二次相続について
 
ここで、最近よくメディア等で話題にされる二次相続について触れてみたいと思います(以下、夫と妻を固定せず適宜入替え
て ご理解下さい)

 話題の筋は、夫に先立たれた妻が、遺言なり遺産分割協議なりで、夫名義の家産を相続したが、その妻が亡くなる際
には、その家産をどう承継したらよいか、という事です。「相続税算定のあらまし」にも書きましたが、妻には配偶者
控除が1億6千万円
まで認められていますから、普通の家庭であれば、それで十分相続税対策となります
(因みに、配偶者
に対する居住用建物の生前贈与については、2000万円までの贈与税の控除があります)


 それに、通常夫婦は夫が年上である上、しかも、女性の方が平均寿命も長いとなれば、夫名義の財産が多いであろう
普通の家庭では、「妻に全遺産を相続させる」旨夫が遺言
(「妻全遺言」とします)を残すことで、一次相続をクリアするの
は賢明な方策と言えます。
 子らもそれにクレームを付けることは通常ないと思われます。遺言がなくとも、節税のためとあれば、相続人である
妻と子らの遺産分割協議で「お母さんが全遺産の分割を受ける」
(子らには「零 分割」)とすることに子らも同意してくれる
のではないでしょうか。あとは、遺された妻が、子らに「お母さんが遺言で配分を考えます」と予め釘を刺して、親孝
行をお願いし易い状況にするのもよいかも知れません。

 一次相続を、上記の妻全遺言も含めたベストミックスで構想できる環境が、平成30年の相続法改正によって整ったよ
うに思います。つまり、同改正によって、配偶者居住権が新設され、また、居住用建物又はその敷地
(建物又はその敷地をひ
っくるめて、私なりに「居住資産」と略称します)
の生前贈与・遺贈も、居住権の遺贈と共に、相続で受けたとみなされる「みなし
遺産
」から外れ、相続分の縛りを脱しました
(但し、遺言がなく遺産分割によって配偶者居住権を受けるときは、相続分の縛りを受けます)
 この場合、制約として残るのは遺留分のみですから、配偶者の相続には少なくとも右の形であれば、随分な安心が得
られることになります。

 ですから、子らが、その配偶者等も含め、生前から納得してくれていれば、まずは上記のように、一次相続では妻全
遺言をして、配偶者控除によって税負担を軽くする方途をとります。そして、子らにどうしても一定の財産を与える必
要があるため妻全遺言ができない場合は、配偶者居住権の遺贈か同居住資産の遺贈・贈与によって遺される配偶者の居
住を確保した上で、その他の遺産
(上記 法改正により、これが相続分の対象になります)を相続人に遺す遺言をすると良い訳です(但
し、遺留分に食い込まないように 注意が必要です)
。この辺の対処をどう考えるか、「人生百年」の計に照らし、愚考しましたので
こちらもご覧下さい。

 さて、そうした上で、遺された妻としては、次の自身の相続をどう考えたら良いのでしょうか。もう、配偶者控除は、
通常は、ない訳ですし、その控除のないまま子らに、
基礎控除 (三千万円+六百万円×子の人数) だけで相続させることで良い
ものかどうか、が思案のし所ということになります。

 また、自身の老人ホームやいわゆる終活等ゆとりをもって整えた上で、子供たちに遺すべきものは遺し、なお税負担
をなるべく軽減してこの二次相続を乗り越えるにはどうしたら良いか、不動産評価額が高額であったりすると、その結
果で、物納等の窮地に陥る様なこともまま例を聞きますので、その様なことのないように対策を立てる必要もあります。

 ですから、この二次相続こそ、正に
相続の正念場ということになります。そこで、税法上、二次相続のその様な目的
に相応しいと思われるいくつかの扱いをご紹介したいと思います
 (以下、二次相続を前提として述べますので、その点ご了解下さい)

1.相続時精算課税制度 
 前述しました「特別受益 
(民法903条) は、要するに亡くなった後から、故人の生前贈与行為を振り返り、「あれは相
続の前渡しだった」として、その分だけその受益者の相続分を減らそうとする、公平理念からの考え方でした。

 この生前の財産処分を、生前から複数年を通して、予め相続税の観点から捉えておこうとするのが、相続時精算課税
制度
です。生前贈与については、通常は、暦年でその都度高い贈与税を課せられるので、受益者にしてみれば税額が相
続税より高い分だけ貰い損ねたことになります。そこで、生前の贈与時から税率上有利な相続同様の扱いをする制度が
考えられたのです。

