法職受験生の皆さん、家族法入門はじめの皆さん、そして、家族法に関心ある、或いは離婚・相続等で現にお悩みの、市民の皆さん、ジョークを通じて家族法知って 幸せのルールを探ってみませんか?

結婚離婚親族扶養後見相続遺言までも、家族法ならクリック一つ、ジョーク(条句)法にダイレクト、わかりやすい家族法入門の手引きです。
民法の親族法編と相続法編を、まとめて「家族法」と言います。家族法へのご招待です。夫婦同氏同性婚児童虐待防止についても考えてみました。


親しめる             家族生活のわかりやすい手引き ダジャレジョーク集
家族法入門ダイレクト 家族長い道のり 家族法座右ガイド条句  

      家族ルールの面白ジョーク(条句)。 家族法入門ご案内。
    家族ルールにネットジョーク(条句)クリック一つダイレクトキャッチ
                            (下線クリックでご覧下さい)

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子供がいる夫婦の離婚
ダイレクト! こちらをご覧下さい。
相続仕組みダイレクト! こちらをご覧下さい。
遺言ダイレクト 遺言のすすめ遺言書作成のポイント自筆遺言例

平成30年
相続法改正 ダイレクト  関連部分に関する加筆抜粋をこちらでご覧下さい。
相続税額算定のあらましにもダイレクト
夫婦の相続こちらから配偶者居住権についてはこちらを、その具体例こちらをご覧下さい。    

       追載の   続・遺言  もご覧下さい。


忠保 稔 氏に捧ぐ
 私が平成25年9月に公証人を退職する迄の間9年以上に亘り、公証役場書記として、その長年に亘る豊かな実務経験と誠実な執務態度、正確な実務実績をもって、私を忠実に支えてくれ、平成29年2月に他界された故忠保 稔氏に対し、深い感謝と哀悼の念と共に、本稿を捧げます。
                むつみ寡黙堂法律事務所
                弁護士 小池洋吉 (東京弁護士会所属 登録番号50142)  

 なお、この献呈文は、以前、本ホームページの末尾に記していたものですが、ほぼ復旧が成った今も、本稿を起こす契機ともなっている恩人に対する私の思いは、変わることなく胸にありますので、むしろここに掲載させて頂くのが良いかと思います。

 9年余りに亘る公証人生活を通じ、家族法知識の普及のためにはホームページが有効であると思うに至り、退職後の平成28年11月8日、一般の方たちのためこの「家族法入門 座右条句集」を開設しました。その後、私の不手際から平成30年2月にその大半が失われましたものの、同年10月にようやくほぼ復旧することができ、また、その後の相続法改正に応じる加筆・訂正もほぼ終えて、新たに「Q&A」も追載できる運びとなりました。ご迷惑をおかけしたことをお詫びすると共に、内容的には未だまことに不十分で、未熟・未完と思っていますので、今後も鋭意加筆・訂正等を重ね、読者の皆様に喜んで頂けるものとなるよう、老骨に鞭打ち日々努めて参る所存です。何卒ご理解・ご協力のほどお願い申し上げます。

 平成30年6月20日、成年、婚姻適齢等に関する民法の一部を改正する法律が、同年7月13日
相続に伴う配偶者居住権、自筆証書遺言の要件、相続人以外の親族の特別寄与料等に関する民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律及び法務局における遺言書の保管等に関する法律が、それぞれ公布されました。当ホームページも、遅くとも、分野ごとに異なる施行日までには間に合うよう加筆若しくは改訂・補正等をして、なるべく読み易いまとまったものにしたいと思いますので、何卒ご理解のほどお願い申し上げます。



 全320条ある離婚や相続等、市民生活上の重要な事柄に関する法(民法)の定め(親族法・相続法 :) 家族法を我流の条句というものにしてみました。例えばこんな具合です。
  
   人生航路難航時752同居協力扶助により妹背(いもせ)ならば
           
            並
732夫婦生活つは出来重婚禁止
  
 民法732条は重婚禁止の規定、同752条は夫婦互いの義務に関する規定ですが、 条句は、このように、法の定めを、口にして覚え易いよう、韻を踏んで五七調にし、合わせて、第何条であるかの条数も、赤色字読み込んでみたものです。誠に幼稚な発想で、拙く粗雑なものになってしまっていますが、楽しんで頂けたら幸いです。

 掲載の法律条文や項目等に付した下線をクリックして頂くと、リンク先を参照することができますが、条文は、お手数ですが、リンク先の章、節等の中でスクロール等して、該当条文をご覧になって下さい。
                     ◎ 数字の読みについてはこちらをご覧下さい。


同居・協力・扶助の義務
 は、民法752条の条文のままの順に並びますが、講学上は、これらのうちの「協力」が中心的・包括的な義務とされます。つまり、「協力」は憲法24条にも「婚姻は、・・・夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により維持されなければならない」とありますから、婚姻をした両名は、配偶者との同居に努め、配偶者が手持金に窮したら自己固有の財で扶ける等して生計を維持し、互いに同種・同量・同等の暮らしを保つべく、扶養する義務 (生活保持の義務) は勿論、家事の分担や病時の介護等、他のあらゆる場面で協力し合わなければならない義務ということになります。殊に、夫婦の間に子が生まれれば、子は、両親によって愛され保護されて、心身共に健やかに育てられなければならない(児童福祉法1条、2条)存在ですから、子の利益のために監護教育する(民法820条)等、夫婦共同(818条)して、親権者としての責任(民法820条~824条)を果たさねばなりませんし、子に対して上記夫婦間同様の扶養義務(民法877条)も果たさねばなりません。子を含む家族生活を万難を排して維持する責任を伴いますから、この「協力」には実に重い意味が込められていることを銘記しなければなりません。そして、その結果として、配偶者が亡くなったときには、法定相続分 ( 子がいる場合は、半分ですが、相続人がいない場合は遺産全部を承継します ) 或いは遺留分が当然の権利として認められることになります ( 遺言によれば、法定相続分を超える財産を、他の者にはない幅の配偶者控除の下に、受けることもあり得ます ) し、不幸にして離婚に至った場合は、夫婦それぞれの固有財産を含む全財産の半分 (私見) 財産分与として受けることもできます。ですから、この「協力」は、昔からのフレーズ「あい拠り、あい扶け、一心同体で支え合う」ことであると言えます。

 
夫婦の同居義務の延長上に、婚姻の余後効とも言うべき配偶者居住権が平成30年の相続法改正により保障されるに至りました。こちらをご覧下さい。 なお752条の義務に加え、互いに貞操義務があることは、不貞が第一番目の離婚原因とされていることから、当然です。また、夫婦間の扶養義務についてはこちらを、重婚についてはこちらをご覧下さい。

 
貞操義務については、上記のように民法は直接明文を置いていません。夫婦愛や貞操は、人が心の深くに秘めて、法の踏み入るべきでない領域であり、それが侵害されたときにのみ法が関わることになるからであると説明されています。強制力を持つ法に対しては、人の心に対するリスペクトと謙抑が望まれ、心をズカズカ蹂躙することは許されません。しかし、法に明文がないからと言って、重要ではないということにはなりません。むしろ、貞操こそ婚姻の本質に関わることだと私は思います。こちらをご覧下さい。

配偶者暴力
 婚姻が、上記「夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力(憲法24条)によって維持されるべきであることの対極に、配偶者暴力があります。暴力によって配偶者や子を支配することは婚姻の本質に反することであり、身体を傷つける等に至れば言うまでもなく犯罪でもあります。暴力を振るう配偶者に対しては、「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条)として離婚原因となりますし(独立原因をご覧下さい)、重大な結果に至る前にカウンセリング等何らかの支援を受けることにより、暴力を止めさせなければなりません。また、犯罪者となる前に、警察、裁判所の力によって、暴力防止の司法的な手立てを講じ、又、身の安全のための避難も考えなければなりません。この目的から平成13年に制定されたのが「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」 です。この法律で
配偶者」には、婚姻の届出をしていないいわゆる「事実婚」を含みます。男性、女性の別を問いません。また、離婚後(事実上離婚したと同様の事情に入ることを含みます。)も引き続き暴力を受ける場合を含みます。また、「暴力」は、身体に対する暴力又はこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動を指します(なお、保護命令に関する規定については、身体に対する暴力又は生命等に対する脅迫のみを対象としているほか、身体に対する暴力のみを対象としている規定もあります)。そして、生活の本拠を共にする交際相手(婚姻関係における共同生活を営んでいない者を除きます。)からの暴力について、この法律を準用することとされています。また、生活の本拠を共にする交際をする関係を解消した後も引き続き暴力を受ける場合を含みます。相談(同法3条~5条)、保護(同法6条~9条の2)(婦人保護施設、母子生活支援施設、民間シェルターでの保護となります)、自立支援(同法8条の3)保護命令(同法10条~22条)(被害者、或いは、場合によりその子、その親族に対する、身辺でのつきまとい、はいかい、面会強要、迷惑な電話・メール、粗野・乱暴な言動等を禁じ、不快・嫌悪を催し、或いは羞恥心・名誉を害する等のいやがらせ行為をも禁じることができます)等が用意されていますので、現にこの問題を抱えている方は、まず、配偶者暴力相談支援センター等に相談されることをお勧めします。保護命令の申立書には、命令の必要性について具体的に記述し、合わせて、相談支援センターないし警察署の相談を経ていない場合は、公証人の認証を受けた書面を添付することが必要です。保護命令に対する違反には、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金の制裁があります。こちら(政府広報)も参考にして下さい。
 DV相談は、各都府県等にも相談窓口がありますから、そちらに電話相談することも可能です(例:東京神奈川県埼玉県千葉県)。なお、配偶者からの暴力に悩んでいることを、どこに相談すればよいかわからないという方のために、全国共通の電話番号(0570-0-55210)から相談機関を案内するDV相談ナビサービスが実施されています。


 
  次に、民法733条の再婚禁止期間と民法772条嫡出推定民法773条父を定める訴えの各規定の関係について、以下に見てゆきたいと思いますが、まず

嫡出推定
(結婚した夫の子であるとの推定)の関係から。

 
嫡出とは婚姻している夫婦の子であるという身分のことです。婚姻により夫婦は、同一戸籍(戸籍法6条)となり、戸籍上での夫婦に子が生まれた場合、その出生届(戸籍法49条)をすると、その子は嫡出子の身分を取得します。婚姻関係にない男女間に子が生まれると、その出生届は母親がしなければなりません(戸籍法52条)が、その場合は、父親の名は記載されず、子は非嫡出子となります。父親の名を記載するためにはその男性から認知をして貰う必要があり、任意に認知してくれない場合は認知の訴えを起こす必要があります。夫婦間の子が嫡出であるとして、即受理されるのには、根拠があります。民法772条が、その第1項で、「妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。」とし、次いで第2項で、「婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。」と規定するので、婚姻届けの日から200日を超えて生まれた子は、まず、婚姻中に、つまり夫がいる妻として、懐胎したものであると推定され、次いで、妻の懐胎子であるから、子の父親は夫であると推定される、という二段構えの推定の結果、夫婦間の嫡出子としての身分を取得し、その出生届ができる訳です。これは、婚姻が融合創一によって導かれる終生的貞操結合であることを前提してはじめて成り立つ推定なのです。そして、この推定が働かなければ、婚姻中に生まれた子であっても、母子関係が成立するだけですから、子は、法的には両親の愛を受け得ないこととなります。この嫡出推定と夫婦親子同氏の原則とは、融合装一の関係であることについて、こちらをご覧下さい。
 ここで、二百日経たない内に生まれた子については、前記のようには推定されない子である訳ですが、昔の判例
(大審院連合部判決昭15・9・20)によって、内縁中に懐胎し、婚姻後出産した子について、出生と同時に当然嫡出子の身分を有するとし、母の夫との父子関係を否定するには嫡出否認の訴えではなく親子関係不存在確認の訴えによるとされたことを踏まえ、爾来、戸籍実務では「推定されない嫡出子」として、嫡出子の戸籍記載が行われてきています。




       
二百超え三百内なら婚中懐夫は父に772推定される。



 という条句は、これだけでは、??? ですが、 少し足し、また、砕いて分かり易くしますと、


    (出)の日届けて二百(日を)超え

       (又は)離婚(又は取消)届けて三百(厳密には、三百一日以上)なくば

          
()中懐 (胎)(推定を受けて、ひいて)(出)子推定(をも受ける)



 二段構えの推定を経て、夫は、妻が産んだ子供の父親と定められることになります。なお、この推定については、性転換後の婚姻にも嫡出推定が及ぶかという点に関する判例があります。
 
性同一性障害により、同障害者の性別取扱いに関する特別法に基づく審判を受けて、男性への取扱変更となった者が、妻との間に人工授精で儲けた子供について、性行為によって子をなすことがあり得ないことを理由として嫡出推定規定を適用しないとすることは相当でない旨判示した判例(最決平25・12・10)
 
この判決は、その理由として「特例法3条1項の規定に基づき男性への性別の取扱いの変更の審判を受けた者は,以後,法令 の規定の適用について男性とみなされるため,民法の規定に基づき夫として婚姻す ることができるのみならず,婚姻中にその妻が子を懐胎したときは,同法772条 の規定により,当該子は当該夫の子と推定されるというべきである。もっとも,民 法772条2項所定の期間内に妻が出産した子について,妻がその子を懐胎すべき 時期に,既に夫婦が事実上の離婚をして夫婦の実態が失われ,又は遠隔地に居住して,夫婦間に性的関係を持つ機会がなかったことが明らかであるなどの事情が存在する場合には,その子は実質的には同条の推定を受けないことは,当審の判例とするところであるが(最高裁昭和43年(オ)第1184号同44年5月29日第一 小法廷判決・民集23巻6号1064頁,最高裁平成8年(オ)第380号同12 年3月14日第三小法廷判決・裁判集民事197号375頁参照),性別の取扱いの変更の審判を受けた者については,妻との性的関係によって子をもうけることは およそ想定できないものの,一方でそのような者に婚姻することを認めながら,他方で,その主要な効果である同条による嫡出の推定についての規定の適用を,妻との性的関係の結果もうけた子であり得ないことを理由に認めないとすることは相当でないというべきである。」と述べています。

 
また、所謂「わらの上からの養子」に関する次の判例があります。この事件は、虚偽の出生届けであるからと、それまで親の立場で経過してきた被上告人夫婦が親子関係の不存在を主張したのに対し、上告人が養子縁組の成立を主張したものですが、判決は、結論として、虚偽の届けである以上子の身分について何らの効力も認められないとしたものです。しかし、同じ親子関係不存在確認の事例で、長年親子として暮らしてきた場合、親の立場の者から一方的に親子関係の不存在を主張することは許されないとして、結論的に、本件とは逆に虚偽の届けの効力を覆さなかった判例もあります。こちらもご覧下さい。 
 
養子とする意図で他人の子を嫡出子として届けても、それによつて養子縁組が成立することはないと判示した判例(最判昭25・12・28)
 
この判決は、その理由として「論旨は(イ)被上告人夫婦(亡Dと被上告人)は、上告人の意思に関係なく、被上告人側夫婦の意思のみによつて上告人をその嫡出子として戸籍上の届出をなし、 爾来上告人を実子の如く養育し、上告人も被上告人夫婦を実父母と信じて経過して来たものである。かゝる場合には上告人側からは親子関係不存在確認の訴を提起することができても、被上告人側からはかゝる訴を提起することは許されないものである。したがつて本訴は違法の訴である。次に(ロ)本件の場合の嫡出子の届出は、 これを養子縁組の届出があつたものと認むるのが相当であるのに、原審は上告人の この主張を排斥したのは不当であると主張するのである。しかし(イ)の点につい ては、嫡出子は「妻が婚姻中に懐胎した子」であることを要件とするものである。 ところが原審の確定した事実によれば、上告人はEとF間の婚姻外の子であつて、 被上告人夫婦間の嫡出子ではないのに、嫡出子として戸籍上の届出がなされているのである。してみれば、この儘の状態では外形上嫡出子の親子関係が存在するかに見え、したがつてそのような法律関係をもつて律せられることになるから、上告人側からも被上告人側からも嫡出子関係は不存在の確定を求むる利益を有するものといわなければならない。そしてこの事は、その届出が上告人の意思に関係なく被上告人側の意思のみによつてなされたものであり、また当事者間従来法律上事実上親子同様の関係が持続されて来たものであるとしても、これ等の事実によつて嫡出子関係が創設される謂われはなく、しからば叙上確定の利益に消長を来すものではないのである。されば被上告人の本件訴は適法のものといわなければならないから、この点の論旨は理由がない。次に(ロ)の点については、養子縁組は本件嫡出子出生届出当時施行の民法第八四七条第七七五条(現行民法第七九九条第七三九条)及び戸籍法にしたがい、その所定の届出により法律上効力を有するいわゆる要式行為であり、かつ右は強行法規と解すべきであるから、その所定条件を具備しない本件 嫡出子の出生届をもつて所論養子縁組の届出のあつたものとなすこと(殊に本件に 養子縁組がなされるがためには、上告人は一旦その実父母の双方又は一方において 認知した上でなければならないものである)はできないのである。しからば原審の この点の判断には何等の誤りはないから、論旨は理由がない。」と述べています。



出生届け
 子が産まれたときは、14日以内(国外で出生があつたときは、3箇月以内)に、原則として、出産に立ち会った医師、助産婦等の作成した出生証明書を添付した届書に、父母の氏名を記載して、出生届けをしなければなりません(戸籍法49条)。婚姻中の夫婦間の子である嫡出子の出生届けは、父又は母が行い、子の出生前に父母が離婚していた場合は、母がこれを行います。また、嫡出でない子の届けは、母が行わなければなりません(戸籍法52条)。嫡出でない子の出生届けでは、父親の名は記載できません。父親の名を記載するためには認知の手続きが必要となります。

 そして 次に、嫡出推定を踏まえて再婚禁止期間(民法733条)が定められることとなります。つまり、再婚する前の婚姻を「前婚」、再婚した婚姻を「後婚」としますと、前述の「婚中懐」の推定を踏まえれば、離婚後300日以内に産まれた子は前婚中の懐胎と推定されて、前夫が父親となり、後婚の後200日以後に産まれた子は後婚によって懐胎したと推定されて、後夫が父親ということになりますから、両婚の間に100日間の空白期間を置けば、前婚子と後婚子の推定が重なることがなく、産子がどちらの子であるか不明とする余地はありません。それで、この離婚の後100日間は再婚禁止期間として、産子がどちらの子か不明となる事態を防ごうという訳です。この禁止違反の再婚で両婚による懐胎推定が重なる場合の出生届については、次の段落をご覧下さい。



    前婚離婚(又は取消)のその日から百日たぬ婚姻

       
(子ができても)
両夫(推定)なり父難知

            再婚禁止
(期間)なっとるさ
733



    
離婚する
()なくば

                 
日数(ひかず)たず(再婚)()
733Ⅱ①

          
(娠)あれば ちて

             
(再) して燦々733スタート。

                           「して」は、7の伊語「セテ」、西語「シエテ」から
 

 
そして、以前は「六か月」とされていた再婚禁止期間が、「百日」に法改正されたきっかけは、こちらの判例 (最判平27・12・16) が「民法733条1項の規定のうち100日を超えて再婚禁止期間を設ける部分は、・・・憲法14条1項、24条2項に違反する」と判示したからでした。
 禁止期間違反の婚姻の取消しについてはこちらをご覧下さい。また、その取消しができなくなる場合についてはこちらをご覧下さい。



       臨婚女


          
前婚離婚(又は取消)そのから

      百日
って(再したとすると)、(前後両婚)両夫

   推定事態
なさそ
733(更に二百日経った日を境にその前に生まれた子は前婚子
          
その後に生まれた子は後婚子と推定され、推定が重なることがない)


                望
再婚

説明部分を取り払うと

      臨婚女

 
          
前婚離婚
そのから

        
百日って 両夫

    推定事態
なさそ733再婚也。



(再婚)禁止期間違反の再婚
(禁期婚)で子が生まれた場合、父性の推定が前後両夫に及ぶことになるときは、出生届けに父親の氏名を記載することができません。禁期婚で産まれた子でも、後婚の成立後200日以内に産まれた場合は、後婚による推定はかからないので、推定の重複がなく、前婚の夫が父と推定されることになります。推定が重複する場合、どちらが父親か確定するためには裁判が必要となります。これが民法773条父を定める訴え(人事訴訟法43条、〔§2、§4〕)です。

 但し、平成19年の法務省通達により医師の証明書によって
離婚後に懐胎したことが認められれば、後婚子としての出生届けができる☆こととなりました。なお、禁期婚のため父を定める訴えが必要となる子の出生届けは、母が行うことになりますが、その場合は届書に、父が未定である事由を記載しなければなりません(戸籍法54条)。

 ☆ 厳密には、「
懐胎時期に関する証明書」によって、推定される懐胎の時期の最も早い日が婚姻の解消又は取消しの日より後の日である場合に限り,婚姻の解消又は取消し後に懐胎したと認められ,民法第772条の推定が及ばないものとして,母の嫡出でない子又は後婚の夫を父とする嫡出子出生届出が可能です。」とあります。
 
禁止期間違反の婚姻 (禁期婚) は婚姻取消しの対象となり得ますが、妊娠・出産との関係で、取消しができないことになる定め (民法746条) について、こちらもご覧下さい。



        前婚了後
(の)三百()

           
後婚(こうこん)って二百()()


         その
出産
(前後)両婚婚中懐(推定)

         
(両夫共父であり得るので)
(親を)(なん)知産(ちざん)773

           「
める家裁


認 知 

 男性が
婚姻外で子を儲けた場合、我が子であっても法律上は他人になってしまいます(既婚男性が子を儲けた場合、通常、婚姻による嫡出推定により、その子は妻との間の子とされ、男性はその法律上の父親となります。ですから、婚姻外の女性との間では、その子は嫡出推定外となって、父親としての推定が働かず、その侭では他人となります)から、法律上も自分の子供とするためには、 認知 をすることが必要となります。認知によって父子関係が発生する(民法779条)訳ですが、法文上は、「嫡出でない子は、その父又は母がこれを認知することができる」とあって、母親による婚外子認知も予定されています。ただ、母子関係は、後述のように分娩の事実によって生じるとされていますから、通常は、母と子の間柄であることが認知を待たずに認められます。認知は、認知届けによってする(民法781条1項戸籍法60条)か、又は、遺言によってもすることができます(民法781条2項)。遺言による場合は、遺言執行者から届出をすることになります(戸籍法64条)認知能力についてはこちらをご覧下さい。ここまでは、父側からする任意認知であり、いわゆる主観主義的認知と言えるものですが、任意の認知が行われない場合には、子の側からする認知も認められています。昔は、例えばフランス民法等でも、婚姻尊重と父権尊重とが相俟って「父親の捜索」を許さない法制が一般的であったと言われますが、それが徐々に緩和されて父親の意思に訴える「認知請求」を許し、さらに今は、「主観」の主体である父親の死後3年までは認知の訴えが許される(民法787条人訴§2) 客観主義へと変化して、「強制認知」色を増してきていると言えます。親の死後になされる認知を「死後認知」と言います。訴訟では、原告に立証責任が課せられるのが原則ですが、認知の訴えではかつて、父親側から「多数当事者の抗弁」が提出されると、母親の「父親以外とは性的交渉がなかつた」との主張が容易に覆されるという原告に不利な判断が行われたりしました。しかし、判例(最判昭29・1・21)はその後、内縁にも民法772条嫡出推定を類推して内縁懐胎を認めるようになり、事実上立証責任の転換が図られて今日に至っています。内縁関係がない場合の困難は残る訳ですが、最近では、DNA鑑定が普及し一般化していますので、立証困難の早期解消が期待できますし、客観主義が一層進むことが予想されます。認知届けについては、こちらをご覧下さい。任意認知が得られず、家裁での手続きに入る場合は、「家族法関係事件の手続のあらまし」で離婚について述べたと同じように 、「調停認知」、「審判認知」、「裁判認知」の3通りの認知があり得ることになります(調停認知について、こちらをご覧下さい)。

なお、
嫡出でない子について父から嫡出子とする出生届がされ、又は、嫡出でない子としての出生届がされた場合、各出生届が戸籍事務管掌者によって受理されたときは、その各届けは、認知届けとしての効力を有するとする判例(最判昭53・2・24)があります。
 この判決は、その理由として、「けだし、右各届は子の認知を主旨とするものではないし、嫡出子でない子を嫡出子とする出生届には母の記載について事実に反するところがあり、また嫡出でない子について父から出生届がされることは法律上予定されておらず、父がたまたま届出たときにおいてもそれは同居者の資格において届出たとみられるにすぎないのであるが(戸籍法五二条二、三項参照)、認知届は、父が、戸籍事務管掌者に対し、嫡出子でない子につき自己の子であることを承認し、その旨を申告する意思の表示であるところ、右各出生届にも、父が、戸籍事務管掌者に対し、子の出生を申告することのほかに、出生した子が自己の子であることを父として承認し、その旨申告する意思の表示が含まれており、右各届が戸籍事務管掌者によつて受理された以上は、これに認知届の効力を認めて差支えないと考えられるからである。」と述べています。




    ならぬ(まま)けりゃ

             
我子(わがこ)でもそのならば他人也


            
認知によりて父子(ちちこ)779ぞなる。





認知は認知届けによってする(民781条1項戸籍法60条)か、又は、遺言によってもすることができます(781条2項)。遺言による場合は、遺言執行者から届出をすることになります(戸籍法64条)。





    我が子なら

      
戸籍の法(§60~§65)(のっと)って)届出するかさもなくば

         
遺言(いごん)781戸籍法64条 によるの(認知の)(方式)がある

                   
781だ、認知せえやい781



認知の訴え 
 
親の側からの任意の認知がなされない場合は、非嫡出子の側から訴えの形で認知を求めることもできます(民法787条)。子は勿論ですが、母親も子の法定代理人として訴えを起こすことができます。この場合、子が意思能力を有するに至っているときでも、法定代理人母として訴えを提起できるとする判例(最判昭43・8・27)があります。訴えを提起することができる者としては、「子、子の直系卑属、これらの者の法定代理人」とありますので、孫が提起することも可能ですが、783条2項に「父又は母は、死亡した子でも、その直系卑属があるときに限り、認知することができる」とあるので、孫からの訴え提起は、子の死亡後に限り可能であるとされています。父親の死亡後に認知の訴えを起こす場合、相手方は検察官となります(人事訴訟法12条3項)。親権者が法定代理人として訴えを提起する場合、身分行為については代理は馴染まないから、職務上の地位に基づく提起だとする説もあるようですが、上記判例は法定代理とする立場です。こちらもご覧下さい。
 なお、認知請求権を放棄することができるかという論点があり、放棄できるとする説もあるようですが、判例は、「認知請求権は、その身分法上の権利たる性質およびこれを認めた民法の法意に照らし、放棄することができないものと解するのが相当である」として消極に解しています(最判昭37・4・10)。この訴えは、父死亡後も認められ、父死亡後は検察官を相手とする強制認知色の強いものですが、例えば、詐欺・強迫による婚姻について、検察官にはその取消権がないとされる理由は公益要素がないからであるとされることにも窺えるように、この認知の訴えで検察官が関与するのは公益的要素があるからであり、それは、当該子が知らずに近親婚をする虞れを未然に防ぐことに資することにあると思われます。そうとすれば、公益に反する認知請求権の放棄は認められないものと言うべきです。

 
  

        ()(まご)(直系卑属) 法定代理(人)

             父母(ちちはは) 生前 ()没後三年 (迄)

                父母(ちは)() 787 ( ) 訴えできる



保存された精子を用いて当該男性の死亡後に行われた人工生殖により女性が懐胎し出産した子の認知請求事件で、その子と当該男性との間の親子関係を否定した判例(最判平成1894)があります。
 この判決は、その理由として、「民法の実親子に関する法制は、血縁上の親子関係を基礎において、嫡出子については出生により当然に、非嫡出子については認知を要件として、その親との間に法律上の親子関係を形成するものとし、この関係にある親子について民法の定める親子、親族等の法律関係を認めるものである。ところで、現在では、生殖補助医療技術を用いた人工生殖は、自然生殖の過程の一部を代替するものにとどまらず、およそ自然生殖では不可能な懐胎も可能とするまでになっており、死後懐胎子はこのような人工生殖により出生した子に当たるところ、上記法制は、少なくとも死後懐胎子と死亡した父との間の親子関係を想定していないことは、明らかである。すなわち,死後懐胎子については,その父は懐胎前に死亡しているため、親権に関しては、父が死後懐胎子の親権者になり得る余地はなく、扶養等に関しては、死後懐胎子が父から監護、養育、扶養を受けることは あり得ず、相続に関しては、死後懐胎子は父の相続人になり得ないものである。また、代襲相続は、代襲相続人において被代襲者が相続すべきであったその者の被相続人の遺産の相続にあずかる制度であることに照らすと、代襲原因が死亡の場合には、代襲相続人が被代襲者を相続し得る立場にある者でなければならないと解されるから、被代襲者である父を相続し得る立場にない死後懐胎子は、父との関係で代襲相続人にもなり得ないというべきである。このように、死後懐胎子と死亡した父との関係は、上記法制が定める法律上の親子関係における基本的な法律関係が生ずる余地のないものである。そうすると、その両者の間の法律上の親子関係の形成に関する問題は、本来的には、死亡した者の保存精子を用いる人工生殖に関する生命倫理、生まれてくる子の福祉、親子関係や親族関係を形成されることになる関係者の意識、更にはこれらに関する社会一般の考え方等多角的な観点からの検討を行った上、親子関係を認めるか否か、認めるとした場合の要件や効果を定める立法によって解決されるべき問題であるといわなければならず、そのような立法がない以上、死後懐胎子と死亡した父との間の法律上の親子関係の形成は認められないというべきである。」と判示しています。



母子関係
については、判例 (最判昭37・4・27)によっても、「母とその非嫡出子との間の親子関係は、原則として、母の認知を俟たず、分娩の事実により当然発生する」として、分娩・出産の事実自体により認められるとされていますが、その分娩・出産の事実がない場合について、 
代理出産で出生した子とその出産のため卵子を提供した女性との間の母子関係の成立を認めなかった判例(最判平成19・3・23)があります(このような事例の場合、現行法制の下では、卵子の母にとっては、養子又は特別養子の道しか残されていないことになるので、判決が言うように速やかな対応が強く望まれます)

 この判決は、その理由として、「民法には、出生した子を懐胎、出産していない女性をもってその子の母とすべき趣旨をうかがわせる規定は見当たらず、このような場合における法律関係を定める規定がないことは、同法制定当時そのような事態が想定されなかったことによるものではあるが、実親子関係が公益及び子の福祉に深くかかわるものであり、一義的に明確な基準によって一律に決せられるべきであることにかんがみると、現行民法の解釈としては、出生した子を懐胎し出産した女性をその子の母と解さざるを得ず、その子を懐胎,出産していない女性との間には、その女性が卵子を提供した場合であっても、母子関係の成立を認めることはできない。」と述べ、さらに、「もっとも、女性が自己の卵子により遺伝的なつながりのある子を持ちたいという強い気持ちから、本件のように自己以外の女性に自己の卵子を用いた生殖補助医療により子を懐胎し出産することを依頼し、これにより子が出生する、いわゆる代理出産が行われていることは公知の事実になっているといえる。このように、現実に 代理出産という民法の想定していない事態が生じており、今後もそのような事態が 引き続き生じ得ることが予想される以上、代理出産については法制度としてどう取り扱うかが改めて検討されるべき状況にある。この問題に関しては、医学的な観点からの問題、関係者間に生ずることが予想される問題、生まれてくる子の福祉などの諸問題につき、遺伝的なつながりのある子を持ちたいとする真しな希望及び他の女性に出産を依頼することについての社会一般の倫理的感情を踏まえて、医療法制、親子法制の両面にわたる検討が必要になると考えられ、立法による速やかな対応が強く望まれる」旨付言しています。なお、こちらもご覧下さい。。



認知能力 (身分行為能力)
 
婚姻のように人の身分に関する行為は、財産行為に関する (弁識能力の有無・程度を基準とする) 後見(民法9条)保佐(13条)補助(17条)等の、行為能力による制約を受けることがありません。したがって、身分行為のための能力という点においては、行為するその時に本人に意思能力があり、また、その行為相応の心身の成熟と理解力・判断力があれば、法律行為として当該身分行為は成立します。そして、その目安としては、人は、15歳になれば自身の意思で他人の養子となることができ(但し、家裁の許可というチェックは必要(民法798条)です)、又、自ら遺言することもできます(民法961条)。これは単なる目安であって、当該の者が15歳未満であっても、その身分行為に関し、具体的場面で観察力・思考力・判断力が備わっていることが認められれば、当該身分行為の能力ありと認めることができます。但し、年齢による法定障碍事由にあたれば、当該行為はできないことになります。財産的な利害の弁識能力とは異なりますから、たとえその人が後見人の後見を受ける成年被後見人であっても、行為時にその身分行為についての能力があれば、後見人の同意を要せずに、その行為をすることができます。民法は、738条でまず婚姻についてこの点を定め、それに続く離婚(764条)、縁組(799条)、離縁(812条)について、この738条婚姻能力規定を準用しています。なお、認知については、780条で「認知をするには(子の)父又は母が未成年者又は成年被後見人であるときであっても、その法定代理人の同意を要しない」と、未成年者(5条)も含めた形で別個に規定しています。未成年者の婚姻(§737)・離婚(§753)・縁組(§792§797§798)・離縁(§811§811の2§815)については、上記各成年被後見規定とは別にその保護的ないし制度的観点からの規定を置いています。なお、このような被後見人等の身分行為に関する訴訟での訴訟能力について、こちらもご覧下さい。なお、条句にある遺言能力については、こちらをご覧下さい。
意思能力 自分が行為するについて、その動機と結果、或いは、その行為の性質を認識し、自分の判断で行為することを決定できる能力のことであり、通常は、学齢に達すれば意思能力を備えるに至ると言われています。もちろん、個人差がありますから、一般論としてそう言えるということですが、重い精神病者であるとか、酩酊が酷い場合や失神しているときは、意思能力に欠けることになります。


   未成年被後見()でもはできる780

     意思
正気せれば
(意思能力があれば)

        心
962 その気 芽生えれば




 
認知遺言(いごん)その()むに962

     代理
なじまず
()(理人) 同意 るをしない

            §962は、遺言能力に関し行為能力を不要とする規定




成人子胎児・亡子の認知
 成年の子は、その承諾がなければ、これを認知することができません(民法782条)。また、母親が妊娠中の胎児も認知対象となり得ますが、その母親の承諾なくしては認知できません(783条1項)。さらに、亡くなった子でも、認知することが可能ですが、それはその子に直系卑属があるときに限られ、その直系卑属が成人であれば、その承諾を得なければなりません(783条2項)。




   782った成人

       我
認知世話に782なる!」

         
ムシがよすぎてされぬ

          子自身
承諾なければ認知不可

                     7を
形の類似から「り」と読む。



   ケース(せば)783783 胎児 認知 なら

     ① 胎児()承諾(を)


    ② なら(直系卑属)あるときられて

      成年(そん)
ならその承諾なくば認知不可



認知の効力

 民法784条は「認知は、出生の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者が既に取得した権利を害することはできない。」と定めます。したがって、認知されたことにより、亡くなった父親の相続人となるということが起こり得ます。その際、同条の但書によって、既に相続人らが遺産の分割を終わってしまっていた場合は、その相続人らの取得分を害し得ないとすると、今度は被認知者が取得分を失って、不利益を被ります。そこで、民法は910条で「相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払の請求権を有する。」という手当をしています。先順位の相続人がいないということで、後順位の相続人らが遺産分割を終えてしまっていた場合はどうすべきかの規定はないのですが、同順位の場合について910条のような価額のみによってではあれ、取得を認める規定を設けているからには、先順位の場合は当然に被認知者が相続することができる筈であるとして、当然解釈されるべきと言われています。本来、後順位者であって、相続に与れない立場であった者たちであってみれば、一旦取得したものを失うのも仕方ないことと思われます。したがって、被認知者が相続する場面では、この784条但書は全く適用がないことになり、また、この但書が他に適用される場面は殆ど考えられないと言われています。なお、こちらもご覧下さい。



   認知 出生時

    
     その世話784養育費 、

        死後
認知
相続、  

        
せわし784てくるが第三者をば



   (死後或いは遺言)認知され

          となれて既分割

          苦闘 910結果(受け容れ)やむなき

       価額のみ (という制限を受け)

        お宝分けをむは

          苦汁 910飲まさる’うべきか




認知取消しの禁止

 
認知によって一旦父子関係(或いは母子関係)を認めた者は、その認知を取り消すことができません(民法785条)。条文には「認知をした父又は母は、その認知を取り消すことができない」とありますから、当然、任意認知をした親には、ということになりますが、その親には取消権がないということです。この取消権を、行為の効力が発する前にその効力を失わせる「撤回権」と解する説もあるようですが、民法は、家族法中で、婚姻・離婚・縁組・離縁等において「取消し」規定を置いていますから、認知だけそれらと異なる意味に用いていると解するのは不自然です(まして、遺言では、以前「取消し」とあったのを、「撤回」と改正しています(1022条を平成16年に改正)から、認知でも撤回と解すべきなら、その際に改められていた筈です)。そして、これら他の取消しのうち、創設的な身分行為である婚姻、縁組では婚姻障碍のように公序良俗に照らし是正を要する故の取消しに、詐欺・強迫による取消しが加わわって、取消原因とされています。認知においても「取消し」の同じスキーム上で、785条の認知取消しの禁止規定が置かれているのですから、成年子や胎児・亡子の認知要件とされている承認の欠缺や詐欺・強迫等の瑕疵を理由とする認知の取消請求はできない、と定められていることになります。この点は、次の条文786条が真実に反する認知であれば、たとえ認知者本人からでも認知無効の訴えが許される(この点は、次に述べるように判例が認めています)とされていることにも照応します。つまり、騙され、或いは脅されて認知したからといって、一旦親子関係を認めた上は、それが真実に反し、786条によって無効とされ得るものでない限り、有効性を妨げられない、というのが785条の法意であると言えます。ことに、婚姻障碍の一つである近親婚を防ぐという観点からは、認知における血縁の明確化は公序良俗にも関わるので、成人・胎児・亡子の認知に要するとされる承認がなかったからといって、或いは、騙され、脅されてしたからといって、その認知の取消しを許すことはできないというのが民法の採る立場ではないでしょうか。



 人生
若気(わかげ)
ナンパ後785

   認知
であっても(ナンパ結果の子である事が)事実なら

 
    たとえ認知〔脅〕された(詐欺・強迫)結果からとて取消せぬ


        
立派782った成年子

               
(せば)783ケース(児と)(き)

     
      認知承諾 いても認知取消せぬ



認知無効の訴え任意認知に対する反対事実の主張
 民法786条は「
子その他の利害関係人は、認知に対して反対の事実を主張することができる。」と定めます。これにより、任意になされた認知が真実に反している場合、認知によって養育費等の扶養義務を負い、或いは相続権を失う等の不利益を被る者は、認知無効の訴えを起こすことができます(民法786条、人事訴訟法2条2号)(その前に調停を経なければなりませんが)。認知無効の訴えについては、その判決によってはじめて無効という法効果が創設的に生じるとする形成無効とする説もありますが、前述した認知取消しの禁止理由である公序良俗の観点からは、当然無効として、他の主張の先決問題としても認知無効を主張できると言うべきです。また、認知をした父親本人が、事実に反した認知であったことを理由として、この訴えの原告となることができるかという問題がありますが、公序に反し当然無効とすれば、認知者本人を含め誰からでも主張ができることになります。その旨判示した判例が出ました。

認知者は,民法786条に規定する利害関係人に当たり,自らした認知の無効を主張することができ,この理は,認知者が血縁上の父子関係がないことを知りながら認知をした場合においても異ならない旨判示した判例(最判平26・1・14)
 この判決は、その理由を「血縁上の父子関係がないにもかかわらずされた認知は無効というべきであるところ、認知者が認知をするに至る事情は様々であり、自らの意思で認知したことを重視して認知者自身による無効の主張を一切許さないと解することは相当でな い。また、血縁上の父子関係がないにもかかわらずされた認知については、利害関係人による無効の主張が認められる以上(民法786条)、認知を受けた子の保護の観点からみても、あえて認知者自身による無効の主張を一律に制限すべき理由に乏しく、具体的な事案に応じてその必要がある場合には、権利濫用の法理などによりこの主張を制限することも可能である。そして、認知者が、当該認知の効力について強い利害関係を有することは明らかであるし、認知者による血縁上の父子関係がないことを理由とする認知の無効の主張が民法785条によって制限されると解することもできない。 そうすると,認知者は、民法786条に規定する利害関係人に当たり、自らした認知の無効を主張することができるというべきである。この理は、認知者が血縁上の父子関係がないことを知りながら認知をした場合においても異なるところはない。」と述べています。


  認知(相続権やら扶養義務) 不利益(こうむ)関係人

        
はた又その
本人反対事実ナパーム786

             
って
(認知)無効 できる




相続開始後の認知と遺産分割
 父親が遺言で認知する 、或いは、死後の訴えにより、 死後認知となるときは、相続の問題にもなり得ますが、他に相続人がいる共同相続で既に遺産分割が終わっている場合、価額のみの支払請求となるとの定めがあります(民法910条)( →被認知者の価額支払請求)こちらもご覧下さい。



   
(死後或いは遺言)認知され継ぐ身となれて

       既分割 苦闘
910結果(受け容れ)やむなき

         
価額のみ
(という制限を受け)宝分けをむは

                 ‘
苦渋910まさる’うべきか



認知後の子の監護 
未成年の子について、父親が我が子であると認知をすると、父母の協議によって父を親権者と定めたときに限り父が親権を行うと民法819条4項は定めますので、その旨の協議が調わない限り、母が行うことになりますが、認知後の子の監護についても、父母の協議によって、面会交流・養育費も含めて、子の利益を最優先にして、定めなければなりません(民法788条766条)。この766条については、こちらをご覧下さい。



 認知
したなら その父母(ちは)788

   子供
世話焼
788 ()(ろう)(揺り籠の意)() ) 766 (監護面会養育費)

     
      子()()優先()めねばない

       できぬなら
家裁調停
(調停不成立なら)い で審判



準 正
 ここで婚中懐(胎)
(§772)、養子縁組(§809)と並んで、子が嫡出子となる3大要因である準正について述べることになります。非嫡の子の認知の後に父母が婚姻の届出をし、或いは父母の婚姻後に父母から認知の届出があると、それらの届けだけで、子は嫡出子となります。前者が婚姻準正(民法789条1項)、後者が認知準正です(民法789条2項)準正は、要するに、①分娩事実により母親の子とされている非嫡出子ないし内縁子について、②認知により父子の間柄が加わり、さらに③父母の婚姻事実が重なれば、子は嫡出子となるというもので、②③の順のものが婚姻準正、③②の順のものが認知準正です。前者の場合は、明文はないものの、父母が婚姻した時に準正の効果が生じ、子は嫡出子となります。しかし、認知準正の場合は、最後に認知が加わわり、その認知には、本来出生時までの遡及効があります(784条)から、789条2項の文言「その認知の時から、嫡出子の身分を取得する。」は妥当ではなく、認知準正の場合も遡及をして、婚姻準正と同じく婚姻時から嫡出子となると解すべきとされ、戸籍実務もそのような扱いをしています。
 なお、
(昔、慣習として存在した「足入れ婚」がその例ですが ) 内縁中に懐胎し、婚姻後 (200日以内で) 出産した子は、出生と同時に当然嫡出子の身分を有するとされ、戸籍実務では「推定されない嫡出子」として、嫡出子の戸籍記載が行われることは前述のとおりです。また、戸籍法62条は、認知準正によって「民法第七百八十九条第二項の規定によつて嫡出子となるべき者について、父母が嫡出子出生の届出をしたときは、その届出は、認知の届出の効力を有する。としますので、認知届ではない嫡出子出生届であっても認知準正により婚姻時からの嫡出子とされます。結局、非嫡出子ないし内縁子の父母が婚姻し、その子の出生につき婚姻前後を出生日とする嫡出子出生届がなされれば、婚姻時からの嫡出子となります。婚姻前の出生であれば、「準正」による、婚姻後の出生であれば、「推定されない」嫡出子ということです(もちろん、婚姻後200日を超えての出生であれば「推定を受ける嫡出子」です(§772))



 
772なる(200を超えて300内)婚中懐 ()にはあらねども
 
      
(にん)(知)()婚姻

     
 ② (こん)父母(ちは)(が)認知したならば


  (いず)子供(ちは) (こん)789

    婚中懐
(なぞ)

   
届け (①は婚姻届、②は認知届)()でれば準正 (による) 嫡出


   準正可能也婚姻準正、②のそれは認知準正

       各準正
はこう789んでける


婚姻障碍
 
前記の重婚732)や(再婚)禁止期間(「待婚期間」と言います)(§733)違反の再婚(「禁期婚」と言います)、その他、婚姻年齢731)に達しない者による婚姻 (「不適齢婚」と言います) 、或いは、直系血族又は三親等内の傍系血族の間の婚姻734)、直系姻族間の婚姻735)、養子・その直系卑属(これらの配偶者も)と養親・その直系尊属との婚姻736)(以上をまとめて「近親婚」とします)等、婚姻が法により禁じられている事由で、婚姻届けの段階からハードルとして存在するものを婚姻障碍と言いますが、この婚姻障碍 (不適齢重婚禁期近親婚) を伴う婚姻は、各当事者、その親族又は検察官から婚姻取消しを請求することができます。但し、検察官は当事者の一方が死亡した後は、請求することができません。また、重婚と禁期婚の場合は、当事者の配偶者又は前配偶者からも取消しを請求することができます744)(人訴§2) 同様に取消原因となるものして、上記の四つの他詐欺・強迫による婚姻747)がありますが、これについては、公益的原因ではないとして、検察官は取消権を認められていませんし、当事者の取消権も、詐欺を発見し、若しくは強迫を免れた後3か月を経過し、又は追認をしたときは、消滅します。公益的要素がある上記四つの場合の内、禁期婚については、後記のような取消権消滅の定め、不適齢婚についても後記のような同消滅と追認の定めがあります。婚姻取消請求は、認められている期間内に提起すれば、その期間内に手続きが完了しなくともよいとされています。婚姻取消しの効力についてはこちらを、取消しに伴い対処すべき事項、取消しの手続き等についてはこちらをご覧下さい。
                 


    

    不適齢731732禁期733近親(§734~736)

     殺生744かもでもけぬ、

    当事者親族 (親等不問)検察官(から)

    (家裁に取消)
請求あれば(婚姻は) ナシとす744


     検察官(は)当事者一方死亡

     死後
取消請求
なしよ744

    禁期
(については)(偶者)前配(偶者) (取消) 請求



    「シとす」は、44を「四十四」としての読み



     たり、したりして

       ぶかの婚姻なすな747、バカあるぞ。

 

    婚姻ナヨナ747なしな747

       されて、またされてしたのなら、

       詐欺(わか)強迫(のが)れて三月(みつき)

       
めてやまるのに8062

       
三月経過(自らする)追認  (取消)  請求できんこととなる


      806条の2は、縁組時、配偶者が詐欺・強迫により同意した場合の取消しに関する規定

婚姻取消し
 
婚姻の届出については、民法740条が、731条から736条までに定められた婚姻障碍となる不適齢重婚禁期近親婚にあたる事由の有無のほか、未成年者の婚姻に関する父母の同意(737条)、証人の要件(739条2項)、その他法令の定めに違反していないかを確かめた後でなければ受理することができない旨を定め、さらに、744条は、上記四つにまとめた障碍事由をクリアしない婚姻については、婚姻取消しの請求が待つことになる旨を定めます。しかも、743条は、「婚姻は、744条から747条までの規定によらなければ、取り消すことができない。」としていますので、婚姻取消請求は、婚姻障碍と詐欺・強迫(§747)を理由とする限定された場合にのみ許されることになります(父母の同意のない未成年婚は、あとからは婚姻取消しの対象となりません)。婚姻取消しの効力については、取消しに伴う利益返還(婚姻に取消原因のあることを知っていた当事者は、得た利益の全部、知らなかったときは現存利益の限度で返還します)(知っていたときは、さらに)損害賠償の規定(民法748条)がある他は、離婚規定(民法728Ⅰ766~769 790Ⅰ819Ⅱ、Ⅲ、Ⅴ、Ⅵ)準用されます(民法749条)。準用によって婚姻取消しに伴う出来事を列挙すると、復氏・婚氏続称(§767)親権者指定(§819)子の監護者・監護費用等766)財産分与768)祭祀承継769)姻族関係終了728)離婚後に出生した子の氏790Ⅰ)となります。下線クリックでご確認下さい。なお、婚姻取消請求は、人事訴訟手続法2条1号の事件ですが、家事事件手続法244条257条(調停前置主義の原則)により、まず調停に付され、次いで、家事事件手続法272条3項により訴訟へ、と離婚同様の手続きとなります(当事者間に合意が成立して相当と認められると、同法277条により、合意に相当する審判で終えることができます)。婚姻取消しの効力についてこちらもご覧下さい。家裁での手続きについてはこちらをご覧下さい。


 
  
には
728縁切(姻族終了)


       名務
して
767復氏・婚氏続称

       (ろう) 766子の監護事項

      親権以降819どちらか親権〔真剣〕俳句819



   子
くれ
790の氏)、姓婿(せいむこ)769 769難問768

             祭祀承継
財産分与
 婚取消
準用

                   
なしく
749にも解決すべし

                 
 (それぞれの条句の元句については、「離婚の効果」をご覧下さい。)




重婚は、婚姻中の者が重ねて婚姻することを言いますから、既婚者が、配偶者でない者と婚姻届けをすることなく重ねての夫婦生活をすることは、重婚にはあたりません。婚姻届という社会的承認を二重に受けた場合を言いますから、戸籍事務の審査(民法740条、戸籍法63条、但し、実質的審査権はなく形式審査にとどまります)をすり抜ける困難に照らせば、故意にする重婚は希にしか起こらないことです。したがって、故意による重婚であれば、「終生的貞操結合」という婚姻の本質に真っ向から背くことで、刑法上の犯罪(刑法184条)となります(後婚の相手方も同様に罰せられます)。しかし、民事的には、故意・過失、善意・悪意の別を問わず、結果として重婚となった場合、いずれもその外形上普通に社会生活が営まれる事実を重んじ、無効ではなく、取消し可能な婚姻とし、しかも、取消しの効力を遡及させず(§748Ⅰ)に対処することになります(婚姻取消しの効力についてこちらもご覧下さい)。重婚の取消しは、近親婚等他の婚姻障碍事由と共に、公益的見地からの取消しとなるので、当事者、親族の他、検察官にも取消権が認められています。従来、重婚の例としては、失踪宣告によって配偶者が死亡したとみなされ(民法31条)て、再婚したが、その後生還による失踪宣告の取消し(民法32条)があったため、重婚となってしまった場合が取り上げられてきました。しかし、この場合は、「その取消しは、失踪の宣告後その取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさない。」とする民法32条によって後婚が存続を許され、したがって、論理的に前婚は復活しないとせざるを得ないものと思われます。後婚が悪意であれば、勿論これを取消対象として対処すべきが当然で、この場合は前婚が復活します(後婚が悪意によるならば、勿論、離婚原因あり、ということになりますから、前婚も離婚の結果を見る可能性が大となりますが)。
 婚姻による配偶者が存在するのに、他の者といわゆる内縁の夫婦生活をすることを重婚「的」内縁と言いますが、これは、配偶者に対する貞操義務違反、同居・協力・扶助義務違反となり、また、その違反者と共に夫婦生活をする内縁者も、配偶者に対する不法行為責任を問われることになります。しかし、その配偶者との婚姻関係が事実上破綻して形骸化している場合は、これらの責任を問われる余地はありませんし、むしろ、内縁者の権利保護の方に注目しなければならないことともなります。

 
このような関係にあった内縁者の遺族年金の受給権に関して、まず、配偶者からの遺族年金の受給請求につき、「配偶者の概念は、必ずしも民法上の配偶者の概念と同一のものとみなければならないものではなく、戸籍上届出のある配偶者であっても、その婚姻関係が実態を失って形骸化し、かつ、その状態が固定化して近い将来解消される見込みのないとき、即ち、事実上の離婚状態にある場合には、もはや右遺族給付を受けるべき配偶者に該当しない」 として、受給請求を退けた判例 (最判58・4・14) があり、そして、上記のような重婚的内縁ではありませんが、内縁者からの、遺族年金の受給請求を認めた判例(最判平19・3・8、これは近親婚の事例でもありました)、夫の死亡退職金の受給請求を認めた判例(最判55・11・27、これは支給規程上の「配偶者」に内縁も含まれていた事例) 等があります。こちらもご覧下さい。
 重婚は、上記のとおり当事者、その配偶者、親族等から取消請求ができますが、重婚での後婚が離婚によって解消した後の取消請求は、(原則として)できないとする判例があります。


   人生航路難航時
752同居協力扶助により妹背(いもせ)ならば
           
            並
732夫婦生活つは出来重婚禁止


近親婚
 民法734条は、「
直系血族又は三親等内の傍系血族の間では、婚姻をすることができない。ただし、養子と養方の傍系血族との間では、この限りでない。2 第八百十七条の九の規定により親族関係が終了した後も、前項と同様とする。」として、所謂近親婚(「直血三傍血間」)を禁止しています。「養子と養方傍系血族」の婚姻としては、いわゆる婿養子がその例ですが、その対置としての「嫁養子」もあり得る訳です。817条の9は、特別養子の場合は、その縁組によって実方親族との親族関係が終了となる旨の規定ですが、734条の2項は、その親族関係終了後も近親婚の禁止は維持されることを定めています。この他、734条の法意の延長として、直系姻族間(735条)〔略して、「直姻間」〕、養親子間又は養尊・養卑(配偶者を含む)(736条)(略して、「養尊養卑間」)の各禁婚も定められていますが、これらをまとめて、近親婚と呼ばせて頂きます。734条の直血三傍血間禁止については、反倫理性と優生学的理由が規制根拠とされますが、同条2項の特別養子について、戸籍記載の工夫により一般には特別養子の実方とは判明し難い実方親族関係が、縁組により断たれた(817条の9)後も禁止が続くことに照らしても、同条による禁止は、優生学上の理由の大なることが窺えます。他方、直姻間と養尊養卑間の禁止は、それぞれ、姻族関係・縁組関係が終了した後も禁止されることで明らかですが、反倫理性のみが規制の根拠であるとされます。傍系血族間の婚姻は、三親等内が禁止となりますから、伯父伯母・甥姪間は禁じられますが、四親等である従兄弟・従姉妹間は婚姻することができます。姻族間は、直系間での婚姻が禁じられますが、傍系なら婚姻できますから、昔よく見られた、妻が亡くなりその姉妹から後妻に入る「順縁婚」、夫が亡くなりその兄弟が代わりに夫となる「逆縁婚」も可能です。順と逆と言う表現は、男系血統主義の表現で、「家」制度を思わせ、今は相応しくないですが、婚姻については法的な問題はありません。養子は、養親の嫡出子(§809)となり、血族同様の親族(§727)となりますから、養親等の養方直系血族との禁婚(734条)、養方直系姻族との禁婚(735条)は特に法条を設ける必要はないのですが、離縁による親族関係の終了(§729)があるので、736条を置いてその後も禁婚であることが定められています。

 上記の様に強い規制の対象である三親等傍系血族婚についてですが、上記遺族年金の受給を認めた判例はその判文で下記のように述べています。

厚生年金保険の被保険者であった叔父と内縁関係にあった姪が厚生年金保険法に基づき遺族厚生年金の支給を受けることのできる配偶者に当たるとされた事例(最判平19・3・8)
この判決は、その理由として「厚生年金保険の被保険者であった叔父と姪との内縁関係が,叔父と先妻との子の養育を主たる動機として形成され,当初から反倫理的,反社会的な側面を有していたものとはいい難く,親戚間では抵抗感なく承認され,地域社会等においても公然と受け容れられ,叔父の死亡まで約42年間にわたり円満かつ安定的に継続したなど判示の事情の下では,近親者間における婚姻を禁止すべき公益的要請よりも遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与するという厚生年金保険法の目的を優先させるべき特段の事情が認められ,上記姪は同法に基づき遺族厚生年金の支給を受けることのできる配偶者に当たる。」と述べています。
民法734条~736条近親間の婚姻禁止の条句です。


      ()()(親等)()()禁婚間

         
婚姻なんぞしたならば名指734 非難なるも、

        
養方姉妹(あねいもと)兄弟(あにおとと)〕なら他家なみよ734

                  婚姻ありてもしゅうない


       特別養子
排血
8179親族終えても禁婚



    子一度(ひとたび)舅姑となったならば

      子夫婦
離婚(よめ)婿(むこ)

           
にも(なぞ)735間柄()()

                   婚ならじ


     姻族関係終了意思をば表示728 或は又

     
  特別養子

        実姻
()親族終了した8179とき(実親が再婚した相手)

             
同じく直姻
(族間)婚ならじ



      離婚
(或いは)()() 表示後も

          特別養子
実姻()親族終了した8179とき

          親
(なぞ)735間柄(ゆえ)

        
離散後735()()ならじ
                      「7」を形の類似から「り」と読む


    養親(又はその直系尊属)

     養子
(又はその配偶者、養子の直系卑属又はその配偶者)

           
離縁後婚姻なさる
736禁忌也




     養親子離縁したならなさろう736

           お
いなしは浅慮也

        
養子並びに その直卑それぞれの連合いも

             (いずれも)()()とは禁婚間


未成年者の婚姻

 未成年者の婚姻については、男18歳、女16歳という婚姻適齢に達した後であっても、父母の同意を要します。しかし、この要同意原則とその例外がやや微妙に絡み合い、多少気抜けする結果が待つことになります。つまり、未成年の人が結婚するについては、民法737条1項が、父母の同意を得なければならないと規定しています。つまり両親の同意が必要というのが原則です。しかし、一方が不同意であっても、「他の一方の同意だけで足りる」と同条の2項は、例外の定めを置きます(他方の親が「知れないとき」、死亡したとき、又はその意思を表示することができないときも同様とされます)。そして、民法740条は、この737条を含む婚姻の諸要件や証人の要件、その他法令の定めに違反しないことを認めた後でなければ婚姻届けを受理することができない、としています。ですから、ここまでは他の婚姻要件違反と同じ扱いとして、親の同意がないとの理由で役所の戸籍係での不受理扱いを受ける訳です。しかし、この後、民法744条は、上記の「不適齢、重婚、禁期、近親婚」としてまとめた婚姻要件をクリアしない婚姻については、婚姻取消しの請求が待つことになる旨を定めますが、ここには親の同意に関する737条は含まれていないのです。しかも、743条は、「婚姻は744条から747条までの規定によらなければ、取り消すことができない。」としていますが、この744条から747条までの4箇条にも親の同意の関係する規定は存在しません。したがって、戸籍係が未成年者の婚姻届けに父母の同意の記載がないことを見落として受理してしまうと、父母の同意のない未成年婚は、あとからは婚姻取消しの対象とならない、ということになります。大上段に振りかぶった原則が尻すぼみになるような、何か腑に落ちないものが残りますね。なお、不適齢婚による取消権の消滅についてはこちらを、婚姻取消しの効力についてはこちらをご覧下さい。また、上記のことは、平成30年の民法改正により以下のように大きく変わります。

 平成30年6月20日に成年年齢・婚姻年齢に関する民法改正法が公布され、令和4年(2022年)4月1日から施行されることとなりました。これにより、約140年間続いた20歳を成人とする成年年齢制度が、18歳を成人とすることに大きく変わります
(民法4条)。また、戦後の昭和22年に、それまでより男女で各1歳引き上げられて、男性18歳、女性16歳とされて以来、70年以上続いた婚姻年齢も、男女等しく、成年年齢と同じ18歳となります(民法731条)。この改正により、未成年者の婚姻の可能性が消滅することから、婚姻による成年擬制はなくなり(民法753条は削除)、未成年者の婚姻に伴う父母の同意も不要となります(民法737条は削除)。この父母の同意を要するとする制度は、戦前は、男性30歳、女性は25歳になるまでその家の戸主と父母の同意が必要とされていたのを、戦後、原則として未成年者については、父母の同意を必要とし、但し、父母の一方が不同意である場合、他方の同意で足りるとの例外を置き、また、この要同意の定めに違反する婚姻届けは役所の戸籍係から受理を拒まれる旨を定め、しかし、誤って受理されると、他の婚姻要件違反の場合とは異なり、婚姻取消しにはならない等、経過自体が婚姻における個人の自主性を重んじて同意権が後退する流れにあった上、規制がやや曖昧で怪訝なものでもありました。それが、この度の改正により、父母同意の規制が成年擬制と共に撤廃されて、「成年・婚姻、あい共に 男女一律18歳」、そして、年齢的な規制として残るのは不適齢婚による取消しだけというスッキリした形になりました。こうして、憲法24条が「両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有する」と明示する婚姻における両性の自主と平等がさらに貫徹されることとなります。
 なお、若年層を悪環境から保護するためとして、飲酒、喫煙、公営ギャンブル等の禁止年齢は20歳までが維持され、また、他人の子に親権を行使することとなる養親の責任の重さに照らし、養親資格年齢についても20歳が維持されることになります。



未成年、親
同意をせぬ()は、御法度だからしなさんな737

  然れども片親同意するのなら

    他方
不同意なさんな737片親同意りる

     御法度けの受理難所740あり(受理を拒まれる)

     されど、
難所740のクリアで、

          
謎な737こぼし(婚姻の)取消しはなし




不適齢婚が取消不可となる場合
 不適齢婚は、適齢に達した後は、取り消すことができません。但し、本人は、適齢に達した後も3か月間、自ら追認する場合は別として、取消請求が可能です
(民法745条)。つまり、本人が、適齢に達する直前に、やはりその婚姻を取り消したいと考えた場合、適齢に達すると同時に取消権が消滅したのでは間に合わないので、適齢後3か月間の猶予を置くということです。その間に、適齢後の本人がその婚姻を追認すれば、取消権は消滅します。なお、婚姻取消しは、この3か月の期間内に請求すればよく、その期間内に手続きが完了しなくともよいとされています。


   
  
足りないさい731(は)

              
適齢に せし745 には取り消せぬ



       
足りない本人

         達
せし
745三月間(みつきかん)(自らする)

                   追認
なくば取消し




禁期婚が取消不可となる場合
 ところで、再婚禁止は、
離婚する時点で妊娠していない場合と、妊娠していても離婚後百日経たない内に出産していた場合★は、再婚禁止期間内でも、解禁となります(§733Ⅱ)
 そのため、
禁期婚は、離婚時に妊娠していたのに、そして、離婚後百日以内にその児を産んでいない侭に、再婚に踏み切った場合に限られることとなります。この場合、離婚後百日目の日より何日早く、手前で再婚したかにより、その日数分が(離婚後三百日目から手前にその日数の期間)(前婚・後婚の)両夫の推定の重なる期間となります。そうして、離婚後百日が経過したものは、とにもかくにも禁止期間を過ぎ、後は、産まれるであろう児について(右の推定重複期間中の出産であれば)、父を定める訴えによって推定の重複を解消すれば足りることから、婚姻事実を重んじ、以後は婚姻を取り消すことができないこととし、また、妊娠中であった児が、右の(離婚後)百日経過前に産まれれば、その産子は前婚子と推定すべきことが明白なので、右の百日経過を待つことなく、その時点から、この場合も婚姻は取消しできないこととなります(§746)
★これらの事実については、それを証明する医師の証明書の提出が必要です
(平成28年6月3日法務省通達)


(前婚離婚時に妊娠していたのに再婚に踏み切り、禁止期間内に婚姻届けが誤って受理された§733違反の)

    
禁期再婚、妊胎が、前婚了後百日

      
 (出)なく経過

(し、生じ得る父性推定の重複を解決☆すれば良いだけなので、その婚姻は取り消せないこととする)、

     (ある)(離婚時に妊娠していた子を百日内で産んで)

         
経過する (に出)あれば
        
(産子は、前婚子と推定すべきこと明白なので、父難知リスクは解消し、

     出産したその日から)
禁婚せしむ746意味なき(故)

               その再婚は
せぬ


説明部分を取り払うと次の様になります。結局、禁期婚或いはその取消しという事態は、離婚後百日の間で、父難知のリスクが現在する間だけに、起こ得ることになります。




   禁期再婚、妊胎が、前婚了後の百日を、

   
(出)なく経過経過する(に出)あれば



          
禁婚せしむ746意味なき

               
その再婚せぬ


平成19年5月7日の法務省通達により、再婚後に生まれた子の出生届について、前婚の離婚後300日以内に生まれた子であっても、医師の「懐胎時期に関する証明書」が添付され、その証明書の記載から、推定される懐胎の時期の最も早い日が離婚日より後の日であると認められる場合には、離婚後に懐胎したと認められ、民法772条推定が及ばないものとして、母の嫡出でない子又は後婚の夫を父とする嫡出子出生届出が可能となりました。

 

         

嫡出否認の訴え
 婚姻中の夫婦間の子
( 届出人が婚姻中であれば、772条の嫡出推定により当然夫婦間の子であるとして、受理されます ) は、嫡出子としての出生届をすることになります。したがって、夫からその子が嫡出子であることを否認するためには、法の認めた方法による他はなく、それ以外には後述の例外的な事情のある場合に認められる親子関係不存在確認の訴えが残されているだけです。この嫡出を推定される期間中に妻が他男との間で儲けた子について夫に認められた否認手段が、嫡出否認の訴えです(民法774条778条人訴§4)これは夫が子の出生を知ってから一年以内(777条)に、夫からのみ提起できる訴え(774条)で、当該の子若しくはその母親を被告として訴えることになります。母親がいない場合は、家裁が選任した特別代理人を被告とします(775条)これらの条件を満たさない訴えは後掲判例の場合のように厳格に退けられます。なお、嫡出否認の訴えを提起した場合であっても、その対象となる子については、出生届けをしなければなりません(戸籍法53条)。また、夫が死亡した場合について、人事訴訟法41条は、「夫が子の出生前に死亡したとき又は民法第七百七十七条に定める期間内に嫡出否認の訴えを提起しないで死亡したときは、その子のために相続権を害される者その他夫の三親等内の血族は、嫡出否認の訴えを提起することができる。この場合においては、夫の死亡の日から一年以内にその訴えを提起しなければならない。」とし、同条2項は、「夫が嫡出否認の訴えを提起した後に死亡した場合には、前項の規定により嫡出否認の訴えを提起することができる者は、夫の死亡の日から六月以内に訴訟手続を受け継ぐことができる。この場合においては、民事訴訟法第百二十四条第一項後段の規定は、適用しない。」と定めます。なお、妻(母)、子からの否認について、こちらもご覧下さい。この「訴え」の裁判所での手続きは、人事訴訟法2条2号事件として、家裁の管轄となり、「家族法関係事件手続きのあらまし」に述べましたように、調停→合意に相当する審判(家事事件手続法277条)→訴訟、の順を踏むことになりますから、実際に争訟となることは左程多くないと言われます。そうしますと、調停当事者間に合意が成立し、審判官が合意を相当であると判断すると、合意に相当する審判がなされ、これに対する異議申立てもなく、確定すると訴訟による判決と同じ効力を持ちます(家事事件手続法281条)。ですから、この形によれば、嫡出否認の出訴権者が夫だけに限られる等、嫡出否認に課せられた厳格な制約の中でも、夫、妻、子の三者間における合意の成立によって妻、子側の希望する解決に至ることがあり得ます。



   (妻を)寝取られしコキ 結果婚中懐772(の)

         
「このなし774
(言っ)

           
から
(のみ) 嫡出 否認 (の訴え)ができる也



 「嫡出 のウチの子「父誤(ちちご) 775、我なし774」、

     嫡出否認
は、そのか、親権持を、

                被告としてのみできる也。

                   親権を行う母がないときは、家裁が特
(別)(理人)選任す



嫡出否認の出訴期間
 民法777条は、
嫡出否認の訴えは、夫が子の出生を知った時から一年以内に提起しなければならない。」と定めます。夫からの嫡出否認をいつまでも可能とすることは、相手方となる母子の身分関係と生活を不安定ならしめ、家庭の破壊に繋がりかねませんから、出訴期間は短期間に限るとの趣旨からの「一年」間限定です。しかし、知らぬ間に経過と言うのは、夫に酷ですから、夫が「子の出生を知った時から」ということになります。また、その「知った」については、「自分の子ではないと知った」時と解すべし、との説もありますが、拡大解釈は制度の趣旨を覆しかねませんので、条文通りに厳格に解するほかないと思います。夫が被後見人であるときの出訴期間は、後見開始の審判の取消し後、子の出生を知ったときから一年となります(778条)事実状態の継続を尊重して権利関係を認める時効期間ではないので、時効の中断(民法147条)はあり得ませんが、中断事由に承認(民法147条3号)があるのと似て、「嫡出の承認」により嫡出否認権は失われます(民法776条)。法文には、「子の出生後において、その嫡出であることを承認したとき」とあるだけですので、具体的にどのような行為があれば、この「承認」になるのか、些か不明な点がありますが、明治時代の判例によれば、単に父親からの嫡出子出生の届出があったのみでは足りないとされ(但し、同届出により認知を認める判例もあることから、嫡出承認効も肯定できるとする説があります)、また、一般に、命名をしたり、子の養育に熱心に参加しただけでも足りないとされています。




  
  ナナな
777んと ! 吾子(あこ)筈ない子妻が産み

          
(知って)
一年 経てば否認さえ

                
許されぬ のか、
(身分関係)
安定のため。




        但し、
「筈ない子」夫が長期海外(出張)みな 777 がそう言う(出)産ならば、

              
(親子関係)不存在確認訴えできる也。


   

    婚中懐 (胎により)みにし776めるぞ

       
嫡出の承認すればその(嫡出否認の)権利失以後否認 不可

               
出生届愛育子の(嫡出)承認とはみなされぬ





 妻が婚姻中に懐胎した嫡出推定の及ぶ子について、その子の側から、嫡出否認の訴えの
出訴期間を徒過した後に、親子関係不存在確認の訴えをもって親子関係の存否を争うことは、DNA鑑定により子が夫の子でないことが科学的に明白であっても、できないとする判例があります。

夫と民法772条により嫡出の推定を受ける子との間に生物学上の父子関係が認められないことが科学的証拠により明らかであり,かつ,夫と妻が既に離婚して別居し,子が親権者である妻の下で監護されているという事情があっても,嫡出であることを否認するためには,夫からの嫡出否認の訴えによるべきであるから、子の立場から親子関係不存在確認の訴えをもって父子関係の存否を争うことはできない旨判示した判例(最判平26・7・17)

 この判決は、その理由として、「民法772条により嫡出の推定を受ける子につきその
嫡出であることを否認するためには,夫からの嫡出否認の訴えによるべきものとし,かつ,同訴えにつき1年の出訴期間を定めたことは,身分関係の法的安定を保持する上から合理性を有するものということができる最判昭55年3月27日最判平12年3月14日参照)。そして,夫と子との間に生物学上の父子関係が認められないことが科学的証拠により明らかであり,かつ,夫と妻が既に離婚して別居し,子が親権者である妻の下で監護 されているという事情があっても,子の身分関係の法的安定を保持する必要が当然 になくなるものではないから,上記の事情が存在するからといって,同条による嫡出の推定が及ばなくなるものとはいえず,親子関係不存在確認の訴えをもって当該 父子関係の存否を争うことはできないものと解するのが相当である。このように 解すると,法律上の父子関係が生物学上の父子関係と一致しない場合が生ずることになるが,同条及び774条から778条までの規定はこのような不一致が生ずることをも容認しているものと解される。 もっとも,民法772条2項所定の期間内に妻が出産した子について,妻がその子を懐胎すべき時期に,既に夫婦が事実上の離婚をして夫婦の実態が失われ,又は 遠隔地に居住して,夫婦間に性的関係を持つ機会がなかったことが明らかであるなどの事情が存在する場合には,上記子は実質的には同条の推定を受けない嫡出子に当たるということができるから,同法774条以下の規定にかかわらず,親子関係不存在確認の訴えをもって夫と上記子との間の父子関係の存否を争うことができると解するのが相当である最判昭44年5月29 日最判平10年8月31日,前掲最高裁 平成12年3月14日参照)。しかしながら,本件においては,甲 が被上告人を懐胎した時期に上記のような事情があったとは認められず,他に本件訴えの適法性を肯定すべき事情も認められない。」と判示しました。

母子からの親子関係否認
(私見)
 
この判例或いは学説によって、嫡出否認の訴えが父親にだけ許され、出訴期間も限られる理由として説かれているのは、「子の身分関係の法的安定性」がその最大のものです。しかし、嫡出推定は単に父性を推定するだけでなく、嫡性の推定をも伴うことを考えると、これは果たして文面通り受け取れるものか疑問が浮かびます。父性を否認するだけならそんなに厳格に拒絶せず、子のために真の親子関係を確定することの方が長い目で子の福祉に叶うことは明らかなように思います ( 児童の権利条約第7条には「児童は、出生の時から氏名を有する権利及び国籍を取得する権利を有するものとし、また、できる限りその父母を知りかつその父母によって養育される権利を有する。」とあります )。その他に、夫の名誉を尊重して、他から妻の姦通を指摘させない趣旨であるとも言われますが、そこにはやはり、旧来の嫡性を守りたい意識が垣間見え、戦前から社会の底流に牢固として流れる「家」とか「家柄」の意識と、これに基づく「家名を傷つけない」、或いは「跡継ぎを得たい」との、子の福祉とはかけ離れた意図が隠されているようにも思われます。772条から778条まで砦を築くように条文が並ぶ景観は、婚姻が嫡出推定と結びついて、父性を確実なものとすることが婚姻制度の根幹であるとは思うものの、嫡出の旗をはためかせ、頑なに嫡性を守っているようにも感じます。少子時代となって、児童の福祉が社会的にも第一義的な取組課題となっている現今、父親だけが婚子の父性を否認できるとする判例・学説は見直しが迫られていると思いますが、如何でしょうか。 ちなみに、上記昭和55年、平成12年の判例はいずれも夫が否認する手立ては嫡出否認の訴えがあるのみ、とするだけで、妻や子からの否認には触れていませんし、昭和44年、平成10年の判例も、嫡出推定を受けない子、或いは推定の及ばない子については父親側から親子関係不存在確認の訴えによることができる旨を説いているだけです。民法774条には、第七七二条の場合において、夫は、子が嫡出であることを否認することができる。」とだけあります。懐胎を伴わない父親は、子の父親が誰か、疑えばきりがないので、それを断ち切って「終生的貞操結合」の相方を信じるよう嫡出推定(§772)を与え、ただ、推定であるから、反証を挙げての否認(§774§775)を許すが、それも時的制限を置かないときりがないから一年間§777とする、というのが嫡出否認制度の趣旨であろうと思います。これは、夫が騒ぐことについて制約を課しただけの規定であって、それはそれで母子の安静な保育環境を確保する観点から不可欠なことだとは思いますが、妻や子自身がその身の立場から主張することについては、この条文は触れていないですし、上記条文の砦はすべて父親に対して構えられているのです。何故、772条の「推定」を覆す資格を、子や母には認めないのでしょうか。家族以外からの指摘ではなく、当事者自身からの求めであるのに、何故「否」なのでしょうか。民法774条に、この平成26年の判例が言うような、妻・子の人権をかけた主張を封じる効力を担わせることには無理があるのではないでしょうか。後記の「同氏協議に代わる母子氏」でも申しましたが、時代の進展と共に従来のバラダイムから離れ、子の福祉と母子中心の考え方に向かうことが求められているように思われます。



   嫡出否認 (の訴え)なるも

     子
実父子供本人
嫡出
(扱い)


              止
める ちなし774なし774




なお、例えば婚姻中ではあったが前記の「200日」に満たない出産で、嫡出の推定されない子のケース(最判昭41・2・15)であったり、夫が長期不在中の懐胎で嫡出推定の及ばない子のケース(最判平10・8・31)の場合、親子関係不存在確認が提起でき、これには出訴権者出訴期間
制限はありません。但し、次の判例があります。

戸籍上自己の嫡出子として記載されている者との間の実親子関係について不存在確認請求をすることが権利の濫用に当たらないとした原審の判断に違法があるとされた事例(最判平18・7・7)

 この判決のポイントは、次のとおりです。
一 実親子関係不存在確認訴訟は,実親子関係という基本的親族関係の存否について関係者間に紛争がある場合に対世的効力を有する判決をもって画一的確定を図り,これにより実親子関係を公証する戸籍の記載の正確性を確保する機能を有するものであるから,真実の実親子関係と戸籍の記載が異なる場合には,実親子関係が存在しないことの確認を求めることができるのが原則である。しかしながら,上記戸籍の記載の正確性の要請等が例外を認めないものではないことは,民法が一定の場合に戸籍の記載を真実の実親子関係と合致させることについて制限を設けていること(776条(嫡出の承認)、777条(嫡出否認の訴えの出訴期間)782条(成年の子の認知:要 承諾)783条(胎児又は死亡した子の認知:要 承諾),785条(認知の取消しの禁止)などから明らかである。

二 真実の親子関係と異なる出生の届出に基づき戸籍上甲の嫡出子として記載されている乙が,甲との間で長期間にわたり実の親子と同様に生活し,関係者もこれを前提として社会生活上の関係を形成してきた場合において,実親子関係が存在しないことを判決で確定するときは,乙に軽視し得ない精神的苦痛,経済的不利益を強いることになるばかりか,関係者間に形成された社会的秩序が一挙に破壊されることにもなりかねない。

三 また,虚偽の出生の届出がされることについて乙には何ら帰責事由がないのに対し,そのような届出を自ら行い,又はこれを容認した甲が,当該届出から極めて長期間が経過した後になり,戸籍の記載が真実と異なる旨主張することは,当事者間の公平に著しく反する行為といえる。

 そこで,甲がその戸籍上の子である乙との間の実親子関係の存在しないことの確認を求めている場合においては,
① 甲乙間に実の親子と同様の生活の実体があった期間の長さ,
② 判決をもって実親子関係の不存在を確定することにより乙及びその関係者の受ける 精神的苦痛, 経済的不利益
③ 甲が実親子関係の不存在確認請求をするに至った経緯及び請求をする動機,目的
④ 実親子関係が存在しないことが確定されないとした場合に甲以外に著しい不利益を受ける者の有無

等の諸般の事情を考慮し,実親子関係の不存在を確定することが著しく不当な結果をもたらすものといえるときには,当該確認請求は
権利の乱用 (民法§1Ⅲ憲法12条後段)に当たり許されないものというべきである。上記の事情を十分検討することなく,甲が乙との間の上記実親子関係不存在確認請求をすることが権利の濫用に当たらないとした原審の判断には,違法がある。




 親子関係が生じると監護教育(民法820条)居所指定(821条)懲戒(822条)(業の)許可(823条)財産管理・法律行為代理(824条)等を巡って親権(818条)の権利義務関係が生じます。これは、親子間で相互に生じる扶養や相続の権利義務に比べより原初的・根源的な権利義務であり、子は産まれ落ちるやこれらの広範な内容を有する親権に服することになります。私流に申しますと、子は、夫婦の終生的貞操結合によって融合創一の意志の下に生まれ、それ故に、夫婦と子の三者の間は、「融合装一」の嫡出推定(民法772条)が働く強い絆で結ばれます。その絆を絆たらしめる機能を担うのが親権だと言えます。
 
親権の行使に当たっては、融合創一によって、子に対し、夫婦互いの間と同様、無償の愛をもって臨むことになりますが、そもそも融合創一は、子に関わる「創」でしたから、実際上子に対しては、全く見返りを求めない、真の意味の「無償の愛」である筈です。身を犠牲にしてでも子を愛すというあり様は、昔の言葉「愛は惜しみなく奪う」で表されています。「しみじみとかわいい」を古語では「かなし」と言うそうですが、子への愛は、親の我(が)を超えた(我欲を満たしたいだけの感情や衝動とは無縁の)ところの、悲しくなる程にいとおしい思いであろうと思います。不幸にして婚姻によらずに出生した子であっても、母のこのような親権の下で母子の絆が保たれます(このことを直接に定める規定はありません。母の氏を称するという「氏」規定790条2項はありますが、親権規定としては、819条4項がこの点を前提とした、協議で父を親権者としたときに限り父が親権を行うとの規定から、出生以来母の親権下にあることが解釈できます)。この母子の絆こそが全ての出発点であることは、同氏協議に代わる母子氏の項で述べましたので、ご覧下さい。(なお、親権行使にあたっての悩み事の相談については、こちらも参考にして下さい。)
 昔、大家族制の下では、絶対的な家父長の権利義務である戸主権が子に及んで、親権の影は薄く、又、その中にあっても母親のそれは、さらに薄くて、父親に次ぐ二次的なものとされ、その上親族会の監督下にあるというような、何重もの差別がありました。子も強大な家父長権の下、年齢に関わりなく独立の生計を立てるまで家父長権
( この場合、「家」を同じくする親の親権 ) に服し、結婚するにも例えば男は30歳、女は25歳まで家父長 ( この場合、「家」にある父母 及び戸主) の同意を要するという具合でした。戦後の改革により「家」制度が廃止されると共に、男女の平等が実現されて、今日の父母共同親権(民法818条3項)が行われることとなった訳です。
 親権の上記各条文の中でも
監護・教育820条財産管理・法律行為の代理824条は、親権の中身の二本柱となります。前者はいわゆる身上監護の関係で、続く821条から823条が、居所・懲戒・職の許可というその具体的内容を定めています。したがって、親権は大きく「監護権」と「(理)権・代(理)」とから成ると言えます。管理・代理の関係では、代理について「代表」という文言になっていますが、これは、赤の他人が本人を代理するのではない、身上監護や財産管理も含めた包括的な親権を有する親が代理するのである、という意味を込めた文言であろうと思います。身上監護の関係では、民法820条が、それまで、とかく親の支配を許容する定めのように誤解されていた点を改めるべく、平成23年に「子の利益のために」という文言が加えられたことに特に留意されなければなりません。
 
ところで、この監護権ですが、上述のように民法820条は、親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。」として、「監護」と「教育」とを分けて掲げています。監護は、監督と保護であり、教育は教え育成することであると言われますが、子を護り、その身の回りの世話をするには、必ずそれに伴い必要な教えや諭しが伴いますから、実際の子育ての場面では監護と教育は切り離せません。また、監護「権」といっても、上記条文にあるとおり、親権におけるそれは当然の如く義務を伴うものです。ですので、「監護権」というときは、監護・教育に関する権利・義務であると考えるべきことになります。子を伴う離婚や子の認知の場面では、上記の親権が原則通りには共同行使818Ⅲ)できないため、父母の内一人を親権者とする訳ですが、その者が必ずしも監護者として相応しいか、というところから、他方を監護権者とし、その者が監護・教育に携わるという監護権の分属が起こり得ます。また、この監護権と対置する、他方の財産管理と法律行為の代理824)も、これらは身分行為を含まない財産行為に関する管理・代理なので、これを単に「財産管理」とし、上記親権の二本柱を、「財産管理と身上監護」と言うこともあります。 因みに、子の身分行為については、例えば、未成年子が子を儲けた場合は民法780条があるので、子自身で認知ができ、また、未成年者の婚姻については親の同意に関する規定(民法737条)があり、養氏縁組には15歳以上であれば子自身で、15歳未満の場合は法定代理人の代諾で縁組ができるとする規定(民法797条)があるように、それぞれ個別に保護規定等があって、これらについては個別に必要な同意権や代理権が用意されています。
 離婚に当たっては、夫婦のいずれが離婚後の親権を持つかを決めねばならず、協議離婚では夫婦の合意で、裁判離婚では裁判所が、離婚後の親権者を指定します
(民法819条)。民法には、協議離婚届けはこの親権者の指定がないと受理されない旨の規定が置かれています(民法765条)。離婚の際は、同時に離婚後の監護についても、監護者と監護費用、その他必要な監護事項を、面会交流の約束と共に、子の利益最優先で定めるべきとの規定(民766条)がこれに続きます。親権者の指定について、こちらもご覧下さい。



      (いやしく)親権者なら(利益)

        監護教育
やつれ820てもする義務がある権利ある



        

      親権者820かかない人間てと、

         監護教育
をする義務がある権利ある




  
   バイトや818、独立すると意気込むも、判断力らぬから

        未成年者父母(ちちはは)親権(に)せば破綻818

   バイトや
818、独立するというけれどその判断は818父母の親権服せば破綻は818ない。



親権者の居所指定権
 親権に基づく子に対する監護教育(民法820条)は、それに相応しい場においてなされるべきですから、親権者は、子に対してその場を提供し、指定することになります(民法821条)。監護は、しかし、特別な施設等を想定している訳ではなく、通常の親子の生活における子の養育監護ですから、通常は、普段の家族生活の場である住居が指定されることになります。教育については、学齢前においては、通常、家庭教育が基本ですから、その場としてはやはり住居ですが、学齢前から幼稚園教育等の教育課程も徐々に始まるでしょうし、学齢後は、家庭と学校でそれぞれの教育が行われて、親権者は、それぞれ相応しい場を指定して教育に努めることになります。子は、親権者による場の指定に従うべきですが、子がこれに従わないときは、子の利益のため、社会的に妥当な範囲内で次条の懲戒権を行使する(体罰を加えることは許されませんが、ある程度の有形力行使は、妥当性の範囲内において許されます)ことにより、強制することができます。子が、その意思に反して第三者に拘束されている場合は、親権者からその引渡しを請求できることは当然で、そのときは、子の身体に対する直接強制は許されませんが、阻止する相手に対しては、法的手段を踏んだ上での妨害排除と制圧は、法的正義の実現のための強制力としてやむを得ないと考えます。子の引渡請求については、こちらをご覧ください。



    監護教育万事 821場所()るからに

       子
親権行めたる

             
821るべきの義務がある



親権者の懲戒権
 
民法822条は、「親権を行う者は、第八百二十条の規定による監護及び教育に必要な範囲内でその子を懲戒することができる。」とし、その820条は、「親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。」と定めます。ですから、親権者が我が子を懲戒できるのは、「子の利益のため、監護・教育に必要な範囲内で」という限定付きであるということになります。この限定は、平成23年の改正により、それまで単に「必要な範囲内で」とあったのを改めたものでした。懲戒権が、我が子を虐待する親の口実とされる事例が目立ったため、懲戒権の乱用に歯止めをかけるべくなされた法改正でした。これより前、平成12年に成立した児童虐待防止法は、保護者による児童(18歳に満たない者)に対する、外傷を与えるような暴行やわいせつな行為、或いは、心身の正常な発達を妨げるような減食や長期間の放置等はもちろん、著しい暴言又は著しく拒絶的な対応等、児童に著しい心理的外傷を与える言動も、「虐待」として禁止し、虐待を発見したときには一般人にも通告義務を課す規定をも設けましたが、児童虐待の悲劇が一向に後を絶たないため、23年の民法改正にまで至ったものでした。しかし、その後も虐待事件は後を絶たず、「しつけ」と称して行われることが目立ったため、平成28年には、児童虐待防止法を改正し、それまで「児童の親権を行う者は、児童のしつけに際して、その親権の適切な行使に配慮しなければならない」とだけあった同法14条1項を、「・・児童のしつけに際して、民法第八百二十条の規定による監護及び教育に必要な範囲を超えて当該児童を懲戒してはならず、当該児童の親権の適切な行使に配慮しなければならない。」と上記の民法改正を受けた形で改正し、「しつけ」の限界を明記しましたが、同条2項では「児童の親権を行う者は、児童虐待に係る暴行罪、傷害罪その他の犯罪について、当該児童の親権を行う者であることを理由として、その責めを免れることはない。」と刑事犯罪にあたり得ることを警告もしているところです。しかしながら、児童虐待は一向に減少を見ることなく、惨酷極まる目黒区の結愛(ゆあ)ちゃん事件、それに続く野田市の心愛(みあ)ちゃんが大きく報じられて世を戦慄せしめたにも拘わらず、その後も連日のように「しつけ」に藉口した児童虐待の報に接するに及んでは、この懲戒権規定に体罰禁止規定を加えるべきとの声や、或いは、懲戒権規定そのものを削除すべし、との声も起こりつつあるのも、むべなるかなと思ってしまいます。懲戒権の見直しに関するパブリックコメントをご覧下さい。なお、親権喪失児童虐待の項もご参照下さい。
 懲戒権を述べるについては、やはり、前提となる児童の権利について見ておかなければならないと思います。児童福祉法の冒頭に「総則」として、児童福祉の理念が掲げられていますので、こちらをご覧下さい。



    親権者しつけとばかり

     度えて
822822

   懲戒
虐待
傷害(等)

          罪着、 刑事、判事
822うべし





財産管理・代理行為
 
未成年者は、自ら単独で法律行為をすることはできず、利益を得るだけの行為や義務を免れるための行為は除いて、その他は、必ず親の親権者法定代理権(民法824条)に基づく同意を得て行為しなければなりません(民法5条1項)(同意権)。そして、未成年者が親権者の同意を得ずにした行為は、親権者がこれを取り消すことができます(同条2項120条1項)(取消権)。  行為能力が制限される人による行為の取消しをめぐる取消権や追認権、行為の相手方からする催告、取消しの効果、さらには、法定追認、取消権の消滅時効等については、こちらをご覧下さい。
 親権者が子の財産管理をする上での注意義務としては、いわゆる専門家としての注意(
善良なる管理者の注意(善管注意義務と言います。))までは求められませんが、自己の財産を管理するに当たって払う程度の注意、自己のためにするのと同一の注意(§827)(民法918条1項にある「固有財産におけるのと同一の注意」と同じことから 、固財注意義務と言います) は払わなければなりません (民法827条)。(しかし、後見には善管注意が求められます。) 両注意義務の違いについては、こちらをご覧下さい。管理計算の関係でこちらもご覧下さい。

 親権者は、子の財産管理と子のための代理行為をしますが、但し、子の行為を目的とする債務を負うについては、子の同意を得なければなりません
(民法824条)
                                  



 親権者
ならば義務として、子の財産の管理をし、

   法律行為の代理をも、万事し
824

    
何か本人にハツシ824とさせる契約(の代理)

    幼護構
(造語)859あり、本人の同意を得るの要あるよ824


   
§859は後見人の管理と代理に関する規定   「ある」は中国語の2から



   未成年、法定代理(人)同意がなくば、法律行為も 5してはいけぬ、

    法
(定)(理人)の同意がなくば、取り消され得る

   法代が目的定めて処分可と許した財産、

    目的の範囲内なら処分でき、目的定めず処分をば

            許したときも同様とする。



   親権善管注意無用644

   むごく
659はあらぬ

     自己
ため すると同一注意 をば

      
って
(財産) 管理 やつせ827



§644は受任者の注意義務に、§659は無償受寄者の注意義務に関する規定、後見人の注意義務条句は
こちら


成年到達時の管理計算義務
 民法828条は「子が成年に達したときは、親権を行った者は、遅滞なくその管理の計算をしなければならない。ただし、その子の養育及び財産の管理の費用は、その子の財産の収益と相殺したものとみなす。」と定めています。親は、子の財産を管理する権利義務(§824)があり、管理する以上その対象たる子の財産を、自己固有の財産と混同することなく、区別して保管・保存しなければなりません。しかし、親子という濃密な血縁関係上、その管理における注意義務は自己のためにするのと同一の注意(民法918条1項にある「その固有財産におけるのと同一の注意」と同じことから 、固財注意義務と言います)で足りるとされています(§827)。これは、つまり、子の財産を、親の財産とは区別して管理すべきだが、管理のための注意の程度は自己固有の財産と同じで良く、その親なりの注意を払えば良いということです。通常その職や社会的地位にある者であれば払うであろう客観的に求められる、相当な程度の注意である「善良な管理者の注意」である必要はありません。ですから、通常であれば、他人の財産を管理する場合、その管理の期間を通じて、会計帳簿を備え、収入・支出を明らかにして、定期にその収支と残高の一致することを確保してこそ管理と言える訳ですが、親権者の財産管理については、子の成人に当たって遅滞なく最終の管理計算をすれば良いということになります。しかも、子の財産による収益がある場合、通常の管理であれば、これと期間中の費用との差額を返還すべきところを、成人するまでの養育費と管理費用とによって相殺されたものとみなされます。管理責任の重畳的軽減ですが、親子は無償の愛による関係ですから、利害の計算の外であるという観念が根底にあるからではないでしょうか。



 親権者
成人した親権離れ870るときは

    遅滞なく
管理計算すべき子供収益

    したる養育管理費用相殺みなさる



  成人
し、矢庭
828計算迫られてバツ828いが

             
収益てた費用チャラ」。


                民法870条は、後見終了時の同様な「後見計算」の規定。



親権債権の消滅時効

 親子間で、財産管理を巡り生じた債権には、五年の消滅時効があります(民法832条)。親の財産管理上の過失から子に損害を与えた場合等の親側の債務、或いは、親が子に代わり立替えて支払った金員の子側の返還債務等が考えられます。ここで親権者の財産管理と子の養育のための費用は、民法828条により親権終了時に子の財産からの収益と相殺されるので、除外されます。時効の起算点は、通常、子が成年に達したときですが、成年到達前に親権が親の死亡等により終了したときは、その後新たな親権者或いは管理権者が就任した時或いは子が成年に達した時からの起算となります。

