ③ 財団法人の設立
(一般法人法152条2項)があります。

(生命保険金受取人の変更は、自筆遺言例第3条を、信託の設定例については、自筆遺言例第4条をご覧下さい)

 遺言による信託の設定は、先行き案ぜられる配偶者や親族のために、信頼できる人に
 (遺言前に予め了解を得ておかねば
なりませんが)
、 一定の財産を信託の形で預け、目的を定めて運用・使用して貰うもので、同じく信頼する人に自己の
財産管理能力が減退したときに備えて予め後見を依頼して契約する任意後見と同様に、高齢社会での有用性が増大し
てきていると言えるものです。

 なにしろ遺言は、効力を発生する時には遺した本人がこの世になく、内容について本人に真意を確かめようがあり
ませんから、遺言で定め得る事項を限定して、安定した財産の承継等ができるよう明確を期さなければりません。
 ですから、この様に 遺言事項が法定されていて、これら以外の事柄を遺言に記載しても法的効力が発生しません。
そこが、いわゆる「遺書」と異なるところと言えます。



遺言の対象財産

 遺言は主として死後の財産関係を定める生前処分行為ですから、自己が亡くなった時に保有する財産
(卒時遺産)を対
象としますが、それは、前述した「遺産分割の対象」でもあります。それは、先に遺言がない場合の分割対象として
述べた所と同じですので、そちらをご覧頂きます。

 要するに、遺言では、遺言する人の保有する
積極財産を対象として、その処分を定めることができる、これが基本
となります。

 消極財産は、これを遺言で債権者に対する関係まで動かすことはできない為、対外的には対象財産になりません。
ただ、対内的に、つまり相続人間での負担者や負担割合を遺言で定めておくことは可能で、それを念頭に積極財産を
配分し、それに応じた負担を定めておくことになります。

 対外的にクオレ
(法定相続分)どおりに債務の処理に応じた相続人は、遺言で対内的に負担を定められた相続人に求償
することができます。条句にすると次のとおりですが、後段の、消極財産の為に放棄者が出るようであれば、遺言を
する意味もないことになりますから、条句は積極財産・消極財産対比上の理念型を示しただけの意味合いとなります。



   
くなって遺す積極財()

      遺産
898遺言中味()けるで、


  消極財()苦労 896いやなら 悔誤くいご915 (造語)なく


                
相続放棄(をしなさい)苦痛なし920  


遺言の変更・撤回

 一通の遺言の中での訂正・変更は前述の様にすればよい訳ですが、遺言書を完成した後に訂正・変更したい場合は
どうすればよいでしょうか。

 民法1022条によれば、遺言は、いつでも、遺言の方式によって、撤回することができます。世間では、遺言は、
一回しかすることができないと思っている向きもありますが、そうではなく、亡くなるまで何通でも作ることができ
ます。要するに、その内の最終意思が効力を持つということです。

 ですから、複数作られた遺言の間に
矛盾・抵触があれば、後の遺言で前のその部分を撤回したとみなされます
(民法1023条1項)。なので、再度遺言の方式を守って作成する面倒を厭わなければ、訂正・変更も難しくありません(そ
の場合、法の定めによって、撤回したとみなされるより、前の遺言のどの部分を撤回し、どう変更するか、明示的に記載した方がよいことは
勿論です)


 遺言書を作った後に、遺言と矛盾・抵触する処分を行った場合も、同様にその矛盾・抵触部分を撤回したとみなさ
れます(民法1023条2項)

 後記の通り、判例(最判昭56・11・13)も、「抵触」は、後の生前処分を実現しようとするときには前の遺言の執行が
客観的に不能となる様な場合のみにとどまらず、
 
諸般の事情より観察して後の生前処分が前の遺言と両立せしめない趣旨の下にされたことが明らかである場合
をも包含するものと解するのが相当としています。加えて、その生前処分も、判例の事案では、協議離縁がそれに当
たるとされていますから、財産処分に限らず、身分行為でもよいことになります。

 また、遺言書を故意に破棄したり、遺贈の目的物を破棄したりした場合も、遺言
(或いは、その遺言部分)を撤回した
とみなされます
(民法1024条)

 私が公証役場で公証人として執務していた間にも、財産状態が変わったり、遺産の配分の変更を希望されたりとい
うことで、一人で数度にわたり遺言を作った方がいました。その方の遺言は、ですから、冒頭「○年○月○日作成の
遺言はこれを撤回する」旨のくだりから始まります。

 遺言の撤回に関する民法1022条、前の遺言と矛盾・抵触する遺言や行為等に関する1023条、遺言書又は遺贈の目
的物の破棄に関する1024条の条句をご覧頂きます。

 さて、これ迄は、遺言する内容を変更する場合、上述の様にいわば気兼ねなく新しい遺言を作ることができる状況
がありましたが、平成30年の相続法改正で随分事情が変わりました。

 これ迄 死亡に一番近い遺言であることが証明されさえすれば、取得を争う第三者も、場合によっては共同相続人で
さえも抑えて、その遺言による相続を登記なくして主張することができたのですが、2019年
(令和元年)7月1日からは、
登記によってことが決せられることとなりました。

 最後の遺言書による相続だからと安心して、うっかり、その侭にしておくと、それ以前の遺言による取得や共同相
続人による処分行為の結果を登記済みとされてしまって、対抗できない羽目ともなります。ですので、まずはその様
な状況を回避する必要があり、その為、まずは古い遺言がものを言う事態をなくしておかなければなりません。

 ですから、遺言を変更する必要が生じることはやむを得ないとしても、古い遺言は、上記の様に撤回する旨を明記
すると共に、廃棄しておくことが肝要となります。合わせて、必ず遺言により取得する財産の登記
(等の対抗要件の具備)
を直ちに済ませておくことが必要となります。こちらもご覧下さい。


     
遺言最終意思  遺言者死後効 出遺言

       
   発効しない生前自由1022して撤回 できる

        
されども遺言いごん遺言ゆいごん方式踏まねば撤回できぬ


   「遺言ゆいごんいつでも遺言いごん(全又一部)撤回できる

     「自由
1022撤回 っているなら とおに1022




     前後つの遺言はどうとる1023

            
 矛盾部 遺言いごん 撤回 みなす


    故人
生前遺言いごん


      
1023じたか抵触行為

               
矛盾処分あった場合もそうみなす



   民法遺言につき

     「
撤回自由認容1024した


     故意
による 遺言いごん  又は  遺贈物
(の)破棄 


       
遺言いごん意思()とおに ほぅ1024った


          
 
(遺言の ) 撤回 ()みなす一部()破棄 なら、


                   その
部分
()撤回したとみなす


遺言 撤回行為の撤回(民法1025条)
 遺言は、いつでも 遺言の方式によって 撤回することができると言いましたが、それでは、「前の遺言を撤回する」
とした後
(或は 矛盾・抵触する遺言や処分行為により撤回とみなされた後)、その「撤回」を、さらに撤回できるでしょうか。

 それができると解した場合、最初の遺言が復活するのでしょうか。一度撤回しておきながら、その撤回を撤回する
という様な 優柔不断の様相を呈する遺言を、遺言の効力を伴うものとして復活させてよいものでしょうか。

 ここで、確認しておくべきは、本来、何度でも遺言することができるのですから
(→遺言の自由)、「撤回する」とか
「取り消す」と言わずに、その都度 改めて遺言すれば
(遺言の実内容がしたためられた遺言を「実遺言」と言います)、何ら
問題は無いということです。

 事は、内容を伴わずに単に「撤回する」と書いた遺言
(私なりに、「形遺言」と言います)を、再度撤回した場合の効力如何
という問題です。この問題については、民法1025条
前三条の規定により撤回された遺言は、その撤回の行為が
  撤回され、取り消され、又は効力を生じなくなるに至ったときであっても、その効力を回復しない。
   ただし、その行為が詐欺又は強迫による場合は、この限りでない。

と定めます。

 ですから、再 撤回 が、実遺言を伴わない形遺言でしかなかった場合、元の遺言は復活しないが、再 撤回 が詐欺・
強迫によった瑕疵ある意思表示であった場合に限り、元の遺言が復活します。

 また、再 撤回 が 「撤回する」旨の記載と共に元の遺言を有効とする旨 合わせて記載されたものであれば、遺言者
の真意は明確ですから、元の遺言が復活します。

 この点に関する次の事例判例
(最判平9・11・13)があります。次のように判示しました。
一 遺言者が遺言を撤回する遺言を更に別の遺言をもって撤回した場合において、遺言書の記載に照らし、
遺言者の意思が当初の遺言の復活を希望するものであることが明らかなときは、当初の遺言の効力が復活する。

二 
遺言者が、甲遺言を乙遺言をもって撤回した後更に乙遺言を無効とし甲遺言を有効とする内容の丙遺言をした
ときは、甲遺言の効力が復活する。
 この判決は、その理由として、
「遺言
(以下「原遺言」という。)を遺言の方式に従って撤回した 遺言者が、更に右撤回遺言を遺言の方式に従って撤回し
た場合において
遺言書の 記載に照らし遺言者の意思が原遺言の復活を希望するものであることが明らかなときは、
民法一〇二五条ただし書の法意にかんがみ、遺言者の真意を尊重して原遺言の効力の復活を認めるのが相当と解され
る。これを本件について見ると、前記 の事実関係によれば、亡Dは、乙遺言をもって甲遺言を撤回し、更に丙遺言を
もって乙遺言を撤回したものであり、丙遺言書の記載によれば、亡Dが原遺言である甲 遺言を復活させることを希望
していたことがあきらかであるから、本件においては、 甲遺言をもって有効な遺言と認めるのが相当である。」
と述べています。

 該事案は、甲遺言の内容を大きく変えた乙遺言の末尾に、「この遺言書以前に作成した遺言書はその全部を取り消
します」との記載があり、丙遺言には、「乙遺言は全て無効とし弁護士のもとで作成した甲遺言を有効とする」旨の
記載があったというもので、上記の実遺言と形遺言が混在する例ですが、1025条の法意は、優柔不断の様相を呈する
遺言を、遺言の効力を伴うものとして復活させてよいものか、という疑念を払うことにあるのですから、遺言自体に
復活させる旨が明確に記載されていれば、それで判断されるべきで、遺言者の真意を汲む合理的解釈と言えます。
 なお、元遺言を撤回したが、撤回は詐欺・強迫に基づくからとして、撤回を取り消した場合は、元遺言が復活しま
(1025条但書)




  
(疑問)遺言撤回 行為 撤回或いは 取消し失効したら

                   遺言いごん
どうなる (疑問の)にゴン1025

  
(答え)同一1025内容で また遺言いごんでき(再度 明確に)すべき

               
(遺言) 復活しない撤回維持(される)

    
但し、(遺言)撤回 ()()った 取消ときに

                  (にも拘わらず)
撤回維持りに惨苦1025 

        
(又は されて (遺言)撤回したなら撤回 (取消しで)無効

                             
遺言いごん
復活 一先ずゴー1025

        
「同一」の「どう」は仏語の2から、「サンク」は仏語の5から



 言のみなし撤回判例(最判昭56・11・13)  
 遺言と抵触する遺言者の生前行為に照らし、遺言が撤回されたとみなした判例です。
 この判決は、民法1023条2項にいう「抵触」とは、
「単に、後の生前処分を実現しようとするときには前の遺言の執行が客観的に不能となるような場合にのみにとどま
らず、
諸般の事情より観察して後の生前処分が前の遺言と両立せしめない趣旨のもとにされたことが明らかで
ある場合をも包含する
ものと解するのが相当である」
として、養子となるべき者から終生扶養を受けることを前提として、その保有する大半の不動産をその者に遺贈する
こととした遺言者の遺言は、その後、その養子が遺言者の不動産に無断で抵当権を設定する等したため、養子に対す
る不信の念を深くして、協議離縁に至り、法律上も事実上も扶養を受けないこととなった経緯に照らせば、
「右協議離縁は、前に本件遺言によりされた遺贈と両立せしめない趣旨のもとにされたものというべきであり、した
がつて、本件遺贈は後の協議離縁と抵触するものとして前示民法の規定により取り消されたものとみなさざるをえな
い筋合いである」
として、遺言の遺贈部分は撤回
 (当時は、「取消し」という文言でしたが、その後民法が改正されて「撤回」となりました) された
ものとみなしました
 ( 「取消し」は、一度効力が生じたものについて、その効力を失わせることですが、遺言は亡くなってはじめて効力を生
じますから、遺言者が自らした遺言の効力を失わせる行為は、厳密には「取消し」とは言えないからです) 




遺言作成10のポイント

 
遺言作成に当たってのポイントをまとめてみましたので、ご覧頂きます。なお、自筆遺言例も参考にして下さい。

1. 全文・日付・署名を全て自書して押印します。但し、財産目録は
 (登記簿等の) 写しを引用できます (必ず頁ごとの
署名・押印が必要です)
。書き間違いがあると、その「訂正」はとても面倒ですが、但し、秘策があります。→1.

2. 遺言は、「撤回」をして何通でも作ることができます。しかし、なるべく複数の遺言が存在する結果にならな
いよう心がけましょう。→2.

3. 相続人には「相続させる」、それ以外の者に対しては「遺贈する」と書きます。但し、配偶者と同居してきた
所有建物に、配偶者をそのまま住まわせたい場合は、
配偶者に次の建物(或いは「における配偶者居住権」)を遺贈する
と書いて、その建物を記載します。
3.

4. 財産を取得させる相手が先に亡くなった場合に備え、必要があれば、補充的予備的遺言をします。→4.

5. 人物を特定して遺言執行者の指定をし、合わせて、遺言執行者の権限を具体的に記載しておきます。→5.

6. 財産を明確に特定し、かつ、漏らすことなく全財産について処分を定めましょう。この場合財産目録について
は登記簿謄本や銀行通帳等の写しを用いることができます。→6.

7. 遺言することにより法定相続分にとらわれない遺産分けができますが、記載するときは主観を排して、客観的、
明確に記載し、かつ、遺留分を侵さぬよう注意しましょう。→7.

8. 借金は、全相続人が法定相続分に応じた割合で、負担することになります。但し、内輪での指定として、相続
人間での負担者、負担割合を定めることは可能です。→8.

9. 預貯金・現金の配分を工夫して、相続人が相続税の支払いに困らぬよう配慮しましょう。生命保険金の受取人
を遺言で変更できるので、調整に使えます。但し、生命保険金の受取人変更については、相続開始後すぐに保険会社
に変更の件を通知すべきことを記載しましょう。→9.

10.  必ず封印し、封の「遺言書 ○○○○」の表書きに「私の死後すぐに家裁で検認を受けて下さい」と添書き
をしましょう
 (但し、この添書きは、自筆遺言書の法務局保管によれば不要となります)。→10.


以下に、各ポイントごとの理由を記載します。


1. 民法968条が、
遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
として、自筆遺言証書の作成方式を定めています。

 そのため、保有する財産が多種・多様に多数存在するケース等の場合、相続財産の目録を調えること自体大変な
のに、それを全て自書するのは誠に難儀なことでした。それが、平成30年7月の相続法改正により、平成31年1月13
日から、その目録については、自書するを要しないこととなりました。

 登記簿謄本
(登記事項証明書)や銀行通帳 或は 契約書添付の物件目録等、当該財産が記載された書面の写しで良いこと
になりました。但し、目録の各頁ごとに署名し、押印することが求められ、紙の両面に記載がある場合は、その両面
に署名・押印を要するとされていますから、要注意です。

 また、基本的約束事の所で述べましたように、元々契印は不要とされていても、重要財産の表記を「写し」の添付
で代用する訳ですから、後でその真贋が紛議の種とならぬよう、契印によって書面としての一体性を確保した方が良
いと思います。

 自筆証書遺言は、自筆でないと「遺言無効」とされてしまいます。筆跡によって遺言者の作成にかかることが分か
ることから、自筆であることが殊更 重要とされます。

 しかし、誤字・誤記が生じたときの、法に定められた正規の訂正方法が面倒で、かつ、普通の訂正の仕方ではない
為、自筆遺言のつまづきの種と言われます。

 そこで、間違いの生じない、パソコンを使っての秘策をお教えします。自書する「全文・日付・氏名」の内、間違
いの生じ易い「全文」については、予めパソコンで、自筆遺言例を参考に十分推敲し、内容を確定します。その上で
、これを文字の色指定によりギリギリ判読できる薄墨色
 (うすいグレー) でプリントします。そして、全文を筆ペンでゆ
っくりなぞれば誤字・誤記は生じません。それでも、訂正したい誤りが生じた場合は、法の定めに従った正規の方法
によるか、改めて作り直しするか、ということになります。

 「何度も作り直して良いのでしょうか?」というお尋ねをよく受けて、 「それは一向に構いません。以前のものを
廃棄するか、新たな遺言書の冒頭に「○年○月○日作成にかかる私の遺言書は
 (或は「従前の私の遺言書は全て」 ) 撤回しま
す」旨記載しておけば足ります。」 と申し上げていましたが、平成30年の民法改正により事情が変わってしまい、
複数遺言は、極力避ける
よう十分心して臨まれる必要が、一層生じることとなりました。こちらをご覧下さい。

 また、自書するにも、手が不自由であるため添え手をしてもらう必要があるというような場合については、こちら
をご覧下さい。

「押印」は 認印でもよく、更に、平成に入って、自筆遺言については指印でもよいとされました (
最判平成元年2・16)

2.
 複数の遺言のうち矛盾・抵触する部分は、亡くなる時点に近い、新しい遺言の方が効力を認められます。
 矛盾・抵触の有無を確認するのは一苦労となりますから、後の遺言書の冒頭に以前の遺言を全て撤回する旨を記載
するのが通例です。

 複数遺言の場合、最終意思としての最後の遺言が実現されることになるので、以前の遺言を改めるに躊躇は不要と
申し上げてきましたが、1.で述べたとおり、平成30年7月の民法改正により、複数遺言は、その効力が
(法定相続分を
超える部分は)
対抗要件の有無にかかり、不動産については登記の有無次第となりますから、リスクと隣り合わせになる
ので、極力避けるよう臨まれる必要があります。やむなく遺言を書き改める場合は、以前の遺言を確実に廃棄するこ
とが肝要です。こちらをご覧下さい。

3. 相続人に「相続」でなく「遺贈」としてしまうと、種々有利で便利な「相続」の枠の外の扱いとなり、不動産
登記手続等で、遺贈を受ける人と遺贈義務を負う人
(=遺言者、つまりその承継人である相続人全員)の双方の参加が必要となる
等、とても面倒です
 (但し、こちら及び後記5.も参照下さい)

 また、相続人は法定されていますから、それ以外の人に「相続」することはあり得ません。例えば、孫 に継がせた
い場合でも、その親にあたる 子 が存命であれば、子が相続人ですから、孫に対しては、「相続させる」でなく、
「遺贈する」となります。

 但し、子が亡くなっている場合は、代襲相続になりますから、「相続させる」で良いことになります。

 なお、公益団体等に寄付する場合も、遺言での表記は「遺贈する」としますが、寄付の受入れについて予め先方に
了解を得ておくこと、そして、その寄付を実行する遺言執行者を指定しておくことが肝要です。

 特に、不動産現物の寄付については、不動産取得税の負担も伴う為もあって、殆ど断られることが多いので、必ず
了解を得なければなりません。もし、亡くなってから、受入れ拒否に会うと、宙に浮いて、結局相続人全員による協
議が必要となり、遺言した甲斐が無くなってしまいます。こちらをご覧下さい。執行者については5.をご覧下さい。

 なお、平成30年 民法改正により創設された配偶者居住権配偶者(に対する特例扱いとなる)居住資産
遺言する場合は、
「遺贈する」と記載します。「相続」枠外の取得とするメリットの為ですので、間違わぬよう注意しましょう。「相
続させる」としてしまうと、相続分の中で大きな割合を占めることとなって、その分、配偶者の取得分が減ってしま
います
(遺言での「配偶者居住権」については、そもそも、遺贈対象としてしか存在が認められていません)こちらをご覧下さい。

4. 遺産を与える相手の人が先に亡くなっていると、遺言のその部分は無効となります
 (最判平成23・2・22)その為、
そこで与えるとした物の遺産分けには、相続人全員が押印し、印鑑証明書を添えた遺産分割協議書が必要となって、
結局、相続人らは、遺言がなかったときの面倒をその侭かけられることとなります。ですので、受け取るべき人が先
に亡くなった場合に備えた予備的・補充的な条項が必要となります。自筆遺言例の各条但書を参考にして下さい。
こちらもご覧下さい。


5. 
遺言執行者については、平成30年の法改正により、必ずしも十全でなかったその地位、立場、権限に関する
規定が、拡充・明確化されました。こちらをご覧下さい。

 これにより、
ときに執行者には登記権限がないとする判例が出るなどした混乱や執行者が「相続人の代理人」で
あるとされていた為に、相続人間に利害の対立がある場合に生じていた混乱が解消すると思われます。

 何より、今回の改正で、相続による財産取得では必須となった相続登記等 対抗要件
(民法899条の2)についての備えは、
これを用いようとする者には、万全となりました。ですから、その備えを厭わず活用しなければなりません。

 また、遺言執行者の指定がある場合は、遺贈の履行は執行者のみが行うとされたことにより、双方申請となる 遺贈
登記や、銀行での相続手続き等も、受遺者と遺言執行者だけでスムーズに行うことが可能となります。

 加えて、相続人の執行に対する妨害行為は、原則、無効との明文が置かれましたから、確実な遺言執行が保障され
ることに繋がります。

 なお、銀行、金融機関の窓口行員等の教育不足・不周知による扱いの遅れや躓きが起こらないよう、遺言執行者の
権限も、念のため 具体的に記載しておきます
 ( 預貯金を「相続させる」遺言で遺言執行者として指定をされた者は、金融機関に対し
預貯金の解約や払戻しをすることができることについても、改正法で具体的に定められました ( 新1014条3項))
自筆遺言例 6条をご覧
下さい。

 また、遺言による寄付を行う場合は、遺言執行者の指定がないと、通常、相続人の中に寄付の実行に利益を感じる
者がいないため実行できなくなりますから、指定が必須となります。

6. 遺言は、保有財産全てをカバーする完結遺言でなければ、遺言する価値が半減 
(それ以上かも知れません) します。
 そして、遺言実現の段階で、財産を特定する面倒が要らぬよう記載しなければなりません。

 不動産であれば、登記簿
(登記事項証明書)の記載に従い、銀行口座なら銀行名、支店名を記載する(口座番号・残高は
流動する可能性があるので記載不要です)
、その他契約等にかかるものは、契約書の記載に従う等して、財産を明確に特定す
ることが必要です。

 例えば 「遺産の○割を相続させる」 とあっても、銀行窓口や登記所では相続手続きに応じてくれません
(相続人全員
の法定相続分どおりの共有とする場合は別ですが)
。割合で分けなければならない場合は、相続人間でその割合に合うよう 何をど
う分けるか遺産分割協議をしなければならなくなり、その負担は軽くありません
(加えて、故人からの生前贈与等特別受益
あった場合は、相続分の調整をしなければなりません)
。割合相続遺言は、未完遺言と心すべきです。

 
未完遺言は禁物です。又、全財産をカバーしたものでない 部分遺言だと、漏れた財産について遺言なしの状態と
なり、4.の遺産分割協議書が必要となります。全子探索の面倒も伴います。それでは、遺族にとって未完遺言同様
に有難さが半減します。

 ですので、各種資産について、銀行預金等 金融資産であれば、「・・その他の金融機関、」或は「・・その他の金
融資産」等として、漏れている分や遺言後に加わる分をも含むように記載し、又、遺産分けの記載の最後を「・・そ
の他一切の財産を○○に・・相続させる」等として、
漏れなく記載されている形にします。(自筆遺言例2条参照)

 なお、平成30年 法改正により、平成31年1月からは、遺産の目録については、自書することを要しないこととなり
ました。但し、目録の各頁ごとに署名と押印が必要で、紙の両面に記載がある場合は、その両面に署名・押印が必要
となります。

 くどくなりますが、遺産の中に、遺言されない財産があったり、最終取得に至れない未完部分があった場合
、これ
を遺産分けすることは、容易ではありません。つまり、これまで遺言がないと相続人たちに面倒をかけてしまうと申
したことが、その侭 全て当てはまることになります。しかも、漏れた財産や未完部分が、小さな 或は 少ないもので
あったりすると、遺族にとっては負担感が倍加します。部分・未完遺言にはならないよう、念を入れましょう。
 
( 「完結遺言と部分・未完遺言」参照 )

7. 遺言の遺産分け部分は、遺言の核心なので、疑いの余地を残さぬよう、客観的、明確に記載する事が肝要です。
 前項記載のように、あげる物、財産を、登記所・銀行で対応可能なように特定し、誰の取得とするのか、相続人・
受遺者を続柄・生年月日・住所で特定し、「相続させる」と「遺贈する」の何れであるかも書き分ける等
 (自筆遺言例
も参考にして下さい) 
、遺産分けの要件だけを記載します。

 もし、その配分理由や配分に当たっての思いを書き遺しておきたい場合は、全部遺産の配分を書き終えた後に「付
言事項」として記載する方が適切です。

 「遺留分」は相続人が保障される最低限の相続分で、これが侵された場合その相続人は、他の人の受ける分 或は
受けた分について「遺留分侵害額請求
 することができます。容れられぬと訴訟となって、遺言を原因とする相続
争いになってしまいますから、それは避けたいところですね。
(遺留分の権利者は、亡くなった人の配偶者・子・親だけです。)

8. 相続債務は、被相続人が亡くなって相続が開始すると同時に、法定相続分に応じて各相続人が承継します。

 相続人は、相続債務を負いたくなければ、亡くなって3か月以内に、法律で認められた脱債務の途である相続放棄
 
(又は全員で限定承認) をしなければなりません。

 しかし、放棄も、それによってその者が「はじめから相続人でなかったこととなる」ため、別の人が代わりに相続
人となるようなケースでは、その人が思わぬ負担を負うことになりかねません。なので、相続放棄をする場合、後に
恨みを残さぬよう事前に連絡や相談をすることが必要かも知れません。

 遺言で、相続人には債務を負わせないと書いても、債権者には通用しません。但し、遺言で、債権者と関係なく内
々で、相続人の間だけの負担割合を定める 或は 一人の相続人に多くを相続させて、その者に全債務を負担させるこ
と等はできるので、
(予め負担する相続人には暗黙にでも了解を得る等して) その線で配分や負担者・負担割合を遺言するのも
一法かも知れません 
(その場合、債権者から他の相続人に取立てがあれば、取立てに応じた者から、遺言により負担する旨定められた者に
求償することになります )


9. 遺言による遺産の配分には、相続税についても配慮してあげる必要があります。

 例えば、不動産ばかりを多く配分されたりしたら、相続人は多額の相続税を現金で納めねばならず、結局取得した
不動産を手放さなければならない羽目になったりします。

 その様な場合は、相続税の備えに預貯金・現金も合わせて取得させることも必要になります。

 なお、法改正により生命保険金受取人を遺言で変更できるようになりました。生命保険金は、保険会社から支払わ
れるもので、遺産ではないというのが確立した判例ですが、事実上、遺産分けの調整材料にすることができます。

 但し、亡くなって相続が開始したらすぐに保険会社に受取人が変更されている旨を知らせないと、元の受取人に支
払われてしまったりするので、「速やかに通知しなければならない」旨の記載が肝腎です
 ( 自筆遺言例3条参照 )

 なお、生命保険金については、例外的に、遺産に持ち戻されてみなし遺産とされた上で遺産分割されることがあり
ますので、注意が必要です。

 相続税の関係では、ですので、生前から、余裕があれば、相続税の備えとしても、毎年非課税・非申告でできる
110万円の贈与をしておくと良いと思います。なお、小規模宅地等の特例制度を使って、自宅や事業所等を子や孫に
継がせることにより、不動産の評価額を減らす
(ときには8割も減額されます)ことも可能です。検討して見て下さい。
相続税の関係では、こちらもご覧下さい。

10. 遺言があっても、家裁で遺言書の「検認」を経ないと不動産の相続登記も銀行口座の名義変更もできません。
 そして、検認手続きには、全相続人の呼出可能な資料を提出しなければなりません。

 遺言公正証書は、公務員である公証人が作成し、公証役場で保管されるので、改竄の恐れがなく、法律で検認は不
要とされています。又、どこに保管されているか不明の場合、最寄りの公証役場で相続人であることの身分証明を示
せば、「遺言検索」により 時間を要せず 公正証書遺言の有無、ある場合はその保管先公証役場が分かります。

 もし、公証役場でなく、自筆で遺言書を作成する場合は、遺言で遺産を多く取得することとなる、信頼できる者に、
遺言作成後に、遺言書の保管を、死後の検認手続きと遺言執行も合わせて、依頼しておくと、信頼に応えてしっかり
やってくれるのではないでしょうか。

 亡くなった後、遺言書の開封は、家裁の検認手続きで相続人 或は その代理人の前でしかできないことなので、勝
手に開封しないよう言っておくことも必要と思われます。封に「私が亡くなった後は、遅滞なく家裁で検認を受けて
下さい。それまでは勝手に開封しないで下さい。勝手に開封した場合は、制裁を受けるし、破棄したり、隠匿すれば、
相続欠格となるので、その様なことのないよう願います。」と書いて
(付箋して?)おくのも一法かと思います。

 なお、平成30年7月に
法務局における自筆遺言証書の保管等に関する法律が公布されました。これにより、自筆
遺言証書は遺言者自身によって法務局に保管を申請することができることとなりました。亡くなった後に相続人、受
遺者 或は 遺言執行者から、その保管証明書の交付請求、或は その閲覧請求、遺言書の画像情報証明書の交付請求を
することができます。又、この
法務局の保管にかかる遺言書は家裁の検認が不要です。従って、上記の様に封に書き
記す必要もなくなりますし、何より、自筆遺言利用のネックとされてきた保管と検認という関門が取り払われます。
自筆遺言の普及が一層進むと予想されます。なお、同法は2020年
(令和2年)7月10日から施行されています。


遺言執行者

 「遺言のすすめ」、「遺言作成のポイント」の何れにも登場した遺言執行者は、相続舞台の重要な役者です。
最近でこそ遺言が普及して自筆遺言の例も増えて、次に述べます家裁での検認の件数もかなりの増加傾向にある様で
すが、一般には遺言執行者の重要性が認識されておらず、自筆遺言の殆どには遺言執行者の指定がないのが実情です。
ところが、遺言執行者の重要性は、平成30年の相続法改正により一層度を増して、遺言執行者は遺言と不可分・不可
欠の存在となりました。以下で、その重要度を確認したいと思います。

遺言執行者の地位・権限
については、その権利・義務について、その第1項で
遺言執行者は、
  遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。

と規定する民法1012条と、遺言執行者の行為の効果に関する1015条とがその要となる規定です。
 そして、遺言執行に対する妨害行為の禁止に関する民法1013条が、遺言執行者をサポートする規定と言えます。
執行者の立場について、1015条には、改正前「遺言執行者は、相続人の代理人とみなす」とあって、相続人の利害
を代表する立場と受け止められ勝ちであったのが
遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、
  相続人に対して直接にその効力を生ずる。

と要件効果の直言となりました。相続人間に利害対立があったときに、「代理人」の立場の説明に窮する為でした。

以上、詳しくは、次項以下になります。
 なお、遺言執行者の登記権限についてこちらをご覧下さい。
 遺産の管理における注意義務の関係では、民法918条926条等が、相続人については、いわゆる「固財注意」
つまり、自分固有の財産におけると同程度の注意で足りる旨を定めていますが、遺言執行者が遺言執行するに当たっ
ては善良なる管理者の注意、いわゆる「
善管注意義務」が課せられます(民法1012条644条)

 それと共に、執行事務に関する報告義務
 (645条)・受取物の引渡義務 (646条)・金銭消費に対する利付き償還・損害
賠償義務 
(647条 )を負いますが、又、支出した必要事務費の償還請求・必要債務の弁済請求・無過失で損害を被った
ときの賠償請求 
(650条) もすることができます。


遺言執行者の地位・権限に関する平成30年7月民法改正
 平成30年7月の民法改正により、遺言執行者の地位・権限が格段に拡充され、明確となりました。また、合わせて、
執行妨害行為の無効が明文で宣言されました。すなわち、
◎ 遺言執行者の任務:遺言内容の実現
遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する」とあった1012条
1項
に、目的文言が加えられて、
「遺言執行者は、
遺言の内容を実現するため・・・執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する」と改められ、
また、

①「相続させる」遺言の履行
 1014条2項
遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言
(以下「特定財産承継遺言」という。)があったときは、
   遺言執行者は、当該共同相続人が
第八百九十九条の二第一項に規定する
         対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる。

との規定が置かれました。
要するに、「相続させる」遺言によって取得する財産が 例えば不動産であれば、その相続
登記をする権限を遺言執行者に与える旨の規定です。そして、

②「遺贈する」遺言の履行
 上記1012条1項の次に、
遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる
とする2項を入れ、これまで遺言執行者がある場合受遺者が履行請求の相手方とすべきは誰であるのか必ずしも分明
でなかった点を明らかにしました。これにより、
双方申請となる「遺贈」登記や、銀行での相続手続き (預貯金を
「相続させる」遺言で、遺言執行者として指定をされた者は、金融機関に対し預貯金の解約や払戻し等をすることができることについても、

改正法で具体的にその権限が定められました ( 1014条3項)
)等も、受遺者と遺言執行者だけでスムーズに行うことが可能とな
ります。この改正点の意義についてこちらもご覧下さい。

 遺言による登記
 
上記①の1014条2項により、遺言執行者に登記権限があるかという「対抗」の重要問題が解決されましたから、
遺言執行者は、対象たる不動産について、相続登記・遺贈登記の完了まで一貫して執行に当たることができます。
因みに、配偶者居住権についても、配偶者の登記請求に対して当該不動産所有者の登記応諾義務が定められました
(1031条1項)から、遺言に配偶者居住権の遺贈があるときは、執行者が配偶者と共に居住権登記に臨むことになります。

 遺言執行者の立場の強化
 遺言執行者の立場についても、「遺言執行者は、相続人の代理人とみなす。」とあった1015条が、前述の様に改
められましたから、相続人間で利害の対立があるときに生じていた余計な混乱を防ぐことに繋がりますし、遺言執行
者は、
相続人の利益のために行為するのでなく、遺言を実現するための存在であること、そして、その行為の
効果が相続人に及ぶ
ことが明示されました。

 以上の権限規定等の改正が、相俟って、
(今回の改正により相続での重要性が格段に増した)対抗要件についての確実な
備えが可能となったと言えます。

⑤ 遺言執行に対する妨害行為の禁止
 更に、これ迄は、1013条
相続人は遺言執行を妨げる行為をすることができない
と定めるだけで、これに反した行為の効果は如何かについて規定を置いていなかったところ、今回、同条に
前項の規定に違反してした行為は無効とする。ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができない。
との第2項が追加されました。判例で説かれていた点が、取引安全の視点も加味して、条文化されたものです。

 遺言執行に対する妨害に対しても、法の明文による防波堤が築かれましたから、今後は、今回 築かれた執行体制の
下に、相続による権利取得について、遺言執行者はもとより、相続人等相続関係者は「
相続と登記」が一体のセット
であることを肝に銘じ、
相続による権利取得の後は直ちに必ず登記をする との実行が肝要となります。上記のとおり、
執行妨害の禁を破る取引があるとき、善意の第三者に対抗できないことも宣せられていますから、なおさら、登記の
重要性は明らかとなりましたので。

 相続したと思っていた家屋敷が、気付いたら いつの間にか他の相続人を経て第三者名義の登記となっており、最早
手遅れであったということにならぬよう、相続 登記」を肝に銘じたいものです。
 なお、これら改正諸点は2019年
(令和元年)7月1日から施行されています。続いて、登記権限等の関係もご覧下さい。


遺言執行者の登記権限等
 
判例 ( 最判平11・12・16 ) は 「相続させる」遺言により取得した不動産に他者名義の登記がなされた場合、遺言行者
は、その妨害を排除する為、その抹消登記と遺言により「相続させる」者への登記名義の回復を求め得るとするので
すが、当該不動産が被相続人名義である限りは、その相続登記はその取得者単独で登記申請できる
 ( 不登法63条2項 ) 
のだから、遺言執行者の職務は顕在化せず、
遺言執行者は登記手続きをすべき権利も義務も有しないとして、
その場合の遺言執行者の登記権限を否定します。

 同じく権利の卒時移転を認められる遺贈については、不動産登記法60条による登記義務者として遺言執行者の登記
権限が、他者名義の場合も、被相続人名義の場合も認められるのに、「相続させる」という相続の本道上での手続き
において執行者の手が縛られているのは不可解と言う他なく、判例の重視する遺言者意思の合理的解釈であるとも言
えません。

 上記遺言執行者の登記権限問題については、平成30年7月の
相続法改正により、遺言執行者は、
その相続人が対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる ( 新1014条2項)
旨明文が置かれて、解決しました。

 また、同条3項では、
前項の財産が預貯金債権である場合には、遺言執行者は、同項に規定する行為の他、
 その預金又は貯金の払い戻しの請求及びその預金又は貯金に係る契約の解約の申入れをすることができる

として金融機関での確実な遺言執行にも配慮しています。

 相続法改正によるこれらの規定は、配偶者居住権関係のものを除き、令和元
(2019)年7月1日から(配偶者居住権関係
は令和2年4月1日から)
施行されています。遺言執行者関係の改正内容の全体についてはこちらをご覧下さい。



 
(遺言)執行者 遺産 けたら発効899の2 

      
クオレ900えたるにつき

   
発公
(示) 899 (の) 2ける 登記 対抗 (力) えよ


   初めの「発効」の「つ」は、「9」が2個「ツー」の意、後の「発公効」では「発」を8「ハツ」と読む。「公」は公示の意。

執行者ある相続での妨害行為の効力
 上記のとおり、民法は、
遺言執行者がある場合には、
  相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない

(1013条) と定めていますが、相続人がこの定めに違反して妨害行為に及んだ場合は、どうなるのでしょうか。この点
について次の様に判示した判例 
(最判昭62・4・23)があります。

一 遺言者の所有に属する特定の不動産の受遺者は、遺言執行者があるときでも、所有権に基づき、右不動産に
ついてされた無効な抵当権に基づく担保権実行としての競売手続の排除を求めることができる。

二 
遺言執行者がある場合には、相続人が遺贈の目的物についてした処分行為は無効である。
三 
遺言執行者として指定された者が就職を承諾する前であつても、民法一〇一三条にいう「遺言執行者がある
場合」に当たる。

 この判決は、
「民法1012条1項が、「
遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有す
る。
」と規定し、また、同法1013条が「遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を
妨げるべき行為をすることができない。
」と規定しているのは、遺言者の意思を尊重すべきものとし、遺言執行者を
して遺言の公正な実現を図らせる目的に出たものであり、右のような法の趣旨からすると、相続人が、同法1013条の
規定に違反して、遺贈の目的不動産を第三者に譲渡し又はこれに第三者のため抵当権を設定してその登記をしたとし
ても、相続人の右処分行為は
無効であり、受遺者は、遺贈による目的不動産の所有権取得を登記なくして右処分行
為の相手方たる第三者に対抗することができる
ものと解するのが相当である」
として、
妨害行為の無効と、それ故、受遺者は登記なくして相手方に対抗できるとする他、さらに、
「前示のような法の趣旨に照らすと、同条にいう「遺言執行者がある場合」とは、遺言執行者として指定された者が
就職を承諾する前をも含むものと解するのが相当であるから、相続人による処分行為が、遺言執行者として指定され
た者の就職の承諾前にされた場合であっても、右行為はその効力を生ずるに由ないものと言うべきである」
として、相続人による処分が、遺言執行者の指定を承諾する前になされたものであっても、その処分行為の無効に変
わりない旨判示しています。

 なお、上記平成30年の相続法改正によって、1013条に2項
前項の規定に違反してした行為は、無効とする。
  ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができない。
」、
3項
前二項の規定は、相続人の債権者(相続債権者を含む)が相続財産についてその権利を行使することを妨げない。
が加えられましたが、この判例も、改正の先触れとなっている言えます。


 以上、遺言執行者の地位・権限に関する平成30年の改正により、
遺言執行者は、遺言中の「相続させる」いわゆる特定財産承継遺言にあっては、承継取得する相続人本人が単独で
相続登記をすることができる他に、遺言執行者にも、当該不動産が被相続人名義であるか否かを問わず、登記申請の
権限があり
 
(新1014条2項)、遺言中の遺贈対象たる不動産について、遺言執行者の指定があるときは、遺言執行者のみ
が受遺者による遺贈登記申請の際の相手方となる
 (新1012条2項) こととなりました (従って、受遺者が遺言執行者に指定されて
いる場合は、遺言執行者が単独で登記できることになります)
 から、これら登記権限等の明確化を踏まえ、権利者は早期に登記等の
公示をすべきことが求められます。

 そして、もし、遺言による遺言執行者が居り、執行者には法によってこれらの登記権限が与えられているにも拘わ
らず、登記が経由されずに、相続人による妨害行為があって、その結果として第三者の先登記が存在するに至る場合、
その妨害行為は無効とされるものの、当該第三者が善意であるときは、第三者に対し登記なくして遺言による権利取
得を主張することができません 
(新899条の2)
(→対抗要件に関する法改正)

 ですから、今後は、遺言者としては、遺志を貫徹する為には遺言執行者の指定が欠かせないこと を、相続人として
は、その遺志を無にしない為にも、遺言内容に沿う登記手続きを迅速に履践すること を、銘記することこそが、遺言
の生命線
となります。




(遺言執行者)指定 ・ 就職催告 ・ 選任 
 
遺言者は、遺言で、一人又は数人の遺言執行者を指定し、又はその指定を第三者に委託することができます。

 委託を受ける事を承諾した人は、遅滞なく 遺言執行者の指定をして、これを相続人に通知しなければなりません。
委託された人がその委託を受けたくないときは、遅滞なくその旨を相続人に通知しなければなりません (民法1006条) 
「遅滞なく」の意味については、こちらをご覧下さい。

 なお、未成年者及び破産者は、遺言執行者となることができません
(1009条)

 遺言執行者の指定を受けた人は、執行者になるか否かの返答を義務付けられる訳ではないので、相続人その他の利
害関係人は、指定された人に対し、相当の期間を定めて、その期間内に就職を承諾するかどうか確答すべき旨の催告
をすることができます (1008条)

 指定を受けた人が、催告があったにも拘わらず、多忙等で確答をしない侭のとき、或は、勿論、執行者の指定がな
い場合や、執行者が亡くなったときは、利害関係人から家裁に執行者選任の申立てをすることができます (1010条)

 また、遺言執行者がその任務を怠ったときその他正当な事由があるときは、利害関係人は、その解任を家裁に請求
することができ、逆に、遺言執行者も、正当な事由があるときは、家裁の許可を得て、その任務を辞することができ
ます(1019条)



  (遺言)執行者(は)遺言いごん内容


   
財産(管理・給付・引渡・登記等)身分(認知・廃除等)

       
各実現(執行のため)一切 権利 義務持 委任 1012

   
   委任規定
準用
善管注意報告受取物引渡

       金
流用
(には)()()負担した費用債務

                  償還
無過失損には賠償請求
)。



    (遺言)「執行者」 (として)

             
示して(選任)なした その

          
 
遺言いごん1015実現執行行為

 直接 継ぐ人相続人(に) 及ぶ

    


    執行者いる場合には、


       その
遺産
1013遺言いごん内容どおり、

          
執行
()専念は、

        
行為されず

            なせば
(その妨害行為の)無効せらる

              
但し、意の
(第)三者対抗できぬ。 




   遺言
がありて、

    その
 今 遺産
1013執行せんとぞ1013するときに、

     
執行者あれば、遺産(相続人)

        いざ
1013執行かれ

          
行為せん意味
1013 




 
  遺言
一人 若しくは数人

   遺言執行1006指定し、

       或いは
 

    指定
をば他人ひと委託ができる




  受託者
は、遅滞するなくその1006すならその

     
けるなら指定をばして、
通知をせねばならぬ



    相続人(その他の利害関係人) 執行者(期間を定め)

   
1008就職 意思 有無 確答

    催告
することできる
なくば 承諾したとみrす



    (遺言)執行者ほとんど不可欠 重々
1010承知

        
(指定・選任が)必須でないが(執行するため)
たまたま1010

      必要
ならば、ほかならぬ 家裁 とうとう
1010 選任



   
(遺言)執行者()任務懈怠正当理由があれば  こう1019

            
家裁 解任正当理由があれば執行者 

                
めたい
遺恨1019なく許可   辞任できる




(遺言執行者の)任務の開始 と 財産目録作成
 遺言執行者の任務の開始に当たっての義務規定を挙げると次のとおりです。
民法1007条
遺言執行者が就職を承諾したときは、直ちにその任務を行わなければならない。
2 遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならない。