 60歳以上の者が、20歳以上になる自分の子や孫に、生前のうちから、相続の前渡しのつもりで贈与をするときは、
その旨の申請をすれば、それによる暦年の贈与分は、合計2500万円迄は贈与税を課せられず、それを超えた分について
一律20%の贈与税を払います。そして、贈与者が亡くなって被相続人となったときには、その相続によって実際に取得
した財産の価額と相続時精算課税の適用を受ける贈与財産の価額を合計した金額を基に計算した相続税額から、既に納
めた相続時精算課税にかかる贈与税相当額を控除して相続税額を算定します。

 要するに、申請に係る生前贈与については、結果として、高い贈与税率ではなく、低い相続税率で、相続として扱わ
れることになりますし、生前納めた2500万円を超える部分についての贈与税分が控除されるので、助かる感もあると言
えます。

 但し、一旦この精算課税の選択をすると、その贈与者との間での贈与・受贈については、通常の暦年課税に変更する
ことができないこと、また、受贈の年の翌年の一定期間内に申告書を提出しなければならない等、手続きが面倒な点が
デメリットだと言われています。

 また、亡くなる前3年間の生前贈与は、「相続税算定のあらまし」で触れます様に、結果的に、相続税と同じ扱いを
受けることになりますから、この制度のメリットは、それより以前から生前贈与しておきたい場合に出てくることにな
ります。生前3年間の贈与ですと、通常 非課税・不申告で済む年110万円迄のものも、相続財産とみなされて課税され
ますから、亡くなる前3年間は全ての贈与が結果的に相続課税されることになります。

 
その3年を超える生前での贈与であれば、年110万円迄なら 非課税・不申告で済むので、これは贈与税・相続税のい
ずれもフリーですから、これの累行によって、予め遺産のボリュームを減らし、相続時の税負担を軽減するのも一法で
す。ご自分の寿命との相談という面もありますから、厳密な時期の選択は微妙となるかも知れませんが。

2.小規模宅地等の特例制度等
 
もう一つ、相続税の仕組みの中で大事なこととして、小規模宅地等の特例制度があります。これは、大まかに言えば、
亡くなった人の同居の親族、或は 生計を一にしていた親族が、故人の宅地を居住用、或いは故人の事業を継続する為に
継ぐときは、その宅地の評価額を 、一定限度面積
 (居住用宅地であれば330㎡) 迄の部分について、場合によっては8割もの大
幅な減額とし、税額を少なくして貰える制度です。

 同居でなくとも、3年以上自分の持ち家に住んでいなかった親族
 (被相続人と同居する相続人がいない場合に限られます) につい
ても適用がありますので、親族が老親の面倒を見るためのインセンティブにもなりますし、その土地での事業等の承継
を後押ししてくれることにもなります。

 逆に、この制度がないと、宅地を継いだ相続人は、地価が高い場所であったりすると、納税の為にその宅地を手放さ
なければならない羽目にもなりますから、大袈裟かも知れませんが、社会の安定的承継という観点からも相続に絡む重
要な制度と言えます。

 但し、これは相続
 (又は遺贈) によって宅地を取得する場合に適用されるものですから、前述した相続時精算課税による
生前の贈与物件には適用になりませんので、要注意です。したがって、同居等によって一体化 
(融合同一化)できる相続人
はこの「小規模宅地」制度のメリットを活用し、それの叶わぬ相続人に対しては「相続時精算」によって生前贈与を考
えるということになります。

 また、相続又は遺贈により取得した被相続人居住用家屋又は被相続人居住用家屋の敷地等を、平成28年4月1日から
令和5年12月31日迄の間に売って、下記の要件に当てはまるときは、譲渡所得税の課税評価につき譲渡所得の金額から
最高3,000万円まで控除することもできます。

 
空き家が放置されると倒壊や不法侵入、環境衛生面での問題等となり得る事から相続によって取得した空き家が放置
される事なく売却しやすい環境を整える為特例です。これを、被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の
特別控除の特例
と言います。

 相続を巡る事情から不要な空き家を相続することとなる相続人も、それが故人の居住家屋であった場合は、その売却
による税負担が軽減されますから、少なくともその様な相続でのデメリット面が一定程度解消されます。不動産の譲渡
所得税についてはこちらも参照下さい。
イ 昭和56年5月31日以前に建築されたこと。
ロ 区分所有建物登記がされている建物でないこと。
ハ 相続の開始の直前において被相続人以外に居住をしていた人がいなかったこと。

