遺 言 書 (注1)
私 山川 越雄は、私が亡くなったとき、私の有する財産と祭祀のことは、以下に述
べるとおりに承継されるべきことを、ここに遺言します。
第1条 私は、私の有する次の財産を、私の妻山川伴子(昭和○○年○○ 月
○○日生)に相続させる。 (注2)
ただし、前記妻山川伴子が私より先に又は私と同時に亡くなったときは、私の長
男山川○夫(昭和○○ 年○○ 月○○ 日生)に相続させる。 (注3)
① 土地 (注4)
不動産番号
所在 ○○市○○区○○町○○丁目
地番 ○○番
地目 宅地
地積 ○○.○○平方メートル
② 建物
不動産番号
所在 ○○市○○区
家屋番号 ○○番
種類 居宅
構造 木造亜鉛メッキ鋼板スレート瓦葺平家2階建
床面積 1階 ○○.○○平方メートル
2階 ○○.○○平方メートル
③ 借地権(②建物の敷地の賃借権) (注5)
所在 ○○市○○区○○町
地番 ○○番地
地目 宅地
地積 ○○.○○平方メートル
賃借人 私
賃貸人 ○○○○
④ 区分建物及びその敷地権
(一棟の建物の表示)
所 在 ○○市○○丁目○○番地
建物の番号
構 造 鉄骨鉄筋コンクリート造陸屋根 階建
(専有部分の建物の表示)
不動産番号
家屋番号 ○○丁目○○番
建物の番号
種類 居宅
構造 鉄骨鉄筋コンクリート造1階建
床面積 ○階部分 ○○.○○平方メートル
(敷地権の表示)
土地の符号
所在及び地番 ○○市○○丁目○○番
地目 宅地
地積 ○○.○○平方メートル
敷地権の種類 所有権
敷地権の割合 ○○万○○分の○○
第2条 私は、私の有する次の財産を遺言執行者において必要に応じ解約・換金し、
私の未払いの租税公課、日常家事債務及び葬儀費用を支払ったのちの残余の財産
を、前記妻山川伴子、私の長男山川○夫(昭和 ○○年○○月○○ 日生)及
び私の長女海野□子(平成○ 年○○ 月○○ 日生)に、各3分の1の割合で
相続させる。
ただし、前記妻山川伴子が私より先に又は私と同時に亡くなったときは、本条の
財産は、前記長男山川○夫及び同長女海野□子に、各2分の1の割合で相続させ
る。
⑴ 次の各金融機関に対する預貯金債権、保護預け中の有価証券等、その他一切の
金融資産
① 株式会社○○銀行○○支店 (注6)
② 株式会社ゆうちょ銀行 店名○-○
③ ○○信用金庫○○支店
④ ○○証券株式会社○○支店
⑤ その他の金融機関 (注7-1)
第3条 遺言者は、次の生命保険契約の生命保険金の受取人を前記長男山川○夫から
前記妻山川伴子に変更する。ただし、前記妻山川伴子が私より先に又は私と同
時に亡くなったときは、この受取人変更はしないものとする。(注7-2)
保険会社 xyz生命保険相互会社
証券番号 1234567
保険金額 ※※※万円
2 後記遺言執行者は、相続開始後速やかにxyz生命保険相互会社に対し、保険
金受取人変更の通知をするとともに、所定手続きを講ずること。
第4条 遺言者は、遺言者の所有する下記財産につき、下記のとおり信託を設定する。
記
1 財産の表示
⑴ 信託不動産の表示
① 土地
不動産番号
所在 ○○市○○区○○町○○丁目
地番 ○○番
地目 宅地
地積 ○○.○○平方メートル
② 建物
不動産番号
所在 ○○市○○区
家屋番号 ○○番
種類 居宅
構造 木造亜鉛メッキ鋼板スレート瓦葺平家2階建
床面積 1階 ○○.○○平方メートル
2階 ○○.○○平方メートル
③ 建物
不動産番号
所在 ○○市○○区
家屋番号 ○○番
種類 居宅
構造 木造亜鉛メッキ鋼板スレート瓦葺平家2階建
床面積 1階 ○○.○○平方メートル
2階 ○○.○○平方メートル
⑵ 次の各金融機関に対する預貯金債権
① 株式会社○○銀行○○支店(普通預金)
② ○○信用金庫○○支店(定期預金)
⑶ 有価証券
○○証券株式会社○○支店に保護預け中の次の有価証券
① ○○MRF ○○○○○口
② ○○ホールディングス ○○○○○株
2 信託の目的
前記⑴の不動産、⑵の預貯金債権及び⑶の有価証券を信託財産として管理し、前記
⑴の不動産を賃貸した場合には、その賃料収入、及び、前記⑵の預貯金債権の利息、
⑶の配当があればその配当金をもって、受益者の生活資金(生活費)の給付を行うこと
3 受託者
遺言者は、本信託財産の受託者として、○○弁護士会所属の○○○○弁護士(平成
○○年○○月○○日生、住所○○県○○市○○町○○番地)を指定する。