民法1011条遺言執行者は、遅滞なく、相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければならない。
 遺言執行者は、相続人の請求があるときは、
   その立会いをもって相続財産の目録を作成し、又は公証人にこれを作成させなければならない。


 遺言執行者に指定された人が執行者になることを承諾したときは、直ちにその任務を行わなければなりません(民法
1007条Ⅰ)
。任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければなりません
(1007条Ⅱ)
そして、
遅滞なく相続財産の目録を作成し、相続人に求められればその作成に立ち会わせるか、又は財産目録を公証人に作成
させなければなりません 
(1011条)。ここで、任務開始は「直ちに」行い、その上で、「遅滞なく」相続人への通知と
、財産目録の作成をせよ、とあります。
「直ちに」と「遅滞なく」は、何れも、平たく言えば「すぐに」の意味だとしても、その違いは? と思いますね。
この種の言葉にはもう一つ「速やかに」もあって、若い頃、これら三つの違いを習いましたが、ここで復習します。
学陽書房の「法令用語辞典」を引用させて貰うと、次の様になります。
「これらは、時間的近接の度合いが多少ずつ異なるものとして使い分けられているのを例とする。すなわち、これら
の3つの言葉は、いずれも時間的遅延を許さない趣旨ではあるが、「遅滞なく」においては、正当な、又は合理的な
理由による遅延は許容されものと解されているのに対し、「直ちに」においては、一切の遅延が許されないものと解
されている。なお、「速やかに」は、「直ちに」よりは急迫の程度が低い場合において、訓示的意味をもつものとし
て用いられている例が多い。」、「「直ちに」と「遅滞なく」とある場合におけるその懈怠が、義務違反を引き起こ
すのを通例とするに対し、「速やかに」は、訓示的意味を有するにすぎないことがある」
とあります。
 ですから、遺言執行者の任務開始、相続人への通知、財産目録の作成は、何れもすぐにやらねばなりませんが、任
務の開始には、一切の遅延が許されないので、執行者の役を承諾したからには、すぐに遺言の執行に着手するべきで、
それには一切の遅延は許されません。遺言執行者には民法644条が準用され
(民法1012条3項)善管注意義務が課されま
すから、執行の着手に遅れが出て、相続人に損害を与えると損害賠償義務が発生します。平成30年 改正による上述
来の相続登記の必須性に照らすと、現実味を帯びる事ですので、これらの義務を銘記しなければなりません。


   
(遺言)執行者()

     
就職 承諾した1007任務着手して

         遺言執行
せんな
らん1007

   

執行者() 遺言執行(に当たり) (相続人)

   センチ1007Ⅱならず (遺言)内容らせて(通知義務)

                     仕事着手せよ



  (遺言)執行者慰霊威令?)一番1011遅滞なく

     
(財産)目録 (相続人)交付するべし

       継
めるならば立会わせ 作成するか

          さもなくば
公証人(作成)させるべし
  

遺言執行者による遺産の管理 (→フェイズごとの遺産管理)
 遺言執行者は、遺言内容を実現するため、名にある遺言の執行のほか、執行が終わるまでの間、それと並行して
産の管理
をすることになります
(1012条1項)。そのため、遺言執行者には、委任に関する644条(受任者の善管注意義務)
645条
(受任者の報告義務)646条(受任者の受取物引渡義務・権利移転義務)647条(消費金銭の利付き返還・損害賠償義務)が準用され、
相続人は執行者に対し、これらの規定による義務の履行を求め、請求することができます。また650条も準用される
ので、遺言執行者は相続人に対し、同条により、執行のために支出した必要事務費の償還請求・必要債務の弁済請求
・無過失で損害を被ったときの賠償請求が可能です。

   

(  遺言)執行者(は)、遺言いごん内容財産(管理・給付・引渡・登記等)身分(認知・廃除等)、

          各実現
(執行の為)一切 権利 義務持

        受 委任
1012 委任規定準用


   善管注意
報告受取物引渡流用(には)()()()

            負担した費用債務償還無過失損には賠償請求




遺言執行者の復任権
 
遺言執行者は、平成30年の相続法改正以前は、遺言者が許した場合以外は、やむを得ない場合を除き、第三者にそ
の任務を行わせることができず、いわゆる復任権がない、とされてきました。
 復任権がないことによる不都合は以前から指摘されていましたが、同改正により、
(遺言で別段の意思が表示された場合
を除き)
遺言執行者が、「自己の責任で」第三者にその任務を行わせることが可能となりました(1016条1項)
 改正前は、遺言執行者が、遺言者の指定
(1006条)に基づくとは言え、これを承諾(1007条)して就いた地位であり、
委任
(644条)におけると同じく善管注意義務を負う(1012条3項:この点は改正前後で変わり有りません)ことに対応して、委任に
おける復任権の制限
(104条)と平仄を合わせ、そのように制限していたと思われます。

 しかし、法改正により、遺言執行者に、遺言実現のために必要な一切の権限
(1012条1項)を認め、「遺贈する」財産
については遺贈義務履行の専権
(1012条2項)を、「相続させる」不動産についてはその登記権限(1014条2項)も認め、又、
遺言執行者の存在にも拘わらず相続人がした遺言執行を妨げる行為は原則 無効とする
(1013条2項)等の権限強化・拡大
に伴い、その親権
(824条本文)・後見(859条1項)における「代表」権限に匹敵する強い権限に応じ、法定代理(民法105条)
おけると同じく、
遺言執行者に原則 復任権を認めることとなりました。

1016条1項は、
 遺言執行者は、自己の責任で第三者にその任務を行わせることができる。
   ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

と定めます。

 ここで
第三者にその任務を行わせる」とは判例により「遺言執行の権利義務を挙げて他人に移すこと
あって、
特定の行為について第三者に代理権を授与することは含まれない」とされています(大審院決定昭2・9・17)
 しかし、任務の限定なく「その任務を行わわせることができる」とあるのに、それを「特定」の任務を排除する
趣旨であると解するのは、無理があると言わざるを得ません。ごく古い判例であり、新1016条が、遺言執行に関
する制度上の新たな要請から改正されたものであることに照らして、ここは、全部又は一部の任務を行わせ得ると
解すべきです。「特定」排除の趣旨は、同条の2項で生かされるべきと考えます。

 そして、自由に復任できることとした以上は、その選任と監督について遺言執行者に過失がなかったときでも、
相続人の被った損害を賠償すべき重い責任を負うこととなります。「自己の責任で」は
その意味となります。
 しかし、執務不能の事情から辞任
(1019条2項)をするにもその手続きをとる暇がないとき等、やむを得ない事情
復代理人を選任した場合は、その選任及び監督について過失があったときにのみ損害賠償の責任を負えば良いと
されます
(1016条2項)。

1016条2項の条文には、

前項本文の場合において、第三者に任務を行わせることについてやむを得ない事由があるときは、
   遺言執行者は、相続人に対してその選任及び監督についての責任のみを負う。

とあります。

 但し、上記特定行為の復代理
(「特定復代理」と略称します)には、当該行為について やむを得ない事情があるとしても、
責任限定はないと解すべきです
 。つまり、やむを得ない事情で任務を委ねる事態であっても、特定一部の任務に
ついてする場合は、その余の任務についてはその事態でない事を意味する以上、責任を軽減するべきでなく、1016条
2項の適用はないと考えます。その意味では、上記古い判例にも一理あり と言えます。

 やむを得ない事情で特定復代理人を復任した場合、その選任・監督に過失がなくとも責任を負いますから、遺言
執行者は、その善管注意義務の趣旨に則り
その特定行為の性質難易等と特定復代理人の人柄力量等を吟味対比
の上、選任
監督し、責任覚悟で代理権を授与することとなります。

 ただ
それにしても遺言執行者が やむを得ない事情 なくして復代理人を選任した場合は、 相続人に生じた全て
の損害について責任を負うべきというのは酷に失します。ですから、その復代理人に過失がある場合に限り、相続人
は、遺言執行者に賠償請求することができるとするのが、信義誠実
(民法1条2項)に叶うと言うべきです。そして、この
理は、遺言執行者が やむを得ない事情で 特定復代理人を選任した場合も、同様です(我妻・有泉コンメンタール第6版231頁)
                             



   1016十人十色1016

     

執行
むずくて ()になれば
やむない事情なきときも 

    
自由に
 転仰てんごう105 (復代理:造語)できる也



   
(遺言)執行者 むない事情転仰105(復代理)すれば 
    
(人選)遺漏1016(と)監督不備(の場合に)のみめを



   
§105は法定代理人による復代理人の選任に関する規定



遺言執行者が数人ある場合の任務の執行
 
複数の遺言執行者が存在する場合は、遺言の執行は各執行者による多数決で行われます。但し、遺言に別意が定め
られていれば、それに拠ります
(1017条1項)

 また、遺産の管理行為の内、
保存行為は各執行者が単独で行うことができます(1017条2項)。ですから、たとえば、
遺言執行者が二人いる場合は、二人が一致して執行に当たらねばなりませんが、三人である場合は、内二人の合意で
執行の内容と実行を決めることができます。

 二人の場合に、その二人が対立して執行できないとき、遺言にその様なときはどうするか定めがあれば別ですが、
家裁に一人追加の選任請求をして、三人態勢にするほかないことになります。
 保存行為には、家の修理等、直接行い得る行為もありますが、執行妨害による家の所有権移転登記の抹消請求等、
訴訟による保存も含まれます。




  複数執行者である(全員)一致1017せず執行

          
過半()保存(行為)のみ単独 執行可能也

       多数決独断排除安全 イー 1017 

     
但し ()単独執行 とする定め別意 遺言いごんにあれば




遺言執行者の報酬
 遺言執行者の任務については民法1012条により受任者の規定644条647条650条が準用されます
(→遺産管理)
しかし、報酬については、委任事務の、原則 無報酬を定める648条1項は準用されず、任務終了後払い
(同条2項)
、受任者の責任とは言えぬ事情による中途終了のときは、履行割合による支払い
(同条3項)とする点が準用となります。

 ですから、遺言執行者の報酬は、遺言に定めがあれば、それにより、定めがなければ、家裁が、遺産の状況その他
の事情によって、これを定めることができます
(1018条1項)が、その支払いは、任務が終了した後になり、中途で終わっ
たときは、遺産の何割まで執行が済んでいるかによって額が決まります。

 なお、任務が期間によって定められている場合は、
648条2項但書による624条2項(雇用の報酬規定)の準用により、
期間の終了後に支払われ
ます。

 また、報酬が遺言執行の成果に応じて支払われる旨 遺言に定められている場合は、委任事務の成果に対して報酬を
払う約ある場合の、成果を引渡す要のあるときは、報酬はその引渡しと同時に支払われる旨の新設
648条の2第1項
準用され、又、その様な場合には、注文者の責めに帰することができない事由で仕事を完成できなくなったとき 或は
仕事完成前に解除されたときには、注文者の受ける利益の割合に応じて報酬を請求することができる旨の新設
634条
(請負の報酬規定)
が準用されます
(
648条の2第2項)。なお、濃紺部分は平成29年の民法改正にかかるもので、その施行日は、
令和2年
(2020年)4月1日です。 



  
執行報酬 如何という1018

    遺言いごん(めが)あれば それに

 (家庭裁判所遺産(の状況)その事情によって

               
(遺言)執行報酬 



   
執行報酬 いぃわ1018執行わってくわ

     
執行(帰責事由なく)中途われば 

                 
履行した割合じてくわ




   
 (遺言)執行手間 かかる報酬 があるも当然

        
(相続人)合意くも非礼1018ない



  
委任契約本来無報酬 648だが
   
     (報酬の特)
あれば無視648できぬで履行後払

      (帰責事由なく)
中途 われば(履行の)割合払648



     (遺言)執行者 執行ため 委任
1012 

       
委任規定
準用受くが

         報酬
 無視
(無報酬)とは648

          〔§648Ⅰ〕‘ムシヤ’の1項
(を)準用しない


遺言執行の費用
 
遺言執行の費用は、相続財産から支出されることになります(民法1021条)

 上記の執行者の報酬
(1018条)も執行費用に含まれますが、その他、前述の財産目録の作成(1011条)や、次に述べる検
(1004条)の費用等、執行者の権限に属する遺産の管理と遺贈の履行等の執行に必要な一切の行為(1012条)の費用が、
遺産から支払われます。
(権限が新設された)登記等対抗要件(1014条2項)を備えるための費用や、執行に対する妨害行為の
無効
(1013条2項)を主張して争う訴訟費用等も執行費用に含まれます。

 但し、それによって遺留分に食込むことは許されません(1021条但書)。遺贈があれば、遺留分を確保する遺留分侵害
額請求と並行して、遺贈を減らし、遺贈もなくなれば、相続枠
(P枠)財産を減じて執行費用を賄います。相続枠内での
各相続人の取得分に応じた
(遺留分を限度とした)按分負担となります。執行費用を負担できる遺産がない場合は、費用倒
れとなって、執行不能で終わることになります
(同時に遺言執行者の任務も終わります)



  目録作成検認(遺産)管理 遺贈実行(執行)報酬 等の 


            
執行費用負担
1021

  勿論
 遺産 うが



   (各贈与・特別受益 )
各贈 (「持戻免除」があっても)ようやくに


        
確保されたる遺留分最小限保障 


    
 あまり負担
1021はかぶせるな(遺留分を) 


       (
執行)
費用らさず(遺留分は)確保して



         
 その 受遺者  負担する


検 認 
 もう、「遺言のすすめ」、「遺言作成のポイント」その他の箇所で何回も出ましたので、お馴染みになったかとも思
いますが、検認は、相続開始後すぐに家庭裁判所で全相続人を招集して行われる
遺言書改竄防止の為の手続きです。
 民法では、1004条が この検認と遺言書の開封禁止を定め、1005条が 検認を経ないで遺言を執行したり、家裁
以外の場所で開封したりした者に対する制裁
 (5万円以下の過料) を規定しています。

 遺言書は、本来、遺産を与える相手を特定して記載するので、相続人全部を特定する必要はありません。しかし、
検認」手続きは、相続開始後 遅滞なく、相続人に遺言書の存在を知らせて、相続人の前で遺言書を開封し、遺言
書の形状、加除訂正の状態、日付、署名等と、検認時におけるその内容を明確にし、保全して、遺言書の偽造・変造
を防止する手続きなので、家裁で全相続人を呼出して行われます
(呼出しはしますが、全員が揃わないと実施しない訳ではなく、
出頭した相続人の前で行われます)
 「遅滞なく」の意味については、こちらをご覧下さい。

 従って、誰が相続人であるかを特定し全員を呼出す資料が必要となります。その為、被相続人の出生から亡くなる
迄の戸籍謄本・除籍謄本全部と全相続人の戸籍謄本の提出が必要となります
(その他、遺言書一通につき800円の収入印紙、連
絡用の郵便切手等が必要となります)


 しかし1004条2項には、「前項の規定は、公正証書による遺言については、適用しない。 」 とあって、公証役場
で作成する遺言公正証書には検認手続きが不要とされます。
 公正証書は、公務員である公証人が作成するので間違いや不備な点はなく、又、作成後原本は書庫で厳重に保管さ
れるので、改竄や紛失の恐れもないからです。なお、「全相続人の探索」を参照ください。

 検認は、遺言書の有効・無効を左右する訳ではなく、あくまで検認当日の状態を証拠保全するための改竄防止手続
きですが、検認を終えている旨の家裁発行の
検認済証明書の提出がないと、法務局での相続登記も銀行での払戻し等
も手続きに応じて貰えませんので、実際上の有効要件とも言えます
(裁判所全国銀行協会の各ホームページをご覧下さい

 
なお、平成30年7月に法務局における自筆遺言証書の保管に関する法律が公布されました。これにより、自筆遺
言証書は遺言者自身によって法務局に保管を申請することができることとなりました。遺言者が亡くなった後に、相
続人、受遺者 或は 遺言執行者から、その遺言保管証明書の交付請求 或は 遺言書閲覧請求、遺言書の画像情報証明書
の交付請求ができます。また、この法務局保管にかかる遺言書は家裁の検認を受ける必要がありません。したがって、
自筆遺言利用のネックとされてきた保管と検認という関門が取払われて、自筆遺言の普及が一層進むことが予想され
ます。同法は、2020年
(令和2年)7月10日から施行されています。詳しくは、こちらの法務省ホームページをご覧下さい。
 なお、7種の遺言方式ごとの「検認と確認」の要否についてはこちらで確認願います。


  
  公正(証書)§969遺言いごん」のない「遭難船 (臨終口頭遺言§979)

     以外のものは
遺言ゆいごん「書」
(はすべて)(検認) 避けてれぬ

      保管
は、まわし
1004などとわずに

            
遠回
1004でも遅滞なく家裁()して

          改竄
防止 
(のため) 検認 けるべし

       
 継(遺言書を)発見したとき又



   封印
のある遺言書家裁において

      
相続人代理人同席なくばけられぬ

             
りな開封なりませんよ
1004


 
 
遺言
まわし
1004などとわずに

      
 
1004でも遅滞なく家裁って

      検認
 
受くべし
(検認を受けないと、銀行等で取り扱ってくれない)



    遺言いごん(家裁に)提出せず

        又
、(家裁の外で)開封 

       或いは、 
検認をばずに
執行 なした

        その
万円 
1005過料せらる


遺贈
 
人が 遺言によって 他人に無償で財産を与えることを「遺贈」と言います( 民法は、ここでもこの言葉について定義をしてく
れていませんが、通説判例によるとそうなります)

 そして、これに対し、「相続」は、人の
死亡によって 財産が承継されることであるから、相続と遺贈とは本質的
に異なるとの説もなされて、ひいては、「遺言による財産処分は、相続ではなく遺贈である」等とも言われました。
 ここでは、まず、「相続と遺贈」で述べたところを敷衍して、この説を正しておかねばならないと思います。

 つまり、
法定相続人による、債務をも含んだ「包括的」な財産の承継が「相続」であり、これについては、まず
法定相続分
 (民法900条、私なりに「クオレ」 (イタリア語で「心」・「芯」)と略称します )という形でその基本形が用意されています。

 しかし、
私有財産制の下での財産処分の自由に基づき、被相続人は遺言によってクオレとは異なる相続分を指定す
ることができ
(902条)、この指定相続分に従って、「相続」の効力として遺産分割、つまり遺産分けが行われます。

 そして、遺産分割についても、相続人を特定し、財産を特定して「○○を○○に
相続させる」という、「分割方法
の指定」
(908条)と言われる遺言方法によって、「相続」の枠の中でクオレに縛られずに、遺言による遺産承継が行わ
れ得ます。

 以上は、「相続」の枠の中で行われます。この様に「
包括」と(相続人の)相続分(割合)の二要素によって「相続」
が行われます。そして、この二要素による規制を脱し遺言により無償で財産を与えるのが「遺贈」です。

 ですから、遺言による財産処分には、「相続させる」途と「遺贈する」途との両途があります。

 私は、私有財産制の下では遺言によって「相続させる」途こそが人の死に伴う財産承継の本道であると考えます。
しかし、遺言による財産処分は、相続ではなく遺贈であると、時にドグマの様に言われてきたので、これに対しては、
遺言を「相続」の本道上で遇する必要があるのです。

 そして、これも私の粗雑な愚見ですが、「
相続」においては 被相続人の財産が単に包括的に承継されるだけでな
く、一切の権利義務
 (但し、被相続人の一身専属的な権利を除きます) が、被相続人の限られた親等内の法定相続人に対し、
被相続人との
権義主体同一性を帯びて承継される点にこそ、その本質がある言えます。そこには、遺言による他人
に対する「
遺贈」のような
遺授要素はありません。単に権義主体同一性という枠の中で、権利承継が、「あい
続く」形で、言ってみれば権義主体の名義が変わるだけの様に、行われるに過ぎません。そして、又そこでは、単な
る権義の個々的移転ではなく、被相続人の負の財産も正の財産も、相続人のそれらへと流れ込んで
融合同一化するの
です
。「遺授」、つまり、「譲渡」はないので、本来、権利の二重譲渡はある筈もない、登記権利者も登記義務者も
存在しない場面です。そう考えることによってはじめて、この権利移転については
登記なくして対抗できること、
又、相続人単独による「相続登記」も可能であることが根拠付けられます。

 とういうことで、
(他人に対する財産処分である)遺贈と相続を対比したとき、遺贈は、権義主体同一性の枠の外で、同一性
を欠いた別人格に対して行われる権利の遺授ですので、遺贈についてはすべからく、「
遺贈による権利移転を第三
者に対抗するためには登記等の対抗要件の具備が必要である
」ことになります。

 要約すれば、「
相続による主体同一承継の登記不要」と「別人格に対する権利遺授である遺贈の要登記」と略
すことができますが、ここで前者を相続の「
主同承継」と略称したいと思います。本質的には、以上の通りですが、
次項に述べるように、法改正が以上の点に大修正を加えました。相続と遺贈の関係について、こちらもご覧下さい。

相続の本質( 再考 )から敷衍して
 平成30年の法改正により、遺言者は、その「相続させる遺言 (特定財産承継遺言) により、遺言者が承継を
意図する特定財産の全てを、対抗力ある「相続」枠内の承継として取得させることはできなくなりました。その様な
ものとして継がせることができるのは、そのクオレ
 (900条 法定相続分) だけとなります。

 私は、「相続の本質」の箇所で、この「相続させる」遺言による承継を、主体同一性を帯びた承継という意味で
主同承継」と呼び、主同承継による取得財産の内のクオレ部分のそれを「主芯承継」と呼びました。

 ですから、主同承継財産の内の主芯承継分を除いた超クオレ部分
 ( これについては私なりに芯超承継部分」と呼びます )
 
については、公示 (登記) が伴わなければ他に対抗することができない、「遺贈」同様の扱いとなります。

 しかし、それを遺言者が「相続させる」と表現していたとしても、これを改正法は、「特定財産承継遺言」である
として、そのまま承継を認める扱いをします。

 そうとすると、遺言する立場としては、この場合 相続枠で主同承継させる内の主芯部分と芯超部分とを「相続させ
る」と「遺贈する」として 使い分けるべきなのか と迷いかねないこととなります。しかし、本来 財産承継の枠組み
として「相続」と「遺贈」とは別のスキームで、「相続」は、負の財産たる相続債務をも含む
包括承継であるという
、特定遺贈とは根本的に異なる意義が伴います。
 そして、主芯部分も芯超部分も主同承継の内包ですから、「相続させる」と言う文言で
主芯(クオレ)部分と芯超部
の両者いずれをも「相続」(=主同承継) として括り、遺贈と使い分けることは重要です。

 したがって、いずれも「承継させる」点では同一の効果を期するものであり、副次的にクオレを境として対抗力の
存否が異なるに過ぎないので、相続と遺贈の本質的差異に照らせば、やはり、主芯部分と芯超部分のいずれもが包括
承継を伴う主同承継たる「相続」と見るべきです。

 したがって、「相続させる」遺言には、往々この芯超部分にまつわる対抗力上の「
プチ遺贈」とも言うべき部分
が含まれることは理解すべきですが、「相続」と「遺贈」の本質的区別の上ではやはり「相続」という理解で良いこ
とになります。

 相続人に対する芯超部分の承継は、たとえ遺言書では「相続させる」
 (特定財産承継遺言) となっていても、改正法によ
り必ず要登記とされる所以は、何なのでしょうか。それが、主芯部分・芯超部分の違いに因ることを窺わせる条文が
あります。新1046条が遺留分侵害額の請求を受けるべき「
受遺者」について、「特定財産承継遺言により財産を承
継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む」として、これらの相続人を遺留分の扱い上、「
受遺者(遺贈を受けた者)
として括り、侵害額請求の対象としているのです。ですから、「再考」で述べた、芯超部分の (遺言者から相続人に対する)
 
遺授的要素こそが、「相続させる」遺言に要登記条項を持ち込んだ改正法の熱源であると漏れ窺うことができます。
つまりは、主芯承継と遺授承継
(=芯超承継) の違いということになります (下図 参照)

 また、合わせて、これらの新規定から、改正による変更は、実質上、この対抗力の点のみであり、遺言で特定物を
「相続させる」こと、或は、「相続分」を指定することができることを根本的に覆すものではないことも理解するこ
とができます。


 そういう訳で902条による「遺言による相続分の指定
 ( 同条の見出し文言) も、遺言がクオレより少ない分を指定
するときは、その指定された分は正に「指定相続分」ですが、クオレを超える場合は、対抗力の関係では
プチ遺贈
」とでも言うべきものの指定ということになります。

 とは言え、遺言によって指定
( 私定) された「相続分」は、あくまで、包括承継を踏まえた取得すべき財産割合の意
味であり、遺言における「相続分の指定」は、遺産中のその割合の財産を取得
 ( し、債務を負担 ) する権利 ( 義務 ) を与え
 ( 負わせる ) いう意味に変わりありません。
 特定物を「相続させる」遺言による相続分の指定
については、こちらをご覧下さい。





特定遺贈と包括遺贈
 
 遺言者による、
「権義主体同一性を帯びた、財産の包括承継」である「相続」の枠の外での 遺産の処分が「遺贈」
ですが、これには実は、特定物を遺贈目的とする
特定遺贈と遺産の内の一定割合 (包括遺贈割合) を遺贈する包括遺贈
とがあります
(民法964条)

 そして、通常は、遺贈物を特定してプラス財産のみを与える特定遺贈が殆どで、これによる特定物の取得について
は、上記のとおり その「遺授」について対抗要件を具備することを要します。

 しかし、ここにも遺言者による財産処分の自由はあるので、遺言者の意向がマイナス財産をも含めた「包括」の遺
贈にあるときには、「
包括」という点の相続との共通性を見て相続と同扱いとする のが民法(990条)のスタンスです。

 
包括遺贈について、法は、権義主体同一性ある相続人枠の中での「相続分」とは異なるものの、「相続人と同一の
権利義務を有する
」(990条)と します。包括遺贈での割合は、クオレの様に公然明瞭ではありませんから、これを他の
相続人に主張するには 遺言書が不可欠の根拠となります。

 また、「遺受」承継なので、権利の対抗場面では、遺産中の 不動産なら、その割合による
(相続登記ではなく) 「遺贈」
登記を具え、その他の財産についても、対抗要件を具える必要があります。

 包括遺贈は、「割合」遺贈であるので、例えば、登記は「持分
分の一」という記載になります。未だ遺産を構成
する個々の財産についての割合持分にとどまり、その所有権取得には至っていないので 、割合による共有でなく単有
の所有権取得を望む場合は、相続人と同じく 包括遺贈に基づく遺産分割請求をすることになります。

 上記のように 包括受遺者
 は、「相続人」と同じ扱いとなります(民法990条)(条句)法定の相続人以外の者を相続人と
することはできない旨
前述しましたが、包括遺贈の形をとれば準相続人(?)を指定できる、とも言えます。ただ、その
場合、あくまで受遺者ではある訳ですから、登記手続での
双方申請の面倒があったり、税法上 2割加算等を受けると
いう様に遺贈に伴う制約はあります。

 また、
民法上、
遺贈が効力を生ぜず、或いは、放棄によってその効力を失ったときは、
   受遺者が受けるべきものであったものは、相続人に帰属する。
(民法995条)
とありますから、その様な場合、そのものは
(「相続人」ではない) 包括受遺者には帰属しません。
(但し、同条但書により、遺言に別異の定めがあればそれに従います)

 その遺贈が包括遺贈であるか否かの判断は、ときに難しい場合があります。包括遺贈と割合遺贈について、こちら
もご覧ください。

 包括遺贈につき相続と同扱いとなる旨を定める上記990条に続く他の遺贈に関する規定は、いずれも特定遺贈につ
いての定めとなります。
 遺贈の承認・放棄の関係は次項をご覧下さい。


  遺言者苦労964どころ遺産をば

     全部
一部包括特定がせるか

       
遺贈
 いずれもなれど遺留分失念するとむよ964



    やぁ苦労896債務 包括  

      受遺者 
990 相続人承認放棄 悔誤915なく せい

           §896は相続の一般的効力に、§915は相続の承認・放棄の熟慮期間に、関する規定



死因贈与
 
なお、遺言による 遺贈 に似たものに「死因贈与」があります。贈る人と贈られる人との間の贈与契約ではありま
すが、贈る人の死亡を原因として、「この物は、私が死んだら、あんたに上げる」とする契約ですから、遺贈の定め
を準用するとされます
 (民法554条)。遺言の準亜型としてご紹介しておきます。こちらをご覧下さい。


遺贈の承認・放棄
 遺贈は、遺言という遺言者単独の行為によってなされる一方的な財産の授与ですから、これに対する受遺者の側に
は、これを受けるか拒むかの自由があります。特定財産の授与である通常の
特定遺贈についても、そうで、これを受
けるか否かは、受遺者の意思にかかり、放棄することもできます
(民法986条)

遺贈の放棄は、遺言者の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる」とされています(同条2項)
 しかし、この特定遺贈の放棄は、遺言者の死亡後、いつでも、することができる、と定められていて、時間的期限
が設けられていません。

 なので、遺贈義務者である相続人側としては、いつ迄も未確定な立場に置かれ困惑しますから、その不安定を解消
するべく、受遺者に対し、「相当の期間」を定めて遺贈の承認・放棄を確答するよう催告することができます。
 そして、その期限までに確答がない場合は、遺贈を承認したものとみなされます
(民法987条)

 他方、民法990条により 相続 と同じ扱いとなる前記
包括遺贈については、受遺者は相続人と同じく915条以下の
相続の承認・放棄」による対処をしなければなりませんから、3か月以内に放棄か限定承認をしない限り、法定単
純承認
(民法921条)の結果を生ずることとなります。

 そして、
(特定)受遺者が遺贈の承認又は放棄をしないで死亡したときは、
    その相続人は、自己の相続権の範囲内で、遺贈の承認又は放棄をすることができ
(民法988条)ますから、
自己の相続分に応じて承認又は放棄をすることになります。
〔但し、遺言に別の意思が表示されていた場合は、その意思に従います
(同条但書)

 上記の催告がなされたのに、期限内に確答がないまま、受遺者が死亡した場合は、その相続人が、受遺者について
の相続が自己のために開始し、受遺についての催告がなされていることを知った時から相当の期間内に確答しないと、
相続人が遺贈を承認したものとみなされると考えられます。

 包括受遺者について同様の場面があるときは、990条により、916条が適用され、いわゆる再転相続が行われます。




    特定遺贈受遺者となって

       受けるか
986(遺贈の) 義務者

          いつでも
 放棄
 放棄なら

             
 986ない遺贈なかったことになる




      特定()受遺らも曖昧

                
らす心算? その 
987

         期間定めて催告期中

         
 (遺贈)義務者なくば

           承認
 
したとみなす



     やぁ苦労896債務 包括  受遺者 れば990 

           
相続人承認放棄 悔誤915なく せい


   
特定()遺贈 承認放棄 

         
めないにその受遺者 死亡したなら

         遺言譚
その後半988

        (相続人)


             (相続)範囲承認放棄 

   
但し、
     
遺言いごんかかる場合このようや988

              
指示してあれば此限こぎりでない



相続の承認・放棄:包括遺贈の場合

  
 
弘法916涙止まらぬいばらみち

      
 
916再転二代分

      (
相続) 承認放棄あんせい916(参考)





承認・放棄 「相続における」と「(特定)遺贈における」とでの違い
 次に、この法定単純承認関係の民法915条921条 、そして、相続の熟慮
期間徒過 (921条2号) と、特定遺贈での
催告期間徒過 (987条) との対比、の各条句を並べます。

   熟慮(期間)三月みつきをウッカリ 経過

           
承認(と)みなされ悔誤くいご 915る?

              それとも
此処
 921ありか? 


    
(特定)
遺贈なら、その987催告 (諾否)結着なるも、

          ウッカリで
承認みなさる、此処 
921あり

「 ここに(いち)あり 」? 
 プラス財産のみが対象となる特定遺贈については、受遺者による諾否に期限がなく、遺贈義務者となる相続人側か
らの催告によって諾否に結着がつくのに対し、マイナス財産を含む包括財産の承継である相続については、3か月の
熟慮期間を経て、期間内に敢えて異を唱えなければ、法定単純承認
(民法921条)で結着します(→単純承認)

 愚見に照らしてみますと、主体同一承継である相続においては、たとえ負の財産を含むものであっても、又、だか
らこそ却って、早期安定を図るため、主体同一の線上では相続人側の受容れを当然視してよいという前提があっての
引力が働くように思われます。

 他方、主体同一性を欠いた遺授移転である遺贈においては、別人格である受遺者側の私的財産権の自由が尊重され
るが故に催告がない限りは、いつ迄も諾否の自由が温存されます。相続と同じ扱いを受けることとなる包括遺贈も、
次に述べるように、相続人同様のごく親しい間柄であったればこそ、私的財産権が後退するその扱いが正当化される
のだと思います。
 以上から、期間徒過による相続と遺贈の違いのポイントは、「ここに愛あり 」というより、「ここに
(いち) あり 」
ということになりそうです。



包括遺贈と割合遺贈
 例えば「○○に遺産の○割を与える」として割合遺贈をした場合に、これを全て債務を負担させる包括遺贈である
と解さなければならないのでしょうか。

 その必要はない筈で、一般的にはむしろ、遺言者は「積極財産の内の○割」と考えて遺言しているのではないでし
ょうか。この包括遺贈を、ドイツ等では認められている指定相続人に代わるものと見る向きもありますが、「相続」
であれば、債務等負の遺産も継ぐことはすぐに理解できますが、「遺贈」とあるのに債務も継がされるというのは、
一種 騙しのような観も呈します。

 「遺言の対象財産」でも述べましたように、遺言は、被相続人の積極財産を対象として、その処分を定めるのが原
則です。
(但し、相続人に対してはその相続分を指定することができますから、その場合は、負の財産をも含めた包括財産に対する割合を指定す
ることになります。) 

 それが、割合遺贈についてだけ、相続人におけると同じく負の財産を含む包括承継と解する、例外扱いをしなけれ
ばならない理由が見い出せません。「相続」
(=「包括」)には、「相続分 (=割合 )という結びつきの必然 不可欠である
ことを意識しすぎたため、遺言で「割合」といえば「包括」と、逆の連想が働いたのでしょうか。

 遺贈は、遺言によるので積極財産を対象とするのが原則であり、債務を含む「包括」財産は、対外的に債権者との
関係で勝手に動かせない
のが原則、という二つの原則を破ってまで、遺言による割合遺贈を「包括」遺贈とする理由
は、やはり ないと思います。
 また、本来、私有財産制の下の自由からすれば、遺言の自由によって、遺産中の積極財産の一定割合を遺贈するこ
とも遺言者の自由である筈です。

 ですから、遺言に「○○に遺産の○割を与える」とある場合も、相続人でない者に与えるものについては、殊更
「借金も負担して欲しい」という趣旨を含む、「包括」遺贈であることが明らかな遺言以外は、民法990条の 包括
遺贈 と解さず、「
(「負」を含まない)(合)遺贈」と呼んで区別したい思いますが如何でしょうか。
 民法990条によって相続扱いとなるべき「包括遺贈」は、明らかに相続債務をも承継させる趣旨であると認めるこ
とができる割合遺贈についてのみ、「包括」の遺贈であると認定すべきです。

 受遺者にとっては意想外な人からの遺言による割合遺贈を、包括遺贈であると解した上、その遺言を知らず、知ら
されもせずに、熟慮期間を徒過して、意想外の多額の債務を負担させられる結果になるなどということの理不尽はあ
ってはなりません
 (期間の起算を受遺者が消極財産をも認識した時点からとすれば、ある程度回避できますが)

 例外的にではあっても、「遺言の合理的解釈」として、積極財産の割合遺贈 「正割遺贈」と認定する余地も残して
おくべきだと思います。

 相続人以外の者に対する包括遺贈の認定は、親族である孫に対してする場合に類似するごく親しい間柄の者に対す
るものだけに限定するのが、「権義主体同一承継」である相続としての扱いをする法
(§990)の趣旨にも沿う筈であり、
それ以外の者に対する割合遺贈は、通常あり得ないでしょうが、あった場合は積極財産の割合遺贈である正割遺贈と
解す途を提案したいと思います。

 その場合 問題は、正割遺贈と認めたとき、その承認・放棄の方式はどうなるかです。つまり、民法986条
(遺贈の放棄)
987条
(遺贈の承認・放棄の催告)によってするか、990条(包括受遺者の権利義務)による準用で921条(法定単純承認)以下、或は938条
(相続放棄の方式)によるかですが、私は、「包括」でない以上、「特定」として扱わざるを得ないと思いますので、前者に
よることになります。

包括遺贈と相続債権者
 
これも、指定相続分の箇所で前述した点ですが、相続の枠外での包括遺贈による、法定割合(相続分)と異なる割合で
の債務負担についても、相続債権者には主張できませんから、債権者からは相続人に対する法定相続分通りの取立て
を受けます。

 しかし、債権者が遺言による負担割合を承諾してこれによる処理に応じてくれれば、遺言は対外的にも生きますが、
そうでなければ、法定相続分で支払いを済ませた相続人は、包括受遺者を含む遺言による負担者との間で、遺言によ
る割合に従った求償をして清算することになります。

 この理は、平成30年の相続法改正により、新902条の2として明文化されました。
条文は次のとおりです。条文中で債権者が債務の承継を承認する「共同相続人」には、民法990条により相続人と同
様の権利義務を有するとされる包括受遺者も含まれると解されます。

被相続人が相続開始の時において有した債務の債権者は、前条の規定による相続分の指定がされた場合であっても、
各共同相続人に対し、
第九百条及び第九百一条の規定により算定した相続分に応じてその権利を行使することができ
る。ただし、その債権者が共同相続人の一人に対してその指定された相続分に応じた債務の承継を承認したときは、
この限りでない。


遺贈による権利の移転とその対抗要件
 
前述のように、遺贈による権利移転も、相続の開始と同時に生じ、私なりの言い方をすれば、受遺者による権利の
卒時取得
が生じますが、この点は、特定遺贈であると包括遺贈であるとを問わず、判例
(大審院判決大正5・11・8)によっ
ても古くから説かれているところです。

 そして、判例は、遺贈による物権変動については、はじめ対抗要件を備えることを要しないとして、登記不要とし
ていたのですが、その後昭和39年に至って、判例変更を行い、登記によって対抗要件とする旨判示しました。

 「相続の主体同一承継による登記不要」と「遺贈の遺授移転による要登記」を提唱する愚見においては、当然対抗
要件としての登記を経なければ遺贈による権利取得を第三者に対抗できないので、愚見に沿う結論です。

 遺贈による権利移転の場合においても不動産の二重譲渡等における場合と同様、登記が物権変動の対抗要件となる
と判示した判例
(最判昭39・3・6)

 この判例は、その理由を、
「遺贈は遺言によつて受遺者に財産権を与える遺言者の意思表示にほかならず、遺言者の死亡を不確定期限とするも
のではあるが、
意思表示によつて物権変動の効果を生ずる点においては贈与と異なるところはないのであるから、遺
贈が効力を生じた場合においても、遺贈を原因とする所有権移転登記のなされない間は、完全に排他的な権利変動を
生じないものと解すべきである。そして、民法177条が広く物権の得喪変更について登記をもつて対抗要件としてい
るところから見れば、遺贈をもつてその例外とする理由はないから、遺贈の場合においても不動産の二重譲渡等にお
ける場合と同様、登記をもつて物権変動の対抗要件とするものと解すべきである

と判示して、甲からその所有不動産の遺贈を受けた乙がその旨の所有権移転登記をしない間に、甲の相続人の一人で
ある丙に対する債権者丁が、丙に代位して同人のために前記不動産につき相続による持分取得の登記をなし、ついで
これに対し強制競売の申立をなし、該申立が登記簿に記入された場合においては、丁は、民法177条にいう第三者に
該当するから、甲から不動産を遺贈された乙は、登記を受けなければ受遺不動産の所有権をもって相続人丙からの転
得者丁に対抗することができない としました。つまり、先述の愚見における「相続の主体同一承継による登記不要
」については置くとして、「遺贈の遺授移転による要登記」からも説明ができる判例変更があったと言えます。
 包括遺贈についても、対抗要件の判例はまだありませんが、愚見からは、やはり、権利主体同一性を欠く、相続の
枠外での遺授移転であるので、当然 公示のための登記を要することとなります。



      物権得喪及び変更を、

       対
 第三者対抗
(関係)は、
 
           
登記いなな 177不動産


ここで、前述の遺言の種類の内、秘密証書遺言(民法970条)と、特別方式遺言4種(976条977条978条979条)の各遺言の
説明に入ります。特別遺言4種には、6箇月で効力が消滅するという特則
(983条)があります。

秘密証書遺言
 民法970条1項

秘密証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
 遺言者が、その証書に署名し、印を押すこと。
 遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章をもってこれに封印すること。
 遺言者が、公証人一人及び証人二人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名
及び住所を申述すること。
 公証人が、その証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともにこれに署
名し、印を押すこと。


 遺言書と言うと一般には封に入れると信じられている節がありますが、民法に封入の定めがあるのは、封入した
形で公証人に提出
するよう定められているこの秘密証書遺言(民法970条)だけです。(尤も、自筆遺言についても、封に入れた
方が改竄の防止上望ましいことは間違いありません。そして、閉じた封を開けられるのは、家裁で検認手続きを受ける場においてだけであり、
勝手な開封は罰せられることは前述のとおりです) 

 
そして、この秘密証書遺言は、自筆でなくとも、他人に書いて貰ったものでもよいとされていますので、考えを
文章にして書面化することが苦手な人には遺言がし易くなると言えます。

 その場合は、公証人に
(自分の遺言書である旨と共に) その他人の氏名・住所を述べて (「申述する」と言います)、封紙に筆
者が誰であるかを記載して貰わねばなりません。他人に書いて貰った場合は、その人との間では、遺言内容が
「秘密」ではないことになりますが、遺言書を提出する公証役場では、封入された侭での手続きですから、内容を
知られぬ侭手続きが完了し、その点では「秘密」は保たれる訳です。公証人には法による守秘義務が課されていま
(公証人法4条)

 
遺言書に署名・押印をしてその印で封印しなければならないことについては、定めがありますが、遺言書を他人
の手を借りずに本人が作る場合、手書きは要件ではありませんから、パソコンやワープロで作成しても構いません。
 他人がワープロを使って文章を仕上げてくれた場合は、そのワープロを操作した人が前述の筆者となります。

 証人の中に 自署できない署名不能者がいる場合、伝染病隔離者遺言(民法977条)在船者遺言(978条)遭難船臨終
遺言(979条)については、民法981条が、他の証人・立会人がその事由と共にその旨を付記すれば足り旨定めますが、
秘密証書遺言
(970条)ではこの扱いが認められていないので、署名のできない者は事実上の欠格となります。
 押印は、認印でも良いし、指印でも可、とされています。こちらをごらん下さい

 なお、証書中での加除訂正については、自筆証書での加除訂正方法による旨が970条2項に定められています。
民法970条2項
第九百六十八条第三項の規定は、秘密証書による遺言について準用する。


 そして、公証人がその封の封紙に、遺言書提出者の申述内容、
証人2名の氏名・住所や日付等の他、「印鑑登録
証明書の提出により人違いでないことを証明させた」という様に、遺言書の提出者が遺言者本人であることを確実
な方法で証明をさせた旨を記載します。

 公証人による封紙への記載により、その遺言書の存在と、それが遺言者の真意に基づいて作成されたものである
ことが間接的に証明されている形になります。

 しかし、公証人は、遺言内容にはノータッチですから、内容が不備であったりして有効性に欠けるものであって
もチェックを受けないことのリスクは残ります。

 また、手続きが終了すると、遺言書は本人に戻されますから、「保管」と「検認」のネックが伴うという点は、
自筆遺言と同様ということになります
(但し、前記の法務局における遺言書の保管等に関する法律が成立、実施されますと、その適用対象
は自筆遺言に限られていますので、秘密証書の方は適用対象とならず、こちらのネックは残ることになります)