 なお、要介護認定等を受けて老人ホーム等に入所するなど、特定の事由により相続の開始の直前において被相続人の居住の用に供され
ていなかった場合で、一定の要件を満たすときは、その居住の用に供されなくなる直前まで被相続人の居住の用に供されていた家屋は被
相続人居住用家屋に該当します。


3.教育資金非課税制度
 
この制度は、子や孫に対する教育のための資金贈与には、税法上の優遇があるというものです。
 もともと、扶養義務者間
(親子間等)で必要の都度支払われる教育資金は贈与税非課税ですが、教育については将来に
わたり多額の資金が必要であり、 一括贈与 のニーズも高いことから、教育費の確保に苦心する子育て世代を支援し、
経済活性化に寄与することを期待しての制度とされます。詳しくはこちらをご覧下さい。

 期間や贈与方法等の限定はありますが、大まかに言えば、
令和5年 3月 31 日までは、金融機関等との教育資金
管理契約に基づき、子・孫
(受贈者)名義の金融機関の口座等に、教育資金を一括して拠出し、(その使途については金融機関
が領収書等をチェックしますが、)
 子・孫ごとに 1,500 万円までは、非課税申告書の提出によって贈与税がかからないで済む
という制度です。金融機関との契約の期間内に贈与者が亡くなり、資金が残った場合は、残額には相続税が課税され
ます。また、子以外の、孫・曾孫への贈与の場合は、相続税の2割加算が行われます。

 当初、平成31年までの措置であったのが、令和3年まで延長され、さらに又延長となりました。通常の高い贈与税率
を考えれば大変に有利な方法と言うことができます。 ただ、注意すべきは、ご承知の様に、贈与を受ける額が1年間で
110万円以下であれば、その使途を問わず、贈与税の基礎控除によって、非課税・不申告で済みますし、そもそも扶養
義務者からの
教育資金は、「贈与税のかからないもの」として、入学金、授業料等の振込等の都度、領収証等を取って
おけば非課税で済み
 (但し、要申告) 生活資金についても同様なのです。

 本制度については、管理契約の締結や支払い資料の提出等金融機関とのやりとりがかなり面倒な点があること、大き
な資金を一度に贈与してしまうと、後で身内の葛藤などから却って心労の種となったりすることもあるようなので、こ
れらを比較検討した上で臨むことが必要と思われます。


4.結婚・子育て資金非課税制度
 
この制度は、令和5年年 3月 31 日までの間に、個人(20歳以上(令和4年4月1日以降は18歳以上となります)50歳未満で、前年の所得
1000万円以下の方に限ります)
が、結婚・子育て資金に充てるため、 金融機関等との一定の契約に基づき、受贈者の直系尊属
(父母や祖父母など)から ①信託受益権を付与された場合、②書面による贈与により取得 した金銭を銀行等に預入をした場
合又は ③ 書面による贈与により取得した金銭等で証券会社等 で有価証券を購入した場合に、これらの信託受益権、金
銭又は金銭等の価額の内1,000万円 までの金額に相当する部分の価額については、金融機関等の営業所等を経由して結
婚子育て資金非課税申告書を提出することにより贈与税が非課税となるという制度です。詳しくはこちらをご覧下さい。
  当初、平成31年までの措置であったのが、令和3年まで延長され、さらに又延長となりました。残額課税と2割加算
については上記教育資金の場合と同様です。

 結婚・子育て資金とは、 (1) 結婚に際して支払うものとして、 ① 挙式費用、衣装代等の婚礼
(結婚披露)費用(婚姻の
日の1年前の日以後に支払われるもの) 
② 家賃、敷金等の新居費用、転居費用(一定の期間内に支払われるもの)が、そして、
 (2) 妊娠、出産又は育児に要するとしては、 ③ 不妊治療・妊婦健診に要する費用 ④ 分べん費等・産後ケアに要する費
用 ⑤ 子の医療費、幼稚園・保育所等の保育料
(ベビーシッター代を含む)などが含まれます。