4 受益者
遺言者の孫(遺言者の弐男亡山川◇夫の長女)山川◇美(平成○○年○○月○○日生)
5 信託期間 受益者が満20歳に達する日まで
6 信託終了の際の権利帰属者
受益者である前記孫山川◇美
7 管理に必要な事項
⑴ 信託不動産について信託による所有権移転の登記及び信託の登記手続をするもの
とする。
⑵ 保存に必要な修繕は、受託者が適当と認める時期、範囲において行う。
⑶ 受託者は、信託不動産を他に賃貸することができ、既に賃貸しているものについて
は、賃貸人の地位を承継する。
⑷ 受託者は、信託不動産から生じる賃料、預貯金、その他の収益から公租公課、保
険料その他の必要経費及び信託報酬を控除し、毎年12月の末日現在において精算
し、◇美には、原則として月々金○○万円也の範囲で、生活費を渡すものとする。
⑸ 信託期間満了により信託が終了したときは、受託者は、信託不動産、預貯金及び
有価証券を権利帰属者である受益者に引き渡し、かつ所有権移転登記手続、名義書
換手続をするものとする。また、賃貸借関係、保険関係その他一切の関係を引き継ぐ
ものとする。
⑹ 信託の報酬
信託終了時に、受託者の属する弁護士会の(旧)報酬規程に定める遺言執行者の
報酬により報酬額を定める。
⑺ 以上の外、信託の細目は、受託者と受益者で協議して定めものとする。
第5条 私は、第1条乃至第4条の財産以外の、本遺言書に記載のないその他一切の
財産を、私の孫(私の長男山川○夫の長男)山川△輔(平成○○ 年○○ 月
○○ 日生)に遺贈する。 (注8)
ただし、前記孫山川△輔が私より先に又は私と同時に亡くなったときは、前
記長女海野□子に相続させる。
第6条 私は、本遺言の執行者として、次の者を指定する。
住所 ……
氏名 山川○夫
昭和○○年○○月○○日生
ただし、前記長男山川○夫が私より先に又は私と同時に亡くなったときは、前
記孫山川△輔(住所 … 、平成○○年○○月○○日生)を指定する。
2 同遺言執行者らは、代理人をして遺言執行をさせることができ、その選任につ
いては同遺言執行者らに一任する。
3 また、同遺言執行者らは、この遺言を執行するため、相続人の同意書を要する
ことなく、第1条記載の不動産の引渡し、及び、相続登記を具備するまでの、相続
に必要な一切の行為をなす権限を有し、金融機関における私の権利に属する貸
金庫を開披し、その内容物を取り出して遺言執行する権限、並びに同貸金庫契約
を解約する権限を有し、また、第2条記載の預貯金等の金融資産の解約、払戻し
、名義書換請求をする権限、その他この遺言執行のために必要な一切の権限を
有する。
(注9)
第7条 私は、祖先の祭祀を主宰すべき者として、前記長男山川○夫を指定する。山
川家の系譜、祭具及び墳墓の所有権は、同人が承継する。 (注10)
ただし、前記長男山川○夫が私より先に又は私と同時に亡くなったときは、前記
孫山川△輔を指定する。その場合山川家の系譜、祭具及び墳墓の所有権は、山川△
輔が承継する。
以上、遺言者である私が、すべて自書しました。次に日付、住所、氏名、生年月日を
自書して、押印します。
平成○○年○○月○○日 (注11)
住所 ○○県○○市○○町○○丁目○○番○○号
遺言者 山 川 越 雄(自署)㊞ (注12)
昭和○○年○○月○○日生
なお、本遺言書の本文○○行目「○○○○」から○○行目「○○○○」までを、削
除して、「○○○○」と訂正し、その箇所に押印しました。山 川 越 雄(自署)
(注13)
(注1) 本遺言例は、仮名で作成したあくまで仮想の参考例ですので、ネット上に載っている他
の遺言文例集等もご覧になって、ご自分の事情に合わせて、自己責任で作成して下さい。
遺言は、ワープロ等を用いず、冒頭から最後まで全文をご自分で手書きします。 どうしても、
誤記が生じ得ますから、その場合は最後の注にあるように、方式に則った「訂正」をしなければ
ならないのですが、これが一番の難点で、定められた訂正方法が面倒かつ普通の直し方ではありません。
但し、パソコンの秘策があります。最後の(注13)をご覧下さい。
なお、添え手の補助を受けた自筆遺言証書の有効性に関する判例(最高裁昭和62年10月8日判決)を
ご覧下さい。
(注2) 配偶者には、配偶者控除(国税庁「配偶者の税額の軽減」参照)が1億6千万円(又は、配偶者の法定相
続分の額のどちらか高い方)まで認められていますので、配偶者妻に多く遺すことは、相続税の節税に