 
 

     管理終
わって
五年てば

   
 親権(に関して親子間に生じた) 債権 832時効完成 消滅


 成人
親権 了後五年親子の間に(債権巡り) バトルある832?、

  それとも五年
(経過)(時効完成)832



  成人をせぬうち管理()消滅法定代理 ()不在なら (子が)

    成人
或は後任法代 就任その起算をしての五年也



第三者の無償供与財産
 第三者が、子に財産を与え、合わせて、その財産につき子の親の管理を拒むときは、別の管理を用意しなければなりません(民法830条)。子がこのような財産を供与された場合、それが単に利益を得るだけの行為であれば、親権者の同意は不要です(民法5条但書)から、子に意思能力さえあれば、子の単独判断で供与を受けることは可能です。その上で、供与者が親権者の管理を拒めば、親権者を排した別管理が必要となります。その供与者が管理人を指定したときは、その者が管理を担い、指定しなかったとき、或いは、指定はあったものの指定後にその管理権限が消滅したり、改任の必要が生じたりした場合は、求めによって家裁が管理人を選任します。この管理については、民法27条から29条不在者財産管理人規定が準用されますしたがって、財産目録を調整して、家裁の命じる必要処分に従い27)、また命じられれば管理や返還のための担保を提供しなければなりませんが、報酬も家裁の判断によって支給され得る(§29ことになっています。その管理の権限は、民法103条に定められた保存、改良、利用の範囲に限られ、これを超える行為は家裁の許可を得ねばなりません28)そして、管理人の管理事務の遂行には、財産管理の委任を受けた受任者として、民法644条善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務 (善管注意義務) を負い、それと共に、報告義務 (645条)・受取物の引渡義務 (646条)・金銭消費に対する利付き償還・損害賠償義務 (647条 ) も負いますが、費用の前払請求 (649条) 、支出した必要事務費の償還請求・必要債務の弁済請求・無過失で損害を被ったときの賠償請求 (650条) も可能です 。なお、親権者による財産管理との違いをこちらでご覧ください。


 「幼無垢869春来 869無償(財産)供与者親権

       闇
830えばその手離 管理


   供与者指定がないため 裁選管理人なら、

     その管理、不在者
28管理定めに従う。


  §28は、管理人の権限に関する規定  §869は、第三者が財を与えて後見人に管理させない場合の規定。不在者の財産の管理については、こちらもご覧下さい。



     子無償財産供与第三者親権829(のを) がれば

                    
その財産収益
費用相殺できぬ





親権者の職業許可権

 民法823条は「子は、親権を行う者の許可を得なければ、職業を営むことができない。」と定め、また、同条2項は「親権を行う者は、第六条第二項の場合には、前項の許可を取り消し、又はこれを制限することができる。」とし、その6条は、5条に「未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。」とあるのを受けて、「一種又は数種の営業を許された未成年者は、その営業に関しては、成年者と同一の行為能力を有する。2 前項の場合において、未成年者がその営業に堪えることができない事由があるときは、その法定代理人は、第四編(親族)の規定に従い、その許可を取り消し、又はこれを制限することができる。」と定めます。つまり、親権者は、未成年者が職に就くこと、或いは自営業を営むことについては、それに同意するか否か、或いは、許可するか否か、によりチェックすることで未成年者の保護に当たりますが、それは、営利を目的とする営業の場合、或いは、それが数種類の営業にまたがる場合も同様です。しかし、就職にしても、自営業にしても、本人がその業に堪えない事由があるときは、その許可を取り消したり、制限したりすることができます。そして自営でなく、他に雇われて就労する場合、その雇用主との間で労働契約を結ばなければなりませんが、雇用主には、十五歳に達した後 最初の3月31日が終了するまでの児童を使用してはならない定め(労基法56条1項)がありますから、この年齢制限をクリアして初めて就職可能となり、この最低年齢以降の労働契約締結に親権者が同意・不同意のチェックを行うことになります(但し、一定の職業については、十三歳以上の児童は、行政官庁の許可を得て、修学時間外に、又、映画・演劇関係については、十三歳未満の児童も、同様にして、使用することが出来る、とされています。深夜労働については、更に、時間を限る規制があります(労基法§56§59§61))。また、子に不利な契約は、親権者が解除することが出来ます(労基法58条2項)。なお、親権者は子に代わって労働契約を締結することを禁じられています(労基法58条1項)し、子の賃金を代わって受け取ることもできません(労基法59条)。これに違反した場合、いずれも30万円以下の罰金刑に処せられます(労基法120条)。また、上記最低年齢に違反した雇用主は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金刑に処せられます(労基法118条)

 

   職業ハヅミ823でできぬ親権許可


   親権者
はどう
823ても職業えぬたら

             その許可取消制限できる也。



未成年、見込んだからには親
(法代)
として、営業許可し、成人に劣らぬ働き見たいもの、

        碌
6でないなら(許可)取消すか、制限をして、沙汰止みよ。


         法代=法定代理人、§民法Ⅱは未成年者の営業の許可に関する規定






  
親権者何か(本人に)ハツシ824とさせる(契約の代理)には、

          
本人の同意を得るの要あるよ824

    但し、本人の労働契約、本人の同意あるとも、親権者

        代理で契約
(賃金受領も)(しては)ならぬ也




親権者による身分行為の代理
 と 未成年者による訴訟行為

 親権者は、子の福祉のため子の監護・教育(民法820条)、財産管理(民法824条)の任務を担いますが、子の結婚や養子縁組等の身分行為は、本来、本人の意思により本人自身で行為されるべき一身専属性のものですから、原則として他人が代わってできるものではなく、代理は馴染まないとされています。ですから、前記民法824条では、子に代わる代理権を「財産に関する法律行為について」与える旨を定めています。しかし、民法は、子の福祉のための必要から、子の身分行為に関しても、例外的に身分や監護関係の代理を認める規定を置いていますので、それらをまとめておきたいと思います。こちらをご覧下さい。。


婚姻年齢・成年擬制 民法は、成人年齢を二十歳と定めています(民法4条)が、男女の婚姻年齢は、男性18歳、女性16歳(男女間の肉体的成熟度の差異によるとされていました)と、未成年婚が可能な制度としていますので、未成年婚には父母の同意を要する(民法737条)とした上結婚することにより成年者とみなす成年擬制の規定(民法753条)が置かれています。それで、未成年夫婦であっても、子を儲けて親として親権を行使することができる訳です。この婚姻制度は、上記の点で男女の平等と婚姻の自由にやや疑問が投げかけられていましたが、この疑問に応える平成30年の民法改正により大きく変わることになります。こちらをご覧下さい。現行制度下の未成年者の婚姻について詳しくは、こちらをご覧下さい。


十八(とはち)で、女は十六(とろく)、それより()さい731子供婚、

〔届出しても受理されず、届できても取り消され、〕婚姻することできぬ也。




   (わらわ)成長して七五三753あれば

        未成年
()婚姻して 成人擬()あり




  
未成(年者婚姻成人擬 親権脱(未成年者)後見終わる

     
れて独立しくこうぞ
753

   
後見人
847遺言証人974同執行者1009資格753欠格解除



親権代行(親権に復する子が子を儲けた場合)
 民法833条は、「
親権を行う者は、その親権に服する子に代わって親権を行う。」と定めます。未成年で、未婚の子が、子を儲けた場合、その未成年親は、(単独では財産的)法律行為をすることができません(民法5条)から、当然親権を行使することができません。したがって、その未成年親の親が、つまり、生まれた子の祖父母が、孫に対して、未成年親の親権を代行することになります。その未成年親が、婚姻をすれば、民法753条未成年者が婚姻をしたときは、これによって成年に達したものとみなす。の成年擬制により、親権を自ら行使することができることとなります。この場合、未成年親は、直接には、分娩により母子関係が生じる母親が想定されています。婚姻外で父親となった男親は、そのままでは法的な親子関係はありませんから、その後、認知をし、そのときに成人していれば、民法819条4項父が認知した子に対する親権は、父母の協議で父を親権者と定めたときに限り、父が行う。との定めにより、協議の上で男親が親権者となることができます。この二人が婚姻すれば、民法789条1項父が認知した子は、その父母の婚姻によって嫡出子の身分を取得する。により、子は婚姻時から嫡出子となります(婚姻準正)。因みに、上記男性親が未成年の場合でも、意思能力があれば、認知能力に問題ありませんから、その子を認知することができます。しかし、認知して父親であることが確定しても、成人しなければ親権はありませんから、ここでも、その男性親の父母による親権代行が起こることになります。また、上記婚姻をしたくとも、父母が婚姻年齢に達していなければ婚姻できませんから、女性の婚姻年齢が16歳から18歳に改まる(婚姻年齢に関する)改正法の施行日2022年4月1日以後、女性親が18歳未満であるため、婚姻できないケースの問題が生じ得ることになります。また、この親権代行については、未成年だからと言って、親権全てを行使できないとすることには問題があるとの指摘があります。親権の内、(理)・代(理)の代行は当然としても、監護権は認めて良いのではないでしょうか。  


 未成
(年、未婚) 子が宿るとさ833

   親権
する子供親権

       
やむな867爺婆(が)代行


  未成
(年)の我が子が婚姻し、成人みなされ 親権、
 
   儲けた子供に自らが親権行使す、嬉しく泣こう
753ぞ。


 §867は、未成年被後見人に代わる親権の行使に関する規定。「どるとさ」は、33を「三十三」としての読み。


利益相反
 
子は、親権者がその代理人となって(或いは、親権者の同意を得て自ら)、第三者と契約等を交わすこととなります(民法824条5条)が、時には親権者自身と契約する等、親権者と利害が対立することもあり得ます。利益相反と言いますが、そのような場合には、子のために特別代理人を置くべしとする規定が、民法826条です。
 そして、親と子ではなく、財産的法律行為についての行為能力を常に欠如している人を保護する制度である
後見においても、後見人・被後見人の間で利益相反が生じ得ることから、そのような関係があれば特別代理人が選任されることとなります(§860)。但し、後見監督人が置かれている場合は、監督人が代理しますので、特別代理人の選任は不要です(§851)
 同様に、行為能力の程度が著しく不足している故に、自身で重要な法律行為をするには保護する人の同意を得なければならないとされる人に関する
保佐や、同じく行為能力が不足しているが著しくはないので重要な法律行為の一部については要同意である人に関する補助においても、(保護者の同意を得て本人自らが行為する場合と、本人からの請求か、本人の同意によって、裁判所から代理権を付与された保佐人、補助人によって行為される場合に)保佐人、補助人と本人との間で利益相反が起こり得る訳ですが、前者については臨時保佐人(§876の2)、後者については臨時補助人(§876の7)という名称で別の代理人が置かれることとなり、これらも、監督人がついているときには、監督人が代理するので臨時保佐人、臨時補助人は不要(§876の3§876の8による§851の準用)となります。後見・保佐・補助についてはこちらをご覧下さい。
債務保証・担保提供における利益相反
 
親権者と子の間の利益相反に関する事例判例として、子の所有する不動産に親権者が第三者の債務を担保するため根抵当権を設定した事案について、利益相反に当たらないとした判例①(最判平4・12・10)と、同じく第三者の債務のため、親権者自らも子と共にその債務の連帯保証人になり、子との共有にかかる不動産に抵当権を設定した場合は、利益相反にあたるとした判例②(最判昭43・10・8)があります。

判例 親権者が子を代理してその所有する不動産を第三者の債務の担保に供する行為は、親権者に子を代理する権限を授与した法の趣旨に著しく反すると認められる特段の事情が存しない限り、代理権の濫用には当たらない旨を判示した判例(最判平4・12・10)
 
この判決は、その理由を、「親権者は、原則として、子の財産上の地位に変動を及ぼす一切の法律行為につき子を代理する権限を有する(民法八二四条)ところ、親権者が右権限を濫用して法律行為をした場合において、その行為の相手方が右濫用の事実を知り又は知り得べかりしときは、民法九三条ただし書の規定を類推適用して、その行為の効果は 子には及ばないと解するのが相当である(最高裁昭和三九年(オ)第一〇二五号同 四二年四月二〇日第一小法廷判決・民集二一巻三号六九七頁参照)。  しかし、親権者が子を代理してする法律行為は、親権者と子との利益相反行為に当たらない限り、それをするか否かは子のために親権を行使する親権者が子を めぐる諸般の事情を考慮してする広範な裁量にゆだねられているものとみるべきで ある。そして、親権者が子を代理して子の所有する不動産を第三者の債務の担保に供する行為は、利益相反行為に当たらないものであるから、それが子の利益を無視 して自己又は第三者の利益を図ることのみを目的としてされるなど、親権者に子を代理する権限を授与した法の趣旨に著しく反すると認められる特段の事情が存しない限り、親権者による代理権の濫用に当たると解することはできないものというべ きである。したがって、親権者が子を代理して子の所有する不動産を第三者の債務の担保に供する行為について、それが子自身に経済的利益をもたらすものでないことから直ちに第三者の利益のみを図るものとして親権者による代理権の濫用に当たると解するのは相当でない。」と述べています。

判例 第三者の金銭債務について、親権者がみずから連帯保証をするとともに、子の代理人として、同一債務について連帯保証をし、かつ、親権者と子が共有する不動産について抵当権を設定するなどの判示事実関係のもとでは、子のためにされた連帯保証債務負担行為および抵当権設定行為は、民法第八二六条にいう利益相反行為にあたると判示した判例(最判昭43・10・8)
 この判決は、その理由について、「原判決がその挙示の証拠のもとにおいて確定した事実、とくに昭和三五年三月一〇日DからEに対する金三五万円の貸付について同人の懇望により、被上告人B5 が、みずからは共有者の一員として、また、未成年者であつた被上告人B2、同B3、同B4の親権者としてこれらを代理し、さらに、長男被上告人B1の代理人名義をかねて、右債務について各連帯保証契約を締結するとともに、同一債務を担保するため、いわゆる物上保証として本件不動産全部について抵当権を設定する旨を約しその旨の設定登記を経た等の具体的事実関係のもとにおいては、債権者が抵当権の実行を選択するときは、本件不動産における子らの持分の競売代金が弁済に充当される限度において親権者の責任が軽減され、その意味で親権者が子らの不利益において利益を受け、また、債権者が親権者に対する保証責任の追究を選択して、親権者から弁済を受けるときは、親権者と子らとの間の求償関係および子の持分の上の抵当権について親権者による代位の問題が生ずる等のことが、前記連帯保証ならびに抵当権設定行為自体の外形からも当然予想されるとして、被上告人B2・同B3・同B4の関係においてされた本件連帯保証債務負担行為および抵当権設定行為が、民法八二六条にいう利益相反行為に該当すると解した原判決の判断は、当審も正当として、これを是認することができる。」と述べています。

遺産分割協議における利益相反
 相続人ではない親権者が、
(共同親権者たる配偶者の親が亡くなって、配偶者も既に亡いため、配偶者を代襲した)相続人である数人の子に代わって遺産分割協議に臨む際は、内一人の子については代理人になり得ても、他の子らについては各別に特別代理人を選任しなければならないとする判例(最判昭49・7・22)があります。この判例は、利益相反について、個別に利害の対立結果があるか否かを見るのではなく、客観的に対立の恐れがあるか否かで、相反の有無を判断すべきことも説いています。また、自らも相続人である親権者が、子を代理して遺産分割協議をした事例についての判例(最判昭48・4・24)もあります。この判例は、「親権者が共同相続人である数人の子を代理して遺産分割の協議をすることは、かりに親権者において数人の子のいずれに対しても衡平を欠く意図がなく、親権者の代理行為の結果数人の子の間に利害の対立が現実化されていなかつたとしても、八二六条二項所定の利益相反する行為にあたるから、親権者が共同相続人である数人の子を代理してした遺産分割の協議は、追認のないかぎり無効であると解すべきである。」と述べています。


財を親が買ったり貰ったり借金子が保証 或は 子供相続を子を代理して放棄する 等々形はともかくも

 ようあるロー
826親子 () 利害が相反すそんな事柄(につき)

    親は子
代理人にはなれぬ也。家裁に求めため特別代理
() 選任要す。



  親権者
子供にとって
双方がウンウ

      
 親心発露
826やろ-!860傍目(はため)なら

       
利益相反
() (理人) 要す家裁に選任求むべし。



   親
膝下数人
一人と他子が(互いに利益) 相反ならば(その)

       
一方ため ()() の選任 請求せねばない。二人をば「そやつも826代理」はできぬ也




  
後見人被後者 にとって双方インウイン

     使命感
発露 826の「ヤロー860傍目(はため)なら

     利益相反(別) (理人)要す家裁に選任求むべし。

  


 保佐
()被保佐()「双方がウインウイン」と使命感 発露826の「やろう860傍目(はため)なら〕

   
利益相反 (代理人役として)せるのに876の2Ⅲ (監督人あるとき除き、後見のときの)

            特
()(理人)臨時保佐人(選任せねば)



   補助()被補助()利害互いにしても、のち8767Ⅲいをさぬよう

            
(監督人あるとき除き) 臨時補助人(選任)要す也


  

  後見監督(ばん)(する)(こう)(見人を)(びと)851擁護 851その職務

   ①
にある(後見事務)監督 (利益)相反()代理 (特別代理人の選任は不要)

      
(後見)けたときには遅滞なく後任(選任)請求急場(必要)処分



    後見人、被後者(利害)相反するときは、特()() 選任あるべきも

    
(後見)監督人があるときは擁護   851④、監督 被後者代理、特代はなし




   特()(理人)が付いて(利益)相反() 恥じる826なし。  

      
§860は、後見人の利益相反に関する規定



() () (じる)しくりぬワンサ13行為一々11保佐人の)同意

          反
すれば取消120ありとわれたらやせる876いの保佐開始


  やせる
876いというけれど、

   
() () (じる)しくりぬワンサ13行為一々11保佐人()同意チェックをし、

      
特定一部行為では
(本人の求め、或いは同意で)保佐人()代理(権付与)クリアする

                              そしてエイドしてるのよ
876の4




 十五()
15 (弁能) 非満(肥満?) 一難17 やせる876の6をば補助(開始) として、

   ワンサ
13(行為)特定一部について以後15 (補助人)同意

  加
うるに、本人望むか同意があれば

   特定行為
補助人、代理権付与、必ずややせる
876の9奏すべし


親権の共同行使
 民法818条3項は、「親権は、父母の婚姻中は、父母が共同して行う。ただし、父母の一方が親権を行うことができないときは、他の一方が行う。」と定めます。ですから、親権は、父母の片方が行使できない場合を除き、共同行使されなければなりません。そして、民法825条は、この共同行使されるべき場合に、「父母の一方が、共同の名義で、子に代わって法律行為をし又は子がこれをすることに同意したときは、その行為は、他の一方の意思に反したときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方が悪意であったときは、この限りでない。」としています。この定めは、実際には父母の片方が関与しないまま(或いは、さらに、その意に反しているときであっても)、他方が父母共同の名義でした法律行為は、(行為の相手方が、その事情を知っているときは別として)有効であるとするものですので、親権者である父又は母が、親権の共同行使の定めに違反して、単独で親権を行使した場合は、無効となることに注意しなければなりません。このような単独行使による未成年の子の財産の処分行為(子所有の株券に質権を設定する行為)を無効であるとした判例(最判昭42・9・29)があります。



 
バイトや
818、独立すると意気込むも、判断力らぬから

  未成年者
父母(ちちはは)親権()せば破綻
818ない




 
ため親権 (真剣) 行使父母 二刀()

  
父母親権
(真剣)やっと 818

 〔
(は-)
818共同行使破綻818ない




 
父母(ちちはは)一方行使

後見開始親権喪失等法律上(或いは) 行方不明心身障害等事実上(の事由で)

 
できぬとき他方ハイパー818くなる単独行使破綻818ない



     婚中親権父母共同行使

     一方
(が行使) 不可なら単独行使



 なお、父母の一方によって、共同名義で、子に代わり(或いは、子が自ら行為することに同意して)、なされた法律行為は、他方の意に反しても効力を妨げられることがありません(民法825条)。又、未成年者の婚姻には父母の同意を要しますが、父母の一方が同意しないときは、他の一方の同意で足ります(民法737条)。



「共同」名義単独「破二」、(単独代理、又は、本人の行為に単独同意)

   は
破二護
825めで()られる

   
但し相手方悪意
(「破二」であることを承知)であれば無効也

   親権者
単独名義単独破二無権代理はなし



 「破二」は、親権共同行使則破りの単独行為
「破二護」は、「破二」行為の効力を護ること造語




 未成年737 婚姻 むなら両親同意するが

  片親
同意あるなら
()意固地不同意なさんな737

    
片親同意りる也。一方行方れぬ

        亡
くなった
(意思)表示ができぬきも同様



親権者を定める

 親権の共同行使を行うことができない事態となった場合には、親権の帰趨は如何か、父母のどちらを親権者とするか等についても、民法は定めを置いています
(民法819条)。同条で父母の協議で定めるとされている、その協議が調わないときは、裁判所が代わりに審判で定めることができます(同条5項)し、又、同条によって一旦定まった親権者について、子の利益のため必要があるときは、子の親族の請求で、家裁が親権者を他の一方に変更することができます(同条6項)。親権者の変更は家裁の手続きによってしかできないことで、当事者の合意による変更はできません。
1 父母が協議離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と定めなければなりません
(819条1項)
2 裁判離婚の場合家裁が父母の一方を親権者と定めます
(819条2項)その際は当事者の陳述を聴くほか、子(15歳以上の者に限る)の陳述も聴かなければなりません(家事事件手続法169条2項)
3 子の出生前に父母が離婚した場合には、親権は、母が行います(819条3項)。但し、子の出生後に、父母の協議で、父を親権者と定めることができます
(同条3項但書)
4 父が認知した子に対する親権は、父母の協議で父を親権者と定めたときに限り、父が行います
(819条4項)
 なお、母子関係については、判例
 (最判昭37・4・27)によって、「母とその非嫡出子との間の親子関係は、原則として、母の認知を俟たず、分娩の事実により当然発生する」として、分娩・出産の事実自体により認められるとされていますから、当然出産した母親が親権を単独行使することになります。この点を直接定めた規定はありませんが、上記819条4項からの当然解釈としての結論です。


   バイク
819夢中息子には

         
協議離婚裁判離婚認知その他の場合によって

     
子供いるのに離婚なら)親権以降819どうする

         どちらが
つか、親権(真剣)俳句
819

             



    
協議離婚一環、親権()協議不調なら
                      
家裁調停いで審判


    
親権者、裁判上離婚なら
            
父母(ちちはは)のいずれか家裁指定する


     出生前
(親が) 離婚したなら
       親権
ない()夫引819(後に協議で変更可)。


    認知

      母
(父母の)によって
                       
とすること可能也


      
められたる親権者、
       羊頭狗
819(子の福祉に)不適当、
         
或又
、事情変更、子親族
                
家裁親権() 変更 


親権者変更の手続きについては、こちらをご覧下さい。






親権喪失・親権停止・管理権喪失(親権制限制度)
 
親権の行使や子の財産の管理が適切でない親に対しては、親権の喪失(民法834条)や停止(834条の2)、管理権の喪失(835条)の審判が下されることがあります。
喪失」の要件は、「父又は母による虐待又は悪意の遺棄があるときその他父又は母による親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するとき(834条)であり、
停止」のそれは、「父又は母による親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するとき」(834条の2)で、
管理権の喪失」の要件は、「父又は母による管理権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するとき」と定められています(835条)
 これらの審判を求めることができるのは、子自身、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官とされています
(民法834条~835条)が、親権の喪失については、その原因状況が2年以内になくなる見込みがあるときは請求できず、親権停止の期間は、その原因が止むまで2年を超えない期間内で定めるとされていますから、親権の「喪失」か「停止」かは、原因状況の継続期間が2年内に収まるかどうかによって分かれることになります。管理権行使の不適当と困難については、「自己のためにするのと同一の注意(民法827条)を怠った場合が「不適当」、管理能力不足による場合が「困難」であると説明されています。以前は、管理が失当であったことによって子の財産を危うくしたという要件であったものが、平成23年に上記のように改められたものです。

    

   834かるべき
          
(悪意の) 遺棄虐待834



  親権行使


          
(じる)しく 或又 不適
著害

              二年
えてもありそなら

         親
蜂刺
834親権喪失審判むべし





  子本人その親族や(未成年)後見人
      同監督人
検察官請求すれば

        
(家庭)裁判所(喪失)審判するが影響大(のため)
                
活用少なく(親権)停止(審判)まる(平成23年改正




  
虐待

     
蜂刺834 (親権)喪失 あるも(親権行使が 不適、子の利害する)

            
(ちち)程度(じる)しくなくば

          
(親権の)喪失闇夜834回避して

                 
優し  834の2   (以内) (親権)停止 あり

 



 父

    保護者
としては(やさ)()
835(優しい保護者:造語)でも

 財産管理
不適

      
利害せば、破産(はさ)()835(財を危うくする保護者:造語)でなくも

              
喪失 とする管理権

これら親権を制限する審判の請求権者は、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人、検察官ですが、加えて、児童福祉法33条の7により、児童相談所長にもこれらの審判の請求権が与えられました。


児童虐待
 上記親権停止制度は平成23年の民法改正により新設されたものですが、その際これら親権制限に関する
子自身の申立権も合わせて認められました。これにより、子は、意思能力がある限り、自身で親権喪失等の申立てができることになりました。そもそも、人は自身の身分に関することは、財産的行為に関する未成年の能力制限(民法5条)なしに、自身で行為することができます。そして、その目安としては、15歳になれば自身の意思で他人の養子となることができ(但し、家裁の許可というチェックは必要(民法798条)です)、又、自ら遺言することもできます(民法961条)。これは単なる目安であって、当該の子が15歳未満であっても、虐待という具体的場面で観察力・思考力・判断力が備わっていることが認められれば、管理権喪失から親権の停止・喪失まで幅のある親権制限のための端緒となるに過ぎないその申立てについては、その行為の能力が十分にあるものと認めるべきです(上記養子縁組能力も、養子となる効果の発生は家裁の許可にかかるのと同様に、親権の制限も最後は家裁が当否を判断しますから、申立てという入口は子のために広く開かれていてしかるべきです)。児童虐待防止法には、被害児童自身による通告規定がありません (この点は、子に親権制限の申立権が認められたのと歩調を合わせて改められるべきでした。口頭での申立てであっても、録画によって記録に残し、正式な手続きに乗せられるようにする等、早急に法改正をするべきです)。したがって、児童虐待を防止する間接的方途になりますが、親権制限に関する子自身のこの申立権を活用し、或いはそれを起点として、周囲が連携して親権制限と合わせて虐待防止の具体的方策を執らなければなりません。ですので、被害児童が、実際にアンケート等具体的な場面で、しっかりと虐待等の具体的事実を踏まえた整った文章で自らの虐待被害を述べ、自ら助けを求め、対処の希望等を訴えていれば、それを受ける教師や教育委員会等の関係者・関係機関は、子が親権制限に関する申立てに繋がる自らの意思を述べているものとして、本人の申立てを補助すべきですし、また、児童相談所への通告(下記のとおり、教職員には、児童虐待の早期発見に努め、虐待を受けていると思われる児童を発見したときは通告する義務があります)、警察への通報等相応の対処をするべきです。これを怠れば職務怠慢の誹りを被るでしょうし、場合によっては国家賠償の対象とされるでしょう。
 そして、児童相談所長
(児童福祉法33条の7)検察官(民法834条~835条)にも親権喪失等の申立権がありますので、親権制限・虐待防止・刑事司法の三方からこの社会問題に対して強力な連携体制を組むべきです。余りに非情で冷酷な児童虐待が頻発する現状に鑑み、親権を笠に着た親から被害児童を救済するため、家裁 (子自身による申立てが届けば、家裁が関係各機関の中軸となって子の救済に当たることが期待でき、特に家裁調査官の活躍に期待したいと思います)・学校・児童相談所・警察・検察の各機関の連携が、実際に、子に対する一時保護や施設収容による保護(さらには、普通養子・特別養子制度や里親制度等も重要です)と並行して、適切に親権喪失等の親権制限、司法による刑事罰等に至ることができるよう、焦眉の急として求められています。
 なお、保護者による児童虐待を防止するため、平成12年に児童虐待防止法が成立し、その後の改正等を経て、保護者の児童
(18歳に満たない者)に対する、外傷を与えるような暴行やわいせつな行為、或いは、心身の正常な発達を妨げるような減食や長期間の放置等の他、著しい暴言又は著しく拒絶的な対応、児童が同居する家庭における配偶者に対する暴力その他児童に著しい心理的外傷を与える言動も、「虐待」として禁止され、児童虐待を防止するための調査、立入り(児童虐待防止法9条)、それが拒否された場合の、裁判所の発する許可状に基づく、解錠して住居に立ち入ることのできる臨検、捜索(同法9条の3)や必要な処分(同法9条の7)、児童の一時保護(同法8条)等が定められた他、教職員、医師、福祉施設職員、弁護士、学校や病院、施設等、虐待を発見しやすい立場にある者の児童虐待早期発見の努力義務(同法5条)、虐待の予防、防止、児童の保護、自立支援に向けた国、地方公共団体の施策に協力すべき義務(同法同条)、また、上記教職員等虐待を発見しやすい立場にある者に限らず一般人にも、虐待を受けたと思われる児童を発見したときは、福祉事務所又は児童相談所に通告しなければならないとする通告義務が定められ(同法6条)、国、地方公共団体のこれらに関する啓発義務も定められました(同法4条)。また、通告に関しては、児童相談所全国共通ダイヤル「189」に電話すると、発信した電話の市内局番等から当該地域を特定し、管轄の児童相談所に電話が転送され、虐待の通告・相談ができるようになりました。親権者懲戒権に対する制約の経過についてこちらを、児童虐待防止アクションプランについてはこちらを、同プランに沿ってのオレンジリボン運動についてこちらもご覧下さい。
 平成の世の初め1989年(平成元年)児童の権利条約が国連で採択され、これを平成6年に我が国も批准して発効していますが、同条約19条1項は「 締約国は、児童が父母、法定保護者又は児童を監護する他の者による監護を受けている間において、あらゆる形態の身体的若しくは精神的な暴力、傷害若しくは虐待、放置若しくは怠慢な取扱い、不当な取扱い又は搾取(性的虐待を含む。)からその児童を保護するためすべての適当な立法上、行政上、社会上及び教育上の措置をとる。」と定め、また、同条2項は「 1.の保護措置には、適当な場合には、児童及び児童を監護する者のために必要な援助を与える社会的計画の作成その他の形態による防止のための効果的な手続並びに1.に定める児童の不当な取扱いの事件の発見、報告、付託、調査、処置及び事後措置並びに適当な場合には司法の関与に関する効果的な手続を含むものとする。」としています。そして、これに基づき、平成12年に児童虐待防止法が制定され、平成23年には、児童の権利条約9条に沿う面会交流(§766)と親権停止の新設(§834の2)、懲戒権に対する制限820)、親権制限に関する前記子の申立権新設(§834§834の2§835)等のための民法改正が行われ、また、これと並行、前後して、乳児家庭全戸訪問事業等の子育て支援、虐待定義の具体化・明確化、虐待防止相談体制の強化、児童相談所長に対する親権制限のための申立権付与、警察署長への援助要請規定の新設、児童の安全確認のための調査立入等の権限強化、児童虐待通告義務の一般人適用等、数次に亘る児童福祉法、児童虐待防止法の改正もあった上、平成28年には「しつけ」の限界を示しての刑罰による警告(児童虐待防止法14条の改正)まであったにも拘わらず、平成最後の年に至ってさえ親による冷酷非情な虐待死の事件が頻発しているのを見、また、関係各機関の連携の欠如・不徹底、児童虐待防止のための砦となるべき児童相談所の手薄・弱体と理念・使命感の欠如という現実を見ると、平成は児童のための法律を作って、魂を入れなかった、児童被災の世でもあったのかと思ってしまいます。

☆平成最後の年にまた痛ましい児童虐待の事件が起きてしまいました。学校、教育委員会が父親の威圧に屈し、虐待防止の砦であるべき児童相談所までがその職務遂行の核心である理念、使命感を欠如していたことを曝け出した事件です。繰り返し体制の脆弱が指摘されてきているにも拘わらず、一向に改善を見ることなく、事態がますます悪化しているように感ずるのは私だけではないと思います。同性婚の項でも述べましたが、今や、我が国の私人間における個人の尊厳・基本的人権は、踏みにじられるまま悪化の一途を辿っているように見えます。我が国の憲法は、政治の具にだけ使われて、実際には、その根本理念である基本的人権の擁護のためには、人々の間に適用されておらず、幼い命も守れないままに唯のお題目に堕しています(こちらもご覧下さい)。憲法は権力に対する抑止法だとばかり強調し、虐待からの救済を要する場面で、権力を抑止するべく令状主義の厳格を以て臨むなどしてどうするのでしょうか。現に虐待のリスクが認められれば、いたいけな幼い命を守る観点から令状主義を緩和するべきです。憲法を人々に行き届かせるべく、権力を私人間の悪に立ち向かわせなければ、悪の蔓延は止めなく増長して、尊い命が失われ続け、ひいて社会の崩壊に繋がります。憲法のため今なすべきは、憲法の改正ではなく、真にこの憲法を人々の間に行き渡らせるための堅固な体制作りです。国家・社会の基盤である筈の家庭において支配・抑圧が蔓延・横行し、邪な支配が学校や実社会の隅々までも蝕むに及んで、子供や女性、障害者等弱者が虐げられるままに放置されていたら、それで国を守る気概など生まれてくるでしょうか。為政者は、児童の権利条約に定められた「あらゆる形態の身体的若しくは精神的な暴力、傷害若しくは虐待・・からその
児童を保護するためすべての適当な立法上、行政上、社会上及び教育上の措置をとる」ことが何より焦眉の急であることを認識するべきです。



   親権者しつけとばかり

       えて
822822

   懲戒
虐待、傷害(等)

            罪着刑事判事
822うべし





    
834かるべきなのに
 
         子供虐待
かねたら

     いちはやく
189189電話して、

           防止一役
189いましょう。





結婚 ( 婚姻 ) の手続き 
 一般に「結婚」と言われますが、法律の用語としては、「婚姻」と言います。国の根本法規である憲法にも、「
婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。(憲法24条1項)とあります。そして、この文章に結婚についての核心が含まれています。
 条文にあるように、婚姻は、憲法上「両性の合意」という内心の意思の合致としてのみ規定され、法的な外形を定めない表現となっています。一般には、結婚に至る過程として、結納とか、婚約指輪とかを順に交わし、最後に結婚式を挙げて新婚旅行というように各種イベントが順を追った手続きのように践まれますが、それらもその「両性の合意」が、まじめで真実なものであることを社会的に証明する手立てとして践まれているに過ぎません。そして又、この条文では、昔は例えば、結婚には家長の同意がなければならないというように「家」制度を守るための制約があったりしましたが、他の目的のための制限を受けることなく、「
両性の合意のみに基づいて」自由に結婚できることが謳われ、婚姻が、夫婦の、法の下の平等と協力によって維持されるべき旨が示されています。
 その上で、憲法は、24条の2項で「
婚姻・・・に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。」として、指導理念を示した上、具体的な手続きについては法律に委ねています。そして、それに沿い、民法が婚姻のための諸規定を置いている訳ですが、例えば、男女の婚姻年齢は男が18歳、女は16歳(民法731条)と、男女で異なり(男女間の肉体的成熟度の差異によるとされていました)、また、成人年齢が20歳(民法4条)なので、未成年の婚姻については父母の同意を要する(民法737条)とされる等、やや男女間での不平等と、父母から自由でない感の残る定めとなっています。しかし、この度、平成30年の民法改正により、その731条が改正されて、改正法の施行日である2022年4月1日からは、婚姻年齢が男女ともに18歳となり、民法4条の成人年齢も18歳となりましたから、婚姻のための父母の同意も不要となりました。
 具体的な結婚の手続きとしては、民法739条が、「
婚姻は、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その効力を生ずる。」とし、また、同条2項が「前項の届出は、当事者双方及び成年の証人二人以上が署名した書面で、又はこれらの者から口頭で、しなければならない。」と定め、さらに、戸籍法29条33条74条、戸籍法施行規則56条が届出書の記載事項を定めています。ですから、婚姻届けは、提出前に予めしっかり確認し、記載漏れ、誤記等のないようにしなければなりません。こうして、婚姻は、婚姻届けにより、その日に成立します。結婚式を挙げた日ではありません。婚姻届けには、成人の証人二人(以上)署名押印が必要です。上記の条文にあるように、婚姻届けは口頭でも可能ですが、その場合、当事者二人と証人二人の計4人が出頭しなければなりませんし、各人の本人確認をした上、口頭で必要事項を述べなければなりませんから。時間がかかります。書面による届出は、本人が提出する(一人での提出が可能です)ほかに、郵送でも可能ですし、本人の使者として他人が提出することもできます。本人がする場合も、他人が提出する場合も、提出者の身分証明により誰が提出したかを明らかにし、他人の提出にかかる届出であると判明したときは、役所戸籍係から本人に通知が行くことになっています(戸籍法27条の2)。もし、他人が虚偽の届出をした場合は、公正証書原本不実記載罪(刑法157条)により処罰されることになり、婚姻は無効です(この婚姻無効の対処はなかなか大変です)。虚偽の届出がなされる恐れがあるときは、役所戸籍係に予め不受理の申出をしておくと受理されずに済みます(戸籍法27条の2)。郵送された届書は、本人が死亡した後でも受理しなければなりません(戸籍法47条)。日本人同士で外国で挙式し、届出するときは、その国の日本領事館又は大使館に届出することになります(民法741条)
 婚姻届けは、婚姻障碍がないことが確認されないと受理して貰えません(民法740条)。婚姻年齢に達しているか、重婚でないか、近親婚に該当しないか、再婚禁止期間での再婚ではないか等の障害事由の有無が審査され、障害事由がないことの確認を経てはじめて受理されることになります
(尤も、実質的な調査はなく、形式的審査にとどまりますから左程時間はかかりません)。そして、この審査に戸籍係のミスがあっても、ひと度「受理」があると、一応有効となり、婚姻障害を理由として婚姻を取り消すためには、家裁に婚姻取消しの請求をしなければなりませんから、厄介です(不適齢婚等で、その後適齢に達し、一定期間が経過する等、一定の条件の具備により取消権が消滅するものもあります)婚姻取消しの判決が出ると、婚姻は、判決確定の日から将来に向かって取り消されることとなります。それまでは婚姻が継続するので、結果的には、離婚とさほど変わらないと言えます。



婚姻
 婚姻を辞書で引くと、1.「結婚すること、夫婦となること」、2.「男女の継続的な性的結合と経済的協力を伴う同棲関係で、社会的に承認されたもの、法律上、両性の合意と婚姻の届出によって成立する」(大辞泉)とあります。定義としては、2.の前段が本稿のこの場所には相応しいと思われますが、憲法にも、民法にも、婚姻はどうあるべきかについての各種の定めはあっても、「婚姻とは」についての定めはありません。結局、婚姻の成立要件や、婚姻に伴う権利義務によってその内包を想起・想定する他ないということになります。しかし、その内の核心的なファクターだと思われる「婚姻意思」について、判例(最判昭44・10・31)では「真に社会観念上夫婦であると認められる関係の設定を欲する効果意思」であるとされ、当事者にこの意思の合致がない場合は婚姻が成立したと言えないとされます。これですと、むしろ上記1.の定義に拠った、内容的には、「夫婦」の一語に尽きている表現と言えます。そして、その後の判例(最判62・9・2)では、「婚姻の本質は、両性が永続的な精神的及び肉体的結合を目的として 真摯な意思をもつて共同生活を営むことにある」と述べていますから、この両性の永続的な精神的及び肉体的結合私なりの、婚姻に伴う権利義務の要約から肉付けをして婚姻の実質を浮き上がらせるやり方はできないかと思います。それにしても、上記2.の最初の方の「性的結合」、そして判例の言う「精神的・肉体的結合」は最も根本的・原初的で欠かせない要素であり、これに「互いの貞操義務を伴う継続的ないし永続的な」という修飾語が付いて、はじめて「婚姻」の定義のコアと言えるのではないでしょうか。私は、ここで、相続における「融合同一化(私の私見で恐縮です) に想到します。それが相続人に無条件の財産承継を容認する根拠であるように、婚姻においては、婚姻当事者両名の遺伝子が融合して新たな遺伝子を創造するように「融合創一」が起こるのであり、それが無償の愛の源泉となって、これこそが婚姻に広範かつ重要な権利義務が付与・賦課される根拠となるのであろうと思うのです。結合において起こる融合創一では、父母が23本ずつの染色体を提供し合い、子は、父母の遺伝情報を半分ずつ受け継いで、46本の染色体を持って生まれます。この結合において父母の遺伝子は、性染色体による性差はあっても、その価値の上下は全くない、対等・平等の役割を果たします。ところで、その「結合」は、昔は、辞書や判例が言うような「継続的」や「永続的」ではなく、「終生的」結合と解されていた (民事法学辞典「婚姻」) のですが、今は離婚も大変に多くなり、そう定義することができない現状である、というのが一般の理解なのかも知れません。しかし、結婚式では今でも誓詞等としてその趣旨が必ず述べられますし、私個人としては、婚姻結合は、「終生的」で、かつ、これに貞操義務が伴うことが根本属性ではないかと思います。少なくとも、結婚の際にその「意志」がなければ「婚姻意思」ありとは言えないと思います。ですので、婚姻を以下に述べる権利義務を伴う「夫婦ないしカップルとして社会的承認を受けた対の二人の終生的貞操結合」と集約して表現してはどうかと思いますが、如何でしょうか。ここで、「終生的貞操結合」の目的であり、結果であり、かつ、その推進力・影導力(ようどうりょく)となる「融合創一」は、かつ「融合操一」でもあることとなります。「操」は、「みさお」の意味です。駄洒落になりますが、互いに一人に沿うのですから、「沿う一」ですね。
 なお、「カップル」を「夫婦」に加えた意味を申し上げます。判例(最決平25・12・10)が、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律
(3条1項)に基づき男性への性別の取扱いの変更の審判を受けた者とその妻との間において、「妻との性的関係によって子をもうけることは およそ想定できないものの,一方でそのような者に婚姻することを認めながら,他方で,その主要な効果である民法772条による嫡出の推定についての規定の適用を,妻との性的関係の結果もうけた子であり得ないことを理由に認めないとすることは相当でない」と判示して、その両名間の(生殖医療による)子の嫡出推定を肯認しました。そのような現在、「婚姻」を論ずる上においては、上記「性的結合」にはこのような「カップル」も含めて考えなければならないと思いますし、後記の「内縁」で述べるように「結合」にも実に多種多様な態様が実在する状況があるので、その現実を踏まえて、「婚姻」を考える際にもこの要素を加味するべきではないかと考えました(→同性婚)。また、この判例によって、婚姻と嫡出推定の強固な結びつきが明らかとなったと言えますが、これについてはこちらをご覧下さい。
 
そして、これに本稿の冒頭に出ました同居・協力・扶助(民法752条)の義務 (不貞が離婚原因(民法770条)の一つとしてあることの反対解釈以外、正面からの明文はありませんが ) 貞操義務が伴うことになります。同居・協力・扶助の内では、「協力」が重要だと申しました。この協力は、しかし、他人同士が協力し合う程度のものではありません。「融合」創一による、夫婦が一体化しての、一心同体の協力でなければなりません。何を協力するかと言えば、親権(民法818条~833条)と扶養(民法877条~881条)です。親権は、二人が子を授かった場合は、という条件付きとなりますが、子の利益のための監護教育(民法820条)を柱とする重い責任を伴う重要な権利義務であり、二人共同して互いの間同様、無償の愛をもって取り組まねばなりません。法律的には、「夫婦互いの間同様に」と言うことになるのですが、そもそも婚姻の本質である融合創一は、子に関わる「創」でしたから、実際上子に対しては、全く見返りを求めない、真の意味の「無償の愛」である筈です。身を犠牲にしてでも子を愛すというあり様は、昔の言葉「愛は惜しみなく奪う」で表されています。「しみじみとかわいい」を古語では「かなし」と言うそうですが、子への愛は、親の我(が)を超えた(我欲を満たしたいだけの感情や衝動とは無縁の)ところの、悲しくなる程にいとおしい思いであろうと思います。扶養は、いわゆる生活保持義務であり、互いと子に対して、同種・同量・同等の暮らしを保持しなければなりません。そして、ここでも、法的判断とは別の実際生活においては、子に対しては、自らは食さなくとも、子には与える親心がある筈です。ですから、前述しました「婚姻意思」の内包としては、これらの権利・義務を、享受し受け容れる決意、万難を排しても「融合創一」で「共白髪」の強い意志が含まれなければならない筈です。以上とすれば、法的な「婚姻」のコアをさらに集約して表現すると、「社会的承認を得られた対の二人の終生的結合意志の合致」とも略言できるかと思います (貞操義務は、この表現の中に含まれると解釈できると思います)
 そして、これらの結果として、互いの相続権
(民法890条900条) ( 相続での法定相続分は、子供がいる場合半分ですが、配偶者以外相続人がいない場合は全財産を継ぐことになります ) が社会的に約束されますし、伴侶亡き後も居住に難儀しないよう終身無償の配偶者居住権が新たに制度化されて、偕老同穴による完結も約束されました。仮に不幸にして離婚に至った場合でも、「終生的」協力を誓った以上、元伴侶の生涯の生活に資するべく、それまで夫婦別産制(民法762条)の下に潜在化していた前記「融合創一」関係が財産分与(民法768条)として具現して、その時点での全財産の半分を分与すべき強い義務が伴うことになります (私見)。なお、夫婦の平等についてこちらもご覧下さい。
 また、「社会的承認」とは要するに、上述した、婚姻法秩序の上で婚姻に伴い認められる広範な権利と当然に課される重い義務とを発生させる契機とするべく制度化された公的承認事務のことであり、現行法上は、端的に「婚姻の届出」
(民法739条)ということになります。したがって、現行法上「婚姻届」が不可能な結合、或いは、敢えて届出をしない結合をも含め、届出のない結合については、婚姻として扱うことはできず、それらは内縁ないし準婚として別に論じられることとなります。なお、夫婦親子同氏の原則については、こちらをご覧下さい。
 
最後に本項の趣旨を要約をすれば、婚姻の本質は「終生的貞操結合」であり、その期するところは「融合創一」ですが、家族の長い道のりで途中この婚姻のコアからしばし逸脱するのやむなきに至っても、帰するところは「融合創一」であるとの意志さえ維持できれば、「無償の愛で協力する」ことにより乗り越えられるということではないでしょうか。こちらもご覧下さい。
 本稿は、これらについて、以下に条句を交えながら述べ及んで行きたいと思います。



婚姻届等 ( 婚姻要件 )
 憲法24条は、婚姻を、「両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。」と定めますが、これを受けて民法739条1項は、「婚姻は、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その効力を生ずる」としています。ですので、婚姻は、夫婦となるべき男女の合意 ( 婚姻意思 ) に裏付けられた婚姻届けによって成立し、これによって法の認める各種権利義務等の効力が生じることとなります。そして、この届けについては、民法739条2項が、「前項の届出は、当事者双方及び成年の証人二人以上が署名した書面で、又はこれらの者から口頭で、しなければならない。」とし、さらに、戸籍法27条29条33条74条が届出書の記載事項を定めています。このように、婚姻は、国民生活の根幹たる家庭の秩序に関わりますので、法の定める方式を践まなければ、その効力を認められない要式行為です。また、婚姻には、例えば、嫡出推定の重複を避けるための待婚期間(民法733条)婚姻年齢(民法731条)重婚(732条)・近親婚(734条736条)等の禁止等、公序良俗、慣習、倫理ないし社会規範等として存続する各種規制からくる障碍事由があり、これらの婚姻障碍をクリアすることも婚姻要件とされますから、クリアしないと婚姻届けを受理されず、誤って受理された場合は、取り消され得るという制約も伴います。しかし、上記憲法にもあるように両性の婚姻意思の合致こそが重んじられるべきですから、財産行為におけるような能力による行為制限はあってはならないので、( 財産行為の行為能力に欠ける ) 被後見人であっても、婚姻能力がありさえすれば婚姻することができます(民法738条)。ということで、婚姻要件を教科書的に列挙すれば、婚姻能力ある男女による、婚姻意思の合致に基づいて、婚姻障碍を伴うことなく、婚姻届けがなされること、と言うことができます。そして、ここでの「婚姻意思」は、前述しましたように私は、「終生的貞操結合」の「意志」の合致であるべきだと思います。
 婚姻届けの実際についてもう少し詳しくはこちらをご覧下さい。また、国際結婚の婚姻届けについてはこちらをご覧下さい。


 
婚姻は、要式行為なので、婚姻の届出を欠いた夫婦は、内縁として事実上の夫婦生活は存続し得ても、原則として婚姻の効力は認められません。 そして、一口に内縁と言っても、昔多く行われた「足入れ婚」がそうであったように、ただ子ができるのを待って、或いは、最近では互いの相性の確認ができるのを待って、いずれ正式な婚姻に移行するというものから、最近ときに散見される夫婦同氏を嫌い別姓の法制化を待つ内縁、或いは、婚姻障碍を伴う故の内縁、LGBT同士のカップル等々、いわゆる内縁から準婚、事実婚、敢えて「婚姻」の形をとらない非婚等、実に多種多様であり、その典型的婚姻からの乖離程度も様々です。したがって、これらを一括して論じることはできず、個々のケースごとにどのように対処すべきかを考えなければなりません。
 しかし、このようなとき、「婚姻」について考察した際の最後の論点「社会的承認」という条件は、意外に大きな要素になるのではないでしょうか。つまり、婚姻に伴う権利義務の広範かつ重要なことに照らせば、それはこの社会的承認という条件が具備されて初めて付与される効果であると見るのが素直な論理だと思います。例えば、法定相続分も、離婚に伴う財産分与も年金分割も、「婚姻」の形式を満たさなければ認められないものです。財産分与については異論もあるところでしょうが、内縁破綻時の財産処理については、両名の所得や家計の状況等を見た上での具体的判断ですが、共有と認定・推定できる部分について、共有物分割で処理するのが本来で、ここに私が財産分与について言う夫婦の全財産の等分という強い効力を持ち込むことはできないからです(但し、判例は、傍論的に財産分与を認める可能性を示唆しています)。
 それでも、婚姻意思に基づく事実上の夫婦生活があるという場合については、生別・死別のそれぞれの際、なるべく事実に沿った法効果を認めようとする努力が払われてきています
。生別の場合についてはこちらを、死別の場合についてはこちらをご覧下さい。

同性婚について

 本日(平成30年11月14日)、同性婚を認めるべき、として来春複数の地裁に訴訟が提起されるとの報道がありました。世界の多くの国で同性婚が認められつつあり、いよいよ我が国にもその潮流が及んで来た感があります。私も、従来漠然と、日本国憲法24条に「
婚姻は両性の合意のみに基いて成立し」とあるのは、男女婚を当然の前提としている故、同性婚は認められないものと考えておりました。しかし、関係論文等を読み、よく考えてみると、この憲法24条の規定は、新憲法以前における男女の不平等を、憲法14条が国民の法の下の平等を明定したことから、殊に ( 妻は無能力であり、夫の管理・収益に服する。又、妻にだけ姦通罪がある等 ) 不平等が顕著であった婚姻において不平等を是正し、合わせて、婚姻当事者以外の戸主や在家の父母が当事者の成人後も当事者男30歳まで、女25歳まで婚姻に対する同意権を有する等、当事者以外からの掣肘も厳しかったためそれらも取り払うべく置かれたものではないかと思うに至りました。同条は、婚姻は男女によってのみ成立し得ると限定する趣旨など念頭になく置かれたもので、婚姻において顕著であった男女の不平等の是正と婚姻の自由の保障にこそ その眼目があったのではないでしょうか。つまり、同条は、婚姻の自由を宣言し、婚姻は、平等・対等な当事者の婚姻意思の合致にその本質があることを明定したもので、同性婚を禁じる等の婚姻における性構成を規制するために置かれた規定ではないのです。今、学童・生徒間の陰湿ないじめが社会問題となり、悲劇的な自殺が多発しています。そのいじめや差別の口実とされがちなのが、LGBTや性同一性障害等のその人自身では変えることのできない生来の資質です。このいじめをはじめ、職場や営業現場等での理不尽で非道なハラスメント、或いは、後を絶たない痛ましい児童虐待等に対しても、前記法の下の平等、並びに、個人の尊厳・幸福追求権(憲法13条)を、広く学童・生徒ら、そして職場上司、子の親等を含む国民全体に明示して、国民一人一人の尊厳と幸福追求権を守ることに繋げることこそが、今、憲法自体が真に求めていることではないでしょうか。そのためにも、今このとき、「終生的貞操結合」が認められる同性婚には「社会的承認」を与え、婚姻としての法的効果を付与することが、このように個人の尊厳が置かれた劣悪といえる状況下で、憲法のため真になすべきことだと思いますが、如何でしょうか。但し、その社会的承認には、上記性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律によって性別取扱い変更審判を受けたことによるカップルの事例のように、何らかの立法措置を講じて、上記のように多種多様な他の内縁等の事例と明確に区別でき、安定した法運用が図られるよう早急に準備されなければなりません。なお、「氏」の関係についてこちらもご覧下さい。

内縁子の氏と戸籍
 
内縁夫婦に生まれた子は、嫡出推定(772条)を受け得ない非嫡出子となります。非嫡出子は、母が出生届けをして(戸籍法52条2項)、子は母の氏を称し(民法790条2項)、母の戸籍に入ります。そして、その出生届け、戸籍には、父親の名は記載できません。父親の名を記載するためには認知を要することになります。父親が任意に認知せず、認知の訴えとなった場合、かつては父親側から「多数当事者の抗弁」が提出されると、母親の「父親以外とは性的交渉がなかつた」との主張が容易に覆されるという原告側に不利な判断が行われたりしました。しかし、判例(最判昭29・1・21)はその後、「内縁の妻が内縁関係成立の日から二百日後、解消の日から三百日以内に分娩した子は民法第七七二条の趣旨にしたがい内縁の夫の子と推定する。」として、内縁にも民法772条嫡出推定を類推適用し、内縁懐胎を認めて、事実上立証責任の転換が図られ、今日に至っています ( 尤も、今日ではDNA鑑定によって親子関係の立証は遙かに容易になったと思われます )。したがって、夫婦として生活し、婚姻届を出していないだけである事実上の夫婦であれば、嫡出推定の及ぶ期間中の妻の懐胎子はその夫の子と推定されることになります。なお、内縁の子の父母が婚姻し、その子の出生につき婚姻の日の前後を出生日とする嫡出子出生届がなされれば、婚姻時からの嫡出子となります。婚姻前の出生であれば、「認知準正」による、婚姻後の出生であれば、「推定されない」嫡出子となるからです。前者についてはこちらを、後者についてはこちらをご覧下さい。出生届けについてはこちらをご覧下さい。



婚姻意思
 上述来の「婚姻意思」については、婚姻には、当事者間に真に社会観念上夫婦であると認められる関係の設定を欲する効果意思が存在することが必要である旨判示し、当事者間の子に嫡出子としての身分を与える目的のみで届けられた当該婚姻を無効とした判例
(最判昭44・10・31)があります ( これは、民法742条に言う「当事者間に婚姻をする意思がないとき」に関する判例です)。類書には、この判例を引いて婚姻意思を説くものもありますが、この判例は、判示のいわば方便婚姻を否定することに力点があって、婚姻意思の内包を考究したものではありません。ここで、私が上述来の考察から婚姻意思を述べるとすれば、「社会的承認を得て、終生的貞操結合を、設定しようとする意思」ということになるかと思います。


 ここで、以上の婚姻関連条文をまとめると、婚姻成立の要件である婚姻届に関する民法739条740条、そして婚姻能力に関する738条、各種婚姻障碍に関する732条737条婚姻無効に関する742条、ということになります。
その他、縁組、離婚、離縁等、各種戸籍届けに関する定めに関しては、こちらもご覧下さい。


 婚姻は、婚姻届けによってその日成立します。結婚式を挙げた日ではありません。婚姻届けには、成人の証人二人の署名押印が必要です(§739)。未成年者の婚姻には父母の同意が必要です(§737)が、平成30年の民法改正により、2022年4月1日からは、婚姻年齢・成年年齢が18歳になることに伴い、未成年者の婚姻ということがなくなり、父母の同意は不要となります。
 
婚姻届けは、婚姻障碍がないことが確認されないと受理して貰えません(民法740条)。婚姻年齢に達しているか、重婚でないか、近親婚に該当しないか、再婚禁止期間での再婚ではないか等の障碍事由の有無が審査され、障碍事由がないことの確認を経てはじめて受理されることになります。



 人生ナ咲
739結婚

  当
(事者)二人
   
  証人二人頼んで(婚姻)けしてこれで成立

      
(舞台は)さく739も、れの門出

         発て
(人生の)並木路739Ⅱ




 婚姻届

   双方証人二人

      
()()書面口頭

     けして難産?ここに739Ⅱ結実






  (婚姻) 難所740

    
()さい731から、しなさんな737 七箇条

   守
ったで、難避
(ため)739Ⅱ

       
証人二人(書面でも可)

      その
他法令違反もないとめられねば、受理されぬ



婚姻届け
届書作成とその受理の間に当事者の一方が昏睡状態に陥って、受理後間もなく死亡したとしても、婚姻は有効に成立したと解し得るとした事例判例があります。
事実上の夫婦共同生活関係にある者が、婚姻意思を有し、その意思に基づいて婚姻の届書を作成したときは、届書の受理された当時意識を失つていたとしても、その受理前に翻意したなど特段の事情のないかぎり、右届書の受理により婚姻は有効に成立する旨を判示した判例(最判昭44・4・3)
 この判決は、その判文で「原判決の確定した事実によれば、本件婚姻届は、訴外Dが昭和四〇年四月五日午前九時一〇分前後に盛岡市役所に持参し、係員に交付して受理されたものであり、 一方、Eは、昭和三九年九月頃より肝硬変症で入院していたが、昭和四〇年四月三日頃より病状が悪化し、同月四日朝から完全な昏睡状態に陥り、同月五日午前一〇 時二〇分死亡するに至つたというのであつて、原審は右の状態の下における届出は意思能力ない者の届出として無効であるとしたのである。しかしながら、本件婚姻届がEの意思に基づいて作成され、同人がその作成当時婚姻意思を有していて、同 人と上告人との間に事実上の夫婦共同生活関係が存続していたとすれば、その届書 が当該係官に受理されるまでの間に同人が完全に昏睡状態に陥り、意識を失つたと しても、届書受理前に死亡した場合と異なり、届出書受理以前に翻意するなど婚姻の意思を失う特段の事情のないかぎり、右届書の受理によつて、本件婚姻は、有効 に成立したものと解すべきである。もしこれに反する見解を採るときは、届書作成 当時婚姻意思があり、何等この意思を失つたことがなく、事実上夫婦共同生活関係が存続しているのにもかゝわらず、その届書受理の瞬間に当り、たまたま一時的に 意識不明に陥つたことがある以上、その後再び意識を回復した場合においてすらも、 右届書の受理によつては婚姻は有効に成立しないものと解することとなり、きわめて不合理となるからである。しかるに、原判決は、婚姻届受理当時、Eが完全な昏睡状態に陥り意思能力がなかつたことが明らかであるといい、その一事を前提として同人には婚姻をなす合意があつたとはいえず、本件婚姻は無効であると判示したものであるから、原判決は、所論のように、法律の解釈適用を誤つた違法があるものといわなければならない。したがつて、原判決は、破棄を免れず、本件婚姻届が Eの婚姻の意思に基づいて作成されたか、その後届書が受理されるまでに翻意する など婚姻の意思を失う特段の事情があつたかどうか等の各点につき、さらに審理の 必要あるものと認め、本件を原審に差し戻すのを相当とする。」と述べています。




 受理されぬ(婚姻)けの難所740

    
一度(ひとた)受理 一応有効

  然
れども不適齢
(§731)重婚(§732)禁期(§733)近親婚(§734~§736)

      
(婚姻障碍の内、親の不同意を除くものは)後日取消()れあり(§743746

 
§740は婚姻届の受理に関する規定


婚姻年齢
 婚姻年齢は、男性18歳、女性16歳です
(民法731条)。戦前は、戦時態勢下の「産めよ増やせよ」政策によって早婚も認めるから結婚して子を作れという国策からか、男性17歳、女性15歳であったのが、戦後このように改められたのですが、この間にも貫かれた男女差には必ずしも合理的でないものを感じざるを得ませんね。この点は、平成30年の民法改正でスッキリと男女等しく18歳とされることとなりました。下記の条句にある「親の同意」の関係も改正があり、これにも触れましたので、こちらをご覧下さい。



 男十八(とはち)、女十六(とろく)

     
それより()さい
731子供婚、

   〔届出しても受理されず、届できても取り消され、〕婚姻することできぬ也。




  (婚姻届け)同意欠缺(けんけつ)737)

     片方同意りるから他方不同意なさんな
737





婚姻能力

 婚姻のような人の身分に関する行為は、財産行為に関する
(弁識能力の有無・程度を基準とする) 後見・保佐・補助等の、行為能力による制約を受けることがありません。したがって、身分行為のための能力という点においては、行為するその時に本人に意思能力があり、また、その行為相応の心身の成熟と理解力・判断力があれば、法律行為として当該身分行為は成立します。そして、その目安としては、人は、15歳になれば自身の意思で他人の養子となることができ(但し、家裁の許可というチェックは必要(民法798条)です)、又、自ら遺言することもできます(民法961条)。これは単なる目安であって、当該の者が15歳未満であっても、その身分行為に関し、具体的場面で観察力・思考力・判断力が備わっていることが認められれば、その身分行為の能力ありと認めることができます。婚姻については、しかし、婚姻年齢が定められていますから婚姻年齢に満たないと、能力的には問題がなくとも、年齢による婚姻障碍の面から婚姻できないことになります。婚姻能力は、財産的な利害の弁識能力とは異なりますから、たとえその人が後見人の後見を受ける成年被後見人であっても、行為時に婚姻についての判断ができる能力があれば、後見人の同意を要せずに婚姻することができます。民法は、738条でこの点を定め、それに続く離婚(764条)、縁組(799条)、離縁(812条)について、この738条婚姻能力規定を準用しています。なお、認知については、780条で「認知をするには、父又は母が未成年者又は成年被後見人であるときであっても、その法定代理人の同意を要しない。」と、未成年者も含めた形で別個に規定しています。未成年者の婚姻・離婚・縁組・離縁については、これら各成年被後見規定とは別にその保護的ないし制度的観点からの規定を置いています。なお、このような被後見人等の身分行為に関する訴訟での訴訟能力について、こちらもご覧下さい。



 成年被後者婚姻

    精神
738あっても小波973であって

      
(一時的にでも)意思持判断できるなら

   
後見人同意なく 婚姻することできる 

  
§973は成年被後見人の遺言に関する規定、仮に被後見人を、「被後者」と呼ぶ。



婚姻無効
 婚姻をするについて当事者間に
婚姻意思がなく、或いは、婚姻届けがない、若しくは人違いであった等の事由があれば、その婚姻は、裁判等を要することなく、当然に無効であり、当事者以外の者からもその無効を主張することが許されます。戦地にあって婚姻届けもしていない者の婚姻について、なされたその者の父親からの婚姻無効確認の訴えについて、これを認めた判例 (最判昭34・7・3) があります。この判決は、「当事者の意思に基く届出を欠いた婚姻が無効であることは、民法七四二条の明定するところであつて、当事者以外の第三者においてもその利益あるかぎり右無効の確認を求め得べく、その第三者が当該婚姻届出書類を偽造した本人であるからといつてこれを別異に解すべきではない。」と判示しています。無効な婚姻の当事者となってしまった場合、第三者から婚姻を前提とした主張がなされたときは、婚姻取消しの裁判等を要せず婚姻無効を以て対抗することができます。とは言え、戸籍に存在する婚姻の記載を訂正 ( 戸籍の記載が、不適法又は真実に反するとき、真正な身分関係に一致させるよう是正すること) しなければなりませんから、その戸籍訂正のためには、このような婚姻無効の裁判を経る必要があります(戸籍法116条)。そして、それには、調停前置主義という原則(家事事件手続法257条)があるので、まずは、家裁での調停に付されることとなりますが、調停で合意に達することができると合意に相当する審判がなされます(家事事件手続法277条)。調停が不成立で終わった場合はいよいよ同じ家裁での人事訴訟(人事訴訟法2条1号)婚姻無効の訴え」で争うことになります。


   ヤレ二
802


   婚礼’
なすも
人違意思ナシ届ナシ(のいずれか)ならば

            
婚姻無効夫婦ナシ
 742



   さくに
739証人二人届ける(ことの)不備
          
‘ナシ
742とされて受理 有効

§739Ⅱは婚姻の届出の方法に、§742は、婚姻の無効に、§802は縁組の無効に関する規定

離婚
 「終生、共白髪」と誓って結婚した筈の婚姻も、人生航路の荒波に揉まれ、必ずしも志し通りには航路を進めず、座礁して離婚のやむなきに至ることがあります。このとき、人生の再出航を期して立ち上がるためには、初めの航海の整理を遂げ、再出発の準備をしっかり整えなければなりません。そのためには、まず、この婚姻という航海の整理法を心得ておく必要があります。婚姻は、二人の「終生的結合意志の合致」によって成り立つと申しましたが、私は、そこに「融合創一」が起こると観念できると考えています。つまり、二人に子が生まれた場合を考えると、一番分かり易いのですが、二人の遺伝子の融合によって新たな一つの遺伝子が生まれることを念頭に置いた造語です。これは、人の結びつき、絆における無償の愛の源であり、夫婦・親子の絆だけでなく、家庭を築くことにも繋がり、ひいて、夫婦・子という社会の一単位が創出される意味にも繋がります。そして、夫婦間の融合創一があることによって、お互いに同居・協力・扶助の義務を引き受け、子が生まれれば、夫婦共同親権の下、二人してその監護・教育という重い責務にも取り組むことができます。また、「協力」義務は、結婚生活の様々な場面で日常的に課されますから、時に応じ臨機適切に対応しなければなりません。数々の苦労も二人して「終生的結合」、つまり「共白髪」を誓った上は頑張って乗り越えて行くことができるのです。しかし、人間、スーパーマンではありませんし、女神様のようにもなれません。結婚生活の過程では果たすべき義務を果たせない、或いは義務に背くことも起こり得ます。不幸にして、その結果、互いに終生的結合の意志を失い、離婚のやむなきに至る場合、その離婚の原因となった義務違反については、配偶者に対する不法行為として賠償責任を負うことになります。つまり、慰謝料です。そして、終生共白髪の誓いに拘わらず別れることになるについては、財産分与で応えなければなりません。婚姻中は、二人の財布は別々で、取り敢えず二人共有とした物だけが夫婦の財産と言える、「夫婦別産制」の下に暮らしました。しかし、婚姻という難事業を共にした配偶者との離婚の際には、この別産制は姿を消し、「融合創一」が別れに際して具現して、互いの固有財も含めた全財産を等分して財産分与とします。そして、子が生まれていれば、子に対する義務からは離れることができませんから、養育のための協力は、親権者を定め養育費の負担を約し、子が独立できるまで教育・監護は続いていくことになります。子には親と面会する権利がありますから、そこからも子自身がいずれ融合創一のための力を得られるよう、その実現にも協力しなければなりません。
 そういう訳で、これから上述の諸点について条句を交えながら、述べていくことになりますが、その前に、もし、今これを読まれている夫なり妻なりの方が、まだ離婚をされていないのであれば、私は、できることなら、ぜひ、お子さんのために離婚を思いとどまって下さい、とお願いをしたいのです。両親の対立・家族の分離は、子の社会に対する不安・恐れを根付かせ、人・社会との接触を恐れることに繋がると言われます。お子さんには両親が必要・不可欠です。温かい両親の愛情がお子さんの社会への信頼に繋がり、また、愛されていると信じられることがお子さんの自己肯定と人との温かい人間関係に繋がります。夫婦間の問題は夫婦だけで解決できないことも多いものです。ぜひ、県庁や市役所、或いは町村役場の福祉課や女性のための相談室とかその他公共の、或いは非営利団体等の相談窓口等に相談してみて下さい。相談・支援等についてこちらもご覧下さい。




離婚の手続き
 婚姻が破綻して離婚に至るには、大きく分けて二つの方法があります。協議離婚裁判離婚です。日本の離婚制度は、夫婦の合意に基づく協議離婚を原則とし、これについては特に離婚原因を法律で定めるようなことはせず、当事者の合意に委ねられていますから、「性格の不一致」でもよい訳です。離婚合意が調いさえすれば、成人二人の証人の協力を得て、夫婦二人で離婚届けに署名・押印して提出すれば、比較的容易に離婚ができるので、離婚の門はかなり広く開いていると言えます。後から、一時的な事情での方便離婚であったとして離婚の無効を主張しても、届けの時に「真に法律上の婚姻関係を解消する意思」があったのであれば、離婚は有効であると判断されるのが実際です。しかし、家庭が崩壊してしまう離婚の途は、そんな簡単に運ばれる筈もないので、合意が調わず、それでもどうしても離婚したい場合は、公開の訴訟手続きによる離婚裁判に訴えることになります。訴訟の結果としての離婚が裁判離婚です。そして、その場合は、法で定められた離婚原因にあたる事実が認定されないと、離婚請求は棄却されます(後記のとおり、離婚原因が認定されても棄却される場合があります)から、厳格な関所が待っていることになります。裁判で離婚を宣せられると、離婚に同意していなかった当事者もこれに従わねばならない強制力がありますから、強制離婚と言われる由縁がここにあります。この協議離婚と裁判離婚の間に、実は、任意と強制との中間的な性質の離婚があります。それが調停離婚審判離婚です。裁判所の関与しない当事者だけの話合いでは協議離婚ができないということで、「裁判にする」ことになったとしても、裁判所では、「調停前置主義」という原則により、まずは調停手続きを受けなければなりません。ここで離婚が成立すれば、それが「調停離婚」です。調停不成立となった後は、離婚訴訟の途が残されることになりますが、ときに、裁判所が、裁判所としての判断を示せば解決するのではないかとの考えから、調停打ち切りとはぜすに、審判を下すことがあります。この審判により離婚となる場合を「審判離婚」と言います。もう少し詳しくはこちらをご覧下さい。以上が離婚自体の手続きですが、離婚に伴う慰謝料財産分与、子の親権者指定・養育費・氏の変更等は、以下個別の記載をご覧頂きたいと思いますが、その内、子供の関係は「子供がいる夫婦の離婚」をご覧下さい。
 具体的な協議離婚の手続きとしては、民法764条が民法739条を準用していますので、同条2項が「届出は、当事者双方及び成年の証人二人以上が署名した書面で、又はこれらの者から口頭で、しなければならない。」と定め、さらに、戸籍法29条33条76条、戸籍法施行規則57条が届出書の記載事項を定めるところに従い、協議離婚届けをします。ですから、協議離婚届けは、提出前に予めしっかり確認し、記載漏れ、誤記等のないようにしなければなりません。子がいる夫婦の離婚の場合、子の親権者には夫婦のどちらがなるかについての記載が重要ですが、そのような記載事項等の詳細については、こちらをご覧下さい。こうして、協議離婚は、協議離婚届けにより、その日に成立します。離婚届けには、成人の証人二人(以上)署名押印が必要です。上記の条文にあるように、離婚届けは口頭でも可能ですが、その場合、当事者二人と証人二人の計4人が出頭しなければなりませんし、各人の本人確認をした上、口頭で必要事項を述べなければなりませんから。時間がかかります。書面による届出は、本人が窓口に提出する(一人での提出が可能です)ほかに、郵送でも可能ですし、本人の使者として他人が提出することもできます。誰が提出するかを問わず、他人が提出する場合も、提出者の身分証明により誰が提出したかを明らかにし、他人の提出にかかるものであると判明した届出については(郵送による届出は、他人か否かを問わずすべて)、役所戸籍係から本人に受理(した旨の)通知が行くことになっています(戸籍法27条の2)。もし、他人が虚偽の届出をした場合は、公正証書原本不実記載罪(刑法157条)により処罰されることになり、離婚は無効です(この離婚無効の手続きはなかなか大変です)。虚偽の届出がなされるおそれがあるときは、役所戸籍係に予め不受理(の)申出をしておくと受理されずに済みます(戸籍法27条の2)。郵送された届書は、本人が死亡した後でも受理しなければなりません(戸籍法47条)。なお、裁判離婚届けについてはここちらをご覧下さい。また、婚姻中に懐胎・妊娠し、離婚後に生まれた子の関係については、こちらをご覧下さい。


裁判離婚

 この裁判離婚での離婚原因として、民法770条は、下記の紺色の四つ、①不貞、②悪意の遺棄、③三年以上の生死不明、④回復の見込みのない強度の精神病と、緑色の⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由の、計五つの事由を規定します。前四者を具体的離婚原因、後者を抽象的離婚原因と言います。また、うち紺色四つの具体的事由については、それが証拠により認定できても、裁判所がやはり婚姻を継続した方が良いと判断した場合には、同条の2項によって離婚請求を棄却することができるとされています。裁量棄却と言います。ですので、上記①から④の事由のいずれかに該当する場合であっても、いまだ婚姻が破綻したとまでは認められない場合、或いは、破綻していてもなお当該の離婚請求を認容すべきない事情がある場合もあることになります。つまり、
○ 具体的離婚原因①から④の事由にまつわる離婚判断には、まず、
  (一).①から④までの具体的離婚原因事実の有無に関する判断
次いで、
  (二). 離婚原因事実有りとして、それが「破綻」をもたらしているか否かの判断
そして、
  (三). 破綻しているとして、それでもなお離婚請求を認容すべきではない事情があるか否かの判断
 の三段階の判断を要することになります。
この(三).の判断によって請求棄却となるのが上記民法770条2項による裁量棄却です。
 そして、また、
 抽象的離婚原因
(婚姻を継続し難い重大な事由)が認定できる場合でも (条文の文言上請求棄却はあり得ないことですが、下記判例が判示したように) 事情によっては、
    
離婚請求が「信義誠実原則」に反すると判断されて棄却されることがあるとされます。
  これは、したがって、民法1条2項による裁量棄却ということになります。
 そして、これら裁量棄却の判断の場面では、その婚姻の破綻状況をもたらしたことについて責任のある配偶者が自ら離婚を求めることはできるかという、いわゆる有責配偶者の問題が起こります。


 ここで、上記⑤の婚姻を継続し難い重大な事由については、上記①から④までの各具体的事由にはあたらないが、婚姻に回復できない程の
「破綻」をもたらす重大事由のことであると解されています。そして、その「破綻」については、判例(最判62・9・2)が、「婚姻の本質は、両性が永続的な精神的及び肉体的結合を目的として 真摯な意思をもつて共同生活を営むことにあるから、夫婦の一方又は双方が既に右の意思を確定的に喪失するとともに、夫婦としての共同生活の実体を欠くようにな り、その回復の見込みが全くない状態に至つた場合には、当該婚姻は、もはや社会生活上の実質的基礎を失つているものというべきであり、かかる状態においてなお 戸籍上だけの婚姻を存続させることは、かえつて不自然である」、と述べていますので、「婚姻の破綻」とは、夫婦が、永続的な精神的肉体的結合意思を失い ( 私なりに言うと「終生的結合とその意志を失い」 ) 共同生活実体を失って回復見込みが全くない状態である、と言うことになります。
 そして、 上記⑤の「婚姻を継続し難い事由」つまり「婚姻の破綻」をもたらし得る具体的な事情としては、判例や類書に現れたものを拾ってみると、別居、配偶者に対する暴力行為・侮辱的言動、子に対する虐待、勤労意欲の欠如、浪費、借財、賭け事、稽古事・宗教等への常軌を逸した没頭、親族間融和に関する努力放棄、性交不能・同拒否、不貞にあたらない異性交遊、性格不一致、価値観の相違等々と、実に多種多様で枚挙に暇がありません。これらを、私なりに「(婚姻)
破綻誘因事由」と仮称することとしますと、これら破綻誘因事由は、極端な場合は別として、それ一つだけでは通常そうではないけれども、いくつかが合わさると「婚姻を継続し難い重大な事由」にあたり得るということになります。そして、それにより⑤号事由が認定できた場合、そこでこの場合も上記(三).と同様の判断を受けて、このときは民法770条2項によるのでなく、民法1条2項の信義誠実原則という一般条項によって、離婚請求の認容か棄却かが決せられることになります。
 以上まとめると、離婚裁判においては、具体的離婚原因による場合であれ、抽象的離婚原因による場合であれ、その根拠法条は異なるものであっても、いずれも上記
(三).あるいはそれと同様の裁量判断を要することとなり、その判断結果で棄却される場合は、770条2項によるか1条2項によるかの違いはあれ、いずれも「裁量棄却」と言えると考えます。したがって、次に判例が⑤の事由に関する判断基準として判示するところは、裁量棄却の判断基準として全離婚原因について適用してよいものと考えます。
 これらの裁量棄却にあたって考慮されるのは (「離婚請求裁量棄却事由」と仮称します)、上記破綻誘因事由のように婚姻におけ終生的結合自体にマイナスに働く事由ではなく、当該婚姻を取り巻く諸状況ということになりますが、例えば、上記昭和62年の判例は「
離婚請求は、正義・公平の観念、社会的倫理観に反するものであつてはならないことは当然であつて、この意味で離婚請求は、身分法をも包含する民法全体の指導理念たる信義誠実の原則に照らしても容認されうるものであることを要するもの といわなければならない。 」 として一般条項に遡っての判断になることを説示し、⑤の事由による離婚請求が有責配偶者からされた場合は、「当該請求が 信義誠実の原則に照らして許されるものであるかどうかを判断するに当たつては、 有責配偶者の責任の態様・程度を考慮すべきであるが、」と従来の論旨を確認して、次に、考慮すべき当該婚姻を取り巻く諸状況につき、相手配偶者の意思や感情、離婚による受ける 精神的・社会的・経済的状態を挙げた後、夫婦間の子、殊に未成熟の子の監護・教育・福祉の状況、別居後に形成されたそれぞれの生活関係も斟酌さるべきとし、 更には、時の経過による事情の変容、社会的評価の変化等の影響も考慮すべしと判示します。そして、「有責配偶者からされた離婚請求であつても、夫婦の別居が 両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及び、その間に未成熟の子が存在しない場合には、相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的 に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情の認められない限り、当該請求は、有責配偶者からの請求であるとの一事をもつて許されないとすることはできないものと解するのが相当である」 として、未成熟子の存在、或いは、相手配偶者が離婚により置かれる苛酷な状況等の特段の事情がある場合以外、有責者からのものであっても離婚請求が認容され得る旨判示し、その判断の際には「五号所定の事由に係る責任、相手方配偶者の離婚による精神的・社会的状態等は殊更に重視されるべきものでなく、 また、相手方配偶者が離婚により被る経済的不利益は、本来、離婚と同時又は離婚後において請求することが認められている財産分与又は慰藉料により解決されるべ きものである」と付言しています。 
 
以上によれば、上記昭和62年の判例は、離婚請求に裁量棄却事由が有りや無しやの判断は、当該婚姻を巡る諸状況における当事者の意思・感情、離婚により被る精神的・社会的・経済的影響、時間の経過による事情の変化等、広範かつ場合によっては長年月に亘る諸事情を踏まえて判断しなければならないが、離婚請求は、正義・公平の観念社会的倫理観に反するものであつてはならないので、当該離婚請求を認容することがそれらの諸事情の下で配偶者や未成熟の子に極めて苛酷な状態を招来することとなる等の特段の事情があって、著しく社会正義に反する結果となることはないか、或いは、離婚が有責配偶者からの請求にかかるものであれば、その責任の態様・程度が著しく重く、その者による離婚請求を認容することが著しく信義誠実原則に反する結果となることはないか、の判断にかかり、これらの点がない限り離婚請求は許されると要約することができ、また、合わせて、その判断に際しては、有責であること、相手配偶者の受ける不利益等は、離婚に伴う財産分与・慰謝料によって償われ得るから殊更重視すべきではないと説示しているものと言えます。
離婚原因私見
 なお、私はここで、離婚原因に一つを加えるべきことを提案します。「暴力」です。憲法24条1項は「婚姻は、・・夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならい。」とし、同条2項は、「・・財産権、相続・・離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。」と定めます。民法770条は、憲法の立法府への委託に基づき、離婚について具体化した規定ですが、配偶者に対する「暴力」は、「夫婦が同等の権利を有」して、「相互に協力」することとは真逆の姿勢であるし、「個人の尊厳と両性の本質的平等」を蹂躙する暴挙です。何故これを第一の離婚原因に挙げず、「婚姻を継続し難い重大な事由」中に忍ばせるような迂遠なスタンスをとるのでしょうか。暴力の非を直接非難せず、家庭内における暴力を一定程度は許容するかのごとき曖昧な態度は、家庭内暴力を助長し、ひいて、社会における暴力沙汰の蔓延、個人の尊厳の軽視・虐待やハラスメントに繋がっていくように思えてなりません。私は、夫婦の実質的平等のため家庭経済上の提言もしていますが、離婚原因の点でも憲法が立法に委ねた婚姻制度の具体化が、未だその委託の趣旨を十分貫徹できていないと思います。むしろ、家庭経済上の改革よりも「配偶者から暴力を受けたとき」を独立の離婚原因として掲げることの方が重要だと考えますが、如何でしょうか。


 裁判離婚


  「な、なぜ
770 なして (婚姻生活が) ノー770か分からねぇ

  「不貞
(悪意の) 遺棄(三年以上の) 生死不明(回復見込みのない強度の) 精神病

  やっていけない
大事(おおごと)(婚姻を継続し難い重大事由)

           あれば、
()判所が認めてくれるのさ。


  離婚なし得てマル
770るも、大事(おおごと)以外の理由なら

          
(一切の事情を踏まえて) 請求棄却もあり得るよ裁量棄却


 
 
  民法(770)裁判離婚(については)

     不貞
、遺棄、 生死不明精神病あっても

    
(婚姻を継続させるべき)事情あるならば、離婚(判決)なせと770わぬ也。

              「して」、「し得て」は、伊語の「セテ」、西語の「シエテ」から。


ここで、離婚原因関係の判例をご紹介します。

1. 初めに、「
不貞」関係の判例です。
 まず、配偶者による婚外の性関係がその相手の自由な意思によるものでなくとも、民法770条1項1号の「不貞」にあたる場合であるとした判例
(最判昭48・11・15)です。この判決は、「民法七七〇条一項一号所定の「配偶者に不貞の行為があつたとき。」とは、配偶者ある者が、自由な意思にもとづいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶことをいうのであつて、この場合、相手方の自由な意思にもとづくものであるか否かは問わ ないものと解するのが相当である。」と判示しています。
 次に、配偶者の不貞相手に対する慰謝料請求に関する判例
(最判平8・3・26)で、配偶者との婚姻共同生活の平和を侵害した不貞相手に対しては、不法行為に基づく損害賠償として慰謝料の請求をすることができるが、不貞のあった当時、配偶者との婚姻関係が既に破綻していた場合には、特段の事情のない限り、その不貞相手は不法行為責任を負わないと判示しています。この判決は、その理由として、「けだし、丙が乙と肉体関係を持つことが甲に対する不法行為となるのは、それが甲の婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害する行為というこ とができるからであって、甲と乙との婚姻関係が既に破綻していた場合には、原則 として、甲にこのような権利又は法的保護に値する利益があるとはいえないからで ある。」と述べています。
③ 
また、最近、不貞の相手方に対しては、上記の「不貞慰謝料」と言うべき損害賠償の請求が認められるとしても、通常は、いわゆる「離婚慰謝料」の請求はできないとする新たな判例(最判平31・2・19)が出ました。その要旨は、「夫婦の一方は,他方と不貞行為に及んだ第三者に対し,当該第三者が,単に不貞行為に及ぶにとどまらず,当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情がない限り,離婚に伴う慰謝料を請求することはできない。」というものです。
 この判決は、その理由として、「夫婦の一方は,他方に対し,その有責行為により離婚をやむなくされ精神的苦痛を被ったことを理由としてその損害の賠償を求めることができるところ,本件は,夫婦間ではなく,夫婦の一方が,他方と不貞関係にあった第三者に対して, 離婚に伴う慰謝料を請求するものである。 夫婦が離婚するに至るまでの経緯は当該夫婦の諸事情に応じて一様ではないが, 協議上の離婚と裁判上の離婚のいずれであっても,離婚による婚姻の解消は,本来,当該夫婦の間で決められるべき事柄である。 したがって,夫婦の一方と不貞行為に及んだ第三者は,これにより当該夫婦の婚姻関係が破綻して離婚するに至ったとしても,当該夫婦の他方に対し,不貞行為を理由とする不法行為責任を負うべき場合があることはともかくとして,直ちに,当該夫婦を離婚させたことを理由とする不法行為責任を負うことはないと解される。 第三者がそのことを理由とする不法行為責任を負うのは,当該第三者が,単に夫婦 の一方との間で不貞行為に及ぶにとどまらず,当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情があるときに限られるというべきである。」と述べています。そうしますと、問題の不貞行為と離婚との間に時の経過がある場合、通常の不貞行為であれば、離婚時からは不法行為による損害賠償請求の時効3年
(民法724条)が経過していなくとも、不貞時からは既に時効が完成していて請求権が消滅している場合があり得ることになります。また、不貞時からの起算で時効が未了であっても、不貞の場合、不貞配偶者と不貞相手の共同不法行為であって、その賠償責任は両名の連帯債務(民法719条)とされますから、いずれか一方が弁済をすれば、他方は被害者に対し責任を免れる(支払った者からの求償は残りますが)関係となります。ですので、不貞配偶者が離婚慰謝料(或いは、その趣旨も含む財産分与)として弁済を終えていれば、その場合も被害配偶者から不貞相手に請求することはできないこととなります。

2. 「悪意の遺棄」関係の判例としては、
  
婚姻関係が破綻したについて主たる責任があり、自らが招いた原因で配偶者による扶助を受けられなくなった者は、配偶者から民法770条1項2号の「悪意の遺棄」を受けたとは言えないとした事例判例(最判昭39・9・17)があります。 この判例の事例は、「上告人は被上告人の意思に反して上告人の兄D らを同居させ、その同居後においてDと親密の度を加えて、夫たる被上告人をないがしろにし、かつ右Dなどのため、ひそかに被上告人の財産より多額の支出をしたため、これらが根本的原因となつて被上告人は終に上告人に対し同居を拒み、扶助義務をも履行せざるに至つたという」もので、この事実は証拠によつて認められるとした上、「所論は、およそ夫婦の一方が他方に対し同居を拒む正当の事由がある場合においてもこれによつて夫婦間に扶助の義務は消滅することなく、依然存続するものであ り、従つてこれを怠るときは悪意の遺棄にあたるとの見解に立つて、被上告人の行為は上告人を悪意にて遺棄したものであると主張するのである。しかしながら、前記認定の下においては、上告人が被上告人との婚姻関係の破綻について主たる責を 負うべきであり、被上告人よりの扶助を受けざるに至つたのも、上告人自らが招い たものと認むべき以上、上告人はもはや被上告人に対して扶助請求権を主張し得ざるに至つたものというべく、従つて、被上告人が上告人を扶助しないことは、悪意の遺棄に該当しないものと為すべきである。」と判示しました。

3. 
(回復の見込みのない強度の)精神病罹患を原因とする離婚の判例としては、
 
不治の精神病に罹患した場合であっても、諸般の事情を考慮し、病者の今後の療養、生活等についてできるかぎりの具体的方途を講じ、ある程度において、前途に、その方途の見込のついた上でなければ、ただちに婚姻関係を廃絶することは不相当と認めて、離婚の請求は許さない法意であると解すべきであると、民法770条2項が規定する裁量棄却の法意を判示した判例(最判昭33・7・25)※、と
 不治の精神病のケースであっても、妻の実家が夫の支出をあてにしなければ療養費に事欠くような資産状態ではなく、他方、夫は、妻のため十分な療養費を支出できる程に生活に余裕がないにもかかわらず、過去の療養費については、妻の後見人である父との間で分割支払の示談をしてこれに従つて全部支払を完了し、将来の療養費についても可能な範囲の支払をなす意思のあることを裁判所の試みた和解において表明し、夫婦間の子をその出生当時から引き続き養育している等判示事情の下では、民法770条2項によって離婚請求を棄却すべき場合には当たらないとして、上記裁量棄却の
法意の具体例を示した判例(最判昭45・11・24)があります。
なお、この判例は、心神喪失の常況にある旧法時の「禁治産者」、今の被後見人にあたる者を当事者とする離婚訴訟について、「
離婚のごとき本人の自由なる意思に基づくことを必須の要件とする一身に専属する身分行為は代理に親しまないものであつて、法定代理人によつて、離婚訴訟を遂行することは人事訴訟法の認めないところである。人事訴訟法第四条は、後見監督人または後見人が禁治産者の法定代理人としてその離婚訴訟を遂行することを認めたものではなく、その職務上の地位に基き禁治産者のため当事者として右訴訟を遂行しうることを認めた規定と解すべきである。」と判示しています。原審が、当該訴訟の裁判長において、その訴訟限りで代理権を有する民事訴訟法上の特別代理人(現行の民訴35条)の選任によった点を、不適切であったとする理由として、禁治産者(現在の被後見人)の離婚訴訟には代理は馴染まないことを述べたものですが、現行の人事訴訟法14条にも「人事に関する訴えの原告又は被告となるべき者が成年被後見人であるときはその成年後見人は、成年被後見人のために訴え、又は訴えられることができる。」とあり、判文の言うように、ここでの成年後見人は「法定代理するものではなく、職務上の地位に基づく当事者である」と理解すべきこととなります。婚姻、離婚、嫡出否認、認知、養子縁組、離縁等の人事事件を扱う人事訴訟では、財産行為に関する行為能力の制度は適用されず、意思能力があれば訴訟ができますから、成年被後見人も意思能力のある限り訴訟行為をすることが可能ですが、「事理を弁識する能力を欠く常況にある(民法7条)ことを踏まえ、上記のように成年後見人による訴訟遂行の途が設けられています(人事訴訟法14条)。他方、通常の民事訴訟では、法定代理は原則として民法の定めに従うとされている(民訴法28条)ので、後見人は、被後見人のために法定代理人として訴訟行為をすることができます。なお、未成年者の人事訴訟事件で親権者が訴訟行為にあたる場合については、判例が「法定代理」であるとしている点については、こちらをご覧下さい。

4. 民法770条1項5号の事例としては、夫の性交不能を以て「
婚姻を継続し難い重大な事由」ありと認めた最判昭37・2月6日があります。

5. 「婚姻を継続し難い重大な事由」による離婚請求が、いわゆる
有責配偶者からのものである場合についても、触れておかなければなりません。
 最高裁判所においては、昭和62年まで、婚姻が破綻するに至るについて、
離婚原因をもたらした責任の有る当事者からの相手配偶者に対する離婚請求は原則認められないとされていました。昭和27年のいわゆる「踏んだり蹴ったり判決(最判昭27・2・19)が有名です。判文中で、有責配偶者からの当該離婚請求について、「結局上告人が勝手に情婦を持ち、そのため最早被上告人とは同棲出来ないから、これを追い出すということに帰着するのであつて、もしかかる請求が是認されるならば、被上告人は全く俗にいう踏んだり蹴たりである。法はかくの如き不徳義勝手気儘を許すものではない。」と判示しています。
 そして、昭和38年には、婚姻関係の破綻について「専ら又は主として責任のある当事者からは離婚を請求することができない」とするのが相当であるところ、上告人には、妻に満足な生活費を渡さず、頻繁に外泊に及ぶ等婚姻維持のための努力をしたとは認められない事情があるとは言え、被上告人の不貞行為を認定しながら、上告人にはその不貞に至るについての大部分の責任があるとして、その離婚請求を棄却したのは審理不尽であるとして、原判決を破棄差戻した判例
(最判昭38・6・4)が出ました。つまり、この事案では、反対解釈をすれば、「専ら又は主として有責でなければ、有責者からの離婚請求も認められ得るということが示されたことになりますし、又、どちらが「専ら又は主として有責」なのかという判断場面の一例を示すこととなった訳です。このどちらが責任が重いのかの判断は、事案により微妙で難しい判断となりますが、この判例は、「妻の身分のある者が、收入をうるための手段として、夫の意思に反して他の異性と情交関係を持ち、あまつさえ父親不明の子を分娩するがごときことの許されないのはもちろん、被上告人と同様、子供を抱えて生活苦にあえいでいる世の多くの女性が、生活費をうるためにそれまでのことをすることが通常のことであり、またやむをえないことであるとは、とうてい考えられないのである。」として、控訴審が、妻が不貞に至るについて「大部分の責任」があるとした夫たる上告人には、貞操義務に違反した妻に比べ、「専ら」或いは「主として」の責任があるとまで言えるか否か、さらに審理を尽くすよう差し戻したことになります。
 昭和62年になると、民法770条1項5号所定の事由による離婚請求については、条文上は同条2項による裁量棄却の余地がないとはいえ、同事由につき
専ら責任のある有責配偶者から請求された場合は、当該請求が信義誠実の原則に照らして許されるものであるかどうかを判断するべきであり、判断するに当たつては、夫婦がその年齢及び同居期間と対比して相当の長期間別居し、その間に未成熟子がいない場合には、相手方配偶者が離婚によつて精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情のない限り、有責配偶者からの離婚請求を、その「一事をもって許されないとすることはできない」として、36年間別居していた夫婦の離婚を認めて、判例を変更する大法廷判決(最大判昭62・9・2)が出ました。そして、その後、この判例の趣旨を踏まえた判決(最判平16・11・18)も出され、当該事案について、「有責配偶者である夫からの離婚請求において,夫婦の別居期間が、事実審の口頭弁論終結時に至るまで約2年4か月であり、双方の年齢や約6年7か月という同居期間との対比において相当の長期間に及んでいるとはいえないこと、夫婦間には7歳の未成熟の子が存在すること、妻が、子宮内膜症にり患しているため就職して収入を得ることが困難であり、離婚により精神的・経済的に苛酷な状況に置かれることが想定されることなど判示の事情の下では、上記離婚請求は、信義誠実の原則に反するものといわざるを得ず、これを認容することができない。」と判示しています。