 なお、以上述べたこの遺言方式の要件に欠けて秘密遺言として効力のないものも 
(例えば、後の検認の際の開封で、遺言
書の印と封印の印とが違っていることが分かった場合等でも)
、自筆証書遺言としての要件を満たしていれば、自筆遺言として
有効とされます
(民法971条)。この意味でもやはり(他人の手になるものでなく)自筆のものを提出した方が無難と言えます。
民法971条
秘密証書による遺言は、前条に定める方式に欠けるものがあっても、
  第九百六十八条に定める方式を具備しているときは、自筆証書による遺言としてその効力を有する。


 また、言語障害等のため口がきけない人のために、上記の「申述」に代えて自書するか通訳を用いてもよい旨の
特則 
(民法972条)があります。
民法972条
口がきけない者が秘密証書によって遺言をする場合には、
  遺言者は、公証人及び証人の前で、
   その証書は自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を
 通訳人の通訳により申述し、又は封紙に自書して、第九百七十条第一項第三号の申述に代えなければならない。
2 前項の場合において、
  遺言者が通訳人の通訳により申述したときは、公証人は、その旨を封紙に記載しなければならない。
3 第一項の場合において、遺言者が封紙に自書したときは、公証人は、
  その旨を封紙に記載して、第九百七十条第一項第四号に規定する申述の記載に代えなければならない。


   

  遺産相続こうなれ970遺言いごん記載証書秘密証書遺言をば

   
       
()()封入(その印で) 封印


        
証人二人って公証人(封書を)提出


     
 (何処に住む)何某なにがしなる遺言 申述 したら


           
公証人封紙申述内容日付 付記


       
(証人・本人)全員()()すれば 証書完成


     
遺言秘密 らにはをばマル970


「し得て」は7の、西語「シエテ」から


    秘密証書困難970


          
その箇所示し その付記 署名した


                         
文中 訂正箇所  押印 



            
(§968Ⅱ)訂正がある要注意



      秘密証書による遺言いごん方式欠けてない 971(もの)


                
自筆として
(要件)具備あれば自筆証書 




     秘密遺言いごん遺言者 口がきけない 困難972

         申述不可
なら封紙上自書か若しくは通訳 によりて

       「 (何処に住む)
何某なにがし(の)になる遺言いごん 

         
うたなら公証人自書 (若しくは) 通訳による封紙 記載

             こうなれ 
970秘密遺言いごん申述 代用



特別方式遺言 通則

1 特別方式遺言の消滅効 以下に特別方式の遺言について述べますが、その前に重要な制約があることを確認し
ておかなければなりません。つまり、民法983条には
第九百七十六条から前条までの規定によりした遺言は、遺言者が普通の方式によって遺言をすることができるよう
になった時から六箇月間生存するときは、その効力を生じない。

とあり、特別方式の遺言4種は、何れも、遺言者がその後、普通方式での遺言が可能な状況となった後6か月間存命
であるときは、遺言の効力が失われるとしています。

 特殊な状況下での特別遺言は、状況が改善し時が経過した時点で、その侭 維持されるのか疑念を持たれますから、
一旦効力を喪失させ、状況が平常に戻った以上普通方式の遺言で改めて意思を明確に示した方が良いということです。
ネーミングとしては、特別な方式での遺言後もその効力は 未発の侭なので、「効力不発生」が正確ですが、潜在的効
力が消滅するとご理解下さい。


     
    困難特別(方式)遺言(いごん)


        
ぎて
やみ983

普通(方式)となり生存すれば


        その
() 木端(こっぱ)983たる消滅となる


 
 訂正・被後見人遺言・証人欠格・共同遺言禁止
民法982条は、特別方式遺言にも、訂正
(§968Ⅲ)成年被後見人遺言(§973)証人欠格(§974)共同遺言禁止(§975)
の各規定が準用される旨を規定します。各下線のクリックでご覧下さい。

4 
遺言書の筆記者
 以上を通じ、言えるのは特別方式には何れも「自書」という要件がありません。自書は自筆遺言だけの要件です。

 そして、特別方式4種の内、遭難船臨終遺言
(§979)は、口で述べるだけで成立する「口頭遺言」なので、(趣旨を証人
が筆記する旨定められていますが)
「遺言書」という書面はないのです。口頭で成立した遺言を証人が筆記します(§979)

 従って、それ以外の特別方式遺言3種では、遺言書が作られます。その内
(狭義の)臨終遺言(§976)では、本人から口授
を受けた証人が筆記すると定められています。

 ですから、残る隔絶地遺言(§977978)2種を「筆記」するのは誰か、ということになります。実は、
(2「署名関係」
で述べましたが、)
隔絶地遺言署名押印すべき者として、「筆者」が出てきます(§980)。証人でもなく、伝染病者・在船
者遺言の立会人
(警官・船長・事務員)でもなく、「筆者」というのは正に遺言書を筆記する者に違いありません。つまり、
この者が遺言書を書くことが想定されています
(因みに、同じく2「署名関係」にある「付記」をするのは、証人・立会人だけで筆者は
入っていません)


 勿論、隔絶地遺言の遺言者は、自筆で遺言を書く事もできるが、隔絶地であっても、公証人に代わる立会人により
遺言 真意を確保する為の
特別方式との想定なので、自筆可能な遺言者も想定内ですから、遺言を本人が書いてもよい
訳です
(その場合、要件が具備されれば自筆遺言としても成立します)。ですので、筆記者について限定規定がないので、本人が書
いても、証人、立会人が書いても、又、これらより適当な筆記者が他にいれば、その者が書いてもよろしいというこ
とになります。

5 
検認と確認
 ここで、特別方式遺言の後に続く手続関係を付け加えておきます。検認で述べましたが、特別方式4種中「遺言書」
のあるもの、つまり、その内の遭難船臨終遺言
(遺言書のない口頭での遺言です)を除く3種は、書面である遺言書が改竄されな
いよう、手立てを講じなければなりません。つまり、隔絶地遺言2種
(伝染病隔離者と在船者)  (狭義の)臨終遺言について
は、改竄を防ぐ為の手続きである家裁での「
検認」が必要となります。遭難船臨終遺言は、遺言書 がないので 検認
はあり得ません。

 ところで、法律家である公証人の関与する公正証書遺言は、その関与により①遺言者の真意の確保ができ、②その
真意を誤りなく遺言書として表記できる、又、③改竄を防止できる保管態勢がある、という三点により遺言者の真意
の確認も、改竄防止のための検認も不要である、というメリットがあるとされます。

 そして、上記隔絶地遺言2種については、公証人の関与困難の為の代替として(伝染病隔離者では)警官、(在船者では)船長
・事務員らの
立会いが必要とされ、これにより、①遺言者の真意については一応確保されるので、家裁での「確認
が不要とされます。②についても、公正証書
(969条3号・4号)のような「読聞け」や「承認」がないので、十分ではない
でしょうが、後に問題となれば、証人もいるので検証ができることから、ほぼ代替されると見ることができます。

 他方、
広義の臨終遺言2種 (狭義の臨終遺言と遭難船臨終遺言) については、証人がいてその職責を果たしても、遺言状況
上、上記の様な立会人がいないので、
家裁による(遺言者の)真意の「確認を必要とします。

 そして、上記の様に、隔絶地遺言2種と「遺言書」のある狭義の臨終遺言は、
③の改竄防止の点を、遺言書発見後
「遅滞なく」提出され、全相続人の立会い
(呼出し)の下で行われる検認により、遺言書の現況を保全することによって
クリアしようというものです。

 因みに、何れも遺言書がある普通方式
(自筆・公正・秘密の)3種の遺言については、内 公正証書遺言だけが検認不要で、
自筆・秘密 が要 検認であり、又、遺言 真意の確認も、公正証書遺言は上記の通り不要ですが、秘密証書遺言は、公証
人の関与によりその点がクリアされ、自筆証書遺言は、「全文自書」によって真意確保があるので、普通3種は、何れ
も 確認 不要、です。しかし、それぞれ実際はどうだったかということから、「遺言無効」の訴訟が起こる訳ですね。

 詰まるところ、遺言全7種の方式を通じ、
 「検認」は、
公正(証書)遭難船(臨終遺言)の2種が検認不要
 残りの5種
(自筆・秘密・臨終・伝染病(隔離者)・在船者(遺言))は要検認 となり、
 「確認」については、広義の
臨終遺言2種要確認で、残りの5種が確認不要です。(→検認確認)





     特別方式(遺言)こんな §977(伝染病隔離者遺言)


          苦難急
 
§979(遭難船臨終遺言)とか急南無 §976(臨終遺言)


      急煩時
 
982での困難 §978(在船者遺言)



              
訂正 §968精神 §973欠格 §974こなし974


                         
孤名言
§975共同遺言禁止ってわじ982




広義の臨終遺言(狭義の臨終遺言・遭難船臨終遺言)(公の立会人なく、「確認」必要)


(狭義の)臨終遺言 (死亡の危急に迫った者の遺言)
 民法976条1項前段
 「 
疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者が遺言をしようとするときは、
   証人三人以上の立会いをもって、その一人に遺言の趣旨を口授して、これをすることができる。

と定めます。証人の人数は原則 二人(以上)ですから、この場合一人多いので、要注意です。事の重大性と 、予て病状
が明らかで、臨終遺言を準備できる場合を想定しての人数と思われます。そして、この場合、

 「その口授を受けた者が、これを筆記して、遺言者及び他の証人に読み聞かせ、又は閲覧させ、
   各証人がその筆記の正確なことを承認した後、これに署名し、印を押さなければならない。
(同条項後段)
とあるので、遺言は、死の迫る遺言者本人の状況から当然ですが、自書によらず、証人が筆記します(→遺言書の筆記者)
そして、筆記したら、次に、(他の証人によってなされてもよいとされていますが) その内容を本人及び他の証人に読み聞かせ、又
は閲覧させて、証人全員が、その筆記の正確なことを承認したときは、証人全員でこれに署名・押印して遺言書を完
成することができます
 (民法976条)

 ここで、証人の中に署名・押印することができない者がいた場合、伝染病隔離者・在船者・難船臨終者の遺言であ
れば、他の証人がその事由を付記することで許される
(981条)のですが、この狭義の臨終遺言ではそれができないので、
署名・押印不能者は、事実上の欠格となります。

 なお、口がきけない者については、976条2項が、
(その)者が前項の規定により遺言をする場合には、
   遺言者は、証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述して、同項の口授に代えなければならない。

とし、又、同条1項後段の遺言者又は他の証人が耳が聞こえない者である場合、976条3項が、
遺言の趣旨の口授又は申述を受けた者は、
  同項後段に規定する筆記した内容を通訳人の通訳によりその遺言者又は他の証人に伝えて、
  同項後段の読み聞かせに代えることができる。

と定めています。

 ですから、死の迫った遺言者本人は、遺言書の読聞け又は閲覧は受けても、臨終という状況に照らし、遺言書の正
確性についての
本人による承認 或は 署名・押印は不要です (又、下記判例②にもある様に日付の記載も要件となっていません) 

 しかし、この方式では、「遺言書」が作成されるので、相続開始後遅滞なく家裁に提出して
検認 (民法1004条)を受け
なければなりません
(→「遅滞なく」)
1004条は、
遺言書の保管者は、
  相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。
 遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。

としています。

 また、この様に急迫場面での
 ( 本人の、正確性についての承認、署名・押印がない ) 簡易な方式で、かつ、隔絶地遺言のよう
に公の 或は 職務上の立場の立会人もいないので、遺言者の死亡の日から20日以内に家裁において、内容が遺言者の
真意に基づくことの「確認」の手続きを経なければ、効力を有しません(976条4項)
976条4項は、
前三項の規定によりした遺言は、遺言の日から二十日以内に、
  証人の一人又は利害関係人から家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力を生じない。

とし、さらに、同条5項には、
家庭裁判所は、前項の遺言が
  遺言者の真意に出たものであるとの心証を得なければ、これを確認することができない。

とあります。

 同じ様に死が間近に迫った人の遺言でも、次の 遭難船臨終遺言
(民法979)の場合は、更に困難な状況にあることに
照らし、「遺言書」の作成を要しない、「口頭遺言」であるので、その場合は検認は不要で、「遅滞なく」
 ( 危機を脱
し、上陸・帰還できてから速やかに、ということになると思います) 
確認を受けることだけが必要とされています(なお→「遅滞なく」、
検認と確認」)

証人の署名押印義務
 ところで、特別方式の4種の内、他3種については、証人・立会人中に署名・押印のできない
者がいる場合、上述のように、その事由と共にその旨を「付記」すれば、効力を失わない
(§981)とされていますが、
この狭義の臨終遺言にはその981条の適用がないので、
証人は署名・押印のできる者であることが必要です。
証人の人数 同様、この方式の場合、本人や周囲にとっても、かねてからの病状を踏まえ 臨終遺言を準備できる時間
的な余裕ありと想定してのことかと思われます。押印は、認印でも良いし、指印でも可、とされています。こちら
ごらん
下さい。

方式遵守は「確認」請求の要件か なお、確認手続きに関して、判例ははじめ (大審院大正13・7・15)、当該遺言書が
方式に適合していることが手続きの前提であるから、方式不遵守の遺言書は確認手続きを拒否される旨説いていまし
たが、その後
 (大審院昭和4・6・22)、遺言の確認請求は、方式に違反する無効なものであることを理由に排斥することが
できない旨判示し、最上級審ではその後判例がないまま今日に至っています。
 しかし、その後、下級審では、歩を進めて、方式違背により一見して明白に無効である場合以外は方式遵守の有無
を一応不問に付して確認手続きをするべき
 (東京高決昭42年4月19日)、とするものが出ています。



  急南無976(臨終遺言)
きた心地976ない遺言いごん

      
証人三人にして

       署名
(押印)らぬ
遺言ゆいごん口授くじゅ

       証人
(の一人が)これを筆記して

        
(遺言者・他の証人に)読聞(又は閲覧)(証人から正確性の)承認 


     証人全員
()()遺言いごん 完成したならば

            
家裁において二十日はつか真意確認 





    遺言者窮地
976 心地ここち976狭間 

       絞
したる遺言いごんゆえ家裁確認


                 
真意であった()心証




狭義の臨終遺言に関する判例
 この方式での遺言の実際場面は、なにしろ急場のことですから、色々な事情・状況によって、種々想定外のことも
起こり得る為、例えば、
①  口授 があったと言えるか、とか、或は、
②  記載されていた日付が正確でなかった場合も有効なのか、とか、又、
③  署名・押印の場所が遺言者のいない場所であってもよいのか等、
判例においても種々の事例が取り上げられています。なお、証人の押印は指印でも良いとの判例を「基本的約束事
に紹介しましたが、その判決の後半は、臨終遺言に特有な事情に関わるのでここで、原文の侭 ④として掲載します。

判例 ① 遺言の趣旨の口授があったとされた事例  最判平成11年9月14日
 
この判例の事案の事実関係は、要するに、糖尿病、両眼失明等の重篤な病状で昭和63年9月28日に入院した遺言者
 (その後同年11月13日に亡くなりました)、当初の重篤な病状が 一旦 回復して意識が清明になっていた同年10月25日、遺
言の立会証人として同席していた医師から遺言をするのかと尋ねられ、「はい」と返答したので、同医師が、予め弁
護士により
 (同席した後記受遺者から同月23日に、本人から遺言書を作るよう指示されたとの相談を受けて) 用意されていた草案を
項目ごとにゆっくり読み上げたところ、本人はその都度うなずきながら「はい」と答え、途中、遺言執行者の氏名が
読み上げられた際は、首をかしげたものの、同席の受遺者
 (相続人?) からの説明に「うん」と答え、同医師から「いい
ですか」と問われて「はい」と返答し、最後に、同医師から「これで遺言書を作りますが、いいですね。」と確認さ
れて、「よくわかりました。よろしくお願いします。」と答えたというものです
 (その後、同医師らは別室でその草案内容
を清書し署名押印して遺言書を完成しました) 

 そして、この判決は
「右事実関係の下においては、遺言者は、草案を読み上げた立会証人の一人である医師に対し、口頭で草案内容と同
趣旨の遺言をする意思を表明し、遺言の趣旨を口授したものというべきであり、本件遺言は民法九七六条一項所定の
要件を満たすものということができる。」
として、「口授」があったものと認定しました。通常、口授と言えば、述べる本人が述べる内容をその場で逐一口述
することを想定しますが、草案に基づき読み上げられた内容を肯定する態様の場合でも、その遺言が完成する迄の経
緯や作成状況を総合判断すれば、本人が「遺言の趣旨を口授」したと認定できる場合もあるという一つの事例判断だ
と言えます。

判例 ② 日附と遺言の効力に関する事例
 最判昭和47年3月17日
 
この判例の判決は、上告人の「昭和43年1月29日に危急時遺言の方式に則って作成された本件遺言書には誤って
同月28日の記載があるから、本件遺言書は、正確な日付の記載を欠いて無効である」との主張に対して、
「いわゆる危急時遺言の遺言書に遺言をした日附ないしその証書の作成日附を記載することは遺言の有効要件ではな
く、遺言書に作成の日として記載された日附が正確性を欠いていても、遺言は無効ではない。」
と判示して、これを退けました。そして、
「遺言のなされた日が何時であるかは、書面に日附が存在せず、また日附の記載の正確性に争いがあつても、これに
立会つた証人によつて確定することができるから、所論のような事情は右の解釈を左右するものではない。」
ともしています。


判例 ③ 署名押印場所が遺言者の面前でなかった事例 最判昭和47年3月17日 
 
この判例は、判例②と同じ判決で判示されたもので、判例①でも( 争点とはならなかったようですが )、遺言者のいた病室
ではない医師の部屋で署名押印がなされていたという、死亡危急時での、ありがちと思われる作成場所・作成状況の
問題が争点となり、この判決は、
「いわゆる危急時遺言において、筆記者である証人が筆記内容を清書した書面に遺言者の現在しない場所で署名捺印
をし、他の証人二名の署名を得たうえ、全証人の立会いのもとに遺言者に読み聞かせ、その後、遺言者の現在しない、
遺言執行者に指定された者の法律事務所で右証人二名が捺印をし、もつて全証人の署名捺印が完成した場合であつて
も、その署名捺印が、原判示のように、筆記内容に変改を加えた疑いを挾む余地のない事情のもとに遺言書作成の一
連の過程に従つて遅滞なくなされたものであるときは、その署名捺印は民法九七六条の方式に則つたものとして、遺
言の効力を認めるに妨げない。」
と判示しました。

判例④ 「加之遺言ノ実際ニ付之ヲ視ル二、我国二於テハ予メ遺言ヲ為シ置クノ風習ハ未ダ普ク行ハレズ、概ネ死亡
二瀕シテ遺言ヲ為ス者多ク 其ノ臨終二際シ親昵セル者二遺言ヲ口授スルヲ常トシ
、其ノ親昵セル者ハ専ラ看護等二余
念ナク遺言書作成二必要ナル印顆ヲ用意シテ携帯スルコトハ得テ望ムベキ所二アラズ。然レバ其ノ臨終二際シ其ノ親
昵者二遺言ヲ口授スルモ印顆ヲ携帯セザルガ為遺言書二捺印スルコト能ワザル場合多キハ其ノ免レザル所二シテ、而
モ病院其ノ他住宅以外ノ場所二於テ死亡スルガ如キ場合二特二其ノ然ルヲ見ル。若拇印ヲ以テ捺印二代フルコトヲ得
ト為ストキハ容易二其ノ目的ヲ達シ得ル二反シ、此ノ場合二捺印ヲ絶対的二必要ナリト解スルトキハ有効ナル遺言ヲ
為スコト能ワザルニ至リ、立法者ガ特別簡易ノ方式ヲ定メテ臨終二際シテモ尚遺言ヲ為スコト得セシメントスル趣旨
ノ大半ハ実際上之ヲ没却スルノ結果ヲ生ズ。斯ノ如キハ立法者ノ期待シタル所ナリト為スヲ得ズ。以上ノ理由二拠リ
民法1076
(現976)条二定ムル立会証人ノ署名捺印ハ其ノ署名拇印ヲ以テ代用スルコト得セシムル法意ナリト解スルヲ妥
当ナリトス。



2 遭難船臨終遺言 (遭難船危急時遺言)
 条文の順は飛びますが、前の臨終遺言の続きで、その亜型の様な、然し、全く異種とも言えるこの遺言をここに据
えたいと思います。前の臨終遺言で述べましたように、遭難船の中というさらに危機的な状況下での遺言ですので、
もう その場で紙や筆記具を用意して書面を作成することなどできないという想定で、遺言者は、遺言を証人二人に口
で述べるだけでよいとされます
(民法979条1項)。それで遺言として完成していることになります。
 本人の署名・押印はあり得ません。「口頭遺言」と言われる所以です。

 口のきけない人は、その際、遺言を通訳を介してすることができます 
(同条2項)

 遺言を聞いた証人は、その趣旨を、筆記できる状況になってから書き留めて、もう一人の証人と共に署名押印の上、
遅滞なく家裁で「
確認」を受けます。検認により はじめて、その遺言は、効力をもつものとなります(同条3項)
「遅滞なく」とは、「すぐに」、「遅延することなく」という意味ですが、正当な 或は 合理的な理由による遅延で
あれば、やむを得ない として、違反とはされません。この方式における特殊状況に照らせば、一切の遅延を許さない
「直ちに」となっていないのは当然です
(→遺言執行者の任務開始)

 筆記されたものは、いわゆるメモで、「遺言書」としては扱われませんから、その「読聞け」「閲覧」も、内容
の正確性に関する「承認」も不要となりますし、改竄防止のための家裁での「検認」も不要
です。

 従って、遺言の後に必要な手続きは、「確認」だけになります。法的にはそうであっても、このメモが、そういう
状況・経緯で作成されるものなので極めて重要な証拠となることには間違いありません。その確認の関係も含めて、
こちらもご覧下さい。また、
民法981条により、証人中に自署できぬ者がいるときは、他の証人がその旨をその事
と共にその旨を
付記すれば足ります (これがないと遺言が無効になります) から、証人・立会人中の一人が自署とその付記が
できれば、クリアできることになります。




        救難 来979遭難船(死の)苦難 急979 たる遺言者

              
()() 不要  口述べ979(口頭)遺言いごん


          二人
証人れか
(遺言の)趣旨筆記して


         
(これは「遺言書」でないから読聞け、正確性承認不要) 

          各
 ()() 遅滞なく家裁確認 ねばない

    

「のべ」は9の伊語「ノーヴェ」から


    
     口述 979遺言いごん 遺言いごんなし

           「検認」
対象不存在
確認 すも検認不要




      
遭難船口困くちこん 979遺言いごん者、

          通訳
くち 
979駆逐くちく 979()口授代用     





       難船して979たる遺言いごん

           真意
たとの確認 要す



「して」は7の伊語「セッテ」、西語「シエテ」から

「のべ」は9の伊語「ノーヴェ」から


隔絶地遺言
(伝染病隔離者遺言・在船者遺言)(公証人代替人の立会で「確認」不要)


3 伝染病隔離者遺言
 民法は、伝染病のため行政処分によって交通を断たれた場所に在る者が遺言する場合について、977条で 次のよう
に定めています。
(その)者は、警察官一人及び証人一人以上の立会いをもって遺言書を作ることができる。
そして、この場合には、
遺言者、筆者、立会人及び証人は、各自遺言書に署名し、印を押さなければならない。(980条)
署名又は印を押すことのできない者があるときは、
    立会人又は証人は、その事由を付記しなければならない。
(981条隔離・隔絶・船の中で署名不可時の付記)
とし、さらに、
第九百六十八条第三項及び第九百七十三条から第九百七十五条までの規定は、
    第九百七十六条から前条までの規定による遺言について準用する。
(982条)
とするので、挙げられた各条文にあたると
加除その他の変更は、
    遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、
   かつ、
    その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。
(968条3項遺言の訂正)
成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復した時において遺言をするには、
   医師二人以上の立会いがなければならない。

  遺言に立ち会った医師は、
    遺言者が遺言をする時において
    精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった旨を遺言書に付記して、
   これに署名し、印を押さなければならない。
(973条成年被後見人のする遺言)
次に掲げる者は、遺言の証人又は立会人となることができない。
   一 未成年者  二 推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
   三 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人
(974条欠格事由)
遺言は、二人以上の者が同一の証書ですることができない。(975条共同遺言の禁止)
そして、最後に983条が、この遺言について
「(この)
遺言は、遺言者が普通の方式によって遺言をすることができるようになった時から六箇月間生存するときは、
  その効力を生じない。
(遺言効力の不発生)
とします。詳しくは各括弧内の下線クリックでご覧下さい。

 伝染病隔離者遺言は、公証人が関与する公正証書
(民法969条)や秘密証書(970条)によることが困難なときの為の簡易
な代替措置と言われ、伝染病による場合だけでなく、刑務所での受刑その他の行政処分や自然災害等による交通途絶
の場合にも適用できるとされています。

 この遺言の場合、証人一人の他、
警察官一人が立ち会えば、遺言ができますので、公証人に代わる公の立場の者
としての警官立会いよって、臨終遺言での様な遺言真意の「確認」は要しません。

 しかし、遺言書が作成されるので、改竄防止のための家裁での「検認」は受けなければなりません
(→検認と確認)

 この遺言の筆記者については、こちらをご覧下さい。

 なお、別の特別方式遺言である臨終遺言2種(976条979)については、その遺言状況に照らし、本人の署名・押印
は不要とされていますが、次条の在船者遺言
(978条)と共に隔絶地遺言とされるこの2種の遺言については、本人も署
名・押印
をしなければなりません(980条)

 証人、立会人、筆者にも署名・押印義務があり
(980条)、証人中に署名のできない者がいる場合については、前述の
付記」によりその問題をクリアすることになります
(981条条句)

 また、特別方式遺言の限界である効力消滅についても心得ておかねばなりません
(983条)。この方式の遺言の場合、
普通方式での遺言が可能な状態となって、6か月存命であると、その遺言の効力は不発生で終わります(§983)が、前述
の趣旨に照らし、その6か月の始期は、遺言者の伝染病の治癒があってからではなく、交通遮断が解消して後の6か月
ということになります。



     伝染病(や災害で)隔離をされたこんな 977


            
  公正証書 (遺言)困難 977れど 

     警官
証人 一人ずつ 立会いあれば


                   
 代わりに簡易
遺言いごん 作成できる





     伝染病
(隔離者遺言)977在船者(遺言)978

        隔絶地 故
遺言本人気張980 署名 


          故
 本人そのほか証人筆者立会人

                    
()()(義務)980



4 在船者遺言
 民法は、船中にある者が遺言する場合について、978条で 次のような定めをしています。
船舶中に在る者は、船長又は事務員一人及び証人二人以上の立会いをもって遺言書を作ることができる。
そして、この場合には、
遺言者、筆者、立会人及び証人は、各自遺言書に署名し、印を押さなければならない。(980条)
署名又は印を押すことのできない者があるときは、
    立会人又は証人は、その事由を付記しなければならない。
(981条隔離・隔絶・船の中で署名不可時の付記)
とし、さらに、
第九百六十八条第三項及び第九百七十三条から第九百七十五条までの規定は、
    第九百七十六条から前条までの規定による遺言について準用する。
(982条)
とするので、挙げられた各条文にあたると
加除その他の変更は、
    遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、
   かつ、
    その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。
(968条3項遺言の訂正)
成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復した時において遺言をするには、
   医師二人以上の立会いがなければならない。

  遺言に立ち会った医師は、
    遺言者が遺言をする時において
    精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった旨を遺言書に付記して、
   これに署名し、印を押さなければならない。
(973条成年被後見人のする遺言)
次に掲げる者は、遺言の証人又は立会人となることができない。
   一 未成年者  二 推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
  
三 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人(974条欠格事由)
遺言は、二人以上の者が同一の証書ですることができない。(975条共同遺言の禁止)
そして、最後に983条が、この遺言について
「(この)
遺言は、遺言者が普通の方式によって遺言をすることができるようになった時から六箇月間生存するときは、
  その効力を生じない。
(遺言効力の不発生)
とします。詳しくは各括弧内の下線クリックでご覧下さい。

 在船中者によるこの方式の遺言は、上記3の伝染病隔離者遺言の場合と同じく公証人の関与が困難なときのための
簡易な代替措置として認められる方式なので、船の中であれば全てこの遺言ができる訳ではなく、航海用の船である
ことが必要です。
 しかし、航海中であると停泊中であるとを問わないとされています。

 また、その趣旨であるから、船に限らず、飛行機内であってもこの方式の適用があるとされています。

 証人二人が立ち会う他に、船長
 (飛行機の場合は機長) 又は 事務員の立会いが必要とされ、職務上の立場の者も立ち会
うことから、家裁での遺言真意の「確認」は不要であるとされます。

 この遺言の筆記者については、こちらをご覧下さい。本人の自書によると筆者の手になるとを問いませんが、遺言
書が作られますから、遺言書の、改竄を防ぐ為の、家裁での「検認」は避けて通れません
 (民法1004条)(→検認と確認)

 前条の伝染病隔離者遺言(977条)と共に隔絶地遺言とされるこの2種の遺言については、別の特別方式遺言である2種
の臨終遺言
(976条979)と異なり、本人も署名・押印をしなければなりません。

 そして、証人、立会人、筆者にも署名・押印義務があり(980条)、又、証人中に署名のできない者がいる場合につい
ては、前述の「付記」によりその問題をクリアすることになります
(981条条句)。 

 在船遺言者が、上陸して普通方式での遺言が可能な状態となって、6か月存命であると、この遺言の効力は失われ
ます
(§983)



       
遺言者(飛行)機内 或は 在船

     
公正(証書)遺言いごんわぬ 困難978


      証人二人
船長(機長)  事務員一人 

     立
えば
わりに簡易クリヤ978 ができる


             「クリヤ」の「リ」は形の類似から「7」



公正証書遺言
 最後に公証人の作る公正証書遺言について述べます。公証人は、法務大臣の任命を受け、法務局又は地方法務局に
所属し、公証役場で執務する国家公務員で
(公証人法11条)、公証人には 法による守秘義務が課されています(同法4条)

民法969条がこの遺言証書の作成要件を定めています。まず、
① 
 証人二人(以上)の立会いを要すること、次に、
②  
遺言者が遺言の趣旨を口授すること
③  公
証人が遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に、読聞け、又は閲覧させること、そして、
④ 
遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名・押印すること、
 但し、遺言者が署名できないときは、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができること
、最後に、
⑤ 
公証人が以上の方式に則って作成した旨を付記し、署名・押印をすることにより、完成します。

同条の2は、
口がきけない者がする場合には、遺言者は公証人、証人の前で通訳人の通訳によって申述するか、又は
自書することにより前記口授に代えることができること
、また、

耳の聞こえない者である場合は、公証人は前記の筆記の内容を通訳人に通訳させることによって読聞けに代えること
ができる
旨を定めています。

 証人の説明は、既述ですが、ここでは、公証人の作成した証書の読聞けを受け、内容が正確であることを「承認
する重要な役割を担います。それは、即ち、遺言者が遺言を口授するのを聞いていて、その口授内容と証書に齟齬が
ないことを確認した上の承認ですから、口授がはっきり聞き取れ、遺言の趣旨が確たるものであることが前提となり
ます。

 公証実務では、遺言作成の依頼を受けると、予め、人的資料や財産関係資料と遺言内容のメモとを受け取り、証書
を準備して
期日当日に遺言者と面談します。なので、結論的には、準備した証書の確認と署名押印で終わります。
 しかし、それが実質もその程度の「形だけ」に終わってはならないのであって、遺言者の口授が明確になされるこ
と、その上で、読聞けがきちんとなされ、遺言者が、証書内容が遺言の真意と合致していることを承認し、又、証人
も遺言者の真意が証書に正確に記載されていることを承認しなければなりません。証人には、そのような重要な任務
があります。ですから、法律専門家である公証人であっても、希に手続きを疎かにすることがあるかも知れない疑念
を、民法は、証人に払ってくれるよう願っていると言えます。なお、遺言者の遺言能力に関する判断やその方法につ
いてこちらもご覧下さい。

 そのようにして、遺言者の真意が手続上も確保されることから、公正証書遺言には、臨終遺言
(広義)2種には必要と
される「確認」の手続きが必要とされません。翻って、公正証書作成手続きの厳守が銘記されねばなりません。

遺言公正証書の作成手数料は、こちらをご覧下さい
(目的物の価額に応じ額が定められ、それに、遺言加算(目的物価額が1億円未満
の場合、1万1000円増し)、出張する場合は(遺言加算なしの)手数料の5割増しに、旅費・日当の加算等がなされます)


公証人の所属する法務局と同じ法務局管内なら、自宅・病院・老人ホーム等に出張することも可能です。


公正証書遺言の証人
 証人については、民法974条によって、推定相続人・受遺者やその配偶者と直系血族、未成
年者のほか、公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人も欠格とされていますし、また、自署できない者は、
民法981条があることにより、その適用外となるため、事実上の欠格者となります。こちらをご覧下さい。

 盲人の証人適格判示判例 (最判昭55・12・4 ) 公正証書遺言の証人について、盲人は公正証書遺言に立ち会う証人
としての適格を有すると判示した判例です。

 この判決は、その理由を
「民法九六九条一号は、公正証書によつて遺言をするには証人二人以上を立ち会わせなければならないことを定める
が、盲人は、同法九七四条に掲げられている証人としての欠格者にはあたらない。のみならず、盲人は、視力に障害
があるとしても、通常この一事から直ちに右証人としての職責を果たすことができない者であるとしなければならな
い根拠を見出し難いことも以下に述べるとおりであるから、公正証書遺言に立ち会う証人としての適性を欠く事実上
の欠格者であるということもできないと解するのが相当である」
として、
証人としての職責に照らし次のように説きます。
「すなわち、公正証書による遺言について証人の立会を必要とすると定められている所以のものは、右証人をして
遺言者に
人違いがないこと(①)及び遺言者が正常な精神状態のもとで自己の意思に基づき遺言の趣旨を公証人に
口授するものであること(②)の確認をさせるほか、公証人が民法九六九条三号に掲げられている方式を履践するた
め筆記した遺言者の口述を読み聞かせるのを聞いて筆記の正確なこと(③)の確認をさせたうえこれを承認させるこ
とによつて
遺言者の真意を確保し、遺言をめぐる後日の紛争を未然に防止しようとすることにある。
 ところで、一般に、視力に障害があるにすぎない盲人が遺言者に人違いがないこと及び遺言者が正常な精神状態の
もとで自らの真意に基づき遺言の趣旨を公証人に口授するものであることの確認をする能力まで欠いているというこ
とのできないことは明らかである。また、公証人による
筆記の正確なことの承認は、遺言者の口授したところと公証
人の読み聞かせたところとをそれぞれ耳で聞き両者を対比することによつてすれば足りるものであつて、これに加え
て更に、公証人の筆記したところを目で見て、これと前記耳で聞いたところとを対比することによつてすることは、
その必要がないと解するのを相当とするから、聴力には障害のない盲人が公証人による筆記の正確なことの承認をす
ることができない者にあたるとすることのできないこともまた明らかである」
と述べ、盲人であっても聴覚によって、遺言者の口授内容と公証人の筆記内容との一致を公証人の読聞けによって確
認できる、ということが論拠とされています。
 前記の事実上の欠格者というのは、前述のように民法981条の適用外であるための欠格であって、「事実上」とは
言い乍ら根拠のあるものであるのに反し、盲人を欠格とするのは、法
(969条3号)が正確性確認の方法としてそれで足り
るとしている「読聞け」を、それでは足りぬとし、書面の視認を要求するもので、法的根拠に欠けます。5名の判事の
内2名の反対意見がありますが、生来的な証人欠格としては未成年を挙げるだけの法
(§974)にも反しますから、承服し
かねます。私は判旨に賛成です。

 因みに、法はその後 平成11年に、口がきけない、或は、耳が聞こえない遺言者の為に改正されて、これにより、
これらの者が公正証書で遺言できる途が開かれましたが、目が見えない遺言者については触れていません。
 但し、この改正によって、口がきけない遺言者が 自書して口授に代えることが認められましたので、この場合、
証人としては、自書遺言案を視認することが必要となります。盲人が法に欠格とされていない以上、この場合も証
人適格は認めるべきと思いますが、公証人がその案書面の読み上げをする必要があります。

民法969条

公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。

 証人二人以上の立会いがあること。
 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
 公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること。
 遺言者及び証人が、
  筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。ただし、
  遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。
 公証人が、
  その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと。


民法969条の2
口がきけない者が公正証書によって遺言をする場合には、遺言者は、
  公証人及び証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述し、
  又は自書して、前条第二号の口授に代えなければならない。
 この場合における同条第三号の規定の適用については、
  同号中「口述」とあるのは、「通訳人の通訳による申述又は自書」とする。

 前条の遺言者又は証人が耳が聞こえない者である場合には、公証人は、
  同条第三号に規定する筆記した内容を通訳人の通訳により遺言者又は証人に伝えて、
  同号の読み聞かせに代えることができる。
 公証人は、
  前二項に定める方式に従って公正証書を作ったときは、その旨をその証書に付記しなければならない。



公正証書遺言のメリット 公証人の関与する公正証書遺言は、公証人の関与によって、(1) 公務員としての職務上、
① 遺言者の同一性、② 精神の正常性の遺言要件二点が履践され、(2)内容についても、遺言者の口授する遺言の
真意を理解・把握して、 誤りなく公正証書として表記できる、(3) 遺言書の改竄を防止できる保管態勢があることの
三点で、他の方式の遺言に優るとされます。
(2)の理由から広義の臨終遺言2種
(§976§979)に必要とされる家裁での「確認」が不要とされ、また、
(3)の理由から家裁での「検認」が不要
(§1004Ⅱ)となります(「検認と確認」をご覧下さい)

 
また、遺言にまつわる手続上の負担から見て、公正証書遺言の場合、
① 相続人は誰と誰かを探す「全子探索」を要しないので、「全籍収集」の負担がない。
遺言書の保管について不安がなく、したがって、改竄防止の為の「検認」手続きが不要であり、同手続きの為の
 全籍収集の負担もない。
③遺言者の真意「確認」も不要であること
の三点がメリットとして挙げられます。自筆遺言との比較では検認
(不要)・保管の2点で優れますが、上記の法務局保
管が実施されると、これが同等となります。そうすると、自筆遺言が、内容的に必ずしも法的な的確性、有効性を備
えるとは言いがたい実情があることに照らし、法律専門家である公証人の関与によって遺言者の真意を、遺言実行の
確実性も確保しつつ、証書上に的確・有効に表出することができる点が公正証書遺言のメリットとなると言えます。

 なお、公証役場の仕事としては、もう一つ秘密証書遺言
(§970)がありますので、下線クリックでご覧下さい。ここ
でも、「遺言の種類」の所でご紹介した条句を笑覧下さい。「出張可能」とあるのは、原則として 公証役場で執務す
べきところ、遺言については役場の外で執務することができる
(公証人法57条18条2項)という意味ですが、但し、その場
合も、その公証人の所属する法務局の管内に限られることになります
(公証人法17条)    



    公証人黒子969とる遺言(遺言公正証書)


        証人二人
同席
本人口授すを筆記して


             
読聞 又は 閲覧させて


              
(本人・証人による正確性)承認


        本人
証人 
()()


     公証人
方式()付記して()()


      
本人署名不可ならその付記公証人代署する





     
公証人黒子9692 

      きけぬ
遺言いごんあれば

          通訳
自書して口授

            
こえぬ遺言いごん(又は証人)

                   
筆記内容通訳読聞け

                
とった方法付記して(遺言)公正証書とす




     (伝染病)
隔離()在船()船遭難(者遺言)


        
981 遺言いごん(但し、§976臨終遺言を除く)


            ()()のできぬ(者がある)ときには


           
立会人証人()れか「文字らぬ」とか「病気である」とか


              
その理由付記せばるが黒子 969(公正・秘密証書)では


              それできぬ
証人署名不可なら事実上


             その者証人
欠格者
(臨終遺言でも同じ)




     公証人
公務級 969


        
遺言いごん(遺言公正証書)改竄


           
懸念無用
家裁における遠回1004なる


                     
検認不要となるが利点也





      遺言普通方式るべきところ

         
(公証)役場るな967公正(証書)秘密(証書)2種あり

            出向くのが苦労967自筆(証書)出来る、

                   し、出張可能 公証人

        (公証人の役場外出張による公正証書作成も可。公証人法57条18条2項17条


相続の承認・放棄
 
相続とは、被相続人の死亡に伴って、その消極財産をも含めての包括財産 (但し、一身専属権は除きます) を 限られた近
い親等の法定相続人が承継することですが、「相続と相続債務」でも述べましたように、法は 消極財産である相続
債務を法定相続分で当然 負担すべしとしている 
(民法899条) 上、これは亡くなって相続が開始したと同時に負担させ
られます
(882条896条)

 なので、相続債務を免れる途は、その相続の枠を脱する相続放棄
 (民法938条) をすることにより、初めから相続人
ではなかったこととする
 (民法939条) か 、或は、相続債務を 相続人全員で (民法923条)、相続した積極財産の限りで
返済する旨 申述する限定承認
 (民法922条924条) を選択するしか方法がありません。

 そして、法は、何れの選択をするかを考慮する期間 
(熟慮期間と言います) を3か月として、相続人に猶予期間
を与えます
(民法915条)が、その期間中に選択をせずに熟慮期間を経過すると法定単純承認といって、単純承認 
(
民法920条) したものとみなされます (民法921条2号)。

 
単純承認そのものについては、その手続規定がなく、相続放棄 (938条)や限定承認(§924)のように裁判所で「申述」
する方式等の定めもありません。

 法は、相続について 相続人の単純承認の意思表示を予定せず
(少なくとも、アテにせず)相続人の遺産処分行為 或は 熟
慮期間3か月の経過をもって、法定単純承認 制度によって、単純承認があったものとみなします(921条)

 これにより、自然の摂理における生命の継承に似た当然の事理の様に、必然的に相続が成り立ち、これを阻止
制限
する為には、相続人自ら 意識して放棄か限定承認 せよ、というのが法が設けた「相続」の建付です。
 なので、熟慮期間の経過という事実は、単なる時の経過ではすまない重大な結果に繋がります。それで、相続財産
など全くないと思っていたケースについての下記の判例が生まれることにもなりました。

 しかも、相続の承認・放棄は、民法919条1項により撤回することができません。
 同条2項以下に、民法総則、或は 親族法による取消しが可能である旨の定めがありますが、
(後の条句でお分かりの様に)
詐欺・強迫による取消し(民法96条)
、或は 親権者後見人の取消権に基づく取消し等ですから、相続について自ら再考
した結果の取消しではありません。この取消しについて迄 裁判所で「申述」すべしと定める919)のに、大本の単純
承認について、その手続・方式等に触れるところがないのですから、その気がない侭に結果を招く、法の企みの様な
感があります。
 誰かさんから「ボーっと生きてるんじゃぁねぇよ」と言われかねない場面なのです。熟慮・決断・実行が肝要です。

 そもそもが、相続は、本項冒頭にある様に、人の死と同時に 開始となり、それにより一切の権利義務が承継される
(882条896条)のですから、本来 単純承認されるべきであり、承認 放棄のコンセプトは、即ち 例外的に その枠組みか
らの離脱 を許す仕組みです。なので 民法は、その離脱法の規定は設けますが、本来 必然である単純承認については、
敢えて規定する必要がない として、何も触れていないものと考えるのが素直な理解である と思います。

 遺贈の承認・放棄との違いについて、こちらもご覧ください。

        

     熟慮(期間) 三月みつき ウッカリ すれば、

        法定(単純)承認悔誤くいご 915 この つに921かる



 なお、法定単純承認となされる事由としては、この熟慮期間の徒過 (民法921条2号)のほか、相続人が、相続財産
の全部又は一部を処分 
(但し、保存行為及び民法602条に定める期間を超えない賃貸は除く) (民法921条1号)、或いは 限定承認 又は
相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部の隠匿
(私的な)消費、又は 悪意での相続財産目録へ
不記載 
(民法921条3号)等をした場合も、承認とみなされます (但し、その相続人が相続放棄をしたことによって相続人となった者が
相続の承認をしたときは、当該元相続人はもう法定単純承認の余地がありませんから、このときを除きます)



 
熟慮期間は、相続人が「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内(915条1項)となっていま
すが、相続を決する重要な分岐であり、かつ、ウッカリ徒過すると承認したとみなされる
 (民法921条2号)という、とき
には重大なことにもなりかねない法効果を伴います。
 期間が熟慮には足りない様なら家裁に延長を請求することもできます。3か月の経過前に延長の申立てをします。
一度延長された期間内に調査が完了しない状況になって再延長の必要があれば、それも可能です


 
民法915条2項は、「相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる」と定めて
いるので、この調査権に基づいて、故人の預金通帳等により銀行での口座や残高状況を、固定資産税納税通知書・不
動産登記簿等により保有不動産の内容・評価額・抵当債務の有無等を調査することができます。


 相続開始の原因となる事実及びこれにより自己が法律上相続人となつた事実を知つた時から三か月以内に
限定承認又は相続放棄をしなかつたのが、相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、このように
信ずるについて相当な理由がある場合には、熟慮期間は相続人が相続財産の全部若しくは一部の存在を認識し
た時又は通常これを認識しうべかりし時から起算するのが相当であるとした判例
 (最判昭59・4・27 ) 

 熟慮期間は、長い間、被相続人が亡くなって、自分が相続人となったことを知った時から起算されるとされてき
ましたが、その後、「相続財産などある筈もない」と思って期間を徒過してしまい、相続放棄の機会を逃してしまっ
た事案について、この判例は
「相続人において相続開始の原因となる事実及びこれにより自己が法律上相続人となつた事実を知つた時から
3か月
以内に限定承認又は相続放棄をしなかつたのが、相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、被相続人の
生活歴、被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の状況からみて当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期
待することが著しく困難な事情があつて、相続人において右のように信ずるについて相当な理由があると認められる
ときには、相続人が前記の各事実を知つた時から熟慮期間を起算すべきであるとすることは相当でない
ものというべ
きであり、熟慮期間は
相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべき時から
起算すべきものと解するのが相当である。」 と判示しました。
 
この判決の事案を要約すると、
 「被相続人は、定職に就かずにギヤンブルに熱中して家庭内のいさかいが絶えなかつたため、妻子が家出し、以後、
子らとも全くの没交渉となったが、妻子らと没交渉となってから約10年ほど経った時、他人の準消費貸借契約につき
連帯保証人となる契約を締結し、その後、生活保護を受けながら独身で生活していたときに、債権者から連帯保証債
務訴訟を起こされ、その係属中に、医療扶助を受けて病院に入院し、
(連帯保証契約後約3年した) 翌年病院で死亡した。
長子は、同人の死に立ち会い、また、他の二人の子も同日あるいはその翌日に父の死亡を知らされた。しかし、長子
は、民生委員から父の入院を知らされ、三回ほど父を見舞つたが、その際、同人からその資産や負債について説明を
受けたことがなく、上記訴訟が係属していることも知らされないでいた。当時、被相続人には相続すべき積極財産が
全くなく、その葬儀も行われず、遺骨は寺に預けられた事情にあり、子らは、父が本件連帯保証債務を負担している
ことを知らなかつたため、相続に関しなんらかの手続をとる必要があることなど全く念頭になかつた」というもので
した。

 事案のような場合、積極財産がないことは誰の目にもすぐに分かることで、積極的な相続の意思を表明することな
く埋葬等を終えてその侭となることもあり勝ちな事と思われます。消極財産については、容易に判明し難い面があり、
この判例の示す基準によっても、救済されない場合が生じ得るのではないかと懸念されますし、更に、これが、特異
な事例として、相続人でない者が割合による包括遺贈で債務を負担させられるなどということに繋がらないものかと
案ぜられます。やはり、熟慮期間の起算点は、消極財産である相続債務の存在をも認識した時点から起算するとした
方が、思わぬ犠牲者の出ることを防ぐ一番の手立てだと思いますが、如何でしょうか。


 
再出になりますが、その民法920条 (単純承認) 915条 (熟慮期間) 919条(相続の承認・放棄の撤回・取消し)の条句です。

  

   相続人単純承認 したならば920した一切

 
         権利義務りなくことに920なる要注意
                       
「ことに」=9(00)+(10×2)

   相続人単純承認 したならばにお920るなどプラスばかりか

        マイナス
債務などまでりなくわねばならぬ苦痛920覚悟!