資するところ大です。もう一つ、子のないご夫婦の場合、ご自身亡き後の配偶者の生活に遺産の全て
を充ててやりたいと思っても、(親が先に逝って)兄弟(姉妹がいる場合には)に4分の1(親が存命であ
れば、親に3分の1)は法定相続分で配分しなければなりませんから、それを避けるためには、遺言で
「妻○○に遺産の全てを相続させる」と定めておくことが必須となります。兄弟姉妹 には遺留分が
ありませんから、その遺言が覆されることはありません ( 但し、その場合親には1/2の遺留分があり、
それに法定相続分1/3がありますから、親の具体的遺留分は1/6です 。両親健在であれば、各1/12とな
ります)。
又、「配偶者」は、入籍をした戸籍上の配偶者である必要がありますから、所謂内縁(或いは
事実婚)の妻や夫では相続権は認められません。ですので、ご自身亡き後のそのような連合いの生活
を案ずる方は、遺言で「遺贈する」旨を定めておくことが必須となります。
なお、「私の妻山川伴子に相続させる」とあるこの「妻」は単なる呼称ではなく、「私の亡くなる
ときに妻として存在する」という限定の意味がありますから、もし、亡くなる時に離婚していた場合
には、「相続させる」ことができず、この定めは無効となります(元配偶者継がせる場合「遺贈する」
としなければなりません)。
又、もしあなたが再婚している場合、前婚でのお子さんがあれば、そのお子たちも当然相続権が
ありますので、相続で紛糾する余地を残さぬよう、遺言をする方がベターです。遺言をするにあたって、そ
のお子たちの遺留分を侵す内容であれば、紛糾の種となりますから、遺留分の遵守に留意しましょう。
なお、「相続させる」という文言ですが、これを「遺贈する」或いは「贈与する」等としてしま
うと、登記実務上、手続きが権利者・義務者(義務者側は共同相続人全員ということになります)の
双方申請となって面倒ですので、必ず、権利者単独で登記ができる「相続させる」という文言を記載
するべきです ( 但し、新設された配偶者居住権は、相続分の縛りのかからない遺贈枠で扱って貰うため敢
えて「遺贈する」としますから、要注意です ) 。農地の場合も「相続」については農業委員会の許可を要
しないが、「遺贈」の場合等は、その許可が必要となる(判例①)という大きな違いが出てくるので
同じことが言えます(但し相続人に対する農地の遺贈の場合は許可を要しないとされます(判例②))。
(注3) もし、相続させたい者が遺言者より先に亡くなると、この定めは無効となり、この財産は
法定相続分に従って相続されることになる(それでは、わざわざ遺言をした意義が失われてしまいます)との説
と代襲相続されるという説(遺言されるご本人の意図から全く離れてしまうこともあり得ます)とがありましたが、
平成23年2月22日最高裁判決により、前者に確定していますので、このように補充的予備的遺言をして
おかないと、定めが無効となります。
(注4) 不動産は、亡くなった後、スムーズに登記できるよう、現在の登記の記載と同じに正確に
表記します。そのためには、事前に法務局で登記簿謄本(今は、「全部事項証明書」といいます)
を取得しておく必要があります。
(注5) 借地権は、借地契約書の記載に基づいて正確に記載します。
(注6) 金融資産の表記の末尾には必ず「その他一切の金融資産」として、漏れのないよう
にします。預貯金額は、変動しますから、残高を記載しない方が良く、預貯金債権が何処の銀行の
何支店にあるかを、記載すれば足ります。口座番号も、遺言後に変わったり、追加の口座が設けら
れたりすることもあるので、口座番号で特定しない方が良いと思います。
(注7-1) 金融機関の記載に漏れがある場合、後に新たな金融機関への預入れが生じる場合等に
備え、必ず「その他の金融機関」の記載もしておきます。
(注7-2) 生命保険金については、被相続人を保険契約者及び被保険者とし,共同相続人の
1人又は一部の者を保険金受取人とする養老保険契約に基づき保険金受取人とされた相続
人が取得する死亡保険金請求権は,原則として、民法903条1項に規定する遺贈又は贈与
に係る財産には当たらない旨を判示した判例 (最判平14・11・5、昭40・2・2)があります。しか
し、判例も、その保険金が他の相続人との比較で著しい不公平が生じる金額であれば、持戻し