裁判離婚届
 判決で離婚が確定したときは、原告となった者は10日以内にその旨の離婚届けをしなければなりません。調停や審判等で離婚が成立したときも同様で、手続きを起こした者が成立した手続きを明示して届けます(戸籍法76条77条63条、戸籍法施行規則57条Ⅱ、家事審判手続法268条287条)。訴えや手続きを起こした者が定められた届出をしないときは、その相手方からも届出することができます(戸籍法77条63条Ⅱ)。前記10日の期限は、それを過ぎてしまったからといって届出ができなくなる訳ではありません。その日を過ぎると、相手方からも届出が可能となる基準日ということになります。


協議離婚

 
上記「離婚の手続き」で述べましたように、日本の離婚制度は、夫婦の合意に基づく協議離婚を原則とし、これについては特に離婚の理由・原因を定めることをせず、当事者の合意に委ねられていますから、「性格の不一致」でもよい訳です。離婚意思の合致による離婚合意が調いさえすれば、成人二人の証人の協力を得て、夫婦二人で離婚届けに署名・押印し提出することにより、離婚は有効に成立します(民法763条)。但し、結婚に婚姻の障碍事由があるように、離婚にもその件をクリアしないと離婚届けを受理して貰えない事由があります。子供がいる夫婦の離婚の場合の親権者の指定(§819Ⅰ、戸籍法76条)です。夫婦の話合いでどちらが子の親権者となるか決まらない場合は、家裁での親権者指定の調停又は審判(§819Ⅴ)で親権者を決めた上での離婚届けという運びとなります (→「子供が居る夫婦の離婚」) 。また、離婚届けが受理されたからと言って、「離婚の手続き」で触れました「真に法律上の婚姻関係を解消する意思」がなかった場合には、離婚は無効となります(§742§802からの類推解釈)。離婚無効について、こちらをご覧下さい。

離婚意思 また、下記の方便離婚に関する判例(最判昭38・11・28昭57・3・26)は、いずれも、離婚の届出が、戸主の地位を他方に与えるため、或いは、生活扶助を受けるための方便だったとしても、真に法律上の婚姻関係を解消する意思の合致に基づいてされたものであるときは、協議離婚は無効とはいえない旨判示しています。判例(最判昭44・10・31)が、婚姻意思については、かなり実質的に、真に社会観念上夫婦であると認められる関係の設定を欲する効果意思が存在することが必要である旨判示しているのに対し、こちらの離婚意思では形式的に捉えていると指摘されてもいます。

離婚と時間的制約
 
親権者指定は、法によって離婚と合わせて決めねばならない、離婚届けの受理要件ですが、事実上同様に考えるべきものに財産分与が(§768)あります。もし、二人で築いた財産があるのなら、それを分けて貰うのが当然ですから、協議離婚・裁判離婚のどちらであっても離婚と同時に財産分与も合わせて解決しておくべきです。法の建前は、必ずしも同時でなくともよく、後から請求することもできるのですが、後からと思って後回しにしてしまうと、財産分与請求権は2年で消滅します(§768Ⅱ)から、気付いたら請求できない事態となることが多いのです(条句)。離婚に伴い、住まいはどうするのか、職場・通勤の変更とか、自分の戸籍はどうするか、「氏」は復氏か、婚氏続称か、年金分割はどうするのか、子供の幼稚園・学校はどうなるか、或いは、子の養育費・子との面会交流等も決めねばならない等と、数々のハードルが待ち構えます。2年という年月はその気ぜわしさの中であっという間に経過してしまうからです。子の養育費は、これも必ず合わせて請求しなくともよい建前ですし、これは、養育費が必要な事態があるときは、子が成人するまでは(場合によっては、大学を卒業するまで)請求できますが、離婚即必要であれば、財産分与と合わせて請求するべきです。「子供がいる夫婦の離婚」を合わせてご覧下さい。

  
  (夫婦) 破綻、 () 763なら協議によって

          
南無三(なむさん) 763離婚るか

  夫婦平等破綻瀬揉み763対等自由意思ぶつけ

           
離婚合意成立協議離婚ができる


   バイク819夢中息子には

         
協議離婚裁判離婚認知その他の場合によって

     
子供いるのに離婚なら)親権以降819どうする

         どちらが
つか、親権(真剣)俳句
819

             

    
協議離婚一環、親権()協議不調なら
                      
家裁調停いで審判




  方便離婚()法律上 () 婚姻関係 解消 意思合致 すれば

     
(離婚合意はありとされ) ()難も散763じて(離婚)有効となる



 ヤレ
802離婚するも(離婚) 合意 がなくば無効

         離婚ナシに742婚姻続

     
                 §742は婚姻の無効に、§802は縁組無効に関する規定

    がねば財産分与

     
離婚して二年なるや
768

      分
けてえぬ
 (請求権が消滅して行使できなくなる)


離婚能力
詐欺・強迫による離婚離婚の取消し
 
 離婚も、婚姻同様、人の身分行為ですから、財産行為に関する後見・保佐・補助等の、行為能力による制約を受けることがありません。したがって、離婚能力という点では、離婚時に本人に意思能力があり、離婚の意味内容や結果についての認識と理解さえあれば
(そもそも、婚姻能力があった末の、離婚問題ですから、能力面の精神状況に変化がなければ能力的問題はない筈です)、離婚は成立し得ます。ですから、たとえその人が後見人の後見を受ける被後見人であっても、離婚時に「真に法律上の婚姻関係を解消する」ことについての判断ができる意思能力があれば、後見人の同意を要せずに、離婚をすることができます(民法764条738条)。また、離婚が詐欺・強迫によるものであった場合は、詐欺・強迫による婚姻と同様に、詐欺が判り、強迫を免れた後3か月以内に請求すれば、離婚の取消しができます(764条747条)。但し、詐欺・強迫による離婚が取消請求により取り消されたときは、婚姻取消しの効果が遡及しないと定められている(民法748条)のとは対照的に、離婚は、(取消効が)遡って、なかったことになり、婚姻が続いていることになります。取消効を遡らせないと、婚姻のない空白期間ができて法律関係が処理不能になるので、解釈上当然とされています。なお、被後見人の身分行為に関する訴訟での訴訟能力について、こちらもご覧下さい。また、婚姻能力、詐欺・強迫による婚姻の取消しの項もご覧下さい。


     (成年) 被後見() (精神の)波は 738あっても 静まって

     
意思持ち協議ができるなら (後見人の同意不要)

       
難避く739 (証人二人)整えて花と散ろうよ764

      
離婚となるが

       
(離婚に)詐欺強迫があったなら三月(みつき)内に

           離婚はナシな
747取消請求できる也



 



 当事者間に離婚の合意がないまま協議離婚届けがされた離婚は、離婚無効確認の判決等を待つことなく、当然に無効である旨を判示した判例(最判昭53・3・9)があります。但し、この場合、第三者から離婚を前提とした主張をされたときは、取消しの裁判等を経ることなく離婚の無効を主張できますが、戸籍上の離婚の記載を訂正しなければなりませんから、その場合は離婚無効の手続きを執らなければなりません。こちらをご覧下さい。




協議離婚届
 
離婚届については、婚姻届の民法739条が準用される(764条)ので、婚姻時と同様に成人の証人二人の署名・押印が必要です。親権に服する子がいる場合、届書に、離婚後 夫婦のどちらが親権者になるかを記載しなければなりません(民法819条)。この親権者指定を欠く離婚届は受理されません(765条1項)が、それにも拘わらず受理されてしまったときは、そのために離婚の効力が妨げられることはありません(765条2項)婚姻は重要な各種の効力を伴うので、障碍事由の定めに反するに拘わらず受理されてしまった場合、婚姻取消しとなる訳ですが、離婚は、婚姻の解消が将来に向けて生じるだけなので、その身分行為の核心である離婚意思の合致を重んじて、離婚の効力は維持されます。離婚届けはされたが、当事者の一方にでもその意思がなかった場合は、離婚無効となります。また、離婚の効果として、結婚の際に氏を改めた方が「籍を抜いて」復氏するのが原則(民法767条1項)で、その場合通常「実家の籍」に戻ることになりますが、旧姓での「新しい戸籍」を作ることを希望する場合は、離婚届の「婚姻前の氏にもどる者の本籍」欄に新しい本籍地を記入し、合わせて同欄の中の、「新しい戸籍を作る」にチェックを入れます。復氏をせず、婚氏続称をする場合は3か月以内に役所に届けることになります(婚氏続称届け)。子がいる夫婦の離婚の関係はこちらを、その内「子の氏の変更」の関係はこちらをご覧下さい。書式・内容が整っていれば、離婚する二人の内どちらからでも、協議離婚である旨を記載して、一人で届け出ることができます(戸籍法76条、戸籍法施行規則57条1項)。届書は、法務省のホームページ内でその書式・記載例がご覧頂けます。離婚の手続き全体についてはこちらをご覧下さい。
 離婚届けについては、届書作成当時は離婚の意思があったが、その後届出までの間に翻意した場合の離婚届けの効力如何という点に関する判例
(最判昭34・8・7)があります。「右飜意を市役所戸籍係員に表示しており、相手方によつて届出がなされた当時、離婚の意思を有しないことが明確であるときは、相手方に対する飜意の表示または届出委託の解除の事実がなくとも、協議離婚届出が無効でないとはいえない。」として、協議離婚は無効である旨判示しています。



   難作739協議ようやくえて、証人二人伴えば、

             
けができて、るよ764


(離婚届けの受理)

  戸籍係は、離婚さく739証人(二人、署名・口頭)

   チェック
きく()()765にならぬよう

  
親権以降819どちらか 確認し、その法令違反有無も、

      調
べなければ受理できぬ。調べ足りずに受理あれ

      
戸籍係の難務功765 離婚届けはなんと 有効

  
受理要件 反す届も受理あればことは容易さ813離縁 有効

§739は婚姻の届出に§819は離婚の際の親権者に、§813は離縁届けの受理に関する規定


 
     調りずに受理あれ

        
戸籍係
難務功
765 離婚届はなんと 有効

 
    調りずに受理あれば
       
         ことは
容易813離縁 有効



     ヤレ二
802人、離婚の届が存するも

       
意思ナシならば無効

            離婚はナシに
742婚姻続く(類推適用)


法テラス
 なお、離婚について夫婦間の話し合いがつかず、それでも離婚を希望する場合には、まず、家庭裁判所に、調停申立てをし、調停も、相手が応じてくれず、或いは、不成立となった場合は、同じく家庭裁判所での訴訟で裁判離婚を求めることになりますが、このような調停、裁判等の法律手続きや、その他法律問題を巡る情報等を身近にアドバイス、相談してくれる(国が設立した)法テラス(司法支援センター)の利用も検討してみて下さい。手続費用等の負担が経済的に困難な方には扶助の制度も用意されています。その他、支援相談等についてこちらもご覧下さい。
 家裁での調停
(裁判の前に必ず調停を経なければなりません)等手続きのあらましについては、こちら、調停申立ての書式や費用等に関しては、こちらをご覧下さい。
 手続きのどの段階でも、何事も主張を裏付ける
証拠が問われることになることをお忘れなく。また、家族生活のルールである家族法の基本原則(民法1条)やその解釈の基準である個人の尊厳と両性の本質的平等(2条)が、裁判はもとより、家族生活の全ての面での指針となることも忘れないで下さい。そして、夫婦間の問題については、本ホームページ冒頭の「同居・協力・扶助の義務」、また、子がいる夫婦の離婚の場合は、本ホームページの「子供がいる夫婦の離婚」をご覧頂きたいと思いますが、子供たちについては、「全て児童は、適切に養育されること、その生活を保障されること、愛され、保護されること、その心身の健やかな成長及び発達並びにその自立が図られることその他の福祉を等しく保障される権利を有する。」(児童福祉法1条)と法に定められていることを銘記してください。


 
離婚の効果

 ここから、協議離婚の効果に関する民法766条から769条について、個々に見て行きますが、まとめて羅列してみると、子の養育費監護権者面会交流等の監護に関する事項
(民法766条)、離婚に伴う氏に関する事項(民法767条)財産分与(民法768条)祭祀承継(民法769条)となります。そのうち、離婚復氏の関係について、見てみますと、婚姻によって「夫婦同氏」 (民法750条) となって、戸籍も同じ ( 戸籍法6条) となった夫婦が、離婚する場合は、婚姻によって氏を改めた方が、婚姻前の氏、いわゆる旧姓に復し ( 民法767条1項) ( 「離婚復氏」と言います ) 、また、戸籍も、婚姻前の戸籍に戻ります (戸籍法§19Ⅰ本文) が、但し、その戸籍が既に除かれているとき、又はその者が新戸籍編製の申出をしたときは、新戸籍が編製 されます(戸籍法§19Ⅰ但書)。 いずれにしても、別氏・別戸籍となるのが原則ですが、離婚の日から3か月以内に市町村役場の戸籍係へ届け出ることによって、離婚の際に称していた氏(婚氏)を称することができます(民法767条2項、戸籍法§77の2)。これを「婚氏続称」と言います。しかし、これはあくまで呼称としての氏がその侭となると言うことであって、戸籍が婚姻時の戸籍の侭と言うことではありません。民法の氏に関するこれらの規定は裁判離婚にも準用されます(§771)。離婚に伴う「氏」の関係は、この後、「子供がいる夫婦の離婚」の中の「子の氏の変更」においても述べてみたいと思います。婚氏続称届けについてはこちらをご覧下さい。
 その他の効果については、各条句中にある下線の付いた言葉を、クリックしてご覧下さい。


   背
には
728縁切(姻族終了)

   名務(なむ))して767   (名について一仕事(造語)して、離婚に伴って復氏、希望により婚氏続称

   稚(ろう)766事項   (子の監護・面会交流・養育費

    親権
以降
819どちらか親権〔真剣〕俳句819  (親権者を定める)

     
離婚復氏 (子と異氏となって)くれ
790 子の氏 変更§791許可要

    (離婚する)せい婿むこ769(結婚して姓を変えた婿さん(造語)) 769難問768

                                 
祭祀承継財産分与


上記の内、離婚に伴う復氏(戸籍法§19Ⅰ)と(復氏せずに)婚氏続称(同法§77の2)に関する民法767条の条句です。


  離婚してもな767 Ⅰ

  氏 (かえ)るも、復氏をば、嫌う妻夫なら、

   名務
して767離婚後三月(みつき)

    届
()
でれば婚氏続称「して」は、7の西語「シエテ」、伊語「セッテ」から




離婚無効

協議離婚無効確認調停
 婚姻は、届け出ることによってその身分行為が完成して成立し、それに伴い重要な各種の効力が発生しますから、その受理には、障害事由の有無の審査が重要です。しかし、この身分関係を解消する離婚については、親権者の定め等の要件を具備し、離婚意思の合致があり、届出が受理されれば、離婚は有効に成立します。この効力は、婚姻の解消が将来に向けて生じるだけなので、詐欺・強迫による離婚は後から離婚取消しの裁判の余地が残りますが、そうでないものは、その身分行為の核心である離婚意思の合致を重んじて、その余の点に関する受理審査にミスがあっても、離婚の効力は妨げられません(765条2項813条2項)。但し、離婚意思の合致がなかった場合は、その離婚は当然に無効ですから、第三者から離婚を前提とした主張をされたときには、離婚取消し裁判を待つことなく、無効の主張で対抗できます。この点に関しては根拠法条がありませんが、婚姻無効に関する742条が類推適用されるとされ、これに沿う判例(最判昭53・3・9)もあります。判文では同条を挙げていませんが、参照条文として同条が記載されています。
 当然無効とは言え、戸籍に存在する離婚の記載を訂正
(戸籍の記載が、不適法又は真実に反するとき真正な身分関係に一致させるよう是正すること) しなければなりませんから、その戸籍訂正のためには、その離婚が意思の合致がない故に無効であると確認する裁判を経なければなりません(戸籍法116条)。しかし、裁判所では、調停前置主義という原則(家事事件手続法257条)があるので、まずは家裁で調停に付されることとなり、当事者間で合意に達すると合意に相当する審判がなされます(家事事件手続法277条)。調停が不成立で終わると、同じ家裁での人事訴訟離婚無効確認の訴え(人事訴訟法2条1号)で争うことになります。こちらもご覧下さい。
 離婚無効の効力としては、遡って離婚はなかったことになるので、婚姻は途切れることなく継続していたことになります。


    ヤレ二802人、離婚の届が存するも

       
意思ナシならば無効

            離婚はナシに
742婚姻続く(類推適用)


§802は、縁組無効に関する規定



姻族関係終了届
 
姻族関係は、結婚によって配偶者の親族との間に生じる親族関係です。ですので、その配偶者と離婚すると、それに伴って姻族関係も当然終了します(民法728条1項)
 配偶者と
死別した場合には、遺された配偶者と亡くなった方の親族との姻族関係はそのまま継続し、ですので、扶養義務の関係もそのまま続きます ( この場合の扶養義務は、いわゆる審判義務ですから、必ず義務を負うことになる訳ではなく、また、その義務の程度は、「生活扶助」で足りるとされています ) 。しかし、この姻族関係は、戸籍係に姻族関係終了の意思表示を届けることにより終了することができます(民法728条2項、戸籍法96条) し、それとは関係なく、旧姓に復する「復氏(民法751条、戸籍法95条)もすることができます。ですので、例えば、連合いの亡くなった後も、義父母の家業に貢献したり、その介護・看病等に尽くした長男の嫁が、義父母の死亡の際も、遺言によって報われるときは別として、相続上何も報われない結果となって気の毒であるとされ、世上、姻族関係終了を勧める傾きもありました。しかるところ、平成30年の相続法改正により、そのような場合を想定して、被相続人の生前に、無償で療養看護その他の労務を提供したことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした」親族に対し、その寄与に報いるべく、特別寄与料」の制度が設けられました。ですから、連合いの死後も、義父母との姻族関係を保つことの情の一助となる制度がやっと実現したと言えると思います。特別寄与料の関係は、こちらを、遺言の関係はこちらを、ご覧下さい。



   姻族関係 離婚によって終了するも

   
〔離婚せず配偶者と死別〕げて

    
(つま)(妻)亡き後もオヤ(義父母)を看る浪花728節派

   ‘
には
728縁切せこい
751

   
(姻族関係)
終了(の意思表示をするか、又は、(ふく)(うじ)、いずれも)

                      いずれも
意思次第



大昔の日本では、妻から(時には第三者からも)夫を「つま」と呼んだことがあるそうです。ちょっと
語法が違いますが、お許し下さい。〔〕内を読むときは、ここでは、韻の関係で「ふくうじ」と読みます。




     離婚
(によって)(族関係)()
あるや
728

      親
(なぞ)
735間柄 (ゆえ)

      離散後
735も直(系)(族)間は婚ならじ

          
「7」を形の類似から「り」と読む。




祭祀承継
 
仏壇・仏具等の祭祀財産は、相続対象となる一般の財産とは別扱いで、「祭祀主宰者」に引き継がれることになります。したがって、相続の場合は遺言等による祭祀主宰者の指定があればそれにより、そうでなければ慣習により、慣習が明らかでなければ裁判所が決めるとの定め(民法897条)がありますが、その他の離婚(769条)や離縁(817条)等のときも、その離れる人が祭祀主宰者であった場合、その地位をバトンタッチするための協議をして、誰が次の祭祀主宰者になるかを決めなければなりません。いずれの場合も、決められない場合は、家庭裁判所が審判で決めることになります。これら各所にひっそり?付随的に配された祭祀承継条項は、大戦後の「家」制度廃止のための民法改正の際、改革派・抵抗派のせめぎ合いの結果妥協の産物的に残された旧制度の残滓であると指摘されています。慣習による「祭祀主宰者」の存在や、「家」を継ぐための婚姻、縁組を前提として、これに国家が関与するかの制度自体も、今や時代に相応しくないものと化しているのではないでしょうか。祭祀財産の一般財産との別扱いは良いとしても、上記各機会に必ず決めねばならない理由も必要もないように思われ、祭祀主宰者に関する遺言や指定がない場合も、慣習を探ってそれによるなどというのは迂遠な感を免れません。相続と一体不可分の事柄として、祭祀財産の承継者を、(離婚・離縁に伴う復氏の際は無関係とし、相続のときだけ) 相続人間での協議に委ね、祭祀に伴う葬祭や法要等も、その負担分を相続財産から賄いつつ協議で定まる承継人が将来に亘って担うこととし、協議ができない場合は、家裁で相続と一体で決めることとしては、と思います。祭祀財産の中核である墓については、全て寺院等との墓地(或いは墓施設)使用契約等での契約条項によって、墓参、法要関係、納骨や合葬、永代供養への移行等々がなされていけば良いのではないでしょうか。要は、人の宗教心ないし信仰にかかわる事柄には、法や国家は関わるべきではなく、法が立ち入る場面を限る意味で、離婚・離縁の際は関知せず、相続の際だけ、祭祀財産について、相続に付随するが、それとは別に、必ずしも相続ルールに縛られることなく別のルールで、承継をサポートするというコンセプトで如何でしょうか。
 また、今は、死後の墓参り等に子孫を煩わしたくない、或いは夫やその親たちと同じ墓には入りたくないとして、墓を望まない人が増えているとも言われます。他方、樹木葬、散骨、さらにはIT化したロッカー式のもの、はた又、宇宙葬まで登場するようで、故人の送り方や自身の逝き方を求め、或いは、故人を偲ぶ拠り所を求める願いに応えるべく種々宣伝されたりしています。地域の紐帯や絆が崩壊しつつあって、危機に晒されていると言われる伝統的な寺院等の側でも、古来の「家」制度を前提とするような承継原則を軟化させつつあるようですから、祭祀承継は、今混沌とした過渡期・流動期にあると思います。いずれにしても、墓は、人の終末をきちんと納める大事な場所ですし、故人を偲ぶよすがを欲する人には欠かせないものとして、世界共通の、伝統的な民俗ですから、やがては、IT化した時代にも適応し、人の自然の感情にも即したものに収斂して、それが人々に普及、定着していくのではないでしょうか。それにしても、普通に両親の元で育ち、両親を看取り見送った子供たちは、両親を両親として一緒に偲びたいというのが通常の感情でしょうし、婚姻生活を遂げた夫婦は共白髪を越えた
永久(とわ)の眠りの場所も共にしたいでしょうから、代々連綿と続く「家」のための墓は不自然かつ束縛感が伴うので採り得ないとしても、一つの終生的貞操結合の存在の証として、一つの墓で両親を偲ぶことができる「夫婦(めおと)(はか)」は残されて良いのでは、と思います。これによって融合創一で始まる夫婦の長い道のりが「融合葬一」で完結すると思いますが、如何でしょうか。


  
婿
りで姓改めた(せい)婿(むこ)
769

       
離婚()()
769南無(なむ)() 769あり

     
祭祀財産
(仏壇仏具) 協議によってめねばない

             協議
できねば家裁が決める




   改姓養子
祭祀

     
いでいた場合な
817

    
 離縁
(離婚)南無矩
769準用

     協議
祭祀者廃置
817する

         協議不調
家裁




   続人勝手くな897 仏壇仏具祭祀財産

      
遺言 には慣習祭祀主宰者
(に指定された者が)それを



     
()なく慣習不明弱音くな897
  
(遺言なくとも黙示でも口頭だけでも書面でも)なんらかの指定があれば、
       それに
り、だめなら家裁
(主宰者を)める




     
仏壇仏具()
祭祀()
         
(
祭祀)主宰者要る故その承継

           
離婚時769離縁時廃置
817ってもくな897

             
(主宰者を)めねばない

    
§817は離縁による復氏の際の祭祀承継に、§897は相続に伴う祭祀承継に関する規定





財産分与 民法は768条1項に、「協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。」との規定を置き、同条の2項に「前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、協議のときから二年を経過したときは、この限りでない。」としていますが、財産分与が如何なる性質のものなのか、どう分けたら良いのかという点を明示していません。同条の3項を見ても、「前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。」とあるだけで、分与の指針や基準となるものを示してくれていません。 それで、結局、判例でその辺りを探ることになります。 ( 裁判所での手続きについてこちらをご覧下さい。)
 
判例(最判昭46・7・23)は、要約すると下記①~④のように述べ、

 財産分与と離婚慰謝料とは性質が違うものの、財産分与には慰謝料請求を含めることもできること慰謝料を含めた財産分与があって、さらに離婚慰謝料の請求があった場合、財産分与中での慰謝料の額及び方法が離婚による精神的苦痛を慰謝するに足りないと認められるときは、財産分与があったことの一事を以て慰謝料請求権が消滅するものではなく、別個に慰謝料請求をすることができる旨を判示しました。
 ① 離婚慰謝料は、相手方の行為により離婚をやむなくされた精神的苦痛を理由としてその損害賠償を求めるものなので、そのような損害は、離婚の成否がいまだ確定しない間は知り得ないものであり、相手方が有責と判断されて離婚を命ずる判決が確定するなどしたときにはじめて、離婚に至らしめた相手方の行為が不法行為であることを知り、かつ、損害の発生を確実に知つたこととなるのだから、その時効も、不法行為と同じく、離婚が確定した後三年(§724)となる。
 ② 他方、
財産分与は、夫婦が婚姻中に有していた実質上共同の財産を清算分配し、かつ、離婚後における一方の当事者の生計の維持をはかることを目的とするものであつて、分与を請求するにあたりその相手方たる当事者が離婚につき有責の者であることを必要とはしないし、その時効は、離婚後二年と定められている(§768Ⅱ但書)。
 ③ このように、財産分与の請求権は、離婚をやむなくされ精神的苦痛を被つたことに対する慰藉料の請求権とは、その性質が異なるけれども、財産分与については、当事者双方における一切の事情(§768Ⅲ)を考慮すべきものであるから、分与の請求の相手方が離婚について有責であつて、精神的損害を賠償すべき義務を負うときには、右損害賠償をも含めて財産分与の額および方法を定めることもできる。
 ④ 財産分与として、上記のように損害賠償の要素をも含めて給付がなされた場合には、さらに請求者が相手方の不法行為を理由に離婚そのものによる慰謝料の支払を請求したときに、その額を定めるにあたつては、右の趣旨において財産分与がなされている事情をも斟酌しなければならない。しかし、財産分与が損害賠償の要素を含めた趣旨とは解せられないか、そうでないとしても、その額および方法において、請求者の精神的苦痛を慰藉するには足りないと認められるものであるときには、すでに財産分与を得たという一事によつて慰藉料請求権がすべて消滅するものではなく、別個に不法行為を理由として離婚による慰藷料を請求することを妨げられない
 慰謝料請求が、財産分与とは別に請求される場合は、財産分与の方で慰謝料請求の理由となる事情がどの位考慮されているかによって、慰謝料の額の多い少ないが決まることになります(上記判例)。また、財産分与と慰謝料請求を二本立てで同時に請求する場合には、財産分与の方では損害賠償面を考慮するべきではないとする判例(最判昭53・2・21)もあります。

財産分与の基準
 
 上記のような判例を踏まえ、一般に、財産分与には、名義が夫婦何れにあるとしても、実質は夫婦共同の財産であるものを清算して分与するという
清算的側面と、婚姻中の役割分担による生活力の低下を補って、離婚後独力で生活を立て直すために分与する扶養的側面(民法752条、夫婦間の扶養義務)、離婚に至らせた責任のある配偶者に離婚による精神的苦痛を賠償請求(民法709条)するための慰謝料請求的側面、という三つの側面があり、それらを根拠付ける一切の事情を踏まえて(上記判例)、分与する額や方法が決められる、とされています。
 しかし、
慰謝料は、本来、終生的結合である筈の婚姻を不法に破綻させ、伴侶を悲しませた者としての、伴侶の精神的苦痛に対する損害賠償責任ですから、それは財産分与とは別の事柄です。別の事柄である財産分与と慰謝料が一緒くたになったときの対処法は心得て置かねばなりませんが、財産分与本来のあり方は、「婚姻」のところでも述べました様に、終生の伴侶であることを約したことに伴う責任として、生涯の生活に資するべくその時点での財産の半分を分与するということです。これは、配偶者に対する法定相続分が半分 ( 子供がいる場合半分ですが、配偶者以外相続人がいない場合は、配偶者が全財産を相続します ) であり、会社員・公務員の専業主婦に対する年金分割が半分である(下記ホームページ①)ことによっても裏付けられています。ですから、夫婦別産制の下、それぞれに固有財産があるとしても、離婚時点での夫婦の共有財産はもちろん固有財産をも含めた全財産の半分を分与するのが離婚に際しての財産分与であるとするのが、婚姻の余後効たる財産分与の本質から来る分与基準であると言えます (私見)。添い遂げて、配偶者が亡くなって(子と共に)相続するに際しての法定相続分は、正に固有財産の半分を承継取得することになるのですから 。
 この財産分与には、ですから婚姻を破綻させた責任の要素は何ら含まれていません。離婚時点での全財産を端的に半分ずつ分けるだけですから、離婚時に算定できるものですし、これに判例の言う清算的要素と扶養的要素も既に含まれています。そして、慰謝料的部分は、破綻責任のある相手方が、この分与を終えた手許の現有財産の中から、その責任に応じて支払うべきもので、現有財産がそれに足りなければ将来の収入から分割によってでも支払わねばならないこととなります(もし、自分が婚姻を破綻させた責任を負うべき立場でもあるときは、半分の離婚分与を受けた上で、その中から責任に応じる慰謝料を払わねばなりませんから、結果として受ける割合は半分より少なくなることはやむを得ないことになりますし、慰謝料が払いきれなければその支払債務を将来に亘って返済しなければなりません)。子供がある場合、相手方は、それに加えて養育費の定期金債務をも負うこととなります。財産分与は、元配偶者が自身の権利として請求するものですから、その者の処分自由で、相手に対し放棄や減免をすることがあり得ます。慰謝料も宥恕によって減免が可能です。しかし、養育費は、子の扶養請求権を親権者法定代理人として代わりに請求する立場ですから、子に代わって子の権利を放棄することはできませんし、本来、扶養請求権ですから、民法881条によって放棄つまり処分することが禁止されている権利でもあります。なお、上記「全財産の半分」に関連して、こちらもご覧下さい。


離婚慰謝料 は、上記のとおり婚姻を不法に破綻させ、伴侶を悲しませた者としての、伴侶の精神的苦痛に対する損害賠償責任(民法709条)です。具体的離婚原因の内、不貞は配偶者に対する不法行為であり、私流に言えば、婚姻の本質である終生的貞操結合を侵した以上、十分に賠償されなければならない事由です。悪意の遺棄も同じ意味で婚姻の本質に反した行状で十分に不法行為たり得るものですから、不貞行為同様に償って貰わねばなりませんが、生死不明や精神病は、それ自体では不法行為ではないので、例えば、生死不明が悪意の遺棄同様或いはそれに準ずるような原因に基づく場合以外は、慰謝料の対象とはならないと思います。抽象的離婚原因についても、暴力や虐待はそれ自体で不法行為ですから、賠償すべきは当然ですが、その他のものについても、終生的貞操結合の趣旨に反する程度に応じて慰謝料の対象となると言えます。但し、故意過失によらないものは不法行為たり得ないので除かれなければなりません。離婚慰謝料は、財産分与の一部として分与と合わせて、一本で請求することもでき、又、財産分与とは別立てで請求することもできることは、上記判例が述べているとおりですが、慰謝料の性質は、精神的苦痛を慰謝するものですから、財産分与が、本来、離婚時点における夫婦二人の固有財産も含めた全財産の半分を分ける(私見)ものであるのとは違い、苦痛の大きさに応じて額が決められる筋合いですから、まずは、その時点の全財産の半分を財産分与として渡した後の残りの内から、その苦痛に応じ慰謝料を支払うべきであり、分与の残余がこれに足りなければ、支払義務者のその後の収入からでも支払わねばならないこととなります。

 なお、離婚によって夫婦がそれぞれ加入している年金の受給額に偏りが出る場合等には、離婚に伴ってこれを公平に分割するため、前述の「年金分割」制度があります。その請求には、合意書の提出とか、或いは、財産分与同様、2年という時間的制約もある等、クリアすべき条件等があるので、日本年金機構のホームページ①等を調べて臨んで下さい。日本公証人連合会のホームページ②もご参照下さい。


    離婚する二人見舞難問768財産分与協議

     攻む夫
768ぎをめた いだ取得なる768

     守る
家事育児家計切盛り専門は768縁の下功・内助の功

       世論は
768味方半分当然私れる

           「夫」は、伊語の8「オット」から

  夫婦間
協議分与められぬ
      ならば
離婚後二年家裁請求調停審判。


   急がねば
財産分与離婚して二年なるや768
           分けて貰えぬ
(請求権行使ができなくなる)


   醜くも
(財産)分与で競るは768めなはれ
    
(双方の)各貢献収入年齢 性格健康等
   子
有無生活一切考慮分与する方法めるべし
 


 なお、家庭裁判所での離婚の訴えに伴い財産分与を申し立てる際には、具体的な金額や分与の方法を特定する必要はない旨の判例(最判昭47・7・15)があります。

財産分与と税金
 離婚に伴って財産分与を受けた場合、それが前記の清算的な分与や扶養的な分与等として通常の範囲内のものであれば、贈与とはみなされず、したがって、贈与税がかかることはありません。但し、この範囲を超えて明らかに過多であると判断されたときは、その過多な部分について贈与を受けた人に贈与税がかかり、また、脱税を図った分与だと判断されると、その分与全てについて贈与税がかかります。そして、注意を要するのは、分与をした方の離婚当事者には、分与財産が土地や建物の不動産である場合、分与によりその時点でのその不動産価額相当額の金銭支払義務を免れるという利益があったとみなされて、譲渡所得税を課せられます。この点については、少し解せない感が伴いますが、課税対象となることを認めた下記判例があります。そして、その不動産を財産分与として受けた方も、これをその後に売却したときに、売却価額が取得価額と仲介手数料等の譲渡費用、それに控除額
(居住用の場合は3000万円)を加えた額を超える分について、譲渡時点までの期間により、長期譲渡・短期譲渡の別による税率で、譲渡所得税を課せられます。このときの取得価額も財産分与時点での時価となりますので、分与を受けたときの評価額を証拠として残しておかないと、不利な算定となってしまうことがあります。ご注意下さい。詳しくは、こちらをご覧下さい。
財産分与としてされた不動産の譲渡は、譲渡所得課税の対象となる旨判示した判例(最判昭50・5・27)
 この判決は、その理由として、「所得税法三三条一項にいう「資産の譲渡」とは、有償無償を問 わず資産を移転させるいつさいの行為をいうものと解すべきである。そして、同法五九条一項(昭和四八年法律第八号による改正前のもの)が譲渡所得の総収入金額の計算に関する特例規定であつて、所得のないところに課税譲渡所得の存在を擬制したものでないことは、その規定の位置及び文言に照らし、明らかである。 ところで、夫婦が離婚したときは、その一方は、他方に対し、財産分与を請求することができる(民法七六八条七七一条)。この財産分与の権利義務の内容は、 当事者の協議、家庭裁判所の調停若しくは審判又は地方裁判所の判決をまつて具体的に確定されるが、右権利義務そのものは、離婚の成立によつて発生し、実体的権利義務として存在するに至り、右当事者の協議等は、単にその内容を具体的に確定するものであるにすぎない。そして、財産分与に関し右当事者の協議等が行われて その内容が具体的に確定され、これに従い金銭の支払い、不動産の譲渡等の分与が完了すれば、右財産分与の義務は消滅するが、この分与義務の消滅は、それ自体一つの経済的利益ということができる。したがつて、財産分与として不動産等の資産を譲渡した場合、分与者は、これによつて、分与義務の消滅という経済的利益を享受したものというべきである。 してみると、本件不動産の譲渡のうち財産分与に係るものが上告人に譲渡所得を生ずるものとして課税の対象となるとした原審の判断は、その結論において正当として是認することができる。」と述べています。
 
判例を読んでも、理屈はそうなのでしょうが、納得が行かぬ、という気がします。私の婚姻観からすれば、財産分与の趣旨は、終生的貞操結合によって同種・同量・同等融合創一を旨に、しかし、対世間的には、法定の夫婦別産制の下に経過した夫婦が、離婚に至った際には、それまで潜在していた平等の権利を顕在化させて平等に分与しましょう、ということですから、ここでは単に権利を顕在化させただけで、課税されるべき新たな利得はないと言うべきであるのに、それに課税するというのは理不尽ではないか、という思いを押さえがたいところですが、如何でしょうか。夫婦別産制が違憲であるとの主張に対し、「夫婦は一心同体であり一の協力体であつて、配偶者の一方の財産取得に対しては他方が常に協力寄与するものであるとしても、民法には、別に財産分与請求権、相続権ないし扶養請求権等の権利が規定されており、右夫婦相互の協力、寄与に対しては、これらの権利を行使することにより、結局において夫婦間に実質上の不平等が生じないよう立法上の配慮がなされているから、民法七六二条一項の規定は、前記のような憲法二四条の法意に照らし、憲法の右条項に違反するものということができない。」と判例(最判昭36・9・6)自身が述べているのですから。なお、夫婦の実質的平等について、こちらもご覧下さい。


法定財産制. or 夫婦財産契約
 
上記財産分与での清算の対象は、夫婦の協力で得られた「夫婦共同の財産」ですが、その清算の前提としては、「夫婦別産制」という夫婦間の財産関係に関する枠組みルールがあり、これは、婚姻前に夫婦で決めた夫婦財産契約を登記した場合(民法755条、756条)を除き、夫婦の財産は、各人の特有財産と共有財産とから成るとすることを枠組みとしています(民法762条)。夫婦財産契約は、婚姻届を出した後は変更することができず、夫婦一方の財産を他方が管理する旨定めた場合に、その管理が失当で財産を危うくしたときは、管理を他方に移すことを、或いは共有財産を分割することを、裁判所に請求することができます(民法758条)。この管理者の変更と共有財産の分割は、登記をしないと第三者には対抗できません(民法759条)。夫婦財産契約の内容は特に規定されておらず、「夫婦財産契約の自由」が保障されるものの、その内容項目や類型等も示されていませんし、殊に婚姻前に締結しなければならないという制約も障害となって、この契約を結んでいる夫婦は極めて少ないのが現状です。そして、夫婦財産契約を締結していない場合は、上記の別産制を内容とする法定財産制によることになりますから、通常の夫婦は、夫と妻がそれぞれ自分固有の財産を持ち、自分で管理をするけれども、夫婦が離婚に至ったときは、その固有のものも含めた夫婦の財産を清算し、また、相手の将来の扶養のためにも備えてやれというのが財産分与です。
 ところで、私は、夫婦の実質的平等を考えたとき、従来、夫が稼ぎ、妻が家計を切り盛りする、という家庭生活の成り立ちの中で、家事育児の比重を軽視した稼ぎ手の支配が、世の家庭に根を張ってしまい、それがDVや虐待に、さらには、強者支配を当然視した、社会での女性差別や、ひいて、いじめ、パワハラ等の弱者被害にも繋がっているような気がしています。今は、夫婦共稼ぎの世帯が殆どの世となりましたが、それでも、妻の稼ぎは僅かで、妻が家庭生活のしわ寄せを受け、苦心惨憺している例が多いような気がします。稼ぎ手の稼ぎは、家族と家庭があってのもので、本来家計に回るべきものという根本を、例えば、夫婦財産契約で、「稼ぎ手は、その稼ぎの八割を、感謝と共に家計に納めなければならない」と定めて、これを当然の理として確立し、まずは家庭における支配を崩壊させることが急務なのでは、と思いますが、如何でしょうか。夫婦で契約書を交わし、それを登記する、というのは一般の人には大変なことだと思いますが、そこから新たな家庭生活の地平が開けてくるかも知れません。夫婦の平等についてこちらもご覧下さい。




  二人して締結をした(夫婦財産)

  財産制
登記してごっこ
755でやってみるもいかも


  但し、
夫婦財産契約は、一度(ひとたび)婚姻 届けたら、

   終り
(尾張)名古屋758だ、変更できぬ



   夫婦財産契約婚姻届する

           登記をすれば(社会的)められず、

                   セコム? 756ができる、(夫婦が) 和む756(もと)


    

   夫婦二人財産制婚姻届その

     財産契約をばび その 登記 難行 755

         別産()とらず 全稼 家計せば るかも




  夫婦
財産一方他方管理して

     
名古屋
758(ざい)危殆(きたい)家裁頼れ

     
管理替 危殆、(夫婦)共有財なら管理替

    
以外(共有物)分割 §256(も)請求できる


      
但し、登記をせねば
(第三者には)対抗できぬ759


   共有()256いつでも可。

     分割
(共有の)双子(のように必ず伴うもの)257れども(境)界標分割できず

     
(また、)約定双子256マックス五年間禁ずることができる也。

夫婦別産制 
 民法762条1項は、「
夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産 ( 夫婦の一方が単独で有する財産をいう。 ) とする。」と定め、夫婦の各人が結婚前から持っていた財産は、結婚後もそれぞれの固有財産であり、また、結婚後に各自が自分の名義で稼いだり、取得した財産は、その者の財産であるとします。そして、同条2項は、「夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定する。」として、どちらの財産か不明の場合は共有とするが、推定であるので、自分の所有であると言いたい場合は、証拠によって所有権が自分にあることを立証しなければならない旨を定めています。このように、夫婦の財産は、各人の特有財産と共有財産とから成るとする定めを夫婦別産制と言います。この「別産」は、考えてみれば、民法が私有財産制の下に個人の財産権と財産処分の自由を認める枠組みそのものではないでしょうか。民法は、たとえその個人が婚姻した場合にあっても、夫婦財産契約により別異の定めを置かない以上は、通常通り個人財産制を基本とし、夫婦の共有財産も増えていくだろうが、それも必要があれば婚姻中は共有物分割等で対処せよとの旨を規定したと言えます。したがって、これにより、夫婦はその婚姻中保有する財産が夫婦間で必ずしも等しくはなく、場合によっては一方に偏って、他方は無資産ということもあり得ることになりますが、このような夫婦別産制は、夫婦が平等の権利を有することを定める憲法24条に違反するのではないかとする訴訟があり、後述の最高裁の判決(最判昭36・9・6)が出ています。その判決には、実質的に平等とするために与えられているとして相続権が挙げられており、それには、通常二分の一である配偶者相続分が想定されていると思われます。そして、平成30年の相続法の改正により、夫婦で長年住まった住居がある場合、原則的にいわゆる「相続分」とは別枠の「遺贈」として、終身・無償の配偶者居住権の制度が設けられました。これも、婚姻の余後効と説明されていますから、別産制における実質的な平等を担保する制度の一環となると言えます(有難いことではあっても、配偶者の死後に「平等の余韻」のお陰を被っても、「婚姻中の実質的平等」に資するとは言い難い様に思います)

夫婦の実質的平等について(私見)
 
私は、「婚姻」には「融合創一」における同種・同量・同等の関係が必然であって、夫婦はその実際生活においても実質的平等が図られなければならないと考えます。ですので、後記昭和36年の判例が、婚姻の節目である離婚や相続、或いは別居等に際し実質的平等を図るため、財産分与、相続権、扶養請求権等が与えられていると判示している点も、その限りで同意できますが、但し、果たして、その程度で良いのだろうかとの疑念があります。夫婦であっても、家事・育児の分担者として家庭にあり、収入に直結していない者の置かれる立場は弱く、そこに憲法の掲げる夫婦平等を大いに損なっている根源があるのではないでしょうか。婚姻の終了時や特異時のみに手立てを施しても、婚姻継続に並行しての実質の平等に欠けていては、それで全体的観察における平等があると言えるでしょうか。配偶者・子に対するDVが横行し、果ては、痛ましい児童虐待死が頻発するに至っては、問題の核であると思われる稼ぎ手の支配を、法を以て否定し、婚姻者の収入はすべからく、融合創一の家庭有っての収入なのであり、収入は家計に入れて当然であることを国・国民の国是・通念として遍く深く知らしめなければなりません。夫婦別産制の下、人生90年にもなろうとする現今、婚姻生活何十年もの間このまま実質的不平等が続くということであってはならないと思います。憲法24条2項は、「・・財産権、相続・・離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。」として、同条1項が「夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならい。」とする婚姻制度を、立法により具体化するについて、その指針を示すだけですが、昭和36年の上記判例以降半世紀以上を経過しているのに、制度として具体化されたのは、昭和56年配偶者相続分の改正、平成20年発足の離婚に際しての年金分割と、そしてこの度(平成30年)配偶者居住権等だけです。果たして、これで実質の平等を実現するための立法努力が払われていると言えるでしょうか?私は、これまでの具体的な立法が、それ自体で違憲だとは思いませんが、このまま実質的不平等が放置されたならば、それは立法府の不作為による違憲状態だと言えると思います。やはり、婚姻年月の長短に関わらず、婚姻期間中における実質的平等を具体化するため、同種・同量・同等を指針として、何らかの手立てによって真の融合創一の実現が達成されなければなりません。具体化の方策は、賢明な立法府に期待するところですが、例えば、夫婦の内、家庭の外で収入を得る者のその稼ぎを家事・育児担当者に一定割合で供出すべし、とするルールが不可欠のように思います。理想としては、7割ないし8割をそうすべし、と定め、これに違反した場合の罰則も設けて、権力が介入してでも実質的平等を是非実現しなければならないと愚考しますが如何でしょうか。同じ夫婦平等の観点から、夫婦財産契約離婚原因についての愚見もご覧下さい。なお、配偶者暴力についてはこちらを、児童虐待についてはこちらをご覧下さい。


 夫婦平等
その()各分離して別産制

  各人婚前由来
婚中自名義取得

        (何れも)特有財帰属(めい)さにあらぬ

  
帰属不明(の他の物) ()(義)二人762共有すると推定


  
二人共働 取得して 単独名義にせし財は

       
()()も二人762共有すると判ずべし




法定財産制
 前記の通りの別産制
(民法762条)を踏まえて生活をする夫婦ですが、世間に対しては、夫婦の一方が日常生活に関連してた負った債務(日常家事債務)は、他方も連帯してこれを負わねばならず(民法761条)、婚姻生活に要する費用(婚姻費用)は互いの資力能力に応じて分担しなければなりません(民法760条)。これら夫婦の別産・連帯・分担を合わせて、夫婦の法定財産制と言います。登記を経た前記の夫婦財産契約がない状態で結婚した通常の夫婦については、この法定財産制が適用されることになります(民法755条)
 婚姻中であるけれども、事情により別居する状況となり、資力のある配偶者からの生活費の送金がない場合は、婚姻費用の分担請求によりその支払いを求めることになりますから、家裁での事件の扱いに従って手続きが進むことになります。結着が付いて調停調書等のいわゆる債務名義が得られると、不履行があった場合でも強制執行が可能となる訳ですが、このような切実な生活費等については、執行段階でも特例扱いを受けることができます。こちらをご覧下さい。


  
夫婦 門出 財産制

       契約登記ないとこ()755 (法定の)

                     
夫婦別産 はあるかも

「            「ないとこ」は、755を「七、五十五」と分けて、読む



  夫婦一方家庭日常家事 (務の)取引なせば

     
( 世間他方施無畏(せむい) 761 連帯責任


        但し
() わぬ() 予告があれば此限(こぎり)でない

      「日常
家事」うならば
未成熟子めたる

           
夫婦共同生活
必要となる一切()


判例(最判昭36・9・6)は、夫婦別産制をとる民法七六二条一項は憲法二四条に違反し、又、夫の税法上の給与所得等は、内助の功ある妻にその二分の一が帰属する筈のものであるのに、これを無視して夫の特有財産と捉え、これに課税する方式を採る所得税法は憲法二四条に違反するとの主張に対して、おおよそ次のように判示しました。

 「憲法二四条は、個人の尊厳と両性の本質的平等の原則を婚姻および家族の関係に及ぼし、継続的な夫婦関係を全体として観察して、夫と妻とが実質上同等の権利を享有すべきことを定めたものであり、個々具体的法律関係において、常に必らず同一の権利を有すべきとしているものではない。他方、夫婦の一方が婚姻中に自己の名で得た財産はその特有財産とすると定める民法七六二条一項は、夫と妻の双方に平等に適用されるものであるばかりでなく、所論のいうように夫婦は一心同体であり一の協力体であつて配偶者の一方の財産取得に対しては他方が常に協力寄与するものであるとしても、民法には、別に財産分与請求権、相続権ないし扶養請求権等の権利が規定されており、右夫婦相互の協力、寄与に対しては、これらの権利を行使することにより、結局において夫婦間に実質上の不平等が生じないよう立法上の配慮がなされているから、民法七六二条一項の規定は、前記のような憲法二四条の法意に照らし、憲法の右条項に違反するものということができない。それ故、本件に適用された所得税法が、生計を一にする夫婦の所得の計算について、民法七六二条一項によるいわゆる別産主義に依拠しているものであるとしても、同条項が憲法二四条に違反するものといえないことは、前記のとおりであるから、所得税法もまた違憲ということはできない。」

判例(最判昭44・12・18)は、民法761条による日常家事債務に関する連帯責任について、連帯の前提には、同条により、夫と妻の相互間に、日常の家事に関する法律行為につき他方を代理する権限がある旨も規定されているとし、また、妻所有の不動産を他に売却したという当該事案での夫の行為が、日常家事債務の範囲を超えているか否かという点につき、夫婦の一方が民法七六一条所定の日常の家事に関する代理権の範囲を越えて第三者と法律行為をした場合においては、その代理権を基礎として一般的に同法一一〇条所定の表見代理の成立を肯定すべきではなく、その越権行為の相手方である第三者においてその行為がその夫婦の日常の家事に関する法律行為に属すると信ずるにつき正当の理由のあるときにかぎり、同条の趣旨を類推して第三者の保護をはかるべきであるとして、本件売買契約は当時夫婦であつた二人の日常の家事に関する法律行為であつたといえないことはもちろん、その契約の相手方においてもその契約がこの夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内に属すると信ずるにつき正当の理由があつたといえないとして、当該不動産の売却行為を無効としました。
 
この判決は、日常の家事に関する法律行為であるか否かの判断について、「民法七六一条にいう日常の家事に関する法律行為とは、個々の夫婦がそ れぞれの共同生活を営むうえにおいて通常必要な法律行為を指すものであるから、その具体的な範囲は、個々の夫婦の社会的地位、職業、資産、収入等によつて異な り、また、その夫婦の共同生活の存する地域社会の慣習によつても異なるというべ きであるが、他方、問題になる具体的な法律行為が当該夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内に属するか否かを決するにあたつては、同条が夫婦の一方と取引関係に立つ第三者の保護を目的とする規定であることに鑑み、単にその法律行為をした夫婦の共同生活の内部的な事情やその行為の個別的な目的のみを重視して判断すべきではなく、さらに客観的に、その法律行為の種類、性質等をも充分に考慮して判断すべきである。」と述べ、その上で、上記判旨について、「しかしながら、その反面、夫婦の一方が右のような日常の家事に関する代理権の範囲を越えて第三者と法律行為をした場合においては、その代理権の存在を基礎として広く一般的に民法一一〇条所定の表見代理の成立を肯定することは、夫婦の財産的独立をそこなうおそれがあつて、相当でないから、夫婦の一方が他の一方に対しその他の何らかの代理権を授与していない以上、当該越権行為の相手方である第三者においてその行為が当該夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内に属すると信ずるにつき正当の理由のあるときにかぎり、民法一一〇条の趣旨を類推適用して、その第三者の保護をはかれば足りるものと解するのが相当である。」とその理由を述べています。

 
   結婚 万事南無760

    かかる
費用双方資産収入

     
(その他)一切情考慮分担すべし


   
分担程度
未熟なる夫婦なら

    万難苦
879あっても生活保持をする義務免れず

     破綻
への
()あるは、最低生活程度

     
 (生活)扶助程度(なん)もなし
760かも

         有責
程度
(る分)ぜらる


内縁 関係であっても民法760が準用され、婚姻費用を請求できるとする判例(最判昭33・4・11)があります。
 この判決は、おおよそ次のように判示しました。「内縁は、婚姻の届出を欠くがゆえに、法律上の婚姻ということはできないが、男女が相協力して夫婦としての生活を営む結合であるという点においては、婚姻関係と異るものではなく、これを婚姻に準ずる関係というを妨げないから、そうである以上、民法七六〇条の規定は、内縁に準用されるものと解すべきであり、従って、前記被上告人の支出した医療費は、別居中に生じたものであるけれども、なお、婚姻から生ずる費用に準じ、同条の趣旨に従い、上告人においてこれを分担すべきものといわなければならない。そこで、内縁が正当な理由なく破棄された事案である本件当事者間における一切の事情を考慮し、本件内縁関係が破棄せられるまでの別居の間に、被上告人が支出した医療費のうち金二〇〇、〇〇〇円を上告人において分担すべきものである」。また、内縁で死別という場合の問題についてはこちらもご覧下さい。

 なお、裁判所等から出ている下記の婚姻(養育)費用算定表がありますので、参考にして下さい。また、最近、弁護士会からこの算定表を修正した新算定表が発表されました。
 上記判例の場合のように事情によって夫婦が別居する場合の生活費・養育費等の支給も婚姻費用分担の問題となります。

契約取消権 夫婦間で夫婦財産契約(民法756)を交わしたときは、登記によって対外的に夫婦間のその契約を主張していくことができますが、この方式を採らない通常の場合
(「法定財産制」を採ったことになります)は、夫婦間の契約は取り消すことができることになっています。夫婦間の契約取消権(民法754条)と言います。この規定の法意については、夫婦間で契約をするとしても、愛情に溺れての結果であったり、相手に対する威圧によったものであったりすることが多いから、その履行に法が手を貸すことを避け、むしろ、夫婦間の事は法律問題とせず、愛情と倫理に任せるのが良い、という考えからであると言われています。しかし、考えてみると、愛に溺れると言っても、行為能力のある者が契約時に本気で意思表示したのであれば、履行すべきが当然と思われ、後は、意思能力とか心裡留保とかの一般論で扱えば良いとも思われます。契約が威圧によるものであれば、実際に取消権を行使するのは威圧した当事者だけになりかねません。こちらも一般論で、強迫を理由に取り消すことができる契約と見ればよいだけの話だと思います。外国でも廃止されたり、契約の範囲を限定するなどの流れにある誠に評判の悪い制度なのですが、但し、判例(最判昭42・2・2)は、夫婦間でなされた贈与契約について、同754条により贈与を取り消す旨主張のあった事案につき、「民法七五四条にいう「婚姻中」とは、単に形式的に婚姻が継続していることではなく、形式的にも、実質的にもそれが継続していることをいうものと解すべきであるから、婚姻が実質的に破綻している場合にはそれが形式的に継続しているとしても、同条の規定により、夫婦間の契約を取り消すことは許されないものと解す」べきであるとして、夫婦関係が破綻した状況下で交わされた夫婦間の契約は取り消すことができないとし、当該取消しを無効と判示しています。ですから、この理を進めて、夫婦関係が破綻に瀕したり、破綻しかねない状況になった瀬戸際での契約で、破綻させないためにしたものであれば、その契約も取り消せない、という様に、この判例の応用範囲を拡張し、この規定の適用範囲を縮小させる方向で検討されるべきだと思われます。



    くさい(夫婦)財産契約 (§756) をばらず

 夫婦(めおと)難航754たときも(契約でなく)難越754二人なら

   
()約は他人(ひと)さぬで行こうぞ


  夫婦二人
(ちぎ)った

     
(威圧 溺愛等)ボタン

   
(情誼によるべき)裁判沙汰にはできぬが世故(せこ)754

         
取消できる他人(ひと)せぬ 


   
夫婦関係難行(なんこう)754

      
破綻しそうでしたならばその契約せぬ


子供がいる夫婦の離婚の場合、子の親権者指定に関する民法819条と子の監護者面会交流養育費その他監護に必要な事項について定めるべしとする766条が重要です。婚姻が破綻した結果の離婚に際しては、これらの規定に従い、夫婦の間でこれらの事柄を決めた上で離婚に臨むことになりますし、特に親権者の指定は、765条によって離婚届けの受理要件とされていますので、指定がないと離婚届けを受理して貰えません。親権者をどちらとするかについては、夫婦間では決められず裁判所での手続き(民法819条5項(離婚裁判では裁判所が判決で親権者の指定をします(§819Ⅱ))となった場合でも、子が15歳以上であれば必ず子の意見も聴かなければならない(家事事件手続法169条2項)とされていますから、裁判所を介さない協議離婚の場合、小中学生でも自我の芽生える段階に達した子については必ずその意見を聞いてあげて、子の立場を尊重しなければなりません(児童福祉法2条)
 なお、婚姻中に懐胎・妊娠し、
離婚後に生まれた子の親権者等の関係については、こちらをご覧下さい。

(家事事件手続法65条には「家庭裁判所は、親子、親権又は未成年後見に関する家事審判その他未成年者である子(未成年被後見人を含む。以下この条において同じ。)がその結果により影響を受ける家事審判の手続においては、子の陳述の聴取、家庭裁判所調査官による調査その他の適切な方法により、子の意思を把握するように努め、審判をするに当たり、子の年齢及び発達の程度に応じて、その意思を考慮しなければならない。」とあります。)

 もし、戸籍係のミスで離婚届に親権者についての記載がないのに、或いは、決まっていないのに決まったかのように記載してあったために、受理されてしまうと、法の定めで
離婚は、そのために効力を妨げられない。(§765)とされています(条句)ので、離婚は有効に成立したことになります。離婚に際してはメインの離婚意思の合致をこそ尊重すべき、との考えなのでしょうが、子のためにはそれで良いのか、とも思います。でも、受理により一旦離婚が有効とされたからには、指定のない侭の協議離婚となっていた場合は親権者指定の、届出された親権者を正さねばならないのであれば、親権者変更の調停申立てをすることになります。裁判離婚では、判決の主文で離婚する旨と合わせて親権者はどちらとするかの指定がされます(§819Ⅱ)

 ちなみに、離婚の時に
親権者となった親がその後亡くなった場合は、その親が生前に遺言で後見人の指定(民法839条1項)をしていたときは、それにより、遺言による指定がなかったときは、請求により裁判所が後見人を選任します(民法840条1項)。少し解せない感がありますが、離婚した生存親が当然に親権者となる訳ではないのです。やはり、離婚の「離」の字の重みということでしょうか。親権者(本来の共同親権が行われなくなってからの親権者を「最後の親権行使者」と言います)が亡くなるまで身近で面倒を見ていた祖父母が後見人となる例が多いようです。それでも、親権者間の親権の交替については「親権者の変更(民法819条6項)手続きがありますから、勿論、生存親もこの変更申請によって(最後の親権行使者が生存するときも)自らが親権を持つことを申立てできますが、例えば、生存親と祖父(又は、祖母)の双方からこれらの請求と申立てが出たときは、家裁が一切の事情を考慮して判断することになります。また、最後の親権行使者が遺言で指定した未成年後見人がいる場合も、その後見人は、亡くなった親権者の意向に依拠している訳ですから、最後の親権行使者と生存親との共存と同様の状況なので、同じく親権者変更手続きによって生存親が親権者となることがあり得ます。親権や後見による子供の保護関係については、こちらもご覧下さい。

 ここで、「子がいる夫婦の・・」ということなので、
子の視点からも触れさせて頂きたいと思います。子にとっては、両親の葛藤・対立は、社会の縮図として写り、社会への不安や恐れを根付かせてしまうと言われます。子が親に対して抱く信頼とそれによる安心こそが、社会に対する信頼と子自身の自己肯定に繋がるとも言われることを親御さんには理解して頂きたいと思います。離婚という結論を出す前に、夫婦間の対立は、子のために、穏やかな話し合いの中で、乗り越えて行く努力をもう一度して頂きたいのです。また、子が両親の対立に悩み、葛藤を抱えて問題行動等を発現する状況となったり、家計が苦しく子との生活にも窮する状況等のときも、合わせて、とにかく迷わず周囲に、例えば各自治体の福祉課や女性のための相談室等、児童相談所や地域の民生委員、或いは、児童福祉のための各種非営利団体、家庭裁判所調査官OBの組織「公益社団法人家庭問題情報センター」等に遠慮なく相談してみて下さい。育児や子の養育等にまつわる悩みは、離婚に関係がなくとも、子が愛され健やかに育つことは、自治体や国の責任(児童福祉法2条3項)とされているところですから、経済的支援(埼玉県の例)や里親による社会的養護等の形での支援等、なんらかのアドバイスや支援を受けられると思いますので、心を閉ざすことなく気軽に堂々と足を運んでみて下さい。瀬戸内寂聴さんと村木厚子さんの協力で立ち上がった「若草プロジェクト」も、若い女性からの相談を受け付けています。DV相談は、各都府県等にも相談窓口がありますから、そちらに電話等をしてみて下さい(例:東京神奈川県埼玉県千葉県)。なお、配偶者からの暴力に悩んでいることを、どこに相談すればよいかわからないという方のために、全国共通の電話番号(0570-0-55210)から相談機関を案内するDV相談ナビサービスが実施されています。

 ちなみに、ここで上記のことの前提となる児童の権利について見ておかなければならないと思います。児童福祉法の冒頭に「総則」として、児童福祉の理念が掲げられていますので、引用をお許し下さい。「第一条 全て児童は、児童の権利に関する条約の精神にのつとり、適切に養育されること、その生活を保障されること、愛され、保護されること、その心身の健やかな成長及び発達並びにその自立が図られることその他の福祉を等しく保障される権利を有する。第二条 全て国民は、児童が良好な環境において生まれ、かつ、社会のあらゆる分野において、児童の年齢及び発達の程度に応じて、その意見が尊重され、その最善の利益が優先して考慮され、心身ともに健やかに育成されるよう努めなければならない。2 児童の保護者は、児童を心身ともに健やかに育成することについて第一義的責任を負う。3 国及び地方公共団体は、児童の保護者とともに、児童を心身ともに健やかに育成する責任を負う。 第三条 前二条に規定するところは、児童の福祉を保障するための原理であり、この原理は、すべて児童に関する法令の施行にあたつて、常に尊重されなければならない。」


監護権者
 
なお、子を手元に置いて監護する親を監護者と言いますが、時として親権者と監護者が子の父親と母親とに分離する場合もあり得ます。例えば、転勤等で夫婦が別居のやむなきに至った場合は、その間の監護権は事実上一方が握ることになります。終生的貞操結合の意志と実質が維持されていれば、ある程度の変異形はやむを得ないでしょうから、本来親権を共同行使すべきところを、事実上親権者と監護権者とに分属(或いは、監護は専ら夫婦の一方が分担する)ということも起こり得る訳です。親権者の権限は、大きく分けて、(財産の)管理・(法律行為の)代理(民法824条)身上監護(民法820条~823条)ですが、このような変異形では、身上監護についての権限が夫婦の一方に事実上分属することになります。しかし、維持されるべき前提が失われた離婚の場面で、それに伴い親権者の指定があれば、通常その指定された親が親権の行使として監護も行いますが、ときに、当該夫婦の具体的事情に合わせて親権者を決める中で、監護に相応しい方はどちらか、ということから監護権の分属が起こり得る訳です。その場合の監護権者の指定に際しても、子が15際以上であれば、必ず子の陳述を聴かなければならないとされています(人事訴訟法32条4項)


養育費
 養育費は、
子の親に対する扶養請求権を、離婚後に子を監護することとなる親が、親権者法定代理人として子に代わって請求する扶養料で、実質はその親の、子のための監護費用(民法766条1項)です。ですが、婚姻中であれば、これは婚姻費用となりますが、監護する親自身が、既に離婚している身であれば、婚姻費用を請求できる立場にはありません。ですから、親が自身の権利を行使するものではありません。子からする扶養請求で、子の立場からすれば、親である夫婦の離婚とは関わりのないもので、したがって、子に対する親の生活保持義務を念頭に算定されることになります。これを、親の離婚後、子が独立して生計を営むことができる迄、将来に向かって、時の経過と共に発生する都度、監護親として代理請求します。これは、従って、離婚時点に存する夫婦の全財産を対象として分与する財産分与と異なり、離婚分与後に相手方の手許に残る財産及び相手方が離婚後に得る収入の内から支払われる、将来時点の財産からの支払いが本来となります。しかし、離婚時点ではやむを得ませんから将来を予想して、予め ( 例えば、子が「満二十歳に達する○年○月まで毎月、月額○万○千円也を次の銀行口座に振込んで支払う」というように ) 定期金債権として養育費支払約定を交わすこととなります。従って、離婚当事者双方の将来の収入や資産状況が変わり、それに連れて扶養料の負担能力が変われば、場合により負担者や負担割合が変わることもあり得ます。しかし、親自身の請求権ではないので、これを子に代わって予め離婚時点で、或いは、その後においても、放棄することは許されず、財産分与が自身の請求権であるが故に放棄や減免が可能であるのとは異なることは銘記されなければなりません。養育費の額の算定については、裁判所から2003年に、親の収入 ( 給与所得者と自営業者に分け、前者は源泉徴収票の「支払金額」(×0.34~0.42)を、後者は「課税される所得金額」(×0.47~0.52)を基本的な算定基礎とします )、子の生活費指数 (親を100とし、 14歳までを55、15~19歳を90とします) 等から負担額を ( 夫婦の収入割合で按分します) 推定するこちら養育費算定表が出ていますが、2016年に、これを、より実際に適応したものに、という趣旨から、日本弁護士連合会が改訂の提言をしました。こちらで、その提言された新算定表とその補足説明資料をご覧下さい。なお、上記カッコ内の支払約定例は、「二十歳」となっていますが、必ずしも成人までということではなく、独立して生計を立てられる年齢までということですから、最近では大学を卒業する二十二歳までとする例も多くありますし、「成人まで」とすると、法改正で成人年齢が令和4年(2022年)4月から18歳になりますから、思わぬ不利益・難儀を被りかねないので、「成人する月まで(或いは、「成年に達する日の属する月まで」)」としないよう、望む年齢を明記して「20歳 (或いは、「22歳」)になる日の属する月まで」とするよう注意しましょう。

 なお、
夫婦が別居する間子の監護に当たった当事者は、その後離婚の訴えに至った際には、その訴えに併せ、別居中の監護費用の支払を請求することができるとする判例(最判平9・4・10)があります。
 この判決は、「(原審は、別居)から離婚の効力が生ずるまでの間における長男の監護費用分担の申立て(以下「本件申立て」という。)については,離婚の訴えに附帯してそのような申立てをすることができないから不適法であるとし,第1審判決を変更して本件申立てを却下した。しかしながら,本件申立てに係る原審の上記判断は是認することができな い。その理由は,次のとおりである。 離婚の訴えにおいて,別居後単独で子の監護に当たっている当事者から他方の当事者に対し,別居後離婚までの期間における子の監護費用の支払を求める旨の申立てがあった場合には,民法771条766条1項が類推適用されるものと解するのが相当である。そうすると,当該申立ては,人事訴訟法32条1項所定の子の監護に関する処分を求める申立てとして適法なものであるということができるから,裁判所は,離婚請求を認容する際には,当該申立ての当否について審理判断しなければならないものというべきである。」と述べています。

 
強制執行における養育費・婚姻費用・扶養料等の特別な扱い
 養育費を含む下記四種の定期金債権の一部が不履行となった場合には、①期限が到来していない債権についても強制執行できます
(民事執行法151条の2)し、また、②通常の金銭債権ですと給料の3/4までが差押禁止とされ、差押えできるのは1/4だけですが、これら四種の定期金債権なら2分の1まで差押えができます(民事執行法152条3項。ただ、①により一度執行開始の手続きをとれば、その後の給料も差押えできると言っても、民執151条の2第2項が「前項の規定により開始する債権執行においては、各定期金債権について、その確定期限の到来後に弁済期が到来する給料その他継続的給付に係る債権のみを差し押さえることができる。」としていますので、養育費を毎月定まった日に支払って貰う約束であっても、その支払日が給料日の後であると、その月にはその月分の養育費を払って貰えなくなりますから、要注意です。翌月には支払われるとしても、やはりその月の内に手にしないと困るでしょうから、養育費支払日は、給料日より前にしておくことが重要です。ただ、一つ注意すべきは上記四種の定期金債権には離婚慰謝料は含まれていません。慰謝料は、債務者が支払可能なように分割払いとしたり、その金額を配慮したとしても、強制執行ということとなった場合には、上記の有利な扱いを受けることができず、他の債権者と同じ立場に置かれることを覚悟しなければなりません。

 期限未到来でも強制執行開始が可能な定期金債権
 ① 民法752条の規定による夫婦間の協力及び扶助の義務
 ② 民法760条の規定による婚姻から生ずる費用の分担の義務
 ③ 民法766条同法749条、771条及び第788条において準用する場合を含む。)の規定による子の監護に関する義務
(養育費)
 ④ 民法877条から880条までの規定による扶養の義務


 法務省民事局参事官室作成の「子どもの養育に関する合意書作成の手引きと」はとても良い資料だと思います。是非参考にして下さい。その中にも記載がありますが、養育費の合意は、裁判所で調停が成立した際に作成される調停調書 (或いは、調停不成立で審判に移行した後に裁判官が下した審判の審判書) という書類になれば、それに基づいて強制執行に進むことができます。そのような効力を有する書面を「債務名義」といいますが、そのように裁判所を介さない合意の場合は、公証役場で作られる公正証書だけが債務名義になり得ます。夫婦が離婚合意を書面にしただけのいわゆる私製証書にはそのような効力は認められません。ですので、夫婦の間に、裁判所を介さずに、養育費を含む離婚の合意ができたら、二人で公証役場に赴いてその合意を公正証書にして貰うと、それが強制執行も可能な債務名義となって安心です(本文中に、支払義務を負う者が「債務を履行しないときは直ちに強制執行に服する旨を述べた」という強制執行認諾約款を記載して貰うことが必要です。詳しくは、日本公証人連合会のホームページでご覧下さい。)。元公証人の私としては、経験上、夫婦間の話合いの中で「養育費等の約束を公正証書にしてくれなければ、離婚できない」と、公正証書の作成を合意の条件とされると良いと思います。債務名義となることが最大のメリットですが、公正証書の作成過程で、前にも述べ、次にも述べる「将来の養育費を放棄する」という様な許されない約束も、指摘して貰え、正しい内容のものとなることが期待できますから。
 なお、扶養請求権は民法881条で処分することが禁じられています。したがって、離婚の際の協議において、子の扶養請求権を将来に向かって放棄することも許されません。扶養請求権は、本来、扶養を必要とする状態が発生したときにその都度権利として生じるものですが、離婚に際して子供が成人に達するまで定期的に一定額の養育費を支払う旨合意することは、要扶養状態が独立して生計を立てることができるまで継続する子供については、予めの合意は当然必要ですし、766条も認める権利事項ですから、問題ありません。また、これを一括して一時金で支払うことも、まれとはいえ実務上事例があります
( 財産分与後に相手方配偶者の手許に残ったその現有財産から支払われることになります ) が、合わせて、将来にわたって扶養請求権を放棄する旨合意することは、扶養請求権の処分禁止に触れることとなりますし、実際にその後養育費が必要となった場合は、事情の変更によって追加の支払いを求めることが許されます(民法880条)。どのような形であれ、離婚目的を達したいばかりに、養育費を放棄する、させられるということはあってはならないので、そのようなことは禁止されているということを銘記すべきと思います。ことに、扶養請求権の中でも、子の養育費は、本来子自身の持つ一身専属の権利であって、親はその法定代理人として代わりに請求している立場ですので、親がこれを勝手に放棄することはできず、この意味からも親の処分の及ばないものであることを銘記しなければなりません。



  子供いるのに離婚なら


  ①
親権以降819どうする、 どちらがつか、親権(真剣)俳句819


  ② 監護面会養育費()(ろう) (揺り籠の意(造語))()
766事項を、

          子
利益最優先
めるべし。


      二人協議められぬならば家裁調停審判





     戸籍は、離婚


    小
さく
739証人(二人、4名の署名捺印・書面、口頭) チェック後

       大
きく
()()765ならぬよう

         親権
以降819どちらか 確認し

           その
法令違反有無も、調べなければ受理できぬ。


    
調りずに受理あれ戸籍係難務功765 離婚届けはなんと 有効!


面会交流
 監護権(民法820条)を有しない親の子との面会交流(以前は、面接交渉と言われていました)については、平成12年に、「婚姻関係が破綻して父母が別居状態にある場合に、子と同居していない親と子の面接交渉につき父母の間で協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、民法七六六条を類推適用し、家事審判法九条一項乙類四号により、右面接交渉について相当な処分を命ずることができる」とする 判例(最判平12・5・1)が出て、父母間での協議ができないときは、判例による法解釈によって、家裁が相当な処分を命じることができることとなりました。また、それより前の平成元年(1989年)に国連で採択され、平成6年に我が国においても発効した児童の権利に関する条約9条3項でも、親から分離されている児童には、原則として、親と定期的に「人的関係及び直接的接触を維持する」ことが権利として認められるべき旨定められている関係もあって、その後、平成23年に、協議離婚の際には、監護権者、養育費についての他、親子の面会交流についても協議で定めるべき旨、この場合には、子の利益を最も優先して考慮しなければならない旨、766条(平成23年)法改正が行われました。これにより、離婚後の、監護権を有しない親の子との面会交流が実定法上も認められたことになります。もちろん、判例の事案のように、離婚には至っていないが別居中である夫婦の間での、子との面会交流についても、家裁への面会交流調停の申立てにより子の監護(民法820条)に関する事件(家事事件手続法別表第二の三)として調停(同法244条)を受けることができます。調停が不成立で終わったときは、そのまま審判官の審判に移行します(家事事件手続法272条4項)。家裁での手続きについてはこちらをご覧下さい。
 面会交流の実際については、父母が激しく対立して、双方が疑心暗鬼となり泥沼化する事例を散見しますが、家庭内暴力等、子の心身に加害、悪影響を及ぼすおそれを伴う場合は、前提を欠くものとして否定されるべきとしても、上記の実定法化への経過に照らし、面会交流は子の権利として守られなければなりません。そして、その実施にあたっては、条文の文言上からも、「
子の利益を最も優先して考慮しなければならない」点が再確認されるべきです。子を中心に考え、発達段階にある子の心理状況を踏まえて、親としての態度を持し温かい雰囲気の中で面会できることが大切です。両親の葛藤・対立が社会の縮図として写り、社会への不安や恐れを根付かせてしまうこと、子が親に対して抱く信頼こそが社会に対する信頼と自己肯定に繋がることを理解して、子の当然の権利である親との交流場面では対立を見せずに穏やかに交流できるよう、子のために努めて頂きたいと思います。なお、家裁は、親権者の指定(家事事件手続法169条2項)、監護権者の指定(人事訴訟法32条4項)に際して、子が15際以上であれば、必ず子の陳述を聴かなければならないとされおり、また、未成年者である子がその結果により影響を受ける家事審判の手続においては、子の陳述の聴取、家庭裁判所調査官による調査その他の適切な方法により、子の意思を把握するように努め、審判をするに当たり、子の年齢及び発達の程度に応じて、その意思を考慮しなければならない(家事事件手続法65条)ともされていますが、面会交流についても、15歳以上の子と親との面会交流は、上記児童の権利条約9条に照らして子の自由とされるべきですし、児童の権利条約児童福祉法の理念に照らせば、15歳未満の子についても、子の意見は尊重されなければなりません。こちらもご覧下さい。





   
  扶養権利ったり担保れたり

         手離
処分ヤバイ881ことです禁止です
 


    
父母の間
 
      
養育費将来って請求せぬ

      
881取決扶養料放棄 とはならぬ
  
     扶養請求、子自身
生存維持()ため 故

          
一身専属、親 放棄不可
     
(養育費を巡る事情の変更で改めて請求できる場合がある)




子の氏の変更
 
 「氏」は本来単なる人の呼称ですが、国民一人一人の登録簿である戸籍は、基本的に、夫婦と、その間の「氏」を同じくする子で編製されますから、「氏」には、家族の呼称という意義もあり、また、家族は基本的に戸籍を同じくする、とも言えます。ですから、「夫婦・親子(は)同氏の原則(民法750条790条)が採られている日本の「氏」制度の下では、例えば離婚した場合などはどうなるのか、となると多少複雑なルールが設けられることになります。
 離婚による法的な効果として、婚姻前の氏に
復氏(767条1項)することになると、たとえ親権者の指定を受け得て子と同居することとなっても、子供とは氏が異なる事態が生じ、子供の幼心に複雑な葛藤を背負わせることになりかねません。そこで、子を引き取り、呼称としての氏も婚姻中のままとしたい場合は、離婚後3か月の内にその旨届け出れば、婚氏続称と言って子と同姓となることが可能です(767条2項)。しかし、それでも、離婚した(婚姻中戸籍の筆頭者でなかった)親は、離婚に伴ってその親だけ別の戸籍となる訳ですから、子供とは戸籍が別の状態になってしまいます。子供と同戸籍でないと、育児や学校等での各種手続関係が何かと不便なので、やはり子も元配偶者の戸籍から抜いて自分の戸籍に入れたいというときは、家裁に「子の氏の変更」許可(民法791条1項)申し立て、その許可を得た上で、市役所に入籍届け(戸籍法98条1項)をすることになります。婚氏続称で氏は子と同じなのに、ちょっとおかしい、と思われるでしょうが、子の戸籍を変更するので、このような手続名となります(「氏」が家族単位の呼称だと考えれば、家族登録簿の「戸籍」が変わる=「氏」が変わる、という繋がりで、「氏の変更」を納得して頂けるのではないでしょうか)。もちろん、子の学校も変わって、子も氏が変わることについて抵抗がないから原則どおり離婚復氏をしたい、という場合でも、親は婚姻中の戸籍とは別戸籍(婚姻前のいわゆる旧籍か、新たな戸籍)となっているのですから、子と同戸籍とするためには同じ「子の氏の変更」許可手続きが必要となります。したがって、復氏しても、婚氏続称しても、離婚するまで同籍であった子とまた同籍となるための手続きと思って、上記の家裁での氏変更の許可を受けて下さい。通常、家裁でのこの手続きには左程時間がかかまりせん。そして、その許可の審判書謄本を持って市役所・町村役場の戸籍係で「入籍届」をすることになります。
 また、婚姻外で生まれた嫡出でない子の出生届けは、母が行い(戸籍法52条2項)、子は母の氏を称し(民法790条2項)、母の戸籍に入りますが、その出生届け、戸籍には、父親の名は記載できません。父親の名を記載するためには認知の手続きが必要となります。
 離婚の際に妊娠していて、
離婚後に生まれた子に関する出生届けは、母がこれを行います(戸籍法52条1項)。そして、子は、母の親権に復し(民法819条3項)、氏は離婚の際における父母の氏を称します(民法790条1項)。つまり、母が、婚姻に際して氏を変更していた場合、離婚復氏(或いは婚氏続称)して父と別戸籍になると、子の親権者は母ですが、子は父の戸籍に記載されることになります。ですから、子を親権者である母の戸籍に移すためには、やはり、上に述べた「子の氏の変更」手続きが必要となります ( このように子の親権者と戸籍が乖離するのは制度設計上問題であると指摘されています )
 離婚後百日間は、再婚禁止期間
(民法733条)ですが、この禁止期間違反の再婚
(禁期婚)で子が生まれた場合父性の推定が前後両夫に及ぶことになるときは、出生届けに父親の氏名を記載することができません。禁期婚で産まれた子でも、後婚の成立後200日以内に産まれた場合は、後婚による推定はかからないので、推定の重複がなく、前婚の夫が父と推定されることになります。また、離婚後300日以内に生まれた子でも、「母とその夫とが、離婚の届出に先だち約二年半以前から事実上の離婚をして別居し、まつたく交渉を絶つて、夫婦の実態が失われていた場合には、民法七七二条による嫡出の推定を受けないものと解すべきである。」とした判例(最判昭44・5・29)があります。この判例のような場合は、後婚での嫡出子としての出生届ができます。推定が重複する場合、どちらが父親か確定するためには裁判が必要となります。これが民法773条父を定める訴え(人事訴訟法43条、〔§2、§4〕)です。
 但し、平成19年の法務省通達により医師の証明書によって
離婚後に懐胎したことが認められれば、後婚子としての出生届けができる☆こととなりました。なお、禁期婚のため父を定める訴えが必要となる子の出生届けは、母が行うことになりますが、その場合は届書に、父が未定である事由を記載しなければなりません(戸籍法54条)
 ☆ 厳密には、「懐胎時期に関する証明書」によって、推定される懐胎の時期の最も早い日が婚姻の解消又は取消しの日より後の日である場合に限り,婚姻の解消又は取消し後に懐胎したと認められ,民法第772条の推定が及ばないものとして,母の嫡出でない子又は後婚の夫を父とする嫡出子出生届出が可能です。」とあります。
 
禁止期間違反の婚姻 (禁期婚) は婚姻取消しの対象となり得ますが、妊娠・出産との関係で、取消しができないことになる定め (民法746条) について、こちらもご覧下さい。



 なお、「子の氏の変更」の手続きでは、子が15歳以上であれば、申立人・届出人は子自身であり、子が15歳未満であれば、親が法定代理人として手続きすることになります(民法791条3項)。栗東市のホームページに入籍届の記載例も見られますから、参考にして下さい。

 
また、離婚復氏により旧戸籍に入った後、上記子供の入籍届となる場合、戸籍記載は親と子二代の範囲までという限りがあるため、当然新戸籍の編製をすることになります。したがって、離婚の際、子の入籍を予定しているのであれば、旧籍に戻らず新戸籍を作っておいて、それに子の籍を入れる方が手間が省けることになります。詳しくはこちらをご覧下さい。

夫婦親子同氏の原則

 
夫婦同氏の原則を定めた民法750条を憲法に違反しないとした判例(最判平27・12・16)があります。
この判決は、
 
夫婦同氏の原則を定める民法750条が、個人の尊厳と幸福追求権を定めた憲法13条に違反するとの主張に対し「民法の氏に関する諸規定は,氏の性質に関し,氏に,名と同様に個人の呼称としての意義があるものの,名とは切り離された存在として,夫婦及びその間の未婚の子や養親子が同一の氏を称するとすることにより,社会の構成要素である家族の呼称としての意義があるとの理解を示しているものといえる。そして,家族は社会の自然かつ基礎的な集団単位であるから,このように個人の呼称の一部である氏をその個人の属する集団を想起させるものとして一つに定めることにも合理性があるといえる。 本件で問題となっているのは,婚姻という身分関係の変動を自らの意思で 選択することに伴って夫婦の一方が氏を改めるという場面であって,自らの意思に関わりなく氏を改めることが強制されるというものではない。 氏は,個人の呼称としての意義があり,名とあいまって社会的に個人を他人から識別し特定する機能を有するものであることからすれば,自らの意思のみによって自由に定めたり,又は改めたりすることを認めることは本来の性質に沿わないものであり,一定の統一された基準に従って定められ,又は改められるとすることが不自然な取扱いとはいえないところ,上記のように,氏に,名とは切り離された存在として社会の構成要素である家族の呼称としての意義があることからすれば,氏が,親子関係など一定の身分関係を反映し,婚姻を含めた身分関係の変動に伴って改められることがあり得ることは,その性質上予定されているといえる。 以上のような現行の法制度の下における氏の性質等に鑑みると,婚姻の際に「氏の変更を強制されない自由」が憲法上の権利として保障される人格権の一内容であるとはいえない。本件規定は,憲法13条に違反するものではない。」と判示しました。
 
民法750条が、法の下の平等を定めた憲法14条に違反するとの主張に対し、「民法750条の規定は,夫婦が夫又は妻の氏を称するものとしており, 夫婦がいずれの氏を称するかを夫婦となろうとする者の間の協議に委ねているので あって,その文言上性別に基づく法的な差別的取扱いを定めているわけではなく, 本件規定の定める夫婦同氏制それ自体に男女間の形式的な不平等が存在するわけではない。我が国において,夫婦となろうとする者の間の個々の協議の結果として夫の氏を選択する夫婦が圧倒的多数を占めることが認められるとしても,それが,本件規定の在り方自体から生じた結果であるということはできない。 したがって,本件規定は,憲法14条1項に違反するものではない。」と判示しました。
 
民法750条が、家族生活における個人の尊厳と両性の平等を定めた憲法24条に違反するとの主張に対し「婚姻に伴い夫婦が同一の氏を称する夫婦同氏制は,旧民法(昭和22年 法律第222号による改正前の明治31年法律第9号)の施行された明治31年に我が国の法制度として採用され,我が国の社会に定着してきたものである。前記のとおり,氏は,家族の呼称としての意義があるところ,現行の民法の下においても,家族は社会の自然かつ基礎的な集団単位と捉えられ,その呼称を一つに定めることには合理性が認められる。 そして,夫婦が同一の氏を称することは,上記の家族という一つの集団を構成する一員であることを,対外的に公示し,識別する機能を有している。特に,婚姻の重要な効果として夫婦間の子が夫婦の共同親権に服する嫡出子となるということがあるところ,嫡出子であることを示すために子が両親双方と同氏である仕組みを確保することにも一定の意義があると考えられる。また,家族を構成する個人が,同一の氏を称することにより家族という一つの集団を構成する一員であることを実感することに意義を見いだす考え方も理解できるところである。さらに,夫婦同氏制の下においては,子の立場として,いずれの親とも等しく氏を同じくすることによる利益を享受しやすいといえる。 加えて,前記のとおり,本件規定の定める夫婦同氏制それ自体に男女間の形式的な不平等が存在するわけではなく,夫婦がいずれの氏を称するかは,夫婦となろうとする者の間の協議による自由な選択に委ねられている。 これに対して,夫婦同氏制の下においては,婚姻に伴い,夫婦となろうとする者の一方は必ず氏を改めることになるところ,婚姻によって氏を改める者にとって,そのことによりいわゆるアイデンティティの喪失感を抱いたり,婚姻前の氏を使用する中で形成してきた個人の社会的な信用,評価,名誉感情等を維持すること が困難になったりするなどの不利益を受ける場合があることは否定できない。そして,氏の選択に関し,夫の氏を選択する夫婦が圧倒的多数を占めている現状からすれば,妻となる女性が上記の不利益を受ける場合が多い状況が生じているものと推認できる。さらには,夫婦となろうとする者のいずれかがこれらの不利益を受けることを避けるために,あえて婚姻をしないという選択をする者が存在することもうかがわれる。 しかし,夫婦同氏制は,婚姻前の氏を通称として使用することまで許さないというものではなく,近時,婚姻前の氏を通称として使用することが社会的に広まっているところ,上記の不利益は,このような氏の通称使用が広まることにより一定程度は緩和され得るものである。 以上の点を総合的に考慮すると,本件規定の採用した夫婦同氏制が,夫婦が別の氏を称することを認めないものであるとしても,上記のような状況の下で直ち に個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠く制度であるとは認めることはできない。したがって,本件規定は,憲法24条に違反するものではな い。 」と判示しました。

夫婦親子同氏の原則と嫡出推定
 私は、夫婦同氏の原則
(民法750条)は、「終生的貞操結合」という婚姻の本質から来る原則であり、子のための安心・安定な呼称環境の確保こそその現実的な眼目であると考えます。子は、両親によって愛され保護されて、心身共に健やかに育てられなければならない(児童福祉法1条、2条)存在ですから、夫婦は子の最善の利益のために無償の愛をもって対処すべきが当然の結合なのです。よって、夫婦・親子間の同氏(民法750条790条)は、夫婦間においては融合一であり 、且つ同 創一の、親子間では融合創一のそれぞれ具現化なのであり、子は夫婦の終生的貞操結合によって、その結合の影導力(ようどうりょく)である融合創一の意志の下に生まれ、それ故に夫婦と子の三者の間には、他の結合を排除して融合装一」の嫡出推定(民法772条)が働くのです。これらは、「氏」を介して戸籍によって一つとなっています(戸籍法6条)から、その「装」が即ち「氏」であると言えます。
 ここでは、氏は、終生的貞操結合の証
なのです。この結合の融合創一によって、三角の上の二つの頂点である父母が、下の一点、同一の子を互いに同定し愛着へと繋ぐ嫡出推定が成り立ち、これによって、同じ一人の子に対して無償の愛を注ぐべく、親子一体としての絆を結ぶことになります。その結果として、夫婦同子の三角が成立し、夫婦親子同氏となるのです。このように見てきて分かるのは、夫婦親子の三角▽の要は、下の一点である子であり、夫婦同氏原則も、夫婦間の思いに拠るというよりも、融合創一の出発点からして、互いの子に注ぐ思いの一点に発しており、視点を変えれば、下から上へ子から発しているということです。夫婦別姓とすべきか否か、議論は尽きないようですが、こうして考えてみると、やはり、個別夫として、或いは、個別妻としてのそれぞれの立場からではなく、婚姻の本質と子の幼心にとって安定した安心できる呼称環境はどうあるべきかという二点から検討されるべきではないでしょうか。

同性婚の氏(立法論私見)
 私は、同性婚について、終生的貞操結合が認められれば社会的承認を与え、婚姻の法的効果を付与しても良いのではないかと申しました。そして、併せて、その場合、社会的承認を与えることに主眼があり、子の監護教育は原則として予定する必要のないことですから、同性婚カップルでは子のための呼称環境の確保は不要なので、その面での同氏の必要は少なく、むしろ、別氏こそ自然なのではないか、とも申しました。しかし、よく考えて見ると、女性の同性婚の場合、現在の判例 (最判昭37・4・27)・通説により分娩・出産の事実によって母子関係が成立するとされることを前提とすれば、同性婚に母子関係の成立が伴い得ること、つまり、同性婚当事者間に子が生まれることが考えられます。また、男性の同性婚の場合も、家庭・家族を失った幼児が多数存在するという社会の現実を踏まえ、社会的養護の要請を満たすためには、養子制度のさらなる活用が考えられますから、男性の同性婚当事者にも養子縁組を認めて良いのでは、と考えるに至りました。そうすると、同性婚にも子の存在を前提とした上で、同氏原則の導入を考えても良いのではないでしょうか。勿論、同性婚当事者の未成年者との養子縁組を制度として認めるか否かは、別に論じられるぺき重要な論点です。