    
  ()一期 915看取りの後の

     相続人
熟慮して悔誤くいご 915 (造語)すな

                       
(相続の)承認放棄 

 
 裁判所
、請求れば、この以後915(熟慮)期間 延長してくれ

        相続人
熟慮権利あり、(預金)通帳等

             915 (造語)気遣不要調査(請求) 

                 乞
915 (造語)不要調査(請求)ができる


   拙速クイック919承認放棄をしたら

      熟慮期間
前後わず撤回 することできぬ



  承認放棄未成年
(制限)能力問題詐欺(強迫)あれば

            
取消できるがこの 探求
919

      
(追認)できるからか月(承認・放棄を)なしたから十年

              家裁
 申述 せねばない


再転相続
 熟慮期間中に相続人が亡くなった場合、先に故人となった被相続人甲の相続について承認・放棄が未決であり、
更に、その相続人乙についての相続も承認・放棄 未決となりますから、乙の相続人丙は、両 故人の相続について、
承認・放棄をすることになります。再転相続と言います。「二転三転」と言いますが、その二転と同じ意味で、一
度事態が変わった後にまた変わるという「再転」です。

 その場合丙に与えられる再転相続の熟慮期間は、丙が
自己のために相続の開始があったことを知った時から起算する
と民法916条は定めます。

 つまり、乙に与えられていた期間は既に徒過してしまったとしても、丙自身が、自己が乙の相続について相続人と
なると知ったときから起算することになる訳です。

 因みに、丙にとって「自己のための相続」と言うときは、乙を相続することであって、自己のため甲を相続するこ
とではありません。甲を相続できるのは乙であって、丙はその乙の承認・放棄の選択権を代わりに行使するだけです。

 甲の相続についての選択権を行使して承認を選択すれば、乙の相続財産に甲を相続した分が加わり、遡っての承認
が、再転して丙自身の相続に生きますが、放棄を選択すれば、乙の相続財産だけを、丙は相続することになります。

 ですから、丙が甲について乙による相続の開始を知った時期は丙の熟慮期間にとって取り敢えず無関係です。丙に
とっては身近な乙の死亡は直後に知り得るでしょうが、場合によっては身近ではないかも知れない親等の一つ離れた
甲についてはその死を知るのに時間を要するかも知れません。

 しかし、民法は、丙が乙の相続について調査・検討する熟慮期間中に、乙が相続予定であった甲の相続についても
承知する筈だし、承知すべきだから、甲についての相続の開始時期がいつであれ、乙の相続について自己が相続人と
なったことを知った時から熟慮期間が進行するという考えであると言えます。

 この再転相続の起算点については、後に紹介する判例
(最判令和元年8・9)があります。
民法916条にいう「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、相続の承認又は放
棄をしないで死亡した者の相続人が、当該死亡した者からの相続により、
当該死亡した者が承認又は放棄をしなか
った相続における相続人としての地位を、自己が承継した事実を知った時
をいう。
として、再転相続の起算点を、上記丙が、乙の死亡事実と自己が甲の相続人としての地位を承継した事実とを知った
ときであると判示しました。

 この判例の事案は、丙に当たる者
(甲に当たる者の甥(姪?))が、甲が亡くなり、4か月足らずして乙も、甲の子の放棄に
よって自己が相続人となった事実を知らぬまま亡くなった、その年から3年後に、甲の債務を譲り受けた債権回収会
社からの通知を受けて初めて、自己が甲の相続人の地位を承継した事実を知って、その相続の放棄をしたというもの
です。
 相続による青天の霹靂のような債務負担を防ぎ、承継に当たっての承認放棄の機会を確保する為にも、妥当な判決
であったと思います。

 そして、身近か否かという先程の例で、乙の相続について先に放棄することもあり得るとすると、その場合には、
甲の相続については承認・放棄を選択する余地はあるのか、ということが問題となります。

 再転相続判例 (最判昭63・6・21)   最高裁は、そのような事案で、甲の相続 (先行相続) について先に放棄し、後
から乙の相続 (後行相続) について放棄した丙について、原審が、先行相続につき承認・放棄し得るのは、後行相続
につき承認した場合に限られるから、本件で先になされた先行相続に関する放棄は無効であるとしたのに対し、

丙が後行相続について先に放棄をしていた場合は、最早 丙は、乙の権利義務をなんら承継しないのであるから、
乙が有していた
先行相続についての選択権は失われて承認・放棄の余地はないが、後行相続について承認・放棄をし
ていないときは、甲の相続につき放棄をすることができ、かつ、甲の相続につき放棄をしても、それによつては乙の
相続につき承認 又は 放棄をするのになんら障害にならず、又、その後に丙が乙の相続につき放棄をしても、丙が先
に再転相続人たる地位に基づいて甲の相続につきした放棄の効力がさかのぼつて無効になることはない」

旨を判示しました。

 再転相続の起算点判例(最判令和元年・8・9) 
 
民法916条にいう「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」の意義
 この判決は、
民法916条にいう「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、相続の承認又は放
棄をしないで死亡した者の相続人が、当該死亡した者からの相続により、当該
死亡した者が承認又は放棄をしなか
った相続における相続人としての地位を、自己が承継した事実を知った時
をいう

と判示し、その理由について
「(1) 相続の承認又は放棄の制度は、相続人に対し、被相続人の権利義務の承継 を強制するのではなく、被相続人か
ら相続財産を承継するか否かについて選択する機会を与えるものである。熟慮期間は、相続人が相続について承認又
は放棄のいずれかを選択するに当たり、被相続人から相続すべき相続財産につき、積極及び消極の財産の有無、その
状況等を調査し、熟慮するための期間である。そして、相続人は、自己が被相続人の相続人となったことを知らなけ
れば、当該被相続人からの相続について承認又は放棄のいずれかを選択することはできないのであるから、民法915
条1項
本文が熟慮期間の起算点として定める「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、原則として、
相続人が相続開始の原因たる事実及びこれにより自己が相続人となった事実を知った時をいうものと解される
(最高裁
昭和 57年(オ)第82号同59年4月27日第二小法廷判決・民集38巻6号698 頁参照)

(2) 民法916条の趣旨は、乙が甲からの相続について承認又は放棄をしない で死亡したときには、乙から甲の相続人
としての地位を承継した丙において、甲からの相続について承認又は放棄のいずれかを選択することになるという点
に鑑みて、丙の認識に基づき、甲からの相続に係る丙の熟慮期間の起算点を定めることによって、丙に対し、甲から
の相続について承認又は放棄のいずれかを選択する機会を保障することにあるというべきである。 
再転相続人である
丙は、自己のために乙からの相続が開始したことを知ったからといって、当然に乙が甲の相続人であったことを知り
得るわけではない。また、丙 は、乙からの相続により、甲からの相続について承認又は放棄を選択し得る乙の地位を
承継してはいるものの、丙自身において、乙が甲の相続人であったことを知らなければ、甲からの相続について承認
又は放棄のいずれかを選択することはできな い。
丙が、乙から甲の相続人としての地位を承継したことを知らないに
もかかわら ず、丙のために乙からの相続が開始したことを知ったことをもって、甲からの相続 に係る熟慮期間が起算
されるとすることは、丙に対し、甲からの相続について承認 又は放棄のいずれかを選択する機会を保障する民法916
条の趣旨に反する。 以上によれば、民法916条にいう「その者の相続人が自己のために相続の開始 があったことを知
った時」とは、相続の承認又は放棄をしないで死亡した者の相続人が、当該死亡した者からの相続により、当該死亡
した者が承認又は放棄をしなかった相続における相続人としての地位を、自己が承継した事実を知った時をいうも の
と解すべきである。」
と説いています。




      
   再転相続 熟慮(期間)かん(承認放棄を)めぬ 

       亡
くなりそれをいだ自為じため相続開始から


    三つき二代分(相続の)承認放棄 せねばない

           思案
(四案)りぬあん(九案)せい 916 

 (
先に、先代についての相続を放棄してしまうと、先々代の相続を承認することができなくなったりする)


     
弘法916涙止まらぬいばらみち 916再転

                   
二代分 承認放棄あんせい 
916 「セイ」は伊語の6から



法定単純承認
 人が亡くなり、その相続人が、上記熟慮期間(3か月)中に、亡くなった人の財産について、通常 相続を承認した上で
なければ してはならない行為をなし、又、それが、第三者から見ても、当然 承認したからこそ の行為であると 推
認できるときは、その相続人は 相続を単純承認したものとみなされます。

 それが、民法921条1号が法定単純承認の事由として定める相続財産の「
処分」です(但し、保存行為及び602条の短期
賃貸借はこれに当たりません)


  この定めの趣旨を説き、その為の要件を、「相続人が自己のために相続の開始した事実を知り、又は、確実視し
ながら相続財産を処分することを要する」と判示したのが、次の判例です。

 921条2号は、「
期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき」として、単に時が経過しただけで単純承認
とみなすという、愚見によれば権義主体同一であるが故に承認を当然視できるという趣旨によってこそ理由付けでき
る事由を定めます。

 921条3号は、「
限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれ
を消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき
 (但し、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人
となった者が相続の承認をした後は、除きます。→放棄者の処分)
」 も法定単純承認事由としています。この3号の理由については、
このような背信的な相続人にそのまま限定承認・放棄を認めることが相続債権者との間の公平の観念に反し、公正な
清算を期待できなくするからであると言われています。


 
法定単純承認の効果が生ずるためには相続人が自己のために相続の開始した事実を知り、または、確実視しながら
相続財産を処分したことを要するとした判例
(最判昭42・4・27) 

 
この判決は、その理由を
「民法921条1号本文が相続財産の処分行為があつた事実をもつて当然に相続の単純承認があつたものとみなしてい
る主たる理由は、本来、かかる行為は相続人が単純承認をしない限りしてはならないところであるから、これにより
黙示の単純承認があるものと推認しうるのみならず、第三者から見ても単純承認があつたと信ずるのが当然であると
認められることにある。したがつて、たとえ相続人が相続財産を処分したとしても、いまだ相続開始の事実を知らな
かつたときは、相続人に単純承認の意思があつたものと認めるに由ないから、右の規定により単純承認を擬制するこ
とは許されないわけであつて、
この規定が適用されるためには、相続人が自己のために相続が開始した事実を知りな
がら相続財産を処分したか、または、少なくとも相続人が被相続人の死亡した事実を確実に予想しながらあえてその
処分をしたことを要する
ものと解しなければならない。」
と判示して、被相続人が家出し、その当夜に自殺していたことを、家出後4か月余りして遺体が発見されて知った相
続人は、その家出中、被相続人の死亡を予想もせぬ侭、その動産の一部を処分したからといって法定単純承認の要件
たる「処分」をしたものとは認められないと結論しました。



    故人身罷みまか急舞台921

        裏
故人財産 

         
処分
隠匿(不記載を含む)消費があれば

             
 
法定 単純承認みなされる


  
(相続人は)三月みつき (管理を超える)処分ダメでも管理(§918

           
保存行為()(貸借)ならば、 しても(法定単純)承認(とは)みなされず

                              
こぶタン 921程度(?)される


放棄者・限定承認者による相続財産の処分・隠匿等
 相続放棄した者が、相続財産の消費・隠匿等をした場合、放棄によって他の相続人が相続人となって相続を承認し
たときは、法定単純承認とはならず、相続放棄の効果はその侭 
(民法921条3号但書)となります。ただ、遺産管理の立場
から損害賠償等の責任追及があり得ます。又、限定承認者が相続財産の処分・隠匿・消費・
(財産目録)不記載を行った
場合は、清算による未払残が生じたとき、相続債権者らから、その者の相続分に応じた支払請求をされます 
(937条)


    
 (相続)放棄によってが 承認して相続人となって後 、

          
放棄者消費隠匿しても(単純承認みなされず)放棄その

                 
(遺産分割管理から)窮追 921あるぞ


   
さん923(限定承認者)

                   
処分
隠匿 (目録不記載を含む)消費 (921Ⅰ、Ⅲ)者あれば


            (相続債)権者に払えぬ 残額  (相続)じた取立

                           受けてんな 
937自業を自得


相続放棄
相続放棄の方式と効果
 相続放棄は、熟慮期間中に家裁において相続放棄の申述をしなければなりません (民法938条)

 相続開始後の申述でなければなりませんから、亡くなる前に「相続は放棄します」旨の書面を作っても放棄の効果
は生じません。あくまで亡くなって相続が開始した事実を踏まえ、必要書類を揃えて家裁で申述することを要します。
具体的には、家裁所定の「相続放棄申述書」に戸籍謄本・住民票等の必要資料を添付して提出
(郵送することもできます)
し、手続きします。こちらをご覧下さい。相続放棄には、期間の制約があります。こちらを御覧下さい。

 相続放棄をすると、「
その相続に関しては、初めから相続人とならなかった」ものとみなされます (民法939条) 
から、「相続」による相続財産の承継は受け得ません。

 勿論、
(通常それを免れる目的で相続放棄の手続がなされる) 相続債務も負わなくて良くなります。ギャンブルで借金
浸けになった親の債務等も負担せずに済みます。ただ、放棄した事の証拠がなければ、負担しないと主張しても通り
ません。亡くなった人に相続人がいると知った債権者から、次々と思わぬ請求、取立てを受けることもあり得ますの
で、手続終了後に家裁から交付される「相続放棄申述受理通知書」をなくさぬよう大事に保管する必要があります。

 また、例えば、放棄した者に子がいても、その子には代襲資格が生じません。相続人ではなかった者の代わりの相
続人は、無い からです。

 従って、死亡以外の代襲原因としては、廃除と欠格しかなく
 (民法887条2項、3項) 、放棄は子を代襲からはじき出す効
果を伴います。

 反面、その者が相続の枠から脱することによって、次の順位で相続人となる者、或は、同順位でも相続分が増える
者らに、負の遺産の関係でも影響が及びますから、思わぬ犠牲者が出ないとも限りません。

 必要であれば、事前に関係者との協議をしておき、後で恨まれないよう気配りすることも必要かも知れません。

 なお、相続放棄は、相続人であることを自ら拒むことですから、被相続人がそれとは無関係に、遺言で、放棄者に
「相続させる」とはせず、「遺贈する」としていた場合、それは相続ではないので、放棄者は、その遺贈を受けるか
拒むか改めて選択することになります。

 但し、その遺贈が包括遺贈であった場合、民法990条により、正に放棄者が拒んだ「相続人」と同一の権利義務を
承継することになってしまいますから、この場合は遺贈無効で終わることになります。

次は、民法938条
(相続放棄の方式)939条(相続放棄の効果) の条句です。


  
相続放棄 

     遺産
をば調べてみたら遺産



   
(破産)938  げたや家裁にて

        
この938退申述せねば

   
「相続財産をもって相続債権者及び受遺者に対する債務を完済
       することができないと認めるとき」破産開始
. §22330



  
相続放棄した

    「
めから相続人はあらざりき(みなされて)代襲論外

           
(債務オーバー)939 ホウキ(放棄)

                   
(代襲相続から)した

 相続放棄は詐害行為取消権の対象とはならないと判示した判例 (最判昭49・9・20)
この判例は、その理由として
「相続の放棄のような身分行為については、民法四二四条の詐害行為取消権行使の対象とならないと解するのが相当
である。なんとなれば、右取消権行使の対象となる行為は、積極的に債務者の財産を減少させる行為であることを要
し、消極的にその増加を妨げるにすぎないものを包含しないものと解するところ、相続の放棄は、相続人の意思から
いっても、また法律上の効果からいっても、これを既得財産を積極的に減少させる行為というよりはむしろ消極的に
その増加を妨げる行為にすぎないとみるのが、妥当である。また、相続の放棄のような身分行為については、他人の
意思によつてこれを強制すべきでないと解するところ、もし相続の放棄を詐害行為として取り消しうるものとすれば、
相続人に対し相続の承認を強制することと同じ結果となり、その不当であることは明らかである」
と述べています。通常、相続人が相続債務を免れようとしてする相続放棄が、相続人の既得財産の「増加を妨げる行
為」と言えるか疑問も残りますが、身分行為であるから他の強制の余地を与えるべきでないとの理由は首肯できます。
むしろ、放棄が「財産の増加余地があるのに、それを妨げる」場合のありうることをこの判例が想定していたことに
興をそそられます。財産が増える相続なのに、その機会を放棄によって逸したタイプの放棄もあるとすると、その相
続人の子が代襲に与れないのは気の毒な感がするからです。こちらをご覧下さい。


 相続放棄の効力は絶対的であり、何人に対しても、登記等なくして対抗できる旨判示した判例 (最判昭42・1・20)
 
この判例は、
「相続人は、相続の放棄をした場合には相続開始時にさかのぼって相続開始がなかつたと同じ地位に立ち、当該相続
放棄の効力は、登記等の有無を問わず、何人に対してもその効力を生ずべきものと解すべきであって、相続の放棄を
した相続人の債権者が、相続の放棄後に、相続財産たる未登記の不動産について、右相続人も共同相続したものとし
代位による所有権保存登記をしたうえ持分に対する仮差押登記を経由してもその仮差押登記は無効である。」
と判示し、その理由として、
「民法が承認、放棄をなすべき期間
(同法九一五条を定めたのは、相続人に権利義務を無条件に承継することを強制し
ないこととして、相続人の利益を保護しようとしたものであり、同条所定期間内に家庭裁判所に放棄の申述をすると

(同法九三八条
、相続人は相続開始時に遡ぼつて相続開始がなかつたと同じ地位におかれることとなり、この効力は絶
対的で、何人に対しても、登記等なくしてその効力を生ずると解すべきである。
と述べました。

 

限定承認 
その方式と税金面等からの利用実情
 熟慮期間中での検討結果で、被相続人から遺された相続債務を 
(遺言で遺贈をしている場合はその遺贈債務も含まれます)
遺された積極財産の限度で支払い、相続人固有の財産には踏み込まれずに済ませたい場合は、限定承認 
(民法922条)
することになります。
 熟慮期間中に、財産目録を作成して、家裁に、目録を提出し、限定承認する旨 申述します (民法924条)。これにより、
相続の効果である、被相続人の包括財産の
相続人固有財産への融合同一化を阻止し、別人格・別財産としてのスタン
スの侭 
(民法925条)相続財産の清算手続きへと移行します(具体的な書式等はこちらの「相続の限定承認」をご覧下さい)
 そして、この手続きは、被相続人・相続人・債権者ら関係者間で複雑なやりとりを斉一的に行わねばなりませんか
ら、
相続人全員が一致して限定承認で臨む旨家裁に申述することを要します (民法923条)

 上記の様に遺された積極財産の限度で相続債務を弁済すればよく、下記条句にある様に「苦痛にならず」という限
定承認は、一見甚だ都合の良い財産承継である様に思われます。

 しかし、実は、税の事情等も加わるので、必ずしも都合の良い事ばかりではありません。つまり、相続税が、税率
の低いことだけでなく、その他にも種々相続人に有利な扱いを用意してくれているのは、相続が、
(極端な表現をすれば、)
財産が同じ主体の右手から左手へ移っただけとみなすこともできる事象であるからです。そうでない関係で遺産の移
転を行おうとすると、その扱いが変わります。
 「相続の本質」の所で、承継が主体同一性に基づく融合同一化であると申しましたが、限定承認の場合、敢えて融
合同一化を阻止して、別人格である故人の財布の中での清算を行います
(民法925条)

 
清算は、債務弁済の為、財産の換価を伴い、換価は他人への有償譲渡を要しますから、清算には(実際に譲渡する事なく
相続人の入手する事となる場合でも、)
時価での譲渡があったとみなされ、譲渡所得税がかかります(これを、4か月以内に、被相続人
にかかる準確定申告によって納税しなければなりません)


 さらに、その様にして清算して、幸いにも
(民法932条但書により時価で買い取る資力があって)積極財産を継ぐことができる
ことになっても、その様な承継の性格上、これもやはり融合同一化によるとはみなされず、
(相続税率扱いは受け得ても、) 
相続人には大変有難い小規模宅地等の特例は適用して貰えないのです。この様に、税金面のデメリットがあるので、
清算手続の面倒と上記期間的制約等も重なって、実際の利用度は相続放棄に比して極めて低い実情があります。

  922 (限定承認) 923(共同相続での全員による限定承認) 924 (家裁での目録提出と限定承認の申述) 925条(限定承認したときの権利義務) の各条句をご覧下さい。


  遺産 つぶ  922相続債務いきれるか 危惧あれば

       限定承認
、亡 債務遺贈  (遺産)  弁済、

          
 ふところ(固有財産) 無傷苦痛922ならず

            
(定承) 真髄ここにある922「ある」は、中国語の2から




    相続人 数人あれば、(定承) は、

          その
数人全員
さん 923(造語)こぞって

             債務遺贈 () 

       家裁
べに923ずべし「のべ」は9の伊語「ノーヴェ」から


 

    債務 ()ふところ(固有財産)めぬ工夫 924 

         
限定承認(相続知って)三月みつき(財産)

          
目録 って家裁に)提出 924めて(債務と遺贈を)

              
弁済する申述 せねばならぬ





      相続人 限定承認したときは故人(対して)した権利義務

             
(いわば)他人ひととのこと遺産とは混同925しない消滅しない



 限定承認をした相続人が死因贈与による不動産の取得を、限定承認者への所有権移転登記が相続債権者による
差押登記よりも先にされたとしても、信義則に照らし、相続債権者に対抗することはできない旨判示した判例

 
(
最判平10・2・13) 

 
この判決は、その理由について
「けだし、被相続人の財産は本来は限定承認者によって相続債権者に対する弁済に充てられるべきものであることを
考慮すると、限定承認者が、相続債権者の存在を前提として自ら限定承認をしながら、贈与者の相続人としての登記
義務者の地位と受贈者としての登記権利者の地位を兼ねる者として自らに対する所有権移転登記手続をすることは信
義則上相当でないものというべきであり、また、もし仮に、限定承認者が相続債権者による差押登記に先立って所有
権移転登記手続をすることにより死因贈与の目的不動産の所有権取得を相続債権者に対抗することができるものとす
れば、限定承認者は、右不動産以外の被相続人の財産の限度においてのみその債務を弁済すれば免責されるばかりか、
右不動産の所有権をも取得するという利益を受け、他方、相続債権者はこれに伴い弁済を受けることのできる額が減
少するという不利益を受けることとなり、限定承認者と相続債権者との間の公平を欠く結果となるからである。そし
て、この理は、右所有権移転登記が仮登記に基づく本登記であるかどうかにかかわらず、当てはまるものというべき
である。」
と述べています。


限定承認  清算前ルール(手順) と 遺産管理
(1)  限定承認があると、まず、それが複数の相続人による場合は、家裁にその者らの中から相続財産管理人
選任
(裁選管理人)して貰わねばなりません(936条1項)。相続人が一人の場合は、その者が遺産の管理にあたり、以下の権
利義務を担います
(926条1項)。裁選管理人は、936条2項により他の相続人に代わって遺産管理と債務弁済にあたる旨
が定められています。


       
(定承)認者 複数いれば (家庭)裁判所 遺産 936?をぐため


        
人中から管理人選任をする一人ならそのそのまま孤 任務926 管理




 そして、先ず、定められた期間
 ( 限定承認申述から5日、相続人複数の場合、管理人選任から10日 ) 内に、全ての相続債権者と受
遺者に対し、限定承認した旨の
公告と2か月以上の一定期間 (申出期間)内に請求の申出をするよう催告をしなければな
りません(民法927条1項
936条3項)

 公告は官報に掲載して行い、公告には、債権申出をしないと弁済から除斥される旨を付記します
(除斥付記申出公告)
 しかし、既に限定承認者の方で知っている債権者・受遺者に対しては、各別に催告
(申出催告)することを要し、これ
らの者は弁済から除斥することができません 
(民法927条2項3項(複数の場合)936条3項)

 複数限定承認者の内の一人が遺産の処分・隠匿・消費・
(目録)不記載を行った場合、清算による未払残について相続
債権者からその者の相続分に応じた支払請求をされます 
(937条)

(2) 次に、
管理の実際についてですが、民法926条1項
限定承認者は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産の管理を継続しなければならない。 
として、相続財産を自分の財産と同じ程度の注意義務(固財注意)をもって管理すべきことを定めています。
 但し、管理人の注意義務については、上記家裁選任の管理人は、善管注意義務を課されます(家事事件手続法146条6項
民法644条、→遺産の管理3.)


 926条2項は、
 ① 民法の委任に関する報告
645)・受取物の引渡( §646)・必要費用の償還請求権650Ⅰ)や負担債務の弁済請求
  権
650Ⅱ)の各規定を準用する旨と、

 ② 918条2・3項を準用して、家裁はいつでも財産の保全に必要な処分を命じることができ
(§918Ⅱ§27)、家裁か
  ら必要として選任された相続財産管理人は、遺産の
保存改良利用の限度で管理権限を有し、それを超える
  場合は家裁の許可を要すること 
(§28§103)、家裁は、管理人に財産管理に関し担保を立てさせ、又、報酬を与え
  得ること 
(§29)を、定めています(裁選管理人については936条3項により926条2項を準用)



 限定承認三月みつき(財産)目録えて

      (家裁で
限定承認する旨
)申述924


   遺産 936ため(家裁で)(相続財産)管理人選任
                 
(相続人一人のときはその者が管理人)
     十日(同一人のときは申述後五日)に、

       
公告をして相債受遺 (相続債権者・受遺者)除斥付記して(申出を)催告

         
 れたる(相続債権者・受遺者)にも 催告(こちらは除斥できない)

              
のべつな 
927手間します    「のべ」は、9のイタリア語「ノーヴェ」から


    さん923(限定承認者)

                   
処分
隠匿 (目録不記載を含む)消費 (921Ⅰ、Ⅲ)者あれば


             (相続債)権者に払えぬ 残額 の (相続)じた取立

                           受けてんな 
937自業を自得






限定承認における財産管理人の任務


    限定承認任務 926(固有財 同一注意で相続開始以来の) 管理  継続

    但し、ここ見ろ936 (複数人による共同限定承認などで)裁選管理人なら善管注意って管理をすべし     



        
(選任されて)十日(一人なら限定承認申述後五日)に、除斥付記して


                 
(相続債権者・受遺者に)公告除斥付記申出公告


     
      知れたる 
()催告(申出催告)もした


         
そのは (清算ルールで )清算この   936  すべし



(3) 次に、清算ルールですが、要するに相続財産によって、その積極財産の限りにおいて、相続債務と遺贈債務
を弁済する手続きです。

 民法928条から935条までが、その清算ルールを定めます。

 つまり、限定承認者は、

  
申出期間中は、弁済を拒絶でき (928条)、又、
  
受遺者に対しては、相続債権者への弁済を終える迄は弁済を拒絶できること (931条)

  期限前債権でも、中間利息控除を行うことなく、支払わねばならず、

  条件付きや存続期間の不確定な債権は
鑑定に付して支払い (930条)

  売却の要ある物は競売に付さなければならないこと 
(932条)

 相続債権者らはその鑑定や競売に自費で参加できること
 (933条)

 限定承認者が公告、催告を怠り 或は 申出期間前に支払ったことにより弁済を受け得なかった債権者には損害賠償
  しなければならない
(不当な弁済を受けた者も求償される)こと
   
(この賠償請求等は724条の準用により、事実を知って3年、行為から20年で時効にかかります)(934条3項)


 相続財産で相続債務を弁済仕切れなければ、按分弁済すること
 (929条)

 申出期間に
申出なかった相続債権者・受遺者は、清算による残余財産についてのみその権利を行使できること
  
(935条)(申出債権者らに支払うに足りる財産が遺されてなく、按分弁済となった場合は、申出に遅れた債権者らに残された財産はありません。
  按分弁済にも与れずに終わることになります)


等の定めに則って清算を行うことになります。

 限定承認者が複数いるためその中から家裁によって選任された相続財産管理人も、この928条から935条迄の規定
に則るよう定められています 
(936条3項 )

 相続債務が債務超過であれば、破産申立てがなされて破産手続きに移行するかも知れませんが、何れにしても、
相続人の固有財産に追求が及ぶことはありません。

 逆に、債務が全て弁済できれば、残余財産は全相続人によって相続分に応じて分割、配分されます。

 また、この清算ルールは、
破産管財人が善管注意義務に則って取り仕切る破産のルールに比べればまことに簡略な
ものですが、民法のこの後の章である財産分離や相続人不存在での清算においても用いられる清算の基本形ですので、
重要な定めです。



    (定承) 清算ルール言えば、

    
公告・催告し)たる(申出)(間)§928

鑑定§930競売§932自費参加§933按分弁済§929受遺劣後§931

      
不当弁済 (した)限認者、弁済受けた債権者 (に対する)

      損賠請求
求償
§934(年)二十(年)時効にかかり

                                
申出 
(れた)(権)  残余のみ§935


条句 清算ルール

   支払いはには928ならぬその公告そして催告

       のべつな
927をこなしつつ難債苦去930鑑定

    
(支払いに)りなきゃ苦肉929按分受遺者931後回

               
旧蔵
932かかるお 競売

       
933ぜば(鑑定、競売に)自費参加

       
期限遅れた 
() (権者)受遺 () 

            
(支払金)ここさいつ935くる残余のみ

    ルール違反
降参
(損害賠償)934不正934求償

        損賠請求
(と)求償

          「
724?」われぬ320にせよ


相続の欠格廃除
 相続人が、相続によって不当な利益を得るべく一定の重大な不正行為に及んだときは、被相続人の意思如何に拘
わらず相続人たる資格を剥奪するのが
相続欠格 (民法891条)の制度であり、
 
遺留分権を有する相続人が被相続人に対して虐待重大な侮辱又は著しい非行を行い、被相続人がその者によ
る相続を望まない場合、被相続人から請求してその相続人の資格を奪うのが
相続人廃除 (892条893条)の制度です。

 遺留分権を持たない
相続人については、被相続人が遺言でその者の取得分はない旨を定めればよいだけなので、
廃除対象にはなりません。

 
欠格事由とされる前記の重大な不正とは、愚見によれば、相続における
 ① 客観的主体同一性を滅殺し 或は それに準ずる行為、そして、
 ② 主観的主体同一性を滅損し 或は それに準ずる行為です。即ち、
 ①の部類として、
  一.被相続人 或は 先順位若しくは同順位の者を死に至らせ、又は至らせようとした為に、刑に処せられた者、
  二.被相続人が殺害されたことを知って、これを告発せず 又は 告訴しなかった者 
(但し、その者に是非弁別ながないとき、
     又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときを除く)
 があり、
 ②の部類としては、

  三.詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし
撤回し取り消し又は変更することを妨げた者
  四.詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
  五.被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者

の、以上、計五個の事由が挙げられています。

これらの欠格事由は、遺言で遺贈を受ける者についても準用され、受遺者にこれらの事由があった場合は
受遺欠格
となります
 (民法965条)
相続で欠格ならば 受遺も欠格。」です。

 欠格については、遺産分割協議、それが不調の場合の調停・審判手続中で、前提として当事者から主張され、その
協議・判断を経て、本体である遺産分けの結論を目指します。

 
廃除事由として挙げられている虐待・重大な侮辱・著しい非行は、その程度に幅があるので、裁判所の判断にかか
りますが、一般に「相続的
共同関係の破壊」或は「相続的共同関係を継続し難い事由」にあたるか否かで判断される

と言われます。愚見では、相続における「主体同一性を阻害する事由」であると言えます。後記の通り、遺言者から
廃除されても、
(希でしょうが)遺言による受遺によって、遺留分に足りない程度の遺産承継は可能なので、逆に言えば、
遺留分確保に必要な主体同一性を阻害する事由であるとも言えます。

 
廃除の方法としては、

 
生前に被相続人自らが家裁に請求して、家裁の審判により廃除する方法
(生前廃除§892)、と

 
被相続人が遺言中で廃除の意思表示をし、これを遺言執行者が遺言発効後に家裁に請求する方法
(遺言廃除§893)

二つがあります。

 廃除の審判があると、その相続人は、生前廃除であれば、審判確定時に、遺言廃除であれば、相続開始の時
(死亡時)
に遡って、相続人の資格を失います
(893条後段。生前廃除が相続開始後に確定した場合も類推適用され相続開始時に資格を失います)

 廃除の効果は絶対的で、たとえ廃除審判の確定する迄に被廃除者から遺産に属する不動産を譲受けたり、差押さえ
た第三者が登記を具備していても、遺言により取得した者は登記なくしてその者に対抗できるとされています。

 なお、欠格については上記の様に遺贈への準用 
(民法965条 )があり、受遺欠格となりますが、廃除については準用が
ないので、不正が重大である欠格事由に比すれば左程ではない廃除については、
(その取消しも被相続人の意思次第で可能です
から) 
被廃除者でも、被相続人の意が向けば、遺贈を受けることができます。「相続廃除は 受遺 できる。」です。

 その場合、被廃除者には遺留分の保障はないことになります。
( 逆に、相続分を超える遺贈もあり得る事になりますが、それ
では、被相続人の通常の意思解釈として、廃除した上でのその様な遺贈は不合理なので、やはり、
遺留分未満の遺贈が限度ではないでしょうか。
それを超える遺贈は、被相続人の意思の矛盾であり、実質廃除の取消しにあたるが、その方式を踏んでいない為 遺贈自体無効となると考えます。)


 上記民法891条5号欠格事由の趣旨については判例 (最判平9・1・28)上、
遺言に関し著しく不当な干渉行為をした相続人に対して相続人となる資格を失わせるという民事上の制裁を課そう
とするところにある

と説かれていますが、この判例は、さらに

 
相続人が相続に関する被相続人の遺言書を破棄又は隠匿した場合において、相続人の右行為が相続に関して
不当な利益を目的とするものでなかったとき
は、右相続人は、民法八九一条五号所定の相続欠格者に当たらない
と判示し、その理由として
「遺言書の破棄又は隠匿行為が相続に関して不当な利益を目的とするものでなかったときは、これを遺言に関する著
しく不当な干渉行為ということはできず、このような行為をした者に相続人となる資格を失わせるという厳しい制裁
を課することは、同条五号の趣旨に沿わないからである」
と述べています
(最判平9・1・28)

 これは、相続人が欠格事由に当たる事実自体について故意を有していることに加え、
相続に関して不当な利益を
目的とする意思
を有していなければ、欠格事由ありとすることはできないとするもので、いわゆる 二重故意説
立つものと言われます。

また、これも二重故意説から欠格としない特異な例として 、次の判例があります。
 遺言書又はこれについてされた訂正が方式を欠き無効である場合に、それに手を加える偽造・変造について、
それが遺言者の意思を実現させる趣旨で方式を具備させ
有効な遺言書又はその訂正としての外形を作出する行為
であるときは
民法八九一条五号所定の相続欠格事由にあたらない 旨判示した判例 (最判昭56・4・3)

 事案は、遺言者名下の印影及び各訂正箇所の訂正印、一葉目と二葉目との間の契印は、何れも同人の死亡当時には
押されておらず、その後に相続人がこれらの押印行為をして自筆遺言証書としての方式を整えたというものです。
 そして、後から相続人がした押印行為を欠格事由にはあたらないとしたこの判例には、次のような反対意見が付い
ています。
「遺言書又はその訂正は、それが法定の方式を具備していない場合には、たとえその内容が遺言者の最終意思に合致
するときであっても、法律上は遺言又はその訂正としての効力を生じえないのであつて、それがなかつたものとして
相続が行なわれなければならないことはいうまでもない。欠けていた方式を相続人が具備させて有効な遺言書又は訂
正の外形を作出することは、そのことが発見されない場合には、相続による財産取得の秩序を乱す結果となり、また、
相続的協同関係を破壊することとなるのは明らかであつて、この点は、右のような偽造変造行為をした者が遺言者の
意思を実現させるために法形式を整える趣旨で右の行為をしたかどうかによつて左右されるべき問題ではない。相続
人が、遺言者の真の最終意思を知つているからといって、ほしいままに、遺言書を全く新たに作出したり、有効に作
成されている遺言書を訂正したときには、遺言書を偽造又は変造した者として相続欠格者となることについては、お
そらく異論があるまい。このことは、法が遺言について厳格な方式を要求していることとも関連しているのであり、
遺言に関する限り、相続欠格との関係においても、適式な遺言を離れて遺言者の最終意思を云々することは許されな
いものというべきである。したがつて、遺言書又はその訂正が方式を欠くため無効である場合に、ほしいままにその
方式を具備させて有効な遺言書又は訂正の外形を作出した相続人は、遺言者の意思を実現させるために右の行為をし
たかどうかにかかわりなく、民法八九一条五号所定の相続欠格者にあたるものと考える」。

 反対意見にはまことに説得力がありますが、愚見による権利主体同一の見地からは、これに対する破壊を意図した
ものでなく、権利主体意思の有効化を図った過誤であるに過ぎないから、法に従い遺言書を無効とすれば足り、それ
以上に、いわば善意の勇み足を、嵩にかかって非を鳴らし、相続上の最大の制裁ともいえる欠格とする迄のことはな
いように思われます。判示に賛成します。条句をご覧下さい。


        
   相続ゆいり、

          先
 (或いは同)() 多財() 891 

 
           
殺害  詐欺  強迫偽造
(変造)破棄(隠匿) 故意にしたなら、

           その
ばち
891、相続 欠格 じゃ


       
故人殺害されたこと りて告発告訴せず

            (その者 是非の弁別)能力者ならこれも欠格

  
但し 不告(発・訴)犯人ホシ連合つれあ

      (直
(系)(族)(偶者)ならば、その不告者欠格ならず


     
げぬ犯行人はんこうびと891()()配偶者なら欠格ならず



      ウッカリ無印遺言()に欲もなく

          
ハンコ一つ
891を付いた人、欠格者とはならぬ也。



    殺害偽造(変造)詐欺(強迫)破棄(隠匿)

          
 ばち
891欠格ある遺贈けても 無効 965
  


生前廃除


    わたくし

       虐待
(重大な)侮辱し、(著しい)非行があって、

        
 892たぬ親泣かせ、夜行 892っても家裁って

               相続人
から
廃除 (請求)する   



遺言廃除

     わたくし

     
   虐待
(重大な)侮辱(著しい)非行もあった

      
    ヤクザ
 893をばこの相続人とはさせぬため、

          
 奴メ
廃除するっとくさ 893 

                        「ゆっと」は仏語の8「ユイット」から 






遺言による廃除の事例判例
 
 
遺言上明確に「廃除する」と記載されておらず、その相続人の取得分を零とする、つまり、相続分を零と指定する
趣旨なのか、その者については遺留分も零とする、つまり、相続人から廃除する趣旨なのか、判断が微妙になる場合
もあります。その一端を覗かせる判例
(最判昭30・5・10) があります。

 事案の遺言には、①「後 相続はBにさせるつもりなり」「一切の財産はBにゆずる」、②養女Dに「後を継す事は
出来ないから離縁をしたい」とあったところ、
 原審は、①の文言をBに対する遺贈の趣旨と解し、②の文言を相続人廃除の趣旨と解したのですが、上告人は、
原判決は遺言者の真意を無視して遺言の趣旨を専断的に解釈した違法があり、また、同遺言は真意が不明確であるこ
とに帰するから無効とし なければならないのに、原審がこれを有効と認定したのは違法であると主張しました。
 これに対し、最高裁は、
「意思表示の内容は当事者の真意を合理的に探究し、できるかぎり適法 有効なものとして解釈すべきを本旨とし、
遺言についてもこれと異なる解釈をとるべき理由は認められない。この趣旨にかんがみるときは、原審が本件遺言書
中の「後 相続はBにさせるつもりなり」「一切の財産はBにゆずる」の文言をBに対する遺贈の趣旨と解し、養女D
に「後を継す事は出来ないから離縁をしたい」の文言を相続人廃除の趣旨と解したのは相当であつて、誤りがあると
は認められず、また遺言 の真意が不明確であるともいえないから、所論は理由がない。」
として退けました。
 


欠格・廃除による代襲 
 法が「初めから相続人とならなかったものとみなす(民法939条)相続放棄者には、‘代わり’の相続人はあり得ないの
で、相続放棄は、代襲原因とはなりません。

 従って、前述した様に、放棄者の子も その相続とは関わりなく終わります。

 相続人が欠格となったり、被相続人から相続人廃除とされた場合は、どうなるでしょうか?
民法887条は、その場合でも、欠格者の子 或は 被廃除者の子が代襲相続人となる旨を定めています。
すなわち、相続人が亡くなった場合と全く同様に扱うということです。

 ですから、法は、放棄者の様に相続開始後 すぐ 自らの意思により「相続人」であることを拒む者は、その子 共々
相続枠の外に放逐します
 ( そのような観があります) 

 欠格・廃除の場合は、欠格事由にしろ、廃除の理由にしろ、固有の事情によるもので、その者には「相続」からの
離脱意図がある訳もないので、その固有事情とは無関係な相続人の子は、親等が一つ離れても、相続枠内に留まって
良いとするのでしょうか。

 ただ、放棄の場合でも、例外的に、被相続人の息のかかった財産は触れたくもない等の個人的感情からの放棄であ
る場合はどうでしょうか。法の定めである以上、その様な場合でも例外扱いは許されませんから、その子の代襲はあ
り得ません。

 熟慮期間の経過だけで法定単純承認とされる
(§921②)ことには、相続を自然の摂理の様に当然視する権義主体同一化
の引力の様なものを感じますが、固有事情が相続資格にかかわってくる欠格・廃除においても、固有事情が働くこと
もあるであろう相続放棄の場合との違いを見ると、そこには「主体同一」の枠の内と外とを峻別する引力と排斥
(当然に
継ぐべきところを拒む者に対する)
とが使分けて働いているやに感じられます (しかし、理屈的には、相続放棄者は「初めから相続人となら
なかった」のだから、というのが、やはり、真正面からの理由となります)



     パパ難事887Ⅱ 廃除げなくも、

      孫
たる代襲で、たるパパ分 継げる也。
 



     について、‘でなく半端887欠格’‘廃除
 
             
(子自身の)ゆえ が子代襲

廃除の取消し
 
相続人の廃除は、被相続人からその取消しを請求することができますし、又、廃除の請求と同じく遺言で廃除取消
しの意思表示をし、死後に遺言執行者から取消請求することもできます
 (民法894条)

 
  廃除白紙894(取消し)のは、いつでもできる、

         
廃除者(家裁に取消請求

   
 あるは又 取消し、その執行者

             (が、遺言者の)
死後家裁むべし




財産分離
 遺産が債務オーバーであることを危惧した相続人からの、いわば遺産清算要求が限定承認でしたが、懐 (固有財産) 
が傷だらけ
 (債務超過) の人が相続人となった場合は、相続債権者 (故人の債権者) は、自分の債権を回収できるかどうか
不安を覚えることになります (「遺産、債務す人941 相続するは迷惑」)。

 その様な場合、今度は相続債権者から、相続開始時後3か月以内 
(相続財産が相続人の固有財産と混合しない間はその期間満了
後でも)
 であれば、遺産を 相続人の固有財産と融合する前に清算してほしいという請求ができます。第一種財産分離
 (民法941条) と言います。いわば プラス遺産のための、債務越す人に対する防護策です。

 逆に、遺産が債務超過なのにそれを単純承認されたら、相続人の債権者が迷惑です。相続人の債権者から同じ期間
内に 相続人の固有財産を守る為にする分離請求 
(いわば、相続人の債権者からする限定承認請求ですが、只、こちらは責任の「限定」
は伴わない、弁済の優劣を仕切る為の分離です) 
が固護令 (造語) の、第二種財産分離です (民法950条) 。いわば マイナス遺産に
対する
(遺族)固財防護のための対抗策(固護令)です。
( 「 (債務オーバーの?)遺産に対する()護令 950  財産分離 (第二種)()請求できる 」 ) 

 要するに、
債権者が(請求)する遺産清算ですが、その内、
      相続債権者   がするのが第一種

      相続人の債権者 がするのが第二種 
の財産分離です。

 何れもその狙いは、相続財産と相続人の固有財産とが相続によって融合する事による負の資産の流入を防いで、
それぞれに本来債権の引当てとしていた資産の価値を損なうことなく債権回収をしたいというものですから、
この場面での清算が済めば元の相続関係に戻って融合します。

 相続人は、財産分離の請求があったときは、単純承認した後でも、相続財産と固有財産を
分離し、
そして
、固有財産におけるのと同一の注意義務をもって
管理しなければなりません (民法944条1項) 

 他方、裁判所は、相続財産の管理について必要な処分を命ずることができ 
(民法943条1項) 、必要とあれば 管理人を
選任することができます
(→裁選管理人)

 裁判所により管理人が選任された場合、その管理人は、善良な管理者の注意を以て 遺産管理にあたり、家裁の処分
命令
 (§943Ⅰ)があれば、これに従い、保存・改良・利用の限度内で管理して、それを超える行為は家裁の許可 (§28
§103)
を要する、又、家裁からの財産管理と返還に関する立担保と報酬 (§29) の各規定に則った指示や支給が伴う旨、
民法943条1項に定められています
(善管注意義務は、家事事件手続法146条6項によります)

 また、
同944条2項は、民法の委任に関する報告 645)・受取物の引渡し 646)・必要な費用の償還請求権や必要な
債務負担についての弁済請求権
 650ⅠⅡ)の各規定が準用されること、そして、相続放棄や限定承認と異なり、相続人
による遺産からの金銭消費があった場合は利付きで償還し、損害があれば賠償する義務が課されること(§647準用)も定
めています
(→遺産の管理4.)



