続・遺言     (uestion ) 

 

1 亡くなった息子の、遺された孫が不憫で、その孫を養子にしましたが、私が亡くなると、相続はどうなりますか?  → 1.

 

2 子供は娘ばかりなので、長女に婿養子をとったのですが、その後長女は孫を産んで亡くなってしまいました。この場合、私が亡くなると、相続はどうなるでしょうか?〔 仮に、婿養子をとった後、私が遺言を遺して亡くなり、その遺言で家産を継いだ長女が、孫ができないまま亡くなった場合、養子となっていた婿は、どのように長女を相続することになりますか?〕 → 2.

 

3 事業で成功していた一人息子が事故で亡くなった時、息子の嫁のお腹にあって (胎児) その後間もなく生まれた孫は、息子の相続人になりますか? 私の、息子に対する相続権はあるのでしょうか? 息子に生命保険をかけ、受取人を「相続人」としていたのですが、誰が保険金を受け取れるでしょうか?  → 3.

 

4 妻子のいない超高齢の長兄が亡くなりました。弟達も既に亡く、弟達の妻子も既に他界しています。でも甥、姪の子、つまり「又甥」と「又姪」が、合わせて二人健在です。私が兄弟中で一人だけ生き残った訳ですが、長兄の相続はどうなるでしょうか? → 4.

 

5 兄弟の内、素行の悪い末弟は、父親が生前に相続廃除の手続きを済ませていましたが、その末弟の娘(姪)が、父の遺産の遺産分割に参加させてほしいと言ってきました、どうしたら良いでしょうか? → 5.

 

6 亡くなった母親が娘の私を受取人にして1000万円の生命保険金をかけてくれていました。それで、私はその保険金を受け取ったのですが、その後兄と弟が、遺産分割すべきだからその保険金を相続人3人で分けてくれと言ってきました。分けるべきでしょうか? → 6.

 

7 夫が亡くなりました。私達夫婦には子がなく、義理の両親も既に他界しましたが、長年行き来がなかった義兄が「俺も相続するから、遺産を分けろ」と言ってきています。相続をどうしたら良いでしょうか? → 7.

 

8 長年連れ添った内縁の夫が亡くなりました。行き来がなかった遠戚に亡くなったと知らせたところ、遺産分けの話となり、私には相続権はないと言われました。夫名義のマンションを相続することはできないでしょうか?。賃借マンションならどうでしょうか?。夫は病気療養が続いて看護や介護に大変苦労しましたが、私には何の見返りもないのでしょうか? → 8.

 

9 長年行き来がなかった父が、ギャンブルで身を持ち崩した後に、先日亡くなった旨の連絡を受け、葬式だけ出て帰宅してきました。不都合はないでしょうか? → 9.

 

10  一人暮らしをしていた父が亡くなり、葬儀も終えたところで、父の愛人だったという女性が現れ、全ての財産を遺贈する旨の父の遺言書を示されました。子供の私たちが遺産を取得できる途はないのでしょうか?。 → 10.

 

11 父は、行列のできる程のラーメン屋を営んで、少なからず財をなしたのですが、先月、長年の持病から急逝しました。私には兄と弟がいます。長女の私は、婚出後、母が亡くなったため、長年、昼の時間帯だけラーメン店員として家業を無給で手伝ってきました。また、父と同居の兄は勤め人になりましたが、兄嫁が実家の家事のかたわら、持病を患いながら厨房に立つ父の身の回りの世話をし、夕方の時間帯だけ店員として店を手伝ってきました。兄夫婦には子供はいません。そうするうち、兄は亡くなり、弟はまだ大学生です。父の遺産は、弟と私で平等に分けることになるのでしょうか? また、兄嫁の貢献にも報いてあげるべきだと思うのですが、何か方法はありますか? → 11.

 

12 親の反対する結婚をする際、どうしても結婚するというなら応じるよう言われ「私は、両親の相続については、相続を放棄します」と書かれた書面に言われるまま署名・捺印しました。私は相続できないのでしょうか? → 12.

 

13 父は、この度亡くなった祖父の遺言書が意に沿わない内容であったことから、それを発見したのち隠していたとして伯父や伯母から相続欠格だと言われ、遺産分割から外されています。隠したことは事実のようなのですが、相続はどうなるでしょうか? 隠したのではなかったとして、遺言書に父を相続から廃除すると書かれていた場合はどうなるでしょうか? → 13.

 

14 私の父はこの度亡くなった祖父のことを嫌い、その息のかかった財産は受けたくないとして、相続放棄の手続きをしてしまいました。私は、可愛がってくれた祖父のことが大好きなのですが、孫の私に相続権はありますか? また、祖父が私に遺言で財産を遺してくれているようなのですが、それを受けることはできますか? → 14.

 

15 母に先立たれ一人住まいだった父が亡くなったため、遺品を調べると金庫から現金数百万円が出てきました。お陰で葬儀ができたのですが、残った二百万円につき弟が兄弟で分けようと言います。分けてしまって良いものでしょうか。 → 15.

 

16 父が先立った後、その全遺産を継いだ母も先日亡くなり、仏壇の引き出しから母の手書きの遺言書が見つかりました。封をしてなかったので読んでみると、全遺産について、子供一人ずつに対する分け方が詳しく記載されていて、相続人である兄弟姉妹皆でこのとおり分けようということになったのですが、すぐに分けることは可能でしょうか。 → 16.