同氏協議に代わる母子氏(立法論私見)
 そうとすれば、まず、通常婚・同性婚を通じて、現在の婚姻時からの同氏原則は維持されるべきと考えます。しかし、あくまで個人の氏の不変を貫く別姓論者の事実婚は別として、現実に同氏協議が調わないために婚姻届が出せないまま仕方なく経過している事実婚は存在すると思いますので、そのような当事者間で、子の出生届、或いは、
(同性婚当事者と未成年者との縁組が制度として認められたとして)養子縁組届を出す現実の必要が生じた場合は、その子のためにはどうしたら良いでしょうか。私は、その段階に至った夫婦・カップルについては、その時点で、出生届或いは縁組届(未成年者との縁組許可の審判が必要となりますが)と同時に母の氏、或いは、主たる監護者の氏による婚姻届をすることができるとしてはどうかと考えます。前述しましたように、同氏原則においては、子のための安心・安定な呼称環境を確保することが重要な眼目ですので、家族に子が登場する際には、子のための親子同氏原則を確保するべく、やむを得ず、「協議による同氏」原則の変更を許すという考えで臨むことができると思います。つまり、その段階では、直前に出産を経ていて目前の監護に相応しい母親、或いは、子と密に接することとなる者と子との同氏を現実の要請として重んじ、他の一方はそれに合わせるべく子との同氏に同意することを強制されることになります。つまり、この場合、考え方としては、未婚の母が子と独立の新戸籍を編製することにより母子同氏(民法790条2項)となるように、現実の子との生活のため、まず母子の「氏」が創設され、実父は、自らもたらした事実婚という事実によって、その新戸籍へ参加する形となります。これは男女平等に反するものでも、呼称の自由に反するものでもなく、母と子の現実に、実父のもたらした事実婚の事実が融合して、家族・家庭の誕生という祝うべき社会的出来事が起きたと考えるべきです。ここに融合創一が起きるとも言えます。勿論、父親が、母子氏にそのような形で同意を強いられることを承服せず、婚姻届が提出できなければ、事実婚がそのまま続くか否かは別として、非嫡出子の出生届、或いは、縁組不許可の結果で終わることとなります。ただ、実質が男女の通常婚である事実婚で、当事者間に子が生まれたのに、妻の氏を称する-上記のように、実は子の氏を称する-婚姻届に同意しない父親には、DNAによる立証等によって、その父子関係と「氏」だけが欠ける事実婚であることの証明がなされれば(障碍事由等の審査も経た上で)裁判によって婚姻の成立を宣言して良いと思いますが、如何でしょうか(女性の同性婚の場合も、子が生まれ得る想定の下に、同様の経緯も考えられなくありませんが、その場合、「父親」役の女性がDNA立証をクリアすることは不可能ですから、それでも、同様の婚姻成立を認めることができるか、さらに一段階の制度化判断が必要です)。憲法24条に違反する仰天の不埒な提言と思われる方がおられるかも知れませんが、憲法は又、12条において、「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであって、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。」ともしています。ですから、憲法は、前述のように、戦前の戸主による理不尽な掣肘等を受けることなしに婚姻が可能となるよう、その自由を宣言したのであって、この場合のような婚姻における放恣を許す趣旨で24条を置いたのではありませんし、このような状況下での子の福祉のための婚姻強制 (と外形的には見えますが、上述来のことからお分かりのように、これは、氏協議に代わる単なる母子氏の強制であって、婚姻意思は、父親のもたらした事実婚によって既に既存のここととして前提されています) は、正に公共の福祉に叶うものですから、何ら問題はないと考えます。むしろ、そうすることの方が、実質的な男女の平等に資することではないでしょうか。事実婚の証明を法定証拠によって容易な方式とし、できちゃった「婚氏」が、ほほえましく語られる時代が来たら良いと思うのですが。
 こうして見てくると、「同氏」という原則は、夫婦同氏
(民法750条)が出発点で、親子同氏(民法790条)はそれに付随するものであると、私も思っておりましたし、一般にも当然のようにそう思われていると思いますが、同氏の眼目は子のためにこそあったと認識できますから、親子同氏、それも、その内の「母子同氏」こそが原初的で根本的な出発点であったことが分かります。そして、それであるならば、このような母子氏に寄り添うことについて、その外形だけを捉え、「男女平等に反する」などと言う余地のないことも明らかです。また、このような母子中心の「氏」と戸籍のとらえ方こそが、戦前から今日まで社会の底流を牢固として流れる「家」とか「家柄」を中心とした「氏」観を破る突破口となり得るとも思うのですが、如何でしょうか。
 
私事で大変恐縮なのですが、私にはここで母子家庭に育ち苦学力行した父と父が詠んだ歌が思い出されます。そのような境涯で母親に連れられ二人の姉と共に福島から山形に追われるように移って行ったときのことを思い出して、詠んだそうで、父がその人生の出発点であったとよく申しておりました。条句のご紹介の前に掲載することをお許し下さい。
 

  母とならば しき

       いずべとてることなし (ぬく)のあれば。




  くれ
790

  夫婦
並びに 親子 (なご)まる
750790(あかし)(うじ)なれば

         違
名困
790親子同(うじ)



  
   親子同氏
790が原則 故に
  
    子
「ママ名困790そのくれ790!」
  
        言
われたため791

    ①   (家裁の)許可けた()   

       (るか
父母(ちちはは)が養縁成って子()()ならば許可せず )  

   れば   変更できる十五()っこい791ならば

              
() (理人)わって()() 変更


         
改姓 った未成()成人後一年復氏ができる

                改姓した父母が子と異氏の例:父母が他人の養子になる場合等



子の引渡請求
 子が親権者ないし監護権者の意に反して第三者によって監護されている場合、親権者・監護権者は自らの権利が妨害されている訳ですから、その妨害を排除するため、その権限に基づいて子の引渡しを請求することができます。しかし、その子が意思能力を有し、子自らの意思で第三者の下にいるときは、権利妨害と認めることができず、したがって、引渡請求も認められないことになります。この点に関する判例(最判昭35・3・15)があります。妻と別居中に子を自らの下に置いていた夫が亡くなり、代わりにその身内が監護していたのに対し、妻から子の引渡しを求めた事案のようですが、この判決は、「その幼児が三歳に満たない頃からひき続き相手方のもとで養育されているというだけでは、右幼児は自由意思に基いて同所に居住しているとはいえない。」として相手方の主張を退けました。また、最近、同じく親権に基づく妨害排除請求の事例として、次のような判例(最決平29年12月5日)が出ました。
 離婚した父母のうちその長男の親権者と定められた父親が,法律上監護権を有しない母親を債務者とし,親権に基づく妨害排除請求権を被保全権利とし て,長男の引渡しを求める仮処分命令の申立てをした事案について、原審は、本件申立ての本案は,家事事件手続法別表所定の子の 監護に関する処分の審判事件であり,民事訴訟の手続によることができないから, 本件申立ては不適法であるとして却下すべきものとしましたが、この最高裁決定は、「離婚した父母のうち子の親権者と定められた一方は,民事訴訟の手続により,法律上監護権を有しない他方に対して親権に基づく妨害排除請求 として子の引渡しを求めることができると解される上記最判昭35・3・15,最判昭45年5月22日)として、申立ての手続適法性自体はこれを認めた上、「もっとも,親権を行う者は子の利益のために子の監護を行う権利を有する(民法 820条)から,子の利益を害する親権の行使は,権利の濫用として許されない」として、次のように判示しました。
 「離婚した父母のうち子の親権者と定められた父が法律上監護権を有しない母に対し親権に基づく妨害排除請求として子の引渡しを求めることは,次の(1)~(3)など判示の事情の下においては,権利の濫用に当たる。
(1) 子が7歳であり,母は,父と別居してから4年以上,単独で子の監護に当たってきたものであって,母による上記監護が子の利益の観点から相当なものではないことの疎明がない。
(2) 母は,父を相手方として子の親権者の変更を求める調停を申し立てている。
(3) 父が,子の監護に関する処分としてではなく,親権に基づく妨害排除請求として子の引渡しを求める合理的な理由を有することはうかがわれない。


 ところで、幼児の引渡しに際して、よく依拠される法律に
人身保護法という法律があります。その人身保護法2条1項は「法律上正当な手続によらないで、身体の自由を拘束されている者は、この法律の定めるところにより、その救済を請求することができる。」と定め、また、これを受けて、人身保護規則3条は、「法及びこの規則において、拘束とは、逮捕、抑留、拘禁等身体の自由を奪い、又は制限する行為をいい、拘束者とは、拘束が官公署、病院等の施設において行われている場合には、その施設の管理者をいい、その他の場合には、現実に拘束を行つている者をいう。」とする他、同規則4条は、「法第二条の請求は、拘束又は拘束に関する裁判若しくは処分がその権限なしにされ又は法令の定める方式若しくは手続に著しく違反していることが顕著である場合に限り、これをすることができる。但し、他に救済の目的を達するのに適当な方法があるときは、その方法によつて相当の期間内に救済の目的が達せられないことが明白でなければ、これをすることができない。」と定めます。
 そして、この人身保護法による引渡請求に関する判例がいくつかありますから、ご紹介します。まず、

1. 最判昭43年7月4日です。この判決の要旨は、「一、意思能力のない幼児を監護することは、監護方法の当不当または愛情に基づく監護であるかどうかとはかかわりなく、人身保護法および同規則にいう拘束と解すべきである二、夫婦の一方が他方に対し、人身保護法に基づき、共同親権に服する幼児の引渡を請求した場合には、夫婦のいずれに監護させるのが子の幸福に適するかを主眼として子に対する拘束状態の当不当を定め、その請求の許否を決すべきである。」と述べています。そして、
2. 最判平5年10月19日は、「 夫婦の一方が他方に対し、人身保護法に基づき、共同親権に服する幼児の引渡しを請求する場合において、幼児に対する他方の配偶者の監護につき拘束の違法性が顕著であるというためには、右監護が、一方の配偶者の監護に比べて、子の幸福に反することが明白であることを要する。」とします。また、翌年の
3. 最判平6年11月8日は、「法律上監護権を有しない者が幼児をその監護の下において拘束している場合に、 監護権を有する者が人身保護法に基づいて幼児の引渡しを請求するときは、請求者による監護が親権等に基づくものとして特段の事情のない限り適法であるのに対し て、拘束者による監護は権限なしにされているものであるから、被拘束者を監護権者である請求者の監護の下に置くことが拘束者の監護の下に置くことに比べて子の幸福の観点から著しく不当なものでない限り、非監護権者による拘束は権限なしにされていることが顕著である場合(人身保護規則四条)に該当し、監護権者の請求を認容すべきものとするのが相当である。」と述べています。
 
  なお、人身保護法による上記の引渡しとは別に、民法766条の類推適用から、家事事件手続法39条別表第二の三「
子の監護に関する処分による審判事項として、或いは、同法105条による審判前の保全処分として引渡しを請求することもできるとされていますが、当該事件の経緯に照らし、上記人身保護の要件である「その方法によって相当の期間内に救済の目的が達せられないことが明白」である場合には、人身保護法によることとなります。そして、以上いずれによるとしても、判決や決定が引渡しを認めても相手方がこれに従わないときは、直接的に有形力を行使して子の身柄を取り戻すことはできないため、間接強制といって、従わない日数分支払金額が増える形で強制する他はないとされています(但し、意思能力のない幼児のケースについて、直接強制を可能とした下級審例もあります)。私は、そのような形で法的正義の実現が子を盾にして妨げられている場合には、子に対する直接強制が許されないのは当然として、阻止する相手に対しては、有形力を用いての妨害排除ないし制圧はやむを得ないと考えますが、如何でしょうか。


養 子 
 親子関係は、前述したように、出産
(或いは、その事実に基づく推定)によって発生しますが、養子縁組によっても生じます。実の親子が自然的親子関係とすれば、養親子は、人為的・法的親子関係と言えます。養子縁組は、当事者間にこの法的な親子関係を築くという縁組意思の合致と縁組届けとによって成立します ( 但し、後記の「縁組障碍」のないことが要件となります ) 。そして、縁組により養子と養親との間には、嫡出親子関係が発生する(809条)と共に養親及びその血族との間に血族間におけるのと同じ親族関係が生じます(民法727条)。また、養子は、養親の氏を称して(810条)、未成年であれば養親の親権に服することになります(818条Ⅱ)。但し、養子となる者の実親との親子関係には影響がないので、養・実二つの親子関係が併存することになりますが、実親の親権は縁組成立により失われ、その者と養子となる子との親子同氏も解消することになります。この実親子関係の併存を敢えて断ち切る養子制度が昭和62年に設けられた特別養子制度です。ですので、養・実両親子関係の併存する普通の養子を普通養子とも言います。普通養子は、養親となる者より年長・尊属でなければ成年者をも養子とすることができますし、成年養子で(やしな)われるのが子ではなく、(養)親でもよいという具合に、縁組目的にも特別な制限がなく、前述の法的な親子関係を築く意思がありさえすれば、節税目的等、他のどんな思惑が働いていてもその門は開かれている感があります。しかし、普通養子のうち未成年養子については、夫婦共同養親でなければならず、また、裁判所の許可も必要とされる等、子の監護養育のため必要な規制が加わる仕組みとなっているところを、特別養子については、さらに子の年齢や親の年齢、実親の同意や特別な保護要件等を厳格に定めて、より子の養護・養育に重きを置いた制度となっていると言うことができます。養子の相続関係についてはこちらをご覧下さい。

縁組届け
 縁組届けは、当事者である養親と養子が、民法799条によって準用される婚姻届けの規定(§739)に則って、成人二人と、合わせて計四名の署名・押印する書面ですることになります ( 口頭で届けてもよい (§739Ⅱ、戸籍法37条 ) のですが、その場合は四名全員が役所に出向かなければなりませんし、時間がかかります)。15歳未満の子が養子に入る場合は、子の親が法定代理人として代わりに縁組を承諾して届けることになります(§797)が、この場合は両親が、証人2名の協力を得て、養親となるべき人と届けることになります。その侭簡単に受け付けられて届けが終わる訳ではなく、下記の各縁組障碍事由等についての審査にパスして初めて「受理」ということになります。ことに、未成年養子縁組等については、家裁の許可を得た上での届けとなりますから、手間と時間を要することになります。この戸籍係での審査に係のミスがあっても、ひと度「受理」があると、一応有効となり、縁組障碍を理由として縁組を取り消すためには、家裁に縁組取消請求をしなければなりませんから、厄介です。ですので、戸籍係に予め相談する等して、慎重に縁組届けの手続きに臨まれることをお勧めします。

なお、
他人の子を嫡出子として届出しても、その出生届をもって養子縁組届とみなすことはてきないとする判例 ( 最判昭25・12・28) があります。
この判決は、「養子縁組は本件嫡出子出生届出当時施行の民法第八四七条第七七五条(現行民法第七九九条第七三九条)及び戸籍法にしたがい、その所定の届出により法律上効力を有するいわゆる要式行為であり、かつ右は強行法規と解すべきであるから、その所定条件を具備しない本件 嫡出子の出生届をもつて所論養子縁組の届出のあつたものとなすこと ( 殊に本件に 養子縁組がなされるがためには、上告人は一旦その実父母の双方又は一方において 認知した上でなければならないものである ) はできないのである。」 と判示しています。


     さきに739799れと

        養子
とし、親子となるには

  
 証人二人頼んで、(署)()

    書面
口頭難避(ため)739

           (養子)
縁組け えたなら

       愛育専心 
799



  養子はまる
809から

      
養親さん 嫡出子
 


       縁組成ればそのから

、     なにせ
727 (養親その血族)

          血
つづきの 親族されるなり


養子の氏
 養子は、養親の氏を称します(民法810条)。しかし、民法は、夫婦同氏の原則(民法750条)も設けています。それで、夫婦の一方が養子となり、他方は養子縁組しない場合は、夫婦の氏はどうなるのでしょうか。このような場合を予定して、民法810条但書きは、「ただし、婚姻によって氏を改めた者については、婚姻の際に定めた氏を称すべき間は、この限りでない。」とします。つまり、夫婦が揃って養子となる場合は、810条の原則どおり夫婦共に養親の氏を称することで、750条の夫婦同氏の原則も守られることになりますが、他方、夫婦の一方が養子となる場合で、婚姻によって氏を改めた者が養子となるときは、例外的に婚氏のままで良いとされ、これによって夫婦同氏原則も守られることになります( 婚氏優先原則 : 養子の戸籍はそのままで、養子となった旨の身分事項が記載されます)。例外が認められているのはその場合だけですから、夫婦の一方が養子となる場合で、その者が婚姻の際氏を改めなかった者であるときは、810条の原則どおり養子は養親の氏を称することとなり、それに伴い、その配偶者も、750条(夫婦同氏)に従って養親の氏を名乗り、これによって、夫婦同氏原則が守られます ( 養子は、養親の氏の新戸籍を構えることになります 。戸籍は、夫婦とその間の未婚の子で編製されますから、いずれにしても、養親の戸籍に入ることはありません ) 。なお、上記の例外が認められる場合で、その後婚姻の際氏を改めたその者が離婚をすると、養子は離婚復氏767Ⅰ)をしますが、直ちにこの810条によって、養親の氏を名乗ることになります ( 養親の戸籍に入ることになりますが、養親の氏で新戸籍を作ることもできます)


      養子 はまる809嫡子であれば
             養氏
して
養籍
810    

   
但し 改姓  (夫婦)婚姓810
 
      
てたその
(その後単独で) 養縁 らば

             
婚氏優先養籍()らず(婚氏優先の原則)



     婚
自氏婚氏とし

       その
(単独)となる(養氏称して)

        連れ
(配偶者)和まる750養方姓夫婦同氏の原則


       養 (子の)運は818Ⅱ養親さんの親権

          服
して、それで破綻818Ⅱない



養子縁組要件 
 養子は、どのような要件の下で縁組できるかについて、民法792条から798条が養子縁組要件を定めています。列挙すると、
未成年養親禁止(§792)尊・長 養子禁止§793後見 養親禁止(要許可、§794、未成年養子の夫婦共同養親(§795)要許可(§798)原則配偶者要同意原則(§796)15未満児養子の 代諾 可797)となります。これらの要件を備えない縁組は、縁組届けの段階で受理を拒まれます(§800)ので、縁組障碍と呼ばれます。誤って受理された場合は、未成年養子につき、子が15歳未満であるのに親の代諾を欠く場合と夫婦共同縁組でなければならないのに、一方だけとの縁組の場合は、いずれも縁組無効ですが、その他は、取消請求によって縁組取消しの対象となります。縁組取消しには、この縁組障碍によるものの他に、詐欺・強迫によるものもあります(民法808条747条)。縁組取消対象となる縁組の内、尊()()長養子禁止違反以外のものは、例えば、届けの時未成年であった養親が成人し、或いは、被後見人であった養子について後見が終了し、それに伴う後見の管理計算も終わった等の後は、取消期間である6か月の経過か、それまでの追認によって、縁組取消しの請求権が消滅します。縁組障碍・縁組取消しについては、こちらをご覧下さい。なお、平成30年の民法改正により成年年齢が18歳に引き下げられましたが、養親の責任の重さに照らし、養親の年齢は20歳が維持されることになりました。


    養子地球792えれば

     太陽
たるべき養親聖人なるべし成人たるべし



    性急792未成年者養子とる

      違法
バレ804縁組取消請求できる

     成人後六月(むつき)経過追認取消請求できぬ



   (あに)(あね)ダメだが年下(としした)弟妹(ていまい) 養子にとれる

    おじ
おば (たとえ)年下にても目上(めうえ)(ゆえ)養子はならぬ

     
このせこさ793尊・長 (縁組)禁止
 


    尊長
禁止せこさ793をば

       尊重
しない()(れい)()()805

     各当事者
親族(家裁に)取消請求できる也





   後見人膝下不祥事なくす794ため

      
(家裁の) 許可 らねば被後者とは、

          縁組
することできぬ



  後見人

        被後者膝下不祥事

    なくす
794 (ための) 許可をば

    
養親マントをはおろう806とした縁組

        
取消(請求)できる   被後者=被後見人




    後見人後見離れ
870(後見) 計算わらぬ

         
被後者との縁組するに許可



    
但し 後見人後見870(後見) 計算えての

   
本人成人
(能力) 回復追認又は(回復後)()(つき)経過となれば

   (成人又は回復後計算終えれば追認又は計算後六月の経過で)

               
すことはできぬ


§794は後見人が被後見人を養子とする縁組に、§870は後見終了の計算に関する規定


未成年者を養子とする縁組
 子は、通常、両親の共同親権の下に養育されます(民法818条3項)。ですから、未成年者が養子となるについては、父母になぞらえた夫婦養親の下で普通の家庭生活が送れるようにとの制度設計により、民法795条は、「配偶者のある者が未成年者を養子とするには、配偶者とともにしなければならない。ただし、配偶者の嫡出である子を養子とする場合又は配偶者がその意思を表示することができない場合は、この限りでない。」と定めて、原則、夫婦が共同養親とならなければならないこととしました〔未成年養子夫婦共同縁組。夫婦の片方が縁組意思を欠いていた場合は、縁組無効となります(こちらもご覧下さい)。また、未成年者を養子とするについては、自己又は配偶者の直系卑属を養子とする場合を除き、縁組による養子の福祉の観点から審査を経て、家庭裁判所の許可も得なければなりません(民法798条)その未成年者自身は、意思能力を有する限り、自己の内面世界を意識できる青年前期を経て、15歳になれば縁組能力有りとされますから、他人の養子となるについて親の同意等は要りません(但し、上記家裁の許可が必要です)。縁組は、しかし、実親の親権が失われ、養親の親権下に入る効果を生みます(民法818条2項)から、通常、学齢になれば有するとされる意思能力の程度では足りず、そのような結果に対する認識も可能な年齢になっていることが必要とされます(縁組効果の発生は、家裁の判断にかかりますから、子自身については、縁組の当否ではなく、その縁組の意思や希望があれば、それを受け止めてあげることが必要なのです)。因みに、人が遺言をすることができる年齢も15歳からです (こちらをご覧下さい) 。養子となる者が縁組能力のない15歳未満である場合は、法定代理人が代わって縁組の承諾 (代諾と言います) をすることにより養子〔代諾養子〕となることができます(民法797条)。法定代理人の代諾がない縁組は、結局縁組する意思表示がないことになりますから、縁組無効となります。養子となる者について、父母のいずれかに親権がなく、監護権はあるという場合は、親権者の承諾のほかに、その監護権者の同意も得なければならず(民法797条2項)、その同意を得ていなかった場合は縁組取消しの対象となります(民法806条の3)。親権が停止されている親がいる場合も、同様に停止中の親の同意が必要とされます(民法797条2項後段)。両親の親権が停止中で、未成年後見人が法定代理人として代諾するについても、両親の同意が必要となります。取消請求についてこちらもご覧下さい。



    夫婦者

      
未成
()(を)養子とするときは

       
795()救護(きゅうご)795 難事(なんじ) (ゆえ)

            
夫婦 共同 縁組

    
但し例外嫡出連 ()表示不可





     他人(ひと)

     
養子となるとて くな
797

     十五
() になれば自由
             
 
(但し、家裁の許可要す。§798)

     十五未満
(法定代理人) 代諾

              
代諾なくば無効



    
離婚して監護 とか

         
親権停止 とか (別に)いるならば

           
その同意をもねばない


     代諾


            
監護とか 親権停止

        同意
なく
797された縁組

          
その縁組取消請求やれるのさ
8063



    但しその追認したり
  
             (
養子)本人十五 ()となって

        
六月(むつき)つか追認すればせぬ

    


    未成()

       
養子とするには福祉

        守
家裁許可

     許可
なくば798

            
未成()者養子 はできぬ




     
未成者養子

          
(家裁)許可なくば798

        
 福祉害するれぬ807

             
(養子が)自己(偶者)直系卑属以外

                    
され
    



          (家裁)許可なくば798

         
(
養子)本人(実方)親族代諾者

                  
取消請求できる
 

       但し 養子成人
           
(して)六月(むつき)つか

                   
  追認あればせぬ



成年養子要(配偶者)同意原則(796条)
 また、配偶者のある者が成年者を養子とするときは、配偶者の同意を得なければなりません(民法796条)。条文上は、「成年者と」(縁組するには)とはありませんが、未成年養子夫婦共同縁組原則795)により配偶者のある者が未成年者と縁組するときは、夫婦共同で縁組しなければなりませんから、ここは、配偶者のある者がその他の縁組をするときということで、成年者を養子とする場合のこととなります。その場合の、養親となる者の配偶者の立場(家族生活、扶養・相続関係等で少なからぬ影響を受けます)を慮って要同意とするのが、民法796条で、その同意を貰っておかないと、その縁組は取り消され得るとする規定が民法806条の2です。配偶者の同意が詐欺・強迫による縁組も、配偶者の同意のない縁組と同様に、縁組を取り消すことができますが、同意を欠く配偶者については縁組を知った時から、詐欺・強迫による縁組については詐欺が分かり、或いは強迫を免れてから、いずれも6か月が経過するか、それまでに追認があれば、取消権が消滅します。こちらもご覧下さい。
  


   夫婦者

   
養子縁組するに、

      やれるのに
806の2やらざる無精
  
         
連合(つれあ)いの

        
同意なくも796ネグったら


           縁組取消
される


          (
夫婦共同縁組か他方が表示不可ならば別)




   騙
されて、又、されてした
養子(組は)

           
詐欺強迫れて

           
六月(むつき)

    
ナシ
747(取消し)めてやまるのに806の2

      (詐欺判り
強迫逃れて)六月(むつき)つか

           
追認取消請求できぬ


§747は詐欺強迫による縁組の取消しに関する規定

縁組障碍縁組取消し
 
養子縁組にも婚姻同様に、縁組要件に欠けるものについては、戸籍届けの受理を拒まれ(§800)、あるいは誤って受理されても後日取り消されることとなる「縁組障碍」があります。列挙すると、未成(年)養親禁止(§792、§804) ()、尊・長養子禁止§793、§805)()後見養子禁止(要許可、§794、§806) (→)、未成年養子夫婦共同縁組(§795)(裁判所)許可(§798§807)原則()成年養子(配偶者)同意原則7968062) (→)、15未満の養子代諾 可797、§806の3)() となります。要するに、戸籍係縁組くに792 (から) 799 八箇条(はま)800縁組届まらぬ受理ならぬならぬけも一度(ひとたび)受理で、一応有効、然れどもやれそう803やれよ804(から)やれや808(まで) 五箇条められたる取消しの原因 あれば(家裁に) えて縁組取消できる也。」を具体的に説明することになります。重複になりますが、まとめのつもりで下記に述べてみたいと思います。そして、この縁組の障害事由があると上記のとおり縁組取消請求が待つことになります ( 但し、夫婦共同縁組に反した縁組、15歳未満児について代諾がなかった養子縁組は、初めから無効であって、取消しの対象ではありません ) が、縁組取消しには、障碍事由による場合に加え、 ( 婚姻取消しにおけると同様に) 詐欺・強迫を理由とする場合も加わります(民法808条による747条の準用)。取消請求は、尊属養子・年長養子以外の障碍事由について、例えば未成年養親については、養親が成年に達してから(§804)、後見養親については被後見人が成年に達し、あるいは行為能力を回復し、後見終了の管理計算が終わってから(§806)(先に計算が終わったときは、成年後あるいは回復後)6か月が経過すると時効によって、或いは、それまでに追認があると、取消請求権が消滅して請求できなくなります。取消期間は、婚姻取消しでは3か月であったのが、こちら縁組取消しは6か月と倍になります。縁組取消しの手続きは、婚姻取消しと同様ですが、こちらもご覧下さい。

 
民法は「成年に達した者は、養子をすることができる」(民法792条)とするので、その反対解釈で未成年者は養親となることができません(未成養親禁止の原則)。未成年者が養親となる届出は、受理を拒まれて縁組できず、誤って受理されても、養親又はその親族から取消しの請求をされ得ることになります(804条)。但し、受理されてしまった場合、養親が成年に達した後6か月を経過するか、又は追認したときは、取り消し得なくなります。「(子の)運は818養親さんの親権して、それで破綻818ない。ということで、養子に対して監護・教育等重大な責任を伴う親権者となる ( 他方、実親の親権は失われることになる )訳ですから、養親となるためには成年者であることが必須の条件となります。未成年者が婚姻したときも、「これによって成年に達したものとみなす。」(753条)法効果によって、養子をとることができます。(条句)

 
平成30年の民法改正により成年年齢は18歳に引き下げられましたが、養親資格は「20歳」とされて、実質的年齢は維持されることになりました。したがって、上に述べたところは、「未成(年)」とあるのを「未20歳(はたち)」と読み替えて頂かなければなりません。また、成年年齢と共に婚姻年齢も、成年と同じ18歳となりましたから、未成年者の婚姻という事態は消滅することとなり、ひいて、民法753条による成年擬制も条文が削除されますので、スッキリと「成人・結婚は一律18歳から。しかし、養親は20歳から」(養親(資格)20歳(以上)原則)ということになります。この成年・婚姻の年齢に関する改正法の施行日は令和4年(2022年)4月1日です。こちらをご覧下さい。

 しかし、養子となるべき者は、未成年者であるべきという限定はないので、成年者が養子となる場合は、養「親」であるに相応しい者であるための制限を受けることになります。つまり、

 尊属又は年長者を養子とすることはできない
(793条)との定め(尊・長養子禁止の原則)によって、これに違反する戸籍届けも受理を拒まれ、又、各当事者又はその親族から縁組の取消しを請求され得ることになります(800条805条)。「親」にとって、子たる者に尊属・年長の属性が伴うことはあり得ないからです。この取消請求権は、公の秩序に関係することから、消滅時効にかからないとされています。但し、提起された取消請求訴訟は、この取消請求権が一身専属であるが故に、原告である養親が死亡したときは、当然に終了するとする判例(最判昭51・7・27)あります。(条句)

 
次には、配偶者のある者が未成年者を養子にとる場合、上記のように親権を行使するについて、夫婦共同してしなければならない(818条3項)関係から、縁組は夫婦で共同してしなければなりません(795条)(夫婦 共同縁組 原則)。これに違反した縁組は、その戸籍届けの受理を拒否されます。そして、にも拘わらず誤って受理された場合については、上記未成養親・尊・長禁止の場合のように取消しできる旨の規定がありませんが、それは事柄が、一旦有効扱いされたものを取り消すという、瑕疵視できるものでなく、初めから無効とすべきものだからで、原則として、夫婦双方について無効とされます。但し、単独の親子関係を成立させることが、他方の配偶者の意思に反せず、その利益を害するものでなく、養親の家庭の平和を乱さず、養子の福祉をも害する恐れがないなど」の特段の事情の認められるときは、縁組意思を有する方と養子との間の縁組は有効と認めてよい旨を判示した判例(最判昭48・4・12)があります。(条句)

 この判決は、「夫婦が共同して養子縁組をするものとして届出がされたところ、その一方に縁組をする意思がなかつた場合には、原則として、縁組の意思のある他方の配偶者についても縁組は無効であるが、その他方と縁組の相手方との間に単独でも親子関係を成立させることが民法七九五条本文の趣旨にもとるものではないと認められる特段の事情がある場合には、縁組の意思を欠く当事者の縁組のみを無効とし、縁組の意思を有する他方の配偶者と相手方との間の縁組は有効に成立したものと認めることを妨げない。」とし、さらに、当該事件について、「甲男乙女夫婦を養親、幼児である丙を養子として届出のされた養子縁組につき、乙に縁組をする意思がなかつた場合であつても、右届出の当時、甲と乙とが別居しその婚姻共同生活の実体は少なくとも一〇年間は失われていて事実上の離婚状態が形成されていたものであり、甲および丙の親権者らは、乙とはかかわりなく甲丙間に縁組をする意思を有し、縁組後は、丙は、甲およびその事実上の妻丁に養育されて親子として生活をともにしており、甲丙間に親子関係が成立することは乙の意思にも反するものではなかつたなど判示の事実関係のもとにおいては、甲丙間においてのみ縁組を有効とすることを妨げない特段の事情が存在するものと認めるのが相当である。」として、当該縁組について縁組意思のある一方のみについての有効性を認めました。
 
この判決によって、未成年養子の要件である「夫婦共同縁組」原則が、民法795条の条文上は、「配偶者のある者が未成年者を養子とするには、」夫婦共同を要すとあるだけなので、配偶者のない者が未成年者を養子とする場合があり得ることを改めて認識させられましたし、そうとすれば、この判文に照らしても、未婚者・独身者が養親となる未成年養子縁組の家裁での許可判断には、子の養育の観点から、やはり同様に「特段の事情」が必要と思われます。殊に、2022年以降17歳までが未成年とされることとなり、未成年養子は、全てこれまでの所謂「児童」にあたる者(児童福祉法・児童の権利条約)を養子とすることになる点に照らしても、未成年養子の養親は夫婦であることをむしろ原則視するべきであるように思います。

 この③の事例と共通する面もありますが、配偶者ある者が、養子、或いは、養親となる縁組をしようとする場合は、他方の同意を得なければなりません(796)(配偶者要同意原則)。「縁組成ればそのから養親及びその血族は、なにせ727養子と血つづきの 親族扱いされるなり。」となりますから、 他方にとっては、婚姻関係に影響が大であるばかりか、夫婦で同じ養氏を称することになる(810)かも知れず、又、親族としての扶養義務を負い、ゆくゆくは、養子が相続分を得て自己の相続減に繋がることもあるからです。この違反についても同意をしていない配偶者からの取消請求が可能です(但し、その者が縁組を知った後6か月を経過し、又は追認をしたときは取消権は消滅します)(8062Ⅰ)配偶者が詐欺又は強迫によって同意した場合も同様とされます(取消請求権消滅時効の起算点は、詐欺と分かり、或いは強迫を免れてから6か月となります)(806条の2Ⅱ)。(条句)

 少し特殊な場合となりますが、後見人が、その被後見人を養子とする場合、地位の乱用から不正が行われないようチェックするため、家裁の許可を受けなければなりません(後見養子の要許可原則)。後見任務が終了した場合でも、後見に関する管理計算が終了しない間は同様とされます(794条)。これに違反した縁組届けは受理されませんし、誤って受理された場合は、養子又はその実方の親族から縁組取消しの請求をすることができます。但し、受理されてしまった場合、管理計算が終了して、養子が成年に達し又は行為能力を回復(成達・回復)した後6か月を経過するか、又は追認したとき ( 計算が終了する前に成達・回復したときは、計算が終了したときから6か月が経過したとき ) は、取り消し得なくなります。(806条)。(条句) 

 また、未成年者を養子とする場合、子が15歳未満であるときは、その法定代理人が子に代わって縁組の承諾をすることができます(797条1項)。この場合の養子を代諾養子と言います。そして、代諾のない縁組は結局縁組意思がないのと同じなので、縁組無効となります。また、この代諾には、親権者のほかに監護権者である父母(のいずれか)が他にいる場合には、その父母の同意を得なければなりません(同条2項前段)。親権を停止された父母がいる場合も同様とされます(同条2項後段)。この定めに違反した縁組届けは受理されませんし、誤って受理された場合は、同意をしていない父母から縁組取消しの請求をすることができます。但し、その者が追認した場合、又は養子が15歳に達した後6か月を経過するか、若しくは追認したときは、取り消し得なくなります。同意権者が詐欺又は強迫によって同意した場合も同様とされます(取消請求権消滅時効の起算点は、詐欺と分かり、或いは強迫を免れてから6か月となります)(806条の3)。(条句)

 最後に、やはり未成年者を養子とする場合ですが、子の福祉のために家裁がチェックする必要があるので、家裁の許可が必要とされ(798条)(未成年養子の要許可原則)、違反の縁組は縁組届けを受理されませんし、誤って受理された場合は、養子、その実方の親族又は代諾した者からその取消請求をすることができますが、但し、養子が成年に達した後6か月を経過するか、又は追認したときは、取り消し得なくなります(807条)。未成年養子に関するもう一つの関門である民法795条の条文上は、上記のように必ずしも養親が夫婦である必要はないのですが、この798条の許可判断に際しては、むしろ夫婦であることを原則とし、独身者が許可を求めた場合、独身者であっても養親たるに足りるとする特段の事情があることを要するとすべきだと考えます。(条句)



 未成年者〔二十歳未満〕養子とる 違法バレし804縁組

    尊・長尊重しない破礼()
805

    後見マント
羽織
806無許可でなした後見縁


  
やれるのに806の2同意なくも796連合いをネグった縁組

   
    代諾、親権
停止監護(権)同意をとらぬ縁組

           
取消請求やれるのさ
806の3



 未成年者
無許可養子いたくらみ(の)れぬ807

  の縁組(取消)請求すれば
やまるのに8062

  (成年後或いは欺し脅し脱した後)六月経過(取消しは)不可なれば

  
やれや 808取消りなば、えいわな807 808じゃ






縁組取消しの効果 
 縁組の取消しに、一般の法律行為の取消効である「遡及無効」
(民法121条)を認めると、取消しまでの間養親子として築いた社会生活を覆すこととなり混乱を招いて悪影響を及ぼしますから、縁組取消しには、「将来に向かってのみその効力を生ずる。(民法748条1項)と定める婚姻取消しの規定(民法748条)が準用されます(民法808条)。そして、準用される748条の2項、3項により、縁組により双方間に生じた財産の得喪関係については、これをそのまま維持するのは妥当でないため、縁組の時その取消原因のあることを知らなかった当事者が縁組によって取得した財産は現に利益を受けている限度において返還させ(748条2項)、知っていた当事者には得た利益の全部を返還させると共に、相手方が善意であったときはその損害賠償もすべきであると定められています(748条3項)。また、808条2項により準用される816条は離縁に伴う復氏の規定ですので、縁組が取り消される場合も、縁組前の氏に復することとなりますが、同条但書により、夫婦で養親であった内の片方とのみ縁組を取り消すときは復氏せず、また、縁組後7年を経過した後の復氏については、取消し後3か月以内での届出により養氏続称ができる、とされます。同じく808条2項により準用される769条は離婚に伴う祭祀承継に関する定めですが、この準用により、養子が縁組によって祭祀承継者となっていた場合、縁組取消しに伴って代わりの承継者を協議で決めることとなり、協議ができない、或いは、協議しても決まらない場合は家裁で決めて貰うこととなります。祭祀承継については、こちらもご覧下さい。



   やれや
808取消りなばそも縁組取消

       
遡及ナシ
748姓婿769南無矩769祭祀承継めて

     実氏
816復氏それで808れや


§748は婚姻取消しの効力に、§769は離婚による復氏の際の祭祀承継に、§816は離縁による復氏に関する規定



縁組の成立には縁組届け縁組能力縁組意思が必要です(民法799条739条738条)が、これらがない場合は
縁組無効となります(802条)。
縁組無効
 縁組をするについて当事者間に縁組意思がなく、或いは、縁組届けがない、若しくは人違いであった等の事由があれば、その縁組は、裁判等を要することなく、当然に無効(民法802条)であり、当事者以外の者からもその無効を主張することが許されます。縁組意思がない無効の例としては、夫婦共同縁組であることを要する未成年養子について、夫婦の片方に縁組意思がなかった場合や15歳未満の子の代諾養子縁組について代諾がなかった場合が挙げられます。無効な縁組の当事者となってしまった場合、第三者から縁組を前提とした主張がなされたときは、縁組取消しの裁判等を要せず無効を以て対抗することができます。とは言え、戸籍に記載のある縁組について戸籍の訂正 (戸籍の記載が、不適法又は反真実なとき真正な身分関係に一致させるよう是正すること) をしなければなりませんから、そのためには戸籍法により縁組無効の裁判を経なければなりません(戸籍法116条)。が、調停前置主義の定め(家事事件手続法257条)がありますから、まずは調停に付されることとなり、それが合意に達すると「合意に相当する審判」がなされます(家事事件手続法277条)。そして、調停不成立であれば、いよいよ人事訴訟(人事訴訟法2条3号)縁組無効確認の訴え」ということになります。その縁組無効確認の判例があります。一つは、旧法時の古い縁組ですが、法定推定家督相続人である養女の去家を可能にするため全くの方便として、その者の叔父を新たに養子とする縁組をしたという事案で、その縁組を無効とした下記判例1.です。次に、無効を主張された縁組を有効であると判示した下記判例2.をご紹介します。この判例2.によっても窺われますが、いかに人為的親子であっても、情交などの人倫に反する関係は社会的にも法的にも許されざることですから、その関係の継続を目的とする縁組は当然無効と言うべきです。しかし、それが、この事例のような過去のたまたまの出来事であったに過ぎず、縁組届けの時点においては当事者間に真に法的な親子関係を築く意思の合致があるのであれば、有効な縁組と認められるべきでしょう。また、前述のように、この縁組本来の目的が存在するのであれば、節税目的等ほかの目的・思惑があっても、縁組の成立を妨げないことについて、下記判例3.がありますのでご覧下さい。

1「当事者間に縁組をする意思がないとき」(民法802条1号)とは、当事者間において真に養親子関係の設定を欲する効果意思を有しない場合を指し、たとえ養子縁組の届出自体については当事者間に意思の一致があつたとしても、それが単に他の目的を達するための便法として仮託されたものに過ぎないときは、養子縁組は、効力を生じない旨判示した判例(最判昭23・12・23)
 
この判決は、上記のように述べて、当該縁組を無効とした原審判断を維持し、合わせて、養親子関係の設定を欲する効果意思のないことによる養子縁組の無効は、絶対的のものであつて民法93条但書の適用をまつてはじめて無効となるのではない旨も判示しています。

2過去に情交関係があつた当事者間における養子縁組につき縁組意思が存在したと認められた事例判例(最判昭46・10・22)
 この判決は、「養子縁組の当事者である甲男と乙女との間に、たまたま過去に情交関係があつたが、事実上の夫婦然たる生活関係が形成されるには至らなかつた場合において、乙は、甲の姪で、永年甲方に同居してその家事や家業を手伝い、家計をもとりしきつていた者であり、甲は、すでに高令に達し、病を得て家業もやめたのち、乙の世話になつたことへの謝意をもこめて、乙を養子とすることにより、自己の財産を相続させあわせて死後の供養を託する意思をもつて、縁組の届出に及んだものであるなど判示の事実関係があるときは、甲乙間に縁組を有効に成立させるに足りる縁組の意思が存在したものということができる。」と判示しています。


   

  さきに739Ⅱ799れと縁組みし

   親子
となるには
証人二人頼んで、()()

    書面
口頭難避739養子縁組




  
(養子)縁組親子になる

     
能力738あっても意思

        判断
できれば
()ができ

     難避
739 届出 ませたら799せて天気晴朗


     
§738は成年被後見人の婚姻に§739は婚姻の届出に関する規定



   ヤレ二人802

  ‘養子
とする
人違意思ナシナシ (のいずれか)ならば

                      
縁組 無効(養)親子ナシに742


    
但しさきに739Ⅱ証人二人不備

          
ナシに
742Ⅱとされて受理 有効


    §739Ⅱは婚姻の届出の方法に、§740は婚姻届の受理審査に、§742は、婚姻の無効に関する規定

縁組意思・縁組無効関連の判例として、次の判決があります。

○3.
専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、直ちに当該養子縁組について民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできないとする判例 (最高裁平成29年1月31日判決)
 この判決は、その理由として「養子縁組は,嫡出親子関係を創設するものであり,養子は養親の相続人となると ころ,養子縁組をすることによる相続税の節税効果は,相続人の数が増加すること に伴い,遺産に係る基礎控除額を相続人の数に応じて算出するものとするなどの相 続税法の規定によって発生し得るものである。相続税の節税のために養子縁組をすることは,このような節税効果を発生させることを動機として養子縁組をするもの にほかならず,相続税の節税の動機と縁組をする意思とは,併存し得るものである。したがって,専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても,直ち に当該養子縁組について民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がな いとき」に当たるとすることはできない。 そして,前記事実関係の下においては,本件養子縁組について,縁組をする意思 がないことをうかがわせる事情はなく,「当事者間に縁組をする意思がないとき」 に当たるとすることはできない。」と判示しています。


養子の相続権 についても、上記判例に触れながら確認しておきたいと思います。縁組により嫡出子となる(§809)養子ですから、養親が亡くなったときには当然相続権があります。縁組によって被相続人の財産を継ぐ人を新たに(或いは更に)設けることが節税になる、というのはちょっと解せないと思われるかも知れませんが、相続自体ではなく、相続の結果に対する課税場面での話です。つまり、相続税課税には、まず基礎控除のステップがあり、この控除によって減額された相続財産の額 ( 正確には、それを仮に法定相続分で相続したとしたときの各相続人の取得額 ) に相続税率をかける訳ですが、この基礎控除が、平成26年までは、まず5千万円を計上した後、一人当たり1千万円を相続人の人数分だけ加算できるというものでしたから、相当な金額が相続財産額から減額になっていました。判例の事案では、相続人は長男と娘二人の三人だったようですが、平成24年に、父親と長男夫婦が相談して、長男の子つまり被相続人の孫を養子にして、相続人を計4人としたようで、そうすると、9千万円の控除となる訳です。相続人にとっては、大きな節税効果、長男にとっては増産効果ですが、反面、娘らにとっては、1/3だった相続分が縁組により1/4になってしまった訳ですから、縁組無効を訴えてそれを阻止しようとしたと思われます。ところで、この基礎控除は、平成27年からは、従前の6割分に縮小されて、3千万円プラス一人当たり600万円となりましたので、従前ほどの効果の大きさはなくなってしまいました。そして、このケースの場合は、被相続人に実子がいるので、加算が認められる養子は一人だけですから、1千万円の加算となりますが、控除枠もそれが限度で、このケースで養子を例えば二人とっていたとしても、一人分の加算しか認められません。実子がいない場合は、二人までというように、基礎控除を認められる養子の数に限度があるので、節税効果もその限度にとどまる訳です。特別養子であれば、基礎控除の面でも実子同様の扱いをして貰えますが、厳格な特別養子制度の下で専ら節税目的の縁組が許可される筈はないと思いますから、あくまで副次的効果ということです。さらに、判例の事例で付言しますと、事前に娘たちとも相談し、遺言をしてその中で具体的に娘たちも納得する相続分を定めておけば良かったのにと思われます。基礎控除のメリットを確保しつつ、皆が納得する相続とするためには、面倒でもそうすることが必要だったのではないでしょうか。なお、この例の場合、仮に相続開始時には長男が既に亡くなっていたとすると、養子となっていた孫は、その長男の代襲相続人(887条2項)でもあるので、この二つの相続資格を併有することになり、いわゆる重複相続をすることになります(昭和26年9月18日民事甲1881民号事局長回答)。具体的には、嫡出子扱いされる養子の立場での相続分1/4と、長男の代襲者として長男の持っていた相続分1/4とを合わせた2/4、つまり1/2を相続できることになります。残りは娘二人が各1/4です。資格が重複しても認められない場合については、こちらをご覧下さい。養子の相続税については、相続税算定のあらましもご覧下さい。


      


      息子逝き、(その息子の子)不憫うなら、

        
養子ようして887

       (財産を)息子わりの代襲と、養子自身と、

                
わせがせよ、爺心
()

         「して」は、7の伊語「セッテ」、西語「シエテ」から




特別
養子

 養子は、こうして養家の親族になりますが、実方の親族関係はそのまま残り、両方の親族関係が並立することになります。この実方の親族関係を断ち切る(民法817条の9)養子縁組の制度が「特別養子」です。特別養子は、子供の福祉を図るため、生みの親との法的な親子関係を解消し、子の実親でない夫婦が、共同してその子と実子同様の親子関係を結ぶ制度で、特別養子縁組の成立には、文字通り、普通養子縁組とは異なる特別の事情・必要のほか、①実親の同意、②養親の年齢、③養子の年齢、④半年間の監護、の大きく分けて四つの要件を満たす必要があります。但し、①の要件については、子の利益が実親による虐待等によって著しく害されている場合、又は、実親がその意思を表明できない場合には、同意を要しないとされています。そして、この縁組を希望する夫婦の請求により、家庭裁判所の特別養子縁組成立の審判があると、子はその夫婦の特別養子となります。特別養子縁組届けについてはこちらをご覧下さい。特別養子の戸籍は、一見してそれと分からない記載となっており、また、容易には遡って辿ることができないよう、元の戸籍と特別養子戸籍の間に中間戸籍を設け、第三者がその謄本請求をすることはできない仕組みがとられています。裁判所ホームページの説明はこちらをご覧下さい。(特別養子のことを知る手掛かりとなる放送がありました。NHKドキュメンタリー「カノン~家族のしらべ~」です。機会がありましたら是非ご覧になって下さい。)
 まず、特別養子縁組の成立(民法817条の2)、そして、その各要件(同条の3から同条の8)について見てゆきたいと思います。

 特別養子縁組は、養親となることを希望する者からの請求によって、民法817条の3から同条の7までに定められた要件全てを具備する場合に限り、家裁の審判によって成立させることができます。この請求をするについては、後見人が被後見人を養子とする縁組
(民法794条)や未成年者を養子とする縁組(民法798条)に必要とされる家裁の許可は必要ありません(民法817条の2、家事事件手続法76条164条166条)なお、この縁組は、保護を要する子に対し、実の両親に代わって両親としての養育を与えることを目的とするものですから、当然夫婦共同縁組でなければならない(民法817条3)ので、請求も当然夫婦共同申立てとなります。

   

  薄幸児監護たせぬに817の2そのならば可哀相

    這稚
8173(から)、背稚8177まで要件

     具備
せば養親たるべき
(たらんとする者)

         求
めによって
親族関係断って特別養子




  特別養子
這稚817の3

       
  〔
795()救護795より難事(なんじ)

    ( 故に、養親は)夫婦 (で、かつ)共同縁組必須

            但し、
嫡出連子(つれこ)此限(こぎり)でない


    
§795は配偶者のある者が未成年者を養子とする、夫婦共同縁組に関する規定



養親の年齢
 
乳幼児段階からの養育を要する特別養子の養親であるためには、年齢的にもある程度成熟し、安定した心情と社会的経験が必要ですし、親子の間の自然な年齢差もなければなりませんから、原則として、夫婦共に25歳以上であることが必要とされます。但し、うち一人が25歳以上でなくとも、その者が20歳以上であれば足りるとされています(民法817条の4)。また、この年齢制限は、請求時でなく、審判により特別養子縁組が成立する時に満たされていれば良いとされます。年齢の下限がこのように定められていますが、その上限はありません。したがって、世上散見される孫養子の場合のように初老期に入る夫婦にも制限はかからないこととなりますが、実際に特別養子の縁組請求が出された場合、子に実親同様の養育を授ける趣旨に叶うのか、乳幼児の養育の面倒に耐えられるのか、当該ケースに特別保護の条件が認められるか等々の審査は慎重にならざるを得ないのではないでしょうか。やはり、孫養子は、普通養子としての対処で臨むべきように思われます。



    這稚8174

       
   養親年頃
安定(子との) 年齢差 要すが故に


          二十歳(はたち)8174一方必五年(以上)



養子の年齢
 特別養子縁組は、実親との親族関係を断ち、養親との間に実親子同様の関係を築くことを目的とする縁組ですから、実親との間に親子間の愛着が生じる前に成立させる必要があります。そのため、特別養子となる子の年齢は、原則として6歳未満であることを要します。但し、6歳を過ぎた子であっても、その子が6歳になる前から養親となる者に引き続き監護されていた場合には、8歳未満であれば良いとされます。また、この年齢制限は、特別養子縁組の請求時に満たされていなければなりません(民法817条の5)


  

  親子形成 (のためには)実親愛着 (アタッチメント)未生(みしょう)

    這稚
8175必須なる六歳になる不可とされる也。

      
但し六歳前から監護八歳未満であればよし



特別養子縁組に対する実父母の同意
 
特別養子縁組の成立には、養子となる者の「父母の同意」がなければなりません。親としての被扶養権、子の財産に対する相続権等を結果として失うことはもとより、何より実の子との親子関係が断たれることになるのですから、原則として、実父母の同意は当然の必須要件となります。したがって、親権喪失の審判により親権を失った者であっても、「父母」であれば、原則としてこの同意権を有します。また、この「父母」には、養父母も含まれるとされていますが、実の父親であっても、婚姻外の父であれば、その者による認知がなければ、子との法的な父子関係は認められませんから、その者には縁組同意権は認められません。同意は、要するに特別養子縁組を成立させることを認め、受け容れる旨の意思表示ですが、方式が定められていないので、書面によらない口頭のものでも、その者自身の意思表示であれば、足りるとされています。また、意思表示の相手方も特には定められていませんから、審判により縁組を成立させる家裁に対する同意であることを要しないので、例えば、母親であれば、当然出産後の母親の心情の安定を待った後でなければなりません ( 欧州等では、母親の熟慮期間として2~3か月が保障されている国があるようです ) が、嬰児、乳児段階からの養育、或いは乳児院への措置等の過程でなされた同意であった場合は、その後特別養子縁組成立の審判までの間にその意思表示が撤回されていないことが確認されなければなりません。また、父母本人自身による意思表示でなければならず、代理人による意思表示では、同意ありとは認められません。そのように特別養子縁組成立のための重要な要件となる父母の同意ですが、ただし、父母がその意思を表示することができない場合又は父母による虐待、悪意の遺棄その他養子となる者の利益を著しく害する事由がある場合( 私なりに「虐棄著害の事由」と言います )は、例外的にこの同意は不要とされています(民法817条の6)。その内「父母がその意思を表示することができない場合」とは、行方不明のため意思確認が不能である、或いは、意思能力のない心神喪失状態である等の場合が考えられます。そして、そのような場合であっても、後記する子のための特別の必要性に照らし、父母の同意が不要とされる訳ですが、上記同意権の重要性に鑑みれば、この要件の具備については厳格に審査されなければならず、単に審判時点で父母が父母として陳述ができない事情にあることだけで審判に踏み切ることは許されません。判例(最判平7・7・14)があります。この判決は、子の血縁上の父であると主張する者が戸籍上の父と子との間の親子関係不存在の確認を求める訴えを提起するなどしていたにもかかわらず右訴えの帰すうが定まる前に子を第三者の特別養子とする審判がされた場合のその審判について、「被上告人乙山花子を乙山高男、同雪子の特別養子とする審判(以下「本件審判」という。)が確定していることは明らかであるが、上告人は、被上告人花子が出生したことを知った直後から自分が被上告人花子の血縁上の父であると主張し、同被上告人を認知するために調停の申立てを行い、次いで本件訴えを提起していた上、本件審判を行った福島家庭裁判所郡山支部審判官も、上告人の上申を受けるなどしてこのことを知っていたなどの事情があることがうかがわれる。右のような事情がある場合においては、上告人について 民法八一七条の六ただし書に該当する事由が認められるなどの特段の事情のない限り、特別養子縁組を成立させる審判の申立てについて審理を担当する審判官が、本件訴えの帰すうが定まらないにもかかわらず、被上告人花子を特別養子とする審判をすることは許されないものと解される。なぜならば、仮に、上告人が被上告人花子の血縁上の父であったとしても、被上告人花子を特別養子とする審判がされたならば、被上告人花子を認知する権利は消滅するものと解さざるを得ないところ(民 法八一七条の九)、上告人が、被上告人花子を認知する権利を現実に行使するためとして本件訴えを提起しているにもかかわらず、右の特段の事情も認められないのに、裁判所が上告人の意思に反して被上告人花子を特別養子とする審判をすることによって、上告人が主張する権利の実現のみちを閉ざすことは、著しく手続的正義に反するものといわざるを得ないからである。」と述べています。認知の途を閉ざしたことは、ひいて実親としての特別養子縁組に対する同意・不同意の機会も奪ったことになりますから、そのようなことにならぬよう手続的正義の観点から同意権確保は厳守されなければなりません
 したがって、家裁が父母の同意がないにも拘わらず縁組成立の審判をするときは、養子となるべき者の父母の陳述を審問期日に聴取しなければなりません
(家事事件手続法164条3項)。次に、上記の「父母による虐待、悪意の遺棄その他養子となる者の利益を著しく害する事由がある場合」 ですが、ここで法が示す虐棄著害の事由は、民法834条が親権喪失の要件として掲げる事由と酷似しており、いわば「親として失格」の者たちということになりますが、そのような場合は、その親の存在自体が子の利益を著しく害することから、その同意は不要とされる訳です。しかし、前述のとおり、民法817条の6は、原則として、親権の喪失者からも同意を要する趣旨と解され、手続的正義は確保しなければなりませんので、親権喪失者については、縁組審判までにその者から同意が得られれば別ですが、ない場合でも、審問時の陳述等により、特別養子縁組の審判時においても、例えば、未だにその者による他の子に対する虐棄著害があったり、関係機関に対する対応等から事態に改善がない等の事情が認められれば、虐棄著害の事由ありとされて、その者の同意を要しないこととなります。
   

    〔 特別養子成立

    「背血
817の6 ()父母同意 するが

     
その父母 (意思) 表示できぬとか虐待遺棄 (ほか)子に著害

     あらば
そのなのに817の2特別養子は成り立ち得同意は不要)


特別養子縁組の特別保護要件
 特別養子縁組は、それまでの普通「養子縁組」制度があるのに、実親との親族関係を断って、乳幼児期から実子同様に養育できる制度を創設することを目的として、昭和62年に新たに設けられた制度です。ですから、その縁組成立のためには正に特別な事情と必要のあることが要件となります。これを民法817条の7は、「父母による養子となる者の監護が著しく困難又は不適当であることその他特別の事情がある場合において、子の利益のため特に必要があると認めるときに、これを成立させるものとする。」と定めます。まず、①この要件の前半は、主として、子の養育にとっての実父母側における著しいマイナス要素が念頭にあると言え、②要件の後半は、主として、子にとって養親側に大きなプラス要素のあることが要件となっていると言えます。その具体的な例を挙げれば、①の実父母側の要素としては、例えば、父母の死亡、行方不明、貧困等の、実際に養育不能であったり、著しく困難である状況が考えられ、また、虐待や著しく偏った養育態度、さらには、性犯罪被害者となっての出産であるため感情的に母性愛を感じられない等の特別な事情の場合もあります。②の養親側の要素としては、子の養育の現状に比べ、家庭環境、経済的条件等において明らかに改善が見込まれ、現状に照らせば実父母との親族関係を断って養子とすることに特別の必要性がある場合等ということになります。いわゆる「借り腹」事案であった前述の「代理母」判例の事案では、最高裁の判決後された特別養子縁組の請求に対し、裁判所は「貸し腹」側である代理母には養育の意向がなく、血縁のある養親側に真摯な養育意向が認められるとして特別養子縁組の成立を認めましたが、この場合、両者の養育意志の大きな落差と血縁とが特別の事情・必要の要素となっていると思われます。そして、何より、養親子が事実上の血族であることから、養育の基礎に「融合創一」関係を優に認め得ることが大きな要素であったのではないでしょうか。



    背稚817の7監護()(じる)しく(困)不適 (当という)

            
特別事情
()ため特別必要あること必須。




特別養子縁組成立に必要な半年間の監護
 特別養子縁組の成立には、「養親となる者が養子となる者を六箇月以上の期間監護した状況を考慮しなければならない」とされ、この期間は、特別養子縁組の請求の時から起算するものと定められていますが、但し、「その請求前の監護の状況が明らかであるときは、この限りでない。」とされます(民法817条の8)。この規定の趣旨は、子が審判後に養親の元で法の期待どおり実子同様に養育されることが可能か否か、養親の適格性と養親子の和合可能性を見極めるための試験的養育期間として「6か月以上」が定められているとされます。したがって、請求前から養親となる夫婦の元で里子等として上記適格性等の見極めには十分な期間を過ごし、その監護の状況が明らかである子については、請求後直ちに成立審判を受けることもあり得ます。この規定の趣旨はそのとおりで、そこに何ら問題はないのですが、特別養子制度は、子の利益のためにある制度の最たるものと言えますから、法律要件充足の重要性もさりながら、子が愛育される未来を確実なものとすることが何より重要です。子は、実父母或いは施設から養親の元に養育の場を移されていく過程で、様々な心的激動を体験する訳ですから、養育条件の重要な移行期でもあるこの試験的養育期間は、激動による心的傷害を被ることのないよう子の監護に係わる監護者・関係者間で細やかに配慮をしつつ連携を密にして子に接し、その養育の経過を踏まえ、子が養親に対する愛着をしっかり抱くことができるよう、一貫して子とも養親とも安心と信頼の関係を築き積み上げていく期間であり、また、子を失うこととなる実母・実父に対してもその喪失感を癒やすためのケアに努めるべき期間とも言えます。要は、本来は夫婦・子供の間での絆である融合創一を、社会が代替・支援して、「融合総一」で結ばれた信頼と癒やしの絆の中で、子が養親に対する確かな愛着を得、無償の愛の中で成長できるよう、皆が協力し合わなければなりません。





     特別養子 に、

     破綻
せぬよう
817の8請求からの六月(むつき)以上

                       試験的
監護状況 要考慮 ( 試験養育 )

   
但し、監護状況らかならば請求以前起算でも六月以上めらる

   


特別養子制度のコアというべき実親との血族関係の終了を規定するのは民法817条の9ですが、その条句をご覧頂きます。


   特別養子
()れば

     実父母
とその血族背血8179

            血族
(との親族)関係 たれ終了



     結婚相手嫡子、特別養子()

          する
場合なら背血退()817の9  (親族関係終了しない)



特別養子の離縁
 特別養子の離縁は、養親に虐待・遺棄等養子の利益を著しく害する事態があって、子のため特に必要があり、実親に監護可能性が認められる場合のみ、審判によって離縁が可能となります
(民法817条の10 )。離縁の請求権は、養親には認められず、子と実親或いは検察官からのみ家裁に請求することができ、家裁の審判により離縁が成立すると、離縁の日に実方との親族関係が復活します。 なお、特別養子の戸籍は、容易には遡って辿ることができないよう、元の戸籍と特別養子戸籍の間に中間戸籍を設け、第三者がこの謄本請求をすることはできない仕組みがとられています。



  特別養子
(縁組) ったれば離縁 原則不可なるも、

  養親に
虐待(悪意の)遺棄(ほか)()()のため

   著害
(事由) があれば、

         監護
をばたせぬ自由81710はないに、

             例外
(的に)離縁ができる


    
実父母相当監護可能であって

         子
ため特別必要あれば(養子、実父母、検察官の求めによって)

             審判
離縁することできる



 
  特別養子
養親(虐待 遺棄)子利著害事由あれば

    監護「
たせぬ自由81710」はない実父母相当監護可能なら

                          
離縁審判
できる也。



  
特別養子離縁となればたせぬ一意 817の11解消

         実父母
とその血族親族関係その復活をする



 
 縁組の解消である離縁にも、離婚同様、
裁判離縁協議離縁の二種類があります。当事者間に離縁意思の合致があって、離縁届けがされれば、任意に協議離縁ができます。そして、任意の離縁ができないときは裁判離縁となりますが、裁判離縁には法定の離縁原因(民法814条1項)があり、その離縁原因たる事由が認定されても、裁量により離縁請求が棄却される場合がある(民法814条2項770条2項)点も、離婚と同様です。縁組能力がないとされる15歳未満の者については、養子縁組の際の代諾と同様に、原則として養子の父母が代諾することにより離縁することができますが、養親との離縁の訴えでも同様に父母が当事者となります(民法815条)一方当事者が死亡している場合の離縁については、家裁の許可が必要となります(民法811条6項)。また、夫婦養親が未成年の養子と離縁する場合は、夫婦共同で離縁しなければなりません(民法811条の2)
 離婚には、大別して協議離婚裁判離婚の二つがあって、それぞれ合意と強制の性質を持ち、その中間に、調停離婚と審判離婚があると述べましたが、離縁についても、上の二種類の中間に調停離縁と審判離縁があります。こちらもご覧下さい。




協議離縁
 
縁組能力がないとされる15歳未満の養子の協議離縁については、養子縁組の際の代諾と同様に、離縁後に法定代理人となるべき実父母が子の代わりに養親との離縁協議に臨み(民法811条2項)、父母が離婚しているときは、その協議でいずれかを親権者と定めて、親権者となった親が離縁協議に臨みます(民法811条3項)が、親権者を定める協議ができないときは、家裁が協議に代わる審判で親権者を決めることになります(民法811条4項)。子の身分行為の代理について、こちらもご覧下さい。
 協議離縁届けには婚姻届けの民法739条が準用される
(民法812条)ので、縁組時(§799)と同様に成人の証人二人の署名・押印と共にした協議離縁届けが必要です。また、離縁届けは、上記の代諾離縁の要件を具備していること(§811Ⅱ~Ⅴ)、一方当事者が死亡している場合には家裁の許可があること(§811Ⅵ)、夫婦養親が未成年養子と離縁する場合は夫婦共同離縁となること811の2)、証人の要件を満たしていること(§739Ⅱ)、その他法令に違反していないことが確認されないと受理して貰えません(民法813条)。しかし、この審査に戸籍係のミスがあっても、ひと度「受理」されると、「離縁は、そのためにその効力を妨げられない」とされています(民法813条2項)また、離縁の効果としての復氏(§816Ⅰ)をせず、縁組の日から7年を経過した後の離縁で 養氏続称 を希望する場合は3か月以内に役所に届けることになります(戸籍法73条の2§816Ⅱ)。


裁判離縁
 裁判離縁でも、その離縁原因として、離婚の際の離婚原因と同様、法で定められた具体的と抽象的の二種類の離縁原因があります。具体的離縁原因は、悪意の遺棄3年以上の生死不明という二つの個別原因であり、抽象的離縁原因は、離婚におけると同様の「縁組を継続し難い重大な事由」とされています(民法814条1項)そして、離縁にも、裁判で離縁事由が認定されても請求どおり離縁が認容されない裁量棄却があり得ます(民法814条2項)。ですので、その際の判断にも、昭和62年の離婚判例(最判62・9・2)で示された裁量棄却事由の判断同様の判断が働くものと思われます。したがって、当該離縁請求に裁量棄却事由が有りや無しやの判断は、「離縁の請求が正義・公平の観念社会的倫理観に反するものであつてはならないので、当該離縁請求を認容することが、当該の縁組を巡る当事者の意思・感情、離縁により被る社会的・経済的影響等の諸事情の下で、未成熟子である養子や高齢の養親等の当事者に極めて苛酷な状態を招来することとなる等の特段の事情があって、著しく社会正義に反する結果となることはないか、或いは、離縁が有責当事者からの請求にかかるものであれば、その責任の態様・程度が著しく重く、その者による離縁請求を認容することが著しく信義誠実原則に反する結果となることはないか、の判断にかかり、これらの点がない限り離縁請求は許される。」と引き直して述べることができるのではないでしょうか。
 
判決で離縁が確定したときは、原告となった者は10日以内にその旨の離縁届けをしなければなりません。調停や審判等で離縁が成立したときも同様で、手続きを起こした者が成立した手続きを明示して届けます。訴えや手続きを起こした者が定められた届出をしないときは、その相手方からも届出することができます
(戸籍法73条、63条、戸籍法施行規則57条Ⅱ、家事事件手続法268条287条)。前記10日の期限は、それを過ぎてしまったからといって届出ができなくなる訳ではありません。その日を過ぎると、相手方からも届出が可能となる基準日ということになります。



  裁判離縁廃養814
 
      
(3年以上)生死不明悪意の遺棄

   
やっていけない
大事(おおごと)(縁組を継続し難い重大事由)

      
いずれか具備をするならば
離縁なしマル770なるも

               
遺棄
か或は (生死)不明なら裁量棄却もありるよ 

                         
§770は裁判離婚の離婚原因に関する規定



  養縁破綻(はたん) ()811 (には)

     離縁
配意
811 (があって)協議離縁ができる
  



  
()十五() 815未満 離縁

    
(養子)本人事情ようわん811

     
(離縁後に)()( )たるべき実親

    代諾
するか、さもなくば離縁の訴えできる也





  養子
父母(ちちはは)()離婚ならば

   協議
れか一方親権者にとむべし。


  
協議不可なら審判による。法代たるべきなくば

         
めによって裁判所後見人選任


 
  
養縁者一方 死亡した離縁は、家裁 許可          

   
§815は養子が十五歳 未満である場合の離縁の訴えの当事者に関する規定



成年被後見人の離縁
離縁届け
詐欺・強迫による離縁 (離縁取消し)
離縁無効

 離縁には、成年被後見人の婚姻に関する738条、婚姻届けに関する739条、詐欺・強迫による婚姻の取消に関する747条が各準用になります(民法812条)これにより、離縁も、身分行為であるから、財産行為に関する行為能力の制約がなく、従って、後見人の同意を要しないこと、また、届出によって効力が生じるので、離縁意思と共に届出が必要なこと、それには成人二人の証人が必要なこと、離縁が詐欺・強迫によるものであれば、離縁の取消しが可能なことが定められていることになります(但し、詐欺が分かり、強迫を免れてから6か月以内に取消請求をしないと取消権が消滅します)。なので、離縁意思がない場合は、はじめから離縁無効ということになり、第三者から離縁を前提とした主張をされたときには、取消裁判を待つことなく無効の主張をすることができますが、戸籍上離縁の記載が載ってしまいますから、自分から戸籍訂正をして貰いたい場合は、離縁無効の確認を得るため裁判所の手続きを践まなければなりません。こちらをご覧下さい。


    離縁
なる養子縁組 破綻 812

      
精神
(被後見人)波は738静めて

     証人を二人伴い難避く
739 ()

          
(離縁に)()() があれば
 
     詐欺
判り
強迫逃れて六月(むつき)の内に

     
ナシな
747 (取消し) 求めばやまるのに8062六月(むつき)経過か追認取消請求できぬ也

§738は成年被後見人の婚姻に、§739は婚姻の届出に、§747は詐欺又は強迫による婚姻の取消に、§8062配偶者の同意が詐欺強迫に因った縁組の取消し等に関する規定






離縁の効果
 離縁の効果としては、養親及びその血族との間の親族関係の終了
(民法729条)、復氏(816条)、縁組によって氏を改め祭祀主宰者となっていた養子が離縁する場合の祭祀財産の承継(817条769条)と離縁後に残る婚姻障碍(736条)等があります。当事者の一方の死亡後の離縁は、家裁の許可を必要とします(民法811条6項)。死亡によって養親子の関係は当然に終了しますが、養親族関係が継続するので、それを終了させるものです。養親の一方が死亡し、他方は生存する場合、完全な離縁のためには、生存親とは通常の離縁をし、死亡親とは死後離縁をすることになります。離縁の当事者は養親又は養子であって、その親族から離縁を求めることはできません。養子の配偶者が養子の死後、養親との姻族関係を終了させたいと望むときは、姻族関係終了の意思表示をすれば足ります(民法728条2項)。離縁や姻族関係の終了によっても、一旦直系の姻族となった間柄である以上、その後の婚姻は禁じられます(民法736条)。離縁によって復氏となる( 但し、夫婦養親の一方とのみ離縁する場合は、復氏は伴いません )のが原則である点は、離婚と同じですが 、離縁後3か月以内の届出により、離婚における婚氏続称のような養氏続称が可能とされるのは、縁組後7年以上経過したケースの場合に限られます(民法816条2項)。復氏すると縁組前の戸籍に入る(戸籍法19条)ので、縁組を重ねる転縁組のケースでは、実氏ではなく、離縁する縁組の直前の縁組での養氏に復することになります(こちらの婚氏続称を参照下さい)。祭祀承継については、離婚時のそれに関する民法769条が準用され、協議によって祭祀主宰者を決めて、主宰者が祭祀財産を承継することとなりますが、協議ができない、或いは協議が調わないときは、家裁が決めることとなります。こちらをご覧下さい。




   (なつ)729でも養子(縁組後の)なら

     
離縁によって(縁組による養孫の)縁切れる



  養子
並びにその
孫子(まごこ)それぞれの配偶者

    七福729一族離縁によって

           
養親その血族縁切れる




   離縁したなら実氏(縁組前の氏)いろ816在縁 七年

   
(縁組前の氏に)なく三月(みつき)

   
名務して
767養氏続称 できる


     
「養」破綻816続称


  §
767は離婚による復氏等の規定。「して」は7の伊語「セテ」、西語「シエテ」から



   改姓養子祭祀いでいた場合な817

   離縁
(離婚)南無矩769準用協議祭祀者廃置817する

      協議不調
家裁



   
仏壇仏具() 祭祀()(祭祀)主宰者

       
その承継離婚時769離縁時廃置817

     逝
ってもくな897(祭祀承継者を)めねばない


   §769は、離婚復氏の際の祭祀承継に、§897は、相続に伴う祭祀承継に関する規定




   
養親養子離縁後婚姻なさる736禁忌也

    養親子離縁したならなさろう736とおいなしは浅慮也

    養子
並びに その(系)(属)それぞれの連合いも

                (いずれも)
()()とは禁婚間


 なお、終生扶養を受けたいとの動機から養子縁組をし、それとほぼ同時に、その代わり所有する不動産の大半を養子に遺贈するとの遺言をしたものの、その後養子に対する不信を深めて協議離縁に至ったという経緯に鑑み、遺言が撤回されたとみなされた事例判例(最判昭56・11・13)があります。



離縁無効

協議離縁無効確認調停

 養子縁組は、届け出ることによってその身分行為が完成して成立し、それに伴い重要な各種の効力が発生しますから、その受理には、障害事由の有無の審査が重要です。しかし、この身分関係を解消する離縁については、親権者の定め等の要件を具備し、離縁意思の合致があり、届出が受理されれば、離縁は有効に成立します。この効力は、縁組の解消が将来に向けて生じるだけなので、詐欺・強迫による離縁は後から離縁取消しの裁判の余地が残りますが、そうでないものは、その身分行為の核心である離縁意思の合致を重んじて、その余の点に関する受理審査にミスがあっても、離縁の効力は妨げられません(813条2項)。但し、離縁意思の合致がなかった場合は、その離縁は当然に無効ですから、第三者から離縁を前提とした主張をされたときには、離縁取消し裁判を待つことなく、無効の主張で対抗できます。とは言え、戸籍に存在する離縁の記載を訂正 (戸籍の記載が、不適法又は真実に反するとき真正な身分関係に一致させるよう是正すること) しなければなりませんから、その戸籍訂正のためには、その離縁が意思の合致がない故に無効であると確認する裁判を経なければなりません(戸籍法116条)。しかし、裁判所では、調停前置主義という原則(家事事件手続法257条)があるので、まずは家裁で調停に付されることとなり、当事者間で合意に達すると合意に相当する審判がなされます(家事事件手続法277条)。調停が不成立で終わると、同じ家裁での人事訴訟離縁無効確認の訴え(人事訴訟法2条3号)で争うことになります。こちらもご覧下さい。


 
里親制度について

 
成年養子を除く普通養子及び特別養子は、いずれも子との間に法的な親子関係(嫡出親子関係)を築いて養育をするという、民法に基づく、個人による縁組制度ですが、保護を要する子に対し児童福祉法に基づいて児童相談所と都道府県との連携の下に、家庭的な場で、法的親子関係を伴わずに養育を行うのが「里親」制度です。主としては、原則18歳までの児童を対象とする「養育里親」 (児童福祉法6条の4①) と原則6歳未満の児童を対象とする「養子縁組里親」 (児童福祉法6条の4②) があります。後者は、特別養子縁組の成立を目的として、児童相談所からの委託により成立し、その後、試験養育期間を経て、家庭裁判所へ申し立て、家裁の審判により特別養子縁組が成立するというように進みます。これらの里親を希望する場合は、欠格事由(児童福祉法34条の20)にあたらない等、定められた要件を満たすことが確認された後、必要な研修を受け、審査の上、都道府県ごとのそれぞれの名簿に登録されると里親資格を得ることになります。そして、要保護児童との出会いの後、面会・宿泊等の交流を通じその子との適合性等が確認されて、その子の里親に選定されると、里親委託を受けて実際に養育が始まることとなります (児童福祉法27条1項3号) 。里親が子を養育するための経費や生活費等については定められた額の支給を受けることができます。厚生労働省のこちらのホームページをご覧下さい。左下「里親リーフレット」をクリックすると、その2ページ目に、不妊治療から養育里親になった例や「週末里親」の例などが、「いろいろある、里親のカタチ」として紹介され、また、御自分が、戦争で13人家族の中でただ一人生き残り、孤児院から引き取られて、養母に育てられた女優サヘル・ローズさんの文も載っています。





後 見 は、親権者のいない未成年者及び弁識能力を欠く常況にある成年者の身上監督と財産管理を目的とする制限的行為能力者保護制度の一つとされます。

条文の配置について

 民法は、第五章「後見」の冒頭に「
後見の開始」の規定(838条)を置いた後、上記の内の未成年者の後見に当たる未成年後見人の指定に関する規定(839条)未成年後見人・成年後見人の選任(§840§841§843)辞・解任、欠格に関する規定(§844§847)を置き、続いて、後見人の監督に当たる後見監督人に関する各規定(§848§852)を置いています。したがって、やや惑わされるのですが、後見人のそれら任免関係規定の後に、続くべき後見人の任務規定が来ずに、先にこの必ずしも必須の機関ではない後見
監督人にまつわる次の規定が並びます(但し、852条より後の条文は、後見監督の「款」が終わって、次の節「後見の事務」に入っています)。そして、後見の事務(第三節)後見の終了(第四節)が終わって、次の第六章が「保佐及び補助」ですが、これも条文の配置が異色です。初めの876条だけが独立の一箇条で、これが保佐の開始の条文。以下、876条の2から876条の10まで、この章全てが枝番で埋め尽くされます。それも、一目瞭然 (代理権付与規定を除き) 準用規定の羅列と言える記載で、殆どが成年後見(或いは成年後見と同様 委任、親権)規定を準用しています。配列は、保佐(876条の2から同条の5)、補助(876条の6から同条の10)の順で、まず選任関係の規定、次いで監督人代理権付与の関係と続き、事務任務の終了関係の規定で終わります。そして、ここでの監督人についても、下記後見監督人と同様の準用がされています(各「準用」の下線クリックでご覧下さい)

後見監督人にまつわる規定
(配置) その条句でまとめたものがこちらです。

 ①後見監督人の
   指定
(「指定することができる」とあります。§848)
   ・選任 ( 請求によるほか、家裁の職権によっても選任できます。§849)
   ・欠格(§850)の規定と後見監督人の職務に関する規定(§851)、そして、

 ②後見監督人について852条により準用される 

     ア 委任関係規定(§644
(善管注意義務)§654(終了後の処分)§655(終了の対抗要件))、
     ィ 後見人関係規定(§844
(辞任)§846(解任)§847(欠格)§861(事務費用)§862(報酬))、

 ③また、同条により
未成年後見監督人に準用される
     ア 選任基準規定§840Ⅲ
     ィ 数人時権限規定§857の2

  同じく
成年後見監督人に準用される
     ア 選任基準規定§843Ⅳ
     ィ 数人時権限規定§859のⅡ
     ウ居住不動産の処分許可規定§859のⅢ


という具合です。そして、続く853条から第三節「後見の事務」規定が869条まで並び、870条から875条までの第四節が「後見の終了」です。

法定後見(広義)仕組みのあらまし
 子は、実親や養親の親権の下に入りますが、不幸にして親権による保護に与れない場合は、未成年後見(民法5条838条1号)により保護されることになります。その他、精神障害により財産的な弁識能力が、法律行為に必要な行為能力に及ばない人のための保護の制度として、その能力を欠如する常況にある人のための成年後見(民法7条)著しく不足する人のための保佐(民法11条)不足しているがその程度が著しくない人のための補助(民法15条)の各制度があります。これらを総称して広義の法定後見と言います。成年後見は、被後見人本人がその能力的制約から、日用品の購入等日常生活に関する行為を除き、自分で法律行為をすることが殆どできないので、後見人が法律行為を代理することにより保護がなされます。未成年後見においても、同様に代理による保護がなされますが、本人が弁識能力を備えている場合を想定できるので、本人の行為に後見人が同意を与えるという形での保護も合わせ行われます。保佐と補助は、それを受ける本人に制限的ではあるものの行為能力があるとの前提ですので、基本的に本人の行為に、保佐人・補助人が同意するか否かのチェックをすることにより、又、さらに、保護を十全にするため、本人が望み、或いは、同意をすれば保佐人・補助人に代理権限を付与することによっても、保護しようとするものです。但し、保佐も補助も、上記成年後見同様、本人の日常生活行為については、何らの制限も伴いません。ですから、日用品等の購入のほか、光熱費・水道料・電話代等の支払いや、そのための少額の預貯金の払戻し等は、能力問題で取り消される懸念がありません。保佐・補助の違いの具体的説明、保佐人・補助人の任務・権限等についてはこちらをご覧下さい(その条句をまとめたこちらもどうぞ)。保佐・補助の関係事項は、保護開始や保護体制等こそ後見と異なるものの、その他は(未成年後見を除く) 成年後見の関係と共通するものがあり、選任関係、事務関係、終了関係等、殆どが後見規定の準用です。そして、後見・保佐・補助の関係事実等は、取引の安全・敏速のため後見登記簿に記載され、請求により開示されます。ですので、後見・保佐・補助の法定後見制度と後記任意後見制度の各利用者の事項,法定後見の各開始審判や法定後見での代理権限事項、並びに 任意後見契約の契約内容等は、登記事項として東京法務局の後見登記課において登記され(登記申請は東京法務局の窓口で行います)、公示されるところとなりますが、その開示は、本人はじめ一定の権限を有する者の請求により、地方の法務局でも登記事項証明書の交付によって受けられる仕組みとなっています。


 ここでは、まず狭義の後見について、その開始
(民法838条)から、未成年後見人の指定(839条)、後見人の選任(840条843条)・父母による選任請求(841条)、未成年後見人による親権代行(867条)、後見人の辞(844条845条)・解任(846条)・複数選任時の権限(857条の2859条の2)まで、主として後見人の選任関係等を中心に関連する規定を、条句を通して概観してみたいと思います。


後見開始
 後見は、① 未成年者に対して親権を行う者がないとき、若しくは、 親権を行う者が管理権を有しないとき、又は ② 後見開始の審判があったときに開始されます(民法838条)。前者は未成年後見、後者は成年後見と呼ばれます。未成年者に対する保護は、本来の親権による保護が叶わないときの、ここでの未成年後見の一種があるだけですが、成年後見は、成年者に対する保護として、財産行為に関する弁識能力の程度に応じ、これを欠く状況にあるときの、ここでの成年後見のほか、同能力が著しく不足する「保佐」、不足するが著しくはない「補助」の三種の保護がある内の成年後見であり、以上の二種の後見に関する開始の定めが民法838条ということになります。未成年後見の開始は、親権を行う者がないという事実、ない訳ではないがその者が管理権を失うという事実が発生すると同時に後見開始となる定めとなっていますが、実際には後見人の指定(§839)も選任(§840)もない侭に親族等による事実上の保護がなされているという現状があると言われますし、事実上の保護さえない放置の事態もあるのではないかと懸念されます。そのような現状を正規の扱いに乗せ、後見による身上監護や法定代理等を通じて保護が行き届くようにする必要があります。また、児童福祉法 33 条の8によれば、親権を行う者がない児童等については、その福祉のため必要あるときは、児童相談所長が未成年後見人の選任を請求しなければならず、その児童に親権を行う者又は未成年後見人があるに至るまでの間、児童相談所長が親権を行うとされていますので、法律上、必要があるのに親権或いは後見による保護から漏れる児童があってはならない筈なのです。児童相談所の体制を一層強化して、これらの規定が万全に機能するようにしなければなりません。児童の保護者と共に、児童を心身ともに健やかに育成する責任を負う国及び地方公共団体(児童福祉法2条)は、親権者等の保護を受けられない状況にある児童に現実の福祉が行き届くようきめ細かな体制を整える責務があると思います。離婚後の親権・後見については、こちらもご覧下さい。

 

   
       家族団欒 晩餐838無縁となりし孤老孤児

       
ありて(やさ)(はん)
838(優しさの手本(造語)後見開始



      (うしろ) から
          
のあるにより

        前途
838ないように

               
未成年者親権がいない とき

            
   ②いても
(財産)管理 (権有しないため)のできぬとき

        
     
(識)(力)欠如常況者(§7) (成年後見)開始審判  ありしとき

            
後見開始される


後見人
の選任

 
民法は、未成年後見人の指定について、最後に親権を行使する者は、遺言で後見人の指定ができる旨を同法839条で、遺言による指定のない場合の未成年後見人の選任について、未成年者本人、その親族、利害関係人の請求によって家裁が後見人を選任する旨を、その選任基準と合わせて840条で、それぞれ規定し、また、841条では、父母が親権を喪失等した場合、必要があれば父母から遅滞なく選任の請求をしなければならない旨を定めて、未成年者の保護に欠けることのないよう配慮しています。
 民法842条は、未成年後見人は一人でなければならないという規定であったのですが、平成23年の民法改正時に、削除されました。後見人を一人に限定してしまわずに、事案の内容等の諸事情から後見人が複数いた方が相応しい場合に備えるためです。そして、同じ改正時に840条の2項、3項が新たに加えられ、これにより家裁は未成年後見人を追加的に選任して、後見人を複数体制とすることも可能となり、また、法人を後見人に選任することも可能となりました。そして、同時に新設された857条の2では、未成年後見人が複数の場合、統一した保護を行う必要性から共同後見とするのを原則とし、場合によって、必要に応じ財産管理の権限を内一人に担わせたり、同権限を分掌したりすることができる旨を定めて、未成年後見人複数時の権限関係を明確にしました。なお、遺言によって指定された未成年後見人は、遺言の効力発生と同時に就任する形 ( 例えば、遺言執行者については、1007条のように就任の諾否を前提した条文がありますが、この場合はそのような規定がなく、遺言の効力発生と同時に指定の効力が生じて就任となると解されています ) となるので、就任を望まないときは、844条の辞任の規定による他なく、その場合は、就任意思のないことが同条に定められた辞任の「正当な事由」となるものと解されます。
 次に、
成年後見人の選任については、民法843条が、家裁が後見開始の審判をするときは、同時に、職権で後見人を選任するとして、その選任基準を合わせて規定しています。なお、同条2項は、成年後見人が欠けたときは、家裁は、成年者本人、その親族、利害関係人の請求により、又、選任請求がなくても職権によって、後見人を選任することができる旨を、同条3項は、家裁は、既に成年後見人が選任されている場合であっても、必要があれば、同様に請求により或いは職権で、更に選任して後見人を複数とすることができる旨を、それぞれ定めています。そして、この成年後見人が複数の場合の権限について、民法859条の2が、本来各自単独行使であるところ、家裁において共同行使としたり、或いは、権限を分掌して行使させることができる旨を定めています。


未成年後見人指定
 民法839条は、未成年者に対して最後に親権を行う者は、遺言で、未成年後見人を指定することができる。ただし、管理権を有しない者は、この限りでない。」と定め、同条2項は、親権を行う父母の一方が管理権を有しないときは、他の一方は、前項の規定により未成年後見人の指定をすることができる。」とします。親権は、父母によって共同行使されるのが原則(民法818条3項)ですが、離婚によりいずれかの単独親権となります(民法819条)。その場合の親権者は、最後の親権行使者と言われ、その者による保護の後は、取敢えず未成年後見に委ねられます(→離婚後の親権)。それで、最後の親権行使者は、一人で遺言によって、自らの保護を離れることとなる子のために未成年後見人を指定することができます。但し、管理権を有しない者つまり、監護権のみを有する者については、自ら保有しない権限を含めての指定はできないので、監護・管理の両権限を有すべき後見人の指定をすることはできません。父母が通常どおり親権の共同行使をするのではなく、一方が管理権を有さないという場合も、他方は遺言による後見人指定ができるとするのが2項の定めです。しかし、この場合その指定された後見人は、管理権のみを有し、監護権は残った(管理権を有しないとされていた)親が引き続き行使することになります。つまり、後見人指定権は、完全親権者または管理権者にのみ認められており、監護権者には認められないこと、そして親権のうちの管理権を有する者は、監護権者が別にいるときは、その管理権限の限度においてのみ権限を行使できる後見人を選任することとなる、ということです。


       
未成()
         最後
親権 (単独)行使者

        闇
(病み) 839にせぬため手続きの煩瑣苦839にせず

         遺言
(未成年)後見人指定をすべし(指定が可)



          管理権
せぬ 指定不可


        
(共同親権)父母(ちちはは)一方管理(権なく)ができぬとき

              他方
遺言(いごん)(後見人)指定  



         親権最後者


          手続
きの煩瑣苦839にせず遺言

                後見人
指定をすべし




未成年後見人選任 
 
民法840条は、「前条の規定により未成年後見人となるべき者がないときは、家庭裁判所は、未成年被後見人又はその親族その他の利害関係人の請求によって、未成年後見人を選任する。未成年後見人が欠けたときも、同様とする。」と定めます。838条により未成年者に対して親権を行う者がないとき、又は親権を行う者が管理権を有しないとき」は、その事実の発生と共に後見が開始されることとなっているのですが、実際には、この840条による選任請求がないと後見は行われないことになってしまいます。法は、後見の必要が生じれば、自ずと関係人等からの請求があるであろうというスタンスなのかもしれません。それで良いのか疑問も感じるところです。同条の2項は、既に後見人が選任されていても、追加的にさらに選任することができる旨を定め、3項は選任に際しての選任基準を「未成年被後見人の年齢、心身の状態並びに生活及び財産の状況、未成年後見人となる者の職業及び経歴並びに未成年被後見人との利害関係の有無(未成年後見人となる者が法人であるときは、その事業の種類及び内容並びにその法人及びその代表者と未成年被後見人との利害関係の有無)、未成年被後見人の意見その他一切の事情を考慮しなければならない。」としています。なお、選任は、前記の経緯と857条の2の文言からも、当初の選任時から複数の選任が可能となったものと解釈することができます。



       親権最後者指定
なく

                  
(ある)(また)(未成年)後見けたれば

         裁判所
心身安まる
840よう
                       
一切事情考慮して

               
840げずに (未成年) 後見() 選任


成年後見人選任
 民法843条は、「
家庭裁判所は、後見開始の審判をするときは、職権で、成年後見人を選任する。」とし、同条2項は、「成年後見人が欠けたときは、家庭裁判所は、成年被後見人若しくはその親族その他の利害関係人の請求により又は職権で、成年後見人を選任する。」また、3項は、「成年後見人が選任されている場合においても、家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前項に規定する者若しくは成年後見人の請求により又は職権で、更に成年後見人を選任することができる。」としています。保護を要することが前提で、親権者がいなくなる等、保護に欠けるに至れば後見が開始となる未成年後見と異なり、成年後見はその必要が生じたときに後見開始となりますから、後見人もそのとき同時に職権により選任されます。選任が複数になることもあり得ることは、未成年後見と同じですが、欠けたとき、また、先任の後見人がいるときでも追加的に、求めによりまたは職権で、選任できることは未成年後見と同じです。そして、同条4項は、成年後見人の選任基準を「成年後見人を選任するには、成年被後見人の心身の状態並びに生活及び財産の状況、成年後見人となる者の職業及び経歴並びに成年被後見人との利害関係の有無(成年後見人となる者が法人であるときは、その事業の種類及び内容並びにその法人及びその代表者と成年被後見人との利害関係の有無)、成年被後見人の意見その他一切の事情を考慮しなければならない。」と定めます。


         成年後見開始のときは

                  
家裁同時八隅
843まで

           一切考慮
職権
(成年)後見人選任をする


親から
の選任請求
  
 民法841条は、「父若しくは母が親権若しくは管理権を辞し、又は父若しくは母について親権喪失、親権停止若しくは管理権喪失の審判があったことによって未成年後見人を選任する必要が生じたときは、その父又は母は、遅滞なく未成年後見人の選任を家庭裁判所に請求しなければならない。」と定めます。ただでさえ、保護のネットから漏れてしまう子供がいないか懸念される状況があり、親権の保護下にあっても虐待等が噴出する世の中ですが、やむを得ない事情で親権或いは管理権を辞退(民法837条)しなければならないこととなったり、親権行使に問題があったりした親でも、子に対する愛情があれば、自らの手を離れた後の子の保護を心配する筈です。それで、やむなく自らの保護が叶わないこととなった父または母には、子の保護のため必要があれば、代わりの保護を求めるべく、遅滞なく(滞って、手遅れになることのないように)、家裁に後見人の選任を請求するよう義務づけて、子の保護を期するという趣旨となります。


       はした841なく?