 なお、(1) については、300万円が限度とされています。この制度についても、上記3.同様にケースバイケースで
種々比較検討することが必要でしょう。


住宅取得等資金非課税制度
 
この制度は、令和4年 1 月 1 日から令和5年12月31日までの間に父母や祖父母など直系尊属からの贈与により、
自己居住用に供する住宅用の家屋の新築、取得又は増改築等の対価に充てる為の金銭
(「住宅取得等資金」)を取得した
場合、一定の要件を満たすときは、
(例えば、契約時期や省エネ住宅である等の条件を満たせば)場合によっては、1000万円迄の金額
について 贈与税が非課税となる制度です
(令和3年末までは1500万円迄 非課税でした)。 2.の小規模宅地等の特例は、親族に
住生活における一体化
(融合同一化) によって住まいや事業の承継を促す機能を果たすものでしたが、こちらは住宅取得を
支援する形で、資産承継の一助とし、かつ、高齢者世代の保有資産を活用して経済の活性化を図ろうとするものです。
受贈者の所得金額や、住宅の面積等についても一定の制約があります。詳しくはこちらをご覧下さい。
 但し、こちらの非課税制度を使った相続人は、「小規模宅地」の方は使えませんから、相続人の間で活用する制度を
割り振って考えなければなりません。

6. 生命保険金・死亡退職金
 生命保険金について、判例は、保険会社との生命保険契約に基づく 契約上の受取人に給付され、その者の固有財産と
なる金員であり、被保険者が払込む保険料と対価関係に立つものでもないので、遺産として考えることができないが、
他の相続人との比較で著しい不公平が生じる金額であると、持戻しされるべき遺産とみなされる事もあるとしています。

 いずれにしても、財産の承継を考える上では、相続人間のバランスを取る資源として活用できますし、相続税法上は、
原則、一人頭500万円迄 非課税扱いとなるので、選択肢の一つに入れておいて間違いではありません。

 その生命保険金の非課税枠の説明ですが、まず、
500万円の相続人数 倍が非課税限度額です。場合により、その満額
まで非課税とりなります。その額に、当該相続人が受けた生命保険金が、全相続人の受けた生命保険金総額に占める割
合を掛けた金額を、当該相続人が、超えて
(保険金を)受けていた場合、その超える金額について課税されます。

 つまり、相続人が3人いる内、一人だけが生命保険金を受けたという場合は、1500万円が非課税となり、それを超え
る部分についてだけ課税される事になります。

 なお、死亡退職金についても、
判例は、その受給権者に関する定めが相続とは無関係な生活補償的なものとなってい
れば、受取人の固有財産であるとするスタンスですが、税法上は生命保険金と同様な扱いをされますから、ケースによ
り同様に選択肢に加えることができます。

7.まとめ
 以上、種々の非課税扱いについて見てきましたが、それぞれにメリット・デメリットがあり、全てを通じてのベスト
というものはありません。

 その人の、相続人の数や、各相続人との関係、各相続人のニーズ、遺産を構成する財産の種別・状況・スケール等種
々、様々な事情が重なりますから、110万円迄の非課税・不申告贈与
(但し、生前3年間になされた110万円までの贈与は、課税対象
となりますから相続税申告での記載を要します)
とか、都度々々の教育費・生活費の(領収証等によるその証明があれば)非課税 (要申告)
 
等も加えれば、千差万別の選択が可能ということになります。

 しかし、例えば、住宅の関係については、前述の様に、同居等によって資産評価の大幅減が図れる「小規模宅地等の
特例」は、相続税の課税対象の内 めぼしい資産である不動産について大きな節税効果を発揮してくれるメインのスキー
ムとなりますし、これと、同居等が叶わない他の相続人に対する「住宅取得等資金」や、「教育資金」、「結婚・子育
て資金」の各非課税を、各相続人のニーズに応じて割振ることによって、相続人間のバランスをとりつつ、節税に資す
ることができます。

 そして、更に、適応ないし余力に応じて、非課税・不申告贈与と都度の教育費・生活費、生命保険金・死亡退職金等
を加えれば、かなりの税軽減を図れるものと思われます。

 但し、例えば、3.から5.の各非課税制度が、時限立法で期限がある様に、それぞれかなり面倒な条件・期限や
手続きがありますから、注意と覚悟が必要ではあります。

 又、相続時精算課税は、これによらずに贈与税を取られるときのことを思えば、結局は相続税扱いされてずっと節税
にはなるのですが、しかし相続税としては丸々課税されることになるので、どうしても生前に、それも生前3年以内の
贈与とはならない、それより早い時期からの贈与をしてやらねばならない事情・必要がある場合に、精算課税の申請を
する事になるのでは、と思いますが、如何でしょうか 
(生前3年以内の贈与は、全て相続に引き直されて相続税が課せられ、既に納め
た贈与税相当額が控除されます)


 何れにしても、不動産の資産価値は大きく、課税額も他の財産と比べ格段に多額になりますので、同居や事業承継を
通じて小規模宅地等の特例の利用を図ることが税軽減の手立ての第一手になると思われます。