 

 

17 姪から「母の病が重篤となり、あと数日の命と医者に言われました。母が、床の中から遺言をしたいと言っているので、伯父さん急いで来てくれませんか」と連絡がありました。妹の傍らにその姪と甥が付き添っているのですが、そのような場合の遺言書の作り方を教えて下さい。 → 17.

 

18 先妻との間の子らの反対を押し切って再婚した私は、他に財産がないので、私が亡くなった後、相続問題で、が今の住居から追い出されてしまうのではないかと心配です。どうしたら良いでしょうか。 → 18.

 

19 いよいよ自分の遺言書を書こうと思いますが、自筆遺言をする場合のポイントや注意点を教えて下さい。 自筆するより公証役場で公正証書遺言を作って貰った方が良い場合というのは、どういう場合かも教えて下さい。 → 19.

 

20 私の母は、父が亡くなった後、はじめ兄夫婦と同居していたのですが、5年ほどして兄嫁との不仲から兄宅を出て、長女の私宅で私ら夫婦と同居するようになりました。そうして5年経った三ヶ月前に亡くなったのですが、亡くなる前に全財産を私に遺す旨の遺言を書いてくれていました。先月遺言どおりに不動産の登記手続きに登記所に赴いたところ、不動産には既に兄の相続登記がされていました。兄に聞いたところ、母は兄と同居する際全財産を兄に遺す旨の遺言を書いていたというのです。どうしたらよいでしょうか? → 20.

21 父が急逝し、家財の整理をしていたところ、父が数年前に書いた遺言書が出てきました。その遺言には、遺産の内、家屋敷は二人兄弟の長男である私が継ぎ、銀行の預貯金を弟が継ぐようにとあるのですが、実は、父は、一人住まいしていた家を、急なオリンピック景気により高騰した価格で、つい最近売却してしまっていました。その売却代金は預貯金に入っていますが、この場合、相続はどうなるのでしょうか? → 21.

22 夫婦で今のマンションに住んで20年以上になりますが、この度、法律が改正されて「配偶者居住権」というものができたそうなので、これを機会に私も万一の時に備え、子供たちとの相続となっても、妻が私名義のこのマンションに安心して住めるよう対策を立てておいた方が良いと思います。どのようにしたら良いでしょうか? → 22.


              続・遺言   (nswer )      

 

1. 相続人資格には二枠あります。一枠目は配偶者、これは常に相続人なので「常時枠」と呼びます。二枠目は子・親・兄弟姉妹です。まず子が、そして子がいない場合に親が、親もいない場合は兄弟姉妹が相続人となるので、このグループを「順次枠」と呼びます(条句)。二枠は 補完関係 に立ちますから互いに他方がいなければ、一枠で遺産を独占します。したがって、孫やひ孫は、通常、相続人ではありません。しかし、子が亡くなって、その子の子、つまり直系の孫がいる場合は、その孫が子の代わりの相続人になります。このように代わりに相続することを「代襲」と言います(条句)。仮に、孫も亡くなってひ孫がいる場合は、そのひ孫が代襲相続人です。「再代襲」と言います。直系血族は、このように何代でも下って代襲ができます。甥・姪までしか代襲が認められない (兄弟姉妹系統の) 傍系との違いです(条句)。そして、孫を養子にした場合、養子も実子と並んで相続人となります(条句)。そして、その養子となった孫の父、つまり被相続人の子が亡くなっていた場合、その孫は、亡くなった子の代襲相続人になりますから、実子と並ぶ子としての相続分と、亡き子を代襲しての相続分とを合わせ持つ「重複相続」をします。つまり、「子」の二人分を相続します。なお、養子のうち相続税の基礎控除 (三千万円 + 六百万×法定相続人数)を受けられるのは、実子がいる場合一人だけ、いない場合は二人までで、この場合、特別養子と、子の代襲相続人となる孫やひ孫、配偶者の連れ子で被相続人と縁組した養子は、いずれも実子とみなされます。また、孫養子は、上記のように子を代襲するとき以外、税は2割加算となります(配偶者と(養子を含む)子以外は、2割加算が原則)

2. 婿養子も、実子と並ぶ相続分を持ちます 。そして、その養子と並ぶ実子の娘さんは亡くなっていますが、その子つまり孫が、亡くなった娘さんを代襲して、婿養子と孫が、他の娘達と並んで貴方の相続人となります。〔 遺言で家産を継がせた娘が亡くなると、婿養子がその配偶者として相続人となりますが、婿養子には娘の兄(或いは、弟)に当たる立場もあるので、孫ができぬままとすれば、婿は順次枠からも相続人を名乗れそうですが、この場合は、重複相続は認められません。常時枠と順次枠とが重複で相続を認められることはありません。〕

3. お嫁さんは、息子さんに対する配偶者ですから当然 息子さんを相続します。そして、息子さんが亡くなった時胎児だったお孫さんも相続権を有します(死産であれば当然相続できません) (民886条)。従って、順次枠の中で子に対して順位の遅れる親の貴方は、残念ですが相続権なしとなりす。生命保険金は「相続人」である、お嫁さんとお孫さんに支払われます(死産の場合は、遺産、生命保険金のいずれも、次順位の親として貴方も相続することができます)
 
生命保険金は、判例 (最判昭40・2・2)によって、支払いを受けた受取人の固有財産となるので、相続財産ではないとされていますが、それでも、保険契約上の受取人が「相続人」と指定されていた場合は、そのケースで相続人になる人が保険金を受け取ることになります。しかし、それによってその保険金が相続財産となる訳ではなく、あくまでその受取人の固有財産ですから、判例の言う例外的な場合以外は、相続財産での「持戻し」対象とはなりません。なお、6問もご覧下さい。→ 6.