              
親権 辞任喪失停止

         管理
()喪失あった(未成年)

       後見人
()あれば

            (遅滞なく) 841 (未成年後見人) 応援 むと

                       
(家裁に選任)むべし(請求義務)




後見人の欠格事由 
 
民法847条は、後見人の欠格事由を、① 未成年者、② 家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人又は補助人、 ③ 破産者、被後見人に対して訴訟をし、又はした者並びにその配偶者及び直系血族、⑤ 行方の知れない者、と定めます。同条は、これらの事由のある者は、「後見人となることができない。」としていますが、候補者となれないことは勿論、一旦選任された者にこれらの事由がある場合、その者は、裁判等を待つことなく当然に後見人の身分を失い、後見人を欠くこととなるので、後任の選任が必要となるとされます。

       後見人(を選ぶときは)
             ハードル
とすな847欠格事由

         破産
未成行方(ゆきがた)れず

              
(家裁で)ぜられたる()(理人)(佐人)(助人)

             
(本人に対し)訴訟した(その)(偶者)()()

           
「落とす」の「オト」は、伊語の8「オット」から








未成年後見人複数


        未成被後人

                  
(よう)(ごう)(「お客様は神様 」的な造語)なのに857の2

            「
後見人おれば
                        
養護たに857の2いうときは(後見人を)

            
複数置いて混乱避けて

           
()共同(行使)(家庭)裁判所

             一部
(権限のみ)限定

                        
或は財産権限各担()又は分掌させ



         第三者
意思表示

                      
内一人
() してすればりる

                      「しえた」は
7の西語「シエテ」から



(親権の共同行使〔参考〕)

              
 父母親権 (真剣)やっと 818Ⅲ

                   
共同行使破綻818Ⅲない

成年後見人複数
       成年後見()名時

                 
各単独
(権限行使)でするべきも

         
(家裁は) 鋭意この 8592洞察

              
職権により
(権限)
             共同
分掌行使

           (
或は)ときに職権 (で、これを) 取消



        第三者
意思の表示

                  
内一人
() 対して すれば足りる也



        成年後見
()数名時、鋭意この任8592 職務 (同)(掌)


後見人の辞任・解任
 
後見人は人の保護という公益的任務を帯びているため、(親権最後行使者による未成年後見人の指定の場合以外は) 裁判所の審査を経て選任される職務ですから、後見人が自由に辞任したり、被後見人や親族が自由に後見人を解任できたりという訳にはいきません。やはり辞・解任も裁判所の手続きを要することになります。辞任については、正当な事由があれば、裁判所の許可によって後見人を辞任することができます(民法844条)。後見人がその任務を辞することにより、新たに後見人を選任する必要が生じたときは、その後見人は、遅滞なく新たな後見人の選任を家庭裁判所に請求しなければなりません(民法845条)解任については、後見監督人・被後見人・親族からの請求のほか、公益を代表する検察官からの請求により、若しくは、職権で、家裁が審判により後見人を解任することになります(民法846条)解任のためには、その後見人にも意見を聴取する必要があります(家事事件手続法120条1項4号)が、家裁は、その他にも、解任すべきか否かを、民法863条1項による調査、具体的には、家事事件手続法124条により、家庭裁判所調査官を通じての調査を行い、その報告を待って判断することになります。

後見人辞任
        後見人

         
 繁(はん)()(にん)8762 (を)
                            
したくば

          ‘
正当事由はしょ844らず

                  家裁
許可ねばない    

           
§8762は、保佐人の選任等に関する規定(本条が準用される)


          後見人

            被後者
梯子(はしご)
845さぬように

            
(任) (に伴い、必要)ならば

              
はよ (遅滞なく) 845  (の選任) べし(請求)
          

後見人解任      
           後見人
(に)、

                     
不正行為(著しい)不行跡
                              
その不適事由あれば

                解任請求
家裁846




             (後見)監督人被後者親族検察官()

           請求
により
或は又職権により(後見人を)解任できる



後見人の任務

成年後見未成年後見(財産管理と代表)
 
成年被後見人は、財産的行為について弁識能力を欠く常況にある人(民法7条)ですから、殆ど自身で法律行為をすることができません。また、未成年被後見人は法定代理人の同意がなければ(単に権利を得、又は義務を免れる行為を除き)法律行為をすることができません(民法5条)(同意権)。そこで、裁判所によって選任された法定代理人(民法859条)である後見人が代理によって必要な法律行為をすることとなります(代理権)。この859条で民法は、代理について「代表」という文言を用いていますが、これは、只の他人がビジネスとして本人を代理するのではない、人を保護する公益的立場から、財産管理859)のほか、療養看護858)或いは身上監護857)も含めた包括的な権限を有する者である後見人が代理するのである、という意味を込めた文言であろうと思います。そして、被後見人が自身でなした行為は、原則、財産管理の任務を担う後見人によって取り消すことができます(民法5条9条120条)(取消権)。ただ、同じ被後見人の行為でも、成人の場合と未成年者の場合とでは、取消し可能範囲に多少差異があります。成年被後見人がなした法律行為は、取り消すことができるのが原則ですが、但し、日用品の購入その他日常生活に関する行為は、取り消すことができません(民法9条但書)未成年被後見人のなした法律行為は、単に権利を得、義務を免れる行為を除き、すべて取り消すことができます但し、未成年者に処分を許した財産は、未成年者が自由に処分することができますから、その限度内であれば日常生活行為をまかなうことも可能です(民法5条)。要するに、成人に対しては、その人の日常生活の自由を保障し、未成年者に対しては、保障される自由度が、法定代理人が許した処分の範囲の広狭によることになります。また、事後的に、後見人がそれとして肯認できる法律行為は、追認することもできます(民法122条)(追認権)。なお、婚姻、離婚、認知、養子縁組、離縁等の身分行為の能力については、こちらをご覧下さい。因みにこちらもご覧下さい。

未成年後見(身上監護) そして、被後見人が未成年であるときには、未成年後見人が、法定代理人として、本人に代わって法律行為を行うか、本人の行為に予め同意を与えるか否か、同意していない本人の行為を取消しとするか否か、場合によっては、追認することも含め、チェックすることで財産面での保護をすると共に、後見人が親権者同様に親権者の有する監護教育・居所指定等身上監護面での保護の権限(857条)も持つことになります。

成年後見(意思の尊重・身上配慮) 他方、成年後見人は、法定代理人として、法律行為を行い、或いは、被後見人のなした日常生活行為以外の法律行為について、未成年後見のように予め同意を与えることはできませんが、なした行為を取消しとするか否か、場合によっては、追認することも含め、チェックすることで財産面での保護をすると共に、被後見人の意思を尊重し、その身上に配慮しつつ、その生活を看、また、療養看護にも努めなければなりません(858条)

善管注意義務 後見人は、公益的負託を帯びてその職に就くので、これらの任務・職務を善良な管理者の注意をもって果たさなければならないことが、民法869条による644条の準用により定められています。
 なお、後見人同様、財産管理と「代表」を任務とする親権者
(§824)には、「自己のためにするのと同一の注意」をもって管理を行わなければならない(827条)が定められていて、善管注意義務までは要求されていません。この「自己のためにするのと同一の注意」というのは、無償の受寄者の受寄物に関する注意義務「自己の財産に対するのと同一の注意」(659条)相続人の相続財産に対する管理での「固有財産におけるのと同一の注意」(918条)と同じ注意義務とされており、要するに、その具体的な個人の注意能力に応じた注意で足りるとされています。つまり、「その人なりに」注意していれば良い訳ですが、他方、後見人が課される善管注意義務の方は、個人の能力如何に関わらぬ、一般的で抽象的な注意義務であり、その人の職業、或いは、社会的地位に相応しい、「相当な」注意を払うべきとされ、これを怠った場合は、過失ありとして損害賠償を求められることとなります。(善管注意でないからといって、親権者の責任が軽いという訳ではありません。父母の子に対する無償の愛が、両注意の落差を補って余り有るからだと思いますし、子に対する親権者の注意は、個人差はあるでしょうが、それ自体、一般的・抽象的なものより遙かに高く、重いのが当然であり、自然であるとも言えるかも知れません。)具体的な差異について、こちらもご覧下さい。
 行為能力が制限される人による行為の取消しをめぐる取消権や追認権、行為の相手方からする催告、取消しの効果、さらには、法定追認、取消権の消滅時効等については、こちらをご覧下さい



後見人による訴訟遂行
 
 
通常の民事訴訟においては、後見人は、被後見人のために法定代理人として訴訟行為をすることができます。通常の訴訟では、法定代理は原則として民法の定めに従うとされているからです(民訴法28条)。しかし、上記の身分行為にまつわる人事事件を扱う人事訴訟では、(身分行為自体も、それにまつわる訴訟行為も、)本人の自由な意思に基づくことを必須の要件としますから、代理は馴染まないとされるので、後見・保佐・補助等の行為能力に関する規定の適用はなく、意思能力があれば訴訟ができるのが原則です(人事訴訟法13条)。ただ、成年被後見人については、一箇条が設けられ、「成年後見人は、成年被後見人のために訴え、又は訴えられることができる。(人事訴訟法14条)とされています。離婚訴訟における成年後見人の地位に関して、法定代理ではなく、後見人という職務上の地位に基づいて訴訟行為にあたるものである旨を判示した判例についての記述をこちらでご覧下さい。



財産管理と代理      

    
後見人(亡親呼び出す)反魂香859らずに

     
被後者財産 管理をし法律行為 代理をも万事824

      何
本人ハッシ824とさせる契約 (の代理)

       
要護 859あり本人 同意を得るのあるよ824

  
     但し
未成年()労働契約本人同意あるとも

         
後見人代理契約(賃金受領も)することならぬ(労基法§58Ⅰ59


 
§824は親権者の管理と代理に関する規定   「ある」は中国語の2から




成年被後見人の行為の取消し

   
   
    
被後見()()()欠如常況者(§7)

     
 行為能力なき故に、なした行為に
9せずも

     
(財産管理の立場から)後見の人には120

               (
法定代理人として)§859))あるぞ取消権

           但し、日常生活関連の法律行為は取り消せないん9


未成年被後見人の行為の取消し

       未成年()(理人の)同意いたれば

        権
()得免()のもの

         ..には120あるぞ 取消権

         後見人(§824)として取り消し 5

         但し、法代が許した財産処分なら、

              法代
()サンク5取り消せない


善管注意義務


      
後見財産管理
869

          善管注意
義務)しよ644


「せいし」の「せい」は、6の伊語「セーイ」から。
親権者の注意義務条句はこちら



未成年被後見人の身上監護

      被後見() 未成年
親同様

       養護
857 あかん身上監護監護・教育居所指定

           懲戒権
(
)許可すべて親権同様なるが

          
親権者定めし教育方法居所指定変更


               
営業 許可取消(制限)ときは(後見)監督()

           
面子
857その同意()ねばならない要注意



成年後見人に対する意思の尊重と身上配慮

          (成年)後見人、生活・療養(看護)財産管理、任務 (後見)要綱858

          
(心身の状態  並びに 生活の状況等の)身上配慮 意思尊重







未成年後見人による親権代行(後見に復する子が子を儲けた場合)
 民法867条1項は、
未成年後見人は、未成年被後見人に代わって親権を行う。」と定め、同条2項は「第八百五十三条から第八百五十七条まで及び第八百六十一条から前条までの規定は、前項の場合について準用する。」としています。未婚の未成年者である子が、子を儲けた場合、その未成年親は、(単独では財産的)法律行為をすることができません(民法5条)から、当然親権を行使することができません。したがって、その未成年親の父母が民法833条により親権代行を行いますが、その未成年親に父母がいない場合、父母に代わる後見人が同じ役目を担うことになります。後見人が親権を代行する訳ですが、親子の無償の愛が担保する親権者による代行と違い、他人である後見人が担当しますから、後見人が地位・権限の濫用などしないよう歯止めが必要で、自ずと違いが出てきます。親権者の注意義務は「自己のためにするのと同一の注意」で足ります(§827)が、この場合、後見人ですから、職責上「財産管理869善管注意義務)しよ644」とあるように、善管注意義務を払わなければなりません。また、それと共に、後見の職務に伴う各制約や制限が課されることになります。上記準用されている規定の条句を掲げます(濃紺色のものは、(保佐・補助に準用する旨の規定がなく) 後見人プロパーのもの、緑色のものは、(同様に準用がない) 未成年後見人プロパーのもので、その他は、法定後見三者に共通のものとなります)。その個別の説明については柱書の下線クリックでご覧下さい。そして、準用された後見人としての規制ルール以外の、代行すべき親権の権利・義務の内容は親権の項をご覧下さい。その他、庇護下の子が子を儲けた場合の対処について、親権者による親権代行の項をご覧下さい。

    

  後見
      与
子供宿るとさ833
    やむな
867その親権
        後見人
(親権)代行

      §833は、子に代わる親権の行使に関する規定


  §853  (財産調査・目録作成) 
           後見人  (ばん)逸産(いつさん)  防ぐため、
           
初護産(はつごさん)事務、遅滞なく 財産調査
         
(ひと)(つき)内(に)目録作成、自産と区別 (期間は伸長可)
            監督人がいるときは、調査、目録作成に、
                罵声871覚悟で立会
(たちあい)受くべし。

  §854  (目録完成迄無権限)  
          後見人、 
(財産)目録作成終わる迄、
             家越(やご)
(転居の)(とどけ)のない如く、
           急場の
(必)(よう)(ごと)かできぬ (急要事以外無権限)
              但し 善意の相手には、
(無権限による)無効を主張できぬ 也。

  §855  (債権債務申出義務)  
          後見人、 
選任・指定の発効後855(目録作成のための)
           調査着手のその前に、背後855
不審持たぬよう
             
被後者に対する債権債務、
           監督人
(がいるときは) に申出よ。

        後見人、被後者に対する債権債務、
            申出なくば
(法の) 影護効855
          
 (影と形の如く寄り添って対象を守ってやる)
              
 その債権は失わる。


 §856  (853条~855条の準用)  
          後見人、 
被後者に相続・包括取得
            あれば、発護務856 前三条
853~§855)
           準用をして、
(目録作成のための
) 調査から
          (ばん)逸産(いつさん)  
防ぐため、
           目録作る、それまでは、
             急場の (必)(よう)(ごと)かできぬ (急要事以外無権限)
 
         監督人がいるときは調査着手のその前に、

             被後者に対する債権債務
(を)申し出ねば (法の) 影護効855

  
                その債権は失わる。



   §857 (未成年後見の身上監護と要同意事項)
         
被後見(人が) 、未成年なら
          親同様に養護せ 857あかん、身上監護
             監護・教育、居所指定、懲戒権に職
(業)の許可、
             すべて親権同様なるが、
                 親権者定めし教育方法と居所の指定を変更し、
                 営業 許可し、取消す
(制限) ときは、
             
(後見)監督
(人) の面子汚せ857?、その同意(を)得ねばならない、要注意


   §861Ⅰ (年額予定)
           後見人
            
初務(はつむ)(いち)861番年毎の(被後人の)
             
生活、教育、療養看護 並びに 財産管理 のための
                     年額キチンと予定をすべし。


§861Ⅱ (後見事務費)
      
後見人、
           必要爺務費
861 (事務費(造語))
       
被後人の財をば支出できる也。



§862 (報酬)
         後見報酬、
          
(家庭)裁判所、やるに862相当?その額いくら ? 
       
被後者資力やそのの事情 、踏まえて、
               相当報酬を後見人に与え得る。


§863  
(監督人の権限)  
         監督人、
          報告・目録提出、求め、
          
監督しはる身863、調査もやる身863、
                後見人の勝手も止むさ863



  §864、§865 (重要処分行為・営業行為) 
           後見人、
            いざ
13の処分に、営業§6までも、
               被後者のためにやろうよ864と、或又、
               
(被後者が) 挑むに同意をばしてやろうよ864と、意気込むも、
             「監督の同意はいぃさ
13」 とネグったら、
               なされた処分や営業行為、完全ならず 劣る効865
                           取消され得る、半無効865


  §866  (本人財産の譲受け)
           後見人が被後者の財、

               (被後者に対する他者債権)

                 譲り受けたら要務も866怪し、
              被後者において取り消せる。





          未成 (年、未婚)

             
この宿るとさ
833

           後見

                この
親権

              やむな
867わって行使する


 §
833は親権者による親権代行に、§867は後見人による未成年被後見人に代わる親権行使に関する規定
                



成年被後見人の身上配慮

     
(成年)後見人生活療養(看護) 財産管理

       担
任務 (後見)要綱858 (心身の状態  

        並びに
生活の状況等の)身上配慮 意思尊重



保佐人・補助人の選任等 についても、保佐開始・補助開始の審判に伴う保佐人・補助人の各選任の他は後見人と同様であるということで、辞・解任、欠格事由等について後見人規定が準用されます(民法876条の2876条の7)

  保佐人・補助人の選任に関する各準用規定の条句
        
下記各後見規定は、保佐について876条の2Ⅱ、補助について876条の7Ⅰで、それぞれ準用する旨の定めがあります。


§843Ⅱ~Ⅳ
 (選任基準) 保佐補助 開始のとき(他に、欠けたとき、追加のとき)
          
八隅まで一切考慮、審判、保佐人・補助人(の)選任をする



§844  (辞任)   保佐(人)補助(人) 辞任したくば正当事由
            
はしょらずべて許可



§845(辞任時の後任請求)   保佐補助
             被()者
梯子
(はしご)さぬように
               
(に伴い、必要)ならば
                  はよ (遅滞なく)  (の選任) 請求すべし


§846 (解任)    不正行為 (著しい)不行跡
           
その(任務に)不適事由あれば
              
解任請求 家裁走ろ



§847 (欠格事由) ハードル落とすな 欠格事由
          
 破産者未成者行方(ゆきがた)知れず
            
免ぜられたる法代訴訟した
                     
(その) (偶者)(系)(族)

           「落とす」の「オト」は、伊語の8「オット」から



保佐人
、補助人の任務

 保佐と補助の違いは、保護を受ける本人の行為能力の差ということになります。具体的には精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者に対する保護の制度が保佐(民法11条)であり、精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である(が、著しく不十分ではない)者に対する保護の制度が補助(15条)ということになります。
保佐人・補助人の同意権  これを、対応する法律行為の範囲という観点から区別すると、保佐・補助のいずれも、民法13条の1号から9号に列挙された重要な法律行為 (但し、日常生活に関する行為は除かれます) の内、審判によって定められたものについては本人だけで行為することができず、(保佐人・補助人として選任された)保護者からの同意を必要とするのですが、13条に列挙の重要行為全てについて同意を要するとされるのが保佐(民法13条1項)であり、その特定の一部について同意を要するとされるのが補助(民法17条1項)の制度です。
 
補助については、能力的制限が比較的に軽いので、本人の請求によるか、(配偶者、四親等以内の親族等)本人以外の者の請求による場合には本人の同意を得て請求しなければ、補助開始の審判をすることができません(15条2項)。ですので、被補助人となり得る人の能力の範囲は、13条に列挙された行為の内どの範囲まで補助人の同意を要するとされるかにより、被保佐人に近いレベルから殆ど行為能力者と変わらないレベルまで広範囲に亘ることになります。
保佐人・補助人の取消権 : 保佐人・補助人の同意を欠いた法律行為は、同意権を有するこれらの保護者によって取り消され得ることになります(民法13条4項17条4項120条)
代理権付与 そして、その保護を十全なものとするために、本人からの申立てによるか、或いは本人以外の者からの申立ての場合は本人の同意を得て、特定の法律行為についての代理権を保佐人876の4)・補助人876の9)に付与することもできることになっています。このように、法は、制限能力者に対しても、その能力に応じできる限り自己決定権の行使範囲を確保しつつ保護するべく制度設計をしていると言えます。なお、行為能力が制限される人による行為の取消しをめぐる取消権や追認権、行為の相手方からする催告、取消しの効果、さらには、法定追認、取消権の消滅時効等については、こちらをご覧下さい。また、利益相反について、こちらもご覧下さい。

被保佐人・被補助人の訴訟行為
 被後見人を含むこれら所謂制限行為能力者といわれる人の訴訟については、通常の民事訴訟なら、行為能力に関する民法の定めに従うとされている(民訴法28条)ので、これまで述べた行為能力制度の適用があります。したがって、被保佐人、被補助人の訴訟行為は、被保佐人については民法13条1項4号により必ず、被補助人については審判(民法17条1項13条1項4号)で要同意とされていれば、それぞれ保佐人・補助人の同意を得た上で、本人が単独で訴訟行為をすることができます ( 但し、相手方の提起した訴えについて訴訟行為をするについては、同意は不要とされています(民事訴訟法32条) )。しかし、婚姻、離婚、嫡出否認、認知、養子縁組、離縁等の人事事件を扱う人事訴訟では、本人自身の意思が尊重され、代理は馴染まないとされていますから、財産行為を前提とし、代理による保護を含む行為能力規定の適用はなく、意思能力があれば訴訟ができます。したがって、被保佐人・被補助人は、申立てや職権で裁判長が訴訟代理人を付ける場合を除いて、いわゆる本人訴訟が可能(人事訴訟法13条)で、審判によって保佐人・補助人に代理権を付与された場合(民法876条の4同条の9))であっても、その代理によらずに単独で訴訟行為をすることになります。参考に、離婚訴訟における後見人の地位に関して、法定代理ではなく、後見人という職務上の地位に基づいて訴訟行為にあたるものである旨を判示した判例についてこちらでご覧下さい。


保佐人・補助人

    (弁識)能力りぬ程度し、

     足
りぬが程度はさほどでない

   左様 いい11庇護15

        授
けるべきと 保佐補助 

   保佐のお12保佐人ついて 補助16補助人がつく

    いい11庇護15 同意によって 重要財産行為 いざ13なさん



    同意がなくば 
         保佐
補助 担には120 

            
取消権えていい11庇護15也。




保佐人

  (識) () (じる)しくりぬ

  ワンサ
13行為一々11保佐人の)同意

    
すれば取消120ありとわれたらやせる876いの保佐開始(§11)


  
やせる876いというけれど(識)()(じる)しくりぬ

   ワンサ
13行為一々11保佐人()同意チェックをし

    
特定一部行為では
(本人の求め、或いは同意で)

    保佐人
()代理
(権付与)でクリアする、そうしてエイドしてるのよ8764


        「して」は、西語の7「シエテ」、伊語の「セッテ」から


補助人


  十五
() 15 (弁能) 非満(肥満?) 一難17

    やせるの
876の6をば補助(開始) として、

     ワンサ
13(行為の)特定一部について以後15 (補助人の)同意

   加
うるに、本人望むか同意があれば

      特定行為
補助人代理権付与

          必
ずややせるの
876の9すべし
  


後見事務 
 
民法は、後見の章(第五章)の第三節後見事務では、その内最後の条文となる869条で、委任に関する民法644条と親権に関する830条を準用して、後見人は後見事務について善管注意義務を負う(§644)旨、そして、第三者から本人に無償で供与された財産 (無償供与財産) について、その供与者の意思表示があったときは、別管理としなければならない(§830)旨定めるほかは、次のように、後見事務を執るに際しての定めを並べます。ここで、その後見事務の中味に関し、財産の調査と目録の作成義務(853条)、同作成前の権限(854条)、債権・債務の申出義務(855条)、居住用不動産の処分(859条の3)、後見人複数の場合の権限(857条の2859条の2)、利益相反(860条)、支出金の予定と後見事務費(861条)、報酬(862条)等を順を追って見てゆきます。



   後見財産管理869善管注意(義務)しよ644


   「
野郎子(やろっこ)(はる)()い」869無償()供与者

          
後見830えば、その 後見離別管理


§830は第三者が無償で子に与えた財産の管理(親権者の管理に属させない場合)に関する規定 「せいし」の「せい」は、6の伊語「セーイ」から


財産調査と目録作成      
 後見人が、後見を始めるには、開始時の自分の固有財産と後見を受ける人の財産を明確に区別して、開始時に本人の有する財産がどのような状態にあるかを把握し、明示して、その後の財産の推移が記録できるように準備することが必要となります。そのため後見人選任の決定を受けたら、すぐに財産の調査に着手し、そして、一か月以内にはその調査を終え、調査結果を明示する財産目録を作らなければなりません(民法853条1項)。また、後見人に後見監督人が付けられている場合は、財産調査の際や目録作成の際、監督人の立会いを得なければ、その調査や目録は無効となります(民法853条2項)。なお、この目録作成は、財産管理の土台となる作業であり、その重要性から、監督人がいる場合はその立会いを得なければならない訳ですが、これと対をなすのが、後見終了時における財産管理の締めくくりとなる後見計算(民法870条)です。こちらも後見監督人がいるときは、その立会いを受けなければならないとされ(民法871条)、その対称性を示していますが、871条条は立会いを受けずにされた後見計算の効力について定めていません。しかし、この対をなす重要性に照らし、そのような後見計算は効力を有しないとされています。 




      後見人 (ばん) 逸産(いつさん) 853ため

                  
初護産(はつごさん)
853事務遅滞なく

        
財産調査(ひと)(つき)()目録作成

          自産
区別 (期間は伸長可)

         監督人
がいるときは調査目録作成

              
  罵声
871覚悟立会(たちあい)べし

               §871は後見監督人の後見計算立会に関する規定






成年後見人による郵便物転送嘱託等

 平成28年民法の一部改正によって、民法860条の2、3、及び、民法873条の2が加えられました。ここでは、この前者について説明をします。成年後見人は、上記のように就任当初、被後見人の財産を調査しなければなりませんが、その関連での現場のニーズに応えるための改正でした。法務省のホームーページでの説明では、成年被後見人宛ての郵便物等の中には、株式の配当通知、外貨預金の入出金明細、クレジットカードの利用明細といった成年被後見人の財産等に関する郵便物が含まれることが想定され、これらは、成年後見人が成年被後見人の財産状況を正確に把握し、適切な財産管理を行う上で極めて重要なものですが、成年被後見人が自分宛ての郵便物等を自ら適切に管理することが困難なときは、成年後見人が成年被後見人宛ての郵便物の存在や内容を十分に把握することができないため、適切な財産管理に支障を来すおそれがある。そこで、改正法によって郵便転送の制度が新設された、ということです。「郵便転送」とは、成年後見人が、後見事務を行うに当たって必要がある場合に、家庭裁判所の審判を得て、成年被後見人宛ての郵便物等を成年後見人の住所又は事務所所在地に転送してもらうことをいい、成年後見人が郵便転送を必要とする場合には、家裁に対して「成年被後見人に宛てた郵便物等の配達
(転送)の嘱託の審判」(「転送嘱託の審判」)を申し立て、これに基づいて家裁によりその審判がされれば、審判確定後に家裁から日本郵便等に対して、その旨の通知がされる(家事事件手続法122条2項ということです。また、「転送の期間」については、財産に関する郵便物等は、一定期間ごと(例えば1か月に1回)に郵送される場合が多く、成年後見人としては、その期間内(おおむね数か月間)に郵送された郵便物等を調査することにより、成年被後見人の財産関係に関する郵便物等の存在をおおむね把握することができるものと考えられるので、改正法は、転送の期間を成年後見人が成年被後見人の財産関係を把握するために必要と認められる期間(=6か月を超えない期間)に限定することで、成年被後見人の通信の秘密に配慮している、とのことです。以上が民法860条の2の説明ですが、同条の3は、成年後見人が被後見人宛ての郵便物を受け取ったときは、それを開いてみることができること、しかし、後見事務に無関係なものは速やかに被後見人に渡すべきであること、被後見人は、渡されたもの以外の郵便物についての閲覧を求めることができることの定めとなっています。くわしくは、こちらをご覧下さい。



通信秘密
して他人(ひと)(さま)
                               後見()本人さんの財産
 郵便物転送をさせてどうする審判官                  
                                  知らねばしい管理などできぬとうから、

                                 引落し、配当などの関係は、転送とする、

                                         やむをずさぁ86023


目録作成前の権限
 
後見は、財産管理の任務を果たすため、その前提としてまず財産を調査し、目録を作成する義務を伴います(民法853条)から、その目録が作られていない間は、原則として後見事務を行うことができません。但し、家屋の倒壊を防ぐための修繕とか、時効完成を防ぐための請求行為のように、急迫の必要が場合には、例外的に権限を認められます。しかし、急迫の必要なくして行った行為について、善意の第三者に、権限なくして行ったものであるから無効であると主張することはできません(民法854条)


        後見人 (財産)

        目録
作成終わる家越(やご)854(転居の)(とどけ)ない

          
     急場 ()(よう)(ごと)854かできぬ (急要事以外無権限)

          
但し 善意相手には(無権限による)無効主張できぬ

    
         「54」を「五十四」、「ごとし」と読む。



債権債務申出義務
 
後見人が、自ら債務を負い、或いは債権を有する相手の人を後見することになるのは、公正な職務の遂行に疑念を抱かせることに繋がりますから、後見監督人がいる場合には、前記の財産調査に入る前に、そのような債権債務関係を監督人に申し出なければなりません。そして、債権を有することを知りながら、申し出なかったり、知って速やかに申し出なかったりした場合には、その債権を失うことになります(民法855条) 

        

      後見人 選任・指定発効後855(財産目録作成のための)

               
調査着手のその背後855不審持たれぬよう

             
被後者する債権債務

             監督人
(がいるときは)



     
後見人被後者する債権債務申出なくば

       
(法の)(よう)() (影形の如く寄り添って対象を守る)855

                     
その債権 わる




居住用不動産の処分

 
後見人には後見を受ける人の財産を管理し、そのための法律行為を代理する広い権限が与えられています(民法859条)が、しかし、本人が現に居住する建物やその敷地を売却したり抵当に入れたり、或いは借りて住んでいる住居の賃貸借契約を解除したりする場合は、本人の居住を脅かしかねませんから、家裁の許可を受けなければなりません(民法859条の3)。また、後見人には、本人の身上を配慮し、意思を尊重しなければならない義務がある(民法858条)ことに照らせば、本人が現に居住する不動産だけでなく、現在はホームに入居しているが、ホームに入る前まで住んでいた建物等についても、それを処分することは本人の気持ち、精神の安定に打撃を与えかねませんから、「居住用」の解釈には、そのように本人の意識も踏まえた配慮がされなければなりません。家庭裁判所は、そのような視点から許可・不許可を判断することになります。許可なくなされたそのような処分は無効となります。



      成年被後者
居住用建物敷地 売却  

       これにずる 処分
〔賃貸 やその解除、抵当権の設定等〕をば

             
なさんときには後見人()()()
 

     
(
被後見人の家屋を護る(おおやけ)(造語)) 8593 (裁判所の) 許可



監督人の同意を要する行為と取消権
 
後見を受ける人が未成年である場合、本人が法定代理人である後見人(民法824条)の同意(民法5条)なくしてした法律行為は、後見人において取り消すことができます(民法120条)。本人が、未成年ではなく成年である場合、本人自らは法律行為をすることができない常況にあります(民法7条)から、同意の問題は殆ど起こらないことになります。そして、この両方について、後見人が、本人のため民法13条1項の重要財産行為や6条の営業行為をする場合、或いは、未成年者について、これらの行為をするのに同意を与える場合には、後見人に後見監督人が付けられているときは、監督人の同意を得なければなりません(民法864条)。そして、この定めに違反して、監督人の同意を得ずにしてしまった行為は、後見人、或いは後見を受ける本人からも、取り消すことができます(監督人には取消権はありません)(民法865条)。行為能力が制限される人による行為の取消しをめぐる取消権や追認権、行為の相手方からする催告、取消しの効果、さらには、法定追認、取消権の消滅時効等については、こちらをご覧下さい。



         後見人
いざ13処分営業§6までも

         被後者
ためやろうよ
864或又(未成年被後者が) むに

          同意
をばしてやろうよ
864意気込むも

        
(後見) 監督人るならば、その同意をばねばない

                  
但し元本領収 此限(こぎり)でない。


    いざ13処分 (とか)
営業やろうよ
864監督同意いぃさ13とネグったら

      
なされた処分営業行為、完全ならず
865取消され半無効865




利益相反
 
財産的法律行為についての行為能力を欠く常況にある人を保護する制度である後見においては、後見人・被後見人の間で利益相反が生じ得ることから、そのような関係があれば特別代理人が選任されることとなります(§860)。但し、後見監督人が置かれている場合は、監督人が代理しますので、特別代理人の選任は不要です(§851)。 なお、利益相反の具体例等についてこちらもご覧下さい。


       後見人被後者 にとって双方インウイン

       使命感
発露 826の「ヤロー860傍目(はため)なら

          利益相反(別) (理人)要す家裁に選任求むべし。







後見の年額予定と事務費
 
民法861条1項は、「後見人は、その就職の初めにおいて、被後見人の生活、教育又は療養看護及び財産の管理のために毎年支出すべき金額を予定しなければならない。」と定めます。つまり、就任時1か月以内に、853条により被後見人の財産の調査をして目録を作成しますが、そうして把握した財産の内容・程度・種類等を勘案して、「今後の後見予算は、年額いくらの予定である。」と計画しなさい、という趣旨です。そして、861条2項には、「後見人が後見の事務を行うために必要な費用は、被後見人の財産の中から支弁する。」とありますから、後見の中身である教育若しくは療養看護・財産管理のために必要な事務費は被後見人の財産から支出することになります。無計画で無闇な支出があれば、財産管理の任務に背くことになりますから、後見の中身のために必要な費用を年額で予定して、本人の財産の計画的支出と適切な財産管理に努めなければなりません。したがって、就任時に年額予定を立てれば良いのであって、毎年予算を組む訳ではありませんが、後見は後見監督人や家庭裁判所の監督下にありますから、後見事務の内容変更やそれに伴う年額の変更等があれば、いつでも求められ得る報告や目録提出(§863)に応えられるよう備えておかなければなりません。



        後見人初務(はつむ)(いち)861年毎(被後人の)

          
生活、教育、療養看護 並びに 財産管理

           の
ため年額キチンと予定をすべし


       
後見人 必要()務費(むひ)

          
(事務費 (造語)861 Ⅱ被後人

                      
をば支出できる



                    


    
    後見人、初務一861年額予定、必要爺務費861(被後人の財から)支出ができる




後見人の報酬
 
民法862条は「家庭裁判所は、後見人及び被後見人の資力その他の事情によって、被後見人の財産の中から、相当な報酬を後見人に与えることができる。」と規定します。したがって、被後見人の資力の有無・程度によって、報酬の有無、有りとした場合の金額等を、家裁が決定することになります。例えば、後見開始の条句にある「家族団欒 晩餐は838、無縁となりし孤老、孤児であれば、無資力の被後見人も大いに考えられるところですから、その場合、無報酬となりますが、そうであっても、後見の公益的使命感を持って携わってくれる人があれば良いものの、その様な人がいない場合でも、必要な保護が行き届くよう公的扶助や手当等の整備、或いは、一定の場合は定額制を導入する等して、後見制度が十全に機能するよう制度設計がなされなければなりません。



        後見報酬(家庭)裁判所やるに862相当?そのいくら? 

         
被後者資力やその()事情 まえて

                        
相当報酬後見人



後見事務の監督

 民法863条は、「後見監督人又は家庭裁判所は、いつでも、後見人に対し後見の事務の報告若しくは財産の目録の提出を求め、又は後見の事務若しくは被後見人の財産の状況を調査することができる。」とし、又、同条2項は、「家庭裁判所は、後見監督人、被後見人若しくはその親族その他の利害関係人の請求により又は職権で、被後見人の財産の管理その他後見の事務について必要な処分を命ずることができる。」と定めます。後見は、弱者保護のための公益的任務を帯びて行われますが、だからこそ本人の非力に乗じた不正が行われぬよう、強力な監督の下で適正に運用されなければなりません。そのための手段として認められるのが、同条にある随時の報告要求や財産目録の提出要求であり、また、後見事務や財産状況の調査の実施ですが、家裁にはこれに適した有能な調査官の配置がありますから、その活用(家事事件手続法124条3項)によって監督の実効性を確保し得ます。863条2項による処分としては、家事事件手続法124条による臨時の財産管理や同法127条による成年後見人の職務停止、その代行者選任、これらに付随する報酬の支給等があり、また、療養看護や身上監護等、後見事務の具体的な内容にわたる助言指導等、多岐にわたる処分が考えられます。善管注意義務を負う(§852§644)後見監督人に監督任務の懈怠があれば、損害賠償の請求があり得ますし、もし、最終の監督責任を負う家裁に任務の懈怠があれば、国家賠償の責任を問われることにもなります。



    (後見) 監督人又は家庭 裁判所

       
(後見事務) 報告(財産)目録提出

             
監督はる
863、調査やる863

             
後見人勝手むさ
863

  
       (家庭)裁判所(は)、め或いは職権で、

             
必要 ならば処分やるさ
863(命じ得る)




      

被後見人関係財産の譲受けとその取消し
 
民法866条は、「後見人が被後見人の財産又は被後見人に対する第三者の権利を譲り受けたときは、被後見人は、これを取り消すことができる。この場合においては、第二十条の規定を準用する。」と定めます。被後見人の利害の弁識能力の低さに乗じ、後見人がこれらの譲受けによって不正な利益を得ることがないよう、防止する趣旨と言えます。後見人による被後見人財産の譲受けは、被後見人と利益相反であり、860条によって特別代理人を選任すべき関係になりますが、その選任された特別代理人(或いは後見監督人)との契約であっても、本条により取消しができることになりますし、後見人がする、第三者の被後見人に対する権利の譲受けについては、被後見人と利益相反になるとは言えませんが、本条により取消しができることになります。本条記載の譲受行為は、被後見人において、保護者の同意等を要することなく、自ら取り消すことができます。「第二十条」というのは、取り消しうる行為の相手方から、期間を定めて、その行為を追認するか否か確答するよう催告することができる旨の規定で、期間内に確答がない場合は、追認したとみなされます。この場合の催告の相手方となるには、被後見人は、能力を回復して、後見開始の審判を取り消された後であることが必要で、そうであれば、追認や追認とみなされることも可能とされます。そして、ここでの譲受けについて、同条の2項は、「前項の規定は、第百二十一条から第百二十六条までの規定の適用を妨げない。」としていますので、譲受行為の取消しや追認等については、取消しの効力、法定追認、取消権の時効等を定めるこれらの規定が適用されることになります。こちらをご覧下さい。




      後見人
被後者被後者に対する他者債権)

        
けたら要務866被後者においてせる




後見終了 後見の終了に関する規定(870条~875条)は、後見の終了に当たって、後見任務が公正に果たされ、後見人が不正に利得したり、被後見人に損失が及んだりすることのないよう、管理の計算や返還金、契約の取消権等の定めを置いています。法律行為の取消しに関する規定(20条121条~126条)の条句も一緒にご覧頂きます。     


後見計算義務
 
民法870条は、「後見人の任務が終了したときは、後見人又はその相続人は、二箇月以内にその管理の計算(以下「後見の計算」という。)をしなければならない。ただし、この期間は、家庭裁判所において伸長することができる。」と定めます。被後見人の財産について、財産管理の任務を担う後見人(民法859条)は、その任務の終了後2か月以内に、後見が開始した時から終了する時までの被後見人の財産の変動と現状を明らかにするため、その間の全収入・全支出について記載し計算して、現在の財産の内容・状況と合致することを示し、本人等に引き継ぐ状況にすることを、後見計算義務として、求められます。これには、就任当初に作成した財産目録(民法853条)がその計算の出発点として計算基礎となります。任務が終了するのは、例えば、①被後見人が亡くなったとき、或いは、②未成年後見を受けていた被後見人が成人したとき、若しくは、成年後見を受けていた被後見人が行為能力を回復して後見開始審判が取り消されたとき、③後見人が死亡し、或いは、辞任し、若しくは、欠格事由が生じて欠格となったり等して、財産、或いは、後見任務を引き継ぐときですが、その終了態様によって、後見計算を報告する相手方は、①の場合は被後見人の相続人、②の場合は成人し、或いは、能力を回復した本人、③の場合は後任後見人というように違ってきます。後見人が死亡した場合は、870条に定めがあるように、後見人の相続人が後見計算に当たらなければなりません。そして、この後見計算に際しては、その後見に後見監督人が付されている場合、監督人の立会いを受けて実施しなければなりません(民法871条)。これに違反して監督人の立会いなしで実施した後見計算は、後見人就任当初の目録作成に際し同じく後見監督人の立会いを義務づけ、これに違反して作成された目録は効力を有しないとする民法853条の類推適用によって、無効であるとされています。公益的な立場から後見開始時と終了時の重要事務を同じ規制の下に置くという意味で、正しい解釈であると思いますし、そうしないと、当初の目録作成義務も活かされないと言うべきです。但し、後見人からの要請にも拘わらず、後見監督人が立会いを拒み、或いは、期間の伸長等をしても立会いできない事情等がある場合は、(監督人の職務懈怠は別に問われるとしても) やむを得ないですから後見人単独で計算を行わざるを得ません。


          後見えて870かれるな

        後見
870 (伸長できる) 後見計算せにゃならぬ


       後見(ばん)逸産(いつさん) 853
ため

          後見計算
(後見)監督 (人いるときは)

             罵声
871覚悟立会(たちあい)
くべし

                     §853は調査、目録作成時の立会に関する規定


未成年後見人・本人間の契約等の取消し
 民法872条は、「未成年被後見人が成年に達した後後見の計算の終了前に、その者と未成年後見人又はその相続人との間でした契約は、その者が取り消すことができる。その者が未成年後見人又その相続人に対してした単独行為も、同様とする。」と定めます。成年到達直後で未だ後見計算も受けていない時期であれば、後見人の影響力からも脱し切れておらず、未だ後見下での財産管理の状況も十分に把握できていない状況と言えますから、そのような時期に本人が後見人或いはその相続人と契約することは、客観的に見て怪訝なことであり、後見人の公益的立場に照らしても慎むべきですから、それにも拘わらずなされた契約は、これを取り消すことができるものとされました。同条は、契約だけでなく、債務の免除等のかつての未成年被後見人本人による単独行為についても、取り消し得るとしています。そして、この取消しについては、同条の2項が、「第二十条及び第百二十一条から第百二十六条までの規定は、前項の場合について準用する。」としています。「第二十条」というのは、取り消しうる行為の相手方から、期間を定めて、その行為を追認するか否か確答するよう催告することができる旨の規定で、期間内に確答がない場合は、追認したとみなされます。この場合の催告の相手方となるには、被後見人は、能力を回復していることが必要とされますが、ここでの本人は既に成年到達をしているので、催告の相手方となり得、また、追認することもできることになります。そして、この場合も、被後見人関係の財産譲受行為の取消し(§866)と同様に、第百二十一条から第百二十六条までの規定が準用されますから、ここでの契約、単独行為の取消しや追認等については、取消しの効力、法定追認、取消権の時効等を定めるこれらの規定が適用されることになります。こちらをご覧下さい。




                  (未成年)後見人(又はその相続人)

                         
被後者成長成人(はな)872

          後見
離れ(ばなれ)870 計算未了

                侭
被後者契約(又は)受免()

                       あれば
被後者はそ()取消()(できる)




       (後見)計算未了 成人(はな)872なされた契約受免除

         被後者
取消なしたならよって(取消しから)じた債権

                                   
取消パンチ後875五年時効

       §870は後見計算に、§875は後見に関して生じた債権の消滅時効に関する規定




返還金に対する利息の支払と
 金銭消費に対する利付き償還・損害賠償義務


 
民法873条は、「後見人が被後見人に返還すべき金額及び被後見人が後見人に返還すべき金額には、後見の計算が終了した時から、利息を付さなければならない。」と定めます。つまり、後見中は、後見人・被後見人の間では、互いの返還すべき金銭について、互いに利息を付ける必要はないのですが、後見が終了したときは、後見計算が済んだ時から利息を付けなければなりません。ことに、後見計算後、後見人は、同計算によって引き継ぐべき返還金額が算出・確定される訳ですから、当然以後は利息を付けるべき筋合いとなります。それまでは、後見が終了して、金銭を返還すべきではあっても、その金額が未定ですから、元本も利息も請求できない訳ですが、その額が計算により確定したら、計算終了時から利息を付けることとなります。利息は、年五分の法定利息です。被後見人から返還すべき金銭としては、後見事務の過程で後見人が被後見人のために立替えた金銭の他、後見人の報酬が入ると思われます。そして、同条2項は、「後見人は、自己のために被後見人の金銭を消費したときは、その消費の時から、これに利息を付さなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。」としています。後見人が被後見人の金銭を自分のために使い込んだら、すぐに返還すべきが当然ですが、利息もその時から付けるべきですし、損害が生じていれば、その賠償の責任も負うべきで、この責任は、委任契約に関する民法647条の定めるところです。しかし、後見は、契約に基づく関係ではありませんから、この委任規定に拠る訳にいかないので、後見のための特別規定として873条が置かれています(前述の任意後見契約の場合は、この民法647条がそのまま適用されることとなります)因みに、上述来の後見人の財産管理面での責任規定は、共にこの金銭消費関係の規定(647条)が置かれている等、裁判所の選任に係る遺産管理人の責任に関する規定とかなり似通ったものがあります。こちらをご覧下さい。何処が違うかと言いますと、遺産管理人は、その権限を財産の維持管理に限られ(918条Ⅲ28条103条)、それを超える処分は原則できませんが、後見人の権限は処分をも含む広いものですから、それで利益相反の処分については、特別代理人の選任(860条826条)を必要としますし、被後見人の居住用不動産の処分(859条の3)には家裁の許可を要するというチェックが置かれたりしている訳です。



           後見わったときようせんさ873

                       
わずにすべし金返還 。  

          いにあれば(後見)計算わったときから () ける

          後見人自己ため 被後者使ったら

                          
使ったときからけて損害あれば賠償          





                   
後見使んだる 返還

             嫌873もる「利( )「損 () ()


後見終了後の必要処分と終了の対抗要件
 後見人は、後見が終了した場合でも、急迫の必要が生じたときは、必要な対処の処分をしなければなりません。また、後見を受けた本人に対しては後見終了を知らせねばならず、その通知を欠いていた場合は、本人に対し後見の終了を主張することができません。民法は874条で、委任に関する654条(委任終了後の処分)655条(委任終了の対抗要件)を準用する形で、これらのことを定めています。



    了後余
654急場 (必要)処分

     終了
知らせる通知こう655 (対抗要件)

    委任
874後見

         事務
をば874 ( 終了 ) めくくり

     
§654は、委任終了後の処分に、§655は、委任終了の以降要件に関する規定





死後事務の処理
 
平成28年民法の一部改正により、民法873条の2が書き加えられました。成年後見の現場での以前からのニーズに応えたものでした。法務省ホームページの説明では、成年被後見人が死亡した場合には、成年後見は当然に終了し、成年後見人は原則として法定代理権等の権限を喪失します(民法111条1号、第653条1号参照)が、実務上、成年後見人は、成年被後見人の死亡後も一定の事務(死後事務)を行うことを周囲から期待され、社会通念上これを拒むことが困難な場合がある。成年後見終了後の事務については、従前から応急処分(民法第874条において準用する第654条等の規定が存在したものの、これにより行うことができる事務の範囲が必ずしも明確でなかったため、成年後見人が苦慮する場合があったので、改正法では、成年後見人は、成年被後見人の死亡後にも、個々の相続財産の保存に必要な行為、弁済期が到来した債務の弁済、火葬又は埋葬に関する契約の締結等といった一定の範囲の事務を行うことができる(但し、その他の財産保存行為や火葬又は埋葬に関する契約の締結等については家裁の許可を要する)こととされました、ということです。なお、そもそも、後見の絶対的終了事由である本人の死亡があった後であるのに、後見事務の処理は可能なのか、という問題については、これに類似する死後事務委任を積極に解した判例(最判平4・9・22)があります。その要旨は、民法第653条1号は任意規定であるから、当事者間で反対の特約をすることが可能であり、したがって、委任者が死亡しても終了しないとの当事者の合意がある場合には、当該委任契約は終了し ないところ、本件の「自己の死後の事務を含めた法律行為等の委任契約が成立したとの原審の認定は、当然に、委任者の死亡によっても右契約を終了させない旨の合意を包含する趣旨のものというべく、民法653条の法意がかかる合意の効力を否定するものではないことは疑いを容れないところである」としています。そして、後見終了後の応急処分について、委任規定の民法654条を準用する法意からすれば、後見についても応急処分としての死後事務が認められるべきだということになります。これが、今回の改正による873条の2の加入により明定されたということです。但し、死後事務の形で無制限に事務の範囲を拡張することは、厳格な方式によって守られる遺言制度を侵すことになりますから、あくまで本来の委任なり後見の後始末的な事務の範囲内に限られると言うべきです。後見には、委任におけるような当事者の合意による余地はありませんから、なおさら事務範囲の拡張はあり得ないことと言えます。


   後見しご本人亡くなりて、任れても

      了後余
654  とが

         締
れとてさぬに8732
    
              取
らいて、御霊送りぬ




後見をめぐる無効・取消し得る行為 (まとめと取り消しうる行為の追認・取消効果・時効等)

 
後見人の地位利用遺言の無効

     後見 870(管理)計算未了966がぬ
          
(後見人、その配偶者、直系卑属が)利益 966遺言(ゆいごん)(本人に)

        させたは不埒無効 但し後見夫婦親子(あいだ)とか
                   
孫ひ孫
(との(かん))兄弟(姉妹)(かん)なら此限(こぎり)でない


 被後見人関係財産の譲受け、未成年後見人・本人間の契約等、監督人の同意を要する行為と取消権

  要務866しのけ、成人(はな)872契約や、或又、

     後見監督
(人)「同意いぃさ13とネグった処分、

       半無効
865
(得る) 取消も、

           
催告手順ほか追認定めあり。


  取消しと追認、取消しの効果、取消権の消滅時効等の説明はこちらをご覧下さい。

        取り消されるかされぬのか

     焦れ
20る相手の催告に、

  (追認権を有する者が)確答せずば‘みなされ’の追認あるも

    取り消して遡及無効
(と現利返還)の 一対121

    相手安堵に
122追認なすは一つさ123(相手に対し)意思表示


 追認のできるはいつよ
124の要件(取消原因解消後)

  
(を具備する必要等)(回復して)安堵後125

  履行・請求・執行・担保
(提供)

  (取得物の)譲渡・更改(等の事実で)


  法定
追認あるも、

  取消しにいつも
126気になる消滅の時効

   (回復してから)
五年(行為から)二十年

後見養子縁組禁止(要許可)
  
後見人が、その被後見人を養子とする縁組は、地位の乱用から不正が行われないようチェックするため、家裁の許可を受けなければなりません(後見養子の要許可原則)(§794)これに違反した縁組届けは受理されませんし、誤って受理された場合は、養子又はその実方の親族から縁組取消しの請求をすることができます806)。後見任務が終了した場合でも、後見に関する管理計算が終了しない間は同様とされます(794条)ここでの取消しは、上記契約等の取消しとは異なり、本来人事訴訟事件(人事訴訟法2条)なので、家裁に対し縁組取消請求をすることになります。こちらをご覧下さい。

   後見人 
     被後者膝下
不祥事
    なくす
794 (為の)許可をば

    養親マント
はおろう
806とした縁組取消できる



保佐・補助の事務等(後見準用) 民法は、保佐・補助のいずれについても、後見人規定(或いは、委任規定、又、補助について保佐規定)準用する形で、事務費、報酬、監督対象、複数時権限、居住用不動産の処分等の事務関係について、また、それぞれの善管注意義務利益相反意思の尊重と身上配慮義務代理権付与等、任務・職務関係について、定めていますので、こちらをご覧下さい。
保佐・補助の終了(後見準用) 民法は、保佐・補助のいずれについても、後見人規定(或いは、委任規定)を準用する形で、保佐・補助の終了関係について定めていますので、こちらをご覧下さい。

 
« (広義の) 法定後見 条句グループ »
 ここで、後見人・保佐人・補助人の選任・任務関係等の条句を、紹介形式をやや趣を変えて、条数を頭書した列挙で、まとめておきたいと思います。
    
濃紺色のものは、(保佐・補助に準用する旨の規定がなく) 後見人プロパーのもの、
    
緑色のものは、(同様に準用がない) 未成年後見人プロパーのもので、
    その他は、三者共通のものとなります。
 条句のご紹介の前に、この三者について総論的に概括すると次のようになります。
 三者の保護の必要性の程度は、後見、保佐、補助の順となりますが、必要性の一番低い補助においては、保護必要性より自己決定権が重んじられて、本人の同意のある場合に限り、補助開始となります(15条2項)。また、法律行為の
代理の面で見ると、保護の必要性の最も高い後見においては、「財産に関する法律行為について被後見人を代表する」という定め方で、後見人に常に代理権が与えられ(859条)、親権者と並ぶ典型的な法定代理人とされている訳ですが、保佐と補助においては、本人の同意がある場合に限り、特定の法律行為に絞って代理権が付与される (876条の4876条の9) ので、法定代理人である面と任意代理人的な面とが併存すると言われています。そして、成年後見人(843条)・保佐人(876条の2)・補助人(876条の7)等、他の法定後見担当者が裁判所の選任に係るのとは異なり、未成年後見人だけは、裁判所による選任(840条)の他に、親権の最後の行使者が遺言によって後見人を指定することができ、裁判所は、この指定がないとき、又は、指定された後見人に追加する必要が生じた場合に限り、求めによって選任する定め(839条840条)となっています。 
 成年後見・保佐・補助のそれぞれについて、本人の、
意思の尊重身上配慮についての義務の定め(§858876の5Ⅰ876の10Ⅰ)があり、未成年後見については、後見人が親権者の身上監護同様に、監護教育・居所指定・懲戒並びに職の許可の権限を有する旨定められています(857条)。       
 利益相反に関しては、それぞれに、特別代理人860826)、臨時保佐人(876の2Ⅲ)、臨時補助人(876の7Ⅲ)を置く旨の定めがあります(但し、いずれの場合も、監督人が付けられているときは、監督人が本人の代理人になるので、これらの選任は不要となります)。 利益相反のまとめとしては、こちらもご覧下さい。なお、後見監督の関係のまとめは、こちらでご覧下さい。
 そして、下記の後見規定が、保佐・補助に準用されます。
1 
選任、欠格に関するもの(843Ⅱ~Ⅳ、844~847)は、条数を斜字体で示してありますが、これらは、保佐人には876条の2Ⅱで、補助人には876条の7Ⅱで準用され、
2 
事務とその終了に関するもの(644、859の2、859の3、861Ⅱ、862、863、824但書、654、655、870、871、873)が、(委任に関するものは条数が太字です)保佐人には876条の5で、補助人には876条の10で準用されています。但し、準用対象となっていない853条(財産の調査と目録作成)については、準用対象である863条により、監督人から財産目録の提出が求められ得ることになりますから、義務的ではありませんが、財産調査と目録作成とが望ましいことになります。


§843Ⅱ~Ⅳ (選任基準)
        
成年後見開始のときは
(他に、欠けたとき、追加のとき)は、八隅まで
               一切考慮し、審判で、後見人の選任をする。


§844   (辞任)
         
辞任したくば、正当事由
            
はしょらず述べて許可を得る。


§845  (辞任時の後任請求)
        
 
後見人、被後者に梯子(はしご)を外さぬように、
            
 辞
(任) (に伴い、必要) ならば、
              
はよ
(遅滞なく) (の選任) を求むべし(請求義務)


§846  (解任)  
             不正行為や不行跡、その他不適の事由あれば、
              
解任請求家裁に走ろ


§847  (欠格事由)
         
ハードル落とすな 欠格事由、
        
 破産者・未成者・
行方(ゆきがた)知れず・
            免ぜられたる
(定)(理人)、保(佐人)、補(助人)と訴訟した者、
                         
(その) (偶者)と直(系)(族)


§
644   (善管注意義務)
              委任者は、心配無用よ
         
   受任者は、善管注意で
(油断を) 制しよう


§824但書 
(本人行為目的の契約)
            代理権あるとき何か本人にハッシとさせる契約
(の代理) は、
         
要護 構859あり、本人の同意を得るの要あるよ。


  §853  (財産調査・目録作成) 
           後見人  (ばん)逸産(いつさん)  防ぐため、
           
初護産(はつごさん)事務、遅滞なく 財産調査
         
(ひと)(つき)(に) 目録作成、自産と区別 (期間は伸長可)
            監督人がいるときは、調査、目録作成に、
                罵声871覚悟で立会
(たちあい)受くべし。

  §854  (目録完成迄無権限)  
          後見人、 
(財産)目録作成終わる迄、
             家越(やご)
(転居の)(とどけ)のない如く、
           急場の
(必)(よう)(ごと)かできぬ (急要事以外無権限)
              但し 善意の相手には、
(無権限による)無効を主張できぬ 也。


§858 
 (身上配慮・意思尊重)
             (成年)
後見人、
            生活、療養
(看護) 、財産管理、担う任務の (後見)要綱は
             
(心身の状態 並びに 生活の状況等の)身上配慮意思の尊重

§859の2 (数名時権限)
        
後見人が数名時
 (本来、単独行使だが)
              鋭意この任 洞察し、共同するか、分掌し、
        
第三者
(は)(数名の内) 一人に (意思)表示すれば足る。


§859の3 
(居住不動産の処分)
           成年後見
(人は)()()()の身
             
 (被後見人の)家処分には(裁判所の)許可要す。

   §861Ⅰ (年額予定)
           後見人
            
初務(はつむ)(いち)番年毎の(被後人の)
             
生活、教育、療養看護 並びに 財産管理 のための
                     年額キチンと予定をすべし。


§861Ⅱ (後見事務費)
      
後見人、
           必要爺務費
(事務費(造語))
       
被後人の財をば支出できる也。



§862 (報酬)
         後見報酬、
          
(家庭)裁判所、やるに相当?その額いくら? 
       
被後者資力やそのの事情 、踏まえて、
               相当報酬を後見人に与え得る。


§863  
(監督人の権限)  
         監督人、
          報告・目録提出、求め、
          
監督しはる身、調査もやる身
                後見人の勝手も止むさ



  §864、§865 (重要処分行為・営業行為) 
           後見人、
            いざ
13の処分に、営業§6までも、
               被後者のためにやろうよと、或又、
               
(被後者が) 挑むに同意をばしてやろうよと、意気込むも、
             「
監督の同意はいぃさ13」 とネグったら、
               なされた処分や営業行為、完全ならず 劣る効
                           取消され得る、半無効


  §866  (本人財産の譲受け)
           後見人が被後者の財、

               (被後者に対する他者債権)

                 譲り受けたら要務も怪し、
              被後者において取り消せる。


  §869
  (第三者からの無償供与財産) 
            「
野郎子(やろっこ)(はる)()」、
                無償の
(財)供与者が、
                後見の闇を
830嫌えば、
                   その財は 、後見離れ別管理



§876の5Ⅰ (身上配慮・意思尊重)
       
保佐(補助)の事務、
             被保佐(補助)人を花婿と思って、
             
その意思
(を)尊重し、その身上配慮せよ。

§654 (終了後処分)
       
もう御用ないと思うな、
            受任者は、
         
了後余、急場に必要な
                処分をばする義務がある。


§655 (終了の対抗要件)
      
委任終了、相手に知らせ、
         或又、相手が承知でなくば、
       
(相手に対する) 向こう効 (対抗要件(造語)) にはならぬ也


§870 (後見計算)
      
後見を
           終えて「花を」と浮かれるな、
        
後見離れ二か月
(伸長できる) 内、
                  後見計算せにゃならぬ。


§871 (後見計算監督立会い) 
         後見人、
           
(ばん)逸産(いつさん)853を防ぐため、
       
後見計算、
(後見) 監督 (人いるときは)
                 罵声覚悟で立会
受くべし。

§873 (金員返還) 
       
後見の終わったときに、
            「ようせんさ」言わずにすべし、金返還 。

       
後見で、使い込んだる金 返還、
             
()な身に積もる「( 息)」と「 (害) (償)


§832 
(親権債権の時効)
         成人し、親権 了後五年間親子債権 バトルある?、
         
それとも五年
(経過)(時効完成) 闇に入る?。


  §833  (親権代行)
         後見人、
           未成 (年、未婚)の この子に子が宿るとさ
             後見を与るこの子の親権 をやむなし
867代わって行使する。

33=三十三、を「トル」「ト」「サ」と読む


   §839 
 (後見人の指定)
          親権 最後行使者は、
             手続きの煩瑣苦にせず
             遺言で、後見人の指定をすべし。


   §
840 (選任基準)
        (親権者から) 指定なく、求めがあれば
          裁判所、
子供心が安まるよう、
            一切事情を考慮して、後見人を選任すべし。



   §841 (親権欠時の選任請求) 
         
はしたなく?、
          親権 辞任・喪失・停止、管理(権)の喪失あった親、
          
(未成年)後見人の (必)要あれば、
            早よ
(遅滞なく) (未成年後見人)
              応援 頼むと、
(家裁に選任)求むべし(請求義務)


   §857 (未成年後見の身上監護と要同意事項)
         
被後見(人が) 、未成年なら
          親同様に養護せ あかん、身上監護
             監護・教育、居所指定、懲戒権に職
(業)の許可、
             すべて親権同様なるが、
                 親権者定めし教育方法と居所の指定を変更し、
                 営業 許可し、取消す
(制限) ときは、
             
(後見)監督(人) の面子汚せぬ?、その同意(を) 得ねばならない、要注意。


   
§857の2 (数名時権限)
           被後見
(人が)
             
(よう)(ごう)(造語)なのに
              「
(未成年後見人複)数おれば、養護し得たに
                     いうときは、複数置いて、
              混乱避けて、全
(員)共同 (
が原則) も、
            裁判所、
             一部
(の権限)を財(産)に限定し、
             或は、財産権限を、各担
(当)又は分掌させ得。



   §872 (契約・受免除の取消し)  
            
(未成年)後見人(又はその相続人)
               被後者成長、成人
(はな)
                 後見
離れ(ばなれ)870の 計算未了 侭に、
              被後者と
                契約
(又は)受免(除)  あれば、
              被後者はそ
(れ)を取消し可。





後見監督人 
後見監督人の指定と選任
 後見人には、後見監督人を付けることができます。未成年被後見人に対しては、最後に親権を行う者の指定(民法848条)による場合がありますが、その他の場合、後見監督人は、求めによって、或いは職権で、家裁により選任されます(849条)。そして、民法は、家裁又は監督人が、後見人に対し、後見事務の報告、或いは財産目録の提出を求め、また、後見事務や被後見人の財産状況について調査する権限を有し、家裁においては、さらに、財産管理や後見事務について必要な処分を命ずることができる旨を定めて、後見監督の具体的内容を示しています(863条)。まず、それらの条句をご覧下さい(863条については、前出ですので、重複になりますが)

   親権最後(に行使する)けた
    後見
()(はす)()848 不安なら
     後見
しかと(はかど)るよう848
       遺言(いごん) (後見) 監督() 指定ができる
          
「はかどる」の「かどる」は、4の仏語「カトル」から


    後見様子849わしく把握して

    監督
849するため必要あれば(家庭)裁判所

    
 (本人、親族、後見人の求めによって、或は又、職権により)監督人 選任



   (後見) 監督人又は家庭 裁判所

     
 (後見事務) 報告(財産)目録提出

           
監督はる
863、調査やる863

              後見人
勝手むさ
863

  
       (家庭)裁判所(は)、め或いは職権で、

             
必要 ならば処分やるさ
863(命じ得る)




後見監督人の任務
 後見監督人の任務には、名の通りの後見事務の
監督の他に、後見人が被後見人と利益相反の関係となったときの被後見人の代理、つまり相反代理があり (従って、後見人に監督人が付いているときには、特別代理人を選任する必要がありません)、また、後見人が欠けたときには、急ぎ後任の選任を家裁に願い出ること、急で切迫した事情のときには必要な処分もしなければならないこと等があります(民法851条)



    後見監督(ばん)(する)(こう)(見人を)(びと)851擁護 851その職務

       
にある(後見事務)監督 (利益)相反()代理 (特別代理人の選任は不要)

       
(後見)けたときには遅滞なく後任(選任)請求急場(必要)処分


     後見人、被後者(利害)相反するときは、特()() 選任あるべきも

     
(後見)監督人があるときは擁護   851④監督被後者代理、特代はなし



後見監督人の具体的職務と任免事項等
 次に、後見監督人の具体的な職務や任免の面を見てみたいと思いますが、まず、執務に当たっての善管注意義務
(民法644条)や終了に際しては、必要な処分は行い(654条)終了の通知等の対抗要件を備えることが必要なこと(655条)、選任に当たっては、本人の意見を聞き、その他一切の事情を考慮すべきこと(選任基準)(840条Ⅲ、843条Ⅳ)辞任には正当理由に基づき許可を得ねばならないこと(844条)、不正等があれば解任があり得ること(846条)、未成年者や破産者、行方不明者、本人に対して訴訟した者やその身内は監督人になれないこと(欠格)(847条)複数名選任された場合の役割(857条の2859条の2)居住用不動産の処分については裁判所の許可が必要であること(859条の3)、監督人の事務費(861条Ⅱ)報酬(862条)等について、民法852条が上記各規定を準用する形で定めています。それで、まず、これらについての大枠を条句にしました。なお、欠格関係は、上記のものの他に、民法850条が後見人の身内関係の欠格も定めています。


     後見監督(ばん)(する)(こう)(見人)(にん)852(造語)

           
義務 644654655選任840Ⅲ843Ⅳ() 844解任846

       欠格事由
847複数(の関係) 85728592

              
居住建物売却8593費用861報酬862関係

                             
受任()後見()(の定め)準用




         後見人

         配偶者
兄弟姉妹
()()(その後見に必要と)

                 
われりゃ反抗850などできず判子850つくさ

                 後見
監督人 にはなれぬ



後見監督人の選任・任務等に関する規定の条句(まとめ)
 以上の後見監督関係の条句をまとめ、先程と同じやや趣を変えた紹介形式で列挙すると、下記の«監督条句グループ»となります。
 & 保佐監督人・補助監督人の選任・任務等      
 保佐、補助についても、必要があれば、それぞれ保佐監督人(876条の3Ⅰ)、補助監督人(876条の8Ⅰ)が選任されますが、ここにその条句と、その次にこれら各監督人の選任・任務等のまとめになる条句グループをご覧頂きます。頭書の各規定の内、緑色の未成年後見の規定以外のものは保佐監督人(876条の3Ⅱ)補助監督人(876条の8Ⅱ)に準用されます。


保佐監督人

いい 11 肥満) (弁能非満)青年(成年) せるのみ8763万難無8763にさせたしと(必要あれば裁判所)

 
(ばん)(する)(こう)(見人を)(びと)851(ばん) (をする)(ほう) (佐人)(びと)たる (
) 監督人選任をして

  
(番後任852務と同じ)義務選任辞任解任欠格(事由)複数名関係居住建物売却費用報酬関係等

                        
受任()後見その監督()各規定をば準用

補助監督人

因業15肥満 (弁能非満) 老人() 補助人付けて家裁 いをせるのは8768

 万難無の身8763 
(保佐監督)のひそみにならい(補助人にも) (補助)監督人選任

  
(番後任852務と同じ) 義務選任()解任欠格事由複数名(の関係)居住建物売却費用報酬関係等

                                             
委任後見監督各規定をば準用せんか




«監督人条句グループ»

 以下は、後見監督人に関する規定で、うち850条(欠格事由)、851条(職務)が独立した定めである以外は、852条によって準用される形でまとめられています。
 これらのうち
緑色の条文は、未成年後見監督人に関するもので、
       青色のものは、成年後見監督人に関するもの
で、
       残りが後見監督人全てに関するもの、
  そして、未成年後見監督関係の規定を除いた残りが、
       保佐監督人については876条の3Ⅱにより、
       補助監督人については876条の8Ⅱ
により、それぞれ準用されています。


§644 (注意義務)  委任者は、心配無用よ
            受任者は、善管注意で (油断を) 制しよう



§654 (終了後の処分) もう御用ないと思うな、受任者は、
             了後余、急場に必要な処分をばする義務がある。



§655 (終了の対抗要件)  委任終了、相手に知らせ、
                  或又、相手が承知でなくば、

              (相手に対する)
向こう効(対抗要件)にはならぬ也


§840Ⅲ (選任基準) (裁)判所、(指定なければ求めによって) 子供が安まるよう、
               一切事情を考慮して、後見人を選任す。



§843Ⅳ (選任基準) 成年後見開始のときは、家裁、同時に八隅まで一切考慮し、
              職権で
(成年)後見人の選任をする。(成年後見に)


§844 (辞任)  後見監督、辞(任)したくば、正当事由を
              はしょらずに、述べて
(裁)判所の許可を得る。


§846 (解任)  監督人(に)不正行為や不行跡、
            その他不適の事由あれば、解任請求 家裁に走ろ



§847 (欠格事由)  監督人、ハードル落とすな 欠格事由、
           破産者・未成者・
行方(ゆきがた)知れず・
           免ぜられたる法
(定)(理人)、保(佐人)、補(助人)
           
(被保護者に) 訴訟した者、(その) (偶者)と直(系)(族)


§850 (欠格事由)  後見人の 配偶者 兄弟姉妹 直(系)(族)は、
         
(その後見に必要と)言われりゃ、反抗などできず、
            判子をつくさ、後見の監督人 にはなれぬ也。


§851 (職務) 後見監督、(ばん)(する)(こう)(見人を)(びと)よ、
        擁護 一番その職務、
         ①名にある
(後見事務)監督、 ②(利益)相反(時)代理 (特別代理人の選任は不要)
         ③
(後見人)欠けたときには遅滞なく後任(選任)請求、④急場の(必要)処分。


§
857の2 (数人時権限) 被後見(人が)(よう)(ごう)(造語)なのに
          「
(未成年後見人複)数おれば、養護し得たに」いうときは、
          複数置いて、混乱避けて、全
(員)共同 (が原則) も、裁判所、
           一部
(の権限)を財(産)に限定し、或は、財産権限を、各担(当)又は分掌させ得。


§859の2 (数人時権限) 成年後見(人)、数おれば、各単独 (権限行使)でするべきも、
         
 (家裁は) 鋭意この任 洞察し、職権により、(権限)共同か分掌行使か定め得る。


§859の3 (居住用不動産の処分) 成年後見(人は)()()()の身
                (被後見人の)
家処分には(裁判所の)許可要す。


§861Ⅱ (事務費用) 後見人、必要爺務費に、被護人の財をば支出できる也。


§862 (報酬)   監督報酬、裁判所、やるに相当?その額いくら?、
              被護者の資力や他の事情、踏まえて、報酬与え得る。


任意後見
 成年後見は、本人に、財産行為に関する弁識能力の障害が生じてから、裁判所によって本人のため後見人が選任されることになりますが、能力が害せられる前に、本人が、自分で選んだ後見人候補者との間で、予め
(委任)契約によって、自らについての後見を依頼しておき、実際に後見の必要が生じてからその任意後見受任者によって開始されるのが、任意後見です。「自らについての後見」契約とは、正確には、「精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況における自己の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務の全部又は一部を委託し、その委託に係る事務について代理権を付与する委任契約(任意後見契約法2条1号)と規定されています。そして、実際に本人の事理弁識能力についてこのような不十分な状況が生じたときは、家裁が、本人、配偶者、四親等内の親族又は任意後見受任者の請求により、任意後見監督人を選任することになります(任意後見契約法4条)
 この契約では、本人は保有財産のどこまでの管理を委託し、任意後見人にはどこまでの代理権限が与えられているかが重要となりますから、契約書にはその範囲を示すための「代理権目録」が添付されます。そして、これが実際に銀行等対第三者との関係で任意後見が動いて行くためには、任意後見契約証書と共に提示されるべき重要書類ということになります。任意後見人には、上記委託を受けた
事務(任意後見人の事務)を行うに当たっては、「本人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない」義務が課せられます(任意後見契約法6条)
 この契約は、公証人によって公正証書としてその契約書
( 任意後見契約公正証書 ) が作られることを要し(任意後見契約法3条)、又、実際に後見が開始されるには、家裁によって上記の任意後見監督人が選任される必要があります(任意後見契約法2条1号)。一般に後見制度の後見人は、裁判所が選任する場合が殆どですが、裁判所以外の者が後見人を人選する例として、この本人の選任による任意後見人と未成年の子の最後の親権行使者による未成年後見人の指定(民法839条)とがあります。但し、任意後見受任者に、未成年者や破産者、行方不明者、本人に対して訴訟した者やその配偶者、直系血族、兄弟姉妹がいたり、不正行為や著しい不行跡その他後見任務に適しない事由があったりすると、監督人は選任して貰えません(任意後見契約法4条)。また、本人について、後見・保佐・補助が行われていて、本人の利益のため特に必要なのでそちらを実施すべきと家裁が判断した場合にも、監督人の選任は行われません(任意後見契約法4条)。法定後見では後見監督人は必須の役職ではなく、必要なときに選任されるだけです(民法849条)が、任意後見では任意後見監督人の選任が契約発効に必須(任意後見契約法2条1号)とされおり、その代わり、法定後見では(監督人が置かれている場合には)必ず監督人の同意を得なければならない重要財産行為(民法864条)でも、任意後見ではその部分について定めがなく、本人との契約関係に委ねられていますが、しかし、任意後見事務の全てについて必ず監督人の監督があることになります。任意後見契約公正証書の作成に当たり必要な資料、作成費用、その他全般については、日本公証人連合会のホームページ (「公証事務」2 ) に詳しい説明があります。
 上記のように、通常、財産管理の能力が衰える前に、将来の能力の衰えに備えて予め公証役場で作って貰うのが、本来的な任意後見公正証書ですので、このタイプの任意後見を「
将来型」と言います。しかし、能力的にはまだ自分で財産を管理することもできるが、煩わしい等の理由から、今のうちは信頼できる人に財産の管理を依頼して、自分はその監督をする形で当面まかない、その経過中に自分の能力が衰えて、監督もままならなくなり後見が必要となったら、その管理人に、今度は後見人として、家裁選任による監督人の下で任意後見を担って貰いたいという社会的ニーズもあったため、当面の財産管理のための委任契約と組み合せたバリエーションが生まれました。そして、これが公証実務では多く利用されています。これは委任から任意後見に移行する型なので、「移行型」と呼ばれています。
 移行型中、初めの財産管理の委任契約段階では、通常、その依頼の内容は財産の維持・管理止まりですから、契約書附属の代理権目録には「財産の処分」は含まれず、任意後見の段階に入って初めてこれが含まれることになります。ですから、本人の管理能力が前提されている委任の段階では、生活費等のため財産を処分する必要が生じた場合でも、本人自身が財産処分にあたることが予定されており、場合により、その時点で個別の「委任状」を作成して、契約上の受任者に処分して貰うこともあり得るというスタンスとなりますが、同能力を欠く状態となった任意後見段階では、任意後見人に「処分」も含めての管理を依頼することになります。その場合、通常、法定後見における上記の民法864条や、特に大切な居住用不動産の処分に関する家裁の許可条項
(民法859条の3)にならって、「甲が所有する不動産(不動産の持分を含む)及び重要な動産を第三者に売却して換金し、担保に差し入れて金銭を借り入れる等の処分行為は、甲の生活費、療養看護費又は介護費用を支弁するため、他に方法がないと認められる場合で、かつ、後見監督人の同意が得られた場合に限りすることができる。」というような条項を、当初の移行型契約時から入れておいて、本人にとっての不利益処分を防ぐ歯止めとすることになります。
任意後見監督人の任務 上記のように、任意後見監督人には後見事務全般、就中、
(通常は)「財産処分」等重要行為に目を光らせるという重い責任が伴いますから、任意後見契約法7条1項は、下記のとおり具体的に監督や報告等、そのための主要任務を示しています。そして、その任務を果たすため、同条2項は、任意後見監督人は、後見人に対し後見事務の報告を求め、或いは後見事務若しくは財産状況の調査をすることができることを、また、同条3項は、家裁が監督人に対し、報告を求め、調査や必要処分を命じ得ることを定めています (この後見の監督については、こちらを参照下さい)。また、その他任意後見監督人の職務・任免等に関しては、成年後見監督におけると同様に、委任や後見の規定が下記のとおり任意後見監督にも準用されています。そして、任意後見人に不正な行為、著しい不行跡その他その任務に適しない事由があるときは、家裁は、任意後見監督人、本人、その親族又は検察官の請求により、任意後見人を解任することができる(任意後見契約法8条)とされています。
 任意後見契約法7条1項の定める任意後見監督人の任務としては、名の通りの後見事務の監督の他に、任意後見人の事務に関し定期的に家裁に報告すること、後見人が本人と利益相反の関係となったときの本人の代理(相反代理)、また、急で切迫した事情のときには必要な処分もしなければならないこと等があります

任意後見監督人の具体的職務と任免事項等
 任意後見監督人の具体的な職務や任免の点を見てみますと、まず、執務に当たっての善管注意義務
(民法644条)、任意後見の終了に際しては、必要な処分を行なわねばならず(654条)終了の通知等の対抗要件を備えることも必要であること(655条)、家裁での監督人選任に当たっては、本人の意見を聞き、その他本人の心身、生活、財産の状況や、監督人となるべき者の経歴、本人との利害関係等、一切の事情を考慮すべきこと(選任基準)(843条Ⅳ)辞任するに当たっては正当事由を必要とし、家裁の許可も得ねばならないこと(844条)、不正等があれば解任があり得ること(846条)、未成年者や破産者、行方不明者、本人に対して訴訟した者やその配偶者、直系血族、兄弟姉妹は監督人になれないこと(欠格)(847条)複数名選任された場合の役割(859条の2)監督人の事務費(861条Ⅱ)報酬(862条)等について、任意後見契約法7条4項が、後見に関する上記各小括弧内の規定を準用する旨を定めています。なお、欠格関係は、上記のものの他に、同法5条が、任意後見人又は任意後見受任者の配偶者、直系血族、兄弟姉妹も欠格であることを定めています。

 以下は、任意後見契約法7条4項により任意後見監督人に準用される委任規定と後見規定です。うち条数が太字のものが委任規定、その他が後見規定 (青色のものは、成年後見プロパーのもの) となります。後見監督との対比としてこちらもご覧下さい。


§644 (注意義務)  委任者は、心配無用よ
            受任者は、善管注意で (油断を) 制しよう



§654 (終了後の処分) もう御用ないと思うな、受任者は、
             了後余、急場に必要な処分をばする義務がある。



§655 (終了の対抗要件)  委任終了、相手に知らせ、
                  或又、相手が承知でなくば、

              (相手に対する)
向こう効(対抗要件)にはならぬ也


§843Ⅳ (選任基準) 成年後見開始のときは、家裁、同時に八隅まで一切考慮し、
              職権で
(成年)後見人の選任をする。(成年後見に)


§844 (辞任)  後見監督、辞(任)したくば、正当事由を
              はしょらずに、述べて
(裁)判所の許可を得る。


§846 (解任)  監督人(に)不正行為や不行跡、
            その他不適の事由あれば、解任請求 家裁に走ろ



§847 (欠格事由)  監督人、ハードル落とすな 欠格事由、
           破産者・未成者・
行方(ゆきがた)知れず・
           免ぜられたる法
(定)(理人)、保(佐人)、補(助人)
           
(被保護者に) 訴訟した者、(その) (偶者)と直(系)(族)


§859の2 (数人時権限) 成年後見(人)、数おれば、各単独 (権限行使)でするべきも、
         
 (家裁は) 鋭意この任 洞察し、職権により、(権限)共同か分掌行使か定め得る。


§861Ⅱ (事務費用) 後見人、必要爺務費に、被護人の財をば支出できる也。


§862 (報酬)   監督報酬、裁判所、やるに相当?その額いくら?、
              被護者の資力や他の事情、踏まえて、報酬与え得る。




  は、六親等内の血族、配偶者、三親等内の姻族からなります(民法725条)。親等は、親族間の世代数を数え、直系血族間は、その間の世代数、傍系血族は、同一の祖先に遡って世代数を数えますから、例えば兄弟は二親等になります。姻族」は、結婚から生じる親族関係で、配偶者との間を零親等として、配偶者を介して、配偶者の当該血族へと、同様に直系・傍系で親等を数えます(民法726条)。そして、養子は、縁組の成立によって、養親及びその血族との間でこれらの親族関係に入り(民法727条)、結婚によって生じた姻族関係は、離婚により終了(民法728条)し、養子・その卑属並びにそれらの各配偶者と養親・その血族との親族関係は離縁によって終了します(民法729条)。民法は、第四編を「親族」とし、その初めの6箇条(§725~§730)を第一章「総則」として、これら定義的ないし説明的条文を置きますが、その最後の730条には、「直系血族及び同居の親族は、互いに扶け合わなければならない。」として、唐突に、一定親族間の扶合い義務を謳います。こちらをご覧下さい。そして、第二章から第七章までに、「婚姻」、「親子」、「親権」、「後見」、「保佐及び補助」、「扶養」の各章が並びます。親族であることに伴う制約としての婚姻障碍、そして、権利としての配偶者養子親・兄弟姉妹の各相続権を、それぞれ下線クリックでご覧下さい。扶養についてはこの後の扶養義務をご覧下さい。
 姻族関係は離婚によって終了します
(民法728条1項) が、離婚なく添い遂げて、配偶者が死亡した場合は、亡くなった後も姻族関係は継続となります。ここで、残された妻(或いは夫) から、義父母に対する姻族関係終了の意思表示(戸籍係に届け出ればそれで足ります) があれば、義父母との姻族関係は終了となります (民法728条2項、戸籍法96条) 。 生存配偶者は、その氏を結婚前の旧姓に戻すこともできます(民法751条、戸籍法95条) (生存配偶者の復氏) 。但し、一旦義理でも親子の関係になった間柄ですから、その姻族関係が終了した後も結婚することなどは禁じられます(民法735条) (婚姻障碍)
 配偶者が死亡した後の姻族関係は、生存配偶者と義父母との間に何らの権利義務関係もなければ、姻族関係の消長に何らの痛痒も感じずに済む訳ですが、親族から生じる法律効果としての扶養義務が伴うとなると、大きな負担問題になりかねません。それまでの義父母との人間関係、相互の支援や財産の承継状況等に照らして、877条2項に言う扶養すべき「特別な事情」ありとされた場合は、姻族関係が継続する限り、義務を拒むことができません。ここで、姻族関係終了の意思表示をすれば、扶養義務の根拠である「三親等内の親族」たる身分が失われることになりますから、法律的にはこの義務を免れることができることになります。ただ、その具体的個別の人間関係と経緯からして、割り切って簡単に法律的義務を免れることができるものか、或いは、法律的には免れても情として忍びないこととして事実上面倒を看るか、等切ない場面ではあります。民法728条を詠んだ条句は、その辺の複雑な心境も詠み込まれているとご理解下さい。高齢社会となって、老々介護、孤独死等の社会問題も深刻化しつつあり、このような個人的悩みで乗り越えられる事柄ではなくなっていると思います。なお、扶養の程度については、後記生活扶助義務もご覧下さい。なお、従来、連合いに先立たれた後も、義父母の身の回りの世話等で献身的に尽くしても、遺言で報いて貰えない場合は全くの徒労に終わることが、姻族関係終了の勧めに傾く要因の一つであった訳ですが、平成30年の民法改正により、この点が「
特別寄与料」という形で一定程度改められました。こちらもご覧下さい。



   近頃親族 () (なつ)725にも何語725 るかからない

   多国
() まれこの(あたか)無血敗残員

         (
(親等内)()、配(偶者)、三(親等内)())



   親子孫ひ孫(直系血族)と、同居の親族は、波を730立てずに、

             お互いに扶け合わねばならぬ也。



   
‘同居して、
730てずにオヤ(義父母)

    「虫酸
る、ようせんな
877ならば離婚をせにゃならぬ?。




「扶け合い」義務 この条句のように家族の大問題に発展しかねない不安も予感させる「扶け合い」ですが、扶養義務については別に877条があるので、この730条は、扶養に関する効果は何もない単なる倫理規定であるとされています。実は、この730条が、第二次大戦後の「家」制度廃止のための民法改正に際し、改革派と抵抗勢力との間で最も激しく論争された条文だったそうで、いわば改正の見返りとされたとも言える旧制度の残滓である訳です。ところが、その後の社会の変化に伴い、社会の紐帯や家族の絆が緩み、ITの発達と生活様式や消費構造の変化等とも相まって、核家族化、ひきこもり、シングルマザー、ブラック企業、過労死・過労自殺、格差社会等、様々な社会問題が派生すると、セイフティネットやその実施のための強力な公的介入を伴う扶助等による救済(「ベーシックインカム」制度も、社会保障に代わる救済策として注目され始めました)が急務であるのに、これを回避する藉口道具としてこの730条が使われていると指摘されています。



  
姻族関係 離婚によって終了するも

   添
げて(つま)()オヤ(義父母)

         
浪花728節派728

    縁切
せこい751(姻族関係)

 終了
(の意思表示をするか、又は、(ふく)(うじ)、いずれも)

                
いずれも意思次第



大昔の日本では、妻から(時には第三者からも)夫を「つま」と呼んだことがあるそうです。ちょっと
語法が違いますが、お許し下さい。〔〕内を読むときは、ここでは、韻の関係で「ふくうじ」と読みます。
    



   
離婚()() あるや728特別養子(の親族終了)

     
(なぞ)735間柄(ゆえ)離散後735

   
()()ならじ

           「7」を形の類似から「り」と読んでいます。



扶養義務
 上記「扶け合い」に関連して、親族間の扶養義務
(民法877~879条)の条句もご紹介します。民法は、直系血族と兄弟姉妹間では当然に扶養の義務があるとし、それ以外の三親等内の親族間では、特別な事情のある場合に限り、審判によって扶養の義務を負うとして、扶養義務の発生根拠を二種類に分けています。ですから、前者を当然義務、後者を審判義務と呼び分けたりもします。そして、前者については、発生根拠が当然であるからといって、扶養の程度も同じように当然に重いということではなく、この当然義務の中でも、夫婦・未成熟子の間での扶養の程度と、それ以外の者の間でのそれでは異なるとされています。夫婦・未成熟子間の扶養は、私見によれば、婚姻夫婦とその間に生まれる子との間の「融合創一」に基づく義務で、数多生じる親族関係の中でも最も核心となる、最濃密の絆に結ばれた、根源の関係から発するものですから、互いの間は、足りない糧も分かち合い、同種・同量・同等の暮らしぶりを保つべき生活保持の義務が求められ、その他の親族間の、ゆとりがあれば扶助をする生活扶助の義務とは異なるとされています。ですので、独立して自活する子との間、或いは兄弟姉妹間の扶養は、上記当然義務の対象ではあっても、その程度は生活扶助義務で足りることになります。夫婦間の扶養義務については、こちらもご覧下さい。
 現実に扶養料請求によりその支払いを求めることになった場合は、家裁での事件の扱いに従って手続きが進むことになります。そして、調停等で結着が付いて調停調書等のいわゆる債務名義が得られたときは、不履行があれば、強制執行が可能となる訳ですが、このような切実な扶養料等については、執行段階でも特例扱いを受けることができます。こちらをご覧下さい。

当然扶養義務          

     兄弟姉妹()()

     当然
扶養 (絶対的なる扶養) 義務者

         互
いに扶養ようせんとな
877 



審判扶養義務

    
(兄弟姉妹、直血以外の)三親等(内の親族)相対義務者であって

    「
(扶養なんぞは) ようせんナ877」逃げをっても

         
特別事情
877家裁において

   
(審判で)義務課されも、その事情 変更あれば
取消可。



   878咲いたが、嫌なは878なし、

    
誰が誰をばどの順で、扶養すべきか


   協議
して、決めねばならず、

     出来なくば、家裁で決めてもらうべし。


   芙蓉(不要(はな)878りとて

   扶養
義務しぼみなば

     
(ばち)878あらぬか、今様。



 現に扶養をしている扶養義務者の意に反して扶養権利者を引き取って扶養したという事実だけでは、引き取った他の扶養義務者が自己のみで扶養費用を負担すべきものとすることはできないとした判例(最判昭和26・2・13)があります。また、扶養料の負担は、地裁の判決ではなく、家裁の審判で決めるべきとする判例(最判昭42・2・17)があります。


   扶養程度 方法協議なく879
    (
或いは) わぬときは家裁需要資力
             
その他一切 考慮審判



扶養の程度・方法 扶養義務には、夫婦・未成熟子間の生活保持義務と一般親族間の生活扶助義務の二種類があるとされています。「生活保持」義務については、昔私共は「一椀のかゆも分けて食べなければならない」義務と教えられました。今の時代この表現が適当かは別として、親の暮らしぶりに関わらず、ぎりぎりであっても親と子が分け合って生きる義務ということだと思います。夫婦間の扶養義務は、民法752条により文言上「扶助」の義務となっていますが、一般親族間の義務とは違う「保持義務」ですから、互いに同種・同量・同等の暮らしを保つべく、夫婦等しく暮らしぶりを分かち合うということですが、その実際の負担者・負担割合については、760条の婚姻費用分担の場面として、双方の資産・収入、子の人数・年齢、その他一切の事情によって具体的に定まることになります。しかし、夫婦間の扶養について裁判で問題になる例というのは夫婦が別居している場合の婚姻費用としてなので、婚姻費用算定表等によって分担額を求めることになりますが、同居しているときはどうなのか、余り論じられていない様です。互いの固有資産の保有を前提とする夫婦別産制の下で、夫又は妻がその固有財産を減らしても等しい暮らしぶりで生活することが義務として課されるとすると、それぞれの固有財産と暮らしぶりとの勘案で、いわゆる家計の切盛りをしていくこととなり、この切盛りでの協力が、離婚の際には、全資産等分となる財産分与請求権や、他方が亡くなった際の遺産に対する相続分、或いは、これを超える寄与があれば寄与分として、評価されることに繋がっていく訳です( 判例 )(→婚姻)。「生活扶助」義務の方は、まずは、夫婦・未成熟子の家族生活について、ぎりぎりの線を補い平均線辺りまではレベルを確保した上で、余裕があれば分けてあげなさい、という義務であると言えますから、上記の「当然扶養義務」であっても、夫婦・未成熟子以外の者との間の扶養については、この生活扶助義務で足りることになります。保持義務対象である未成熟子が、その年代を過ぎた後に必要となる扶養は、この扶助義務の対象ということになり、その扶養程度を超えて、海外留学等その夫婦の資産・学歴等から見て相応の扶助の域を出る特別の資金援助等があれば、後に相続分算定の際に「特別受益」として持戻しの対象となります。扶養の方法の実際としては、金銭・現物・引取の3方法があるとされますが、扶養方法について争いがあるときは、調停等の場で合意ができれば別ですが、金銭での定期給付等による他はないであろうと言われています。




  夫婦
未成熟子の扶養の程度

   万難苦
879あっても自己同等

    生活保持
する義務


   その
(ほか)
(の扶養)()879なく

    地位相当
生活 維持して

   余力
あればする
生活扶助義務




      扶養審判まれ880ば、 事情変更

    
(例えば)880どのが、どので、

      
如何なる程度方法
扶養するのか、

             
審判取消変更できる


ここで、「子供のいる夫婦の離婚」の項で挙げた条句ですが、扶養請求権の処分禁止(民法881条)は、まさにこの場所が相応しいので、重複を厭わずにその前出条句を再登場させます。そして、その離婚の項で述べた内容については、恐縮ですがクリックでお読み下さい。
 そして、この処分禁止の理由についても考えてみたいと思いますが、人が、自分の要扶養状態における扶養請求権を処分すること自体の問題性は後で論ずることとして、まず、この処分の際の、処分の相手側について見てみれば、人の困窮に乗じその困窮から脱するための権利を取引材料とするのは、そのこと自体公序良俗に反すると言えるのではないでしょうか。勿論、差押え等公的執行の対象とすることは禁じられています(民事執行法152条1項1号)。公序良俗違反の行為は無効です(民法90条)。また、そのようなことが広く行われた場合、結局権利者のさらなる困窮を招いて、困窮者の増大と公的扶助の濫請求へと繋がりかねません。これによっても公序に反する結果へと至ります。そして、後回しにした扶養請求権者の側の問題性は、困窮に陥ったことに対する法的救済の必要性は勿論ですが、そのために認められた具体策がまさにこの扶養請求権である訳ですから、これを真摯に追求してその権利の実現に自ら努めるのが採るべき方途と言えます。また、そもそもこの権利は、上記離婚の項でも触れた様に、一身専属性のものなので、他人に対する処分になじまない権利ですから、本質的に処分できないものでもあります。そのように自ら追求しても権利実現を果たし得なかったときに、生活保護等の公的扶助の手が及ぶことになる訳で、これが公的扶助の補足性・補充性の原則といわれる所にも整合することになります。勿論、この原則については、杓子定規でない柔軟な運用が望まれる
ので、自らの権利追求努力があっても権利の処分に走らざるを得ない状況に立ち至りそうであれば公的扶助を給すことができるようなきめの細かい情の通った実務でなければなりません(権利の「追求」と言っても、扶養義務者に応じて貰えない場合に「訴求せよ」とまではとても言えません。手近な範囲に容易に助けを求め得る者が存在しないという状況があれば足りるとすべきです)


     扶養権利ったり担保れたり

         手離
処分ヤバイ
881ことです禁止です
 

    
父母の間

       
養育費将来って請求せぬ

      
881取決扶養料放棄 とはならぬ

  
     扶養請求、子自身
生存維持()ため 故

          
一身専属、親 放棄不可
     
(養育費を巡る事情の変更で改めて請求できる場合がある)



相続編



相続人
と相続分
 結婚生活での夫婦の協力から始めた本稿は、人生の色々な場面を一通り見てきて、いよいよ相続の段階に入ります。初めにまず、その相続のコアといえる相続人と相続分についてお話したいと思いますが、しかしまずは、「相続とは何かに」ついてを踏まえなければなりませんから、その条句をご紹介した後、「相続」について少しばかり考察し、次には相続人となるべき資格に二枠あることに及んで行きたいと思います。「相続の一般的効力」と言う柱書で民法896条が置かれ、同条は、「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。」と定めています。そして、その「相続の承認」という場面に関する920条は、「相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。」としています。「無限に」とある点が意味深で、負債であれば、限りなく相続人個人の財産にも責任か及ぶという意味です(922条は、この点を阻止するため遺されたプラスの財産「の限度においてのみ・・弁済する」限定承認制度を定めています)から、厳しいニュアンスが込められていることになります。条句をご覧ください。


     相続人(相続開始の時点から)
故人920した 一切
        権利
義務 やあ苦労
896承継 をして


   相続人単純承認 したならば
920した一切
 
         権利と義務りなく
ことに920なる要注意。
                       
「ことに」=9(00)+(10×2)



   相続人単純承認 したならばにお920るなどプラスばかりか
         マイナス債務などまでりなくわねばならぬ苦痛920覚悟!