  
相続人単純承認したに、(産)()請求 あったなら、

       
遺産(固財から)分離し、委任(規定、但し§644を除く)駆使944 

                         
(報告645引渡ひきわた646
償還等647)

     
(但し
払う注意は「善管」644不要 (善管注意の義務でなく))

       
よし944任務926 (固有財 同一注意) 管理 めよ。 

                        (
管理を超える処分はできぬ)


     但し
家裁じた管理人あれば、その(は)善管注意(で管理する) 

                 §926は限定承認者による管理に関する規定




   
遺産債務す人941 相続するは迷惑

        
()(権者)受遺()(相続開始から)三月みつき

                   
或いは()遺産じらぬ

      
(
固有財からの)財産分離 請求 後裁判所 これをぜば

             
請求者、五日内に他(二か月以上の期限を切って)

              
配当加入すべき (官報で)公告せねばならぬ



 
  相続で、 ()()あれば

      
()(権者)受遺()配当加入すべき 

         (
官報で)
公告せねばならぬ上、知れたるにも 

             
催告のべつな927 します





    相続人債権者 (固有債権者)

       故人没後
三月みつき

              
或いは()遺産 じらぬ

       
(債務オーバーの?)遺産する()護令 950 

                      
財産分離
 (第二種)()請求できる



        固護令 950 ()()あれば

      
()(権者)受遺()配当加入すべき 

         (
官報で)
公告せねばならぬ上、知れたるにも 

             
催告のべつな927 します





財産分離における清算
 
限定承認の所で述べました様に、清算のスキームは限定承認の清算ルールとほぼ同じ事になります。即ち、まず、
財産分離請求者は、家裁から分離が命じられたときは、その後5日以内に
   財産分離命令が出た旨、
   2か月以上の期限を設けて、配当加入の申出をすべき旨の公告
(申出公告)をしなければならず (民法941条2項)

特に、相続人の債権者からの請求にかかる第二種財産分離では、除斥付記申出公告と、
          知れたる債権者・受遺者に対する
申出催告もしなければなりません (950条による927条の準用) 

 相続債権者の請求に係る第一種財産分離では、除斥がないので申出に遅れた債権者も、清算から除かれる事はあり
ませんし、抑も、財産分離に
(遺産からの優先弁済メリットを価値なしとして)参加したくない債権者は、敢えて申出をせず、通常
の相続通り相続人の財産に、相続人の債権者と同列で、回収を追及してもよい訳です 。


 
財産分離請求があったときは、相続人は、熟慮期間中及び申出期間中の弁済を拒むことができ (民法947条1項)
その期間経過後の相続財産からの弁済に際しては、

 財産分離を請求した債権者並びに配当加入の申出をした相続債権者・受遺者
(以下「申出債権者ら」と言います)
 相続人の債権者に先立って
相続財産からの弁済を受けます (民法942条)

 そして、これは限定承認と異なる点ですが、
 財産分離請求者及び申出債権者らは、相続財産から弁済を受けられなかったとき、又、そのときに限り、
 相続人の固有財産に対して請求をすることができます。
  相続人の固有財産に対しては、財産分離請求者及び申出債権者らは、相続人の債権者に劣後するので、
 相続人の債権者が先に弁済を受けた後の残余財産についてのみ請求できます
 (民法948条)

 
弁済は、(優先権を有する者を除き)債権額に応じた按分弁済となります (民法947条2項)が、
   受遺者に対しては、相続債権者への弁済を終える迄は弁済を拒絶できる
こと (931条)
   期限前の債権でも、中間利息の控除を行うことなく、支払わねばならず(930条1項)
   条件付きや存続期間の不確定な債権は
鑑定に付して支払い (930条2項)
   売却の要ある物は
競売に付さなければならないこと (932条)
   相続債権者らはその鑑定や競売に自費で参加できること
 (933条)
   財産分離請求者が公告、催告を怠り、或は、相続人若しくは管理人が申出期間前に支払ったことにより弁済を
    受け得ない債権者がいるときは、これに損害賠償しなければならないこと
 (934条)
 等限定承認の各規定が準用になります
 (民法947条3項)

 
なお、財産分離は、不動産については、登記をしなければ、第三者に対抗することができない (民法945条) ので、
相続人が相続財産に属する不動産を第三者に譲渡した場合 或は 相続人の債権者が当該不動産を差押さえた場合等は、
登記の先後で対抗できるか否かが決まります。

 また、
物上代位に関する民法304条が準用される (民法946条)ので、例えば、譲渡された不動産について登記が遅れ
て第三者に対抗できない場合でも、譲渡した相続人がその代価を得るというときは、これを行使して、その払渡前に
差押えをして代価相当金額を確保することができます。

 また、第一種と第二種との違いとして、民法925条混同禁止規定の準用の有
 (第二種の民法950条2項) 無があります。
相続債権者からの請求に係る場合
(第一種) は、相続人財産の 負流入を阻止する狙いからの財産分離とはいえ、故人と
なった被相続人と相続人との関係には踏み込まず、相続でその侭 混同により消滅して構わないというスタンスです。
被相続人が相続人に負っていた債務は混同により清算させた上で、相続債権者への弁済に向かわせるので、まずは、
生きている相続人の利害を重視し、又、なるべく権利主体同一性を重んじるということかも知れません。

 相続人の債権者からの請求に係る場合
 (第二種) は、限定承認での清算と同様に、925条の準用で原則通り混同させ
ずに清算します。そう言えば、手続当初の公告・催告関係も、前述の通り第二種の方がルールの原則通りでしたね。
相続人の債権者からすれば、担保力を期待していた相続人財産が青天の霹靂の様に故人の債務の為に損じられるのは
たまりませんから、やはり、生存している相続人の関係者の利害を優先し、保持するということだと思われます。

 もう一つ大事な点として、財産分離には、第一種も第二種も
民法935条の準用がありません
限定承認での935条は、まさに同手続きのコアであって、債権者の追及は相続財産の残余財産までで、相続人の財産
には及びません。しかし、財産分離は、相続財産と相続人財産の間に民法942条948条によって取敢えず優先弁済
の仕切り
を入れますが、追及の限界壁を立てる訳ではないので、未払残が出れば相続人財産に追及が及んで来ます。

 ですから、除斥 と言っても、遺産清算から除かれるというだけで、債権が消滅する訳ではなく、清算後は相続人
の固有財産に追及が及ぶことになります。相続人は、一旦、相続を承認したならば、相続債務について、限定承認の
場合とは異なり、「無限に」その責任を負わねばなりません
(民法920条)

 ということで、確認しておきますと、限定承認は、相続人の側から相続債務を相続財産の限りで弁済する旨を申述
して相続財産の清算をしますが、財産分離の内第二種
 (「固護令」950条) のそれは、除斥付記申出公告と知れたる債権者
への申出催告という債権申出を求める方法も、925条で混同を禁止して清算する点も、限定承認と同じ厳格さでの清
算となります。

 ところが、第一種財産分離の方は、債権者に対する申出公告だけであり、混同も許すので、より清算スキームとし
て緩い形と言えます。要するに相続人や相続人債権者側の利益のため相続人の固有財産を守る防塁の方が、高いスキ
ームとなっていると言えます。第一種においては、権利主体が亡くなって一旦静止した集合財産について、更にその
相続人との混同等も経た上で、除斥によって門戸を狭めることなしに、遺産清算に至るのが相当であり、他方、日々
変動が継続する相続人の集合財産に利害を有する相続人の債権者には、眼前の財産状況を重視し、混同による不利益
を被らせない為 これを禁じ、申出をしない債権者等も除いて迅速に清算するコンセプトであろうと思われます。




    遺産債務941相続するは迷惑

               
()(権者)受遺者財産分離

                     
こすい
941うな 遺産 清算




    ()()故人馴染みの ()(権者)受遺者()

          
(配当加入)れば(故人の)供養942なるで
        (財分請求者と共に)

       遺産
からこし
942 (優先(造語)) 弁済 けしむる



   財産分離

      「
遺産をば()()けて清算 のスキーム 

            
こうしな 
947 (定承)ルール(§930~§934)準用

              
(配当)加入期間

          相
()(権者)受遺()(額に応じて)  弁済



   
()()請求配当加入(申出)なしたらは

            
遺産によって弁済場合 

               
相続人
固有財()権利 行使948 できぬ 

      相
()(権者)受遺()

                
 対固財
(相続人)固有()権者 劣次 する。




    ()()(有財産) 産 分離

                
(相続人)固有()(権者)固財にかかり

                
()(権者)受遺()遺産かかる

       
   おいに
               
こし
942(優先(造語))弁済をばけて

               
君子948 猟場 

          
§942は遺産からの、本条は固()()からの各弁済に関する規定



    相続財産分離をされた不動産なら

       登記
によってその 公示効くしこう 945えねば

                第三者
には対抗できぬ

     不動産登記されぬ(相続人により)処分されたら

         相
権者
受遺者越次942 (優先)救資  945




     固護令 950 ()()あれば

                  
(故人に対する)権利義務混同 925(消滅)させず

          
  物上代位
(代金・損賠等で)かねなどにわったのなら

                  
(相続人に)()ぜん差押さお304


     

       財産分離  債権者、

            
窮余
941 (一種)固護令 950 (二種)も、

           物上代位
(相続人に)()ぜん差押さお304


     

    財産分離(をした)遺産をば(相続人によって)られされ、、され

     (分離請求・加入申出の債権者・受遺者) 権者 すも946、そのときは、

           わり代金・賃料物上代位

    (相続人)  ()ぜん ()304 窮余(の策)946あるさ
                    
 §304は物上代位に関する規定





財産分離の防滅 相続債権者若しくは受遺者が第一種財産分離を実行した場合でも、例えば、相続人が、遺産を人
に手を触れられずに保存したいと考えたときには、相続人から、自分の固有財産をもって相続債権者らに弁済をし、
又はこれに相当の担保を供す
ことによって、家裁での財産分離手続きの中で、その財産分離の請求を防止し、又は、
審判の取消申立てによって、その効力を消滅させることができます。

 但し、相続人の債権者が、これによって損害を受けるべきことを証明して、異議を述べたときは、財産分離を阻
むことはできません
(民法949条)

 この相続人による財産分離の阻止は、相続人の債権者からの請求による第二種財産分離においては対応する規定が
ありません。相続人自身の債務についてその債権者
(固有債権者)から、財産分離を求められた場合、自身の債権者らに弁
済をすれば、分離請求却下の審判 或は 申立ての取下げ等通常の手続終了で終わるだけだからです。



(財()() 或はその請求があり)相続人()() ()(権者)受遺者

            野辺よく949弁済立担保 すれば()()(請求) ()(効力消)できる

                          「のべ」は9の伊語「ノーベ」、西語「ヌエベ」から

                    「野辺」は、人を葬る地で、ここは、故人の死亡に臨んで、という意味。

    
 (それに対し)
相続人債権者損害証明(し)、異議えば
             
効良949()()


    

 
相続人の不存在
 
民法951条は、
相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする。
と定めます。

 
亡くなった人相続人のあることが明らかでない場合は、その相続財産は法人とし (民法951条) て、その管理・
清算事務 と並んで相続人の捜索が開始されます。故人の相続人全員が相続放棄をして、結果として相続する者がいな
くなった場合も 同様です。


 管理・清算 と 捜索 という、方向性の異なる両事務を並行して進める上で、その主体を明らかにする必要がある事
から、その相続財産について 法人が措定され、この法人が今後の事務の主体となります。

 そして、まず、利害関係人又は検察官から家裁に対し相続財産管理人選任の申立てがなされると、
 家裁は、管理人を選任して、遅滞なく 相続財産管理人が選任された旨を公告します (
選任公告) (民法952条)

 この相続財産管理人は、民法27条から29条までの
不在者財産管理人規定の準用を受けます (民法953条)。不在者財
産管理人の権限等については
こちらをご覧下さい。

 従って、選任された管理人は、財産目録を調整して、家裁の命じる必要処分に従い
(§27)、また命じられれば管理や
返還の為の担保を提供しなければなりませんが、報酬も支給され得る
§29ことになっています。相続財産管理人は、
相続債権者又は受遺者から相続財産の状況報告を請求された場合、報告をする義務があります
(§954)

 その管理人の権限は、民法103条に定められた
保存、改良、利用の範囲に限られ、これを超える行為は、家裁の
許可を得る必要があります
(§28)

 なお、「相続人のあることが明らかでない」 ことは、相続人が行方不明である事とは違いますので、
行方不明の
場合
にはその探索を別途行わなければなりませんし、行方不明者の財産については、本来の「不在者」財産の管理人
 (民法25条) を選任して、管理を委ねることになります。

 もし、その不在者が相続人となる相続が開始した場合は、その不在者財産管理人が他の相続人との遺産分割協議に
参加しますが、最終的な合意が成立する際は家裁の許可を得なければなりません。

 不在が長期に亘る場合は失踪宣告
 (民法30条) の手続きを執らなければならなくなり、失踪期間の満了によって死亡と
みなされます
(民法31条)。そして、その者の相続が開始されて、本人に相続人がいなければ、ここでの相続人不存在の
手続きとなります。


 
また、相続人が全て相続放棄をした場合も、 相続人はいないことになりますから、(民法990条により相続人として扱わ
れる)
 包括受遺者がいるときは別として、「相続人のあることが明らかでない」場合に該当することとなります。
 この包括受遺者のいる場合に関する下記判例をご覧下さい。なお、裁判所での手続き関係はこちらをご覧下さい



    故人孤高一 951(相続人)るかからない

        包括受遺者
990なりとても今後一 951そうもない

      されば
故人財産 (相続財産) 法人とする

            その者ら
捜索をしててきたら法人なかったこととなる
 


   (家庭)裁判所(存否)不明遺産をば

        法人
としたこの
952(関係人又は検察官の求めによって)

     遺産きゅう
(造語) 952管理人選任をして

             遅滞
なく公告
選任公告せねばならぬ



    相続人不在の財産不在者のそれと交差 953

          
その管理、不在者28管理めに

 
     
 不在者 28(財産)管理(の任)けたなら

               
目録
(命じられた)必要処分  27って

              お
 28うち保存改良利用まで§103

       管理超
えれば許可(管理を超える処分は 原則禁止 )

             負託
 29えて報酬 可、或いは担保



      管理人 28管理権限

       暇み103 手入にとどまらず

       利用改良しなさいナ
 
       まず602に  (短期間)してお金602なるわいナ


 遺言者に相続人は存在しないが、相続財産全部の包括受遺者が存在する場合は、民法951条にいう「相続人の
あることが明らかでないとき」には当たらないとする判例
 (最判平9・9・12)
 この判例は、その理由について
「けだし、同条から九五九条までの同法第五編第六章の規定は、相続財産の帰属すべき者が明らかでない場合におけ
るその管理、清算等の方法を定めたものであるところ、包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有し
同法九九〇条)
遺言者の死亡の時から原則として同人の財産に属した一切の権利義務を承継するのであって、相続財産全部の包括受
遺者が存在する場合には前記 各規定による諸手続を行わせる必要はないからである。」と判示しています。


(相続財産の)管理・清算と(相続人)捜索の同時進行
 上記の様に管理・清算と捜索が両睨みで進行しますから、途中で
 相続人が判明したときは相続財産法人は
成立しなかったものとみなされ 
(民法955条本文)、判明した相続人によって相続が承認されると、管理人の代理権も消滅
します 
(民法956条1項)

 しかし、法人がなかった事となっても、管理人がその権限内で行った行為の効力は定め
 (民法955条但書)によって維持
されます。

 相続人に対しては、管理人から遅滞なく管理の計算をして収支を明らかにしなければなりません 
(民法956条2項)

 他方、管理人の選任公告後2か月経っても
 相続人が現れないときは、管理人は遅滞なく、2か月以上の期限
 
(申出期間) を切り、相続債権者・受遺者に対する申出催告を、除斥の付記と共に公告 (除斥付記申出公告 ) をします。
又、知れたる債権者・受遺者には別途催告(
申出催告 )を要します (民法957条)

 そして、申出債権者・受遺者に対しては、限定承認での清算ルールである民法928条935条の準用により清算が
進められます。
清算ルールについては、こちらをご覧下さい。

 そして、先の申出期間を経過しても相続人が現れないときは、家裁は請求により、最後の手段として、6か月以上
の期限を切って、「相続人があるならば、期限内にその権利を主張しなければならない」旨の
捜索公告 を行います
 
(民法958条)

 それでも、相続人の出現がなかったときは、相続人はこれによって権利を失うことになり、また、相続財産管理人
に知れなかった相続債権者、受遺者もこの時点で、権利行使をすることができないこととなります 
(民法958条の2)

 この相続人・相続債権者・受遺者の失権については、その内 相続人の失権に関して
民法九五八条の規定による公告期間を経過した相続人は、特別縁故者に対する相続財産分与後の残余財産について
も相続権を有しない。

旨 判示した判例
(最判昭56・10・30)があります。この判決は、その理由として、
民法九五八条の規定による公告期間内に相続人であることの申出をしなかつた者 は、同法九五八条の二の規定によ
り、右期間の徒過とともに、相続財産法人及びそ の後に財産が帰属する国庫に対する関係で失権するのであつて、特
別縁故者に対す る分与後の残余財産が存する場合においても、右残余財産について相続権を主張す ることは許され
ないものと解するのが相当である。

と述べています。


    るかからず () 法人 (となり)

           その
苦業くごうご 
955好都合 955

      
相続人
でたなら 法人   成立せざりし()

                 みなされて
向後 
955相続わる


    
管理人 権限内でした行為

        法人成
らずも  空後くうご
() 955 

   相続人
でて

          不在時
財産管理
代理権

       相続承認
なされれば
向後 956となり消滅 



    管理人
この後務 956として遅滞なく

              
相続人 
(対し)財産 管理計算 せねばない




      相続人不存 財産 管理人

        選任公告
月後人分明ならざれば

          相
()(権者)受遺()に、遅滞なく

             
(債権は)今後957 除斥付記し、

                二
月以上期限って、

         
でよと 公告
 (申出公告)

              知
れたるには 催告し、

      残
された
弁済 (定承)ルール 

        清算
§957 は (§927ⅡⅢⅣ、§928935932但書を除く)準用)

                      
この 957巧智957



      

   選任公告申出 公告(の第)(第)二矢

            放
った不明 であれば

           (家庭)裁判所(管理人又は検察官の)めによって

        
金剛矢
958 六月以上期限って

                            
人出でよ の 捜索公告



       金剛矢958 捜索公告たれおるの(捜索)期間中()

                  
相続人でぬとき相続人 権利失

                   
(財産管理人に)れざりし ()(権者)受遺()

              
その権利 行使んにも今後ノー9582権利行使不可 



特別縁故者への分与
 最後の手段である捜索公告をしても、6か月以上で期限を切られたその捜索期間中に相続人が現れないと、相続人
の不存在が確定します。

 そして、新たに申出る債権者もいない 或は いても管理人、裁判所に知れない侭であると、その債権者らも、又、
加えて相続人も権利行使ができなくなります
(民法958条の2 )

 そして、
相続財産は国庫に帰属します (民法959条) が、その前に、被相続人と生計を同じくしていたり、 或いは
被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者から、捜索公告の捜索期間満了後3か月
以内に請求があり、家庭裁判所が相当と認めるときは、家庭裁判所はその者に清算後の残余財産からその全部又は一
部を与えることができます 
(民法958条の3)

 下記の判例によっても、
被相続人の療養看護に努めた内縁の妻事実上の養子など被相続人と特別の縁故があった者が、たまたま遺言等
がされていなかったため相続財産から何らの分与をも受けえない場合にそなえて、家庭裁判所の審判による特別縁故
者への財産分与の制度が設けられている

として、この制度の趣旨が説明されています。

 そして、その際、被相続人が保有していた
共有物の持分 については、裁判所が特別縁故者に対して分与するのが
相当と判断すれば分与され、分与がないまま残れば、その共有物の他の持分者に帰属することになります 
(民法255条)

この点を判示した判例をご紹介します。
 共有者の一人が死亡し、相続人の不存在が確定し、相続債権者や受遺者に対する清算手続が終了したときは、
その共有持分は、他の相続財産とともに、法九五八条の三の規定に基づく特別縁故者に対する財産分与の対象となり
、右財産分与がされず、当該共有持分が承継すべき者のないまま相続財産として残存することが確定したときにはじ
めて、法二五五条により他の共有者に帰属することになると解すべきである旨判示した判例
 (最判平成元・11・24) 

この判例はその理由について
「昭和三七年法律第四〇号による改正前の法は、
(中略) 、九五九条一項において「前条の期間内に相続人である権利を
主張する者がないときは、相続財産は、国庫に帰属する。」と規定していた。右一連の手続関係からみれば、右九五
九条一項の規定は、相続人が存在しないこと、並びに、相続債権者及び受遺者との関係において一切の清算手続を終
了した上、なお相続財産がこれを承継すべき者のないまま残存することが確定した場合に、右財産が国庫に帰属する
ことを定めたものと解すべきである。

 他方、
法二五五条、「共有者ノ一人カ……相続人ナクシテ死亡シタルトキハ其持分ハ他ノ共有者ニ帰属ス」と
規定しているが、この規定は、相続財産が共有持分の場合にも相続人不存在の場合の前記取扱いを貫くと、
国と他の
共有者との間に共有関係
が生じ、国としても財産管理上の手数がかかるなど不便であり、また、そうすべき実益も
ないので、むしろ、そのような場合にはその持分を他の共有者に帰属させた方がよいという考慮から、相続財産の

庫帰属に対する例外
として設けられたものであり、法二五五条は法九五九条一項の特別規定であったと解すべきである。

 したがって、法二五五条により共有持分である相続財産が他の共有者に帰属する時期は、相続財産が国庫に帰属す
る時期と時点を同じくするものであり、前記清算後なお当該相続財産が承継すべき者のないまま残存することが確定
したときということになり、法二五五条にいう「相続人ナクシテ死亡シタルトキ」とは、相続人が存在しないこと、
並びに、当該共有持分が前記清算後なお承継すべき者のないまま相続財産として残存することが確定したときと解す
るのが相当である。

 ところで、昭和三七年法律第四〇号による法の一部改正により、特別縁故者に対する財産分与に関する法九五八条
の三の規定が、相続財産の国庫帰属に至る一連の手続の中に新たに設けられたのであるが、同規定は、本来国庫に帰
属すべき相続財産の全部又は一部を被相続人と特別の縁故があった者に分与する途を開き、右特別縁故者を保護する
とともに、特別縁故者の存否にかかわらず相続財産を国庫に帰属させることの不条理を避けようとするものであり、
そこには、被相続人の合理的意思を推測探究し、いわば遺贈ないし死因贈与制度を補充する趣旨も含まれているもの
と解される。

 そして、右九五八条の三の規定の新設に伴い、従前の法九五九条一項の規定が法九五九条として「前条の規定によ
つて処分されなかつた相続財産は、国庫に帰属する。」と改められ、その結果、相続人なくして死亡した者の相続財
産の
国庫帰属の時期が特別縁故者に対する財産分与手続の終了後とされ、従前の法九五九条一項の特別規定であ
る法二五五条による共有持分の他の
共有者への帰属時期も右財産分与手続の終了とされることとなったのである。

 この場合、右共有持分は法二五五条により当然に他の共有者に帰属し、法九五八条の三に基づく特別縁故者への財
産分与の対象にはなりえないと解するとすれば、共有持分以外の相続財産は右財産分与の対象となるのに、共有持分
である相続財産は右財産分与の対象にならないことになり、同じ相続財産でありながら何故に区別して取り扱うのか
合理的な理由がないのみならず、共有持分である相続財産であっても、相続債権者や受遺者に対する弁済のため必要
があるときは、相続財産管理人は、これを換価することができるところ、これを換価して弁済したのちに残った現金
については特別縁故者への財産分与の対象となるのに、換価しなかった共有持分である相続財産は右財産分与の対象
にならないということになり、不合理である。

 さらに、被相続人の療養看護に努めた内縁の妻や事実上の養子など被相続人と特別の縁故があった者が、たまたま
遺言等がされていなかったため相続財産から何らの分与をも受けえない場合にそなえて、家庭裁判所の審判による特
別縁故者への財産分与の制度が設けられているにもかかわらず、相続財産が共有持分であるというだけでその分与を
受けることができないというのも、いかにも不合理である。

 これに対し、右のような場合には、共有持分も特別縁故者への財産分与の対象となり、右分与がされなかった場合
にはじめて他の共有者に帰属すると解する場合には、特別縁故者を保護することが可能となり、被相続人の意思にも
合致すると思われる場合があるとともに、家庭裁判所における相当性の判断を通して特別縁故者と他の共有者のいず
れに共有持分を与えるのが妥当であるかを考慮することが可能となり、具体的妥当性を図ることができるのである。」
と述べています。長くなりましたが、共有持分の他持分権者への帰属
 (民法255条)、相続財産の特別縁故者への分与 
(民法958条の3)
 に関する法の趣旨や国庫帰属 (民法959条) との関係がとても良く分かりますね。


   共有者一人くなってなしと持分放棄

       あれば
訃逸ふいつ 
255 (共有)その持分取得する。

   
但し、共有持分 継なくも、特別縁故分与となれば、

                      
共有者 
(への)帰属 ()なし。  

           
§255は共有持分権者死亡・放棄による持分の帰属の規定


 
    の ない遺産なら(相続債権者・受遺者に)弁済 

           
特別縁故者分与をし(分与後残余持分)持分他属 (§255)

              
清算こうして957えれば残遺産(の帰属先)

                     
 今後  959 国庫 

 

     生計じくしていたり療養看護めたり

               
故人特別縁故があった好々爺 
958(の3)なら

                 
奇特救護エイドの 9583 

          
捜索期間満了後 三月 めれば

                    
(清算後)一部  遺産 (を分け)


遺産の管理
 
人の死亡によって、それと同時にその人の保有していた財産に関する 一切の権利義務  (但し、一身専属性のものを除き
ます)
 の 相続 が開始します。
 そして、それら一切の権利義務
(これを私なりに「遺産」と呼びます) は、相続人の「共有」 となります (民法898条)
ですから、遺産は、
遺産分割 (907条)によって共有が解消する迄共有財産としての管理をしなければなりません。

 但し、例えば、被相続人と同居していた配偶者は、その間 共有者の多数決
(252条)によって、居住を左右されたり
するのでしょうか? これについては、被相続人との間に、遺産分割により最終的な所有関係が決まる迄の間、居住を
許容する合意があったものとし、なので、他の相続人との間でも使用貸借の関係にあり、原則として遺産分割 迄は居
住が許されるとする判例があります
(最判平8・12・17)

 この配偶者の居住権については、この判例のお陰で、平成30年の相続法改正により「配偶者短期居住権」として
明文化され、法によって保護されることとなりました。更に加えて、同改正により、遺産分割の際 或は 遺贈によっ
ても、配偶者の終身無償の居住が可能となる「配偶者居住権」の制度も新設されました
(こちらもご覧下さい)

 この様に、相続人らは被相続人亡き後の配偶者の居住に配慮し、又、自らの生計も維持しつつ、合わせて、遺産の
管理をし、遺産中の各財産の取得者を決める最終の遺産分割へと進んで行きます。

 但し、それ迄の間は、当面、葬儀費用その他で当然の出費には対処しなければなりませんから、上記改正に合わせ
て、被相続人の預貯金債権については、相続人が単独で金融機関から一定金額までの仮払いを受けられる旨の規定が
加えられました
(新909条の2)こちらをご覧下さい。

 そして相続を承認して以後、遺産分割 迄の間の遺産管理については、規定がありませんので、民法249条以下
の一般的な共有物として管理が行われることになります
(その意味では、形的に「普通の共有」ですが、以下に述べる様に、
融合同一性を伴う包括承継である事を踏まえているので、内実が異なるのです)


 なので、相続人の手許にある遺産の
保存行為は 各自単独で行えますが、それ以外の遺産の管理、つまり、保存・
利用・改良行為の内、保存を超える
利用改良については、相続人の(相続分による)多数決により行われます(252条)

 
遺産を、「管理」を超えて「処分」する事は、遺産分割を終えてその物がその相続人の取得と確定する迄は 本来
許されません。分割 迄の管理費用は各相続人がその相続分に応じて支払い、一年以内に支払義務を履行しない相続人
がいるときは、他の相続人は 相当の償金を払ってその者の相続分を取得することができます
(253条)

相続人による遺産の勝手な処分
 又、もし共同相続人の内の一人が
「保存・利用・改良」を超えて勝手に遺産を処分してしまったときは、
平成30年
改正にかかる新906条の2
により、共同相続人全員 ( 処分をした当該相続人を除きます )の同意を以て 当該処分された財産が
遺産分割前に遺産として存在するものとみなすことができることとなりました。これにより、処分された財産は、遺
産分割協議によりその処分をした相続人の取得として調整する途が開かれました。当該相続人は、その遺産分割に同
意せざるを得ないでしょうが、仮に、協議が不成立となっても、家裁によってその旨審判される結果となる筈です。


 また、共有にかかる相続財産の管理の実際としては、例えば、賃貸にかかる不動産の賃料の徴収、或は、貸付にか
かる債権の取立て、更には、債権の時効が迫っていれば必要な時効の中断
(時効完成を阻止することを、私なりに「中断」と言
います)
等があります。

 相続にかかる賃貸不動産の賃料債権に関しては、判例 (最判平17・9・8)があり、
故人没後の賃料債権は、相続開始と同時に各相続人に相続分に応じて分割され、分属となるから、遺産ではない、そ
の後の遺産分割とも無関係

だと言います。また、債権の回収の関係についても判例 (最判昭29・4・8)は、
可分債権は同様に相続開始時に各相続人の相続分に応じて分属してしまうから、遺産分割対象とはならない
としてきましたが、預貯金債権だけについては、判例変更をし、遺産分割対象となるとしました (最判平28・12・19)

 しかし、判例の口調では、その他の可分債権一般について、どうやら、従来 通りの対処を貫く考えの様ですので、
各相続人が自らの相続分に応じて、取立てや時効の迫ったものについての中断をするべき という事になります。

 社会がコロナ禍に喘ぐ今、賃料支払いに苦しむテナントがその減額を申入れるにも、賃借建物が大家側の相続財産
であるときは、各相続人にその相続分に応じた申入れをして歩かなければならないのでしょうか?

 時効については、
民法160条により相続人が確定した時から6か月は時効完成が猶予されますが、その間に時効の中
断をするにも、全相続人から各別に相続分に応じて、債務者に催告
(民法150条)等をしなければならないのでしょうか?

 そうではなく、これらは全て、相続による当面の共有財産
(民法898条)の管理として民法252条による 共有物の管理、
或は、「相続財産管理人」(以下の記述参照)によって、例えば、管理の為の銀行口座を設ける等して、対処すれば良いの
です。そうすれば、ケースによっては不可能とさえ思われる、その様な無茶なことにはならずに済みます。
 そして、その無茶は全て、
可分債権は債権者が亡くなると同時に、その相続人に相続分に応じて当然に分割される
(そのこと自体が無茶だと、私は思います)という、民法427条を根拠としたドグマから発しています。427条は相続の根拠と
はならない理由をこちらでご覧下さい。上記預貯金債権の相続に関してはこちらをご覧下さい。
 管理」の具体的なあり方についてこちらも参考にご覧下さい。





 
遺産共有の性質については、一定の共通目的の下に一体化されているが故に共有物(遺産)分割が制約される「合有
 (その例は、組合での分割禁止 (§676) です) と見るか、そのような制約のない普通の共有 (§249) (いつでも分割を求めるこ
とができます(§256))
と見るかという論争があります。

 判例
 (最判昭30・5・31)は、
相続財産の共有(民法八九八条は、民法改正の前後を通じ、民法二四九条以下に規定する「共有」とその性質を異に
するものではないと解すべきである。

としています。

 しかし、遺産の共有は、「普通の共有」 と言っても、民法256条が言うように「いつでも共有物の分割を請求する
ことができる」 訳ではなく、民法907条により、
共同相続人は、・・・いつでも、その協議で、遺産の分割をすることができる
とされて いて、
(遺言で分割を禁じられた場合や、民法910条により後から分割請求をすることになる被認知者の場合を除き、) 相続開始
時点での相続人が全員で参加する
遺産分割協議を経てはじめて分割可能となります。

 普通の共有の場合、一つの財物について、互いを制約する格別な共有目的を持たない別主体である共有者が、それ
ぞれの利害で共有物分割に対処しますが、遺産の場合は、一人の者に属していた集合物について、それと主体同一性
を持つ相続人らが、複数の財物について、遺産における各人の相続分を念頭に、遺志を汲み、或は、親族共同も配意
しつつ、分割を協議することになるので、その遺産分割協議の対象の集合性と 協議の深い親昵性とに鑑みると、これ
を普通の共有での分割と見ることは到底できません。まして、その背後には、融合同一する相続ならではの 負の遺産
同伴という関係があり、その承継の包括性を踏まえれば、普通の共有ではあり得ないのです。

 それを、学説の猛反対にも拘わらず、「普通の共有」をごり押ししてきた判例の動機は何だったのでしょうか。私
は、そこに「可分債権の当然 分割」があったと考えます。要するに、裁判所として、債権の遺産分割という複雑な作
業を回避する為、可分債権を分割対象から除外するべく、「普通の共有」の分割容易性を利して、可分債権の、遺産
分割前の当然 既分割を帰結したかったのだと考えます。しかし、その作業の困難性こそが、融合同一性ある包括承継
であることの証であって、故に非訟事件性から家庭裁判所での遺産分割審判も用意されているのですから、そんな所
に逃げ道を探してはならなかったのです。

 以上ですから、遺産共有の性質は、この遺産分割協議 自体を「共通の目的」 とする共有であって、協議を経ない
いきなりの分割請求とは異なるのです。遺産共有は、その目的のために一体化されているが故に、遺産分割協議の成
立により、目的が達せられた時にはじめて分割され、共有が解消します。判例の言う「249条共有」説には些か無理
があるので、遺産の共有を定める「898条共有」説とするのが正しいと考えます。

 
繰り返しになりますが、
以上述べました様に、これ迄「 確立された判例」と言える程墨守されてきた
可分債権は、相続開始と同時に即時に分属単有となるため、遺産分割の対象に含まれない
とされてきた、その
 可分債権を含めて、全ての積極財産が遺産分割の対象となります

 遺産分割の実際は、遺産の内 一番めぼしい財産である不動産の取得者を分割協議で決める事ができたら、次にめぼ
しい預貯金等の金融資産で、定められた相続分に見合うべく調整をし、その他債権、書画骨董・貴金属等で隙間を埋
めたら、最後に現金で微調整するという段取りになります。

 要するに、全ての積極財産が、それぞれに遺産分割における、配分対象となり、かつ、相続分に応じた配分とする
為の調整機能を担うこととなります。それこそが、896条
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。
と定めるところであり、899条
各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。
とすることにも相応する正しい実務なのです。
 つまり、その様に
積極遺産は全て遺産分割の対象たるべく、その為 に共有されているのです。

 
これまでの判例 (最判昭30・5・31) が目的による制約を排しいつでも分割できるとする共有説にこだわり、分割を抑
える合有説を排そうとする勢いの赴くまま、上記のように可分債権を共有から、さらに分属単有とまで強弁した為、
ついに
(最判平28・12・19) 可分債権の典型である銀行の預貯金債権の扱いで、挫折するところとなって、その結果、
平成30年の相続法改正
を招来しました。

 これによって、可分債権を含む全ての積極財産が、相続開始時に、即時の分属などのない、遺産分割を待つべき
共有に入ることを前提した899条の2第2項が登場するに至りました。そして、これに照らせば、「遺産の共有」に
は、この改正による、可分債権という重要財産に生じた扱いの変化によって、遺産全体を統一的に俯瞰しうる新たな
パラダイムがもたらされたと理解するべきです
(→相続債権の承継に関する平成30年民法改正)

 
したがって、現行法上、「共有持分の処分」は想定されることで、これには相続分の取戻し (民法905条) による回復
が可能ですが、個別財産の共有物分割に等しい相続開始後における遺産の処分や消費は、本来、907条の協議を経て
いない点で、遺産共有の目的に反し、相続人による遺産管理義務に反する行為である筈です。

 しかし、明文の限りにおいては、これら処分や消費には、法定単純承認制
 (民法921条) によって、強制的相続承認と
いう対処はするものの、かかる処分や消費を禁じる676条のような条文はありません。ただ、平成30年の相続法改正
にかかる
906条の2により、共同相続人は、その全員 ( 処分をした当該相続人を除きます )の同意を以て 当該処分された財産
が遺産の分割前に遺産として存在するものとみなすことができることとなりました。これによりその者が
遺産分割に
よって受けたとみなして、最終の調整を図る途が開かれましたし、相続法改正では、この他、相続人が遺産中の預貯
金を分割前に一定額まで払戻すことができ、払戻しを受けたときは、これを遺産分割により取得したものとみなすこ
とが明文化されました
 ( 909条の2)

 こうして
見てくると、「遺産の共有」における目的性には、合有の典型例とされる組合における事業目的ほどの強
固な縛りはなく
(縛りが弱いのは、目的が、団結を要する事業にあるのでなく、はじめから分割にあるからです)、むしろ、向かうべき
方向を遺産分割協議と定められた、「
向有」性があるとでも言うべきでしょう。相続は、故人が亡くなって相続開始
となってから、遺産が相続人等に最終的に納まる迄、つまり 相続開始時に即 共有 となり、遺産分割により 単有 と
なる迄、二段階を経ます。その間 遺産は、「相続寺(時)」の仁王門で、898条の「共有」と899条の「相続分で」と
宣す 阿形像、吽形(うんぎょうぞう)、両像
(条)の清めを受け、参道を本堂へと向かって、本堂「遺産分割」堂で最終的な
決を得て、相続寺
(時)を出るのです。その間が、遺産の 向有 です。かう「目的」は 「遺産分割」堂にり です。

 何れにしても、今後 遺産の共有 は、遺産分割という目的の為に、一つの箱にまとめられた集合財産を、目的到達
迄の間 統一的に管理しなければならないという視点から大きく捉えるべきであり、微視的に可分債権の発生、派生を
見つけては、これを即時分属の単有などと理屈付け、遺産共有から逸出させ、管理面での実質的な議論を回避する事
などあってはなりません。不動産賃料債権に関する記述をご覧下さい。




        
相続人(相続開始の時点から)人有した 一切  

     
権利義務 やあ苦労896承継 をして




    くなって共有されし
積極財()雑多詰まりし遺産898

         
(遺産)分割により中味分け、
共有分割までやとっとこや898

                     「ゆっと」は仏語の8の「ユィット」から




   
パニク899るな

       
共同相続 数人相続すべき割合 個々899まる相続分

                              
これにて配分受ける




 遺産の管理
 (相続人のフェイズごとの)
 
被相続人が亡くなって、相続開始となった際、遺言があって、その趣旨から、遺産は遺言執行者の管理に服すべ
であれば、相続人がそれに介入することは、執行を妨げることとなり民法1013条によって禁じられます。
 遺言中の特定財産に関する「相続させる」条項については、1014条1項により、遺言執行者による財産管理の対象
1012条1項となりますが、その他、例えば、不特定財産について、遺産分割協議によって取得者が決まる関係の物
は、以下に述べる様に相続人らの管理にかかることになります。
 私は、これまで、事前の資料収集の面倒や話合いの困難等に照らし、遺産分割協議は避けるべきだし、そのために
も遺言がお勧めだと申してきたのは、正にここが分岐点になります。つまり、遺言で全部の財産について、財産ごと
に誰に相続させるか決めておかないと、折角苦労して遺言書を作成しても、結局、遺産分割協議が必要となって、遺
言した甲斐がなくなります。


.  ❶ 
相続開始時に相続財産を占有する相続人は、以後、相続の承認・放棄の時まで、その相続財産を自己の財
産とは区別して、しかし、自己の「
固有の財産におけるのと同一の注意 (略して固財注意 (義務)」と言います) をも
って 相続財産の管理を行うことになります
 (民法918条1項)。又、

