本ホームページ中の平成30年7月相続法改正関連部分


     法改正を踏まえての
相続の仕組み  


    
改正諸点まとめ一覧     こちら政府広報もご覧下さい。



1.
相続する権利の 対第三者 対抗力改正                  


    平成30年相続法改正
   

     
法改正による「対抗」の再考

    

2.
配偶者居住権・配偶者居住資産

   
人生百年時代と配偶者居住資産


3.
配偶者短期居住権

4.
相続債務の承継

5.
相続債権の承継

    
相続預貯金の一部債権行使 ( 遺産分割前の仮払い )


6 
改正法による遺留分規定の概観

    
改正法による遺留分チャート

7.
遺留分の原資(算定基礎)

8.
遺留分侵害額の請求 (遺留分現債)


9.
遺言執行者の地位と権限

    
遺言執行者の復任権

10.
自筆遺言証書の法務局保管

11.
自筆遺言での財産目録自筆不要

12.親族に対する特別寄与料

13.影響 ( 遺産管理への )








  
平成30年の法改正による改正諸点 (詳しくは、下線クリックでご覧下さい。)
      なお、それぞれの施行日は、2.3.が令和2年4月1日、8.が同年7月10日、9.は平成31年1月13日に既施行、その他は令和元年7月1日です。

1.相続による権利取得の対抗要件 相続による権利の取得については、登記等の対抗要件を備えなければ、法定相続分を超える分の取得を第三者に対抗できない。

2.配偶者居住権 夫婦間での居宅居住権の遺贈、遺産分割により、配偶者は、原則その居宅に終生無償で居住でき、従前通りなら収益もできる。遺贈により、みなし遺産とする計上を不要とする旨の被相続人の意思表示があったものと推定されるから、相続枠外で相続分の縛りのなく居住を確保でき、それ以外の遺産から配偶者相続分を取得できる (但し、遺留分については従前どおり)。居住の「権利」でなく、建物又はその敷地の遺贈・贈与についても同様推定され得るが、その場合、婚姻二十年以上の夫婦間での遺贈・贈与であることを要する。無遺言の遺産分割による居住権は、従前通り相続枠内で相続分の一部として配分される。配偶者は、従前の用法に従い、その建物を善良な管理者の注意を払って使用・収益しなければならず、居住建物が要修繕なら、自分で修繕できるが、自分でしないときは所有者に対する通知義務がある。承諾ないまま、他人に使用させ、或いは増・改築をする等してはならず、他人への権利譲渡も禁じられる。配偶者に義務違反がある場合、所有者は、居住権を消滅させる意思表示をすることができる。

3.配偶者短期居住権 伴侶を亡くした配偶者は、無償居住していた居宅に、遺産分割による取得者が決まってから6か月か、相続開始から6か月かのいずれか遅い時まで、建物が遺贈されていた場合は、受遺者から解約申入れがあってから6か月まで、無償で居住できる。

4.相続債権債務の承継 相続債権を相続した相続人は、遺産分割、或いは、遺言の内容を示して、債務者に通知すれば、全相続人から通知したものとみなされて、債権を行使することができる。相続債務の債権者は、その権利行使にあたり、相続人の法定相続分に則って回収することができるが、遺言による相続分によってすることもできる。

5.相続預貯金の一部債権行使 ( 遺産分割前の仮払い) 遺産の勝手な処分 預貯金債権は、相続人において、その法定相続分の1/3の額か金額150万円のいずれか低い方の金額まで、単独で引出しが可能。その金額については、遺産の一部の分割を受けたとみなされる。また、遺産分割前に遺産に属する財産が処分された場合、共同相続人は、その全員 ( 処分をした当該相続人を除く ) の同意により、当該財産が遺産の分割前に遺産として存在するものとみなすことができる。

6.遺留分規定の改正 相続人に対する被相続人からの生前贈与の内、生前10年間のものは無条件で、それより以前のものは遺留分権者を害すると知ってした贈与に限り、みなし遺産に持戻しされる。遺留分「減殺」制度は廃止され、遺留分を侵害するものであっても贈与・遺贈は失効しない。代わりに、「遺留分侵害額請求権」行使の途が新設され、判例が示していた侵害額の算定法が明文化された。

7.遺言執行者の権限関係 執行者は、「遺言の内容を実現する」任務を負い、執行者であることを示してした行為の効力が直接に相続人に及ぶとし、また、遺言執行者には「対抗要件を備えるために必要な行為をする」権限が付与された。遺言執行者の指定がある場合は、執行者のみが遺贈を履行できることとされた。遺言執行者がする執行を妨害する行為は、無効との判例が明文化された。但し、善意の第三者に対抗できない。