4. 相続の順次枠(条句)で、子・親が亡くなっている場合、兄弟姉妹が相続人となります。兄弟姉妹 (傍系相続人)も亡くなっている場合は、その子、つまり甥や姪が代襲相続人となります。ところが、甥や姪も亡くなっている場合は、直系の場合と異なり、傍系では、(その子、つまり「又甥」、「又姪」には) 再代襲が認められません(条句)。ですので、相続人は貴方一人となります。

 

5. 相続廃除には、生前被相続人自らが廃除の請求をする生前廃除(民892条)(条句)と、遺言で廃除する旨を述べて、遺言執行者から請求する遺言廃除(民893条)(条句)とがあります。本問は前者の例ですが、民法887条2項はいずれについても代襲原因の一つとしているので、廃除された相続人に子があれば、その子が代襲相続人となります(条句)遺産分割協議にはその娘さんにも参加して貰わないと分割ができないことになります。

6. 生命保険金は、3.で述べたように、遺産とは別物として生命保険会社から支払われるので、受取人の固有資産となります。兄弟等他の相続人に分ける必要はありません。しかし、相続税法上は、相続による取得財産とみなされて一定の 非課税枠 を超えた分に課税されます。また、金額が他の相続人の取得する財産と比べて多すぎて 相続人間の不公平 が見過ごせない程であれば、やはり保険金も遺産とみなされて、計算上の「持戻し」により遺産のパイに加えられ、この「みなし遺産」を相続分で分けてそれぞれの取分とした上、貴女については内1000万円を既に受け取っているので差し引かれる(「引戻し」)ことになります。1000万円という金額は( 他の相続人の取得額にもよりますが )、見過ごせない場合に当たるのではないかと思われますが、他にも、多額の資金援助を受けたり、不動産等の生前贈与(特別受益)を受けたりした相続人がいると、同様に「持戻し」をしてパイに加え、それぞれ「引戻し」をして、引戻しをした残額同士の割合 (この場合の「調整相続分」です) で、(後で渡す)遺贈を引いた現実の遺産を分けることになります。なお、上記相続税の非課税枠は、(500万円×相続人数)に、全相続人の取得した生命保険金の内のその相続人が取得した分の割合でかけた金額です。生命保険金を受けたのは貴女だけであれば、貴女は(1500万円まで)非課税枠内です。

 

7. 相続資格二枠の内、順次枠の子・親・兄弟姉妹法定相続分 (民法900条)は、それぞれ1/2、1/3、1/4です(それでこの三者を「分一相続人」と言います)。そして、配偶者は、先程の 補完関係 により順次枠 相続人との組合せで、順次その都度、分数の残りを相続します(「分残相続人」と言います)。ですので、子との相続なら1/2、親となら2/3、兄弟姉妹となら3/4です(条句)。連合いに先立たれると、ときに順次枠からの相続人が、いきなり登場したりします。子がなく、連合いの親も既に亡くなっていれば、長年行き来のなかったような‘ 義兄 ’が1/4を要求してくるかもしれません(条句)。 結局、貴女3/4、義兄1/4の割合で、ご主人の遺産を分けることになります。これを拒否できる手立ては遺言ですが、ご主人が遺言をされていなければ、その割合での遺産分割を拒むことはできません。不動産も、銀行預金も、義兄との遺産分割協議書がないと手を付けられませんから、遺産を義兄に知られずに取得することは不可能です。兄弟姉妹が相続人の場合、兄弟姉妹には遺留分がないので、遺言では 配偶者に上げたいだけ上げられますから、遺言に「連合い○○に全遺産を相続させる」旨書いてしまえば、義兄には「貴方に分ける分は、ありません」と言って分割を断ることができます。仮に、財産の事情によって遺言を書くとなると面倒だ、という場合でも、最小限「夫婦で居住する家は連合いに遺贈する」旨 一言、遺言に書いておくだけで、居住不動産は「相続」財産から離脱して、遺産分割の対象から外れますから、配偶者の居住は確保されます。それがない場合、その不動産も遺産分割の対象となって、場合によっては、その売却金で遺産分けをしなければならなくなります。子がないご夫婦には、最小限の遺言だけでも遺すのが必須です(配偶者居住遺言の記述をご覧下さい。→22)

 