   家裁は相続人に対しいつでも遺産の保存に必要な処分を命じる
 ( 私なりに必要処分或いは「処分命令」と言います) 
   ことができます (同条2項)。
    
ここでの「相続人」は、2以降の立場になる前の、熟慮期間中の相続人であり、
  従って、相続放棄者
(940条2項)のような報告・引渡・償還・賠償等の義務に関する具体的な準用規定等は置かれて
   いません。

   このフェイズでの相続人は、一般的な共有物の管理として遺産管理に与ることになります。
    従って、
保存行為は各単独で行うほか、
       
遺産の管理(単独で可能な保存を除いた利用・改良行為)は、(家裁の)必要処分によってサポートされ乍ら、相続
        人の
(相続分による)多数決によって行います(民法252条)
       遺産全体の管理の中で、その一部を処分する必要が生じたときは、その財産の「変更」として、相続
         人全員の合意を得た上で、これを行います
(251条)(「処分」が同時に921条1号の法定単純承認となります)
       遺産全体の処分を相続人全員で決するのが、つまりは、それが遺産分割となります。
        管理権限の及ぶ範囲は、例えば、不在者財産の管理人についての民法28条に、
         原則 民法103条に定められた
保存・改良・利用まで、との定めがありますが、
        その具体的範囲は、
         例えば、民法602条にある、処分権限のない者のする、同条掲記の
短期賃貸借があります。          
         ですから、遺産の中の土地であれば5年、建物であれば3年までは、遺産の管理として、
             相続人全員の同意がなくとも、過半数の同意で賃貸することができます。
        ここでの短期賃貸借は、法定単純承認に当たらず
(民法921条1号但書)、相続人の遺産管理が続きます。

 各相続人はその相続分に応じて管理費用を払います。
  一年以内に管理費用支払義務を履行しない相続人には、他の相続人が 相当の金員を払ってその者の相続分を取得
 することができます
(253条)
  また、もし共同相続人の内の一人が
保存・利用・改良 を超えて勝手に遺産を処分したときは、921条の法定単
 純承認事由の内の「相続人が相続財産の全部若しくは一部を処分したとき」
(921条1号)に当り、その者は単純承認者
 となります。
  
この場合の対処については、平成30年改正にかかる新906条の2が定めており、
   共同相続人は、その全員
 ( 処分をした当該相続人を除きます )の同意をもって 当該処分された財産が遺産の分割前に
  遺産として存在するものとみなすことができます。
   ですから、全相続人は、その前提で遺産分割協議に臨むこととなり、「財産分離」のときの様な利付き返還義
  務・損害賠償義務の問題は起こりません。

      
   
  そして、家裁が、利害関係人等の求めによって、保存の為の必要処分 (918条2項) として遺産管理人を選任
たときは、その管理人(裁選管理人 と略称します)は、家裁から財産管理の委任を受けた受任者として、民法644条の善
良な管理者の注意をもって遂行する義務
(善管注意義務) を負います。

 民法にこれを定める規定はありませんが、裁選管理人は法定委任を受けた法定代理人とされており、そうとすれば、
当然 委任における受任者の善管注意義務を負うと解すべきです。

 民法940条2項では、相続放棄をした相続人にさえ受任者の権利義務を伴わせていることに照らせば、ここでの裁
選管理人は、法定受任者であり、固財注意で足りる相続人には務まらぬとして、裁選管理任務を受けるのであるから、
当然 相続人の固財注意に代わる善管注意義務を負うべきだ考えます。


 家事事件手続法は、不在者財産の裁選管理人に
民法644条を準用して、善管注意義務を課しています(家事事件手続法
146条6項)
。そして、法は、本項で触れるように遺産管理の各フェイズごとの裁選管理人に民法の不在者財産管理人規
民法27条29条を準用しています。しかし、25条の準用はしておらず、家事事件手続法146条を準用する旨の規定
もありません(不在者財産管理人選任の根拠規定である25条を準用する旨定められていれば、それを通じて家事事件手続法146条も準用
でき、同条6項による善管注意の644条準用にと繋がるのですが)
ところが、家事事件手続法201条は、被後見人に対する第三者
からの無償供与財産の管理に関する同法125条
(民法644条を準用しています)を、承認・放棄前の相続財産の保存又は管理
にも準用するので、このフェイズでの裁選管理人の善管注意義務がようやく明らかとなります。

 法は、この承認・放棄前フェイズの他、財産分離請求のあった場合、相続人不存在の場合についても、それぞれ
家事事件手続法202条208条による同法125条の準用で、各相続財産管理人の善管注意義務を定めています。
ただ、以上の内、共同限定承認のあった場合の管理人は、民法936条によって相続人から選任すべき旨が定められ
ているので、この場合は、他の場合と異なり、相続人であっても善管注意義務が課せられることになる点は、要注意
です。同様にして、相続人廃除審判確定前の遺産管理についても、 家事事件手続法の189条による同法125条の準用
があります。

   民法の不在者財産の管理規定
 (民法27条29条) により次の事務を、次のア・ィの条件 の下で行います (918条3項)
   これを
以下、次の条件を含め、
無人財産管理 と言います(不在ではなく、他界なので、共通項を「無」として、「無人」としました) 。

  
ここでの管理は、相続の承認・放棄 前のペンディング財産の管理ですから、相続人が潜在相続分を持つ遺産につ
  いての、言ってみれば「事務管理
(697条~)に近いものと言えます。因みに、事務管理には、698条を根拠に、
  善管注意義務が伴うとされていますが、上記の様に家事事件手続法は、不在者財産の裁選管理人に
民法644条
  準用して、善管注意義務を課しています
(家事事件手続法146条6項)

    
ア 財産目録を作成しなければならず (27条1項)、財産を、保存改良・利用 (民法28条103条)の範囲内でなら
     使用できるが、この範囲を超える使用については家裁の許可を要す (28条)
(従って、遺産中の財物を「処分」する
       必要が生じたときは、許可をえなければなりません)

     家裁は管理人に対し財産の管理(25条1項)、保存 (27条3項)に必要な処分を命じることができる。
     

      
この管理人には処分権限がありませんから、民法602条の定める、処分権限のない者のする、同条掲記の
     短期賃貸借
は、遺産の管理として、することができます。ですから、遺産の中の土地なら5年、建物なら
     3年までは、賃貸することができます
(→条句)

    
イ 家裁の判断により(他人の「事務管理」には認められていない)報酬支給を受け得ること、
     財産の管理・返還に備え
担保を提供しなければならないことがあること (29条) 。


 ② 家裁が
選任した管理人は、 無人財産管理 を、①に拠るほか、次の枠組みで行います(家事事件手続法146条6項)
   同管理人は、委任による財産管理
受任者同様、民法644条善管注意をもって管理する義務 を負います。
    
それと共に、受取物の引渡義務 (646条)消費金銭の利付き償還損害賠償義務 (647条 ) も負いますが、
   
支出した必要事務費の利付き償還請求 (650条1項) 必要債務の弁済請求 (650条2項)無過失で被った損害
   の賠償請求
 (650条3項) も可能です (以下、これらを総じて受任管理権(利)(務)と言います ) 
    家裁は、家事事件手続法146条2項により、財産状況の報告及び管理の計算を命ずることができ、それに
    伴う費用は、不在者の財産 つまり遺産 から支出します
(同法146条3項)

      ここで、管理人には民法645条報告義務と649条費用前払請求権が準用されていませんが、家事事件手続法146条は 不在者
     を想定していますから、財産の帰属する本人が不在のため、不在の者に対する報告や前払請求の関係は外してあります。
      但し、家裁に対しては、同条2項により、管理報告計算報告をしなければなりません。因みに、事務管理においては、報告義務
     が699条に、継続義務が700条に、費用償還義務が702条に定められ、又、委任規定の645条から647条までが701条により準用され
     ています。


 
そして、相続の承認があったときは、相続人が一人だけのケースの場合であれば、以後その財産は、平成30年の法
改正によっても、その相続において、登記なくして他に対抗できる、その者の所有財産となりますから、当然 遺産管
理の枠の外となります。

 しかし、
共同相続の場合、承認により 上記事務管理的色彩は消え、それに伴って上記 無人財産管理は終わりますが、
向有」であることはそれまでと変わりないので、同じ遺産共有が続き、相続人間で遺産分割が整うまで、それ迄 同
様の
共有規定による管理が継続します。
 


2. 
相続放棄をした相続人は、自己に代わる相続人が管理を始めることができる時迄、それ迄 同様の固財注意
 払って
 (民法940条1項 ) 、無人財産管理を継続しなければならず、他方、

   家裁は、放棄者に対しいつでも必要処分を命じることができます (940条2項 918条2項3項) 。
  
引継時 迄の放棄者による管理には、事務管理(701条)同様、 報告義務 (645条)と受領物引渡義務 (646条)が伴います
  (940条2項)。

 ところが
940条2項には、事務管理について明記されている 消費した金銭の利付償還・損害賠償義務(647条)
 定めがありません。
  これは、921条の法定単純承認の内の「相続人が、・・相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しく
 は一部を・・私に消費し・・たとき」
(921条3号)に当り、「放棄」を否定され、単純承認者となるからです。

  その場合の対処については、平成30年改正にかかる
906条の2で、遺産分割前に遺産に属する財産が処分され
 た場合であっても、
    共同相続人は、その全員 ( 処分をした当該相続人を除きます )の同意により、当該処分された財産が遺産の分割前に
    遺産として存在するものとみなす
   ことができることとなり、その前提の下で遺産分割に臨むことができます。

 ただ、その放棄によって相続人となった者が相続の承認をした場合は、921条3号但書によって、「放棄」は維持
 されます。
  法律関係の複雑化を回避するための「放棄」維持ですが、同条同号による限定承認者も、限定承認は相続人全員
  一致でしなければならないことから、
   一人の相続人に金銭消費があっても「限定承認」は維持され、その代わり、金銭消費についての逃げ得を許さ
   ず、その相続人に対しては、相続債権者から その相続人に対し「相続分に応じて権利を行使することができ」
   
(937条)、相応の追及が可能です。
   しかし、放棄者については追及規定がありません。放棄者についてもこの937条の類推適用か 或は 不当利得
   として追及があって然るべきです。

 相続放棄者による遺産管理には、この様に上記受任管理権義が(消費金銭償還義務の647条と費用前払請求権の649条を外して)
 
軽減された形で伴います。(私なりに)軽減管理権義と言います
  
つまり、上記の様に報告義務(645条)と受領物の引渡義務(646条)を負うほか、
     必要事務費の利付き費用償還請求権(650条1項)と必要債務弁請求権(650条2項)を認められます
(940条2項)

 家裁が、保存の為の必要処分 (918条2項) として遺産管理人を選任したときは、裁選管理人は、前記1.の①・②によ
 るフルの受任管理権義 の下、
  
善管注意で上記 無人財産管理 に臨むことなります (民法940条2項918条2項、家事事件手続法201条125条)


 
限定承認があったときは、
  一人の相続人であれば、926条1項により その者が、複数の相続人であれば、936条1項により その中から家裁が
 選任した者が、財産管理に臨みます。

  管理に臨む相続人は固財注意をもって、裁選管理人は善管注意を以て、管理に臨みますが(家事事件手続法146条6項
   民法644条936条2項926条2項918条2項3項)
、家庭裁判所は、いずれに対してもいつでも必要処分を命じることが
 できます
(926条2項918条2項)

 
 財産管理人は、何れも清算ルール(926条935条)に則り相続債務の弁済に必要な一切の行為を行います (936条2項)
   
限定承認者に対しても(926条2項により)918条2項、3項の適用はあるので、この管理においても 無人財産管理 
   が行われます。
   限定承認者の行う管理には放棄者と同様 報告義務
受領物引渡義務等(647条649条を外して)軽減管理権義が伴い
  ます
(926条2項)

   限定承認者が遺産である金銭を私に消費した場合、相続人が一人の場合は、
    921条の法定単純承認事由の内 の「相続財産・・私に消費し・・たとき」(921条3号)に当たり、法定単純承認
   者となるので、「限定承認」を否定され、上記906条の2による遺産みなしを受けます。なので、放棄の
   場合と同様、消費した金銭の利付返還・損害賠償義務の定めはありません。

    相続人が複数いる共同相続で一部の相続人が金銭消費をした場合は、全員一致を要する限定承認であるので、
  全員でなしたその申述を覆すことはせず、金銭消費者の限定承認もその侭となりますが、民法はその者の逃げ得
  を許さず、相続債権者からのその者に対する相続分に応じた債権回収を認めています
(937条)

   家裁が、保存の為の必要処分 (918条2項) として遺産管理人を選任したときは、裁選管理人
には善管注意義務
  フルの受任管理権義が伴うことになります
 (民法926条2項918条2項3項936条2項家事事件手続法201条125条)


 
財産分離の場合、相続人は 遺産を自財と分離して固財注意 (民法944条1項) をもって費用前払請求権の649条を外した)
 
軽減管理権義の下での管理をします (944条2項)
  但し、この場合の軽減管理権義には民法647条が準用され、相続人による遺産からの金銭消費があった場合は、
 相続放棄や限定承認の場合と異なり、利付きで償還し、損害があれば賠償する義務が課されます
(これにより645条から
  647条までを準用する「事務管理」と同等の義務となります
(701条))

  相続人の遺産管理に関する権利義務は裁判所による相続財産管理人の選任により終わります (944条1項但書)
  家裁はいつでも必要処分を命じることができ、家裁が相続財産管理人を選任したときは、
  
管理人は、フルの受任管理権義 の下 善管注意義務を伴う 無人財産管理 に当ります 943Ⅰ 家事事件手続
   法202条125条
)

  
また、裁選管理人、相続人は、いずれも、
   申出期間前の弁済を拒むことができ
(928条)、弁済は額に応じた按分になること(929条)の他、
    
清算ルール930~§934)942条948条の優先弁済規定に則り、相続債務を弁済します 947条Ⅰ~Ⅲ、§950Ⅱ)

5.相続人廃除審判の確定前 
 民法895条は、推定相続人の廃除又はその取消しの請求があった後その審判が確定する前に相続が開始したときは、
  家裁は、求めによって遺産の保存のために必要処分を命じることができ、
  必要処分
として、遺産管理人を選任 したときは、その管理人 は、無人財産管理を行う旨を定め、
  推定相続人の廃除の遺言があったときも同様とするとします。

  この場合、廃除対象となる相続人による管理について、その者の固財注意の定めはありませんが、918条が言う
  「相続人は・・」に含まれて固財注意義務者となります。
  必要処分として
相続財産管理人が選任された場合、上記1.❷の①、②同様の枠組みで管理が行われますから、
  裁選管理人は
善管注意で管理します (家事事件手続法189条125条)
  
   この場合、廃除対象者による金銭消費等があったときの上記4.のような対処の定めがありませんから、
  不当利得として703条
704による返還・賠償等の途が追及されます。
     
6.上記相続人らの負う管理義務を見てきますと、おしなべて、固財注意で足りる旨の定めがありますが、
  承認・放棄
(廃除があったときはその審判の確定)までの間については、918条2項により、
  放棄後については、940条2項918条2項により、
  限定承認については、926条2項918条2項により、
  財産分離については、943条1項950条2項により、
 いずれも、家裁は必要とあれば処分命令を出して、相続財産管理人
を選任することができます(但し、複数相続人による
  限定承認の場合は、936条3項により相続人から選任されます)

 裁選管理人の選任があると、相続人らの遺産管理の権利義務は失われて、同管理人だけが管理にあたります。
 同管理人は、上記1.❷の①、②で述べた様に委任契約の規定である民法644条の準用により
善管注意義務を負っ
 て管理に臨みます)
  裁選管理人が相続人の中から選任された場合、その者は上記各固財注意規定には拠らず、上記1.❷のとおり、
 特別法である家事事件手続法の適用によって、善管注意義務を負います。
  委任契約ではない、家裁による管理人の選任について、 同注意義務が課されることについては、家裁が人選を
 して、財産管理を委任するのに適切と判断した者に対し、「法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれ
 を承諾する」
(643条)関係に準ずるとして、644条が準用されるものと考えます(「法定委任」と言われます)

  上記の様に、ここでの遺産の管理がそれに近いと思われる「事務管理」においても、善管注意義務を伴うとされ
 ていますから、不合理ではありません。そうすると、遺産の利用・改良の必要等から相続人が遺産管理人に選任さ
 れた場合も、同様にその相続人には善管注意義務が課されることになります。共同限定承認の場合がその例です。


7. 
そして、以上の考察を相続人不存在の場合に及ぼせば、民法952条1項により家裁が選任する相続財産管理人は、
 953条により27条から29条までの準用を受けて、上記1.❷の①、②同様の枠組みで
無人財産管理に就き、管理に
 当たっては、家事事件手続法189条による同法125条の準用により
善管注意義務を負います。



    相続人

    
   遺産
承認・放棄まで(管理を超える)処分禁止


     
管理して(善管注意でなく) ()()注意 いは918ない


   
(求めにより)
家裁じる(必要)処分によって管理人 選任あれば


             
この
918
不在者28管理  918ない



そして、上記無人財産管理 ( 民法の不在者財産の管理規定 (民法27条29条) に則った財産管理 ) については、次のように言うことができます。




   
住居所って、管理()爾後25不在、家裁命ずる必要処分


 
    
不在者(財産)28管理(の任)を受けたなら

 
       
 
目録作り(命じられた)必要処分 27って


       お
 28うち、保存改良・利用まで


       管理超えれば、許可要す
管理を超える処分は原則禁止


       負託
 29 応えて、報酬 可、或いは逆に、担保





   
放棄後

     
(相続人)

     
しない940よう任務926(固有財 同一注意)管理 けよ

          報告受取物引渡費用償還につき 

     
委任規定(§644を除く)準用し、(判所)(必要)処分§918管理人

          
 
選任あればこの918不在者28 管理で、いは918ない。


    相続人

     限(定承)したなら(善管注意の義務でなく)任務926(固有財 同一注意)

  (相続開始以来の)
管理け、(定承)認者 複数 いれば(家庭)裁判所 

     遺産
936人中から管理人選任をして

               「善管
(注意) 管理  継続させる也。



     相続人

       放棄した(相続人) しない940よう

       「任務
926(固有財 同一注意)管理 継続すべき也。


       債権者から(第一種)()()請求あれば(家庭)裁判所

         管理
苦読943必要処分管理人選任あれば

        この人
918懇志満943懇ろに を志して(造語)〕 (不在者の)28管理 2729をせねばない


       
相続人債権者(固有債権者)固護令950(の第二種財産分離)請求したならば

          前同様
管理人選任あるとき、同管理。


       遺産管理
(産)(離)

         管理人選任
なくば、継
(相続人)よし944任務926管理 めよ


      遺産管理

         裁判所 選任したる管理人()法定委任であるからは、

          
任務
926 (は) 無視644善管注意



善管注意と固財注意
 
上記の遺産管理については、その管理上の注意義務として、
  相続人に対しては、「その固有財産におけるのと同一の注意
 (民法918条1項926条1項944条1項) 、或は
  「自己の財産におけるのと同一の注意」 
(民法940条)をもって管理すべき義務が課され、

  相続人以外の者から家裁によって選任された管理人に対しては、「善良な管理者の注意」を以て管理すべき義
  務が課される(家事事件手続法146条6項)
 という区別があると述べましたが、この前者を「
固財注意」、後者を「善管注意」と略称しました。

  財産管理上の注意は、当然「自己のものとしての注意」でなく、自財ではない財産について、自財との区別を踏
 まえた上で、払うべき注意ですから、その他財を自財と明確に区別した上での管理でなければなりません。

 固財注意は「自己のためにすると同一の注意」
 (民法827条)、或は「自己の財産に対するのと同一の注意」 (659条) 
とも表現され、要するに、義務を課される具体的なその個人の注意能力に応じた注意で足りるという意味です。

 私有財産制の下、財産処分の自由を前提として、自主的・主体的に自財を管理する上では、自身の能力に応じ注意
を払う必要がある訳で、その際の注意の程度ということです。つまり、「その人なりの注意」と言うことができます。
これをも怠った場合、そのために他に損害を及ばしたなら、やはり損害賠償責任を負うことになります。他方、

 善管注意は、その者の職業上 或は 社会的地位に相応した、一般的抽象的で、客観的に相当な注意とされ、これを
怠った場合、当然 過失ありとされて、損害賠償の請求を受けることになります。

 通常、ある財産に関して他人ひととの契約に基づき管理の任務を負うときには、その人の利益を保持し、又は増進する
べく、当該財産の内容を把握して財産目録を作成し、管理期間中の収支を明らかにすることが最低限 その善管注意に
叶う管理任務となります。そして、これを自分の能力如何に関わらず、その職にある者であれば払うであろう相応の
注意を払い、委託の趣旨に沿って計画的に行う必要がある訳で、その際に払うべき注意が善管注意です。これを怠っ
て、本人に損害を与えれば、損害賠償が待つこととなります。

 従って、固財注意の方は、管理の落ち度で財物の毀損等が生じた場合にも、それがその管理者の能力なりの注意を
払った結果であれば、賠償責任を問われることはありません。勿論、払うべき注意をことさら払わずにその結果を生
じさせたのであれば、それによる損害の賠償責任は負わねばなりません。固財注意義務の例は、上記827条親権者
であり、659条の無償受寄者です
なお、管理の具体的なあり方についてこちらも参考にご覧下さい。

「善管注意義務」を負うべきものとして民法に (反対解釈も含め) 定めがあるのは、次のとおりです
   
298条  :  留置権者による留置物の占有に関する注意義務
   400条  :  特定物引渡債務を負った債務者のその特定物の保存に関する注意義務
   644条  :  受任者の受任事務の処理に関する注意義務

   ○ 受任者の善管注意義務が準用されるものとして
    671条 : 業務執行組合員による業務執行に関する注意義務
    698条 : 一般の事務管理者
 (緊急事務管理に関するこの条文の反対解釈)の注意義務
    852条 : 後見監督人の監督事務に関する注意義務
 (876条の3により保佐監督人に、876条の8により補助監督人に準用)
   
869条 : 後見人の後見事務に関する注意義務 (876条の5により保佐人に、876条の10により補助人に準用)
     1012条 : 遺言執行者の遺言執行に関する注意義務
   その他 : 裁選管理人による管理に関する善管注意義務
(家事事件手続法146条による民法644条準用)

  相続法関係の裁選管理人規定は、相続人のフェイズごとの遺産の管理に対応して次のとおり置かれています。
  相続の承認・放棄前
(918Ⅲ)、相続放棄あるとき(940Ⅱ)、限定承認あるとき(926Ⅱ936Ⅲ)、財産分離請求あるとき
  
(943Ⅱ)、相続廃除係属中(895Ⅱ)、相続人不存在(952Ⅰ)



遺産の管理に関する判例

   不動産預貯金不動産賃料現金生命保険金退職金株式・投資信託・国債


「遺産共有」判例 (→遺産共有の性質)
 相続財産の共有は、民法249条以下に規定する「共有」とその性質を異にするものではない旨、及び、遺産の分割
に関しては、民法256条以下の規定が適用される旨を判示した判例
(最判昭30・5・31)
遺産の共有の性質については、共通の目的の下に一体化しているが故に分割等が制約される合有 (その例は、組合での分
割禁止 (§676) です)
か、そのような制約のない普通の共有 (§249) かの論争がありますが、判例は上記のように判示し、
事案について
「相続財産の共有
(民法八九八条は、民法改正の前後を通じ、民法二四九条以下に規定する「共有」とその性質を異に
するものではないと解すべきである。それ故に、遺産の共有及び分割に関しては、共有に関する民法二五六条以下の
規定が第一次的に適用せられ、遺産の分割は現物分割を原則とし、分割によつて著しくその価格を損する虞があると
きは、その競売を命じて価格分割を行うことになるのであつて、民法九〇六条は、その場合にとるべき方針を明らか
にしたものに外ならない。本件において、原審は、本件遺産は分割により著しく価格を損する虞があるとして一括競
売を命じたのであるが、右判断は原判示理由によれば正当であるというべく、本件につき民法二五八条二項の適用は
ないとする所論は採用できない」
と判示しました。



     組合財産 共有

       共同
 
(事業)目的制約かかる 合有  

               
(組合員の)持分処分或いは (財産)分割請求は、

                  いずれも
勿論
676できぬ也。


    
共有共有カー全部をば 

         独占
するの胴欲 249、許されぬ故、

            全部
をば 
()

             時間等 分けて使  249得。




     遺産  898 (相続人)数人いれば、

           
故人有した遺産
 898その数人共有となる>


 「おと」は伊語の8「オット」から

 
    共有() 分割 (請求) ごろ 256 いつでも 


    分割自由共有 双子(のように相伴う関係)なれども、約定


      双子256マックス年間分割 じることできる


              約定 更新  なるも、これもマックス五年間。



      分割 はできぬきくがる

           その
不都合
258Ⅱ (裁判所)競売

                  クリア
じることできる


現金
 遺産が相続人の共有に属するとすると、共有の間はそれを所持する相続人が単独で勝手に処分することはできず、
本来、全相続人による遺産分割を待つべき、ということになりますが、他方、「とりあえず手許にある現金を相続分
だけ分けてくれ」という要請もあながち退け難い面があるように思われます。この点に関する判例があります。

 相続人は、遺産の分割までの間は、相続開始時に存した金銭を相続財産として保管している他の相続人に対して、
自己の相続分に相当する金銭の支払を求めることはできない旨を判示した判例
 
(最判平4・4・10)
 最高裁のこの判決は、「上告人らの本訴請求を失当であるとした原審の判断は正当であって、その過程に所論の違
法はない。」と言うだけで、その理由を述べていません。そこで、ATMやインターネットバンキング等を通じ、今
や現金同様に決済手段として広く利用されている銀行預貯金に関する判例も見てみたいと思います。



預貯金債権
 共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応
じて分割されることはなく、遺産分割の対象となる旨を判示した判例
 (最判平28・12・19)
 この判決は、その理由として、
「 (1) 相続人が数人ある場合、各共同相続人は、相続開始の時から被相続人の権利義務を承継するが、相続開始とと
もに共同相続人の共有に属することとなる相続財産については、相続分に応じた共有関係の解消をする手続を経るこ
ととなる
(民法896条、898条、899条)。そして、この場合の共有が基本的には同法249条以下に規定する共有と性
質を異にするものでないとはいえ
(最高裁昭和28年(オ)第163号同30年5月31日第三小法廷判決・民集9巻6号793頁参照)
この共有関係を協議によらずに解消するには、通常の共有物分割訴訟ではなく、遺産全体の価値を総合的に把握し、
各共同相続人の事情を考慮して行うべく特別に設けられた裁判手続である遺産分割審判
(同法906条、907条2項)
よるべきものとされており
(最高裁昭和47年(オ)第121号同50年11月7日第二小法廷判決・民集29巻10号1525
頁参照)
、また、その手続において基準となる相続分は、特別受益等を考慮して定められる具体的相続分である(同法
903条から904条の2まで)


 このように、遺産分割の仕組みは、被相続人の権利義務の承継に当たり共同相続人間の実質的公平を図ることを旨
とするものであることから、一般的には、遺産分割においては被相続人の財産をできる限り幅広く対象とすることが
望ましく、また、遺産分割手続を行う実務上の観点からは、現金のように、評価についての不確定要素が少なく、具
体的な遺産分割の方法を定めるに当たっての調整に資する財産を遺産分割の対象とすることに対する要請も広く存在
することがうかがわれる。

  ところで、具体的な遺産分割の方法を定めるに当たっての調整に資する財産であるという点においては、本件で問
題とされている預貯金が現金に近いものとして想起される。預貯金契約は、消費寄託の性質を有するものであるが、
預貯金契約に基づいて金融機関の処理すべき事務には、預貯金の返還だけでなく、振込入金の受入れ、各種料金の自
動支払、定期預金の自動継続処理等、委任事務ないし準委任事務の性質を有するものも多く含まれている
(最高裁平成1
9年(受)第1919号同21年1月22日第一小法廷判決・民集63巻1号228頁参照)


 そして、これを前提として、普通預金口座等が賃金や各種年金給付等の受領のために一般的に利用されるほか、公
共料金やクレジットカード等の支払のための口座振替が広く利用され、定期預金等についても総合口座取引において
当座貸越の担保とされるなど、預貯金は決済手段としての性格を強めてきている。

 また、一般的な預貯金については、預金保険等によって一定額の元本及びこれに対応する利息の支払が担保されて
いる上
(預金保険法第3章第3節等)、その払戻手続は簡易であって、金融機関が預金者に対して預貯金口座の取引経過を
開示すべき義務を負うこと
(前掲最高裁平成21年1月22日第一小法廷判決参照)などから預貯金債権の存否及びその額が
争われる事態は多くなく、預貯金債権を細分化してもこれによりその価値が低下することはないと考えられる。
 このようなことから、預貯金は、預金者においても、確実かつ簡易に換価することができるという点で現金との差
をそれほど意識させない財産であると受け止められているといえる。

 共同相続の場合において、一般の可分債権が相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されるという理解を前提
としながら、遺産分割手続の当事者の同意を得て預貯金債権を遺産分割の対象とするという運用が実務上広く行われ
てきているが、これも、以上のような事情を背景とするものであると解される。 

(2) そこで、以上のような観点を踏まえて、改めて本件預貯金の内容及び性質を子細にみつつ、相続人全員の合意の
有無にかかわらずこれを遺産分割の対象とすることができるか否かにつき検討する。 

ア まず、別紙預貯金目録記載1から3まで、5及び6の各預貯金債権について検討する。
 

普通預金契約及び通常貯金契約は、一旦契約を締結して口座を開設すると、以後預金者がいつでも自由に預入れや
払戻しをすることができる継続的取引契約であり、口座に入金が行われるたびにその額についての消費寄託契約が成
立するが、その結果発生した預貯金債権は、口座の既存の預貯金債権と合算され、1個の預貯金債権として扱われる
ものである。また、普通預金契約及び通常貯金契約は預貯金残高が零になっても存続し、その後に入金が行われれば
入金額相当の預貯金債権が発生する。
 このように、普通預金債権及び通常貯金債権は、いずれも、1個の債権として同一性を保持しながら、常にその残
高が変動し得るものである。そして、この理は、預金者が死亡した場合においても異ならないというべきである。
 すなわち、預金者が死亡することにより、普通預金債権及び通常貯金債権は共同相続人全員に帰属するに至るとこ
ろ、その帰属の態様について検討すると、上記各債権は、口座において管理されており、預貯金契約上の地位を準共
有する共同相続人が全員で預貯金契約を解約しない限り、同一性を保持しながら常にその残高が変動し得るものとし
て存在し、各共同相続人に確定額の債権として分割されることはないと解される。

 そして、
相続開始時における各共同相続人の法定相続分相当額を算定することはできるが、預貯金契約が終了し
ていない以上、その額は観念的なものにすぎない
というべきである。預貯金債権が相続開始時の残高に基づいて当然
に相続分に応じて分割され、その後口座に入金が行われるたびに、各共同相続人に分割されて帰属した既存の残高
に、入金額を相続分に応じて分割した額を合算した預貯金債権が成立すると解することは、預貯金契約の当事者に
煩雑な計算を強いるものであり、その合理的意思にも反する
とすらいえよう。 

イ 次に、別紙預貯金目録記載4の定期貯金債権について検討する。 
定期貯金の前身である定期郵便貯金につき、郵便貯金法は、
一定の預入期間を定め、その期間内には払戻しをしな
条件で一定の金額を一時に預入するものと定め(7条1項4号)、原則として預入期間が経過した後でなければ貯金を
払い戻すことができず、例外的に預入期間内に貯金を払い戻すことができる場合には一部払戻しの取扱いをしないも
のと定めている
(59条、45条1項、2項)
 同法が定期郵便貯金について上記のようにその分割払戻しを制限する趣旨は、定額郵便貯金や銀行等民間金融機関
で取り扱われている定期預金と同様に、多数の預金者を対象とした大量の事務処理を迅速かつ画一的に処理する必要
上、貯金の管理を容易にして、定期郵便貯金に係る事務の定型化、簡素化を図ることにあるものと解される。
 郵政民営化法の施行により、日本郵政公社は解散し、その行っていた銀行業務は株式会社ゆうちょ銀行に承継され
た。ゆうちょ銀行は、通常貯金、定額貯金等のほかに定期貯金を受け入れているところ、その基本的内容が定期郵便
貯金と異なるものであることはうかがわれないから、定期貯金についても、定期郵便貯金と同様の趣旨で、契約上そ
の分割払戻しが制限されているものと解される。そして、定期貯金の利率が通常貯金のそれよりも高いことは公知の
事実であるところ、上記の制限は、預入期間内には払戻しをしないという条件と共に定期貯金の利率が高いことの前
提となっており、単なる特約ではなく定期貯金契約の要素というべきである。

 しかるに、
定期貯金債権が相続により分割されると解すると、それに応じた利子を含めた債権額の計算が必要に
なる事態を生じかねず、定期貯金に係る事務の定型化、簡素化を図るという趣旨に反する。他方、仮に同債権が相
続により分割されると解したとしても、同債権には上記の制限がある以上、共同相続人は共同して全額の払戻しを
求めざるを得ず、単独でこれを行使する余地はないのであるから、そのように解する意義は乏しい。
 

ウ 前記(1)に示された預貯金一般の性格等を踏まえつつ
以上のような各種預貯金債権の内容及び性質をみると、共同
相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分
割されることはなく、遺産分割の対象となるものと解するのが相当である
。」

と述べています。なお、この点は「遺産分割の対象」でも触れていますので、そちらもご覧下さい。
 

遺産中の現金・預貯金( まとめ )
 
こうして見てきますと、すぐに分けることが可能と思われる現金は、遺産分割を待たないと分けることができず、
通常そう簡単にすぐには分けられないというイメージの預貯金債権は、これまでは相続開始後すぐに分けられてしま
うから、遺産分割対象ではないという裁判所の考えだったのが、こちらは、平成28年12月の判例変更により、イメー
ジどおり遺産分割を待つ事になったというもので、この経緯には なかなか一般の感覚では分かり難い面があります。

 しかし、要するに、遺産の
共有は、「普通の共有」 と言っても、民法256条が言う様に「いつでも共有物の分割
を請求することができる」 訳ではなく、民法907条により、「共同相続人は、・・・いつでも、
その協議で、遺産
の分割をすることができる」 とされ、遺言で分割を禁じられた場合や、民法910条により後から分割の請求をするこ
とになる被認知者の場合を除き、相続開始時点での相続人が全員で参加する遺産分割協議を経てはじめて分割可能と
なります
(→遺産共有の性質)。ですので、そういう意味では、遺産共有の性質は、遺産分割協議を、 前述の合有説に
いわゆる 「
共通の目的」 とする共有であって、その目的のために一体化されているから、分割協議が成立し、目的
が達せられた時にはじめて協議結果に従い分割されることになると言うことができます。

 遺産分割の対象財産の所で述べました様に、
通常一般には、可分債権を含めた全ての積極財産が遺産分割の対象となり
その内 一番めぼしい財産である不動産の取得者を分割協議で決める事ができたら、次にめぼしい預貯金で、定められ
た相続分に見合うべく調整をし、その他のもので隙間を埋めたら、最後に現金で微調整するという段取りになるかと
思われ、預貯金と現金は、何れも遺産分割 迄は「遺産の共有」の下で管理され、それぞれに遺産分割における、大き
さはともあれ、調整機能を担うこととなります。
 そして、その「調整」の一端としては、私が公証実務で度々経験した例として、専門家を通しての公正証書遺言の
場合ですが、預貯金が相続税の納税用として配分されることもありました。評価額が多額となる不動産だけを取得さ
せる場合は、それに伴う相続税についても配慮してあげるのです。預貯金は、判例いかんに拘わらず、重要な遺産分
割対象だったのです。
 可分債権の扱いについては、こちら
(私見) をご覧下さい。平成30年の相続法改正により、総体としての遺産のと
らえ方も、これ迄とは多少変わることとなります。こちらをご覧下さい。



不動産 遺産共有中の不動産の管理については、共有物の一般則として、単独でなし得る保存行為は別として、その
他の
利用・改良等の管理行為は共有者間の持分に応じた過半数で決し、共有物の変更は共有者全員の同意を要する
 (民法251条252条) 訳ですが、遺産共有中である畑を、相続人の一人が他の相続人の同意を得ることなく宅地に造成し
たという事案についての判例があります。

 共有者の一人が他の共有者の同意を得ることなく共有物に変更を加えた場合には、他の共有者は、特段の事情が
ない限り、変更により生じた結果を除去して共有物を原状に復させることを求めることができる旨判示した判例

 
(最判平10・30・24)


 
この判決は、判旨の理由を
「共有者は、
自己の共有持分権に基づいて、共有物全部につきその持分に応じた使用収益をすることができるので
あって
(民法二四九条、自己の共有持分権に対する侵害がある場合には、それが他の共有者によると第三者によるとを
問わず、
単独で共有物全部についての妨害排除請求をすることができ、既存の侵害状態を排除するために必要かつ
相当な作為又は不作為を相手方に求めることができると解されるところ、
共有物に変更を加える行為は、共有物の性
状を物理的に変更することにより、
他の共有者の共有持分権を侵害するものにほかならず、他の共有者の同意を得
ない限りこれをすることが許されない
(民法二五一条からである。

 もっとも、共有物に変更を加える行為の具体的態様及びその程度と妨害排除によって相手方の受ける社会的経済的
損失の重大性との対比等に照らし、あるいは、共有関係の発生原因、共有物の従前の利用状況と変更後の状況、共有
物の変更に同意している共有者の数及び持分の割合、共有物の将来における分割、帰属、利用の可能性その他諸般の
事情に照らして、他の共有者が共有持分権に基づく妨害排除請求をすることが権利の濫用に当たるなど、その請求が
許されない場合もあることはいうまでもない。

 これを本件についてみると、前記事実関係によれば、本件土地は、遺産分割前の遺産共有の状態にあり、畑として
利用されていたが、被上告人は、本件土地に土砂を搬入して地ならしをする宅地造成工事を行って、これを非農地化
したというのであるから、被上告人の右行為は、共有物たる本件土地に変更を加えるものであって、他の共有者の同
意を得ない限り、これをすることができないというべきところ、本件において、被上告人が右工事を行うにつき他の
共有者の同意を得たことの主張立証はない。

 そうすると、上告人は、本件土地の共有持分権に基づき、被上告人に対し、右工事の差止めを求めることができる
ほか、右工事の終了後であっても、本件土地に搬入された土砂の範囲の特定及びその撤去が可能であるときには、上
告人の本件請求が権利濫用に当たるなどの特段の事情がない限り、原則として、本件土地に搬入された土砂の撤去を
求めることができるというべきである。

 そうすると、被上告人が本件土地につき共有持分権に基づく使用権原を有しているとの一事をもって、上告人から
の共有持分権に基づく本件請求を棄却すべきものとした原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、この
違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである」
と判示しています。



  共有 ()管理、「都合252よらず、

      
持分過半にてすべし。

        但し、
保存此限こぎりでない。


   共有は、

     他
全員合意 
251なくば、変更できぬ。


重複になりますが、「遺産の管理」冒頭に掲出した判例を判文を含めた正式記載でここに再出したいと思います。
 共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきたときは、
特段の事情のない限り、被相続人と右の相続人との間において、右建物について、相続開始時を始期とし、遺産分割
時を終期とする使用貸借契約が成立していたものと推認されると判示した判例
 (最判平8・12・17)。

 
この判決の事案は、相続人の一部が遺産である不動産の全部を占有、使用して、他の相続人らにその持分に応じた
賃料相当額の損害を発生させているとして、不法行為に基づく損害賠償請求又は不当利得返還請求として、各自の持
分に応じた賃料相当額の支払を求めたものです。原審は、
「自己の持分に相当する範囲を超えて本件不動産全部を占有、使用する持分権者は、これを占有、使用していない他
の持分権者の損失の下に法律上の原因なく利益を得ているのであるから、
格別の合意のない限り、他の持分権者に対
して、共有物の賃料相当額に依拠して算出された金額について不当利得返還義務を負う」
と判断して、不当利得返還請求を認容したので、上告となりました。
 そして、この判決は、上記判旨の理由として、
「共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきたときは、
特段の事情のない限り、被相続人と右同居の相続人との間において、被相続人が死亡し相続が開始した後も、
遺産分
割により右建物の所有関係が最終的に確定するまでの間は、引き続き右同居の相続人にこれを無償で使用させる旨
の合意
があったものと推認されるのであって、被相続人が死亡した場合は、この時から少なくとも遺産分割終了まで
の間は、被相続人の地位を承継した他の相続人等が貸主となり、右同居の相続人を借主とする右建物の使用貸借契約
関係が存続することになるものというべきである。けだし、建物が右同居の相続人の居住の場であり、同人の居住が
被相続人の許諾に基づくものであったことからすると、遺産分割までは同居の相続人に建物全部の使用権原を与えて
相続開始前と同一の態様における無償による使用を認めることが、被相続人及び同居の相続人の通常の意思に合致す
るといえるからである。」
と述べています。原審が、「格別の合意のない限り」不当利得だとしたその 「格別の合意」 があるじゃあないか、と
いう訳ですね。



不動産賃貸料債権
 不動産の賃料相当額請求の事件が出ましたので、次にも、第三者である賃借人に対する同様事案について、遺産中
の可分債権の管理関係として、判例をご紹介します。

 相続開始から遺産分割 迄の間に共同相続に係る不動産から生ずる金銭債権たる賃料債権は、各共同相続人がその
相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得し、その帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けない旨判示した
判例
 (最判平17・9・8)

 
この判決の事案は、遺産である多数の不動産につきその賃料の入金先として銀行口座を開設し、そこから相続開始
後の管理費等の支出に充て、遺産分割後にその残高について相続人間で清算する段取りであったようですが、一先ず
遺産分割でそれら不動産の帰属が決まった後、それらから生じていた賃料債権の帰属は、相続開始時からなのか、そ
の後の遺産分割時からかが争われたものです。原審が、
「遺産から生ずる法定果実は、それ自体は遺産ではないが、遺産の所有権が帰属する者にその果実を取得する権利も
帰属するのであるから、遺産分割の効力が相続開始の時にさかのぼる以上、遺産分割によって特定の財産を取得した
者は、相続開始後に当該財産から生ずる法定果実を取得することができる。そうすると、本件各不動産から生じた賃
料債権は、相続開始の時にさかのぼって、本件遺産分割決定により本件各不動産を取得した各相続人にそれぞれ帰属
する」
としました。相続人らは銀行口座まで設けて、管理態勢を整え、残金で清算とのスキームを用意したのですが、その
清算方法について、分割迄の間の賃料債権共有事実を前提するか否かに争いが残り、上告があって、最高裁の判断を
待つことになりました。

 最高裁は、上記判旨のとおり判示し、その理由として
 「遺産は、相続人が数人あるときは、相続開始から遺産分割までの間、共同相続人の共有に属するものであるから、
この間に
遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産というべき
であって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得する
ものと解するのが相当である。
 遺産分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるものであるが、各共同相続人がその相続分に応じて分
割単独債権として確定的に取得した上記賃料債権の帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けないものというべきで
ある。
  したがって、相続開始から本件遺産分割決定が確定するまでの間に本件各不動産から生じた賃料債権は、被上告人
及び上告人らがその相続分に応じて分割単独債権として取得したものであり、本件口座の残金は、これを前提として
清算されるべきである。」
と述べています。

 この判例は、明快な理論立てで、それなりに説得的でもあるかの様ですが、その実際の扱いとなると、賃借人にと
っても、各相続人にとっても、複雑かつ面倒なこととなり、不都合この上ありません。原審は、各賃料債権について、
遺産分割によって、各不動産取得者の遡及単独取得となるとしたのに対し、最高裁は、相続開始と同時に、各賃料債
権について「相続分に応じ」確定的に分割された単有債権となる、遺産分割で不動産が誰の取得となろうが無関係だ、
と言うのですから、賃料を巡る債権債務関係としては、多数あるという全ての不動産について、分割迄の賃料債権が
全相続人に 相続分に応じ細分されることになります。それでは、各相続人も賃借人らも非常に困惑したと思います。
賃借人は、賃借不動産について、誰が相続人で、相続分は何割ずつなのか知る由もないですし、亡くなって、分けて
納めねばならなくなった賃料をいつから、分割後の単独取得者に全額を納めることになるのか、それは誰なのか、皆
目分からず、供託する他ないという面倒を掛けられることとなります。賃貸側の相続人も入金口座まで設けて 用意し
ていた態勢を否定された上、多数の不動産賃借人を相続分に応じて 支払いを求めるべく巡り歩かねばなりません。