8.自筆遺言証書の法務局保管 自筆遺言証書は遺言者自身による申請で法務局での保管が可能となる。亡くなった後に相続人、受遺者或いは遺言執行者から、その保管証明書の交付請求、その閲覧請求、遺言書の画像情報証明書の交付請求をすることができる。また、法務局保管にかかる遺言書は家裁での検認が不要となる。

9.自筆遺言での財産目録自筆不要 自筆で記載すべき自筆遺言証書の内、財産目録だけは、書面の写しを用いることができる。但し、その頁毎の署名押印が必要。

10.親族に対する特別寄与料 相続人以外の親族に限り、「無償で療養看護その他の労務を提供したことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした」者は、その寄与に応じ、特別寄与料を請求することができる。当事者間での協議が不調ならば家裁で審判する。卒時遺産から遺贈の額を控除した残額を超えることはできない。特別寄与料は、相続人各自がその相続分に応じて負担する。この請求の請求権は、被相続人が亡くなったことと、その相続人を知った時から六か月が経過するか、又は、亡くなって一年が経過すると消滅する。
































相続による権利取得の対抗要件 (平成30年7月民法改正) 
 2018年(平成30年)7月13日民法の相続に関する部分が改正されました。この改正法が2019年(令和元年)7月1日から
施行されました。
 かなり重要な点が改められましたので、改正法の内、相続編のこの冒頭部に相応する部分について説明します。

 相続の本質に関する私の上記「権義主体同一性」、「融合同一化」の二点はそのまま維持しますが、それによる
主同承継 が「
登記なくして対抗できる」とする点については、限定が付きます。「法定相続分の限度において
です。
法定相続分を超える部分については、対抗要件なくしては 第三者に対抗できない枠組みとなりました
 ( 新899条の2) 

 クオレ
(法定相続分900条)を承継の「主芯」部分とし、それを超える「芯超」部分と区別すると、主芯承継には対抗
要件は不要ですが、芯超承継には対抗要件を備えないと他に対抗できません。


 
クオレに対する私定(指定)相続分が遺言で自由に設定でき、「相続させる遺言(特定財産承継遺言)によって、特定物
を特定の相続人に取得させることができるとしても、遺言の自由が過ぎて
、(兄弟姉妹を除く) 相続人本来の取得分
(クオレ)
からの乖離が見過ごせない程になると、
遺留分による規制を受けますが、遺留分は、通常 クオレの半分(親だけが
相続人の場合は1/3)
で、遺留分も「法定」による規制を受けています。
 
相続税においても、同税の総額は、つまる
ところ遺産総額
(から基礎控除を経た上)の、相続人ごとの各仮クオレ分に対する速算表での算出額の総額(これから
配偶者控除等の各種控除が行われます)
ですから、同じことが言えます。また、遺言や遺産分割の対象外とされる
 
相続債務 (消極財産 )については、遺言で負担者・負担割合等を「私定」しても、債権者には対抗できず、
債権者からのクオレによる取立てを拒むことができません。この様に、債務面でもクオレによる「法定」の規制は
厳然と存在します。
 ですので、相続においては、被相続人の遺産に対する処分の自由は、遺言によって享受できても、その背後には
クオレ
(法定相続分)という背骨が相続全体を厳然と頑固に貫いています。クオレ(法定相続分)は、相続当事者には勿論、
第三者からも明らかで、この背骨の控えによって当事者も、その外の取引世界も相続についてある程度の予測や安
心を得られる仕組みとなっています。

 よって、遺言相続による権利取得もその主同承継性は尊重されるものの、第三者との対抗関係において、クオレ
を超える部分は、権義主体同一性が薄いと見られて、他に対抗する為には、遺贈の場合と同様に対抗要件の具備
を要することとなりました。
 
ただ(登記名義が被相続人にあるときには )判例が否定してきた遺言執行者の登記権限につき、今回の改正が これを認める
明文を置く
(新1014条2項)等、対抗要件具備のための環境が十分に整いましたので、権利を取得した相続人本人はもと
より、遺言執行者においても、安んじて相続登記を早くに履践することができ、公示の先後で決まるこの場面にお
いても左程不安なく対処することが可能となります。

 