8. 「配偶者」は戸籍上の配偶者でなければならず、入籍していない内縁の妻や夫 (内縁者) には相続権がありません。残念ながらそのマンションは相続人が相続して、貴女は取得することができません。賃貸マンションの場合は、例えば大家から立退要求があった場合、内縁者であっても、相続人の賃借権を援用して立退きを拒むことができるとし、また、相続人からの立退要求に対しては権利の濫用であり許されないとする等の判例もありますが、事例ごとの事情による救済判例のように思われます。内縁者には、したがって、可能であれば、婚姻届けをお勧めしますし、内縁者として賃借権を援用できる場合であれば、援用によることになりますが、それらができないときは、生命保険や生前贈与等によって連合いの死後に予め備えておく他ないかと思われます。退職金も会社の支給規程によっては、事実上夫婦として暮らしていた人という括りで内縁者でも受給できる例があるようです。しかし、それらの備えより、やはり、遺言をしておいて貰うのがベストです。介護や看病にご苦労された分の見返りですが、相続人でない貴女には「特別縁故者」として遺産の「全部又は一部」の分与が家裁によって認められる可能性がありますから、まずは家庭裁判所にその申立てをされると良いと思います。但し、その遠戚の人がご主人の相続人 (子や親、兄弟姉妹でなくとも、直系の卑属或いは甥姪であれば代襲相続できます。但し、全員が相続放棄していれば別です。) であれば、分与は受けられません。特別縁故者分与は、相続人不存在の場合にしか認められないのです。ちなみに、相続人がなく分与もないと、遺産は最後に国庫に帰属します(民法959条)。

 

9. 相続人は、相続債務 を免れることができません(説明)亡くなって相続開始となったと同時に法定相続分に応じて債務を負担します。なので、故人に連帯保証債務や借金等がないか、預金通帳の引落状況や郵便物等で調査をしておく必要があります。多額の債務や債務超過等の状況があれば、亡くなって3か月以内に、家裁で 相続放棄 の申述をしておかないと思わぬ苦境に立たされるかも知れません(条句)

10. 遺言では、相続人に法定相続分に捉われずに相続させ(条句)、或いは、他人に遺贈する(受ける人を受遺者と言います)ことができます(条句)。 但し、全くの自由かというと、そうではなく、配偶者と子・親には、遺産に対する依存の期待を認められて、遺産の内の一定割合については、求めれば、保障される仕組みになっています。遺留分と言います(条句)。その割合は、親だけが相続人である場合は遺産の1/3ですが、それ以外の場合は 遺産の1/2 です(条句)。この遺留分割合を法定相続分で分ければ各相続人の個別遺留分が出ます。ですので、「愛人に全財産を遺贈する」という遺言があった場合も、配偶者が亡くなっていて、子らが遺留分を請求するときは、全財産の1/2 (遺留分割合) を子の数で割った割合が、子のそれぞれの遺留分となります。請求する場合は、内容証明郵便で、それぞれの子から「父○○の相続に際し、貴女○○が、父の遺言により遺贈を受けましたが、相続人である私の遺留分を侵害しているので、私は貴女に対し、遺留分減殺請求をします (平成30年相続法改正に基づく遺留分侵害額請求の場合は「・・・私は貴女に対し、その侵害額に相当する金○○円の支払を請求します」 ) 」旨の書面を送って、交渉に入り、交渉で解決しなければ、家裁に調停 の申立てをし、調停が不成立であれば、地裁に訴訟 を提起し、一審で解決しなければ、高裁・最高裁へと手続きを進めることとなります。

 

11. ここでは前記の7とは逆に遺産のパイを削るお話となります。つまり、相続人中に遺産の維持又は増加のため特に寄与した者がいる場合には、その寄与した割合を寄与分として、それを引いた残りを遺産とみなします。そして、これを法定相続分で分けた上で、その者には寄与分を加えてその者の相続分とします(条句)。ですから、本問の場合も、家業での貴女の貢献度を他の相続人と協議して定め、これを寄与分としてこの扱いをすることになります。協議が不調の場合は、家裁での調停・審判 となります。毎月の給料を受け取っていた場合は、既に相応の報酬を得ていたことになりますから、寄与分は通常認められません。そして、兄嫁の貢献ですが、平成30年7月の法改正までは、これに報いてあげる方法がなく、兄嫁には気の毒な結果で終わらざるを得ませんでした。そのため、この改正により「特別寄与料」という制度が設けられ、親族であって遺産の維持又は増加に特別に寄与した者にはそれに報いることができるようになりました。その寄与者から相続人に特別寄与料の支払請求をし、当事者間の協議によって決めることになりますが、請求が容れられなかった場合は、家裁の審判により、協議に代わる処分として支払義務の有無や義務ある場合のその支払額が決まります。この特別寄与料の支払いは、相続人間で相続分に応じて負担することになります。但し、この権利は、特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から六ヶ月を経過したとき、又は、相続開始の時から一年を経過すると消滅しますので、遅れることがないよう注意が必要です。なお、改正法の施行日は、2019年(令和元年)7月1日となっています。

 

12. 相続放棄 は、要式行為 といって、人が亡くなって相続が開始した後3か月以内に家庭裁判所で「相続を放棄する」旨申述するという、法律で定められた形式を踏まないと効力が生じません(条句)。ですから、相続が始まっていないうちから家裁以外の場所で放棄する旨の書面を交わしても効力は生じません。貴女には両親に対する相続権があります。安心して下さい。

 

13. 民法では、遺言書を 偽造・変造・破棄 した場合のほか、遺言書の 隠匿 も 相続欠格 にあたると定められています(891条)(条句)。したがって、父上には欠格事由があるため、相続人にはなれません。しかし、子が欠格であっても、その子の子、つまり直系の孫がいれば、子が亡くなったときや廃除されたときと同様、孫が 代襲相続人 となります(887条Ⅱ)(条句)。ですから、父上が欠格であっても、貴女が相続人として祖父様の相続に与れることになります。また、もし、祖父様の遺言書に父上を廃除する旨の記載があり、これによって家裁の廃除審判が出されても、廃除についても代襲相続が認められることは前述のとおりです。