されて遺産とみなされることもあるとしているので、いずれにしても、財産の承継を考える上で
相続人間のバランスを取る資源として活用できますし、相続税法上は、原則、一人頭500万円まで
の非課税扱いとなるので、選択肢の一つに入れて良いことは間違いありません。
生命保険金の非課税枠:500万円の相続人数倍が非課税限度額。その額に、当該相続人
が受けた生命保険金が、全相続人の受けた生命保険金総額に占める割合を掛けた金額を、
当該相続人が、超えて(保険金を)受けていた場合、その超える金額について課税される。
(注8) 遺産の全てについて遺言しておかないと、遺言のない残りの財産については、全相続人
による遺産分割協議を経なければならず、遺言するメリットがほぼ失われます。推定相続人に
継がせる場合は、「相続させる」と表記し、それ以外の者に継がせる場合は、孫のような直系の
者であっても、「遺贈する」となります。その場合、相続税が2割増しとなります(配偶者と1親等
の相続人以外の者が財産を取得するときは、原則、2割加算となります)。
(注9) 遺言執行者を指定すると、その者が、原則、一人で銀行、登記所等での相続手続きを行
うことができます(§1015)。指定がないと、一々の相続手続きに全相続人の委任状と印鑑証明書
が必要となります。
なお、不動産を推定相続人以外の者(例えば、相続人である子にではなく、その子の子、つまり孫)に継がせたい
場合は、その不動産をその者に「遺贈する」と書きますが、その場合、遺贈は、遺言者単独でする
行為とされていても、登記実務上は遺贈義務者側と受遺者側の双方共同申請とされているので、
義務者側は全相続人が手続きに参加しなければならないのですが、平成30年の改正により、
このような場合、遺言執行者のみが遺贈を履行できるとされていますから、(受遺者との
共同申請上)遺言執行者の指定は不可欠のこととなります。さらに、受遺者が執行者に指定
されていれば、遺言執行者一人で双方を兼務して手続きできるので、一層便利です。なお、
遺贈と相続の違いについてこちらもご覧下さい。上記法改正により遺言執行者の地位・権限が強化
されました。こちらをご覧下さい。
(注10) 墳墓等の祭祀財産は、相続の対象である遺産とは別に、遺言(遺言がなければ慣習)に
より定まる祭祀主宰者により承継されます(民法897条)から、必要があれば、別に一項を設けて
祭祀主宰者を定め、その者に承継させます。
(注11) 遺言した正確な日付を記載します。年月だけ記載し、日付を「吉日」とした遺言を
無効とした判例(最判昭和54・5・31)があります。日付を欠く遺言も、当然無効とされます
(最判昭52・11・29)。「○年○月」とだけ記載し、本文、署名、押印等の、日付以外の部分
を書き終えた数日後に、日付を入れて完成させた場合は、その日付の日に遺言が適式に成立
したものとして、有効であるとする判例(最判昭52・4・19)があります。全文を自書しなけれ
ばなりませんから、署名も当然自署ですが、その旨注意書きとして(自署)としました。本物
ではこれは不要です。
(注12)押印は、本文が完結したという意味でこの箇所にするべきですが、この箇所に押印せず、
封入した封の封じ目に押印した遺言書を、有効である旨判示した判例(最判平6・6・24)があり
ます。また、印は、その種類が限定されていないので、実印に限らず、認め印でもよいとされ、
さらに、平成に入って指印でもよいとする判例(最判平成元年2・16)も出ましたが、花押は押
印として認められないとされています(最判平28・6・3)。真偽紛糾したときは、実印であ
る方が真正証明のためには証明力があります。
(注13) 訂正については、末尾にこのように記載しますが、本文中の当該誤記箇所で訂正を
(本遺言例では作成上できないので行っていませんが)行い、押印を(ここが肝腎なところ)
訂正した旨の此処の記載に続いてではなく、その(本文中の)訂正箇所に押印します。
「訂正」は自筆遺言の最大の難所ですが、パソコンを使っての秘策をお教えします。自書する
「全文・日付・氏名」の内、間違いの生じやすい「全文」については、予めパソコンで、この自筆
遺言例を参考に十分推敲し、内容が確定したら、これを文字の色指定により、自分で判読できる
ごく薄い薄墨色 (薄いグレー) で印刷します。そして、全文を筆ペンでゆっくりなぞれば、訂正を必
要とする誤字・誤記は起こり得ません。