       相続遺産 けたら発効899 2

      
クオレ900えたるにつき発公
(示) 899 (の) 2ける 登記 対抗 (力) えよ

   初めの「発効」の「つ」は、「9」が2個「ツー」の意、後の「発公効」では「発」を8「ハツ」と読む。「公」は公示の意。



 
 
しかし、「相続させる」との文言により特定財産を取得させる遺言を、改正法は「特定財産承継遺言(新1014
条2項
)(私は更に略して「特承遺言」)
と呼んでいますが、この種の遺言による財産取得について登記不要を唱えた(香川
判決後の)
判例(最判平14・6・10)により、登記不要で第三者に対抗できる とされていた特定財産取得者についても、改
正によって、その効力は、「法定相続分の限りで」という限定付きとなる という事を銘記しなければなりません。

 すなわち、例えば、遺言者により複数の遺言が作られていた場合、いかに最終意思による特定財産承継であった
としても、登記が以前の遺言に基づき他の相続人によって先に履践されてしまうと、最終遺言によるその特定財産
取得者は、法定相続分の限度でしか先登記者には対抗することができません。又、遺言による取得者でない共同相
続人が、特定財産を第三者に処分していた場合は、その第三者にも法定相続分を超える部分について登記なくして
は対抗できません。

 香川判決が、取引の安全を害するとして厳しい批判も受けていた中、相続の本質を損ねる形で巻き返しをされた
訳で、特承遺言取得者は安閑としておられないこととなります。

相続の本質再考

 
ここで、平成30年相続法改正による権利取得の対抗要件に関する改正点を踏まえた加筆をしたいと思います。

 そして、まず、上記相続の本質について述べたところを、相続人が一人だけというケースに当てはめて考えてみ
ると、分かり易いので、その場合から述べたいと思います。
 相続人が一人だけのケースの相続人は、その者が配偶者であると、血族相続人であるとを問わず、全相続分を独
占します。
 従って、改正法に言う「法定相続分の限りで」という限定
 ( 新899条の2 の反対解釈)下でも、遺産全てについて相続の
本質である権義主体同一性を一人で具現できます。同じ人が、持ち手を左手から右手に替えただけの如き事象と
みなしますから、結局、遺産である不動産についてもその全てについて登記なくして他に対抗 できます。ですので、
一人の被相続人を一人の相続人が相続する場合は、その
主同承継関係は、明白です(→主同承継)。但し、相続人が
一人だけであっても、被相続人によってその者の取得を否定する遺言がなされた場合は、私有財産の処分自由に
基づいて遺言が優先されますから、相続人としては、遺留分の主張によって取得を確保するのが限度となります。

 相続人が複数いる共同相続の場合はどうでしょうか。この場合でも、遺産は相続人間でクオレ 
(民法900条法定相続分)
 
に従って共有分属され、その通りの内容で遺言 或は 遺産分割がなれれば ( 実は、共有の侭であれば、分割協議は不要です ) 
何れの相続人も登記なくしてその取得を他に対抗することができます。互いが被相続人の分身同士なのですから、
主同承継関係を否定することはできませんし、その取得部分については、他にも主張できる強さがあります。

 このように、相続人が一人だけの場合、及び、クオレ通りの法定相続の場合は、全てクオレのままですから、
登記を経ずして他に対抗できます。この相続を、クオレ (イタリア語で「心」・「芯」) の意味も込めて「
主芯承継」と
呼びます。

 そして、主同承継部分の内、上記 主芯部分を除く残りの部分、つまりクオレ
 (法定相続分) を超える部分を芯超部分
と呼び、その承継を仮に「
芯超承継」と略称します。包括承継たる相続分の「私定」や「相続させる」遺言によ
る主同承継の内には、この登記不要で対抗力を持つ強い主芯承継部があり、残りの芯超承継の部分は登記なくして
第三者に対抗できない弱い部分です。


 
これまで、遺言者が「相続させる」と定めた主同承継では、そう遺言された財産が全て「相続」の名のもとに
相続枠で承継され、そのまま他に対抗することができると理解されてきました。しかし、法改正を経て、そう理解
して良いのは、その内のクオレ分
 ( 法定相続分 ) である主芯承継部分のみであり、その外側に残る芯超部分について
は、「相続」として主同承継されるものの、それを第三者に対抗する為には 登記等対抗要件を具備することが必要
となりました。