 

14. 民法は、相続放棄の効果として「 初めから相続人とならなかったものとみなす(民法939条)としています。そのため、代わりの 相続人もあり得ないことになって、残念ながら貴女には代襲資格はないこととなります(説明)(条句)。ただ、お祖父様が遺言で遺贈してくれているのなら、それを受ける資格には問題ありませんから、受遺可能ということになります。安心して下さい。なお、相続放棄は、相続人であることを自ら拒むことですから、お祖父様がそれとは無関係に、遺言で、お父上に「相続させる」とはせず、「遺贈する」としていた場合、それは相続ではないので、お父上は、その遺贈を受けるか拒むか選択することができます。

 

15. 遺産に含まれる現金を葬儀代等に支出するのは、問題ありませんが、残った現金は、相続財産となり、遺産分割まで相続人全員の共有物となります(必要な葬儀代のために預金の払戻しを受けるには、相続人全員の署名押印した仮払い請求が必要です)。ですから、遺産全体について、相続人が全員参加の遺産分割協議を行い、その結果を「遺産分割協議書」にして初めて分けることができます。ですので、通常、その協議では、まず遺産全体の中でめぼしい資産である不動産の取得者を決め、次に預貯金によって 相続分どおりになるように するため、或いは、預貯金から相続税を納める資金を作る ための調整をし、その他の財産を割り振って、最後に現金により微調整するという様に協議していきます。要するに遺産分割協議までは、共有である遺産には手を付けられず、その調整資源である現金を軽々に分けてしまうと後が厄介です。弟さんにはその旨納得して貰うことをお勧めします。金庫の現金の他には相続財産はないというのであれば、基礎控除の枠の内なので申告不要ですが、念のためこれを百万円ずつ分ける旨の遺産分割協議書を作って現金を分け合ってよろしいと思います。なお、上記預貯金の仮払いについては、平成30年の相続法改正により、遺産分割と整合するように明文が置かれました。

 

16. 自筆遺言での難点が目立つ例の一つが、部分遺言です。結局、記載から漏れた遺産については、小さい、少ない部分であっても全相続人が参加して遺産分割協議書を作るための手間ひまをかけねばならず、相続人にとっては幻滅です。遺産全部について遺産分けの記載があれば、その点はクリアできて良かったことになります。ところで、遺言書は、法の定め(1005条)によって、発見したらすぐに家裁に 提出 しなければならず、開封 も禁じられています。母上の遺言書は封をしていなかったので良かったですが、一般には改竄を防ぐために封印するよう勧められていますし、遺言書の、閉じられている封を開き、或いは提出を怠ると、五万円の過料を課されます(条句)。さて、それで、家裁に提出すればすぐに分けることが可能かというと、実際にはそうはいきません。提出された遺言書は、さらに、家裁による「検認」という手続きを受けることになります(1004条)。検認は、家裁においてその時点における遺言書の形状,加除訂正の状態,日付,署名など検認の日現在における遺言書の外形や内容を明確にし、保全して、遺言書の偽造・変造を防止するための手続です。遺言の有効性を左右するものではありませんが、銀行でも、不動産の登記をする法務局においても、家裁の「検認済証明書」がないと相続の手続きをしてくれません。検認を受けないまま遺言の執行をすると、過料に処せられるからです。すぐに家裁の検認手続きを受けることをお勧めします(条句)。検認は、相続人全員を呼び出すことになるため、全員の戸籍謄本、住民票、故人の全戸籍等を添付しなければなりません。ここで、遺言することによるメリットを失うことになるのですが、公証人が作成する公正証書遺言であれば、そのメリットをその侭確保することができます(→説明)。なお、平成30年の法務局遺言書保管法により、自筆遺言については、遺言者が法務局に保管を託した場合、検認が不要となりますので、2020年7月10日とされている同法の施行日以後は、検認の面倒と合わせて上記の全戸籍収集の面倒も、全て免れることができます。

 

17. 普通(方式)の遺言は、公証役場が関与するものは別として、自筆しなければなりませんが、臨終の床にある人の場合は、特別(方式)遺言として、証人が書き取って遺言書を作ることができます。「臨終遺言(或いは、「死亡危急時遺言」)と言います(976条)。そのためには、自筆遺言では不要な証人の立会いを要しますので、署名・押印のできる成人三人(以上)が必要となります。そして、遺言者の相続人や受遺者、又、それらの配偶者・直系血族は証人欠格とされています(974条)ので、妹さんの相続人である甥御さん姪御さんは証人にはなれません。このケースでは相続人にあたらない貴方と、貴方の家族・友人等から二人の計三人であれば問題ありませんので、三人揃って、妹さんの病床に同席し、妹さんがその証人の前で遺言を 口授 します。その内容を証人が筆記し、その筆記内容を妹さん本人・他の証人の前で読み上げ、証人全員で筆記内容の間違いないことが 承認 できたら、証人全員で署名・捺印 をします(条句)。この間、後日 家裁で、遺言書の内容が本人の 真意 に基づくものかどうかの「確認」の手続きがありますので、作成経過を追った動画を撮って、日時場所等もその中で正確に告げる等して、確認の添付資料とすることをお勧めします。そして、この遺言書を、遺言者の死亡の日から二十日以内に家裁に持参し、「確認」手続きを受け、また、合わせて、死亡後遅滞なく遺言書の「検認」も受けなければなりません(→説明)。なお、この方式による遺言は、遺言者がその後、普通方式で遺言することが可能な状況となった後6か月間存命であるときは、遺言の効力が失われます(983条)(条句)