 私は、その面倒を回避するためにも、「相続開始と同時に分属単有となる」などという民法427条の解釈による扱
いを見直し、派生賃料も含む全遺産を 遺産分割までの共有とするのが、遺産分割を非訟事件として遺産全体の安定的
承継を図ろうとする法本来の趣旨に合致すると思います。896条により「一切の権利義務」が承継され、それが898
により「共有」されるのですから、この事件でも、相続人らが用意した管理スキームを「共有財産の管理」として
肯認し、前提して判断すべきだと思います。

共有」と「帰属」と 遡及清算
 事は、相続に伴う共有
財産 管理の問題であり、管理中の収益は、その期中に生起する修理・維持費や管理費に充
当しなければならず、収益の都度各相続人に当然分属するなどと言ってはいられないのです。遺産分割が決まった時
点でこれら管理中の収益と費用を清算して、残金は遡及取得をした相続人に帰属する、本件当事者の用意した態勢は、
理に叶った自然なものです。分割迄の相続財産は、法が認める「遺産の共有」に基づいて管理さるべきであって、分
割の効力を相続開始時に遡るとする909条も、その管理事実を無視して覆す規定ではありません。期中の管理と分割
結果との、つまり、「共有」と「帰属」との、遡及「清算」をすれば良いのです。帰属を探求する「相続」の途とし
て、法は、その様に定めているのであって、それにより、帰属による税負担等の対処もされるものと解すべきです。
判例は、やはり、これ迄の「可分債権の相続分宛て当然分属」ドグマに捉われて事の本質を見失っていると言うべき
です。こちらをご覧下さい。


 次には、賃料でなく一般の
可分債権に関する判例を見てみたいと思います。〔可分債権については、平成30年相続
法改正
により、遺産の中での位置づけが、ここに掲げる判例とは大きく変わりました。まずは、その点を確認されて
から、読まれた方が理解し易いのではないかと思います。こちらをご覧下さい。〕

 相続人数人ある場合において、相続財産中に金銭その他の可分債権あるときは、その債権は法律上当然分割され各
共同相続人がその相続分に応じて権利を承継するものと解すべきであると判示した判例
 (最判昭29・4・8)

 
この判決は、上記判旨につき、その理由を述べていません。従来、この可分債権の相続開始時当然分割の根拠法条
と言われている民法427条についての言及もなく、また、最高裁がこの判例の「参照法条」として挙げるているのも、
遺産共有を定める民法898条とその共有持分を相続分とする旨の899条だけですから、上記の私見でも触れましたよ
うに、何故他の相続財産と切り離して、可分債権だけを共有とせず、分属単有させるのか疑問が残ります。なお、こ
こ判例は、平成30年の相続法改正により、完全に否定されましたから、今後相続実務において依拠されることは、
ありません。こちらをご覧下さい。


 次に、これも可分債権に関する判例で、相続分を超えて回収した場合どうなるかという点についてのものです。


 共同相続人甲が相続財産中の可分債権につき権限なく自己の相続分以外の債権を行使した場合には、他の共同
相続人乙は、甲に対し、侵害された自己の相続分につき、不法行為に基づく損害賠償又は不当利得の返還を求める
ことができると判示した判例
 (最判平16・4・20)
 この判決は、その理由として、
「相続財産中に可分債権があるときは、その債権は、相続開始と同時に
当然に相続分に応じて分割されて各共同相続
人の分割単独債権となり、共有関係に立つものではないと解される
(最高裁昭和27年(オ)第1119号同29年4月8日第一
小法廷判決・民集8巻4号819頁、前掲大法廷判決参照)
。したがって、共同相続人の1人が、相続財産中の可分債権につき、
法律上の権限なく自己の債権となった分以外の債権を行使した場合には、当該権利行使は、当該債権を取得した他の
共同相続人の財産に対する侵害となるから、その侵害を受けた共同相続人は、その侵害をした共同相続人に対して不
法行為に基づく損害賠償又は不当利得の返還を求めることができるものというべきである」
と述べています。

 結局、判例①を参照判例として挙げるものの、共有でなく当然分割とする根拠法条は示されないままとなっていま
す。何故、こうも曖昧なまま、半世紀以上の長年月の間、可分債権の相続関係が、他の財産の相続関係から切り離さ
れる結果となっているのでしょうか。私には分かりません。やはり、相続財産は全て民法898条の言うとおり共有と
するべきです。この判例も、平成30年の相続法改正により、今後 相続実務で依拠されることはないと考えます。
こちらをご覧下さい。
 この判例の様な事例の場合、今後は新設された906条の2により、分割前の共有遺産の処分は、処分がなかったもの
として、その処分者の分割取得とする形で事態収集されることになります。

 次に、連帯債務の相続に関する判例がありますので、これをご紹介します。

 連帯債務者の一人が死亡し、その相続人が数人ある場合に、相続人らは、被相続人の債務の分割されたものを承
継し、各自その承継した範囲において、本来の債務者とともに連帯債務者となると解すべきであると判示した判例
 
(最判昭34・6・19)

 この判決は、その理由として
「連帯債務は、数人の債務者が同一内容の給付につき各独立に全部の給付をなすべき債務を負担しているのであり、
各債務は債権の確保及び満足という共同の目的を達する手段として相互に関連結合しているが、なお、可分なること
通常の金銭債務と同様である。ところで、債務者が死亡し、相続人が数人ある場合に、被相続人の金銭債務その他の
可分債務は、
法律上当然分割され、各共同相続人がその相続分に応じてこれを承継するものと解すべきであるから
(大審院昭和五年(ク)第一二三六号、同年一二月四日決定、民集九巻一一一八頁、最高裁昭和二七年(オ)第一一一九号、同二九年四月八日
第一小法廷判決、民集八巻八一九頁参照)
、連帯債務者の一人が死亡した場合においても、その相続人らは、被相続人の債
務の分割されたものを承継し、各自その承継した範囲において、本来の債務者とともに連帯債務者となると解するの
が相当である」
と判示しています。相続債務の承継は、相続が包括承継であることから当然であり、しかし、積極財産とは異なり、
相続人が、遺産分割を経ることなく、相続開始と同時に相続分に応じて、負担することは、この判決の言う通りです。
判例は、その連帯債務に関する応用問題ということになります。改正法に沿う、異論のない結論です。こちらをご覧
下さい。


株式・投資信託・国債
等の金融資産に関する判例も見てみます。この判例も、平成30年の相続法改正により、今後
は、相続実務において依拠され得ないものとなります。こちらをご覧下さい。


 共同相続された株式、委託者指図型投資信託の受益権、個人向け国債は、いずれも相続開始と同時に当然に相続
分に応じて分割されることはないと判示した判例
 
(最判平26・2・25) 

 この判決は、その理由として、まず株式についての分割を、
株式は、株主たる資格において会社に対して有する法律上の地位を意味し、株主は、株主たる地位に基づいて、剰
余金の配当を受ける権利
(会社法105条1項1号)、残余財産の分配を受ける権利(同項2号)などのいわゆる自益権と、株
主総会における議決権
(同項3号)などのいわゆる共益権とを有するのであって(最高裁昭和42年(オ)第1466号同45
年7月15日大法廷判決・民集24巻7号804頁参照)
、このような株式に含まれる権利の内容及び性質に照らせば、共同相続
された株式は、
相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものというべきである(最高裁昭和
42年(オ)第867号同45年1月22日第一小法廷判決・民集24巻1号1頁等参照)
 」と論じた後、投信受益権について、
「 本件
投信受益権のうち、本件有価証券目録記載3及び4の投資信託受益権は、委託者指図型投資信託(投資信託及び
投資法人に関する法律2条1項)
に係る信託契約に基づく受益権であるところ、この投資信託受益権は、口数を単位とする
ものであって、その内容として、法令上、償還金請求権及び収益分配請求権
(同法6条3項)という金銭支払請求権のほ
か、信託財産に関する帳簿書類の閲覧又は謄写の請求権
(同法15条2項)等の委託者に対する監督的機能を有する権利
が規定されており、可分給付を目的とする権利でないものが含まれている。このような上記投資信託受益権に含まれ
る権利の内容及び性質に照らせば、共同相続された上記投資信託受益権は、
相続開始と同時に当然に相続分に応じて
分割されることはない
ものというべきである。また、本件投信受益権のうち、本件有価証券目録記載5の投資信託受
益権は、外国投資信託に係る信託契約に基づく受益権であるところ、外国投資信託は、外国において外国の法令に基
づいて設定された信託で、投資信託に類するものであり
(投資信託及び投資法人に関する法律2条22項)、上記投資信託受益権
の内容は、必ずしも明らかではない。しかし、外国投資信託が同法に基づき設定される投資信託に類するものである
ことからすれば、上記投資信託受益権についても、委託者指図型投資信託に係る信託契約に基づく受益権と同様、

続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはない
ものとする余地が十分にあるというべきである。 」
と述べ、また、個人向け国債については
「本件国債は、個人向け国債の発行等に関する省令2条に規定する個人向け
国債であるところ、個人向け国債の額面
金額の最低額は1万円とされ、その権利の帰属を定めることとなる社債、株式等の振替に関する法律の規定による振
替口座簿の記載又は記録は、上記最低額の
整数倍の金額によるものとされており(同令3条)、取扱機関の買取りによ
り行われる個人向け国債の中途換金
(同令6条)も、上記金額を基準として行われるものと解される。そうすると、個
人向け国債は、法令上、一定額をもって権利の単位が定められ、1単位未満での権利行使が予定されていないものと
いうべきであり、このような個人向け国債の内容及び性質に照らせば、共同相続された個人向け国債は、
相続開始と
同時に当然に相続分に応じて分割されることはない
ものというべきである。」
と述べています。これにより、これらの所謂 金融資産は、いずれも、相続開始と同時に民法898条どおり全相続人の
共有となり、遺産分割協議の成立を待ってはじめて分割されることになります。結論は、それで良いのですが、スタン
スは、あくまで当然の既分割を大前提として、それを覆し不分割とする理屈付けに汲々としている観があります。ど
うして、そこまで拘らずに、「当然の共有、そして、遺産分割」とすることができなかったのでしょうか。

次に生命保険金についての判例をご紹介します。

 被相続人を保険契約者及び被保険者とし、共同相続人の1人又は一部の者を保険金受取人とする養老保険契約に
基づき保険金受取人とされた相続人が取得する死亡保険金請求権は、原則として、民法903条1項に規定する遺
贈又は贈与に係る財産には当たらない旨を判示した判例
(最判平14・11・5) (最判昭40・2・2)

 この判決は、その理由として
「被相続人が自己を保険契約者及び被保険者とし、共同相続人の1人又は一部の者を保険金受取人と指定して締結し
た養老保険契約に基づく死亡保険金請求権は、その保険金受取人が自らの固有の権利として取得するのであって、
保険契約者又は被保険者から承継取得するものではなく、これらの者の相続財産に属するものではないというべき
である
(最高裁昭和36年(オ)第1028号同40年2月2日第三小法廷判決・民集19巻1号1頁参照)
 また、死亡保険金請求権は、被保険者が死亡した時に初めて発生するものであり、
保険契約者の払い込んだ保険料
と等価関係に立つものではなく、被保険者の稼働能力に代わる給付でもない
のであるから、実質的に保険契約者又
は被保険者の財産に属していたものとみることはできない
(最高裁平成11年(受)第1136号同14年11月5日第一小法廷
判決・民集56巻8号2069頁参照)

 したがって、上記の養老保険契約に基づき保険金受取人とされた相続人が取得する死亡保険金請求権又はこれを行
使して取得した死亡保険金は、民法903条1項に規定する遺贈又は贈与に係る財産には当たらないと解するのが相当
である。
 もっとも、上記死亡保険金請求権の取得のための費用である保険料は、被相続人が生前保険者に支払ったものであ
り、保険契約者である被相続人の死亡により保険金受取人である相続人に死亡保険金請求権が発生することなどにか
んがみると、
保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし
到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情
が存する場合には、同条の類推適用に
より、当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象となると解するのが相当である。
 上記特段の事情の有無については、保険金の額、この額の遺産の総額に対する比率のほか、同居の有無、被相続人
の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係、各相続人
の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して判断すべきである。 」
と判示しました。

 生命保険金も次の退職金も、何れも、被相続人が 生前 他者との契約によって準備し、死後 受取人に支給されます。
そして、それは相続としてでなく、世代を超える契約の効力によって権利の行使に至ります。信託契約が相続に代わ
るものとして、いわゆる「後継ぎ相続」も可能とする世代を超えるものとして、注目され、普及が予想されています。
生命保険金も、それと同系の承継方途ですから、「相続」プロパーの対象ではなく、相続の視点からどう捉えるかと
いう判断を介すことになります。

 そして、この判例は、要するに、受け取る保険金額が他の相続人の取得する財産と比べて多すぎて 相続人間の不公
平が見過ごせない程であれば、やはり保険金も遺産とみなされ、計算上の持戻しにより遺産のパイに加えられて、そ
れによる「みなし遺産」を、定められた相続分で分けることになる訳ですが、その見過ごせない程の不公平と言える
節目はどこにあるのか、ということが問題になります。

 少なくとも、他の相続人の取得分が、そのパイを基礎に
(債務総額も控除して)算定した遺留分(クオレの半分)にも及ば
ないということになれば、その節目を超えたと言えるのではないでしょうか。遺留分の節目についてこちらもご覧下
さい。但し、生命保険金については、見過ごせぬ節目を超えたとしても「減殺」 或は 「遺留分侵害額請求」の域に
入るということではなく、本来、その相続人の固有資産となったものについては、そこ迄することはできず、持戻し
の上、個戻残分を算定して、その調整
(相続)分によって卒時遺産を分けるに留まるとするべきでしょう。なお、相続税
の領域では、一人の相続人に500万円を超える保険金が渡る場合
(次の退職金も同様です)は、課税対象とされることも留意
点となります
(→相続税算定のあらまし)


退職金 についての判例もご覧下さい。

 死亡退職金の支給等を定めた特殊法人の規程に、死亡退職金の支給を受ける者の第一順位は内縁の配偶者を含む
配偶者であつて、配偶者があるときは子は全く支給を受けないことなど、受給権者の範囲、順位につき民法の規定す
る相続人の順位決定の原則とは異なる定め方がされている場合には、右死亡退職金の受給権は、相続財産に属さず、
受給権者である遺族固有の権利である旨判示した判例
 (最判昭55・11・27)

 この判決は、その理由として、
「原審の適法に確定したところによれば、被上告人の「職員の退職手当に関する規程」二条・八条は被上告人の職員
に関する死亡退職金の支給、受給権者の範囲及び順位を定めているのであるが、右規程によると、死亡退職金の支給
を受ける者の第一順位は内縁の配偶者を含む配偶者であつて、配偶者があるときは子は全く支給を受けないこと、直
系血族間でも親等の近い父母が孫より先順位となり、嫡出子と非嫡出子が平等に扱われ、父母や養父母については養
方が実方に優先すること、死亡した者の収入によつて生計を維持していたか否かにより順位に差異を生ずることなど、
受給権者の範囲及び順位につき民法の規定する相続人の順位決定の原則とは著しく異なつた定め方がされているとい
うのであり、これによつてみれば、右規程は、専ら職員の収入に依拠していた遺族の生活保障を目的とし、
民法とは
別の立場で受給権者を定めたもので、受給権者たる遺族は、相続人としてではなく、右規程の定めにより直接これを
自己固有の権利として取得する
ものと解するのが相当であり、そうすると、右死亡退職金の受給権は相続財産に属さ
ず、受給権者である遺族が存在しない場合に相続財産として他の相続人による相続の対象となるものではないという
べきである。」
と判示しています。生命保険金も退職金も、何れも、被相続人が 生前に他者との契約によって準備し、死後、受取人
に支給されるものです。そして、それは相続としてでなく、世代を超える契約の効力によって権利の行使に至ります。
信託契約が相続に代わるものとして、いわゆる「後継ぎ相続」も可能とする世代を超えるものとして、注目され、普
及が予想されていますが、それと同系の承継方途ですから、「相続」プロパーの対象ではなく、相続の視点からどう
捉えるかという判断を介すことになります。前項 生命保険金の記述を参照下さい。



相続回復請求権 (請求に対する時効の援用権者)
 
民法884条は、その柱書を(相続回復請求権)とした上、
相続回復の請求権は、
相続人
又は その法定代理人が相続権を侵害された事実を知った時から五年間行使しないときは時効によって消滅する。
相続開始の時から二十年を経過したときも、同様とする。

と定めます。ところが、この柱書の七文字も、「相続回復」の四文字も、民法のどこを探しても他には出てきません。
全く唐突にここに登場する相続回復の請求権なのです。したがって、この権利の何たるかについては、民法の条文を
見ているだけでは分かりません。明治以来、外国の法を取入れつつ変遷してきた民法の中で、孤塁を守るように残る
この条文については、ですから、そのような民法の歴史も踏まえた諸説が入り乱れて帰一するところがありません。
そこで、判例ではどのように説かれているかを見てみたいと思います。

この相続回復請求の相手方についての、次のような判例があります。

1 共同相続人の一人甲が、相続財産のうち自己の本来の相続持分を超える部分につき他の共同相続人乙の相続権を
否定し、その部分もまた自己の相続持分に属すると称してこれを占有管理し、乙の相続権を侵害しているため、乙が
右侵害の排除を求める場合には、
民法八八四条の適用があるが甲においてその部分が乙の持分に属することを知つ
ているとき、又はその部分につき甲に相続による持分があると信ぜられるべき合理的な事由がないときには、同条の
適用が排除される
旨判示した判例 (最判昭53・12・20)

この判決は、その理由として、
「思うに、自ら相続人でないことを知りながら相続人であると称し、又はその者に相続権があると信ぜられるべき合
理的な事由があるわけではないにもかかわらず自ら相続人であると称し、相続財産を占有管理することによりこれを
侵害している者は、本来、相続回復請求制度が対象として考えている者にはあたらないものと解するのが、相続の回
復を目的とする制度の本旨に照らし、相当というべきである。

 そもそも、相続財産に関して争いがある場合であつても、相続に何ら関係のない者が相続にかかわりなく相続財産
に属する財産を占有管理してこれを侵害する場合にあつては、当該財産がたまたま相続財産に属するというにとどま
り、その本質は一般の財産の侵害の場合と異なるところはなく、相続財産回復という特別の制度を認めるべき理由は
全く存在せず、法律上、一般の侵害財産の回復として取り扱われるべきものであつて、このような侵害者は表見相続
人というにあたらないものといわなければならない。

 このように考えると、当該財産について、
自己に相続権がないことを知りながら、又はその者に相続権があると信
ぜられるべき合理的事由があるわけではないにもかかわらず、自ら相続人と称してこれを侵害している者は、自己の
侵害行為を正当行為であるかのように糊塗するための口実として名を相続にかりているもの又はこれと同視されるべ
きものであるにすぎず、
実質において一般の物権侵害者ないし不法行為者であつて、いわば相続回復請求制度の埓外
にある者にほかならず、その当然の帰結として相続回復請求権の消滅時効の援用を認められるべき者にはあたらない
というべきである。

 これを共同相続の場合についていえば、共同相続人のうちの一人若しくは数人が、他に共同相続人がいること、ひ
いて相続財産のうちその一人若しくは数人の本来の持分をこえる部分が他の共同相続人の持分に属するものであるこ
とを知りながらその部分もまた自己の持分に属するものであると称し、又はその部分についてもその者に相続による
持分があるものと信ぜられるべき合理的な事由
(たとえば、戸籍上はその者が唯一の相続人であり、かつ、他人の戸籍に記載された共同
相続人のいることが分明でないことなど)
があるわけではないにもかかわらずその部分もまた自己の持分に属するものである
と称し、これを占有管理している場合は、もともと相続回復請求制度の適用が予定されている場合にはあたらず、し
たがつて、その一人又は数人は右のように相続権を侵害されている他の共同相続人からの侵害の排除の請求に対し相
続回復請求権の時効を援用してこれを拒むことができるものではないものといわなければならない。」
と述べています。

 これによれば、真正な相続人ではない者が、相続権侵害を糊塗するための単なる口実としてではなく、戸籍等によ
る一見相続権があるとの様相の下に相続の名において遺産を取得していた場合の、真正な相続人からの遺産の取戻し
請求を相続回復請求と言い、これには、民法884条
(侵害されたことを知ってから)五年、(相続開始から)二十年の時効が
ある旨を定めている、ということになります。

 ここに登場する真正な相続人ではない者を「
表見相続人」と言います。「表見」とは言いながら、相続人のフリし
た不法占有者ということではなく 
(その様な者は「相続回復請求制度の埒外」と説かれています) 、戸籍記載等から合理的に相続
人であるとされていた者である事が必要であり、その様な表見相続人に対する真正相続人からの相続回復請求権は、
所定の時効期間の経過により消滅する、とされます。



    表見相続 やりけた相続人

         
のみなりし相続

      (知ってから)
(相続開始から)二十() 

            
回復(請求権)時効消滅光陰 (疾し) やばし884



他に共同相続人がいることについての「善意かつ合理的事由の存在」の立証責任
 そして、その後、上記判例の場合の様に、共同相続人からその相続権を侵害しているとして侵害排除を求められた
相続人が、相続回復請求権の消滅時効を援用するときの主張立証責任に関する次の判例が出ることになります。

○2
共同相続人相互の間で一部の者が他の者を共同相続人でないものとしてその相続権を侵害している場合において、
相続回復請求権の消滅時効を援用しようとする者は
真正共同相続人の相続権を侵害している共同相続人が、当該相
続権侵害の開始時点において、他に共同相続人がいることを知らず、かつ、これを知らなかったことに合理的な事由
があったことを立証すべきである旨を判示した判例
 (最判平11・7・19)

 この判決は、上記昭和53年の判例によって、真正共同相続人の相続権を侵害している共同相続人が、他に共同相続
人がいること、ひいて相続財産のうち自己の本来の持分を超える部分が他の共同相続人の持分に属するものであるこ
とを知り、又は、その部分についても自己に相続による持分があるものと信ぜられるべき合理的な事由があるわけで
はないにも拘わらず、その部分もまた自己の持分に属するものであると称し、これを占有管理している場合は、相続
回復請求権の消滅時効を援用して真正共同相続人からの侵害の排除の請求を拒むことはできない旨述べた上、原審が、

「被上告人らが侵害部分が上告人の持分に属することを知っていたこと、又は 侵害部分についても被上告人らに相続
持分があるものと信ぜられるべき合理的な事由がなかったことを認めるに足りる証拠はない。かえって、本件におい
ては被上告人らにおいて積極的に侵害行為をしたものではなく、大垣市の誤った代位登記によ り結果的に上告人の持
分を侵害することとなった経緯や被相続人に関して極めて複雑な相続関係が生じていたことなどにかんがみると、被
上告人らにはこの点に関する悪意 ないし過失はなかったものと推認される。」
として侵害相続人による時効の援用を認めたのに対し、このような場合、
「相続回復請求権の消滅時効を援用しようとする者は、真正共同相続人の相続権を侵害している共同相続人が、
相続
権侵害の開始時点において、
 他に共同相続人がいることを知らず、かつ、これを知らなかったことに合理的な事由
あったこと
(以下「善意かつ合理的事由の存在」という。)を主張立証しなければならないと解すべきである。
 なお、このことは、真正共同相続人の相続権を侵害している共同相続人において、
相続権侵害の事実状態が現に存
在することを知っていたかどうか、又はこれを知らなかったことに合理的な事由があったかどうかにかかわりない

ものというべきである。」
と判示し、
「原判決は、被上告人らに悪意ないし過失はなかったと判示しているが、 上告人と被上告人らが両親を同じくするこ
とは証拠上明らかであり、 内一人が上告人と特に親しくしていた事実も認定されていることにかんがみると、 右判示
にいう悪意ないし過失は、本件登記に上告人の相続権を侵害する部分が存することについての悪意ないし過失、すな
わち本件登記が存在することを知っていたこと、又は本件登記の存在を知らなかったことに合理的な事由がなかった
ことをいうものと解され、前記の善意かつ合理的事由の存在について正当に認定判断してい るものとは認められない
(原判決は、同被上告人らが
本件登記が存在することを知っていたかどうか、又は本件登記の存在を知らなかったこ
とに合理的な事由があったかどうかのみを判断して、右の善意かつ合理的事由の存在について認定判断をしていな
)。」
等の理由を挙げて原判決を破棄し、差し戻しました。

 これによれば、相続回復請求制度の埒外にある者を排除することに力点が置かれていた上記○1の判例に対し、こ
の判例では正面から同制度の対象である「
表見相続人」を措定するための判断を示し、共同相続の場合、他に共同相
続人がいることを知らず、かつ、これを知らなかったことに合理的な事由があったことが必要であるとしています
(相続権の侵害を知っていたか、とか、侵害を知らなかったことに合理的事由があったかどうかではないとしています)。そして、その様な表見
相続人であれば、相続回復を阻む時効の援用が許される、ということになります。
 ですから、言葉のニュアンスが悪い「表見」相続人ですが、むしろ、ここでは、そう言える為には、
他に共同相続
人がいることについて「
善意・合理」の相続人であることが必要であり、その様な相続人でないと、相続回復請求
(阻止)
制度での時効の主張は許されない、ということに帰結します。

 次には、真正相続人からの相続回復請求に対し、相手方僭称相続人側は、取得時効による所有権の主張ができるか、
という点が問題となります。

相続回復請求権と僭称相続人の取得時効
 
真正相続人が相続回復請求権を行使した場合、相手方である僭称相続人が民法162条の取得時効による所有権を主
張することができるかという点について、判例は、古くから取得時効の規定は一般規定であり、相続回復請求権の
消滅時効
規定はそれに対する特別規定であるからとの理由で、後者の効力が優先するとし、相続回復請求権が消滅
時効にかからないうちは、僭称相続人が相続財産に属する不動産を占有して来ていても、時効によって所有権を取得
することはない旨を説いてきています
(大判明治44・7・10、同昭和7・2・9)。いずれも戦前の古い判例で、その後の新たな
判断が待たれるところです。
 しかし、相続回復請求権が争われた事例ではありませんが、共同相続人間に民法884条が適用になるとすれば、こ
の古くからの判例と相容れない判示となるのではないかと指摘される判例があります。

 最判昭和47年9月8日です。この判決は、
「原審の適法に確定したところによれば、
昭和一五年一二月二八日訴外Dの死亡に より同人所有の本件土地について、遺産相続が開始し、原判示の続柄にある
E、F、上告人であるA1・A2・A3の五名が共同相続をしたが、そのうち
 Fが昭和一八年二月一日死亡したので、原判示の続柄にあるG、H、I、J、Kの 五名が同人の遺産相続をしたも
のであるところ、EはD死亡当時D家の戸主であつ たので、当時は家督相続制度のもとにあつた関係もあり、家族で
あるDの死亡によ る相続が 共同遺産相続であることに想到せず、本件土地は 戸主たる自己が単独で相 続したものと
誤信し、原判示のような方法で 自己が単独に所有するものとして 占有使用し、その収益はすべて自己の手に収め、
地租も自己名義で納入してきたが、
 昭和三〇年初頃 長男である被上告人に本件土地を贈与して引渡し、爾後、被上告人において E同様に単独所有者
として占有し、これを使用収益してきた。
 一方、前記亡F、上告人A1・A2・上告人A3らは、いずれもそれぞれDの遺産相続をした事実を知らず、Eお
よび被上告人が右のように本件土地を単独所有者として占有し、使用収益していることについて全く関心を寄せず、
異議を述べなかつたと いうのである。
 ところで、右のように、

 共同相続人の一人が、単独に相続したものと信じて疑わず、相続開始とともに相続財産を現実に占有し、その管理、
使用を専行してその収益を独占し、公租公課も自己の名でその負担において納付してきており、これにつ いて他の
相続人がなんら関心をもたず、もとより異議を述べた事実もなかつたような場合には、前記相続人はその相続のとき
から自主占有を取得したものと解するの が相当である。

 叙上のような次第でEしたがつて被上告人は本件土地を自主占有し てきたものというべきであり、これと同趣旨の
原審の判断は相当である。」
と述べています。


 
これによれば、相続回復請求の相手方である‘相続人’が前述の「表見相続人」であれば、善意・合理の相続人ですか
ら、回復請求権が時効にかからぬ内は、真正相続人が相手に消滅の時効主張を許さずに回復請求できます。時効にか
かってしまうと、相手方の時効援用により回復請求は不可です。そして、相手方が悪意・不合理の僭称相続人である
場合、その者が判例○1で言う「相続回復請求制度の埒外」であるとされてしまうと、その様な者を相手とする相続
回復請求制度が利用できず、その上その僭称相続人からの取得時効の主張も可能となるのか、と勘違いしそうです。
しかし、そうではなく、埒外 と言うのは、その僭称者が回復の消滅時効による保護の埒外であるという事ですから、
僭称者に対する真正者からの相続回復請求は、消滅時効期間の経過の有無を問わず、可能です。
 ですから、これらの場合、回復請求が奏功するのか、相手方による取得時効の主張が成立するのか、ということで
あり、相続回復請求制度には特別規定であることによる優先がある とすれば、前者が正しいと思いますが、今後の展
開が待たれます。

 いずれにしても、私は、共同相続人間限りの争いであれば、登記手続きを践まない侭 長年月が経過する事もあり得
でしょうから、その場合は、この判例の言う様に取得時効が成り立つとするのが妥当かとも思います。

 しかし、平成30年の相続法改正は、少なくとも、時代状況として、取引安全と公示の必要が第一義的に強調さ
れる状況となりましたから、共同相続の場面でも、権利の帰属については登記が事を決することになると思います。
ですから、相続登記の義務化も目前に迫っていることも踏まえると、今後は、真正相続人か表見相続人か、それと
も僭称相続人かなどと悩むことも少なくなるのではないか、相続における登記反映の一般化が相続にまつわる紛争を
相当に予防する効果をもたらすのではないかと期待しています。


 2021年2月10日 相続登記の義務化に関する報道がなされましたので、転載します。そして、平成30年の相続
法改正との関係でこちらもご覧下さい。

相続登記義務化を答申 「所有者不明土地」解消で―法制審    時事ドットコムニュース

 法制審議会(法相の諮問機関)は10日、長年登記が変更されず放置されている「所有者不明土地」の解消策とし
て、相続登記の義務化などを盛り込んだ民法と不動産登記法の改正要綱を上川陽子法相に答申した。法務省は今国会
に関連法案を提出する方針。

 人口減による土地利用のニーズ低下などを背景に、所有者不明土地の増加が社会問題となっている。改正要綱では、
亡くなった土地所有者の配偶者や子といった相続人に対し、取得を知ってから3年以内の登記申請を義務化。正当な
理由なく怠れば10万円以下の過料を科すこととした。
 一方、相続人の申し出のみで登記ができる制度や、所有不動産の一覧を証明書として発行する制度を設け、登記手
続きの負担軽減を図る。新法をつくり、建物がないなどの条件を満たし、10年分の管理費相当額を納めれば、相続
した不要な土地の国有地化を認める制度創設も盛り込まれた。
 また、所有者不明土地を活用するため、民法の財産管理制度を見直す。裁判所が管理命令を出し、所有者不明土地
の管理人を選任。管理人は裁判所の許可を得れば、所有者に代わって土地を売却できるようにする。
 相続人による遺産分割が行われず、複数人による共有状態となった土地については、一部の所有者が不明でも、裁
判所の決定を経て利用や処分を可能とする。相続開始後10年経過しても分割協議が行われなければ、法定相続分で
分割を行える仕組みも設け、土地が共有状態とならないよう促す。


所有者不明土地 土地や家屋の所有者が死亡した際、相続登記されておらず、相続財産管理人も選任されていない場
合などに発生する。2016年時点の面積は、九州より広い約410万ヘクタールに上り、40年には北海道に迫る
約720万ヘクタールまで増えるとの民間推計もある。荒廃による周辺環境の悪化だけでなく、公共事業の用地買収
や災害時の復旧・復興事業などの障害にもなっている。









戸籍 とは
 国民の身分登録が戸籍です。戸籍は
夫婦及び夫婦と氏を同じくする未婚の子を単位として編製されます
(戸籍法6条)。夫婦とその間の子が同じ「氏」の下に在籍しますから、「氏」には 家族の呼称という意義もあり、
また、家族は基本的に戸籍を同じくする、とも言えます。
 ですから、「
夫婦・親子(は)同氏の原則(民法750条790条)が採られている日本の戸籍の下で、夫婦の子が
結婚すれば、新夫婦二人の内、その婚前氏を夫婦の氏とした者を戸籍筆頭者として、新たな戸籍が編製され
(戸籍法16条)、親と別の戸籍となります。一つの戸籍に二つの夫婦が在籍することはありません。

 ですから、その子夫婦が、親と二世代住宅に同居したとした場合には、戸籍はその居住関係を反映しないの
で、その様な現実の家族共同生活を反映する為、住居及び生計を共にする者の集まりである世帯ごとの住民
基本台帳とそれに基づく住民票が、市区町村ごとに作成されます。

 これらの内、戸籍事務は本来国の事務ですが、地元にあって住民と密に接している市区町村長に委託する形
で行われています。市区町村長が、国から戸籍事務の委託を受け、法務局の監督下で、法務大臣の定めた基準
に従って戸籍事務を行います。

 国民の身分を公証するための重要書類である戸籍帳簿類は持出しが厳禁される厳重な取扱いになります。
 また、届出義務があるのに正当な理由なくこれを怠ると5万円以下の過料に処せられます
(戸籍法137条)
 勿論、虚偽の届出をした場合は更に重い懲役刑
(1年以下の懲役又は20万円以下の罰金:戸籍法134条)にも処せられます。

 人の生まれて亡くなる迄の家族の長い道のりには、その始まりと終わりの出生届けから死亡届け、そして、
その間にも、婚姻届け、縁組届け、それらが終わる離婚届け、離縁届け、場合によっては婚姻の間にも認知届
け、又、離婚に伴う、子の氏の変更
 ( のための「入籍届」)、場合により婚氏続称届け、更には、配偶者が亡くなっ
た後の姻族関係終了届け等々、家族生活にまつわる様々な届出が必要になり、又は、なることがあります。

 それらの内には、出生や死亡、裁判離婚
 ( 判決の確定により効果が発生します ) の様に既成事実や法律事実ついて行
う報告的な報告的届出と、婚姻や協議離婚の様にそれによって法的な効果が生じる創設的な創設的届出とが
あります。

 報告的届出については、定められた届出義務者に義務違反があると上記の様な制裁があります。創設的届出
(婚姻又は離婚のほか、認知、縁組、離縁の届出)は、その届出によってその身分行為が成立します。

 何れの届出も、戸籍窓口に出頭した届出人に対しては、運転免許証
(写真入り公的身分証明書)等によりその者の
本人確認をします。
 届出の際は、届書の記載を形式面で落ちがないか審査するだけであることから、虚偽の届けも受理され得ま
す。それで、認知、縁組、離縁、婚姻、離婚の届出をした者が届出事項の当事者本人でないときは、受理後に
役所から当事者本人に対し、その意思なくしてなされた届出である場合それに対処することができるよう、受
理通知を出します
(郵送による届出については、すべて本人に通知します)
 これら創設的届出が虚偽であった場合、その届出人は、届出行為について上記の制裁を受け、それにより
戸籍に虚偽の記載がなされるに至った場合には公正証書原本不実記載罪
(5年以下の懲役又は50万円以下の罰金:刑法
157条)
による刑罰を受けます。
 勿論、届出事項の本人にその意思がないのに届けられた身分行為は
無効です。
 しかし、無効な届出記載に対処するための「
戸籍訂正(戸籍法113条)は、その身分行為の無効確認の裁判が
必要となる(戸籍法116条)ため、なかなか大変です
(例えば、こちらをご覧下さい)
 虚偽の届出がなされる恐れがあるときは、予め 役所戸籍係に、自分が窓口に来て届けるのでない限り 受理
しないよう申し出ておくと、受理されずに済みます(戸籍法27条の2)。不受理申出」と言います
(→戸籍情報の入手)

戸籍の訂正

 戸籍の記載が法律上許されないものであったり又はその記載に事実と異なる点や落ち がある場合には、
戸籍訂正
の手続きをとることとなります。訂正される事柄は、氏名であったり、出生や死亡にまつわる事項、
父母の欄や 婚姻事項等の訂正のほか、国籍喪失事項の訂正や、複本籍を解消する訂正など様々ありますが、
これらの場合の戸籍訂正の手続きは、原則、利害関係人から家裁に戸籍訂正の許可を申し立て
(戸籍法113条
その許可の審判書謄本を添付して1か月以内に戸籍訂正申請をします(戸籍法115条
 戸籍は人の重要な身分に関するものなので、その訂正を関係者の意思に発する裁判所の手続によることとし
たものです。

 なお、認知、縁組、離縁、婚姻、離婚の届出が虚偽であった場合は、上記のとおり、その無効確認の裁判
を経た上での戸籍訂正になります。具体的には、無効の判決を得て、その判決が確定した日から1か月以内に、
判決書謄本を添附して家裁に戸籍の訂正を申請します(戸籍法116条)
 虚偽の届出を防ぐため上記の不受理申出制度がありますが、当事者にそのような届出があり得ると予想して
対処せよとすること自体無理があると思われますし、一旦その様な虚偽の届出がなされたら 裁判を起こさね
ばならないというのも理不尽な話です。こちらも参照下さい。

 戸籍情報の入手は、昔は誰でも簡単にできたものでしたが、平成に入って個人情報の保護が社会的要請と
なり、又、濫りなアクセスを経た虚偽の婚姻届、縁組届やこれによる融資詐欺事犯等も横行したため、他人か
らする情報入手を制限し、合わせて戸籍窓口での本人確認を厳格化する必要が生じて、平成19年の上記本人
確認や不受理申出を内容とする戸籍法改正
(平成20年施行)をもたらしました。
 これにより、戸籍謄本等戸籍情報の入手や届出には窓口での本人確認資料の提示が必須となりました。
又、原則 当該戸籍事務の本人のみが届出や情報入手をすることができるものとして、本人が出頭していない
創設的届出である場合は、必ず本人に通知が行くこととなりました。
 法務省のホームページに「戸籍の窓口での「本人確認」が法律上のルールになりました」が出ています。
くわしくは、こちらをご覧下さい。また、ITの発達・普及に伴い行政の効率化等を図るべくマイナンバー制度
が導入されました。これに伴い、戸籍関連事務においても、各種手続きでの戸籍謄抄本提示を不要とする マイ
ナンバー制度に沿った改正等の合理化が進捗しつつあります。こちらもご覧下さい。




出生届け

 子が産まれたときは、
14日以内(国外で出生があつたときは 3箇月以内)に、原則として、出産に立ち会った医師、助
産婦等の作成した出生証明書を添付した届書に 父母の氏名を記載して、出生届けをしなければなりません
(戸籍法49条)

 婚姻している夫婦の間に生まれた嫡出子の出生届けは、父又は母が行い、子の出生前に父母が離婚していた場合
は、母がこれを行います
(戸籍法52条1項)

 嫡出子は父母の氏を、出生前に父母が離婚したときは、離婚の際における父母の氏を称します
(民法790条1項)。でも、
子の出生前に父母が離婚した場合には、親権は、母が行う(民法819条3項)」ので、婚姻に伴い氏を変更していた母親が
離婚復氏
(或は 婚氏続称)して父親と別戸籍になると、子の親権者は母なのに、子は離婚前の戸籍、つまり父の戸籍に記載
された侭です。
 なので、子を親権者である母の戸籍に移す為には「子の氏の変更」手続きが必要であり、この様に子の親権者と戸
籍が乖離するのは制度設計上問題であると指摘されています。
(なお、こちらの立法愚見をご覧下さい)

 婚姻外で生まれた嫡出でない子の出生届けは 母が行い
(戸籍法52条2項)、子は母の氏を称して(民法790条2項)、母の戸籍
に入ります。その出生届け、戸籍には、父親の名は記載できません。父親の名を記載する為には認知の手続きが必要
となります。なお、戸籍には三代の記載はできないので、母親がそれ迄 その親と同籍であった場合、母親はその籍を
抜け、新たな自分の戸籍に子を入れることになります。戸籍と氏の関係について、こちらもご覧下さい。



認知届け

 人が婚姻外で子をなすと、その子は、婚姻夫婦の子である嫡出子ではなく、非嫡出子となります。

 非嫡出子は、原則として、民法779条が定める、親からの任意の認知を受けて、これにより初めて父又は母との
法律的な親子関係が築かれます。

 認知は、781条1項が定めるところにより戸籍法に従い届け出ることによって行われます。

 この
届出は、それによって認知の効力が発生するので、創設的届出です。これが認知の原則的な方式ですが、
781条2項は、認知は、
遺言によってもすることができる旨を定めます。

 遺言による場合は、本人が亡くなって遺言が発効すると、これにより認知の効力が発生します。
 この場合の遺言執行者による届出
(戸籍法64条)は、報告的届出となります。
 遺言による場合は、遺言執行者
(遺言に遺言執行者の指定がない場合は、利害関係人から請求して家裁に選任して貰います(1010条))
が就任の日から10日以内に遺言書謄本を添付して届出をします
(戸籍法64条)

 その他に、子の側から親に、認知するべきと家裁に訴える「
強制認知」の方法もありますが、この場合、家裁での
調停前置主義の定め
(家事事件手続法257条)がありますから、まずは調停に付されることとなります。

 調停が合意に達すると「合意に相当する審判」がなされます
(家事事件手続法277条)

 調停不成立であれば、「認知の訴え」
(民法787条、人事訴訟法2条2号)ということになります。
 
裁判の結果、認知の判決が確定したら10日以内に判決謄本を添えて、当事者から届出をしますが、その届出は確定
した認知に関する報告的届出となります。

認知の制度について、こちらもご覧下さい。


婚姻届け
 婚姻は 婚姻届けによってその日成立します。結婚式を挙げた日ではありません。
 婚姻届けには、
成人の証人二人の署名押印が必要です。
 届けの際は 婚姻当事者二人の内のどちらの氏を
夫婦の氏とするか 決めなければなりません(婚姻改氏)(戸籍法74条1号)
 そして、どこを夫婦の本籍地とするかを決め、以後は 氏を改めなかった者がその新しい戸籍の筆頭者となります
(なお→旧姓併記制度)
 届けは口頭でも可能ですが、その場合 当事者二人と証人二人の計4人が出頭しなければなりませんし、各人の本人
確認をした上、口頭で必要事項を述べなければなりませんから、時間がかかります。
 書面による届出は、本人が提出する
(一人での提出が可能です)ほかに、郵送でも可能ですし、本人の使者として他人が
提出することもできます。
 婚姻当事者本人がする場合も 他人が提出する場合も、提出者の身分証明により誰が提出したか
(提出者の)本人確認
をし、他人の提出にかかる届出(郵送による届出は全て)、役所戸籍係から
(婚姻当事者)本人に受理通知が送られます
(戸籍法27条の2)

 
もし他人が虚偽の届出をした場合、公正証書原本不実記載罪(刑法157条)により処罰され、婚姻は無効です(この
婚姻無効の対処はなかなか大変です。こちらをご覧下さい)

 虚偽の届出がなされる恐れがあるときは、役所戸籍係に予め不受理
申出をしておくと受理されずに済みます(戸籍
27条の2)


 郵送された届書は、本人が死亡した後でも受理しなければなりません。
届書が受理されると、届出人の死亡の時に
届出があつたものとみなされます
(戸籍法47条)

 日本人同士で外国で挙式し、届出するときは、その国の日本領事館又は大使館に届出ができます
(民法741条)

 未成年者の婚姻には父母の同意が必要ですが、
平成30年の民法改正により、令和4年(2022年)4月1日からは、婚姻
年齢・成年年齢が18歳になることに伴い、未成年者の婚姻ということがなくなり、父母の同意は不要となります。
こちらをご覧下さい。

 婚姻届けは、婚姻障碍がないことが確認されないと受理して貰えません
(民法740条)婚姻年齢に達しているか、
重婚でないか、近親婚に該当しないか、再婚禁止期間での再婚ではないか、未成年の場合は父母の同意があるか等の
障害事由の有無が審査され、障害事由がないことの確認を経てはじめて受理されることになります。