 ですから、相続人が一人の場合は、相続財産の全てが、いわば主芯そのものであり、これを継ぐのですから、
財産が同一人の左手から右手に移るのと同様にみなすことができます。従って その間に対抗関係は生じません。
第三者に対しても登記なくして財産の取得を主張することができます。ただ、その一人の相続人の取得を否定
する遺言がある場合は、遺言が優先されますから、相続分による取得は主張することができず、遺留分を主張
して確保できる財産がその財産取得が限界となります。
 相続人数人による共同相続の場合は、相続人らの継ぐ主芯部分はそれぞれ何れも被相続人のいわば分身と
言えるものですから、相続人等は、権義主体同一性を共通して持つ間柄です。なので、相続人同士もいわば
分身同士ですから、そこに対抗の問題は生じません。例えば、遺言によって財産を取得した相続人は、他の
相続人に対して登記等対抗要件を要せず、その取得を主張することができます。しかし、とは言え、ひと度
他の相続人から当該財産を譲受けた第三者が現れたときは、その第三者は、相続人としての共通性を持たない
者ですから、民法899条の2にいう「第三者」に当たり、この者に対しては登記等対抗要件がないと、取得を
対抗できないことになります
(→相続登記の必須性)


 この主芯承継は、結局、相続債務の相続関係と同じこととなります。相続債務は、各債権者が控えている訳で、
相続人間で勝手にいじることはできず、クオレ通りに取立てを受け、クオレに従って弁済しなければなりません。
遺言で異なる負担割合等を定めても、債権者には
(債権者が遺言に従ってくれる場合を除き)対抗できない訳です。

 つまり、
消極財産である相続債務と、 ( 遺産分割、遺言の対象となる) 積極財産である遺産との、いずれについても、
     第三者に対し 
( 対抗要件の具備なくして)対抗できるのは主芯承継部分のみであることになります。
 それを超える芯超部分については、いかに遺言に「相続させる」とあり、或は 「相続人Aに負担させる」と定め
 ても、登記等
( 債務の場合は債権者の承認(902条の2) ) を具えなければ第三者に対抗できない事が明文化されました。

 人は私有財産制の下、財産処分の自由により遺言で相続分を 私定
( 指定) し、或は 財産を特定して「相続させる」
 ( 特定財産承継 ) 遺言をすることができますが、その内 芯超部分は、相続の本質である「権義主体同一承継」とは
言える
 ( クオレの保有を伴うので ) ものの、遺言者と相続人との間での ( 「プチ遺贈」と言うべき )遺授」的色彩を帯びる
が故に、これを他に対抗する為には登記
( 公示 ) を具えなければならないと 改正趣旨を理解することができます。

 そうすると、結局、相続とは
一般に「遺産」と言われる積極財産及び、相続債務である消極財産について、
権義主体同一性・融合同一化を伴って生じる包括 主同承継
 であるが、これによる取得や負担を第三者に対する
対抗力を以て主張することができるのは、相続人のクオレ
 ( 法定相続分 ) について生じる主芯承継部分だけである
 
と結論することができます。

 従って、相続人間でクオレ通り共有とする「法定相続」であれば、登記不要で他に対抗でき、かつ、相続人単独で
自分のクオレ分の登記をすることができます。しかし、主芯を超えて多く取得する芯超承継については、その芯超部
は登記なくして他に対抗できません。

 
香川判決以来、遺言の普及に貢献した「相続させる」遺言ですが、この改正法は、同判決が主芯承継についての
み妥当し、芯超部分については、取引安全の観点から
主同承継に安んぜず 今一歩慎重に登記等の対抗要件を具
えるべきである旨を示しています。

 又、遺言での「相続」が、主芯承継か
 ( 芯超部分を「プチ遺贈」として含む ) 主同承継か、何れであるかのところは、
いずれも「相続させる」遺言を「特定財産承継遺言」
(新1014条2項)としてまとめて表現し ( ただ、その内の芯超部分
について、新899条の2第1項により、対抗要件具備がなければ第三者に対抗できないとし)
ていることから、改正法は、主芯部分こ
そ相続のコアとするものの、その ( 「プチ遺贈」と言うべき ) 芯超部分についても、「特定財産承継」として、主同承
継をまとめた表現をするので、この 相続
(=主同承継) 枠内での違いで右往左往すべきでない旨を示唆しているように
思われます。

 ただ、「相続」(狭義)は包括主同承継、
(特定)遺贈」は「相続分」を離れた特定財産の遺授、という枠の違い
あることは重要で
配偶者居住権(配偶者居住資産についても同様)の遺言をする場合その文言は必ず「遺贈」でなければ
ならないことを銘記すべきです。