18. 先妻との間の子らが相続権を主張する場合、今の住居の売却代金の半分を分け与える他に方法がないとすると、奥さんの住まいは失われます。遺言で「全遺産を妻に相続させる」旨を定めても、子らが遺留分を主張するときは、遺産の1/4(子の相続分1/2×遺留分1/2)相当の金額を支払わねばなりませんから、その場合も売却を免れないことになります。奥さんの住まいは風前の灯火ですが、貴男がいましばらく頑張って長生きすれば、今回の相続法の改正により、奥さんに配偶者居住権を確保することができます。平成30年公布の改正法の、この改正部分の施行日は、2020(令和2)年4月1日となっています。遺言で、今の住居について、奥さんに配偶者居住権を遺贈する旨定めることで奥さんの住まいを確保できますし、その居住権は遺産とは別枠となりますので、残りの遺産から奥さんの相続分1/2を取得できます。仮に遺言がない場合でも、遺産分割によって同じ居住権を確保できると思われますが、そのときは、別枠扱いされません(→設問22)。もし、遺産分割協議で子らに居住権を認めて貰えないときは、家裁に申立てをすれば、調停で、調停が不成立のときは、審判で、配偶者居住権を確保することができるものと思います(条句)

19. 自筆遺言書 作成の形式面でのポイントは、「全文・日付・氏名を自書する」ことに尽きます。自書によって、筆跡から本人であることが証明できるからというのが、自書義務の理由です。遺産が多い場合には 自書は困難 という点はよく指摘されますが、これに並ぶ難点が、書き間違った場合の「訂正」です。法定の 訂正方法が厳格 で、しかも、普通の訂正の仕方ではないのです。その訂正方法は、訂正箇所に二本線を引いて、普通通り訂正し、(定め通り自署・押印した)遺言の末尾に、「本文○行目に、○○とあるのを、○○と訂正した」と付記し、(訂正についての)署名をして、本文中の訂正箇所に押印します。但し、遺言書の中の財産目録だけは、平成30年の法改正により、コピーの利用が可能となりました (その各頁に署名・押印が必要ですので要注意です)。これにより、同時に設けられた後記検認不要制度と相俟って自筆遺言の普及が期待されています。次に、内容面でのポイントは、① 全財産 について記載する。全部の財産を一つ一つ挙げなくとも、「その他の不動産」「その他の金融資産」「その他一切の財産」等の表現を用いて、財産の漏れがないように記載します。遺言から漏れた財産があると、その取得者を決めるため、全相続人が遺産分割協議をすることが必要となり、遺言をした意義が半減します。 相続人には「・・を相続させる」、受遺者には「・・を遺贈する」と書きます。「遺贈」は手続きの面倒があり、税金面の負担も加わるので、相続人には避けたいところです (但し、相続人に対する遺贈は、税金面では、さほど重くなりませんが )。孫は、通常、相続人ではないので「遺贈」になりますが、孫が代襲相続人になる場合は「相続させる」でよいことになります。但し、相続法の改正による配偶者居住のための居住権や居住資産の遺言は「遺贈する」としないと、権利が認められなかったり、そのメリットが失われたりしますから、要注意です(→設問1822)。 「遺産の何割を・・に相続させる」という、財産と受け手を特定できない定めはやめましょう。上記同様、その割合に沿った取得者を決めるための遺産分割協議が必要となります。また、例えば、不動産なら登記簿の記載どおりに(賃貸借物件であれば、賃貸借契約書どおりに)、財産を特定して正確に記載しましょう。取得者、取得物が特定できないと、銀行や登記所で具体的な相続手続きをしてもらえません。 遺言が「争続」の元となってしまわぬよう各相続人に対する配分割合が遺留分を侵す結果とならぬよう注意します。但し、設問22で述べる身内の遺留分事情等も勘案の上、妻全遺言をする方が良い場合もあるかと思われます。 必ず 遺言執行者の指定 をし、また、その 権限 についても記載します。自筆遺言例」の第6条のように。平成30年の法改正により遺言執行者の地位・権限が大幅に拡充されました。執行者指定により、相続手続きをスムーズに進めることができ、権限の記載によりマイナーな金融機関での教育不足・不周知による手続きの停滞を防ぐことができます。遺言に指定がないと、家裁に選任の申立てをしなければなりません。  義務ではありませんが、必ず封入し、封印して、改竄を防止しましょう。後段のご質問ですが、自筆遺言書は、改竄を防止できる保管の保障がないため、家裁に提出して「検認」を受け、家裁の検認済証明書を受けなければ、遺言の執行ができません。その検認手続きに全相続人を家裁に呼び出すため、故人の出生以来の全戸籍その他の資料の提出が必要で、これが大きな負担となります。資料を揃えるのが一苦労というケースでは、検認不要な公正証書遺言がお勧めです。ですから、ご自分で書くことと保管・検認・資料という面倒、リスクを厭わなければ、自筆遺言で十分に賄える筈です。ただ、令和2710からは、法務局が自筆遺言書を、有料で保管してくれる制度が始まります。又、その保管にかかる自筆遺言書は、検認不要となります。検認の面倒が解消し、自宅で作成できる証人不要、手数料不要の自筆遺言の普及が期待されています。ですが、公務員である公証人が適切・有効な遺言書の作成を担う、守秘の点でも安心な、そして、検認不要な公正証書遺言も、なお、その存在意義を保つと思われます。公正証書による遺言は、公証役場で作成する場合、手数料令で定められた手数料がかかります。遺言公正証書は、公証役場で作成するのが原則ですが、同じ法務局管内なら、自宅・病院・老人ホーム等に出張することも可能です。その場合手数料は5割増しとなり、それに日当・交通費が加わります。