 
人が亡くなると、その人の有した財産は、プラスの財産は勿論、借金のようなマイナスの財産も含め、一切の権利義務 (但し、例えば芸術作品の創作や扶養関係のような一身専属的な権利・義務関係は除きます) が亡き人 (以下、本稿では「故人」と呼ばせて頂きます) の法定相続人に相続 (民法896条) により受け継がれ、又、合わせて、それとは別枠で、遺言に基づく遺贈 (民法964条)があれば、それ によっても受け継がれます。亡くなった時が、相続開始時(遺贈の開始時でもあります) となります(民法882条985条)。また、相続の開始の場所は亡くなった時のその人の住所地です(民法883条)。相続により継がれる財産にはマイナス財産も含まれる点が肝腎で、そのために後に述べる相続の承認(民法920条)放棄(民法938条,939条)が必要なステップとして用意されています。上の括弧書きにある限定承認もその一環です。そして、例えば、遺言で相続人以外の人に遺贈する際にも、遺贈には、特定物で与える特定遺贈と、例えば遺産の何割を与えるという形で、マイナス財産も含めた意味となる包括遺贈がありますが、後者については相続と同じ扱いをする(民法990条) という定めがあるのも、相続がプラス・マイナス一切の財産の包括的な承継であることによるものです。なお、相続と遺贈の違いについて、こちらもご覧下さい。


  父くなり(世間では、相続放棄で母に全財産が行くことが多い)

         
882かれ死亡 によって相続開始

         母に882逝かれて相続開始 (所謂「二次相続)


  瀬
883三途ったった (時の) 住所 相続開始


        やぁ苦労896債務 包括 受遺者 れば990
           相続人
承認放棄 悔誤915なく せい




相続の本質

 
相続」においては、被相続人の財産、つまり、被相続人の一身専属的なものを除く、その他一切の権利・義務が、一定の直近 親等の親族である法定相続人に対し、相続債務も含めて包括的に承継されますが、この相続における承継については、相続人と被相続人との間で権利主体同一性が保たれていることがその眼目であると言えます。そこには、遺言による財産処分である「遺贈」におけるような権利「授受」の要素はなく、単に権利主体同一性という枠の中での権利状態の変動があるだけで、言ってみれば権利主体の名義が変わるだけであるに過ぎません。そして、又そこには、単なる権利の個々的承継という事象でなく、被相続人の負の財産も正の財産も、相続人のそれらへと流れ込んで融合同一化する事象が伴うことになります。「授受」、つまり、「譲渡」はないので、本来、権利の二重譲渡はある筈もなく、登記権利者も登記義務者も存在しない場面です。仮に、この相続による取得と相容れない取得の主張をする者があったとしても、( それが、矛盾する複数の遺言の存在により二重譲渡の形となっている場合を除き、) その者は無権利であるとしてその主張を退けることができます ( 無権利の法理 ) 。このように考えることによってはじめて、この権利移転については登記なくして対抗できること、又、相続人単独による「相続登記」も可能であることを根拠付けることができます。とういうことで、この権利主体同一性を欠いた別人格に対する権利の授受である「遺贈」については、「授受」であるので登記は与える側と受ける側の双方申請によらなければならず、又、すべからく、「遺贈による権利移転を第三者に対抗するためには登記等の対抗要件の具備が必要である」ことになります。要約すれば、「主体同一承継である相続においては登記不要」、そして、「授受承継である遺贈においては要登記」と略して言うことができますが、ここで前者を相続の「主同承継」と略称させて頂きたいと思います。ですから、主同承継である「相続」は、人の死に伴う財産承継(広義の相続)のスタンダードであり、主同承継となる「遺贈」はオプションであるとも言えます。ところで、ここで相続について述べたことは、遺言による相続には当てはまっても、遺言のない場合の相続人間での遺産分割には当てはまりません。つまり、遺言では、特定物について「○○を○○○○に相続させる」と定めた場合、その物は相続開始時に直ちに主同承継によってその遺言受益者の取得となるとされ、上記のとおり登記なくして他に対抗できますが、遺産分割の場合は、大きくは「相続」であっても、相続人間での協議を経、いわば相続人同士の授受によって取得者が決まりますから、そこでは主同承継的色合いが薄められ、互いの対抗関係が前面に押し出されます。加えて、相続人間の授受が前面に出ることは、さらに第三者との授受へと繋がり、取引一般の問題へと発展して、取引安全の見地からの制約を考えなければならなくなります。ですので、例えば、分割までの間に第三者に自己の法定相続分を譲渡してしまった相続人がいる場合、分割による取得者とは登記等の公示によって優劣が決まることになります。
 そして、以上相続の本質について述べた内、対抗関係と関わる部分については、この取引の安全の見地からする
平成30年相続法改正により大きく変わり全て相続による権利取得は、( 法定相続分を超えない場合を除き、) 登記になくして第三者には対抗できないこととなります。つまり、令和元年7月1日からは、「相続させる」遺言によるものも、「遺贈する」遺言によるものも、遺産分割によるものも、すべからく相続(広義:人が亡くなるに伴って生じる財産承継の意)による権利取得は、(法定相続分を超えない場合を除き) 全て登記の先後によって権利の帰属者が決まるということになります。こちらをご覧下さい。

指定
(私定)相続分

 
遺言による遺産の継がせ方として、相続人ごとに継がせる割合を定める方法によるときに、その割合のことを「指定相続分」と言いますが 、これは、民法902条の見出しが「指定」となっていることによるもので、同条本文は「定め・・ることができる」とあるだけです。民法は、第三章第二節相続分の中の900条に法定相続分 (クオレ (イタリア語で「心」・「芯」)) の規定を置いた後の902条で、クオレに縛られることなく遺言で相続分を定めることができる旨を規定して、私有財産制の下、遺産に関する個人の自己決定権を尊重する態度を示す訳ですが、この流れで言えば、正に「私定相続分」を許す規定と言えます (但し、遺留分による制約があります)

           

      相続分クオレ900(=法定相続分、伊語で「心」「芯」)なる指定相続分をば

                       きたくば口舌902によらず、遺言 すべし


「相続させる」遺言の従前効
 
遺言では、また、特定の相続人に特定の財産を「相続させる」として、継がせる方法があります(「相続させる」遺言)。その場合の相続人は、この遺言により上記の主同承継(権利主体同一承継)をして、その特定物につき超クオレ分を含めた全部を取得することができ (最判平3・4・19) 、合わせて、判例によって、この財産取得については、登記なくして他に対抗できると共に、単独でその登記をすることもできることが説かれてきました ( 判例最判平11・12・16最判平14・6・10 )しかし、この登記なくして第三者に対抗できるという点は、平成30年改正により、法定相続分の限りで、という限定が付くこととなりました。次項をご覧下さい。


             

      これや908この香川判決 (最高裁判平成3年4月19日第二小法廷判決)分割方法 指定 じたる
     公証実務
クレバー908(分割方法)指定文言好例908(遺言で)(特定の物を)これは908 相続させる
             
これは908単独 分割方法 指定 なる分割 不要としA子ちに取得する
  

平成30年相続法改正
 
さて、そうしたところ、この度相続法が改正され、902条に先立つ889条の2として「相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び九百一条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。」との規定が新設されました。遺言がないため相続人間で遺産分割をする場合だけでなく、遺言に基づいてその内容通りに取得することになる場合であっても、全てクオレ (法定相続分) (900条)を超える取得については、対抗要件を具備しないと第三者に対抗できないこととなりました。したがって、上記相続分の「私定」の意義が再確認されるべきこととなり、また、上記「主同承継」効果の範囲が限定されることになりました。つまり、

① 「法定」相続分であるクオレ
(法定相続分)に対し、902条により遺言でこれを超える割合を指定することは、遺言者の相続人に対する正に「私定」の行為であり、「法定」に伴う強い対抗力は「私定」相続分には認めない、と改正法は宣言したことになります。

② また、「相続させる」遺言により取得される財産についても、その内のクオレ(法定相続分)を超える部分については、従来の判例 (最判平14・6・10) にも拘わらず、同様に登記なくしては他に対抗することができないということになりました。例えば不動産であれば、それを相続人の内の一人に単有させる場合が殆どで、共有とすることは滅多にありませんし、共有の場合もクオレ通りなどということは希有なことです。したがって、「相続させる」遺言により取得される不動産は、殆どの遺言は登記なくして他に「対抗」できないと心得た方が無難です。私は、従前ここで、対抗関係とは、二重譲渡的になった場合のことだから、そうではない無権利の法理で臨むことができる場合は除かれることとなるので、遺言による、相続開始と同時の権利取得 (卒時取得) は、他の共同相続人から譲り受けた第三者にも対抗できる旨の記述をしていました。しかし、これは私の不明の至りでしたので、改めて、いかなる形であれ相続による取得をした第三者には対抗できない、とお詫びと共に訂正をさせて頂きます。私の従前の理解の根拠は、「相続させる」遺言による権利取得、ひいて、相続による権利取得は、相続開始と同時になされ、したがって、他の共同相続人による処分を「無権利」処分たらしめるという点にありました。しかし、「卒時取得」と表現したこの取得態様は、今後維持できないものと思います。「相続させる」遺言による取得も、遺産分割による取得も、いずれも、相続による取得であり、新899条の2によって、法定相続分を超える部分については、登記なくして第三者に対抗できないこととなります。したがって、遺言による権利取得が「卒時取得」であったとしても、それが、私が従前述べていたように対抗関係で有利に働くことは、なくなった訳です。むしろ、卒時取得と意識すること自体、取引の安全の観点からは、意味を持ち得ないと心得た方が良いですし、今後は、
「相続させる」遺言によるものも、「遺贈する」遺言によるものも、遺産分割によるものも、すべからく相続(広義:人が亡くなるに伴って生じる財産承継の意)による権利取得は、(法定相続分を超えない場合を除き) 全て登記の先後によって権利の帰属者が決まるということになります(不動産以外の財産については、例えば債権であれば、譲渡日の確定日付証書による譲渡通知或いは債務者の承諾(民法467条)のような対抗要件の具備が必要となります)

 ですから、財産処分の自由を遺言における「私定」相続分や「相続させる」遺言によって活かすには、その上で、その「私定」部分を対抗力を伴うものとする手当てを忘れてはならず、したがって、
遺言には必ず遺言執行者を指定して、登記その他の公示を具える方途も記載しなければなりません。改正法は、遺言執行者の地位・権限を強化し、この点での手当てが従前より遙かに行き届きましたので、登記手続き等の必要には、遺言に執行者を特定して指定すれば足りると言える程になりましたから。
 それでは、遺言によらない相続の場合はどうでしょう。たとえば遺産中の不動産は、故人が亡くなって相続が開始したと同時に相続人間の共有となって、遺産分割を待つことになりますが、その間に共有持分が処分されたり、相続人間の合意ができて遺産分割協議書が整い、一人の相続人の単有するところとなったり、或いは、まれに相続人の共有とされたり
( しかし、共有とすることは殆どやがてその後の処分が不可能となりますから、余りお勧めできません )、色々結果が分かれることになっても、とにかく、それらの結果については、登記で事が決することになります。遺産分割は、相続人間の権利の授受ですので、上記の遺贈と同じですから、登記を要する点は以前と変わりありません。共有となる場合も、クオレ ( 法定相続分 ) どおりであれば、持分どおりで授受がないので遺産分割協議書も不要のため、即登記ができますから、簡便この上ないですが、そのようなまれなケースでなければ、他の場合と全く同じで、登記を要します。


相続による権利取得の対抗要件に関する平成30年7月民法改正 
 同年7月13日民法の相続に関する部分が改正されました。この改正法が施行されるのは、令和元年7月1日からとなります。かなり重要な点が改められましたので、相続編のこの冒頭部に相応する部分について説明を加えておかなければなりません。
 相続の本質に関する私の上記「権利主体同一性」、「融合同一化」の二点は維持させて頂きますが、それにより相続による権利の承継が「
登記なくして対抗できる」とする点については、限定が付くこととなります。それは、「法定相続分の限度において」、ということです。法定相続分を超える部分については、対抗要件を備えなければ第三者に対抗できない枠組みとなりました ( 新899条の2)

 
クオレ(法定相続分900条)に対する私定(指定)相続分が遺言で自由に設定でき、「相続させる遺言によって、特定物を特定の相続人に取得させることができるとしても、その遺言の自由が過ぎて、(兄弟姉妹を除く) 相続人本来の取得分(クオレ)からの乖離が見過ごせない程になると、後述のとおり遺留分によって規制を受けることになる訳ですが、遺留分は通常クオレの半分(親だけが相続人の場合は1/3)ということで、遺留分も究極のところ「法定」による規制を受けています。
相続税においても、同税の総額は、つまるところ遺産総額(から基礎控除を経た上)の、相続人ごとの各仮クオレ分に対する速算表での算出額の総額(これから配偶者控除等の各種控除が行われます)ということで、同じことが言えます。また、遺言や遺産分割の対象外とされる 相続債務 (消極財産 )については、遺言で負担者・負担割合等を「私定」しても、債権者には対抗できず、債権者によるクオレによる取立てを拒むことができないので、この場面でもクオレによる「法定」の規制は厳然存在します。ですので、相続においては、被相続人の遺産に対する処分の自由は遺言によって享受することができますが、その背後にはクオレ(法定相続分)という背骨が厳然と頑固に控えていることになります。クオレ(法定相続分900条)は、相続当事者には勿論、第三者からも明らかで、これらの背柱の控えによって当事者も、その外の取引世界も相続についてある程度の予測や安心を得られる仕組みとなっていると言えます。よって、遺言相続による権利取得もその主同承継性は尊重されるものの、第三者との対抗関係においては、クオレを超える部分に関して、権利主体同一性は薄弱となり、他に対抗するためには、遺贈の場合と同様に、対抗要件の具備を要するということとなった訳です。ただ、(登記名義が被相続人にあるときには )判例によって否定されていた遺言執行者の登記権限が、今回の改正により、これを認める旨明文化されましたので、権利を取得した相続人本人はもとより、執行者においても、安んじて相続登記を早くに履践することができ、公示の先後で決まるこの場面においてもさほど不安なく対処することが可能となります。
 



      

  相続取得されたる財産クオレ900えたる分につき

    発公(示)899 (の) 2ける 登記えて対抗 (力) えよ



 
しかし、「相続させる」との文言により特定財産を取得させる遺言を、改正法は「特定財産承継遺言」と呼んでいますが、この種の遺言による財産取得について登記不要を唱えた(香川判決後の)判例(最判平14・6・10)により、登記を要せずに第三者に対抗できるとされた特定財産取得者についても、この改正により、その効力は「その法定相続分の限りで」という限定付きとなることを銘記しなければなりません。すなわち、例えば、遺言者により複数の遺言が作られていた場合、いかに最終意思による特定財産承継であったとしても、登記が以前の遺言に基づき他の相続人によって先に履践されてしまうと、最終遺言によるその特定財産取得者は、法定相続分の限度でしか先登記者には対抗することができないこととなりますし、また、遺言による取得者でない共同相続人が、特定財産を第三者に処分していた場合は、その第三者にも法定相続分を超える部分について登記なくして対抗できないこととなりました。香川判決が、取引の安全を害するとして厳しい批判も受けていた中、相続の本質を損ねる形で巻き返しをされた訳で、特定財産取得者は安閑としておられないこととなります。



相続の本質再考

 
ここで、平成30年相続法改正による権利取得の対抗要件に関する改正点を踏まえた加筆をしたいと思います。
 そして、まず、上記相続の本質について述べたところを、相続人が一人だけというケースに当てはめて考えてみると、分かり易いので、その場合から述べたいと思います。相続人が一人だけのケースの相続人は、その者が配偶者であると、血族相続人であるとを問わず、全相続分を独占しますから、改正法に言う「法定相続分の限りで」という限定
( 新899条の2 の反対解釈) の下でも、遺産全てについて相続の本質を具現でき、結局、遺産である不動産についてもその全てについて「登記なくして対抗できる」ことになります。一人の被相続人を一人の相続人が相続するので、その主同承継(権利主体同一承継)の関係は当然です。ということで、一人の相続人であれば、当然である主同承継ですが、これが、相続人が複数いる共同相続人の場合はどうでしょうか。この場合でも、遺産は相続人間でクオレ (法定相続分) に従って共有、分属され、その通りの内容で遺産分割されれば ( 実は、この場合は遺産分割協議は不要ですが ) 、いずれの相続人も登記なくしてその取得を第三者に対抗することができます。このように、相続人が一人だけの場合、及び、クオレ通りの法定相続の場合は、全てクオレのままですから、登記を経ずして他に対抗できます。この相続を、クオレ (イタリア語で「心」・「芯」) の意味も込めて「主芯承継」、そして、主同承継部分の内、この主芯部分を除く残りの部分、つまりクオレ (法定相続分) を超える部分の承継を仮に「芯超承継」と略称することとします。ですから、包括承継たる相続分の「私定」や「相続させる」遺言による主同承継の内には、この登記不要で対抗力を持つ強い主芯承継の部分があり、残りの芯超承継の部分は登記なくして第三者に対抗できない弱い部分であるということになります。

 これまで、遺言者が「相続させる」と定めた主同承継では、そう遺言された財産が全て「相続」の名の下に「相続」枠で承継されると理解して良かったのが、法改正を経て、そう理解して良いのは、その内のクオレ分
( 法定相続分 ) である主芯承継部分であり、その外側に残る芯超承継部分 について他に対抗するためには、登記等が必要となりました。この主芯承継は、結局、相続債務の相続関係と同じこととなります。相続債務は、各債権者が控えている訳で、相続人間で勝手にいじることはできず、クオレ通りに取立てを受け、弁済しなければなりません。遺言で異なる負担割合等を定めても第三者には対抗できない訳です。結局、消極財産である相続債務と ( 遺産分割、遺言の対象となる) 積極財産である遺産との、いずれについても、第三者に対し対抗できるのは主芯承継部分のみであることになります。それを超える芯超承継部分については、いかに遺言に「相続させる」とあり、或いは、「相続人Aに負担させる」と定めても、登記等 ( 債務の場合は債権者の承認(新902条の2) ) を具えなければ第三者に対抗できないことが明文化された訳です。
 結局、人は私有財産制の下、財産処分の自由により遺言で相続分を「私定( 指定) 」 し、或いは、財産を特定して「相続させる」 ( 特定財産承継 ) 遺言をすることができますが、その内の
芯超承継分は、相続の本質である「主体同一承継」 とは言える ( クオレの保有を伴うので ) ものの、遺言者と相続人との間での「授受承継」的意味合いを帯びるが故に、これを他に対抗するためには登記等( 公示 ) を具えなければならないと、改正の趣旨を理解すべきことになります。そうすると、結局、相続とは一般に「遺産」と言われる積極財産、及び、相続債務である消極財産について、主体同一性・融合同一化を伴って生じる包括承継 ( 主同承継 ) であるが、これによる取得や負担を第三者に対する対抗力をもって主張することができるのは、各相続人のクオレ ( 法定相続分 ) について生じる主芯承継部分だけである ( したがって、相続人間でクオレどおり共有とする「法定相続」であれば、相続人が単独で自分のクオレ分の登記をすることができます ) と結論することができます。
 しかし、この主同承継部分に関する登記については、その芯超部分について登記なくして対抗できないという弱みを伴うこととなるものの、上記のように主芯部分を基礎に持つ遺言がある故に、主同承継全体について受益相続人が単独で登記することができます(不動産登記法63条2項 )。ただ、これまでこの全体について登記なくして他に対抗できるとしてきた点を芯超部分については後退せしめることにはなるため、改正法により、遺言執行者に遺言内容の実現義務が課され ( 新1012条1項 )、かつ、対抗要件を具える権限も与えられた( 新1014条2項 ) ことにより、受益相続人の受ける上記不利益をカバーして、取引の安全を図り、安定的承継をももたらし得るよう企図されたと言えます。合わせて、遺言執行者の執行行為に対する妨害行為を防止する態勢
( 執行者の執行行為を妨げる行為は、善意の第三者による場合を除き、無効である旨の規定が加えられました) も整えられました。
 
そして、香川判決以来、遺言の普及に貢献してきた「相続させる」遺言ですが、この改正法は、同判決が主芯承継についてのみ妥当し、芯超部分については「取引安全」の観点から、主同承継に安んぜず、今一歩慎重に登記等を具えるよう努めるべき旨を示唆し、また、遺言での「相続」文言が、主芯承継か ( 芯超部分を「プチ遺贈」として含む ) 主同承継か、はた又、主同承継ではない「遺贈」のつもりで使われているのか、いずれであるかのところは、いずれも「特定財産承継遺言」として全てを包摂して表現し ( ただ、その内の芯超部分について対抗要件具備がなければ第三者に対抗できないと宣言して) 、文言の違いで揚げ足取りをするべきでない旨を合わせて示唆しているように思われます。但し、配偶者居住権の遺言をする場合、その文言は「遺贈」でなければならないことは銘記する必要があります。

平成30年相続法改正による「対抗」の再考
 以上、相続の本質を、相続による承継の対第三者対抗との絡みで再考しますと、今回の改正は、「法定」相続分を超える「私定」相続分に対する「取引安全」面からの「公示」による規制にこそ、改正の本質があったことになります。法定部分はそれ自体、法によって既に「公示」機能は果たされているから、対第三者への対抗には登記は不要であるとして、積極財産も消極財産も、法定相続分の承継には統一的に強い対抗力を認め、それを超える「私定」部分については、相続分の指定であれ、「相続させる」遺言による特定財産の承継であれ、また、債務の負担者・負担割合の指定であれ、登記等
( 債務の負担者・負担割合については債権者の承認 ) を具えなければ第三者には対抗できないとして、遺産全体に対する承継と対抗の構造を明示しました。そして、これまで「法定」を超えて「相続させる」部分に、取引安全を害するとの批判をよそに、判例が裸の不動産にも(無登記の不動産にも) 認めてきた対抗力を、法改正によってこれを奪い、その見返りとして、同部分での公示による対抗力の確保を支援するため、遺言執行者の権限強化等による備えの確立を図ったものと言えましょう。






相続の 基本パターン創作パターン : 相続 と 遺言 
 
ご覧頂いた相続と遺贈の違いを踏まえ、相続編の冒頭で押さえておかなければならない点があります。つまり、相続と対置すべきは、遺贈ではなく、むしろ遺言であるということです。
 私は、この相続編の冒頭を当然の如く「相続人と相続分」として、書き出した訳ですが、相続を、ご覧頂いたように「財産の包括承継」と捉えるなら、それは遺言によっても果たすことができるし、私有財産制の下、財産処分の自由という点からすれば、むしろ、遺言がその主役ということになります。遺言は、相続における自由な財産処分であり、それが財産承継の基本であると言うべきです。
(なお、以下では、単なる「財産承継」の意味でも「相続」と言うことがあります。「広義の相続」とします。)
 相続と遺贈と言うとき、その対置は、債務の承継を伴う狭義の相続の枠の中での処分か否かという対置ですが、「
相続と遺言」と言うときは、クオレ(法定相続分)による相続という相続の基本形(ベースパターン)と、遺言による主体的で自由な、承継の自由形(創作パターン)という意味での対置になります。


完結遺言と部分・未完遺言

 
そうとすれば、この遺言による財産承継の自由形が、遺産全部について、漏れなく、相続人や受遺者の最終取得に至るよう、きっちり表出されていれば、これにより被相続人の最終意思は全て確定的に表示されている訳ですから、相続は全て完結します。遺産の全てについて記載された完結遺言であれば、承継を「誰にどれだけ」と具体化するための「相続人と相続分」や、或いはまた、配分を公平に調整するための「特別受益」や「寄与分」、更にはまた、「相続分」を踏まえて具体的に分ける「遺産分割」も、全ては全く論ずる必要も余地もない事柄ということになります。ただ、遺言が遺産全部に及ばず、また、最終的な取得者が定まらないままの財産が残る部分・未完遺言である場合には、その漏れた部分の相続については、遺言がない場合と同様に、これらの基本的な遺産分けの要件を一つ一つクリアしなければりません。また、遺言による承継の自由が過ぎて、相続人間の不公平が見過ごせない程になれば、相続の基本形の中に強制部分として蔵された「遺留分」によるチェックが、生前贈与や特別受益も動員しての算定の上、「遺留分減殺」 ( 法改正後は「遺留分侵害額請求」 ) として行われることになります。ですから、「相続の効力」( 第三章)の域に踏み込むことなく、「遺言」( 第七章)で完結でき、かつ遺族に「遺留分」(第八章)で面倒を掛けないためには、完結遺言であり、かつ、遺留分侵害のないことこそが重要となります。遺言は、自らの自由な最終意思で書き遺せるが、その自由が妻子らの面倒に繋がることのないよう、「遺留分を侵さない、完結遺言こそ極致」です。それが、遺言の内容と共に遺言者の人柄を偲ばせることともなると思います。こちらもご覧下さい。


相続で「ことが起こる」のは、いわゆる二次相続の場合が多いと言われます。両親のうち父親が先に亡くなると、父親が「母さんに全部を遺す」旨遺言し、その遺言通りに執行されたり、そう生前口外していたことから相続人の協議で同内容の「遺産分割協議書」が整ったりで、そのときは平穏に推移したけれども、父親の全遺産を継いだその母親が亡くなったときにこそ、本当の相続問題が起こるという訳です。二次相続については、こちらをご覧下さい。

   
くなり(世間では、相続放棄等で母に全財産が行くことが多い)
     
882かれ死亡 によって相続’開始
 

   瀬
883三途ったった (時の) 住所 相続開始


胎児の相続権
 相続は、契約のように意思表示を発する人と受ける人双方の意思表示によるものでも、寄付のように人の単独の意思表示によるものでもなく、人の死という事象に伴う財産の承継
(行われる場所は亡くなった人の住所地です)ですが、これを受けるか否かは法律で定められた受ける人の側の意思表示にかかるというものです (但し、法定単純承認と言って、相続放棄も限定承認もすることなく、熟慮期間の3か月を経過すると民法921条により単純承認したものとみなされます)
 そして、その法律で定められた相続人、法定相続人の資格には二つの枠しかありません。一つは、常に相続人である配偶者
(民法890条)の枠 ( 「常時枠」と言います )、もう一つは、相続人となる順位が、第一順位から第三順位まで定められた順次相続人の枠 ( 「順次枠」と言います) で、第一順位は「子」、第二順位は「親(親等の近い直系尊属)」、第三順位は「兄弟姉妹」です(民法887条889条 )。「常時枠」と「順次枠」の間には補完関係があり、互いに、他方がないときは、遺産をその一枠で独占します。第一順位の子には、嫡出であるか否かを問わず実子が先ず挙げられますが、養子も、普通養子か特別養子かを問わずこれに含まれます。但し、非嫡出子は認知を待っての相続権ということになりますし、また、税法上は、基礎控除と2割加算の関係で、これら各種「子」の間に課税上の差異が設けられてもいます。→相続税算定のあらまし
 
は、出生によって私権を享有しますが、相続については、特別に胎児の段階から相続権を取得します (民法886条)。但し、生まれた後に権利行使できることになるとされています。また、胎児に認められるこの扱いは、遺贈についても同様とされ、886条を準用する形で胎児の受遺権が認められています (民法965条)。子の相続権を認める民法887条、そして、胎児の相続資格を認める民法886条、同受遺資格を認める965条の各条句をご覧頂きます。

    

やっぱなあ887 第一(順位) 相続人
  

    宿
りなば886しく、胎児 には

     相続権
886なし死産がそれを886


 胎児にも886ことない権利

      
 受遺者 (相続)開始時胎内だとて

    
()産後(むご) 965 受遺する死産886



代 襲

 第一順位の相続人である子については、被相続人がなくなった相続開始時に既に子が亡くなっていたという場合、その子、つまり被相続人の孫が居れば、その孫が子の代わりに相続人となります
(民法887条2項)。これを代襲相続と言います。この直系卑属の代襲については、例えば今の例の孫も既に亡くなっていたときは、その子、つまり被相続人にとってのひ孫が生存していれば、その者が相続人となります。直系卑属の相続については、このように代襲 (直系代襲) が、再代襲、再々代襲と、子孫が生存している限り続くことができます(民法887条3項)相続の順位者が、欠格或いは廃除によって相続権を失った場合も、死亡と同様に次代の者による代襲が認められます。こちらをご覧下さい。なお、通常は、相続人である子の証明として戸籍が用いられる訳ですが、子の出生について疑問があるときは、親族編の「実子」の問題が付随することとなります。この関係の条句も参考に掲載いたします。「全相続人探索」の労苦の一環をなすことになります。相続開始後に認知された相続人についての相続 (遺産分割) に関しては民法910条が置かれています。


    資産家パパ亡887くなって、それを

     
(既に)よう887いが、それを

      
がいるから、その資産
(遺産)

         
ヤワ887Ⅱ でも、

               
代襲
させて看てやろね




    直系襲は、代々襲野蛮887にはあらず。

      〔 
(野蛮な簒奪が)あれば、罰来い891欠格じゃ



     (妻を)寝取られしコキ 結果婚中懐772(の)
      「この
なし774(言っ)から(のみ)
                嫡出 否認 (の訴え)ができる也



養子の相続権
 前に、この見出しで、節税目的での養子縁組が無効ではないとする事例判例について述べていますから、重複になりますが、本来の場所はここですので、少し感じを変えて述べてみたいと思います。両方を合わせてお読みください。養子は、
養子はまる子809届けの日から養親さんの嫡出子とある様に、養子も当然第一順位の相続人となりますが、相続税法上は被相続人に実子がいない場合二人まで、実子がいる場合は一人だけが法定相続人として、基礎控除計算上の子の人数に数えられ、それを超える人数は計算上カットされます (但し、子を代襲して相続人となる孫については、実子扱いとなります )。ですので、養子とした以上、その子たちには相続権があり、子全体の法定相続分である二分の一を、(養子を含めた) 子の人数で割った相続分がありますし、遺言で更に多く相続させることもできますが、基礎控除 (控除枠が大幅に縮小されたので、メリットも減じられていることは前述した通りです) は、認められた人数を超える分は認められず、超えた分については課税されることになりますので、節税効果はこの限度にとどまることになります。例えば、実子が一人の被相続人が養子を二人とっていたという場合、基礎控除額は (配偶者がいることとすると) 、3000万円+600万円×3 (配偶者1+実子1+養子1 )=4800万円となります。この例で、実子が亡くなり、その子(被相続人の孫)もいない場合でも、同じ結果となりますが、その場合、かける人数は、配偶者1+養子2=3となる訳です。
 ところで、養子は、養親の実子との婚姻が可能
(734Ⅰ但書)で、いわゆる婿養子がその例ですが(「嫁養子」もあって良い訳です)、その場合、その実子たる妻が死亡したときは、夫としての相続分が当然認められますが、それ以外に、被相続人の兄弟(姉妹)としての相続分は認められないとされています(昭和23年8月9日民事甲2371民事局長回答)。養子が重複相続を認められる例については、こちらをご覧頂きたいですが、ここにはその条句だけ再掲いたします。
  

  直()()(親等)()()禁婚間
   婚姻なんぞしたならば名指
734非難なるも、

     
養方姉妹(あねいもと)兄弟(あにおとと)なら他家なみよ
734
               婚姻
ありてもしゅうない

    しゅうない婿りの(のち) さんがった婿さん()
    継
は、連合()
890(るが)、兄弟(分は)やばく889


    息子逝き、(その息子の子)不憫うなら、
     
養子ようして887
    (財産を)息子わりの代襲と、養子自身と、
          合
わせがせよ、爺心()
       「して」は、7の伊語「セッテ」、西語「シエテ」から




兄弟姉妹の相続権
 子の次、つまり
第二順位の相続人は、親で、その次、第三順位の相続人は兄弟姉妹です(民法889条)。百歳を超える人も珍しくない超高齢社会となって、人が亡くなった場合、その親に加え、さらにその親もと、複数の代の親が健在ということが希ではありませんが、その様なときは、亡くなった人に親等が近い順で相続権が認められます。父母が二人健在であれば、二人の間は等分となります(900条4号)。「親」たる相続人が全て亡くなっていた場合は、亡くなった人の兄弟姉妹が相続人となりますが、ここでも、亡くなっている人があれば、その代襲がある(傍系代襲)ものの、兄弟姉妹については、その子までの代、つまり甥姪限りで相続権はストップとなります(民法889条2項887条2項)。つまり、甥姪の子である又甥、又姪を含むそれ以下の子孫は、代襲相続権を認められません。傍系についても直系同様に子孫がいる限り代襲を及ぼすと、兄弟姉妹が多数である場合などには、子孫の探索やらその後の協議やらで収拾が付かなくなることを避けるためには、このように制限せざるを得ないのだと思います。代襲によって継がれるのは、直系代襲では子の相続分、傍系代襲では兄弟姉妹の相続分で、代襲者が数人いればその数人の間で等分ということになります(901条)。ここで、直・傍両代襲のまとめの条句をご覧頂きます。そして、後で述べるように、遺言がないときに相続できる割合(法定相続分) は、子と配偶者は同じ相続分ですが、子以外の相続人 (親、兄弟姉妹) は、子よりも、親、兄弟姉妹の順で少なくなります。


(夫婦間に) (第一順位) がない

 連合ったら(しゅうとめ)(しゅうと)〔その(系)(属)(第二順位)
    
 次(つぎ) 小姑(こじゅうと)連合いの兄弟 姉妹 (第三順位)が現れて
        
  ‘遺産をば
889よこせ ややこ889しい



ヤワな887でもでも
   
高齢 901祖父母(そう)祖父母(を子に代わって)代襲  又は再代襲
    代々ぐが(系)代襲野蛮887にはあらず

  ようやくに
889 (系)一代限
          
兄弟
(姉妹の相続) 甥姪
    ‘一代限り
という具合
(ぐわい)
901
       
甥姪
のみがやばく
889代襲

直・傍いずれも代襲()数人(すにん)なら細い(こまい)
901等分すべき也



配偶者の相続権 子・親・兄弟は順次に相続に与る順位の付いた相続人たちですが、しかし、配偶者、つまり妻や夫は常に相続人です(民法890条。そして、相続人の資格に二枠あると言いましたが、この前者子・親・兄弟が、3者で一枠をなし、これを順次相続人、配偶者の枠を常時相続人と呼ばせて貰って、順次枠と常時枠の二枠に括るということになります。この二枠には互いに補完関係があるので、分数として補完し合って1/1になるように補い合い、また、互いに他方がないときには、遺産を独占します。つまり、順次枠の相続人がいないときには、配偶者ひとりで全財産を継ぎ、逆に、常時枠の配偶者がいないときには、そのケースでの順次枠の相続人が相続する、という関係に立ちます。ここで、先程「順次相続人たちの相続できる割合が順次に少なくなる」として、「法定相続分の漸減」について触れましたので、相続分の項の前に順不同ではありますが、その条句も先触れでご覧頂きます。つまり、順次枠に対置する常時枠では、相手が、子・親・兄弟である順に、1/2→2/3→3/4と「漸増」するということの条句です。当然のことながら、「配偶者」は、戸籍上の配偶者でなければなりません。次に述べるとおり内縁の妻又は夫には相続権はありません。また、例えば遺言書に「相続させる」相手として、「配偶者(妻又は夫) 」と氏名が記載されていても、相続開始時に既に離婚しておれば、相続人ではありません。その者は、氏名によって特定ができても、既に相続人の身分を有する者ではなく、もし、財産を取得させるとすれば、「遺贈する」と記載されなければならない者であるからです。

 伴侶890  
   遺された ベターハーフ遺産をば

  
ハンコなし
890でも 遺分残分数の残り)

 
クオレ()900
     ニイチ
(1/2)、サンニィ(2/3)、ヨンサン(3/4)


 ところで遺言で、配偶者に対し「相続させる」とせず、
敢えて「遺贈する」とすることも、時にはあり得ます。相続人ではなくなった者に「相続させる」ことはできませんが、相続人に「遺贈する」ことは十分あり得ます。「相続」となれば、次に述べるように「相続分」による割合の制約がありますが、特別に「相続枠」とは別枠で財産を取得させたいときは、敢えて「相続させる」でなく、「遺贈する」として、割合の縛りから自由な取得とする訳です。ところが、第三者に対する遺贈でなく、相続人(配偶者もその内の一人です)に対する遺贈については、相続人間の公平を図るため民法903条1項に、その遺贈対象財産を (未だ遺産に含まれることから)そのまま遺産に含める旨を定め、ほかに、生前の特別受益にあたる贈与(特益受贈)があれば、受贈分を持ち戻させて、これらを合わせて相続財産とみなす旨が定められています。この「みなし遺産」を相続分で分けるという枠組みで臨む旨の定めで、全くの相続枠外での取得を許されません。しかし、その内、特益受贈については、遺言者において、遺言で持戻しをしないよう指示して (「持戻し免除の意思表示」と言います) 、相続の枠外での取得とすることができる旨の規定が同条3項として置かれているのに (遺留分の制約は別にありますが)、遺贈については、そのような規定がなく、同条1項により、(相続人に対する遺贈についてだけ)対象財産は相続財産に呑み込まれたままとされてしまいます。過去の贈与については、遺言による持戻し免除により、相続枠から外すことを許すが、相続開始という同一時点において、遺言による遺贈を、他の相続させる条項とは別に、相続の枠外とすることは許さないという、法による、(相続人間の公平を図るための)遺言の自由に対する歯止めの趣旨と言えます。しかし、配偶者については特別に、この903条第一項を適用しないとする措置がとれれば、遺贈を本来の趣旨である「相続の枠外」扱いとすることができ、相続人らは受遺分を除いた残余を相続財産として分けることになって、遺贈財産は過不足なく受遺配偶者に取得されることとなります。もちろん、上記の生前贈与についても、この「
第一項不適用」により、持戻し免除の意思表示をするまでもなく、持戻しはないことになりますから、当該受贈分は、相続枠外での取得となります。これは、相続人間の公平よりも夫婦間の実質的平等を重んじることを意味することになります(こちらをご覧下さい)。それが、平成30年の相続法改正による配偶者居住権の遺贈と居住用建物の生前贈与です。こちらをご覧下さい。
 ただ、この配偶者への居住の配慮も、その建物等の遺産中に占める割合が大きく、相続による取得分全体が他の相続人の遺留分を侵害する結果となる場合には、遺留分侵害額請求
(新1046条)を受けることになります。(改正法の下)遺留分の基礎財産を算定するためには、遺贈分も含む相続開始時の財産に、配偶者に対するものであるか否かを問わず「贈与した財産の価額を加え(新1043条)(その範囲は、相続人に対する贈与かそうでないか、遡る期間、遺留分を侵すことについての認識の有無等で異なりますが(新1044条))、「みなし遺産」とした上で、(「第一項の適用」を前提に)遺留分権利者自身の受けた903条1項による受遺・受贈分を控除する旨を定めています(新1046条)ので、当然、相続枠の中に遺贈や特別受益を取り込んで計算をしていることが分かります。ですから、居住建物については相続分の縛りから離脱できても、遺留分の縛りがあることを注意しなければなりません。子との相続であれば、子の遺留分は1/2×1/2 =1/4ですから、結局、配偶者は、全体について3/4までの取得が可能ということになります。
 なお、配偶者短期居住権については、こちらをご覧下さい。


人生百年時代と配偶者居住建物
 つまり、配偶者は、夫婦別産制の下、婚姻中は財産のいずれかへの偏在があっても、片方が亡くなる
(形での)婚姻終了時は、財産承継について居住建物を含む取得の形とすれば、財産上のバランスの復元によって、(相続分の縛りは建物以外の取得財産にのみかかり、居住建物にはかからないことから)、取得分全体について、通常の相続分を超えても、遺留分の限界まで取得が可能となり、税法上配偶者には1億6千万円という高い控除が認められていることと符合することになります(離婚の際も財産分与によりバランスの復元が図られ、税法上の一定の配慮が受けられます)。ただ、ここで注意すべきは、配偶者居住権による居住の保護は、「居住」の限りであって、それを超える利用・処分はできないことです。ですから、もし、人生百年の時代となり配偶者と死別して後の人生を、復元した婚姻財産を有効に活用して生きていかなければならないとすると、建物所有権を生前贈与によって取得しておいて、必要となった時にはそれを処分して得た売得金で、老人ホーム等への入所を賄う形にする方が賢明かも知れません。それには建物贈与時に建物価格(から2000万円の控除を受けた残額)について贈与税を払わなければなりませんし、そのためには生前、その建物贈与の準備と並行して、予め不申告・非課税の年110万円までの現金贈与をする等して準備しておく必要もあることになります。また、仮にホームへの入所なく終生自宅で過ごす場合でも、もし、子か孫が同居して、その自宅も継いでくれるということになっていれば、相続の際には小規模宅地等の特例制度により、自宅の評価額を大幅に減額して貰えますから、相続税の面では遺族が助かると思います。二次相続について、こちらもご覧下さい。


配偶者居住権に関する平成30年7月民法改正

 平成30年7月民法が改正され、連合いに先立たれて遺された配偶者が、相続によって住まいに困ることのないように、居住用財産については、相続の枠外となる遺贈の方法が考えられ、配偶者居住権(新1028条~1036条) が創設されました。但し、改正法のこの規定が施行されるのは、2020年(令和2年)4月1日からとなりました。一次相続が、遺る配偶者に全遺産を継がせる形で円満に納まれば、必要のないことでしょうが、一次相続時に他の相続人にも配分の必要があるのに、建物を売却する以外その相続分を分ける方法がないとき等に、配偶者居住権によって配偶者の住まいを確保した上、他の相続人には、売却によるか否かはともかく、建物の残価額をもって取得させようとする方法です〔その具体例は後記のとおりです〕配偶者の終身・無償の居住が可能となり、また、建物の所有者となった者には配偶者居住権の登記を備えさせる義務が課されます。折角の義務規定ですから、配偶者としては登記を早期に済ませて置くべきです。登記によって第三者に対抗できるものとなり、相続債務の債権者による差押え等があっても利用権を主張することができます ( 配偶者居住権の取得以前から登記を伴う抵当権が設定されていた場合は、抵当権の実行により居住権は覆されるため、そのような場合は配偶者居住権の利用は期待できません )。他方、配偶者は、従前の用法に従い、その建物を善良な管理者の注意を払って使用・収益しなければならず、また、承諾ないまま、他人に使用させ、或いは増・改築をする等してはならず、他人への権利譲渡も禁じられます ( 但し、その建物を居住用のほかに、所有者の承諾の下、従前と同様であれば、第三者に利用させ、収益を得ることもできます )。配偶者にこれらの義務に対する違反がある場合、所有者は、居住権を消滅させる意思表示をすることができます。配偶者亡き後は、居住権が消滅して取得者が、利用を含め全面的に所有するところとなります。
 遺言の中で、配偶者居住権を「遺贈する」旨記載すると、この改正法により、「
婚姻期間が二十年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第一項 (遺贈対象財産の「相続」財産扱い、贈与の持戻し:小生 注) の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する (903条 新4項 ) とされ、また、この推定規定が、配偶者居住権にも準用される (新1028条3項) こととなりました (この推定規定の本来の対象は、「居住権」ではなく、その居住建物或いはその敷地の所有権そのものです。その取得について、相続の枠外の扱いとすることを許す旨の規定ということになります)。配偶者居住権の遺贈についても第一項を適用せず遺贈の本来の趣旨どおり相続枠外の扱いとすれば、配偶者は取得した居住権を相続財産とは別枠で受けたことになって、配偶者としての相続分を減らされずに済みますから、随分助かることになります。「推定」ですので、反証を挙げて覆すことも可能ですが、それはレアなケースであろうと思われます。また、勿論この遺言の方法によらず、生前にする、居住権ではない丸々の所有権の贈与(上記引用にかかる903条新4項の場合です)によって配偶者の住まいを確保することもできる訳で、その場合も、同様に持戻し免除の推定が働くこととなります(903条 新4項 )。但し、その場合は、贈与税が非課税・不申告で済む110万円までの枠とか居住用不動産の配偶者控除 ( 2000万円まで ) 等があるとしても、それらの枠を超えれば贈与税の問題が伴うことになります(死亡前3年以内の生前の贈与であれば、あとで控除されることになりますが。→相続税算定のあらまし)。ここまで、遺贈による配偶者居住権の取得、配偶者のための居住用不動産の生前贈与について述べましたが、亡くなった連合いによる配偶者のための手当がなかった場合でも、相続人間で遺産分割をするに当たって、遺された配偶者にこの配偶者居住権を分割することもできますし(新1028条1号)、家裁での遺産分割に際しても、相続人間でその旨の合意があるとき(新1029条1号)、或いは、配偶者が望み、家裁が特に必要であると認めるときは、配偶者居住権を取得させる審判をして貰えることになっています (新1029条2号)。配偶者居住権について、「相続と遺贈」の観点から、こちらもご覧下さい。

〔その具体例は後記のとおりです〕


 なお、上記新1028条の条文を参考までに示すと、次のとおりです。

 1028条 
被相続人の配偶者(以下この章において単に「配偶者」という。)は、被相続人財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、その居住していた建物(以下この節において「居住建物」という。)の全部について無償で使用及び収益をする権利(以下この章において「配偶者居住権」という。)を取得する。ただし、被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合にあっては、この限りでない。
 一 遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき。
 二 配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき。

2 居住建物が配偶者の財産に属することとなった場合であっても、他の者がその共有持分を有するときは、配偶者居住権は、消滅しない。
3 第九百三条第四項の規定は、配偶者居住権の遺贈について準用する。

 
そして、上記第903条4項の規定とは、相続人中に被相続人から生前特別受益を受けた者がいる場合に、その受益分の持戻しをして、相続人間の相続分を調整するための算法を定めたこれまでの903条に、新しく挿入された項ですが、参考に、その同条第四項と、同項が適用しないとする第一項とを示します。要するに、遺贈の目的とされ、又は生前贈与された建物は、特別受益とみなさずに、そのまま配偶者に確保させ、亡くなった時に存する財産(但し、遺贈の対象たる建物は、相続財産から外して)を相続財産として分けることになります。

 903条(特別受益者の相続分)
4 
婚姻期間が二十年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第一項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。

1
 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前三条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。

この903条1項の意味内容については、特別受益に関するこちらもご覧下さい。



配偶者居住権の具体例〕妻Tと息子Mを遺し、夫Oが亡くなって、遺産はマンション1戸2000万円と預貯金3000万円があるとします。これを、Tがマンションを取得するとして、従来どおり遺産分割すると、Tは遺産合計5000万円の内の配偶者相続分1/2、2500万円
を受けられますが、その内2000万円をマンションの形で得てしまうので、預貯金から500万円を取得できるだけとなり、将来への不安を残すことになります。
① 配偶者居住権を遺贈の形で確保できれば、マンションの配偶者居住権の評価額を1000万円として、これを
(民法903条の新4項により、同条1項を適用しないことから、遺贈を、本来の趣旨どおりに、相続財産の構成財産に組み入れることなく)控除した合計4000万円が相続財産とされ、Tは、これをMと1/2、2000万円ずつ分けることになり、(居住を相続外で確保した上) 預貯金から2000万円を受けることができます。他方Mは、その相続分2000万円を、配偶者居住権の負担の付いたマンション (残評価額1000万円) と預貯金の残り1000万円とで受ける形になりますが、マンションに付いた居住権の負担は、母の没後は消滅します。この例で、子が二人であったと仮定すると、母親Tの取得はそのままで、子二人が上記Mの取得分を1/2ずつ分けることになりますから、子の一人がマンションを取得し、他の一人が預貯金残り1000万円を取得することとしても良いし、場合によっては、マンションを二人の共有として、預貯金を500万円ずつ分けても良い訳です。
② TがOから、遺贈でなく、生前にマンション
(の所有権)贈与によって受けていた場合も、この贈与を (民法903条の新4項により、同条1項を適用せず、持戻しをしないことから) 相続財産から外して、預貯金3000万円だけをTとMが等分しますから、Tは1500万円を得ることができます。この例で、子が二人であったと仮定すると、子は預貯金から各750万円を取得することになります。TがOから、生前贈与でなく、死因贈与を受ける場合も、死因贈与は遺贈と同じ扱いとなりますが、計算上はこちら(②)と同じ結果となります。
 このようにして、改正法の下、民法903条第一項の不適用により、居住権の遺贈によっても、建物の生前贈与によっても、Tはその後の生計に見通しが持てることになります。
③ ちなみに、遺留分はどうか見てみると、遺留分計算においては、遺贈も贈与も相続の枠外とすることはできませんから、どれも遺留分算定基礎財産に組み込まれ
(贈与は、強制持戻しされ)上記いずれの場合も算定基礎財産が5000万円となります。子の遺留分割合は子が一人であれば1/4、二人であれば1/8ですから、子一人の遺留分は、1/4なら1250万円、1/8なら625万円ですので、いずれの場合も、Tは、未だ子の遺留分を侵害しているとは言えません。




  配偶者

    ふいと
身罷(みまか)はぐれ890ても、

     
相続人相続権

  
()同順位()にいなければ、単独




  配偶者、連合った‘相続 ドラマ’890共演

             さなくば
主演一人舞台



 遺産をば、兄弟、継ぐときは、その順次相続人
      妻の、ぐ役は(順次相続人と)んで、常時相続人
   順次・常時の二枠は (互いに) 埋め合う故に
       他 がなくばその一枠で相続演ず。

   

 やっぱなあ887 第一(順位) 相続人

      兄弟(姉妹) ようやく889 から 順次相続人

   890 (順次人と)んで常時相続人


 配偶者居住権

   
先立たれ、独り住まうも、終身の

        無償の住まいを約されて、

        心やすらか
永久(とわ)にハッピー1028




配偶者短期居住権に関する平成30年7月民法改正
 前述の配偶者居住権は、連合いに先立たれた配偶者がそれまで連合いと住んでいた建物につき、遺産分割或いは遺言によりその建物の権利関係が確定するに際して、配偶者の同建物での終身居住のために確保される権利ですが、こちらは、相続による建物の権利関係が確定するまでの一定期間、配偶者に暫定的な居住を保障しようとする権利で、新1037条(から1041条まで)の規定となります。先立つ連合いは、自身の死後の配偶者の住生活について、その程度の暫定的な建物利用は当然念頭に置いてこれを前提とするであろうし、これは、一般通念上、婚姻による同居・協力・扶助義務(民法752条)の延長上にあるものとして認めることができるので、この配偶者短期居住権は婚姻の余後効と位置付けることができます。実は、被相続人と暮らしていた相続人らの遺産分割時までの居住については、「共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきたときは、特段の事情のない限り、被相続人と右の相続人との間において、右建物について、相続開始時を始期とし、遺産分割時を終期とする使用貸借契約が成立していたものと推認される。」と判示した判例(最判平8・12・17)があり、新設にかかるとは言え、この配偶者短期居住権は、二十年以上前の判例を明文化したものとも言うことができます(今立法は配偶者についてのものですから、それ以外の相続人については、判例が生きていることになります)。それに引き替え配偶者居住権の方は、後述のように、民法903条1項による遺贈・贈与の相続財産への引直しを、居住資産について廃止するという画期的なものであり、婚姻の終了に当たってのものとは言え、夫婦の実質的平等の回復に大いに資する立法であると言えます。
 相続開始時その建物に無償で居住していた配偶者は、その建物について、相続開始と同時にこの短期居住権を取得して、共同相続人間で遺産分割により
建物の権利帰属が決定した日から六か月か、或いは、相続開始から六か月、のいずれか遅い日までの期間、若しくは、それ以外(例えば、遺言によりその建物を他人に遺贈されてしまった場合等)であれば、建物の権利帰属が確定した建物取得者から配偶者短期居住権の消滅の申し入れ ( いつでも消滅の申し入れをすることができます) を受けた日から六か月が経過する日まで、その建物を無償で使用することができます。但し、この短期居住権は、前述の(長期の)配偶者居住権と異なり第三者対抗力に関する規定がありませんので、その建物に対する強制執行や抵当権の実行がある場合、建物利用権を主張することはできません。配偶者は、その建物を、従前の用法に従い、善良な管理者の注意を払って使用しなければならず、また、建物取得者の承諾なくして他人に使用させてはならない義務を負い、建物の取得者は、第三者に対する建物譲渡その他の方法により配偶者の居住建物の使用を妨げてはならない義務を負います。配偶者に義務違反がある場合は、配偶者は短期居住権消滅の意思表示を受けることになります。配偶者が前述の終身の配偶者居住権を取得した場合、こちらの短期居住権は消滅しますが、その場合と、配偶者がその建物につき共有持分を有する場合を除き、短期居住権が消滅する場合は、それに伴い配偶者は建物を取得者に返還しなければなりません。こちらも、これらの規定が施行されるのは、2020年(令和2年)4月1日からとなりました。

 配偶者短期居住権利をば条句にすれば、

     1037 夫亡くして

              しはせん 待っとれナ1037。」

  帰属決まって (から)六月相続開始後六月 いずれかいそのまで

 

内縁者の相続関係 これまで述べてきた「配偶者」は戸籍上の配偶者でなければならず、入籍していないいわゆる内縁関係では相続権者とは認められません。離別による内縁解消の場合に民法の財産分与の規定を類推適用することは、準婚的法律関係の保護に適するものとしてその合理性を承認し得るとしても死別による場合には、相続も財産分与も認めることができないとする旨の判例(最決平12・3・10)があります。平成30年の改正で配偶者に認められた、連合い亡き後の住居での配偶者居住権も内縁であれば認められません。従って、内縁の妻(夫)は、遺言が必要な典型例であると言えます。また、遺言もなくて、そのため故人の療養看護に尽くしたにも拘わらず報いられない様なことのないよう、被相続人に相続人が存在しない場合に限られますが、特別縁故者に対する遺産の全部又は一部の分与の制度(民法958の3条)が設けられています。こちらをご覧下さい。そして、内縁の妻を遺族年金の受給資格である「配偶者」として認めた判例(最判平19・3・8)もあります。内縁の連合いが亡くなった後の家屋の居住権について、最高裁(最判昭42・2・1)は、家屋賃借人の内縁の妻は、賃借人が死亡した場合には、相続人の賃借権を援用して賃貸人に対し当該家屋に居住する権利を主張することができる旨判示していますが、但し、相続人とともに共同賃借人となるものではないとしています。また、死亡した賃借人の養子 (離縁することに決していたがその手続きが未了だった) からの、承継した賃借権に基づく明渡請求については、相続人が当該家屋を使用しなければならない差し迫つた必要が存しないのに、寡婦の側では、子女がまだ、独立して生計を営むにいたらず、右家屋を明け渡すときは家計上相当重大な打撃を受けるおそれがある等の事情があるときは、当該明渡請求を権利の乱用であるとして棄却した原審の判断は、肯認できるとしています(最判昭39・10・13)。相続できないことの埋め合わせとして、後述する生命保険金の場合は、契約上、保険金受取人の固有の財産となるとされ、また、退職金は、その支給規程の定め方によって相続人でない内縁者も受給権が認められていれば、内縁者が受け取る退職金は相続財産ではないとされます(最判昭55・11・27)から、それらを内縁者として受け取れるよう手立てすることも考えられます。しかし、内縁者として確保できるレンジは以上を概観しても、場合により可能というものが殆どで、かなり厳しいことは確かですから、やはり、連合いに遺言しておいて貰うことがベストだと言えます ( 平成30年の相続法改正による「特別寄与料」も、受けられるのは親族に限られるため、内縁者間の終活 (十分な生前贈与等があれば、遺留分による請求がない限り、安心ですが) については、遺言による処遇が残された唯一の途ということになります) 。内縁の婚費分担についてはこちらをご覧下さい。


法定相続分 
 次に民法900条の定める法定相続分についてですが、これは、遺言がないか、或いはあっても、遺言による相続分の指定がない場合( 例えば、主な財産について継がせる人を指定するだけで、残る遺産について触れていないとか ) に、相続人の間で遺産分けをする割合の定めで、相続に関する核心的な定めということになります。それで、私の条句では、この定めを「
クオレ(或いは時に「法定割合」) と呼ぶことにさせて頂きます。イタリア語で、心臓、芯という意味ですから、使用法として間違いではなかろうと思いますので、以下、「クオレ」と度々出てきますが、ご了解ください。そこで、そのクオレですが、先程、先触れでとお断りして「漸減」と申しましたように、一枠目の順次相続人のクオレが、第一順位から、順に、子:1/2、親:1/3、兄弟姉妹:1/4となります。これに伴い、対置する二枠目の配偶者が、前述の補完関係によって、同時に相続人となる一枠目の者に応じて、漸増し、第一順位の子と共に相続人となるときが1/2、親のときが2/3、兄弟姉妹のときが3/4となります。ということで、上記の最後の条句で「分残」としたのは、一枠での分数の残りが配偶者相続分であるという意味ですので、ご了解ください。
 ちょっと脇道にそれますが、このクオレは相続では正に肝となるものですから、例えば、相続税の算定におきましても、遺産の総額から基礎控除をした残額が課税されるとしても、残額そのものが相続税の速算表にかけられるのではなく、基礎控除後の残額をクオレ、法定割合によって各相続人に分けたと仮定して、その結果の各人の仮の取得額を速算表にかけて、その結果の各人の税額を合計して、そのケースにおける相続税の総額とします。ということで、ここにもクオレの相続における重要度が窺われる訳です。
 さて、平成30年7月に相続法が改正されたため、このクオレの重要度は、従前とは比べようもない位増大しました。つまり、これまでは、「相続させる」と遺言で指定された相続人は、その指定された財産を全て取得して、これを
( 不動産であれば ) 登記を要せずして他に対抗できたのですが、改正法によって、クオレ ( 法定相続分 ) を超える部分については、登記なくしては他に対抗できないこととなりました ( 新899条の2第1項 )。ですから、遺言で財産を取得できた相続人も、それで安心して放置してしまうと、別の相続人を通じ先に登記した第三者にその財産を奪われかねないことになります。相続したら即登記ということが、焦眉の急ということになります。



    
相続クオレ900(心臓・心・芯(伊語)〔日本語で言えば(きも)〕)だ、法定相続分

これを900伴侶配偶者れば、

 子供(と分ける割合) (直系)尊属(と分ける割合) 兄弟(姉妹)ける割合、それぞれで、

         と    3         () けて、けたから(配偶者の取り分は)

   (2分の1)   (3分の2)    (4分の3)

 れを900   直系)尊属  兄弟(姉妹)それぞれの、その割合てみれば、

       ニイチ・サンイチ・ヨンのイチ

      1/2 1/3 1/4分数の残りを伴侶(配偶者)が取得する)

   

 くじ 大当たりした 父親 感極まって 突然死。

 母親「 るの900 遺言なしにこの900

                 このまま900っていのやら。」

 息子 900れに、法定 クオレ(法定相続分) 900によれば

               この 900 親子、等分」貰うべし。


 
(尊属)兄弟姉妹 それぞれが、数人いれば、しくけて、

(亡くなった兄弟姉妹と)父母片方 兄弟(姉妹)父母双方 らの半分とする


以上、「相続人と相続分」のまとめとしては、次のような条句となります。 

  継ぐクオレ900
    
子と親兄弟継ぐときは順次 分一(ぶんいち) 相続人
         
ニイチ(1/2)サンイチ(1/3)ヨンのイチ(1/4)
      妻や夫は継ぐときは、常時 分残(ぶんざん) 相続人
         
ニイチ(1/2)サンニイ(2/3)ヨンのサン(3/4)
   順次常時二枠は埋め合う故に
         合わせれば、ちょうどイチ也、コンマ ゼロ
900



指定相続分
 次に、遺言による遺産の継がせ方として、相続人ごとに継がせる割合を定める方法によるときに、その割合のことを「指定相続分」と言いますが ( 「私定」相続分とするのが、法定相続分と対置する意味でも相応しいと思いますので、今後条句等でも「私定」で登場することがあります ) 、これは、民法902条の見出しが「指定」となっていることによるもので、同条本文は「定め・・ることができる」とあるだけです。民法は、第三章第二節相続分の中の900条に法定相続分 (クオレ) の規定を置いた後の902条で、クオレに縛られることなく遺言で相続分を定めることができる旨を規定して、私有財産制の下遺産に関する個人の自己決定権を尊重する態度を示す訳ですが、この流れで言えば、正に「私定相続分」を許す規定と言えます (但し、遺留分による制約があります)。 そして、この指定方法ですが、従来、遺言でダイレクトに「誰それの相続分は何割とする」と定める方法だけでなく、遺言の中で、特定相続人に対し相続させる特定物を指定する形によっても、相続分は指定することができるとされています。この場合の私定相続分ですが、取得させる特定物が割合的にクオレの割合の範囲内であれば、クオレで分け、超えておれば、超えた割合をその者の指定相続分とし、その他の相続人についてはその残りをクオレで分けることになります。
 さて、
平成30年7月に相続法が改正され、902条に先立つ889条の2として「相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び九百一条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。」との規定を新設したため、上記「私定」の意義が再確認されるべきこととなります。つまり、「法定」相続分であるクオレに対し、902条でこれを超える割合を指定することは、遺言者の相続人に対する正に「私定」の行為であり、これには従来「相続」に伴うものとされていた登記なくして第三者に対抗できる効力 (最判平14・6・10) は生じないこととなったのです。この強い対抗力は、「法定」に伴うものであって、「私定」相続分には認めない、と改正法は宣言したことになります。こちらもご覧下さい。ですから、財産処分の自由を遺言における「私定」相続分よって活かすには、その上で、その「私定」を対抗力を伴うものとする手当てを忘れてはならず、従って、遺言には必ず遺言執行者を指定して、登記その他の公示を具える方途も記載しなければなりません。改正法は、遺言執行者の地位・権限を強化し、この点での手当てが従前より遙かに行き届きましたので、登記手続き等の必要には、遺言に執行者を特定して指定すれば足りると言える程になりましたから。

  法定クオレ900

  (=法定相続分、伊語で「心」「芯」)なる相続分指定相続分(を)
        私定するなら口舌902によらず遺言 すべし

   
遺言者 或いは(指定受託第三者
          (相続分)私定にあたり要注意遺留分にはまじ902


    遺言(相続人の内)これに902 相続分を)一割
        
あれには
特定物二物割合ときには特定
                            
がせる


   相続分
    
指定
このナイフ
902
        他
委ねるなるが
(受けるべき相続分等を)
     定
められざる
(は)(残りの相続分を)
          クオレ
900(法定相続分)れば、 るに902ばぬ




相続と遺贈
 
 民法は、その第三章「相続の効力」の第三節「遺産の分割」906条以降に、これら定められた相続分による遺産分割のための具体的な規定を置き、その後の相続の承認・放棄、財産分離、相続人不存在等の章を経て、960条からの第七章「遺言」の第一節総則での964条に遺贈の規定を置きます。
 遺贈は、ですので、相続分による遺産分割とは別メニューの、「相続」によらない遺産の処分で、つまり、相続人以外の人に財産を譲渡したり、相続人であっても特別に相続の枠の外で財産を与えたいときに、遺言によってする遺産の継がせ方と言えます。ここで、「相続枠」というのは、前述の「相続とは」の所で述べました様に、マイナス部分
(相続債務)も含めての財産承継であるので、遺贈は、遺言者の意向の解釈として、単純にプラス財産として与える意味でのものということになりますが、但し、同じ所で述べました様に割合によって遺贈をしたとき (「包括遺贈」と言います。ですので、通常の遺贈を「特定遺贈」とも言います) は、法の規定(民法990条)によって、マイナスも含めての意味となり、相続と同じに扱われることになります。このように、民法が「割合」に注目して、それを「相続」と「遺贈」の枠別基準とする訳は、「相続」が、「相続人」と「相続割合」(「相続分」です)によって成り立つからと言えます。こうして、民法は、被相続人に、相続による財産の承継とその枠外での遺贈による財産処分という二つの途を設けていることになります。この相続と遺贈は、この後、その差異が、事柄の性質による見方、扱い方等の関係で、種々影響を及ぼしますので、念頭に置いておく必要があります。なお、実際の遺言の場面で用いられる文言は、必ずしも「相続させる」、「遺贈する」の二種に限らず、他に「取得とする」や「与える」、「ものとする」等々様々ですから、この二枠のどちらに当たるのか解釈を要しますが、文言各種についての解釈に関してこちらをご覧下さい。
 そして平成30年の相続法改正においては、この相続と遺贈の区別を顕著に意識させる新たな制度が設けられました。それが前述の「配偶者居住権
(新1028条)です。被相続人が、自らの死後に遺される配偶者を、権利主張するであろう他の相続人らから守って、配偶者の住居を確保するべく、生前配偶者と共に居住した住居を配偶者のために遺言により遺す方法として、改正法は、同権利を「遺贈する」遺言によって、法定相続分 (或いは、遺言による指定相続分) による割合的拘束から脱せしめる形でそれを実現しようとします。その上で、通常、相続人に対する遺贈であれば、相続人間の公平を期して調整(相続)を算定するため、民法903条1項により、遺贈を相続枠外での扱いとはさせず観念的に遺産内に留めるところを、配偶者居住権については同条4項の新設により同1項の適用を否定して、相続分による縛りから離脱させます。なお、改正法は、(居住権ではなく)居住建物そのものを、遺贈、或いはさらに生前贈与によって遺した場合も含めて、右新4項で、「婚姻期間が二十年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与にいて第一項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定するとし、これを配偶者居住権にも準用しました(新1028条3項)(こちらもご覧下さい)。この推定を他の相続人が覆し得ない以上、遺された配偶者は、居住資産を相続分を離れた遺贈枠で取得し、それとは別枠として、配偶者居住権の場合であればその評価額法務省ホームページ内の「配偶者居住権の価値評価」参照)を控除した残りの遺産について、(子との共同相続の場合)配偶者相続分1/2を丸々受けることができます。その具体例はこちらをご覧下さい。
 なお、「相続」には、上記「相続の枠」と言う場合のものと、単に死亡に伴う財産承継を言うものの広狭二義がありますので、こちらもご覧下さい。そして、広義の相続による承継には後記のとおり法定・協議・遺言の3種があります。ですので、遺言には、狭義の「相続」をさせる定めと、「遺贈」する定めの、二つの遺産分配方法があることになります。

さて、平成30年7月に相続法が改正されたため、この箇所においても、様相が変わることを追記しなければなりません。つまり、上記「相続の枠」については、それにもう一つ枠が加わることになります。それは、改正法が相続による取得財産をクオレ ( 法定相続分 ) という限定枠を設けて、取得による対抗力をその範囲内に限ることとしたためです。これにより、相続による財産取得には、対抗力を伴う一番目の枠であるクオレ ( 法定 )枠と、遺言による相続分の、債務も伴うこととなる二番目の私定 ( 相続分 )枠、そして、これらの枠外で、債務を伴わない三番目の遺贈枠の三途があることになります。二番目・三番目は、それによる財産取得を主張するには登記等の対抗要件を具えることが必要となります。ですので、上記法定相続は、正にこの内のクオレ枠による相続ということとなり、これはその侭第三者に対する対抗力を持つ強力な相続ということになります。しかし、この法定相続は、クオレの侭の相続ですから、その共有持分については対抗力を持つとしても、割合に沿う具体的な現物の取得については、遺産分割を経る必要があり、結果、遺産分割による財産取得となるので、現物については登記なくして他に対抗できないこととなります。→主同承継 ( 権利主体同一承継)・主芯承継・超芯承継

相続(広義)仕組み (相続・遺贈・遺留分・調整分)(まとめ)
 狭義の相続は、法定相続人に対する、定められた相続分
(割合)による、借金等相続債務も含めた包括財産の承継であり、遺言がないまま被相続人が亡くなると、その時点で存在する被相続人の財産 (私なりに「卒時遺産」と言います) が俎上に載せられて、配分を待つ一つの財産枠(「相続枠」)をなします。遺贈は、被相続人が、相続枠の外で、相手方についての限定なしに、遺言によってする、相続分の縛りも受けない特定財産の譲渡処分で、「遺贈する」との遺言に伴って、遺贈される財産が入った「遺贈枠」が登場します。相続枠では、スタンダードな法定パターン(「法定相続」と言います。そのパターンによる相続分が法定相続分です) が用意されており、遺言がない場合は、これによって財産承継が行われます但し、「法定」と言っても絶対的なものではなく、全相続人の同意があれば、必ずしもそのバターンどおりでなくとも承継は行われ得ます。また、相続債務が過大で、相続人としてとても返済できないような場合は、相続開始後3か月以内に相続放棄をすることによって、相続人ではなかったことにすることができます。債務は、相続人に否応なくかかってきますから、借金を負いたくなければ、逃れる途はこの方法しかありません。遺言で、相続人の中の一人に負担を命じたり、相続人間での負担割合を定めたりしても、相続人はそれに縛られますが、債権者には通用しません。つまり、相続債務 は、相続人に法定パターンでかかってくること、これが最も肝腎な点です。ですから、相続枠で遺言による配分を待つのは、卒時に現存する 積極財産ということになります。その時点での財産ですから、過去に生前贈与された財産は既に逸出して、卒時遺産には含まれません。その意味で、相続枠には、本来、別枠の、時を隔てた過去枠が隣接していて、これが後でもの申すことがありますから侮れません。その遺言による積極財産の配分ですが、例えば、遺言に「恩人の〇〇さんに家屋敷を贈ります」とだけ書かれていれば、その家屋敷は、相続枠から逸出して、遺贈枠を形成し、卒時遺産中の残りの財産が、「相続枠」となって法定相続されることになります 。 つまり、遺言により「遺贈する」財産があると、その分が卒時遺産から逸出しますから相続枠は縮小し、代わって遺贈枠が出現する訳です。平成30年の相続法改正によって創設された配偶者居住権も、遺言で、例えば「私の住む居宅は、同居する妻〇〇に、その建物の配偶者居住権を遺贈する」と書けば、同じ扱いで、卒時遺産からその建物の居住権価格分を除いた残りが相続枠の財産となり、これを法定相続することになります。具体例をごらん下さい。法定相続において個々の財産につき最終の取得者が決まるのは、全相続人が加わっての遺産分割協議によって、相続分に応じ、誰がどの財産を取得するかが決められてのこととなります。遺言者には、原則、財産処分の自由がありますから、法定パターンに縛られることなく、どんな相手にどんな割合ででも、財産の行先を定めることができます。相手が相続人であれば、それは「相続させる」ことを意味し、相続人以外であれば「遺贈する」ことになります。相続枠の中味についても、原則、自由ですが、但し相続人は定められており、それ以外の者を相続人とすることはできません。相続人に相続させる相続分は、遺言者が自由に定めることができます。指定相続分と言います。法定相続分は、遺言者による指定がないときのために用意されているパターンです。これは、例えば、相続人が子供らであれば、皆均等とされていますから、病気がちとか、色々手がかかるとか、金銭的には誰がどう、と言った子供ごとの特性とかニーズは反映されようもありません。ですから、法定のパターンは相応しくないケースも多々あるはずです。他にも、前述のような恩人とか、特に目に掛けてやらねばならない人が居るとか、相続人でない人との関係もあるでありましょう。そういうことで、全遺産について色々な人に色々な特定の財産を継がせて、最終取得者を定める遺言があった場合、その取得者らの中に相続人がいれば、そういう形でその相続人の相続分が指定されていることになります。全相続人について、割合で相続分を遺言し、具体的な分け方は相続人同士に委ねたり、それとは別に相続人でない人に遺贈をする、時には上記の配偶者居住権のように相続人に遺贈する等ということも可能です。ただ、相続によって取得した財産を登記等するときは、取得した相続人単独で登記手続き等をすることができますが、遺贈によって取得した場合は、遺贈義務者である遺言執行者(遺言に遺言執行者の指定がないときは、全相続人)と権利者である取得者との双方申請での手続きとなります。また、遺産分割によって相続登記をするときは、法定パターンより増えた者が登記権利者、減った者が義務者となっての双方申請の意味となりますが、遺産分割協議書と全相続人の実印・印鑑証明等が必要となります。以上の様に、自由に遺産の行方を遺言することができる訳ですが、それには限界があります。それが遺留分です。それは、法定の承継者である相続人がないがしろにされて、法定のパターン、法定相続分を外れ、その取得分が見過ごせない程に過小であるとき(遺留分割合を満たさないとき)は、相続人の方から遺言による財産取得者や生前贈与の受贈者に対し「遺留分侵害額請求」をすれば、遺留分を侵害された分だけ金額で補償されるというものです。平成30年の相続法改正により、改正前までの、遺贈や贈与を侵害の限度で失効させる「遺留分減殺請求」から、その様な金銭債権の形に変わりました。遺留分は、通常、法定相続分の半分です。被相続人の親だけが相続人である場合は、三分の一ですが、その他は二分の一となります。通常、妻と子が相続人とすれば、法定相続分は二分の一ずつですから、子の遺留分はその半分の四分の一です。子が複数いた場合は、それを子の数で割って、子が二人なら八分の一、子が三人なら十二分の一です。したがって、遺留分は、「相続枠」の中での相続人にとっての「最後の砦枠」であることになります。但し、そのような遺留分の趣旨から、侵害額の算定には相続枠、過去枠の壁を超えて、卒時遺産(遺贈分が含まれているので遺贈枠は考慮の要なしです)に、相続人に対するものであれ、そうでない者に対するものであれ、生前にされた贈与の分も加えます(遺留分を侵すことを認識していた贈与についてはどこまでも遡って計上されます)。そして、現実に受け取れる額を求めるため、被相続人の債権者らに支払うべき全債務額を控除して、算定の基礎とします。なお、最初に述べた法定パターンによる相続や、遺言の自由から、例えば、遺産の一部についてだけ遺言し、或いは、上記の様に遺言者なりに決めた指定相続分だけが定められている等々のときは、最終の取得者まで辿り着けるよう、必ず遺産分割協議を要することになります。つまり、その結果である遺産分割協議書が最後の決め手になります。その分割協議は、原則、法定での割合 (法定相続分での分割を法定分割と言います)、指定があれば指定された割合に沿って分け方を協議しますが、ただ、それら分割協議の場合、よくある例で、例えば、生前に息子が、或いは娘が、住宅を購入するための資金を少なからず援助したというようなときは、どうすれば良いでしょうか。返済不要で ’あげた‘ のならば生前贈与ですし、貸したのならば債権があることになります。しかし、債権ですと、相続人全員がその債権を相続することになるので、扱いが面倒です。ですから、貸し付けたのならば、遺言でその債務の免除をしてあげると、ことが錯綜せずに済みます。ということで、遺言での債務免除の場合は、遺贈ということになります。このようにして、遺言者から、生前に贈与を受けた相続人、或いは、遺言によって遺贈を受ける相続人がいる場合は、その者たちは相続枠の外で利益を得ている訳ですから、それを特別受益と言いますが、この過去枠の財産を卒時遺産(住宅資金を貸した場合も、卒時遺産に債権の形で加算し、遺贈枠では考慮しません)に取り込んで「みなし遺産」を想定し、その中での各相続人の取得すべき割合を比べ、調整(相続)を算出するという調整分計算をします。そして、前述のとおり卒時遺産から遺贈分を除いた残余、つまり遺贈枠を脇に置いた、相続枠の財産について、遺産の最終取得がその調整分どおりになるように、分割協議を行うことになります。この分割を、私なりに調整分割と言います。ここでも、注意すべきは、協議に参加する全相続人の合意があれば、法定のパターンは勿論、指定の相続割合にも、また最終取得者が決められている遺言であっても、それに縛られることなく自由に配分を決めることができるということです。私が縷々説明しているのは、相続人の中に一人でも不同意の人がいて、全員一致の対処とならないときの処理ルールということになります。そして、上記した全遺産について最終取得者が決められている遺言(完結遺言と呼びます)であれば、遺産分割協議も、上記の調整分計算も不要なことになりますから、加えて、遺留分侵害のおそれもない内容で、遺された者から遺言があって良かった、有難かったと言ってもらえるような内容である場合、それこそが完璧遺言ということになります。遺言は、仮に相続人の多くが遺言内容に反対であっても、内一人が遺言に従うと言えば、その遺言内容が実現されることになる訳です。なお、遺贈が、例えば「〇〇に遺産の〇割(何十パーセント)を遺贈する」という割合の形で遺言されていた場合は、包括遺贈と呼ばれ、以上述べてきた「遺贈」の扱いとは違って、その受遺者、包括受遺者は、「相続人」と同じ扱いとなります。法定の相続人以外の者を相続人とすることはできない旨前述しましたが、そうゆう形で準相続人(?)を指定することができる、とも言えます。ただ、その場合、あくまで受遺者ではある訳ですから、上記した登記手続き等での双方申請の面倒があったり、税法上の2割加算等を受けるということになります。また、以上、狭義の相続、遺贈、或いは遺産分割等、広義の相続によって取得した財産について、その取得を、法定相続分を超えて、第三者に対抗するには、登記等の対抗要件を要することになりました。狭義の相続については、登記を不要とする判例に従い実務もそのように扱われてきましたが、平成30年の相続法改正により、取引の安全の観点からそのように改められました。遺言執行者の地位・登記権限もそれに伴って強化されていますので、これからは「相続登記」が一体のセットであるとみなし、相続したら必ず登記をすると頭に刻む必要があります。さもないと、相続したと思っていた家屋敷が、いつの間にか他の相続人を経て第三者名義の登記となっており、最早手遅れであったということになりかねませんから。なお、上記各相続法改正諸点の内、配偶者居住権関係の施行日は令和2年4月1日ですが、その他は令和元年7月1日となっています。


相続と相続債務
 ここで、再確認しておかなければならないことに、
相続債務の承継があります。ここまで、遺産を分ける割合として法定相続分・指定相続分を見てきましたが、遺言で相続分が指定された場合は相続債務はどうなるのかという問題です。実は、相続債務に関わるのは法定相続分だけで、指定相続分で債務関係を動かすことはできません。ですので、指定された相続分を盾に債権者に対して取立てを拒んだりすることはできません。従って、遺言の対象とする遺産も、相続債務を除いた積極財産のみであるということになります。遺言で相続債務を云々しても、それは相続人間だけでの内々の定めということになり、例えば、全相続人中の一人に全遺産を継がせ、債務もその者が負担するよう遺言で定めても、債権者が他の者に取立てをしたときには、これを拒むことはできません。なので、取立てを受けてこれに応じた相続人については、その者から、その支払った分を、遺言で負担するように定められた者に求償するということになります。前述の様に、法は、マイナス財産、つまり、相続債務も含めた包括的な財産承継(民法896条) を「相続」と呼んで、包括財産の中の相続債務についても、これを法定相続分で負担すべしとしている (民法899条) ので、相続債務を免れる途は、その相続の枠を脱する相続放棄 (民法939条) (或いは、積極財産の限りで返済するという限定承認(民法922条)) しかないということになります。相続債務は、「初めから相続人ではなかったものとみなす」相続放棄(民法939条)によって初めて免れることができます。相続債務は、「相続人」である以上、亡くなって相続が開始すると同時に、前記896条899条により、また、民法920条の相続承認、或いは、921条の法定単純承認の効果により、「無限に」 (§920) (例えば、「一定範囲の限度での責任負担」というのでなく、「限度なく」という意味です)債務責任を負わなければなりません。この理は、民法427条が可分債務が等しい割合で義務を負うとされることと全く関係ありません。この関係で参照判例(最判平21・3 ・24)があります。(なお、債権・債務の承継について民法427条を相続に持ち込むことに関しては、こちらもご覧下さい。)

 

   遺言者或いは(指定)受託の第三者(相続分)
     
指定にあたり要注意遺留分には食い込まじ 902

   やぁ苦労 896債務 包括
      
受遺者
990 相続人承認放棄 悔誤 915なく せい


相続債務の承継に関する平成30年7月民法改正
 
同年7月13日、民法の相続に関する部分が改正され、相続債務の承継関係が明文化されました。改正の骨子は、上記と同様、相続債務は、遺言による相続分の指定がある場合であっても、相続開始と同時に法定相続分に従って各相続人が負担しなければならないことを前提に、債権者は、指定相続分に拘わらず法定相続分に従った権利行使ができること、但し、債権者側から、遺言で指定された相続分に応じた債務の承継を承認する場合にはこの限りでない旨を、902条の後に、902条の2として、加える形で定めるというものです。この改正法が施行されるのは、2019年7月1日からとなりましたが、改正の骨子が上記のとおり現在の実務の追認的なものですから、債務承継の関係では、実際にはさほど大きな影響はないと思われます。条文はつぎのとおりです。「被相続人が相続開始の時において有した債務の債権者は、前条の規定による相続分の指定がされた場合であっても、各共同相続人に対し、第九百条及び第九百一条の規定により算定した相続分に応じてその権利を行使することができる。ただし、その債権者が共同相続人の一人に対してその指定された相続分に応じた債務の承継を承認したときは、この限りでない。

譲渡相続分取戻権  なお、民法905条は、相続人の一人が遺産分割前にその相続分を他に譲渡した場合、他の相続人は、譲渡から1箇月以内であれば、その価額及び費用を償還して、その相続分を譲り受けることができる旨を規定しています。遺産分割に相続人以外の者が関与してくることによる分割の困難化を防ぐためですが、この定めの延長で、相続分譲渡を他の共同相続人に通知することを要するのか、相続債務の債権者との関係はどうなるのか等、種々疑問が生じてくることについて今のところ解がないため、判例が待たれる状況です。

相続分の譲渡に関連しては、

相続財産に農地が含まれている場合、共同相続人間で相続分の譲渡がされたときは、農地法3条1項の許可を要しないとした判例 (最判平13・7 ・10) があります。
 この判例は、共同相続人間で、農地を含む相続財産に関する、相続分の譲渡がされたときは,積極財産と消極財産とを包括した遺産全体に対する譲渡人の割合的な持分が譲受人に移転するとし、農地に係る権利の人為的な移転のうち農地の保全の観点から望ましくないと考えられるものを制限しようとする農地法3条1項の許可制度は、相続がそもそも人為的な移転ではなく、これによる包括的な権利承継は私有財産制の下においては是認せざるを得ないものであることから、遺産分割による農地の権利移転にはその規制を差し控えているのであるから、その前段階の暫定的移転についても、これを不要と解するのが相当であると判示しています 。
なお、民法905条関連の判例としては、もう一つ

共同相続人の一人が遺産中の特定不動産について同人の有する共有持分権を第三者に譲り渡した場合は、民法905条を適用又は類推適用することができない旨判示した判例 (最判昭53・7・13)があります。民法905条は相続財産に対する包括的割合である相続分を譲渡した場合の規定であるから、相続財産を構成する特定不動産の持分権を譲渡した場合には適用又は類推適用することができないという趣旨ですね。

 
      分割前(ふところ)具合 905
          こわご
905処分相続分
      のち
一月(ひとつき) ならば
         他 () ()
           
(その相続分を)ことできる


遺産分割方法の指定
 遺言では、上記のように相続分を指定することができる他に、遺産の分割方法を指定することもできます(民法908条)。つまり、遺産を、まずは換価して価額で配分するよう定める、或いは、相続人の内数名に現物を与え、残りの者にはその者らから代償を支払わせるよう定める、全て現物で分けるよう定めるとか、が考えられます。この908条には、遺言者は、この分割方法の指定を第三者に委ねることもでき、また、分割を5年を超えない間禁ずることもできる、とあります。
 この分割方法の指定については、従来主として、現物・換価・代償等の方法、つまり「分け方」の指定だけを想定し、故に各相続人が実際の現物取得に至るには、更に遺産分割協議が必要であると、ドグマの様に、言われて来ました。しかし、同条のいう「遺産の分割の方法」が、このような「分け方」のみに限定して、特定物を特定の相続人に分割するという「分割方法」により実際の現物取得に至ることを排除しているとは到底読めません。同条は、分割方法の指定を第三者に委託でき、又、遺産分割を期間を限って禁止できることにも目を配ったため、このような定め方をしたものと見るべきです
(ここで第三者に委託する中味が「分け方」のみであると限定した場合、その定めを置くことに何の意味があるのでしょうか) 。確かに、906条から916条のまでの「遺産の分割」の節には、第七章「遺言」の第一節「総則」にある964条「包括遺贈及び特定遺贈」のようなダイレクトに権利取得に結びつく直接規定がありません (そのため、遺言で、ある特定物を「相続させる」としているのに、それは遺贈であると言う説まで出ていました) 。とはいえ、「相続の効力」の第三章、第二節「相続分」中の902条遺言で相続分が指定できる (従来、遺言での特定物の指定の形によっても相続分は指定できると言われてきました) とした後に、続いて、個別財産を想定した、分割による財産の取得が相続開始時に遡るとする規定(909条)と取得する特定財産に瑕疵があった場合の担保責任規定(911条912条)を含む第三節「遺産の分割」 があり、その節中に、この908条遺言による「分割方法の指定」が置かれているのですから、遺言によるダイレクトの権利取得が、「相続の効力」としてあり得ること、そして、遺言による特定物の承継が「相続」としても観念されていることは明白なこと (勿論、「遺贈する」とあれば遺贈による遺産の処分であることは当然ですが) と思われます (遺言によって承継させる途は遺贈による他ないとする説は、遺言による相続を否定するに等しく、遺言を殆ど無意味なものにする説と言うべきです)。ですから、この分割方法の指定も、単に上記の様に「分け方」を指定するだけでなく、具体的諸事情の下に置かれている遺産の各構成財産について、例えば、「不動産甲は相続人Aの取得とし、不動産乙は相続人BCDの共有とし、銀行口座1の預金は相続人Aの取得とし、銀行口座2の預金は解約・換金して相続人BCD間で等分に分けるように」という様にダイレクトに権利取得させることも当然に含まれていると考えられる筈なのです (こうして見てくると、それを含まぬ「分け方」のみの規定など、殆ど無意味に近いと言ったら言い過ぎでしょうか)。この「分割方法の指定」が、遺言によって、特定物を特定相続人に「相続させる」鍵となり、遺言の地平が大きく広がったのは、平成3年4月の香川判決の功績でした。なお、相続と遺贈の関係については、こちらも参照ください。


    このの遺産分けならるや 908
    被相続人
(ゆい)言で現物換価代償
        
(ひと) (かん) 分割方法  指定ができる
         又
これは
908遺言(いごん)他人(ひと)委託もできる
   

    被相続人
えぬ期間をばめて
                 
遺産分割をこれは
908
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法定相続・協議相続・遺言相続
 法定相続分で遺産を継ぐ割合が決まった後は、これで実際に遺産分けをする、つまり「遺産分割」をすることになります。遺言によって相続分が指定された場合も、その指定された割合による遺産分けをしなければなりません。もちろん、いずれの場合も、その定められた割合のまま共有とすることもできますが、その場合は、遺産分けのステップを踏むことなく、そのまま遺産を構成する各財産が共有であることを、登記や銀行口座の形で表すことになります。これを「法定相続」と呼びますが、他方、相続分に沿って遺産分割に入る場合は、実際に相続人全員による誰が何を取得するかについての協議が行われる必要がありますから、こちらを「協議相続」と呼びます。そして、この協議相続においては、その協議の結果が「遺産分割協議書という書面にまとめられていなければ、土地・家屋も銀行預金等の金融資産も、不動産登記或いは銀行預金名義等の形で取得財産とするための手続きには、登記所でも銀行でも応じて貰えません。遺言による相続分の指定の場合と違って、遺言で  特定の財産を特定の相続人に「相続させる」と書いた場合は、死亡によって相続が開始すると直ちにその相続人の取得財産となるとされているので、この遺産分割手続きは不要で、遺言書のみによって不動産登記、口座名義等を相続人名義とする手続きを受益相続人単独ですることができます。それで、この形での相続を「遺言相続」と呼びます。但し、遺言の内容が指定相続分を定めるだけのものであったり、前述の分割方法の指定で、例えば、遺言に「現物で分け、他に売却してはならない」とだけあったりすれば、定められた割合に従って具体的に誰がどの財産を取得するかの協議が必要となりますから、このときは、遺言と協議のハイブリッド相続とでも言うべきでしょうか。遺言が遺産全体に及んでおらず、一部の財産だけについてのものである場合も、同様に残った財産についての遺産分割協議を要することになります。 ※この遺産分割協議によって決まった遺産の配分割合が、定められた相続分どおりでなくとも、全相続人の合意のもとに「遺産分割協議書」となって結実したのであれば、問題ありません。
平成30年7月の相続法改正により、上記「相続させる」遺言に関する記述は変更しなければならなくなりました。この方式の遺言によって取得する財産については、その内クオレ ( 法定相続分 ) を超える部分については、他に対する対抗力がないこととされ、したがって、例えば、同じ被相続人がした他の遺言に基づき先に登記された場合には、如何に最終の遺言による取得であっても、先登記には対抗できません。ですので、取得事実に安閑とせず、即登記を経由することが必須となりますし、その登記については、遺言執行者による執行を必要とすることになります。こちらをご覧下さい。

全相続人の探索
 さて、上記の協議相続の場合が典型的ですが、「相続人全員による」と述べました様に、協議が成立するためには、相続人全員が参加することが必須となります。そして、そのためにはまず誰が相続人であるか特定される必要があり、「 ❶ 被相続人の出生から亡くなるまでの戸籍全部事項証明書(戸籍謄本) 及び除籍全部事項証明書(除籍謄本) と、❷ その特定された相続人全員の、被相続人との続柄の分かる戸籍全部事項証明書(戸籍謄本) 」 が必要となり、また、全員が集って協議が成立した証明として、「遺産分割協議書」に実印で捺印し、実印であることの証明として印鑑登録証明書を添付することも必要となります。この内前段の相続人探索資料❶、❷の収集ステップを私なりに「全相続人の探索」と呼ばせて頂いています。共有の形での相続である法定相続の場合も、相続人が何人いて、共有持分が何分の一になるのかの証明のため、同様にこのステップが必要となります ( こちらは、合意した旨の証明としての分割協議書や実印・印鑑証明等は不要です) 。なお、このステップに関して遺言相続の場合はどうかについて、こちらを、家裁での検認についてこちらを、ご覧下さい。
 不動産の相続登記に必要な書類の内、上記「全相続人探索」書類と相続関係の一覧図(別紙1)について、法務省から、それをまとめたPDFが出ていますので、参考にしてください。この必要書類等をまとめて法務局に提出すれば、無料で、一覧図に認証文を付した写し(別紙2)が貰え(「法定相続情報証明制度」)、これによってその一枚の書類で法定相続に必要な書類の束に代えることができるようになりました。登記だけでなく、金融機関等にもこれで手続きができます(個々に確認が必要です)から、相続手続きの負担が少し軽くなりました。


遺産分割
 人が亡くなり、その相続人が複数いる場合を共同相続と言いますが、その故人の遺産は、遺言がある場合は別として、遺産分割までの間、相続人らの間での共有 (民法898条)となります。その共有における相続人らの持分割合は、前述の法定相続分(民法899条900条 )です。そして、この共有状態にある遺産について、相続人全員による分割協議を行い、財産ごとに取得者を決めていくこととなります。遺産の分割は、相続人全員の合意があれば、それで如何様にも決めることができる訳ですが、合意が得られず裁判所が審判する場合には、遺産を構成する物や権利の種類、性質や、相続人の年齢、職業、心身の状態、暮らしぶり等の一切の事情を考慮して決すべしとの定めを置くのが民法906条です。また、民法907条は、遺産分割は原則いつでも協議によってすることができるとし、分割協議ができないときは裁判所に請求できるとしています。なお、ある財産が遺産に属するか否かについて争いがある場合は、遺産確認の訴えによって既判力をもってその点を確定した後に遺産分割に臨むことになる旨を判示した判例 (最判昭61・3・13) があります。裁判所での手続きに関してはこちらをご覧下さい。
 ここで、前提として押さえておかなければならないことは、遺産分割は、遺産の承継が遺言によって定まらない場合の、その定まらない遺産についての分割であるという点です。遺言が存在し、それによって全遺産について取得者が確定するべく定められていれば、「誰にどれだけ?」という「相続人と相続分」の問題も、「どれだけ」という相続分が定まった後の、その「分」に沿って具体的な遺産分けをする「遺産分割」の問題も生じません。遺産は、遺言の定めに従い、定められた者が相続開始時に即時に取得することになります ( 但し、平成30年の法改正により、取得を
(法定相続分を超えて)第三者に対抗するためには登記等を具えなければならないこととなりました )。ですから、遺言が、存在しない場合と、存在するがその遺言が ( 遺産全部について取得者が定まる完結遺言ではない )部分・未完遺言である場合に、遺産の承継未定部分を確定する作業が必要となり、そのために上記のような各種(第三章)「相続の効力」事項の認定や算定を経なければならなくなるということです。


  遺産継 898 (相続人)数人いれば、

    
故人有した遺産
898、その数人共有となる
                
「オト」は伊語の8「オット」から
  


  遺産分割

   
(物・権利の種類性質)(年齢、職業、心身、暮らし)

       一切事情
考慮してやってくれろ 906めあり




  遺産分割(請求権は)時効なし

  「
(分割は)しないでくれな907()になくば

  
(相続人、時効不問で)いつでも協議でできる




  
遺言(いごん)なく遺産分けるにるな907ら、

   
相続人全員まり、
(各自)希望べまして907

    
にはがせるか、
(遺産)分割協議書 るべし。

  「ノペ」は9の伊語「ノーヴェ」、「して」は7の伊語「セッテ」、西語「シエテ」、から


 
  
相続人分割協議できずるな907

    
家裁 (分割)請求できる




  分割
907遺産どうするか、

    
等々必要あるならば、裁判所


        
期間めて分割ずることができる



遺産分割の対象
 ここで、遺産分割協議の内容について理解しておくべきことを確認します。まず、相続人が複数である場合を共同相続と言いますが、前述しました様に民法898条はそのような場合、相続財産は共有に属すると定めています。よって、遺産分割は、この共有状態となった遺産中の個々の財産について、全相続人の協議の下に、最終的な単独所有者を決めてゆく手続きだということになります。それ故、「遺産分けでは、遺産中の土地・建物や銀行預金等を、相続人の間でどう分けるかについて話し合う」と一般には理解されていることと思いますし、それはそれで正しいのですが、この当然の道理が実際の裁判の現場では、妙なことになっていたので、以下にその経緯も見ておきたいと思います。しかし、その前に、共同相続の上記共有(民法898条)の条句と、前述「相続とは」の所での条句をご覧頂いて確認をして置きたいと思います。



     
遺産継

    男
898 (相続人)数人いれば

         
故人有した遺産
898

             その
数人
共有となる




債権債務
(相続)じて即取得(負担)〔と、これまではされてきました〕
      その
(ほか)は、
(遺産) 分割まで(の共有)やとっとこや898



(但し、不可分債務は各自が即時全額負担。不可分債権は、原則通り、共有後に遺産分割により分けられます。
相続連帯債務は、相続分に応じて分割された額を連帯で負担する旨の判例(最判昭34・6・19)があります。

「おと」は伊語の8「オット」から、「いっと」は仏語の8の「ユィット」から



     相続人(相続開始の時点から)人有した 一切

            
権利義務 やあ苦労
896承継 をして





   相続人
   単純承認
したならば

     急
にお
920るなどプラスばかりか

          
マイナス債務などまでりなくわねばならぬ
                                
苦痛
920覚悟!