 この審査に戸籍係のミスがあっても、ひと度「
受理」があると、一応有効となり、婚姻障害を理由とし婚姻を取り
消すためには、家裁に
婚姻取消請求をしなければなりませんから、厄介です(但し、未成年の婚姻に父母の同意がなかった場合
だけは、取消請求できません)


 婚姻取消しの判決が出ると、婚姻は、判決確定の日から将来に向かって取り消されることとなります。それ迄は婚
姻が継続するので、結果的には、離婚とさほど変わらないと言えます。





  人生ナ咲739結婚

   (事者)二人

         証人二人頼(婚姻)けしてこれで成立

      (舞台は)さく739れの門出

                         (人生の)並木路739

  


  婚姻さい731から、なさんな737 七箇条

  守
ったで、難避()739証人二人(書面か口頭)

     その
法令違反もないと、められねば、受理されぬ




    ならぬままけりゃ

             
我子わがこでもそのならば他人也


            
認知によりて父子ちちこ779ぞなる。




    我が子なら

      
(戸籍の法60~§65)のっとって)届出するかさもなくば

         
 遺言いごん781戸籍法64条 によるの(認知の)(方式)がある

                   
781だ、認知せえやい781




    
まご 法定代理(人)

         父母ちちはは 生前 卒後()三年 ()                                                 

       父母ちは787 (   ) 訴えできる



旧姓(旧氏) 併記制度 (住民票、マイナンバーカード等)

 平成31年(2019年)4月17日、住民票、マイナンバーカード等へ旧氏(きゅううじ)、つまり 旧姓を併記できる様にする
ための住民基本台帳法施行令等の一部を改正する政令が公布され、令和元年(2019年)11月5日に施行されました。

 この政令改正は、社会において旧姓を使用しながら活動する女性が増加している中、様々な活動の場面で旧姓が
使用し易くなる様に行われたものです。これにより、婚姻等で氏
(うじ)に変更があった場合でも、従来称してきた
氏、つまり 旧姓を住民票、マイナンバーカードに併記し、公証することとができるようになるため、旧姓を契約な
ど様々な場面で従前通り活用でき、旧姓併記が就職や職場等での身分証明に資することとなります。

 具体的な旧姓併記手続は下記のとおりです。
 この制度の登場によって、婚姻改氏によるアイデンティティーの遮断はある程度緩和されますし、婚氏を家族生
活上の必要場面においてだけ適宜 証明資料として用い、実社会で旧姓が従前通り用いられる途を確保すれば、実社
会における旧姓の侭での稼働を むしろ 促す基盤となるのではないでしょうか
 (その為には、「併記」として 旧姓を括弧書き
するのではなく、婚氏を括弧書きとする英断が欲しいと個人的には思います)
。なお、夫婦同氏に関する立法論私見もご覧下さい。

手続の方法

 次に記載している必要なものを持参し、市区町村にある請求書により申請します。

手続に必要なもの

1 戸籍謄本(併記を希望する旧姓から現在までのすべてのもの)

2 本人確認書類

・いずれか1点で良いもの

マイナンバーカード、住民基本台帳カード(顔写真付きのもの)、運転免許証、パスポート等、官公署が発行した顔写真付き身分証明書

・2点必要なもの

健康保険証あるいは年金手帳とキャッシュカード等顔写真のないもの

3 マイナンバーカードまたは通知カード

4 印鑑(印鑑登録をされている方で、旧姓の印鑑の登録を希望される方等)




国際結婚の婚姻届け
 日本人が外国人と結婚するときは、婚姻届けはどのように出したら良いのでしょうか。この答えは、「法の適用に関する
通則法」
(法適用通則法)という法律の24条に書かれています。同条は、次のように定めています。

 1 婚姻の成立は、各当事者につき、その本国法による。
 2 婚姻の方式は、婚姻挙行地の法による。
 
3 前項の規定にかかわらず、当事者の一方の本国法に適合する方式は、有効とする。ただし、日本において婚姻
  が挙行された場合において、当事者の一方が日本人であるときは、この限りでない。

 
婚姻の成立
 上記の法適用通則法24条1項は、当事者両名の婚姻が法律的に成立したと認められるためには、各当事者の本国法
に定められた要件をクリアしなければならい旨を定めます。

 例えば、日本人女性が外国で外国人と結婚式を挙げて、日本の法律上婚姻夫婦と認められるには、年齢的には日本
の婚姻年齢
(民法731条)に達していることが必要ですから、平成30年の民法改正前は婚姻が可能であった16歳の日本女
性は、改正により2022年
(令和4年)4月1日以降は、婚姻を認められず、18歳になる迄 婚姻できないことになります(そ
の代わり、未成年であるため必要とされた父母の同意は要らなくなります)


 外国人である相手男性についても、その人の本国の法律が定める婚姻年齢に達していれば、たとえ日本法では婚姻
できない17歳
(例えば、イギリスは男女共16歳です)であったとしても、婚姻は可能ということになります。

 この様に婚姻年齢は、各当事者がそれぞれに自国法の要件を満たせば足りるとされる「自一方要件」なので、
その様な結論となります。

 しかし、その他の婚姻障碍、つまり、
重婚・(再婚)禁期・近親婚については 「自他双要件」であるため、どちらの
国の要件にも叶っていないと、婚姻は成立しません。そして、これら関係事項の
証明のために、日本人については戸
籍謄本を、外国人
(或は 外国の機関に対する関係で日本人)については婚姻要件具備証明書を提出することがそれぞれ必要です。


 
婚姻の方式
 次に、上記法適用通則法24条2項と3項によれば、日本人が外国人と外国で婚姻する場合の方式は、その国の法律
(挙行地法)によるか、本国法、つまり日本法によるかを選択することができます。

 日本法によるときは、証人二人と共に署名 押印した婚姻届書を本籍地に送付、或は 他人に委託して届出します
(日本人同士の場合※の様に、日本大使等の在外公館に婚姻届を出すことはできません)

 他方、挙行地法によるときは、その法による方式
(その国の機関から日本人の婚姻要件具備証明書の提出を求められる場合があります)
で婚姻を成立させた後、婚姻証明書を受け取り、戸籍に婚姻の事実を記載する必要から、3カ月以内に、その謄本
(日本語訳を添付します)をその国に駐在する日本の大使館や総領事 等の在外公館、又は本籍地の市区町村に届出します
(夫の婚姻要件具備証明書の提出は不要です)

 
※日本人同士の場合、民法741条にある特別規定により、その国にある日本大使館等 在外公館で届けができます。

 
なお、日本と外国との間で公的文書をやりとりする場合、翻訳が必要となり、その翻訳に翻訳者が、自分は両国語
に堪能であり、公文書の記載内容を誠実に翻訳した旨を記載した宣言書
(Declaration)を作成して署名し、この文書に
外国語訳文と当該証明書等とを添付した上、その宣言書を公証人に認証してもらいます。

 婚姻証明書、婚姻要件具備証明書等は、公的機関が作成する公文書ですから、本来 公証人は認証することができ
ません。しかし、上の様な宣言書であれば、公文書ではなく、私人が作成した私文書、つまり私署証書なので、公証
人が認証することができます。

詳しくは日本公証人連合会のホームページをご覧下さい。
 


 なお、日本人と外国人が日本で婚姻届をする場合は、当然日本方式で届けますが、外国人については国籍証明書、
外国人登録カード等の身分関係証明書のほか、その国の駐在大使等発行にかかる婚姻要件具備証明書
(日本語訳が必要です)
が必要ですので、それを添えて
(日本人の)本籍地の市区町村に届出します。

 日本人同士が外国で婚姻届けをする場合は、上記の様に民法741条により 日本大使等の在外公館に婚姻届を提出し
てすることもできますし、或は その地から直接本籍地の市区町村に郵送で、若しくは、他人に委託して届出すること
もできます。


   ハワイ
801だろうとパリだろと、いず(れの)741とて外国で、

       ある
れた801結婚をしたくばしな婚姻届大使公使領事受理する。          

 §801は、外国に在る日本人間の縁組方式に関する規定



 
婚姻に伴う「氏」の変更
 日本人が外国人との婚姻届を提出すると、その日本人は父母の戸籍から出て、自己を筆頭者とする新戸籍を構え、
これに外国人配偶者の記載が加わることになります。
 ところが、外国人には「夫婦同氏」という日本の氏の規定
(民法750条)が適用にならないので、外国人の名前はその侭
カタカナで表記されます。日本人が外国人配偶者の姓(familyname、surname)を名乗りたい場合、婚姻の日から6か
月以内にその旨を届けることにより、その外国姓を自己の姓としてカタカナ表記で記載できます
(戸籍法107条2項)
 通常、氏の変更は、家裁の許可を得なければなりませんが、この場合は、例外的に家裁の許可が不要とされます。



日本人同士が外国で婚姻 (或いは養子縁組) をする場合

   
ハワイ801だろうとパリだろと、

        いず
(れの)
741外国で、
    
     ある
れた801結婚〔縁組

           したくば
しな
婚姻〔縁組〕届
       
         大使公使
領事受理する。


§741は、外国に在る日本人間の婚姻届けに、§801は、外国に在る日本人間の縁組届けに関する規定

国際結婚と国籍
 外国人との結婚は、当然の関心として、国籍はどうなるのか、に意識が行くと思います。昔、明治時代の国籍法は、
日本女性の外国人との結婚は、日本国籍を失う結果をもたらす旨を定めていました。男性・夫権優位の考え方と、二
重国籍は許されない原則とがその根拠となっていました。
 しかし、男女平等と国籍選択の自由が優位になった現在では、結婚は、国籍を左右する事情ではなくなり、国籍も
当然喪失ではなく、選択できるようになりました。ですから、国によっては、いまだに当然に夫の国籍を取得すると
する例外がない訳ではありませんが、国際結婚が当然に国籍の得喪につながると考える必要は殆どなくなっています。
 但し、結婚に伴い夫の国籍を取得する意思表示をすれば夫の国籍を与えるとする国、緩和した帰化要件を適用して
帰化した上で国籍を取得できるとする国等がありますので、それぞれの国・事情に応じて判断することとなります。

 ただ、上記の様に二重国籍は許されませんから、自らの意思表示によって外国籍となった場合は、日本国籍は失わ
れます
(国籍法11条)。そして、その旨は報告的届出として戸籍係に届け出なければなりません。
 また、夫の国が、結婚によって当然に夫の国籍を取得する国である場合は、妻は日本国籍と夫の国の国籍との二重
国籍となりますから、これを解消する手続きを践まなければなりません。
 つまり、所定の期間内にどちらの国籍を取るか選択をして市町村役場に国籍選択届けをします。期限までに選択届
けがない場合、法務大臣から催告が来て、その後一か月以内に届けがないと、日本国籍は失われます
(国籍法15条)





婚姻障碍 
 
   
不適齢731)(§732)、禁期733)近親婚734~§736)

   
未成年、親が不同意
(の)婚姻は
(こちらをご覧下さい)

             御法度
だからしなさんな
737

 

 受理されぬ難所740一度ひとた受理 一応有効

   然
れども
不適齢 (§731)重婚(§732)禁期(§733)近親婚(§734~§736)

                       
後日取消()れあり(§743746


  同意欠缺けんけつ(§737)

     
片方同意りるから、

          他方
不同意なさんな
737

      
さくに739証人二ける(ことの)不備

             ‘
なしに 742とされて受理  有効



婚姻無効 
 婚姻をするについて当事者間に婚姻意思がなく、或いは、婚姻届けがない、若しくは人違いであった等の事由があ
れば、当然に無効です。「当然に」無効ということで、当事者だけでなく、第三者からでも、そして、裁判等を経る
までもなく、その無効を主張することが許されます。戦地にあって婚姻届けもしていない者の婚姻について、なされ
たその者の父親からの婚姻無効確認の訴えについて、これを認めた判例
 (最判昭34・7・3) があります。
 この判決は、「当事者の意思に基く届出を欠いた婚姻が無効であることは、民法七四二条の明定するところであっ
て、当事者以外の第三者においてもその利益あるかぎり右無効の確認を求め得べく、その第三者が当該婚姻届出書類
を偽造した本人であるからといつてこれを別異に解すべきではない。」と判示しています。
 ですから、無効な婚姻の当事者とされてしまった人が、第三者から婚姻を前提とした主張をされたときは、婚姻取
消しの裁判等を要せず婚姻無効を以て対抗することができます。
 とは言え、戸籍にされた婚姻の記載について
戸籍の訂正 (戸籍の記載が、不適法又は反真実なとき真正な身分関係に一致させる
よう是正すること) (戸籍法113条)
をしなければなりませんから、その為には、上記判例の様な婚姻無効の裁判を経なければ
なりません
(戸籍法116条)
 しかし、家事事件である為、まずは 調停前置主義の定め
(家事事件手続法257条)により調停に付されます。そして、調
停において、当事者が合意に達すると合意に相当する審判がなされます
(家事事件手続法277条)。調停が不成立であれば、
訴え提起により、人事訴訟
(人事訴訟法2条1号)で争うことになります。
 知らない間に無効な婚姻届を出されてしまわない為には、予めの不受理申出制度があります。こちらをご覧下さい。

 ところで、いわば公正証書原本不実記載罪の被害者である本人が何故この戸籍訂正手続きの面倒を背負わなければ
ならないのでしょうか。虚偽の届出を防ぐ為 予めの不受理申出制度もありますが、当事者にその様な届出があり得る
と予想して対処せよとすること自体無理があると思われますし、一旦その様な虚偽の届出がなされたら、裁判を起こ
さねばならないというのも理不尽な話です。

 ここでの、一たびなされた戸籍記載は 容易には覆させないというスタンスは、単なる お役所
(「お上」?)の事大主義
ではないでしょうか。そもそも、婚姻という人の一生の重大事に 本人に対する直接の意思確認を欠いて良いものでし
ょうか。戸籍の届出の際には、基本 本人が本人確認資料を添えて届出をし、届出時 本人の出頭がない場合は、戸籍
係から本人に対し戸籍届けを受理した旨の通知が行くことになっています(戸籍法27条の2)。折角、そこまでの手間を掛
けてあげるのであれば、その方向性と延長線上で、この理不尽を解消してあげるべきです。
 つまり、その受理を見合わせ、本人には届出がある旨の通知をして、その通知の際に 期限を切って 婚姻届の受理を
して良いものか、本人に意思確認をすることとし、本人が受理を希望すれば、婚姻届受理となる、期限内に 受理拒否
希望があり、或は 返答がなければ婚姻届は受理しない扱いとして、虚偽の婚姻戸籍を予防すべきと考えます。
 そして、同じく婚姻届けの規定
(民法739条)を準用して戸籍届けによって成立する離婚(764条)、養子縁組(799条)、離縁
(812条)についても同様とするべきです。





(養子)
縁組届け
 縁組届けは、それによって養子縁組が成立する創設的届出です。当事者である養親と養子が、民法799条によって
準用される婚姻届けの規定
739)に則って、原則、成人二人の証人と、合わせて計四名で届け出るのが、原型となり
ます。但し、未成年
(但し、15歳以上)養子の場合は、原則、夫婦共同養親795)でなければなりませんから、5名となり
ます。
  15歳未満の子が養子に入る場合は、子の親が法定代理人として代わりに縁組を承諾して届けることになります

797)
。その場合は両親が、証人2名の協力を得て、養親となるべき二人と届けることになりますから、計6名となり
ます。
 縁組当事者が証人と共に署名・押印した書面で届け出ますが、口頭で届けることもできます739Ⅱ、戸籍法37条)。
 口頭の場合は、全員が役所に出向かなければなりませんし、必要事項を述べて、それを筆記して、確認してという
ように進めますから、時間がかかります 。
 未成年養子の縁組届けには家裁の許可
798)の審判書謄本が必要となります。
 縁組要件の関係での届けの書式等につき、新潟市東近江市札幌市のホームページが親切ですのでご覧下さい。

 届けは、その侭簡単に受け付けられて終わる訳ではなく、未成年養子について家裁の許可798)を得ているか否か
等、各種縁組障碍事由の審査にパスして初めて「
受理」ということになります。
 そして、この審査に戸籍係のミスがあっても、ひと度「受理」があると、一応有効となり、縁組障害を理由とし縁
組を取り消すためには、家裁に縁組取消請求をしなければなりませんから、厄介です。
 ですから、戸籍係は、慎重に受理手続きに臨むことになります。届出された縁組の戸籍での記載はこちらをご覧下
さい
 ( 3頁の「英助」の欄 )。記載例のとおり、戸籍上から養子であることが一目で判り、実父母が誰であるかも判る記載
となっています。なお、虚偽の戸籍届けの防止について、こちらもご覧下さい。


特別養子縁組届け

 特別養子の縁組届けは、家裁の特別養子審判を受け、その確定の日から10日以内に、審判書謄本を添えてする報告
的届出
となります。届出された特別養子縁組の戸籍での記載は、普通養子のそれとは全く異なります。
 つまり、戸籍の記載から養子であることは一目では判らず、通常の子の記載同様に「長男」とか「二女」という様
に記載されます。当然、養父母の記載もありません。
 こちらをご覧下さい。「三男」として記載のある「啓二郎」が、特別養子の戸籍記載例です。これは、実子同様に
扱うために工夫された中間戸籍を挟む記載方法です。
 なので、この記載に至るまでに三段階の縁組記載を重ねています。初めに、元の実父母の戸籍における「特別養子
裁判確定、及び、新戸籍編製につき除籍」の記載、次いで、その子を筆頭者とする新戸籍での、「特別養子裁判確定
・実父母戸籍からの入籍・養父母戸籍への入籍につき除籍」の各記載、そして、養父母戸籍での上記記載となります。
 養父母戸籍での記載に「
民法817条の2による裁判確定」との記載だけは残りますので、条文に当たって読み、
理解できる年齢になれば、子は自身が特別養子であることを知ることができることとなります。



 さきに739799れと

        養子
とし、親子となるには

  
 証人二人頼んで、(署)()

     書面
口頭難避(ため)739

       (養子)
縁組け えたなら

       愛育専心 
799

    



 
戸籍縁組

   
くに
792 (から) 799 八箇条

     (は)まれ800通せ縁組届

             
まらぬ受理ならぬ


  ならぬ届けも一度受理で、

    一応有効、然れども、


    やれそう
803やれよ804(から)やれや808(まで) 五箇条

        定められたる取消原因 あれば

                  
(家裁に) えて縁組取消しできる也。



縁組障碍

 
  未成年者子養子とる 違法バレし804縁組

     尊・長尊重しない破礼
805

      
後見マント羽織
806無許可でなした後見縁


    
やれるのに806の2同意なくも796連合いをネグった縁組


      
代諾、親権停止監護権(の親の)同意をとらぬ縁組

            
取消請求やれるのさ
806の3



 未成年
(子を)無許可養子(悪巧みの)れぬ807

  の縁組(取消)請求すれば
やまるのに806の2

  (成年後或いは欺し脅し脱した後)六月経過(取消しは)不可なれば

  
やれや 808取消りなば、えいわな807 808じゃ



縁組無効  
 
縁組をするについて当事者間に縁組意思がなく、或いは、縁組届けがない、若しくは人違いであった等の事由があ
れば、その縁組は、裁判等を待つことなく、当然に無効
(民法802条)であり、当事者以外の者からもその無効を主張す
ることが許されます。無効な縁組の当事者となってしまった場合、第三者から縁組を前提とした主張がなされたとき
は、縁組取消しの裁判等を要せず無効を以て対抗することができます。とは言え、戸籍に記載のある縁組について

戸籍の訂正
 (戸籍の記載が、不適法又は真実に反するとき真正な身分関係に一致させるよう是正すること) をしなければなりま
せんから、その為には戸籍法による縁組無効の裁判を経なければなりません
(戸籍法116条)が、調停前置主義の定め
(家事事件手続法257条)がありますから、まずは調停に付されることとなり、そこで合意に達すると「合意に相当する
審判」がなされます
(家事事件手続法277条)そして、調停が不成立であれば、いよいよ人事訴訟 (人事訴訟法2条3号)
「縁組無効確認の訴え」ということになります。なお、虚偽の戸籍届けの防止について、こちらもご覧下さい。


協議離婚届け
 離婚届については、婚姻届の民法739条が準用される(764条)ので、婚姻時と同様に成人の証人二人の署名押印が必
要です。

 
届けは口頭でも可能ですが、その場合 当事者二人と証人二人の計4人が出頭しなければなりませんし、各人の本人
確認をした上、口頭で必要事項を述べ、これを戸籍係が筆記して、当事者が筆記内容を承認するという手順となりま
すから 時間がかかります。
 書面による届出は、本人が提出する
(一人での提出が可能です)ほかに、郵送でも可能ですし、本人の使者として他人が提
出することもできます。
 本人がする場合も、他人が提出する場合も、提出者の身分証明により誰が提出したかを明らかにし、他人の提出に
かかる届出であると判明したときは、戸籍係から本人に通知が行くことになっています
(戸籍法27条の2)
 
もし、他人が虚偽の届出をした場合は、公正証書原本不実記載罪
(刑法157条)により処罰されることになり、離婚は
無効です
(この離婚無効の対処はなかなか大変です)
 虚偽の届出がなされる恐れがあるときは、役所戸籍係に予め不受理の申出をしておくと受理されずに済みます
(戸籍
27条の2)

 郵送された届書は、本人が死亡した後でも受理しなければなりません。死亡後に受理された場合は、届人が死亡し
た時に届けがあったものとみなされます
(戸籍法47条)(cf.臨終婚)
 日本人夫婦が外国で離婚届けを出すときは、その国の日本領事館又は大使館に提出することになります
(民法741条)
 
親権に服する子がいる場合、届書に 離婚後 夫婦のどちらが
親権者になるかを記載しなければなりません(819条)
この親権者指定を欠く離婚届は受理されないのが原則
(765条1項)ですが、それにも拘わらず受理されてしまったときは、
そのために離婚の効力が妨げられるということはありません
(765条2項)
 また、離婚の効果として、結婚の際に氏を改めた方が「籍を抜いて」復氏するのが原則
(民法767条1項)で、その場合
通常「実家の籍」に戻ることになりますが、旧姓での「新しい戸籍」を作ることを希望する場合は、離婚届の「婚姻
前の氏にもどる者の本籍」欄に新しい本籍地を記入し、合わせて同欄の中の、「新しい戸籍を作る」にチェックを入
れます。復氏をせず、婚氏続称をする場合は3か月以内に役所に届けることになります(婚氏続称届け)(民法767条2項)
 子の氏の変更の関係はこちらをご覧下さい。書式・内容が整っていれば、離婚する二人の内どちらからでも、協議
離婚である旨を記載して、一人で届け出ることができます
(戸籍法76条、戸籍法施行規則57条1項)
 届書は、法務省のホームページ内でその書式・記載例がご覧頂けます。
 離婚届けについては、届書作成当時は離婚の意思があったが、その後届出までの間に翻意した場合の離婚届けの効
力如何という点に関する判例
(最判昭34・8・7)があります。
「右飜意を市役所戸籍係員に表示しており、相手方によつて届出がなされた当時、離婚の意思を有しないことが明確
であるときは、相手方に対する飜意の表示または届出委託の解除の事実がなくとも、協議離婚届出が無効でないとは
いえない。」として、協議離婚は無効である旨判示しています。
 なお、虚偽の戸籍届けの防止について、こちらもご覧下さい。



  戸籍
は、離婚

    
さく
739証人(二人、4名の署名押印・書面、口頭) チェック後 

      大
きく
765にならぬよう

         親権
以降819どちらか 確認し

           その
法令違反有無も、調べなければ受理できぬ。


    
調りずに受理あれ


        
戸籍係
難務功 765 離婚届はなんと 有効!





裁判
離婚届け


 判決で離婚が確定したときは、原告となった者は10日以内にその旨の離婚届けをしなければなりません。判決は、
上訴期間の経過等によって確定し、それに伴い離婚の効力が生じますから、この届出はその離婚を報告的に届け出る
ものです。離婚は、正確に戸籍の記載に反映しなければなりませんから、この届出の義務違反には過料の制裁が科さ
れます
(→戸籍とは)
 調停や審判等で離婚が成立したときも同様で、手続きを起こした者が成立した手続きを明示して届けます
(戸籍法76条
77条63条、戸籍法施行規則57条Ⅱ、家事事件手続法268条287条)

 訴えや手続きを起こした者が定められた届出をしないときは、その相手方からも届出することができます
(戸籍法77条
63条Ⅱ)
。相手方からの届出については、義務ではないので制裁もありません。
 前記10日の期限は、それを過ぎてしまったからといって届出ができなくなる訳ではありません。その日を過ぎると、
相手方からも届出が可能となる基準日ということになります。



婚氏続称届け
 
離婚をすると、それに伴い、夫婦の内 婚姻する際に氏を改めた方が、婚姻直前の氏に戻るのが原則です(767条1項)
離婚復氏と言います。

 離婚後、子の呼称環境を考慮し、又、周囲に離婚を露わにしたくない等の事情から、呼称を変えたくない場合は、
離婚の際の氏をそのまま称することもできます
(民法767条2項、戸籍法77条の2)婚氏続称と言います。

 これには家裁の許可をとる必要もなく、本人からの届出だけですることができます。元配偶者からでは、届出でき
ませんし、また、元配偶者の承諾を得る必要もありません。

 届出期間は離婚日から3か月以内ですが、離婚届けと同時に届け出ることもできます。
 離婚届と同時に届出する場合は、離婚届の「
婚姻前の氏にもどる者の本籍」欄には記載せず空欄の侭とし、
「その他」欄に「同日戸籍法第77条の2の届出」
(婚氏続称届けです)と記載します。
 同時に提出する77条の2の届書
(「離婚の際に称していた氏を称した後の本籍」欄に)に新しい本籍を記載するためです。

 離婚復氏に伴い一旦旧籍に戻る場合は、その後この77条の2の届けによって、新戸籍を編製しますから、その後さ
らに子の氏の変更の手続きを践むことになって面倒です。
 子との同籍を最終目標とするのであれば、はじめから旧籍への復籍は断念し、旧姓であれ
 、婚氏であれ ( 婚氏であれ
ば、当然新戸籍となります)
、何れかの新戸籍を構えて、そこに子を入籍させるのが賢明と思います。

 戸籍係との事前の相談・打合せをお勧めします。旧姓で新戸籍を作る場合は、上記「婚姻前の氏にもどる者の本籍」
欄に新しい本籍地を記入し、合わせて同欄の中の、「新しい戸籍を作る」にチェックを入れます。




  離婚
してもな
767Ⅰ身一つに

   氏 かえるも、復氏をば、嫌う妻夫なら、

   
名務して767離婚後三月みつき

    届
でれば婚氏続称「して」は、7の西語「シエテ」、伊語「セッテ」から




子の氏の変更手続き(家裁の許可・市役所町村役場での入籍届)
 
 
民法791条1項は、「子が父又は母と氏を異にする場合は、子は、家庭裁判所の許可を得て、戸籍法の定めるとこ
ろにより届け出ることによって、その父又は母の氏を称することができる」とし、また、同条の3項は、「子が十五
歳未満であるときは、その法定代理人が、これに代わって、前二項の行為をすることができる」と定めています。
 ですので、離婚により子と「氏」を異にすることになる親 
(離婚復氏をせずに、婚氏続称して子と呼称上は同姓になった場合
も「氏」は別です) 
は、子と同戸籍にするため、子の法定代理人として、家裁の許可(「子の氏の変更」許可の審判)を得て
子の氏を自分と同じ氏とし、これを役所の戸籍係に届け出て
(「入籍届」と言います)、親子同一の「氏」(同一の戸籍)とする
ことができます。この場合、氏を改めた子は、成年に達したときから一年以内に戸籍法の定めるところにより届け出
ることによって、従前の氏に復することができます
(同条4項)。以上ですので、家裁では「子の氏の変更許可申立て」
を行い、その結果の
審判書謄本を持って、市役所等での「入籍届」を行うということになります。
詳しくは、こちらもご覧下さい。

     

      親子同氏790が原則 故に
  
       子
「ママ名困
790そのくれ790!」
  
        言
われたため
791

    ①   (家裁の)許可けた   

    
   ( るか
父母ちちははが養縁成って子ならば許可せず  )  

     れば  変更できる十五
()未満っこい791ならば

              
 () (理人)わって 変更 


         
改姓 った未成
()成人後一年復氏ができる

                
改姓した父母が子と異氏の例:父母が他人の養子になる場合等







姻族関係終了届

 
姻族関係は、結婚によって配偶者の親族との間に生じる親族関係です。ですのでその配偶者と離婚するとそれに
伴って姻族関係も当然終了します
(民法728条1項)配偶者と死別した場合には、遺された配偶者と亡くなった方
の親族との姻族関係はそのまま存続するので、扶養義務の関係もそのまま続きます。しかし、戸籍係に終了の意思表
示を届けることにより、姻族関係を終了することができます
(民法728条2項、戸籍法96条)。また、姻族関係とは無関係に、
旧姓に復する「復氏」
(民法751条、戸籍法95条)をすることもできます。詳しい扶養義務との関係では、こちらをご覧下さ
( 但し、これまでは、配偶者死別後の姻族関係、つまり、義父母との関係を、「親族」故の扶養の負担がかかつてくるだけではないか
とする傾きがありましたが、平成30年の法改正により、義父母の介護等に対しては「親族の特別寄与料」の途も設けられましたので、
マイナスばかりではなく、バランスが図られてきていることも事実です)
札幌市役所のホームページに書式が掲載されています。
こちらをご覧下さい。





協議
離縁届け

 
離縁届けについては、婚姻届の民法739条が準用される(民法812条)ので、縁組時(§799)と同様に成人の証人二人の署
名・押印が必要です。協議離縁の届出は、届けることによって離縁の効果が生じる創設的届出です。また、離縁届け
は、代諾離縁の要件を具備していること
811Ⅱ~Ⅴ)、一方当事者が死亡している場合の死後離縁については家裁の許
可があること
811Ⅵ)、夫婦養親が未成年養子と離縁する場合は夫婦共同離縁であること811の2)、証人の要件を満た
していること
739Ⅱ)、その他法令に違反していないことが確認されないと受理して貰えません813)。しかし、この
審査に戸籍係のミスがあっても、ひと度「受理」されると、「離縁は、そのためにその効力を妨げられない」とされ
ています
813Ⅱ)。離縁の効果としての復氏816Ⅰ)をせず、縁組の日から7年を経過した後の離縁で養氏続称を希望す
る場合は3か月以内に役所に届けることになります
(戸籍法73条の2、民法§816Ⅱ)





        
夫婦養親 
(未成養子を)一方


   いいのに
8112
他が の離縁 ダメ、

   難避く
()739証人二人()()印あるか

        代離
(縁)配意811はあるか、

        その法令違反有無も、調べなければ離縁届は)受理できぬ。


      調りずに受理あればことは容易
813離縁 有効




   離縁したなら実氏(縁組前の氏)いろ816
      
在縁 七年(縁組前の氏に)なく三月みつき

          名務して767養氏続称 できる」は破綻816」は続称

  §767は離婚による復氏等の規定。「して」は7の伊語「セテ」、西語「シエテ」から


裁判離縁届け
 判決で離縁が確定したときは、その原告となった者は10日以内にその旨の離縁届けをしなければなりません。
 調停や審判等で離縁が成立したときも同様で、手続きを起こした者が成立した手続きを明示して届けます。

 訴えや手続きを起こした者が定められた届出をしないときは
その相手方からも届出することができます(戸籍法73条
63条
、戸籍法施行規則57条Ⅱ、家事事件手続法268条)

 前記10日の期限は
それを過ぎてしまったからといって届出ができなくなる訳ではありません。その日を過ぎると、
相手方からも届出が可能となる基準日ということになります。


  婚
(姻)(組の)

    
破綻 
812散るよ764の届けには

 
     難避く739 ために証人を二人伴い

               
()()印の
書面口頭を要す。



届けの審査関係(まとめ)
 
戸籍事務については、市区町村長が、国から事務委任を受け、法務局の監督下で、法務大臣の定めた基準に従って
事務を執ります。戸籍係は、その市区村長の下で事務を行います。
 戸籍係は、戸籍の届出があったとき、その受理・不受理を決定しますが、その際は、民法・その他の法令に定めら
れた要件を具備しているかを形式的に審査するだけで、届出内容の真実性についてまで調査する義務・権限はありま
せん。
 しかし、届出場所その他定められた方式が具備されていることを確認して、証人が必要とされる場合に その不備が
あるとき等のほか、婚姻、縁組等、民法に障碍事由が定められている場合は、その事由のある届出は受理できません。
婚姻の障碍事由縁組の障碍事由をご覧下さい。


  婚姻届さい731から、しなさんな737 七箇条
 
 守
ったで、難避()739証人二人(書面か口頭)

     その
法令違反もないと、められねば、受理されぬ



 
戸籍係は、離婚

   
さく
739証人(二人、4名の署名押印・書面、口頭) チェック後 

      大
きく
765にならぬよう

        親権
以降
819どちらか 確認し

          その
法令違反有無も、調べなければ受理できぬ。


  戸籍係

   
   縁組くに
792 (から) 799 八箇条

       (は)まれ800通せ縁組届

             
まらぬ受理
ならぬ


  夫婦養親
(未成年養子を)一方

   いいのに
8112他が の離縁 ダメ、

     難避く
()
739証人二人()()印あるか

       代離
 
()
配意811はあるか、

        その法令違反有無も、調べなければ
離縁届は)受理できぬ。
 



受理の効果関係(まとめ)
 婚姻や離婚、養子縁組や離縁等については、届出の審査の所で述べました様に、戸籍届けの際に、届出方式の不備
や受理の障碍になる事由がないこと等の形式的な審査を受けます。
 しかし、その審査をパスして一旦届出が
受理されると、その撤回は認められず、これらの身分行為は、その効力
を生じます。

 その内、婚姻と縁組については、その各障碍事由が見過ごされて受理となった場合、或は、詐欺・強迫による婚姻
・縁組である場合、その瑕疵を正すのは、民法の定める取消しの請求によることになります
(民法743条803条)

 また、離婚と離縁については、それぞれの当事者の離婚意思・離縁意思の合致が重んじられて、離婚・離縁の効力
は妨げられません
(民法765条2項813条2項)。離婚・離縁に その意思の合致がない場合については、戸籍の訂正や離婚
(離縁)
無効の訴えを要することになります。次項をご覧下さい。婚姻の障碍事由縁組の障碍事由もご覧下さい。

(婚姻届け)


 
受理されぬ(婚姻)けの難所740一度ひとた受理 一応有効

   
れども不適齢
 (§731)重婚(§732)禁期(§733)近親婚(§734~§736)

                       
後日取消()れあり
(§743746


   ヤレ二
802‘婚礼’なすも人違意思ナシ届ナシ(のいずれか)ならば

                       婚姻無効
夫婦ナシ
 742




  (婚姻届け)同意欠缺けんけつ737)

     片方同意りるから、他方不同意なさんな
737

      さくに
739証人二人
届ける(ことの)不備

          ‘
ナシ 
742とされて受理  有効


(離婚届け)

   戸籍は、離婚

    さく
739証人(二人、4名の署名押印・書面、口頭) チェック後 

      大
きく
765にならぬよう

         親権
以降
819どちらか 確認し、

           その
法令違反有無も、調べなければ受理できぬ。


     調りずに受理あれ

        
戸籍係
難務功
 765 離婚届はなんと 有効!




(
縁組届け)

 ならぬ
(縁組)届けも一度び受理で、一応有効、然れども、

    
やれそう803やれよ804(から)やれや808(まで) 箇条

        定められたる取消原因 あれば
(家裁に) 
えて縁組取消できる也。


  
ヤレ
802養子とする’

   
 
人違意思ナシナシ (のいずれか)ならば

          
縁組 
無効(養)親子ナシ742

  但し、さきに
739証人二人不備ナシ 742とされて受理  有効




離婚・離縁の戸籍の訂正
 
婚姻と縁組は、いずれも届けることによってその身分行為が完成、成立し、各種の重要な効力が発生しますから、
その受理には、障害事由の有無の審査が重要です。

 しかし、身分関係を解消する離婚と離縁については、いずれも離婚意思・離縁意思の合致がありさえすれば、離婚
・離縁は有効に成立します。それ迄の婚姻や縁組の関係を将来に向けて解消させるだけなので、詐欺・強迫による離
婚・離縁は、後から離婚取消し、離縁取消しの各裁判の余地が残りますが、そうでないものは、その身分行為の核心
である離婚意思・離縁意思の合致を重んじて、その余の点に関する受理審査にミスがあっても、離婚・離縁の効力は
妨げられません(765条2項813条2項)。
 但し、離婚意思・離縁意思の合致がなかった場合は、第三者から離婚・離縁を前提とした主張をされたときには、
取消しの裁判を待つことなく、無効の主張で対抗できます。でも、いずれも離婚届け、離縁届けの記載は残ってしま
いますから、これを訂正して貰わなければなりません。

 そのための
戸籍の訂正には、家裁での調停(離婚無効確認調停・離縁無効確認調停)を受けねばならないことになり、調停が
不成立で終わった場合は、同じ家裁での裁判
(離婚無効確認の訴え離縁無効確認の訴え)、つまり人事訴訟(人事訴訟法2条1号、
3号
)
へと進むことになります。

 離婚等、本人にその意思がないのに戸籍に記載されてしまうことについては、虚偽の届出を防ぐため予めの不受理
申出
制度もありますが、当事者にその様な届出があり得ると予想して対処せよとすること自体無理があると思われま
すし、一旦そのような虚偽の届出がなされたら、裁判を起こさねばならないというのも理不尽な話です。共通の問題
を含むこちらを参照下さい。
 
           

 調りずに受理あれ

        
戸籍係
難務功 765 離婚届はなんと 有効

 
調りずに受理あればことは容易813離縁 有効


§
739は婚姻の届出に§741は外国での日本人間の婚姻の方式に、§764は離婚に関する婚姻規定
の準用に、§765は離婚の届出の受理に、§801は外国での日本人間の縁組の方式に、§811の2
夫婦である養親と未成年者との離縁に、§812は離縁に関する婚姻規定の準用に、§813は離縁届け
の受理に、§819は離婚の際の親権者に関する各規定



死亡届け

 
人が死亡したときは、死亡を知った日から7日以内 ( 国外で死亡した場合は、3か月以内 ) に、医師の作成した死亡診断書
又は
(医師が生前から診療していた場合でないときは)死体検案書を添付して死亡届けをしなければなりません(戸籍法86条1、2項)
 同居の親族が届出義務者とされていますが、 その他、別居の親族や、親族がいない場合は、家主・地主又は家屋
若しくは土地の管理人からも、順序を問わず、死亡の届出をしなければなりません
(戸籍法87条)
 やむを得ない事由によつて診断書又は検案書を得ることができないときは、死亡の事実を証すべき書面をもってこ
れに代えることができ、その場合には、届書に診断書又は検案書を得ることができない事由を記載しなければならな
いとされています
(戸籍法86条3項)。届書は、法務省のホームページ内でその書式・記載例がご覧頂けます。


本ホームページ中の平成30年7月相続法改正関連部分


     法改正を踏まえての
相続の仕組み  


    改正諸点まとめ一覧     こちら政府広報もご覧下さい。



1.
相続する権利の 対第三者 対抗力改正                  


    
平成30年相続法改正
   

     
法改正による「対抗」の再考


2.
配偶者居住権・配偶者居住資産

   
人生百年時代と配偶者居住資産


3.
配偶者短期居住権

4.
相続債務の承継

5.
相続債権の承継

    
相続預貯金の一部債権行使 ( 遺産分割前の仮払い )


6 
改正法による遺留分規定の概観

    
改正法による遺留分チャート

7.
遺留分の原資(算定基礎)

8.
遺留分侵害額の請求 (遺留分現債)


9.
遺言執行者の地位と権限

    
遺言執行者の復任権

10.
自筆遺言証書の法務局保管

11.
自筆遺言での財産目録自筆不要

12.親族に対する特別寄与料

13.影響 ( 遺産管理への )








  
平成30年の法改正による改正諸点 (詳しくは、下線クリックでご覧下さい。)
   なお、それぞれの施行日は、2.3.が令和2年4月1日、8.が同年7月10日、9.は平成31年1月13日に既施行、その他は令和元年7月1日です。

1.相続による権利取得の対抗要件 相続による権利の取得については、登記等の対抗要件を備えなければ、法定
相続分を超える分の取得を第三者に対抗できない。

2.配偶者居住権 夫婦間での居宅居住権の遺贈、遺産分割により、配偶者は、原則その居宅に終生無償で居住で
き、従前通りなら収益もできる。遺贈により、みなし遺産とする計上を不要とする旨の被相続人の意思表示があっ
たものと推定されるから、相続枠外で相続分の縛りのなく居住を確保でき、それ以外の遺産から配偶者相続分を取
得できる (但し、遺留分については従前どおり)。居住の「権利」でなく、建物又はその敷地の遺贈・贈与について
も同様推定され得るが、その場合、婚姻二十年以上の夫婦間での遺贈・贈与であることを要する。無遺言の遺産分
割による居住権は、従前通り相続枠内で相続分の一部として配分される。配偶者は、従前の用法に従い、その建物
を善良な管理者の注意を払って使用・収益しなければならず、居住建物が要修繕なら、自分で修繕できるが、自分
でしないときは所有者に対する通知義務がある。承諾ないまま、他人に使用させ、或いは増・改築をする等しては
ならず、他人への権利譲渡も禁じられる。配偶者に義務違反がある場合、所有者は、居住権を消滅させる意思表示
をすることができる。

3.配偶者短期居住権 伴侶を亡くした配偶者は、無償居住していた居宅に、遺産分割による取得者が決まってか
ら6か月か、相続開始から6か月かのいずれか遅い時まで、建物が遺贈されていた場合は、受遺者から解約申入れが
あってから6か月まで、無償で居住できる。

4.相続債権債務の承継 相続債権を相続した相続人は、遺産分割、或いは、遺言の内容を示して、債務者に通
知すれば、全相続人から通知したものとみなされて、債権を行使することができる。相続債務の債権者は、その権
利行使にあたり、相続人の法定相続分に則って回収することができるが、遺言による相続分によってすることもで
きる。

5.相続預貯金の一部債権行使 ( 遺産分割前の仮払い) 遺産の勝手な処分 預貯金債権は、相続人において、その法
定相続分の1/3の額か金額150万円のいずれか低い方の金額まで、単独で引出しが可能。その金額については、遺
産の一部の分割を受けたとみなされる。また、遺産分割前に遺産に属する財産が処分された場合、共同相続人は、
その全員
 ( 処分をした当該相続人を除く ) の同意により、当該財産が遺産の分割前に遺産として存在するものとみなすこ
とができる。

6.遺留分規定の改正 相続人に対する被相続人からの生前贈与の内、生前10年間のものは無条件で、それより以
前のものは遺留分権者を害すると知ってした贈与に限り、みなし遺産に持戻しされる。遺留分「減殺」制度は廃止
され、遺留分を侵害するものであっても贈与・遺贈は失効しない。代わりに、「遺留分侵害額請求権」行使の途が
新設され、判例が示していた侵害額の算定法が明文化された。

7.遺言執行者の権限関係 執行者は、「遺言の内容を実現する」任務を負い、執行者であることを示してした行
為の効力が直接に相続人に及ぶとし、また、遺言執行者には「対抗要件を備えるために必要な行為をする」権限が
付与された。遺言執行者の指定がある場合は、執行者のみが遺贈を履行できることとされた。遺言執行者がする執
行を妨害する行為は、無効との判例が明文化された。但し、善意の第三者に対抗できない。

8.自筆遺言証書の法務局保管 自筆遺言証書は遺言者自身による申請で法務局での保管が可能となる。亡くなっ
た後に相続人、受遺者或いは遺言執行者から、その保管証明書の交付請求、その閲覧請求、遺言書の画像情報証明
書の交付請求をすることができる。また、法務局保管にかかる遺言書は家裁での検認が不要となる。

9.自筆遺言での財産目録自筆不要 自筆で記載すべき自筆遺言証書の内、財産目録だけは、書面の写しを用いるこ
とができる。但し、その頁毎の署名押印が必要。

10.親族に対する特別寄与料 相続人以外の親族に限り、「無償で療養看護その他の労務を提供したことにより
 被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした」者は、その寄与に応じ、特別寄与料を請求することが
 できる。当事者間での協議が不調ならば家裁で審判する。卒時遺産から遺贈の額を控除した残額を超えることはで
 きない。特別寄与料は、相続人各自がその相続分に応じて負担する。この請求の請求権は、被相続人が亡くなった
 ことと、その相続人を知った時から六か月が経過するか、又は、亡くなって一年が経過すると消滅する。