   

公正証書作成手数料表 (日本公証人連合会ホ-ムペジから)

法律行為に関する証書作成の基本手数料

1.       契約や法律行為に係る証書作成の手数料は、原則として、その目的価額により定められています(手数料令9条)。 目的価額というのは、その行為によって得られる一方の利益、相手からみれば、その行為により負担する不利益ないし義務を金銭で評価したものです。目的価額は、公証人が証書の作成に着手した時を基準として算定します。
【法律行為に係る証書作成の手数料】

目的の価額

手数料

100万円以下

5000

100万円を超え200万円以下

7000

200万円を超え500万円以下

11000

500万円を超え1000万円以下

17000

1000万円を超え3000万円以下

23000

3000万円を超え5000万円以下

29000

5000万円を超え1億円以下

43000

1億円を超え3億円以下

43000円に5000万円までごとに13000円を加算

3億円を超え10億円以下

95000円に5000万円までごとに11000円を加算

10億円を超える場合

249000円に5000万円までごとに8000円を加算


1億円     4万3000円

2億円     6万9000円 

3億円   95000円           10億円    249000

4億円   117000円           11億円    265000

5億円   139000円           12億円    281000

6億円   161000円           13億円    297000

7億円   183000円           14億円    313000

8億円   205000円           15億円    329000

9億円   227000円           16億円    345000

 

20. 平成30年7月13日公布の相続法改正によって大きく変わった点に関する問題です。特定の財産を特定の相続人に「相続させる」旨を書いた遺言が複数ある場合、その中で最終のものが効力を有するということは改正の前後で変わりはないのですが、改正前は、判例によって、そうして定まった財産承継についてその受益相続人が単独でその相続登記等の手続きができ、第三者にも対抗することができるとされていました。ですから、最終の相続人である貴女は、効力のない前の遺言に基づいてされた兄の登記の無効を主張して、不動産についても貴女の単独名義の登記とすることができたのです。しかし、改正法は、このような場合、或いは又、遺言が一つの場合であっても、若しくは、(遺言がない)遺産分割による相続の場合であっても、いずれであっても、他に相続によって、或いは相続人を経由して権利を取得したと主張する者がいるときは、法定相続分を超える部分については登記なくして対抗できないとしています。なので、貴女は、如何に最終の遺言を託されたとはいえ、貴女の法定相続分限りでしかその財産の承継を主張することができないこととなります。貴女がお兄さんと二人きょうだいなら、貴女は、貴女が書いて貰った遺言により、全遺産の取得は叶いませんが、その内、貴女の法定相続分である二分の一、つまり遺産の半分は確保できます。不動産についても、その半分の持分について登記が可能です。そのような訳で、改正法の施行日である2019年(令和元年)7月1日以降は、「相続させる」遺言で取得する財産については、即刻登記手続きを済まさなければ、存在に気付かなかった以前の遺言等により先に登記されて、取得できるものも失う結果となりかねませんから、相続開始即登記と心得るぺきこととなります。また、そのためには、遺言中に、遺言どおりに登記することが容易となる遺言執行者の指定をして置くことが必須となります。

21. お父上の遺言書が有効なものであれば、その内容通りに実行されると、貴男には気の毒な結果となります。つまり、お父上は、遺言の際には貴男に承継させるつもりであった家屋敷について、その後、その遺言と矛盾する他への売却という処分をされたということですから、民法1023条にいう
遺言と矛盾・抵触する生前処分(条句)をしたことになり、そのため、その遺言部分は撤回されたものみなされます(お父上は、その新しい事態を踏まえた変更遺言を新たにしておくべきでしたが、急逝されたとのことでその暇がおありでなかったのでしょう)。したがって、遺言通りに財産承継がなされると、預貯金だけとなった遺産は、すべて弟さんのものとなります。貴男には全く取得分がないこととなりますから、貴男としては、弟さんに遺留分として遺産である預貯金の四分の一を請求し、それが容れられなかった場合は、家裁に遺留分請求の調停申立てをする途が残されていることになります。その方法についてはこちらをご覧下さい。