遺産分割に関するこれまでの経緯
 遺産分割に関する上記のとおりの一般の理解にもかかわらず、これまでの判例は、この一般の理解のなかなか及ばない理屈で進められてきました。以下にその点を述べ、そして、それに対する私見を披瀝してみたのですが、この度 ( 平成30年7月 ) 相続法が改正され、法が一般の理解に沿う形で改まりました。したがって、以下の記載は割愛されて、相続債権の承継に関する法改正のところから読まれても構いません。

 
この様に、相続債務については、相続人の自由に処分できるものではなく、相続分に応じて取立てされるということ、それ故に相続の承認・放棄の制度があることは、一般的には十分理解されてないと思われます。しかし、これに加えて、裁判実務では相続債権も同じ様に、初めから相続分どおりに分割されてしまうので、遺産分けする対象ではないとされていることは、一般には更に理解されていないと思われます。これは、民法427条が、可分の債権・債務 は、それぞれ等しい割合で権利を有し、義務を負うことになる旨を定めているので、相続に際しても、相続人間で相続分に応じ(民法899条)当然に分割されると解すべきという点に根拠があるとされます。つまり、被相続人が亡くなって相続が開始すると同時に分割されて、相続人に単有で分属されてしまうので、債権の相続はそれで終わると見る訳です。可分債権に関する判例があります。
 さて、そうすると、
銀行預金は、法律的に見ると銀行に対する預金債権で、本来分割できる金銭債権ですから、同じ様に相続開始と同時に相続人間に分割され、遺産分割の対象とはならない、ということになりますし、実は、最近まで判例上もそう説かれていた ( 「共同相続の場合において、一般の可分債権が相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されるという理解を前提としながら、遺産分割手続の当事者の同意を得て預貯金債権を遺産分割の対象とするという運用が実務上広く行われてきている」と次に述べる大法廷判決も認めています) のですが、最高裁大法廷での判例変更(最大判平28・12・19)によって、一般の理解どおりに銀行預金も遺産分割の対象となるとされました。今や銀行預金は、通常、振込・引落し等により、現金同様或いはそれ以上に決済手段として広く用いられていますし、また、銀行実務としても、預金者の預金の相続に際して、相続人に関する情報も分からぬまま適時に相続分どおりに分割し、それも銀行利息等まで計算して相続人ごとに処理することなど到底不可能であろうことも合わせ考えると、この判例変更は正しかったと言えます。ところが、この変更の根拠として述べられていることは、長い判文なのですが、詰まるところ、これらの実情と遺産分割において現金同様に配分割合の調整機能を果たさせたいという狙いを挙げているだけで、従来、民法427条により相続開始と同時に相続分に従って各相続人に分けられてそれぞれの単独所有となるとして、共有を否定してきた理由について、これを覆す法的根拠には言及していないのです。実情がこうである故に427条の適用はなく、従って、現金同様共有されるところとなって、遺産分割を待つことになる、と言っている訳です。結論は大賛成なのですが、ストンと落ちないものが残ります。そこで、今回の法改正に至ることになります。なお、後記 (私見) もご覧下さい。
 ところで
不可分債権も不可分債務も、898条によりいわゆる準共有ということになり、いずれも分割できませんから、相続人各自が不可分債権者或いは不可分債務者となり、従って、当然各自に既に帰属していることとなりますが、そもそも、この共有状態を解消して単有に移すための遺産分割ですから、これらは遺産分割の対象とされる筈です。しかし、不可分債務は、前述の896条920条の下、相続の放棄を定める938によって相続の枠から脱することをしない限りは、当然取立てを受けることになります。このように、相続債務はすべて全相続人に当然にかかってくると解さねばならないので、遺産分割協議書中で、「自分の相続分は零とする」旨を述べたり、相続分皆無証明書を書いた場合でも、必ず債権者から取立てを受けることになりますから、これを免れるためには相続放棄が必須となります。
 
という訳で、もう一度遺産分割の対象たる財産を見直しますと、

分割対象財産
 : 土地・建物や銀行預金・有価証券等の金融資産、現金、宝石・貴金属、書画骨董、家財、そして、著作権・特許権等の知的財産権、ゴルフ会員権、土地・建物関係の債権として借地権借家権 (相続人が権利を承継する場合は、分割協議の結果を知らせるだけで足りますが、相続人でない者が継ぐ場合地主・大家の承諾が必要となります) その他の債権、等々の積極財産

が遺産分割の対象となり、 但し、可分債権は積極財産ですが、427条により対象から除かれ、また、分割債務と不可分債務、つまり
消極財産も上述理由によって除かれるということになります。

要約:以上をまとめると、こうなります。
   遺産分割対象財産: 故人の有した
積極財産は、預貯金も含め遺産分割の対象となります。
   分割対象外の財産:
消極財産である相続債務は遺産分割対象外となります。相続開始と同時に各相続人に相続分に応じて割り振られて取立てを受けることとなります。

但し、②には、(預貯金以外の)可分債権が加わり、これは、相続開始と同時に各相続人に相続分に応じて配分されます。

 
この遺産分割対象財産は、相続財産について言うものですから、相続放棄によって相続人でなくなった人は何らの配分も取立ても受けません。なお、生命保険金は、保険契約上の受取人が契約に従ってその固有財産として保険会社から受け取るもので、原則、遺産に含まれないため、当然遺産分割の対象とはなり得ないとされています(但し、相続税法上は、相続財産とみなされ、一定の非課税枠の控除の後、課税されます)。また、墓・仏壇・仏具等のいわゆる祭祀財産は、民法897条によって、遺言等による指定、指定がない場合は慣習によって承継される、相続財産とは別扱いのものとされています。生命保険金の判例はこちらをご覧下さい。
 葬儀費用は、相続債務にはなりませんが、当然遺産から差引かれ、残りが相続財産となります。ところが、実際に銀行で葬儀費用支払いのため預金の払戻し (「仮払い」という扱いになります)を受けようとしても、預金は上記平成28年12月の最高裁判決により、他の債権と異なって、遺産分割までは全相続人の共有とされ、遺産分割協議の結果で帰属が決まることになりましたので、全相続人からの同意がある旨の書面を提出しないと払い戻して貰えません。その金額も100万円から150万円と銀行により金額の限度が異なるので、不便な状況となっています。そのため法改正によりこの点の不便を解消して、当該相続人単独で一定限度で仮払いを受けられるようにする案が検討されているところです。


(私見) 以上判例・通説に従って見てきますと、上記①と②が綺麗に積極財産と消極財産に分かれず、可分債権だけが添物のように②の分割対象外財産に付いているのは誠に目障りな観があります。そして、不可分債権についての話の進め様を振り返れば、可分債権についても同様に専属単有に移すための遺産分割を考えるべきだし、財産処分の自由を掲げる私有財産制の下なら、なおさら、そうあるべきで、もともと一人の被相続人に属していたものを何故共同相続人間に分散させたままにしなければならないのか、その債権を行使される債務者側にしても、一人一人の相続人に相続分に応じて支払う等不都合極まりないことになります。不可分債権については、持分による共有だから遺産分割対象になるが、可分債権は相続分で単有だから分割対象にはならないとして遺産から排除するかの如き扱いは、遺産相続事件の処理として不適切と言わざるを得ません。
 そもそも、遡って、遺産である可分債権の扱いについて、民法427条に捉われて相続開始と同時に分属するとすることに正当性があるのか、再検討すべきではないでしょうか。同条は、「数人の債権者又は債務者がある場合において、別段の意思表示がないときは、各債権者又は各債務者は、それぞれ等しい割合で権利を有し、又は義務を負う」 としていて、数人に帰属したことを前提にした条文ですが、そもそも、ここは一人に帰属していたものを誰が相続するかという場面ですから、その点で既に適用が疑わしい上、必ずしも 「等しい割合で」 帰属することにはならない相続の場面には違和感があって、適用自体甚だ疑わしいと言うべきです。何故、「一切の権利義務を承継する」
(民法896条) 筈なのに、可分債権だけはその内の相続分しか承継できないのでしょうか、何故、「相続財産は共有とする」 (民法898条) と明文にあるのに、それに反する扱いをするのでしょうか。上記のように甚だ適用が怪しい427条をもってしてはその説明がつかないと思います。そして、債権・債務の内、債務が相続開始と同時に相続人間でクオレ(法定相続分)で当然負担となることについては、上記896条899条により十分説明がつきますし、債務が、承継する債務者側で勝手に(遺産分割対象として)負担状況を変えることはできないことは、民法920条939条等承認・放棄の制度的スキームによって当然視することができます。債権については、民法898条によって相続人の共有となるので、遺産分割により誰に帰属するかを決めるという他の遺産と同じ扱いとすることに何ら問題はない筈です。
 そして、敢えて民法427条を適用するとしても、同条は、その文言から「別段」の扱いを予定してもいるところ、後述する「遺産の管理」でも触れるように、最高裁も遺産である不動産の同居相続人に対しては、 明示された「別段の意思表示」 がないのに、遺産分割までは、「無償で使用させる旨の合意があったものと推認される」とするのですから、遺産たる可分債権についても、「通常、遺産分割までは、それぞれの相続分に応じ共有させる旨の被相続人の意思表示があるもの」 と推認することが十分可能であると思われます。まして、可分債権の典型的なものと思われていた銀行預貯金について、その扱いの実際に即し柔軟に、遺産分割の対象とするに至った訳ですから、銀行預貯金以外の可分債権についても、同じ扱いをしてはならないとする理由もないのではないでしょうか。
 そうすれば、何も可分債権だけを遺産分割対象から外すことなく、可分債権を含む積極財産はすべからく遺産共有の後、遺産分割においてその分割対象となり、又、遺言の対象となるとして、
積極財産と消極財産を遺産分割・遺言の対象になる、ならぬの二つに綺麗に分けたら如何でしょうか。次の条句はこの私見です。




    くなって共有されし積極財()雑多詰まりし遺産898
         
(遺産)分割により中味け、共有分割までやとっとこや898


    
 亡くなって継ぐ人()かぶる消極財() は、苦労896いやなら
          
悔誤(くいご) 915 (造語)なく相続放棄§939(無限負担の)苦痛なし920
   

「いっと」は仏語の8の「ユィット」から


相続債権の承継に関する平成30年7月民法改正
 平成30年7月13日、民法の相続に関する部分が改正され、相続債権の承継関係が明文化されました。この改正法が施行されるのは、2019年7月1日からとなりました。従来、相続開始と共に相続人
(が数人する場合) の共有となる遺産 (共有から、遺産分割又は遺言により、単有となります)の中で、相続債権中の可分債権だけは、相続開始と同時に法定相続分の割合で当然各相続人に帰属し、直ちにその単有となるため、もはや遺産分割の対象とはならず (判例) 、また、遺言の対象財産ともならないとされてきたところ、今回、まずこの前提を覆す法改正がなされたと言えます。
 つまり、新たに加えられた899条の2第1項は、「
相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分(法定相続分)を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。」と定めますが、これは、直前の898条「相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。」、899条「各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。」の次に加えられた訳ですから、遺産を、まず、共同相続人が相続分に応じて共有するが、遺産分割による、よらぬに関わらず、実際に遺産を承継するに当たっては、権利の法定相続分を超える承継には対抗要件を具えることが必要ですよ、ということを順を追って定めたということとなり、そこに可分債権は別扱いと言う例外の言及はありません。遺産全ての共有と、うち全ての権利の承継に関する対抗力の定めですから、債権も可分・不可分を問わず全ての債権の承継についてそう定められたことになります。そして、その上、899条の2第2項では「前項の権利が債権である場合において、次条及び九百一条の規定により算定した相続分を超えて当該債権を承継した共同相続人が当該債権に係る遺言の内容 (遺産の分割により当該債権を承継した場合にあっては、当該債権に係る遺産の分割の内容) を明らかにして債務者にその承継の通知をしたときは、共同相続人の全員が債務者に通知をしたものとみなして、同項の規定を適用する。」となっているのですから、そこにも可分債権除外の余地はなく、又、正に債権が可分・不可分を問わず遺言・遺産分割の対象であることを、括弧書きの前と中とで明言しています。そもそも、従来は、可分債権を「相続分を超えて」承継することはあり得ないことで、相続分に従い当然に分属させられていたのです。全ての債権についての扱いとして、ここに可分債権例外説には止め(とどめ)の一撃となる規定が置かれたことになります。こうして、相続債権は、可分か不可分かを問わず、他の遺産同様に、相続開始と同時に法定相続分に応じた持分での( 全相続人による )共有に属することになります。したがって、相続債権はすべて、遺産分割を待ってはじめて単有となる、遺産分割対象たる遺産であり、また、同様に遺言の対象でもあることとなります。そして、これを前提として、債権を承継した相続人が、法定相続分を超えて債権行使をするときは、自己が承継した相続分を遺産分割協議書または遺言書を示して、債務者に通知すれば、全相続人から通知があったとみなしてその承継に対抗力を与え、取得した債権全部を行使することができることとなりました (新899条の2第2項) 。法定相続分を超えるか否かで扱いが分かれる定め方ではありますが、対抗要件要否の区別を第三者にも明らかな法定相続分でするとしたことによるもので、取引の安全や「私定」相続分の自由規制の枠組としては肯認できると思います。それより何より、これまでの民法427条の誤認識からのドグマを打ち破り、結局、全遺産が共有から単有へと ( 遺言による場合は、直接単有となりますが ) 流れるのであり、そのうち積極財産は遺産分割・遺言の対象となり、消極財産はその対象から外れて当然の負担となると、分かり易く二分できることとなった点は誠にご同慶の至りと言うべきです。したがって、今後、相続債権については、この改正の線に沿って新たな判断が示されることになると思われますが、例えば、預貯金債権に対するスタンスも、大法廷判決のように種々分割困難な事情を挙げるまでもなく、当然に、共有から遺産分割へ、或いは、遺言の対象だ、ということになるのでしょうし、その他、例えば株券等の議決権や共益権の存在を理由に分割困難として、遺産分割対象としていたものも、同様な判断と経過を辿ることになると思われます。

相続預貯金の一部債権行使 ( 遺産分割前の仮払い )
 そこで先程、「葬儀費用」で述べたような相続人の当面のニーズ、具体的には、葬儀費のほか、相続債務や必要生計費、その他遺産の管理等に必要な支払いも想定される訳ですが、これらのニーズに応えるため、相続人は遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の三分の一に各自の相続分を乗じた額については、標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度として、遺産分割前に単独でその権利を行使することができることになりました。そして、この権利行使をした預貯金債権については、当該相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなされることになります ( 新909条の2) 。また、新906条の2では、遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人は、その全員 ( 処分をした当該相続人を除きます )の同意により、当該処分された財産が遺産の分割前に遺産として存在するものとみなすことができるとされる等、相続人の当面のニーズや単独処分に遺産分割を相応させるための調整が図られました。遺産分割の調停・審判が係属する家裁においても、申立てにより預貯金債権の全部又は一部を申立相続人に仮に取得させることができることになりました。これらの規定が施行されるのは2019年7月1日からとなっています。



遺産分割の効力
 
遺産分割協議によって、それまで相続人間で共有 (民法898条) 状態となっていた遺産中の各財産は、それぞれその取得者が決まり、相続開始時に遡って (民法909条) その人の単有となります(ですので、この権利取得は私なりの言い方では遡及取得となります) (→「卒時取得」参照) この単独での承継は、その者が有していたクオレ分(法定相続分=主芯部分)が基礎にある主同承継であり、(その承継の内の芯超部分について登記なくして対抗できないという弱みを伴うこととなるものの、)そうであるが故に、その承継全体について受益相続人が単独で登記することができます(不動産登記法63条2項 )(勿論、相続人全員の署名・押印のある遺産分割協議書が必須となります)しかし、その登記を怠る間に、例えば相続人の一人が、遺産中の不動産について、その共有持分を第三者に処分していた場合は、本来、遺産分割は相続人間の授受的要素が強いことに加え、その第三者との間でも正面衝突の争いとなりますから、民法は、この場合、「第三者の権利を害してはならない 」(民法909条但書) という解を定めています。それで、ここでは、不動産の権利関係が重なっていわゆる二重譲渡の対抗関係になったときの解決策である登記が決め手となることになります。登記の先後による解決として、その第三者が、分割協議によって取得者となった相続人より先に不動産登記を経ていた場合は、この但書により、その第三者の権利を覆すことはできない結論となります。つまり、分割まで各相続人が有していた共有持分を、遺産分割協議によって一人の相続人がその全てを譲り受けてその者の単有とする結論に至っても、それまでの間に第三者が相続人中の一人から先に持分を譲り受けていた場合、その持分は、その第三者と分割による単有取得者とに二重に譲渡されたことになるので、ここに対抗関係が生じ、これが登記によって決せられるということです。遺産分割登記による遡及取得の時点では、既に第三者の取得が先になされていたことが、その者による先登記という事実によって決定付けられる訳です。
 ここで、共同相続人間の共有持分の
割合は相続分によるとする民法899条と、遺産分割の遡及効を定め、第三者保護の但書を置く民法909条の各条句をご覧頂きます。上記の例とは異なりますが、遺産分割後に第三者が取得した場合も、相続により一旦取得した権利について新たな変動が生じたことに他ならないから、分割による取得相続人と第三者との間で、登記の先後によって権利の帰属が決まることになる旨を判示した判例 (最判昭46・1・26) があります。この様に、対抗関係となった二重の物権変動は、いわゆる二重譲渡理論による解として、登記が与えられている訳です。

  
   パニク899るな
   共同相続
数人
相続すべき割合 個々
899まる相続分
                              
これにて配分受ける

  但し、(分割)債権債務は、(相続)じて、即取得(負担)
   その
(ほか)は、
(遺産) 分割まで(の共有)やとっとこや898
   (但し、不可分債務は債務の全部(を)
     連帯債務は応分に(相続分に応じ)分割(された)額を連帯で※、
                  それぞれ負担すべき也)。
      
「おと」は伊語の8「オット」から、「いっと」は仏語の8の「ユィット」から

相続連帯債務は、相続分に応じて分割された額を連帯で負担する旨の判例(最判昭34・6・19)があります。


なお、 「パニク899るな・・・」の条句は、平成30年7月改正法により、その施行日2019年7月1日以後は、次のように改まります。


     パニク899るな共同相続 数人相続すべき割合
 
             
個々
899まる相続分

       積極財(を)これにて共有した後に遺産分割ある故に

         共有は、
(遺産)
分割までやとっとこや898



  遺産分割  
   遡
故人直接  に、
         
(じか)にその財受ける

  遺産分割 909(相続)開始 (に)
   但しその分割前買受けた  
            
第三者
にはてぬ
         「呉
909 ばず 909なり


認知された子の遺産分割請求 
 順次相続第一位の「子」には、認知による子も含まれます。前述の様に認知は、親の生前にされる場合と死後に遺言や裁判によりされる場合がありますが、亡くなって相続が開始され、遺産分割が終わった後で認知が成立した場合、その子が改めての遺産分割請求をするとなると、既に分割を受け終わった相続人らとの間に調整が必要となります。民法910条は、その際、認知された子は価額のみによる支払割請求となる旨を定めています。


   
(死後或いは遺言)認知されとなれて
   既分割 苦闘
910結果(受け容れ)はやむなきも
      
価額のみ (という制限を受け)宝分けをむは
      ‘
苦渋 910まさるうべきか。 


  〔
 認知 出生時迄遡その世話784養育費
     
死後認知相続 (既に遺産分割を終えた後の、子の認知の場合)
          
せわし784てくるが第三者をば


遺産分割に伴う担保責任
 
 遺産分割を終えた共同相続人は、それで全て終了という訳ではなく、もし相続人中に取得した財産に瑕疵があったため損失を被る者が出た場合は、互いにそれを補償しなければならない担保責任があるとされます。それを定める民法911条、そして、その内、取得した債権についての担保責任を定める民法912条の条句をご覧頂きます。



   (遺産)分割えても、するな早安堵
      
分割(受けた)()瑕疵出れば
        急暗雲
911 (瑕疵)担保責任

   
遺産 ()() 具体911せば
    損失補償
いに恋人911のごと(く、)
     売主
じく担保責任
       
(相続)わねばない



  (遺産)分割けた債権
    
()務者無資力未収であれば(他の)
     応分
(相続分)補償乞安堵 912
      分割時点
(の務者) 資力担保

   
未期来だとか、(停止)条件(の債権)ならば、
       弁済
すべき
(点の資力を担保)


  資力担保
というけれど何時資力担保やら、
    
(くだん)「資力」一体何で、いかよう担保されるやら、
         こいつ
912 いつも 569

  故意
912加害でなくば分割時
    (債)
務者した資力限度(で)
     
未収額(分割時迄の)利息
    応分
(相続分に応じ)、補償をせねばならぬ
       
§569は債権の売主の担保責任に関する規定

遺産分割における債権担保の具体例としては、こちらをご覧下さい。



相続させる」遺言 
 
前述の「遺言相続」の所で、遺言によって特定の財産を特定の相続人に「相続させる」とした場合は、死亡によって相続が開始すると直ちにその相続人の取得財産となる (私なりに卒時取得と言わせて頂きます) ので、遺産分割手続きは不要で、不動産登記 (不動産登記法63条2項 ) 、口座名義等を受益相続人単独で、遺言書のみによって相続人名義とすることができると説明しました。この「相続させる」という文言は、公証役場で公証人が遺言公正証書を作成する際の文言ですが、次第に普及して、一般市民の自筆遺言にも使われるようにもなってきたものでした。これが、この様な形で説明ができるようなものとなったのは、平成3年4月19日の最高裁判決以来、最高裁がそう説いてきているからで、それでさらに遺言相続が促されてきたように思われます。説明をされれば、そのとおりで、何ら不思議はないと思うのですが、実は、民法にはこれを正面から明言した条文はありません。ですので、この「相続させる」について、諸説が紛糾し、これを遺贈する旨の遺言だと、前述の遺贈と相続の違いを無視した様な議論もなされる等し、又、判例も、下級裁判所での判断が不統一な状況となっていたのを、最高裁が決着させたというものです。この平成3年の判決は、その時の裁判長の名から「香川判決」と呼ばれます。この判決の要旨は次のとおりです。

 特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言の解釈及びそのような遺言があった場合における当該遺産の承継について判示した判例 (最判平3・4・19)
一 特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言は、遺言書の記載から、その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情のない限り、当該遺産を当該相続人をして単独で相続させる遺産分割の方法が指定されたものと解すべきである。
二 特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言があった場合には、当該遺言において相続による承継を当該相続人の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、当該遺産は、被相続人の死亡の時に直ちに相続により承継される。


 
前記したとおり、民法には遺言によって遺産分割の方法を指定することができるとする908条があり、それによって現物での遺産分割を遺言で定めることができる訳ですが、この香川判決にいう「相続させる」遺言での特定財産を特定の相続人に相続させるという方法は、「現物でこの者に分けよ」と指示し、かつ、「その現物とは、この物のことであるぞ」としているのですから、正に最も具体的な「遺産分割方法の指定」による遺産分割であるとみなすことができます。つまり908条によるものに他ならないと考える訳です。
 そして、相続人のこの方法による財産の取得は、被相続人に指示された「遺産分割方法」によった訳ですから、遺産分割の結果ということになり、香川判決以前の下級審で「相続させる」遺言によった場合はさらに遺産分割手続きを経なければならないとしていた点がこの判決により否定をされたことになります。ですので、遺言書だけで
(遺産分割協議書を添付する必要なく) 名義変更手続きができることとなりました。「遺言と協議のハイブリッド相続」として、例えば、遺言に「現物で分け、他に売却してはならない」とだけあったりすれば、定められた割合に従って具体的に誰がどの財産を取得するかの協議が必要となりますから、遺産分割方法の指定による場合は、原則さらに遺産分割協議書が必要なので、上記下級審の判断もその限りで理由はあったのですが、財産と相続人を特定しての「この現物をこの者に相続させる」という遺言であれば、香川判決の説くとおりであると思います。そこで、以上のことをまとめる意味で、重複になる点もありますが、遺産分割方法の指定と香川判決の両方を含んだ民法908条の条句をご覧頂きます。なお、相続人である子がいる場合に、孫にも継がせたい、或いは相続人以外の者に遺産を与えたいというときは、「相続させる」ではなく、「遺贈する」という文言になりますし、この場合も、その継がせる財産の権利は直ちにその受遺者に移転する (卒時取得) とされていますが、ただその不動産登記手続きに際しては、基本的に贈与と同性質であるため、贈与側と受贈側双方の参加が必要なので、贈与側である遺贈義務者(遺言者である訳ですが、亡くなっているのでその義務を承継する全相続人)と受遺者の双方申請 (不動産登記法60条) の手続きとなって面倒です。
 なお、この「相続させる」という文言ですが、実際の遺言での用語は様々です。ですから、その通りズバリと「相続させる」とあれば問題ありませんが、例えば「取得させる」とあった場合等はどう解釈するかが問題となります。私は、相続人に対する財産の授与に関する用語は全てスタンダードな「相続させる」と解すべきで、特別に「遺贈する」とある場合のみ、特別なオプションである「遺贈」と解すべき、と考えます。相続と遺贈の違いについてこちらをご覧下さい。




    
この遺産分けならるや 908
    被相続人
(ゆい)現物換価代償
         
(ひと) (かん) 分割方法  指定 ができる

     
この指定くべきまるにはなる分割

    これや
908この香川判決 分割方法 指定 じたる
     公証実務
クレバー
908(分割方法)指定文言
       
好例908 (遺言で)「(特定の物を)これは 908A子に 相続させる
        
これは 908A子単独の 分割方法 指定
       更なる分割 不要
としA子ちに取得する


「相続させる」遺言による特定財産取得の対抗力

 
その後判例(最判平14・6・10)は、この「相続させる」遺言によって不動産を取得した相続人は、登記なくしてその権利を第三者に対抗することができるとしています。この判例の事案は、「相続させる」遺言により不動産を相続した妻から、子の債権者がした、子の法定相続分に代位しての不動産持分登記を経た上での強制執行を廃除しようとしたもので、妻は登記なくして債権者に対抗することができると判示しました。また、その他、他の相続人が既に登記してしまっていた場合について、( したがって、 「登記のないままでも」ということを言外に含みながら ) 、その抹消と自己への所有権移転登記を求め得るとする判例 (最判平11・12・16) もあります。この判例は、遺言により不動産を取得した相続人甲への所有権移転登記がされる前に、他の相続人が当該不動産につき自己名義の所有権移転登記を経由したため、遺言の実現が妨害される状態が出現したような場合には、遺言執行者は、遺言執行の一環として、右の妨害を排除するため、右所有権移転登記の抹消登記手続を求めることができ、さらには、甲への真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を求めることもできると解するのが相当であるとして、このケースの場合遺言執行者には登記手続きの権限がないとした原審を覆して、その権限を認めたものですが、遺言による取得者本人が登記なくして抹消登記、回復登記等の請求ができることを前提しています。前述のように「相続させる」遺言によって権利はその受益相続人に卒時取得されるので、他の者はいかに相続人であってもその者による処分の時には既に無権利であり、遺産分割に伴う遡及取得で生じる二重譲渡様の関係にはありません。ですから、この「相続させる」遺言による受益相続人の取得した権利は、登記の先後による解決によるまでもなく、登記なくして保護されることになります。いわゆる無権利の法理による解ということになります。そして、その卒時取得された権利を他に対抗するのに、同じく卒時取得される遺贈とは異なり、登記を要しないとされる理由については、これらの判例によっても説明されていませんが、私の粗雑な思考を巡らしてみると、相続においては、被相続人の一身専属的な権利を除く、その他の一切の権利が、被相続人の法定された親等内の限られた相続人に対し、被相続人との権利主体同一性を帯びて承継される点にその差異の理由があったのではないかと愚考します。しかし、上記のことは平成30年改正により大きく変わります。次項をご覧下さい。

「相続させる」遺言の効力範囲
 
平成30年7月の相続法改正により、この「相続させる」遺言による特定財産の承継については、上記平成11年、14年の判決以来「登記を要しない」としてきた判例は、これに「法定相続分の限りで」という限定を付けなければならないという変更を迫られることとなりました。つまり、「相続させる」との文言は、クオレ(法定相続分)を超える部分については、かつての対抗力を奪われて、最終遺言より前になされた他の遺言による取得者から譲渡を受けた者であれ、単なる共同相続人から取得した第三者であれ、すべからく第三者との対抗には遺贈と同じく登記等を要することになります。このように、改正法は、従来の「相続させる」遺言を、「特定財産承継遺言」として、その「特定財産」性を強調しつつ、超クオレ部分の取得について遺贈同様の扱いとすることを鮮明にしました ( 新899条の2、同1014条2項、同1047条) 。したがって、これによって、従来、相続分の指定につき、特定物を相続させる遺言によっても902条による相続分の指定が可能と解されていた点は如何なるのでしょうか。特定物をクオレを超えて「相続させる」のは、法的にはあくまで、その物の遺贈であるから、債務の負担割合まで予定しての包括財産に及ぶものではなく、その相続人の相続分を指定するには至らない、とすることも考えられなくはありません。しかし、遺言については、遺言者の意思を合理的に解釈すべしとするこれまで判例等により確立されている解釈態度を貫く限りは、やはり、この場合も、その特定物の承継により、その分その相続人の相続割合を増やし、したがって、包括的な相続分もその分だけ増加することを予定しての遺言と解釈するのが事理に照らし当然であると考えます。やはり、特定物承継遺言による特定物がクオレを超える割合のものであるときは、超える分だけその者の相続分を増やす旨の相続分の指定があると解すべきです。

遺言執行者の登記権限
 なお、上記判例(最判平11・12・16)は、上記の様に「相続させる」不動産に他者名義の登記がなされた場合、遺言執行者は、その妨害を排除するため、その抹消登記と遺言が「相続させる」者への登記名義の回復を求め得るとするのですが、当該不動産が被相続人名義である限りは、その相続登記はその取得者単独で登記申請できる(不動産登記法63条2項 ) のだから、遺言執行者の職務は顕在化せず、遺言執行者は登記手続をすべき権利も義務も有しないとして、その場合の遺言執行者の登記権限を否定します。同じく権利の卒時移転を認められる遺贈については、不動産登記法60条による登記義務者として遺言執行者の登記権限が、他者名義の場合も、被相続人名義の場合も認められるのに、「相続させる」という相続の本道上での手続きにおいて執行者の手が縛られているのは不可解と言う他なく、判例の重視する遺言者意思の合理的解釈であるとも言えないと思います。
 上記遺言執行者の登記権限問題については、
平成30年7月の相続法法改正により、遺言執行者には、「当該共同相続人が第八百九十九条の二第一項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる」旨明文が置かれて、解決しました( 新1014条2項 )。但し、この改正法の施行は2019年(令和元年)7月1日からとされています。改正された遺言執行者の地位・権限についてこちらをご覧下さい。


遺言での相続人探索  なお、「全相続人の探索」の所で述べた様に、協議相続、法定相続の場合には全相続人探索の資料が不可欠なのですが、遺言は、受益相続人や受遺者を特定してするので、その同定のための特定資料さえあれば、全相続人の探索資料は不要となります。ただ、遺言での遺産分けを、全遺産を包含した形にしないと、遺産のうち記載から漏れた財産については、結局、協議相続となるので、その手続きに全相続人の探索資料が必要となります。遺言での遺産分け条文の最後は「・・その他一切の財産を○○に・・」として、漏れのないようにする注意が必要です。また、後に述べる様に、遺言書は、公証役場で作る遺言公正証書(役場で保管されます)以外は、すべて、改竄を防ぐため家裁での検認手続きが必要であり、検認を経ないと登記所、銀行での相続手続きができないのですが、この検認手続きには、家裁による全相続人の呼び出しが必要であるので、その資料として全相続人探索の資料が必要となります。
 

相続と取引安全
 ここまでで、遺産分割による権利の遡及取得とその場合の二重譲渡理論による登記の先後という解、そして、「相続させる」遺言による卒時取得と無権利法理による登記なくして対抗できるという解を見てきました。この後者を説く香川判決に対しては、取引の安全を軽視するものとして、厳しい批判が加えられているようですので、私なりに相続における取引安全について粗雑な思考を恥じつつ考えてみたいと思います。相続における取引の安全というときは、主としては、相続不動産等の共同相続人による処分と遺言による取得者との権利の相克にあって、その点は批判を受けて当然とも思われ、それが法改正の契機ともなった訳ですが、その他に、相続させる遺言により、被相続人或いは相続人の債権者らがその債権の担保として期待していた権利を失いかねないリスクがあると言われる点について見てみたいと思います。因みに、意想外の相続債務や相続人の債務がかかってくることのリスクについては、対抗策として財産分離がありますから、これは一応論の要なしとします。そして、被相続人の債権者らは、自己の債権の担保たる権利が、その債務者の死亡により、いきなり相続の対象となる訳ですから、取引の安全という見地から保護を要するとも言えますが、被相続人の債権者は、前述の様に、遺産分割を経るまでもなく、法定相続分に従って全相続人らに権利行使することができるのですから、それを基礎とした担保確保の措置もとり得る訳で、事案による微妙な差異はあるとしても、そこにパターン的に担保を失うリスクはほぼ解消されていると言えます。新たに相続人らの固有財産に担保を期待するという途も出てきます。相続人の債権者らはどうかと見てみますと、債権を取得するに際しては、通常は債務者自身の資産・資力等を担保として期待するのに対し、ここで問題となっているのは、その被相続人からの遺産承継についての担保期待ということになります。これはいわば僥倖に頼るもので、果たして取引の安全という見地から保護されるべき法益はどの程度あるのでしょうか。この債権者らは、他の相続人に「相続させる」遺言をされた場合、期待した不動産等につき無権利法理によってリスクを被るのはやむを得ないことのように思います。また、事案が遺産分割のケースであれば、先に登記を経ることによって担保価値を確保することもできる訳です。勿論、債権者としてばかりでなく、上記の相続不動産を取得する、或いは担保を設定する取引に新たに入ろうとする際にも、それに伴うリスク等について事前に調査し、慎重を期さねばならないことを一般に啓発する必要が大であると思います。それにしても、相続関係が長年放置される事例が後を絶たないなか、そのためにこの迅速な多重契約社会で不動産が上記のリスクを伴ったまま多数残存し、その間これを契約関係に加えたために混乱をきたす様な事態は、国家経済としても損失であるので、相続関係は年限を切って対処するべき旨の新たな時効制度を設ける等の対策が必要なように思われます。結婚生活の清算である財産分与が2年の除斥期間にかかるのに、人生の清算である相続での遺産分割が時効にかからず「いつでも」できるのでは遺産の浮遊状態が長年続いてしまうことになりかねませんから。

平成30年7月の相続法改正
は、ここでもかなりの事情変更をもたらします。香川判決は上記のように厳しい批判を受けて、「相続させる」判決の効力は上記のとおり、相続不動産がクオレ(法定相続分)を超えると、対抗関係に置かれて、登記により帰属が決せられることとなりました。これは、遺産のクオレ部分についての相続人持分への信頼に淵源して生じる取引を保護するための結果と言えますが、改正法は、その他にも、遺留分侵害行為を無効とすることにより生じる混乱を防ぐため、侵害にあたる贈与・遺贈の効力には手を付けず、新たに遺留分侵害額請求権という金銭債権を創設することにより侵害分の回復を図り、また、遺言執行者の執行を妨げる行為も無効とはするものの、善意の第三者には対抗できないとする等各所で取引の安全に配慮した措置を講じます。私が愚見を呈した相続の本質はいささか損ねられる結果となりますが、却って、スッキリと限界が画される共に、遺言執行者の地位権限の強化により、相続による取得財産の早期の登記経由が期待できることも相俟って、取引の安全が保たれることに繋がるということであれば、それはそれで良いのではと考えます。



特別受益
 (調整(相続)分)
 民法903条1項は、「共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前三条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。」と定めます。
 これまで、相続の全体的な俯瞰を得るため、民法相続編の第三章「相続の効力」と第七章「遺言」の両章を行ったり来たりしましたが、ここで、また第三章中の相続分の所に戻って、
相続分の調整の関係について述べてみたいと思います。
 というのも、これまでは、人が亡くなったとき、その時点でその人の有する財産
(これを「卒時遺産」と言わせて頂きます) を念頭に、その承継のための配分を論じてきた訳ですが、例えば、
    亡くなる以前に相続人中のある者に結婚或いは養子縁組に際して多額の持参金を持たせてやったとか、又、
    他の相続人には事業を興すに際して相当額の事業資金を、又、別の相続人には海外留学等多額の学資を、それぞけ援助した、或いは
    相続人ではあるが遺言によって、「相続」としてではなく、「遺贈」を受ける者があるとかで、一部の相続人に対し、
卒時遺産からすれば無視できない割合の、 (扶養義務の履行に留まらない) 商売や事業をするための元手となる特別な贈与があった、又は、遺贈がある場合 (これらの授益による受益者、受益分を「特益者」「特益分」と言わせて頂きます) 、これを相続財産の前渡し、或いは別枠渡しと見て、共同相続人間で公平を図るため、( 相続人以外の者に対する贈与や遺贈があるとしてもそれらはひとまず考慮の外として、) 相続人の特益分だけに注目し、相続人間での相続分の調整をする訳です。特益分のうち贈与によるものを「特益受贈」とします。それで、残る遺贈も、私なりに「特益受遺」と呼びます。上記の民法903条1項は、それが定めた「みなし相続財産」(私なりに「みなし遺産」と呼びます)から特益受贈と特益受遺とを控除してその者の相続分とする、と言いますから、本来であれば、これらの操作をしない財産こそが「本来の相続分」の算定基礎であるところ、相続人間の公平を図るためにそうするのだと考えるべきです。
 そうすると、遺言者には、法に定められた相続人らに法定相続分に基づいて相続として承継すべき財産と、本来、
(私的財産権の自由に基づく)財産処分の自由により、それとは別枠で、生前に贈与によって処分する自由分(自由に処分する財産を「自由分」とします)、死後に遺言により処分する自由分とがあるけれども、903条1項は、相続分の調整を図るべく、これらの自由分についても「相続」の視野に入れて、観念的に、「相続分」の算定基礎に加え、「みなし遺産」とするのだということが分かります。ですから、本来相続さるべき遺産は、卒時遺産から、遺贈(特益受遺)の分を控除し、また、その時点では既に逸出している生前贈与(特益受贈)の財産は含まれないということ、を押さえておかなければなりません。
 ここで、注意すべきは、民法903条に新たに追加された第4項により、これら特益分の内、被相続人が、その配偶者
(二十年以上の夫婦の一方である必要があります) の居住のために建物又はその敷地を遺贈又は贈与の対象としたときは、その建物又は敷地を上記の「みなし遺産」には含めず、そのまま配偶者の相続外での取得として認められるということです。平成30年の相続法改正によって、配偶者について、新たに「配偶者居住権」が新設されると同時に、この措置がとられ、夫婦の実質的平等の一助とする新しい仕組みが加わりました。つまり、夫婦別産制により夫婦間で偏在する財産を、死亡という婚姻終了事由発生の時に、夫婦間での本来の平等を回復するため、夫婦の主たる財産と言うべき居住用建物については、これを贈与・遺贈の対象としても、「特別受益」とは見ずに、元来夫婦間で平等である筈の財産権バランスの単なる復元であると捉える訳です(→夫婦の実質的平等)。配偶者が受ける特別な利益ではなく、元来有する利益を回復するだけですから、相続人間の公平の視点からの調整対象ではないのです。
 以上を言い換えてまとめて見ると、①人の死に伴う財産承継には、そのスタンダードである「相続」の枠と、自由なオプションである「贈与」・「遺贈」の枠があり、これらは本来別物で、しかし、私的財産権の自由からは後者が優先すること、しかし、②民法903条1項は、相続人間での公平を図るため、相続人に対する、遺贈
(特益受遺)と、さらには生前の贈与(特益受贈)をも遺産に加えて「みなし遺産」とし、(次の段で説明しますが)そのパイの相続分から各相続人の特益分を除いた分の比較割合で、調整(相続)分を算出すること、③しかし、上記法改正は、配偶者の居住資産のみについては、夫婦間の平等という別の視点からの調整(バランスの回復)であるため、ここでの調整の対象外としたこと、④そして、最後に、以上述べた特益の受遺・受贈は、相続人の受けるものについて見てきただけであり、それ以外の第三者の受けるものは俎上に載っていないので、個別「相続」論議は、その第三者の受遺・受贈を当然の自由分として卒時遺産から控除した上で、「相続分」により進められるということです。
 これらを前提に、個別「相続」での「相続分」の調整操作について、民法903条の定めるところを、以下、見ていきたいと思います。
             
 相続人間の公平を図るため、民法903条1項は、上記特益者の特益分の内の特益受贈 (特益分を主に条句でですが「呉れ産」とも呼ばせて頂きます) を一旦、計算上、個別に卒時遺産に戻させ (持戻と言いますが、私は時に「個戻算」と言わせて頂きます) 、これを、あくまでも机上計算でのパイである「みなし遺産」として (遺贈分は、本来、相続枠に含まれない財産ですが、未だ分けられずに卒時遺産に含まれているので持ち戻す必要がありません)、定められた相続分によって分け、特益者については、そのパイでの取分から特益分を差し引いた残りをその者の相続分とするよう定めています。 ( この、みなし遺産のパイを相続分によって分けた後、特益者からはその特益分を差し引くことを「引戻し」と言います。)
 そして、903条2項は、「遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。」と定めます。
 つまり、特益受贈を一旦戻してみなし遺産のパイとし、クオレ
(法定相続分)で分け、特益分を引き戻した結果がゼロ又はマイナスである者には、相続分がないこととなる、ということです。そもそも特益分が既に貰いすぎ (或いは、ピッタリ法定分) であるので、そのため、その者の卒時遺産に対する取得分はないことになる訳です。「クオレで分け」ると申しましたが、遺言がないケースの場合はそれで良いのですが、遺言があっても、それが卒時遺産全部について取得者が定まる様に記載された「完結遺言 ( この場合は、卒時遺産全部について相続分が確定していますから、調整の必要はありません ) でなく、「部分・未完遺言」である場合は、その遺言によって定まる相続分でパイを分けることになります。この場合の「遺言による相続分」ですが、遺言中で、相続人の相続分として例えば、「相続人Aの相続分は○○パーセントとする」というように明言されていれば、それにより、そうではなく、特定物を取得させる旨の定めであれば、その物が割合的にクオレの割合の範囲内であれば、(その者にはその物しか与えないという趣旨である場合を除き)クオレ(法定相続分)で分け、超えておれば、遺産中でのその物の割合をその者の指定相続分とし、その他の相続人についてはその残りをクオレで分けることになります。
 また903条3項は「被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思表示は、遺留分に関する規定に違反しない範囲内で、その効力を有する。」とも定めます。
 つまり、遺言に持戻しをしないでよい、と記載があれば、過去の贈与や遺贈は考慮に入れずに
(と言うより、「この遺言では、贈与・遺贈分を考慮に入れた上で遺言しましたから」と言う意味になりますね) 、配分が行われます。これを、「持戻し免除の意思表示と言います。同条は、私なりの用語では「卒時遺産の価額に特益受贈の価額を持ち戻したものをみなし遺産とし、クオレ(又は遺言による相続分)により算定した価額から(特益受遺も含めた)特益分の価額を引き戻した残額をもってその者の相続分とする。」と言い換えられます。詰まるところ、同条は、全体として、その場合の 調整(相続)導くための定めです。従って、この調整の余地なく、卒時遺産全部について遺言がなされていれば、遺言者の最終意思としての確定相続分が示されていることとなり、調整のための算段は不要となります。上記の「持戻し免除」の意思表示も、卒時遺産中の、遺言された部分を除く残遺産について、定められた相続分で分割するに当たっては、持戻しはするでない、という趣旨となりますから、部分遺言の場合の話です。やはり、遺言する際には、卒時遺産全体について漏れなく遺言することが、後の面倒や混乱を未然に防ぐため最も肝腎な点であると言えます。なお、この公平のための持戻しは、後に述べる遺留分の関係においては、( 遺言中に持戻免除の意思表示があっても、) 上記903条3項により、強制持戻しの上、債務を控除して、「遺留分割合×クオレ(法定相続分)(具体的遺留分割合)で分け、特益分を引いて遺留分額が算定されることになります。
以上をまとめると、こちらになります。


   故人 生前特別
(一部の相続人に)授益したなら

    みなし
遺産
としたクオレ
900(指定相続分があればそれ)けて
 
            
受益者はその
(受益)
いた


  特益贈与
()
903(故人が特別授けて呉れた財産(造語)

       
結婚 或いは縁組()(故人が)えた持参金
   
らしのため生計に、或いは子供教育に、えた援助金
    

   加
えて
(これを持戻と言いますが、ここでは個戻算(これさん)(造語)
とも言います)みなす相続財産

       遺言
持戻免除とあれば、遺留分さぬりそれにる。


  遺留分断然取
るとい
1031
   持戻免除
遺言(いごん)にあるときも、(ひと) 公平ため

   
(持戻しする)個戻算(これさん)903 (の取得額を算出した上)(遺留分)減殺(げんさい)できるとすべき

特別受益の個戻算法 
 
ここで、上記の個戻算の方法をまとめますと、次のようになります。まず、相続人の中で、故人から生前に上記の色々な態様で受益した特益者がいた場合、
その特益者の特益分の内特益受贈を、相続分の調整のため、観念的に
持戻をしてみなし相続財産 (「みなし遺産」) を算出し、これを定められた (法定相続分か遺言があれば遺言による) 相続分で分けた上、特益者それぞれの (特益受遺を含めた) 特益分を差引いて (これを「引戻し」と言います)、マイナスならば零とし、この引戻結果を「個戻残」と呼びます。そして、この個戻残の総額に対する各人の個戻残の割合、つまり個戻残割合を「個戻算分」とすると、これが特別受益がある場合の調整された相続分となります。したがって、個戻算では、特益分のうち、特益受贈は持戻し、引戻し、両方の戻しがありますが、特益受遺については引戻しされるだけの対象となります。つまり、特益受贈は双戻の、特益受遺は孤戻の各対象 (特別受益は、ソレとコレ) 、です。以上は、相続人中に特益者がいる場合の調整(相続)を出すための観念的な机上計算ですから、「みなし遺産ソロバン」と呼びます。

そして、次に、(の個戻算分によって卒時遺産を分ければよい訳ですが、これには遺贈
(特益受遺)分も含まれていて、これは後で実際に受遺者に分けなければなりませんので、これを引いた残りを個戻算分で分けることになります。そして、この計算は、実際に卒時遺産を前提してする分配のための現実計算ですから、「卒時遺産ソロバン」と呼んで、みなし遺産ソロバンと区別します。ここで、実際に遺産を分ける段階では、遺言者がした遺贈を重んじ、遺産から遺贈分を除いた残りを調整(相続)分で分けることを見ました。遺贈を相続枠の外の事柄とし、まずその実現を図った上で、残余財産を遺産分けする訳で、遺贈については、本来、当初からこのように相続枠と別扱いとすべきところを、相続人に対する遺贈だけは、相続人間の公平を図るため計算上遺産中に置いたまま、調整(相続)分を算出することが分かります。この遺贈、別扱いの理は、相続人の寄与分について、遺贈があるときは、遺産から遺贈分を除いた残余を超えることができないとする寄与分の上限規定(民法904条の2第3項)の存在によっても、理解することができます。こちらもご覧下さい。

個戻算分と遺留分
 
この個戻算分は、特益者についての引戻結果がいずれもプラスであれば、各相続人の最終取得分は、きれいにクオレ (法定相続分) (或いは指定相続分) で収まることになりますが、マイナスであれば、そのマイナス分を当該特益者に現実の持戻しをさせないとクオレどおりとはなりません。しかし、民法は、ここでは、そのような現実の「減殺」はさせずに、計算上の持戻しをさせるだけで矛を収め、そのマイナス量には目をつむって、その特益者には卒時遺産からの配分はなし、という扱いで終わらせることとします。したがって、そのマイナスは、他の相続人がこれをかぶることとなり、そのかぶることによる不公平の程度が見過ごせない程になった場合には、遺留分制度によって現実の持戻しである「減殺」をさせる訳です。ですから、現実計算である遺留分の算定では、相続人らは相続を放棄した訳ではないので債務負担を伴うことも考慮して、まず、持戻し分を加えた卒時財からその債務総額も控除してみなし遺産のパイとし、相続による取得分が、このパイのクオレ分の半分 (親だけが相続人である場合は1/3) にも及ばない相続人については、受遺者・受贈者の受遺・受贈分からそのマイナス分を減殺して、最小限の取得分 (遺留分) を取り戻すことを許します。という訳で、遺言がないか、部分遺言であるため、相続未定財産がある場合で特別受益があるときの調整(相続)分である個戻算分と、遺留分では、前者は割合を調整するための机上計算であるため、相続債務は考慮の外であり、後者は、現実の減殺に及ぶため相続債務の全額を控除 ( し、その減殺に及ぶ相続人が相続分に応じ相続債務を負担するときは、その負担額を加算 ) するという違いがあることになります。なお、遺留分侵害額の算定については、こちらをご覧下さい。また、生命保険金については、こちらをご覧下さい。

  
遺産分け方(個戻算法) 特別受益有るケースで、法定(指定)相続分の調整により、相続未定の遺産部分について最終相続分を確定します。 

  
みなし遺産ソロバン 

      故人
卒時財産


        ①
受贈903(を)みなし遺産のパイとして

         クオレ900(指定相続分があればそれ)けて

        (受けた贈与と、後から貰う遺贈も含め)
        ③ 呉れ産
個別いて個戻残 903して

        ④
(個戻残が)
マイナスならば として

             各個戻残総額する
個戻残
903割合して個戻算分とする


 
個戻算分:特別受益あるときの調整(相続)分=個戻残総額に対する各自の個戻残の割合
       :①~④により各人の受ける財産の合計に対する各人の財産の割合)
                            

    
卒時遺産ソロバン 

       卒時財から(全ての)遺贈
いた
       
(うつつ)積極財産個戻算分けてゆけ


  受遺者
遺贈
(後から)えらる

    
相続債務
人各自(が)対債権者
      法定クオレ
900分担、取立ける


なお、民法904条は、持戻しの計算に際しては、特益者自身の行為によって受贈物が滅失等してしまっていても、なお原状のままあるものとみなして算入するよう定めています。

 特別授益受益者行為
          
(受贈)904(滅失)たり価格増減させるとも
        るよ904」言わず (相続)開始時
    この
904原状(で)あるもの と仮定した上 評価せよ
                    (天災で滅失は零評価)




寄与分 これまで、法定相続分、指定相続分、そして調整(相続)分と、「分」の字が続きましたが、次に今度は「寄与分」についてお話しします。遺産を増やしてくれた、或いは、その侭ならば減るべきところを、補充等して維持してくれて、維持増加に特別に寄与してくれた相続人にその分を「寄与分」として返すべく、戻す計算をして、残りを遺産として分けようとする訳です。寄与分を認められるのは相続人で、その寄与の方法しては、労務の提供、療養看護、財産給付によるものが挙げられていますが、その他の方法でも、被相続人の財産の維持又は増加について同じく特別の寄与をしたことが認められれば、寄与分を受けられる訳です。そして、民法は、この寄与分を加えた額をもってその者の相続分とするとしています (民法904条の2)。




    (相続人)遺産 増加やその維持
   
(特別)寄与 してくれし(にん)9042

     
(寄与した分を)(相続分)えてくれよ
9042
                    
めたら

      まともな
この9042として

            
 遺産(うち)からその
          寄与分
として
(取り分けて)すべし



  相続財産
      (
没時の財から)寄与分いたりをそうみなし
              この
9042をば分けるべし。  



   維持増加 方法
    労務提供療養看護
給付この9042



寄与分の上限 遺産の維持増加に特別に寄与してくれた相続人に、その「分」を返すべく考えられた寄与分ですが、民法は、それはそうだが、その「分」を受けていた被相続人自身が、遺言の中で、例えば、過去に何某さんから受けた大恩に報いたい等々の思いから、遺贈をしているのであれば、遺贈への思いを優先し、遺贈をそのとおり遂げられない程には寄与分を認めてはならないという趣旨の定めを置いています。つまり、寄与分は、卒時遺産から遺贈を引いた残りを超えることはできないとの定めです (民法904条の2第3項)。それは即ち、遺言者のした遺贈を重んじ、その実現を図ることを先に置き、相続人の寄与による相続枠の調整は劣後させるというもので、遺贈は相続枠の外の事柄であることを表しているものと言えます。



  
寄与分遺贈があれば
   亡
(相続開始)(産)から遺贈いた
           残額
えては算定できぬ



  報
うべくえる寄与分9042限度あり
   卒時財
から遺贈いた(うつつ)をばえられぬ




寄与分の請求
 寄与分は、その請求権を有する相続人から相続人間での遺産分割協議(民法907条)に際し、又は、遺産分割を終えた後の認知による相続人(子)からの価額支払請求(民法910条)があった際に、申し出て、当事者間では協議ができず、或いは協議が不調であった場合には、家裁に請求することになります。家裁では、まず調停で、次いで、調停も不成立であれば審判で、決着が図られることになりますが、家裁はその際、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額、その他一切の事情を考慮して寄与分を定めることとなります (民法904条の2第4項)。ですから[具体例]よく挙げられる例は、父の家業を長年手伝い、支えてきた長男や妻ですが、その他、共働きの妻が、夫婦の協力義務の程度を超えて、夫の財産形成に自身の懐からの支出によって協力したとか、夫婦間には生活保持義務があるので通常は夫の介護に努めても寄与を認められませんが、夫婦別産制の下、自己の固有財産を減らしつつ、保持義務の程度を超えて長期間献身的に介護した場合とか、子を代襲する孫が、家業を助けてきた亡子の寄与を援用して、その寄与分を受けるとか、子が父親の財産の相続に際し、自己の相続分を母に譲る形で遺産分割を終えていた場合のその母親の遺産に対する寄与分とか、種々様々な形や事情が考慮されて、寄与分を認められる例があり得ます。しかし、「財産の維持・増加」に対する寄与とされていますから、財産的なものではない寄与については寄与分と認められないことになります。
寄与分と遺留分
 寄与分と遺留分との関係については、どうでしょうか。遺留分は、後述のとおり、故人の卒時財産に、短期・長期の生前贈与、それにみなし贈与の分と特別受益等を加えて、みなし遺産とし、これから債務を引いて、遺留分割合をかけ、その者の相続分をかけてから、その者の相続による取得分、受益分を引いて侵害額を決める訳ですが、この算定過程では「寄与分」は一切登場しません。遺留分の算定については各種の要素が加わる旨関係条文が置かれているのに、寄与分には触れるところがないということは、寄与分を考慮することはできない、ということではないでしょうか。「寄与分の上限」として、被相続人本人が、実質的に寄与分に相当する部分をも遺贈で処分する場合には、その本人の意思を尊重する旨定めがあるのであれば、遺留分を侵害された相続人に対し、公平の観点から最小限の保障をするための強制要素を含む遺留分の関係においても、寄与分は譲歩せざるを得ないものと考えられます。遺留分権利者からの減殺請求に対して、寄与分をもって抗弁とすることはできないと言わざるを得ないと考えます。



  

  遺産分割寄与分しと
     (ひと) (かん)べますに9042、協議 不調不能なら
         家裁一切(の事情を)考慮して調停審判 いてす。
                     
「ノペ」は9の伊語「ノーヴェ」から



親族に対する特別寄与料に関する平成30年7月の民法改正
 従来、例えば、亡くなった長男の妻 (嫁さん) が、長男死亡の後も ( 姻族関係終了の意思表示をせずに ) 身近で義父の介護等に尽くしたのに、その義父が亡くなったときには、法定相続人でないためその貢献が全く報いられないのは気の毒だということが言われ、そのような場合こそ、その義父にあたる人は予め遺言をして、相応の財産を遺贈する旨定めれば、自身の死後に介護等の努力に報いることができます、として、「遺言のすすめ」での必要例の一つとして取り上げられてきました。このようなケースを、今回の改正では、新たに章を設け、第九章「特別の寄与」の章名の下、新1050条で特別な請求権を創設して、救済することになりました。故人の親族 ( 相続人、並びに、放棄・廃除・欠格により相続権を失った者を除きます) に限りますが、「無償で療養看護その他の労務を提供したことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした」という要件に当てはまれば、その特別寄与者は、相続人に対してその寄与に応じた金銭 ( 特別寄与料 ) の支払いを請求することができることになります。当事者間で協議が整わなければ、家裁に対して協議に代わる処分を求めることもできます。特別寄与料の額は、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して定められますが、前述の寄与分の上限と同じく、卒時遺産から遺贈の額を控除した残額を超えることはできません。この特別寄与料の支払いが決まると、相続人らは各自の相続分に応じてこれを負担することになります。但し、この特別寄与料には、請求できる期限があって、被相続人が亡くなったことと、その相続人を知った時から六か月が経過するか、又は、亡くなって一年が経過すると請求権が消滅してしまいますから、特別寄与者にあたる人は、時期を逸してしまわないよう、注意が必要です。この改正法が施行されるのは、2019年7月1日からとなりました。上記のように、この特別寄与料が認められるのは親族に限りますから、内縁者は除かれます。従って、上記の遺言必要例のもう一つとして良く挙げられていた内縁ケースはそのまま残ることになります。


遺留分 
 「分」の字の見出しばかりが続いて恐縮ですが、相続用語として「分」の付くものはこれが最後です。なにしろ、民法第五編相続の最後の章である第八章の見出しの言葉ですから。民法は、この章の1028条から民法最後の条文1044条までをこの「遺留分」に関する規定で連ねます。ところが、その最初の1028条は「兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける。」とだけ定めて、遺留分の何たるかを直接定義してはくれていません。ですので、まず、この字解から入ることとすると、(忘れ物の「遺留」品は全然別として)、やはり、同条のいう「兄弟姉妹以外の相続人」、つまり、子、親、そして、配偶者に「」すために「」保された「」ということになります。「留」の字は、「止めさせる」、「後に残す」という意味もありますので、何かを止めさせて、遺してやることになりそうです。そして、民法のこれまでに出てきている条文で探してみると、遺言者が遺言によってする、相続人に対する相続分の指定の規定である902条と、(通常は)相続人以外の人に対して行う遺贈について定める964条の二箇条のいずれにも 「遺留分に関する規定に違反することができない」 とありますので、これらと対比すると、遺言で、被相続人が相続分や遺贈を定めても、それが上記の者たちのため1028条に定められた「被相続人の財産二分の一 (相続人が親だけの場合は1/3) 」を超えると、それらの相続や遺贈を止めさせる(減殺ゲンサイ§1031)ことができる、ということのようです。そして、この3条あとの1031条には「遺留分を保全するのに必要な限度で、遺贈及び前条に規定する贈与の減殺を請求することができる」とありますから、結局、以上を総合すると、遺留分は、被相続人と親等的にごく近いことから扶養等でも被相続人に依存する関係にあって、故に遺産に対する一定の期待も許されてよい者である配偶者・子・親 に保障される最小限の相続分で、被相続人がなしたこれに抵触する贈与や遺贈を、保障の限度で止めさせる(失効させると言われます)権利であると理解することができます。この遺留分の割合は、上記のとおり原則として二分の一ですが、親だけが相続人である場合は三分の一となります。したがって、相続人が複数いる場合は、この遺留分をさらに相続人間のクオレ (法定相続分) で分けて、各相続人の個別の具体的遺留分割合を算出することとなります。


特別受益と遺留分 : 人的対象範囲 (相続人限りか否か) と債務の扱い
 
特別受益は、被相続人から相続人に対して、卒時遺産以外に、呉れ産 ( §903=特益生前贈与 ) の授益により逸出していた財産があれば、これを観念的に持ち戻して、遺産のパイを増やし、調整(相続)分 (個戻算分) を得ようとする、つまるところ相続人の間だけでの計算 (みなし遺産ソロバン) でした。この場合、相続債務は、(別の箇所で触れました様に、相続開始と同時に各相続人に対する当然の負担として課されますから)この調整(相続)分を得ようとする計算では、ひとまず無関係として、積極財産だけを考えることとします。(但し、この調整作業は、遺言によって、調整不要(持戻し免除示)を宣せられると、特別受益は手つかずで卒時遺産のみが相続分による遺産分け対象とになりますが、それでは配偶者・子・親の取得分が過小となる場合、遺留分が最小限の保障をしてくれることになります。)
 遺留分は、しかし、遺言で不当に少ない取得分となったものの、相続放棄をした訳ではないので、相続債務はしっかり取立てを受けることになる相続人のために、最小限の相続分を保障するものです。ですから、相続人に対する贈与だけに留まらず、
第三者に対する贈与等も含め、 (持戻し免除の意思表示があっても ) 強制的に持ち戻し ( この段階では同じく観念的にですが、減殺段階で現実的になります )た上、現実保障の場面であるため、相続債務全額を控除して、これを遺留分算定の基礎財産 (みなし遺産のパイ) とします。その上でその半分 (親だけが相続人であるときは1/3 ) を遺留分として確保します。そして、それのクオレ分 ( 法定相続分 ) より相続人の(特別受益があればその分も含めた)取得分が少ない場合は、その少ない分を遺留分侵害とし、その限度で、第三者に対する贈与等をも減殺するものです (対象は広いのですが通常、メインとなるのは、生前1年間の贈与と遺贈・過大な指定相続分となると思われます)例えば、被相続人が、相続人である妻子をないがしろにして、亡くなる直前に愛人に家屋敷を贈与していた、或いは遺言で遺贈するとした場合等を想定すると、分かり易いのではないでしょうか。なお、現実の保障場面であることから、上記のように「相続人の取得分」には、相続分による算定分の他、被相続人からの遺贈を含めた受益分があれば、これも「取得分」に加わりますし、逆に相続債務のクオレ(法定相続分)による負担分として支払う額があれば、これは、遺産から補償します。

遺贈と調整(相続)分・遺留分
 
相続人に対して遺言で、相続とは別枠で、「遺贈」があった場合でも、相続人間の公平のために卒時遺産に加えられて「みなし遺産」とされるのは、卒時遺産から生前に逸出している特別受益(903条)の贈与(特益受贈)だけです。相続とは別枠で「特別」に遺贈(特益受遺)があったとしても、その分はまだ卒時遺産に含まれているので、「みなし遺産」を俎上に載せるのに、これを加える必要はありません。ここまでは、特別受益がある場合の相続分の調整に際しても、又、遺留分の算定に際しても、同じ作業ということになります (但し、後者については、算入すべき贈与について、平成30年の改正により時期を画し、悪意知情で判別する等の基準がさらに加えられましたが、前者についてはそれがありません)。相続人に対する遺贈を計上しなければならないのは、調整(相続)分( 個戻算分)の作業においては、引戻して個戻残を算出するときと、算出された調整(相続)分で実際に卒時遺産を分けるときであり、遺留分の計算においては、卒時遺産に特益受贈を加えた「みなし遺産」から債務総額を引いて、遺留分算定基礎財産額が算出された後、遺留分割合とクオレ(法定相続分)を乗じた数字から、当該相続人が受けた特益受贈と共に遺産から受けるべき特益受遺も控除して、最終的な遺留分額を出す際ということになります。因みに、その際は、遺留分算定基礎算出時に全額控除した相続債務額の内、その相続人が負担すべき債務額を補償するためにその額を加えてやることになります。

遺留分の原資

 
そして、上記 1028条に言う「被相続人の財産」 の中味について、次の1029条が、「遺留分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除して、これを算定する」として、まず、卒時遺産に過去の贈与分を加えることを言明し、次の1030条で、「贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与したときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする」旨述べて、算入される贈与の範囲を、短期一年間のものと、長期(遺留分権者に損害が発生という事情につき)知情のもの、という形で明らかにしています。
 その後の1031条では先程の「止めさせる」ことを「減殺する」と表現して、「遺留分権利者及びその承継人は、遺留分を保全するのに必要な限度で、遺贈及び前条に規定する贈与の減殺を請求することができる」とし、減殺対象に遺贈も含めて、必要限度での減殺請求権を宣明しますが、遺贈は、その分が未だ卒時遺産に含まれていますから算入対象にはなりません。また、負担付贈与について1038条が、その負担の価額を控除した残額を対象とする旨定め、1039条では、不相当な対価でした有償行為も、知情であれば贈与とみなすとして対象に加えますので、これは同条にある「その対価を償還」、控除した残りが算入されます。
 そして、民法最後の条文である1044条で、特別受益の903条904条を「遺留分について準用」していますので、
特別受益は全て1029条で加えるべきと定められた「贈与した財産」とみなされて(持戻し免除の意思表示があっても、遺言者の意思に拘わらず最小限の相続分を保障しようとする遺留分のコンセプトに反しますから、903条3項により免除されません)遺留分を算定するための「被相続人の財産」に算入されることになります。また、特別受益分が、その後滅失等していたものも、特益者自身の行為で滅失等してしまったのであれば、現存するものとみなして算入をします。
 以上をまとめると、
  1. 
贈与は、①生前一年間のもの、②長期知情のもの、
  2. それに
みなし贈与 〔不相当対価でした知情有償行為(対価を控除)〕
  3. 
特別受益は全て、
が遺留分算出のための卒時遺産への算入に供されることになります。そして、この算入により算出される「被相続人の財産」を私なりに「
遺留分の原資」と呼ばせて頂きます。ということで、遺留分原資は、「短期1年もの」、「長期知情もの」、「みなし贈与」、「特別受益」となります。被相続人と受贈者との間で、生前1年間より前に、将来の相続を想定し、その際の遺留分を認識しながら、それを侵すであろうことを知りつつ贈与がなされるということは、レアなことだろうと思われますから、やはり、算入される贈与は生前1年間の短期の贈与がメイン (で、それに特別受益が加わるか) ということになると思われます。

改正法による遺留分規定の概観
 平成30年の相続法改正によって遺留分関係の規定も重要な改正がありました。この改正法の施行は、2019年7月1日からとなっています。ちなみに、私が「遺留分」を紐解くよすがとした902条と964条の各但書は、平成30年の改正時に、削除されました。相続分の私定(指定)や遺贈によって遺留分を侵すことはできない旨の但書でしたが、誤解の種であったことも事実のようなので、それはそれで良かったと思います。遺留分に基づく権利 (従前の遺留分減殺請求権) は、その権利者の主張を待って必要範囲で遺贈や贈与を失効させる権利で(した。改正後は、「遺留分侵害額請求権」になります)、行使するか否かは権利者の意思にかかり、相手に行使の意思表示をすることにより効果を生ずる形成権です。しかし、改正前の上記各但書には、指定相続分であれ、遺贈であれ、いずれも遺留分の「規定に違反することができない」とあるので、権利行使を待つことなく初めから無効とされてしまう感があって紛らわしかったという訳です。
 そして、改正後は ( 新しい条文ですので、新10
条とすべきところですが、略して、新しい条数だけを太字とします。そして、対応する従前の条数を、旧10条として併記します) 、まず
1042条 ( 旧1028条 ) で、従前通りの遺留分
割合を定め、次の
1043条 ( 旧1029条 ) で遺留分算定には、卒時遺産に
贈与を加え、債務を引く旨を示して、遺留分の算定基礎を決め、
1044条 ( 旧1030条 、旧1044条 ) で、
算定に加えるべき贈与を、相続人(特別受益)に対するものと、非相続人に対するものとで分け、それぞれで算定に加えるべき贈与の時的範囲を、前者で10年、後者で1年までとし、それより以前のものは遺留分権利者に損害を加えることを知りながらしたものに限る旨定め、次の
1045条 ( 旧1038条、旧1039条 ) で負担付贈与、不相当価格の有償行為の場合、後者は負担付贈与とみなし、いずれも負担を控除することを定める等して、以上で
算定基礎財産額が算出されます。
1046条 ( 旧1031条 ) で、遺留分権利者は、
( 遺言で超クオレ部を「相続させる」場合も含む ) 受遺者・受贈者に対し、遺留分侵害額を請求することができる旨明示し、そして、遺留分侵害額の算定は、遺留分算定基礎財産額から当該相続人の受益財産(=特別受益の受遺・受贈)を控除して遺留分額を算出した上、この遺留分額から当該相続人の相続による取得財産を引き、負担すべき相続債務を加算して算出すべき旨を定めます。
1047条 ( 旧1033~1035条、旧1037条 ) では、受遺者・受贈者に対し、侵害額を請求できる順序や割合、無資力による損失負担、受遺者・受贈者の負担の限度、
相続人が受遺者・受贈者である場合のその者の遺留分額の控除等、侵害額請求の細則を定めます。終わりの2か条は、従前の内容で、
1048条 ( 旧1042条 ) が、請求権の短期消滅時効 ( 知って1年、死後10年 )、
1049条 ( 旧1043条 ) が、遺留分放棄となります。
 
これまでの規定と変わったのは、
❶ 遺留分算定に加えるべき贈与について、相続人に対する
(特別受益としての)贈与は、相続開始前10年を境に、それより前のものについては遺留分権利者に損害を加えることを知っていながら贈与した(悪意知情の)ものに限られることとなった点と、この贈与も相続人以外の者に対する贈与と同じ一つの条文に納められたこと、
❷ 卒時遺産に贈与を加えて債務を引いた
算定基礎財産額から、遺留分割合とクオレ(法定相続分)を掛けて、受益額を控除して算出した遺留分額から、その者の相続による取得額を控除し、負担する債務額を加えるという、判例(最判平8・11・26)で示されていた遺留分侵害額の算定法が明文化され、侵害額請求の相手方である受遺者・受贈者が相続人である場合、その者に対する請求額からその者の遺留分額が控除されるべきことが示されたこと (この点も、判例を踏まえた改正でした。こちらをご覧下さい)、そして、一番大きな点として、
❸ 「遺留分減殺請求権」は廃され、「
遺留分侵害額請求権」が創設されたことです。
請求権が金銭債権に変ったこと
(私なりに、遺留分現債 請求権と呼ばせて頂きます)により、従前の一部減殺による残部相当額の給付 ( 旧1032条 )、受贈者による果実の返還 ( 旧1036条 )、受贈物譲渡による価額弁償 ( 旧1040条 )、受遺者・受贈者側からの価額弁償による目的物返還義務の免除 ( 旧1041条 ) は、新1046条に実質吸収されるか、不要となって削除されました。


遺留分原資に関する平成30年7月民法改正
 
遺留分の原資として算入されるべき贈与は、従来、まず1029条で単に「贈与」が持ち戻されるとした後、1030条で上記まとめのように、贈与を短期・長期と分けて持戻し対象とする旨規定し、さらに、民法最後の条文である1044条で相続人に対する特別受益(903条)を遺留分について準用するとしていましたが、上記まとめは、相続人以外の者に対する関係で、そのまま維持され (新1044条1項)、そして、相続人に対する関係では、同じ条の3項として、相続開始前の十年間にしたものが原則持ち戻されること、算入される価額は、特別受益の要素である「婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額(903条)である旨が規定され、そして当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知っていながら贈与をしたときは、十年前の日より前にしたものについても、持戻しを受けることになる旨規定されました。要するに、相続人以外の者に対する関係は変更がありませんが、相続人に対する関係では、これまで「遺留分権利者に損害を加えることを知ってした贈与」であるか否かを問わず、全て算入されるとされていたところを、十年より前にしたものについては、その点の悪意を要することとなり、これらが1030条1044条から 新1044条 に条数替えの上、1か条にまとめて規定されることとなりました。つまり、遺留分原資における「特別受益」は、本来算入されるべき贈与と、(卒時遺産に含まれているため)算入されるべきでない遺贈とを区別することなく、単に「準用する」 (1044条)としていたのを、遺留分原資に算入すべきはその内の贈与であること明示し、結果として、贈与としては、相続人に対する 特別受益のものと相続人以外の者に対する贈与の二種があり、期間としては、前者は10年、後者は1年を境として、期間を超えるものは知情であることを要するとする、という分かり易いスキームになったと言えます。そして、従来の負担付贈与(1038条)と不相当価格による有償行為(1039条)については、いずれも「負担付贈与」として一つに括り、その負担を控除して、持ち戻すべき「贈与の価額」とする旨、新1045条にまとめられました。ちなみに、遺留分規定は、従来1028条から1044条まででしたが、改正後は1042条から1049条になります。改正法の施行は、2019年7月1日からとなっています( 遺留分規定が後ろにずれたのは、その前に、従来なかった「配偶者居住権」の規定 (新1028条~1041条 ) が加わったためです)

したがって、
改正後の遺留分の原資のまとめは、次のようになります。
  1. 
贈与は、①生前一年間のもの、②超一年知情のもの ( 新1044条1項)
  
2.  特別受益は、①生前十年間のもの、②超十年知情のもの (新1044条3項)
  3. 
負担付贈与 (1038条) は、贈与した目的の価額から負担を控除した額 ( 新1045条)を、原資とする。
     
(不相当対価でした知情有償行為 (1039条) は、その対価を「負担」とする負担付贈与とみなし、 その負担額を控除 )

各相続人の遺留分額 具体的には、この原資から債務総額を引いた残りの1/2 (配偶者や子が相続人の場合) 、又は、1/3 (親だけが相続人の場合) を、1044条によって準用される900条901条によって定まる各相続人のクオレ(法定相続分)で分け、それから、各自の特別受益(贈与+遺贈)を控除したものが、相続人の遺留分額ということになります。

 

    遺贈贈与すぎて

      身内受
くべき
()さい
1031
なら

        今知ろう1046侵害額の請求

   
   必要範囲遺留分 現債をして


 

    人の死に1042今 通夜1028

      遺言(いごん)告げられて、
身内受くべき()さい1031なら

          遺留分した天与あり1042

     最小限
保障
兄弟姉妹にこれはなく

         
     (相続人が)(直系尊属)だけならば(遺産の)()

                       
(それ以外)ならば 半分じゃ

            
権利者具体的なる(遺留分)割合は それをクオレ900ける也

                   


 

遺留分を算定するための財産の価額
 
「遺留分の算定」と見出しされた1029条は、平成30年改正により、その見出しを削除され、本文1項中の「遺留分」が、このように改められて、「遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする。」となり、2項と共に、新1043条となって、同条の見出しも、このようになります。   

 
   遺留分
故人、遺贈生前贈与、

       身内忘
れたやりぎに自由1029減殺(現債)

   卒時
「記憶にもとおに ねぇべ1029わずに

       
過去贈与債務いて

          
遺留(分請求)予算1043財源とする。

ここでは「0」(レイ)を、形から「粒」に見立てて、(特別に)「リュウ」と読みます(恐縮です)。



遺留分原資条句

   遺留分故人卒時財産


         
生前直近一年間けし


        その
以前でも
(遺留分)食込らぬと


    言
わさんわ
1030 (遺留分権者に損害を加えると知っていながら贈与した)


     そんな
贈与算定うべきもの


     
903特別受益の贈与§1044


             
調べて
さんわ1030




    双方
(遺留分)食込承知財産

     
いいわサンキュー1039安値った

      売買等
(有償行為)贈与とみなし

              減殺請求
できる



       安
った買主 するなら

             その
負担 (ちい)さく1039返金(償還)すべし




侵害額算定条句


遺留分
故人卒時財産

    
 生前直近一年間けし

      又その
以前でも

     
食込らぬとわさんわ1030 そんな贈与+みなし贈与)


    呉
903特別受益の贈与(持戻し免除の遺言があっても)(§1044


   
負債(を)控除クオレ900(法定相続分)


  (
親だけが相続人の場合を除き、それ以外、配偶者・直系卑属等が継ぐ場合)


          
半分して呉れ産(特別受益の贈与と受遺)


                 引けば
そのまま 遺留分額。





平成30年改正遺留分条句
 
  遺留分故人 遺贈生前贈与、

     身内忘
れたやりぎに自由
1029現債(←減殺)



  故人卒時
財産


   故人
くなる直近

    相続人なら
間、その
(の受贈者)らば一年間

     「記憶
にもとおに ねぇべ1029わずに過去贈与

      より遺留分食込らぬ'とわさん1030

     
(遺留分権利者に損害を加えると知っていながら贈与した)そんな贈与

                    えてチョウヨ1044


   加えたら、債務 いた(額の)クオレ900(法定相続分)

           半分して(親だけが相続人の場合は三分の一)

         受益
(分=特別受益の贈与と受遺) いて、



    遺留分額出したなら、改正なって今知ろう
1046侵害額の算定は、


      
(相続による)
取得いてから、負担する債務があれば加算する

           

             相手方、相続人ならその遺留分額 ()控除する






     遺留分 権利有するその侵害額したら、

           その
金額支払いを請求できる
(支払を)
しろ1046」と

 

遺留分侵害額の計算 相続債務があった場合の遺留分侵害額の算定については、その方法を示した次の判例があります。 

被相続人が相続開始時に債務を有していた場合における遺留分の侵害額は、被相続人が相続開始時に有していた財産の価額にその贈与した財産の価額を加え、その中から債務の全額を控除して遺留分算定の基礎となる財産額を確定し、それに法定の遺留分の割合を乗じるなどして算定した遺留分の額から遺留分権利者が相続によって得た財産の額を控除し、同人が負担すべき相続債務の額を加算して算定すると判示した判例(最判平8・11・26)

 この判例は、さらにその判文中で「被相続人が相続開始の時に債務を有していた場合の遺留分の額は、民法一〇二九条一〇三〇条一〇四四条に従って、被相続人が相続開始の時に有していた財産 (私なりに「卒時遺産」と言わせて下さい) 全体の価額にその贈与した財産の価額を加え、その中から債務の全額を控除して遺留分算定の基礎となる財産額を確定し、それに同法一〇二八条所定の遺留分の割合を乗じ、複数の遺留分権利者がいる場合は更に遺留分権利者それぞれの法定相続分の割合を乗じ、遺留分権利者がいわゆる特別受益財産を得ているときはその価額を控除して算定すべきものであり、遺留分の侵害額は、このようにして算定した遺留分の額から、遺留分権利者が相続によって得た財産がある場合はその額を控除し、同人が負担すべき相続債務がある場合はその額を加算して算定するものである。」と判示して、卒時遺産に算入すべき「贈与」 (1029条) の中味を条文によって列挙しています。

これをまとめると (クオレは、900条の法定相続分のことです)、


 
遺留分算定の基礎財産額
  : (相続開始時に有していた)   (生前)         (遺留分権利者に損害を加える
     
卒時遺産の価額  
+ 1年間の贈与  +  ことを知っていながら贈与した) 1年より前の贈与 + 特別受益(贈与) - 債務全額

となります。ここで、付言すれば、私のまとめでは、遺留分の原資は、相続人以外の者に対する「短期贈与」、「長期知情贈与」、相続人に対する贈与(特別受益) (の「短期もの」、「長期知情もの」) で構成されていましたが、この判例①では「贈与」に一纏めにされているということです。適用条文を挙げていることからも、それらをまとめたことが理解できます。この判例は、少し複雑な算定方法を、分かり易い判文とするために、まとめの手法を用いたということです。



平成30年改正法による遺留分チャート

算定基礎財産額

  (相続開始時に有していた)        
     
 卒時遺産の価額      (生前)          (遺留分権利者に損害を加える   
(相続人以外の者に対する)      
+ 1年間の贈与  +  ることを知っていながら贈与した) 1年より前の贈与 

              
      (生前)                 (遺留分権利者に損害を加える
(相続人に対する)     
    + 10年間の贈与(特別受益の内の) +  ことを知っていながら贈与した) 10年より前の贈与(特別受益の内の) 
  
 
                 
- 債務全額




                                                           
(その遺留分権利者が特別
 
遺留分額                                              受益を得ていた場合その)
 
       : 〔 算定基礎財産額  × 遺留分割合(1/2)(例外的に1/3) × クオレ 900 特別受益(贈与・遺贈)



 
遺留分侵害額
       
遺留分額 - (その遺言相続による)取得財産額 + (法定相続分による)債務負担額

  遺留分現債請求の相手方となる受遺者・受贈者が相続人である場合は、その者に対する請求額からその者の遺留分額を減額してあげることになります。こちらをご覧下さい。





次に、判例①の延長線上のものとして、相続人の内の一人に対して相続債務を含む財産全部を相続させる趣旨の遺言がされた場合の遺留分侵害額の算定に関する判例があります。

相続人のうちの1人に対して財産全部を相続させる旨の遺言がされた場合において,遺留分の侵害額の算定に当たり,遺留分権利者の法定相続分に応じた相続債務の額を遺留分の額に加算することは原則としてできない旨判示した判例(最判平21年3月24日)

 この判例は、上記①判例で加算するとされた負担債務額について、一人の相続人が全財産を相続すると遺言された場合はどうするかについて、相続人のうちの1人に対して財産全部を相続させる旨の遺言がされた場合には、遺言の趣旨等から相続債務については当該相続人にすべてを相続させる意思のないことが明らかであるなどの特段の事情のない限り、当該相続人に相続債務もすべて相続させる旨の意思が表示されたものと解すべきであり、これにより、相続人間においては、当該相続人が指定相続分の割合に応じて相続債務をすべて承継することになると解するのが相当である。」、「相続人間においては当該相続人が相続債務もすべて承継したと解され、遺留分の侵害額の算定に当たり、遺留分権利者の法定相続分に応じた相続債務の額を遺留分の額に加算することは許されない。」「遺留分権利者が相続債権者から相続債務について法定相続分に応じた履行を求められ、これに応じた場合も、履行した相続債務の額を遺留分の額に加算することはできず、相続債務をすべて承継した相続人に対して求償し得るにとどまるものというべきである。」と判示しました。前述しましたとおり、遺言で相続人間での債務負担者や負担割合を定めることはできますが、それを債権者に主張することはできないので、債権者から法定相続分によった取立てを受けた場合はそれに応じて弁済をしなければなりません。しかし、遺留分侵害額の算定場面は、この債権者との対外的な場面とは違い、内部的な補償場面なので、加算は許されないということなのでしょうか。「求償」というのは、遺留分侵害額算定とは別場面である旨を表しているものと思われますが、やはり、①判例との対比では、「全財産を相続させる」場合だけの例外的な話ということになると思います。

 
遺留分減殺請求(民法1031条)

   遺留分減殺請求

   
通夜1028遺言(いごん)()でて(どこの)とも知らぬ者が)

     
 受遺多くして偕老同(仲むつまじく)きてきた

                 私
遺産
という内容の遺言)なんて

          
そんな理不尽さん
1031(減殺をして取り分〔遺留分〕を確保できる)
   

遺留分の章の最初に遺留分割合を定める従前の1028条は、平成30年改正により新1042条となり、( 遺贈又は贈与の減殺請求 ) 1031条は削除されて、これに相当する条文は、その見出しの変更を伴い( 遺留分侵害額の請求 ) 新1046条となります。

  人は死に
1042 通夜1028遺言書 (開かれて、どこの)
         馬の骨
(とも知らぬ者が)受遺多くして
       偕老同穴(仲よく)きてきた
         
遺産という内容の遺言)んて
                  
そんな理不尽わすも
1046忍ばず
              
(口にされるだけでも耐えがたい)


  
今様1042換言すれば 遺留分

      最小限保障 故、家族愛は(その)双葉1028(事の初め)でも
    
兄弟姉妹にこれはなく(相続人が)(直系尊属)だけならば(遺産の)()

                                              (それ以外) ならば 半分じゃ




減殺の方法・順序等 それでは遺留分減殺は実際にどう行ったらいいのでしょう。まず、減殺すべき遺贈や(生前)贈与の受遺者、受贈者に対する減殺請求 (民法1031条) を、内容証明郵便で意思表示し、当事者間で話がまとまらなければ、家裁に調停申立てをし、調停でもまとまらなければ、地裁で訴訟を起こすことになります。普通の家事事件ですと、調停不成立の場合、審判移行して、そのまま家裁で扱ってくれるのですが、遺留分減殺は大変面倒なことになるので、この点が一般市民にとって難儀なところです。この内容証明郵便での請求をめぐる判例(最判平10・6・11)があります。相続人中の一人に全てを与える旨の遺言のあった相続事案で、他の相続人が内容証明で遺産分割協議の申入れをしたのを、遺留分減殺の意思表示が含まれているものと受け止めるべきだとして、申入れの意向を汲んだ解釈をし、内容証明郵便が留置期間の経過により差出人に還付されたけれども、経過事情に照らせば意思表示が到達していると認められるともして、当事者の意に沿った解釈に努めた判決と言えます。なお、家裁での調停申立て書式はこちらです。
 減殺請求は、これを認める民法1031条に「減殺を請求することができる」とありますように、請求するかしないかは遺留分権利者の意思にかかります。そして、遺留分減殺の相手に受遺者と(生前贈与による)受贈者がいる場合は、民法1033条により
受遺者が先で、受贈者は後という順序になります。また、受贈者が受贈物を既に他に譲渡してしまっている場合には、受贈者は価額弁償によって減殺に応じなければなりません。その場合、譲受人が(遺留分権者に損害が発生という事情につき)知情であれば、その者にも減殺請求することができます (民法1040条)。そして、この民法1040条は、判例(最判平10・3・10)により、受遺者が受遺物を他に譲渡してしまった場合にも類推適用され、遺留分権利者は受遺者に対し価額弁償を求め得るとされています。
 目的物譲渡の場合以外でも、減殺請求された相手方は、目的物の価額を弁償して、その返還を免れることができます
(民法1041条) 価額弁償による返還免除〕。なお、贈与に、一定期間第三者に一定額の寄付をすべしという様な負担がついている場合を負担付き贈与と言いますが、その様な場合、民法1038条は、「その目的の価額から負担の価額を控除したものについて、その減殺を請求することができる」としています。
 平成30年相続法改正による変更について、こちらをご覧下さい。



    遺留分侵遺贈贈与でも

     初手
から無効とはならず

      
遺留分 権利有するその
1031

        (
減殺意思の有無)つに也。


遺留分減殺請求について定める従前の1031条は、平成30年改正により新1046条となります。    

    遺留分侵遺贈 贈与でも初手から(侵害額の)負担とはならず
        遺留分 権利有するその (請求)する1046 (減殺意思の有無)つに係る也。

    


    
     減殺める()(我が)1033

         
とおに
(記憶に)ねぇべ 1029れた過去

    贈与
ムリムリるよりはらぬ 遺贈 をば

        
減殺すべき (引渡しを求める必要がない、引渡しを拒むだけでよい)

                    「ネェベ」は9の西語「ヌェベ」から



      () (減殺)れる受贈目的

    「(他の人に)
しま1040した持主(ほか)ますわ1040

            
(と言って減殺を免れることは)
されず価額弁償すべき

     
但し、譲渡をば(遺留分)食込承知けたなら

           受
けたにも減殺求


         
受贈物上他権利設定あるとき



 
      減殺(物の)返還 られ、ひと思案1041

     「
(物の)返還てよい1041(価額)えれば

       定
りに減殺りで価額支払って

           とうとう
(返還)不要わしたん1041




 遺留分侵害に対しては、受遺・受贈が侵害の限度で失効し、その限度で現物返還義務が生ずべきことを前提としていた従来のスキームが、平成30年の改正により、侵害額を金銭で支払う形で対処することとなりましたから、従来、他に譲渡してしまったことにより、金銭弁償義務に代わる、或いは、受遺者・受贈者の方から減殺を受ける限度で、金銭弁償に替え得ることについて定めたこれら1040条1041条は、新1046条により金銭負担が本則化されたことにより実質的に吸収され、不要となって、削除されることとなりました。



      負担付贈与減殺

       贈与
(額)から負担 額引残額限(で)

                       
減殺(びと)はとれよう1038


      受贈していた負担(手に)1038

               
負担(額)いた残額

                (
遺留分)減殺請求受けようぞ




         
双方(遺留分)食込承知 (相続) 財産

          「今少
1045しまけろやかけしたての

    

        いいわ 」「サンキュー
1039安値(有償行為は)

         負担付贈与
とみなし遺留分
(侵害額)請求することできる


 従来の負担付贈与(1038条)と不相当価格による有償行為(1039条)については、平成30年の改正により、いずれも贈与と捉え、算入すべき「贈与の価額」を、贈与の目的の価額から ( 不相当な価格での売買等の場合は、その価格を「負担」とし ) 負担の価額を控除した額として、新1045条にまとめられました。


遺贈・贈与複数あるときの減殺請求 
複数の遺贈は、その価額の割合に応じ按分して減殺し (民法1034条) 、複数の贈与は新しい物から順に減殺します (民法1035条) 。

    

     複数遺贈 減殺すべきならタンマリとれよ1034

            価額割
按分によりみんな から(全遺贈から)

                 但し 減殺の順や割合指定する別意 遺言にあれば別。



遺留分減殺に関する平成30年7月民法改正
 
同年7月13日公布にかかるる民法の改正により、遺留分減殺の規定がかなり改められました。まず、従来「減殺」と呼ばれていたことを「侵害額の請求」とすることとなります。つまり、「減殺」として、対象たる遺贈や贈与を遺留分保全に必要な範囲で無効としていた法律効果を改め、金銭債権を発生させるものとした訳です。それで、当ホームページでは遺留分を侵害する贈与・遺贈に対して、その受益を減ずるべく金銭債権を発生させるという意味から、その呼び方の音を維持して「現債」とさせて頂きます。遺留分侵害に対しては金銭の支払いで対処することとなりましたから、従来現物の返還をすべきことを前提として、他に譲渡してしまったことにより、或いは、減殺を受ける限度で、金銭での弁償に替えることについて定めた1040条1041条は削除されることとなりました。減殺による贈与・遺贈の遺留分限りでの失効と遺留分権利者による遺留分限りでの権利取得とによって、目的物には受贈者・受遺者と遺留分権利者との共有関係が成立し、また、その持分が単純ではない数値になる等、種々煩雑な対応を迫られることとなって問題であった点がこの改正によりスッキリと解決が図られることとなります。
 そして、従来見出しで「遺贈又は贈与の減殺請求」とされていた1031条が新1046条
( 見出しは「遺留分侵害額の請求」 ) となり、同条は、遺留分侵害額は、侵害を受けた相続人の遺留分額から相続により取得する財産の額と、受けた903条の特別受益の額、受遺贈額を控除し、その者が負担する相続債務額を加算して算出する旨を定めます。そして、従来の1033条から1035条にあった減殺の順序・割合に関する規定を、次の1047条 ( 見出しは「受遺者又は受贈者の負担額」 ) にまとめて下記の1.~3.のように定め、又、従来1037条にあった、受贈者の無資力による損失の負担は遺留分権利者の負担とする旨の定めも、受遺者無資力の場合と合わせて同条中に規定されることになりました ( 新1047条4項 ) 。また、同条1項には、受遺者・受贈者の負担は、目的物の価額が限度であり、また、受遺者・受贈者が相続人であるときは、その者の遺留分額を控除した額である旨、従来の判例に沿った負担額の限度が定められました。なお、この改正法の施行は、2019年7月1日からとなっています。
 1. 受遺者と受贈者があるときは、受遺者が先に負担する
( 新1047条1項1号)
 2. 受遺者が複数あるとき、又は、受贈者か複数ある場合においてその贈与が同時にされたものであるときは、受遺者又は受贈者がその目的の価額の割合に応じて負担する。但し、遺言者が別段の意思を表示したときは、その意思に従う
( 新1047条1項2号)
 3. 受贈者が複数あるとき
(前号の場合を除く) は、後の贈与にかかる受贈者から順次前の贈与にかかる受贈者が負担する。( 新1047条1項3号)



    
遺贈贈与すぎて

     身内受
くべき
()さい1031なら


   遺留分
権利有するその(及びその相続人)は、

      遺贈・
贈与権利限度


     
「失効せしむ
(平成30)改正

        
(侵害額を)支払いせいわしむ1046



 受遺者が複数あるとき、各受遺者はその目的の価額の割合に応じて負担するとする点は、従来通りですが、受贈者が複数ある場合においてその贈与が同時にされたものであるときも、同様に各受贈者がその目的の価額の割合に応じて負担するという改正点も含んだ条句となります。同時になされた場合以外の複数贈与での新しいものからという条句もどうぞ。


     複数 遺贈 減殺すべきなら

       タンマリ
とれよ1034価額割

     按分
によりみんな から(全遺贈から)

     
但し 減殺割合指定する別意 遺言にあれば


     複数贈与同時になされたらじく按分しな1047さい




     前後複数 贈与があれば

     
1047() 安穏(あんのん)(とりこ)1035いやり

       新
(しい贈与)から直近から 減殺すべし



相続人間での遺贈の遺留分減殺 相続人間で複数の遺贈を、1034条の言う 「目的の価額の割合に応じて減殺」 する際の「目的の価額」とは、受遺者にも遺留分があるため、その遺贈の全額が減殺されると今度は受遺者の遺留分が侵害されるので、その遺贈の目的の価額のうち受遺者の遺留分額を超える部分のみが、同条にいう目的の価額に当たるものというべきであるとする判例 (最判平10・2・26 ) があります。そして、この点は、受遺者・受贈者が相続人( 遺留分権利者 )である場合は、その者が遺留分として受けるべき額を控除した残額が、遺留分侵害額を負担する限度としての「目的の価額」となるという形で、平成30年の改正による新1047 条の1項に盛り込まれました。

減殺請求相手方の無資力 なお、民法1037条は、「減殺を受けるべき受贈者の無資力によって生じた損失は、遺留分権利者の負担に帰する」と規定しますので、相手方受贈者の無資力・不奏功による損害は遺留分権利者が負うことになります。つまり、対象となる全贈与を卒時遺産に算入し全債務を控除して、算定基礎財産が定まったら、そのパイから遺留分である通常1/2の額の内のその相続人のクオレ分 ( 法定相続分 ) が確保できるまで、対象の贈与を定められた減殺の順序に従い減殺しますが、受贈者の無資力のため意図しただけの回収ができなくても、順序を変えて他の受贈者から減殺することはできません。前述の愛人の例えで言えば、被相続人が別にも愛人がいて、そちらにも贈与をしていたとしても、減殺順序が内一人に定まれば、無資力のためその者からの減殺が奏功しなかったとしても、他の方には減殺請求できないことになります。そして、その定まった受贈者の受贈目的の価額が遺留分額に満つるまで、他の遺留分権者からもその受贈者に減殺請求が集中しますが、目的の価額が遺留分額に不足するときは、次順位の受贈分に及ぶことになります。これは受遺者に対しても類推適用されると解されています。平成30年改正法では、この受遺者に対する関係も含め、まとめて、見出しは ( 受遺者又は受贈者の負担額 )である 新1047条 の4項に規定されることになります。



      減殺受遺者・受贈者 無資()ならば

        
(ほか)(の受遺者・受贈者)減殺 わさんな1037

       減殺(びと)はとれな
1037くて

         その
その そなた(減殺する人)

           「欲かくなとはわすな1047




減殺請求権の消滅時効 また、遺留分減殺請求には行使できる期間の制限があります。民法1042条は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、減殺請求権が時効によって消滅し、また、相続開始の時から十年を経過したときは、これらのことを知らなくとも、消滅する旨を定めています。なお、この規定は、平成30年の改正により、条数が変わって新1048条となります。



    相続後戻りなどせんように1042

     相続
(開始) 贈与 遺贈 のありしこと って一年

       
(知らぬままでも)死後十年減殺請求()時効消滅


     

    遺留分 (侵害額)請求権 時効 1048

            って一年、死後十年



遺留分減殺請求権の性質・減殺請求相手側からの時効主張
 遺留分減殺請求権は、契約の解除権と同じように、「当事者の一方的行為により法律関係の発生・変更・消滅を生ぜしめ得る権利」と言われる形成権とされています。
消滅時効の主張に対して: 従って、これが行使されると当然に効力が生じて、減殺された遺贈や贈与は、遺留分を侵害する限度でその効力を失います。同旨の判例① (最判昭41・7・14)があります。この判決は、減殺請求の相手方受遺者から減殺請求権が既に民法1042条の消滅時効にかかっているとの主張がなされた点について、減殺請求は裁判上の請求を必要としないから、本件で遺留分権利者から減殺の意思表示がなされた以上、既に確定的に減殺の効力を生じているので、もはや民法1042条の消滅時効を考える余地はないとした原審の判断を肯定しています。
取得時効の主張に対して: 次に、減殺請求を受けた相手方受贈者から受贈物についての取得時効の主張がなされた事案の判例② (最判平11・6・24) があります。この判決は、「減殺請求により、贈与は遺留分を侵害する限度において失効し、受贈者が取得した権利は右の限度で当然に右遺留分権利者に帰属するに至るものであり、受贈者が、右贈与に基づいて目的物の占有を取得し、民法162条所定の期間、平穏かつ公然にこれを継続し、取得時効を援用したとしても、それによって、遺留分権利者への権利の帰属が妨げられるものではないと解するのが相当である」とし、その理由として「民法は、・・遺留分減殺の対象としての要件を満たす贈与については、それが減殺請求の何年前にされたものであるかを問わず、減殺の対象となるものとしていること、前記のような占有を継続した受贈者が贈与の目的物を時効取得し、減殺請求によっても受贈者が取得した権利が遺留分権利者に帰属することがないとするならば、遺留分を侵害する贈与がされてから被相続人が死亡するまでに時効期間が経過した場合には、遺留分権利者は、取得時効を中断する法的手段のないまま、遺留分に相当する権利を取得できない結果となることなどにかんがみると、この場合の受贈者は、減殺請求がされれば、贈与から減殺請求までに時効期間が経過したとしても、自己が取得した権利が遺留分を侵害する限度で遺留分権利者に帰属することを容認すべきであるとするのが、民法の趣旨であると解されるからである」としています。ですので、遺留分権利者と減殺の相手方とは、減殺と同時に目的物を共有する関係に立つことになります。 

平成30年改正によって上記の時効主張に及ぶ影響
 
上記のように、従来の遺留分減殺による贈与・遺贈の無効化という効果は、本改正により、金銭債権たる侵害額請求権の発生という形に変わりました。したがって、無効化を前提とするこれまでの判例も変更を迫られることとなります。まず、①の消滅時効については、侵害額請求権の行使と同時に、発生したその金銭債権の時効が進行することになりますから、その債権は、通常の金銭債権の時効期間である10年の経過により時効消滅することとなります。但し、相続法の前に改正された新しい消滅時効規定 (新166条:令和2年(2020年)4月1日から施行)により、新法の施行日以降は、行使できることを知った時から5年、行使できる時から10年で消滅となります。ですから、遺留分行使の相手方の主張としては、知って一年・死後十年という遺留分侵害額請求権の時効の他に、行使によって発生した金銭債権の消滅時効も主張することが考えられます。そして、②の取得時効については、その贈与・遺贈の目的物の所有権は、何ら影響を受けることなく、受贈者・受遺者に留まったままとなり、その目的物とは離れて、別に侵害額相当の金額債権が発生することになりますから、そもそも取得時効の主張は不要であることとなり、上記②の判例によるやや強引な感のあった遺留分効果は昔話となることとなります。 


遺留分放棄 相続人は、相続開始後、特に遺留分の確保を欲しなければ、これを放棄 (遺言による遺留分侵害事態に対して、これに異を唱えない旨を他の相続人に対して意思表示)する ことは自由ですが、相続開始前の遺留分放棄には家裁の許可が必要です (民法1043条)。遺言による自己の取り分が増えることを目的とする他からの圧力で放棄させられたり、離婚・離縁等他の身分関係との取引条件のようにして不当な圧力を受けることがあってはならないからです。共同相続人の一人が遺留分を放棄しても、他の相続人の相続分がダイレクトに増えるということはなく (被相続人に働きかけて間接的に遺言内容に手を回す形になります) 、他の相続人に対する直接の影響はありません。そうではなく、被相続人の自由に処分できる割合 (自由分) が増えることになります。相続人としては子が兄弟二人だけの親 の相続について、弟が遺留分 (1/4) を放棄しても、兄の遺留分 (1/4) が増えることはなく、親が遺言で処分できる自由分が1/2から3/4に増えることになります。その兄が親に遺言を働きかけ、その遺言での自分の取得分を多くするため、弟に遺留分放棄をさせる様なことのないよう、家裁が審査をし、許可・不許可を判断することになります。なお、この遺留分放棄の規定1043条は、平成30年7月の改正で、新1049条となります。

   
   相続(開始)家裁許可する

   遺留分放棄
1043があれば

    
(遺言(いごん)者の)自由予算(自由分)える

       
ぐに(の遺留分)影響はなし


    身内
らが自由()しさに血迷っとれ1043

            家裁
容易許可はせぬ

 
  

 はよく1049 

   遺留分放棄
があれば ()(相続人) 利得する

         や に
うけれど他の者(ちょく)には利得なく、

      遺言
する
(者の)自由予算 1043(自由分)えるだけ




遺 言

 人の最終意思による、死後の法律関係を定めるための処分行為と言われる遺言ですが、法律用語としては「いごん」と読みます。しかし、このホームページでは一般に親しまれている「ゆいごん」での読みを原則とし、条句で例外的に「いごん」と読む場合はなるべくルビを振りました。そして、これまで、「相続」、「遺贈」、遺言相続、遺言による相続分の指定、「相続させる」遺言、そして遺留分etc.と、遺言に関連する事柄の記述が多かった訳ですが、ここで、これまでのまとめ的にも、私なりの「遺言のすすめ 10のポイント」の形にして、ご参考に供したいと思います。


遺言のすすめ 10のポイント
 相続にまつわり次のような事情のある場合は、遺言をされることをお勧めします。
 お勧め条句もご覧下さい。お勧めの理由は後記「ポイントごとの理由」をご覧下さい。

     いゆけば、急務968に、ずは自筆遺言(いごん)すること

     念のため、次いで、遺言公正証書 公務扱969 公正証書遺言、検認不要保管安心

1. ご自分の出生以来の全戸籍を相続人に収集させるには負担や面倒が予想される場合。→1.
2. 相続人の中に行方や所在が不明な人がいる場合。→2.
3. 内縁者や世話になった長男の嫁など、法定相続人以外の人に財産を与えたい場合。→3.
4. 相続人間でも法定の相続分どおりに分ける訳にはいかない事情のある場合。→4.
5. 長年行き来のない兄弟(姉妹)はいるが、子も、孫もいないので、配偶者に遺産全部を遺してやりたいという場合。→5.
6. 子供たちの中に、これまで、親の自分から、持参金や学資、開業資金等、多目の生前贈与をしてきた者がいる場合。→6.
7. 相続債務の返済や遺産相続手続きが複雑多岐にわたりそうな場合、或いは、相続人間の葛藤・トラブル等から遺産分割協議が穏便に整う可能性が低い場合。→7.
8. 相続人の内の一人に返済資金を継がせ、相続債務を返済させたい場合。→8.
9. 生命保険金受取人を変更して、遺産分けの一環としたい場合。→9.
10. 遺言書の確実保管と家裁での検認回避のためには、公正証書遺言がお勧め。但し、2020年(令和2年)7月10日以降は、申請すれば、法務局で自筆遺言書を保管して貰え、検認も不要となります。→10.


以下は、各ポイントごとのお勧めの理由です。

 遺言がない場合、相続手続きでは、まず「相続人は誰か」、「この者らがその相続人です」の2点を証明するため、故人の出生以来の戸籍と全相続人の戸籍
(戸除籍謄本の束) を提出する必要があります (全相続人の探索)。遺言書を作成すれば、この「誰が相続人か」の問題を飛び越して、例えば「わが子に相続させる」とする訳ですから、相続人は「私がその子です」という自分の戸籍・身分証明(実印+印鑑証明書)だけ出せば足りるので、遺族は故人の全戸籍を収集する苦労を免れます。しかし、遺言書を作成した場合でも、その執行段階で、改竄を防ぐ、家裁での (全相続人を呼び出した上での)「検認」手続きのため、家裁から同様の資料の提出を求められるので、実際に、この負担を全て免れることができるのは、今のところ、検認が不要とされる公正証書遺言だけです。ただ、今回、法制化された法務局における自筆遺言証書の保管制度が施行日を迎えれば、保管された遺言書は検認が不要となるので、資料収集が不要となるメリットに加え、保管についても安心できることになります。この法務局保管の施行日は、2020年(令和2年)7月10日とされました。なお、ポイント10.の説明もご覧下さい。
 なお、上記資料作成の負担軽減策として最近可能となったものに、「法定相続情報証明制度」があります。登記所
(法務局)に必要な戸除籍謄本等の束を提出し、併せて相続関係を一覧に表した図(法定相続情報一覧図)を提出すれば、登記官がその一覧図に認証文を付した写しを無料で交付してくれるので、例えば、同じ遺言で数カ所の登記所を巡らねばならないときは、戸除籍謄本等の束何束もに代えて、その一覧図を一か所ずつ一枚で済ますことができますし、金融機関等、その他の所での相続手続きでもそれで済む可能性があります(予め確認することをお勧めします)。また、遺言に伴う一連の手続シリーズ最初の (家裁での) 検認の際のお話ですが、戸除籍謄本の原本提出を求められるので、必ずそのコピーも持参、提出し、合わせて、手続終了後の「原本還付」も申請しておくと、コピーで賄え、原本は返してくれますから、原本が以後の手続きにも使えて節約になります。以後の手続きでも同様にして節約できる場合があります。

 遺言がない場合、1の負担に加え、遺産分けには、全相続人によって「遺産分割協議書」が作られねばならず、これには全相続人の署名捺印と、印鑑証明書の添付が必要となります。一人でも欠けると遺産分けができません。行方不明の相続人がいる場合は、家裁に不在者財産管理人を選任して貰い、家裁の許可の下でその不明相続人の代理として、遺産分割協議に加わることになります。また、不明が長期にわたり、通常7年間
( 危難に遭っての不明であれば、危難が去ってから1年間 ) 不明が続けば、失踪宣告を出して貰って、その者が死亡したものとして、さらにその後の対処が必要となります。もし、遺言によってこのような不明者に相続させたい・遺贈したいという場合は、同様の手続きを践んで管理人に受取と管理をして貰うことになります(亡くなった人には勿論相続させることはできません)が、そうでない場合は、遺言でそれらの手続きを回避して、所在の明らかな者に取得させる遺言をすることができます。そして、何より、遺言がなく、遺産分割によって分ける他ない場合、分割の結果で不動産登記をするにもやはり遺産分割協議書と上記被相続人の戸除籍謄本の束の添付が必要となりますから、上記の面倒は登記の場面でも同様に続きます。遺言で「相続人相続させる」と定めておけば、遺言書を添付してその相続人単独で登記申請することができますから、登記手続上も簡便です。

3. 遺言がない場合、相続は、(入籍した) 配偶者等法定相続人にしか認められないので、法定相続人以外の者への遺産分け、寄付等は、遺言によらなければできません ( 但し、生前に受ける人との間で死因贈与契約を結んでいた場合は、「遺贈」と同様に扱われます。また、平成30年の相続法改正により、無償で療養看護その他の労務を提供したことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした親族には「特別寄与料」が認められることになりました )。但し、(ここから先は遺言書作成のポイントになりますが) 相続人以外の者にあげたり、寄付する場合は、前2.での「相続させる」ではなく、「遺贈する」という書き方になります。そして、この場合、不動産登記等はあげる側と受ける側の双方申請となりますから、相続人全員かそれに代わる遺言執行者と受遺者とによって登記申請することになります。ですので、遺言のスムーズな実行のためにも、遺言の中で「遺言執行者」の定めを置くことは必須と言えます。また、寄付する相手方から寄付を拒まれた場合、その財産は遺産分割協議を経ないと宙に浮いたままになりますので、予め、受けてくれるか否か打診しておく必要があります(殊に、不動産の寄付は、現物で受けることを拒否されることが多いので、打診が必ず必要です)

 障害その他で特に経済的支援を要する子に多く分ける必要がある、事業に協力してくれている子に事業と財産を継がせたい等、法定割合でない配分を希望する場合は、遺言で割合を指定できます。但し、遺留分には要注意です。しかし、実際に、包括的な割合だけ指定した遺言は、その割合で具体的に遺産分けするには遺産分割協議が必要となりますので、遺言するメリットが失われます。具体的に特定した財産を誰に相続させるという形で記載することにより、望む配分割合となるようにしましょう。

 「連合いの兄弟姉妹とは長年行き来がないから、遺産分けの話などないだろう」と安心していると、連合いが亡くなった後、遺産の1/4
( 義父母が健在であれば、義兄弟姉妹ではなく、義父母に1/3。いずれも、複数であれば、これを人数で割ります ) の遺産分けを要求されるかも知れません。例えば「全ての遺産を妻(夫)○○○○に相続させる」と遺言しておけば、そのような突然の要求を防ぐことができます。 行き来がないどころか、逆に、葛藤やトラブルがあるという場合は、兄弟姉妹に対する相続人廃除の申立てはできませんので、一層、遺言でその者の取得分はない旨を定めておいた方が無難と言えます。但し、義父母がいる場合、そのような遺言があっても、遺留分1/6を要求されるかも知れませんが、それは、必ずというものではなく、義父母の意向次第ということになります。兄弟姉妹には、遺留分は認められていないので、取得分はない旨の遺言もそのとおり執行されることになります。

6. その場合遺言がないと、計算上、それらの生前贈与 ( 特別受益 ) はみなし遺産として一旦遺産に持ち戻されて、それを法定の相続分で分けるという、調整の計算 (個戻算法)が必要 となります。混乱が生じたり、意外なことにならぬよう、予め、遺言で、「持戻しはしないでよい」とした上で、遺留分に注意しつつ、(完結遺言となるよう)全遺産の取得者を定め、遺言者としての最終意思が現れている形にすれば、持戻し云々の余地もないことになります。また、過去の贈与分も考慮に入れて配分をした旨を、遺産分けをする本文の後に、「付言事項」として記載しておけば、得心のいく遺言となります。

. そのような場合、遺産分割協議が難航して何年も相続が決まらない事態にもなりかねませんし、遺産分割協議ができても、それによる登記等の遺産分け手続きには全相続人が参加しなければならない等、大変に煩雑でかつ困難な作業を伴うことになります。遺言で全遺産についての処分を定めれば遺産分割協議は不要となり、大きな関門を一つ通過できますし、あとの遺言執行も、遺言執行者を指定すれば、遺言執行者は遺言内容を実現するために必要な一切の行為をする権利と義務を負います
( 平成30年改正により明文化されました ) ので、手続きがスムーズに進む上、相続人による執行行為を妨げる行為は、無効 ( この点も平成30年改正により明文化されました ) とされるので、遺言実現の可能性がさらに高まります。(なお、複数の矛盾する遺言は、最終の遺言が効力を持ちますが、平成30年改正法により、遺言による取得財産につき登記等によって公示方法を具えないと、先に登記等を経た者に対抗できないことになりますので、そのような意外な結果を招かないためにも、取得者は早期に登記等を具えると共に、遺言する人も、重々心して複数の遺言が残らぬようにし、もし、複数となる場合も、不要となった遺言書は確実に廃棄する等の注意が必要です。)

8. 相続人は、相続債務を免れることができず、債権者から相続分に従った取立てがあれば応じなければなりません。但し、遺言で、債権者とは関係なく内々で、相続人の間だけの負担割合等を定めることができますから、債権者の取立てに応じた相続人は、遺言による負担割合による求償を求めることができます。場合によっては、(予め承認を得ておいて)個人事業を承継させ、合わせて、借金返済用に財産の多くを相続させることとした者に全ての債務を負わせる旨を定めることも可能です。債権者の方から、これら遺言による債務承継を認めて貰えれば、他の相続人に借金返済の面倒や不安をかけずに済みます。

9. 平成22年の法律改正により、遺言による生命保険金の受取人変更が可能となったので、生命保険金を遺産配分の調整材料にすることができます。但し、相続開始後すぐに保険会社に受取人の変更を通知しないと、元の受取人に支払われかねませんので、遺言で、その通知をすべきことの記載をすることが欠かせません
(「遺言作成のポイント」の9、自筆遺言例の3条参照)

10 遺言があっても、家裁で「検認」を経た旨の「検認済証明書」の提出がないと、不動産登記も銀行口座の名義変更もできません。家裁での検認には、全相続人の呼出可能な資料を提出する必要があります。遺言公正証書は、公務員である公証人が作成し、公証役場で保管されて、改竄の恐れもないので、改竄防止のための検認手続きは不要とされています
(なお、遺言公正証書の有無、保管場所は、最寄りの公証役場での「遺言検索」により無料で調べることができます )。平成30年7月に法務局における自筆遺言証書の保管に関する法律が公布されました。これにより、自筆遺言証書は遺言者自身によって法務局に保管を申請することができることとなり、遺言者が亡くなった後に相続人、受遺者或いは遺言執行者から申請があれば、その保管証明書の交付請求、或いは、その閲覧請求、遺言書の画像情報証明書の交付請求ができることになりますし、また、この法務局の保管にかかる遺言書は家裁の検認を要しないこととなりました。したがって、自筆遺言のネックとされてきた保管と検認という関門が取り払われることとなり、自筆証書遺言の普及が一層進むことになるものと予想されます。なお、同法の施行日は、2020年(令和2年)7月10日となっています。



遺言の基本的約束事 

1. 遺言の方式 それでは、ここで、遺言をするに当たっての基本の約束事を確認しておきたいと思います。まず、民法960条は、遺言は民法の定める方式によらなければすることができないとして、遺言がいわゆる要式行為であることを定めています。しかし、余り要式性や形式性を厳格にすると遺言に対する利用意欲を低下させかねませんから、例えば、具体的な例として「押印」について、指印でもよいとし、或いは、「契印」について必ずしも必要でない旨の下記各判例が出る等して、形式についての厳格性を緩和し、又、内容もなるべく有効となるよう合理的解釈に努める (例えば、最判昭58・3・18) 等の、利用の普及に向けた努力が払われています。なお、平成30年7月13日に民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律及び法務局における遺言書の保管等に関する法律が公布されました。その内、ここで関係のある、自筆証書遺言の方式に関する部分については、こちらをご覧下さい。
指印有効判例 (最判平成元年2・16) :指印で足りるとする判例は、その理由について、次にように判示しています。民法968条1項が「自筆証書遺言の方式として自書のほか押印を要するとした趣旨は、遺言の全文等の自書とあいまつて遺言者の同一性及び真意を確保するとともに、重要な文書については作成者が署名した上その名下に押印することによつて文書の作成を完結させるという我が国の慣行ないし法意識に照らして文書の完成を担保することにあると解されるところ、右押印について指印をもつて足りると解したとしても、遺言者が遺言の全文、日附、氏名を自書する自筆証書遺言において遺言者の真意の確保に欠けるとはいえないし、いわゆる実印による押印が要件とされていない文書については、通常、文書作成者の指印があれば印章による押印があるのと同等の意義を認めている我が国の慣行ないし法意識に照らすと、文書の完成を担保する機能においても欠けるところがないばかりでなく、必要以上に遺言の方式を厳格に解するときは、かえつて遺言者の真意の実現を阻害するおそれがあるものというべきだからである」と。これは、自筆証書遺言について、「全文の自書とあいまって」と述べて理由付けされた判決なので、他の方式の遺言書全てについて指印で足りるとすることまでは、未だできないものと思われます。
契印不要判例 (最判昭36・6・22) : この判例は 「遺言書が数葉にわたるときであつても、その数葉が一通の遺言書として作成されたものであることが確認されれば、その一部に日附、署名、捺印が適法になされている限り、右遺言書を有効と認めて差支えないと解するを相当とする」と判示しています。



    
民法めに 遺言

    効力十全
960苦労 零960さあれ

      民法定
めおく
方式 とらねば効力ナシ960



2. 
遺言の種類  ここで、遺言各種については後に説明させて頂くことにして、とりあえず予備知識的に、遺言は、原則、普通方式の3種類、自筆証書 (§968)公正証書 (§969)秘密証書 (§970)のいずれかでしなければならず、特別方式が許される各条件を満たす場合には、それによってもよい旨を定める民法967条の条句と特別方式4種(伝染病隔離者遺言§977在船者遺言§978臨終遺言§976遭難船臨終遺言§979)を紹介する条句だけをご覧頂くこととします。そして、これら計7種の遺言の内、ただ一つ、緊急危急のため、「遺言書」が作成されないものがあり、それが遭難船臨終遺言(§979)ですが、これについては書面が存在しないので、後述の遺言書に対する「検認」が不要とされること、また、残り6種の内、ただ一つ、書面があるのに検認が不要とされるものがあり、それが公正証書遺言 (§969)であること (§1004) を付言しておきたいと思います。


  
遺言(ゆいごん)種類967らば、普通 (方式) 特別(方式)

   普通方式自筆§968秘密§970(公証人作成の)公正証書§9693種也

  特別(方式)は、臨終§976、(伝染病)隔離者§977在船者§978船舶遭難(者遺言§979)4種也


        遺言普通方式依るべきところ

           
(公証)役場るな967公正秘密2種あり

            出向くのが苦労967自筆(証書)出来る、

                   し、出張可能公証人

        (公証人の役場外出張による公正証書作成も可。公証人法§57§18§17)



        通常は、普通方式 当然 なるも、める特別
         事情
クールな
967対処 可能であれば
           特別
方式4種、急場てる




     こんな
977伝染病隔離者遺言で、苦難急 979遭難船臨終遺言とか

       
急南無 976臨終遺言 急煩時での困難978在船者遺言

                    
クールな 967対処急場てる




3.
証人・立会人 遺言では自筆証書遺言以外の遺言について、いずれも証人の立会い、或いは、隔絶地 (伝染病隔離者§977や在船者§978) で公証人の関与困難な状況下では、警察官、船長或いは事務員という公証人に代わる公の或いは職務上の立場での立会人を要する旨定められ、証人・立会人が重要な構成要素になっています。
 公正証書遺言の場合ですが、
証人の職責は、① 遺言者が人違いでないことの確認、② 遺言者が正常な精神状態で口授をしていることの確認、③ 遺言書が正確に記載されていることの確認、にある旨を説き、これに照らして、視力に障害があるとの一事から直ちに証人としての職責を果たすことができない者であるとしなければならない根拠を見出し難いとして、盲人にも証人適格がある旨を判示した判例 (最判昭55・12・4)があります ( 詳しくはこちらをご覧下さい )。公正証書遺言に関する判例ですが、証人の職責として他の方式の証人にも当てはまると言えます( 但し、遭難船臨終遺言(§979 )については、「遺言書」はないとされ、代わりに「遺言メモ」が筆記されますから、そのメモの正確性が確認対象となります)。そして、上記の立会人についても、その職責として、この三点を挙げることができますが、上記立会人は、それを公の、或いは職務上の立場から保障する身分であると言えます。
 民法974条がこの証人・立会人についての
欠格事由を定めています。未成年者 (成年擬制の場合は除きます) はその能力不足から証人・立会人にはなれません。また、相続人や受遺者、それらの配偶者、直系血族は証人や立会人にはなれませんし、公証人の配偶者、四親等内の親族、公証人の下で働く公証役場の書記や使用人もなれません。それぞれに遺言をしてもらうについて利害が疑われてしまうからです。
 また、これら証人・立会人はいずれも署名を求められますから、自署可能であることが原則、必要となります。ただ
伝染病隔離者遺言(民法977条)在船者遺言(978条)遭難船臨終遺言(979条)では、証人・立会人中に自署のできない者がいる場合、民法981条により、他の証人・立会人がその事由と共にその旨を付記すれば足ります (これがないと遺言が無効になります) から、証人・立会人中の一人が自署とその付記ができれば、クリアできることになります。したがって、証人・立会人を要しない自筆遺言(968条)の場合は別として、残る臨終遺言(976条)、公正証書遺言(969条)、秘密証書遺言(970条)での証人については、署名できない者は事実上の欠格となります。なお、公正証書遺言の場合、遺言者本人が署名できないときは、公証人がその事由を付記して代署することができます(969条4号)。要するに、自筆遺言を除くその他の遺言では、証人・立会人の自署不能について、隔離・隔絶・船の中 (遭難船を含め) の遺言だけは、付記でクリアできるが、それ以外は、自署不能=欠格 (事実上) ということになります。
 なお、要件としての証人の数は、原則二人
(以上) ですが、狭義の臨終遺言(§976) は三人とされ、逆に伝染病隔離者遺言(§977) は一人、自筆遺言(§968) は証人不要となります。そして、要件としての立会人は、伝染病隔離者(§977)の場合警察官一人、在船者遺言(§978)では船長又は事務員一人とされています。成年被後見人の遺言(§973)では医師二人の立会いとその者らの「付記」が必要とされます。立会人の意義についてこちらもご覧下さい。




    
    (推定)相続人受遺者 並びにその身内(配偶者と直系血族)
 
                   
立ち会うならば、こうしてよ974あぁしてしい、の

   
          
公証人連合(配偶者)身内(4親等内)書記使用人

              
(務めを)こなし974そうでも遺言らせたやのる、

            未成年者
()がたりぬ、いずれも欠格証人不可




       こんな
977苦難急979たる困難978

           (伝染病)
隔離(者)在船(者)船遭難(者遺言)

               
981 遺言(いごん)(但し、特別方式中臨終遺言§976を除く)

         (
)()のできぬ(者がある)ときには立会人証人(の)れか

          「文字知
らぬ」
とか「病気である」とか

                      その
理由付記せば足りる付記せねばない。

              
付記がなければ遺言無効。よってれか 一人(ひとり)

                       署名書字可能
であること必須也




       救難来 979遭難船 (臨終)(伝染病)隔離をされたこんな 977で、

           
(遺言書に)署名できない(在船)困難 978事由示して付記するが

                    
  急南無 976看取りで 病院  臨終(遺言)




共同遺言の禁止 遺言は、遺言者の死後の法律関係を定めるための最終意思の表明ですから、その性質上まことに個人的な意思表示なので、方式上も、他からの影響や制約なくされる形が保障されなければなりません。そのため民法は、975条で共同遺言の禁止を定めています。この関係では、一枚の紙面に夫婦両名の名義でなされた「夫が先に亡くなった場合、全遺産を妻に相続させ、その後妻か亡くなったときに、不動産等を記載したとおりに子らに分け与える」旨の遺言書について、夫が単独で作成したものであるから、夫単独の遺言として有効であるとの主張に対し、「同一の証書に二人の遺言が記載されている場合は、そのうちの一方につき氏名を自書しない方式の違背があるときでも、右遺言は、民法九七五条により禁止された共同遺言にあたる。」として、これを排斥し、遺言無効とした判例
(最判昭56・9・11)があります。逆に、罫紙4枚に夫の印で契印し、うち3枚に夫の遺言を、残り1枚に妻の遺言を記載して、それぞれは容易に切り離せる自筆証書であった場合は、禁止された共同遺言にはあたらないとした判例 (最判平5・10・19)もあります。

       

        遺言は、
         
孤名(こな)(ごん)
975(単独名義の意(造語))よ、
 
               
複数名
() 同一証書ですることできぬ



5.
後見人の地位利用遺言の無効 後見人が後見終了の計算前に、自身或いは配偶者若しくは直系卑属の利益となるべき遺言を、被後見人にさせたときは、その遺言は無効とされ、又、後見人がそのように作為したことが認められなくとも、被後見人がしたそのような遺言は、無効とされます (民法966条1項)。但し、後見人が被後見人の直系血族、配偶者、又は兄弟姉妹であるときは、これらの者は、元来被後見人と極めて親密な間柄の者であり、扶養・相続上の一体的関係もあるので、そのような遺言がなされても、これに非を鳴らすことはできないことから、無効とはされません (同条2項)。なお、無効とされるのは、遺言全体ではなく、後見人側に利益となる条項だけであるとされています。

        

   後見 870(管理)計算未了966がぬ
       
(後見人、その配偶者、直系卑属が)利益 966遺言(ゆいごん)(本人に)

     させたは不埒無効 但し後見夫婦親子(あいだ)とか
                
孫ひ孫
(との(かん))兄弟(姉妹)(かん)なら此限(こぎり)でない




6.死因贈与 遺言による「遺贈」に似たものに「死因贈与」があります。贈る人と贈られる人との間の贈与「契約」ではありますが、贈る人の死亡を原因として、「この物は、私が死んだら、あんたに上げる」とする契約ですから、死後の財産に関する処分で経済上の目的を同じくする「遺贈」の定めを準用するとされます (民法554条)。なので、遺言の準亜型としてここで紹介しておきます。
 ところで、「準用」と言っても、遺贈規定がどの範囲で準用されるのかという点も一つ論点で、これについては、死因贈与が当事者双方の合意による契約であるのに対し、遺贈が単独行為であるところから、「遺贈の効力」に関する規定は準用されるが、その方式や遺言能力、承認・放棄に関する規定は準用されないと言われています。したがって、死因贈与そのものも口頭での合意により成立し得ることになりますし、また、その撤回に関しても、遺言の撤回に関する民法1022条の規定中、「遺言者は、いつでも、
(中略)、その遣言の全部または一部を撤回することができる」という部分は、これを死因贈与に準用しうるけれども、同条の(中略)部に入る「遺言の方式に従って」という部分は準用がなく、「書面によらない贈与は、各当事者が撤回することができる」とする民法550条によると解されています。撤回が、遺言という厳格な方式によらず、(無書面贈与であれば) 無書面でも可能という大きな差異がここで生じます。しかし、書面による死因贈与は、どうなるのでしょうか?契約ですから、本来、一方的な撤回はできませんが、そうすると人の最終意思を尊重するという1022条の法の趣旨に反します。したがって、準用のない「遺言の方式に従って」の部分は、代わりに「遺言の方式によらずとも」と理解すべきとされて、結果、無書面okの結論になります。そして、矛盾遺言や矛盾処分に関する民法1023条も準用されることとなりますから、死因贈与した物について、贈与者が後に遺言によって他に遺贈する等矛盾・抵触する処分行為、「その他の法律行為」をした場合には、同条によって死因贈与は撤回されたとみなされることになります。とすれば、単なる意思表示による「撤回」も単独での法律行為ですから、撤回する旨の意思表示のみによって撤回できることとなります。但し、その意思表示は、当初当事者双方が存在した「契約」であったことに鑑み、受贈者に対してすることを要します。死因贈与の撤回に関する下記判例をご覧下さい。なお、限定承認と死因贈与に関するこちらの判例もご覧下さい。

死因贈与の取消については、民法一〇二二条がその方式に関する部分を除いて準用されると解すべきである旨判示した判例 (最判昭47・5・25)。
 この判例の事案は、夫が、生前、妻に対し不動産の死因贈与をしたものの、その後夫婦関係が破綻したため、夫が贈与を取消し、その後、死亡したというもので、その取消しの効力が問題となりました。この判例は、上記判旨の理由について「死因贈与は贈与者の死亡によつて贈与の効力が生ずるものであるが、かかる贈与者の死後の財産に関する処分については、遺贈と同様、贈与者の最終意思を尊重し、これによつて決するのを相当とするからである。そして、贈与者のかかる死因贈与の取消権と贈与が配偶者に対してなされた場合における贈与者の有する夫婦間の契約取消権とは、別個独立の権利であるから、これらのうち一つの取消権行使の効力が否定される場合であつても、他の取消権行使の効力を認めうることはいうまでもない。」と判示しています。なお、夫婦間の契約取消権については、こちらをご覧下さい。
また、死因贈与は撤回できるという原則の上で、撤回を否定した次の事例判例もあります。

土地の登記簿上の所有名義人である甲が、右土地を占有耕作する乙に対してその引渡を求めた訴訟の第一審で敗訴し、その第二審で成立した裁判上の和解において、乙から登記名義どおりの所有権の承認を受ける代わりに、乙及びその子孫に対して右土地を無償で耕作する権利を与え、しかも、右権利を失わせるような一切の処分をしないことを約定するとともに、甲が死亡したときは右土地を乙及びその相続人に贈与することを約したなど、判示の事実関係のもとでは、右死因贈与は、甲において自由には取り消すことができない旨判示した判例 (最判昭58・1・24)
 この判例は、上記判例①を踏まえ、死因贈与は贈与者の最終意思を尊重して撤回可能とするのが原則ではあるけれど、この事案での「贈与に至る経過、それが裁判上の和解でされたという特殊な態様及び和解条項の内容等を総合すれば、本件の死因贈与は、贈与者において自由には取り消すことができないものと解するのが相当である」と判示しています。

 負担の履行期が贈与者の生前と定められた負担付死因贈与の受贈者が負担の全部又はこれに類する程度の履行をした場合には、右契約締結の動機、負担の価値と贈与財産の価値との相関関係、契約上の利害関係者間の身分関係その他の生活関係等に照らし右契約の全部又は一部を取り消すことがやむをえないと認められる特段の事情がない限り、民法一〇二二条、一〇二三条の各規定は準用されない旨判示した判例 (最判昭57・4・30)
 この判例の事案は、負担付死因贈与をした者がその後遺言によりこれを取り消したというものですが、判旨の理由として「負担の履行期が贈与者の生前と定められた負担付死因贈与契約に基づいて受贈者が約旨に従い負担の全部又はそれに類する程度の履行をした場合においては、贈与者の最終意思を尊重するの余り受贈者の利益を犠牲にすることは相当でないから」と述べています。文言として、「取消し」は、一旦発生した意思表示の効果を遡及的に抑止するものなので、死亡によって効果が発生する遺言の効果を生前に止める場合は適切でないとして、平成16年の法改正で「撤回」と改められました。この判例は、したがって、死因贈与は本来撤回が可能であることを前提として、しかし、この事案においては負担の履行状況等に照らして撤回は許されないとしたものと考えるべきです。



    
贈与でも 死因贈与 混合554 
         贈与
遺贈じる 遺贈する規定準用


   御高齢
550朝に贈与し、夜には「返せ!」、
        書面によらねばそれもあり、
     
無書面 贈与は、既渡し除き、
           当事者双方撤回できる
             ここは
550こらえてつかあさい。


     物 死因贈与後 (第三者に対する)遺贈ありはどうとる1023
         
その(死因)贈与 遺言(いごん) 撤回 みなす





遺言能力 次に、遺言能力に関する民法961条で、15歳になれば単独で遺言をすることができる旨の規定です。次条の説明ともかぶりますが、本条によっても遺言には、財産行為に関する弁識能力である行為能力を必要とせず、自己の最終意思を決定できれば、遺言は可能ということが分かります。因みに、人が自らの意思で他人の養子となれる年齢も15歳です。こちらをご覧下さい。


   961

      遺言能力
十五歳

      他人(ひと)養子らなれて(※)

    苦労一
961もしたかもの (※ §797、但し家裁の許可要す§798
     



次に、遺言には、財産的弁識能力を「代理」や「同意」でサポートする民法の行為能力(こちら参照)に関する規定の適用はなく、自己の最終意思を決定できる(年齢にして15歳以上(§961)の)遺言能力が有りさえすれば遺言することができます(§962)遺言者は、遺言をするその時にこの遺言能力を有しなければ有効な遺言にはなりません(§963)成年被後見人の遺言についても、民法9条の適用はなく、その遺言の際に遺言能力があれば遺言できますが、その場合は、医師二人が立ち会って、遺言書に「遺言者は、精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態にはない」旨の付記をし、署名・押印することを要するとの特別要件が定められています(民法973条)

 
ところで、遺言は、私有財産制の下、人の最終意思に基づく財産処分ですから、その処分の自由は十全に確保されなければならず、自書或いは口授等の方式が正しく履践されるべきは当然としても、遺言による財産処分の自由に制約を課し得るのは、遺言能力及び方式等に関する法の明文と、遺言内容に関する遺留分規定だけであってしかるべきだと考えます。それが、遺言の解釈に当たっては、「遺言書の全記載との関連、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して遺言者の真意を探究し当該条項の趣旨を確定すべき」とする判例(最判昭58・3・18)の、できる限り遺言者の意思を尊重しようとする姿勢にも沿うものと思います。それにも拘わらず、遺言内容が重大な財産処分であれば、高度な能力を必要とする旨の相対的能力論が勢いを得つつあり、これに沿って遺言無効を宣する下級審判例もかなり散見される点には疑問を感じざるを得ないものがあります。遺言書作成時の遺言者の見当識、言語、判断、認識等に、遺言能力にかかる障害が顕著であり、遺言能力を欠如していることが客観的に明らかである場合を除いては、判例の遺言解釈の姿勢に倣い、こと遺言能力に関しては、できる限り遺言者の最終意思としての遺言意欲に沿うべく能力肯定の姿勢を持するべきと考えます。その場合、成年被後見人の遺言時に必要とされる上記医師の付記にある「事理を弁識する能力(§973)と、961条の「十五歳」とを合わせ考えることが参考になります。つまり、まだ義務教育を終えただけで世故には疎いが、しかし、事理を弁識する能力は備えたと言える中学校卒業程度の精神能力があれば、遺言は可能であるということです。
 したがって、上記のようななるべく能力を肯定する姿勢で臨んでも、必ずしも適式に方式が履践できず、或いは、遺言者の遺言意欲も窺われない遺言について、遺言者に遺言内容に関する理解力・判断力・表現力等が著しく欠如していることが明白な場合には、高齢社会の病弊として遺言無効例が出るのはやむを得ないかも知れませんが、このような方式の履践や遺言意欲、遺言能力については、社会がIT化の歩を顕著に進めつつある現今、動画記録を残すことで容易に審査できる環境があると言え、是非その方途を探るべきだと考えます。自筆遺言については、遺言者自身、或いは、相続人であっても、その作成状況を動画に記録することが後の紛議を防止することに繋がりますし、公正証書遺言については、公証役場がその作成状況を可視化する設備を整えることが遺言公正証書の信頼性を増すことに繋がるものと信じます。運転者にとってドライブレコーダーが必須となりつつある世の中ですから、公正証書作成にまつわる紛争を予防するためのIT機器は、公証役場運営の必須アイテムと考えるべきではないでしょうか。




    
962遺言(いごん) 芽生えたら

        
   意思りも
小波973であって()()能力ある

       一人
承認らぬ自己するところ


           最終意思
(遺言に)

         
§973は、成年被後見人の遺言に関する規定




  遺言(ゆいごん)
れでめる最終意思

       
真意
962代理なじまず


     
遺言(力は)死後効(§985)

       
保護をする(ための)能力チェック不要

       
未成(§5)後見(§9) 保佐(§13) 補助(§17)

         
適用されず (行為能力不要)本人遺言(いごん)能力あればよい


           
(これが)遺言()極意いいな(5、9、13、17)


       

     
成年被後者(被後見人)遺言

         
(精神の)738
あっても小波973であって

           (
一時的にでも)
意思判断できるなら

        
医師二人立会いの遺言(いごん)

      ()()()状態にない


         口添
973付記()() をせよ

     
   成年被後者遺言医師二人意思りも小波
973であって

                
事弁能力不欠との口添
973
付記。  



    遺言
(精神に)738あっても小波973であれば

     可能
といえど
(例えば)高齢者遺言をするその

       (遺言)能力なければ(遺言は)無効

               頃見
963るべし

       
§738は成年被後見人の婚姻に、§973は同遺言に関する規定




自筆証書遺言 そこで、いよいよ遺言の仕方の方向へと向かって行きたいと思いますが、まず、一般に一番馴染みのある自筆証書遺言の説明から入ることとします。民法968条が、この自筆遺言証書を作成するについての方式を、まず、全文・日付・氏名を自書し、これに押印すべし、と定めています。これが、保有する財産が多種・多様に多数存在するケース等の場合、相続財産の目録を調えること自体大変なのに、それを全て自書するのは誠に難儀なことであった訳ですが、平成30年7月の法改正により、平成31年1月13日からは、その目録については、自書するを要しないこととなりました。したがって、正確性を求められる不動産関係の表記等も登記簿謄本・登記事項証明書、不動産賃貸借契約書等の「写し」を添付することで足りることになります。但し、目録の各頁ごとに署名し、押印することが求められ、紙の両面に記載がある場合はその両面に署名・押印を要するとされていますから、要注意ですし、また、基本的約束事の所で述べましたように元々契印は不要とされていても、重要財産の表記について「写し」の添付で代用することになりますから、後で紛議の的とならぬよう、真意性を担保する意味でも契印によって書面としての一体性を確保した方が良いと思います。
 また、遺言書中の誤りを訂正する場合には、その場所を指示し、訂正した旨を付記して署名し、かつ、その訂正箇所に押印すべし、と定められています。この点は、読むと造作ないようですが、一般に広く行われている訂正の仕方とは違和感があって、これが難点です。「
その箇所示し、その旨付記し、署名した上、文中の訂正箇所に押印の正規の訂正方法ができれば、苦労は968ない、 ということになります。但し、遺言者が書き損じた文字を抹消したうえ、これと同一又は同じ趣旨の文字を改めて記載したものであることが、証書の記載自体からみて明らかであるような、明らかな誤記の場合については、訂正方法に反していても遺言の効力に影響はないとする判例 (最判昭56・12・18) があります。
訂正についての秘策 自筆遺言の一番の面倒、かつ、最大の欠点とも言うべきは、この「訂正」ですが、パソコンを使えば、難なくクリアできます。パソコンで十分に推敲して内容が仕上がったら、これを文字の色指定により、自分で判読できるごく薄い薄墨色
(うすいグレー) で印刷します。そして、筆ペンでこれをゆっくりなぞれば、訂正を必要とする誤字・誤記は起こり得ません。もし、パソコンが使えないのなら、秘かに誰か ( 多く相続させる相続人) に頼むと良いと思います。それでも、訂正したい誤りが生じた場合は、上記の定めに従った正規の方法によるか、改めて作り直しするか、ということになります。「何度も作り直して良いのでしょうか?」というお尋ねをよく受けますが、それは一向に構いません。以前のものを廃棄するか、新たな遺言書の冒頭に「日作成にかかる私の遺言書は撤回します」旨記載しておけば足ります ( ところが、以前はこれで良かったのですが、平成30年の民法改正により事情が変わりました。「遺言作成のポイント」の1.をご覧下さい)。なお、日付については、作成日を正確に記載すべきで、「吉日」などとしてしまうと下記判例のように遺言無効になりますので、要注意です。
その他、「遺言作成のポイント」を記載しましたのでご覧下さい。遺言書の「
検認」は、特に重要な手続きですが、最近これを巡る大きな法改正がありました。同ポイントの10をご覧下さい。

 「自書」については、次の判例があります。
添え手遺言の有効要件判例 (最判昭62・10・8)  この判決は、まず、自筆証書遺言について、「自書が要件とされるのは、筆跡によつて本人が書いたものであることを判定でき、それ自体で遺言が遺言者の真意に出たものであることを保障することができるからにほかならない。そして、自筆証書遺言は、他の方式の遺言と異なり証人や立会人の立会を要しないなど、最も簡易な方式の遺言であるが、それだけに偽造、変造の危険が最も大きく、遺言者の真意に出たものであるか否かをめぐつて紛争の生じやすい遺言方式であるといえるから、自筆証書遺言の本質的要件ともいうべき「自書」の要件については厳格な解釈を必要とするのである。」と述べて、自書であることの審査の重要性を確認した後、「他人の添え手による補助を受けてされた自筆証書遺言は、(1) 遺言者が証書作成時に自書能力を有し、(2) 他人の添え手が、単に始筆若しくは改行にあたり若しくは字の間配りや行間を整えるため遺言者の手を用紙の正しい位置に導くにとどまるか、又は遺言者の手の動きが遺言者の望みにまかされており、遺言者は添え手をした他人から単に筆記を容易にするための支えを借りただけであり、かつ、(3) 添え手が右のような態様のものにとどまること、すなわち添え手をした他人の意思が介入した形跡のないことが、筆跡のうえで判定できる場合には、「自書」の要件を充たすものとして、有効であると解するのが相当である」と、「自書」と認められるための要件を述べています。その上で、本件遺言作成日にも作成直前に、手の震えと視力の減退のため、偏と旁が一緒になつたり、字がひどくねじれたり、震えたり、次の字と重なつたりしたため、妻から「ちよつと読めそうにありませんね」と言われて書きかけた遺言を破棄したことがあった後、妻が夫の手の甲を上から握って22行にわたる整然とした本件遺言証書を完成させたという、この判決の事案においては、自書の要件を満たさないとして、自書されたものとは認めませんでした。
 、一般の人が気軽に動画を記録できる時代となり、遺言のような重要な人の挙動も記録化が容易になりました。添え手遺言の場面も、動画として記録して、この判例の言う「他人の意思が介入した形跡のないこと」が証明されれば、その遺言の有効性に問題はないとになりますから、携帯電話やデジカメの動画カメラ機能を活用することをお勧めします。
 そもそも、遺言の方式を厳格に定めている所以の一つは、「死人に口なし」(言葉が悪いですが)で、書面に認めたことの真意を推し量ることは、古来まことに困難であったからなので、書面にすることの重要性は依然として揺るがないとしても、今ITの時代となって、「真意」を遺す手段が手近に用意できる状況下では、遺言する立場の者としては、遺言書には全て動画記録を添付すべし、と心得ておく方が、死後の身内の紛糾を防ぐことに繋がるのではないかと思います。

押印」については、「遺言の基本的約束事」で触れました判例の他に、自筆遺言書自体には押印がなかった事案について、「遺言者が、自筆証書遺言をするにつき書簡の形式を採ったため、遺言書本文の自署名下には押印をしなかったが、遺言書であることを意識して、これを入れた封筒の封じ目に押印したもの」は、「右押印により、自筆証書遺言の押印の要件に欠けるところはない。」とした判例 (最判平6・6・24) があります。

日付」については、「昭和四拾壱年七月吉日」と記載された証書について、「右日附は、暦上の特定の日を表示するものといえるように記載されるべきものであるから、証書の日附として単に「昭和四拾壱年七月吉日」と記載されているにとどまる場合は、暦上の特定の日を表示するものとはいえず、そのような自筆証書遺言は、証書上日附の記載を欠くものとして無効であると解するのが相当である」とした判例(最判昭54・5・31)があります。また、その後には、昭和48年に死亡した遺言者が、日付の年号を「昭和二十八年」と記載した事案について、「自筆遺言証書に記載された日付が真実の作成日付と相違しても、その誤記であること及び真実の作成の日が遺言証書の記載その他から容易に判明する場合には、遺言はこれによつて無効となるものではない。」とする判例(最判昭52・11・21)も出ています。
自筆遺言の条句をご覧頂きますが、初めの条句は、夫婦二人が健在の場合は、「子や孫に」ではなく、「妻や子に」となるべきです
( 念のため )



    

  ゆけば、急務は968、子に、

      
ずは自筆遺言(いごん)すること

        (
のため、いで、遺言公正証書




   
全文日付氏名 自書

        押印
する
世話ないが

       
自筆遺言(いごん)
苦労968

          
(末尾に)その箇所 (本文何行目)し、

   その
(「○○とあるのを○○と訂正」のように、どう訂正したか)付記

  
署名 した文中 訂正箇所
(二本線を引いて訂正し、

            或いは吹き出しを入れて加入した箇所に)
押印

         
訂正
できれば苦労
968ない



遺言事項 ここで、遺言事項と言われる、遺言で定めることができる事柄についても、触れておかなければなりません。民法は、遺言の章以外の箇所でも、そういった事項の規定を置いていますので、まずは、
(1) 親族法の領域でそのようにして出ていたものを復習しますと、遺言認知(民法781条2項)、遺言による未成年後見人(民法839条1項)、と未成年後見監督人(848条) の指定の三つとなります。

    

なら(戸籍の法に(のっと)って)届出するか

   さもなくば
 遺言(いごん)によるの(認知の)(方式)がある

             認
781認知せえやい781


  未成()最後親権(単独)行使者(病み) 839にせぬため

      
手続きの煩瑣苦839にせず遺言 (未成年)後見人指定をすべし(指定が可)


   親権最後
(に行使する)けた 後見()はす848 不安なら

                   後見
しかとはかどるよう848遺言いごん (後見) 監督() 指定ができる



(2) 相続法の領域での遺言事項は、これまで順を追って述べてきたもの①と、今後出てくるもの②ということで、次の通りになります。クリックにより確認をお願いします。なお、祭祀の関係ではこちらもご覧下さい。
  ① 相続分の指定(902条)、持戻し免除(特別受益903条)、分割方法の指定分割禁止(遺産分割908条)、担保責任(遺産分割914条)、遺言執行者の指定(1006条1項)、遺贈の減殺方法(1034条)
  ② 包括遺贈と特定遺贈(964条)、推定相続人の廃除とその取消し(893条894条2項)、祭祀主宰者の指定(897条1項) 
(3) 特別法の定めによるものとして、①生命保険金受取人の変更(保険法44条)、②信託の設定(信託法3条号)、③ 財団法人の設立(一般法人法152条2項)があります。(生命保険金受取人の変更は、自筆遺言例第3条を、信託の設定例については、自筆遺言例第4条をご覧下さい)
遺言による信託の設定は、先行き案ぜられる配偶者や親族のために、信頼できる人に
(遺言前に予め了解を得ておかねばなりませんが)、 一定の財産を信託の形で預け、目的を定めて運用・使用して貰うもので、同じく信頼する人に自己の財産管理能力が減退したときに備えて予め後見を依頼して契約する任意後見と同様に、高齢社会での有用性が増大してきていると言えるものです。
なにしろ遺言は、効力を発生する時には遺した本人がこの世になく、内容について本人に真意を確かめようがありませんから、遺言で定め得る事項を限定して、安定した財産の承継等ができるよう明確を期さなければりません。ですから、このように、遺言事項は法定されていて、これら以外の事柄を遺言に記載しても、法的効力が発生しません。そこが、いわゆる「遺書」と異なるところと言えます。


遺言の対象財産
 遺言は主として死後の財産関係を定める生前処分行為ですから、自己が亡くなった時に保有する財産を対象とする訳ですが、それは、前述した「遺産分割の対象」で、遺言がない場合の分割対象財産として述べたものと同じであるので、そちらをご覧頂きます。要するに、遺言では、遺言する人の保有する積極財産を対象として、その処分を定めることができる、これが基本となります。そして、消極財産は、これを遺言で債権者に対する関係まで動かすことはできないため、対外的には対象財産になりません。ただ、対内的に、つまり内々で負担者や負担割合を定めておくことは可能で、それを念頭に積極財産を配分し、それに応じた負担を定めておくことができます。対外的に債務の処理に応じた相続人は、遺言で対内的に負担を定められた相続人に求償することができる、ということになります。条句にすると次のとおりですが、後段の、消極財産のために放棄者が出るようであれば、遺言をする意味もないことになりますから、条句は積極財産・消極財産対比上の理念型をお示ししただけの意味です。


   
くなって遺す積極財()遺産898遺言中味()けるで、

   消極財() 苦労896いやなら悔誤(くいご)915(造語)なく相続放棄苦痛なし920  


遺言の変更・撤回
 一通の遺言の中での訂正・変更は前述の様にすればよい訳ですが、遺言書を完成した後に訂正・変更したい場合はどうすればよいでしょうか。遺言は、亡くなるまで何通でも作ることができ、その間に矛盾・抵触部分があれば、後の遺言で前のその部分を撤回したとみなされますので、再度遺言の方式を守って作成する面倒を厭わなければ、訂正・変更は難しくありません。遺言書を故意に破棄したり、遺贈の目的物を破棄したり、或いは、相続させるとした物件を他に売却したりした場合も、遺言(或いは、その遺言部分)は撤回したとみなされます。私が公証役場で公証人として執務していた間にも、財産状態が変わったり、遺産の配分の変更を希望されたりということで、一人で数度にわたり遺言を作った方がいました。その方の遺言は、ですから、冒頭「○年○月○日作成の遺言はこれを撤回する」旨のくだりから始まっていました。遺言の撤回に関する民法1022条、前の遺言と後の遺言の抵触等に関する1023条、遺言書又は遺贈の目的物の破棄に関する1024条の条句をご覧頂きます。
 さて、これまでは、遺言する内容を変更する場合、上述ようにいわば気兼ねなく新しい遺言を作ることができるという状況がありましたが、平成30年の相続法改正で随分事情が変わることになります。これまで死亡に一番近い遺言であることが証明されさえすれば、取得を争う第三者も、場合によっては共同相続人でさえも抑えて、その遺言による相続を登記なくして主張することができたのですが、2019年7月1日からは、登記によってことが決せられることとなります。ですので、まずはそのような状況を回避する必要があり、そのためには、古い遺言がものを言う事態をなくしておかなければなりません。ですから、遺言を変更する必要が生じることはやむを得ないとしても、古い遺言は、上記のように撤回する旨を明記すると共に、廃棄しておくことが肝要となります。合わせて、必ず遺言により取得する財産の登記
(等の対抗要件の具備)をしておくことが必要となります。こちらもご覧下さい。


     
遺言最終意思  遺言者死後効 出遺言

       
  発効しない生前自由1022して撤回 できる

        
されども遺言(いごん)遺言(ゆいごん)方式踏まねば撤回できぬ


   「遺言(ゆいごん)いつでも遺言(いごん)(全又一部)撤回できる

     「自由に蓋
1022撤回 っているなら とおに1022




     前後つの遺言はどうとる1023

            
 矛盾部 遺言(いごん) 撤回 みなす


    故人
生前遺言(いごん)


      愛
1023じたか抵触行為

               
矛盾処分あった場合もそうみなす



    民法遺言につき

     「
撤回自由認容1024した


     故意
による 遺言(いごん) 又は 遺贈物
(の)破棄

       
遺言(いごん)意思()とおに (ほぅ)1024った

          
(遺言の ) 撤回 ()みなす一部()破棄 なら、

                   その
部分
()撤回したとみなす




  
(疑問)遺言撤回 行為 撤回或いは 取消し失効)したら

                   
遺言(いごん)どうなる(疑問の)にゴン1025

  
(答え)同一1025で また遺言(いごん)でき(再度 明確に)すべき

               
(遺言) 復活しない撤回維持(される)

    
但し、(遺言)撤回 ()()った 取消ときに

                  (にも拘わらず)
撤回維持りに惨苦1025

        
(又は されて(遺言)撤回したなら撤回 (取消しで)無効

                             
遺言(いごん)
復活 一先ずゴー1025

        
「同一」の「どう」は仏語の2から、「サンク」は仏語の5から



言のみなし撤回判例 (最判昭56・11・13) 遺言と抵触する遺言者の生前行為に照らし、遺言が撤回されたとみなした判例です。この判決は、民法1023条2項にいう「抵触」とは、 「単に、後の生前処分を実現しようとするときには前の遺言の執行が客観的に不能となるような場合にのみにとどまらず、諸般の事情より観察して後の生前処分が前の遺言と両立せしめない趣旨のもとにされたことが明らかである場合をも包含するものと解するのが相当である」 として、養子となるべき者から終生扶養を受けることを前提として、その保有する大半の不動産をその者に遺贈することとした遺言者の遺言は、その後、その養子が遺言者の不動産に無断で抵当権を設定する等したため、養子に対する不信の念を深くして、協議離縁に至り、法律上も事実上も扶養を受けないこととなった経緯に照らせば、「右協議離縁は、前に本件遺言によりされた遺贈と両立せしめない趣旨のもとにされたものというべきであり、したがつて、本件遺贈は後の協議離縁と抵触するものとして前示民法の規定により取り消されたものとみなさざるをえない筋合いである」として、遺言のその遺贈部分は撤回 (当時は、「取消し」という文言でしたが、その後民法が改正されて「撤回」となりました) されたものとみなしました ( 「取消し」は、一度効力が生じたものについて、その効力を失わせることですが、遺言は亡くなってはじめて効力を生じますから、遺言者が自らした遺言の効力を失わせる行為は、厳密には「取消し」とは言えないからです)



遺言作成10のポイント
 遺言作成に当たってのポイントをまとめてみましたので、ご覧頂きます。なお、自筆遺言例も参考にされて下さい。

1. 全文・日付・署名を全て自書して押印します。但し、財産目録は
(登記簿等の) 写しを引用できることになりました (必ず頁ごとの署名・押印が必要です)。書き間違いがあると、その「訂正」はとても面倒ですが、但し、秘策があります。→1.

2. 遺言は、「撤回」をして何通でも作ることができます。しかし、なるべく複数の遺言が存在する結果にならないよう心がけましょう。→2.

3. 相続人には「相続させる」、それ以外の者に対しては「遺贈する」と書きます。但し、配偶者と同居してきた所有建物に、配偶者をそのまま
  住まわせたい場合は、「配偶者に次の建物における配偶者居住権を遺贈する」と書いて、その建物を記載します。3.

4. 財産を取得させる相手が先に亡くなった場合に備え、必要があれば、補充的予備的遺言をします。→4.

5. 人物を特定して遺言執行者の指定をし、合わせて、遺言執行者の権限を具体的に記載しておきます。→5.

6. 財産を明確に特定し、かつ、漏らすことなく全財産について処分を定めましょう。この場合財産目録を用いることができます。→6.

7. 遺言で法定相続分にとらわれない遺産分けができますが、記載するときは主観を排して、客観的、明確に記載し、かつ、遺留分を侵さぬよう注意しましょう。→7.

8. 借金は、全相続人が相続分に応じた割合で、負担することになります。但し、内輪での指定として、相続人間での負担者、負担割合を定めることは可能です。→8.

9. 預貯金・現金の配分を工夫して、相続人が相続税の支払いに困らぬよう配慮しましょう。生命保険金の受取人を遺言で変更できるので、調整に使えます。但し、生命保険金の受取人変更については、相続開始後すぐに保険会社に変更の件を通知すべきことを記載しましょう。→9.

10.  必ず封印し、封の「遺言書 ○○○○」の表書きに「私の死後すぐに家裁で検認を受けて下さい」と添書きをしましょう
(但し、この添書きは、いずれ、遺言書の法務局保管によれば不要となります)。→10.


以下に、各ポイントごとの理由を記載します。


1. 民法968条が、自筆遺言証書の作成方式を、「遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。と定めています。そのため、保有する財産が多種・多様に多数存在するケース等の場合、相続財産の目録を調えること自体大変なのに、それを全て自書するのは誠に難儀なことであった訳ですが、平成30年7月の法改正により、平成31年1月13日からは、その目録については、自書するを要しないこととなりました。登記簿謄本(登記事項証明書)や契約書添付の物件目録等、当該財産が記載された書面の写しで良いことになります。但し、目録の各頁ごとに署名し、押印することが求められ、紙の両面に記載がある場合は、その両面に署名・押印を要するとされていますから、要注意です。また、基本的約束事の所で述べましたように、元々契印は不要とされていても、重要財産の表記を「写し」の添付で代用する訳ですから、後でその真贋が紛議の種とならぬよう、契印によって書面としての一体性を確保した方が良いと思います。
 自筆証書遺言は、自筆でないと「遺言無効」とされてしまいます。筆跡によって遺言者の作成にかかることが分かることから、自筆であることがことさら重要とされます。しかし、誤字・誤記が生じたときの、法に定められた正規の訂正方法が面倒で、かつ、普通の訂正の仕方ではないため、自筆遺言のつまづきの元と言われます。そこで、間違いの生じ得ない、パソコンを使っての秘策をお教えします。自書する「全文・日付・氏名」の内、間違いの生じやすい「全文」については、予めパソコンで、自筆遺言例を参考に十分推敲し、内容が確定したら、これを文字の色指定によりギリギリ判読できる薄墨色
(うすいグレー) で印刷します。そして、全文を筆ペンでゆっくりなぞれば誤字・誤記は生じません。それでも、訂正したい誤りが生じた場合は、法の定めに従った正規の方法によるか、改めて作り直しするか、ということになります。「何度も作り直して良いのでしょうか?」というお尋ねをよく受けて、 「それは一向に構いません。以前のものを廃棄するか、新たな遺言書の冒頭に「○年○月○日作成にかかる私の遺言書は (或いは、「従前の私の遺言書は全て」 ) 撤回します」旨記載しておけば足ります。」 と申し上げていましたが、平成30年7月の民法改正により事情が変わってしまい、複数遺言は、極力避けるよう十分心して臨まれる必要が、以前にもなかった訳ではありませんが、一層生じることとなりました。こちらをご覧下さい。また、自書するにも、手が不自由であるため添え手をしてもらう必要があるというような場合については、こちらをご覧下さい。「押印」は、認印でもよく、さらに、平成に入って、自筆遺言については指印でもよいとされました (最判平成元年2・16)

2.
 複数の遺言のうち矛盾・抵触する部分は、亡くなる時点に近い、新しい遺言の方が効力を認められます。矛盾・抵触の有無を確認するのは一苦労となりますから、後の遺言書の冒頭に以前の遺言を全て撤回する旨を記載するのが通例です。複数遺言の場合、最終意思としての最後の遺言が実現されることになるので、以前の遺言を改めるに躊躇は不要と申し上げてきましたが、1.で述べたとおり、平成30年7月の民法改正により、複数遺言は、その効力が
(法定相続分を超える部分は)対抗要件の有無にかかり、登記の有無次第となりますから、リスクと隣り合わせになるので、極力避けるよう十分心して臨まれる必要があります。やむなく遺言を書き改める場合は、以前の遺言を確実に廃棄することが肝要です。こちらをご覧下さい。

3. 相続人に「相続」でなく「遺贈」としてしまうと、種々有利で便利な「相続」の枠の外の扱いとなり、不動産登記手続等で、遺贈を受ける人と遺贈義務を負う人
(=遺言者、つまりその承継人である相続人全員)の双方の参加が必要となる等、とても面倒です (但し、こちら及び後記5.も参照下さい)。また、相続人は法定されていますから、それ以外の人に「相続」することはあり得ません。例えば、「孫」に継がせたい場合でも、その親にあたる「子」が存命であれば、子が相続人ですから、孫に対しては、「相続させる」でなく、「遺贈する」となります。但し、子が亡くなっている場合は、代襲相続になりますから、「相続させる」で良いことになります。なお、公益団体等に寄付する場合も、遺言での表記は「遺贈する」としますが、寄付の受入れについて予め先方に了解を得ておくこと、そして、その寄付を実行する遺言執行者を指定しておくことが肝要です。特に、不動産現物の寄付については殆ど断られることが多いので、必ず了解を得なければなりません。もし、亡くなってから、受入れ拒否に会うと、宙に浮いて、結局相続人全員による協議が必要となって、遺言した甲斐が無くなってしまいます。こちらをご覧下さい。執行者については5.をご覧下さい。
 なお、配偶者居住権は、平成30年7月の民法改正により創設された権利で、2020年(令和2年)4月1日から施行されることになっています。その改正法の定めによれば、配偶者居住権は、「遺贈」対象とされていますので、本問にあるように「遺贈する」と記載することになります。法定相続分により制約を受ける「相続」としてでなく、相続の枠の外で、遺産に持ち戻す必要もない、遺贈として居住権を確保するためですので、記載に注意しましょう。一次相続が、配偶者に全遺産を継がせる形で円満に納まれば、必要のないことでしょうが、一次相続時に他の相続人にも配分の必要があるのに、建物を売却する以外その分を分ける方法がないときに、配偶者居住権によって配偶者の住まいを確保した上、他の相続人には、売却によるか否かはともかく、建物の残価額をもって取得させようとする方法です。配偶者の終身・無償の居住が可能となり、配偶者亡き後は、居住権が消滅して、その不動産の相続による取得者が全面的に所有するところとなります。

4. 遺産を与える相手の人が先に亡くなっていると、遺言のその部分は無効となります
(最判平成23・2・22)。そのため、そこで与えるとした物の遺産分けには、相続人全員が押印し、印鑑証明書を添えた遺産分割協議書が必要となって、結局、相続人らは、遺言がなかったときの面倒をその侭かけられることとなり、折角その面倒をかけまいとして作った遺言が無駄になってしまいます。こちらをご覧下さい。自筆遺言例も参考にして下さい。

5. 遺言執行者は、これまでは「相続人の代理人とみなす。」とされていましたし、平成30年の改正法では、この代理人とみなす規定はなくなるものの、「遺言執行者は、遺言の内容を実現するため相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。」
(新1012条1項)とされ、また、「相続させる」遺言で特定財産の取得者となる相続人が「対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる」 ( 新1014条2項) こととなり、また、遺言執行者の指定がある場合は、遺贈の履行は執行者のみが行うことができる ( 新1012条2項) ことととなりましたので、相続人のための相続登記等がスムーズにできることは勿論、全相続人が加わった双方申請(上記3)となる「遺贈」の登記や、銀行での解約・払戻し、名義変更等も、受遺者と遺言執行者だけでスムーズに手続きすることが可能となります。又、遺言執行者が指定されているときは、相続人は執行者の執行を妨害してはならず、妨害する行為は無効とされます ( 新1013条2項) から、確実な遺言執行が保障されることに繋がります。なお、銀行、金融機関の窓口行員等の教育不足・不周知による扱いの遅れやつまづきが起こらないよう、遺言執行者の権限も念のため具体的に記載しておきます ( 預貯金を「相続させる」遺言で遺言執行者として指定をされた者は、金融機関に対し預貯金の解約や払戻しをすることができることについても、改正法で具体的に定められました ( 新1014条3項))。「自筆遺言例」第6条をご覧下さい。また、遺言による寄付を行う場合は、遺言執行者の指定がないと、通常、相続人の中に寄付の実行に利益を感じる者がいないため実行できなくなりますから、指定が必須となります。

6. 遺言は、保有財産全てをカバーする完結遺言でなければ、遺言する価値が半減
(それ以上かも知れません) します。そして、遺言実現の段階で、財産を特定する作業が要らぬよう記載しなければなりません。不動産であれば、登記簿(登記事項証明書)の記載に従い、銀行口座なら銀行名、支店名を記載する(口座番号・残高は流動する可能性があるので記載不要です)、その他契約等にかかるものは、契約書の記載に従う等して、明確に特定することが必要です。例えば 「遺産の○割を相続させる」 とあっても、銀行窓口や登記所では相続手続きに応じてくれません(相続人全員の法定相続分どおりの共有とする場合は別ですが)。割合で分けなければならない場合は、相続人間でその割合に合うよう何をどう分けるか遺産分割協議をしなければならなくなり、その負担は軽くありません。未完遺言は禁物です。また、全財産について定めないと、漏れた遺産については遺言なしの状態となって、4.の全員参加の遺産分割協議書が必要となり、遺言書を遺された遺族にとって未完時同様に有難さが半減します。このような部分遺言も禁物です。ですので、各種資産について、銀行預金等、金融資産であれば、例えば「・・その他の金融機関、」「・・その他の金融資産」等として、漏れている分や遺言後に加わる分も含まれるように記載し、また、遺産分けの記載の最後を「・・その他一切の財産を○○に・・」として、漏れなく記載されている形にします。(自筆遺言例2条参照)。なお、平成30年の法改正により、平成31年1月からは、遺産の目録については、自書することを要しないこととなりました。但し、目録の各頁ごとに署名と押印が必要で、紙の両面に記載がある場合は、その両面に署名・押印が必要となります。
 くどくなりますが、遺産の中に、遺言されない財産部分があったり、最終取得に至れない未完部分があった場合
、これを遺産分けすることは、容易ではありません。つまり、これまで遺言がないと相続人たちに面倒をかけてしまうと申したことが、そのまま全て当てはまることになりますし、しかも、漏れた財産や未完部分が、小さな、或いは、少ないものであったりすると、遺族にとっては負担感が倍加します。一部遺言にはならないよう、念を入れましょう。 ( 「完結遺言と部分・未完遺言」参照 )

7. 遺言の遺産分け部分は、遺言の核心なので、疑いの余地を残さぬよう、客観的、明確に記載することが肝要です。前項記載のように、あげる物、財産を、登記所・銀行で対応可能なように特定し、誰の取得とするのか、相続人・受遺者を続柄・生年月日・住所で特定し、「相続させる」と「遺贈する」のどちらであるかも書き分ける等
(自筆遺言例も参考にして下さい) 、遺産分けの要件だけを記載し、もし、その配分理由や配分に当たっての思いを書き遺しておきたい場合は、全部の遺産分け本文を終えた後に「付言事項」として記載する方が適切だとされています。「遺留分」は相続人が保障される最低限の相続分で、これが侵された場合その相続人は、他の人の受ける分、或いは受けた分について「減殺請求」 ( 改正法によって「遺留分侵害額請求」となります) することができます。容れられぬと訴訟となって、遺言を原因とする相続争いになってしまいますから、それは避けたいところですね。(遺留分の権利者は、亡くなった人の配偶者・子・親だけです。)

8. 相続債務は、被相続人が亡くなって相続が開始すると同時に、法定相続分に応じて各相続人が承継します。相続人は、相続債務を負いたくなければ、亡くなって3か月以内に、法律で認められた脱債務の途である相続放棄
(又は全員で限定承認) をしなければなりません。しかし、放棄も、それによってその者が「はじめから相続人でなかったこととなる」ため、別の人が代わりに相続人となるようなケースでは、その人が思わぬ負担を負うことになりかねないので、後で恨まれぬよう事前に連絡や相談をすることも必要かも知れません。
 遺言で、相続人には債務を負わせないと書いても、債権者には通用しません。但し、遺言で、債権者と関係なく内々で、相続人の間だけの負担割合を定める、或いは、一人の相続人に多くを相続させて、その者に全債務を負担させること等はできるので、
(予め負担する相続人には暗黙にでも了解を得る等して) その線で配分や負担者・負担割合を遺言するのも一法かも知れません (その場合、債権者から他の相続人に取立てがあれば、取立てに応じた者から、遺言により負担する旨定められた者に求償することになります )

9. 遺言による遺産の配分には、相続税についても配慮してあげる必要があります。例えば、不動産ばかりを多く配分されたりしたら、相続人は多額の相続税を現金で納めねばならず、結局取得した不動産を手放さなければ納税できないことになったりします。そのような場合は、相続税の備えに預貯金・現金も合わせて取得させることも必要になります。なお、法改正により生命保険金受取人を遺言で変更できるようになりました。生命保険金は、保険会社から支払われるもので、遺産ではないというのが確立した判例ですが、事実上、遺産分けの調整材料にすることができます。但し、亡くなって相続が開始したらすぐに保険会社に受取人が変更されている旨を知らせないと、元の受取人に支払われてしまったりするので、「速やかに通知しなければならない」旨の記載が肝腎です
( 自筆遺言例3条参照 )なお、生命保険金については、例外的に、遺産に持ち戻されてみなし遺産とされた上で遺産分割されることがありますので、注意が必要です。相続税の関係では、ですので、生前から、余裕があれば、相続税の備えとしても、毎年非課税・非申告でできる110万円の贈与をしておくと良いと思います。なお、「小規模宅地等の特例」制度を使って、自宅や事業所等を子や孫に継がせることにより、不動産の評価額を減らす(ときには8割も減額できます)ことも可能ですので、検討して見て下さい。相続税の関係では、こちらもご覧下さい。

10. 遺言があっても、家裁で遺言書の「検認」を経ないと不動産の相続登記も銀行口座の名義変更もできません。そして、検認には、全相続人の呼出可能な資料を提出しなければなりません。遺言公正証書は、公務員である公証人が作成し、公証役場で保管されるので、改竄の恐れがなく、法律で検認は不要とされています。また、どこに保管されているか不明の場合、最寄りの公証役場で相続人であることの身分証明を示せば、「遺言検索」により直ちに公正証書遺言の有無、ある場合はその保管先公証役場が分かる仕組みとなっています。もし、公証役場でなく、自筆で遺言書を作成する場合は、遺言で遺産を多く取得することとなる、信頼できる者に、遺言作成後に、遺言書の保管を、死後の検認手続きと遺言執行も合わせて、依頼しておくと、信頼に応えてしっかりやってくれるのではないでしょうか。亡くなった後、遺言書の開封は、家裁の検認手続きで相続人或いはその代理人の前でしかできないことなので、勝手に開封しないよう言っておくことも必要と思われます。封に「私が亡くなった後は、遅滞なく家裁で検認を受けて下さい。それまでは勝手に開封しないで下さい。勝手に開封した場合は、制裁を受けるし、破棄したり、隠匿すれば、相続欠格となるので、そのようなことのないよう願います。」と書いて
(付箋して?)おくのも一法かと思います。なお、平成30年7月に法務局における自筆遺言証書の保管等に関する法律が公布されました。これにより、自筆遺言証書は遺言者自身によって法務局に保管を申請することができることとなり、亡くなった後に相続人、受遺者或いは遺言執行者から、その保管証明書の交付請求、或いは、その閲覧請求、遺言書の画像情報証明書の交付請求をすることができ、また、この法務局の保管にかかる遺言書は家裁の検認を要しないこととなりました。したがって、上記のように封に書き記す必要もなくなりますし、何より、自筆遺言利用のネックとされてきた保管と検認という関門が取り払われることとなって、その普及が一層進むことが予想されます。なお、同法の施行日は、2020年(令和2年)7月10日となっています。


遺言執行者

 ここで、「遺言のすすめ」、「遺言作成のポイント」のいずれにも出てきました遺言執行者について述べておかなければなりません。最近でこそ遺言が普及して自筆遺言の例も増えて、次に述べます家裁での検認の件数もかなりの増加傾向にあるようですが、一般には遺言執行者の重要性がまだ認識されていないようで、自筆遺言の殆どは遺言執行者の指定がないというのが実情の様です。ですので、その重要性を確認しておきたいと思います。
遺言執行者の地位・権限 まず、遺言執行者の地位・権限に関する民法1012条1015条、そして、遺言執行者が指定されているときの相続人らの立場に関する民法1013条の各条句をご覧頂きます。特に、「遺言執行者は、相続人の代理人とみなす」という1015条は、遺言執行者の重要性の要となる規定です。なお、遺言執行者の登記権限についてこちらをご覧下さい。遺産の管理についての注意義務の関係では、民法918条、926条等が、相続人については、いわゆる「固財注意」つまり、固有財産におけると同じ程度の注意で足りる旨を定めていますが、遺言執行者が遺言を執行するに当たっては善良なる管理者の注意、いわゆる「善管注意義務」が課せられます(民法1012条644条)。それと共に、執行事務に関する報告義務 (645条)・受取物の引渡義務 (646条)・金銭消費に対する利付き償還・損害賠償義務 (647条 )を負いますが、また、支出した必要事務費の償還請求・必要債務の弁済請求・無過失で損害を被ったときの賠償請求 (650条) もすることができます。


遺言執行者の地位・権限に関する平成30年7月民法改正
 平成30年7月の民法改正により、遺言執行者の地位・権限が拡充・明確化され、また、執行妨害行為の無効が明文で宣言されました。すなわち、「遺言執行者は・・遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する」とあった1012条1項が、目的文言を加えられて、「遺言執行者は、遺言の内容を実現するため・・・執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する」と改められ、「遺言執行者は、相続人の代理人とみなす。」とあった1015条が、「遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる」と改められたことと相俟って、遺言執行者は相続人の利益のために行為するのでなく、遺言を実現するための存在であること、そして、その行為の効果が相続人に及ぶことが明確に打ち出されました。また、1012条1項の次に、「遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる」とする2項を入れ、これまで遺言執行者がある場合受遺者が履行請求の相手方とすべきは誰であるのか必ずしも分明でなかった点を明らかにしました。また、これまでは、1013条に「相続人は遺言執行を妨げる行為をすることができない」と定めるだけで、これに反した行為の効果は如何かについて規定を置いていなかったところ、今回、同条に「前項の規定に違反してした行為は無効とする。ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができない。」との規定が、同条2項として、追加されることとなって、判例で説かれていた点が、取引安全の視点も加味して条文化されました。なお、これらの点に関する改正法の施行は、2019年(令和元年)7月1日からなっていますので、実務や判例の追認であるものを除き、実際の効力発生はその施行を待たなければなりません。続いて、登記権限等の関係をご覧下さい。

遺言執行者の登記権限等 判例 ( 最判平11・12・16 ) は、「相続させる」遺言により取得した不動産に他者名義の登記がなされた場合、遺言執行者は、その妨害を排除するため、その抹消登記と遺言により「相続させる」者への登記名義の回復を求め得るとするのですが、当該不動産が被相続人名義である限りは、その相続登記はその取得者単独で登記申請できる ( 不動産登記法63条2項 ) のだから、遺言執行者の職務は顕在化せず、遺言執行者は登記手続きをすべき権利も義務も有しないとして、その場合の遺言執行者の登記権限を否定します。同じく権利の卒時移転を認められる遺贈については、不動産登記法60条による登記義務者として遺言執行者の登記権限が、他者名義の場合も、被相続人名義の場合も認められるのに、「相続させる」という相続の本道上での手続きにおいて執行者の手が縛られているのは不可解と言う他なく、判例の重視する遺言者意思の合理的解釈であるとも言えないと思います。
 上記遺言執行者の登記権限問題については、平成30年7月の相続法改正により、遺言執行者には、「
その相続人が対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる」 ( 新1014条2項 )旨明文が置かれて、解決しました。また、同条3項では、「前項の財産が預貯金債権である場合には、遺言執行者は、同項に規定する行為の他、その預金又は貯金の払い戻しの請求及びその預金又は貯金に係る契約の解約の申入れをすることができる」 として金融機関での確実な遺言執行にも配慮しています。但し、この規定は、公布の日から一年を超えない範囲内で政令によって定められる日から施行される、とされています。


執行者ある相続での妨害行為の効力 上記のとおり、民法は、「遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない」(1013条) と定めていますが、相続人がこの定めに違反して妨害行為に及んだ場合は、どうなるのでしょうか。この点について次の様に判示した判例 (最判昭62・4・23)があります。
一 遺言者の所有に属する特定の不動産の受遺者は、遺言執行者があるときでも、所有権に基づき、右不動産についてされた無効な抵当権に基づく担保権実行としての競売手続の排除を求めることができる。
二 遺言執行者がある場合には、相続人が遺贈の目的物についてした処分行為は無効である。
三 遺言執行者として指定された者が就職を承諾する前であつても、民法一〇一三条にいう「遺言執行者がある場合」に当たる。

この判決は、「民法1012条1項が「遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。」と規定し、また、同法1013条が「遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。」と規定しているのは、遺言者の意思を尊重すべきものとし、遺言執行者をして遺言の公正な実現を図らせる目的に出たものであり、右のような法の趣旨からすると、相続人が、同法1013条の規定に違反して、遺贈の目的不動産を第三者に譲渡し又はこれに第三者のため抵当権を設定してその登記をしたとしても、相続人の右処分行為は無効であり、受遺者は、遺贈による目的不動産の所有権取得を登記なくして右処分行為の相手方たる第三者に対抗することができるものと解するのが相当である」として、妨害行為の無効と、それ故、受遺者は登記なくして相手方に対抗できるとする他、さらに、「前示のような法の趣旨に照らすと、同条にいう「遺言執行者がある場合」とは、遺言執行者として指定された者が就職を承諾する前をも含むものと解するのが相当であるから、相続人によ処分行為が、遺言執行者として指定された者の就職の承諾前にされた場合であっても、右行為はその効力を生ずるに由ないものと言うべきである」として、相続人による処分が、遺言執行者の指定を承諾する前になされたものであっても、その処分行為の無効に変わりない旨判示しています。なお、上記平成30年の改正については、この判例も、遺言執行者の指定がある場合にされた妨害行為の無効を明らかにする点において、一つの要因となっているものと思われます。

以上、遺言執行者の地位・権限に関する平成30年の改正により、遺言執行者は、遺言中の「相続させる」いわゆる特定財産承継遺言にあっては、承継取得する相続人本人が単独で相続登記をすることができる他に、遺言執行者としても、当該不動産が被相続人名義であるか否かを問わず、登記申請する権限があり
(新1014条2項)、遺言中の遺贈対象たる不動産について、遺言執行者の指定があるときは、遺言執行者のみが受遺者による遺贈登記申請の際の相手方となる (新1012条2項) こととなりました (したがって、受遺者が遺言執行者に指定されている場合は、遺言執行者が単独で登記できることになります) から、これら登記権限等の明確化を踏まえ、権利者は早期に登記等の公示をすべきことが求められます。そして、もし、遺言による遺言執行者が居り、執行者には法によってこれらの登記権限が与えられているにも拘わらず、登記が経由されずに、相続人による妨害行為があって、その結果として第三者の先登記が存在するに至る場合、その妨害行為は無効とされるものの、当該第三者が善意であるときは、その第三者に対し登記なくして遺言による権利取得を主張することができない (新899条の2)
ことになります。ですから、遺言者の遺志を無にしないためにも、今後は、遺言による遺言執行者の指定と遺言内容に沿う登記手続きの履践こそが、遺言の生命線となることを銘記しなければなりません。



(遺言執行者の)指定・就職の催告・選任 次に、遺言執行者の指定 (民法1006条) と就職の催告 (民法1008条) に関する条句もご紹介しておきます。執行者の指定を受けた者が、催告があったにも拘わらず、多忙で確答をしない侭のときは、家裁に執行者選任の申立て (民法1010条)をすることができるとされていますので、その選任の条句、そして辞・解任に関する1019条のそれも合わせて。



  (遺言)執行者(は)遺言(いごん)内容

   財産(管理・給付・引渡・登記等)身分(認知・廃除等)

       
各実現(執行のため)一切 権利 義務持 委任 1012

   
   委任規定
準用
善管注意報告受取物引渡

       金
流用
(には)()()負担した費用債務

                  償還
無過失損には賠償請求
)。



    (遺言)執行者 (として)

             
指定(選任)をされた その

          
遺言(いごん)1015実現その権限 () 一切 ()えられ

遺贈 履行 専権 (者の)地位()1015。  (1000)を「チ」と読む。

    


    執行者いる場合には、

       その
遺産
1013遺言(いごん)内容どおり、

          
執行
()専念継ぐ人は、

        
行為されず

            なせば
(その妨害行為の)無効せらる




   遺言
がありて、

    その
今 遺産
1013執行せんとぞ1013するときに、

     
執行者あれば、遺産
(相続人)

        いざ
1013執行かれと

          
行為せん意味
1013




 
  遺言
一人若しくは数人

   遺言執行専務1006指定し、

       或いは


    指定
をば他人(ひと)委託ができる



  受託者
は、遅滞するなくその選務1006すならその

     
けるなら指定をばして、通知をせねばならぬ



    相続人(その他の利害関係人)対執行者(期間を定め)

   
今は嫌1008就職 意思 有無 確答

    催告
することできる
なくば 承諾したとみなされる



    (遺言)執行者ほとんど不可欠 重々1010承知

        
(指定・選任が)必須でないが(執行するため)たまたま1010

      必要
ならば
ほかならぬ 家裁 とうとう1010 選任



   
(遺言)執行者()任務懈怠正当な理由があれば こう1019

            
家裁 解任正当理由があれば執行者

                
めたい遺恨1019なく許可  辞任できる




遺言執行者による財産目録作成 遺言執行者は就職した後、遅滞なくい財産目録を作成し、相続人に求められれば作成に立ち会わせるか、又は目録を公証人に作成させなければなりません (民法1011条)。


  (遺言)執行者慰霊威令?)一番1011遅滞なく(財産)
     目録
(相続人)交付するべし
       継
めるならば立会わせ 作成するか
          さもなくば
公証人(作成)させるべし  



遺言執行者の復任権 遺言執行者は、遺言者が許した場合以外は、やむを得ない場合を除き、第三者にその任務を行わせることができず、いわゆる復任権がありません。そして、やむを得ず復任した場合は、その選任と監督について責任を負わなければなりません。本人の指名によった場合であっても、その者が不適任又は不誠実であることを知りながら、本人への通知や解任を怠ると責任を問われることになります (民法1016条)。



   1016々十人十色1016
     
誠心あるか 不明故やむない事情のない
    
執行
(復代理復任権=) 転仰(てんごう)105
              
(いわゆる丸投げ)(造語)
    許
されず
(自身の)善管注意1012 
        
(任務に臨めば)
地位1016るがぬ



   遺言
で、或いは むなく転仰すれば
105
    選
(人選)遺漏1016監督不備



   故人指名
(の場合)責負わないが不適任とか不誠実
    
あるにげず(ある)は又 解任せず

     (
相続人に対し)ていろ1016」はされぬ
    
§105は復代理人を選任した代理人の責任に関する規定



遺言執行者の報酬 遺言執行者の任務については民法1012条により受任の規定644条~647条、650条が準用される訳ですが、報酬は、648条1項の無報酬規定は準用されず、原則任務終了後の支払いとなる旨の同条2項と、受任者の責任とは言えぬ事情により中途で終わったときは履行割合によって支払う旨の同条3項が準用となります。  


  (家庭
裁判所
    遺産
(の状況)その事情によって
               
(遺言)執行報酬
      
但し遺言(いごん)(定めが)あれば


   
執行報酬 いぃわ1018執行終わってくわ
    
執行(帰責事由なく)中途われば
                 
履行した割合じてくわ


   
(遺言)執行手間 かかる報酬 があるも当然
      
(相続人)合意くも非礼1018ない


   
委任契約本来無報酬 648だが
       (報酬の)
特約あれば無視648できぬで履行後払
      (帰責事由なく)
中途われば(履行の)割合払648


     (遺言)執行者 執行ため 委任
1012
       
委任規定
準用受くが
         報酬
につき、
(無報酬)とする
          〔§648Ⅰ〕ムシヤの1項
(を)準用しない


遺言執行の費用 遺言執行の費用については、相続財産から支出できますが、それによって遺留分に食い込むことは許されません(民法1021条)。遺留分減殺の事態になる訳なので、減殺により遺贈を減らして費用に充てることになります。



  目録作成検認(遺産)管理執行報酬 等々の
            
執行費用誰負担1021



  勿論
遺産 うが

   (各贈与・特別受益 )
各贈 (「持戻免除」があっても)ようやくに
        
確保されたる遺留分最小限保障
    
あまり負担
1021はかぶせるな(取戻した遺留分を)
       (
執行)
費用らさず(遺留分は)確保して

   

      
その 受遺者 負担する
      (費用は、受遺者から費用分も合わせて減殺し、
         その分で費用の支払いをする。)


検認 もう、「遺言のすすめ」、「遺言作成のポイント」その他の箇所で何回も出ましたので、お馴染みになったかとも思いますが、検認は、相続開始後すぐに家庭裁判所で全相続人を招集して行われる遺言書に関する手続きです。民法では、1004条が、この検認と遺言書の開封禁止を定め、1005条が、検認を経ないで遺言を執行したり、家裁以外の場所で開封したりした者に対する制裁 (5万円以下の過料) を規定しています。遺言書の内容については、遺産を与える相手を特定して記載するので、相続人全部を特定する必要はないのですが、この検認手続きは、相続人の前で遺言書を開封し、開封した遺言書の形状、加除訂正の状態,日付,署名等と、検認の日時点におけるその内容を明確にし、保全して、遺言書の偽造・変造を防止するための手続なので、家裁が全相続人を呼び出した上で行われます (呼出しはしますが、全員が揃わないと実施しない訳ではなく、出頭した相続人の前で行われます) 。そのため、被相続人の出生から亡くなるまでの戸籍謄本・除籍謄本全部と全相続人の戸籍謄本の提出が必要となります(その他、遺言書一通につき800円の収入印紙、連絡用の郵便切手等が必要となります)しかし1004条2項は、「前項の規定は、公正証書による遺言については、適用しない。 」 としていて、公証役場で作成する遺言公正証書には検認手続きが不要である旨を定めています。公正証書は、公務員である公証人が作成するので間違いや不備な点はなく、また、作成後原本は書庫で厳重に保管されるので、改竄や紛失の恐れもないとされるからです。なお、「全相続人の探索」をご参照ください。
 検認は、遺言書の有効・無効を左右する訳ではなく、あくまで検認当日の状態を証拠保全するための改竄防止の手続きですが、検認を終えている旨の家裁発行の検認済証明書の提出がないと、法務局での相続登記も銀行での払戻し、名義変更も手続きに応じて貰えませんので、実際上の有効要件とも言えるものです(裁判所「7.手続きの内容に関する説明 Q4) (全国銀行協会)。
 なお、平成30年7月に法務局における自筆遺言証書の保管に関する法律が公布されました。これにより、自筆遺言証書は遺言者自身によって法務局に保管を申請することができることとなり、亡くなった後に相続人、受遺者或いは遺言執行者から申請があれば、その保管証明書の交付請求、或いは、その閲覧請求、遺言書の画像情報証明書の交付請求ができることになりますし、また、この法務局の保管にかかる遺言書は家裁の検認を要しないこととなりました。したがって、自筆遺言利用のネックとされてきた保管と検認という関門が取り払われることとなって、その普及が一層進むことが予想されます。同法の施行日は、2020年(令和2年)7月10日となっています。

 なお、7種の遺言方式ごとの「検認と確認」の要否についてはこちらで確認願います。


  
  公正(証書)遺言(いごん)」のない「遭難船 (臨終口頭遺言§979)
     以外のものは
遺言(ゆいごん)
(はすべて)(検認)けてれぬ
      保管
は、まわし
1004などとわずに
            
遠回
1004でも遅滞なく家裁()して
          形式
保全
(のため) 検認 けるべし
       
 継(遺言書を)発見したとき又