22   それは良いお心がけです。やはり、この法改正を機会に、遺言をお考えになったらよろしいと思います。改正法では、遺言で、マンションを「遺贈する。」(「相続させる」ではありません)と書くことにより、マンションは遺産外の別枠財産として奥様に確保されます (私なりに妻住用遺言と呼んでいます )で、奥様は、残りの預貯金 (仮に他の財産はないとしてを、その相続分にしたがって取得できます。お子さん達との共同相続であれば、配偶者相続分は二分の一ですから預貯金の半分を貰えます。もし、遺言をせずに相続となった場合は、お子さん達との遺産分割協議となります。協議対象となる遺産にマンションも含まれて、奥様の相続分はマンションを含んだ全遺産の半分となります。その場合、マンション価格が預貯金額を大きく上回ると、場合によっては、預貯金からは貰えないか、逆にマンションを得る代わりに代償金を支払うことになるかも知れません。又、遺産分割協議でスンナリ「マンションはお母さんの取得とする」との内容で合意ができなかった場合、奥様は、「マンションは諦めるから、住まうことだけ許して頂戴」と言うことができ、協議不成立となっても、裁判所が「配偶者居住権」を認めることができる、これが、今回の改正法における配偶者居住権の趣旨です。しかも、裁判でこの結論に辿り着くのはそう容易ではないと思われます。加えて、こちらは前述の「遺産外の別枠」扱いをされません。ですので、このような経緯・内容と奥様の心情とを考えると、上記のような妻住用遺言をする方がベターであることは間違いありません (詳しくはこちらをご覧下さい) 

   配偶者居住資産 遺贈 こそ妻住用とおぼえたり。

とお勧めする所以です。ただ、この遺言が可能なのは、婚姻二十年以上の夫婦の間だけという制約がありますので、要注意です。貴男のご夫婦は、設問からそれを満たしていると分かりますので大丈夫です。さて、しかし、奥様のためにはこの遺言で本当の安心を得られるでしょうか。「人生百年」と言われる時代となりました。女性は神様の思召しよくて余生が長く、「百年」は夢まぼろしではありません。できれば「預貯金の半分」以上に遺してあげたいものです。そして、遺言こそがそれを可能にできる途なのです。「半分」というのは法定パターンでの割合であって、遺言は、原則、その縛りから解放されています。ですから、私は全部の遺産を妻に遺す「妻全遺言」をお勧めしています。それが、相続税法上、配偶者には16千万円まで配偶者控除が認められていることとも符合します。

   さりながら、に「百年」安心を与える途を求むれば、
                  妻全遺言いごん」、これにくなし。

ただ、「原則」 と言いましたが、例外があるのです。遺留分と言います。つまり、例えば、奥様を思いやる貴男には当てはまりませんが、遺言で「全遺産を愛人○子に遺贈する」とされた場合、遺産に頼らざるを得ない妻や子は路頭に迷いかねません。そういうときのために、法律は、妻や子 (子がいないときは、親) に通常、遺産の半分 (半分に、相続人の相続分をかけた割合になりますを「遺留分」として、愛人から取り戻すことを認めます(遺留分侵害額請求と言います)。妻全遺言にお子さん達が遺留分を主張することは、通常はありません ( 例外的によくあるのは、後妻さんとの争いのケースです )。ですから、生前から「全部、お母さんに遺すから 」 と言って、お子さん達の納得を確認し、その上で妻全遺言をするのがベストだと思います。もし、ご自身のお考えで、お子さん達にも遺してやらねばならない事情がありましたら、遺留分も、視野に入れておくと良い一つの目安となります。その場合、上記のように、お子さんは、奥様との共同相続の場合、遺留分二分の一に、その法定相続分二分の一をかけた、四分の一が「子」としての遺留分になります。実際の具体的遺留分は、これをお子さんの数で分けることになりますから、お子さんが二人なら、その二分の一の八分の一、三人ならその三分の一の十二分の一が、各子の個別的遺留分となります。ですから、例えば、子が二人で、その内、一人だけが遺留分の主張をしそうだすれば、全遺産の八分の一をその子に「相続させる」と遺言すれば、遺留分問題は解消して、残り八分の七を奥様に「相続させる」遺言が無事実現できることになります。 このように、身内の遺留分事情を踏まえれば、場合によって、遺言で奥様に全遺産のかなりの割合まで遺すこともできます。 奥様にできる限り多く配分する遺言を「妻多遺言」と呼びたいと思います。ですから、これら諸々の事情を勘案の上、妻全遺言にするか、妻多遺言にするか、或いは、各子の実情も踏まえ妻子の配分割合を個々に整えるか、選択肢は多様にあります。しかし、最低限、「私の次の居宅は、同居する妻〇〇に、その区分建物及びその敷地権 (戸建ての場合は、「建物及びその敷地」遺贈する。」(行を変えて、登記簿のとおりに記載します)として、前述の妻住用遺言
(配偶者居住遺言)をすることが、奥様のためには、前提となると思われます。それらを勘案の上、最善の遺言をされると良いと思います。但し、「○○、その他一切の財産を妻○○に相続させる」という場合は別として、割合だけを定める遺言は、その割合に沿って、実際に誰がどれを取得するかを決める遺産分割協議をしなければなりません。それは手間暇を要し、紛糾の種にもなるので割合遺言は避けましょう。特定の財産を特定の相続人に相続させる形で「○○を、○○に相続させる」と、財産と受け手を指定し、最後は「その他一切の財産を・・」として全部漏れなく定めた形・内容とすることが必須です。くどくなりますが、妻住用の一箇条だけは、「相続させる。」でなく、「遺贈する」です。